説明

多層被覆膜および電子機器の筐体

【課題】 硬度が大きくて容易に剥離しない多層被膜膜を提供する。
【解決手段】 多層被覆膜10は、アルミニウム合金11より硬度の大きい材料で形成されている。多層被覆膜10は、アルミニウム合金11の上に、ブライト・ニッケル層13、リン酸ニッケル層15、および窒化チタン層17の順番で積層されている。硬度はアルミニウム合金、ブライト・ニッケル層、リン酸ニッケル層の順番に大きくなっており、窒化チタン層の硬度が最も大きい。窒化チタン層とアルミニウム合金の硬度の差が大きくても中間層が硬度の順番に並んでいるため、窒化チタン層はスクラッチが発生しても剥離しにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬度の大きい表面層を備える多層被覆膜に関し、さらに詳細には表面層の基材に対する密着性がよい多層被覆膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ノートブック型コンピュータやPDAなどの携帯型電子機器の筐体は、持ち運びに便利なように軽量で、かつ装飾的効果が持続するように表面にひっかき傷(スクラッチ)が発生しにくいものであることが望ましい。通常、1つの材料で要求を満たすことはコスト上の問題があるので複数の材料を組み合わせて重量、コスト、およびスクラッチに対する耐性などの要求を満たすようにしている。
【0003】
たとえば、軽量かつ安価なアルミニウム合金などを構造材として利用し、表面をチタン化合物などの高価ではあるが硬度の大きいコーティング材で覆う方法を採用する。チタン化合物だけでコーティング層を構成しようとすれば、厚さを厚くしないと十分な硬度を維持してスクラッチに対する耐性を高めることができない。しかし、チタンは高価であるため厚くするほどコストが増大する。
【0004】
特許文献1は、コーティング材に先立ち基材を予熱することなく膜を形成しても、基材上に形成する膜が界面でクラックや剥離を発生させることのない耐摩耗性硬質膜を開示する。同文献記載の発明は耐摩耗性硬質膜の形成に、スパッタまたはイオン・プレーティングによる物理的方法を採用している。具体的には、コーティング中に反応ガスを導入しない場合には実質的に非晶質の金属膜が形成され、反応ガスとして窒素ガスを導入したとき結晶質セラミックス膜が形成されるアルミニウムーチタン系組成物をターゲットとして使用する。スパッタリング中に窒素ガスの供給量を連続的に変化させてゆくと、窒素ガス分圧の増加と共に硬度が増加する膜が形成される。
【0005】
特許文献2は、基材から表面に向かって窒素量が連続的に変化するハードコーティング膜を開示する。ハードコーティング膜は、蒸着装置内で窒素ガスをイオン化して基材に照射し、さらにチタンなどの金属材料のイオンを基材に照射する。このとき、基材に照射する窒素ガス・イオンと金属イオンの比を変えてチタン系膜を形成する。その結果表面層ほど硬くなり、かつ膜歪が小さいため切削工具に使用しても剥離しにくい膜を形成できることが記載されている。
【特許文献1】特開平6−122959号公報
【特許文献2】特開平8−104976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1または特許文献2に記載されているようにスパッタ法、イオン・プレーティング法、または熱蒸着法を採用して基材から表面層までのコーティング膜の組成を連続的または段階的に変化させる方法ではコストが増大するという難点がある。また、硬度を確保するだけの厚さの窒化チタン層でアルミニウム合金をコーティングした場合には、重量が重くなるため可搬式の電子機器の筐体に使用する被覆膜には適さない。さらに、アルミニウム合金はビッカース硬度(Hv)が100〜200であり、窒化チタンはHvが800〜1100であるため両者の差が大きく筐体に外力が加わると窒化チタン層が剥離しやすい。
【0007】
そこで本発明の目的は、安価に形成することができ、スクラッチに対する耐性が高くて剥離しにくい多層被覆膜を提供することにある。さらに、本発明の目的は、そのような多層被覆膜を採用した電子機器の筐体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多層被覆膜は、基材と表面層との間に中間層を含む。中間層は、硬度が基材より大きくかつ表面層より小さくなるように選択する。中間層の形成に電気メッキを採用するとスパッタ法や熱蒸着法などの物理的蒸着法に比べて安価に薄膜を形成することができる。ただし、中間層は、物理的蒸着法や他の化学的蒸着法による薄膜形成法で形成してもよい。基材と表面層の硬度の差が大きくても、中間層が基材と表面層との付着性を向上させるので、剥離しにくい多層被覆膜を形成することができる。また、中間層が存在するため表面層の厚さを薄くしても硬度を維持することができる。中間層の数は、1層だけ形成しても有効であるが、硬度の順番に多数の中間層を積層した方が耐剥離性を一層向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、安価に形成することができ、スクラッチに対する耐性が高くて剥離しにくい多層被覆膜を提供することができた。さらに、本発明によりそのような多層被覆膜を採用した電子機器の筐体を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の実施の形態にかかる多層被覆膜10の構造を示す図である。多層被覆膜は、ブライト・ニッケル層13、リン酸ニッケル層15、および窒化チタン層17の3層構造になっている。多層被覆膜で被覆される基材には、軽量で安価に購入できるアルミニウム合金11を採用している。ただし、本発明は基材をアルミニウム合金に限定する必要はなく、電気メッキの可能な金属材料であれば種類を問わず採用することができる。アルミニウム合金11はビッカース硬度(Hv)が100〜200である。アルミニウム合金11の表面には電気メッキでブライト・ニッケル層13を5μm〜15μmの厚さで形成する。ブライト・ニッケル層のHvは500でありアルミニウム合金のHvより大きい。ブライト・ニッケル層は、これにつづくリン酸ニッケル層15のメッキ工程において使用するpHの低い電解液からアルミニウム合金を保護する目的も兼ねている。
【0011】
ブライト・ニッケル層13の表面には、さらに電気メッキでリン酸ニッケル層15を3μm〜15μmの厚さで形成する。リン酸ニッケル層15のHvは640であり、ブライト・ニッケル層13のHvより大きい。ブライト・ニッケル層13とリン酸ニッケル層15は中間層を構成する。リン酸ニッケル層15の表面には、スパッタ法またはイオン・プレーティング法などの物理的蒸着法で窒化チタン層17を形成する。窒化チタン層17は、多層被覆膜10の最も外側に形成される表面層であり厚さを0.05μm〜10μmとしている。窒化チタン層17のHvは800〜1100であり、リン酸ニッケル層15のHvより大きい。窒化チタン層17の形成に物理的蒸着法を採用するのは、下地層となるリン酸ニッケル層15への付着性を高めて容易に剥離しないようにするためである。
【0012】
多層被覆膜の硬度は、ビッカース硬度計で直接測定することができないためコイン・テスト法で計測した。コイン・テスト法では、あらかじめHvが既知の基準材料の表面に対して、10Kg/cmの力を加えたコインでスクラッチを形成し、多層被覆膜10にも同様の方法でスクラッチを形成する。そして、両者のスクラッチの痕跡を比較して近似している場合に当該基準材料のHvを多層被覆膜10のHvとして採用する。その結果、多層被覆膜10のHvは、800〜1100となった。表面層が薄いにもかかわらず比較的大きな硬度が得られたのはアルミニウム合金11よりも硬度の大きい中間層の作用による。
【0013】
本実施例では、中間層をブライト・ニッケル層とリン酸ニッケル層で構成したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。中間層は基材の硬度と表面層の硬度との中間の硬度を有する電気メッキが可能な材料であれば自由に選択できる。たとえば、銅、ニッケル、およびクロムから選択した単一の元素または2つ以上の元素を含む組成物から硬度を選択して順番に積層するようにしてもよい。中間層の数は多いほど耐剥離性が向上するがコストが増大するので2層程度が望ましい。このような多層被覆膜は、図2に示したようなノート型コンピュータや、PDA、カメラ、または携帯電話などに使用する筐体の構造材の被覆に適用することができる。
【0014】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【産業上の利用可能性】
【0015】
硬度の小さい基材を硬度の大きい表面層で被覆する被覆膜全般に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明にかかる多層被膜の構成を説明する図である。
【図2】本発明にかかる電子機器の筐体の例を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
10 多層被覆膜
11 アルミニウム合金
13 ブライト・ニッケル層
15 リン酸ニッケル層
17 窒化チタン層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面を被覆する多層被覆膜であって、
前記基材に電気メッキで形成され前記基材より硬度が大きい中間層と、
前記中間層に積層され前記中間層より硬度の大きい表面層と
を有する多層被覆膜。
【請求項2】
前記中間層が硬度の異なる複数の層を含み、それぞれの層が電気メッキにより前記基材から前記表面層に向かって硬度の小さい順番に積層されている請求項1記載の多層被覆膜。
【請求項3】
前記基材がアルミニウム合金で前記表面層が物理的蒸着法で形成された窒化チタン層である請求項1記載の多層被覆膜。
【請求項4】
前記中間層がリン酸ニッケル層を含む請求項3記載の多層被覆膜。
【請求項5】
前記中間層がブライト・ニッケル層を含む請求項3記載の多層被覆膜。
【請求項6】
前記基材がアルミニウム合金であり、前記中間層が前記アルミニウム合金の表面に電気メッキで形成されたブライト・ニッケル層と該ブライト・ニッケル層の表面に電気メッキで形成されたリン酸ニッケル層とを含み、前記表面層が前記ブライト・ニッケル層の表面にスパッタ法で形成された窒化チタン層である請求項1記載の多層被覆膜。
【請求項7】
前記ブライト・ニッケル層の厚さが5μm〜15μmの範囲で、前記リン酸ニッケル層の厚さが3μm〜15μmの範囲で、前記窒化チタン層の厚さが0.05μm〜10μmの範囲である請求項6記載の多層被覆膜。
【請求項8】
前記中間層が、銅、ニッケル、およびクロムからなるグループから選択された1つまたは複数の要素を含む層で構成された請求項1記載の多層被覆膜。
【請求項9】
基材表面を被覆する多層被覆膜であって、
前記基材に積層され前記基材より硬度の大きい中間層と、
前記中間層に積層され前記中間層より硬度の大きい表面層と
を有する多層被覆膜。
【請求項10】
電子機器の筐体であって、
筐体の構造を構成する構造材と、
前記構造材の表面を被覆する多層被覆膜とを含み、
前記多層被覆膜が請求項1ないし請求項9のいずれか1つに記載された多層被覆膜である電子機器の筐体。






【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−77431(P2007−77431A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264803(P2005−264803)
【出願日】平成17年9月13日(2005.9.13)
【出願人】(505205731)レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド (292)
【Fターム(参考)】