説明

多発性硬化症を治療するため、および神経疾患を診断するための、ゲルゾリンの使用

【課題】神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するためのゲルゾリンの使用、ならびに神経疾患を診断する、観測する、および神経疾患の治療を評価するためのゲルゾリンの使用の提供。
【解決手段】本発明は、被験体の、将来神経疾患を発症する危険性プロフィールを特徴づけるための方法であって、該被験体においてゲルゾリンのレベルを得ること、該ゲルゾリンのレベルを予め定められた値と比較すること、および該予め定められた値と比較したゲルゾリンのレベルに基づき、該被験体の、神経疾患を発症する危険性プロフィールを特徴づけることを含み、該予め定められたレベルまたはそれ以下のゲルゾリンのレベルは、該被験体が該神経疾患を発症する危険度が高いことの指標であり、該予め定められたレベルまたはそれ以上のゲルゾリンのレベルは、該被験体が該神経疾患を発症する危険度が高くないことの指標である方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲルゾリンの診断的および治療的使用を対象とする。
【背景技術】
【0002】
診断および治療における大きな進歩にもかかわらず、神経疾患は依然として世界中で罹患率および死亡率の主要原因である。神経疾患は一般的であり、費用がかかる。最近の推定によれば、米国において神経疾患を治療するための年間費用は6000億ドルを超える。それゆえ、神経疾患のための新しい治療を同定することへの強い誘因がある。
【0003】
治療の結果は適切な診断に依存するので、神経疾患を診断し、それらの疾患の治療を監視するための適切な試験を得ることが重要である。適切な診断は、医師が適切かつ時宜を得た治療を開始することを可能にする。治療の適切な監視は、医師が治療の方向を決定し、患者とその家族に予想される疾患経過について助言することを可能にする。それゆえ、神経疾患を診断し、神経疾患の治療を評価するための新しい改善された試験およびアプローチを同定することに対しても強い誘因が存在する。
【0004】
細胞運動性に関与する細胞内アクチン結合タンパク質として最初に発見された(非特許文献1)ゲルゾリンは、最近になって多くの疾患に関係づけられてきた。血漿ゲルゾリンの本当の機能は知られていないが、臨床および動物試験は、損傷および炎症による血漿ゲルゾリンの減少は有害な結果に結びつくことを示した。ゲルゾリン減少の提案されている機構は、組織破壊によって露出された細胞中の豊富なアクチンに結合するというものである。ごく最近、ゲルゾリンは、生物活性炎症メディエーター、リゾホスファチジン酸、ジアデノシンリン酸、Aβペプチド(アルツハイマー病の病因に関係するペプチド)、血小板活性化因子およびおそらく他にも結合することが認められた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yin,H.L.およびStossel,T.P.(1979)Nature 281,583−6
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
ゲルゾリン、特に細胞質ゲルゾリン(cGSN)は、細胞運動性に関与する細胞内アクチン結合タンパク質であることに加えて、豊富な分泌タンパク質でもある(Yin,H.L.,Kwiatkowski,D.J.,Mole,J.E.およびCole,F.S.(1984)J Biol Chem 259,5271−6)。血漿ゲルゾリン(pGSN)と称される、ゲルゾリンの輸送アイソフォームは、25個の付加的なアミノ酸を有し、1個の遺伝子の選択的スプライシングから生じる(Kwiatkowski,D.J.,Stossel,T.P.,Orkin,S.H.,Mole,J.E.,Colten,H.R.およびYin,H.L.(1986)Nature 323,455−8)。
【0007】
本発明は、多発性硬化症の動物モデルでは血漿ゲルゾリンレベルが低下すること、および血漿ゲルゾリンレベルの低下は多発性硬化症の発現に先行するという驚くべき発見に基づく。本発明はまた、ゲルゾリンの投与が疾患の発現を予防するおよび/または抑制するという所見に基づく。それゆえ本発明は、1つの態様では、多発性硬化症を治療するための被験体へのゲルゾリンの投与を含む。本発明はまた、神経疾患を診断するためおよび治療の効果を監視するためにゲルゾリンを使用する方法を対象とする。
【0008】
本発明の1つの態様によれば、被験体の、将来神経疾患(例えば多発性硬化症)を発症する危険性プロフィールを特徴づけるための方法が提供される。該方法は、被験体においてゲルゾリンのレベルを得ること、およびゲルゾリンのレベルを予め定められた値と比較することを含む。被験体の、神経疾患(例えば多発性硬化症)を発症する危険性プロフィールは、予め定められた値と比較したゲルゾリンのレベルに基づいて特徴づけられる。予め定められたレベルまたはそれ以下のゲルゾリンのレベルは、被験体が神経疾患を発症する危険度が高いことの指標であり、および予め定められたレベルまたはそれ以上のゲルゾリンのレベルは、被験体が神経疾患を発症する危険度が高くないことの指標である。
【0009】
一部の実施形態では、前記方法は、神経疾患を評価するために1またはそれ以上の試験を実施することをさらに含む。神経疾患を評価するための試験の例は、神経学的検査、脳波検査(EEG)、脳脊髄液(CSF)検査、誘発電位(感覚、運動、視覚、体性感覚または認知)、筋電図検査(EMG)、神経伝導、コンピュータ連動断層撮影(CT)法、磁気共鳴画像法(MRI)、磁気共鳴血管造影法(MRA)、エコープラナーMR画像法、陽電子放射断層撮影法(PET)、脊髄造影法および血管造影法を含むが、これらに限定されない。
【0010】
本発明の別の態様によれば、神経疾患(例えば多発性硬化症)を有しているまたは発症する危険度が高い被験体を治療するための方法が提供される。該方法は、そのような治療を必要とする被験体を治療するために有効量のゲルゾリンを被験体に投与することを含む。
【0011】
本発明の別の態様によれば、神経疾患(例えば多発性硬化症)を有しているまたは発症する危険度が高い被験体を治療するための方法が提供される。該方法は、被験体におけるゲルゾリンのレベルを予め定められた値より上に上昇させるために、そのような治療を必要とする被験体に有効量のゲルゾリンを投与することを含む。
【0012】
一部の実施形態では、被験体は、さもなければゲルゾリンによる治療を要求する適応症を有していない。ゲルゾリンを、好ましくは経口的、舌下、口腔、鼻内、静脈内、筋肉内、髄腔内、腹腔内に、または皮下的に投与する。ゲルゾリンを予防的に投与し得る。
【0013】
一部の実施形態では、治療方法は、神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するために第2の薬剤を投与することをさらに含む。神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するための薬剤の例は、インターフェロン(IFN)−β1b(ベタセロンまたはベータフェロン)、IFN−β1a(アボネックス、レビフ)、酢酸グラチラマー(コパキソン)、ミトキサントロン(ノバントロン)、アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサート、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリン、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、2−クロロデキシアデノシン(2−CDA、クラドリビン)、イノシン、インターロイキン2抗体(ゼナパックス、ダクリズマブ)、ロイコボリン、テリフルノミド、エストロプロゲスチン、デソゲストレル、エチニルエストラジオール、BHT−3009、ABT−874、カルメット‐ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、T細胞ワクチン接種、CNTO1275、リツキシマブ、タイサブリ(ナタリズマブ)、N−アセチルシステイン、ミノサイクリン、RO0506997、およびスタチン(例えばアトルバスタチン(リピトール)、ロバスタチン(メバコール)、プラバスタチン(プラバコール)、フルバスタチン(レスコール)およびシンバスタチン(ゾコール)を含むが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の別の態様によれば、神経疾患(例えば多発性硬化症)の危険度を低下させるために被験体を治療するための方法が提供される。該方法は、被験体が正常以下レベルのゲルゾリンを有することが既知であることに基づいて被験体を選択すること、および神経疾患(例えば多発性硬化症)を発症する被験体の危険度を低下させるために有効量のゲルゾリンおよび/または第2の薬剤を被験体に投与することを含む。
【0015】
本発明の別の態様によれば、神経疾患(例えば多発性硬化症)の危険度を低下させるために被験体を治療するための方法が提供される。該方法は、被験体が正常以下レベルのゲルゾリンを有することが既知であることに基づいて被験体を選択すること、および被験体におけるゲルゾリンのレベルを予め定められた値より上に上昇させるために有効量のゲルゾリンおよび/または第2の薬剤を被験体に投与することを含む。
【0016】
一部の実施形態では、前記方法は、神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するために第2の薬剤を被験体に投与することをさらに含む。神経疾患を治療するための薬剤の例は上に列挙されている。
【0017】
本発明のさらに別の態様によれば、正常以下レベルのゲルゾリンで被験体を治療するための方法が提供される。該方法は、神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するまたは神経疾患(例えば多発性硬化症)の危険度を低下させるために第1の治療法で被験体を治療することを含む。被験体においてゲルゾリンのレベルを得る。ゲルゾリンのレベルを、ゲルゾリンの予め定められたレベル(例えば見かけ上健常な対照集団における)に対応する予め定められた値と比較する。ゲルゾリンの予め定められたレベルに達しない場合は、ゲルゾリンの予め定められたレベルに達するまで、神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するまたは神経疾患(例えば多発性硬化症)の危険度を低下させるために被験体を第2の薬剤で治療する。
【0018】
「正常以下レベルのゲルゾリン」とは、ゲルゾリンレベルが被験体の所与の集団について測定される平均レベルより少なくとも10%低い。平均ゲルゾリンレベルは、被験体の特定集団に依存し得る。例えば見かけ上健常な対照集団は、先行する状態を有していた被験体の集団とは異なるゲルゾリンの「正常」範囲を有する。一部の実施形態では、ゲルゾリンレベルは、被験体の所与の集団について測定される平均レベルより少なくとも10%低い。他の実施形態では、ゲルゾリンレベルは、被験体の所与の集団について測定される平均レベルより少なくとも20%低い。さらに他の実施形態では、ゲルゾリンレベルは、被験体の所与の集団について測定される平均レベルより少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、99%または100%低い。実施形態の1つでは、ゲルゾリンレベルは、約250mg/L血漿以下である。他の重要な実施形態では、ゲルゾリンレベルは、約2.4μM/L(マイクロモル/リットル)血漿以下である。
【0019】
一部の実施形態では、被験体は、さもなければ薬剤による治療を必要とする適応症を有していない。薬剤がゲルゾリンであるとき、ゲルゾリンによる治療を必要とする適応症を有していない被験体は、ゲルゾリンによる治療を必要とする徴候または症状を有していない被験体である。ゲルゾリンは、敗血症および感染の治療に適応される。ゲルゾリンは、成人呼吸促進症候群(ARDS)、劇症肝壊死、急性腎不全、筋損傷、BUNおよび/またはクレアチニンのレベル上昇を特徴とする疾患などのアクチン関連疾患の治療に適応される。アクチン関連疾患は当業者に公知である。
【0020】
他の実施形態では、被験体は見かけ上健常である。本明細書で使用するとき、「見かけ上健常な被験体」は、疾患の徴候および/または症状を有していない被験体である。
【0021】
本発明の別の態様によれば、被験体において神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するまたは神経疾患(例えば多発性硬化症)の危険度を低下させるための治療の効果を評価するための方法が提供される。該方法は、神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するまたは神経疾患(例えば多発性硬化症)の危険度を低下させるための薬剤による治療を受けている被験体においてゲルゾリンのレベルを得ることを含む。得られたゲルゾリンのレベルを、ゲルゾリンのレベル(例えば見かけ上健常な対照集団における)に対応する予め定められた値と比較する。ゲルゾリンのレベルが予め定められたレベルを上回るかどうかの判定が、治療が有効であるかどうかの指標である。一部の実施形態では、ヒト被験体のゲルゾリンのレベルを経時的に監視するために、ゲルゾリンのレベルを得ることを反復する。
【0022】
治療は、ゲルゾリン、インターフェロン(IFN)−β1b(ベタセロンまたはベータフェロン)、IFN−β1a(アボネックス、レビフ)、酢酸グラチラマー(コパキソン)、ミトキサントロン(ノバントロン)、アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサート、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリン、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、2−クロロデキシアデノシン(2−CDA、クラドリビン)、イノシン、インターロイキン2抗体(ゼナパックス、ダクリズマブ)、ロイコボリン、テリフルノミド、エストロプロゲスチン、デソゲストレル、エチニルエストラジオール、BHT−3009、ABT−874、カルメット‐ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、T細胞ワクチン接種、CNTO1275、リツキシマブ、タイサブリ(ナタリズマブ)、N−アセチルシステイン、ミノサイクリン、RO0506997、またはスタチン(例えばアトルバスタチン(リピトール)、ロバスタチン(メバコール)、プラバスタチン(プラバコール)、フルバスタチン(レスコール)およびシンバスタチン(ゾコール)によるものであり得る。
【0023】
本発明のさらに別の態様によれば、被験体において治療の方向を決定するための方法が提供される。該方法は、神経疾患(例えば多発性硬化症)を治療するまたは神経疾患(例えば多発性硬化症)の危険度を低下させるための治療を受けている被験体においてゲルゾリンのレベルを得ることを含む。ゲルゾリンレベルを、一定のゲルゾリンのレベル(例えば見かけ上健常な対照集団における)に対応する予め定められた値と比較する。得られたゲルゾリンのレベルが予め定められたレベルまたはそれ以上またはそれ以下であるかどうかを判定し、そのような判定に基づいて治療の方向を決定する。一部の実施形態では、被験体のゲルゾリンのレベルを経時的に監視するために、ゲルゾリンのレベルを得ることを反復する。
【0024】
以下の実施形態は、別途示さない限り、ここで述べる本発明の様々な態様に適合する。
【0025】
神経疾患は脱髄疾患であり得る。一部の重要な実施形態では、神経疾患は多発性硬化症である。多発性硬化症は、急性、再発性、弛張性、安定、慢性または蓋然的であり得る。
【0026】
神経疾患は、アルツハイマー病、急性播種性脳脊髄炎、横断脊髄炎、進行性多病巣性白質脳障害、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、橋中央ミエリン溶解、視神経炎、視神経脊髄炎(デビック症候群)、レーバー遺伝性視神経障害、熱帯性痙性対麻痺(HTLV関連脊髄症)、またはギラン‐バレー症候群(急性炎症性脱髄性多発神経炎、急性特発性神経根炎、急性特発性多発神経炎、フレンチポリオおよびランドリー上行性麻痺とも呼ばれる)であり得る。
【0027】
ゲルゾリンのレベルは、被験体の体液中のレベルであり得る。体液の例は、血液、血漿、血清、脳脊髄液(CSF)および尿を含むが、これらに限定されない。
【0028】
ゲルゾリンのレベルは、被験体の体組織中のレベルであり得る。一部の重要な実施形態では、体組織は神経組織である。一部の実施形態では、被験体は見かけ上健常な被験体である。
【0029】
一部の実施形態では、予め定められた値は、250mg/L血漿またはそれ以下である。一部の実施形態では、ゲルゾリンの予め定められた値は、約240mg/L、230mg/L、220mg/L、210mg/L、200mg/L、190mg/L、180mg/L、170mg/L、160mg/L、150mg/L、140mg/L、130mg/L、120mg/L、110mg/L、100mg/L、90mg/L、80mg/L、70mg/L、60mg/L、50mg/L、40mg/L、30mg/L、20mg/L、または10mg/L血漿またはそれ以下である。
【0030】
一部の他の実施形態では、予め定められた値は、2.4μM/L血漿またはそれ以下である。一部の実施形態では、ゲルゾリンの予め定められた値は、約2.3μM/L、2.2μM/L、2.1μM/L、2.0μM/L、1.9μM/L、1.8μM/L、1.7μM/L、1.6μM/L、1.5μM/L、1.4μM/L、1.3μM/L、1.2μM/L、1.1μM/L、1.0μM/L、0.9μM/L、0.8μM/L、0.7μM/L、0.6μM/L、0.5μM/L、0.4μM/L、0.3μM/L、0.2μM/L血漿またはそれ以下である。
【0031】
本発明の限定の各々は、本発明の様々な実施形態を包含し得る。それゆえ、いずれか1つの要素または要素の組合せを含む本発明の限定の各々は、本発明の各々の態様に包含され得ると予想される。本発明は、他の実施形態であり得、および様々な方法で実践または実施され得る。また、本明細書で使用される表現および用語は説明のためのものであり、限定とみなされるべきではない。「包含する」、「含む(comprising)」または「有する」、「含有する」、「含む(involving)」およびその変形の本明細書での使用は、その後に列挙される項目およびそれらの等価物並びに付加的な項目を包含することが意図されている。
【0032】
本発明のこれらおよび他の態様ならびに様々な利点および有用性は、本発明の詳細な説明を参照して明らかになる。本発明の各々の態様は、了解されるように様々な実施形態を包含し得る。
【0033】
本出願において特定されるすべての資料は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
例えば、本願発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
被験体の、将来神経疾患を発症する危険性プロフィールを特徴づけるための方法であって、
該被験体においてゲルゾリンのレベルを得ること、
該ゲルゾリンのレベルを予め定められた値と比較すること、および
該予め定められた値と比較したゲルゾリンのレベルに基づき、該被験体の、神経疾患を発症する危険性プロフィールを特徴づけること
を含み、該予め定められたレベルまたはそれ以下のゲルゾリンのレベルは、該被験体が該神経疾患を発症する危険度が高いことの指標であり、該予め定められたレベルまたはそれ以上のゲルゾリンのレベルは、該被験体が該神経疾患を発症する危険度が高くないことの指標である方法。
(項目2)
前記神経疾患が脱髄疾患である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記神経疾患が多発性硬化症である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記多発性硬化症が、急性、再発性、弛張性、安定、慢性または蓋然的である、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記神経疾患が、急性播種性脳脊髄炎、横断脊髄炎、進行性多病巣性白質脳障害、副腎脳白質ジストロフィー、副腎脊髄神経障害、橋中央ミエリン溶解、視神経炎、視神経脊髄炎(デビック症候群)、レーバー遺伝性視神経障害、熱帯性痙性対麻痺(HTLV関連脊髄症)、またはギラン‐バレー症候群(急性炎症性脱髄性多発神経炎、急性特発性神経根炎、急性特発性多発神経炎、フレンチポリオおよびランドリー上行性麻痺とも呼ばれる)である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記ゲルゾリンのレベルが前記被験体の体液中のレベルである、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記体液が、血液、血漿、血清、脳脊髄液(CSF)または尿である、項目6に記載の方法。
(項目8)
前記ゲルゾリンのレベルが前記被験体の体組織中のレベルである、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記体組織が神経組織である、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記予め定められた値が、約250mg/L血漿またはそれ以下である、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記被験体が、見かけ上健常な被験体である、項目1に記載の方法。
(項目12)
神経疾患を評価するために1またはそれ以上の試験を実施することをさらに含む、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記試験が、神経学的検査、脳波検査(EEG)、脳脊髄液(CSF)検査、誘発電位(感覚、運動、視覚、体性感覚または認知)、筋電図検査(EMG)、神経伝導、コンピュータ連動断層撮影(CT)法、磁気共鳴画像法(MRI)、磁気共鳴血管造影法(MRA)、エコープラナーMR画像法、陽電子放射断層撮影法(PET)、脊髄造影法または血管造影法である、項目12に記載の方法。
(項目14)
多発性硬化症を有しているまたは発症する危険度が高い被験体を治療するための方法であって、そのような治療を必要とする被験体を治療するために有効量のゲルゾリンを該被験体に投与することを含む方法。
(項目15)
多発性硬化症を有しているまたは発症する危険度が高い被験体を治療するための方法であって、該被験体におけるゲルゾリンのレベルを予め定められた値より上に上昇させるために、そのような治療を必要とする被験体に有効量のゲルゾリンを投与することを含む方法。
(項目16)
前記被験体が、さもなければゲルゾリンによる治療を必要とする適応症を有していない、項目14または15に記載の方法。
(項目17)
前記多発性硬化症が、急性、慢性、再発性、弛張性、安定、または蓋然的である、項目14または15に記載の方法。
(項目18)
前記ゲルゾリンが、血漿ゲルゾリン(pGSN)、細胞質ゲルゾリン(cGSN)、アドビリン、ビリン、capG、フライトレスタンパク質、フラグミン、セベリン、アドセベリン、プロトビリンまたはスーパービリンである、項目14または15に記載の方法。
(項目19)
前記ゲルゾリンを、経口的、舌下、口腔、鼻内、静脈内、筋肉内、髄腔内、腹腔内に、または皮下的に投与する、項目14または15に記載の方法。
(項目20)
前記ゲルゾリンを予防的に投与する、項目14または15に記載の方法。
(項目21)
多発性硬化症を治療するために第2の薬剤を投与することをさらに含む、項目14または15に記載の方法。
(項目22)
前記第2の薬剤が、インターフェロン(IFN)−β1b(ベタセロンまたはベータフェロン)、IFN−β1a(アボネックス、レビフ)、酢酸グラチラマー(コパキソン)、ミトキサントロン(ノバントロン)、アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサート、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリン、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、2−クロロデキシアデノシン(2−CDA、クラドリビン)、イノシン、インターロイキン2抗体(ゼナパックス、ダクリズマブ)、ロイコボリン、テリフルノミド、エストロプロゲスチン、デソゲストレル、エチニルエストラジオール、BHT−3009、ABT−874、カルメット‐ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、T細胞ワクチン接種、CNTO1275、リツキシマブ、タイサブリ(ナタリズマブ)、N−アセチルシステイン、ミノサイクリン、RO0506997、またはスタチンである、項目21に記載の方法。
(項目23)
多発性硬化症の危険度を低下させるために被験体を治療するための方法であって、
被験体が正常以下レベルのゲルゾリンを有することが既知であることに基づいて被験体を選択すること、および
多発性硬化症を発症する被験体の危険度を低下させるために有効量のゲルゾリンおよび/または第2の薬剤を該被験体に投与すること
を含む方法。
(項目24)
多発性硬化症の危険度を低下させるために被験体を治療するための方法であって、
被験体が正常以下レベルのゲルゾリンを有することが既知であることに基づいて被験体を選択すること、および
被験体におけるゲルゾリンのレベルを予め定められた値より上に上昇させるために有効量のゲルゾリンおよび/または第2の薬剤を該被験体に投与すること
を含む方法。
(項目25)
前記被験体が、さもなければゲルゾリンによる治療を必要とする適応症を有していない、項目23または24に記載の方法。
(項目26)
前記多発性硬化症が、急性、再発性、弛張性、安定、慢性または蓋然的である、項目23または24に記載の方法。
(項目27)
前記ゲルゾリンが、血漿ゲルゾリン(pGSN)、細胞質ゲルゾリン(cGSN)、アドビリン、ビリン、capG、フライトレスタンパク質、フラグミン、セベリン、アドセベリン、プロトビリンまたはスーパービリンである、項目23または24に記載の方法。
(項目28)
前記被験体が見かけ上健常である、項目23または24に記載の方法。
(項目29)
多発性硬化症を治療するために第2の薬剤を投与することをさらに含む、項目23または24に記載の方法。
(項目30)
前記第2の薬剤が、インターフェロン(IFN)−β1b(ベタセロンまたはベータフェロン)、IFN−β1a(アボネックス、レビフ)、酢酸グラチラマー(コパキソン)、ミトキサントロン(ノバントロン)、アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサート、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリン、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、2−クロロデキシアデノシン(2−CDA、クラドリビン)、イノシン、インターロイキン2抗体(ゼナパックス、ダクリズマブ)、ロイコボリン、テリフルノミド、エストロプロゲスチン、デソゲストレル、エチニルエストラジオール、BHT−3009、ABT−874、カルメット‐ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、T細胞ワクチン接種、CNTO1275、リツキシマブ、タイサブリ(ナタリズマブ)、N−アセチルシステイン、ミノサイクリン、RO0506997、またはスタチンである、項目29に記載の方法。
(項目31)
正常以下レベルのゲルゾリンを有する被験体を治療するための方法であって、
(i)多発性硬化症を治療するまたは多発性硬化症の危険度を低下させるために第1の治療法で該被験体を治療すること、
(ii)該被験体においてゲルゾリンのレベルを得ること、
(iii)(ii)で得たゲルゾリンのレベルを、ゲルゾリンの予め定められたレベルに対応する予め定められた値と比較すること、およびゲルゾリンの該予め定められたレベルに達しない場合は、
(iv)多発性硬化症を治療するまたは多発性硬化症の危険度を低下させるために第2の薬剤で該被験体を治療し、該ゲルゾリンの予め定められたレベルに達するまで(ii)と(iii)とを反復すること
を含む方法。
(項目32)
前記ゲルゾリンの予め定められたレベルが、見かけ上健常な対照集団におけるゲルゾリンのレベルである、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記予め定められた値が、約250mg/L血漿またはそれ以上である、項目31に記載の方法。
(項目34)
前記第2の薬剤が、インターフェロン(IFN)−β1b(ベタセロンまたはベータフェロン)、IFN−β1a(アボネックス、レビフ)、酢酸グラチラマー(コパキソン)、ミトキサントロン(ノバントロン)、アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサート、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリン、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、2−クロロデキシアデノシン(2−CDA、クラドリビン)、イノシン、インターロイキン2抗体(ゼナパックス、ダクリズマブ)、ロイコボリン、テリフルノミド、エストロプロゲスチン、デソゲストレル、エチニルエストラジオール、BHT−3009、ABT−874、カルメット‐ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、T細胞ワクチン接種、CNTO1275、リツキシマブ、タイサブリ(ナタリズマブ)、N−アセチルシステイン、ミノサイクリン、RO0506997、またはスタチンである、項目31に記載の方法。
(項目35)
被験体において多発性硬化症を治療するまたは多発性硬化症の危険度を低下させるための治療の効果を評価するための方法であって、
(i)多発性硬化症を治療するまたは多発性硬化症の危険度を低下させるための薬剤による治療を受けている被験体においてゲルゾリンのレベルを得ること、
(ii)(i)で得た該ゲルゾリンのレベルを、見かけ上健常な対照集団におけるゲルゾリンのレベルに対応する予め定められた値と比較すること、および
(iii)(i)におけるゲルゾリンのレベルが該予め定められたレベルまたはそれ以上であるかどうかを判定し、該判定は、治療が有効であるかどうかの指標であること
を含む方法。
(項目36)
前記被験体のゲルゾリンのレベルを経時的に監視するために工程(i)および工程(ii)および/または工程(iii)を反復する、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記予め定められた値が、約250mg/L血漿またはそれ以下である、項目35に記載の方法。
(項目38)
前記薬剤が、ゲルゾリン、インターフェロン(IFN)−β1b(ベタセロンまたはベータフェロン)、IFN−β1a(アボネックス、レビフ)、酢酸グラチラマー(コパキソン)、ミトキサントロン(ノバントロン)、アザチオプリン、シクロスポリン、メトトレキサート、シクロホスファミド、静脈内免疫グロブリン、プレドニゾン、メチルプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、コルチコトロピン、2−クロロデキシアデノシン(2−CDA、クラドリビン)、イノシン、インターロイキン2抗体(ゼナパックス、ダクリズマブ)、ロイコボリン、テリフルノミド、エストロプロゲスチン、デソゲストレル、エチニルエストラジオール、BHT−3009、ABT−874、カルメット‐ゲラン桿菌(BCG)ワクチン、T細胞ワクチン接種、CNTO1275、リツキシマブ、タイサブリ(ナタリズマブ)、N−アセチルシステイン、ミノサイクリン、RO0506997、またはスタチンである、項目35に記載の方法。
(項目39)
被験体において治療の方向を決定するための方法であって、
(i)多発性硬化症を治療するまたは多発性硬化症の危険度を低下させるための治療を受けている被験体においてゲルゾリンのレベルを得ること、
(ii)(i)で得た該ゲルゾリンのレベルを、ゲルゾリンのレベルに対応する予め定められた値と比較すること、および
(iii)(i)で得たゲルゾリンのレベルが該予め定められたレベルまたはそれ以上であるかどうかを判定すること、および
(iv)そのような判定に基づいて治療の方向を決定すること
を含む方法。
(項目40)
前記ゲルゾリンの予め定められたレベルが、見かけ上健常な対照集団におけるゲルゾリンのレベルである、項目39に記載の方法。
(項目41)
被験体のゲルゾリンのレベルを経時的に監視するために工程(i)および工程(ii)および/または工程(iii)を反復する、項目39に記載の方法。
(項目42)
前記予め定められた値が、約250mg/L血漿またはそれ以下である、項目39に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、対照マウス(それ自体を照射によって処置した)および実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)一次損傷を有するマウスにおけるゲルゾリンのレベルを示すヒストグラムである。
【図2】図2は、指示されている処置に関する時間の関数としてのEAEマウスにおける疾患スコアを示すグラフである。
【図3】図3は、指示されている処置に関する時間の関数としての対照およびEAE動物(インテグリン機能を欠く)における臨床スコアを示すグラフである。
【0035】
図面が本発明の実施可能性に必要とされないことは理解されるべきである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
発明の詳細な説明
本発明は、一部には、ゲルゾリンの投与が被験体を多発性硬化症から保護するという発見に基づく。それゆえ本発明は、一部の態様では、被験体における多発性硬化症の治療のために被験体にゲルゾリンを投与することを含む。我々は、ゲルゾリン治療が、多発性硬化症の発症を遅延させ、重症度を著明に軽減し、症状の寛解を促すことを発見した。
【0037】
「治療」または「治療する」という用語は、予防、改善、防止、または疾患からの治癒を包含することが意図されている。
【0038】
本明細書で使用するとき、「被験体」という用語は、治療を必要とし得るいずれかの哺乳動物を意味する。被験体は、ヒト、非ヒト霊長動物、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、マウス、ハムスターおよびラットなどのげっ歯動物を含むが、これらに限定されない。好ましい被験体はヒト被験体である。
【0039】
本明細書で使用するとき、「ゲルゾリン」という用語は、野生型ゲルゾリン(GenBank受託番号X04412)、ゲルゾリンのアイソフォーム、類似体、変異体、フラグメントまたは機能的誘導体を包含する。
【0040】
ゲルゾリン(GSN)は、他の哺乳動物タンパク質と異なり、細胞質(cGSN)および、血漿ゲルゾリン(pGSN)とも呼ばれる、分泌または輸送アイソフォームの両方を有し、これらは1個の遺伝子からのメッセージの選択的スプライシングによって誘導される(Sunら、J.Biol.Chem.274:33179−33182(1999))。本明細書で使用するとき、ゲルゾリンアイソフォームは、それらのアミノ酸配列にいくつかの小さな相違を有するゲルゾリンの変異型、通常はスプライス変異体または何らかの翻訳後修飾の結果を含む。
【0041】
ゲルゾリンは、天然ならびに合成および組換えゲルゾリンおよびゲルゾリン類似体を包含する。ゲルゾリンは豊富な分泌タンパク質である(Yin,H.L.,Kwiatkowski,D.J.,Mole,J.E.およびCole,F.S.(1984)J Biol Chem 259,5271−6)。ゲルゾリンの輸送アイソフォーム、pGSNは、25個の付加的なアミノ酸を有し、1個の遺伝子の選択的スプライシングから生じる(Kwiatkowski,D.J.,Stossel,T.P.,Orkin,S.H.,Mole,J.E.,Colten,H.R.およびYin,H.L.(1986)Nature 323,455−8)。組換えヒトゲルゾリン(rhGSN)(Biogen IDEC,Inc.,Cambridge,MA)は大腸菌において生産され、天然タンパク質と同じ一次構造を有するが、標準精製条件下では、天然タンパク質中に存在するジスルフィド結合によって天然ヒト血漿ゲルゾリンとは異なる。組換えタンパク質は、それゆえ、精製後適切に酸化され、その構造および機能はヒト血漿ゲルゾリンと区別できない(Wenら、Biochemistry 35:9700−9709(1996))。本発明の重要な治療的態様および実施形態の一部では、rhGSNの使用が好ましい。本発明の重要な診断的態様および実施形態の一部では、pGSNの使用が好ましい。
【0042】
「ゲルゾリン類似体」は、天然ゲルゾリンまたはそのフラグメントのいずれかと機能において実質的に類似する化合物を指す。ゲルゾリン類似体は、ゲルゾリン配列に実質的に類似する生物活性アミノ酸配列を含み、ゲルゾリンの生物活性と実質的に類似する生物活性を有する置換(substituted)、欠失、伸長、置換(replaced)または修飾配列を有していてよい。例えばゲルゾリンの類似体は、ゲルゾリンと同じアミノ酸配列を有していないが、ゲルゾリンの生物活性を保持するためにゲルゾリンと十分に相同なものである。生物活性は、例えばゲルゾリン類似体の性質を判定することによっておよび/または多発性硬化症を治療するまたは予防するゲルゾリン類似体の能力を判定することによって判定され得る。ゲルゾリン生物活性アッセイの一例は、アクチン核形成を刺激するゲルゾリンの能力である。ゲルゾリン生物活性アッセイは実施例に述べられており、当業者に公知である。
【0043】
「フラグメント」は、ゲルゾリンの生物活性を保持するゲルゾリンのセグメントを与えるゲルゾリン分子のいずれかの部分を包含することが意図されている;この用語は、例えば天然に生じるペプチド配列、合成または化学合成されたペプチド配列、および遺伝子操作されたペプチド配列などのいずれかのソースから作製されるゲルゾリンフラグメントを包含することが意図されている。
【0044】
ゲルゾリンの「変異体」は、天然ゲルゾリンまたはそのフラグメントと、構造および生物活性において実質的に類似する化合物を指すことが意図されている。変異体という用語は、ゲルゾリンファミリーのタンパク質を包含する。ゲルゾリンファミリーのタンパク質は、同様の折りたたみ形状をとる約15kDaの相同性ドメインの反復を共有するアクチン結合タンパク質の群である。ゲルゾリンファミリータンパク質の例は、アドビリン、ビリン、capG、フライトレスタンパク質(flightless protein)、フラグミン、セベリン、アドセベリン、プロトビリンおよびスーパービリンを含むが、これらに限定されない。
【0045】
ゲルゾリンの「機能的誘導体」は、ゲルゾリンの生物活性と実質的に類似する生物活性を有する誘導体である。「実質的に類似する」とは、定量的には異なるが、定性的には同じである活性を意味する。例えばゲルゾリンの機能的誘導体は、ゲルゾリンと同じアミノ酸骨格を含み得るが、また、診断アッセイまたは治療処置の実施のためのそのような修飾の必要性に依存して、例えば結合リン脂質または共有結合炭水化物などの翻訳後修飾などの他の修飾を含む。本明細書で使用するとき、この用語はまた、ゲルゾリンの化学的誘導体を含むことが意図されている。そのような誘導体は、ゲルゾリンの溶解度、吸収、生物学的半減期等を改善し得る。誘導体はまた、例えば、ゲルゾリンの毒性を低下させ得、またはゲルゾリンのいずれかの望ましくない副作用を排除もしくは軽減し得る。そのような作用を媒介することができる化学成分は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1980)に開示されている。そのような部分をゲルゾリンなどの分子にカップリングするための手順は当技術分野において周知である。「機能的誘導体」という用語は、ゲルゾリンの「フラグメント」、「変異体」、「類似体」または「化学的誘導体」を包含することが意図されている。
【0046】
本発明は、一部の態様では、被験体において疾患(例えば多発性硬化症などの神経疾患)を治療するための方法を含む。被験体は、疾患を有することが既知である、有する疑いがある、または有する危険度が高い。ゲルゾリンは、被験体において疾患を治療するために有効な量で投与される。
【0047】
本発明の治療方法に対する応答は、例えば治療の投与後の症状の低減または欠如などの、治療の生理的作用を判定することによって測定され得る。
【0048】
本発明の別の態様では、被験体において治療を監視するための方法が提供される。その方法は、疾患(例えば多発性硬化症などの神経疾患)を治療するための療法を受けている被験体においてゲルゾリンのレベルを得ることを含む。ゲルゾリンのレベルを、ゲルゾリンの対照レベル(例えば見かけ上健常な対照集団における)に対応する予め定められた値と比較する。ゲルゾリンのレベルが予め定められたレベルまたはそれ以下であるかどうかの判定が、被験体が同じ療法による継続治療から恩恵を受けるかまたは療法の変更から利益を得るかどうかの指標である。一部の実施形態では、被験体のゲルゾリンのレベルを経時的に監視するために、ゲルゾリンのレベルを得ることを反復する。一部の実施形態では、被験体は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12週間またはそれ以上にわたって治療を受けていてよい。一部の実施形態では、被験体は、少なくとも3、4、5、6か月またはそれ以上にわたって治療を受けていてよい。
【0049】
ゲルゾリンによる治療の変更は、ゲルゾリンの用量の増加、ゲルゾリンから別の薬剤への切替え、ゲルゾリン治療レジメンへの別の薬剤の追加、またはそれらの組合せを指す。
【0050】
本発明の別の態様によれば、疾患(例えば多発性硬化症などの神経疾患)を治療するまたは疾患の危険度を低下させるための治療の効果を評価するための方法が提供される。該方法は、疾患を治療するための療法を受けている被験体においてゲルゾリンのレベルを得ることを含む。ゲルゾリンのレベルを、ゲルゾリンの対照レベル(例えば見かけ上健常な対照集団における)に対応する予め定められた値と比較する。ゲルゾリンのレベルが予め定められたレベルまたはそれ以上であることの判定は、治療が有効であることの指標である。一部の実施形態では、被験体は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12週間またはそれ以上にわたって治療を受けていてよい。一部の実施形態では、被験体は、少なくとも3、4、5、6か月またはそれ以上にわたって治療を受けていてよい。
【0051】
本発明の1つの態様は、被験体における結果を改善するように治療を導くためのゲルゾリンの測定を対象とする。治療中のゲルゾリンのレベルは、疾患(例えば多発性硬化症などの神経疾患)の治療に対する応答についての予測的価値を有する。治療中のゲルゾリンのレベルは、先行技術における疾患の結果の予測因子の追加因子である。
【0052】
本発明のこの態様から恩恵を受ける被験体は、例えば多発性硬化症などの疾患を治療または予防するための療法を受けている被験体(すなわち「治療中の」被験体)である。治療中の被験体は、既に診断を受けており、多発性硬化症を治療するための療法による治療の経過中である被験体である。治療は、本明細書で言及する治療薬のいずれかであり得る。治療はまた、非薬剤治療でもあり得る。重要な実施形態では、治療は、ゲルゾリンのレベルを上昇させるものである。特に重要な実施形態では、治療は、ゲルゾリンによる治療である。好ましい被験体はヒト被験体である。本発明から恩恵を得る可能性が最も高い被験体は、約250mg/L(または2.4μM/L)血漿またはそれ以下のゲルゾリンレベルを有する、治療中のヒト被験体である。
【0053】
一部の実施形態では、被験体は既に疾患を有している。一部の実施形態では、被験体は疾患を有する危険度が高い場合がある。
【0054】
疾患についての危険因子は当業者に公知である。例えば多発性硬化症についての危険因子は、年齢(20−40歳)、女性、コーカサス人、および陽性家族歴を含む。多発性硬化症の危険性の度合いは、被験体が有する危険因子の数の多さおよび重症度または程度に依存する。危険因子の存在および重症度に基づき、被験体における多発性硬化症の危険度を評価するための危険度チャートおよび予測アルゴリズムが使用可能である。一部の実施形態では、疾患を有する危険度が高い被験体は、見かけ上健常な被験体であり得る。見かけ上健常な被験体は、疾患の徴候または症状を有していない被験体である。
【0055】
被験体において多発性硬化症の危険度を評価する他の方法は、当業者に公知である。
【0056】
本発明の好ましい治療薬はゲルゾリンである。ゲルゾリンは、単独で、医薬組成物中で、または他の治療レジメンと併用して投与され得る。ゲルゾリンおよび場合により他の治療薬は、同時にまたは連続的に投与され得る。他の治療薬が同時に投与されるとき、それらは同じかまたは別の製剤中で投与され得るが、同時に投与される。他の治療薬は、他の治療薬およびゲルゾリンの投与が時間的に離れているとき、互いにおよびゲルゾリンと連続的に投与され得る。これらの化合物の投与の間の時間の分離は、分単位であってもよく、またはより長くてもよい。
【0057】
本発明のある種の方法を実施するとき、被験体においてゲルゾリンのレベルを得ることが必要である。次にこのレベルを予め定められた値と比較し、予め定められた値と比較したゲルゾリンのレベルは、被験体が治療継続から利益を得る可能性の指標である。その後被験体を、治療の変更から得られる可能性のある純便益に関して特徴づけることができる。
【0058】
被験体についてのゲルゾリンのレベルは、当技術分野で認識されているいずれかの方法によって得られ得る。典型的には、該レベルは、体液、例えば血液、血清、血漿、リンパ、唾液、尿等におけるゲルゾリンのレベルを測定することによって判定される。レベルは、ELISAまたは他の免疫測定法またはゲルゾリンの存在を判定するための他の常套の手法によって測定され得る。常套の方法は、被験体の体液の試料を測定のために商業的検査室に送付することを含み得る。ゲルゾリンを測定するための方法を実施例で述べる。
【0059】
本発明はまた、被験体についてのゲルゾリンのレベルを予め定められた値と比較することを含む。予め定められた値は、様々な形態をとり得る。予め定められた値は、中央値または平均値などの単一カットオフ値であり得る。予め定められた値は、例えば、1つの定義された群における危険度が別の定義された群における危険度の2倍である場合のような、比較群に基づいて確立され得る。予め定められた値は様々であり、例えば試験集団は、低危険度群、中危険度群および高危険度群などの群に、または4分位数に、すなわち最も低い四分位数は最も高い危険度を有する被験体であり得、最も高い四分位数は最も低い危険度を有する被験体であるように、または三分位数に、すなわち最も低い三分位数は最も高い危険度を有する被験体であり、最も高い三分位数は最も低い危険度を有する被験体であるように、等しく(または不均等に)分けられる。予め定められた値は、カットオフ値以上のゲルゾリンレベルを有する群が、比較群に比べて神経疾患(例えば多発性硬化症)を発症する危険度の統計的に有意の上昇を示すという事実によって予め定められるカットオフ値であり得る。一部の実施形態では、比較群は、ゲルゾリンのより低いレベルを有する群である。
【0060】
予め定められた値は、選択される被験体の特定集団に依存し得る。例えば見かけ上健常な集団は、他の条件を有する被験体の集団とは異なる「正常」範囲のゲルゾリンを有し得る。従って、選択される予め定められた値は、被験体が属するカテゴリーを考慮し得る。適切な範囲およびカテゴリーは、当業者による日常的実験だけで選択することができる。
【0061】
好ましい体液は血液である。一部の実施形態では、ゲルゾリンの予め定められた値は、約250mg/L血漿またはそれ以下である。一部の実施形態では、ゲルゾリンの予め定められた値は、約240mg/L、230mg/L、220mg/L、210mg/L、200mg/L、190mg/L、180mg/L、170mg/L、160mg/L、150mg/L、140mg/L、130mg/L、120mg/L、110mg/L、100mg/L、90mg/L、80mg/L、70mg/L、60mg/L、50mg/L、40mg/L、30mg/L、20mg/Lまたは10mg/L血漿またはそれ以下である。
【0062】
一部の実施形態では、ゲルゾリンの予め定められた値は、約2.4μM/L血漿またはそれ以下である。一部の実施形態では、ゲルゾリンの予め定められた値は、約2.3μM/L、2.2μM/L、2.1μM/L、2.0μM/L、1.9μM/L、1.8μM/L、1.7μM/L、1.6μM/L、1.5μM/L、1.4μM/L、1.3μM/L、1.2μM/L、1.1μM/L、1.0μM/L、0.9μM/L、0.8μM/L、0.7μM/L、0.6μM/L、0.5μM/L、0.4μM/L、0.3μM/L、0.2μM/L血漿またはそれ以下である。
【0063】
ゲルゾリンの重要な予め定められた値は、健常被験体集団(すなわち疾患の徴候および症状を有していない被験体)についての平均の値である。予め定められた値は、言うまでもなく、被験体が存在する被験体集団の特徴に依存する。危険度を特徴づけるとき、数多くの予め定められた値を確立することができる。
【0064】
現在、ゲルゾリンに関するアッセイのための試薬を生産する商業的供給源がある。これらは、例えばCytoskeleton(Denver,CO)、Sigma(St.Louis,MO)およびCalbiochem(San Diego,CA)を含む。
【0065】
一部の実施形態では、本発明は、ゲルゾリンのレベルを疾患(すなわち多発性硬化症などの神経疾患)の第2のマーカーのレベルと共に測定することをさらに含む。多発性硬化症についてのマーカーの例は、例えばランティス(Rantes)、ミエリンオリゴ樹状細胞糖タンパク質(MOG)抗体(抗MOG)およびミエリン塩基性タンパク質(MBP)抗体(抗MBP)、およびERBB3遺伝子マイクロサテライトを含む。被験体におけるゲルゾリンのレベルを得る。第1の危険度値を確立するためにゲルゾリンのレベルを予め定められた値と比較する。被験体における第2のマーカーのレベルも得る。第2の危険度値を確立するために被験体における第2のマーカーのレベルを得る。次に、疾患を発症する被験体の危険度プロフィールを、第1の危険度値と第2の危険度値との組合せに基づいて特徴づけし、第1の危険度値と第2の危険度値との組合せは、第1および第2の危険度値とは異なる第3の危険度値を確立する。一部の実施形態では、第3の危険度値は、第1および第2の危険度値のどちらよりも大きい。試験するための好ましい被験体および予め定められた値は上述したとおりである。疾患は、上述した神経疾患のいずれかのような神経疾患であり得る。
【0066】
本発明は、被験体が継続治療から恩恵を受けるかまたは療法の変更から恩恵を得るかどうかを判定するための方法を提供する。恩恵は、典型的には疾患の徴候および症状の軽減または疾患の発現からのより迅速な回復である。疾患の徴候、症状および発現は当業者に公知である。例えば多発性硬化症では、疾患の徴候および症状は、四肢の脱力、視神経炎、複視、感覚症状、運動失調、膀胱機能不全、認知機能障害、うつ病、熱感受性および疲労を含む。
【0067】
四肢の脱力は、疲労、歩行の障害および/または器用さの喪失として発現し得る。
【0068】
視神経炎は、一般に視力低下および/または視力の中心野における薄暗さまたは色の彩度低下として現れる。視神経の症状は、軽度であるか、または数時間もしくは数日間かけて重篤な視力喪失または光覚の完全な喪失へと進行し得る。視覚症状は一般に単眼性であるが、両眼でも起こり得る。眼窩周囲の痛みが視力低下に先行し得るかまたは視力低下と同時に起こり得る。
【0069】
複視は、顕著な眼振として発現し得る。多発性硬化症における別の一般的な注視障害は、水平注視麻痺である。
【0070】
多発性硬化症における感覚症状は、パラステジア(うずきまたは痛みを伴う焼灼感)またはハイパーテジア(hyperthesias)(無感覚または「無」感情(“dead”feeling))を含む。種々の身体部分の「不快感」の愁訴が一般的である。
【0071】
歩行および四肢の運動失調は多発性硬化症における一般的な発現症状である。
【0072】
膀胱機能不全は、排尿における尿意促迫または排尿躊躇、膀胱の残尿感または失禁として発現する。
【0073】
認知機能障害は、記憶障害、注意障害、問題解決の困難性、情報処理の緩慢化および認知的作業の間の移動の困難性として現れる。判断力低下および情緒不安定が明らかな場合もある。
【0074】
疲労の発生は大部分の多発性硬化症患者において一般的である。疲労の症状は、全身性運動麻痺、集中するまたは読むことの限られた能力、倦怠感および眠気を含む。
【0075】
多発性硬化症の他の症状は、構音障害、便秘または便失禁、顔面痛、顔面麻痺、顔面ミオキミア(顔面筋の慢性波動収縮)およびめまいを含む。
【0076】
これらの方法は、患者の治療のためおよびまた新しい治療の臨床開発のために重要な意味を持つ。被験体が継続治療から利益を受けるかまたは治療の変更から利益を得るかを判定することは臨床的に有用である。本発明の方法の臨床的有用性の一例は、治療に応答する可能性が低いまたは可能性が高い被験体を同定することを含む。本発明の方法はまた、被験体が継続治療から利益を受けるかまたは治療の変更から利益を得るかを予測または判定する際に有用でもある。医療実施者は、被験体への予想される純便益に基づいて治療のための投薬レジメンを選択する。純便益は、危険度対利益比に由来する。本発明は、被験体が継続治療から利益を受けるかまたは治療の変更から利益を得るかの判定を可能にし、それによって医師が治療を選択するのを助ける。
【0077】
臨床的有用性の別の例は、例えばヒト被験体の場合、臨床試験者が、純便益を得る可能性の高い被験体を臨床試験のために選択するのを助けることを含む。臨床試験者は、臨床試験のための選択基準を決定するために本発明を利用すると予想される。
【0078】
継続治療から利益を受ける被験体は、治療中のゲルゾリンのレベルが一定の予め定められた値に達しているまたはゲルゾリンのレベルが上昇しつつある被験体である。ゲルゾリンの予め定められた値は上述されている。治療の変更から利益を得る被験体は、治療中のゲルゾリンのレベルが一定の予め定められた値に達しなかったまたは治療中のゲルゾリンのレベルが上昇していない被験体である。
【0079】
本明細書で使用するとき、「治療の変更」は、既存の治療の用量の増加または減少、ある治療から別の治療への切替え、既存治療への別の治療の追加、またはそれらの組合せを指す。ある治療から別の治療への切替えは、高危険度プロフィールを有するが、予想される利益の可能性が高い治療への切替えを含み得る。一部の実施形態では、好ましい治療は、ゲルゾリンのレベルを上昇させる治療である。既存治療の用量を増加することによる治療の変更から恩恵を受ける被験体は、例えば、治療を受けていたが、治療の最大耐用量または最大許容量を摂取しておらず、ゲルゾリンのレベルが一定の予め定められた値に達していなかった被験体である。そのような場合は、ゲルゾリンのレベルが一定の予め定められた値に達するまで既存治療の用量を増加させる。一部の場合には、既存治療の用量を、既存用量から、治療の最大耐用量でも最大許容量でもないより高い用量に増加する。別の場合には、用量を治療の最大耐用量または最大許容量まで増加する。既存治療の用量を減少することによる治療の変更から恩恵を受ける被験体は、例えば治療中のゲルゾリンのレベルが、より低い用量の治療で一定の予め定められた値に達するまたは達することができる被験体である。
【0080】
ある治療から別の治療への切替えから利益を得る被験体は、例えば治療の最大耐用量または最大許容量を摂取しており、ゲルゾリンのレベルが一定の予め定められた値に達しなかった被験体である。別の例は、治療の最大耐用量または最大許容量を摂取していなかったが、医療実施者によって別の治療から利益を得る可能性が高いと判定された被験体である。そのような判定は、例えば被験体における初期治療での望ましくない副作用の発症または初期治療に対する応答の欠如に基づく。
【0081】
既存治療への別の治療の追加による治療の変更から恩恵を受ける被験体は、例えばゲルゾリンのレベルが一定の予め定められた値に達しなかった治療を受けていた被験体である。そのような場合は、別の治療が既存治療に追加される。既存治療に追加される治療は、ゲルゾリンのレベルを上昇させる際に既存治療とは異なる作用機構を有し得る。一部の場合には、上記の治療変更の組合せも使用され得る。
【0082】
本発明はまた、治療の効果を判定するための方法を提供する。効果は、典型的にはゲルゾリンのレベルを上昇させる際の治療の効果である。これは、時として肯定応答(または好ましい応答とも称される。効果は、ゲルゾリンレベルが治療の結果として上昇したかどうかを判定するゲルゾリン血液試験によって判定され得る。一部の実施形態では、効果判定は、ゲルゾリンを上昇させるおよび白血球数(WBC)を正常化する際の治療の効果に基づく。
【0083】
ゲルゾリンの測定は、典型的にはμM/L(マイクロモル/リットル)、mg/dl(ミリグラム/デシリットル)またはmg/L(ミリグラム/リットル)で報告される。
【0084】
本発明はまた、疾患(例えば多発性硬化症などの神経疾患)のための治療を受けている被験体において治療の方向を決定するための方法を提供する。そのような治療の方向は、ゲルゾリンのレベルに基づいて決定される。一部の実施形態では、被験体は既に疾患を有しているかまたは疾患を有する危険度が高い。一部の実施形態では、被験体は、疾患を有する危険度が高いかまたは疾患を有する1またはそれ以上の危険因子を有する。
【0085】
治療の量は、ゲルゾリンまたは薬理物質または治療組成物の量を増加または減少することによって、投与する治療組成物を変更することによって、投与経路を変更することによって、投与時期を変更すること等によって変化させ得る。有効量は、治療される特定状態、治療される被験体の年齢および身体状態、状態の重症度、治療の期間、併用治療(存在する場合)の性質、特定投与経路によって異なり、同様の因子は医療実施者の知識および技能の範囲内である。例えば有効量は、個体が疾患を有していた期間に依存し得る。
【0086】
有効量は、医学的に望ましい結果を与えるために十分な治療薬の用量である。有効量はまた、例えば個体がゲルゾリンの異常に低いレベルを有する程度に依存し得る。本発明の治療薬は、疾患(例えば多発性硬化症)を治療または予防するために使用されること、すなわち、それらは疾患(例えば多発性硬化症)を発症する危険度の高い被験体において予防的に使用され得ることが了解されるべきである。そこで、有効量は、多発性硬化症の発症の危険度を低下させる、発症を遅くする、またはおそらく完全に予防することができる量である。治療薬が急性状況において使用されるとき、治療薬は、そのような有害事象から典型的に生じる1またはそれ以上の医学的に望ましくない結果を予防するために使用されることが認識される。
【0087】
有効量を決定することに関わる因子は当業者に周知であり、日常的な実験だけで対処され得る。本発明の薬理物質(単独でまたは他の治療薬と組み合わせて)の最大用量、すなわち健全な医学的判断に従った最高安全用量が使用されることが一般に好ましい。しかし、患者が医学的理由、心理的理由または事実上他のいずれかの理由でより低い用量または耐用量を主張し得ることは当業者に理解される。
【0088】
本発明の薬理物質の治療有効量は、疾患を治療するために有効な量である。例えば多発性硬化症などの神経疾患の場合には、所望応答は多発性硬化症の進行を阻止することである。これは、単に多発性硬化症の進行を一時的に遅くすることを含み得るが、より好ましくは、多発性硬化症の進行を永続的に停止することを含む。これは、当業者に公知の日常的診断方法によって観測することができる。多発性硬化症の治療に対する所望応答はまた、多発性硬化症の発症を遅延させることまたはさらには発症を予防することであり得る。
【0089】
本発明の方法において使用される薬理物質は、好ましくは滅菌であり、被験体への投与に適する重量または容積の単位で所望応答を生じさせるための有効量のゲルゾリンを含む。被験体に投与される薬理物質の用量は、種々のパラメータに従って、特に使用される投与方式および被験体の状態に従って選択され得る。他の因子は、所望の機関の治療を含む。被験体における応答が適用された初期用量で不十分である場合は、より高用量(または異なる、より局所的な送達経路による有効に高い用量)が、患者の認容性が許容する範囲で使用され得る。薬理物質の用量は、特にいずれかの合併症の場合、個々の医師または獣医によって調節され得る。治療有効量は、1またはそれ以上の日数にわたって、1日に1回またはそれ以上の投与で、典型的には0.01mg/kg−約1000mg/kg、好ましくは約0.1mg/kg−約500mg/kg、最も好ましくは約0.2mg/kg−約250mg/kgの範囲にわたる。
【0090】
本発明の薬理物質を所望組織、細胞または体液に有効に送達する様々な投与方式が当業者に公知である。投与方法は本出願の別の部分で論じる。本発明は、本明細書で開示する特定投与方式に限定されない。当技術分野における標準参考文献(例えばRemington’s Pharmaceutical Sciences,20th Edition,Lippincott,Williams and Wilkins,Baltimore MD,2001)は、医薬担体中の様々な医薬製剤および剤型の送達のための投与および製剤を提供する。本発明の薬理物質の投与のために有用な他のプロトコールは当業者に公知であり、それらにおいては、投与量、投与スケジュール、投与部位、投与方法等はここで示すものとは異なる。
【0091】
例えば試験のためまたは獣医学治療のための、ヒト以外の哺乳動物への本発明の薬理物質の投与は、上述したのと実質的に同じ条件下で実施される。本発明がヒトおよび動物疾患の両方に適用できることは当業者に了解される。それゆえ、本発明は、ヒト治療と同様に畜産および獣医学において使用されることが意図されている。
【0092】
投与されるとき、本発明の医薬製剤は、医薬的に許容される量でおよび医薬的に許容される組成物中で適用される。「医薬的に許容される」という用語は、有効成分の生物活性の有効性を妨げない非毒性物質を意味する。そのような製剤は、日常的に塩、緩衝剤、防腐剤、適合性担体、および場合により他の治療薬を含み得る。医学において使用されるとき、塩は医薬的に許容されるべきであるが、医薬的に許容されない塩も、その医薬的に許容される塩を調製するために好都合に使用されることがあり、本発明の範囲から除外されない。そのような薬理的および医薬的に許容される塩は、以下の酸から調製されるものを含むが、これらに限定されない:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、コハク酸等。また、医薬的に許容される塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などの、アルカリ金属塩またはアルカリ土類塩としても調製され得る。
【0093】
薬理物質または組成物は、所望する場合、医薬的に許容される担体と組み合わせてよい。本明細書で使用する「医薬的に許容される担体」という用語は、ヒトへの投与に適する1またはそれ以上の適合性固体または液体充填剤、希釈剤または封入物質を意味する。「担体」という用語は、適用を容易にするために有効成分と組み合わせる、天然または合成の、有機または無機成分を表す。医薬組成物の成分はまた、所望医薬効果を実質的に妨げる相互作用が存在しないように、本発明の薬理物質と互いに混合することができる。
【0094】
医薬組成物は、上述したように、前記化合物の酢酸塩、リン酸塩、クエン酸塩、グリシン、ホウ酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物(および他の塩基)および医薬的に許容される塩を含む、適切な緩衝剤を含有し得る。医薬組成物はまた、場合により、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールなどの適切な防腐剤を含有し得る。
【0095】
医薬組成物は、好都合には単位投与形態で提供され得、薬学の技術分野において周知の方法のいずれかによって調製され得る。すべての方法が、有効成分を、1またはそれ以上の副成分を構成する担体と結合する工程を含む。一般に、組成物は、活性化合物を液体担体、微細分割された固体担体またはその両方と均一且つ密接に結合し、その後必要に応じて製品を成形することによって製造される。
【0096】
化合物は、全身的に送達されることが望ましいときには、注射による、例えばボーラス注射または持続注入による、非経口投与用に製剤され得る。注射用製剤は、防腐剤を添加して、単位投与形態で、例えばアンプル中または多回投与容器中で提供され得る。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液または乳剤などの形態をとってもよく、懸濁化剤、安定剤および/または分散剤などの製剤化剤を含有し得る。
【0097】
非経口投与用の医薬製剤は、水溶性形態の活性化合物の水溶液を含む。さらに、活性化合物の懸濁液は、適切な油性注射用懸濁液として製造され得る。適切な親油性溶媒またはビヒクルは、例えばゴマ油などの脂肪油、もしくはオレイン酸エチルまたはトリグリセリドなどの合成脂肪酸エステル、またはリポソームを包含する。水性注射用懸濁液は、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトールまたはデキストランなどの、懸濁液の粘度を高める物質を含有し得る。場合により、懸濁液はまた、適切な安定剤または、高濃度溶液の調製を可能にするために化合物の溶解度を高める物質も含有し得る。
【0098】
あるいは、活性化合物は、使用前に適切なビヒクル(例えば食塩水、緩衝液、または発熱性物質を含まない滅菌水)で再構成するための粉末形態であり得る。
【0099】
経口投与に適する組成物は、各々が予め定められた量の活性化合物(例えばゲルゾリン)を含有する、カプセル、錠剤、丸剤、ロゼンジなどの個別単位として提供され得る。他の組成物は、シロップ、エリキシル、乳剤またはゲルなどの水性液体または非水性液体中の懸濁液を含む。
【0100】
経口使用のための医薬製剤は固体賦形剤として得ることができ、所望する場合は錠剤または糖衣錠コアを得るために適切な補助剤を添加した後、場合により、生じた混合物を摩砕し、顆粒の混合物を加工し得る。適切な賦形剤は、特にラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトールを含む糖類、または、例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよび/またはポリビニルピロリドン(PVP)などのセルロース製剤である。所望する場合は、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、またはアルギン酸またはアルギン酸ナトリウムなどのその塩などの、崩壊剤も添加し得る。場合により経口製剤はまた、内部酸性条件を中和するために食塩水または緩衝液、すなわちEDTA中で製剤してもよく、または担体なしで投与してもよい。
【0101】
また、1またはそれ以上の上記成分の経口投与形態も明確に考慮される。誘導体の経口送達が有効であるように成分を化学修飾し得る。一般に、考慮される化学修飾は、成分分子自体への少なくとも1つの部分の結合であり、前記部分は、(a)タンパク質分解の阻害および(b)胃または腸から血流への取込みを可能にする。また、1またはそれ以上の成分の全体的安定性の上昇および体内での循環時間の上昇も望ましい。そのような部分の例は、ポリエチレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンおよびポリプロリンを含む。AbuchowskiおよびDavis,1981,“Soluble Polymer−Enzyme Adducts”In:Enzymes as Drugs,HocenbergとRoberts編集、Wiley−Interscience,New York,NY,p.367−383;Newmarkら、1982,J.Appl.Biochem.4:185−189。使用され得る他のポリマーは、ポリ−1,3−ジオキソランおよびポリ−1,3,6−チオキソカンである。上述したような医薬用途のためにはポリエチレングリコール部分が好ましい。
【0102】
成分(または誘導体)に関して、放出の位置は、胃、小腸(十二指腸、空腸または回腸)、または大腸であり得る。当業者は、胃では溶解しないが、十二指腸または腸内の別の部位で物質を放出する製剤が使用可能である。好ましくは、該放出は、ゲルゾリンの保護によって、または腸などの、胃環境を過ぎてからの生物活性物質の放出によって、胃環境の有害作用を回避する。
【0103】
十分な胃抵抗性を確保するには、少なくともpH5.0に対して不透過性の剤皮が必須である。腸溶剤皮として使用されるより一般的な不活性成分の例は、酢酸トリメリット酸セルロース(CAT)、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMCP)、HPMCP50、HPMCP55、酢酸フタル酸ポリビニル(PVAP)、Eudragit L30D、アクアテリック、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、Eudragit L、Eudragit Sおよびシェラックである。これらの剤皮は混合膜として使用され得る。
【0104】
剤皮または剤皮の混合物はまた、胃に対する保護を意図せずに、錠剤でも使用され得る。これは、糖剤皮、または錠剤を飲み込みやすくする被覆物を含み得る。カプセルは、乾燥治療薬、すなわち粉末の送達のための硬い外殻(ゼラチンなど)で構成され得る;液体形態については、軟ゼラチン殻が使用され得る。カシェ剤の外殻材料は、濃厚デンプンまたは他の食用紙であり得る。丸剤、ロゼンジ、成形錠剤または粉薬錠剤については、湿式塊化法(moist massing techniques)が使用できる。
【0105】
治療薬を、粒径約1mmの顆粒またはペレットの形態の微細多粒子として製剤に含めることができる。カプセル投与用材料の製剤はまた、粉末、軽度圧縮プラグ、さらには錠剤としてでもよい。治療薬は圧縮によって製造することができる。
【0106】
着色剤および着香剤もすべて含め得る。例えばゲルゾリンを製剤し(リポソームまたはミクロスフェアカプセル封入などによって)、さらに着色剤および着香剤を含有する冷蔵飲料などの食用製品中に含めてもよい。
【0107】
不活性物質で治療薬の容量を希釈または増加させてもよい。これらの希釈剤は、炭水化物、特にマンニトール、α−ラクトース、無水ラクトース、セルロース、スクロース、変性デキストランおよびデンプンを含み得る。カルシウム三リン酸、炭酸マグネシウムおよび塩化ナトリウムを含む一部の無機塩も、充填剤として使用し得る。市販の希釈剤の一部として、Fast−Fro、Emdex、STA−Rx 1500、EmcompressおよびAvicellがある。
【0108】
崩壊剤も、治療薬を固体投与形態に製剤する際に含まれ得る。崩壊剤として使用される物質は、デンプンに基づく市販の崩壊剤、Explotabを含めて、デンプンを含むがこれらに限定されない。デンプングリコール酸ナトリウム、アンバーライト、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ウルトラミロペクチン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、オレンジの皮、酸性カルボキシメチルセルロース、天然海綿およびベントナイトはすべて使用され得る。崩壊剤の別の形態は、不溶性陽イオン交換樹脂である。粉末ゴムは崩壊剤および結合剤として使用でき、これらは、寒天、カラヤゴムまたはトラガカントなどの粉末ゴムを含み得る。アルギン酸およびそのナトリウム塩も崩壊剤として有用である。
【0109】
結合剤は、硬錠剤を形成するために治療薬を保持して使用することができ、アカシア、トラガカント、デンプンおよびゼラチンなどの天然産物からの材料を含み得る。その他には、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む。ポリビニルピロリドン(PVP)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)はどちらも、治療薬を顆粒化するためのアルコール溶液中で使用され得る。
【0110】
減摩剤は、製剤過程の間の粘着を防ぐために治療薬の製剤に含まれ得る。潤滑剤は、治療薬と鋳型壁との間の層として使用され得、これらは、マグネシウム塩およびカルシウム塩を含むステアリン酸、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、流動パラフィン、植物油およびろうを含み得るが、これらに限定されない。ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、様々な分子量のポリエチレングリコール、Carbowax 4000および6000などの可溶性潤滑剤も使用し得る。
【0111】
製剤の間の薬剤の流動特性を高めることができ、圧縮の際の再配列を助けるためすべり剤を添加してよい。すべり剤は、デンプン、滑石、発熱性シリカおよび水和ケイアルミン酸塩を含み得る。
【0112】
水性環境への治療薬の溶解を助けるために、界面活性剤を湿潤剤として添加し得る。界面活性剤は、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムおよびスルホン酸ジオクチルナトリウムなどの陰イオン界面活性剤を含み得る。陽イオン界面活性剤も使用でき、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトニウムを含み得る。界面活性剤として製剤中に含まれ得る潜在的非イオン性界面活性剤のリストは、ラウロマクロゴール400、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50および60、モノステアリン酸グリセロール、ポリソルベート40、60、65および80、スクロース脂肪酸エステル、メチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースである。これらの界面活性剤は、単独でまたは種々の比率の混合物として、ゲルゾリンの製剤中に存在し得る。
【0113】
経口的に使用できる医薬製剤は、ゼラチンでできたプッシュフィットカプセル、ならびにゼラチンおよびグリセロールまたはソルビトールなどの可塑剤で作られる軟密封カプセルを含む。プッシュフィットカプセルは、ラクトースなどの充填剤、デンプンなどの結合剤、および/または滑石またはステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、および場合により安定剤と混合した有効成分を含み得る。軟カプセルでは、活性化合物は、脂肪油、流動パラフィンまたは液体ポリエチレングリコールなどの適切な液体中に溶解または懸濁され得る。加えて、安定剤も添加し得る。
【0114】
経口投与用に製剤されたミクロスフェアも使用され得る。そのようなミクロスフェアは当技術分野において十分に定義されている。経口投与用のすべての製剤は、そのような投与に適した剤型である必要がある。
【0115】
口腔投与については、組成物は、常套のやり方で製剤された錠剤またはロゼンジの形態をとり得る。
【0116】
吸入による投与に関しては、本発明に従った使用のための化合物は、適切な推進剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスを使用して、加圧パックまたはネブライザからエアロゾル噴霧剤の形態で好都合に送達され得る。加圧エアロゾルの場合は、計量された量を送達するための弁を備えることによって投与単位が決定され得る。吸入器または注入器における使用のための、例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、化合物の粉末混合物およびラクトースまたはデンプンなどの適切な粉末基剤を含有して製剤され得る。
【0117】
また、ゲルゾリンの肺送達形態もここで考慮される。ゲルゾリンは、吸入の間に哺乳動物の肺に送達され、肺上皮内層を通って血流に入る。吸入分子についての他の報告は、Adjeiら、1990,Pharmaceutical Research,7:565−560;Adjeiら、International Journal of Pharmaceutics,63:135−144(酢酸ロイプロリド);Braquetら、1989,Journal of Cardiovascular Pharmacology,13(補遺5):143−146(エンドセリン−1);Hubbardら、1989,Annals of Internal Medicine,Vol.III,p.206−212(α1−抗トリプシン);Smithら、1989,J.Clin.Invest.84:1145−1146(α1−プロテイナーゼ);Osweinら、1990,“Aerosolization of Proteins”,Proceedings of Symposium on Respiratory Drug Delivery II,Keystone,Colorado,March(組換えヒト成長ホルモン);Debsら、1988,J.Immunol.140:3482−3488(インターフェロン−γおよび腫瘍壊死因子α)およびPlatzら、米国特許第5,284,656号(顆粒球コロニー刺激因子)を含む。全身作用のための薬剤の肺送達のための方法および組成物は、Wongらへの1995年9月19日発行の米国特許第5,451,569号に述べられている。
【0118】
本発明を実施する際の使用に関して、そのすべてが当業者に熟知されている、ネブライザ、定量噴霧式吸入器、および粉末吸入器を含むがこれらに限定されない、治療薬剤の肺送達のために設計された広範囲の機械的装置が考慮される。
【0119】
本発明の実施に適した市販の装置の特定例の一部は、Mallinckrodt,Inc.,St.Louis,Missouriによって製造される、Ultraventネブライザ、Marquest Medical Products,Englewood,Coloradoによって製造される、Acorn IIネブライザ、Glaxo Inc.,Research Triangle Park,North Carolinaによって製造される、Ventolin定量吸入器、およびFisons Corp.,Bedford,Massachusettsによって製造される、Spinhaler粉末吸入器である。
【0120】
そのような装置はすべて、ゲルゾリンを投薬するのに適した製剤の使用を必要とする。典型的には、各々の製剤は使用される装置の種類に特異的であり、治療において有用な通常の希釈剤、アジュバントおよび/または担体に加えて、適切な推進剤の使用を含み得る。また、リポソーム、マイクロカプセルまたはミクロスフェア、包接複合体、または他の種類の担体の使用も考慮される。化学修飾されたゲルゾリンはまた、化学修飾の種類または使用される装置の種類に依存して種々の製剤に製造され得る。
【0121】
ジェット式または超音波式のネブライザによる使用に適する製剤は、典型的には、溶液1mLにつき生物活性ゲルゾリン約0.1−25mgの濃度で水に溶解したゲルゾリンを含む。製剤はまた、緩衝剤および単糖(例えばゲルゾリンの安定化および浸透圧の調節のため)も含有し得る。ネブライザ製剤はまた、エアロゾルを形成するときに溶液の噴霧化によって生じるゲルゾリンの表面誘導凝集を低減または予防するために、界面活性剤を含み得る。
【0122】
定量吸入装置に関する使用のための製剤は、一般に界面活性剤を使用して推進剤中に懸濁されたゲルゾリンを含む微細分割粉末を含有する。推進剤は、クロロフルオロカーボン、ヒドロクロロフルオロカーボン、ヒドロフルオロカーボン、またはトリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタノールおよび1,1,1,2−テトラフルオロエタンを含む炭化水素、またはそれらの組合せなどの、この目的に使用される常套のいかなる物質であってもよい。適切な界面活性剤は、トリオレイン酸ソルビタンおよびダイズレシチンを含む。オレイン酸も界面活性剤として有用であり得る。
【0123】
粉末吸入装置から投薬するための製剤は、ゲルゾリンを含む微細分割乾燥粉末を含有し、同時に、装置からの粉末の分散を促進する量、例えば製剤の50−90重量%の量の、ラクトース、ソルビトール、スクロースまたはマンニトールなどの増量剤も含み得る。ゲルゾリンは、遠位肺への最も有効な送達のために、平均粒径10mm(またはミクロン)未満、最も好ましくは0.5−5mmの微粒子形態で最も好都合に製剤される必要がある。
【0124】
本発明の医薬組成物の経鼻(または鼻内)送達も考慮される。経鼻送達は、薬剤が肺に沈着することを必要とせずに、治療薬剤を鼻に投与した後本発明の医薬組成物が直接血流へと通過することを可能にする。経鼻送達のための製剤は、デキストランまたはシクロデキストランを含有するものを含む。
【0125】
経鼻投与に関して、有用な装置は、定量噴霧器を取り付ける小さな硬いボトルである。1つの実施形態では、本発明の医薬組成物を規定容量のチャンバに引き入れることによって定量が送達され、前記チャンバは、チャンバ内の液体が圧縮されたときスプレーを形成することによってエアロゾル製剤をエアロゾル化するように寸法を合わせた開口部を有する。本発明の医薬組成物を投与するにはチャンバを圧縮する。特定実施形態では、チャンバはピストン構造である。そのような装置は市販されている。
【0126】
あるいは、圧搾されたときスプレーを形成することによってエアロゾル製剤をエアロゾル化するように寸法を合わせた開口部または穴を備えるプラスチックスクイーズボトルが使用される。開口部は通常ボトルの上部に存在し、上部は、一般にエアロゾル製剤の効率的な投与のために鼻腔内で部分的に適合するようにテーパー状になっている。好ましくは、経鼻吸入器は、測定用量の薬剤を投与するために、計量された量のエアロゾル製剤を提供する。
【0127】
化合物はまた、例えばココアバターまたは他のグリセリドなどの常套の坐薬基剤を含む、坐剤または停留浣腸などの直腸または膣組成物に製剤され得る。
【0128】
先に述べた製剤に加えて、本発明の化合物はまた、デポー剤としても製剤され得る。そのような長時間作用性製剤は、適切な高分子または疎水性材料で(例えば許容される油中の乳剤として)またはイオン交換樹脂で、または難溶性誘導体として、例えば難溶性の塩として製剤され得る。
【0129】
医薬組成物はまた、適切な固体またはゲル相担体または賦形剤を含有し得る。そのような担体または賦形剤の例は、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、様々な糖、デンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、およびポリエチレングリコールなどのポリマーを含むが、これらに限定されない。
【0130】
適切な液体または固体医薬製剤の形態は、例えば吸入のための水性溶液または塩類溶液であるか、マイクロカプセル化されるか、蝸牛状にされるか(encochleated)、微視的金粒子上に被覆されるか、リポソーム中に含まれるか、噴霧化されるか、エアロゾルであるか、皮膚への移植用のペレットであるか、または皮膚に擦過傷をつけるための鋭い物体上に乾燥されている。医薬組成物はまた、顆粒、粉末、錠剤、被覆錠剤、(マイクロ)カプセル、坐剤、シロップ、乳剤、懸濁液、クリーム、点滴剤、または活性化合物を持続放出する製剤を含み、それらの製剤中では、賦形剤および添加剤および/または崩壊剤、結合剤、被覆剤、膨張剤、潤滑剤、着香剤、甘味料または可溶化剤などの補助剤が、上述したように慣例的に使用される。本発明の医薬組成物は様々な薬剤送達システムにおける使用に適する。薬剤送達のための方法の簡単な総説については、参照により本明細書に組み込まれる、Langer,Science 249:1527−1533,1990参照。
【0131】
ゲルゾリンおよび場合により他の治療薬は、そのままでまたは医薬的に許容される塩の形態で投与され得る。
【0132】
特にゲルゾリンを含むがこれに限定されない治療薬は、微粒子中で提供され得る。ここで使用される微粒子は、全体的にまたは部分的にゲルゾリンまたは本明細書で述べるような他の治療薬で構成され得るナノ粒子またはマイクロ粒子(または一部の場合にはより大きい粒子)を意味する。微粒子は、腸溶剤皮を含むがこれに限定されない被覆物によって取り囲まれたコア中に治療薬を含み得る。治療薬はまた、微粒子全体に分散していてもよい。治療薬はまた、微粒子中に吸収されていてもよい。微粒子は、ゼロ次放出、一次放出、二次放出、遅延放出、持続放出、即時放出、およびそれらのいずれかの組合せ等であり得る。微粒子は、治療薬に加えて、受食性、非受食性、生分解性または非生分解性材料またはそれらの組合せを含むが、これらに限定されない、薬学および医学の技術分野で日常的に使用される材料のいずれかを含み得る。微粒子は、溶液中にゲルゾリンを含むまたは半固体状態のゲルゾリンを含むマイクロ粒子であり得る。微粒子は実質的にいかなる形状であってもよい。
【0133】
非生分解性及び生分解性ポリマー材料は、治療薬を送達するための微粒子の製造において使用できる。そのようなポリマーは、天然または合成ポリマーであり得る。ポリマーは、放出が所望される期間に基づいて選択される。特に興味深い生体接着性ポリマーは、その教示が本明細書に組み込まれる、H.S.Sawhney,CP.PathakおよびJ.A.Hubell in Macromolecules,(1993)26:581−587によって述べられている生体受食性ヒドロゲルを含む。これらは、ポリヒアルロン酸、カゼイン、ゼラチン、グルチン、ポリ無水物、ポリアクリル酸、アルギン酸塩、キトサン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(エチルメタクリレート)、ポリ(ブチルメタクリレート)、ポリ(イソブチルメタクリレート)、ポリ(ヘキシルメタクリレート)、ポリ(イソデシルメタクリレート)、ポリ(ラウリルメタクリレート)、ポリ(フェニルメタクリレート)、ポリ(メチルアクリレート)、ポリ(イソプロピルアクリレート)、ポリ(イソブチルアクリレート)、およびポリ(オクタデシルアクリレート)を含む。
【0134】
治療薬は、制御放出システム中に含まれ得る。「制御放出」という用語は、製剤からの薬剤放出の方法およびプロフィールが制御されている、いずれかの薬剤含有製剤を指すことが意図されている。これは、即時放出製剤、ならびに持続放出製剤および遅延放出製剤を含むがこれらに限定されない非即時放出製剤を指す。「持続放出」(「徐放」とも称される)という用語は、長時間にわたって薬剤の漸次放出を提供し、好ましくは、必ずではないが、長時間にわたって薬剤の実質的に一定な血中レベルを生じさせる薬物製剤をいう、その常套の意味で使用される。「遅延放出」は、製剤の投与および製剤からの薬剤の放出の間に時間的遅延が存在する薬物製剤をいう、その常套の意味で使用される。「遅延放出」は、長時間にわたる薬剤の漸次放出を含んでもよいが、または含まなくてもよく、それゆえ「持続放出」であってもよく、またはそうでなくてもよい。
【0135】
長期間持続放出性移植片の使用は、慢性状態の治療に特に適する場合がある。「長期間」放出は、本明細書で使用するとき、移植片が少なくとも7日間、好ましくは30−60日間有効成分の治療レベルを送達するように構築され、配置されていることを意味する。長期間持続放出性移植片は当業者に周知であり、上述した放出システムの一部を含む。
【0136】
本発明はまた、キットの使用を考慮する。本発明の一部の態様では、キットは、医薬製剤バイアル、医薬製剤希釈剤バイアルおよびゲルゾリンを含み得る。医薬製剤のための希釈剤を含むバイアルは任意選択的である。希釈剤バイアルは、ゲルゾリンの濃厚溶液または凍結乾燥粉末であり得るものを希釈するための、生理食塩水などの希釈剤を含む。指示書は、特定量の希釈剤を特定量の濃厚医薬製剤と混合し、それによって注射または注入のための最終製剤を調製するための指示書を含み得る。指示書は、有効量のゲルゾリンで被験体を治療するための指示書を含み得る。また、製剤を含む容器は、容器がビン、隔壁のあるバイアル、隔壁のあるアンプル、注入用バッグ等であるか否かにかかわらず、製剤を加圧滅菌または滅菌したときに変色する常套のマーキングなどのしるしを含み得る。
【0137】
以下の実施例によって本発明をさらに説明するが、それらはいかなる意味においてもさらなる限定と解釈されるべきではない。本出願全体を通して引用される参考文献(文献参照、発行済み特許、公開特許出願および同時係属特許出願を含む)のすべての内容全体が、参照により明白に本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0138】
血漿ゲルゾリンは、平均250mg/lの濃度でヒトの細胞外体液中を循環する分泌タンパク質である。様々な種類の組織損傷が血漿ゲルゾリンレベルの持続的な低下を導く。重症外傷、熱傷、重大な手術および造血幹細胞移植患者において遭遇される重篤な組織損傷後、正常レベルの約25%未満までのゲルゾリンレベルの低下が起こり、それゆえ、補助呼吸の必要性、集中治療室滞在期間及び全体入院期間の長さ、死亡および続発性肺損傷(例えば成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、急性肺損傷(ALI)、多臓器機能不全症候群(MODS))などの特定続発症によって測定される重症管理(critical care)合併症を予測する。動物モデルにおける同様の血漿ゲルゾリン低下は、肺透過性の変化および炎症に先行し、また組換え血漿ゲルゾリンの注入はこれらの作用を改善する。
【0139】
提案されているゲルゾリン低下の機序は、組織損傷によって露出された細胞内の豊富なアクチンにゲルゾリンが結合するというものである。ゲルゾリンは、生物活性炎症媒介物質である、ロゾホスファチジン酸、ジアデノシンリン酸、Aβペプチド(アルツハイマー病の病因として関係づけられる)、血小板活性化因子その他に結合し、それゆえ末梢ゲルゾリン減少による血液中でのこの結合の喪失は、二次組織損傷の促進およびゲルゾリン補充によるその抑制を説明し得る。加えて、血漿ゲルゾリンによるマウスの治療は、内毒素注入の致死的合併症を予防し、盲腸結紮−穿刺細菌性敗血症モデルにおける死亡を有意に遅延させる。
【0140】
ゲルゾリンの作用の防御機構は明らかではないが、ゲルゾリンが、一次損傷後に遅れて起こるためまたはそれらの持続性のゆえに、重症管理合併症を生じさせる多数の炎症媒介物質を阻害することを示唆する証拠がある。ゲルゾリンは遺伝的に高度に保存されており、ヒトにおいて免疫原性である証拠はない。ヒトの気道への組換えヒト血漿ゲルゾリンの点滴注入またはげっ歯動物および非ヒト霊長動物への静脈内注入は、毒性を伴わなかった。
【0141】
リンパ球が神経ミエリンに対する免疫応答を開始し、その後様々なエフェクター細胞が神経破壊に関与する、実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)病変の時間経過は、ゲルゾリンによって良好な影響を受ける他の二次損傷の遅延発生と相関する。この情報によって示唆される仮説は、血漿ゲルゾリンレベルが、EAEモデルにおいて与えられた初期損傷に応答して低下し得るというものであった。もしそうであれば、末梢ゲルゾリン補充は二次損傷を改善すると考えられる。
【0142】
我々は、ゲルゾリンの末梢投与が中枢神経系における病的過程を反映し、それに影響を及ぼし得るという仮説を試験した。ヒト多発性硬化症(MS)の古典的げっ歯動物モデルである、EAE実験的アレルギー性脳脊髄炎(EAE)を有するマウスに関して実験を行った(Dittel B,Merchant R,Janeway C,Jr.Evidence for Fas−dependent and Fas−independent mechanisms in the pathogenesis of experimental autoimmune encephalomyelitis.J
Immunol 1999;162:6392−6400)。この仮説の裏付けとして、アルツハイマー病(AD)におけるゲルゾリンの役割の可能性に関する文献がある。報告によれば、ゲルゾリンはヒトAD斑の成分であり、Aβペプチドに結合し、腹腔内投与したとき、高レベルのAβペプチドを発現するトランスジェニックADマウスのAD脳からAβペプチドを除去する(Matsuoka Y,Saito M,LaFrancois J,ら、Novel therapeutic approach for the treatment of Alzheimer’s disease by peripheral administration of agents with an affinity to β−amyloid.J.Neurosci 2003;23:29−33)。
【0143】
図1に示すように、ゲルゾリンレベルは、照射された試験マウスへの、ミエリン塩基性タンパク質に結合するようにプライミングされたT細胞の養子免疫伝達を含む、EAE一次損傷の発症後に低下する。「対照」の棒は、幹細胞移植を受けたヒトにおける以前の所見と一致して、照射自体が血漿ゲルゾリンレベルを大きく低下させたことを示す(DiNubile M,Stossel T,Ljunghusen O,Ferrara J,Antin J.Prognostic implications of declining plasma gelsolin levels after allogenic stem cell transplantation.Blood 2002;100:4367−4371)。4日目まで、対照動物および照射動物は等しい血漿ゲルゾリンレベルを有していた。しかし、対照動物のゲルゾリンレベルは7日目まで上昇し続け、その後も一定なままであった。EAE動物のレベルはさらに低下し、その後多少上昇したが、21日間を通して対照よりも一貫して低いままであった。図2に示すように、この間隔はEAEの神経症状の発症、悪化および寛解に対応する。
【0144】
ウシ血清アルブミン8mgまたはヒト組換え血漿ゲルゾリン8mgを、1日1回で10回(1×)投与または2、5および10日目の3回投与(3×)により皮下的に投与した一組の試験動物において治療試験を実施した。この投与経路および用量は、敗血症によって50%低下したゲルゾリンレベルを正常まで上昇させることが以前に示されている。レベルは24時間の半減期で低下した。図2に示すように、3×ゲルゾリン治療は発症を遅延させ、重症度を著明に減弱して、症状の寛解を早めた。
【0145】
図3は、インテグリン機能を欠く動物におけるEAEの経過を述べたこれまでの文献からの結果を示しており、インテグリンはこのモデルおよびヒト多発性硬化症の神経破壊に関係づけられている。2つのパネルはα4インテグリンに対するモノクローナル抗体の作用を示し、もう1つはβ2インテグリンを欠くマウスにおけるEAEの経過を示す(Kent S,Karlik S,Cannon C,ら、A monoclonal antibody to α4 integrin suppresses and reverses active experimental allergic encephalomyelitis.J Neuroimmunol 1995;58:1−10;Bullard D,Hu X,Schoeb T,Axtell R,Raman C,Barnum S.Critical requirement of CG11b(Mac−2) on T cells and accessory cells for development of experimental autoimmune encephalomyelitis.J Immunol 2005;175:6327−62330)。データは、ゲルゾリン補充の作用が、EAEモデルにおいてインテグリン標的と同程度に良好またはより良好であることを示す。α4インテグリンに対する抗体は、多発性硬化症に対して極めて有効であるとしてFDAによって承認された、Biogen−IdecおよびElanによって開発された製品、タイサブリ(Tysabri)の有効成分であり(Miller D,Khan O,Sheremata Wら、A controlled trial of Natalizumab for relapsing multiple sclerosis.N.Engl J Med
2003;348:15−23)、その後重篤な合併症、多病巣性髄膜白質脳炎(polyfocal meningoleukoencephalitis)(PML)のために市場から撤収された。
【0146】
要約すると、実験は、提示した仮説の2つの態様、すなわち血漿ゲルゾリンレベルの低下がEAEの神経症状発現に先行すること、ならびに、血漿ゲルゾリンによる全身治療はこれらの症状発現を予防するおよび/または抑制することを裏付ける。これらの所見の1つの臨床関連要素は、血漿ゲルゾリンレベルの連続的監視が、神経損傷が始まる前にいつ治療を強化すべきかの警告を与える、多発性硬化症の管理戦略の一部となり得ることである。別の関連要素は、この治療強化の一部がゲルゾリン治療を含むことである。第3の関連要素は、血漿ゲルゾリンレベルの予防的上昇が多発性硬化症患者を神経学的続発症から保護し得ることである。
【0147】
ゲルゾリンおよびアルブミンの測定:
血漿ゲルゾリンは、典型的にはアクチン核形成を刺激するその能力によって二重の試料で測定される(Janmey,P.A.,Chaponnier,C,Lind,S.E.,Zaner,K.S.,Stossel,T.P.& Yin,H.L.(1985)Biochemistry 24,3714−23)。マウス血漿を、0.1M KCl、0.2mM MgCl、1mM EGTA、0.5mM ATP、0.5mM β−メルカプトエタノール、10mMトリス−HCl緩衝液、pH7.4(緩衝液B)中で1:5倍希釈する。希釈した血漿試料から5μlを、6×50mmのホウケイ酸塩培養管中の、1.5mM CaClおよび0.4μMファラシジンを添加した緩衝液B 280μlに添加する。0.5mM ATP、5mM β−メルカプトエタノール、0.2mM CaCl、0.2mMトリス−HCl緩衝液、pH7.4(緩衝液A)中の20μMピレンアクチン15μlを添加することによってアクチン重合反応を開始させる。重合を、それぞれ366および386nmの励起および発光波長で分光蛍光計において200秒間監視する。ゲルゾリン濃度を、組換えヒトpGSNを使用して標準曲線から推定する。KouyamaおよびMihashi(Kouyama,T.とMihashi,K.(1981)Eur J Biochem 114,33−8)の方法によって調製した、これらのアッセイのためのピレンアクチン原液をロットにて−80℃で保存し、解凍して、緩衝液Aで10倍希釈し、一晩放置したあと250,000×gで30分間遠心分離する。
【0148】
アクチン核形成アッセイによるゲルゾリン定量は、ウエスタンブロット法測定から得られるレベルと良好に相関する(Mounzer,K.C,Moncure,M.,Smith,Y.R.およびDinubile,M.J.(1999)Am J Respir
Crit Care Med 160,1673−81)。アッセイは高度に特異的である。しかし、このアッセイはcGSNとpGSNとを識別しない。また種特異的ではなく、それゆえ組換えヒトpGSNで処置したマウスにおける総ゲルゾリンレベルの近似値を求めることができる。pGSNへの脂質複合は、pGSNのアクチン核形成活性に影響を及ぼさない(Janmey,P.A.,Iida,K.,Yin,H.L.およびStossel,T.P.(1987)J Biol Chem 262,12228−36)。
【0149】
アルブミンレベルは、市販のキット(Stanbio Boerne,TX)を使用し、製造者の指示に従って比色定量によって測定する。
【0150】
等価物
上記に記載した明細書は、当業者が本発明を実施するために十分であると考えられる。実施例は本発明の1またはそれ以上の態様の単なる説明を意図しているので、本発明は、提示される実施例によって範囲を限定されるべきではない。他の機能的に等価の実施形態は本発明の範囲内とみなされる。本明細書で示し、説明したものに加えて、本発明の様々な修正が上記説明から当業者に明らかになる。本発明の限定の各々は本発明の様々な実施形態を包含し得る。それゆえ、いずれか1つの要素または要素の組合せを含む本発明の限定の各々は、本発明の各々の態様に包含され得ることが予想される。本発明は、その適用を、記載または図面に例示した成分の構造および配置の詳細に限定されない。本発明は他の実施形態であり得、様々な方法で実践または実施され得る。
【0151】
また、本明細書で使用する語句および用語は説明を目的とするものであり、限定とみなされるべきではない。本明細書での「含む(including,comprising,having,containing,involving)」およびその変形の使用は、その後に列挙される項目およびそれらの等価物ならびに付加的な項目を包含することを意図している。
【0152】
本出願において列挙されるすべての参考文献、特許および特許出願は、それらの全体が参照により明白に本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載された発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−53071(P2012−53071A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−271607(P2011−271607)
【出願日】平成23年12月12日(2011.12.12)
【分割の表示】特願2009−500495(P2009−500495)の分割
【原出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(504412945)ザ ブライハム アンド ウイメンズ ホスピタル, インコーポレイテッド (54)
【出願人】(508276420)ブラッドセンター リサーチ ファウンデーション, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】