説明

基板形成用組成物とこれを用いたプリプレグおよび基板

【課題】熱的、機械的特性および電気的特性に優れた基板形成用組成物と、これを用いたプリプレグおよび基板を提供する。
【解決手段】本発明の基板形成用組成物は、エポキシ樹脂の主鎖にフルオロエポキシ化合物を導入してなるマトリクス樹脂を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板形成用組成物とこれを用いたプリプレグおよび基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の発展に伴い、プリント基板の軽量化、薄板化および小型化が日増しに進んでいる。このような要求を充足させるために、プリント回路の配線がさらに複雑化・高密度化していく。このように基板において要求される電気的、熱的および機械的安定性はさらに重要な要素として作用する。特に、熱膨張係数(Coefficient of Thermal Expansion、CTE)は、基板製作の際に信頼性を左右する重要な要素の一つである。
【0003】
また、先端技術の発展に伴い、情報通信装備に使われる周波数帯域が益々高周波化しつつある。特に、超高速無線通信機器は使用周波数帯域が数十GHzまでに拡大しつつある。
【0004】
従来の基板の絶縁層を形成する主な材料はエポキシである。エポキシ自体のCTEは約70〜100ppm/℃であり、その誘電率は通常4.0以上である。このような既存のエポキシを用いたプリント基板の絶縁材料では、プリント基板の構成層が薄板化され且つ回路の幅が段々微細化される高速および高周波領域の適用が不可能である。高速、高周波領域で使用するためには、プリント基板の絶縁膜の役割を果たす高分子物質が低誘電率を持たなければならないが、エポキシを用いた絶縁物は、通常4以上の比較的大きい誘電率を持っている。これは高速回路および高周波領域で回路の信号伝送に干渉を起こして信号損失が大きくなるためである。
【0005】
かかる問題点を解決するために、低誘電損失を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)パウダーを製織ガラス繊維(Glass cloth)に含浸させてプリント基板の絶縁物として使用することもある。PTFEは優れた電気的特性および溶媒に対する耐食性などを持っているが、上述した方式で製造されるプリント基板の絶縁材料は機械的物性、および回路層としての銅箔との接着力が低下する。それだけでなく、PTFEパウダーの均一な分散を得ることが難しいため、基板の局部的な誘電率の差異が発生し、このような誘電率の局部的な差異により誘電損失または電波伝送に問題を引き起こす。よって、PTFEは、プリント基板の材料として使うのには多くの問題点を抱えている。
【0006】
よって、薄型化、高密度化していく集積回路パターンの実現に要求される熱的、機械的特性を満足させ且つ電気的特性に優れた基板材料の開発が至急求められている実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明者は、上述した問題点を解決するために広範囲な研究を重ねた結果、プリント基板用絶縁材料として広く使われているエポキシ樹脂の主鎖に、フッ素成分を含有しているフルオロエポキシ化合物を反応させてなる共有結合化合物をマトリクス樹脂として使用することにより、優れた熱的、機械的安定性を有しかつ電気的特性にも優れた基板用絶縁材料組成物を得ることができることを見出し、これに基づいて本発明を完成した。
【0008】
よって、本発明の目的は、熱的および機械的特性に優れた基板形成用組成物と、これを用いたプリプレグおよび基板を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、電気的特性に優れた基板形成用組成物と、これを用いたプリプレグおよび基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のある観点によれば、エポキシ樹脂の主鎖にフルオロエポキシ化合物を導入してなるマトリクス樹脂を含むことを特徴とする、基板形成用組成物を提供する。
【0011】
前記組成物において、前記フルオロエポキシ化合物は硬化反応によって前記エポキシ樹脂の主鎖に導入されることが好ましい。
【0012】
前記フルオロエポキシ化合物は硬化反応に参加することが可能な反応性官能基を持つことができ、前記反応性官能基は−COOH、−OH、−NHおよび−Clの中から少なくとも一つ選択できる。
【0013】
前記フルオロエポキシ化合物は、下記化学式1〜化学式4で表される化合物の中から少なくとも一つ選択できる:
【0014】
【化1】

【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
式中、w、x、yおよびzはそれぞれ1〜10の整数である。
【0019】
前記マトリクス樹脂は、好ましくは前記エポキシ樹脂100重量部に対して前記フルオロエポキシ化合物10〜200重量部を反応させてなる。
【0020】
前記組成物は、無機充填剤をさらに含むことができ、5〜30重量%の含量を有することが好ましい。
【0021】
本発明の好適な他の観点によれば、前記基板形成用組成物から製造されるプリプレグを提供する。
【0022】
本発明の好適な別の観点によれば、前記基板形成用組成物から製造される基板を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、マトリクスであるエポキシ樹脂の主鎖に低誘電率のフルオロ基を導入することにより、分散の難しさなしで均一にマトリクス内にフッ素成分を分布させることができる。このような方式でマトリクス内に均一に分布したフルオロ化合物とエポキシ樹脂組成物との複合体は、誘電率の局部的な差異がなく、高速回路および高周波領域のプリント基板の絶縁材料として使用できると同時に、プリント基板の絶縁材として広く使用されるエポキシ樹脂組成物固有の性質である熱的、機械的特性があまり低下しないため、既存のエポキシ系素材に比べて相当低い低誘電率の特性を発現することが可能なプリント基板の絶縁材料として製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の基板形成用組成物に含まれるマトリクス樹脂反応物の構成を図式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の目的、特定の利点および新規の特徴は添付図面に連関する以下の詳細な説明と好適な実施例からさらに明白になるであろう。
【0026】
これに先立ち、本明細書および請求の範囲に使用された用語または単語は、通常的で辞典的な意味で解釈されてはならず、発明者が自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に基づき、本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈されなければならない。
【0027】
本発明において、各図面の構成要素に参照番号を付加するにおいて、同一の構成要素については、他の図面上に表示されても、出来る限り同一の番号を付することに留意すべきであろう。なお、本発明を説明するにおいて、関連した公知の技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を無駄に乱すおそれがあると判断される場合、その詳細な説明は省略する。
【0028】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の基板組成物に含まれるマトリクス樹脂反応物の構成を図式的に示す図である。
【0030】
図1に示すように、本発明の基板形成用組成物は、エポキシ樹脂とフルオロエポキシ化合物とを共有結合反応させてなるマトリクス樹脂を含み、さらに具体的には、硬化反応によってエポキシ樹脂の主鎖にフルオロエポキシ基を導入した共有結合化合物を含む。
【0031】
このように、本発明では、一般に使用されるエポキシ樹脂にPTFEパウダーを混合してプリント基板の絶縁材料を実現するのではなく、エポキシ樹脂組成物を用いて既存のプリント基板の絶縁材の優れた特性を具現すると同時に低誘電率を実現することが可能なフッ素成分、およびエポキシ樹脂組成物との共有結合が可能なエポキシド基を有するフルオロエポキシ化合物を使用する。
【0032】
本発明で使用されるエポキシ樹脂は、当業界における公知のものであれば特に限定されない。例えば、下記化学式5で表されるエポキシ樹脂の使用が可能である。
【0033】
【化5】

【0034】
本発明で使用されるフルオロエポキシ化合物は、エポキシ樹脂の硬化反応に参加してエポキシ樹脂マトリクスの主鎖に共有結合を介して導入されることにより、エポキシ樹脂組成物固有の熱的、機械的特性と共に、フッ素成分に起因した低誘電率特性を提供することができる。
【0035】
前記フルオロエポキシ化合物は、好ましくは末端にエポキシド構造を含み、付加的官能基として硬化反応に参加することが可能な反応性官能基をさらに含むことができる。前記反応性官能基としては、硬化反応に参加することが可能な反応性官能基として当業界において公知になったものであれば特に限定されず、例えば、−COOH、−OH、−NHおよび/または−Clなどを含むことができる。
【0036】
前記フルオロエポキシ化合物は、好ましくは下記化学式1〜化学式4で表される化合物の中から少なくとも一つ選択できるが、特にこれに限定されない。
【0037】
【化6】

【0038】
【化7】

【0039】
【化8】

【0040】
【化9】

【0041】
式中、w、x、yおよびzはそれぞれ1〜10の整数である。
【0042】
この際、前記フルオロエポキシ化合物は、エポキシ樹脂100重量部に対して10〜200重量部、好ましくは20〜100重量部の含量で使用することが、目的とする電気的特性実現の効率性の側面で好ましい。
【0043】
一方、前記エポキシ樹脂とフルオロエポキシ樹脂との反応の際には、当業界における公知の通常の溶媒の存在下で硬化剤、硬化促進剤などを反応に参加させて反応効率を極大化させることができる。
【0044】
また、本発明の基板形成用組成物は、上述したマトリクス樹脂の他に、別の一つ以上の当業界における公知の通常の絶縁樹脂をさらに含むことができ、必要に応じて熱的、機械的および電気的特性をさらに極大化するために、少量、好ましくは5〜30重量%の無機充填剤をさらに含むことができる。
【0045】
また、本発明の基板形成用組成物は、溶媒キャスティング(solvent casting)工程に適用可能なので、ガラス繊維などの含浸が容易である。
【0046】
本発明の基板形成用組成物は、必要に応じて充填剤、軟化剤、可塑剤、潤滑剤、静電気防止剤、着色剤、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤およびUV吸収剤などの少なくとも一つの添加剤をさらに含むことができる。充填剤は、例えばPTFE樹脂粉末、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末およびスチレン樹脂などの有機充填剤、および例えばシリカ、アルミナ、酸化チタニウム、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウムおよびリン酸カルシウムなどの無機充填剤を含む。
【0047】
前記基板形成用組成物は、銅箔との接着強度が高く、耐熱性、低膨張性および機械的特性に優れるので、優れたパッケージング材料として使用できる。基板形成用組成物は、基板に成形し、或いは含浸またはコーティング用バニッシュを形成することができる。前記組成物は、プリント基板、多層基板の各層、銅張積層物(例えば、RCC、CCL)、TAB用フィルムに適用可能であるが、前記基板形成用組成物の用途はこれに限定されない。
【0048】
前記組成物を基板などの材料として使用するためには、基板上にキャスティングし、硬化させて製造することができる。
【0049】
本発明の基板形成用組成物は、ガラス繊維不織布に含浸させてプリプレグ形態で製作し、或いはビルドアップフィルム自体に製作してプリント基板などの基板の絶縁材料として使用することができる。
【0050】
プリプレグは、組成物を補強材に含浸させて製造するが、具体的には、基板形成用組成物を補強材に含浸させた後、硬化させてシート状に製造して使用することができる。前記補強材は、特に限定されないが、例えば、製織ガラス繊維、製織アルミナガラス繊維、ガラス繊維不織布、セルロース不織布、製織炭素繊維、および高分子織物などを例として挙げることができる。補強材に基板形成用組成物を含浸させる方法としてはディップコーティング、ロールコーティング法などがあり、その他の通常の含浸方法を使用することができる。
【0051】
前記基板形成用組成物を用いて基板を製造することができる。前記基板は、特に限定されず、例えば多層基板の各層、金属箔に結合した積層物形態、プリント基板などであってもよい。また、前記プリプレグが金属箔などに結合する形態を含むことができる。
【0052】
前記基板は、様々な形態であってもよく、フィルム形態であってもよい。フィルムは前記基板形成用組成物を薄膜化して製造できる。
【0053】
フィルム形態以外の前記基板は、金属箔に結合した積層物形態であってもよい。前記金属箔としては銅箔やアルミニウム箔などが使用される。金属箔の厚さは用途によって異なるが、好ましくは5〜100μmである。金属箔被覆積層板の金属箔に対して回路加工を行うことにより、プリント基板に製作することができる。プリント積層板の表面に前記金属箔被覆積層板を同一に積層し、加工して多層プリント基板に製作することができる。
【0054】
前記金属箔に結合する積層物は、特に限定されず、例えば樹脂コーティング銅箔(resin coated copper、RCC)や銅張積層板(copper clad laminate、CCL)などがある。
【実施例】
【0055】
以下、下記実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。これの実施例は本発明の範疇を限定するものではない。
【0056】
比較例1
コンデンサーおよび攪拌器を取り付けた100mLのフラスコに20gのビスフェノールA型エポキシ、7.5gのジアミノジフェニルメタン(Diamino diphenylmethane:DDM)を20gの2−メトキシエタノール(2−ME)に入れ、90℃までゆっくり温度を昇温させながら攪拌を行うことにより、エポキシとDDMを溶かしながら混合する。温度を維持しながら2時間硬化反応を行い、キャスティングに適した適正粘度の溶液状態を作る。反応後に得られた溶液をPETの表面にフィルムキャスティングして60℃のオーブンで1時間乾燥させる。よく乾燥したフィルムのPETを除去し、190℃のオーブンで2時間完全硬化を行う。
【0057】
比較例2
比較例1で合成された高分子溶液を用いて製織ガラス繊維(ガラス布1078)に含浸をしてプリプレグを製造する。
【0058】
実施例1
コンデンサーおよび攪拌器を取り付けた100mLのフラスコに20gのビスフェノールA型エポキシ、9.5gのDDMを20gの2−メトキシエタノール(2−ME)に入れ、90℃までゆっくり温度を昇温させながら攪拌を行うことにより、エポキシとDDMを溶かしながら混合する。エポキシと硬化剤が完全に溶けた後、化学式2のフルオロエポキシ化合物8mLを添加して温度を維持しながら2時間硬化反応を行い、キャスティングに適した適正粘度の溶液状態を作る。反応後に得られた溶液をPETの表面にフィルムキャスティングし、60℃のオーブンに入れて乾燥させる。よく乾燥したフィルムのPETを除去し、190℃のオーブンで2時間完全硬化を行う。
【0059】
実施例2
実施例1で合成された高分子溶液を用いて製織ガラス繊維(ガラス布1078)に含浸をしてプリプレグを製造する。
【0060】
比較例1および実施例1で得たフィルムに対してそれぞれ熱膨張係数(CTE)を測定し、その結果を下記表1に示した。CTE測定の際に窒素をパージした状態で昇温速度10℃/minにして測定した。熱膨張係数は50〜100℃を区間として取って求めた平均値である。比較例2および実施例2で製造したプリプレグを用いて誘電率を測定し、その測定結果を表2に示した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
前記表1に示すように、本発明のフルオロエポキシ化合物が導入されたエポキシ樹脂を用いて製造されたフィルム(実施例1)およびプリプレグ(実施例2)は、従来のエポキシ樹脂フィルム(比較例1)およびこれを用いて製造されたプリプレグ(比較例2)に比べて、同等水準の熱膨張係数およびさらに低い誘電率特性を示す。よって、本発明の基板形成用組成物は、高速回路および高周波領域のプリント基板の絶縁材料として活用するときに熱的、機械的および電気的特性を示すものと期待される。
【0064】
以上、本発明を具体的な実施例によって詳細に説明したが、これらの実施例は本発明を具体的に説明するためのものに過ぎない。本発明に係る基板形成用組成物とこれを用いたプリプレグおよび基板は、これらの実施例に限定されず、本発明の技術的思想内において、当該分野における通常の知識を有する者によって多様な変形および改良が可能である。
本発明の単純な変形ないし変更はいずれも本発明の領域に属するもので、本発明の具体的な保護範囲は特許請求の範囲によって明確になるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂の主鎖にフルオロエポキシ化合物を導入してなるマトリクス樹脂を含むことを特徴とする、基板形成用組成物。
【請求項2】
前記フルオロエポキシ化合物は硬化反応によって前記エポキシ樹脂の主鎖に導入されることを特徴とする、請求項1に記載の基板形成用組成物。
【請求項3】
前記フルオロエポキシ化合物は、硬化反応に参加することが可能な反応性官能基を持つことを特徴とする、請求項1に記載の基板形成用組成物。
【請求項4】
前記反応性官能基は−COOH、−OH、−NHおよび−Clの中から少なくとも一つ選択されることを特徴とする、請求項3に記載の基板形成用組成物。
【請求項5】
前記フルオロエポキシ化合物は、下記化学式1〜化学式4で表される化合物の中から少なくとも一つ選択されることを特徴とする、請求項1に記載の基板形成用組成物:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

式中、w、x、yおよびzはそれぞれ1〜10の整数である。
【請求項6】
前記マトリクス樹脂は、前記エポキシ樹脂100重量部に対して前記フルオロエポキシ化合物10〜200重量部を反応させてなることを特徴とする、請求項1に記載の基板形成用組成物。
【請求項7】
前記組成物は、無機充填剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の基板形成用組成物。
【請求項8】
前記無機充填剤の含量は5〜30重量%であることを特徴とする、請求項7に記載の基板形成用組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の基板形成用組成物から製造されるプリプレグ。
【請求項10】
請求項1に記載の基板形成用組成物から製造される基板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−140614(P2011−140614A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32102(P2010−32102)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(594023722)サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド. (1,585)
【Fターム(参考)】