説明

増幅器

常に信号の増幅動作を行うキャリア増幅器と、高電力出力時のみに動作するピーク増幅器と、キャリア増幅器とピーク増幅器の出力を合成して出力する合成器と、入力信号をキャリア増幅器側とピーク増幅器側に分配する分配器とを含んで構成される。キャリア増幅器およびピーク増幅器は1個のパッケージ1(1パッケージトランジスタ)に内蔵される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は増幅器に関し、特に、線形増幅器と非線形増幅器とを併用して増幅を行う増幅器に関する。
【背景技術】
無線通信システムに利用される電力増幅器には線形性と高効率が要求されている。特に、最近の多値デジタル変調通信システム等では信号振幅の平均値と最大振幅が大きく異なる信号を取り扱うことが多い。従来の電力増幅器でこのような信号を増幅する場合には、増幅器は信号を歪ませずに最大振幅まで増幅できるような動作点に設定される。このため、比較的高効率を維持できる飽和出力付近で動作している時間がほとんどなく、一般的に増幅器の効率は低かった。
この問題を解決するために、線形性を維持しながら増幅器の効率を高めるさまざまな技術が開発されてきた。その一つにドハティ増幅器がある。ドハティ増幅器の基本的な構成は当業者にはすでに公知となっている(W.H.ドハティ(W.H.Doherty)著、″A New High Efficiency Power Amplifier for Modulated Waves″,1936 Proc.of IRE,Vol.24,No.9,pp1163−1182及びスティーブ・C・クリップス(Steve C.Cripps)著、″Advanced Techniques in RF Power Amplifiers″,Artech House 2002,pp33−56参照)。
また、後述する拡張型ドハティ増幅器も公知である(Youngoo Yang,Jeonghyeon Cha,Bumjae Shin and Bumman Kim著、″A Fully Matched N−way Doherty Amplifier With Optimized Linearty″,IEEE Trans.MTT,Vol.51,No.3,March 2003参照)。
ドハティ増幅器では、飽和出力電力近傍で飽和を維持しながら動作する増幅器を有することにより、飽和電力からバックオフをとった出力時においても、通常のA級、AB級増幅器より高い効率が実現されている。
図4は従来のドハティ増幅器の一例の構成図である。
同図は特表平10−513631号公報(要約、第6図参照)記載の増幅器を簡略化して記載したものである。
同図を参照すると、従来のドハティ増幅器は、常に信号の増幅動作を行うキャリア増幅器21と、高電力出力時のみに動作するピーク増幅器22(「補助増幅器」と呼ばれることもあるが、本発明では「ピーク増幅器」で統一する)と、キャリア増幅器21とピーク増幅器22の出力を合成して出力する合成器23と、入力信号をキャリア増幅器21側とピーク増幅器22側に分配する分配器24とを有する。また、キャリア増幅器21は1個のパッケージ25に内蔵され、ピーク増幅器22はこれとは異なる1個のパッケージ26に内蔵されている。
キャリア増幅器21には、通常AB級やB級にバイアスされた増幅器が用いられる。また、ピーク増幅器22は信号電力が高出力時にのみ動作するよう、通常はC級にバイアスされて使用される。キャリア増幅器21とピーク増幅器22の出力を結合する合成器23は、トランスやインピーダンス変換器等で構成されており、マイクロ波帯等の信号を扱う場合には通常1/4波長の伝送線路から構成される。入力の分配器24は、ピーク増幅器22とキャリア増幅器21の出力信号の位相関係を合成器23の信号合成点で同相で合成されるようにするための1/4波長の伝送線路や90°ハイブリッド回路などから構成される。
前述したように、このようなドハティ増幅器の構成要素であるキャリア増幅器21とピーク増幅器22は、これまでそれぞれ別個にパッケージされた増幅素子(1パッケージトランジスタ)を用いて構成されていた。
一例として,キャリア増幅器21およびピーク増幅器22にそれぞれMRF183(モトローラインコーポレイテッド社の電界効果トランジスタ)というMOS型FET半導体素子を2個用いて構成されていた。
このような構成では、各増幅器は別々のパッケージに納められたトランジスタを使用しているため、2パッケージ分のトランジスタの実装面積が必要であり、装置の小型化を進める上では不利であった。
また、2個の増幅器が別個に配置されるため、各増幅器出力から信号合成点に至る伝送線路長が長くなり、伝送損失が増加し、増幅器全体の効率を低下させる要因となっていた。また,装置の低コスト化にも不利な構成となっていた。
また、プッシュプル増幅器あるいはバランス増幅器として構成されたA級、AB級、B級等の線形増幅器では、前述のように電力増幅器で比較的高効率を維持できる飽和出力付近で動作している時間がほとんどない。このため、一般的に効率が低く、より高効率で動作する電力増幅器が要求されていた。
そこで、本発明の目的は、装置の小型化、伝送損失の低減および高効率化を図ることが可能な増幅器を提供することにある。
【発明の開示】
前記課題を解決するために、本発明は、入力信号を二分配する分配器と、前記分配器からの一方の信号が入力される1個または複数個の線形増幅器と、前記分配器からの他方の信号が入力される1個または複数個の非線形増幅器と、前記線形増幅器および前記非線形増幅器からの出力信号を合成する合成器とを含む増幅器であって、1個のパッケージに内蔵された複数個のトランジスタのうち、所定個のトランジスタの各々を前記線形増幅器として用い、他のトランジスタの各々を前記非線形増幅器として用いることを特徴とする。
従来より、プッシュプル増幅器用あるいはバランス増幅器用のトランジスタを2個内蔵したパッケージが存在したが、本発明ではこのパッケージの一方のトランジスタを線形増幅器(キャリア増幅器)として動作させ、他方のトランジスタを非線形増幅器(ピーク増幅器)として動作させることにより、1パッケージ構成のドハティ増幅器を実現する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明に係る増幅器の一例の構成図である。
図2は、電界効果トランジスタ(MRF5P21180)の外観図である。
図3は、電界効果トランジスタ(MRF21090)の外観図である。
図4は、従来のドハティ増幅器の一例の構成図である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る増幅器の一例の構成図である。
同図を参照すると、本発明に係る増幅器は、常に信号の増幅動作を行うキャリア増幅器21と、高電力出力時のみに動作するピーク増幅器22と、キャリア増幅器21とピーク増幅器22の出力を合成して出力する合成器23と、入力信号をキャリア増幅器21側とピーク増幅器22側に分配する分配器24とを有する。また、キャリア増幅器21およびピーク増幅器22は1個のパッケージ1(1パッケージトランジスタ)に内蔵されている。この増幅器は入力端から入力された被増幅信号を所望の電力まで増幅する。
キャリア増幅器21には、通常、AB級やB級にバイアスされた増幅器が用いられる。また、ピーク増幅器22は信号電力が高出力時にのみ動作するよう、通常はC級にバイアスされて使用される。キャリア増幅器21とピーク増幅器22の出力を結合する合成器23は、トランスやインピーダンス変換器等で構成されており、マイクロ波帯等の信号を扱う場合には通常1/4波長の伝送線路から構成される。入力の分配器24は、ピーク増幅器22とキャリア増幅器21の出力信号の位相関係を合成器23の信号合成点で同相で合成されるようにするための1/4波長の伝送線路や90°ハイブリッド回路などから構成される。
なお、図1ではトランジスタとして電界効果トランジスタの記号を記載しているが、もちろんこれに限られるものではなく、バイポーラトランジスタ等他の同等機能の素子で構成できる。また、上記実施例中の分配器24や合成器23等の他の実施形線例も良く知られており、また直接本発明とは関連がないためそれらの詳細な説明については省略する。
従来のドハティ増幅器におけるキャリア増幅器とピーク増幅器は、それぞれ別個のパッケージのトランジスタから構成されていた。一方、本発明によれば1つのパッケージのトランジスタで同等の増幅器を構成できるため、同等の飽和出力を有するドハティ増幅器を構成した場合に実装面積の小型化や低コスト化が達成できるという効果を有する。
また、ドハティ増幅器は、よく知られているように、通常のA級、AB級などの線形増幅器と比較して高い効率が得られるという効果がある。このため、同じトランジスタを用いて、A級、AB級、B級等の線形増幅器をプッシュプル増幅器あるいはバランス増幅器を構成した場合と本発明のドハティ増幅器とを比較すると、同等の性能で大型化することなく、高い効率の増幅器が得られるという効果も有する。
次に、本発明の実施例の動作について、具体的な例を用いて説明する。
ここでは、一例として2GHz帯で飽和出力180Wの増幅器を一般的なドハティ増幅器で構成することを考える。従来の構成では、キャリア増幅器、ピーク増幅器にそれぞれ同じ出力の素子を使用するのが一般的で、すなわち各増幅器の出力を90Wとし、ドハティ増幅器として180Wの出力を得るという構成となる。
この場合において、具体的な90W出力のトランジスタとしてはモトローラインコーポレイテッド社のMRF21090という1パッケージに1個の電界効果トランジスタが納められた素子を望ましい素子として選択するとする。これは発明者の知る限りにおいては本願発明の時点で同出力のトランジスタの中でもかなり小型化されている製品の一つである。
図2は電界効果トランジスタ(MRF5P21180)の外観図、図3は電界効果トランジスタ(MRF21090)の外観図である。
図2にはパッケージ(フランジ)11に2個のゲート電極12a、12bと2個のドレイン電極13a、13bを有する電界効果トランジスタが示されている。図3にはパッケージ(フランジ)14に1個のゲート電極15と1個のドレイン電極16を有する電界効果トランジスタが示されている。
図3に示す電界効果トランジスタ(MRF21090)の電極部を除いた外形寸法は、1個あたり約34mmx13.8mmであり、トランジスタ部の実装面積としては最低この寸法の2個分、約9.4平方センチメートルが必要である。
一方、本発明にしたがって、180Wのドハティ増幅器を1パッケージの電界効果トランジスタで構成する場合を考える。プッシュプル用として1パッケージに2個のトランジスタを内蔵した180W出力のデバイスとして、同じくモトローラインコーポレイテッド社のMRF5P21180というトランジスタを採用したとする(図2参照)。
この場合、同図に示すように、トランジスタの電極部を除いた外形寸法は約41mmx10mmであり、実装面積としては約4.1平方センチメートルとなる。トランジスタ部だけの比較でも、従来構成と比較して面積43%以下と小型化したドハティ増幅器を構成することが可能であり、周辺回路等々を含めても従来構成よりもほぼ半分の面積に小型化することができる。
このように、回路実装面積を小型化することができるため、特にキャリア増幅器とピーク増幅器の出力を合成する回路の線路長を短く構成することができる。すなわち、信号の伝送損失を低減でき、結果としてドハティ増幅器としての効率を向上させることができる。
例えば、上記具体例で増幅器の面積をほぼ半分で構成した場合、伝送線路長は

ることができる。たとえば、上記の具体例の場合、2GHz帯で20mm程度の線路長を短縮することがでる。これは一般的なガラスエポキシ基板での伝送損失で0.1dB程度(2%)低減に相当し、特に増幅器出力で180Wの電力を得ようとした場合に4W程度の損失を低減することができる。
また、同じ180Wの増幅器をA級、B級等の一般的なプッシュプル型やバランス型線形増幅器で構成した場合と比較しても、本発明では同じ素子をドハティ増幅器として使用しているために、増幅器の効率を大幅に改善することが可能である。
次に、他の実施例について説明する。
本発明の他の実施例として、その基本的構成は上記の通りであるが、一つのパッケージにさらに3つ以上の複数のトランジスタを納めた素子を使用して、ピーク増幅器とキャリア増幅器の電力分配比が均等でないいわゆる拡張型ドハティ増幅器を構成することも可能である。拡張型ドハティ増幅器の構成方法の一例としては、前述の文献(Youngoo Yang)などに、キャリア増幅器とピーク増幅器で合計N個の増幅器から構成されるドハティ増幅器について記載されている。このような拡張型ドハティ増幅器にも本発明を容易に適用できることはいうまでもない。更に、ピーク増幅器やキャリア増幅器が多段の増幅器から構成されたドハティ増幅器などの変形例にも本発明を容易に適用できることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
本発明によれば、キャリア増幅器とピーク増幅器を1パッケージのトランジスタで構成しているので、ドハティ増幅器を小型に構成できる。
また、キャリア増幅器とピーク増幅器を1パッケージのトランジスタで構成して小型化しているので、キャリア増幅器とピーク増幅器の出力を合成する回路の伝送損失を低減でき、増幅器としての効率が向上する。
さらに、ドハティ増幅器を1パッケージのトランジスタで構成しているので、従来のA級、AB級などの増幅器を同じ1パッケージのトランジスタで構成する場合に比較して、高効率化できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を二分配する分配器と、前記分配器からの一方の信号が入力される1個または複数個の線形増幅器と、前記分配器からの他方の信号が入力される1個または複数個の非線形増幅器と、前記線形増幅器および前記非線形増幅器からの出力信号を合成する合成器とを含む増幅器であって、
1個のパッケージに内蔵された複数個のトランジスタのうち、所定個のトランジスタの各々を前記線形増幅器として用い、他のトランジスタの各々を前記非線形増幅器として用いることを特徴とする増幅器。
【請求項2】
前記線形増幅器はキャリア増幅器であり、前記非線形増幅器はピーク増幅器であることを特徴とする請求項1記載の増幅器。
【請求項3】
前記線形増幅器および前記非線形増幅器は各々1個で構成され、1個のパッケージに内蔵された2個のトランジスタのうち、一方のトランジスタを前記線形増幅器として用い、他方を前記非線形増幅器として用いることを特徴とする請求項1または2記載の増幅器。
【請求項4】
前記1個のパッケージに内蔵されたトランジスタはプッシュプル増幅器用あるいはバランス増幅器用であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の増幅器。
【請求項5】
前記分配器は前記線形増幅器と非線形増幅器との位相関係を、前記合成器の信号合成点で同相で合成されるようにするためのものであることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の増幅器。
【請求項6】
前記分配器は1/4波長伝送線路または90°ハイブリッド回路で構成されることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の増幅器。
【請求項7】
前記合成器はトランス、インピーダンス変換器、1/4波長伝送線路のいずれかで構成されることを特徴とする請求項1から6いずれかに記載の増幅器。
【請求項8】
ドハティ増幅器であることを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の増幅器。

【国際公開番号】WO2005/029695
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−514134(P2005−514134)
【国際出願番号】PCT/JP2004/014038
【国際出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】