説明

塗布装置及び塗布方法

【課題】塗布層の面の乱れの発生を安定して抑えることができる塗布装置及び塗布方法を提供する。
【解決手段】搬送される帯状のウェブに塗布装置を用いて塗布を行う塗布方法であって、塗布装置は、ウェブの片面に、最終的に得ようとする所望の塗布厚みよりも過剰量の塗布液を塗布するプレコート部と、プレコート部に対してウェブの搬送する方向の下流側に位置し、塗布液の一部を掻き落とす掻き落とし部と、掻き落とし部によって掻き落とされた塗布液を回収する回収ラインとを、備え、プレコート部で塗布する塗布液の量の変化に対する液溜まり部の圧力変化を抵抗係数Rとし、液溜まり部の抵抗係数をR1とし、回収ラインがないときの抵抗係数をR0としたとき、1<R1/R0≦1.7を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布装置及び塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気テープは、連続走行する帯状の支持体(以下、「ウェブ」という)上に複数の塗布液を逐次塗布して塗布膜を形成する塗布工程を経て製造される。近年、コンピュータ用や放送用として急速に容量、記録密度が向上しており、膜厚が極薄く、膜圧分布が均一であり、かつ表面が平滑な磁性層を得ることのできる塗布技術が求められている。
【0003】
塗布液をウェブ面に塗布する塗布装置としては、例えば、ロールコータ型、グラビアコート型、ロールコートプラスドクター型、エクストルージョン型、スライドコート型等があるが、近年は、磁性塗布液の塗布にはエクストルージョン型の塗布装置が多用されている。
【0004】
エクストルージョン型塗布装置のうち、後述の特許文献1(特開昭58−109162号公報)に記載されるように、塗布ヘッド先端部をウェブに押し付けるタイプの方法は、ウェブテンションを利用して塗布ヘッド先端部での液圧を高くすることによってウェブに同伴されるエアーを排除し、薄く均一な塗布層を得ることができるため、磁気記録媒体の製造の分野では多用されている。しかし、このタイプの塗布ヘッドを用いて単層塗布を行う場合でも塗布厚みには限界がある。
【0005】
更に薄い塗布層を形成する方法として、特許文献2(特開平7−287843号公報)に記載されるように、ウェブ押し付け型のエクストルージョン塗布装置で、ウェブに過剰量を塗布した後、エクストルージョン塗布装置の下流側に配設されたブレードで過剰分を掻き落とすことによって非常に薄い塗布層を形成することのできる掻き落としタイプのものがある。この場合、過剰量を塗布する手段としては、押し付け型のエクストルージョン塗布装置に限る必要はなく、ロールコータ型、グラビアスライドコータ、バックアップ付きのエクストルージョンコータ等を使用することができる。
【0006】
掻き落しタイプの場合、掻き落されて回収された過剰液が一度大気に触れると、塗布液中の溶媒が揮発して粘度や固形分濃度等の液物性が変化してしまったり、塵埃が混入したりすることによって、その液を再利用すると塗布膜の厚みに悪影響が出たり、塗膜にスジが発生したりする。このような不具合の対策として、特許文献3(特開2003−170112号公報)、特許文献4(特開2003−236452号公報)には、過剰液が大気に開放されないように、過剰液の回収ラインを密閉系にする方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−109162号公報
【特許文献2】特開平7−287843号公報
【特許文献3】特開2003−170112号公報
【特許文献4】特開2003−236452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エクストルージョン型の塗布方法では、塗布時に塗布ヘッドとウェブに間に液溜まりができる。
【0009】
図7は、エクストルージョン型の塗布装置において、塗布ヘッドとウェブに間の液溜まりの状態を示す模式的な断面図である。図7に示すように、塗布液を供給するプレコート量が多すぎると、液溜まり部で液戻りが発生する。一方、塗布液を供給するプレコート量が少なすぎるとエアーの巻き込みが発生して面不良となる。ここで、液戻り及びエアーの巻き込みのいずれも発生しないプレコート量の範囲を、ここでは「安定範囲」と呼ぶ。
【0010】
エクストルージョン型の塗布において安定範囲は広ければ広いほうが良く、この安定範囲がある程度の範囲がないと塗布液の材料ばらつきや作業ばらつきに耐えられない。そして、液溜まり部が液の圧力と表面張力とのバランスが、安定範囲から外れてしまうと、塗布層の厚みのばらつきや塗布層の面の乱れが生じる。
【0011】
特許文献3、4に示すように回収ラインを有するエクストルージョン型の塗布装置では、回収部付近の塗布液に圧力損失が生じるため、安定範囲が狭く現象が生じることがわかった。しかし、従来、回収ラインを有するエクストルージョン型の塗布装置において、液溜まり部の液の状態との関係でどのように塗布を行えば良いかという知見がなかった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、塗布層の面の乱れの発生を安定して抑えることができる塗布装置及び塗布方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)搬送される帯状のウェブに塗布装置を用いて塗布を行う塗布方法であって、
前記塗布装置は、前記ウェブの片面に、最終的に得ようとする所望の塗布厚みよりも過剰量の塗布液を塗布するプレコート部と、
前記プレコート部に対して前記ウェブの搬送する方向の下流側に位置し、前記塗布液の一部を掻き落とす掻き落とし部と、
前記掻き落とし部によって掻き落とされた前記塗布液を回収する回収ラインとを、備え、
前記プレコート部で塗布する前記塗布液の量の変化に対する液溜まり部の圧力変化を抵抗係数Rとし、
前記液溜まり部の抵抗係数をR1とし、
前記回収ラインがないときの抵抗係数をR0としたとき、
1<R1/R0≦1.7を満たす塗布方法。
(2)搬送される帯状の支持体に塗布を行う塗布装置であって、
前記ウェブの片面に、最終的に得ようとする所望の塗布厚みよりも過剰量の塗布液を塗布するプレコート部と、
前記プレコート部に対して前記ウェブの搬送する方向の下流側に位置し、前記塗布液の一部を掻き落とす掻き落とし部と、
前記掻き落とし部によって掻き落とされた前記塗布液を回収する回収ラインとを、備え、
前記プレコート部で塗布する前記塗布液の量の変化に対する液溜まり部の圧力変化を抵抗係数Rとし、
前記液溜まり部の抵抗係数をR1とし、
前記回収ラインがないときの抵抗係数をR0としたとき、
1<R1/R0≦1.7を満たす塗布装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、塗布層の面の乱れの発生を安定して抑えることができる塗布装置及び塗布方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の塗布装置の構成を説明する概念図である。
【図2】図1の塗布ヘッドの構造を説明する斜視図である。
【図3】図1の塗布ヘッドのリップ面を説明する断面図である。
【図4】回収ラインがある塗布装置と回収ラインがない塗布装置の状態を模式的に示す図である。
【図5】回収ラインがある場合とない場合のプレコート量と液溜まり部の圧力の関係を示すグラフである。
【図6】プレコート量と液溜まり部の液の状態の関係、及び安定範囲を説明する図である。
【図7】エクストルージョン型の塗布装置において、塗布ヘッドとウェブに間の液溜まりの状態を示す模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
【0017】
図1は、本発明の塗布装置の構成を説明する概念図である。
【0018】
塗布装置10は、搬送される帯状のウェブ12に塗布を行う。
【0019】
図1に示す塗布装置10は、プレコートユニット31のプレコート部39と掻き落としユニット33の掻き落とし部41とが塗布ヘッド16に一体となった構成を一例として示している。一体型の塗布ヘッド16をあえてプレコート部39と掻き落とし部41に分けると、塗布ヘッド16に示した破線17で区画される。
【0020】
図1に示すように、塗布装置10は、主として、搬送されるウェブ12をガイドするガイドローラ14と、塗布ヘッド16と、プレコートユニット31と、掻き落としユニット33と、で構成される。また、塗布ヘッド16は、塗布ヘッド先端のリップ面24が連続走行するウェブ12と近接された状態で対向配置される。
【0021】
プレコートユニット31は、主として、塗布ヘッド16に形成されたプレコート部39と、ウェブ12に塗布する塗布量よりも過剰な塗布量をプレコート部39に供給する供給ライン18とで構成される。
【0022】
掻き落としユニット33は、塗布ヘッド16に形成された掻き落とし部41と、掻き落とし部41で掻き落とされた塗布液の過剰分を回収する回収ライン20とで構成される。
【0023】
図2は、図1の塗布ヘッド16の構造を説明する斜視図である。
【0024】
図1及び図2に示すように、塗布ヘッド16内には、塗布用ポケット部26と回収用ポケット部28とで成る一対の筒状のポケット部26、28がウェブ幅方向に平行に形成される。
【0025】
また、塗布ヘッド16内には、リップ面24に吐出口30Aを有する塗布用スリット30と、該吐出口30Aよりもウェブ12の走行方向からみて下流側のリップ面24に回収口32Aを有する回収用スリット32が形成されると共に、塗布用スリット30が塗布用ポケット部26に連通され、回収用スリット32が回収用ポケット部28に連通される。これにより、塗布ヘッド16に、プレコート部39と掻き落とし部41が一体形成される。
【0026】
塗布用ポケット部26は供給ライン18に接続され、回収用ポケット部28は回収ライン20に接続される。塗布用スリット30及び回収用スリット32は、それぞれのポケット部26、28とリップ面24とを繋ぐ狭隘な流路であり、ウェブ12の幅方向に延長される。そして、ウェブ12に塗布する所望の塗布量よりも過剰の塗布液が供給ライン18から塗布ヘッド16の塗布用ポケット部26に供給され、回収用スリット32から回収用ポケット部28に回収された塗布液の余剰分が回収ライン20に排出される。
【0027】
なお、図2では、塗布用ポケット部26に塗布液を送液する方法として、塗布用ポケット部26の一方側から供給するようにしたが、この他にも塗布用ポケット部26の一方側から供給して他端側から引き抜くタイプ、或いは塗布用ポケット部26の中央部から供給して両側に分流させるタイプがあり、いずれを適用してもよい。
【0028】
供給ライン18は、図1に示すように、供給配管34によって塗布液タンク36と塗布ヘッド16の塗布用ポケット部26とが接続される。供給配管34の途中に、塗布用ポケット部26に供給する塗布液量を可変する供給ポンプ38と、供給配管34を流れる塗布液量を測定する供給量流量計40とが設けられる。
【0029】
回収ライン20は、回収配管42によって回収用ポケット部28と塗布液タンク36とが接続される。回収配管42の途中に、回収配管42を流れる塗布液量を測定する回収量計量計46が設けられる。
【0030】
このように、塗布装置10は、塗布ヘッド16と塗布液タンク36との間に大気に開放されない密閉系の供給・回収ライン18、20が備える。
【0031】
塗布ヘッド16を境にウェブの搬送方向の上流側と下流側に、ガイドローラ14が一対で設けられる。一対のガイドローラ14は、塗布ヘッド16先端よりも低い位置に配置される。これにより、連続走行するウェブ12は塗布ヘッド16のリップ面24にラップされると共に、リップ面24側に押し付けられるように近接される。この結果、ウェブ12とリップ面24に挟まれた塗布液は加圧される。
【0032】
また、一対のガイドローラ14、14は、図1のスライド方向48、48にスライド可能に設けられ、これによりウェブ12の走行方向の張力を変えることができるようになっている。ガイドローラ14、14のスライド機構については微小なスライドができる機構であればどのようなものでもよいが、例えば送りネジの機構を使用することができる。このウェブ12の走行方向の張力を変えることで、ウェブ12が塗布ヘッド16のリップ面24を押し付ける押圧力が変わり、ウェブ12とリップ面24に挟まれた塗布液に加圧される加圧力が変化するので、掻き落とし部41での掻き落とし液量が変化する。これにより、所望の塗布厚みを得ることができる。
【0033】
このように、本発明における掻き落としユニット33は、塗布ヘッド16のリップ面24とウェブ12とが相対的に押圧されてウェブ12に塗布された塗布液が加圧されることにより、回収用スリット32の回収口32Aのエッジ部分や回収用リップ面56を利用して塗布液の過剰分を掻き落とすように構成され、掻き落とされた塗布液は回収ライン20により回収される。
【0034】
図3は、図1の塗布ヘッド16のリップ面24を説明する断面図である。
【0035】
図3に示すように、塗布ヘッド16のリップ面24のうち、塗布用スリット30と回収用スリット32の間のドクターリップ面54の形状、及びウェブ走行方向からみて回収用スリット32の下流側の回収用リップ面56の形状が、ウェブ12側に凸な円弧状曲面を有していることが好ましい。
【0036】
なお、図示しないが、円弧状曲面以外でも、ウェブ12側に凸な連設された二つ以上の平面、又はウェブ12側に凸な円弧状曲面と平面との組み合わせ面を有しているようにしてもよい。これにより、ウェブ12に同伴されるエアーを排除し、薄く均一な塗布層を得ることができる。
【0037】
また、ドクターリップ面54の曲率半径をrとし、回収用リップ面56の曲率半径をrとしたときに、ドクターリップ面と回収用リップ面の曲率半径r、rはいずれも、0.5mm〜20mmであることが好ましい。これにより、塗布液が掻き落とされ易くなる。
【0038】
ドクターリップ面54及び回収用リップ面56が形成された各ブロックの材質は、超合金又はファインセラミクス、アルミナA−150、ジルコニア等の硬質体か、これらの材料でブロックの表面部分を被覆した部材等により構成されており、その表面粗さはRmaxで0.5μm以下、好ましくは0.2μm以下の粗さになるように表面加工されている。
【0039】
次に、塗布装置10を用いて塗布を行うときの塗布装置10の作用を説明する。
【0040】
供給ポンプ38により塗布液タンク36から供給配管34を流れて塗布ヘッド16の塗布用ポケット部26に供給された過剰の塗布液は、塗布用スリット30を上昇して吐出口30Aから吐出されると共に、供給配管34を流れる塗布液量が供給量流量計40で測定されてコントローラ22に出力される。吐出口30Aから過剰に吐出された塗布液は、塗布ヘッド16のリップ面24と、該リップ面24に近接して走行するウェブ12との間でビード50を形成しながらウェブ12に塗布される。即ち、吐出口30Aから吐出された塗布液の吐出力とウェブ12が塗布ヘッド16のリップ面24を押し付ける押圧力がバランスした状態で過剰な塗布液がウェブ12に塗布される。一方、吐出口30Aよりもウェブ走行方向の下流側のリップ面24に形成された回収用スリット32の回収口32Aでは、塗布液の過剰分が回収用スリット32内に掻き落とされる。即ち、塗布用スリット30の吐出口30Aでウェブ12に厚塗りされた塗布液は、ウェブ12に同伴されて回収用スリット32の回収口32Aに至り、厚塗りの一部、即ち塗布液の過剰分が回収口32Aのエッジ部分や後記する回収用リップ面56で掻き落とされる。これにより、ウェブ12に厚塗り状態の塗布液は、回収用スリット32内に流れる塗布液と、所望の塗布量まで減量されてウェブ12に引き続き同伴される塗布液とに分配される。回収用スリット32内に分配される塗布液は、回収用ポケット部28、回収ライン20を介して塗布液タンク36に至る塗布液の流れを形成し、塗布液タンク36に回収される。
【0041】
図3に示すように、塗布装置10の塗布用スリット30とウェブ12の塗布側の面との間に液溜まり部Sが生じる。塗布装置10は、プレコート部39で塗布する塗布液の量の変化に対する液溜まり部Sの圧力変化を抵抗係数Rとし、液溜まり部Sの抵抗係数をR1とし、回収ライン20がないときの抵抗係数をR0としたとき、1<R1/R0≦1.7を満たす。こうすることで、塗布層の面の乱れの発生を安定して抑えることができる。
【0042】
次に、回収ラインの有無と安定範囲との関係について説明する。以下の説明では、上述した塗布装置10の構成を適宜参照して説明する。
【0043】
図4は、回収ラインがある塗布装置と回収ラインがない塗布装置の状態を模式的に示す図であり、ここで、FIG.4Aは、回収ラインのない塗布装置を示し、FIG.4Bは、回収ラインがある塗布装置を示している。
【0044】
図4Aに示す回収ラインがない塗布装置は、図1に示す塗布装置10において、掻き落としユニット33を塗布ヘッド16から取り外した状態、又は、掻き落としユニット33をプレコートユニット31に対してウェブ12の搬送方向下流側に十分に隔離させたときの状態に実質的に相当する。このため、これらの状態としたときの液溜まり部Sの状態を回収ラインがない塗布装置の液溜まり部Sの状態とすることができる。また、図4Aに示す回収ラインがない塗布装置は、回収口32Aを塞ぐことによって回収用スリット32に分配される塗布液の量をゼロとした状態に実質的に想到する。このため、この状態としたときの液溜まり部Sの状態を回収ラインがない塗布装置の液溜まり部Sの状態とすることができる。
【0045】
図4Bに示す回収ラインがある塗布装置は、図1から図3に示す塗布装置10と同じであり、ここでは、その構成や各部材の説明は省略する。
【0046】
図5は、回収ラインがある場合とない場合のプレコート量と液溜まり部の圧力の関係を示すグラフである。図5のグラフの横軸はプレコート部からプレコートされる塗布液のプレコート量Qを示し、縦軸は、液溜まり部Sにおける圧力Pを示している。
【0047】
液溜まり部Sの抵抗係数は、プレコート量の変化に対する液溜まり部Sの圧力の変化であり、図5では、グラフ中の斜めの線の傾きに相当する。
【0048】
図5のグラフでは、圧力P以下であると、エアー巻き込みが生じて、塗布液の面不良が生じることを示している。また、圧力P以上であると、液戻りが生じて、塗布液の面不良が生じることを示している。
【0049】
回収ラインがある場合とない場合のそれぞれにおいて、圧力がPからPの範囲であるとき、液溜まり部Sの圧力が適性であり、面不良が生じないことを意味する。そして、回収ラインがある場合とない場合のそれぞれにおいて、圧力がPからPの範囲となるときのプレコート量の範囲を安定範囲とする。
【0050】
図5に示すように、回収ラインがある場合には、回収ラインがない場合に比べて、安定範囲が狭いことがわかる。
【0051】
ここで、安定範囲について説明する。
【0052】
安定した塗布を行うためには、安定範囲は広ければ広いほうが良いが、20%以上あることが好ましい。塗布工程では、塗布液の材料ばらつきや経時変化、ウェブの厚み分布やウェブにかかる塗布中の張力分布、塗布装置の機械的なばらつきなど、多くの外乱があるが、20%以上安定範囲があれば外乱があっても液戻りやエアー巻き込みなどの弊害がなく製造が行える。
【0053】
外乱が加わる場合には、液溜まり部の表面張力のバランスが崩れ、液戻りやエアー巻き込みが起こる液溜まりの圧力が変化することがあり、一時的に安定範囲が狭くなり、液戻りやエアー巻き込みが起こる。
【0054】
図6は外乱の影響による安定範囲の変化を説明するためのグラフである。
【0055】
ここで、図6では、プレコート量設定値をQとする。液溜まり部Sの圧力がPときのプレコート量をQとし、液溜まり部Sの圧力がPときのプレコート量をQとする。
プレコート量設定値Q3はプレコート量Q〜Qの中心値である。FIG.6Aは、外乱がない通常時の安定範囲を示す。FIG.6Bは、外乱を受けた場合の安定範囲を示す。外乱を受けて、液戻りが発生する圧力Pが一時的に低下する。それに伴い、液戻りが起こるプレコート量QがQ’に低下する。プレコート量設定値はQのままなので、液戻りが発生してしまう。
【0056】
安定範囲の算出方法について説明する。
【0057】
プレコート量を連続的に変化させ、エアー巻き込みが起こったプレコート量と液戻りが起こったプレコート量を測定する。これら2つのプレコート量の平均値を中心値とし、安定範囲を算出する。
【0058】
以下は、安定範囲の算出方法の一例である。
【0059】
(算出方法例)
エアー巻き込み時のプレコート量 12.7cc/m
液戻りのプレコート量 16.0cc/m
中心値 14.35cc/m
⇒ (16.0−14.35)/14.35×100=11.5%
(14.35−12.7)/14.35×100=11.5%
⇒14.75cc/mを中心として、±11.5%=安定範囲23%
【0060】
(実施例)
本発明の効果を実証するため、次のような試験を行った。
【0061】
塗布液は、次の表に示すものを使用した。
【0062】
【表1】

【0063】
塗布装置及びウェブは、次の表に示すものを使用した。
【0064】
【表2】

【0065】
なお、本試験で使用する塗布装置の構成は、特に断らない限りにおいて、図1から図3に示す塗布装置と同じである。
【0066】
(液溜まり部の圧力の測定方法)
送液ポンプと塗布ヘッドの間の供給ライン中に圧力計を設置した。所定量の塗布液をウェブが無い状態で塗布用スリットから排出しながら圧力計の値(Pa)を読み取った。同じプレコート量でウェブに対する塗布を行いながら圧力計の値(Pb)を読み取った。この圧力Paと圧力Pbの差圧(Pa−Pb)を液溜まりの圧力(P)とした。
【0067】
(抵抗係数)
横軸をプレコート量(単位:cc/m)、縦軸を液溜まりの圧力(単位:kPa)としたときの傾きを抵抗係数Rとした。
回収ラインを有する塗布装置において、回収ラインの形状が十分に大きく、回収ラインのない塗布装置と同等の安定範囲が得られる構成を以下とした。
回収ラインの回収用スリットのクリアランス:10mm、回収用ポケットの断面積:500mm、回収用配管の内径:30mm、長さ:1mとした。このときの抵抗係数をR0とした。
【0068】
(安定範囲)
プレコート量を連続的に変化させ、エアー巻き込みが起こったプレコート量と液戻りが起こったプレコート量を測定し、安定範囲を算出した。
【0069】
(試験1:回収量スリットクリアランスの制約)
【0070】
塗布速度200m/min、液粘度5cPで塗布を行った。回収用ポケットの断面積を500mm、回収用配管の内径を30mm、長さ1mとし、回収用スリットのクリアランスを0.2〜100mmに変化させたときの回収液の凝固物の有無を調べた。試験結果を次の表に示す。
【0071】
【表3】

【0072】
この結果によれば、回収用スリットのクリアランスが10mm以上の場合、回収液に凝固物が発生した(回収液に凝固物が発生すると、再利用時に塗布スジ発生し、問題となる)。
回収ラインの形状を十分に大きくした場合、回収ラインの圧力損失は極めて小さくなる。そして、回収ラインなしの塗布装置と安定範囲はほぼ同じになる。ただし、スリットクリアランスを大きくしすぎた場合、塗布液が空気に触れて溶剤が揮発して凝固物が生じるという弊害が生じる。よって、本発明では、回収スリットクリアランス<10mmである必要がある。なお、回収用スリットのクリアランスは、塗布液の粘度や塗布速度には依存しない値である。
【0073】
(試験2:抵抗係数R0の導出)
【0074】
塗布速度200m/min、液粘度5cPで塗布を行った。回収ラインのスリットクリアランスを10mm、回収用ポケットの断面積を500mm、回収用配管の内径を30mm、長さ1mとした場合の抵抗係数R0を求めた。試験結果を次の表に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
(試験3:R1/R0の範囲)
上述した試験2の構成において、回収用スリットのクリアランスを0.2〜8mmに変化させた場合、回収用ポケットの断面積を50〜400mmに変化させた場合、回収用配管の内径を5〜20mmに変化させたときの抵抗係数R1を求めた。塗布速度200m/min、液粘度5cPで塗布を行った。抵抗係数R0は試験2の値を用いることとし、R1/R0を求めた。試験結果を次の表に示す。
【0077】
【表5】

【0078】
この結果によれば、上記結果は、安定範囲20%以上となる条件は、1<R1/R0≦1.7であることがわかった。また、R1/R0を小さくするための操作因子が、圧力損失を低下させる手段はであればどのような手段でもよいことがわかった。
【0079】
(試験4:液粘度の影響を調べるためのR0の導出)
【0080】
回収ラインの回収用スリットのクリアランスを10mm、回収用ポケットの断面積を500mm、回収用配管の内径を30mm、長さ1m、塗布速度を200m/minとした。
このとき、液粘度1、50cPの場合の抵抗係数R0を求めた。試験結果を次の表に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
(試験5:液粘度の影響評価)
【0083】
上述した試験4の各塗布条件(塗布速度200m/min、液粘度1、50cP)において、回収用スリットのクリアランスを0.2〜8mmに変化させたときの抵抗係数R1を求めた。抵抗係数R0は上述した試験4の値を用い、R1/R0を求めた。試験結果を次の表に示す。
【0084】
【表7】

【0085】
この結果によれば、液粘度によらず、安定範囲20%以上となる条件は、1<R1/R0≦1.7であることがわかる。
【0086】
(試験6:塗布速度の影響を調べるためのR0の導出)
【0087】
回収用スリットのクリアランスを10mm、回収用ポケットの断面積を500mm、回収用配管の内径を30mm、長さ1m、液粘度を5cPとした。
このとき、塗布速度30、500m/minの場合の抵抗係数R0を求めた。試験結果を次の表に示す。
【0088】
【表8】

【0089】
(試験7:塗布速度の影響評価)
試験6の各塗布条件(塗布速度50、500m/min、液粘度5cP)において、スリットクリアランスを0.2〜8mmに変化させたときの抵抗係数R1を求めた。抵抗係数R0は試験6の値を用い、R1/R0を求めた。試験結果を次の表に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
この結果によれば、塗布速度によらず、安定範囲20%以上となる条件は、1<R1/R0≦1.7であることがわかった。
【0092】
(試験8:R0の範囲)
回収ラインのスリットクリアランスを10mm、回収用ポケットの断面積を500mm、回収用配管の内径を30mm、長さ1mとした。塗布速度、液粘度を変化させたときの抵抗係数R0と安定範囲を求めた。試験結果を次の表に示す。
【0093】
【表10】

【0094】
この結果から、本構成の塗布装置では、抵抗係数R0を2.8より小さい条件はできない(なお、抵抗係数R0=2.8のときは試験5で効果があることが示されている)。また、抵抗係数R0が14より大きいと安定範囲が20%未満となり、抵抗係数R1を操作しても20%以上は得られない。よって、2.8≦R0≦14であることが本発明に必要な条件である。
【0095】
以上の結果から、2.8≦R0≦14、かつ、回収用スリットのクリアランスが10mm以内であり、1<R1/R0≦1.7であれば使用可能な回収液中に凝固物の発生がなく、安定範囲20%以上を得られることがわかった。
【0096】
本明細書は次の事項を開示する。
(1) 搬送される帯状のウェブに塗布装置を用いて塗布を行う塗布方法であって、
前記塗布装置は、前記ウェブの片面に、最終的に得ようとする所望の塗布厚みよりも過剰量の塗布液を塗布するプレコート部と、
前記プレコート部に対して前記ウェブの搬送する方向の下流側に位置し、前記塗布液の一部を掻き落とす掻き落とし部と、
前記掻き落とし部によって掻き落とされた前記塗布液を回収する回収ラインとを、備え、
前記プレコート部で塗布する前記塗布液の量の変化に対する液溜まり部の圧力変化を抵抗係数Rとし、
前記液溜まり部の抵抗係数をR1とし、
前記回収ラインがないときの抵抗係数をR0としたとき、
1<R1/R0≦1.7を満たす塗布方法。
(2)(1)に記載の塗布方法であって、
前記塗布液は、磁性粒子を分散させた磁性塗料である塗布方法。
(3) 搬送される帯状の支持体に塗布を行う塗布装置であって、
前記ウェブの片面に、最終的に得ようとする所望の塗布厚みよりも過剰量の塗布液を塗布するプレコート部と、
前記プレコート部に対して前記ウェブの搬送する方向の下流側に位置し、前記塗布液の一部を掻き落とす掻き落とし部と、
前記掻き落とし部によって掻き落とされた前記塗布液を回収する回収ラインとを、備え、
前記プレコート部で塗布する前記塗布液の量の変化に対する液溜まり部の圧力変化を抵抗係数Rとし、
前記液溜まり部の抵抗係数をR1とし、
前記回収ラインがないときの抵抗係数をR0としたとき、
1<R1/R0≦1.7を満たす塗布装置。
(4)(3)に記載の塗布装置であって、
塗布ヘッドを備え、
前記塗布ヘッドは、前記プレコート部と前記掻き落とし部とを一体で備える塗布装置。
(5)(3)又は(4)に記載の塗布装置であって、
前記プレコート部は、前記塗布液を吐出する塗布用スリットを備え、
前記掻き落とし部は、掻き落とした前記塗布液を回収する回収用スリットを備える塗布装置。
(6)(4)に記載の塗布装置であって、
前記塗布ヘッドはリップ面を有し、
前記リップ面は、前記塗布液を塗布してから前記塗布液の過剰分を掻き落とすまでの間のドクターリップ面と、前記塗布液の過剰分を掻き落とすための回収用リップ面とを含み、
前記ドクターリップ面と前記回収用リップ面の曲率半径は、0.5mm〜20mmである塗布装置。
【符号の説明】
【0097】
10 塗布装置
12 ウェブ
14 ガイドローラ
16 塗布ヘッド
18 供給ライン
20 回収ライン
24 リップ面
26 塗布用ポケット部
28 回収用ポケット部
30 塗布用スリット
30A 吐出口
32A 回収口
31 プレコートユニット
32 回収用スリット
33 掻き落としユニット
36 塗布液タンク
41 掻き落とし部
42 回収配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される帯状のウェブに塗布装置を用いて塗布を行う塗布方法であって、
前記塗布装置は、前記ウェブの片面に、最終的に得ようとする所望の塗布厚みよりも過剰量の塗布液を塗布するプレコート部と、
前記プレコート部に対して前記ウェブの搬送する方向の下流側に位置し、前記塗布液の一部を掻き落とす掻き落とし部と、
前記掻き落とし部によって掻き落とされた前記塗布液を回収する回収ラインとを、備え、
前記プレコート部で塗布する前記塗布液の量の変化に対する液溜まり部の圧力変化を抵抗係数Rとし、
前記液溜まり部の抵抗係数をR1とし、
前記回収ラインがないときの抵抗係数をR0としたとき、
1<R1/R0≦1.7を満たす塗布方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布方法であって、
前記塗布液は、磁性粒子を分散させた磁性塗料である塗布方法。
【請求項3】
搬送される帯状の支持体に塗布を行う塗布装置であって、
前記ウェブの片面に、最終的に得ようとする所望の塗布厚みよりも過剰量の塗布液を塗布するプレコート部と、
前記プレコート部に対して前記ウェブの搬送する方向の下流側に位置し、前記塗布液の一部を掻き落とす掻き落とし部と、
前記掻き落とし部によって掻き落とされた前記塗布液を回収する回収ラインとを、備え、
前記プレコート部で塗布する前記塗布液の量の変化に対する液溜まり部の圧力変化を抵抗係数Rとし、
前記液溜まり部の抵抗係数をR1とし、
前記回収ラインがないときの抵抗係数をR0としたとき、
1<R1/R0≦1.7を満たす塗布装置。
【請求項4】
請求項3に記載の塗布装置であって、
塗布ヘッドを備え、
前記塗布ヘッドは、前記プレコート部と前記掻き落とし部とを一体で備える塗布装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の塗布装置であって、
前記プレコート部は、前記塗布液を吐出する塗布用スリットを備え、
前記掻き落とし部は、掻き落とした前記塗布液を回収する回収用スリットを備える塗布装置。
【請求項6】
請求項4に記載の塗布装置であって、
前記塗布ヘッドはリップ面を有し、
前記リップ面は、前記塗布液を塗布してから前記塗布液の過剰分を掻き落とすまでの間のドクターリップ面と、前記塗布液の過剰分を掻き落とすための回収用リップ面とを含み、
前記ドクターリップ面と前記回収用リップ面の曲率半径は、0.5mm〜20mmである塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−192342(P2012−192342A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58350(P2011−58350)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】