説明

増幅回路

【課題】SEPP回路の温度上昇の熱が放熱器を介してバイアス回路に伝わるまでの熱結合によるタイムラグを解消して、熱暴走の発生を未然に防止する。
【解決手段】トランジスタ素子を有して構成されるトランジスタQ1と、トランジスタQ1のトランジスタ素子とは逆極性のトランジスタ素子を有して構成されるトランジスタQ2と、が直列接続されると共に、両端が電源に接続されたシングルエンデッド・プッシュプル回路と、トランジスタQ1回路にバイアス電圧を印加するバイアス回路を構成するトランジスタQ5と、トランジスタQ2にバイアス電圧を印加するバイアス回路を構成するトランジスタQ6と、トランジスタQ1のベース電圧を検出してトランジスタQ5にフィードバックする直列接続の抵抗R3、R4と、トランジスタQ2のベース電圧を検出してトランジスタQ6にフィードバックする直列接続の抵抗R5、R6と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅回路に関し、特に、入力信号を増幅して出力する電力増幅回路を構成する増幅回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
音響信号を電力増幅してスピーカやヘッドホンに供給するトランジスタ増幅回路として、シングルエンデッド・プッシュプル(SEPP:Single-Ended Push-Pull)回路が広く知られている。SEPP回路は、特性が揃ったNPNトランジスタとPNPトランジスタからなるトランジスタ対を直列に接続してB級の信号増幅を行うものである。SEPP回路においては、入力信号が正のサイクルではNPNトランジスタがオンになって増幅信号を出力し、入力信号が負のサイクルではPNPトランジスタがオンになって増幅信号を出力する。SEPP回路によれば、大きな出力電流が得られる上、出力トランスを要することなくスピーカやヘッドホン等の負荷に接続できるという利点がある。
【0003】
一般に、トランジスタのベース・エミッタ間の順方向電圧は約0.6vであるので、SEPP回路をゼロバイアスで駆動すると、SEPP回路への入力信号の電圧が所定値(±0.6v)以下のときには2つのトランジスタが共にオフ状態になってしまう。このため、SEPP回路の出力信号に歪みが発生する。これをクロスオーバー歪みという。クロスオーバー歪みを解消するために、2つのトランジスタのベースにバイアス電圧を印加して、AB級の信号増幅により入力が所定値以下の時でもコレクタ電流(これを「アイドリング電流」という)を流す構成が知られている。
【0004】
ところで、トランジスタのベース・エミッタ間の順方向電圧は、トランジスタ自体の発熱や周囲温度の影響を受けて変化する。具体的には、温度が1℃上昇すると−2mV程度の負の温度特性を有する。このため、同様の負の温度特性を有するトランジスタやダイオードを用いた温度補償回路を付加したSEPP回路が採用されている。
【0005】
図5は、下記の特許文献1、2に記載されたトランジスタを用いてSEPP回路の温度補償を行う従来の一般的な電力増幅回路4の回路図である。図5において、電圧増幅器X101は、オペアンプ等の一般的な増幅回路であり、信号源V101からコンデンサC101を介して入力される信号、例えば、音響信号を増幅して出力部から出力する。この増幅された音響信号が電力増幅回路4に入力されて増幅される。
【0006】
電力増幅回路4において、SEPP回路は、ダーリントン接続のエミッタフォロア回路を構成している。SEPP回路における最終段のNPNトランジスタQ101及びPNPトランジスタQ102は、それぞれのエミッタに接続された抵抗R101及びR102を介して接続されている。また、NPNトランジスタQ103及びPNPトランジスタQ104は、それぞれのエミッタに接続された抵抗R103及びR104を介して接続されている。さらに、トランジスタQ101のベースがトランジスタQ103のエミッタに接続されている。トランジスタQ101のコレクタがトランジスタQ103のコレクタ及びプラス電源+Bに接続されて、同様に、トランジスタQ102のベースがトランジスタQ104のエミッタに接続され、トランジスタQ102のコレクタがトランジスタQ104のコレクタ及びマイナス電源−Bに接続されている。SEPP回路の出力、すなわち、抵抗R101と抵抗R102との交点、及び、抵抗R103と抵抗R104との交点は、スピーカ等の負荷抵抗R107に接続されている。
【0007】
トランジスタQ105、抵抗R105、抵抗R106、及び電流源I101は、SEPP回路にバイアス電圧を印加するバイアス回路である。トランジスタQ105のコレクタ及びエミッタは、それぞれトランジスタQ103のベース及びトランジスタQ104のベースに接続されている。抵抗R105の一端はトランジスタQ105のコレクタ及び電流源I101に接続され、他端はトランジスタQ105のベース及び抵抗R106の一端に接続されている。抵抗R106の他端はトランジスタQ104のベース及び電圧増幅器X101の出力部に接続されている。なお、各トランジスタQ101乃至Q105は、放熱器(図示せず)に取り付けられて熱結合されている。
【0008】
次に、図5の回路の動作について説明する。いま、抵抗R105及び抵抗R106を流れる直流電流をi101、トランジスタQ105のベース・エミッタ間の順方向電圧をVBE105、トランジスタQ103及びQ104のベース・ベース間のバイアス電圧をVbiasとすると、
i101=VBE105/R106
Vbias=i101×(R105+R106)
の関係が成立する。したがって、
Vbias=VBE105×{(R105+R106)/R106)}
となる。
【0009】
一般に、トランジスタのベース・エミッタ間の順方向電圧はほぼ等しい値(0.6V)になっているので、トランジスタQ101乃至Q105のベース・エミッタ間の順方向電圧をVBEとすると、ダーリントン接続のトランジスタQ101乃至Q104で構成されたSEPP回路のベース・エミッタ間の順方向電圧は4VBE(2.4V)である。したがって、SEPP回路への入力信号が所定値(±0.6v)以下の時ときにもSEPP回路に一定のアイドリング電流を流すためには、
Vbias=VBE×{(R105+R106)/R106)}=4VBE
の関係を満たすことが必要である。したがって、
(R105+R106)/R106=4
から導かれる抵抗R105及びR106の比率は、
R105:R106=3:1
となる。例えば、R105=3kΩ、R106=1kΩに設定する。
【0010】
さらに、R105又はR106の値を微調整することにより、トランジスタQ101及びQ102間に適切なアイドリング電流(例えば、数10mA)を流して、スピーカ等の負荷抵抗R107に供給される出力波形の0V近傍にクロスオーバー歪みが発生するのを防止している。
【0011】
また、SEPP回路を構成するトランジスタQ101乃至Q104のベース・エミッタ間の順方向電圧VBEは、−2mV/℃の負の温度特性を持っているので、バイアス電圧が一定のままであると、トランジスタQ101及びQ102の発熱でアイドリング電流が増加し、さらにトランジスタQ101及びQ102の発熱が上昇するという悪循環のために、熱暴走が発生してトランジスタQ101及びQ102が破壊するおそれがある。これを防止するために、上記したように、トランジスタQ105をトランジスタQ101乃至Q104と熱結合することにより、アイドリング電流の温度補償を行っている。すなわち、放熱器を介した熱結合によってトランジスタQ105の温度が上昇すると、トランジスタQ105のベース・エミッタ間の順方向電圧VBEの負の温度特性(−2mV/℃)によって、バイアス電圧Vbiasが下がる。その結果、アイドリング電流が減少することを利用して、熱暴走の発生を抑制する試みが行われている。
【0012】
さらに、下記の特許文献2には、ダイオードを用いてSEPP回路の温度補償を行う電力増幅回路が開示されている。この特許文献の電力増幅回路によれば、PN接合型のダイオードや直列接続されたショットキーバリア型のダイオードの順方向電圧の負の温度特性を利用して、SEPP回路の温度補償を行っている。すなわち、放熱器を介した熱結合によってダイオードの温度が上昇すると、図4に示した従来の電力増幅回路と同じ原理により、バイアス電圧が低下する。その結果、アイドリング電流が減少することを利用して、熱暴走の発生を抑制する試みが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2002−64337号公報
【特許文献2】特開平09−130155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、図5に示した増幅回路、特許文献1に開示された増幅回路、その他の従来の増幅回路における熱暴走の発生を抑制する試みは、放熱器を介した熱結合のみに依存してSEPP回路の温度補償を行っているので、SEPP回路の温度上昇の熱が放熱器を介してバイアス回路に伝わるまでに時間がかかる。この熱伝導のタイムラグのために、バイアス電圧が低下してアイドリング電流を一定の値に維持するまでの過渡期において、熱暴走が発生するおそれがある。
【0015】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、SEPP回路の温度上昇の熱が放熱器を介してバイアス回路に伝わるまでの熱結合によるタイムラグを解消して、熱暴走の発生を未然に防止できる増幅回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の増幅回路は、トランジスタ素子を有して構成される第1のトランジスタ回路と、前記トランジスタ素子とは逆極性のトランジスタ素子を有して構成される第2のトランジスタ回路と、が直列接続されると共に、両端が電源に接続されたシングルエンデッド・プッシュプル回路と、前記第1のトランジスタ回路にバイアス電圧を印加する第1のバイアス回路と、前記第2のトランジスタ回路にバイアス電圧を印加する第2のバイアス回路と、前記第1のトランジスタ回路のベース電圧を検出して前記第1のバイアス回路にフィードバックする第1の検出回路と、前記第2のトランジスタ回路のベース電圧を検出して前記第2のバイアス回路にフィードバックする第2の検出回路と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
前記第1の検出回路は、前記第1のトランジスタ回路のベースとエミッタ間に直列接続された複数の抵抗素子で構成され、前記複数の抵抗素子によって分圧された前記第1のトランジスタ回路のベース電圧の分圧電圧を前記第1のバイアス回路にフィードバックし、前記第2の検出回路は、前記第2のトランジスタ回路のベースとエミッタ間に直列接続された複数の抵抗素子で構成され、前記複数の抵抗素子によって分圧された前記第2のトランジスタ回路のベース電圧の分圧電圧を前記第2のバイアス回路にフィードバックする構成にしてもよい。
【0018】
前記第1のバイアス回路は、前記第1のトランジスタ回路を構成するトランジスタ素子の温度特性と同一の温度特性を有する第1の半導体素子を備え、前記第2のバイアス回路は、前記第2のトランジスタ回路のトランジスタ素子の温度特性と同一の温度特性を有する第2の半導体素子を備えるような構成にしてもよい。
【0019】
前記第1のトランジスタ回路及び前記第2のトランジスタ回路は、それぞれ複数段のダーリントン接続によって構成され、前記第1のバイアス回路及び前記第2のバイアス回路は、それぞれ前記第1のトランジスタ回路及び前記第2のトランジスタ回路における初段のトランジスタにバイアス電圧を印加し、前記第1の検出回路及び前記第2の検出回路は、それぞれ前記第1のトランジスタ回路及び前記第2のトランジスタ回路の最終段のトランジスタのベース電圧を検出して前記第1のバイアス回路及び前記第2のバイアス回路にフィードバックする構成にしてもよい。
【0020】
前記第1及び第2の半導体素子は、トランジスタ素子若しくはダイオード素子又はトランジスタ素子及びダイオード素子で構成してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、SEPP回路を構成する第1のトランジスタ回路及び第2のトランジスタ回路のベース電圧を検出してバイアス回路にフィードバックする検出回路を備えたことにより、SEPP回路の温度上昇の熱が放熱器を介してバイアス回路に伝わるまでの熱結合によるタイムラグを解消して、熱暴走の発生を未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の増幅回路の実施形態1における電力増幅回路を説明する回路図である。
【図2】図1のトランジスタが取り付けられた放熱器を示す図である。
【図3】図1の電力増幅回路の動作を説明する図である。
【図4】本発明の増幅回路の実施形態2における電力増幅回路を説明する回路図である。
【図5】従来の増幅回路における電力増幅回路を説明する回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る増幅回路を、図面を参照して説明する。
【0024】
(実施形態1)
以下の実施形態1及び2において、電力増幅回路は本発明の増幅回路を示すものである。
図1は、本発明の増幅回路の実施形態1における電力増幅回路1の回路図である。図1における電力増幅回路1は、コンデンサC1及びC2、オペアンプ等の電圧増幅器X1、電流源I1、NPNトランジスタQ1、Q3、Q6、PNPトランジスタQ2、Q4、Q5、抵抗R1乃至R11で構成されている。また、この電力増幅回路には、電圧値が同一で逆極性のプラス電源+B及びマイナス電源−Bが供給されている。この電力増幅回路1には、信号源V1から音響信号等の入力信号inが、例えば10μFのコンデンサC1を介して供給され、電力増幅された出力信号outがスピーカやヘッドホン等の負荷(図ではR11)に供給される。
【0025】
まず、図1の電力増幅回路1の回路構成について説明する。
NPNトランジスタQ1及びQ3は、ダーリントン接続されてエミッタフォロア回路を構成している。すなわち、初段のNPNトランジスタQ3のエミッタが最終段のNPNトランジスタQ1のベースに接続され、NPNトランジスタQ1及びQ3のコレクタが共にプラス電源+Bに接続されている。したがって、このエミッタフォロア回路の電流増幅率は、NPNトランジスタQ3の電流増幅率とNPNトランジスタQ1の電流増幅率の積となり、大電流を出力可能なパワートランジスタを構成する。
【0026】
同様に、PNPトランジスタQ2及びQ4も、ダーリントン接続されてエミッタフォロア回路を構成している。すなわち、初段のPNPトランジスタQ4のエミッタが最終段のNPNトランジスタQ2のベースに接続され、PNPトランジスタQ2及びQ4のコレクタが共にマイナス電源−Bに接続されている。したがって、このエミッタフォロア回路の電流増幅率は、PNPトランジスタQ4の電流増幅率とNPNトランジスタQ2の電流増幅率の積となり、大電流を出力可能なパワートランジスタを構成する。
【0027】
最終段のNPNトランジスタQ1及びPNPトランジスタQ2は、パラメータや温度等に関してほぼ同一の特性を有する相補的(コンプリメンタリ)な半導体素子である。同様に、前段のNPNトランジスタQ2及びPNPトランジスタQ4も、パラメータや温度等に関してほぼ同一の特性を有する相補的な半導体素子である。トランジスタQ1乃至Q4のそれぞれのベース・エミッタ間の順方向電圧の温度特性は、−2mV/℃程度の負の温度特性になっている。
【0028】
NPNトランジスタQ1のエミッタは、直列接続された抵抗R1及びR2を介してPNPトランジスタQ2のエミッタに接続され、抵抗R1とR2との交点が出力点としてスピーカ等の負荷である抵抗R11に接続されている。また、NPNトランジスタQ1のベース及びNPNトランジスタQ3のエミッタは、直列接続された抵抗R3、R4、R6、R5を介して、PNPトランジスタQ2のベース及びPNPトランジスタQ4のエミッタに接続されている。NPNトランジスタQ1及びQ3は、入力される音響信号が正の期間にオン状態となってその音響信号を増幅する。一方、PNPトランジスタQ2及びQ4は、入力される音響信号が負の期間にオン状態となってその音響信号を増幅する。
【0029】
すなわち、ダーリントン接続されたNPNトランジスタQ1及びQ3と、ダーリントン接続されたPNPトランジスタQ2及びQ4とにより、ほぼ同一特性を有する逆極性(NPN/PNP)からなる一対のトランジスタを対称的に直列接続して構成されたシングルエンデッド・プッシュプル回路(SEPP回路)を構成し、抵抗R1乃至R5と共に、電力増幅回路の出力回路を構成している。なお、抵抗R1及びR2は0.1乃至0.5Ω程度の微小な抵抗値であるが、ここでは0Ωとすることができる。その理由については後述する。また、抵抗R3及びR5は100Ω、抵抗R4及びR6は200Ωの値になっている。
【0030】
ここで、2つのNPNトランジスタが2段にダーリントン接続されたトランジスタQ1及びQ3を「第1のトランジスタ回路」と定義し、2つのPNPトランジスタが2段にダーリントン接続されたトランジスタQ2及びQ4を「第2のトランジスタ回路」と定義する。したがって、ほぼ同一特性を有する逆極性からなる第1のトランジスタ回路と第2のトランジスタ回路とを対称的に直列接続してSEPP回路を構成している。ただし、SEPP回路を構成する第1及び第2のトランジスタ回路としては、ダーリントン接続されたものに限らない。ほぼ同一特性を有する単一のNPNトランジスタを第1のトランジスタ回路とし、単一のPNPトランジスタを第2のトランジスタ回路として、SEPP回路を構成してもよい。あるいは、後述する実施形態2で説明するように、3つのNPNトランジスタを3段にダーリントン接続して第1のトランジスタ回路とし、3つのPNPトランジスタを3段にダーリントン接続して第2のトランジスタ回路を構成してもよい。あるいはまた、4つ以上のトランジスタを複数段にダーリントン接続して第1のトランジスタ回路及び第2のトランジスタ回路を構成してもよい。
【0031】
要するに、複数段にダーリントン接続したトランジスタであっても、電流増幅率及び入力インピーダンスが段数分の積で表される単一のトランジスタと等価である。したがって、実施形態1、実施形態2、及びこれらの変形例においては、特にことわらない限り、第1及び第2のトランジスタ回路のベースとエミッタ間は、複数段にダーリントン接続したトランジスタを単一のトランジスタとみなしたベースとエミッタ間を意味する。
【0032】
図1において、PNPトランジスタQ5のベースは、抵抗R7の一端、及び抵抗R8の一端に接続されている。抵抗R8の他端は、抵抗R3及びR4の交点に接続されている。トランジスタQ5のエミッタは、トランジスタQ3のベース、抵抗R7の他端、電流源I1、及びコンデンサC2に接続されている。トランジスタQ5のコレクタは、抵抗R4と抵抗R6の交点、及びNPNトランジスタQ6のコレクタに接続されている。このトランジスタQ5、抵抗7及びR8によって、SEPP回路のプラス側のトランジスタQ1及びQ3(第1のトランジスタ回路)にバイアス電圧を印可するバイアス回路(これを「第1のバイアス回路」と定義する)を構成する。
【0033】
NPNトランジスタQ6のベースは、抵抗R9の一端、及び抵抗R10の一端に接続されている。抵抗R10の他端は、抵抗R5及びR6の交点に接続されている。トランジスタQ6のエミッタは、トランジスタQ4のベース、抵抗R9の他端、及び電圧増幅器X1の出力に接続されている。トランジスタQ6のコレクタは、上記したように、抵抗R4と抵抗R6の交点、及びトランジスタQ5のコレクタに接続されている。このトランジスタQ6、抵抗9及びR10によって、SEPP回路のマイナス側のトランジスタQ2及びQ4(第2のトランジスタ回路)にバイアス電圧を印可するバイアス回路(これを「第2のバイアス回路」と定義する)を構成する。
【0034】
SEPP回路において、直列接続された抵抗R3及びR4の両端の電圧は、トランジスタQ1の出力点(out)から見たトランジスタQ1のベース電圧と等しくなる。抵抗R3及びR4は、トランジスタQ3のバイアス電流を流す目的で用いられるが、トランジスタQ1のベース電圧を検出する役割も担っている。抵抗R3の抵抗値と抵抗R4の抵抗値との比率によって分圧されたトランジスタQ1のベース電圧は、トランジスタQ1及びQ3(第1のトランジスタ回路)にバイアス電圧を印可するバイアス回路(第1のバイアス回路)にフィードバックされる。
【0035】
同様に、直列接続された抵抗R5及びR6の両端の電圧は、トランジスタQ2の出力点から見たトランジスタQ2のベース電圧と等しくなる。抵抗R5及びR6は、トランジスタQ4のバイアス電流を流す目的で用いられるが、トランジスタQ2のベース電圧を検出する役割も担っている。抵抗R5の抵抗値と抵抗R6の抵抗値との比率によって分圧されたトランジスタQ2のベース電圧は、トランジスタQ2及びQ4(第2のトランジスタ回路)にバイアス電圧を印可するバイアス回路(第2のバイアス回路)にフィードバックされる。
【0036】
トランジスタQ5及びトランジスタQ6は、パラメータや温度等に関してほぼ同一の特性を有する相補的な半導体素子である。トランジスタQ5及びQ6のそれぞれのベース・エミッタ間の順方向電圧の温度特性は、SEPP回路のトランジスタQ1乃至Q4と同じく、−2mV/℃程度の負の温度特性になっている。
【0037】
すなわち、トランジスタQ5、抵抗7及びR8からなるバイアス回路(第1のバイアス回路)と、トランジスタQ6、抵抗9及びR10からなるバイアス回路(第2のバイアス回路)とは、それぞれのトランジスタQ5及びQ6のコレクタの交点に対して対称的な一対のバイアス回路を構成している。コンデンサC2(例えば10μF)は、バイアス回路を交流的にバイパスする働きをするもので、動作的には必ずしも必要ではない(図5の従来例の電力増幅回路4では使用されていない)。この実施形態1及び後述する実施形態2における増幅回路では、信号の高域成分の歪みを改善する目的で使用している。なお、図1の増幅回路において、抵抗R7及びR9は4.7kΩ、抵抗R8及びR10は1.5kΩの値になっている。
【0038】
図2は、SEPP回路のトランジスタ及びバイアス回路のトランジスタが取り付けられた放熱器を示す図である。図2(a)に示す放熱器F1には、ハイブリッド化されたトランジスタQ1及びトランジスタQ3と、トランジスタQ5が取り付けられている。したがって、トランジスタQ1及びトランジスタQ3とトランジスタQ5とは熱結合を実現し、トランジスタQ1及びトランジスタQ3において発生する熱が放熱器F1を介してトランジスタQ5に伝わる。
【0039】
また、図2(b)に示す放熱器F2には、ハイブリッド化されたトランジスタQ2及びトランジスタQ4と、トランジスタQ6が取り付けられている。したがって、トランジスタQ2及びトランジスタQ4とトランジスタQ6とは熱結合を実現し、トランジスタQ2及びトランジスタQ4において発生する熱が放熱器F2を介してトランジスタQ6に伝わる。
【0040】
なお、放熱器の構成は、図2に示すものに限定されない。トランジスタQ1及びトランジスタQ3の熱変化特性(例えば、時間軸における発熱上昇特性)と、トランジスタQ2及びトランジスタQ4の熱変化特性とが、ほぼ同一である場合には、ハイブリッド化されたトランジスタQ1及びトランジスタQ3、ハイブリッド化されたトランジスタQ2及びトランジスタQ4、トランジスタQ5及びトランジスタQ6を同一の放熱器に取り付けるように構成してもよい。なお、トランジスタQ1及びトランジスタQ3と、トランジスタQ2及びトランジスタQ4とは、ハイブリッドでなくてもよい。それぞれ単体のトランジスタで構成して、それぞれを2つ又は同一の放熱器に取り付けるようにしてもよい。
【0041】
次に、電力増幅回路1の動作について、図3を参照して説明する。図3は、図1におけるSEPP回路のプラス側のトランジスタ(第1のトランジスタ回路)及び抵抗R1、R3、R4からなる出力回路と、第1のトランジスタ回路にバイアス電圧を印可するバイアス回路(第1のバイアス回路)とを示す電力増幅回路1の一部の回路図である。
【0042】
図3において、抵抗R1を0Ω、トランジスタQ1のベース・エミッタ間の順方向の電圧をVBE1、トランジスタQ3のベース・エミッタ間の順方向の電圧をVBE3、トランジスタQ5のベース・エミッタ間の順方向の電圧をVBE5、抵抗R7及びR8を流れる電流をi1、抵抗R3及びR4を流れる電流をi2、トランジスタQ1のベースに印加されるプラス側のバイアス電圧をVbias1(これを「第1のバイアス電圧」と定義する)とする。
【0043】
抵抗R3及びR4の交点(a点とする)の電圧Vaは、トランジスタQ1のベース・エミッタ間の電圧VBE1(すなわち、トランジスタQ1の出力点から見たトランジスタQ1のベース電圧)を抵抗R3の抵抗値及び抵抗R4の抵抗値の比率で分圧したものとなる。その分圧比をα(αは、0<α<1の任意の値)とする。すなわち、抵抗R3及びR4の交点の電圧Vaは、トランジスタQ1のベース電圧を分圧比αで分圧した検出電圧であり、第1のバイアス回路にフィードバックされる。
【0044】
この検出電圧Vaは、下記の式で表される。
Va={R4/(R3+R4)}×VBE1=αVBE1
また、抵抗R3を100Ω、抵抗R4を200Ω、抵抗R7を4.7kΩ、抵抗R8を1.5kΩとすると、i1<<i2となる。すなわち、検出電圧Vaから見たバイアス回路はハイインピーダンスとなり、検出電圧Vaの電圧値にほとんど影響を及ぼさない。
【0045】
i1=VBE5/R7
Vbias1=VBE5+i1×R8+αVBE1
となるので、
Vbias1=VBE5+(VBE5/R7)×R8+αVBE1
=VBE5×(1+R8/R7)+αVBE1・・・・・(1)
となる。
【0046】
この場合において、VBE1及びVBE5はほぼ同一の電圧であるので、
VBE1=VBE5=VBE
を式(1)に代入すると、
Vbias1=VBE×(1+R8/R7+α)
となる。
【0047】
いま、プラス側のバイアス電圧のみを考えると、SEPP回路への入力信号が所定値(±0.6v)以下の時にトランジスタQ1にアイドリング電流を流すために必要なバイアス電圧Vbias1は、ダーリントン接続されたトランジスタQ3及びQ1のベース・エミッタ間の電圧2VBE(=VBE3+VBE1)である。したがって、
2VBE=VBE×(1+R8/R7+α)
となり、その結果、トランジスタQ1にアイドリング電流を流すために必要なバイアス電圧は、下記の関係を満たすことが条件となる。
R8/R7=(1−α)
【0048】
次に、図3を参考にして、SEPP回路のマイナス側のトランジスタ(第2のトランジスタ回路)及び抵抗R2、R5、R6からなる出力回路と、第2のトランジスタ回路にバイアス電圧を印可するトランジスタQ6、抵抗R9及びR10からなるバイアス回路(第2のバイアス回路)について説明する。
【0049】
図1において、抵抗R2を0Ω、トランジスタQ2のベース・エミッタ間の順方向の電圧をVBE2、トランジスタQ6のベース・エミッタ間の順方向の電圧をVBE6、抵抗R9及びR10を流れる電流をi3、抵抗R5及びR6を流れる電流をi4、トランジスタQ2のベースに印加されるマイナス側のバイアス電圧をVbias2(これを「第2のバイアス電圧」と定義する)とする。この場合において、抵抗R5を100Ω、抵抗R6を200Ω、抵抗R9を4.7kΩ、抵抗R10を1.5kΩとすると、上記したSEPP回路のプラス側の場合と同様に、i3<<i4となる。
【0050】
トランジスタQ4のベース及びトランジスタQ3のベースに印可されるバイアス電圧、すなわち、SEPP回路に印加されるバイアス電圧Vbiasは、
Vbias=Vbias1+Vbias2
であるので、
Vbias=VBE5×(1+R8/R7)+αVBE1
+VBE6×(1+R10/R9)+αVBE2・・・・(2)
で表される。この場合において、VBE1、BVE2、VE5、VE6はほぼ同一の電圧であるので、
VBE1=VBE2=VBE5=VBE6=VBE
を式(2)に代入すると、
Vbias=VBE(2+R8/R7+R10/R9+2α)
となる。
【0051】
SEPP回路への入力信号が所定値以下の時にトランジスタQ1及びトランジスタQ2にアイドリング電流を流すために必要なバイアス電圧Vbiasは、トランジスタQ3及びQ1のベース・エミッタ間の電圧2VBEと、トランジスタQ4及びQ2のベース・エミッタ間の電圧2VBEとの加算値の4VEBEである。したがって、
4VBE=VBE(2+R8/R7+R10/R9+2α)
となり、その結果、SEPP回路の最終段のパワートランジスタであるトランジスタQ1及びトランジスタQ2にアイドリング電流を流すために必要なバイアス電圧は、下記の関係を満たすことが条件となる。
R8/R7=(1−α)、R10/R9=(1−α)
【0052】
いま、R3及びR5が100Ω、R4及びR6が200Ωであるので、
α=200/(100+200)=2/3
である。したがって、トランジスタQ1及びトランジスタQ2にアイドリング電流を流すためには、
R8/R7=R10/R9=1/3
の関係を満たせばよい。上記したように、抵抗R7及びR9を4.7kΩ、抵抗R8及びR10を1.5kΩに設定すれば、この関係をほぼ満たすことになる。さらに、抵抗R7及びR8の比率、抵抗R9及びR10の比率、又はαの値を微調整することで、トランジスタQ1及びトランジスタQ2に流れるアイドリング電流をより正確に制御することができる。
【0053】
第1及び第2のトランジスタ回路を流れるアイドリング電流の安定度が増すことで、最終段のトランジスタであるトランジスタQ1及びQ2のエミッタに接続される抵抗R1及びR2を0Ωに(削除)することができる。なお、通常のパワーアンプでは最終段のトランジスタのエミッタ抵抗の抵抗値は、0.1乃至0.5Ω程度の微小値である。したがって、アイドリング電流による抵抗R1及びR2の電圧降下分をトランジスタQ1及びQ2のベース・エミッタ間の電圧VBE1及びVEB2に加算して、Vbiasを算出する上記式(1)、式(2)に組み込むようにしてもよい。
【0054】
トランジスタQ3及びQ1(第1のトランジスタ回路)及びトランジスタQ4及びQ2(第2のトランジスタ回路)は、図2に示したように、それぞれ個別の放熱器F1及び放熱器F2に取り付けられている。また、バイアス回路を構成するトランジスタQ5及びQ6は、それぞれ放熱器F1及びF2に取り付けられている。したがって、第1のトランジスタ回路とトランジスタQ5とは、放熱器F1によって熱結合され、第2のトランジスタ回路とトランジスタQ6とは、放熱器F2によって熱結合されている。
【0055】
なお、パワートランジスタを構成するダーリントン接続のトランジスタQ3及びQ1(第1のトランジスタ回路)は、2つの個別の半導体素子であっても、ハイブリッド化された単一の半導体素子であってもよい。さらに、抵抗R3をハイブリッドの中に含めてもよい。同様に、パワートランジスタを構成するダーリントン接続のトランジスタQ4及びQ2(第2のトランジスタ回路)についても、2つの個別の半導体素子であっても、ハイブリッド化された単一の半導体素子であってもよい。さらに、抵抗R5をハイブリッドの中に含めてもよい。
【0056】
以上のように、上記実施形態1における増幅回路である電力増幅回路1は、ダーリントン接続されたトランジスタQ3及びトランジスタQ1によって第1のトランジスタ回路を構成し、ダーリントン接続されたトランジスタQ4及びトランジスタQ2によって第2のトランジスタ回路を構成する。第1及び第2のトランジスタ回路は、ほぼ同一の特性(パラメータ特性及び温度特性)を有する。この第1及び第2のトランジスタ回路を対称的に直列接続してSEPP回路を構成する。トランジスタQ5、トランジスタQ6、抵抗R7乃至R10は、このSEPP回路にバイアス電圧を印加してSEPP回路への入力信号が所定値以下の時においても、トランジスタQ1及びトランジスタQ2にアイドリング電流を流すバイアス回路を構成する。抵抗R3乃至R5は、トランジスタQ1及びトランジスタQ2にバイアス電流を流す役割を担うと共に、トランジスタQ1及びトランジスタQ2のベース電圧によってアイドリング電流の変動を検出してバイアス回路にフィードバックして、アイドリング電流を一定値に制御する検出回路を構成する。
【0057】
したがって、上記実施形態1における電力増幅回路1によれば、SEPP回路を構成する第1のトランジスタ回路及び第2のトランジスタ回路のベース電圧を検出することで、SEPP回路のアイドリング電流の変動を検出し、バイアス回路にフィードバックしてアイドリング電流を一定値に制御する検出回路を備えたことにより、熱結合によってSEPP回路の温度上昇の熱が放熱器を介してバイアス回路に伝わるまでに熱伝導のタイムラグがある場合でも、迅速な電子的フィードバックによって、アイドリング電流を一定の値に維持することにより、熱暴走の発生を未然に防止することができる。
【0058】
さらに、第1及び第2のトランジスタ回路を流れるアイドリング電流の安定度が増すことで、最終段のトランジスタであるトランジスタQ1及びQ2のエミッタに接続される抵抗R1及びR2を0Ωに(削除)することにより、回路構成が簡単になり、装置の小型化及びコストの低減を図ることができる。
【0059】
また、上記実施形態1における電力増幅回路1において、バイアス回路は、第1のトランジスタ回路に第1のバイアス電圧を印加する第1のバイアス回路、及び、第2のトランジスタ回路に第2のバイアス電圧を印加する第2のバイアス回路を有し、検出回路は、第1のトランジスタ回路のベース電圧によってアイドリング電流の変動を検出して第1のバイアス回路にフィードバックして第1のトランジスタ回路に流れるアイドリング電流を一定に制御するフィードバック回路(これを「第1の検出回路」と定義する)、及び、第2のトランジスタ回路のベース電圧によってアイドリング電流の変動を検出して第2のバイアス回路にフィードバックして第2のトランジスタ回路に流れるアイドリング電流を一定に制御するフィードバック回路(これを「第2の検出回路」と定義する)を有する。
【0060】
したがって、プラス側の第1のトランジスタ回路とマイナス側の第2のトランジスタ回路との熱的条件が異なる場合でも、より厳密に温度補償を行うことができる。例えば、図2に示すように、第1のトランジスタ回路(トランジスタQ1及びQ3)と第1のバイアス回路のトランジスタQ5とが放熱器F1に取り付けられ、第2のトランジスタ回路(トランジスタQ2及びQ4)と第2のバイアス回路のトランジスタQ6とが放熱器F2に取り付けられている場合に、熱結合によって第1のトランジスタ回路の温度上昇の熱が放熱器F1を介して第1のバイアス回路のトランジスタQ5に伝わるまで、及び、熱結合によって第2のトランジスタ回路の温度上昇の熱が放熱器F2を介して第2のバイアス回路のトランジスタQ6に伝わるまでに、時間差及び温度差(すなわち、時間軸における温度上昇特性の差)がある場合でも、アイドリング電流を一定の値に維持することにより、熱暴走の発生を未然に防止することができる。
【0061】
また、上記実施形態1における図1の電力増幅回路1において、第1の検出回路は、トランジスタQ1にバイアス電流を流す役割を担う直列接続された抵抗R3及びR4で構成され、抵抗R3及びR4によって分圧されたトランジスタQ1のベース電圧の分圧電圧を第1のバイアス回路にフィードバックする第1の経路(図1において、抵抗R3及びR4の交点と抵抗R8とを接続する信号線)を有する。同様に、第2の検出回路は、トランジスタQ2にバイアス電流を流す役割を担う直列接続されたR5及びR6で構成され、R5及びR6によって分圧されたトランジスタQ2のベース電圧の分圧電圧を第2のバイアス回路にフィードバックする第2の経路(図1において、抵抗R5及びR6の交点と抵抗R10とを接続する信号線)を有する。
【0062】
したがって、SEPP回路のトランジスタにバイアス電流を流す役割を担う直列接続された抵抗が、そのトランジスタのベース電圧を分圧してバイアス回路にフィードバックする役割を兼ね備えていることにより、回路構成が極めて簡単になり、装置の小型化及びコストの低減を図ることができる。
【0063】
なお、第1及び第2のトランジスタ回路にバイアス電流を流す役割を担う直列接続された抵抗は、3つ以上の複数の抵抗素子で構成してもよい。この場合には、トランジスタのベース電圧の分圧比を細かく調整することが可能になるので、アイドリング電流をより正確に細かく制御することができる。
【0064】
また、上記実施形態1における電力増幅回路1において、第1のバイアス回路は、第1のトランジスタ回路(トランジスタQ1及びQ3)の温度特性とほぼ同一の温度特性(−2mV/℃)を有する第1の半導体素子としてトランジスタQ5を備えている。このトランジスタQ5は、温度によって変動する第1のトランジスタ回路に流れるアイドリング電流が一定になるように第1のバイアス電圧を制御する制御手段を構成する。また、第2のバイアス回路は、第2のトランジスタ回路(トランジスタQ2及びQ4)の温度特性とほぼ同一の温度特性(−2mV/℃)を有する第2の半導体素子としてトランジスタQ6を備えている。このトランジスタQ6は、温度によって変動する第2のトランジスタ回路に流れるアイドリング電流が一定になるように第2のバイアス電圧を制御する制御手段を構成する。
【0065】
したがって、SEPP回路の温度変化によってアイドリング電流が変動した場合には、SEPP回路を構成するパワートランジスタのベース電圧を検出して電子的にバイアス回路にフィードバックする迅速な電子的フィードバックと、パワートランジスタの温度特性とほぼ同一の温度特性を有するバイアス回路のトランジスタの熱的フィードバックとによって、アイドリング電流の制御を確実に行うことができる。
【0066】
また、この場合において、図2に示したように、第1のトランジスタ回路(トランジスタQ1及びQ3)及び第1のバイアス回路の第1の半導体素子(トランジスタQ5)は第1の放熱器(放熱器F1)に取り付けられて熱結合を実現し、第2のトランジスタ回路(トランジスタQ2及びQ4)及び第2のバイアス回路の第2の半導体素子(トランジスタQ6)は第2の放熱器(放熱器F2)に取り付けられて熱結合を実現する。
【0067】
したがって、SEPP回路の温度変化によってアイドリング電流が変動した場合には、SEPP回路を構成するパワートランジスタのベース電圧を検出して電子的にバイアス回路にフィードバックする迅速な電子的フィードバック、パワートランジスタの温度特性とほぼ同一の温度特性を有するバイアス回路のトランジスタの熱的フィードバック、並びに、パワートランジスタ及びバイアス回路の半導体素子の熱結合のフィードバックによって、アイドリング電流の制御をよりいっそう確実に行うことができる。
【0068】
(実施形態2)
次に、本発明の増幅回路の実施形態2について、図4を参照して説明する。
図4は、実施形態2における電力増幅回路3の回路図である。
まず、図4の電力増幅回路3の回路構成について説明するが、図1に示した実施形態1における電力増幅回路1と同じ電子部品の構成については、同一の符号で表して重複する説明は省略する。
【0069】
図1のSEPP回路は、2段のダーリントン接続によって構成されていたが、図4のSEPP回路は、3段のダーリントン接続によって構成されている。すなわち、図4のSEPP回路には、図1のSEPP回路にトランジスタQ7及びQ8、抵抗R12及びR13が追加された構成になっている。トランジスタQ7とトランジスタQ8とはほぼ同一の特性(パラメータ特性及び温度特性)を有する。
【0070】
すなわち、電力増幅回路3は、3段にダーリントン接続されたNPNトランジスタQ7、Q3及びQ1からなる第1のトランジスタ回路と、3段にダーリントン接続されたPNPトランジスタQ8、Q4及びQ2からなる第2のトランジスタ回路とを、対称的に直列接続してSEPP回路を構成している。
【0071】
実施形態1の図1においては、第1のバイアス回路のトランジスタQ5のエミッタが直接に第1のトランジスタ回路を構成するトランジスタQ3のベースに接続されていた。また、第2のバイアス回路のトランジスタQ6のエミッタが直接に第2のトランジスタ回路を構成するトランジスタQ4のベースに接続されていた。しかし、この実施形態2においては、図4に示すように、第1のバイアス回路のトランジスタQ5のエミッタがダイオードD1のカソードに接続され、ダイオードD1のアノードが第1のトランジスタ回路を構成するトランジスタQ7のベースに接続されている。また、第2のバイアス回路のトランジスタQ6のエミッタがダイオードD2のアノードに接続され、ダイオードD2のカソードが第2のトランジスタ回路を構成するトランジスタQ8のベースに接続されている。
【0072】
この場合において、トランジスタQ7及びQ8、ダイオードD1及びD2は、トランジスタQ1乃至Q6とほぼ同一の温度特性、すなわち、−2mV/℃程度の負の温度特性を有する。
【0073】
また、トランジスタQ1及びQ2のエミッタに接続されている抵抗R1及びR2は、実施形態1の場合と同様、共に0Ωとする。トランジスタQ1及びQ2にバイアス電流を流すための抵抗R3乃至R6はすべて200Ωになっている。バイアス回路の抵抗R7及びR9は4.7kΩ、抵抗R8及びR10は1.2kΩになっている。ただし、これらの抵抗値は、各トランジスタのベース・エミッタ間の順方向の電圧のばらつきを考慮して調整可能な構成になっている。
【0074】
次に、図4の電力増幅回路3の動作について説明する。
図4において、第1のトランジスタ回路(トランジスタQ7、Q3及びQ1)に印加されるバイアス電圧(第1のバイアス電圧)をVbias1とする。また、第2のトランジスタ回路(トランジスタQ8、Q4及びQ2)に印加されるバイアス電圧(第2のバイアス電圧)をVbias2とする。
【0075】
抵抗R3及びR4の交点の電圧をVaとすると、電圧Vaは、トランジスタQ1のベース・エミッタ間の電圧VBE1、すなわち、トランジスタQ1の出力点から見たトランジスタQ1のベース電圧を抵抗R3の抵抗値及び抵抗R4の抵抗値の比率で分圧したものとなる。その分圧比をαとする。すなわち、抵抗R3及びR4の交点の電圧Vaは、トランジスタQ1のベース電圧を分圧比αで分圧した検出電圧であり、第1のバイアス回路にフィードバックされる。
【0076】
また、抵抗R5及びR6の交点の電圧をVbとすると、電圧Vbは、トランジスタQ2のベース・エミッタ間の電圧VBE2、すなわち、トランジスタQ2の出力点から見たトランジスタQ2のベース電圧を抵抗R5の抵抗値及び抵抗R6の抵抗値の比率で分圧したものとなる。この場合において、R3=R5=200Ω、R4=R6=200Ωであるので、その分圧比もαである。すなわち、抵抗R5及びR6の交点の電圧Vbは、トランジスタQ2のベース電圧を分圧比αで分圧した検出電圧であり、第2のバイアス回路にフィードバックされる。
【0077】
したがって、検出電圧Va及びVbは、下記の式で表される。
Va={R4/(R3+R4)}×VBE1=αVBE1
Vb={R6/(R5+R6)}×VBE2=αVBE2
R8を流れる電流i1及びR10を流れる電流i3は、
i1=(VBE5+VD1)/R7
i3=(VBE6+VD2)/R9
であるので、
Vbias1=
VBE5+VD1+{(VBE5+VD1)/R7}×R8+αVBE1
=VBE5×(1+R8/R7)+VD1×(1+R8/R7)+αVBE1・・・・(3)
Vbias2=
VBE6+VD2+{(VBE6+VD2)/R9}×R10+αVBE2
=VBE6×(1+R10/R9)+VD2×(1+R10/R9)+αVBE2・・(4)
となる。
【0078】
トランジスタQ7、Q8のベース・エミッタ間の順方向の電圧をそれぞれVBE7、VBE8とする。この場合において、VBE1乃至VBE8はほぼ同一の電圧であるので、
VBE1=VBE2=VBE5=VBE6=VBE
となる。さらに、D1及びD2の順方向電圧VD1及びVD2もVDEとほぼ同一の電圧であるので、これらを式(3)及び(4)に代入すると、
Vbias1=2VBE×(1+R8/R7)+αVBE
Vbias2=2VBE×(1+R10/R9)+αVBE
となる。
【0079】
さらに、VBE7=VBE3=VBE1=VBE8=VBE4=VBE2=VBE
であるので、ダーリントン接続された第1及び第2のトランジスタ回路にアイドリング電流を流すためには、
Vbias1=3VBE
Vbias2=3VBE
となる。したがって、3段にダーリントン接続された第1及び第2のトランジスタ回路からなるSEPP回路にアイドリング電流を流すためには、
【0080】
6VBE=2VBE×(1+R8/R7)+αVBE
+2VBE×(1+R10/R9)+αVBE
となる。したがって、トランジスタQ1及びQ2にアイドリング電流を流すために必要なバイアス電圧は、下記の関係を満たすことが条件となる。
R8/R7=(1−α)/2
R10/R9=(1−α)/2
【0081】
以上のように、上記実施形態2における増幅回路である電力増幅回路1は、3段にダーリントン接続されたトランジスタQ7、トランジスタQ3及びトランジスタQ1によって第1のトランジスタ回路を構成し、3段にダーリントン接続されたトランジスタQ8、トランジスタQ4及びトランジスタQ2によって第2のトランジスタ回路を構成する。第1及び第2のトランジスタ回路は、ほぼ同一の特性(パラメータ特性及び温度特性)を有する。この第1及び第2のトランジスタ回路を対称的に直列接続してSEPP回路を構成する。トランジスタQ5、トランジスタQ6、ダイオードD1及びD2、抵抗R7乃至R10は、このSEPP回路にバイアス電圧を印加してSEPP回路への入力信号が所定値(±0.6v)以下の時においても、トランジスタQ1及びトランジスタQ2にアイドリング電流を流すバイアス回路を構成する。抵抗R3乃至R5は、トランジスタQ1及びトランジスタQ2にバイアス電流を流す役割を担うと共に、トランジスタQ1及びトランジスタQ2のベース電圧によってアイドリング電流の変動を検出してバイアス回路にフィードバックして、アイドリング電流を一定値に制御する検出回路を構成する。
【0082】
したがって、上記実施形態2における電力増幅回路3によれば、上記実施形態1における電力増幅回路1と同様の効果が得られる。
【0083】
上記実施形態2においては、第1のバイアス回路に−2mV/℃程度の温度特性を有する第1の半導体素子としてダイオードD1を組み込み、第2のバイアス回路に−2mV/℃程度の温度特性を有する第2の半導体素子としてダイオードD2を組み込んで、3段のダーリントン接続で構成された第1及び第2のトランジスタ回路にアイドリング電流を流すようにした。他の実施形態として、4段以上のダーリントン接続によって構成された第1及び第2のトランジスタ回路にアイドリング電流を流す場合には、同じく−2mV/℃程度の温度特性を有する複数のダイオードを直列接続すればよい。
【0084】
このような他の実施形態の電力増幅回路においては、SEPP回路を構成する第1のトランジスタ回路及び第2のトランジスタ回路のそれぞれは、複数段のダーリントン接続によって構成され、検出回路は、最終段のトランジスタのベース電圧によってアイドリング電流の変動を検出してバイアス回路にフィードバックしてアイドリング電流を一定値に制御するように構成する。この場合にも、上記実施形態1及び実施形態2と同様の効果が得られることは明らかである。
【0085】
この場合において、バイアス回路は、複数段のダーリントン接続によって構成された第1のトランジスタ回路における初段のトランジスタに第1のバイアス電圧を印加する第1のバイアス回路、及び、複数段のダーリントン接続によって構成された第2のトランジスタ回路の初段のトランジスタに第2のバイアス電圧を印加する第2のバイアス回路を有し、検出回路は、第1のバイアス回路の最終段のトランジスタのベース電圧によってアイドリング電流の変動を検出して第1のバイアス回路にフィードバックして第1のトランジスタ回路に流れるアイドリング電流を一定に制御する第1の検出回路、及び、第2のトランジスタ回路の最終段のトランジスタのベース電圧によってアイドリング電流の変動を検出して第2のバイアス回路にフィードバックして第2のトランジスタ回路に流れるアイドリング電流を一定に制御する第2の検出回路を有するように構成する。
【0086】
なお、上記実施形態2及び他の実施形態において使用するダイオードは、トランジスタのベース・コレクタ間を短絡することによっても代用することができる。したがって、第1及び第2のバイアス回路に組み込む第1及び第2の半導体素子はトランジスタ素子でもよい。あるいは、トランジスタ素子及びダイオード素子の双方を組み合わせて使用してもよい。
【0087】
以上、上記実施形態1、実施形態2及び他の実施形態を例にとって本発明について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、当業者によって容易に想到される種々の変形や変更が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1、3 電力増幅回路
2 電力増幅回路の一部
I1 電流源
Q1〜Q8 トランジスタ
D1、D2 ダイオード
R1〜R13 抵抗
C1、C2 コンデンサ
X1 電圧増幅器
V1 信号源
+B プラス電源
−B マイナス電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランジスタ素子を有して構成される第1のトランジスタ回路と、前記トランジスタ素子とは逆極性のトランジスタ素子を有して構成される第2のトランジスタ回路と、が直列接続されると共に、両端が電源に接続されたシングルエンデッド・プッシュプル回路と、
前記第1のトランジスタ回路にバイアス電圧を印加する第1のバイアス回路と、
前記第2のトランジスタ回路にバイアス電圧を印加する第2のバイアス回路と、
前記第1のトランジスタ回路のベース電圧を検出して前記第1のバイアス回路にフィードバックする第1の検出回路と、
前記第2のトランジスタ回路のベース電圧を検出して前記第2のバイアス回路にフィードバックする第2の検出回路と、
を備えたことを特徴とする増幅回路。
【請求項2】
前記第1の検出回路は、前記第1のトランジスタ回路のベースとエミッタ間に直列接続された複数の抵抗素子で構成され、前記複数の抵抗素子によって分圧された前記第1のトランジスタ回路のベース電圧の分圧電圧を前記第1のバイアス回路にフィードバックし、前記第2の検出回路は、前記第2のトランジスタ回路のベースとエミッタ間に直列接続された複数の抵抗素子で構成され、前記複数の抵抗素子によって分圧された前記第2のトランジスタ回路のベース電圧の分圧電圧を前記第2のバイアス回路にフィードバックすることを特徴とする請求項1に記載の増幅回路。
【請求項3】
前記第1のバイアス回路は、前記第1のトランジスタ回路を構成するトランジスタ素子の温度特性と同一の温度特性を有する第1の半導体素子を備え、前記第2のバイアス回路は、前記第2のトランジスタ回路のトランジスタ素子の温度特性と同一の温度特性を有する第2の半導体素子を備えることを特徴とする請求項1に記載の増幅回路。
【請求項4】
前記第1のトランジスタ回路及び前記第2のトランジスタ回路は、それぞれ複数段のダーリントン接続によって構成され、
前記第1のバイアス回路及び前記第2のバイアス回路は、それぞれ前記第1のトランジスタ回路及び前記第2のトランジスタ回路における初段のトランジスタにバイアス電圧を印加し、
前記第1の検出回路及び前記第2の検出回路は、それぞれ前記第1のトランジスタ回路及び前記第2のトランジスタ回路の最終段のトランジスタのベース電圧を検出して前記第1のバイアス回路及び前記第2のバイアス回路にフィードバックするように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の増幅回路。
【請求項5】
前記第1及び第2の半導体素子は、トランジスタ素子若しくはダイオード素子又はトランジスタ素子及びダイオード素子で構成されることを特徴とする請求項3に記載の増幅回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−138860(P2012−138860A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291356(P2010−291356)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】