説明

塗膜付き基材、塗膜付き基材の製造方法、照明器具、ランプ

【課題】 可視光の吸収率が低いと共に300〜405nmの波長域の紫外線の大部分をカットすることができ、また黄味の発生や紫外線吸収剤のブリードアウトが抑制され、更に耐久性・耐候性の高い塗膜を形成した塗膜付き基材を提供する。
【解決手段】 基材4の表面に、バインダーとなる透光性樹脂に紫外線吸収剤を分散して得られた基層1と、透光性樹脂から形成され基層1の外側に積層されるコート層2とを備える塗膜3を設ける。基層1やコート層2の透光性樹脂は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に有するものであることが好ましく、また基層中に分散して含まれる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種、あるいはクロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物及びトリスレゾルシノールトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線の透過を抑制すると共に可視光の透過性が十分に維持された塗膜を形成した塗膜付き基材、この塗膜付き基材の製造方法、この塗膜付き基材を用いて作製した照明器具及びランプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、透明バインダ等に無機系微粉末や有機系紫外線吸収剤を混合して得られる塗料を塗装した基材で照明器具のカバー等を作製することによって、光源からでる紫外線をカットし、照明器具へ虫が誘引されることを抑制することが試みられている。このような場合、照明器具としての性能に影響を与えることなく、虫の誘引を十分に抑制するためには、塗膜付き基材の塗膜として、(1)黄味がない、(2)300〜405nmの波長域の紫外線光の大部分をカットする、(3)耐久性・耐候性に優れる、(4)可視光域(特に波長555nm付近)の光の透過率が高い、等の条件が要求される。
【0003】
ここで、従来、上記のような塗膜を形成する塗料として、特許文献1では、粒径が0.1μm以下の酸化亜鉛微粉末を結合剤中に分散した窓ガラス用塗料が開示されている。また特許文献2には、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を含む窓ガラス用塗料が開示されている。また、特許文献3には、ヒンダードアミン系光安定基を有するアクリル樹脂、シランカップリング剤、そして無黄変タイプのポリイソシアネートを配合した超耐候性塗料組成物が開示されている。
【特許文献1】特開平05−096948号公報
【特許文献2】特開昭61−138664号公報
【特許文献3】特許第3516833号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の特許文献1のように無機系微粉末を混合するだけでは、塗膜に黄味が生じたり、可視光の透過率が低くなってしまうといった問題があり、また特許文献2のようにベンゾフェノン系紫外線吸収剤を含有させるだけでは、長波長紫外線の吸収能が不足し、また耐久性や耐光性が十分に得られず、また紫外線吸収剤のブリードアウトにより吸収性能が低下してしまうといった問題があった。
【0005】
また、樹脂と紫外線吸収剤とを共重合させ、樹脂骨格に紫外線吸収基を組み込んだ紫外線吸収樹脂を用いることも考えられるが、これは紫外線吸収剤のブリードアウトを防止することはできるものの、樹脂中に組み込める紫外線吸収基の量が制限されてしまうために、特に波長370〜405nm程度の長波長紫外線に対する十分な吸収能を付与することは困難であった。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、可視光の吸収率が低いと共に300〜405nmの波長域の紫外線の大部分をカットすることができ、また、黄味の発生や紫外線吸収剤のブリードアウトが抑制され、更に耐久性・耐候性の高い塗膜を形成した塗膜付き基材及びその製造方法を提供することを目的とするものであり、またこの塗膜付き基材を用いて作製した照明器具及びランプを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る塗膜付き基材は、基材の表面に、バインダーとなる透光性樹脂に紫外線吸収剤を分散して得られた基層と、透光性樹脂から形成され基層の外側に積層されるコート層とを備える塗膜を設けて成ることを特徴とするものである。
【0008】
そして基層のバインダーとなる透光性樹脂は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に有するものであることが好ましく、また基層中に分散して含まれる紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であること、あるいはクロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物及びトリスレゾルシノールトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0009】
本発明において塗膜の基層に使用する樹脂は透光性であることが必須であり、分子骨格中にベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を含む透光性樹脂を使用することにより、基層に分散させる紫外線吸収剤の使用量を抑制することができる。また、このベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に含む透光性樹脂は高い紫外線吸収性を有し、且つベンゾトリアゾール系化合物及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選ばれる、あるいはクロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物及びトリスレゾルシノールトリアジン系化合物から選ばれる紫外線吸収剤を併用することによって、更に高い紫外線吸収能が付与されると共に、長波長の紫外線についても十分な吸収能を確保することができ、これにより塗膜は300〜380nmの波長域において優れた紫外線吸収能を有すると共に、370〜405nmの長波長紫外線についても十分に高い吸収能を有する。また、この塗膜中に含有されるベンゾトリアゾール系紫外線吸収基や紫外線吸収剤の405〜450nmの波長域における光の吸収性は低い。このためこの塗膜を透過する光には黄味が発生しないものである。また、この紫外線吸収剤は樹脂との相溶性が良く、且つその分子骨格中にベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を含む透光性樹脂を用いた場合においては、樹脂骨格に含まれた紫外線吸収基の存在によって紫外線吸収剤の相溶性が更に向上していることから、紫外線吸収剤が安定化し、紫外線吸収剤の分解や塗膜中からの抜けが発生しにくくなり、これにより塗膜の耐久性・耐光性が優れるものとなる。
【0010】
また、本発明において塗膜のコート層は透光性樹脂からなることを必須とするものである。より好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に含む透光性樹脂を使用することにより、透明性を損なわず且つ紫外線吸収能を保持した状態で、基層に分散している紫外線吸収剤の塗膜表面への析出及び紫外線吸収剤の塗膜中からの抜けを防止することができる。また更にベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に含む透光性樹脂を使用することにより、コート層にも紫外線吸収性能を保持させることが可能となり、その結果として塗膜の耐久性及びタック性向上を図ることができる。
【0011】
また本発明において、基層中に分散される紫外線吸収剤の含有量は、塗膜1cm当り0.05〜10.0gの範囲になるように設定することが好ましい。紫外線吸収剤の含有量が塗膜1cmに対して0.05g未満であると、370〜405nmの波長領域の紫外線吸収能が不十分になり、逆に10.0gを超えると、基層中の紫外線吸収剤の量が多すぎて、成膜性が低下する。
【0012】
また本発明において、基層とコート層の少なくとも一方に、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム及び酸化鉄から選択される少なくとも一種の無機微粒子を含有することが好ましく、塗膜の紫外線吸収能をさらに向上させることができるものである。無機微粒子の含有量は、塗膜1cm当り0.005〜0.5gの範囲になるように設定することが好ましい。この範囲に満たないと可視光が透過し過ぎ、またこの範囲を超えると可視光が透過しにくくなる。
【0013】
また、本発明において、基層の膜厚が2〜50μmであり、コート層の膜厚が5〜70μmであることが好ましい。基層の膜厚が2μm未満であると、透光性樹脂中に存在する紫外線吸収剤量が少なすぎて、所望の光学特性を得ることが難しくなり、逆に50μmを超えると、1回の塗装で製膜することが難しくなって、生産性が悪くなるおそれがある。またコート層の膜厚が5μm未満であると、基層中の紫外線吸収剤の抜けや紫外線吸収剤の塗膜表面への析出を防ぐのが不十分になって、コート層としての役割が十分でなくなり、逆に膜厚が70μmを超えると、1回の塗布で製膜することが難しくなって、生産性が悪くなるおそれがある。
【0014】
また上記の基層やコート層の透光性樹脂は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、オレフィン樹脂、及びこれらを主成分とするアロイ材料から選ばれるものが好ましく、これらは透光性が高いので、特に照明器具に好適に用いられるものである。これらの中でも、耐久性に優れるものとして、アクリル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、及びこれらのアロイが特に好ましい。
【0015】
本発明に係る塗膜付き基材の製造方法は、バインダーとなる透光性樹脂とイソシアネートと紫外線吸収剤を含有する基層用の塗料組成物を基材の上に塗布・硬化することによって基層を作製し、透光性樹脂とイソシアネートを含有するコート層用の塗料組成物を基層の上に塗布・硬化してコート層を作製することによって、基層とコート層を有する塗膜を基材の表面に積層することを特徴とするものである。
【0016】
このように製造して得られる塗膜付き基材において、塗膜は基層とコート層の2層構造となっており、これにより、基材を透過し、又は基材にて反射される光から300〜405nmの波長域における紫外線の大部分をカットすることができると共に、可視光は殆ど吸収せず、紫外線によって虫が誘引されないようにすることができるものであり、また上記のように塗膜は黄味が発生しにくく、さらに紫外線吸収剤の塗膜表面への析出や塗膜からの抜けも発生しにくく、更に高い耐久性や耐候性を備えるものである。そして、基層用の塗料組成物や、コート層用の塗料組成物にはイソシアネートを含有するので、これらの塗料組成物の長期保存性や取り扱い性が向上するものである。
【0017】
また基層用の塗料組成物やコート層用の樹脂組成物には、シランカップリング剤を含有することが好ましく、塗膜の密着性を向上することができると共に、塗膜の耐アルカリ性や耐煮沸性等を向上して耐久性をさらに向上することが可能になるものである。
【0018】
本発明に係る照明器具は、上記の塗膜付き基材を用いて作製した透光部材を具備することを特徴とするものである。
【0019】
これにより、照明器具の光源から発せられる光が塗膜を形成した透光部材を通過する際に、300〜405nmの波長域における紫外線の大部分がカットされると共に、可視光は通過することとなって、紫外線によって虫が誘引されないようにすることができるものであり、また塗膜は黄味が発生しにくく、さらに紫外線吸収剤の塗膜表面への析出や抜けも発生しにくく、高い耐久性や耐候性を備えるものである。
【0020】
また本発明に係る他の照明器具は、上記の塗膜付き基材を用いて作製した透光部材を外郭として備える光源を具備したことを特徴とするものである。
【0021】
これにより、照明器具の光源から発せられる光が塗膜を形成した外郭を通過する際に、300〜405nmの波長域における紫外線の大部分がカットされると共に、可視光は通過することとなって、紫外線によって虫が誘引されないようにすることができるものであり、また塗膜は黄味が発生しにくく、さらに紫外線吸収剤の塗膜表面への析出や抜けも発生しにくく、高い耐久性や耐候性を備えるものである。
【0022】
また本発明に係る更に他の照明器具は、上記の塗膜付き基材を用いて作製した反射部材を具備したことを特徴とするものである。
【0023】
これにより、照明器具の光源から発せられる光が塗膜を形成した反射部材にて反射される際に、300〜405nmの波長域における紫外線の大部分がカットされると共に、可視光は通過することとなって、紫外線によって虫が誘引されないようにすることができるものであり、また塗膜は黄味が発生しにくく、さらに紫外線吸収剤の塗膜表面への析出や抜けも発生しにくく、高い耐久性や耐候性を備えるものである。
【0024】
本発明に係るランプは、上記の塗膜付き基材を用いて作製した透光部材を外郭として備えることを特徴とするものである。
【0025】
これにより、ランプから発せられる光が塗膜を形成した外郭を通過する際に、300〜405nmの波長域における紫外線の大部分がカットされると共に、可視光は通過することとなって、紫外線によって虫が誘引されないようにすることができるものであり、また塗膜は黄味が発生しにくく、さらに紫外線吸収剤の塗膜表面への析出や抜けも発生しにくく、高い耐久性や耐候性を備えるものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、可視光の吸収率が低いと共に300〜405nmの波長域の紫外線の大部分をカットすることができるものであり、紫外線によって虫が誘引されないようにすることができ、且つ可視光は透過させることができるものである。また、塗膜は黄味が発生し難く、紫外線吸収剤の塗膜表面への析出や抜けも発生し難く、高い耐久性や耐候性を備えるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0028】
木発明に係る塗膜付き基材は、バインダーとなる透光性樹脂と紫外線吸収剤を含有する基層用の塗料組成物を基材の表面に塗布・硬化して基層を形成し、さらに透光性樹脂を含有するコート層用の塗料組成物を基層の表面に塗布・硬化してコート層を形成することによって、基層とコート層からなる塗膜を基材の表面に積層して作製されるものであり、基層は透光性樹脂と紫外線吸収剤とを必須成分として含有し、コート層は透光性樹脂を必須成分として含有するものである。
【0029】
上記の基層用の塗料組成物やコート層用の塗料組成物に含有される透光性樹脂としては、適宜のものが用いられるが、特にアクリル樹脂(イソシアネート硬化性アクリル樹脂を含む)、アルキド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、オレフィン樹脂、及びこれらを主成分とするアロイ材料等を用いることが好ましく、これらのうち一種を単独で用いる他、二種以上を併用することもできる。これらの中でも、耐久性に優れるものとして、アクリル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、及びこれらのアロイが特に好ましい。
【0030】
また透光性樹脂としては、その分子骨格中にベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を有するものを用いることもできる。このようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を骨格に含む透光性樹脂としては、具体的にはアクリル樹脂にベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を導入したものを挙げることができ、例えば2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2’−ヒドロキシ−5’−(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾールと、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタアクリレート)等の不飽和単量体との共重合体を挙げることができる。
【0031】
また、基層用の塗料組成物に含有される紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物、トリスレゾルシノールトリアジン系化合物を挙げることができる。
【0032】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、2−(2−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビンPS」)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ジ−t−ペンチルフェノール(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン328」)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、α−[3−[3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]−1−オキソプロピル]−ω−ヒドロキシポリ(オキソ−1,2−エタンジイル)(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン1130」)等を挙げることができる。
【0033】
またベンゾトリアゾール系化合物としては、クロル基を有するものも挙げられる。このようなクロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物としては、具体的には、オクチル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン109」)、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(t−ブチル)フェノール(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン326」)、2,4−ジ−t−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン327」)等を挙げることができる。
【0034】
また、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソ−オクチルフェニル)−s−トリアジン等を挙げることができる。市販品としては、チバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「チヌビン400」(2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンと、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジンとの混合物)、「チヌビン411L」(2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソ−オクチルフェニル)−s−トリアジン)等を挙げることができる。
【0035】
さらにトリスレゾルシノールトリアジン系化合物としては、イソオクチル置換トリスレゾルシノールトリアジン(例えばチバ・スペシャルティ・ケミカル社製の商品名「CGL777」)、t−ブチル置換トリスレゾルシノールトリアジン、クミル置換トリスレゾルシノールトリアジン等を挙げることができる。
【0036】
また塗料組成物には必要に応じて有機溶剤が含有される。有機溶剤としては、キシレン、トルエン、ベンゼン、エチルベンゼン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系有機溶剤;エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール等のアルコール系有機溶剤などを挙げることができる。
【0037】
そして、好ましい実施形態においては、基層用の塗料組成物は、透光性樹脂と、より好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に含む透光性樹脂と、ベンゾトリアゾール系化合物及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも一種の紫外線吸収剤とを含有するものである。
【0038】
この実施形態のように、塗膜の基層を形成する透光性樹脂がその分子骨格中にベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を含むものであると、紫外線吸収剤の使用量を抑制して塗膜からの紫外線吸収剤のブリードアウトを抑制することができるものである。またこのベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に含む透光性樹脂は300〜405nmの波長域において高い紫外線吸収性を有するものであり、且つベンゾトリアゾール系化合物及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも一種の紫外線吸収剤を併用することから、更に高い紫外線吸収能が付与されると共に長波長の紫外線についても十分な吸収能を確保することができ、これにより、塗膜の基層は300〜380nmの波長域において優れた紫外線吸収能を有すると共に、370〜405nmの長波長紫外線についても十分に高い吸収能を有するものである。さらにベンゾトリアゾール系紫外線吸収基や、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物などの紫外線吸収剤は、405〜450nmの波長域における光の吸収性が低いものである。
【0039】
また、コート層において、分子骨格中にベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を含む透光性樹脂を使用することにより、コート層で300〜405nmの波長域において高い紫外線吸収性を有するうえに、コート層の膜厚を上記のように5〜70μmに調整することによって、基層からの紫外線吸収剤の塗膜表面への析出及び塗膜からの紫外線吸収剤の抜けを防止することができ、塗膜の耐久性及び耐光性を向上させることができるものである。
【0040】
そしてこのように基層及びコート層からなる塗膜は、300〜380nmの波長域において優れた紫外線吸収能を有すると共に、370〜405nmの長波長紫外線についても十分に高い吸収能を有するものであり、しかも405〜450nmの波長域における光の吸収性が低いものであることから、塗膜を透過する光には黄味が発生しないようになるものである。また、上記の紫外線吸収剤は基層に使用されている透光性樹脂と相溶性が良く、且つ樹脂骨格に含まれた紫外線吸収基の存在によって更に相溶性が向上しているので、紫外線吸収剤が安定化し、紫外線吸収剤の分解や塗膜中からの抜けが発生しにくくなっており、更に基層の上にコート層が設けられているために、所望の光学特性を保持した状態で塗膜の耐久性・耐光性がさらに優れたものになるものである。
【0041】
ここで、基層及びコート層の塗料組成物中における上記のベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に含む透光性樹脂において、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基の含有量は、透光性樹脂の樹脂固形分に対して0.5〜60質量%の範囲であることが好ましい。0.5質量%未満であると、紫外線吸収能を十分に得ることができなくなり、また60質量%を超えると、紫外線吸収剤が塗膜の表面に析出してしまうおそれがある。
【0042】
また紫外線吸収剤は、上記のようにベンゾトリアゾール系化合物とヒドロキシフェニルトリアジン系化合物とから選択されるものであって、このうち一種又は二種以上を用いることができるが、この基層用の塗料組成物において紫外線吸収剤の含有量は、透光性樹脂の固形分量に対して50〜400質量%の範囲であることが好ましい。50質量%未満であると、紫外線吸収能が十分でなくなり、また400質量%を超えると、製膜性が悪くなるおそれがある。
【0043】
さらに、必要に応じて基層用の塗料組成物やコート用の塗料組成物に含有される有機溶剤の含有量は適宜調整されるものであるが、好ましくは有機溶剤を除く塗料組成物全量に対して20〜100質量%の範囲とすることが好ましい。
【0044】
また、好ましい他の実施形態においては、基層用の塗料組成物は、透光性樹脂と、より好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に含む透光性樹脂と、クロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物及びトリスレゾルシノールトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種の紫外線吸収剤とを含有するものであり、コート層用の塗料組成物は、透光性樹脂、より好ましくはベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に含む透光性樹脂を含有するものである。
【0045】
本実施形態において、クロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物やトリスレゾルシノールトリアジン系化合物は、紫外線領域の広い波長領域において高い吸収能を有するものであり、このような紫外線吸収剤が、塗膜1cmに対して0.05〜10.00gの範囲で含有されることから、塗膜は300〜380nmの波長域において高い紫外線吸収能を有すると共に、370〜405nmの長波長の紫外線についても十分な吸収能を有することとなるものである。この紫外線吸収剤の含有量が0.05gに満たないと300〜405nmの波長域における紫外線光の吸収性が十分でなく、また10.00gを超えると黄味が発生したり、紫外線吸収剤が表面に析出してしまったりするおそれがある。
【0046】
またこの塗料組成物にて形成される塗膜中に含有されるクロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物とトリスレゾルシノールトリアジン系化合物は、405〜450nmの波長域の光の吸収性が低く、このためこの塗膜を透過する光には黄味が発生しないものである。またこれらの紫外線吸収剤と樹脂との相溶性が良く、紫外線吸収剤の分解や塗膜からの抜けが発生しにくいことから耐久性・耐光性に優れると共にブリードアウトが抑制される。
【0047】
また、上記の透光性樹脂は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を骨格に含むものであっても良く、またこれを骨格に含まないものであっても良い。ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を骨格に含むものを用いる場合には、塗膜の370〜405nmの波長域における紫外線吸収能が更に向上することが期待される。
【0048】
また、必要に応じて含有される有機溶剤の含有量は適宜調整されるものであるが、好ましくは有機溶剤を除く塗料組成物全量に対して20〜100質量%の範囲となるようにするものである。
【0049】
上記各実施形態における基層用の塗料組成物やコート層用の塗料組成物には、イソシアネートを含有させることができる。このようにイソシアネートを含有させることにより、塗料組成物の長期保存性や取扱性が向上するものである。
【0050】
イソシアネートとしては特に限定されるものではないが、エチルイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニルイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加ヘキサメチレンジイソシアネート、オクタデシルイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートジメチルジイソシアネート等や、その誘導体、変性品、及びイソシアネートの分岐密度を多くしたポリイソシアネートなどを挙げることができる。
【0051】
またイソシアネートとしては、ブロックドイソシアネートを用いることもできる。ブロックドイソシアネートは、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン2,4−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリメリックイソシアネート等のイソシアネート化合物に、フェノール類、第3級アルコール類、第2級アルコール類等のブロック化剤を反応させてポリイソシアネート化合物のイソシアネート基をブロック化したものである。
【0052】
ここで、イソシアネートの含有量は適宜調整されるものであるが、塗料組成物中における(水酸基の数):(イソシアネート基の数)の比率が1:0.5〜1:1.5の範囲となるように含有させることが好ましく、この範囲に満たないと透光性樹脂の硬化が不充分となって十分な耐久性が得られなくなるおそれがあり、またこの範囲を超える場合も、耐久性が不充分となるおそれがある。
【0053】
また、上記各実施形態における基層用の塗料組成物やコート層用の塗料組成物には、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタン及び酸化鉄から選択される少なくとも一種の無機微粒子を含有させることもできる。これらの無機微粒子は使用する種類及び含有量を調整することで塗膜に適宜の色を付与することができるものであり、且つこの無機微粒子は紫外線吸収能を有し、塗膜の紫外線吸収能を向上することができるものである。このとき、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化チタンを含有させると、特に300〜380nmの波長域における紫外線吸収能を向上することができ、また酸化鉄を含有させた場合には特に370〜405nmの波長域における紫外線吸収能を向上することができる。
【0054】
この無機微粒子の含有量は適宜調整されるが、塗膜1cm当り0.005〜0.5g/cmの範囲であることが好ましい。0.005g/cm未満であると、塗膜に色を付ける機能が不十分になるため可視光が透過しすぎる問題があり、また0.5g/cmを超えると可視光が透過しにくくなり、所望の光学特性を得ることができなくなる。
【0055】
また、上記各実施形態における基層用の塗料組成物やコート層用の塗料組成物には、シランカップリング剤を含有させるようにしても良い。この場合、基材表面に塗料組成物を塗布して塗膜を形成する際に、基材と塗膜との間の密着性を向上することができ、特にガラス基材上に塗膜を形成する際の密着性を大きく向上することができる。また塗膜の耐アルカリ性、耐煮沸性等を向上し、塗膜の耐久性を更に向上することが可能となる。シランカップリング剤としては適宜のものを用いることができるが、3官能シリコンアルコキシドを用いることが好ましく、例えばγ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0056】
このシランカップリング剤の含有量は適宜調整されるが、特に透光性樹脂の固形分に対する含有量が0.5〜20質量%の範囲となるようにすることが好ましく、この範囲に満たない場合には耐アルカリ性、耐煮沸性の向上が十分に得られず、またこの範囲を超えると塗膜の艶がなくなるなどの外観不良が発生するおそれがある。
【0057】
また、基層用の塗料組成物やコート層用の塗料組成物には、上記のような成分のほかに、必要に応じて顔料やその他の添加剤を含有させることもでき、例えばシリカ粉、セラミック粉、金属粉、有機色素、無機顔料、蛍光色素、光安定剤、酸化防止剤、チクソトロピー剤、レベリング剤、消泡剤、ハジキ防止剤等を含有させることができる。
【0058】
基層用の塗料組成物やコート層用の塗料組成物は、上記のような成分を配合し、攪拌混合することにより得ることができる。この場合、例えば基層用の塗料組成物の場合、まず透光性樹脂に必要に応じてブロックドイソシアネートや無機微粒子を加えたものに、紫外線吸収剤を加えながら攪拌混合して第一剤を調製し、一方、有機溶媒に必要に応じてシランカップリング剤を配合したものを攪拌混合して第二剤を調製し、この第一剤と第二剤を配合して攪拌混合することにより塗料組成物を得ることができる。
【0059】
本発明に係る塗膜付き基材は、図1に示すように、基層用の塗料組成物を基材の表面に塗布・硬化して基層1を形成し、さらにコート層用の塗料組成物を基層1の表面に塗布・硬化してコート層2を形成することによって、基層1とコート層2からなる塗膜3を基材4の表面に積層して作製されるものである。ここで、基層用の塗料組成物の硬化とは、基層用の塗料組成物を基材に塗布して、室温(20℃)〜200℃、より好ましくは50℃〜200℃の間の温度で硬化させることをいうものであり、コート層用の塗料組成物の硬化とは、基層用の塗料組成物を基層付きの基材に塗布して、室温(20℃)〜200℃、より好ましくは50℃〜200℃の間の温度で硬化させることをいうものである。
【0060】
基材としては適宜のものを用いることができるが、通常は透光性を有するものが用いられる。また反射部材等を形成する場合には不透明な基材が用いられる。
【0061】
例えば基材として照明器具の光源(ランプ)をカバーするガラス製や樹脂製のランプカバー(照明器具用カバー)などの透光部材を適用し、このランプカバーに対して着色やコーティングを行うために、上記の塗料組成物にて塗膜を形成することができる。この場合、光源から透光部材を透過して照射される光は、塗料組成物にて形成された塗膜を透過することから、300〜405nmの範囲の紫外線光が殆どカットされると共に、可視光は透過することとなり、このため紫外線により虫が誘引されることを防止することができるものである。またこの塗膜には黄味が発生しにくく、また紫外線吸収剤のブリードアウトも発生しにくく、更に高い耐久性や耐候性を備えるものである。
【0062】
本発明に係る塗膜付き基材の塗膜は、上記のように基層とコート層の2層構造となっており、塗膜を形成する場合の膜厚は基層においては2〜50μmの範囲が必要である。2μm未満であると所望の紫外線吸収能がでず、50μmをこえると製膜性が悪くなる問題点がある。またコート層の膜厚は5〜70μmの範囲が必要であり、5μm未満であれば基層に配合されている紫外線吸収剤の塗膜表面への析出を防止したり、紫外線吸収剤の塗膜からの抜けを防止したりするのに不充分であり、70μmをこえると製膜性が悪くなり、生産性が悪くなる問題点がある。
【0063】
また、基材としては、上記のようなランプカバーに限らないものであり、例えば外壁、タイル等;看板、指示板、ステッカー、窓ガラス、ディスプレイ等の各種ガラス板や樹脂板;金属板;各種ガラスもしくは樹脂フィルター、紫外線カットフィルター等;時計、ケース、ビーズ等のガラス製又は樹脂製の小物などを基材とし、これらのものに表面保護用コーティングを行ったり着色を行ったりするために、上記のような塗料組成物にて塗膜を形成することができる。
【0064】
また、本発明に係る照明器具は、上記のような塗料組成物が塗布された塗膜付き基材で作製された透光部材を備えるものである。
【0065】
照明器具の透光部材としては、シーリングライトや街路灯、エクステリア照明器具等における光源(ランプ)の周りを覆う、透明性樹脂や透明ガラス等で形成されるグローブ、フィルタ等のようなカバー(ランプカバー)を挙げることができる。また光源として直管状の蛍光灯を備える蛍光灯ランプの下面を覆うカバー、フィルター等を挙げることもできる。
【0066】
このような照明器具の透光部材に上記のような塗料組成物にて塗膜を形成すると、光源から発せられる光は透光部材を通過する際に塗料組成物の塗膜を通過し、これにより300〜405nmの範囲の紫外線がカットされて、虫が誘引されることを防止することができるものである。
【0067】
また、照明器具の透光部材としては、蛍光灯におけるガラス管や、水銀灯、メタルハライドランプ、電球等におけるガラス球などといった、光源(ランプ)の外郭を構成する透光部材もあり、このような透光部材に、上記のような塗料組成物の塗膜を形成するようにしても良い。このようにすると、光源から発せられる光は光源の外郭を通過する際に上記のような塗料組成物の塗膜を通過することで、300〜405nmの範囲の紫外線がカットされて、虫が誘引されることを防止することができるものである。このとき、光源の全体をカバーで覆わなくても光源から発せられる光の紫外線がカットされることから、光源が外部に露出するように照明器具を形成しても、虫の誘引を抑制することが可能となるものである。
【0068】
また、照明器具の反射部材に、上記の塗料組成物を塗布することも好ましい。すなわち、天井面に設置される蛍光灯ランプ等の照明器具における、蛍光灯等の光源の上面側を覆う反射板や、あるいは間接照明装置等における反射板などといった反射部材の表面に、塗料組成物を塗布するものである。このようにすると、光源から発せられた光が反射部材を反射する際に、300〜405nmの紫外線が塗料組成物の塗膜により吸収されることとなり、これにより、虫の誘引を抑制することが可能となるものである。
【実施例】
【0069】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0070】
(実施例1〜6及び比較例1〜3、参考例1〜2)
表1〜表4に記載の透光性樹脂、紫外線吸収剤、イソシアネートを300rpmで30min間撹拌することにより、基層用の第1剤を調整した。
【0071】
また表1〜表4記載の透光性樹脂、イソシアネートを300rpmで30min間撹拌することにより、コート層用の第1剤を調整した。
【0072】
さらに、キシレンを45質量部、n−ブタノールを50質量部、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシランを5質量部配合し、これを500rpmで5分間撹拌して、基層用及びコート層用の第2剤を調製した。
【0073】
そして、基層用の第1剤と第2剤とを2:1の質量比率で混合し、これをスクリュー攪拌機にて500rpmで10分間撹拌して、表1〜4に示す組成を有する基層用の塗料組成物を調製し、同様に、コート層用の第1剤と第2剤とを1:1の質量比率で混合し、これをスクリュー攪拌機にて500rpmで10分間撹拌して、表1〜4に示す組成を有するコート層用の塗料組成物を調製した。
【0074】
尚、表1〜4中の「UV−6010」は日本触媒社製のベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を骨格に含む透光性樹脂であり、「S−2818」は日本触媒社製の透光性樹脂であり、「チヌビン109」はチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のクロル基含有ベンゾトリアゾール系化合物(オクチル−3−[3−t−ブチル−4−ヒドロキシ5−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェニル]プロピオネート)であり、「CGL777」はチバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製のイソオクチル置換トリスレゾルシノールトリアジンであり、「BL3175」は住化バイエルウレタン社製のブロックドイソシアネートである。
【0075】
(透過率試験)
上記のように調製された基層用の塗料組成物を平板ガラスにスプレー塗布し、送風定温乾燥機内で180℃で30分間熱処理を施して基層を形成し、室温まで冷却した後、コート層用の塗料組成物を基層付きの平板ガラスにスプレー塗布し、送風定温乾燥機内で180℃で30分間熱処理してコート層を形成することによって、評価用サンプルとしての塗膜付き基材を得た。
【0076】
そして、実施例1〜5及び比較例1〜2、参考例1〜2の評価用サンプルについて、300〜800nmの波長域での透過率スペクトルを、UV−VIS分光光度計(島津製作所社製「UV3100−PC」)を用いて測定した。その結果を図2〜9に示す。また、実施例1〜6及び比較例1〜3、参考例1〜2の評価用サンプルについて、380nm及び405nmにおける評価用サンプルの透過率を、表1〜4に示す。
【0077】
(誘虫性評価)
松下電器産業株式会社製の13Wコンパクト型蛍光灯の周りを、厚み2mmの透明ガラス製のグローブで覆うようにしたものについて、グローブに各実施例及び各比較例における基層用の塗料組成物とコート層用の塗料組成物を上記と同様にしてスプレー塗布して、送風定温乾燥機内で180℃で30分間熱処理を施すことで、塗膜を形成した。またこの照明器具に、表面に粘着剤を塗布した50×300mmの粘着トラップを取り付けた。
【0078】
このように形成された照明器具を、10m四方の部屋の中に配置すると共に、この部屋の中に、ハエ、コナガの二種類の虫をそれぞれ入れ、光源を発光させて1時間放置した。そして、粘着トラップに捕集された虫の数を数え、比較例1における捕集された虫の数を100として、これを基準にして評価を行った。
【0079】
(耐久性評価)
耐熱性試験A:透過率試験の場合と同様に形成した評価用サンプルを、恒温槽内で105℃の条件で1ヶ月間放置した後、水を含んだ布で数回拭いた後の外観の変化を、目視で観察した。
【0080】
耐候性試験B:透過率試験の場合と同様に形成した評価用サンプルを、水銀灯(松下電器産業株式会社製、400W水銀灯)から15cmの位置に配置して、この状態で水銀灯を発光させ、1ヶ月後及び3ヶ月後における外観の変化を、目視にて観察した。
【0081】
耐煮沸性試験C:透過率試験の場合と同様に形成した評価用サンプルを、沸騰水中に2時間浸漬した後の外観の変化を、目視にて観察した。
【0082】
以上の試験A〜Cについて、下記の基準で評価を行なった。
◎…外観視変化無し
○…外観に若干の変化有り
×…外観に著しい変化有り(剥離、極端な傷、変色、表面へのブリードアウトの発生等)
(タック性評価)
上記の透過率試験評価用サンプルの膜に指紋をつけ、布で拭き取った際に指紋跡が残るか否かを目視確認し、下記の基準で評価を行なった。
○…布で拭き取った際に指紋が残らない
×…布で拭き取っても指紋跡が残る
尚、各表における塗膜1cm当りの紫外線吸収剤量は、次のようにして算出された値である。まず、上記の透過率試験評価用サンプルを作製する際に、平板ガラス基材の質量、塗膜付きガラス基材の質量を電子天秤を用いて測定し、その質量差をとることによって塗膜の質量を算出する。次に、塗膜の膜厚を触針式膜厚計で測定し、ガラス基材の面積と膜厚から塗膜の体積を算出し、塗膜の重量と体積から塗膜の密度を算出する。一方、基層用の塗料組成物の配合と塗布量から、熱処理後に塗膜付きガラス基材の基層に固形分として残る透光性樹脂、紫外線吸収剤、イソシアネートの質量を算出し、またコート層用の塗料組成物の配合と塗布量から、熱処理後に塗膜付きガラス基材のコート層に固形分として残る透光性樹脂、イソシアネートの質量を算出し、塗膜中の紫外線吸収剤の質量を求める。そして、このようにして得られた、塗膜の密度、塗膜中の紫外線吸収剤の質量、塗膜の基層の固形分(透光性樹脂、紫外線吸収剤、イソシアネート)の質量、塗膜のコート層の固形分(透光性樹脂、イソシアネート)の質量から、次の式で塗膜1cm当りの紫外線吸収剤量を算出することができる。
【0083】
塗膜1cm当りの紫外線吸収剤量(g/cm)=塗膜の密度(g/cm)×塗膜中の紫外線吸収剤の質量(g)/{基層の固形分の質量(g)+コート層の固形分の質量(g)}
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
上記の結果から明らかなように、実施例1〜6、比較例1〜2では300〜405nmの波長領域において紫外線光が殆ど吸収されると共に、可視光の透過性が高いのに対して、比較例3〜5では300〜405nmの波長領域における紫外線光の吸収が十分ではなかった。
【0089】
また実施例1〜6と比較例1〜2を比較すると、比較例1〜2はコート層が形成されていないため、基層の紫外線吸収剤を保護できず、基層の樹脂種によらず、コート層形成後も塗膜表面にベタツキが発生し、タック性が悪くなっている。
【0090】
また、実施例1〜6と参考例1〜2を比較すると、参考例1〜2は実施例1〜6に比べて基層に配合される紫外線吸収剤量が極めて少なく、結果として300〜405nmの範囲における紫外光の吸収性が十分でないことがわかる。また比較例3のようにコート層のみを基材に設けても紫外光の吸収性能が殆どないことがわかる。
【0091】
更に、各比較例に較べて、各実施例のものでは誘虫性が低く、且つ耐久性の高いもので
あることが確認された。
【0092】
(実施例7〜8)
表5に記載の透光性樹脂、紫外線吸収剤、無機微粒子、イソシアネートを300rpmで30min間撹拌することにより、基層用の第1剤を調整した。尚、表5中の「UTCO−501ホワイト」は大日本精化工業社製の酸化チタン・キシレン分散液である。
【0093】
またコート層用の第1剤、基層用及びコート層用の第2剤は表5の組成で、上記と同様にして調製し、さらに上記と同様にして基層用の塗料組成物とコート層用の塗料組成物を調製した。
【0094】
後は、上記と同様に透過率、誘虫性、耐久性、タック性を評価し、これらの結果を図10、図11及び表5に示す。
【0095】
【表5】

【0096】
実施例7及び実施例8の結果にみられるように、無機微粒子の配合によって紫外線吸収が向上していることが確認される。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】塗膜付き基材の断面図である。
【図2】実施例1における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図3】実施例2における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図4】実施例3における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図5】実施例4における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図6】実施例5における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図7】比較例1における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図8】比較例2における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図9】参考例1、2における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図10】実施例7における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【図11】実施例8における300〜800nmの波長域での透過率スペクトルの測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0098】
1 基層
2 コート層
3 塗膜
4 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、バインダーとなる透光性樹脂に紫外線吸収剤を分散して得られた基層と、透光性樹脂から形成され基層の外側に積層されるコート層とを備える塗膜を設けて成ることを特徴とする塗膜付き基材。
【請求項2】
基層のバインダーとなる透光性樹脂が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に有するものであることを特徴とする請求項1に記載の塗膜付き基材。
【請求項3】
基層中に分散して含まれる紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系化合物及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜付き基材。
【請求項4】
基層中に分散して含まれる紫外線吸収剤が、クロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物及びトリスレゾルシノールトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜付き基材。
【請求項5】
基層中に分散される紫外線吸収剤の含有量が、塗膜1cm当り0.05〜10.0gの範囲になるように設定することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗膜付き基材。
【請求項6】
コート層を形成する透光性樹脂が、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に有するものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の塗膜付き基材。
【請求項7】
上記透光性樹脂が、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、オレフィン樹脂、及びこれらを主成分とするアロイ材料から選ばれる少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の塗膜付き基材。
【請求項8】
基層とコート層の少なくとも一方に、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム及び酸化鉄から選択される少なくとも一種の無機微粒子を含有することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の塗膜付き基材。
【請求項9】
無機微粒子の含有量が、塗膜1cm当り0.005〜0.5gの範囲になるように設定することを特徴とする請求項8に記載の塗膜付き基材。
【請求項10】
基層の膜厚が2〜50μmであり、コート層の膜厚が5〜70μmであることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の塗膜付き基材。
【請求項11】
バインダーとなる透光性樹脂とイソシアネートと紫外線吸収剤を含有する基層用の塗料組成物を基材の上に塗布・硬化することによって基層を作製し、透光性樹脂とイソシアネートを含有するコート層用の塗料組成物を基層の上に塗布・硬化してコート層を作製することによって、基層とコート層を有する塗膜を基材の表面に積層することを特徴とする塗膜付き基材の製造方法。
【請求項12】
基層用の塗料組成物の透光性樹脂は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に有するものであることを特徴とする請求項11に記載の塗膜付き基材の製造方法。
【請求項13】
基層用の塗料組成物の紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項11又は12に記載の塗膜付き基材の製造方法。
【請求項14】
基層用の塗料組成物の紫外線吸収剤は、クロル基を有するベンゾトリアゾール系化合物及びトリスレゾルシノールトリアジン系化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項11又は12に記載の塗膜付き基材の製造方法。
【請求項15】
基層用の塗料組成物中の紫外線吸収剤の含有量が、塗膜1cm当り0.05〜10.0gの範囲であることを特徴とする請求項11乃至14のいずれかに記載の塗膜付き基材の製造方法。
【請求項16】
コート層用の樹脂組成物の透光性樹脂は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収基を分子骨格に有するものであることを特徴とする請求項11乃至15のいずれかに記載の塗膜付き基材の製造方法。
【請求項17】
基層用の塗料組成物とコート層用の樹脂組成物の少なくとも一方に、シランカップリング剤を含有することを特徴とする請求項11乃至16のいずれかに記載の塗膜付き基材の製造方法。
【請求項18】
請求項1乃至10のいずれかに記載の塗膜付き基材を用いて作製した透光部材を具備して成ることを特徴とする照明器具。
【請求項19】
請求項1乃至10のいずれかに記載の塗膜付き基材を用いて作製した透光部材を外郭として備える光源を具備して成ることを特徴とする照明器具。
【請求項20】
請求項1乃至10のいずれかに記載の塗膜付き基材を用いて作製した反射部材を具備して成ることを特徴とする照明器具。
【請求項21】
請求項1乃至10のいずれかに記載の塗膜付き基材を用いて作製した透光部材を外郭として備えて成ることを特徴とするランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−335041(P2006−335041A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−165935(P2005−165935)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】