説明

増幅回路、ヘッド駆動回路、及び、液体噴射装置

【課題】増幅される波形の精度を高めつつ省電力を図ること。
【解決手段】入力信号を増幅信号に増幅する増幅回路であって、前記入力信号と前記増幅信号との差分に応じて密度変調した密度変調パルスを出力するパルス密度変調部と、前記密度変調パルスの出力を前記差分に応じて遅延させる遅延回路と、前記増幅のための電力を供給する電力供給部と、前記遅延回路から出力されたパルスに応じて、前記電力供給部からの電力供給のスイッチを切り替えて前記増幅信号を出力するスイッチ部と、を備える増幅回路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、省電力化を実現する増幅回路、ヘッド駆動回路、及び、液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力信号に応じた電力増幅の手法として、バイポーラトランジスタのプッシュプル接続で増幅する方法が知られている。バイポーラトランジスタは、一般に、消費される電力が大きいことから、近年ではD級アンプを用いて電力増幅する手法も考えられている。
特許文献1には、D級アンプを用いた電力増幅の手法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−114711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルス密度変調を採用したD級アンプにおいてスイッチングデバイスを理想状態とした場合、スイッチングデバイスで消費される電力はゼロである。しかしながら、実際のスイッチングデバイスでは電力が消費され、スイッチング周波数が高くなると消費電力が高くなるという問題がある。一方、スイッチング周波数が低いと入力信号に対する増幅信号の追従性が悪化する。
【0005】
特に、このような増幅装置をインクジェットプリンターに適用した場合、入力信号に対する増幅信号の追従性が悪化した場合、噴射される液体量が所望の量にならないなどの問題を生ずる。よって、増幅される波形の精度を高めつつ省電力を図ることが望ましい。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、増幅される波形の精度を高めつつ省電力を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための主たる発明は、
入力信号を増幅信号に増幅する増幅回路であって、
前記入力信号と前記増幅信号との差分に応じて密度変調された密度変調パルスを出力するパルス密度変調部と、
前記密度変調パルスの出力を前記差分に応じて遅延させる遅延回路と、
前記増幅のための電源を供給する電源供給部と、
前記遅延回路から出力されたパルスに応じて、前記電源供給部からの電源の供給のオンオフを切り替えて前記増幅信号を出力するスイッチ部と、
を備える増幅回路である。
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載により明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態におけるインクジェットプリンター1の斜視図である。
【図2】本実施形態におけるインクジェットプリンター1の内部側面図である。
【図3】ヘッドHDの構造を説明する図である。
【図4】本実施形態における増幅回路の説明図である。
【図5】パルス密度変調の説明図である。
【図6】遅延回路112における遅延時間を変化させたときの増幅回路100の自励発信周波数の説明図である。
【図7】遅延時間tdを20nsとしたときにおける駆動波形の説明図である。
【図8】遅延時間tdを40nsとしたときにおける駆動波形の説明図である。
【図9】入力信号VDACに応じて自励発信周波数fを変更することの説明図である。
【図10】本実施形態において改善された増幅信号の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。すなわち、
入力信号を増幅信号に増幅する増幅回路であって、
前記入力信号と前記増幅信号との差分に応じて密度変調した密度変調パルスを出力するパルス密度変調部と、
前記密度変調パルスの出力を前記差分に応じて遅延させる遅延回路と、
前記増幅のための電力を供給する電力供給部と、
前記遅延回路から出力されたパルスに応じて、前記電力供給部からの電力供給のスイッチを切り替えて前記増幅信号を出力するスイッチ部と、
を備える増幅回路である。
【0010】
このようにすることで、入力信号と増幅信号との差分に応じて、密度変調パルスの出力を遅延させることができるので、例えば、入力信号に急峻な波形の変化がないときには遅延時間を大きくすることで自励発信周波数を低くすることができる。一方、入力信号に急峻な波形の変化があったときには遅延時間を小さくすることで自励発信周波数を高くすることができる。これにより、急峻な波形の変化があるときには自励発信周波数を高く維持して入力信号に対する追従性を確保することができ、急峻な波形の変化がないときには自励発信周波数を低く抑えてスイッチ部における電力消費を小さくすることができる。つまり、増幅される波形の精度を高めつつ省電力を図ることができる。
【0011】
かかる増幅回路であって、前記遅延回路は、前記差分が第1差分のときにおいて前記密度変調パルスの出力を第1遅延量遅延させ、前記差分が前記第1差分よりも大きい第2差分のときにおいて前記密度変調パルスの出力を前記第1遅延量より小さい第2遅延量遅延させることが望ましい。
このようにすることで、入力信号に急峻な波形の変化があったときには差分が大きくなることから遅延時間を小さくして自励発信周波数を高くすることができる一方、急峻な波形の変化がないときには遅延時間を大きくして自励発信周波数を低く抑えることができる。
【0012】
また、前記スイッチ部は、MOSFETと前記MOSFETを駆動するゲートドライバーとを備えることが望ましい。
このようにすることで、出力された密度変調パルスに応じてスイッチ部を駆動して増幅信号を出力することができる。
【0013】
また、前記スイッチ部の出力にローパスフィルターが設けられ、該ローパスフィルターから前記増幅信号が出力されることが望ましい。
このようにすることで、増幅信号のうち必要な成分のみを増幅信号として出力することができる。
【0014】
また、さらに、前記遅延回路は、前記密度変調パルスの出力を前記入力信号に応じて遅延させることが望ましい。
このようにすることで、パルス密度変調において自励発信周波数が高くなる傾向にある電圧付近の周波数を低く抑えることができるようになる。
【0015】
また、前記遅延回路は、前記入力信号の中間電圧における遅延時間を、前記入力信号の最高電圧における遅延時間及び前記入力信号の最低電圧における遅延時間よりも大きくすることが望ましい。
このようにすることで、パルス密度変調において自励発信周波数が高くなる傾向にある中間電圧付近において周波数を抑えてスイッチ部における消費電力を低く抑えることができる。
【0016】
また、本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項も明らかとなる。すなわち、
入力信号を増幅信号に増幅し、該増幅信号に応じて液体を噴射させるヘッド駆動回路であって、
前記入力信号と前記増幅信号との差分に応じて密度変調した密度変調パルスを出力するパルス密度変調部と、
前記密度変調パルスの出力を前記差分に応じて遅延させる遅延回路と、
前記増幅のための電力を供給する電力供給部と、
前記遅延回路から出力されたパルスに応じて、前記電力供給部からの電力供給のスイッチを切り替えて前記増幅信号を出力するスイッチ部と、
前記増幅信号に応じて駆動され、前記液体を噴射させる駆動素子と、
を備えるヘッド駆動回路である。
【0017】
このようにすることで、入力信号と増幅信号との差分に応じて、密度変調パルスの出力を遅延させることができるので、例えば、入力信号に急峻な波形の変化がないときには遅延時間を大きくすることで自励発信周波数を低くすることができる。一方、入力信号に急峻な波形の変化があったときには遅延時間を小さくすることで自励発信周波数を高くすることができる。これにより、急峻な波形の変化があるときには自励発信周波数を高く維持して入力信号に対する追従性を確保することができ、急峻な波形の変化がないときには自励発信周波数を低く抑えてスイッチ部における電力消費を小さくすることができる。つまり、増幅される波形の精度を高めつつ省電力を図ることができる。
【0018】
また、本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項も明らかとなる。すなわち、
入力信号を増幅信号に増幅し、該増幅信号に応じて液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記入力信号と前記増幅信号との差分に応じて密度変調した密度変調パルスを出力するパルス密度変調部と、
前記密度変調パルスの出力を前記差分に応じて遅延させる遅延回路と、
前記増幅のための電力を供給する電力供給部と、
前記遅延回路から出力されたパルスに応じて、前記電力供給部からの電力供給のスイッチを切り替えて前記増幅信号を出力するスイッチ部と、
前記増幅信号に応じて駆動される駆動素子と前記液体を噴射するノズルとを有するヘッドと、
を備える液体噴射装置である。
【0019】
このようにすることで、入力信号と増幅信号との差分に応じて、密度変調パルスの出力を遅延させることができるので、例えば、入力信号に急峻な波形の変化がないときには遅延時間を大きくすることで自励発信周波数を低くすることができる。一方、入力信号に急峻な波形の変化があったときには遅延時間を小さくすることで自励発信周波数を高くすることができる。これにより、急峻な波形の変化があるときには自励発信周波数を高く維持して入力信号に対する追従性を確保することができ、急峻な波形の変化がないときには自励発信周波数を低く抑えてスイッチ部における電力消費を小さくすることができる。つまり、増幅される波形の精度を高めつつ省電力を図ることができる。
【0020】
===実施形態===
図1は、本実施形態におけるインクジェットプリンター1の斜視図である。図2は、本実施形態におけるインクジェットプリンター1の内部側面図である。このインクジェットプリンター1は、長手方向が水平に配置された記録部40を備える。
【0021】
記録部40は、トップカバー42およびフロントカバー44によりその内部機構が覆われている。記録部40の内部にはヘッドHDを含むヘッドユニットHD等が配置され、装填部10のロールRからから引き出されて記録部40に給送された媒体に対してインクが噴射され、画像が形成される。記録部40において画像を形成された媒体は、記録部40の下方に形成された排出部60から外部に排出される。
【0022】
図3は、ヘッドHDの構造を説明する図である。図には、ノズルNz、ピエゾ素子PZT、インク供給路402、ノズル連通路404、及び、弾性板406が示されている。
【0023】
インク供給路402には、不図示のインクタンクからインクが供給される。そして、これらのインク等は、ノズル連通路404に供給される。ピエゾ素子PZTには、後述する駆動信号(後述する入力信号VDACの増幅信号に対応する)が印加される。駆動信号が印加されると、その電圧に従ってピエゾ素子PZTが伸縮し、弾性板406を振動させる。そして、駆動パルスの振幅に対応する量のインク滴がノズルNzから吐出されるようになっている。
【0024】
ところで、ピエゾ素子PZTの総数は数千にものぼる。駆動信号は入力信号が増幅され生成される。電力増幅はバイポーラトランジスタを用いることも考えられるが、その場合、電力損失が大きく効率は30%〜40%程度にとどまる。従って、60〜70%は熱として消費されてしまう。そうすると、放熱のためにヒートシンク及びファンが必要となり、大型化し、コストも増大する。したがって、増幅回路の省電力化が望まれ、特に図1及び図2に示されるような大判のインクジェット式プリンターでは、駆動するピエゾ素子の数も多いため、さらなる省電力化が求められている。
本実施形態では、以下のような増幅回路を用いて省電力化を図っている。
【0025】
図4は、本実施形態における増幅回路の説明図である。図には、増幅回路100とヘッドユニットHDUが示されている。本実施形態における増幅回路100は、D級アンプの動作を利用しつつも、後述する遅延回路112を導入することにより消費電力の減少を図る。なお、本実施形態で用いられるD級アンプでは、4〜5MHzの変調周波数が用いられる。
【0026】
増幅回路100は、電圧比較器110と、第1分岐点111と、遅延回路112と、ゲートドライバー114と、2つのパワーMOSFET116A、116Bと、第2分岐点117と、ローパスフィルターLPFと、アッテネーター118と、第3分岐点119と、加算器120を含む。
【0027】
デジタル−アナログ変換された電圧信号が入力信号VDACとして増幅回路100に入力される。入力信号VDACの端子は、第3分岐点119において2系統に分岐され、一方は遅延回路112に接続し、他方は加算器120に接続される。
【0028】
加算器120には、アッテネーター118の出力端が接続される。そして、加算器120においてアッテネーター118からの出力信号から入力信号VDACを減算した信号が出力される。加算器120の出力端は、第1分岐点111に接続される。
【0029】
第1分岐点111では2系統に分岐され、一方は電圧比較器110に接続され、他方は遅延回路112に接続される。また、電圧比較器110の出力端も遅延回路112に接続される。なお、電圧比較器110の機能及び遅延回路の機能112については、後述する。
【0030】
遅延回路112の出力端はゲートドライバー114に接続される。ゲートドライバー114の出力端には、2つのパワーMOSFET116A、116Bが接続される。また、パワーMOSFET116Aには、電源PWが接続されており、電力増幅に用いられる電力が供給される。ゲートドライバー114は、遅延回路112の出力に応じてパワーMOSFET116A、116Bのいずれか一方をオンさせる。
【0031】
パワーMOSFETの出力端115は、ローパスフィルターLPFに接続される。ローパスフィルターLPFは、インダクタンスL1とキャパシタンスC1を含む。インダクタンスL1の一端とキャパシタンスC1一端は、第2分岐点117を介して接続される。インダクタンスL1の他端は、パワーMOSFETの出力端115に接続される。キャパシタンスC1の他端はアースに接続される。第2分岐点117において接続線は分岐され、一方がヘッドユニットHDUに接続され、他方がアッテネーター118に接続される。アッテネーター118の出力端は、前述の通り加算器120に接続される。
【0032】
ヘッドユニットHDUは、フレキシブルケーブルFCとヘッドHDを含む。フレキシブルケーブルFCには、寄生インダクタンスL2と抵抗R2が含まれる。また、フレキシブルケーブルを介して増幅回路100からの増幅信号はヘッドHDに入力される。ヘッドHDには、抵抗R3とインクを噴射するために駆動されるピエゾ素子PZTが含まれる。
【0033】
次に、各部の動作について説明を行う。加算器120は、アッテネーター118から出力された信号から入力信号VDACの信号を減算し、誤差信号を出力する機能を有する。電圧比較器110は、入力電圧と基準電圧(例えば、DC1.5V)を比較し、比較結果に応じたパルス電圧を出力する。基準電圧は、本図では省略する。
【0034】
遅延回路112は、第1分岐点111から入力された誤差信号に応じて密度変調パルスを遅延させる。また、遅延回路112は、入力信号VDACに応じて密度変調パルスを遅延させる。
【0035】
ゲートドライバー114は、遅延された密度変調パルスに応じて、パワーMOSFET116A、116Bを駆動する。これらのパワーMOSFETには、電源PWから42Vの電源電圧が供給されており、スイッチングにより密度変調パルスに応じた増幅信号を出力端115に出力する。
【0036】
ローパスフィルターLPFは、出力端115における増幅信号の高周波成分をカット(高周波成分は、コンデンサC1を通って捨てられることになる)し、滑らかな増幅信号を出力する。滑らかな増幅信号(駆動信号)は、フレキシブルケーブルFCを通り、ヘッドHDのピエゾ素子PZTに印加される。
【0037】
アッテネーター118は、入力された増幅信号の電圧を減衰させる。増幅信号を減衰させているのは、電圧レベルを入力信号VDACの電圧に合わせるためである。このようにして、増幅信号が加算器120にフィードバックされることで、増幅回路100は、自励発振することになる。
【0038】
図5は、パルス密度変調の説明図である。図には、入力信号としての台形波がデューティとして示されており、またその下には、変調に用いられる「のこぎり波」が示され、さらにその下にはパルス密度変調におけるパルスが示されている。横軸は時間軸である。ここでは、本図を用いてパルス密度変調について説明する。
【0039】
例示の台形波は、時刻0から中間電圧(すなわちデューティ50%)が入力され平坦を保つ。その後、デューティが90%にまで上昇し平坦を保った後、デューティは6%まで下降し再度平坦を保つ。そして、再度、中間電圧のデューティである50%にまで上昇して、平坦を保つ。
【0040】
パルス密度変調において、デューティ50%のときに最もパルスの周波数が高くなる。よって、デューティ50%のときにおいて、のこぎり波も密度高く並んでいる。その後、デューティが上昇するとパルスの平均周波数自体は低下するので、のこぎり波の密度も低くなる。一方でパルスがオンになっている平均時間は長くなる。
【0041】
次に、デューティが90%から50%に下がる過程において、再びのこぎり波の密度は徐々に高くなり、さらに、デューティが50%から6%にまで下がる過程において、のこぎり波の密度は徐々に低くなる。一方、デューティが90%から6%に下がると、パルスがオンになっている平均時間は短くなる。
【0042】
そして、再び、デューティが6%から50%に上昇すると、のこぎり波の密度は高くなる。そして、パルスがオンになっている平均時間は50%となる。
【0043】
このように、パルス密度変調を行うと、デューティの高いとき(例えば90%のとき)及びデューティの低いとき(例えば6%のとき)におけるパルスの周波数が低くなる。一方、デューティが50%に近いときにおけるパルスの周波数が高くなる。
【0044】
図6は、遅延回路112における遅延時間を変化させたときにおける増幅回路100の自励発信周波数の説明図である。図4に示す本実施形態の増幅回路では、遅延回路112に入力される信号(誤差信号、入力信号VDAC)に応じて遅延時間が変化させられるが、ここでは仮に遅延時間を所定の遅延時間に固定した場合において、増幅回路100の自励発信周波数がどのようになるかを説明する。
【0045】
図において横軸には増幅回路100における増幅電圧値VAMPが示され、縦軸に自励発信周波数fが示されている。ここでは、仮に、遅延時間tdを10nsにした場合と、20nsにした場合と、30nsにした場合の自励発信周波数が示されている。なお、増幅電圧値VAMPの最低電圧は0Vであり、最高電圧は42Vとする。
【0046】
結果として共通して言えるのは、増幅電圧値VAMPが最低電圧及び最高電圧においてその自励発信周波数は低くなり、一方、増幅電圧値VAMPが中間電圧(21V)においてその自励発振周波数は最高になる点である。これは、既に説明を行ったとおり、パルス密度変調を行っているためであり、パルスの平均周波数がデューティ50%のときに最高になることに起因する。
【0047】
ところで、図6を参照するとわかる通り、遅延時間が小さいときほど自励発振周波数fは高くなり、遅延時間tdが大きいほど自励発信周波数は低くなる。前述のパワーMOSFETでは、自励発信周波数に関連する周波数でスイッチング動作が行われる。
【0048】
理想状態におけるMOSFETでは、スイッチングに関わる損失はゼロである。しかし実際には、ゲート駆動損失とドレイン損失があるのでゼロにはならない。前者はFETゲート寄生容量充放電に要する電力損失であり、後者はFETオン時のオン抵抗(RDS(ON))による電力損失である。両者共にその電力損失量はスイッチング周波数に比例する。よって、スイッチング周波数が高くなればMOSETにおける消費電力は多くなる。そして、その消費電力が大きくなりすぎるとすれば、MOSFETを採用したことによる省電力の利点が損なわれる。特に、増幅電圧値VAMPが中間電圧周辺であると、自励発信周波数が高くなるため電力消費量の上昇も顕著になる。
【0049】
一方、遅延時間tdを大きくして自励発信周波数を低くすると、スイッチング動作による消費電力は減るものの、単位時間あたりのフィードバック回数が減ることになるため、入力信号VDACに対する増幅信号の追従性が悪化するという問題がある。特に、図6に示されるように増幅電圧値VAMPが最低電圧の周辺又は最高電圧の周辺であると、自励発信周波数が低くなるため、追従性悪化がより顕著になる。
【0050】
図7は、遅延時間tdを20nsとしたときにおける増幅信号の説明図である。本図において、横軸は時間軸であり、縦軸は電圧である。また、図には、入力信号が仮に正確に増幅された場合の波形として破線の波形が示されており、遅延時間tdを20nsとしたときの増幅信号のシミュレーション結果が実線で示されている。
【0051】
図に示されるように、実線はほぼ破線に重なっており、増幅信号は入力信号に適度に追従している様子がわかる。特に、高周波となる21V付近の追従能力は高い。しかしながら、前述の通り、自励発信周波数が高いため消費電力は高い。
【0052】
図8は、遅延時間tdを40nsとしたときにおける増幅信号の説明図である。本図においても、横軸は時間軸であり、縦軸は電圧である。図に示されるように、前述の図7と比較して、明らかに実線と破線との重複度合いが悪化している。特に、最高電圧に近い部分及び最低電圧に近い部分では、実線(増幅信号)の上下に振れる幅が許容できない程度にまで大きくなっていることが分かる。これは、遅延時間tdを大きくしすぎたために自励発振周波数が下がりすぎ、その結果として入力信号に対する追従性が悪化し、波形が荒くなったものと考えられる。一方、自励発信周波数が下がっているため、パワーMOSFETにおいて消費される電力は減少し、省電力化は図られることとなる。
【0053】
<誤差信号に応じて遅延時間を調整>
本実施形態では入力信号に対する増幅信号の追従性を向上させるために、入力信号と増幅信号との間に生ずる誤差(誤差信号)に応じて、遅延回路112における遅延時間tdをフレキシブルに変更することを行っている。
【0054】
具体的には、入力信号と増幅信号との間に生ずる誤差が大きい場合(図4の第1分岐点111における誤差信号が大きい場合)には、より早く入力信号に追従させるべく、自励発信周波数を高くした方が好ましいことになる。よって、遅延回路112は、誤差信号の値が大きいときには遅延時間tdを小さく設定する。一方、遅延回路112は、誤差信号の値が小さいときには遅延時間tdを大きくするように設定する。
【0055】
このようにすることによって、急激に入力信号の値が変化するときには遅延時間tdを小さくして自励発信周波数を高めて追従性を高める一方、入力信号の値の変化が小さいときには遅延時間tdを大きくして自励発信周波数を低くして省電力化を図ることができる。
【0056】
特に、ピエゾ素子を駆動してインクを噴射させるインクジェット式のプリンターにおいて、インクを噴射させるのは電圧が急激に変化する際であり、入力信号と増幅信号との間に生ずる誤差が最も大きくなりやすい箇所である。インクを噴射するにあたり、増幅信号の形状は重要であり、入力信号に対する増幅信号の追従性が低いと噴射するインクのサイズが所望のサイズと異なってしまったり、噴射タイミングがずれてしまうなどの問題を生ずる。これに対して、本実施形態のような動作を行わせることで、省電力化を図りつつ入力信号の追従性を向上させることができる。
【0057】
<入力信号VDACに応じて遅延時間を調整>
図9は、入力信号VDACに応じて自励発信周波数fを変更することの説明図である。前述のように、パルス密度変調において、増幅電圧(又は入力電圧VDAC)の中間電圧付近において発信周波数が高くなることから、スイッチングにおける電力消費が高くなっていた。
【0058】
本実施形態では、図9に示されるように、入力電圧VDACが中間電圧に近づくにつれて、あえて自励発信周波数を下げる構成としている。具体的には、入力電圧VDACが中間電圧に近づくほど、遅延回路112の遅延時間tdを大きくすることとして、自励発信周波数を下げる構成としている。このようにすることによって、中間電圧付近において、要求する以上に自励発振周波数を高めることなく、結果としてスイッチング素子における消費電力を低くすることができる。
【0059】
図10は、本実施形態において改善された増幅信号の説明図である。本図において、横軸は時間軸であり、縦軸は電圧である。また、図には、増幅信号が時間軸に関して区間Aから区間Iに分けて表示されている。
【0060】
区間A、区間C、区間E、及び、区間Gでは、上記のような動作が行われた結果、追従性が適度に担保されている。また、区間B及び区間Hでは、電圧が中間電圧から離れているにもかかわらず追従性は良好である。
【0061】
区間D、及び、区間Fでは、さほど追従性が必要とされない(高い追従性が必要とされるのは、インク噴射の観点から電圧変化が大きい箇所である)。そのため、上記のような動作が行われた結果、リップルがある程度発生しているが、その分、省電力化が図られていることになる。
【0062】
このように、追従性を担保しつつも省電力化を図ることができることにより、ヒートシンクレス化・小型化・低コスト化を図ることができるという利点がある。
【0063】
===その他の実施の形態===
上述の実施形態では、液体噴射装置としてインクジェットプリンター1に応用するように説明されていたが、これに限られるものではなくインク以外の他の流体(液体や、機能材料の粒子が分散されている液状体、ジェルのような流状体)を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に具現化することもできる。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、気体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の装置に、上述の実施形態と同様の技術を適用してもよい。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。また、増幅回路は液体噴射装置に用いられるだけでなく、他の装置に用いることもできる。
【0064】
上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0065】
1 インクジェットプリンター、
40 記録部、42 トップカバー、44 フロントカバー、
60 排出部、
100 増幅回路、110 電圧比較器、
111 第1分岐点、112 遅延回路、
114 ゲートドライバー、115 出力端、
116A パワーMOSFET、116B パワーMOSFET、
117 第2分岐点、118 アッテネーター、
119 第3分岐点、120 加算器、
402 インク供給路、404 ノズル連通路、406 弾性板、
HD ヘッド、HDU ヘッドユニット、
LPF ローパスフィルター、
Nz ノズル、
PZT ピエゾ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号を増幅信号に増幅する増幅回路であって、
前記入力信号と前記増幅信号との差分に応じて密度変調した密度変調パルスを出力するパルス密度変調部と、
前記密度変調パルスの出力を前記差分に応じて遅延させる遅延回路と、
前記増幅のための電力を供給する電力供給部と、
前記遅延回路から出力されたパルスに応じて、前記電力供給部からの電力供給のスイッチを切り替えて前記増幅信号を出力するスイッチ部と、
を備える増幅回路。
【請求項2】
前記遅延回路は、
前記差分が第1差分のときにおいて前記密度変調パルスの出力を第1遅延量遅延させ、
前記差分が前記第1差分よりも大きい第2差分のときにおいて前記密度変調パルスの出力を前記第1遅延量より小さい第2遅延量遅延させる、請求項1に記載の増幅回路。
【請求項3】
前記スイッチ部は、MOSFETと前記MOSFETを駆動するゲートドライバーとを備える、請求項1又は2に記載の増幅回路。
【請求項4】
前記スイッチ部の出力にローパスフィルターが設けられ、該ローパスフィルターから前記増幅信号が出力される、請求項1〜3のいずれかに記載の増幅回路。
【請求項5】
さらに、前記遅延回路は、前記密度変調パルスの出力を前記入力信号に応じて遅延させる、請求項1〜4のいずれかに記載の増幅回路。
【請求項6】
前記遅延回路は、前記入力信号の中間電圧における遅延時間を、前記入力信号の最高電圧における遅延時間及び前記入力信号の最低電圧における遅延時間よりも大きくする、請求項5に記載の増幅回路。
【請求項7】
入力信号を増幅信号に増幅し、該増幅信号に応じて液体を噴射させるヘッド駆動回路であって、
前記入力信号と前記増幅信号との差分に応じて密度変調した密度変調パルスを出力するパルス密度変調部と、
前記密度変調パルスの出力を前記差分に応じて遅延させる遅延回路と、
前記増幅のための電力を供給する電力供給部と、
前記遅延回路から出力されたパルスに応じて、前記電力供給部からの電力供給のスイッチを切り替えて前記増幅信号を出力するスイッチ部と、
前記増幅信号に応じて駆動され、前記液体を噴射させる駆動素子と、
を備えるヘッド駆動回路。
【請求項8】
入力信号を増幅信号に増幅し、該増幅信号に応じて液体を噴射する液体噴射装置であって、
前記入力信号と前記増幅信号との差分に応じて密度変調した密度変調パルスを出力するパルス密度変調部と、
前記密度変調パルスの出力を前記差分に応じて遅延させる遅延回路と、
前記増幅のための電力を供給する電力供給部と、
前記遅延回路から出力されたパルスに応じて、前記電力供給部からの電力供給のスイッチを切り替えて前記増幅信号を出力するスイッチ部と、
前記増幅信号に応じて駆動される駆動素子と前記液体を噴射するノズルとを有するヘッドと、
を備える液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−38457(P2013−38457A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−170317(P2011−170317)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】