説明

変性ポリビニルアセタール樹脂、塗工ペースト、導電ペースト及びセラミックペースト

【課題】 本発明は、チキソトロピー性及び熱分解性に優れた変性ポリビニルアセタール樹脂、並びに、この変性ポリビニルアセタール樹脂を含有してなり、印刷時において糸引き、目詰まり及びニジミが発生しにくい印刷性に優れた導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストを提供する。
【解決手段】 本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、変性ポリビニルエステル樹脂をケン化してなる変性ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとのアセタール化反応により合成される変性ポリビニルアセタール樹脂であって、エチレン成分の含有量が1〜20モル%、ケン化度80モル%以上、側鎖として結合している水酸基の量が15〜40モル%、側鎖として結合しているカルボキシ基の量が0.01〜10モル%で且つアセタール化度が40〜80モル%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリビニルアセタール樹脂、並びに、この変性ポリビニルアセタール樹脂を含有してなる導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
積層型の電子部品、例えば、積層セラミックコンデンサは、一般に次のような工程を経て製造される。先ず、ポリビニルブチラール樹脂などのバインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤などを添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミルにより均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーターなどを用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム又はSUSプレートなどの支持体面に流延成形する。これを加熱することにより、有機溶剤の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0003】
次に、得られたセラミックグリーンシート上に内部電極層となる導電ペーストをスクリーン印刷したものを交互に複数枚積み重ね、加熱圧着して積層体を得、この積層体中に含まれるバインダー樹脂成分を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を焼結する工程を経て積層セラミックコンデンサが得られる。
【0004】
近年、積層セラミックコンデンサを小型化・高容量化する目的で、セラミックグリーンシートの薄層化や多層化が進められている。しかしながら、セラミックグリーンシートの薄層化や多層化が進むにつれ、導電ペーストが印刷されている部分とされていない部分との段差が大きくなり、積層体を加熱圧着する際に、層間剥離(デラミネーション)やセラミックグリーンシート及び内部電極層の変形が生じて、積層セラミックコンデンサの電気特性や信頼性が低下するという問題が生じた。
【0005】
そこで、特許文献1に記載されているように、導電ペーストを印刷した後、セラミックグリーンシート上の導電ペーストが印刷されていない部分にセラミックペーストを印刷し、セラミックグリーンシートを積み重ねた際に段差が生じないようにして積層セラミックコンデンサを製造する方法も提案されている。
【0006】
上記積層セラミックコンデンサの内部電極層を形成するのに用いられる導電ペーストとしては、金属粉末、バインダー樹脂及び有機溶剤からなるものが使用されており、例えば、特許文献2に、導電性金属として金属パラジウム粉末、バインダー樹脂としてエチルセルロース、有機溶剤としてテルピネオール及びケロシンを含有してなる導電ペーストが開示されており、特許文献3に、導電性金属として金属パラジウム粉末、バインダー樹脂としてエチルセルロース、有機溶剤としてテレビン油及びエチルセロソルブを含有してなる導電ペーストが開示されている。
【0007】
一方、上記セラミックグリーンシートを積み重ねた際に段差を生じにくくするために印刷されるセラミックペーストとしては、セラミック粉末、バインダー樹脂及び有機溶剤からなるものが使用されており、上記バインダー樹脂としては、一般に、エチルセルロースが用いられている。
【0008】
しかしながら、上述のようなエチルセルロースをバインダー樹脂としてなる、導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストは、ポリビニルブチラール樹脂からなるセラミックグリーンシートへの接着性が充分でないため、これらの塗工ペーストにより形成された内部電極層やセラミックペースト層が、セラミックグリーンシートから剥離してしまうという問題や、エチルセルロースの熱分解性が劣るため、脱脂処理及び焼成後もセラミックグリーンシート上に炭素成分が残留して、積層セラミックコンデンサの電気特性を損なうという問題が生じた。
【0009】
上記問題を解決するために、塗工ペーストのバインダー樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂を使用することも考えられたが、この塗工ペーストは、セラミックグリーンシートに印刷する際に糸引き及び目詰まりが発生しやすく、内部電極層やセラミックペースト層を精度よく印刷することができなくなって、積層セラミックコンデンサの歩留まりが低下するという欠点があった。
【0010】
このような欠点を解消するポリビニルアセタール樹脂として、発明者らは、特許文献4に示すような変性ポリビニルアセタール樹脂を含有する導電ペースト用バインダー樹脂を提案している。しかしながら、近年の積層セラミックコンデンサの更なる小型化・高容量化に対応するために、塗工ペーストに求められる印刷性能も一層厳しくなってきており、スクリーン印刷時の糸引き、目詰まり及びニジミを更に低減することのできる塗工ペーストを得ることができるポリビニルアセタール樹脂が求められている。
【0011】
ここで、上記糸引きとは、スクリーン印刷に用いるスクリーン版から塗工ペーストがきれいに離れず、印刷面が糸を引いた状態になることをいい、上記目詰まりとは、スクリーン版の目に塗工ペーストが詰まって印刷できなくなる現象をいい、これらは、剪断速度が速い状態において塗工ペーストの見かけ粘度が高い場合に発生する。一方、ニジミとは、印刷した塗工ペーストがセラミックグリーンシート上で流動し、目的の印刷形状よりも拡がった状態で印刷されてしまう現象をいい、これは、剪断速度が遅い状態及び剪断されていない状態において塗工ペーストの見かけ粘度が低い場合に発生する。
【0012】
そのため、剪断速度が速い状態においては見かけ粘度が低くなり、且つ、剪断速度が遅い状態及び剪断されていない状態においては見かけ粘度が高くなる塗工ペースト、即ち、チキソトロピー性に優れた塗工ペーストを得ることができるポリビニルアセタール樹脂が求められていた。
【0013】
【特許文献1】特許第3744368号公報
【特許文献2】特公平3−35762号公報
【特許文献3】特公平4−49766号公報
【特許文献4】特開2005−298792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、チキソトロピー性及び熱分解性に優れた変性ポリビニルアセタール樹脂、並びに、この変性ポリビニルアセタール樹脂を含有してなり、印刷時において糸引き、目詰まり及びニジミが発生しにくい印刷性に優れた導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、変性ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとのアセタール化反応により合成される変性ポリビニルアセタール樹脂であって、エチレン成分の含有量が1〜20モル%、ケン化度が80モル%以上、側鎖として結合している水酸基の量が15〜40モル%、側鎖として結合しているカルボキシ基の量が0.01〜10モル%で且つアセタール化度が40〜80モル%であることを特徴とする。
【0016】
上記変性ポリビニルアルコール樹脂は、これをアセタール化して得られる変性ポリビニルアセタール樹脂のエチレン成分の含有量などが上記範囲となるように調整できるものであれば、特に限定されず、例えば、不飽和(ジ)カルボン酸若しくは不飽和(ジ)カルボン酸誘導体と、ビニルエステルとの共重合体、及び、エチレンとビニルエステルとの共重合体の樹脂混合物を混合前又は混合後にケン化してなるもの;不飽和(ジ)カルボン酸若しくは不飽和(ジ)カルボン酸誘導体とエチレンとビニルエステルとの共重合体をケン化してなるものが挙げられる。なお、変性ポリビニルアルコール樹脂中におけるビニルエステル成分の含有量が50モル%を超えるように調整しておく必要がある。
【0017】
そして、上記ビニルエステルとしては、特に限定されず、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどが挙げられ、経済性の面から酢酸ビニルが好ましい。
【0018】
上記不飽和(ジ)カルボン酸としては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、フタル酸、マレイン酸、イタコン酸などが挙げられ、イタコン酸が好ましい。
【0019】
又、上記不飽和(ジ)カルボン酸誘導体とは、カルボキシ基誘導体を有するものをいい、このカルボキシ基誘導体とは、酸触媒の存在下において容易にカルボキシ基に置換される官能基をいい、例えば、エステル基(−COOR)、アミド基(−CO−NH2)、シアノ基(−CN)、酸無水物基(−CO−O−CO−)、カルボキシ基の塩(−COOX)などが挙げられる。これらのカルボキシ基誘導体は、アセタール化反応の際に用いられる酸触媒によって、カルボキシ基に置換される。なお、上記エステル基中のRとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などのアルキル基などが挙げられ、カルボキシ基の塩中のXとしては、例えば、Naなどが挙げられる。
【0020】
このような不飽和(ジ)カルボン酸誘導体としては、特に限定されず、例えば、不飽和(ジ)カルボン酸塩、不飽和(ジ)カルボン酸アルキルエステル、不飽和(ジ)カルボン酸無水物などが挙げられる。具体的には、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル−(3−アクリルアミド−3−ジメチルプロピル)−アンモニウムクロリド、並びに、上述の不飽和(ジ)カルボン酸のナトリウム塩などが挙げられる。これらは、単独で用いられても、2種以上が併用されてもよく、更に上述の不飽和(ジ)カルボン酸と併用されてもよい。
【0021】
又、上記変性ポリビニルアルコール樹脂のケン化度は、低いと、水への溶解性が低下してアセタール化反応が困難になったり、得られる変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が低下したり、或いは、変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性が低下し、導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストの作製に支障を生じたり、経時粘度安定性が低下するので、80モル%以上が好ましい。なお、変性ポリビニルアルコール樹脂が、複数種類の変性ポリビニルアルコール樹脂を混合したものである場合には、変性ポリビニルアルコール樹脂の混合物全体のケン化度が80モル%以上であることが好ましい。
【0022】
なお、上記変性ポリビニルアルコール樹脂のケン化度とは、変性ポリビニルアルコール樹脂中におけるエステル化されている水酸基数Aと水酸基数Bの合計数に対する水酸基数Bの割合をいい、下記式(1)により算出することができる。
ケン化度(モル%)=100×B/(A+B) ・・・式(1)
【0023】
更に、上記変性ポリビニルアルコール樹脂の数平均重合度は、低いと、塗工ペーストをセラミックグリーンシートに印刷した際の塗膜強度が低くなり、形成された内部電極層及びセラミックペースト層に亀裂(クラック)が生じることがある一方、高いと、水への溶解性が低下したり、水溶液の粘度が高くなり過ぎて、アセタール化が困難になることがあるので、300〜2400が好ましい。なお、本発明における樹脂の数平均重合度は、JIS K6726「ポリビニルアルコール」の「5.4平均重合度」の項に従って求められた平均重合度をいう。又、ポリビニルアルコール樹脂として2種以上のポリビニルアルコール樹脂を混合して用いる場合は、混合後のポリビニルアルコール樹脂全体の見掛け上の数平均重合度をいう。
【0024】
そして、上記変性ポリビニルアルコール樹脂をアセタール化するのに用いられるアルデヒドとしては、特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド(パラホルムアルデヒドを含む)、アセトアルデヒド(パラアセトアルデヒドを含む)、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒドなどが挙げられ、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒドが好ましい。これらのアルデヒドは単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0025】
上記変性ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとのアセタール化反応の要領としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、塩酸、硝酸、硫酸のような酸触媒の存在下において、変性ポリビニルアルコール樹脂の水溶液に、所定のアセタール化度を付与するのに必要な量のアルデヒドを加えてアセタール化反応させた後、水酸化ナトリウムなどのアルカリによって中和し、水洗、乾燥を行なう方法が挙げられる。
【0026】
そして、上記変性ポリビニルアセタール樹脂におけるエチレン成分の含有量は、少ないと、塗工ペースト中における金属粉末やセラミック粉末の分散性が低下したり、塗工ペーストの剪断速度が速い状態における見かけ粘度が高くなり過ぎて、スクリーン印刷の際に、糸引きや目詰まりを生じやすくなる一方、多いと、変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性が低下して、塗工ペーストの作製に支障が生じたり、塗工ペーストの経時粘度安定性が低下するので、1〜20モル%に限定され、1〜10モル%が好ましい。
【0027】
又、上記変性ポリビニルアセタール樹脂のケン化度は、低いと、変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度が低下してしまうので、80モル%以上に限定され、80〜99.9モル%が好ましい。
【0028】
なお、上記変性ポリビニルアセタール樹脂のケン化度とは、変性ポリビニルアセタール樹脂中におけるエステル化されている水酸基数C、アセタール化反応により消失した水酸基数D及び水酸基数Eの合計数に対する、アセタール化反応により消失した水酸基数D及び水酸基数Eの合計数の割合をいい、下記式(2)により算出することができる。
ケン化度(モル%)=100×(D+E)/(C+D+E) ・・・式(2)
【0029】
そして、上記変性ポリビニルアセタール樹脂の主鎖に側鎖として結合している水酸基の量は、少ないと、変性ポリビニルアセタール樹脂の強度が損なわれて、塗工ペーストをセラミックグリーンシートに印刷した際の塗膜強度が低下し、形成された内部電極層及びセラミックペースト層に亀裂(クラック)が生じやすくなる一方、多いと、変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤への溶解性が低下し、塗工ペーストの作製が困難になるので、15〜40モル%に限定され、18〜35モル%が好ましい。
【0030】
又、上記変性ポリビニルアセタール樹脂の主鎖に側鎖として結合しているカルボキシ基の量は、少ないと、剪断速度が遅い状態及び剪断されていない状態において、塗工ペーストの見かけ粘度が不足し、スクリーン印刷した際にニジミが生じやすくなる一方、多いと、変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性が低下し、塗工ペーストの作製に支障が生じるので、0.01〜10モル%に限定され、0.1〜5モル%が好ましい。
【0031】
なお、上記変性ポリビニルアセタール樹脂の主鎖に側鎖として結合している水酸基及びカルボキシ基の量とは、変性ポリビニルアセタール樹脂の側鎖の全数に対する水酸基数又はカルボキシ基数の割合(モル%)をいう。ここで、上記変性ポリビニルアセタール樹脂中のアセタール化された部分の側鎖の数としては、アセタール化反応により消失した水酸基の数を採用するものとする。
【0032】
そして、上記変性ポリビニルアセタール樹脂の主鎖に側鎖として結合している水酸基及びカルボキシ基の量は、変性ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルを測定し、エステル化されている水酸基、水酸基及びカルボキシ基が結合しているメチン基に由来するピーク面積と、アセタール化された部分のメチン基に由来するピーク面積とにより算出することができる。
【0033】
又、上記変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、小さいと、変性ポリビニルアセタール樹脂の有機溶剤に対する溶解性が低下し、塗工ペーストの作製に支障が生じる一方、大きいと、変性ポリビニルアセタール樹脂の主鎖に側鎖として結合している水酸基の数が少なくなり、変性ポリビニルアセタール樹脂の強度が損なわれて、塗工ペーストをセラミックグリーンシートに印刷した際の塗膜強度が低下し、形成された内部電極層及びセラミックペースト層に亀裂(クラック)が生じやすくなるので、40〜80モル%に限定され、65〜78モル%が好ましい。
【0034】
ここで、上記変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度とは、変性ポリビニルアセタール樹脂の側鎖の全数に対する、アセタール化反応の際に消失した水酸基数の割合(モル%)をいう。なお、上記変性ポリビニルアセタール樹脂中のアセタール化された部分の側鎖の数は、アセタール化反応により消失した水酸基の数として、変性ポリビニルアセタール樹脂の側鎖の全数を算出する。
【0035】
そして、上記変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度は、変性ポリビニルアセタール樹脂をDMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルを測定し、変性ポリビニルアセタール樹脂の、エステル化されている水酸基が結合しているメチン基に由来するピーク面積S1、水酸基が結合しているメチン基に由来するピーク面積S2、カルボキシ基が結合しているメチン基に由来するピーク面積S3及びアセタール化された部分のメチン基に由来するピーク面積S4を下記式(3)に代入して算出することができる。
アセタール化度(モル%)=100×S4/(S1+S2+S3+S4) ・・・式(3)
【0036】
更に、上記変性ポリビニルアセタール樹脂の数平均重合度は、低いと、塗工ペーストをセラミックグリーンシートに印刷した際の塗膜強度が低くなり、形成された内部電極層及びセラミックペースト層に亀裂(クラック)が生じることがある一方、高いと、塗工ペーストの剪断速度が速い状態における見かけ粘度が高くなり過ぎて、スクリーン印刷の際に、糸引きや目詰まりが生じることがあるので、300〜2400が好ましい。
【0037】
なお、上記変性ポリビニルアセタール樹脂が2種以上の樹脂を混合してなる場合、上述の変性ポリビニルアセタール樹脂におけるエチレン成分の含有量、変性ポリビニルアセタール樹脂のケン化度、変性ポリビニルアセタール樹脂の主鎖に側鎖として結合している水酸基の量及びカルボキシ基の量、並びに、変性ポリビニルアセタール樹脂のアセタール化度及び数平均重合度は、混合させた樹脂全体の見かけ上の値とする。
【0038】
そして、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、バインダー樹脂として有機溶剤に溶解させることによって、バインダー樹脂溶液(ビヒクル)となり、このバインダー樹脂溶液に所望の無機粉末を混合させることにより、スクリーン印刷時において糸引き、目詰まり及びニジミが生じにくいと共に、脱脂処理の際に速やかに分解してセラミックグリーンシート上に炭素成分を残留させにくい、導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストを得ることができる。
【0039】
上記導電ペーストは、変性ポリビニルアセタール樹脂、金属粉末及び有機溶剤から構成され、これらをブレンダーミル、3本ロールなどの各種混合機を用いて混合することにより得られる。
【0040】
又、上記導電ペーストに用いられる金属粉末としては、例えば、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、銅やこれらの合金からなる粉末が挙げられ、これらは単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0041】
そして、上記導電ペースト中における金属粉末の含有量は、少ないと、得られる内部電極層の導電性が低くなることがある一方、多いと、導電ペーストの剪断速度が速い状態における見かけ粘度が高くなり過ぎて、スクリーン印刷の際に、糸引きや目詰まりが生じることがあるので、30〜69重量%が好ましく、40〜60重量%がより好ましい。
【0042】
又、上記導電ペーストに用いられる有機溶剤としては、本発明のポリビニルアセタール樹脂を溶解しうるものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシルなどのエステル類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテートなどが挙げられる。
【0043】
そして、上記導電ペースト中における有機溶剤の含有量は、少ないと、導電ペーストの剪断速度が速い状態における見かけ粘度が高くなり過ぎて、スクリーン印刷の際に、糸引きや目詰まりが生じることがある一方、多いと、導電ペーストの粘度が低くなり過ぎて取り扱い性が低下することがあるので、30〜69重量%が好ましく、35〜55重量%がより好ましい。
【0044】
又、上記セラミックペーストは、上記変性ポリビニルアセタール樹脂、セラミック粉末及び有機溶剤より構成され、これらをブレンダーミル、3本ロールなどの各種混合機を用いて混合することにより得られる。
【0045】
上記セラミック粉末としては、特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムなどが挙げられ、これらは単独で用いられても、2種以上が併用されてもよい。
【0046】
そして、上記セラミックペースト中におけるセラミック粉末の含有量は、少ないと、乾燥や焼結工程で、セラミックペースト層にひび割れ(クラック)が生じることがある一方、多いと、セラミックペーストの剪断速度が速い状態における見かけ粘度が高くなり過ぎて、スクリーン印刷の際に、糸引きや目詰まりが生じることがあるので、30〜69重量%が好ましく、40〜60重量%がより好ましい。
【0047】
又、上記セラミックペーストに用いられる有機溶剤としては、本発明のポリビニルアセタール樹脂を溶解しうるものであれば特に限定されず、例えば、上述の導電ペーストに用いられる有機溶剤と同じものが挙げられる。
【0048】
そして、上記セラミックペースト中における有機溶剤の含有量は、少ないと、セラミックペーストの剪断速度が速い状態における見かけ粘度が高くなり過ぎて、スクリーン印刷の際に、糸引きや目詰まりが生じることがある一方、多いと、セラミックペーストの粘度が低くなり過ぎて取り扱い性が低下することがあるので、30〜69重量%が好ましく、35〜55重量%がより好ましい。
【0049】
又、上記導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストのバインダー樹脂としては、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂を単体で使用するのが好ましいが、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアセタール樹脂などの樹脂と、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂との樹脂混合物であってもよい。
【0050】
そして、上記塗工ペーストのバインダー樹脂として、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂とそれ以外の樹脂との混合物を用いる場合、この混合物中における本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂の含有量は、少ないと、得られる塗工ペーストを用いてスクリーン印刷する際に、糸引きや目詰まりが生じやすくなったり、セラミックグリーンシートへの接着性が低下したりするので、30重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましい。
【0051】
更に、上記塗工ペースト中におけるバインダー樹脂の含有量は、少ないと、塗工ペーストと、セラミックグリーンシートとの接着性が不十分となり、形成された内部電極層及びセラミックペースト層と、セラミックグリーンシートとの間で層間剥離(デラミネーション)が発生することがある一方、多いと、導電ペースト及びセラミックペーストの剪断速度の速い状態における見かけ粘度が高くなり過ぎて、スクリーン印刷の際に糸引きや目詰まりが発生することがあるので、1〜10重量%が好ましく、2〜5重量%がより好ましい。
【0052】
なお、上記塗工ペーストには、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、可塑剤、潤滑剤、分散剤、帯電防止剤などの添加剤を添加してもよい。
【発明の効果】
【0053】
本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は、上述のような構成をとることから、この変性ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂として用いた導電ペーストやセラミックペーストは、剪断速度が速い状態においては見かけ粘度が低くなり、且つ、剪断速度が遅い状態及び剪断されていない状態においては見かけ粘度が高くなる性質、即ち、チキソトロピー性に優れている。従って、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂として用いることにより、スクリーン印刷の際に、糸引き、目詰まり、ニジミが生じにくい印刷性に優れた、導電ペーストやセラミックペーストなどの塗工ペーストを得ることができる。
【0054】
又、上記変性ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂からなるセラミックグリーンシートへの接着性にも優れているので、塗工ペーストのバインダー樹脂として好適に使用することができる。
【0055】
更に、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂は熱分解性に優れている。従って、本発明の変性ポリビニルアセタール樹脂をバインダー樹脂としてなる塗工ペーストによれば、セラミックグリーンシートに炭素成分をほとんど残留させることなく内部電極層及びセラミックペースト層を形成することができるので、電気特性及び信頼性に優れた積層型電子部品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化してなるエチレン変性ポリビニルアルコール樹脂(エチレン成分含有量:8モル%、ケン化度:98モル%)130gと、イタコン酸−酢酸ビニル共重合体をケン化してなるイタコン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(イタコン酸成分含有量:2モル%、ケン化度:88モル%)130gを純水2900gに加え、90℃で約2時間攪拌して変性ポリビニルアルコール樹脂水溶液を得た。なお、変性ポリビニルアルコール樹脂全体のケン化度は、93.4モル%であった。
【0058】
続いて、この変性ポリビニルアルコール樹脂水溶液を28℃に冷却して、これに濃度35重量%の塩酸500gとn−ブチルアルデヒド178gを添加し、更にこの溶液を10℃まで下げてアセタール化反応させた。次に、溶液を30℃まで昇温して5時間この温度で保持し、アセタール化反応を完了させて、常法により中和、水洗及び乾燥を行なうことにより変性ポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0059】
次に、この変性ポリビニルブチラール樹脂を、DMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルの測定を行ない、変性ポリビニルブチラール樹脂の組成及びブチラール化度を算出したところ、エチレン成分の含有量が4.3モル%、ケン化度93.4モル%、側鎖として結合している水酸基の量が19.6モル%、側鎖として結合しているカルボキシ基の量が0.9モル%、ブチラール化度が73モル%であった。
【0060】
(実施例2)
エチレン−酢酸ビニル共重合体をケン化してなるエチレン変性ポリビニルアルコール樹脂(エチレン成分含有量:10モル%、ケン化度:90モル%)130gと、イタコン酸−酢酸ビニル共重合体をケン化してなるイタコン酸変性ポリビニルアルコール樹脂(イタコン酸成分含有量:6モル%、ケン化度:98モル%)130gを純水2900gに加え、90℃で約2時間攪拌して変性ポリビニルアルコール樹脂水溶液を得た。なお、変性ポリビニルアルコール樹脂全体のケン化度は、94モル%であった。
【0061】
続いて、この変性ポリビニルアルコール樹脂水溶液を28℃に冷却して、これに濃度35重量%の塩酸500g、n−ブチルアルデヒド98g及びアセトアルデヒド46gを添加し、更にこの溶液を10℃まで下げてアセタール化反応させた。次に、溶液を30℃まで昇温して5時間この温度で保持し、アセタール化反応を完了させて、常法により中和、水洗及び乾燥を行なうことにより変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0062】
そして、この変性ポリビニルアセタール樹脂を、DMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルの測定を行ない、変性ポリビニルアセタール樹脂の組成及びアセタール化度を算出したところ、エチレン成分の含有量が5モル%、ケン化度が94モル%、側鎖として結合している水酸基の量が25.2モル%、側鎖として結合しているカルボキシ基の量が3モル%、アセタール化度が66モル%であった。
【0063】
(比較例1)
ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:88モル%)260gを純水2900gに加え、90℃で約2時間攪拌してポリビニルアルコール樹脂水溶液を得た。次に、このポリビニルアルコール樹脂水溶液を変性ポリビニルアルコール樹脂水溶液の代わりに用い、n−ブチルアルデヒドの量を178gに代えて170gとしたこと以外は、実施例1と同様の要領でポリビニルブチラール樹脂を得た。
【0064】
そして、このポリビニルブチラール樹脂を、DMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルの測定を行ない、ポリビニルブチラール樹脂の組成及びブチラール化度を算出したところ、エチレン成分の含有量が0モル%、ケン化度が88モル%、側鎖として結合している水酸基の量が23モル%、側鎖として結合しているカルボキシ基の量が0モル%、ブチラール化度が65モル%であった。
【0065】
(比較例2)
ポリビニルアルコール樹脂(ケン化度:96モル%)193gを純水2900gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌してポリビニルアルコール樹脂水溶液を得た。次に、このポリビニルアルコール樹脂水溶液を変性ポリビニルアルコール樹脂水溶液の代わりに用い、n−ブチルアルデヒド178gの代わりに、n−ブチルアルデヒド90g及びアセトアルデヒド43gを用いたこと以外は、実施例1と同様の要領でポリビニルアセタール樹脂を得た。
【0066】
そして、この変性ポリビニルアセタール樹脂を、DMSO−d6(ジメチルスルホキサイド)に溶解させて、13C−NMRスペクトルの測定を行ない、ポリビニルアセタール樹脂の組成及びアセタール化度を算出したところ、エチレン成分の含有量が0モル%、ケン化度が96モル%、側鎖として結合している水酸基の量が28モル%、側鎖として結合しているカルボキシ基の量が0モル%、アセタール化度が68モル%であった。
【0067】
(導電ペーストの作製)
実施例及び比較例で得られた(変性)ポリビニルアセタール樹脂4.2重量%、ニッケル粉(三井金属社製 商品名「2020SS」)50重量%並びにα−テルピネオール45.8重量%を混合し、三本ロールで混練して導電ペーストを得た。なお、(変性)ポリビニルアセタール樹脂とは、変性ポリビニルアセタール樹脂又はポリビニルアセタール樹脂を意味する。
【0068】
(セラミックペーストの作製)
実施例及び比較例で得られた(変性)ポリビニルアセタール樹脂4.2重量%、チタン酸バリウム(堺化学工業社製 商品名「BT−03」、平均粒子径:0.3μm)50重量%並びにα−テルピネオール45.8重量%を混合し、ボールミルを用いて48時間混練してセラミックペーストを得た。
【0069】
次に、上記のようにして得られた塗工ペーストの粘度及びスクリーン印刷性について下記の要領で評価し、その結果を表1に示した。なお、表1中の「1(s-1)時」とは、剪断速度が1(s-1)の時点における塗工ペーストの粘度を示し、「100(s-1)時」とは、剪断速度が100(s-1)の時点における塗工ペーストの粘度を示す。
【0070】
(塗工ペーストの粘度)
得られた導電ペースト及びセラミックペーストにおける剪断速度が1(s-1)の時点及び100(s-1)の時点での粘度を、回転式レオメータ(Bolin社製 商品名「Gemini 150」)を用いて測定した。なお、上記粘度の測定は、直径40mm、角度1°のコーンプレートを使用し、25℃の温度条件下にて剪断速度を0.1(s-1)から100(s-1)まで上昇させて行なった。
【0071】
(塗工ペーストのスクリーン印刷性)
スクリーン印刷機(ミノグループ社製 商品名「ミノマットY−3540」)とSXスクリーン版(ミノグループ社製 商品名「SX300B」)とを用いて、得られた導電ペースト及びセラミックペーストをセラミックグリーンシート上にスクリーン印刷し、印刷面を目視及び拡大顕微鏡で観察し、下記基準によりスクリーン印刷性を評価した。
○:印刷面に糸状のペーストやニジミが全く認められなかった。
×:印刷面に糸状のペーストやニジミが認められた。
【0072】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリビニルアルコール樹脂とアルデヒドとのアセタール化反応により合成される変性ポリビニルアセタール樹脂であって、エチレン成分の含有量が1〜20モル%、ケン化度が80モル%以上、側鎖として結合している水酸基の量が15〜40モル%、側鎖として結合しているカルボキシ基の量が0.01〜10モル%で且つアセタール化度が40〜80モル%であることを特徴とする変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項2】
アルデヒドが、ブチルアルデヒド及び/又はアセトアルデヒドであることを特徴とする請求項1に記載の変性ポリビニルアセタール樹脂。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の変性ポリビニルアセタール樹脂を含有してなることを特徴とする塗工ペースト。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の変性ポリビニルアセタール樹脂を含有してなることを特徴とする導電ペースト。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の変性ポリビニルアセタール樹脂を含有してなることを特徴とするセラミックペースト。

【公開番号】特開2008−143922(P2008−143922A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328828(P2006−328828)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】