説明

壁面構造体とその構築方法

【課題】 外壁部分の開口部に、特殊な構成部材や接合金物を用いずかつ手間をかけずに、外壁取付部材を自由な位置に取付け、かつその他の部分をコンクリート板で塞ぐことができ、更に優れた耐震性能を発揮する壁面構造体とその構築方法を提案する。
【解決手段】 開口部1の所望の位置で構造躯体(梁3、スラブ4)に取り付けられた外壁取付部材12(窓サッシ、玄関扉等)と、外壁取付部材の取付け部以外を塞ぐコンクリート板14と、コンクリート板の上下部を構造躯体に揺動可能に固定する上部及び下部の固定装置16、18とからなる。上部固定装置16は、上端が開口部上縁の構造躯体に固定されコンクリート板の上端面を揺動可能に吊り下げる。また下部固定装置18は、下端が開口部下縁の構造躯体に固定されコンクリート板の下端面を揺動可能に支持し、支持部材間をシール部材21で水密にシールする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の構造躯体に構築された開口部を塞ぐ壁面構造体とその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マンション等の分譲集合住宅において、分譲集合住宅の購入者が、自分のライフスタイルに合わせて間取りを選択できるように、各住戸区画(購入者の専有部分)の間取りを希望に応じて変更できることが従来から強く要望されている。
この要望に応じて、近年では、3〜4タイプの間取りから自由に選択できることが一般的になっており、更に、20タイプや30タイプもの間取りから選択できるものも現れてきている。
【0003】
一方、鉄筋コンクリート造の集合住宅の施工においては、建物の構造躯体(柱、梁、スラブ等)の構築と同時に構造上強度が重視されない壁(住居間の内壁や外壁等)も構築し、その後に各住居内の間仕切壁や内装を行う工法(以下、「壁一体工法」と呼ぶ)が一般的である。しかし壁一体工法の場合、間取りが変化すると、当然のことながら部屋の配置が変わり、それによって外壁に面する窓枠の位置、大きさ、形状を変える必要がある。
【0004】
そのため、分譲集合住宅においては、すべての購入者の間取りが決まらないと、建物の構造躯体の構築(型枠の製作やコンクリートの打設)ができず、住宅の完成が遅れる問題があった。その結果、従来、購入者は、建物の構造躯体を構築する前に、早期に間取りを決定しなければならない不便があった。
【0005】
そこで、窓枠を設ける外壁部分を構造躯体と一体に構築せずにその部分を開口部として構造躯体を先に構築し、間取り決定後に、開口部をコンクリート板や窓サッシで塞ぐ工法(以下、「壁分離工法」と呼ぶ)が提案されている(例えば、特許文献1、2)。
【0006】
図8は、軽量気泡コンクリート(ALC:Autoclaved Light-weight Concrete)製の板(以下、ALC板という)を用いた壁分離工法による外壁構造の室内側からの正面図であり、図9は、そのALC板部分の断面図である。
図8において、両サイドが柱2、上部が梁3、下部がスラブ4で、四方が建物の構造躯体に囲まれた開口部1に窓サッシとALC板を取付けた構造を示している。窓サッシは、通常、サッシの外枠の上下を開口部に数ヶ所設けられたアンカーに溶接固定し、隙間にモルタルを充填することで固定される。
また、ALC板は図9に示すとおり、下部は、防水上の観点からコンクリート立ち上がりを形成し、その上にL形アングルを敷設し、ALC固定プレートで接合され、上部は、開口部の上部に取付けたL形アングルにALC固定プレートで接合される。
【0007】
特許文献1の「壁体の構築法」は、壁体を多様な形態に容易に変えることができるようにすることを目的とし、図10に示すように、複数種類の基本壁ユニット51,53,58を用意しておき、これらの基本壁ユニットから選択した複数の基本壁ユニットを柱61及び梁62に囲まれた開口部63に建て込んで、取付け部材64,65に取り付けてユニット壁体60を構築するものである。
【0008】
特許文献2の「壁面構造体」は、自由な間取りの変更に対応できることを主目的とし、図11に示すように、相対向する柱61と上下の梁62とによって囲まれた壁面開口部に配設され壁面を構成する壁面構造体70を、可動サッシ71と、柱61と可動サッシ71の間に配設される中空パネル部材72と、可動サッシ71同士の間に配設される固定サッシ73とで構成するものである。
【0009】
【特許文献1】特開平5−133023号公報、「壁体の構築法」
【特許文献2】特開2000−248663号公報、「壁面構造体」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図8の正面概略図からわかるとおり、従来のALC板を用いた外壁構造では、予め窓サッシの大きさや位置が決まっていないと、ALC板を取付けるためのコンクリート立ち上がりを造ることができない。また、このコンクリート立ち上がりは、防水処理を行うためのものであるから、建物の構造躯体を構築する際に一体的に施工するのが好ましい。
一方、窓サッシは、上述したように、サッシの外枠の上下を開口部に数ヶ所設けられたアンカーに溶接固定し、隙間にモルタルを充填することで固定されるので、ALC板の部分と窓サッシ部とでは、コンクリート立ち上がりの有無のため段差ができる。
従って、従来のALC板を用いた外壁構造では、壁分離工法であっても、間取り変更によって、窓サッシの大きさや位置に変更があった場合、その変更に対応できないという問題があった。
さらに、建物の構造躯体の位置精度は、型枠のずれやコンクリートの圧力等により、数ミリ程度は誤差が生じることが多い。そのため、従来は、建て込むALC板の水平レベルを一定にするために、コンクリート立ち上がりの上面にモルタルを塗り、レベルを一定にした上でL形アングルの固定をするか、上部板固定板でALC板を固定する際に水平レベルをとる必要があり、レベル調整に手間が掛かる問題があった。
【0011】
一方、特許文献1や特許文献2の手段によれば、建物の構造躯体の構築後であっても、購入者が選択する間取りに合わせて外壁に面する窓サッシの形状や大きさを変えて施工することが可能になり、購入者に不便を強いることが解消される。
しかし、特許文献1は、柱や梁あるいは壁やスラブによって形成される開口部の上部と下部にランナー部材を設け、その上下のランナー部材の間に壁部材や窓サッシを固定する構成であり、当然のことながら、従来の窓サッシやALC板をそのまま利用することができない欠点があり、特殊な構成部材を必要とすることから結果的にコスト高であるという問題がある。
【0012】
また、特許文献2では、各構成部材についてパネル化し、地震時における層間水平変位に追従可能な外壁部材が提案されているが、層間変位に追従するための機構が複雑であり、そのための特殊な接合金物を必要とすることから、やはり結果的にコスト高であるという問題がある。
【0013】
本発明は、これらの問題に鑑み創案されたものである。すなわち本発明の目的は、外壁部分を開口部として構造躯体を先に構築し、間取り決定後に、特殊な構成部材や接合金物を必要とすることなく、かつレベル調整等に手間をかけることなく、窓サッシ、玄関扉等の外壁取付部材を自由な位置に取付け、かつその他の部分をコンクリート板で塞ぐことができ、更に優れた耐震性能を発揮することができる壁面構造体とその構築方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、建物の構造躯体に構築された外壁部分に相当する開口部を塞ぐ壁面構造体であって、
前記開口部の所望の位置で構造躯体に取り付けられた外壁取付部材と、該外壁取付部材の取付け部以外を塞ぐコンクリート板と、該コンクリート板の上下部を構造躯体に揺動可能に固定する上部及び下部の固定装置とからなり、
上部固定装置は、上端が開口部上縁の構造躯体に固定されコンクリート板の上端面を揺動可能に吊り下げる吊下装置であり、
下部固定装置は、下端が開口部下縁の構造躯体に固定されコンクリート板の下端面を揺動可能に支持する支持装置であり、
該支持装置は、コンクリート板の下端中央部の一点を揺動可能に支持する第1支持部材と、該第1支持部材に上部が固定され下端が構造躯体に固定された第2支持部材と、第1支持部材と第2支持部材の間を水密に塞ぐシール部材とからなる、ことを特徴とする壁面構造体が提供される。
【0015】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記第1支持部材は、コンクリート板の下端中央部の一点で揺動可能にコンクリート板に固定された板固定板と、該板固定板の下端に一部が溶接されコンクリート板の下端面から一定の隙間を有する水平部を有する第1のL形部材とからなり、
前記第2支持部材は、第1L形部材に一部が溶接され開口部下縁に沿って延びる水平部を有する第2のL形部材とからなり、
前記シール部材は、第1L形部材と第2L形部材の間を水密に塞ぐモルタルと、該モルタルの室外側表面を水密に覆う防水部材と、該防水部材とコンクリート板の下端面との間を着脱可能にシールするシーリング部材とからなる。
【0016】
また本発明によれば、建物の構造躯体に構築された外壁部分に相当する開口部を塞ぐ壁面構造体の構築方法であって、
外壁取付部材を前記開口部の所望の位置で構造躯体に取り付け、
コンクリート板を外壁取付部材の取付け部以外に位置決めし、
上端が開口部上縁の構造躯体に固定された吊下装置で、コンクリート板の上端面を揺動可能に吊り下げ、
下端が開口部下縁の構造躯体に固定された支持装置で、コンクリート板の下端面を揺動可能に支持し、これにより各コンクリート板の上下部を構造躯体に揺動可能に固定する、ことを特徴とする壁面構造体の構築方法が提供される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記支持装置は、コンクリート板の下端中央部の一点を揺動可能に支持する第1支持部材と、該第1支持部材に上部が固定され下端が構造躯体に固定された第2支持部材と、第1支持部材と第2支持部材の間を水密に塞ぐシール部材とからなる。
【0018】
前記第1支持部材は、コンクリート板の下端中央部の一点で揺動可能にコンクリート板に固定された板固定板と、該板固定板の下端に一部が溶接されコンクリート板の下端面から一定の隙間を有する水平部を有する第1のL形部材とからなり、
前記第2支持部材は、第1L形部材に一部が溶接され開口部下縁に沿って延びる水平部を有する第2のL形部材とからなり、
前記シール部材は、第1L形部材と第2L形部材の間を水密に塞ぐモルタルと、該モルタルの室外側表面を水密に覆う防水部材と、該防水部材とコンクリート板の下端面との間を着脱可能にシールするシーリング部材とからなる。
【発明の効果】
【0019】
上記本発明の壁面構造体とその構築方法によれば、建物の構造躯体に外壁部分に相当する開口部を構築し、この開口部の所望の位置に外壁取付部材(窓サッシ、玄関扉等)を構造躯体に取り付け、コンクリート板で外壁取付部材の取付け部以外を塞ぐので、外壁部分を開口部として構造躯体を先に構築し、間取り決定後に、窓サッシ、玄関扉等の外壁取付部材を自由な位置に取付け、かつ、その他の部分をコンクリート板で塞ぐことができる。
【0020】
また、外壁取付部材(窓サッシ、玄関扉等)は、開口部の所望の位置で構造躯体に従来と同様に取り付け、コンクリート板は、従来と同様の上部固定装置と下部固定装置、すなわち、板固定板、L形部材、シール部材(モルタル、防水部材及びシーリング部材)で取り付けられるので、特殊な構成部材や接合金物を必要とすることなく安価に構築することができる。
【0021】
さらに、支持装置を構成する第1支持部材と第2支持部材は、板固定板、第1L形部材、および第2L形部材からなり、第1L形部材に第2L形部材の一部を溶接することで、開口部下縁からコンクリート板の下端面までの位置(高さ)を調整できるので、ALC板の水平レベルを一定にするために、コンクリート立ち上がりの上面にモルタルを塗るようなレベル調整の手間をなくすことができる。
【0022】
また、コンクリート板の上下部が上部及び下部の固定装置で構造躯体に揺動可能に固定されるので、地震等の際に各コンクリート板が上下部が固定されたまま変位に追従して揺動することができ、優れた耐震性能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0024】
図7は、ロッキング構法の原理図である。ロッキング構法とは、上下に長い矩形のALC板(又はPC板)の上下中央部の各一点を構造躯体に揺動可能に固定することにより、地震時に構造躯体の上部と下部が変位を受けた場合でも、ALC板がこれに追従して揺動し、ALC板に作用する外力を低減し、その亀裂や破損を防止するものである。
地震時の変位は、構造躯体の層間変形角Rで代表することができ、R=1/200は、関東大震災や神戸地震級の大地震である。従ってR=1/200において、建物が損傷を受けても崩壊しなければよいとされている。
【0025】
そこでALC板による従来構法を再度検討してみると、そもそも、従来の窓サッシ自体が、許容範囲とされる層間変位角1/200に追従できるものであり、窓サッシに関しては従来どおりの構造であっても関東大震災や神戸地震級の大地震に耐えられるといえる。
また、ALC板の固定手段についても、層間変位に対応するロッキング構法を生かすことにより、同様に大地震に耐えられる構造とすることができる。本発明はかかる新規の知見に基づくものである。
【0026】
図1は、本発明による壁面構造体の外壁の室内側からの正面図であり、図2は図1のA−A線における横断面図である。
【0027】
図1に示すように、本発明の壁面構造体10は、建物の構造躯体に構築された外壁部分に相当する開口部1を塞ぐものである。建物の構造躯体は、この例において、2本の鉛直な柱2、上部の水平な梁3、及び下部の水平なスラブ4からなり、その内側に開口部1を形成している。開口部1は好ましくは矩形開口部であり、開口部の下面(スラブ4の上面)が一定の水平高さに設定されている。
なお開口部1は、建物の設計上,意匠上の要求により、台形、平行四辺形等の異形であってもよい。
【0028】
本発明の壁面構造体10は、外壁取付部材12、コンクリート板14、及び上部及び下部の固定装置16,18からなる。
【0029】
外壁取付部材12は、この例では、窓サッシ12aであり、開口部1の所望の位置で構造躯体に直接取り付けられる。窓サッシの取付け手段は、サッシの外枠の上下を開口部に数ヶ所設けられたアンカーに溶接で固定し、隙間にモルタルを充填するのがよい。
しかし、本発明はこの手段に限定されず、耐震性能を有し、かつ安価にできれば他の周知の手段でもよい。
【0030】
コンクリート板14は、この例ではALC板(軽量気泡コンクリート板)であるが、PC板(プレキャストコンクリート板)であってもよい。またコンクリート板14の形状は、好ましくは矩形であるが、異形開口に合わせるために部分的に異形であってもよい。コンクリート板14は、外壁取付部材12の取付け部以外を塞ぐように1又は複数設けられる。コンクリート板14の大きさ及び形状は、規格として統一してもよく、或いは開口部に合わせて適宜設定してもよい。
なおこの例では、各コンクリート板14は上下に長い長方形であり、上端中央と下端中央に固定用のボルト孔14a(雌ネジ)が設けられている。
【0031】
上部及び下部の固定装置16,18は、コンクリート板14の上下部を構造躯体に揺動可能に固定する機能を有する。
【0032】
図2に示すように、上部固定装置16は、上端が開口部上縁の構造躯体(梁3の下面)に固定され、コンクリート板14の上端面を揺動可能に吊り下げる吊下装置である。
この吊下装置16は、この例では、上部板固定板16aと上部L形部材16b(例えばL形アングル)とからなる。
【0033】
上部板固定板16aは、コンクリート板14の上部中央部の一点でセットボルト(この例ではアンカー)5aで揺動可能にコンクリート板14に固定されている。また、上部L形部材16bは、上部板固定板16aの上端部に一部が溶接され、コンクリート板14の上端面から一定の隙間Aを有する水平部を有するL形部材(アングル)である。上部L形部材16bは、アンカー6aで開口部上縁の構造躯体(梁3の下面)に固定されている。
【0034】
コンクリート板14の上端面から上部L形部材16bの水平部下面まで(この例ではアンカー6aの頭部まで)の一定の隙間Aは、地震等の際に各コンクリート板14が上下部が固定されたまま変位に追従して揺動することができるように設定する。この隙間Aは、例えば5〜10mmである。
【0035】
さらに、この隙間Aには、コンクリート板14の揺動を阻害しまいように可撓性のある部材(例えばセラミックウール7a)が充填され、さらにその外側には、開口部上縁の構造躯体(梁3の下面)とコンクリート板14の上端面との間を着脱可能にシールするシーリング部材8(シーリング)とバックアップ材9aが取り付けられている。
【0036】
下部固定装置18は、下端が開口部下縁の構造躯体(スラブ4の上面)に固定され、コンクリート板14の下端面を揺動可能に支持する支持装置である。
この支持装置18は、第1支持部材19、第2支持部材20、及びシール部材21からなる。
第1支持部材19は、コンクリート板12の下端中央部の一点でセットボルト(この例ではアンカー)5bで揺動可能にコンクリート板14に固定された上部板固定板19aと、上部板固定板19aの下端に一部が溶接されコンクリート板12の下端面から一定の隙間(図示せず)を有する水平部を有する第1のL形部材19b(例えばL形アングル)とからなり、コンクリート板14の下端中央部の一点を揺動可能に支持する。
【0037】
コンクリート板14の下端面から第1L形部材19bの水平部上面までの一定の隙間は、地震等の際に各コンクリート板14が上下部が固定されたまま変位に追従して揺動することができるように設定する。この隙間は、例えば5〜10mmである。
【0038】
第2支持部材20は、第1L形部材19bに一部が溶接され、開口部下縁(水平なスラブ4)に沿って延びる水平部を有する第2L形部材20(例えばL形アングル)からなる。第2L形部材20は、アンカー6bで開口部下縁の構造躯体(水平なスラブ4の上面)に固定されている。
【0039】
シール部材21は、第1L形部材19bと第2L形部材20の間を水密に塞ぐモルタル21aと、モルタルの室外側表面を水密に覆う防水部材(この例で防水層)21bと、防水部材21bとコンクリート板14の下端面との間を着脱可能にシールするシーリング部材22とからなる。なお防水層がシーリング部材22に被る構成でもよい。
モルタル21aは、この例では、室内側が高く室外側が低い階段状に形成されている。また、モルタル21aの低い部分とコンクリート板の下端面との間にシーリング部材22が挟持され、その内側には、バックアップ材9bが取り付けられている。
さらに、モルタル21aとバックアップ材9bの隙間には、可撓性のある部材(例えばセラミックウール7bが充填されている。なおセラミックウール7bに替えてモルタルを充填する構成でもよい。
この構成により、従来のコンクリート立ち上がりに相当する部分は、防水層21b、シーリング部材22、バックアップ材9b、セラミックウール7b、モルタル21a、第2L形部材20等で置き換えられており、外側から内側まで第1支持部材19と第2支持部材20の間を水密に塞ぐことができる。
【0040】
上述した壁面構造体は、以下のように構築する。
外壁取付部材12(窓サッシ12a)は、開口部1の所望の位置で構造躯体(柱2、梁3、スラブ4)に取り付ける。この取付けは、サッシの外枠の上下を開口部に数ヶ所設けられたアンカーに溶接で固定し、隙間にモルタルを充填するのがよい。
コンクリート板14は、外壁取付部材の取付け部以外を塞ぐように位置決めし、吊下装置16で、コンクリート板の上端面を揺動可能に吊り下げ、支持装置18で、コンクリート板の下端面を揺動可能に支持する。これにより各コンクリート板の上下部が構造躯体に揺動可能に固定される。
また、支持装置18は、第1支持部材19、第2支持部材20、及びシール部材21からなるので、従来のコンクリート立ち上がりに相当する部分は、防水層21b、シーリング部材22、バックアップ材9b、セラミックウール7b、モルタル21a、第2L形部材20等で置き換えられており、外側から内側まで第1支持部材19と第2支持部材20の間を水密に塞ぐことができる。
【0041】
上述したように、本発明の特徴は、従来の下部構造であるコンクリート立ち上がりの上に設けられた第1のL形部材19bを、さらに支える第2L形部材20を設けたところにある。
そして、第1L形部材19bと第2L形部材20との間にモルタル21aを充填し、防水層21bで被覆することで、従来のコンクリート立ち上がりと同一防水性能を確保している。
また、こうした構造にしたことで、従来のようなコンクリート立ち上がりを必要としないので、鉄筋コンクリート造の建物において、柱、梁、スラブといった躯体構造の構築工程に係わりなく、必要な時期に窓サッシなど開口部廻りの壁を構築できる。当然、ALC板の取り付け位置も自由に設定できる。
さらに、従来は、建て込むALC板の水平レベルを一定にするために、コンクリート立ち上がりの上面にモルタルを塗り、レベルを一定にした上でL形アングルの固定をするか、上部板固定板でALC板を固定する際に水平レベルをとる必要があり、レベル調整に手間が掛かる問題があったが、本発明に係わる構造では、第2L形部材20をアンカー止めした後に、第1L形部材19bの水平レベルを取りながら第2L形部材20に溶接するだけなので容易に水平レベルが出せる。
【0042】
また、図2からわかるように、ALC板の下部は、従来のコンクリート立ち上がりとは異なり、L形アングル19b,20を用いているので鉄筋コンクリート造などの柱、梁、スラブなどの構造躯体の構築時と関係なく、ALC板の後付けが可能であり、また、窓サッシの幅や位置が変更になっても、上記の構造躯体の構築時と関係なく関係なく、ALC板の後付けが可能である。
【0043】
図3は、本発明の壁面構造体の第2実施形態を示す図2と同様の横断面図である。この図において、シール部材21のモルタル21aは、ほぼ矩形であり、モルタル21a’は、左官仕上げである。防水層21bは、モルタル21a’を被う構成となっている。その他の構成は、図2と同様である。
この構成によっても、従来のコンクリート立ち上がりに相当する部分を、左官仕上げのモルタル21b、シーリング部材22、バックアップ材9b、モルタル21a、第2L形部材20等で置き換えることができ、同様に、外側から内側まで第1支持部材19と第2支持部材20の間を水密に塞ぐことができる。
【0044】
また、図3において、コンクリート板14の下端面から第1L形部材19bの水平部上面までの一定の隙間Bは、ロッキングスペーサー23で設定されている。ロッキングスペーサー23は、隙間Bに相当する厚さの小片板であり、セットボルト5bの真下位置に挟持され、コンクリート板14の下端を載せることでその組付けを容易にし、かつその揺動を阻害しないようになっている。
【0045】
図4は、本発明による壁面構造体の外壁の室内側からの別の正面図である。
外壁取付部材12は、この例では、窓サッシ12aと玄関12bである。また、この例では、本発明の構造である第1L形部材19bと第2L形部材20でALC板14による壁の構築が行われている。
こうした壁形状においても、従来のようにコンクリートの立ち上がりがある場合、間取り変更などにより玄関扉の位置の変更があると、その変更に対応できない問い問題があったが、本発明の構造によれば、変更に対応可能である。
【0046】
図5は、本発明による壁面構造体の外壁の別の平面図である。この図は、壁の形状が折れ曲がっている場合のALC板の配置状態を示している。
この図のように、出窓カウンターを設けるような出入のある壁形状に変更する場合であっても、壁を必要とする部分に第2L形部材20を設けることで変更に対応できる。
【実施例1】
【0047】
図6は、本発明による実施例を示す壁面構造体正面図である。上述した本発明の構築方法による壁面構造体を製作し、耐震試験を実施した。
製作した壁面構造体は、図5に示した壁の形状が折れ曲がっている場合であり、8枚のALC板を図5のように配置し、その一部に窓サッシを設けた。ALC板部分の断面構造は、図3に示したものを用いた。
耐震試験は、上部の梁に相当する上部部材を加圧ジャッキに接続し、加圧ジャッキにより左右水平に加振した。水平加振力は、層間変形角をR=1/800から1/100まで増加させ、各部の変位や亀裂を計測した。
その結果、本発明による壁面構造体は、層間変形角1/100の加振終了時においても補修可能な程度の損傷しか生じておらず、関東大震災や神戸地震級の大地震のも耐えられる耐震性能が確認された。
【0048】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない限りで種々に変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明による壁面構造体の外壁の室内側からの正面図である。
【図2】図1のA-A線における横断面図である。
【図3】本発明の壁面構造体の第2実施形態を示す図2と同様の横断面図である。
【図4】本発明による壁面構造体の外壁の室内側からの別の正面図である。
【図5】本発明による壁面構造体の外壁の別の平面図である。
【図6】本発明による実施例を示す壁面構造体正面図である。
【図7】ロッキング構法の原理図である。
【図8】従来の壁分離工法による外壁構造の室内側からの正面図である。
【図9】図8のALC板部分の断面図である。
【図10】特許文献1の「壁体の構築法」の構造図である。
【図11】特許文献2の「壁面構造体」の構造図である。
【符号の説明】
【0050】
1 開口部、2 柱、3 梁、4 スラブ、
5a,5bセットボルト(アンカー)、6a,6bアンカー、
7a,7b セラミックウール、8 シーリング部材、
9a,9bバックアップ材、
10 壁面構造体、
12 外壁取付部材、12a 窓サッシ、
14 コンクリート板(ALC板、PC板)、14a ボルト孔、
16 上部固定装置、
16a 上部板固定板、16b 上部L形部材(L形アングル)、
18 下部固定装置、19 第1支持部材、
19a 上部板固定板、19b 第1L形部材(L形アングル)、
20 第2支持部材(第2L形部材、L形アングル)、
21 シール部材、21a モルタル、21b 防水部材(防水層)、
22 シーリング部材、23 ロッキングスペーサー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の構造躯体に構築された外壁部分に相当する開口部を塞ぐ壁面構造体であって、
前記開口部の所望の位置で構造躯体に取り付けられた外壁取付部材と、該外壁取付部材の取付け部以外を塞ぐコンクリート板と、該コンクリート板の上下部を構造躯体に揺動可能に固定する上部及び下部の固定装置とからなり、
上部固定装置は、上端が開口部上縁の構造躯体に固定されコンクリート板の上端面を揺動可能に吊り下げる吊下装置であり、
下部固定装置は、下端が開口部下縁の構造躯体に固定されコンクリート板の下端面を揺動可能に支持する支持装置であり、
該支持装置は、コンクリート板の下端中央部の一点を揺動可能に支持する第1支持部材と、該第1支持部材に上部が固定され下端が構造躯体に固定された第2支持部材と、第1支持部材と第2支持部材の間を水密に塞ぐシール部材とからなる、ことを特徴とする壁面構造体。
【請求項2】
前記第1支持部材は、コンクリート板の下端中央部の一点で揺動可能にコンクリート板に固定された板固定板と、該板固定板の下端に一部が溶接されコンクリート板の下端面から一定の隙間を有する水平部を有する第1のL形部材とからなり、
前記第2支持部材は、第1L形部材に一部が溶接され開口部下縁に沿って延びる水平部を有する第2のL形部材とからなり、
前記シール部材は、第1L形部材と第2L形部材の間を水密に塞ぐモルタルと、該モルタルの室外側表面を水密に覆う防水部材と、該防水部材とコンクリート板の下端面との間を着脱可能にシールするシーリング部材とからなる、ことを特徴とする請求項1記載の壁面構造体。
【請求項3】
建物の構造躯体に構築された外壁部分に相当する開口部を塞ぐ壁面構造体の構築方法であって、
外壁取付部材を前記開口部の所望の位置で構造躯体に取り付け、
コンクリート板を外壁取付部材の取付け部以外に位置決めし、
上端が開口部上縁の構造躯体に固定された吊下装置で、コンクリート板の上端面を揺動可能に吊り下げ、
下端が開口部下縁の構造躯体に固定された支持装置で、コンクリート板の下端面を揺動可能に支持し、これにより各コンクリート板の上下部を構造躯体に揺動可能に固定する、ことを特徴とする壁面構造体の構築方法。
【請求項4】
前記支持装置は、コンクリート板の下端中央部の一点を揺動可能に支持する第1支持部材と、該第1支持部材に上部が固定され下端が構造躯体に固定された第2支持部材と、第1支持部材と第2支持部材の間を水密に塞ぐシール部材とからなる、ことを特徴とする請求項3に記載の壁面構造体の構築方法。
【請求項5】
前記第1支持部材は、コンクリート板の下端中央部の一点で揺動可能にコンクリート板に固定された板固定板と、該板固定板の下端に一部が溶接されコンクリート板の下端面から一定の隙間を有する水平部を有する第1のL形部材とからなり、
前記第2支持部材は、第1L形部材に一部が溶接され開口部下縁に沿って延びる水平部を有する第2のL形部材とからなり、
前記シール部材は、第1L形部材と第2L形部材の間を水密に塞ぐモルタルと、該モルタルの室外側表面を水密に覆う防水部材と、該防水部材とコンクリート板の下端面との間を着脱可能にシールするシーリング部材とからなる、ことを特徴とする請求項4記載の壁面構造体の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−112113(P2006−112113A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−300269(P2004−300269)
【出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年7月31日 社団法人日本建築学会発行の「2004年度大会(北海道)学術講演梗概集 A−1分冊」に発表
【出願人】(000150615)株式会社長谷工コーポレーション (94)
【Fターム(参考)】