多段変速機
【課題】フリクションロスを低減でき、簡単な構造で組付け作業が容易で作業時間の短縮を図ることができる多段変速機を供する。
【解決手段】複数の歯車nと歯車軸12との間に設けられ互いの係合を行う係合手段20が切り換え駆動されて変速を行う多段変速機10において、揺動爪部材24,25の支軸ピン26が軸支する揺動中心に関して歯車nの係合凸部31の係合面に当接する係合端部24c,25cと反対側をピン部材23が当接して押し上げ係合を解除する多段変速機。
【解決手段】複数の歯車nと歯車軸12との間に設けられ互いの係合を行う係合手段20が切り換え駆動されて変速を行う多段変速機10において、揺動爪部材24,25の支軸ピン26が軸支する揺動中心に関して歯車nの係合凸部31の係合面に当接する係合端部24c,25cと反対側をピン部材23が当接して押し上げ係合を解除する多段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに平行な歯車軸にそれぞれ複数の駆動歯車と被動歯車が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支された多段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
この常時噛合い式の多段変速機は、駆動歯車と被動歯車の一方が歯車軸に固定され、他方が歯車軸に回転自在に軸支され、係合手段により回転自在の歯車のうち歯車軸に係合する歯車を切り換えることで変速を行う。
この歯車と歯車軸の係合に、カム部材により作動する係合爪を用いた同一出願人が出願し登録になった例がある(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特許第3838494号公報
【0004】
同特許文献1に開示された変速装置は、歯車を回転自在に軸支する中空歯車軸(変速軸)内をカム溝が形成されたカム部材(クラッチ操作子)を軸方向に移動することで、中空歯車軸に側壁を貫通して支持されたピン部材が浮沈して歯車の内周部に嵌合されたラチェット爪の自由端を内周面から出没させ、ラチェット爪の自由端を突出させたとき中空歯車軸に形成されたギヤ歯と係合して一方向の回転を伝達し、ラチェット爪を没したとき係合を解除する構造のものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
揺動するラチェット爪はその揺動中心に対して中空歯車軸のギヤ歯に係合する自由端側を、ピン部材が押し上げることで、自由端のギヤ歯との係合を解除する構成であるので、歯車側にラチェット爪を有し、歯車の内周部にラチェット爪が収納される凹部が形成され、同凹部はラチェット爪を揺動可能に嵌合し、自由端を内周面から出没自在としている。
そして、各歯車について2つずつラチェット爪が設けられている。
【0006】
したがって、中空歯車軸に浮沈自在に支持されたピン部材が径方向外側に突出して歯車側のラチェット爪を押し上げてギヤ歯との係合を解除した状態では、中空歯車軸と歯車が相対回転している間、中空歯車軸側のピン部材は歯車側のラチェット爪の押し上げを維持すべく相対回転するラチェット爪に摺接しなければならずフリクションロスが大きい。
【0007】
また、構造が複雑であるとともに、複数の歯車を歯車軸に組付けるに際して、各歯車の内周部の2つの凹部にラチェット爪を内周面から自由端が突出しないように収納状態を保ちながら歯車軸に嵌挿しなければならず、その際に歯車軸には周方向に複数形成された径方向に貫通した貫通孔にピン部材を歯車に干渉しないように挿入しておかなければならず、組付け作業が容易ではない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、フリクションロスを低減でき、簡単な構造で組付け作業が容易で作業時間の短縮を図ることができる多段変速機を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、互いに平行な歯車軸にそれぞれ複数の駆動歯車と被動歯車が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、前記駆動歯車と前記被動歯車の一方の複数の歯車が歯車軸に固定され、他方の複数の歯車と歯車軸との間に設けられ互いの係合を行う係合手段が変速駆動手段により切り換え駆動されて変速を行う多段変速機において、前記係合手段は、各歯車の内周面の周方向所要位置に周方向に係合面を有して突出して形成された係合凸部と、前記歯車軸の中空内周面に軸方向に移動自在に摺接され摺接面に複数のカム溝が軸方向所要箇所に形成されたカムロッドと、前記歯車軸の所要箇所に径方向に貫通した貫通孔に嵌挿され前記軸方向に移動するカムロッドの摺接面と前記カム溝に交互に接して進退するピン部材と、前記歯車軸に設けられた支軸ピンに軸支され前記ピン部材の進退で揺動して前記係合凸部と係合および係合解除を行う揺動爪部材とを備え、前記揺動爪部材の前記支軸ピンが軸支する揺動中心に関して前記係合凸部の係合面に当接する係合端部と反対側を前記ピン部材が当接して押し上げ係合を解除する多段変速機とした。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の多段変速機において、前記揺動爪部材は、軸方向幅で揺動中心に関して前記係合端部側が反対側より大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の多段変速機によれば、揺動爪部材の支軸ピンが軸支する揺動中心に関して歯車の係合凸部の係合面に当接する係合端部と反対側を、歯車軸を径方向に貫通し進退するピン部材が当接して押し上げ係合を解除するので、揺動爪部材はピン部材と同じく歯車軸に設けられ一緒に回転する構造であり、よって揺動爪部材とピン部材との間にはフリクションロスが殆どない。
【0012】
また、歯車軸にピン部材と揺動爪部材および支軸ピンが組み込まれるので、組み込まれた状態で、歯車を簡単に組付けることができ、簡単な構造で組付け作業が容易で作業時間の短縮を図ることができる。
【0013】
請求項2記載の多段変速機によれば、揺動爪部材は、軸方向幅で揺動中心に関して係合端部側が反対側より大きいので、係合端部と反対側はピン部材からの荷重を受けるだけの幅があればよく、幅狭として小型に形成することができるとともに、係合端部側はその反対側より幅を大きくして重くし遠心力による振り出しが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図24に基づいて説明する。
本実施の形態に係る多段変速機10は、自動二輪車に搭載される内燃機関に組み合わされて構成されている。
図1は、該多段変速機10の断面図であり、同図1に示すように、該多段変速機10は、内燃機関と共通の機関ケース1に設けられている。
左右割りの左機関ケース1Lと右機関ケース1Rが合体して構成された機関ケース1は、変速室2を形成しており、同変速室2にメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12が互いに平行に左右方向に指向して回転自在に軸支されている。
【0015】
メイン歯車軸11は、左機関ケース1Lと右機関ケース1Rの各側壁にベアリング3L,3Rを介して回転自在に軸支され、右ベアリング3Rを貫通して変速室2から突出した右端部には多板式の摩擦クラッチ5が設けられている。
摩擦クラッチ5の左側には、図示されないクランク軸の回転が伝達されるプライマリ被動ギヤ4がメイン歯車軸11に回転自在に軸支されている。
【0016】
摩擦クラッチ5は、そのクラッチインナ5iがメイン歯車軸11の右端部にスプライン嵌合してナット7で固定され、クラッチインナ5iと同クラッチインナ5iに組み合わされたプレッシャプレート5pを収容する椀状をした大径のクラッチアウタ5oがプライマリ被動ギヤ4に連結具6により連結される。
したがって、内燃機関のクランク軸の回転がプライマリ被動ギヤ4から係合状態の摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達される。
【0017】
他方、カウンタ歯車軸12も、左機関ケース1Lと右機関ケース1Rの各側壁にベアリング7L,7Rを介して回転自在に軸支され、左ベアリング7Lを貫通して変速室2から突出した左端部には出力スプロケット8がスプライン嵌合して固定されている。
出力スプロケット8に巻き掛けられた駆動チェーン9が後方の図示されない後輪を駆動するスプロケットに巻き掛けられ、カウンタ歯車軸12の回転動力が後輪に伝達され、車両が走行する。
【0018】
メイン歯車軸11には、左右のベアリング3L,3Rの間に駆動変速歯車m群がメイン歯車軸11と一体に回転可能に構成されている。
右ベアリング3Rに沿って第1駆動変速歯車m1がメイン歯車軸11に一体に形成され、メイン歯車軸11の同第1駆動変速歯車m1と左ベアリング3Lとの間に形成されたスプラインに右から左へ順に第3,第5,第4,第2駆動変速歯車m3,m5,m4,m2がスプライン嵌合されている。
【0019】
他方、カウンタ歯車軸12には、左右のベアリング7L,7Rの間に被動変速歯車n群が環状の軸受カラー部材13を介してメイン歯車軸11と相対回転自在に軸支されている。
カウンタ歯車軸12において、右ベアリング7Rの左に介装されたカラー部材14Rを介して外装された右端の軸受カラー部材13と、左ベアリング7Lの右に介装されたカラー部材14Lを介して外装された左端の軸受カラー部材13との間に、等間隔に4つの軸受カラー部材13が外装され、この全部で6つの軸受カラー部材13の隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして右から左へ順に第1,第3,第5,第4,第2被動変速歯車n1,n3,n5,n4,n2が回転自在に軸支されている。
【0020】
メイン歯車軸11と一体に回転する第1,第3,第5,第4,第2駆動変速歯車m1,m3,m5,m4,m2は、カウンタ歯車軸12に回転自在に軸支される対応する第1,第3,第5,第4,第2被動変速歯車n1,n3,n5,n4,n2にそれぞれ常時噛み合っている。
第1駆動変速歯車m1と第1被動変速歯車n1の噛合が、最も減速比の大きい1速を構成し、第5駆動変速歯車m5と第5被動変速歯車n5の噛合が、最も減速比の小さい5速を構成し、その間順次減速比が小さくなって2速、3速、4速が構成される。
【0021】
中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、各被動変速歯車nと係合可能な係合手段20が後記するように組み込まれ、後記するように係合手段20の1構成要素である4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22がカウンタ歯車軸12の中空内周面に嵌合して軸方向に移動自在に摺接される。
4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22は、概ね円筒を周方向に4分割された形状をなし、第1カムロッド21と第2カムロッド22の2種類に分けられ対称位置に同種のカムロッドが位置する。
【0022】
第1,第2カムロッド21,22は、カウンタ歯車軸12の内周面との摺接面がカム面をなすカム部材であり、軸方向所要箇所5箇所に周方向に指向して円弧状をなすカム溝21v,22vが形成されている(図10参照)。
【0023】
この第1,第2カムロッド21,22を駆動して変速する変速駆動手段50の1構成要素であるコントロールロッド51が、カウンタ歯車軸12の中空中心軸に上記4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22の内側に摺接して挿入されており、コントロールロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介して連動して第1,第2カムロッド21,21,22,22を軸方向に移動する。
【0024】
このコントロールロッド51を軸方向に移動する機構が、左機関ケース1Lの左側に設けられている。
左機関ケース1Lの左側には出力スプロケット8を覆うように伝動ケース80が設けられ、さらに伝動ケース80の左側をケースカバー81が覆って、伝動ケース80とケースカバー81との間に変速駆動室82が形成されている。
【0025】
前記カウンタ歯車軸12の左端は、伝動ケース80の開口にシール部材83を介して嵌合されて変速駆動室82に臨んでおり、カウンタ歯車軸12内のコントロールロッド51は、カウンタ歯車軸12の左端よりさらに左方へ変速駆動室82内に突出している。
【0026】
伝動ケース80の上方には、変速駆動モータ60が駆動軸60aを左方変速駆動室82内に突出させて固着されている。
伝動ケース80とケースカバー81とに架設されベアリング61,61を介してゼネバ原動歯車62が一体の回転軸62aを回転自在に軸支され、その被動ギヤ歯62gが変速駆動モータ60の駆動軸60aに形成された駆動ギヤ歯60gに噛合している。
【0027】
ゼネバ原動歯車62は、その回転中心から所定距離偏心した位置に作動ピン62pが左方に突設されており、回転中心に関して作動ピン62pの反対側に所定径の円弧凸面62sが形成されている(図1,図2,図3参照)。
【0028】
また、変速駆動室82内で、このゼネバ原動歯車62と前記コントロールロッド51の左端部との間には、伝動ケース80とケースカバー81とに架設されベアリング64,64を介してシフトドラム65が回転軸65aを回転自在に軸支されている。
シフトドラム65は、ドラム本体の外周面に案内溝65vが形成されている。
【0029】
図4は、該シフトドラム65の外周面の展開図であり、案内溝65vは左寄りのニュートラルN位置から周方向に60度回転した1速位置がさらに軸方向左に変位した位置にあり、1速位置からは60度回転するごとに順次軸方向右に変位して2速、3速、4速、5速位置が連続して形成されている。
【0030】
このシフトドラム65の回転軸65aにはゼネバ被動歯車63が前記ゼネバ原動歯車62に対応して嵌着されている。
ゼネバ被動歯車63は、周方向に60度間隔に6本放射状溝63pが放射方向に指向して形成されるとともに、隣り合う放射状溝63p,63pとの間に円弧凹面63sが形成されている(図2,図3参照)。
【0031】
ゼネバ原動歯車62とゼネバ被動歯車63により6分の1回転ゼネバ・ストップ機構が構成される。
すなわち、図2に示すように、ゼネバ原動歯車62の回転により旋回する作動ピン62pがゼネバ被動歯車63の1放射状溝63pに入って出るまでに、ゼネバ被動歯車63を6分の1回転し、作動ピン62pが放射状溝63pを出たところでゼネバ原動歯車62の円弧凸面62sがゼネバ被動歯車63の円弧凹面63sに係合して、図3に示すように、ゼネバ被動歯車63を鎖錠し固定する。
したがって、ゼネバ原動歯車62の1回転で、ゼネバ被動歯車63がシフトドラム65と一体に確実に6分の1回転する。
【0032】
図1を参照して、前記コントロールロッド51の左端部には、2個のボールベアリング71,71がナット72によりインナレースが固着され、同ボールベアリング71,71のアウタレースにコントロールロッド操作子70が嵌着されている。
【0033】
コントロールロッド操作子70に突設された係合ピン75が、伝動ケース80に左右方向に指向して形成された長溝80vに摺動自在に係合している。
また、コントロールロッド操作子70には別途案内ピン76が、シフトドラム65に向けて突設され、シフトドラム65の案内溝65vに摺動自在に係合している。
【0034】
したがって、コントロールロッド操作子70は、係合ピン75と長溝80vの係合により自身回転を規制されてコントロールロッド51の左端部を回転自在に保持する。
そして、前記したようにシフトドラム65が間欠回転すると、コントロールロッド操作子70は、シフトドラム65の案内溝65vに係合した案内ピン76を介して左右軸方向に移動し、よってコントロールロッド操作子70の移動は、2個のボールベアリング71,71を介してコントロールロッド51を軸方向に所要量ずつ移動する。
【0035】
コントロールロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介してカムロッド21,22を軸方向に連動し、このカムロッド21,22の移動がカウンタ歯車軸12に組み込まれた係合手段20により各被動変速歯車nを選択的にカウンタ歯車軸12と係合して変速を行う。
【0036】
以下、この係合手段20の構造を、図5ないし図15に基づき説明する。
まず、変速駆動手段50のコントロールロッド51について、図9を参照して説明する。
コントロールロッド51は、4本のカムロッド21,21,22,22の内側に摺接する外径の長尺の中央円柱部51aが形成され、その左右両側が縮径部51bb,51ccを経て左側にスプライン歯51ssが形成されたスプライン部51sを経て左端円柱部51bが形成され、右側に軸方向に指向した係合溝51vを刻設した右端円柱部51cが形成されている。
スプライン部51sのスプライン歯51ssの最大径は、カウンタ歯車軸12の内径に略等しい。
【0037】
このコントロールロッド51の中央円柱部51aの回りに摺接される4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22は、図10を参照して、前記したように概ね円筒を周方向に4分割された形状をなし、カウンタ歯車軸12の内周面との摺接面である外周面には、軸方向所要5箇所に周方向に指向して円弧状をなすカム溝21v,22vが形成される。
カム溝21v,22vは、溝底面の両側の側面が互いに外側が開くように適度に傾斜している。
なお、第1,第2カムロッド21,22の外周面の互いに接する両端縁は切欠かれて、互いに接すると断面がV字状の切欠きvが構成される(図11参照)。
【0038】
そして、対称位置にある同種の2本の第1カムロッド21,21は、右端を若干延出させて係止爪21c,21cを形成しており、他の2本の第2カムロッド22,22は、左端を若干延出させて係止爪22c,22cを形成している。
【0039】
右側のロストモーション機構52は、コントロールロッド51の右側の縮径部51cc辺りに摺動自在に嵌合される円筒状のスプリングホルダ52hの内周凹部と縮径部51cc間にスプリング52sが収納されたもので、スプリング52sは内周凹部と縮径部51ccの双方に嵌合する両側の割りコッタ52c,52cに挟まれている(図5参照)。
このスプリングホルダ52hの左端面の2本の第1カムロッド21,21に対向する対称部分が突出して、第1カムロッド21,21の係止爪21c,21cに互いに係止する係止爪52hc,52hcが形成されている。
【0040】
同様に、左側のロストモーション機構53は、コントロールロッド51の左側の縮径部51bb辺りに摺動自在に嵌合される円筒状のスプリングホルダ53hの内周凹部と縮径部51bb間にスプリング53sが収納されたもので、スプリング53sは内周凹部と縮径部51bbの双方に嵌合する両側の割りコッタ53c,53cに挟まれている(図5参照)。
このスプリングホルダ53hの右端面の2本の第2カムロッド22,22に対向する対称部分が突出して、第2カムロッド22,22の係止爪22c,22cに互いに係止する係止爪53hc,53hcが形成されている。
なお、スプリングホルダ52h,53hの外周面には、第1,第2カムロッド21,22の外周面の切欠きに対応して周方向に4本等間隔に断面V字状の切欠き溝52hv,53hvが形成されている(図10,図11参照)。
【0041】
図11に示すように、コントロールロッド51の左右の縮径部51bb,51ccにロストモーション機構53,52が装着され、スプリングホルダ52h,53h間の中央円柱部51aの外周に4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22が摺接される。
このとき、同種のカムロッドが互いに対称位置になるように異種の第1,第2カムロッド21,22が交互に配置され、第1カムロッド21,21は右端の係止爪21c,21cを右側のスプリングホルダ52hの係止爪52hc,52hcに係止させ、第2カムロッド22,22は左端の係止爪22c,22cを左側のスプリングホルダ53hの係止爪53hc,53hcに係止させる。
【0042】
こうしてコントロールロッド51の周囲にロストモーション機構52,53とともに4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22が組付けられた状態で、中空筒状をなすカウンタ歯車軸12の中空内に嵌挿される。
【0043】
カウンタ歯車軸12の内周面は、第1,第2カムロッド21,21,22,22およびスプリングホルダ52h,53hに対応する部分に軸方向に指向して僅かに突出した突条が周方向に4本等間隔に形成され、第1,第2カムロッド21,21,22,22、スプリングホルダ52h,53hは、そのV字状の切欠きvおよび切欠き溝52hv,53hvをカウンタ歯車軸12の内周面の突条に嵌合して周方向の位置決めがなされ相対的回転が規制されて軸方向に移動自在に摺接する。
【0044】
また、カウンタ歯車軸12におけるコントロールロッド51のスプライン部51sに対応する内周面には、コントロールロッド51側のスプライン歯51ssに噛み合うスプライン歯12ssが形成されていて、コントロールロッド51はカウンタ歯車軸12に対して相対的回転が規制されて軸方向に移動自在に摺接する(図5,図6参照)。
【0045】
なお、コントロールロッド51側のスプライン歯51ssは8本あるのに対してカウンタ歯車軸12側のスプライン歯12ssは4本しかなく、欠損したスプライン歯の部分は連通孔となり潤滑油通路51oとされる(図1,図5,図6参照)。
【0046】
さらに、図5に示すように、カウンタ歯車軸12の右端開口に圧入された環状のカラー部材54がコントロールロッド51の右端円柱部51cを保持するとともに、カラー部材54から中心に向かって突設された係合ピン55が右端円柱部51cに軸方向に指向して刻設された係合溝51vに係合する。
したがって、コントロールロッド51は、上記回り止め機構によりカウンタ歯車軸12に対して回転方向において両端で互いに係合して相対回転を規制され、軸方向のみ移動可能に支持される。
【0047】
このように、カウンタ歯車軸12の中空内にコントロールロッド51とロストモーション機構52,53と4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22が組み込まれると、これら全てが一緒に回転し、コントロールロッド51が軸方向に移動すると、ロストモーション機構52のスプリング52sを介して第1カムロッド21,21がカウンタ歯車軸12に対して軸方向に移動し、ロストモーション機構53のスプリング53sを介して第2カムロッド22,22がカウンタ歯車軸12に対して軸方向に移動する。
【0048】
中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、図12に斜視図で示すように、第1,第2カムロッド21,21,22,22に対応するとともに被動変速歯車nが軸支される中央円筒部12aの左右両側に外径が縮径された左側円筒部12bと右側円筒部12cが形成されている。
左側円筒部12bにはワッシャ56を介してベアリング7Lが嵌合されるとともに、一部スプライン12bbが形成されて前記出力スプロケット8がスプライン嵌合される(図5参照)。
また、右側円筒部12cにはワッシャ57を介してベアリング7Rが嵌合される(図5参照)。
【0049】
図12に示すように、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aは、外径が大きく肉厚に構成されており、この肉厚の外周部に周方向に一周する周方向溝12cvが軸方向に等間隔に5本形成されるとともに、軸方向に指向した軸方向溝12avが周方向に等間隔に4本形成されている。
【0050】
さらに、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周部には、5本の周方向溝12cvと4本の軸方向溝12avで区画された複数の区画のうち所要区画に、略矩形状の凹部12dが形成されている。
【0051】
周方向溝12cvで区画された各環状部分が、4本の軸方向溝12avで4つに区画されているが、そのうち対称な2区画に凹部12dが形成され、同凹部12dはその左側の周方向溝12cvと共通の空間を形成している。
図12に示すように、軸方向に関して左側2つの凹部12dと右側3つの凹部12dが互いに周方向に90度ずれて一列に配列している。
【0052】
周方向溝12cvの底部の所要4箇所にピン孔12hが径方向に穿孔されており、同ピン孔12hにピン部材23が進退自在に嵌挿される。
ピン孔12hはカウンタ歯車軸12の中空内周面と周方向溝12cvの底面とを径方向に貫通しており、同ピン孔12hに嵌挿されたピン部材23は、カウンタ歯車軸12の中空側に出没でき、周方向溝12cv側に突出して進退できる。
【0053】
カウンタ歯車軸12の中空内周面には、第1,第2カムロッド21,22が摺接されるので、第1,第2カムロッド21,22の摺接面に形成されたカム溝21v,22vがピン孔12hに対向した位置に移動すると、ピン部材23はカム溝21v,22vに落ちて周方向溝12cv側への突出量は小さくなり、摺接面がピン孔12hに対向した位置になると、ピン部材23はカム溝21v,22vから抜けて周方向溝12cv側への突出量は大きくなる。
【0054】
以上のような構造のカウンタ歯車軸12の凹部12dと周方向溝12cvには、2種類の揺動爪部材24,25が埋設され、軸方向溝12avに揺動爪部材24,25を揺動自在に軸支する支軸ピン26が埋設される。
【0055】
図13には、最も右側の周方向溝12cvとその右側の凹部12dに埋設される4個の揺動爪部材24,24,25,25およびその各支軸ピン26と、最も左側の周方向溝12cvとその右側の凹部12dに埋設される4個の揺動爪部材24,24,25,25およびその各支軸ピン26の分解斜視図が示されている。
【0056】
揺動爪部材24,25は、軸方向視で略円弧状をなし、中央に支軸ピン26が貫通する貫通孔の外周部が欠損して軸受凹部24d,25dが形成されており、同軸受凹部24d,25dの揺動中心に関して一方の側にピン受部24p,25pが延出し、他方の側に係合爪部24c,25cが延出している。
【0057】
ピン受部24p,25pは、周方向溝12cvに揺動自在に嵌合する狭い軸方向幅を有し、内周面にピン部材24p,25pを受けるピン受け凹部24pp,25ppが形成されており、他方の係合爪部24c,25cは、凹部12dに揺動自在に嵌合する広い軸方向幅を有し、軸方向視で先細に形成されている。
幅広の係合爪部24c,25cは、幅狭のピン部材24p,25pより重く、旋回において重錘として作用して遠心力により揺動爪部材24,25を揺動させる。
2種類の揺動爪部材24,25は、互いに面対称の形状をなす。
【0058】
支軸ピン26は、軸受凹部24d,25dに嵌合して揺動爪部材24,25を揺動自在に軸支する。
揺動爪部材24,25は、カウンタ歯車軸12の凹部12dと周方向溝12cvに埋設され、支軸ピン26は揺動爪部材24,25の軸受凹部24d,25dに嵌合されるとともに軸方向溝12avに埋設される。
カウンタ歯車軸12の1つの凹部12dには、周方向に隣り合う揺動爪部材24,25の係合爪部24c,25cが互いの先端を所定の間隔を存して対向させて埋設される。
【0059】
図13に一部のねじりコイルスプリング27が図示されるように、支軸ピン26にはねじりコイルスプリング27が巻回され、同ねじりコイルスプリング27の一端は揺動爪部材24,25の係合爪部24c,25c側に内側から係止され、他端は凹部12dの底面に接するようにして組み付けて揺動爪部材24,25を係合爪部24c,25cが外側に揺動するように付勢する。
【0060】
前記ピン部材23は揺動爪部材24,25の一方のピン受部24p,25pを内側から押し上げて作用するので、ねじりコイルスプリング27による付勢力に抗して揺動爪部材24,25を揺動することになる。
【0061】
以上の係合手段20をカウンタ歯車軸12に組み付ける手順について説明する。
まず、前記したように、コントロールロッド51の周囲にロストモーション機構52,53とともに4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22を組み付けて図11に示す組付け状態として、カウンタ歯車軸12の中空内に嵌挿する。
その際、各第1,第2カムロッド21,21,22,22が、カウンタ歯車軸12の軸方向溝12avに対応する周方向位置になるように位置決めされ、ピン孔12hは各第1,第2カムロッド21,21,22,22の摺接面にそれぞれ対向する(図7,図8参照)。
【0062】
4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22のカウンタ歯車軸12に対する左右移動位置は、ニュートラル位置になるように設定しておく。
この状態で、カウンタ歯車軸12の周方向溝12cvに形成されたピン孔12hにピン部材23を嵌挿すると、全てのピン部材23は第1,第2カムロッド21,21,22,22の摺接面に当接して周方向溝12cvからの突出量が大きく設定されている。
【0063】
そして、揺動爪部材24,25の軸受凹部24d,25dに、ねじりコイルスプリング27を巻回した支軸ピン26を嵌合した状態で、カウンタ歯車軸12の外周に形成された凹部12d,周方向溝12cv,軸方向溝12av等の凹部に埋設する。
揺動爪部材24,25は、大きく突出したピン部材23によりねじりコイルスプリング27の付勢力に抗して一方のピン受部24p,25pが内側から押し上げられて他方の係合爪部24c,25cを内側に引っ込めており、図14に示すように、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出するものはない。
【0064】
なお、ピン部材23が第1,第2カムロッド21,22のカム溝21v,22vに落ち込んでねじりコイルスプリング27の付勢力およびピン受部24p,25pより重い係合爪部24c,25cの遠心力により揺動爪部材24,25が支軸ピン26を中心に揺動すると、係合爪部24c,25cがカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出する。
【0065】
図14に示すカウンタ歯車軸12に係合手段20を組み込み、中央円筒部12aの外周面より外側に突出するものがない状態で、図15に示すように、軸受カラー部材13を嵌め込んで外装していく。
軸受カラー部材13は、中央円筒部12aの凹部12d以外の軸方向位置に外装され、それは軸方向溝12avに一列に連続して埋設される支軸ピン26の隣り合う支軸ピン26,26に跨って配置され、支軸ピン26および揺動爪部材24,25の脱落を防止する。
カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの軸方向溝12avに埋設される支軸ピン26は、中央円筒部12aの外周面に接する深さに埋設されるので、軸受カラー部材13が外装されると、ガタなく固定される。
【0066】
6個の軸受カラー部材13がカウンタ歯車軸12に等間隔に外装され、隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして被動変速歯車nが回転自在に軸支される。
各被動変速歯車nは、左右内周縁部(内周面の左右周縁部)に切欠きが形成されて左右切欠きの間に薄肉環状の突条30が形成されており、この突条30を挟むように左右の軸受カラー部材13,13が切欠きに滑動自在に係合する(図5,図7,図8参照)。
【0067】
この各被動変速歯車nの内周面の突条30に係合凸部31が周方向に等間隔に6箇所形成されている。
係合凸部31は、側面視(図7,図8に示す軸方向視)で薄肉円弧状をなし、その周方向の両端面が前記揺動爪部材24,25の係合爪部24c,25cと係合する係合面をなす。
【0068】
揺動爪部材24と揺動爪部材25は、互いに対向する側に係合爪部24c,25cを延出しており、揺動爪部材24は被動変速歯車n(およびカウンタ歯車軸12)の回転方向で係合凸部31に当接して係合し、揺動爪部材25は被動変速歯車nの逆の回転方向で、係合凸部31に当接して係合する。
なお、揺動爪部材24は被動変速歯車nの逆の回転方向では係合爪部24cが外側に突出していても係合せず、同様に、揺動爪部材25は被動変速歯車nの回転方向では係合爪部25cが外側に突出していても係合しない。
【0069】
実際に、カウンタ歯車軸12に係合手段20等を組み込み、5個の被動変速歯車nを組み付ける場合は、以下のようにする。
まず、カウンタ歯車軸12に、図11に示す状態に組み付けたコントロールロッド51、カムロッド21,22およびロストモーション機構52,53を前記したように挿入し、ピン部材23をピン孔12hに挿入しておき、左を上にして立てた状態にする。
【0070】
そして、まず図15に実線で示すように中央円筒部12aの下端(右端)に右端の軸受カラー部材13を外装してから、第1被動変速歯車n1用の係合手段20(揺動爪部材24,25、支軸ピン26、ねじりコイルスプリング27)を組み付け、次いで第1被動変速歯車n1を上から嵌挿して軸受カラー部材13に第1被動変速歯車n1の突条30を当接し切欠きを係合して組み付け、次に第2の軸受カラー部材13を上から嵌挿し第1被動変速歯車n1の切欠きに係合してカウンタ歯車軸12の所定位置に外装して第1被動変速歯車n1を軸方向に位置決めして取り付ける。
次に、第3被動変速歯車n3用の係合手段20を組み付け、第3被動変速歯車n3を取り付け、以後、この作業を繰り返して残りの第5,第4,第2被動変速歯車n5,n4,n2が順次組み付けられ、最後に第6の軸受カラー部材13を外装する。
【0071】
こうして5個の被動変速歯車nがカウンタ歯車軸12に組み付けられた状態で、図1に示すように、カウンタ歯車軸12が左機関ケース1Lと右機関ケース1Rの各側壁に嵌着される左右のベアリング7L,7Rにカラー部材14L,14Rを介して挟まれるようにして回転自在に軸支されると、5個の被動変速歯車nと6個の軸受カラー部材13が交互に組み合わされて左右から挟まれ、軸方向の位置決めがなされる。
軸受カラー部材13は、各被動変速歯車nの軸方向の力を支え、軸方向の位置決めとスラスト力を受けることができる。
【0072】
このようにしてカウンタ歯車軸12に軸受カラー部材13を介して第1,第3,第5,第4,第2被動変速歯車n1,n3,n5,n4,n2が回転自在に軸支される。
第1,第2カムロッド21,22がニュートラル位置にあるので、全ての被動変速歯車nは、それぞれ対応する係合手段20の第1,第2カムロッド21,22の移動位置によりピン部材23が突出して揺動爪部材24,25のピン受部24p,25pを内側から押し上げ係合爪部24c,25cを内側に引っ込めた係合解除状態にあって、カウンタ歯車軸12に対して自由に回転する。
【0073】
一方、係合手段20のカムロッド21,22のニュートラル位置以外の移動位置によりピン部材23がカム溝21v,22vに入り揺動爪部材24,25が揺動して係合爪部24c,25cを外側に突出した係合可能状態となれば、対応する被動変速歯車nの係合凸部31が係合爪部24c,25cに当接して、該被動変速歯車nの回転がカウンタ歯車軸12に伝達されるか、またはカウンタ歯車軸12の回転が該被動変速歯車nに伝達される。
【0074】
前記変速駆動手段50において、変速駆動モータ60が駆動され、ゼネバ原動歯車62が1回転すると、6分の1回転ゼネバ・ストップ機構によりシフトドラム65が60度回転し、シフトドラム65の案内溝65vに係合する案内ピン76が案内されて案内ピン76と一体のコントロールロッド操作子70を軸方向に所定量移動する。
コントロールロッド操作子70は、2個のボールベアリング71,71を介してコントロールロッド51を一緒に軸方向に所定量移動し、コントロールロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53のスプリング52s,53sを介して第1,第2カムロッド21,22を連動して軸方向に移動する。
【0075】
第1,第2カムロッド21,22が軸方向に移動することで、係合手段20の第1,第2カムロッド21,22に摺接するピン部材23がカム溝21v,22vに入ったり抜けたりして進退し、揺動爪部材24,25を揺動して、被動変速歯車nとの係合を解除し、他の被動変速歯車nと係合してカウンタ歯車軸12と係合する被動変速歯車nを変えることで変速が行われる。
【0076】
なお、変速駆動手段として、変速駆動モータ60を駆動して変速を行うようにしているが、運転者が変速操作レバー等を操作してケーブルを進退させ、ケーブルの進退によりゼネバ・ストップ機構等を介してシフトドラムを回転させるようにして変速を行うようにしてもよい。
【0077】
以下、内燃機関の駆動による加速時に、1速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする過程を、図16ないし図21に従って説明する。
図16ないし図21は、経時的変化を示しており、各図において、図(a)は、カウンタ歯車軸12およびその周りの構造を示す断面図であり、図(b)は図(a)のb−b線断面図(第2被動変速歯車n2の断面図)、図(c)は図(a)のc−c線断面図(第1被動変速歯車n1の断面図)である。
【0078】
内燃機関の動力は、摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達されて、第1,第3,第5,第4,第2駆動変速歯車m1,m3,m5,m4,m2を一体に回転しており、これらにそれぞれ常時噛合する第1,第3,第5,第4,第2被動変速歯車n1,n3,n5,n4,n2をそれぞれの回転速度で回転させている。
【0079】
図16は、1速状態を示しており、図16(b)では第2被動変速歯車n2が矢印方向に回転し、図16(c)では第1被動変速歯車n1が矢印方向に回転しており、第1被動変速歯車n1よりも第2被動変速歯車n2が高速で回転している。
【0080】
第1被動変速歯車n1に対応する係合手段20のピン部材23のみが第1,第2カムロッド21,22のカム溝21v,22vに入っており、したがって該係合手段20の揺動爪部材24,25が係合爪部24c,25cを外側に突出して、回転する第1被動変速歯車n1の係合凸部31が揺動爪部材25の係合爪部25cに係合して(図16(c)参照)、カウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1とともに第1被動変速歯車n1と同じ回転速度で回転している。
なお、図16ないし図24において、有効に動力伝達している揺動爪部材24,25と係合凸部31には格子ハッチを施している。
【0081】
この1速状態では、第2被動変速歯車n2は、対応する係合手段20のピン部材23が第1,第2カムロッド21,22のカム溝21v,22vから出て突出し、該係合手段20の揺動爪部材24,25が係合爪部24c,25cを内側に引っ込めているので、空回りしている。
他の第3,第4,第5被動変速歯車n3,n4,n5も同様で空回りしている(図16(b)参照)。
【0082】
ここで、2速に変速すべく変速駆動モータ60が駆動され、コントロールロッド操作子70が軸方向右方に移動し始めると、ロストモーション機構52,53のスプリング52s,53sを介して第1,第2カムロッド21,22を連動して軸方向右方に移動しようとする。
【0083】
図17を参照して、一方の第1カムロッド21はピン部材23を介して作動する揺動爪部材24が第1被動変速歯車n1の係合凸部31と係合していないので、あまり抵抗なく移動してそのカム溝21vに入っていたピン部材23を抜け出させて突出し、揺動爪部材24を揺動してその係合爪部24cを内側に引っ込めていく(図17(c)参照)。
【0084】
これに対して、他方の第2カムロッド22は、ピン部材23を介して作動する揺動爪部材25が第1被動変速歯車n1の係合凸部31と係合して第1被動変速歯車n1から動力を受けているので、揺動爪部材25を揺動して係合を解除するのに相当大きな摩擦抵抗があり、よってロストモーション機構53のスプリング53sの力により第2カムロッド22が移動してピン部材23をカム溝22vの傾斜した側面に沿って突出させようとしても揺動爪部材25を押し上げて揺動させることはできず、カム溝22vの傾斜した側面をピン部材23が上がりかけたところでカムロッド22は停止されて、係合を解除できないままとなる(図17(c)参照)。
【0085】
図17に示す状態では、第2被動変速歯車n2においては、第1カムロッド21のカム溝21vにピン部材23は入っておらず、揺動爪部材25に変化がなく、揺動爪部材24も第2カムロッド22が停止しているので変化がない(図17(b)参照)。
【0086】
第2カムロッド22が停止した状態で、さらにコントロールロッド操作子70が右方に移動すると、第1カムロッド21も右方に移動し、図18を参照して、第1被動変速歯車n1において第1カムロッド21のカム溝21vからピン部材23が抜け出て突出し、揺動爪部材24を揺動してその係合爪部24cを内側に完全に引っ込める(図18(c)参照)とともに、第2被動変速歯車n2においては第1カムロッド21のカム溝21vにピン部材23が入り、揺動爪部材25がねじりコイルスプリング27の付勢力および係合爪部25cの遠心力により揺動して係合爪部25cを外側に突出する(図18(b)参照)。
【0087】
すると、第1被動変速歯車n1とともに回転するカウンタ歯車軸12より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が揺動爪部材25の外側に突出した係合爪部25cに追いつき当接する(図19(b)参照)。
この瞬間、図19(b)と図19(c)を参照して、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と第1被動変速歯車n1の係合凸部31がそれぞれの揺動爪部材25,25の係合爪部25c,25cに同時に当接する瞬間がある。
【0088】
したがって、この直後から、より高速で回転する第2被動変速歯車n2によりカウンタ歯車軸12が第2被動変速歯車n2と同じ回転速度で回転し始め(図20(b)参照)、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から揺動爪部材25の係合爪部25cが離れて行き(図20(c)参照)、実際の1速から2速へのシフトアップが実行される。
【0089】
コントロールロッド操作子70の移動はここで終了するが、変速作業の方は、まだ続き、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から揺動爪部材25の係合爪部25cが離れることで、揺動爪部材25を固定する摩擦抵抗が無くなり、ロストモーション機構53のスプリング53sにより付勢されていた第2カムロッド22が右方に移動してカム溝22vに入っていたピン部材23が抜け出し、揺動爪部材25を揺動してその係合爪部25cを内側に引っ込めていく(図20(c)参照)。
【0090】
そして、さらに第2カムロッド22が右方に移動することで、第1被動変速歯車n1におけるピン部材23はカム溝22vから抜け、揺動爪部材25の係合爪部25cを内側に完全に引っ込める(図21(c)参照)とともに、第2被動変速歯車n2においてカム溝22vにピン部材23が入り、揺動爪部材24がねじりコイルスプリング27の付勢力および係合爪部24cの遠心力により揺動して係合爪部24cを外側に突出する(図21(b)参照)。
この状態で1速から2速への変速作業は完了する。
【0091】
以上のように、1速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする際に、図19に示すように、第1被動変速歯車n1の係合凸部31が揺動爪部材25の係合爪部25cに当接して係合しカウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1と同速度で回転させている状態で、より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が揺動爪部材25の係合爪部25cに追いつき当接してカウンタ歯車軸12を第2被動変速歯車n2とともにより高速度で回転させて変速するので、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から揺動爪部材25の係合爪部25cは自然と離れていき係合が円滑に解除されるため、係合解除に力を要せず滑らかに作動して滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0092】
2速から3速、3速から4速、4速から5速の各シフトアップも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材24に係合している状態で、減速比が1段小さい被動変速歯車nが揺動爪部材24に係合してシフトアップがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトアップ時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0093】
例えば、1速状態にあるとき、図16(c)に示すように、第1被動変速歯車n1の係合凸部31に揺動爪部材25が係合していると同時に、他方の揺動爪部材24の係合爪部24cが係合凸部31に間近で係合可能状態にある。
したがって、車速が減速されて後輪からカウンタ歯車軸12への駆動力が働き、駆動力の方向が変化した時には、第1被動変速歯車n1の係合凸部31が揺動爪部材25から揺動爪部材24に係合が速やかに切り換わり、係合が滑らかに引き継がれて維持されることができる。
【0094】
そして、1速から2速にシフトアップする際には、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が揺動爪部材25に係合する前に、第1被動変速歯車n1における揺動爪部材24の係合爪部24cは係合可能状態から内側に引っ込んで揺動爪部材24が変速の妨げになることはなく(図19(c)参照)、円滑で確実な係合および係合解除が実行される。
【0095】
次に、車速を減速している時に、2速状態から減速比が1段大きい1速状態にシフトダウンする過程を、図22ないし図24に従って説明する。
図22は、変速段が2速状態で、減速した直後の状態を示している。
減速により後輪からカウンタ歯車軸12への駆動力が働き、図22(b)に示すように、回転速度が低下した第2被動変速歯車n2の係合凸部31に、係合可能状態にあった揺動爪部材24の係合爪部24cが係合してカウンタ歯車軸12の回転動力を第2被動変速歯車n2に伝達する所謂エンジンブレーキが働いている。
【0096】
この状態で、1速にシフトダウンするために、変速駆動モータ60の駆動によりコントロールロッド操作子70が軸方向左方に移動すると、ロストモーション機構52,53のスプリング52s,53sを介して第1,第2カムロッド21,22を連動して軸方向左方に移動しようとするが、第2カムロッド22は、ピン部材23を介して作動する揺動爪部材24が第2被動変速歯車n2の係合凸部31と係合して第2被動変速歯車n2から動力を受けているので、揺動爪部材24を揺動して係合を解除するのに相当大きな摩擦抵抗があり、カム溝22vの傾斜した側面をピン部材23が上がりかけたところで第2カムロッド22は停止されて、係合を解除できないままとなる。
【0097】
他方、第1カムロッド21はピン部材23を介して作動する揺動爪部材25が第2被動変速歯車n2の係合凸部31と係合していないので、あまり抵抗なく左方に移動してそのカム溝21vに入っていたピン部材23を抜けださせて突出し、揺動爪部材25を揺動してその係合爪部25cを内側に引っ込める(図23(b)参照)。
【0098】
また、第1被動変速歯車n1においては、第1カムロッド21の左方への移動により、第1カムロッド21のカム溝21vにピン部材23が入り、揺動爪部材24がねじりコイルスプリング27の付勢力および係合爪部24cの遠心力により揺動して係合爪部24cを外側に突出する(図23(c)参照)。
そして、カウンタ歯車軸12とともに揺動爪部材24が回転して第1被動変速歯車n1の係合凸部31に追いつき当接すると、図23(b)と図23(c)に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と第1被動変速歯車n1の係合凸部31がそれぞれの揺動爪部材24,24の係合爪部24c,24cに同時に当接する瞬間がある。
この直後から、より低速で回転する第1被動変速歯車n1との係合が有効になり、第2被動変速歯車n2との係合は解除され、2速から1速へのシフトダウンが実行される。
【0099】
コントロールロッド操作子70の移動はここで終了するが、変速作業の方は、まだ続き、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と揺動爪部材24との係合が解除されることで、揺動爪部材24を固定する摩擦抵抗が無くなり、ロストモーション機構53のスプリング53sにより付勢されていた第2カムロッド22が左方に移動して、第2被動変速歯車n2においてカム溝22vに入っていたピン部材23が抜け出し、揺動爪部材24を揺動してその係合爪部24cを内側に引っ込め(図24(b)参照)、第1被動変速歯車n1においてはカム溝22vにピン部材23が入り、揺動爪部材25がねじりコイルスプリング27の付勢力および係合爪部25cの遠心力により揺動して係合爪部25cを外側に突出する(図24(c)参照)。
この状態で2速から1速への変速作業は完了する。
【0100】
以上のように、2速状態から減速比が1段大きい1速状態にシフトダウンする際に、図23に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31に揺動爪部材24の係合爪部24cが当接して係合している状態で、より低速で回転する第1被動変速歯車n1の係合凸部31に揺動爪部材24の係合爪部24cが追いつき当接して係合を切り換えるので、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と揺動爪部材24の係合爪部24cとの係合が円滑に解除されるため、係合解除に力を要せず滑らかに作動して滑らかなシフトダウンを行うことができる。
【0101】
5速から4速、4速から3速、3速から2速の各シフトダウンも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材24に係合している状態で、減速比が1段大きい被動変速歯車nに揺動爪部材24が係合してシフトダウンがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトダウン時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトダウンを行うことができる。
【0102】
例えば、2速状態にあるとき、図22(b)に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31に揺動爪部材24が係合していると同時に、他方の揺動爪部材25の係合爪部25cが係合凸部31に間近で係合可能状態にある。
したがって、車速が加速されて内燃機関から第2被動変速歯車n2へ駆動力が働き、駆動力の方向が変化した時には、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が揺動爪部材24から揺動爪部材25に係合が速やかに切り換わり、係合が滑らかに引き継がれて維持されることができる。
【0103】
そして、2速から1速にシフトダウンする際には、第1被動変速歯車n1の係合凸部31に揺動爪部材24が係合する前に、第2被動変速歯車n2における揺動爪部材25の係合爪部25cは係合可能状態から内側に引っ込んで揺動爪部材25が変速の妨げになることはなく(図23(b)参照)、円滑で確実な係合および係合解除が実行される。
【0104】
本多段変速機10における係合手段20は、揺動爪部材24,25の支軸ピン26が軸支する揺動中心に関して被動変速歯車nの係合凸部31の係合面に当接する係合爪部24c,25cと反対側のピン受部24p,25pを、カウンタ歯車軸12を径方向に貫通し進退するピン部材23が当接して押し上げ係合を解除するので、揺動爪部材24,25はピン部材24p,25pと同じくカウンタ歯車軸12に設けられ一緒に回転する構造であり、よって揺動爪部材24,25とピン部材24p,25pとの間にはフリクションロスが殆どない。
【0105】
また、カウンタ歯車軸12にピン部材24p,25pと揺動爪部材24,25および支軸ピン26が組み込まれるので、組み込まれた状態で、被動変速歯車nを簡単に組付けることができ、簡単な構造で組付け作業が容易で作業時間の短縮を図ることができる。
【0106】
揺動爪部材24,25は、軸方向幅で揺動中心に関して係合爪部24c,25c側が反対側のピン受部24p,25pより大きく、係合爪部24c,25cと反対側のピン受部24p,25pはピン部材23からの荷重を受けるだけの幅があればよく、幅狭として小型に形成することができるとともに、係合爪部24c,25c側はその反対側のピン受部24p,25pより幅を大きくして重くし遠心力による振り出しを容易にすることができる。
なお、揺動爪部材24,25を揺動付勢するねじりコイルスプリング27も付勢力の小さいものを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の一実施の形態に係る多段変速機の断面図である。
【図2】変速駆動手段のゼネバ・ストップ機構を示す図である。
【図3】別の状態のゼネバ・ストップ機構を示す図である。
【図4】シフトドラムの外周面の展開図である。
【図5】カウンタ歯車軸およびその周りの構造を示す断面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【図8】図5のVIII−VIII線断面図である。
【図9】コントロールロッドの斜視図である。
【図10】カムロッドとロストモーション機構の分解斜視図である。
【図11】コントロールロッドにカムロッドとロストモーション機構を組み付けた状態を示す斜視図である。
【図12】カウンタ歯車軸とピン部材の分解斜視図である。
【図13】揺動爪部材と支軸ピンの分解斜視図である。
【図14】カウンタ歯車軸に揺動爪部材、支軸ピン、カムロッド、コントロールロッド等を組み付けた状態を示す斜視図である。
【図15】図14に示す状態のカウンタ歯車軸に1軸受カラー部材を外装した状態を示す斜視図である。
【図16】シフトアップ開始時の1速状態を示す説明図である。
【図17】シフトアップ作業途中の1過程を示す説明図である。
【図18】次の過程を示す説明図である。
【図19】次の過程を示す説明図である。
【図20】次の過程を示す説明図である。
【図21】シフトアップ完了時の2速状態を示す説明図である。
【図22】シフトダウン開始時の2速状態を示す説明図である。
【図23】シフトダウン作業途中の1過程を示す説明図である。
【図24】シフトダウン完了時の1速状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0108】
m…駆動変速歯車、m1〜m5…第1〜第5駆動変速歯車、n…被動変速歯車、n1〜n5…第1〜第5被動変速歯車、
1…機関ケース、10…多段変速機、11…メイン歯車軸、12…カウンタ歯車軸、12d…凹部、12av…軸方向溝、12cv…周方向溝、12h…ピン孔、13…軸受カラー部材、
20…係合手段、21…第1カムロッド,22…第2カムロッド、21v,22v…カム溝、23…ピン部材、24,25…揺動爪部材、24d,25d…軸受凹部、24c,25c…係合爪部、24p,25p…ピン受部、26…支軸ピン、27…ねじりコイルスプリング、31…係合凸部、
50…変速駆動手段、51…コントロールロッド、52, 53…ロストモーション機構。
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに平行な歯車軸にそれぞれ複数の駆動歯車と被動歯車が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支された多段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
この常時噛合い式の多段変速機は、駆動歯車と被動歯車の一方が歯車軸に固定され、他方が歯車軸に回転自在に軸支され、係合手段により回転自在の歯車のうち歯車軸に係合する歯車を切り換えることで変速を行う。
この歯車と歯車軸の係合に、カム部材により作動する係合爪を用いた同一出願人が出願し登録になった例がある(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特許第3838494号公報
【0004】
同特許文献1に開示された変速装置は、歯車を回転自在に軸支する中空歯車軸(変速軸)内をカム溝が形成されたカム部材(クラッチ操作子)を軸方向に移動することで、中空歯車軸に側壁を貫通して支持されたピン部材が浮沈して歯車の内周部に嵌合されたラチェット爪の自由端を内周面から出没させ、ラチェット爪の自由端を突出させたとき中空歯車軸に形成されたギヤ歯と係合して一方向の回転を伝達し、ラチェット爪を没したとき係合を解除する構造のものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
揺動するラチェット爪はその揺動中心に対して中空歯車軸のギヤ歯に係合する自由端側を、ピン部材が押し上げることで、自由端のギヤ歯との係合を解除する構成であるので、歯車側にラチェット爪を有し、歯車の内周部にラチェット爪が収納される凹部が形成され、同凹部はラチェット爪を揺動可能に嵌合し、自由端を内周面から出没自在としている。
そして、各歯車について2つずつラチェット爪が設けられている。
【0006】
したがって、中空歯車軸に浮沈自在に支持されたピン部材が径方向外側に突出して歯車側のラチェット爪を押し上げてギヤ歯との係合を解除した状態では、中空歯車軸と歯車が相対回転している間、中空歯車軸側のピン部材は歯車側のラチェット爪の押し上げを維持すべく相対回転するラチェット爪に摺接しなければならずフリクションロスが大きい。
【0007】
また、構造が複雑であるとともに、複数の歯車を歯車軸に組付けるに際して、各歯車の内周部の2つの凹部にラチェット爪を内周面から自由端が突出しないように収納状態を保ちながら歯車軸に嵌挿しなければならず、その際に歯車軸には周方向に複数形成された径方向に貫通した貫通孔にピン部材を歯車に干渉しないように挿入しておかなければならず、組付け作業が容易ではない。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、フリクションロスを低減でき、簡単な構造で組付け作業が容易で作業時間の短縮を図ることができる多段変速機を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、互いに平行な歯車軸にそれぞれ複数の駆動歯車と被動歯車が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、前記駆動歯車と前記被動歯車の一方の複数の歯車が歯車軸に固定され、他方の複数の歯車と歯車軸との間に設けられ互いの係合を行う係合手段が変速駆動手段により切り換え駆動されて変速を行う多段変速機において、前記係合手段は、各歯車の内周面の周方向所要位置に周方向に係合面を有して突出して形成された係合凸部と、前記歯車軸の中空内周面に軸方向に移動自在に摺接され摺接面に複数のカム溝が軸方向所要箇所に形成されたカムロッドと、前記歯車軸の所要箇所に径方向に貫通した貫通孔に嵌挿され前記軸方向に移動するカムロッドの摺接面と前記カム溝に交互に接して進退するピン部材と、前記歯車軸に設けられた支軸ピンに軸支され前記ピン部材の進退で揺動して前記係合凸部と係合および係合解除を行う揺動爪部材とを備え、前記揺動爪部材の前記支軸ピンが軸支する揺動中心に関して前記係合凸部の係合面に当接する係合端部と反対側を前記ピン部材が当接して押し上げ係合を解除する多段変速機とした。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の多段変速機において、前記揺動爪部材は、軸方向幅で揺動中心に関して前記係合端部側が反対側より大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の多段変速機によれば、揺動爪部材の支軸ピンが軸支する揺動中心に関して歯車の係合凸部の係合面に当接する係合端部と反対側を、歯車軸を径方向に貫通し進退するピン部材が当接して押し上げ係合を解除するので、揺動爪部材はピン部材と同じく歯車軸に設けられ一緒に回転する構造であり、よって揺動爪部材とピン部材との間にはフリクションロスが殆どない。
【0012】
また、歯車軸にピン部材と揺動爪部材および支軸ピンが組み込まれるので、組み込まれた状態で、歯車を簡単に組付けることができ、簡単な構造で組付け作業が容易で作業時間の短縮を図ることができる。
【0013】
請求項2記載の多段変速機によれば、揺動爪部材は、軸方向幅で揺動中心に関して係合端部側が反対側より大きいので、係合端部と反対側はピン部材からの荷重を受けるだけの幅があればよく、幅狭として小型に形成することができるとともに、係合端部側はその反対側より幅を大きくして重くし遠心力による振り出しが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る一実施の形態について図1ないし図24に基づいて説明する。
本実施の形態に係る多段変速機10は、自動二輪車に搭載される内燃機関に組み合わされて構成されている。
図1は、該多段変速機10の断面図であり、同図1に示すように、該多段変速機10は、内燃機関と共通の機関ケース1に設けられている。
左右割りの左機関ケース1Lと右機関ケース1Rが合体して構成された機関ケース1は、変速室2を形成しており、同変速室2にメイン歯車軸11とカウンタ歯車軸12が互いに平行に左右方向に指向して回転自在に軸支されている。
【0015】
メイン歯車軸11は、左機関ケース1Lと右機関ケース1Rの各側壁にベアリング3L,3Rを介して回転自在に軸支され、右ベアリング3Rを貫通して変速室2から突出した右端部には多板式の摩擦クラッチ5が設けられている。
摩擦クラッチ5の左側には、図示されないクランク軸の回転が伝達されるプライマリ被動ギヤ4がメイン歯車軸11に回転自在に軸支されている。
【0016】
摩擦クラッチ5は、そのクラッチインナ5iがメイン歯車軸11の右端部にスプライン嵌合してナット7で固定され、クラッチインナ5iと同クラッチインナ5iに組み合わされたプレッシャプレート5pを収容する椀状をした大径のクラッチアウタ5oがプライマリ被動ギヤ4に連結具6により連結される。
したがって、内燃機関のクランク軸の回転がプライマリ被動ギヤ4から係合状態の摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達される。
【0017】
他方、カウンタ歯車軸12も、左機関ケース1Lと右機関ケース1Rの各側壁にベアリング7L,7Rを介して回転自在に軸支され、左ベアリング7Lを貫通して変速室2から突出した左端部には出力スプロケット8がスプライン嵌合して固定されている。
出力スプロケット8に巻き掛けられた駆動チェーン9が後方の図示されない後輪を駆動するスプロケットに巻き掛けられ、カウンタ歯車軸12の回転動力が後輪に伝達され、車両が走行する。
【0018】
メイン歯車軸11には、左右のベアリング3L,3Rの間に駆動変速歯車m群がメイン歯車軸11と一体に回転可能に構成されている。
右ベアリング3Rに沿って第1駆動変速歯車m1がメイン歯車軸11に一体に形成され、メイン歯車軸11の同第1駆動変速歯車m1と左ベアリング3Lとの間に形成されたスプラインに右から左へ順に第3,第5,第4,第2駆動変速歯車m3,m5,m4,m2がスプライン嵌合されている。
【0019】
他方、カウンタ歯車軸12には、左右のベアリング7L,7Rの間に被動変速歯車n群が環状の軸受カラー部材13を介してメイン歯車軸11と相対回転自在に軸支されている。
カウンタ歯車軸12において、右ベアリング7Rの左に介装されたカラー部材14Rを介して外装された右端の軸受カラー部材13と、左ベアリング7Lの右に介装されたカラー部材14Lを介して外装された左端の軸受カラー部材13との間に、等間隔に4つの軸受カラー部材13が外装され、この全部で6つの軸受カラー部材13の隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして右から左へ順に第1,第3,第5,第4,第2被動変速歯車n1,n3,n5,n4,n2が回転自在に軸支されている。
【0020】
メイン歯車軸11と一体に回転する第1,第3,第5,第4,第2駆動変速歯車m1,m3,m5,m4,m2は、カウンタ歯車軸12に回転自在に軸支される対応する第1,第3,第5,第4,第2被動変速歯車n1,n3,n5,n4,n2にそれぞれ常時噛み合っている。
第1駆動変速歯車m1と第1被動変速歯車n1の噛合が、最も減速比の大きい1速を構成し、第5駆動変速歯車m5と第5被動変速歯車n5の噛合が、最も減速比の小さい5速を構成し、その間順次減速比が小さくなって2速、3速、4速が構成される。
【0021】
中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、各被動変速歯車nと係合可能な係合手段20が後記するように組み込まれ、後記するように係合手段20の1構成要素である4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22がカウンタ歯車軸12の中空内周面に嵌合して軸方向に移動自在に摺接される。
4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22は、概ね円筒を周方向に4分割された形状をなし、第1カムロッド21と第2カムロッド22の2種類に分けられ対称位置に同種のカムロッドが位置する。
【0022】
第1,第2カムロッド21,22は、カウンタ歯車軸12の内周面との摺接面がカム面をなすカム部材であり、軸方向所要箇所5箇所に周方向に指向して円弧状をなすカム溝21v,22vが形成されている(図10参照)。
【0023】
この第1,第2カムロッド21,22を駆動して変速する変速駆動手段50の1構成要素であるコントロールロッド51が、カウンタ歯車軸12の中空中心軸に上記4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22の内側に摺接して挿入されており、コントロールロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介して連動して第1,第2カムロッド21,21,22,22を軸方向に移動する。
【0024】
このコントロールロッド51を軸方向に移動する機構が、左機関ケース1Lの左側に設けられている。
左機関ケース1Lの左側には出力スプロケット8を覆うように伝動ケース80が設けられ、さらに伝動ケース80の左側をケースカバー81が覆って、伝動ケース80とケースカバー81との間に変速駆動室82が形成されている。
【0025】
前記カウンタ歯車軸12の左端は、伝動ケース80の開口にシール部材83を介して嵌合されて変速駆動室82に臨んでおり、カウンタ歯車軸12内のコントロールロッド51は、カウンタ歯車軸12の左端よりさらに左方へ変速駆動室82内に突出している。
【0026】
伝動ケース80の上方には、変速駆動モータ60が駆動軸60aを左方変速駆動室82内に突出させて固着されている。
伝動ケース80とケースカバー81とに架設されベアリング61,61を介してゼネバ原動歯車62が一体の回転軸62aを回転自在に軸支され、その被動ギヤ歯62gが変速駆動モータ60の駆動軸60aに形成された駆動ギヤ歯60gに噛合している。
【0027】
ゼネバ原動歯車62は、その回転中心から所定距離偏心した位置に作動ピン62pが左方に突設されており、回転中心に関して作動ピン62pの反対側に所定径の円弧凸面62sが形成されている(図1,図2,図3参照)。
【0028】
また、変速駆動室82内で、このゼネバ原動歯車62と前記コントロールロッド51の左端部との間には、伝動ケース80とケースカバー81とに架設されベアリング64,64を介してシフトドラム65が回転軸65aを回転自在に軸支されている。
シフトドラム65は、ドラム本体の外周面に案内溝65vが形成されている。
【0029】
図4は、該シフトドラム65の外周面の展開図であり、案内溝65vは左寄りのニュートラルN位置から周方向に60度回転した1速位置がさらに軸方向左に変位した位置にあり、1速位置からは60度回転するごとに順次軸方向右に変位して2速、3速、4速、5速位置が連続して形成されている。
【0030】
このシフトドラム65の回転軸65aにはゼネバ被動歯車63が前記ゼネバ原動歯車62に対応して嵌着されている。
ゼネバ被動歯車63は、周方向に60度間隔に6本放射状溝63pが放射方向に指向して形成されるとともに、隣り合う放射状溝63p,63pとの間に円弧凹面63sが形成されている(図2,図3参照)。
【0031】
ゼネバ原動歯車62とゼネバ被動歯車63により6分の1回転ゼネバ・ストップ機構が構成される。
すなわち、図2に示すように、ゼネバ原動歯車62の回転により旋回する作動ピン62pがゼネバ被動歯車63の1放射状溝63pに入って出るまでに、ゼネバ被動歯車63を6分の1回転し、作動ピン62pが放射状溝63pを出たところでゼネバ原動歯車62の円弧凸面62sがゼネバ被動歯車63の円弧凹面63sに係合して、図3に示すように、ゼネバ被動歯車63を鎖錠し固定する。
したがって、ゼネバ原動歯車62の1回転で、ゼネバ被動歯車63がシフトドラム65と一体に確実に6分の1回転する。
【0032】
図1を参照して、前記コントロールロッド51の左端部には、2個のボールベアリング71,71がナット72によりインナレースが固着され、同ボールベアリング71,71のアウタレースにコントロールロッド操作子70が嵌着されている。
【0033】
コントロールロッド操作子70に突設された係合ピン75が、伝動ケース80に左右方向に指向して形成された長溝80vに摺動自在に係合している。
また、コントロールロッド操作子70には別途案内ピン76が、シフトドラム65に向けて突設され、シフトドラム65の案内溝65vに摺動自在に係合している。
【0034】
したがって、コントロールロッド操作子70は、係合ピン75と長溝80vの係合により自身回転を規制されてコントロールロッド51の左端部を回転自在に保持する。
そして、前記したようにシフトドラム65が間欠回転すると、コントロールロッド操作子70は、シフトドラム65の案内溝65vに係合した案内ピン76を介して左右軸方向に移動し、よってコントロールロッド操作子70の移動は、2個のボールベアリング71,71を介してコントロールロッド51を軸方向に所要量ずつ移動する。
【0035】
コントロールロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53を介してカムロッド21,22を軸方向に連動し、このカムロッド21,22の移動がカウンタ歯車軸12に組み込まれた係合手段20により各被動変速歯車nを選択的にカウンタ歯車軸12と係合して変速を行う。
【0036】
以下、この係合手段20の構造を、図5ないし図15に基づき説明する。
まず、変速駆動手段50のコントロールロッド51について、図9を参照して説明する。
コントロールロッド51は、4本のカムロッド21,21,22,22の内側に摺接する外径の長尺の中央円柱部51aが形成され、その左右両側が縮径部51bb,51ccを経て左側にスプライン歯51ssが形成されたスプライン部51sを経て左端円柱部51bが形成され、右側に軸方向に指向した係合溝51vを刻設した右端円柱部51cが形成されている。
スプライン部51sのスプライン歯51ssの最大径は、カウンタ歯車軸12の内径に略等しい。
【0037】
このコントロールロッド51の中央円柱部51aの回りに摺接される4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22は、図10を参照して、前記したように概ね円筒を周方向に4分割された形状をなし、カウンタ歯車軸12の内周面との摺接面である外周面には、軸方向所要5箇所に周方向に指向して円弧状をなすカム溝21v,22vが形成される。
カム溝21v,22vは、溝底面の両側の側面が互いに外側が開くように適度に傾斜している。
なお、第1,第2カムロッド21,22の外周面の互いに接する両端縁は切欠かれて、互いに接すると断面がV字状の切欠きvが構成される(図11参照)。
【0038】
そして、対称位置にある同種の2本の第1カムロッド21,21は、右端を若干延出させて係止爪21c,21cを形成しており、他の2本の第2カムロッド22,22は、左端を若干延出させて係止爪22c,22cを形成している。
【0039】
右側のロストモーション機構52は、コントロールロッド51の右側の縮径部51cc辺りに摺動自在に嵌合される円筒状のスプリングホルダ52hの内周凹部と縮径部51cc間にスプリング52sが収納されたもので、スプリング52sは内周凹部と縮径部51ccの双方に嵌合する両側の割りコッタ52c,52cに挟まれている(図5参照)。
このスプリングホルダ52hの左端面の2本の第1カムロッド21,21に対向する対称部分が突出して、第1カムロッド21,21の係止爪21c,21cに互いに係止する係止爪52hc,52hcが形成されている。
【0040】
同様に、左側のロストモーション機構53は、コントロールロッド51の左側の縮径部51bb辺りに摺動自在に嵌合される円筒状のスプリングホルダ53hの内周凹部と縮径部51bb間にスプリング53sが収納されたもので、スプリング53sは内周凹部と縮径部51bbの双方に嵌合する両側の割りコッタ53c,53cに挟まれている(図5参照)。
このスプリングホルダ53hの右端面の2本の第2カムロッド22,22に対向する対称部分が突出して、第2カムロッド22,22の係止爪22c,22cに互いに係止する係止爪53hc,53hcが形成されている。
なお、スプリングホルダ52h,53hの外周面には、第1,第2カムロッド21,22の外周面の切欠きに対応して周方向に4本等間隔に断面V字状の切欠き溝52hv,53hvが形成されている(図10,図11参照)。
【0041】
図11に示すように、コントロールロッド51の左右の縮径部51bb,51ccにロストモーション機構53,52が装着され、スプリングホルダ52h,53h間の中央円柱部51aの外周に4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22が摺接される。
このとき、同種のカムロッドが互いに対称位置になるように異種の第1,第2カムロッド21,22が交互に配置され、第1カムロッド21,21は右端の係止爪21c,21cを右側のスプリングホルダ52hの係止爪52hc,52hcに係止させ、第2カムロッド22,22は左端の係止爪22c,22cを左側のスプリングホルダ53hの係止爪53hc,53hcに係止させる。
【0042】
こうしてコントロールロッド51の周囲にロストモーション機構52,53とともに4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22が組付けられた状態で、中空筒状をなすカウンタ歯車軸12の中空内に嵌挿される。
【0043】
カウンタ歯車軸12の内周面は、第1,第2カムロッド21,21,22,22およびスプリングホルダ52h,53hに対応する部分に軸方向に指向して僅かに突出した突条が周方向に4本等間隔に形成され、第1,第2カムロッド21,21,22,22、スプリングホルダ52h,53hは、そのV字状の切欠きvおよび切欠き溝52hv,53hvをカウンタ歯車軸12の内周面の突条に嵌合して周方向の位置決めがなされ相対的回転が規制されて軸方向に移動自在に摺接する。
【0044】
また、カウンタ歯車軸12におけるコントロールロッド51のスプライン部51sに対応する内周面には、コントロールロッド51側のスプライン歯51ssに噛み合うスプライン歯12ssが形成されていて、コントロールロッド51はカウンタ歯車軸12に対して相対的回転が規制されて軸方向に移動自在に摺接する(図5,図6参照)。
【0045】
なお、コントロールロッド51側のスプライン歯51ssは8本あるのに対してカウンタ歯車軸12側のスプライン歯12ssは4本しかなく、欠損したスプライン歯の部分は連通孔となり潤滑油通路51oとされる(図1,図5,図6参照)。
【0046】
さらに、図5に示すように、カウンタ歯車軸12の右端開口に圧入された環状のカラー部材54がコントロールロッド51の右端円柱部51cを保持するとともに、カラー部材54から中心に向かって突設された係合ピン55が右端円柱部51cに軸方向に指向して刻設された係合溝51vに係合する。
したがって、コントロールロッド51は、上記回り止め機構によりカウンタ歯車軸12に対して回転方向において両端で互いに係合して相対回転を規制され、軸方向のみ移動可能に支持される。
【0047】
このように、カウンタ歯車軸12の中空内にコントロールロッド51とロストモーション機構52,53と4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22が組み込まれると、これら全てが一緒に回転し、コントロールロッド51が軸方向に移動すると、ロストモーション機構52のスプリング52sを介して第1カムロッド21,21がカウンタ歯車軸12に対して軸方向に移動し、ロストモーション機構53のスプリング53sを介して第2カムロッド22,22がカウンタ歯車軸12に対して軸方向に移動する。
【0048】
中空筒状をなすカウンタ歯車軸12は、図12に斜視図で示すように、第1,第2カムロッド21,21,22,22に対応するとともに被動変速歯車nが軸支される中央円筒部12aの左右両側に外径が縮径された左側円筒部12bと右側円筒部12cが形成されている。
左側円筒部12bにはワッシャ56を介してベアリング7Lが嵌合されるとともに、一部スプライン12bbが形成されて前記出力スプロケット8がスプライン嵌合される(図5参照)。
また、右側円筒部12cにはワッシャ57を介してベアリング7Rが嵌合される(図5参照)。
【0049】
図12に示すように、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aは、外径が大きく肉厚に構成されており、この肉厚の外周部に周方向に一周する周方向溝12cvが軸方向に等間隔に5本形成されるとともに、軸方向に指向した軸方向溝12avが周方向に等間隔に4本形成されている。
【0050】
さらに、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周部には、5本の周方向溝12cvと4本の軸方向溝12avで区画された複数の区画のうち所要区画に、略矩形状の凹部12dが形成されている。
【0051】
周方向溝12cvで区画された各環状部分が、4本の軸方向溝12avで4つに区画されているが、そのうち対称な2区画に凹部12dが形成され、同凹部12dはその左側の周方向溝12cvと共通の空間を形成している。
図12に示すように、軸方向に関して左側2つの凹部12dと右側3つの凹部12dが互いに周方向に90度ずれて一列に配列している。
【0052】
周方向溝12cvの底部の所要4箇所にピン孔12hが径方向に穿孔されており、同ピン孔12hにピン部材23が進退自在に嵌挿される。
ピン孔12hはカウンタ歯車軸12の中空内周面と周方向溝12cvの底面とを径方向に貫通しており、同ピン孔12hに嵌挿されたピン部材23は、カウンタ歯車軸12の中空側に出没でき、周方向溝12cv側に突出して進退できる。
【0053】
カウンタ歯車軸12の中空内周面には、第1,第2カムロッド21,22が摺接されるので、第1,第2カムロッド21,22の摺接面に形成されたカム溝21v,22vがピン孔12hに対向した位置に移動すると、ピン部材23はカム溝21v,22vに落ちて周方向溝12cv側への突出量は小さくなり、摺接面がピン孔12hに対向した位置になると、ピン部材23はカム溝21v,22vから抜けて周方向溝12cv側への突出量は大きくなる。
【0054】
以上のような構造のカウンタ歯車軸12の凹部12dと周方向溝12cvには、2種類の揺動爪部材24,25が埋設され、軸方向溝12avに揺動爪部材24,25を揺動自在に軸支する支軸ピン26が埋設される。
【0055】
図13には、最も右側の周方向溝12cvとその右側の凹部12dに埋設される4個の揺動爪部材24,24,25,25およびその各支軸ピン26と、最も左側の周方向溝12cvとその右側の凹部12dに埋設される4個の揺動爪部材24,24,25,25およびその各支軸ピン26の分解斜視図が示されている。
【0056】
揺動爪部材24,25は、軸方向視で略円弧状をなし、中央に支軸ピン26が貫通する貫通孔の外周部が欠損して軸受凹部24d,25dが形成されており、同軸受凹部24d,25dの揺動中心に関して一方の側にピン受部24p,25pが延出し、他方の側に係合爪部24c,25cが延出している。
【0057】
ピン受部24p,25pは、周方向溝12cvに揺動自在に嵌合する狭い軸方向幅を有し、内周面にピン部材24p,25pを受けるピン受け凹部24pp,25ppが形成されており、他方の係合爪部24c,25cは、凹部12dに揺動自在に嵌合する広い軸方向幅を有し、軸方向視で先細に形成されている。
幅広の係合爪部24c,25cは、幅狭のピン部材24p,25pより重く、旋回において重錘として作用して遠心力により揺動爪部材24,25を揺動させる。
2種類の揺動爪部材24,25は、互いに面対称の形状をなす。
【0058】
支軸ピン26は、軸受凹部24d,25dに嵌合して揺動爪部材24,25を揺動自在に軸支する。
揺動爪部材24,25は、カウンタ歯車軸12の凹部12dと周方向溝12cvに埋設され、支軸ピン26は揺動爪部材24,25の軸受凹部24d,25dに嵌合されるとともに軸方向溝12avに埋設される。
カウンタ歯車軸12の1つの凹部12dには、周方向に隣り合う揺動爪部材24,25の係合爪部24c,25cが互いの先端を所定の間隔を存して対向させて埋設される。
【0059】
図13に一部のねじりコイルスプリング27が図示されるように、支軸ピン26にはねじりコイルスプリング27が巻回され、同ねじりコイルスプリング27の一端は揺動爪部材24,25の係合爪部24c,25c側に内側から係止され、他端は凹部12dの底面に接するようにして組み付けて揺動爪部材24,25を係合爪部24c,25cが外側に揺動するように付勢する。
【0060】
前記ピン部材23は揺動爪部材24,25の一方のピン受部24p,25pを内側から押し上げて作用するので、ねじりコイルスプリング27による付勢力に抗して揺動爪部材24,25を揺動することになる。
【0061】
以上の係合手段20をカウンタ歯車軸12に組み付ける手順について説明する。
まず、前記したように、コントロールロッド51の周囲にロストモーション機構52,53とともに4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22を組み付けて図11に示す組付け状態として、カウンタ歯車軸12の中空内に嵌挿する。
その際、各第1,第2カムロッド21,21,22,22が、カウンタ歯車軸12の軸方向溝12avに対応する周方向位置になるように位置決めされ、ピン孔12hは各第1,第2カムロッド21,21,22,22の摺接面にそれぞれ対向する(図7,図8参照)。
【0062】
4本の第1,第2カムロッド21,21,22,22のカウンタ歯車軸12に対する左右移動位置は、ニュートラル位置になるように設定しておく。
この状態で、カウンタ歯車軸12の周方向溝12cvに形成されたピン孔12hにピン部材23を嵌挿すると、全てのピン部材23は第1,第2カムロッド21,21,22,22の摺接面に当接して周方向溝12cvからの突出量が大きく設定されている。
【0063】
そして、揺動爪部材24,25の軸受凹部24d,25dに、ねじりコイルスプリング27を巻回した支軸ピン26を嵌合した状態で、カウンタ歯車軸12の外周に形成された凹部12d,周方向溝12cv,軸方向溝12av等の凹部に埋設する。
揺動爪部材24,25は、大きく突出したピン部材23によりねじりコイルスプリング27の付勢力に抗して一方のピン受部24p,25pが内側から押し上げられて他方の係合爪部24c,25cを内側に引っ込めており、図14に示すように、カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出するものはない。
【0064】
なお、ピン部材23が第1,第2カムロッド21,22のカム溝21v,22vに落ち込んでねじりコイルスプリング27の付勢力およびピン受部24p,25pより重い係合爪部24c,25cの遠心力により揺動爪部材24,25が支軸ピン26を中心に揺動すると、係合爪部24c,25cがカウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの外周面より外側に突出する。
【0065】
図14に示すカウンタ歯車軸12に係合手段20を組み込み、中央円筒部12aの外周面より外側に突出するものがない状態で、図15に示すように、軸受カラー部材13を嵌め込んで外装していく。
軸受カラー部材13は、中央円筒部12aの凹部12d以外の軸方向位置に外装され、それは軸方向溝12avに一列に連続して埋設される支軸ピン26の隣り合う支軸ピン26,26に跨って配置され、支軸ピン26および揺動爪部材24,25の脱落を防止する。
カウンタ歯車軸12の中央円筒部12aの軸方向溝12avに埋設される支軸ピン26は、中央円筒部12aの外周面に接する深さに埋設されるので、軸受カラー部材13が外装されると、ガタなく固定される。
【0066】
6個の軸受カラー部材13がカウンタ歯車軸12に等間隔に外装され、隣り合う軸受カラー部材13,13間に跨るようにして被動変速歯車nが回転自在に軸支される。
各被動変速歯車nは、左右内周縁部(内周面の左右周縁部)に切欠きが形成されて左右切欠きの間に薄肉環状の突条30が形成されており、この突条30を挟むように左右の軸受カラー部材13,13が切欠きに滑動自在に係合する(図5,図7,図8参照)。
【0067】
この各被動変速歯車nの内周面の突条30に係合凸部31が周方向に等間隔に6箇所形成されている。
係合凸部31は、側面視(図7,図8に示す軸方向視)で薄肉円弧状をなし、その周方向の両端面が前記揺動爪部材24,25の係合爪部24c,25cと係合する係合面をなす。
【0068】
揺動爪部材24と揺動爪部材25は、互いに対向する側に係合爪部24c,25cを延出しており、揺動爪部材24は被動変速歯車n(およびカウンタ歯車軸12)の回転方向で係合凸部31に当接して係合し、揺動爪部材25は被動変速歯車nの逆の回転方向で、係合凸部31に当接して係合する。
なお、揺動爪部材24は被動変速歯車nの逆の回転方向では係合爪部24cが外側に突出していても係合せず、同様に、揺動爪部材25は被動変速歯車nの回転方向では係合爪部25cが外側に突出していても係合しない。
【0069】
実際に、カウンタ歯車軸12に係合手段20等を組み込み、5個の被動変速歯車nを組み付ける場合は、以下のようにする。
まず、カウンタ歯車軸12に、図11に示す状態に組み付けたコントロールロッド51、カムロッド21,22およびロストモーション機構52,53を前記したように挿入し、ピン部材23をピン孔12hに挿入しておき、左を上にして立てた状態にする。
【0070】
そして、まず図15に実線で示すように中央円筒部12aの下端(右端)に右端の軸受カラー部材13を外装してから、第1被動変速歯車n1用の係合手段20(揺動爪部材24,25、支軸ピン26、ねじりコイルスプリング27)を組み付け、次いで第1被動変速歯車n1を上から嵌挿して軸受カラー部材13に第1被動変速歯車n1の突条30を当接し切欠きを係合して組み付け、次に第2の軸受カラー部材13を上から嵌挿し第1被動変速歯車n1の切欠きに係合してカウンタ歯車軸12の所定位置に外装して第1被動変速歯車n1を軸方向に位置決めして取り付ける。
次に、第3被動変速歯車n3用の係合手段20を組み付け、第3被動変速歯車n3を取り付け、以後、この作業を繰り返して残りの第5,第4,第2被動変速歯車n5,n4,n2が順次組み付けられ、最後に第6の軸受カラー部材13を外装する。
【0071】
こうして5個の被動変速歯車nがカウンタ歯車軸12に組み付けられた状態で、図1に示すように、カウンタ歯車軸12が左機関ケース1Lと右機関ケース1Rの各側壁に嵌着される左右のベアリング7L,7Rにカラー部材14L,14Rを介して挟まれるようにして回転自在に軸支されると、5個の被動変速歯車nと6個の軸受カラー部材13が交互に組み合わされて左右から挟まれ、軸方向の位置決めがなされる。
軸受カラー部材13は、各被動変速歯車nの軸方向の力を支え、軸方向の位置決めとスラスト力を受けることができる。
【0072】
このようにしてカウンタ歯車軸12に軸受カラー部材13を介して第1,第3,第5,第4,第2被動変速歯車n1,n3,n5,n4,n2が回転自在に軸支される。
第1,第2カムロッド21,22がニュートラル位置にあるので、全ての被動変速歯車nは、それぞれ対応する係合手段20の第1,第2カムロッド21,22の移動位置によりピン部材23が突出して揺動爪部材24,25のピン受部24p,25pを内側から押し上げ係合爪部24c,25cを内側に引っ込めた係合解除状態にあって、カウンタ歯車軸12に対して自由に回転する。
【0073】
一方、係合手段20のカムロッド21,22のニュートラル位置以外の移動位置によりピン部材23がカム溝21v,22vに入り揺動爪部材24,25が揺動して係合爪部24c,25cを外側に突出した係合可能状態となれば、対応する被動変速歯車nの係合凸部31が係合爪部24c,25cに当接して、該被動変速歯車nの回転がカウンタ歯車軸12に伝達されるか、またはカウンタ歯車軸12の回転が該被動変速歯車nに伝達される。
【0074】
前記変速駆動手段50において、変速駆動モータ60が駆動され、ゼネバ原動歯車62が1回転すると、6分の1回転ゼネバ・ストップ機構によりシフトドラム65が60度回転し、シフトドラム65の案内溝65vに係合する案内ピン76が案内されて案内ピン76と一体のコントロールロッド操作子70を軸方向に所定量移動する。
コントロールロッド操作子70は、2個のボールベアリング71,71を介してコントロールロッド51を一緒に軸方向に所定量移動し、コントロールロッド51の軸方向の移動は、ロストモーション機構52,53のスプリング52s,53sを介して第1,第2カムロッド21,22を連動して軸方向に移動する。
【0075】
第1,第2カムロッド21,22が軸方向に移動することで、係合手段20の第1,第2カムロッド21,22に摺接するピン部材23がカム溝21v,22vに入ったり抜けたりして進退し、揺動爪部材24,25を揺動して、被動変速歯車nとの係合を解除し、他の被動変速歯車nと係合してカウンタ歯車軸12と係合する被動変速歯車nを変えることで変速が行われる。
【0076】
なお、変速駆動手段として、変速駆動モータ60を駆動して変速を行うようにしているが、運転者が変速操作レバー等を操作してケーブルを進退させ、ケーブルの進退によりゼネバ・ストップ機構等を介してシフトドラムを回転させるようにして変速を行うようにしてもよい。
【0077】
以下、内燃機関の駆動による加速時に、1速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする過程を、図16ないし図21に従って説明する。
図16ないし図21は、経時的変化を示しており、各図において、図(a)は、カウンタ歯車軸12およびその周りの構造を示す断面図であり、図(b)は図(a)のb−b線断面図(第2被動変速歯車n2の断面図)、図(c)は図(a)のc−c線断面図(第1被動変速歯車n1の断面図)である。
【0078】
内燃機関の動力は、摩擦クラッチ5を介してメイン歯車軸11に伝達されて、第1,第3,第5,第4,第2駆動変速歯車m1,m3,m5,m4,m2を一体に回転しており、これらにそれぞれ常時噛合する第1,第3,第5,第4,第2被動変速歯車n1,n3,n5,n4,n2をそれぞれの回転速度で回転させている。
【0079】
図16は、1速状態を示しており、図16(b)では第2被動変速歯車n2が矢印方向に回転し、図16(c)では第1被動変速歯車n1が矢印方向に回転しており、第1被動変速歯車n1よりも第2被動変速歯車n2が高速で回転している。
【0080】
第1被動変速歯車n1に対応する係合手段20のピン部材23のみが第1,第2カムロッド21,22のカム溝21v,22vに入っており、したがって該係合手段20の揺動爪部材24,25が係合爪部24c,25cを外側に突出して、回転する第1被動変速歯車n1の係合凸部31が揺動爪部材25の係合爪部25cに係合して(図16(c)参照)、カウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1とともに第1被動変速歯車n1と同じ回転速度で回転している。
なお、図16ないし図24において、有効に動力伝達している揺動爪部材24,25と係合凸部31には格子ハッチを施している。
【0081】
この1速状態では、第2被動変速歯車n2は、対応する係合手段20のピン部材23が第1,第2カムロッド21,22のカム溝21v,22vから出て突出し、該係合手段20の揺動爪部材24,25が係合爪部24c,25cを内側に引っ込めているので、空回りしている。
他の第3,第4,第5被動変速歯車n3,n4,n5も同様で空回りしている(図16(b)参照)。
【0082】
ここで、2速に変速すべく変速駆動モータ60が駆動され、コントロールロッド操作子70が軸方向右方に移動し始めると、ロストモーション機構52,53のスプリング52s,53sを介して第1,第2カムロッド21,22を連動して軸方向右方に移動しようとする。
【0083】
図17を参照して、一方の第1カムロッド21はピン部材23を介して作動する揺動爪部材24が第1被動変速歯車n1の係合凸部31と係合していないので、あまり抵抗なく移動してそのカム溝21vに入っていたピン部材23を抜け出させて突出し、揺動爪部材24を揺動してその係合爪部24cを内側に引っ込めていく(図17(c)参照)。
【0084】
これに対して、他方の第2カムロッド22は、ピン部材23を介して作動する揺動爪部材25が第1被動変速歯車n1の係合凸部31と係合して第1被動変速歯車n1から動力を受けているので、揺動爪部材25を揺動して係合を解除するのに相当大きな摩擦抵抗があり、よってロストモーション機構53のスプリング53sの力により第2カムロッド22が移動してピン部材23をカム溝22vの傾斜した側面に沿って突出させようとしても揺動爪部材25を押し上げて揺動させることはできず、カム溝22vの傾斜した側面をピン部材23が上がりかけたところでカムロッド22は停止されて、係合を解除できないままとなる(図17(c)参照)。
【0085】
図17に示す状態では、第2被動変速歯車n2においては、第1カムロッド21のカム溝21vにピン部材23は入っておらず、揺動爪部材25に変化がなく、揺動爪部材24も第2カムロッド22が停止しているので変化がない(図17(b)参照)。
【0086】
第2カムロッド22が停止した状態で、さらにコントロールロッド操作子70が右方に移動すると、第1カムロッド21も右方に移動し、図18を参照して、第1被動変速歯車n1において第1カムロッド21のカム溝21vからピン部材23が抜け出て突出し、揺動爪部材24を揺動してその係合爪部24cを内側に完全に引っ込める(図18(c)参照)とともに、第2被動変速歯車n2においては第1カムロッド21のカム溝21vにピン部材23が入り、揺動爪部材25がねじりコイルスプリング27の付勢力および係合爪部25cの遠心力により揺動して係合爪部25cを外側に突出する(図18(b)参照)。
【0087】
すると、第1被動変速歯車n1とともに回転するカウンタ歯車軸12より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が揺動爪部材25の外側に突出した係合爪部25cに追いつき当接する(図19(b)参照)。
この瞬間、図19(b)と図19(c)を参照して、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と第1被動変速歯車n1の係合凸部31がそれぞれの揺動爪部材25,25の係合爪部25c,25cに同時に当接する瞬間がある。
【0088】
したがって、この直後から、より高速で回転する第2被動変速歯車n2によりカウンタ歯車軸12が第2被動変速歯車n2と同じ回転速度で回転し始め(図20(b)参照)、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から揺動爪部材25の係合爪部25cが離れて行き(図20(c)参照)、実際の1速から2速へのシフトアップが実行される。
【0089】
コントロールロッド操作子70の移動はここで終了するが、変速作業の方は、まだ続き、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から揺動爪部材25の係合爪部25cが離れることで、揺動爪部材25を固定する摩擦抵抗が無くなり、ロストモーション機構53のスプリング53sにより付勢されていた第2カムロッド22が右方に移動してカム溝22vに入っていたピン部材23が抜け出し、揺動爪部材25を揺動してその係合爪部25cを内側に引っ込めていく(図20(c)参照)。
【0090】
そして、さらに第2カムロッド22が右方に移動することで、第1被動変速歯車n1におけるピン部材23はカム溝22vから抜け、揺動爪部材25の係合爪部25cを内側に完全に引っ込める(図21(c)参照)とともに、第2被動変速歯車n2においてカム溝22vにピン部材23が入り、揺動爪部材24がねじりコイルスプリング27の付勢力および係合爪部24cの遠心力により揺動して係合爪部24cを外側に突出する(図21(b)参照)。
この状態で1速から2速への変速作業は完了する。
【0091】
以上のように、1速状態から減速比が1段小さい2速状態にシフトアップする際に、図19に示すように、第1被動変速歯車n1の係合凸部31が揺動爪部材25の係合爪部25cに当接して係合しカウンタ歯車軸12を第1被動変速歯車n1と同速度で回転させている状態で、より高速で回転する第2被動変速歯車n2の係合凸部31が揺動爪部材25の係合爪部25cに追いつき当接してカウンタ歯車軸12を第2被動変速歯車n2とともにより高速度で回転させて変速するので、第1被動変速歯車n1の係合凸部31から揺動爪部材25の係合爪部25cは自然と離れていき係合が円滑に解除されるため、係合解除に力を要せず滑らかに作動して滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0092】
2速から3速、3速から4速、4速から5速の各シフトアップも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材24に係合している状態で、減速比が1段小さい被動変速歯車nが揺動爪部材24に係合してシフトアップがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトアップ時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトアップを行うことができる。
【0093】
例えば、1速状態にあるとき、図16(c)に示すように、第1被動変速歯車n1の係合凸部31に揺動爪部材25が係合していると同時に、他方の揺動爪部材24の係合爪部24cが係合凸部31に間近で係合可能状態にある。
したがって、車速が減速されて後輪からカウンタ歯車軸12への駆動力が働き、駆動力の方向が変化した時には、第1被動変速歯車n1の係合凸部31が揺動爪部材25から揺動爪部材24に係合が速やかに切り換わり、係合が滑らかに引き継がれて維持されることができる。
【0094】
そして、1速から2速にシフトアップする際には、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が揺動爪部材25に係合する前に、第1被動変速歯車n1における揺動爪部材24の係合爪部24cは係合可能状態から内側に引っ込んで揺動爪部材24が変速の妨げになることはなく(図19(c)参照)、円滑で確実な係合および係合解除が実行される。
【0095】
次に、車速を減速している時に、2速状態から減速比が1段大きい1速状態にシフトダウンする過程を、図22ないし図24に従って説明する。
図22は、変速段が2速状態で、減速した直後の状態を示している。
減速により後輪からカウンタ歯車軸12への駆動力が働き、図22(b)に示すように、回転速度が低下した第2被動変速歯車n2の係合凸部31に、係合可能状態にあった揺動爪部材24の係合爪部24cが係合してカウンタ歯車軸12の回転動力を第2被動変速歯車n2に伝達する所謂エンジンブレーキが働いている。
【0096】
この状態で、1速にシフトダウンするために、変速駆動モータ60の駆動によりコントロールロッド操作子70が軸方向左方に移動すると、ロストモーション機構52,53のスプリング52s,53sを介して第1,第2カムロッド21,22を連動して軸方向左方に移動しようとするが、第2カムロッド22は、ピン部材23を介して作動する揺動爪部材24が第2被動変速歯車n2の係合凸部31と係合して第2被動変速歯車n2から動力を受けているので、揺動爪部材24を揺動して係合を解除するのに相当大きな摩擦抵抗があり、カム溝22vの傾斜した側面をピン部材23が上がりかけたところで第2カムロッド22は停止されて、係合を解除できないままとなる。
【0097】
他方、第1カムロッド21はピン部材23を介して作動する揺動爪部材25が第2被動変速歯車n2の係合凸部31と係合していないので、あまり抵抗なく左方に移動してそのカム溝21vに入っていたピン部材23を抜けださせて突出し、揺動爪部材25を揺動してその係合爪部25cを内側に引っ込める(図23(b)参照)。
【0098】
また、第1被動変速歯車n1においては、第1カムロッド21の左方への移動により、第1カムロッド21のカム溝21vにピン部材23が入り、揺動爪部材24がねじりコイルスプリング27の付勢力および係合爪部24cの遠心力により揺動して係合爪部24cを外側に突出する(図23(c)参照)。
そして、カウンタ歯車軸12とともに揺動爪部材24が回転して第1被動変速歯車n1の係合凸部31に追いつき当接すると、図23(b)と図23(c)に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と第1被動変速歯車n1の係合凸部31がそれぞれの揺動爪部材24,24の係合爪部24c,24cに同時に当接する瞬間がある。
この直後から、より低速で回転する第1被動変速歯車n1との係合が有効になり、第2被動変速歯車n2との係合は解除され、2速から1速へのシフトダウンが実行される。
【0099】
コントロールロッド操作子70の移動はここで終了するが、変速作業の方は、まだ続き、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と揺動爪部材24との係合が解除されることで、揺動爪部材24を固定する摩擦抵抗が無くなり、ロストモーション機構53のスプリング53sにより付勢されていた第2カムロッド22が左方に移動して、第2被動変速歯車n2においてカム溝22vに入っていたピン部材23が抜け出し、揺動爪部材24を揺動してその係合爪部24cを内側に引っ込め(図24(b)参照)、第1被動変速歯車n1においてはカム溝22vにピン部材23が入り、揺動爪部材25がねじりコイルスプリング27の付勢力および係合爪部25cの遠心力により揺動して係合爪部25cを外側に突出する(図24(c)参照)。
この状態で2速から1速への変速作業は完了する。
【0100】
以上のように、2速状態から減速比が1段大きい1速状態にシフトダウンする際に、図23に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31に揺動爪部材24の係合爪部24cが当接して係合している状態で、より低速で回転する第1被動変速歯車n1の係合凸部31に揺動爪部材24の係合爪部24cが追いつき当接して係合を切り換えるので、第2被動変速歯車n2の係合凸部31と揺動爪部材24の係合爪部24cとの係合が円滑に解除されるため、係合解除に力を要せず滑らかに作動して滑らかなシフトダウンを行うことができる。
【0101】
5速から4速、4速から3速、3速から2速の各シフトダウンも同様に、被動変速歯車nが揺動爪部材24に係合している状態で、減速比が1段大きい被動変速歯車nに揺動爪部材24が係合してシフトダウンがなされるので、係合解除に力を要せず滑らかに作動して変速用のクラッチを必要とせず、かつシフトダウン時の切換え時間に全くロスがなく、駆動力の抜けがないとともに変速ショックも小さく、滑らかなシフトダウンを行うことができる。
【0102】
例えば、2速状態にあるとき、図22(b)に示すように、第2被動変速歯車n2の係合凸部31に揺動爪部材24が係合していると同時に、他方の揺動爪部材25の係合爪部25cが係合凸部31に間近で係合可能状態にある。
したがって、車速が加速されて内燃機関から第2被動変速歯車n2へ駆動力が働き、駆動力の方向が変化した時には、第2被動変速歯車n2の係合凸部31が揺動爪部材24から揺動爪部材25に係合が速やかに切り換わり、係合が滑らかに引き継がれて維持されることができる。
【0103】
そして、2速から1速にシフトダウンする際には、第1被動変速歯車n1の係合凸部31に揺動爪部材24が係合する前に、第2被動変速歯車n2における揺動爪部材25の係合爪部25cは係合可能状態から内側に引っ込んで揺動爪部材25が変速の妨げになることはなく(図23(b)参照)、円滑で確実な係合および係合解除が実行される。
【0104】
本多段変速機10における係合手段20は、揺動爪部材24,25の支軸ピン26が軸支する揺動中心に関して被動変速歯車nの係合凸部31の係合面に当接する係合爪部24c,25cと反対側のピン受部24p,25pを、カウンタ歯車軸12を径方向に貫通し進退するピン部材23が当接して押し上げ係合を解除するので、揺動爪部材24,25はピン部材24p,25pと同じくカウンタ歯車軸12に設けられ一緒に回転する構造であり、よって揺動爪部材24,25とピン部材24p,25pとの間にはフリクションロスが殆どない。
【0105】
また、カウンタ歯車軸12にピン部材24p,25pと揺動爪部材24,25および支軸ピン26が組み込まれるので、組み込まれた状態で、被動変速歯車nを簡単に組付けることができ、簡単な構造で組付け作業が容易で作業時間の短縮を図ることができる。
【0106】
揺動爪部材24,25は、軸方向幅で揺動中心に関して係合爪部24c,25c側が反対側のピン受部24p,25pより大きく、係合爪部24c,25cと反対側のピン受部24p,25pはピン部材23からの荷重を受けるだけの幅があればよく、幅狭として小型に形成することができるとともに、係合爪部24c,25c側はその反対側のピン受部24p,25pより幅を大きくして重くし遠心力による振り出しを容易にすることができる。
なお、揺動爪部材24,25を揺動付勢するねじりコイルスプリング27も付勢力の小さいものを使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の一実施の形態に係る多段変速機の断面図である。
【図2】変速駆動手段のゼネバ・ストップ機構を示す図である。
【図3】別の状態のゼネバ・ストップ機構を示す図である。
【図4】シフトドラムの外周面の展開図である。
【図5】カウンタ歯車軸およびその周りの構造を示す断面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【図8】図5のVIII−VIII線断面図である。
【図9】コントロールロッドの斜視図である。
【図10】カムロッドとロストモーション機構の分解斜視図である。
【図11】コントロールロッドにカムロッドとロストモーション機構を組み付けた状態を示す斜視図である。
【図12】カウンタ歯車軸とピン部材の分解斜視図である。
【図13】揺動爪部材と支軸ピンの分解斜視図である。
【図14】カウンタ歯車軸に揺動爪部材、支軸ピン、カムロッド、コントロールロッド等を組み付けた状態を示す斜視図である。
【図15】図14に示す状態のカウンタ歯車軸に1軸受カラー部材を外装した状態を示す斜視図である。
【図16】シフトアップ開始時の1速状態を示す説明図である。
【図17】シフトアップ作業途中の1過程を示す説明図である。
【図18】次の過程を示す説明図である。
【図19】次の過程を示す説明図である。
【図20】次の過程を示す説明図である。
【図21】シフトアップ完了時の2速状態を示す説明図である。
【図22】シフトダウン開始時の2速状態を示す説明図である。
【図23】シフトダウン作業途中の1過程を示す説明図である。
【図24】シフトダウン完了時の1速状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0108】
m…駆動変速歯車、m1〜m5…第1〜第5駆動変速歯車、n…被動変速歯車、n1〜n5…第1〜第5被動変速歯車、
1…機関ケース、10…多段変速機、11…メイン歯車軸、12…カウンタ歯車軸、12d…凹部、12av…軸方向溝、12cv…周方向溝、12h…ピン孔、13…軸受カラー部材、
20…係合手段、21…第1カムロッド,22…第2カムロッド、21v,22v…カム溝、23…ピン部材、24,25…揺動爪部材、24d,25d…軸受凹部、24c,25c…係合爪部、24p,25p…ピン受部、26…支軸ピン、27…ねじりコイルスプリング、31…係合凸部、
50…変速駆動手段、51…コントロールロッド、52, 53…ロストモーション機構。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な歯車軸にそれぞれ複数の駆動歯車と被動歯車が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、
前記駆動歯車と前記被動歯車の一方の複数の歯車が歯車軸に固定され、他方の複数の歯車と歯車軸との間に設けられ互いの係合を行う係合手段が変速駆動手段により切り換え駆動されて変速を行う多段変速機において、
前記係合手段は、
各歯車の内周面の周方向所要位置に周方向に係合面を有して突出して形成された係合凸部と、
前記歯車軸の中空内周面に軸方向に移動自在に摺接され摺接面に複数のカム溝が軸方向所要箇所に形成されたカムロッドと、
前記歯車軸の所要箇所に径方向に貫通した貫通孔に嵌挿され前記軸方向に移動するカムロッドの摺接面と前記カム溝に交互に接して進退するピン部材と、
前記歯車軸に設けられた支軸ピンに軸支され前記ピン部材の進退で揺動して前記係合凸部と係合および係合解除を行う揺動爪部材とを備え、
前記揺動爪部材の前記支軸ピンが軸支する揺動中心に関して前記係合凸部の係合面に当接する係合端部と反対側を前記ピン部材が当接して押し上げ係合を解除することを特徴とする多段変速機。
【請求項2】
前記揺動爪部材は、軸方向幅で揺動中心に関して前記係合端部側が反対側より大きいことを特徴とする請求項1記載の多段変速機。
【請求項1】
互いに平行な歯車軸にそれぞれ複数の駆動歯車と被動歯車が変速段毎に常時噛み合い状態で軸支され、
前記駆動歯車と前記被動歯車の一方の複数の歯車が歯車軸に固定され、他方の複数の歯車と歯車軸との間に設けられ互いの係合を行う係合手段が変速駆動手段により切り換え駆動されて変速を行う多段変速機において、
前記係合手段は、
各歯車の内周面の周方向所要位置に周方向に係合面を有して突出して形成された係合凸部と、
前記歯車軸の中空内周面に軸方向に移動自在に摺接され摺接面に複数のカム溝が軸方向所要箇所に形成されたカムロッドと、
前記歯車軸の所要箇所に径方向に貫通した貫通孔に嵌挿され前記軸方向に移動するカムロッドの摺接面と前記カム溝に交互に接して進退するピン部材と、
前記歯車軸に設けられた支軸ピンに軸支され前記ピン部材の進退で揺動して前記係合凸部と係合および係合解除を行う揺動爪部材とを備え、
前記揺動爪部材の前記支軸ピンが軸支する揺動中心に関して前記係合凸部の係合面に当接する係合端部と反対側を前記ピン部材が当接して押し上げ係合を解除することを特徴とする多段変速機。
【請求項2】
前記揺動爪部材は、軸方向幅で揺動中心に関して前記係合端部側が反対側より大きいことを特徴とする請求項1記載の多段変速機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2009−243658(P2009−243658A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93702(P2008−93702)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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