説明

多層プリント配線基板、及び多層プリント配線基板装置

【課題】同一仕様の多層プリント配線基板の電源プレーンとグランドプレーン間の絶縁層の厚さにバラツキが生ずることによるプレーン共振周波数のバラツキを小さくすること。
【解決手段】電源に接続される電源プレーン2と、電源プレーン2に対向し、グランドに接続されるグランドプレーン3と、をそれぞれ少なくとも一層有する多層プリント配線基板1において、電源プレーン2のみに、規則性を有する形状の貫通穴10を複数形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品が実装される多層プリント配線基板、及び前記電子部品が実装された多層プリント配線基板装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、多層プリント配線基板は、電源プレーン(電源層)、グランドプレーン(グランド層)および信号プレーン(信号層)が絶縁基材からなる絶縁層を介して積層されている。電源プレーンおよび/またはグランドプレーンは、ベタパターンとされる場合がある(例えば、特許文献1〜12参照)。
【0003】
かかる多層プリント配線基板は、一般に、製造装置を用いて同一仕様のものが大量生産されている。
しかしながら、多層プリント配線基板を同一仕様で生産しても、個体差が生じるものである。特に、多層プリント配線基板の各導体層間(例えば、電源プレーンとグランドプレーン間)および表面の絶縁層の厚さ、いわゆる層間厚にバラツキが生じると、多層プリント配線基板の実効比誘電率にバラツキが生じる。
【0004】
この実効比誘電率にバラツキが生じると、プレーン共振周波数にズレが生じるので、一般にはプレーン共振周波数のズレを見込んだ過大なノイズ対策を、当該多層プリント配線基板を用いた全ての製品に実施しなければならず、製品コストが増加するという問題がある。
【0005】
ここで、実効比誘電率(「実効的誘電率」、「実効誘電率」と同義)とは、実効的な比誘電率のことであり、絶縁層全ての寄与をうけた誘電率のことをいう。実効比誘電率は、多層プリント配線基板の絶縁層が厚くなれば絶縁基材の誘電率に近づき、絶縁層が薄くなれば空気の誘電率に近づく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−280678号公報
【特許文献2】特開2003−204129号公報
【特許文献3】特開2004−79718号公報
【特許文献4】特開2005−294777号公報
【特許文献5】特開2006−80162号公報
【特許文献6】特開2006−294769号公報
【特許文献7】特開2006−294967号公報
【特許文献8】特開2009−129979号公報
【特許文献9】特開2009−141233号公報
【特許文献10】特開2009−182065号公報
【特許文献11】特開2009−252919号公報
【特許文献12】特開2010−10183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、多層プリント配線基板の電源プレーンとグランドプレーン間の絶縁層の厚さにバラツキが生ずることによる、プレーン共振周波数のバラツキを抑制した多層プリント配線基板を提供すると共に、かかる多層プリント配線基板を用いることで、良質な多層プリント配線基板装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(第1発明)
第1発明は、電源に接続される電源プレーンと、電源プレーンに対向し、グランドに接続されるグランドプレーンと、をそれぞれ少なくとも一層有する多層プリント配線基板に関するものである。そして、多層プリント配線基板の電源プレーンのみに、規則性を有する形状の貫通穴が複数形成されたことを特徴とする。
【0009】
かかる構成により、電源プレーンは、グランドプレーンとの対向面積比が小さくなり、実効比誘電率も減少するため、キャパシタンス成分(容量成分)も小さくなる。このキャパシタンス成分が小さくなることにより、キャパシタンス成分のバラツキも減少し、これにともない、電源プレーンを伝わる高周波電流(高周波ノイズ)の伝播速度のバラツキが小さくなり、プレーン共振周波数のバラツキも小さくなる。
【0010】
したがって、個々の多層プリント配線基板の、電源プレーンとグランドプレーン間の絶縁層の厚さにバラツキがあっても、個々の多層プリント配線基板のプレーン共振周波数の差を小さくすることができる。つまり、本発明はプレーン共振周波数のバラツキを抑制した多層プリント配線基板を提供することができる。
【0011】
(第2発明)
第2発明は、第1発明の多層プリント配線基板に、電子部品が実装された多層プリント配線基板装置に関するものである。かかる構成により、前記した第1発明の効果を奏し、従来よりも品質の良い多層プリント配線基板装置を提供できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多層プリント配線基板は、プレーン共振周波数のバラツキを抑制した多層プリント配線基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】多層プリント配線基板の概略側面図(実施例1)
【図2】多層プリント配線基板の電源プレーンの平面図(実施例1)
【図3】図2の電源プレーンの部分Aの拡大図(実施例1)
【図4】多層プリント配線基板のグランドプレーンの平面図(実施例1)
【図5】応答特性試験の評価のグラフ(電源プレーン:メッシュ形状)(実施例1)
【図6】応答特性試験の評価のグラフ(電源プレーン:ベタ形状)(実施例1)
【図7】従来の多層プリント配線基板の電源プレーンの平面図
【図8】従来の多層プリント配線基板のグランドプレーンの平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施例について説明する。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明に係る多層プリント配線基板を側面から見て拡大した概略側面図であり、図2は、本発明に係る多層プリント配線基板の電源プレーンの平面図であり、図3は、図2の電源プレーンの部分Aを拡大した部分拡大図であり、図4は、本発明に係る多層プリント配線基板のグランドプレーンの平面図である。
【0016】
尚、すべての図面において、説明を分かりやすくするため、各々の層、導体パターン等にハッチングをかけている。また、本実施例1の多層プリント配線基板は、電子部品が実装されていないベアボードであるが、信号プレーンの内、電子部品が実装されるパッドおよび配線の図示を、説明を簡単にするため一部省略している。
【0017】
〔多層プリント配線基板〕
図1に示すように、多層プリント配線基板1は、紙面上方から、ソルダーレジスト9、第1の信号プレーン7、第1の絶縁層5、グランドプレーン3、第2の絶縁層4、電源プレーン2、第3の絶縁層6、信号プレーン8およびソルダーレジスト9の多層構造のプリント配線基板である。また、多層プリント配線基板1の大きさは、横(X軸方向寸法)200mm×縦(Y軸方向寸法)90mm×厚さ(Z軸方向寸法)1.6mmである。
【0018】
(ソルダーレジスト)
ソルダーレジストとは、多層プリント配線基板の表面および裏面を覆い、半田による被覆や部品実装の際、信号プレーンに形成された配線パターンの表面に不必要な半田が付着することを防ぐ保護コーティング材である。さらに、永久保護マスクとして、配線パターンを湿度やほこり等から保護すると同時に、電気的トラブルから配線パターンを守る絶縁体機能があり、耐薬品性、耐熱性に優れ、半田付けをする際の高熱や金めっきにも耐えられる保護皮膜である。
【0019】
ソルダーレジストの形成方法は一般的に活性エネルギー線をマスクパターンを介して照射することによりパターンを形成するフォトリソグラフィー法が用いられている。マスクパターンを使用することにより、半田の不必要な部分を選択することができる。尚、図1に示したソルダーレジスト9は、厚さを22μmとした。
【0020】
(信号プレーン)
信号プレーンとは、入出力信号が流れる配線パターン等が銅箔等の金属箔で形成された層のことである。図1の第1の信号プレーン7および第2の信号プレーン8は、厚さを18μmとした。
【0021】
(絶縁層)
図1の第1の絶縁層5、第2の絶縁層4および第3の絶縁層6は、ガラスエポキシ材料を主成分とした絶縁基材からなる。第2の絶縁層4は厚さを1.0mmとし、第1の絶縁層5および第3の絶縁層6の厚さを0.2mmとした。
【0022】
(電源プレーン)
図2に示すように、電源プレーン2は、銅箔等の金属箔からなる厚さ35μmのベタパターンに、規則性を有する形状の貫通穴10が形成されたものである。本実施例1においては、図3に示すように、規則性を有する形状として、11mm×6mmの矩形形状を採用した。かかる矩形の貫通穴10は、紙面左右方向(X軸方向)が5mm間隔、紙面上下方向(Y軸方向)が7mm間隔で、複数形成されている。
【0023】
(グランドプレーン)
図4に示すように、グランドプレーン3は、銅箔等の金属箔からなる厚さ35μmのベタパターンとした。
【0024】
〔作用〕
前記した構成により、電源プレーン2(図2)は、電源プレーン2に対向するグランドプレーン3(図4)に対する対向面積比が小さくなる。このため、電源プレーン2とグランドプレーン3間の実効比誘電率が減少し、キャパシタンス成分も小さくなる。このキャパシタンス成分が小さくなることにより、キャパシタンス成分のバラツキも減少し、これにともない、電源プレーン2を伝わる信号の伝播速度のバラツキが小さくなり、プレーン共振周波数のバラツキも小さくなる。
【0025】
〔評価〕
次に、多層プリント配線基板1(以下、「試験基板1」と称す場合がある。)のプレーン共振周波数を評価した結果について説明する。
他に、比較対象として、以下の5種類の多層プリント配線基板を準備した。
(1)試験基板2
試験基板1の第2の絶縁層4の厚さ(層間厚寸法B)のみを1.19mmとしたものであり、その他の仕様は試験基板1と同一である。
(2)試験基板3
試験基板1の第2の絶縁層4の厚さ(層間厚寸法B)のみを0.81mmとしたものであり、その他の仕様は試験基板1と同一である。
(3)試験基板4
試験基板1の電源プレーン2をベタパターンにしたものであり(図7)、その他の仕様は試験基板1と同一である。
(4)試験基板5
試験基板1の第2の絶縁層4の厚さ(層間厚寸法B)を1.19mmとし、かつ、電源プレーン2をベタパターンにしたものであり(図7)、その他の仕様は試験基板1と同一である。
(5)試験基板6
試験基板1の第2の絶縁層4の厚さ(層間厚寸法B)を0.81mmとし、電源プレーン2をベタパターンにしたものであり(図7)、その他の仕様は試験基板1と同一である。
【0026】
(評価機器)
前記した6種類の多層プリント配線基板の電源プレーンとグランドプレーン間のプレーン共振周波数を測定するため、アンリツ株式会社製の37397Cシステム(以下、「N/A計測器」と称す。)を用いた。N/A計測器は、一般に電気的高周波・マイクロ波回路、デバイスの高周波特性(インピーダンスなど)を測る計測器である。尚、「N/A」とは、ネットワークアナライザ(Network Analyzer)のことである。
【0027】
(評価方法)
N/A計測器のポート1は、同軸ケーブルを用いて、各々の試験基板に取り付けた同軸コネクタ(SMAコネクタ)と接続した。同軸軸ケーブルの信号線は、試験基板の同軸コネクタの信号端子と接続し、貫通ビアを介して電源プレーンに接続した。また、同軸ケーブルのフレームグランド線は、試験基板の同軸コネクタのグランド用端子と接続し、貫通ビアを介してグランドプレーンに接続した。そして、N/A計測器より周波数0〜1500Mzの範囲の信号を試験基板に送り、その反射特性をN/A計測器により測定した。
【0028】
尚、プレーン共振周波数の測定は、一般に応答特性試験とするSパラメータのS11特性と呼ばれる測定試験に準じて実施した。ここで、Sパラメータとは、高周波電子回路や高周波電子部品の特性を表すために使用される回路網パラメータのひとつであり、散乱行列(S行列)または散乱パラメータとも呼ばれ、回路網の通過・反射特性のことである。また、反射特性とは、プリント配線基板に入射された電力がネットワークアナライザ側へ戻ってしまう現象をいい、このレベルが大きい程、電力が多層プリント配線基板から空間に放射されないことを意味する。したがって、反射レベルは全周波数帯域に亘り大きいほうがよい。
【0029】
(評価結果)
評価結果を表1、図5および図6に示す。図5は試験基板1〜3、図6は試験基板4〜6の応答特性を測定したものをグラフ化したものである。尚、図5および図6において縦軸は反射レベルを表し、単位を、「dB(デシベル)」とした。また、横軸は周波数を表し、単位を、「MHz(メガヘルツ)」とした。縦軸の反射レベルは、便宜上、上下反転してある。
【0030】
電源プレーンがメッシュ形状の試験基板1〜3と、電源プレーンがベタ形状の試験基板4〜6とを比較すると、試験基板1〜3のそれぞれのピーク周波数である点C、点D、点Eの振れ幅は、試験基板4〜6のそれぞれのピーク周波数である点F、点G、点Hの振れ幅より小さいことがわかる。つまり、本発明の多層プリント配線基板は、プレーン共振周波数の振れ幅のバラツキを抑制することができる。また、試験基板1〜3の周波数全域は、試験基板4〜6の周波数全域と比べ、高い周波数域にシフトしていることもわかる。
【0031】
【表1】

【0032】
前記した実施例は、説明のために例示したものであって、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲および明細書の記載から当業者が認識することができる本発明の技術的思想に反しない限り、変更、削除および付加が可能である。
【0033】
例えば、絶縁基材としては、例えば、紙フェノール(ベークライト)、紙エポキシ、ガラスコンポジット、フッ素樹脂、ポリイミド、プリプレグを採用しても良い。
【0034】
また、実施例1において貫通穴10は矩形形状のものを例示したが、丸形状、三角形状、または文字・記号等の形状あっても良い。また、大きさは、本発明の効果を奏する範囲であれば、互いに異なっていても良い。また、多層プリント配線基板は、電源プレーンを複数有していても良い。
【符号の説明】
【0035】
1…多層プリント配線基板
2…電源プレーン
3…グランドプレーン
4…第2の絶縁層
5…第1の絶縁層
6…第3の絶縁層、
7…第1の信号プレーン
8…第2の信号プレーン
9…ソルダーレジスト
10…貫通穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源に接続される電源プレーンと、
該電源プレーンに対向し、グランドに接続されるグランドプレーンと、
をそれぞれ少なくとも一層有する多層プリント配線基板において、
該電源プレーンのみに、規則性を有する形状の貫通穴を複数形成したことを特徴とする多層プリント配線基板。
【請求項2】
請求項1に記載の多層プリント配線基板に、電子部品が実装された多層プリント配線基板装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−161402(P2010−161402A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2010−61923(P2010−61923)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000251288)鈴鹿富士ゼロックス株式会社 (156)
【Fターム(参考)】