説明

塗工装置及び電極の製造方法

【課題】良好に塗工材料を塗工することが可能な塗工装置及び電極の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
ポンプから吐出される塗工材料を塗工部へ流通させる配管部材を備える塗工装置において、前記配管部材内に、開口部を有するメッシュ部材を、該メッシュ部材の下端側が上流側に、上端側が下流側に位置するように傾斜させて該配管部材内の全流路を覆うように配置すると共に、前記配管部材の上部には、前記メッシュ部材と対応する位置に気泡溜まり部を形成したことを特徴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塗工材料を塗工するための塗工装置及び電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の気泡取り装置は、例えば図6に示すように、勾配流路底1Aを持ち、一端部側の流入口1Bから流入する粘性流体を他端部側へ送液して他端部側の流路底に開口した流出口1Cから流出させる流路本体1と、前記流路本体1の流れ方向に間隔を空けて複数個列設され、前記勾配流路底1Aに先端縁が臨んで流動断面を画成する流動遮板2とを備え、ある流動遮板2の直前上流側部分の粘性流体中に浮遊する気泡のうちその浸漬部分の先端縁よりも上位側にある気泡は、粘性流体の流下に随伴してその流動遮板2の浸漬部分に当たり、粘性流体の流動によりその捕捉気泡は傾斜姿勢の浸漬部分で相対的に掬い上げられて能動的に自由表面へ浮上せしめられ、それにより、粘性流体中に浮遊する気泡を分離するようにしている。
このような気泡取り装置としては、例えば、特許文献1に記載された粘性流体の気泡取り装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2914905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この特許文献1に記載された粘性流体の気泡取り装置においては、勾配流路底1Aと流動遮板2の先端縁との間は、流動断面を画成するための間隔が設けられているため、勾配流路底1Aの付近を流れる粘性流体中に浮遊する微小な気泡は、浮上力が小さいため、そのまま粘性流体の流下に随伴して流動遮板2の浸漬部分に当たることなく、流動断面を通って流出口1Cから吐出してしまい、つまり、粘性流体中に浮遊する微小な気泡を完全に分離することができなかった。特に、粘性流体の粘度が高い場合には、その傾向が顕著であった。
従って、その粘性流体を用いて製作した電池の特性も低下する恐れがあった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、塗工材料を良好に塗工することが可能な塗工装置及び電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の問題点を解決するために、本発明の塗工装置は、次の構成を有している。
(1)ポンプから吐出される塗工材料を塗工部へ流通させる配管部材を備える塗工装置において、前記配管部材内に、開口部を有する気泡除去部材を、該気泡除去部材の下端側が上流側に、上端側が下流側に位置するように傾斜させて該配管部材内の全流路を覆うように配置し、前記配管部材の上部には、前記泡除去部材と対応する位置に気泡溜まり部を形成したことを特徴する。
(2)(1)に記載する塗工装置において、前記泡除去部材は、その上端側が前記気泡溜まり部内に侵入するようにして配置されていることを特徴とする。
(3)(1)又は(1)に記載する塗工装置において、前記気泡溜まり部には、空気を逃すための弁を備えていることを特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載する塗工装置において、前記気泡除去部材は、前記配管部材内の前記塗工材の流通方向に対して45°以下の角度で交差するように配置されていることを特徴とする。
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載する塗工装置において、前記気泡除去部材の開口部の幅は、50μm以下であることを特徴とする。
【0007】
また、上記の問題点を解決するために、本発明の電極の製造方法は、次の構成を有している。
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載する塗工装置を用いて支持体に塗工材料を塗工して電極を製造したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
上記構成を有する本発明の塗工装置の作用・効果について説明する。
(1)ポンプから吐出される塗工材料を塗工部へ流通させる配管部材を備える塗工装置において、前記配管部材内に、開口部を有する気泡除去部材を、該気泡除去部材の下端側が上流側に、上端側が下流側に位置するように傾斜させて該配管部材内の全流路を覆うように配置し、前記配管部材の上部には、前記泡除去部材と対応する位置に気泡溜まり部を形成したので、塗工材料から気泡を良好に分離することができ、したがって塗工材料を良好に塗工することができるなど優れた作用効果を奏する。
(2)(1)に記載する塗工装置において、前記泡除去部材は、その上端側が前記気泡溜まり部内に侵入するようにして配置されているので、塗工材料中の微細な気泡まで完全に取り除くことができ、その結果、良好に塗工材料を塗工することができる。
(3)(1)又は(1)に記載する塗工装置において、前記気泡溜まり部には、空気を逃すための弁を備えているので、気泡溜まり部に溜まった空気を容易に開放することができ、作業性が向上すると共に、連続運転も可能となる。
(4)(1)乃至(3)のいずれかに記載する塗工装置において、前記気泡除去部材は、前記配管部材内の前記塗工材の流通方向に対して45°以下の角度で交差するように配置されているので、塗工材料中の微細な気泡まで完全に取り除くことができ、その結果、良好に塗工材料を塗工することができる。
(5)(1)乃至(4)のいずれかに記載する塗工装置において、前記気泡除去部材の開口部の幅は、50μm以下であるので、塗工材料中の微細な気泡まで完全に取り除くことができ、その結果、良好に塗工材料を塗工することができる。
【0009】
また、上記構成を有する本発明の電極の製造方法の作用・効果について説明する。
(6)(1)乃至(5)のいずれかに記載する塗工装置を用いて支持体に塗工材料を塗工して電極を製造したので、良好に塗工材料を塗工することができ、したがって、電池の特性が向上すると共に、品質が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明のペースト塗工装置及び電極の製造方法を実施する実施形態1に係る電極の製造装置を概略的に示す図である。
【図2】気泡除去装置の詳細を示す要部断面図である。
【図3】(a)は、メッシュ部材を概略的に示す図であり、(b)は、A部を拡大して示す図である。
【図4】メッシュ部材の開口幅と、欠陥量との関係を示す図である。
【図5】メッシュ部材の取付角度と、欠陥量との関係を示す図である。
【図6】従来の気泡取り装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態1)
以下、本発明に係る塗工装置及び電極の製造方法について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は、適宜簡略化或いは変形誇張されて描画されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも実施例と同一ではない。
【0012】
図1は、本発明の塗工装置及び電極の製造方法を実施する実施形態1に係る電極の製造装置を概略的に示す図である。
図1に示す電極の製造装置10について、以下に図1を参照してその詳細を説明する。
すなわち、電極の製造装置10は、ペースト塗工装置12と、塗工ローラ14とから構成され、前記ペースト塗工装置12は、前記塗工ローラ14に支持される支持体16の片側面に負電極ペースト38(本発明の塗工材料に相当する)を塗工することができ、それにより、電池の負電極が製造される。
前記ペースト塗工装置12は、混練された負電極ペーストを貯蔵するタンク18と、前記支持体16に負電極ペースト38を塗工するコーティングダイ30(本発明の塗工部に相当する)と、前記負電極ペースト38中の気泡を除去するための気泡除去装置20と、前記タンク18に貯蔵された負電極ペースト38を、前記気泡除去装置20を介してコーティングダイ30に移送するポンプ22とを備える。前記ポンプ22は、無脈動・定量移送を実現可能なモーノポンプにより構成されている。
【0013】
前記ポンプ22の吸入側は、前記タンク18の底部に接続パイプを介して接続され、また、前記ポンプ22の吐出側は、接続パイプを介して前記気泡除去装置20に接続されている。また、前記気泡除去装置20の吐出側は、接続パイプを介してコーティングダイ30に接続されている。
前記コーティングダイ30は、エクストルージョン型のダイであり、前記気泡除去装置20からの接続パイプが接続される供給口とは導入路30Aを介して接続されるスリット状の吐出口30Bを備える。前記塗工ローラ14は、吐出口30Bと近接して配置されており、従って、前記ポンプ22によってコーティングダイ30に供給された負電極ペースト38は、吐出口30Bから流出して前記塗工ローラ14上に支持された前記支持体16の片側面に均一の厚さで塗工される。
したがって、前記ペースト塗工装置12は、前記ポンプ22から前記コーティングダイ30の吐出口30Bに至る塗工流路34を有し、前記気泡除去装置20は、前記塗工流路34中の前記コーティングダイ30に近接した位置に配置されている。なお、前記塗工流路34の一部は、接続パイプ34A(本発明の配管部材に相当する)によって形成されている。
【0014】
前記タンク18の容量は、半日もしくは1日の作業に必要な前記負電極ペースト38の量によって決定され、通常100リットル〜300リットル程度の容量のものが用いられる。
【0015】
前記負電極ペースト38は、負極活性物質、負極導電材及び分散剤を溶媒に分散させながら混練して製造したものである。さらに前記負電極ペースト38には、結着剤を含有させることが好ましい。
負極活物質としては特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属Li、またはその合金、スズ合金、シリコン合金負極、LiXFe23、LiXFe34、LiXWO2等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン等の導電性高分子、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が用いられる。
【0016】
また、負極導電材としては、炭素材料が最も好ましい。炭素材料としては、導電性を有する炭素材料であれば特に限定されるものではないが、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンファイバー、フラーレン等を単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。導電性、入手の容易さ、およびコスト面から、カーボンブラックの使用が好ましい。
【0017】
カーボンブラックとしては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラックなどの各種のものを単独で、もしくは2種類以上併せて使用することができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0018】
また、分散剤としては、例えば、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、塩基性官能基を有するアントラキノン誘導体、塩基性官能基を有するアクリドン誘導体、または塩基性官能基を有するトリアジン誘導体から選ばれる1種以上の分散剤を挙げられる。
【0019】
また、溶媒としては、例えば、アルコール類、グリコール類、セロソルブ類、アミノアルコール類、アミン類、ケトン類、カルボン酸アミド類、リン酸アミド類、スルホキシド類、カルボン酸エステル類、リン酸エステル類、エーテル類、ニトリル類、水等が挙げられる。
【0020】
また、結着剤としては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;カルボキシメチルセルロースのようなセルロース樹脂;スチレン−ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。特に、耐性面から分子内にフッ素原子を含む高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等の使用が好ましい。
【0021】
また、支持体16としては、材質や形状は特に限定されず、材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属や合金が用いられるが、特にアルミニウムの使用が好ましい。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、およびメッシュ状のものも使用できる。
【0022】
また、支持体16上に電極下地層があらかじめ形成されていてもよく、電極下地ペーストを支持体16上に塗布、乾燥する方法が挙げられる。電極下地層の膜厚としては、導電性および密着性が保たれる範囲であれば特に制限されないが、一般的には0.05μm以上、20μm以下であり、好ましくは0.1μm以上、10μm以下である。
電極下地層を用いる場合は、塩基性官能基を有する有機色素誘導体、塩基性官能基を有するアントラキノン誘導体、塩基性官能基を有するアクリドン誘導体、または塩基性官能基を有するトリアジン誘導体から選ばれる1種以上の分散剤と、導電助剤としての炭素材料、分散助剤としての酸、および溶剤とからなる分散体をそのまま使用しても良いが、上記バインダー成分を添加し、電極下地ペーストとして使用することが好ましい。
なお、負電極は、支持体16上に負電極ペーストを直接塗工したものでも良い。
【0023】
図2は、前記気泡除去装置20の詳細を示す要部断面図である。図2において、接続パイプ34Aの上部には、水平断面四角形状を成す筒状の気泡溜まり壁24の下部が接続されている。前記気泡溜まり壁24の上方開放部は、ボルトなどにより前記気泡溜まり壁24の上部に着脱可能に取り付けられる蓋体26により閉鎖されており、したがって、前記気泡溜まり壁24および前記蓋体26により気泡溜まり室28(本発明の気泡溜まり部に相当する)が区画構成される。
また、前記接続パイプ34A内には、メッシュ部材32が、その下端側が上流側(図2において左側)に、上端側が下流側(図2において右側)に位置するように傾斜させて接続パイプ34A内の全流路を覆うようにして配置されている。また、前記メッシュ部材32の上端側は、前記気泡溜まり室28に侵入するように配置されている。
【0024】
前記蓋体26には、開口が形成され、その開口には、バルブ36を有する接続パイプが接続されている。したがって、前記気泡溜まり室28は、前記バルブ36を介して大気に開放される。
【0025】
次に、以上のように構成された電極の製造装置10において、以下にその動作を説明する。
まず、負極活性物質、負極導電材、分散剤及び結着剤を溶媒に分散させながら混練して負電極ペースト38を製造して、それをタンク18に投入する。この際、負電極ペースト38は、混練の際などに気泡が混入する可能性がある。
次に、ポンプ22を起動してタンク18内の負電極ペースト38を気泡除去装置20を介してコーティングダイ30に供給すると共に、塗工ローラ14を回転させて塗工ローラ14上に支持された支持体16を移動させると、支持体16の片側面に、吐出口30Bから吐出する負電極ペースト38が一定の厚みで塗工され、その後、乾燥などの所定の工程を経て電池の負電極が製造できる。そして、このようにして製造された負電極は、周知の正電極や電解質と組み合わされて電池として組み立てられる。
【0026】
このとき、気泡除去装置20は、接続パイプ34A内を流通する負電極ペースト38に含まれる気泡を取り除くことができる。
より具体的には、接続パイプ34A内の塗工流路34を流れる負電極ペースト38は、内部に気泡を巻き込んでいない状態では、図2に矢印Aで示すように、メッシュ部材32をそのまま通過して直進し、コーティングダイ30側に供給される。
一方、内部に気泡を巻き込んでいる負電極ペースト38部分は、気泡がメッシュ部材32を通過できないので、メッシュ部材32の表面に沿って上昇し、その結果、図2に矢印Bで示すように、最終的に気泡溜まり室28に流入する。この際、負電極ペースト38は流動しているため、ここで気泡は、負電極ペースト38から急速に解き放されて気泡溜まり室28に放出されて溜まる。一方、気泡を放出した負電極ペースト38は、メッシュ部材32を通過してコーティングダイ30側に供給される。この際、メッシュ部材32の上部が気泡溜まり室28に侵入するようにして配置されているため、内部に気泡を巻き込んでいる負電極ペースト38部分は、気泡溜まり室28に確実に案内されて微細な気泡まで完全に取り除くことができ、そして、開放された気泡も気泡溜まり室28に確実に溜めることができる。
このようにして、仮に負電極ペースト38に気泡が混入していたとしても、その気泡は、気泡除去装置20により除去されるため、支持体16に塗工された負電極ペースト38にピンホールが発生し難く、したがって、塗工不良が発生し難くて製造の歩留まりが向上すると共に延いては、この負電極を用いた電池の性能が向上する。特に、本実施例では、気泡除去装置20がコーティングダイ30の直前に設けられているため、ポンプ22や接続パイプ34A部分で発生した気泡も含めて除去可能であるため、その効果が顕著である。
【0027】
図4は、メッシュ部材32の開口幅Cと、欠陥量との関係を示す図である。ここで欠陥量とは、塗工後の所定の長さの支持体16上に発生した欠陥ピンホールの数を示すものである。また、欠陥ピンホールとは、支持体16の1ロール(長さ数千メートル)上に発生した、100μm〜500μmの範囲の中で設定される基準値mを超える直径を有するピンホールの数であり、ピンホールの径は、塗工後、乾燥工程を経た後に測定した値である。
なお、基準値mは、この負電極を用いて最終的に組み立てられる電池の性能を考慮して決定される。
図4から明らかなように、メッシュ部材32の開口幅Cを50μm以下とすることで、塗工後の所定の長さの支持体16上に発生する欠陥ピンホールの数を大幅に低減することができ、したがって、塗工不良が発生し難くて製造の歩留まりが大幅に向上した。
本実施例においては、メッシュ部材32の開口幅Cは、通常基準値mよりも小さい値を取る。これは、気泡が変形したりや複数に分割されてメッシュ部材32を通過する可能性があるためであり、本実施例では、100μm〜500μmの範囲の中の基準値mの1/n(nは、2〜6の整数値)に設定されており、基準値mに応じてメッシュ部材32の開口幅Cを設定することが可能である。またこの際、負電極ペースト38の粘度や流量をも考慮してメッシュ部材32の開口幅Cを設定することもできる。
なお、開口幅Cが50μmのメッシュ部材32としては、線径40μmの300メッシュの金網を使用した。また、開口幅Cが100μmのメッシュ部材32としては、線径90μmの150メッシュの金網を使用した。開口幅Cが150μmのメッシュ部材32としては、線径140μmの80メッシュの金網を使用した。
また、図5は、メッシュ部材32の取付角度と、欠陥量との関係を示す図である。
図5から明らかなように、メッシュ部材32の取付角度が90度、つまり、負電極ペースト38の流れAに直交するように設置すると、負電極ペースト38に含まれる気泡は、メッシュ部材32に衝突して分割もしくは変形してメッシュ部材32を通過してしまい、気泡の除去効果があまり期待できない。その点、メッシュ部材32の取付角度を45度以下、即ち、図2において、負電極ペースト38の流通方向Aに対するメッシュ部材32の交差角度θを45度以下にすることで、塗工後の所定の長さの支持体16上に発生するピンホールの数を極めて低減することができた。したがって、塗工不良が発生し難くて製造の歩留まりを向上させることができた。
なお、図4及び図5のデータは、接続パイプ34Aの内径が250mm、負電極ペースト38の流量が300cc/min、負電極ペースト38の粘度が1000mPa・secの条件のもと行った結果であり、高粘度の負電極ペースト38においても、良好に含まれる気泡を除去することができ、塗工後の所定の長さの支持体16上に発生するピンホールの数を極めて低減することができた。
その結果、本実施例によれば、溶媒の量を減らして固形分が多い高粘度の負電極ペースト38を支持体16上に塗工することができるため、この塗工工程後の、乾燥工程の負荷(乾燥時間や乾燥炉への設備投資額)を軽減することができ、品質を低下させることなく電極の製造工程全体のリードタイムの短縮化を図ることができ、また、コストを低減させることができる。
【0028】
特に、負電極においては、塗工後の支持体16上にピンホールが存在すると、この負電極を用いた電池では、正電極に比べて小径のピンホールにおいてもリチウムが析出しやすく、電池の性能上問題となるが、本実施例の場合、負電極ペースト38中の仮に負電極ペースト38に小径の気泡が混入していたとしても、その気泡は、気泡除去装置20により良好に除去されるため、この負電極を用いた電池の特性が向上すると共に、品質が安定する。
【0029】
電極の製造装置10の稼動に伴って、気泡溜まり室28には分離された空気が溜まり、それにしたがって気泡溜まり室28内の負電極ペースト38の上面がしだいに低下するが、バルブ36を操作して気泡溜まり室28を大気に開放することにより、気泡溜まり室28に溜まった空気を大気に放出することができる。これにより、気泡溜まり室28内の負電極ペースト38の上面は上昇して初期状態に復帰し、さらに続けて電極の製造装置10を稼動させることができる。
【0030】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、その他一々例示はしないが、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づいて種々変更、改良を加えた態様で実施することができる。
例えば、メッシュ部材32は、図3に示すように、金網によって構成したが、これに限定されるものではなく、エッチングによって多数の孔を形成した金属板によって構成しても差し支えない。
また、バルブ36の操作は、例えば、手動操作でも良いし、また、気泡溜まり室28内における負電極ペースト38の上面位置を検出するセンサーを設け、気泡溜まり室28内において負電極ペースト38の上面が所定の位置に達した際に自動的にバルブ36が操作されて気泡溜まり室28が開放されるようにしてもよい。
また、気泡除去装置20は、タンク18とポンプ22との間に配置しても差し支えない。
さらに、本実施例においては、電極の製造装置10によって負電極を製造したが、正電極を製造しても差し支えない。この場合、許容されるピンホールの直径(上記基準値m)が、負電極の場合に比べて大きいため、メッシュ部材32の開口幅Cを50μmよりも大きくすることが可能であり、歩留まりと生産効率との兼ね合いで、メッシュ部材32の開口幅Cとメッシュ部材32の取付角度とを調整することができる。
【符号の説明】
【0031】
10・・・電極の製造装置
12・・・ペースト塗工装置
18・・・タンク
20・・・気泡除去装置
28・・・気泡溜まり室
32・・・メッシュ部材
34A・・・接続パイプ
38・・・負電極ペースト
30・・・コーティングダイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプから吐出される塗工材料を塗工部へ流通させる配管部材を備える塗工装置において、
前記配管部材内に、開口部を有する気泡除去部材を、該気泡除去部材の下端側が上流側に、上端側が下流側に位置するように傾斜させて該配管部材内の全流路を覆うように配置し、
前記配管部材の上部には、前記泡除去部材と対応する位置に気泡溜まり部を形成したことを特徴する塗工装置。
【請求項2】
請求項1に記載する塗工装置において、
前記泡除去部材は、その上端側が前記気泡溜まり部内に侵入するようにして配置されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する塗工装置において、
前記気泡溜まり部には、空気を逃すための弁を備えていることを特徴とする塗工装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載する塗工装置において、
前記気泡除去部材は、前記配管部材内の前記塗工材の流通方向に対して45°以下の角度で交差するように配置されていることを特徴とする塗工装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載する塗工装置において、
前記気泡除去部材の開口部の幅は、50μm以下であることを特徴とする塗工装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載する塗工装置を用いて支持体に塗工材料を塗工して電極を製造したことを特徴とする電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−86086(P2013−86086A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232496(P2011−232496)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】