説明

多糖類含有組成物およびその用途

【課題】 高濃度の多糖類を含みながら、低粘度の液体状態にある組成物を調製し、これまでにない食感および/または機能を持つ医薬品、点眼剤、食品、化粧品、トイレタリー製品などを提供することを課題とする。
【解決手段】 高濃度の多糖類たとえば寒天を水含有液体中で加熱後、剪断力を加えながら冷却することで、低粘度の液体状態にある組成物を得ることができ、新たな食感および機能を持つ医薬品、点眼剤、食品、化粧品、トイレタリー製品などを提供できる。貯蔵中の環境温度の変化によるゲル化が生じず、塗布し易く流れ落ちにくい水性医薬組成物基材として使用できる組成物を提供できる。また、多糖類の一つである寒天を配合した点眼剤は、薬物の眼内移行性を向上させる効果を生じる。さらに、微粒子状の寒天を点眼剤に配合すれば、点眼剤の粘度を低く保つことができるので液切れが良く、点眼時の差しごこち感にも優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度の多糖類を含みながら、低粘度であるという特性を示す多糖類含有組成物に関するものである。また、本発明の組成物を用いることで含有する薬剤、顔料、塗料などの保持時間を長くすることができる組成物に関するものである。加えて本発明は、寒天を配合することによって薬物の眼内移行性を向上させた点眼剤に関する。特に、微粒子状の寒天を点眼剤用の基剤として使用すれば、優れた特性を有する点眼剤が得られる。
【背景技術】
【0002】
医薬品、食品、化粧品、トイレタリーなどの分野では種々のゲル化剤、増粘剤が使用されており、ゲル状およびゾル状の製品が数多く上市されている。これらの分野では安全でイメージの良い天然の多糖類、蛋白質も使用されてはいるが、ゾル、ゲルの食感の多様性や安定性、あるいはゲル化温度やゾル/ゲル状態の可逆的な制御が求められている。
【0003】
多糖類をまずハイドロゲルとし、それを剪断力を用いて粉砕し流動性を持たせることを示す文献としては、特許文献1、特許文献2などがあるが、得られる組成物の粘度が高く、また流体の均一性に欠けるものであった。
【0004】
低粘度で流動性を有する多糖類含有組成物のその他の公知文献としては、例えば特許文献3には多糖類のゲル化温度より高い温度からゲル化温度以下に冷却する際に剪断工程を行うことにより、多糖類のマイクロゲルを含む流体組成物およびその製造方法が記載されている。
【0005】
さらに、同様な製造方法により製造される低粘度で流動性を有する多糖類含有組成物例としては、特許文献4、特許文献5などが知られている。これら一連の流体組成物、および製造方法では非特許文献1で総括されているように、剪断力(剪断速度)が高いほど低粘度の流体が得られる。
【0006】
また、治療を必要とする哺乳動物に薬効成分を効率よく放出する水性医薬組成物として室温またはそれ以下では液体で、哺乳動物の体温で半固体またはゲル化する水性医薬組成物がいくつも開示されているが、貯蔵中の環境温度の上昇により、溶液のゲル化が生じるという問題点がある。
【0007】
例えば、特許文献6にはプルロニック(商品名PLURONIC)を用いた熱ゲル化水性医薬組成物が開示されており、特許文献7には熱ゲル化水性医薬組成物を用いた薬剤放出系が記載されている。
【0008】
しかし、日焼け止めなどを目的とする皮膚用クリームなどでは、ローション状(液状)、ジェル状、軟膏状といった形態のものがあるが、液状に近いものほど均一に塗布しやすいという特徴がある一方、液状のものほど流れ落ちやすいという欠点がある。
【0009】
また、寒天は食物繊維を含むことから便通改善効果が期待されている。しかし、これは0.1重量%以上の濃度である場合は、ゲル化してしまい、摂取しやすい飲用可能な食品としての開発が望まれていた。
【0010】
一方、眼疾患の治療方法としては、薬物を点眼投与する方法が一般的である。この点眼投与による眼疾患の治療効果は、薬物自体の効能に依存することは言うまでもないが、その効能を充分に発揮させるためには、薬物を如何に効果的に眼内に移行させるかが重要な課題となる。
【0011】
薬物の眼内移行性を向上させるために種々の研究がなされており、例えば、カルボキシルビニルポリマー(CVP)を基剤として用いることにより点眼剤の粘度を上げ、眼表面における薬物の滞留時間を長くし、薬物の徐放効果を計り、それにより眼内移行性を向上させる技術(特許文献8)がある。この技術は、CVPの特性、即ち僅かな添加量でも点眼剤の粘度を飛躍的に上昇させる性質を利用するものである。
【0012】
眼軟膏の場合には上記技術を好適に用いることができるが、点眼液の場合には液滴の状態で点眼する必要があることから、液滴として点眼でき、且つ優れた薬物の眼内移行性を達成できる点眼液の開発が望まれてきた。例えば、液滴の状態で点眼可能なニュートン型粘性を示すCVPの研究(特許文献9)、液滴の状態で点眼後、涙液と接したとき急激にゲル化するポリマーの研究(特許文献10)、液体−ゲル相転移を起こす多糖類(特許文献11)などが報告されている。
【特許文献1】特表2002−514395号公報
【特許文献2】特開2000−239147号公報
【特許文献3】欧州特許第432835号明細書
【特許文献4】特許第2513506号公報
【特許文献5】特開2000−119116号公報
【特許文献6】米国特許第4,188,373号明細書
【特許文献7】米国特許第4,478,822号明細書
【特許文献8】特公昭60−56684公報
【特許文献9】特許第2873530号公報
【特許文献10】特許第2814637号公報
【特許文献11】特公平6−67853
【非特許文献1】International Journal of Biological Macromolecules, 26(1999)、p255-261, Fig 8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一般に寒天に代表される多糖類は、0.1重量%以上含有すると室温以上であるゲル転移温度以上の温度から冷却するとゲル化してしまい、室温において流動性のある液状組成物として利用することができなかった。そこで、寒天に代表される多糖類を高濃度で含みながら、室温でも低粘度の液体状態にある組成物を調製し、これまでにない食感および/または機能を持つ医薬品、食品、化粧品、トイレタリー製品などを提供することを課題とする。また、便通改善食品として用いる際、ゼリー状ではなく、より服用が容易な液状食品として提供することを課題とする。
【0014】
また、眼科用途の医薬品に関しては、従来の技術では満足できる点眼剤用の基剤は得難く、薬物の眼内移行性を向上でき、且つ液滴の状態で点眼できる新しい基剤の開発が望まれている。
【0015】
この新しい基剤の開発における重要な課題は、
1)安全性に問題がないこと、
2)原材料を容易に得ることができ、
3)加工及び取扱いが容易であること、
4)液滴の状態で容易に点眼でき、
5)使用感(点眼時の差しごこち感)に優れ、
6)優れた薬物の眼内移行性を有すること
である。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、多糖類、例えば寒天を水含有液体中で加熱した後、剪断力等の応力を加えながら冷却することによって、驚くべきことに寒天に代表される多糖類を0.1重量%以上の濃度で含みながら、低粘度の液状である水含有組成物を調製することができることを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、第一の発明は、「0.1〜30重量%の多糖類を含有し、B型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が700mPa・s以下であることを特徴とする多糖類含有組成物。」および、「多糖類を水含有液体中で加熱し、剪断力を加えながら冷却することを特徴とする前記組成物の製造方法。」に関する。さらに鋭意検討を行った結果、剪断力(剪断速度)が大きければ大きいほど得られる多糖類含有組成物の粘度が高くなることを特徴とする請求項1記載の多糖類含有組成物および製造方法に関する。これらの「多糖類含有組成物」および「増粘性組成物」を用いることにより、全く新しい「医薬品」、「眼内移行性向上剤」、「食品」、「化粧品」を提供することが可能となった。
【0018】
また、本発明者らは、食品等に汎用されている寒天に着目し、眼科用途における上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、寒天を水溶液中で加熱溶解させた後、応力を加えながら冷却することによって、高濃度の寒天を含んでいながら、液状かつ所望の粘度の微粒子状の寒天を調製できることを見出した。一般に、0.1重量%以上の寒天を含有すれば室温でゲル化してしまうが、この微粒子状の寒天は高濃度の寒天を含んでいても液性を保ち、粘度もさほど高くならないという特長をもつ。そして、この微粒子状の寒天を点眼剤用の基剤として使用すれば優れた薬物の眼内移行性が発揮され、新しい「点眼剤」及び「眼内移行性向上剤」を提供できることを見いだした。
【0019】
すなわち、第二の発明は、「寒天を配合することによって薬物の眼内移行性を向上させた点眼剤」である。特に、微粒子状の寒天を点眼剤用の基剤として使用すれば、優れた特性を有する点眼剤が得られる。また、本発明は、「寒天を基剤として使用することを特徴とする薬物の眼内移行性向上剤」である。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、多糖類を水含有液体中で加熱後剪断力を加えながら冷却することで、高濃度の多糖類を含みながら、低粘度の液体状態にある組成物を調製することができ、これまでにない食感および/または機能を持つ医薬品、食品、化粧品、トイレタリー製品などを提供することが可能となった。また、多糖類を便通改善食品として用いる際、ゼリー状ではなく、より服用が容易な液状食品として提供することが可能となった。
【0021】
フルオロフォトメトリー法による眼内移行試験の結果(表4、図3および図4)より、本発明の点眼剤は、点眼剤に適した粘度を有し、これを点眼すれば、フルオレセインが角膜および房水に移行して高い濃度(コントロールの3〜6倍)で長時間滞留する。また、眼科薬であるピロカルピンを用いた眼内移行試験の結果(表5および図5)より、本発明の点眼剤を点眼すれば、ピロカルピンのAUC(薬理効果-時間曲線下面積)はコントロールの2倍以上に増大する。このように、本発明の寒天を含有する点眼剤は、薬物の眼内移行性を向上させる効果を発揮し、また、低粘度に保つことができるので点眼剤の液切れが良く、その1滴量も一定であり、点眼時の差しごこち感にも優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
第一の発明は、「0.1〜30重量%の多糖類を含有し、B型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が700mPa・s以下であることを特徴とする寒天含有組成物」およびその調製方法である。従来、寒天は食品として用いられていたが、通常ゲル状態での利用であり、その性能もゲル強度(ゲルの硬さを示す指標)等で表し、固体としての評価であった。この寒天を水含有液体中で加熱後、剪断力を加えながら冷却することで、ゲル化させずに液体状態として得ることができるようになったのが本発明の骨子である。以下に詳細に説明する。
【0023】
本発明に用いられる多糖類とは、広義には二糖,三糖,四糖などのオリゴ糖を含めて,加水分解によって2分子以上の単糖を生じるすべての炭水化物であるものを言い、天然に産生するものあるいは天然に産生する多糖類を加工したもの、人工的に合成されたものなどが挙げられるが、植物、特に海草に由来する多糖類が好ましい。このような植物から得られる多糖類としては、例えば、「糖化学の基礎」(阿武喜美子、瀬野信子著;講談社、1984)に記載されているような一般的な多糖類のいずれの形状のものでも良く、複数の多糖類が併用されてもかまわない。具体例としては寒天、アガロース、アガロペクチン、デンプン、アミロース、アミロペクチン、イソリケナン、ラミナラン、リケナン、グルカン、イヌリン、レバン、フルクタン、ガラクタン、マンナン、キシラン、アラビナン、ペントザン、アルギン酸、ペクチン酸、プロツベリン酸、キチン、コロミン酸、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン、カラギナン、ペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、タラガム、アラビアガム、ジェランゴムなどが挙げられ、なかでも海草から得られる多糖類、寒天、アガロース、アガロペクチン、ラミナラン、フルクタン、ガラクタン、ペントザン、アルギン酸、キチン、ポルフィラン、フコイダン、アスコフィラン、カラギナンなどが好ましく、さらに好ましくは寒天、アガロース、アガロペクチンである。
【0024】
寒天(agar)とはテングサやオゴノリなど各種の紅藻の細胞壁マトリックスに含まれる多糖であり、熱水で抽出して得られる。寒天は、既に食品等に用いられ、日本薬局方に掲載されていることからも安全性が高く、食品等に広く利用されている。また、寒天は均一な物質ではなく、硫酸基を含まないアガロース(agarose)と硫酸基などを含むアガロペクチン(agaropectin)とに大きく分けられる。アガロースの割合は紅藻の種類によって異なり、テングサ寒天ではアガロースが約70%を占める。
【0025】
アガロースとは、化学式1のようにD−ガラクトースと3,6−アンヒドロ−L−ガラクトース残基がβ−(1→4)結合とα−(1→3)結合で交互に反復結合した直鎖構造を持つ多糖であり、アガロペクチンはアガロースの基本骨格に、硫酸基(式2)、メトキシル基(式3)、ピルビン酸残基(式4)およびD−グルクロン酸(式5)を、種々の割合で含む酸性多糖の混合物である。
【化1】

【0026】
また、寒天を用いる場合、どのような製法によるものでも良いが、安定供給という観点から工業的製法による寒天を用いることが好ましい。用いる寒天の重量平均分子量は5千〜120万のものが好ましく、より好ましくは3万〜80万、さらに好ましくは5〜50万のものである。このような範囲のものを用いることにより、流動性が良好で取り扱いに優れたものが得られる。特に、医薬品等の基剤として用いた場合には、製剤は滴下や噴霧など多様な形態を取り得、また本発明の目的の一つである薬剤等の保持性により一層優れたものが得られる。
【0027】
本発明で言うところの多糖類含有組成物には、多糖類と水などの溶媒との混合物や多糖類、水などの溶媒および該溶媒以外の成分との混合物などの態様が含まれる。
【0028】
本発明に用いる多糖類の濃度は、0.1〜30重量%である。食用に用いる場合には寒天濃度が高いほど便通改善効果は高い。また、多糖類を食用以外の基剤として用いた場合には医薬などの機能剤の保持性が獲得され、多く含有されるほどその効果は高くなる傾向がある。多糖類の含有量の下限は好ましくは0.2重量%以上であり、より好ましくは0.3重量%以上であり、さらに好ましくは0.5重量%以上である。上限は、最終製品の取り扱い性に障害が出ない限り特に限定されないが、30重量%以下であることが好ましく、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下、最も好ましく1.5重量%以下である。多糖類として寒天を用いる場合には使用する寒天により異なるものの、あまり濃度が高すぎるとゲル化し、B型粘度計による20℃、60rpmの条件下での粘度が700mPa・sを越える可能性があるので、好ましく5重量%以下である。
【0029】
本発明において好ましく採用される寒天を例示すると、伊那食品工業社製UP−6、UP−16、UP−37、M−7、M−9、AX−30、AX−100、AX−200、BX−30、BX−100、BX−200、PS−5、PS−6、PS−7、PS−8などが挙げられる。かかる寒天は単独で用いてもよいし、2種以上の寒天を混合させて用いてもよい。
【0030】
本発明による多糖類含有組成物の、B型粘度計で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度は、700mPa・s以下、好ましくは500mPa・s以下、さらに好ましくは150mPa・s以下、最も好ましくは100mPa・s以下である。粘度の下限は特に限定されないが、実用性を考慮すると1mPa・s程度である。
【0031】
通常の寒天などの多糖類は、ゲル性状を利用するために用いられてきたことからも明らかなように0.1重量%以上として利用され、水系媒体中で加熱後、室温まで冷却するとゲル化し、当然非常に高い粘度が発現する。特に、0.1重量%以上では殆どの場合ゲル化し、0.3重量%以上では完全にゲル化し、700mPa・s以下のものを得ることは不可能である。本発明の多糖類含有組成物はこのように特異な特性を有するのであるが、例えば後述するような方法によって得ることができるのである。
【0032】
一方、用途の面から見た最適な粘度の範囲は、用途によって異なるが、貯蔵時における粘度は200mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは150mPa・s以下で、さらに好ましくは100mPa・s以下となるように調整することが望ましい(ここで示した粘度の値は、B型粘度計を用い、20℃、回転数60rpmで測定した場合のものである。)。なお、軟膏などに用いる場合は700mPa・sより大きくても一応使用は可能であるが、衛生性に劣るので好ましいものではない。
【0033】
本発明の多糖類含有組成物は、その一成分として好ましくは水系媒体を含む。水系媒体とは水を主成分とする液状の物質であり、水以外の成分は特に限定されないが、水の含有率が80重量%を越えるものが好ましく、90重量%を越えるものがより好ましい。
【0034】
水系媒体は、好ましくは水溶性化合物を含有する。かかる水溶性化合物は、水に溶解して安定な組成物を与えるものであれば特に限定されない。これを例示するとメタノール、エタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどのアルコール類や各種の界面活性剤、乳化剤、分散剤、等張化剤を挙げることができる。また上記低分子化合物以外にもポリエチレングリコールやポリビニルアルコールなどの水溶性高分子化合物も用いることができる。かかる水溶性化合物は単独で用いてもよいし、2種以上を用いることができる。
【0035】
本発明における多糖類含有組成物中において、多糖類の存在状態は、その一部若しくは全部が微粒子状のゲルを形成している場合がある。多糖類の一部が微粒子状ゲルを形成している態様が好ましい。また、該微粒子状のゲルは、一様に分散されていることが好ましい。
【0036】
微粒子状のゲルが形成されている場合は、そのゲルの形状は特に限定されないが、球状、楕球状もしくは不定形の形状を挙げることができる。異物感を与えないことから球状であることが好ましく、また、微粒子径は好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは20μm以下、最も好ましくは10μm以下である。微粒子径が大きすぎると組成物の保存安定性に悪影響を及ぼしたり、例えば点眼剤用途などに用いた場合は、点眼後の異物感が感じられる等、機能面で不都合が生じることがある。
【0037】
次に、本発明の多糖類含有組成物を得る方法について具体的に例を挙げて説明する。
【0038】
まず所定量の多糖類と水系媒体及び必要により他の成分を混合し、得られた混合物を加熱して多糖類を溶解せしめる。加熱手段としては従来公知の方法が採用できる。加熱はゲル転移温度以上、好ましくはゲル転移温度+20℃以上、の温度に行う。また、混合物を沸騰させる必要がある場合もある。そして好ましく液が透明・均一な状態とする。ついで応力を与えつつ冷却する。
【0039】
この応力を加える方法としては、振動、撹拌、圧縮、粉砕など、特に決まった方法はないが、液体に剪断力を加えることになるので、撹拌が最も好ましい。具体的にはマグネティックスターラ、メカニカルスターラ、ミキサー、シェーカー、ローター、ホモジナイザーといった撹拌用機器を用いても、人力で撹拌しても良い。
【0040】
また、冷却する手段は、空冷、水冷、氷冷、溶媒冷、風冷などがあげられ、従来公知の手段が採用できる。冷却速度は用いる多糖類の性状に応じあるいは得ようとする多糖類含有組成物の性状に応じ適宜選択されて良いが、通常は空冷、水冷、氷冷が行われる。水冷、氷冷などで急激に冷ます場合は、ゲル化が生じないように撹拌力を大きくする必要がある。冷却はゲル転移温度以下に冷却すれば原理的には充分であるが、実用的にはゲル転移温度−20℃以下、あるいは、本発明の多糖類含有組成物はその使用が通常室温下で行われることが多いので20℃程度にまで冷却する。なおかつ組成物の温度が目的温度に達した後も、ゲル化が生じないように10分以上撹拌を続けることが好ましい。
【0041】
また、攪拌を行う場合は、多糖類含有組成物の粘度は温度の低下に伴って増加するが、この粘度に抵抗して撹拌する必要がある。撹拌手段としては強力な手段を用いることが好ましい。具体的には撹拌のレイノルズ数が室温でも100以上となるように調節しながら撹拌することが好ましい。
【0042】
また、撹拌手段として、マグネチックスターラーやメカニカルスターラーなど比較的剪断力の小さい撹拌方法を用いた場合には前述の公知文献、Jornal of Biological Macromolecules, 26(1999)、p255-261, Fig 8 に示されているように剪断力(剪断速度)が大きくなるほど粘度の低い組成物が得られるが、後に実施例の項で詳しく述べるように、ホモジナイザー(例えば特殊機化製 T.K.HOMO MIXER)など剪断力(剪断速度)の大きな応力の印加手段を用い、さらに高い剪断力を加えた場合にその製造物の粘度がより高くなる剪断力の領域に属する剪断力を用いて剪断することが好ましい。係る方法を採用することによって、ゲル粒子の数を減らし、あるいは、その粒度を小さくすることができ、点眼薬の成分として用いた場合の差し心地に優れ、あるいは、機能剤と共に用いた場合にその効果をより効果的に発揮せしめることができる。
【0043】
本発明においては、多糖類含有組成物はB型粘度計(ローターNo.2)を用い20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が700mPa・s以下であるように調製される。かかる粘度の調整は、用いる多糖類の種類、濃度に応じて、応力印加手段、応力印加条件などを組み合わせて行われる。これらは具体的には実施例等に例示されている。
【0044】
上述の方法で低粘度かつ高濃度寒天含有組成物が調製できるが、その原理は明らかにはなっていないが以下のように考えられる。寒天のゲル化は寒天分子の鎖どうしが分子鎖間で水素結合を形成し、水分子を取り込みながららせん構造を取り、より高次で強力な構造を取るためと考えられる。高温加熱して均一状態になった時、ランダムコイル状の分子構造をとっていた寒天分子が、冷却するにつれ、らせん構造をとろうとするが、これに強い剪断力を加えることでらせん構造を取るのを妨げ、ゲル化させずに低粘度なままの液状組成物を得ることができると考えられる。
【0045】
本発明に好ましく用いられる等張化剤とは一般に等張溶液に含まれる溶質のことである。等張溶液とは浸透圧の違う2種以上の溶液がある場合、一方の溶液に対して浸透圧が同じになるように等張化剤を加えたもののことである。本発明における組成物を単独で、または複数の組成物と組み合わせて用いる場合に等張化剤を用いることができる。等張化剤の添加量は任意の浸透圧に調整するためであれば特に限定されるものではない。かかる等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、硼酸、硼砂等を挙げることができる。
【0046】
また本発明の組成物は多糖類と水溶性化合物を少なくとも含有し、下式で示される増粘率として好ましい粘度特性を有することで、医薬品用途やその他機能剤との併用下に好ましい機能を発揮する。この増粘率Xは下記式で定義される。
【0047】
X=Z/Y
ここで、Yは水溶性化合物を含む多糖類含有組成物のB型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度であり、Zは上記等張化剤と水溶性化合物を含む多糖類含有組成物に0.9重量%のNaClを添加した後にB型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度である。
【0048】
増粘率Xが1.005以上であれば、本発明の組成物が例えば汗、涙液など塩を含む生理液などに接触した場合、増粘により流れ落ちにくい、あるいは塗布部に長期間とどまる等の特性を発揮する。このような特性をより発揮するには増粘率Xが1.008以上であることが好ましく、さらに好ましくは1.010以上である。ただし、増粘率Xが3.000を超えた場合には塗布後の粘度の増粘が急激すぎるために化粧品などに適用する場合には違和感を生じたりすることがある。
【0049】
本発明における組成物の用途としては、ヒトあるいは動物用に用いられる医薬品、医薬品用の基剤、あるいは、食品、化粧品、トイレタリー製品などが挙げられるが、この限りではない。具体的には口内で味覚が残存する食品、海水で流れ落ちにくい日焼け止めクリーム、汗で流れ落ちない化粧品、汗で流れ落ちない医薬用軟膏、涙液による薬効成分の流出を抑えた点眼薬、などが挙げられる。
【0050】
例えば本発明の組成物を点耳剤の成分として用いる場合、点耳剤中の活性薬物としては、水に可溶性のものおよび不溶性のもののいずれも使用できる。水に不溶性の薬物を用いる場合は他の成分として水溶性化合物、例えばエタノール、イソプロパノール、プロピレングリコール、グリセリンや、界面活性剤などを適宜用いることができる。
【0051】
本発明に適用される活性薬物を例示すると、たとえばグルテチミド、抱水クロラール、ニトラゼバム、アモバルピタール、フェノバルピタール等の催眠鎮静剤:アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェン、フルルピプロフェン、インドメタシン、ケトプロフェン、ジクロフェナクナトリウム、塩酸テアラミド、ピロキカム、フルフェナム酸、メフェナム酸、ベンタゾシン等の解熱鎮痛消炎剤:アミノ安息香酸メチル、リドカイン等の局所麻酔剤:硝酸ナファゾリン、硝酸テトリゾリン、塩酸オキシメタゾン、塩酸トラマゾリン等の局所血管収縮剤:マレイン酸クロルフェニラミン、クロモグリク酸ナトリウム、オキサトミド、塩酸アゼラスチン、フマル酸ケトチフェン、トラキサノクスナトリウム、アンレキサノクス等の抗アレルギー剤:塩化ベンゼトニウム等の殺菌剤、塩酸ドパミン、ニヒデカレノン等の強心剤:塩酸プロプラノロール、ピンドロール、フェニトイン、ジソピラミド等の不整脈用剤:硝酸イソソルピド、ニフェジピン、塩酸ジルチアゼム、ジピリダモール等の冠血管拡張剤:ドンペリドン等の消化器官用剤:トリアムシノロンアセトニド、デキナメタゾン、リン酸ベタメタゾンナトリウム、酢酸プレドニゾロン、フルオシノニド、プロピオン酸ペクロメタゾン、フルニソリド等の副腎皮質ホルモン:トラネキサム酸等の抗プラスミン剤:クロトリマゾール、硝酸ミコナゾール、ケトコナゾール等の抗真菌剤:テフガフール、フルオロウラシル、メルカプトプリン等の抗悪性腫瘍剤:アモキシリン、アンピシリン、セファレキシン、セファロチンナトリウム、セフチゾキシムナトリウム、ニリスロマイシン、塩酸オキシテトラサイクリン等の抗生物質:インスリン、ナケカルシトニン、ニワトリカルシトニン、ニルカトニン等のカルシトニン類、ウロキナーゼ、TPA、インターフェロン等の生理活性ペプチド;インフルエンザワクチン、豚ポルデテラ感染症予防ワクチン、B型肝炎ワクチン等のワクチン類などを挙げることができる。活性薬物の配合量は薬物の種類により変動するが、一般に所望の薬物を発揮するのに十分な量で配合する。
【0052】
本発明に適用される、哺乳動物の皮膚に施すことのできる薬剤の例を以下に示す。寄生性皮膚疾患用剤としては、ビフォナゾール、シッカニン、酢酸ビスデカリニウム、クロトリマゾールおよびサリチル酸などが挙げられ、化膿性疾患用剤としてはスルファメトキサゾールナトリウム、エリスロマイシンおよび硫酸ゲンタマイシンなどが挙げられ、消炎鎮痛剤としてはインドメタシン、ケトプロフェン、吉草酸ベンメタゾンおよびフルオシノロンアセトニドなどが挙げられ、鎮痒剤としてはジフェンヒドラミンなどが挙げられ、局所麻酔剤としては塩酸プロカインおよび塩酸リドカインなどが挙げられ、外皮用殺菌消毒剤としてはヨウ素、ポビドンヨード、塩化ベンザルコニウムおよびグルコン酸クロルヘキシジンなどが挙げられる。
【0053】
本発明に適用される、哺乳動物の体腔すなわち直腸、尿道、鼻腔、膣、耳道、口腔または口窩に施すことができる薬剤の例を以下に示す。抗ヒスタミン剤としては塩酸ジフェンヒドラミンおよびマレイン酸クロルフェニラミンなどが挙げられ、生殖器官用剤としてはクロトリマゾール、硝酸ナファゾリル、フマル酸ケトチフェンおよび硝酸ミコナゾールなどが挙げられ、耳鼻科用剤としては塩酸テトリゾリンなどが挙げられ、気管支拡張剤としてはアミノフィリンなどが挙げられ、代謝拮抗剤としてはフルオロウラシンなどが挙げられ、催眠鎮静剤としてはジアゼパムなどが挙げられ、解熱鎮痛消炎剤としてはアスピリン、インドメタシン、スリンダク、フェニルブタゾンおよびイブプロフェンなどが挙げられ、副腎ホルモン剤としてはデキサメタゾン、トリアムシノロンおよびヒドロコルチゾンなどが挙げられ、局所麻酔剤としては塩酸リドカインなどが挙げられ、化膿疾患用剤としてはスルフィソキサゾール、カナマイシン、トブラマイシンおよびエリスロマイシンなどが挙げられ、合成抗菌剤としてはノルフロキサシンおよびナリジクス酸などが挙げられる。
【0054】
有効薬剤の含有量は、薬剤の種類により異なるが、一般的には約0.001〜10重量%の範囲内であることが好ましい。
【0055】
本発明の組成物に用いられるpH調整剤としては塩酸、硫酸、ホウ酸、リン酸、酢酸などの酸類、水酸化ナトリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの塩基類があげられる。
【0056】
本発明の組成物は必要に応じて医薬的に容認し得る緩衝剤、塩、保存剤および可溶化剤などを含むことができる。保存剤としては塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムおよびグルコン酸クロルヘキシジンなどの逆性石鹸類、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベンおよびブチルパラベンなどのパラベン類、クロロブタノール、フェニルエチルアルコールおよびベンジルアルコールなどのアルコール類、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸およびソルビン酸ナトリウムなどの有機酸およびその塩類などが使用できる。また、界面活性剤かキレート剤を適宜加えることもできる。これらの成分は一般に約0.001〜2重量%、好ましくは約0.002〜1重量%の範囲で用いられる。緩衝剤としてはリン酸、ホウ酸、酢酸、酒石酸、乳酸及び炭酸などの酸のアルカリ金属塩類、グルタミン酸、イプシロンアミノカプロン酸、アスパラギン酸、グリシル、アルギニン及びリジンなどのアミノ酸類、タウリン、トリスアミノメタンなどがあげられる。これらの緩衝剤は組成物のpHを3〜10に維持するのに必要な量を組成物に加えることが好ましい。
【0057】
可溶化剤としては、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油およびシクロデキストリンなどがあげられ、これらを用いる場合には0.001〜15重量%の範囲で用いることが好ましい。
【0058】
第二の発明は、「寒天を配合することによって薬物の眼内移行性を向上させた点眼剤」である。特に、微粒子状の寒天を点眼剤用の基剤として使用すれば、優れた特性を有する点眼剤が得られる。また、本発明は、「寒天を基剤として使用することを特徴とする薬物の眼内移行性向上剤」である。
【0059】
寒天は、既に食品等に用いられ、天草等の海草から容易に得ることができる。寒天の主たる成分は、アガロースとアガロペクチンから構成される多糖類であり、日本薬局方に掲載されていることからも安全性が高く、食品等に広く利用されている。また、寒天は、所望の性質をもつように加工することができ、物理的又は化学的に修飾することも比較的容易である。市販の寒天は10〜30%の水分を含んでいるのが通常であるが、本発明の点眼剤は市販の寒天をそのまま使用してもよく、また、物理的又は化学的に修飾した寒天を使用することもできる。
【0060】
本発明の点眼剤に使用する寒天は、どのような製法によるものでも良いが、安定供給という観点から工業的製法による寒天を用いることが好ましい。かかる寒天として、例えば伊那食品工業社製のUP−6、UP−16、UP−37、M−7、M−9、AX−30、AX−100、AX−200、BX−30、BX−100、BX−200、PS−5、PS−6、PS−7、PS−8などが挙げられる。本発明で使用する寒天は、単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0061】
本発明の点眼剤に含まれる寒天の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量が5千〜120万であることが好ましい。より好ましい重量平均分子量は、3万〜80万である。寒天の重量平均分子量が5千未満であれば薬物の眼内移行性がさほど向上せず、他方、重量平均分子量が120万を超えると点眼剤の粘度を150mPa・s以下に保つことが困難となるからである。寒天の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフを用いて測定することができる。
【0062】
本発明の点眼剤中の寒天の含有量は特に限定されないが、0.1〜10重量%であることが好ましい。より好ましい寒天の含有量は0.2〜5重量%である。寒天の含有量が0.1重量%未満であると薬物の眼内移行性がさほど向上せず、また、10重量%を超えると点眼剤が高粘度となり、ゲル化することがあるからである。
【0063】
点眼の容易さという観点から、本発明の点眼剤の粘度は、E型粘度計(25℃、ずり速度:100s−1)で150mPa・s(=150センチポイズ)以下となるように調整することが好ましい。より好ましい点眼剤の粘度は、100mPa・s以下である。点眼時の粘度が150mPa・sを越えると液滴として点眼することが容易でなくなる。高粘度の点眼剤でも力を加えれば点眼できなくはないが、液切れが悪く、1滴量が一定にならず、点眼後に眼に異物感を感じるなどの不都合が生じる。また、点眼剤の滅菌方法として、濾過滅菌が汎用されているが、その粘度が高くなれば、濾過することが困難となる。粘度を上記のように設定することにより、安定した1滴量の点眼が可能で、使用者にとっても点眼時の差しごこち感が優れる。本発明の点眼剤の粘度は、E型粘度計を用いて測定し、測定温度25℃で、ずり速度が100s−1時の値である。なお、本発明の点眼剤を眼軟膏として用いる場合には、眼軟膏の粘度が150mPa・s以上となっても問題とならない。
【0064】
本発明の点眼剤に含まれる寒天としては、主成分が水である液体に、いかなる状態の寒天が含まれていても良く、例えば寒天が完全に溶解した状態のものでも、寒天が部分的に溶解した状態のものでも、また、寒天の粒子が分散した状態のものでも良い。寒天の粒子が分散した状態のものとは、具体的には粒子状の寒天が水に分散したものであり、粒子状の寒天の粒子径は100μm以下のものが好ましい。より好ましくは20μm以下のものであり、10μm以下のものがさらに好ましい。寒天の粒子径が100μmを超えると点眼剤の保存安定性に悪影響を及ぼし、また、点眼後に異物感を感じる等の不都合を生じることがある。微粒子状の寒天の形態は特に限定されないが、例えば球状、楕円状の他に不定型な形状を挙げることができる。
【0065】
本発明の点眼剤は、例えば寒天を水溶液中で加熱溶解後、応力を加えながら冷却して得られる微粒子状の寒天を含有する溶液を配合して調製することができる。
【0066】
寒天を含有する溶液(すなわち寒天含有組成物)の調製方法は、特に制約されないが、寒天を含有する水溶液を均一になるまで加熱した後、ゲル化しないように強力に撹拌しながら、常温になるまで徐々に冷やすことが好ましいが、ゲル化したものを強力な剪断力などの応力で粉砕などすることによっても液状の寒天含有溶液を得ることができる。
【0067】
寒天の水溶液に応力を加える方法は、特に限定されないが、例えば振動、剪断、撹拌、圧縮、粉砕などが挙げられ、寒天溶液に応力を加える方法としては撹拌が最も好ましい。撹拌用機器としては、例えばマグネティックスターラ、メカニカルスターラ、ミキサー、シェーカー、ローター、ホモジナイザー(例えば特殊機化製 T.K.HOMO MIXER)などいかなる撹拌用機器を用いても良く、また、人力で撹拌しても良い。寒天含有溶液の調製に際しては、強力に撹拌する能力を備えた装置を用いることが望ましく、撹拌のレイノルズ数が室温でも100以上となるように調節しながら撹拌することがより望ましい。
【0068】
寒天を含有する水溶液の加熱温度は、寒天含有溶液が見た目上、均一になる温度であればよく、好ましくは80℃以上であり、より好ましくは95℃以上である。さらに、必要があれば沸騰させてもよい。
【0069】
寒天含有溶液の冷却方法は、空冷、水冷、氷冷、溶媒冷、風冷、冷蔵、冷凍などいかなる方法でも良いが、水冷、氷冷、冷蔵、冷凍などで急激に冷ます場合は、ゲル化しないように撹拌力を大きくする必要がある。
【0070】
上記方法により、低粘度でかつ高濃度の寒天含有溶液を調製できる。その原理は明らかではないが、以下のように推測する。寒天がゲル化するのは、寒天分子の鎖どうしが分子鎖間で水素結合を形成し、水分子を取り込みながららせん構造を取り、より高次で強力な構造を取るためと考えられる。高温加熱して均一状態になった時、ランダムコイル状の分子構造をとっていた寒天分子は、冷却するにつれ、らせん構造をとろうとするが、これに強い応力を加えることでらせん構造を取るのを妨げる結果、ゲル化させずに低粘度なままの寒天溶液が得られると推測する。
【0071】
本発明の好ましい点眼剤の態様としては、例えば重量平均分子量が5千〜120万で粒子径が100μm以下である寒天0.1〜10重量%を配合した粘度が150mPa・s以下である点眼剤が挙げられ、より好ましい態様としては、重量平均分子量が3万〜80万で粒子径が20μm以下である寒天0.2〜5重量%を配合した粘度が100mPa・s以下である点眼剤である。さらに、重量平均分子量が5千〜120万である寒天を水溶液中で加熱溶解後、応力を加えながら冷却して得られる粒子径が100μm以下である微粒子状の寒天を配合することによって薬物の眼内移行性を向上させた点眼剤、とりわけ重量平均分子量が3万〜80万である寒天を水溶液中で加熱溶解後、応力を加えながら冷却して得られる粒子径が20μm以下である微粒子状の寒天を配合することによって薬物の眼内移行性を向上させた点眼剤が好ましい。
【0072】
また、本発明の好ましい薬物の眼内移行性向上剤の態様としては、例えば寒天を水溶液中で加熱溶解後、応力を加えながら冷却して得られる微粒子状の寒天を基剤として使用することを特徴とする薬物の眼内移行性向上剤が挙げられ、より好ましくは、重量平均分子量が5千〜120万である寒天を水溶液中で加熱溶解後、応力を加えながら冷却して得られる粒子径が100μm以下である微粒子状の寒天を基剤として使用する薬物の眼内移行性向上剤であり、さらに好ましくは、重量平均分子量が3万〜80万である寒天を水溶液中で加熱溶解後、応力を加えながら冷却して得られる粒子径が20μm以下である微粒子状の寒天を基剤として使用する薬物の眼内移行性向上剤である。
【0073】
本発明の点眼剤は、その対象疾病に関して制約はなく、例えばドライアイ症候群、緑内障、白内障、炎症、花粉症等の治療に適した薬剤を含有させることにより、各疾病に対して有効に作用する。
【0074】
本発明の点眼剤に配合できる薬物の種類は特に限定されないが、例えば抗菌剤(キノロン系抗菌剤、セファロスポリン類、スルファセタミドナトリウム、スルファメトキサゾール等)、抗炎症剤(ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、プレゾニゾロン、ベタメタゾン、ジクロフェナック、インドメタシン、フルオロメトロン、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウム、イプシロン-アミノカプロン酸等)、抗ヒスタミン剤(マレイン酸クロルフェニラミン、塩酸ジフェンヒドラミン等)、抗緑内障剤(プロスタグランジン誘導体、炭酸脱水酵素阻害剤など)、抗アレルギー剤(クロモグリク酸ナトリウム等)等などが挙げられる。
【0075】
また、免疫抑制剤および代謝拮抗剤としてメソトレキセート、シクロホスファミド、シクロスポリン、6−メルカプトプリン、アザチオプリン、フルオロウラシルおよびテガフールなどが挙げられ、さらに上記化合物の混合剤、例えば硫酸ネオマイシンおよびリン酸デキサメタゾンナトリウムの組み合わせのような抗生物質/抗炎症剤混合物等の混合物などが挙げられるが、目の症状および病巣の治療に他の薬剤を使用することもできる。
【0076】
薬物の添加量は、0.001〜10重量%であることが好ましいが、治療効果が発現する濃度であれば、特に限定されない。
【0077】
本発明の点眼剤には、上記成分以外に、他の添加物として、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、可溶化剤、安定化剤、保存剤等を適宜配合することができる。
【0078】
等張化剤としては、例えばグリセリン、プロピレングリコール、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ソルビトール、マンニトール等を挙げることができる。
【0079】
緩衝剤としては例えば、リン酸、リン酸塩、クエン酸、酢酸、ε-アミノカプロン酸、トロメタモール等を挙げることができる。
【0080】
pH調節剤としては、例えば塩酸、クエン酸、リン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ホウ酸、ホウ砂、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を挙げることができる。
【0081】
薬物や他の添加物が水難溶性の場合などに添加される可溶化剤としては、例えばポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、マクロゴール4000等を挙げることができる。
【0082】
安定化剤としては、例えばエデト酸、エデト酸ナトリウム等を挙げることができる。
【0083】
保存剤としては、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール等が挙げられ、これらの保存剤を組み合わせて使用することもできる。
【0084】
本発明の点眼剤は、寒天及び薬物を滅菌精製水に加え調製することができ、また必要に応じて、高速撹拌、超音波照射等の処理を行い所望の粘度に調整することもできる。
【0085】
後述の試験例において、眼内移行量を測定するための指標としてフルオレセインおよびピロカルピンを用い、角膜又は房水中に移行したフルオレセインの蛍光またはピロカルピンによる瞳孔径を測定した。詳細な結果は実施例の項で示すが、本発明の微粒子状の寒天を基剤として使用する場合には、コントロールに比べて格段に優れた眼内移行性が認められた。これらの試験例から明らかなように、微粒子状の寒天を点眼剤用の基剤として用いることによって薬物の眼内移行性を向上させることができる。
【0086】
本発明の点眼剤のpHは4.0〜8.0に設定することが望ましく、また、浸透圧比は1.0付近に設定することが望ましい。
【0087】
本発明の点眼剤の点眼回数は症状、年令、剤型等によって適宜選択できるが、1日1〜数回点眼すればよい。
【実施例】
【0088】
以下に実施例をもって本発明を説明するが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0089】
(1)寒天含有組成物(寒天溶液)の調製及び評価試験
i)重量平均分子量測定
以下の測定条件に従って、寒天の重量平均分子量を測定した。
【0090】
測定条件
A.装置 :ゲル浸透クロマトグラフ,(Waters社製)
(M510型高圧ポンプ,U6型ユニハ゛ーサルインシ゛ェクター)
B.デ−タ処理:TRC(東レリサーチセンター)製GPCデ−タ処理システム
C.カラム :TSK-gel-GMPWXL, (内径7.8mm/長さ30cm)(2本)(東ソー社製)
D.溶媒 :0.1M-NaNO/蒸留水
E.流速 :1.0ml/min
F.カラム温度:50℃ (カラム恒温槽:東ソー社製)
G.試料 :
濃度 :0.1%(wt/vol)
溶解性:測定溶媒に目視で溶解
ロ過 :0.45μm−マイショリディスク W-13-5(東ソー社製)
H.注入量 :200μl
I.検出器 :示差屈折率検出器,R-401(東ソー社製)
J.分子量校正:14種のプルラン(昭和電工社製)
【0091】
上記条件で測定した寒天の重量平均分子量を表1に示す。なお、表1に示す寒天は、いずれも伊那食品工業社製のものである。
【表1】

【0092】
ii)粒子径測定方法
寒天含有組成物を調製した後、各組成物の粒子径を光学顕微鏡(ニコン社製OPTIPHOTO−2)により観察される粒子の最大粒子径を測定した。
【0093】
iii)粘度測定方法
寒天含有組成物を調製した後、B型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で、各組成物の粘度を測定した。
【0094】
iv)製造方法
製法A
寒天を500mlフラスコにとり、蒸留水を加えて500gとする。この混合物を加熱し、約100℃で溶解後、マグネチックスターラーで1500rpmで撹拌しながら20℃まで冷却する。
【0095】
製法B
寒天を500mlフラスコにとり、蒸留水を加えて500gとする。この混合物を電子レンジで加熱し、高温で溶解後、マグネチックスターラーで1500rpmで撹拌しながら20℃まで冷却する。その後グリセリンを13gを加え、20℃で、マグネチックスターラーで1500rpmで撹拌を30分行う。
【0096】
製法C
寒天をテフロン(登録商標)製撹拌翼をとりつけた500ml4つ口フラスコにとり、蒸留水を加えて500gとする。この混合物をオイルバスにて加熱し、約100℃で溶解後、700rpmで撹拌しながら20℃まで冷却する。
【0097】
製法D
寒天をテフロン(登録商標)製撹拌翼をとりつけた500ml4つ口フラスコにとり、蒸留水を加えて500gとする。この混合物をオイルバスにて加熱し、約100℃で溶解後、撹拌翼を用いて700rpmで撹拌しながら80℃まで冷却する。溶液をステンレス製容器に移し替えた後、ホモミキサー(特殊機化製T.K.HOMO MIXER)で撹拌しながら20℃まで冷却する。
【0098】
v)製造例
以下に本発明の寒天含有組成物(寒天溶液)の製造例を示す。製造例1〜25で得られた寒天溶液は、いずれも粘度が700mPa・s以下で、光学顕微鏡観察の結果、微粒子状の寒天が存在していた。また、製造例18の寒天溶液の光学顕微鏡写真を図1に示す。
【0099】
製造例1
寒天(UP−6)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Aに寒天含有組成物(寒天溶液)を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は93mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0100】
製造例2
寒天(AX−30)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は40mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0101】
製造例3
寒天(AX−30)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Bに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は31mPa・sであった。
【0102】
製造例4
寒天(AX−30)を用い、ホモミキサーの回転数を3000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、粘度は32mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0103】
製造例5
寒天(AX−30)を用い、ホモミキサーの回転数を4000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、粘度は51mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0104】
製造例6
寒天(AX−30)を用い、ホモミキサーの回転数を5000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、その粘度は67mPa・sで、その粒子径は10μm未満であった。
【0105】
製造例7
寒天(AX−30)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、その粘度は81mPa・sで、その粒子径は10μm未満であった。
【0106】
製造例8
寒天(AX−30)を用い、ホモミキサーの回転数を8000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、その粘度は94mPa・sで、その粒子径は10μm未満であった。
【0107】
製造例9
寒天(AX−30)を用い、ホモミキサーの回転数を10000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、粘度は144mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0108】
製造例10
寒天(UP−6)2.5g(0.5重量%)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は403mPa・sであった。また、粒子径は10μm未満であった。
【0109】
製造例11
寒天(M−9)2.5g(0.5重量%)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は200mPa・sであった。また、粒子径は10μm未満であった。
【0110】
製造例12
寒天(AX−30)2.5g(0.5重量%)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、粘度は20mPa・sであった。また、粒子径は10μm未満であった。
【0111】
製造例13
寒天(AX−100)2.5g(0.5重量%)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、粘度は62mPa・sであった。また、粒子径は10μm未満であった。
【0112】
製造例14
寒天(AX−200)2.5g(0.5重量%)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、粘度は62mPa・sであった。また、粒子径は10μm未満であった。
【0113】
製造例15
寒天(BX-30)2.5g(0.5重量%)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は淡黄色で白濁しており、粘度は96mPa・sであった。また、粒子径は10μm未満であった。
【0114】
製造例16
寒天(アガロース:agarose DNA grade)2.5g(0.5重量%)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は158mPa・sであった。また、粒子径は10μm未満であった。
【0115】
製造例17
寒天(PS−7)2.5g(0.5重量%)を用い、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は190mPa・sであった。また、粒子径は10μm未満であった。
【0116】
製造例18
寒天(UP−6)5.0g(1.0重量%)を用い、製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は384mPa・sで、粒子径は20μm未満であった。
【0117】
製造例19
フナコシ社製の寒天[製品名BA−10]5.0g(1.0重量%)を用い、製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は297mPa・sで、粒子径は20μm未満であった。
【0118】
製造例20
寒天(AX-100)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は133mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0119】
製造例21
寒天(AX-200)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は133mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0120】
製造例22
寒天(BX-30)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は41mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0121】
製造例23
寒天(BX-30)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Cに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は142mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0122】
製造例24
寒天(PS−7)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Aに従って寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は87mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0123】
製造例25
寒天(M−9)2.5g(0.5重量%)を用い、製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液は白濁しており、粘度は106mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0124】
製造例26
寒天の代わりにジェランガム(伊那食品工業社製 GP−10)を用いた以外は製造例4と同様の方法でジェランガム水溶液を調製した。その溶液は透明で、粘度は137mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0125】
製造例27
寒天の代わりにジェランガム(伊那食品工業社製 GP−10)を用いた以外は製造例6と同様の方法でジェランガム水溶液を調製した。その溶液は透明で、粘度は160mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0126】
製造例28
寒天の代わりにジェランガム(伊那食品工業社製 GP−10)を用いた以外は製造例7と同様の方法でジェランガム水溶液を調製した。その溶液は透明で、粘度は150mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0127】
製造例29
寒天の代わりにジェランガム(伊那食品工業社製 GP−10)を用いた以外は製造例8と同様の方法でジェランガム水溶液を調製した。その溶液は透明で、粘度は148mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0128】
製造例30
寒天の代わりにジェランガム(伊那食品工業社製 GP−10)を用いた以外は製造例9と同様の方法でジェランガム水溶液を調製した。その溶液は透明で、粘度は158mPa・sで、粒子径は10μm未満であった。
【0129】
製造例31
寒天の代わりにジェランガム(伊那食品工業社製 GP−10)を用い、、ホモミキサーの回転数を6000rpmに設定し、製法Dに従ってジェランガム水溶液を調製した。その溶液は透明で、粘度は103mPa・sであった。またその粒子径は10μm未満であった。
【0130】
比較製造例1
500mlフラスコに寒天(UP−6)を2.5g(0.5重量%)とり、蒸留水500gを加えて分散させ、一度高温で溶解後、液を撹拌せずに20℃まで冷ました。調製した0.5重量%寒天ゲルを孔系φ1mmのふるいで濾過した。細かく砕いたゲルの粘度は900mPa・sであった。
【0131】
比較製造例2
寒天(AX−30)0.25g(0.05重量%)を用い、製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液の粘度は14mPa・sであった。
【0132】
比較製造例3
寒天(AX−30)2.5g(0.5重量%)を用い、マグネチックスターラーの回転数を500rpmにする以外は製法Aに寒天溶液を調製した。この寒天溶液はゲルと溶液との混合物となってしまい、粘度を測定できなかった。
【0133】
vi)塗布性評価
製造例1〜3および比較製造例1〜3の各溶液を皮膚に塗布した場合の塗りやすさおよび塗布後の状態を評価した。これらの結果を表2に示す。
【表2】

【0134】
表2により、製造例1〜3の各溶液は塗布しやすく、かつ流れ落ちにくいという特性がある。一方、比較製造例1及び3の各溶液は流れ落ちにくいが、塗布しにくく、また、比較製造例2の溶液は塗布しやすいものの、すぐに流れ落ちてしまう欠点がある。
【0135】
vii)粘度と撹拌速度の関係
製造例4〜9および製造例26〜30における粘度と撹拌速度(剪断速度に相当)の関係を図2に示す。図2から明らかなように、製造例4〜9では撹拌速度が速くなればなるほど粘度が高くなる特性が認められるのに対し、製造例例26〜30では撹拌速度を速くしてもほとんど粘度は一定である。
【0136】
viii)増粘率評価試験
製造例10〜17および製造例31で調製した寒天溶液50gにいずれも水溶性化合物であるフルオレセインナトリウム0.025gとグリセリン1.3gを加え、十分に混合したのちpHを7に調整した。これらの寒天溶液の粘度をB型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した。この粘度値をYとする。
【0137】
次に上記寒天溶液にさらに0.9重量%の濃度となるようにNaClを加え、十分に混合した。この寒天溶液の粘度をB型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した。この粘度値をZとする。
【0138】
増粘率Xは下記式に基づき算出した。
【0139】
X=Z/Y
また、各溶液をヒト前腕部皮膚に塗布し、塗布のしやすさおよび塗布後の状態を比較した。これらの結果を表3に示す。
【表3】

【0140】
表3より、試験例1〜8では塗布しやすく、かつ皮膚表面で適度な粘性を持ち、しかも流れ落ちにくいという特性を示す。これに対し、試験例9及び比較例試験例1では塗布しやすいが、試験例9では塗布後、増粘が急激すぎた結果、皮膚表面でゲル状になり違和感が生じ、比較試験例1では塗布後すぐに流れ落ちてしまう欠点がある。
【0141】
(2)眼内移行試験
A.フルオロフォトメトリー法による眼内移行試験
(i)被験点眼剤の調製方法
製造例1、2および18〜25で調製した寒天溶液(各100g)に、フルオレセインナトリウム、濃グリセリンをそれぞれ0.05g、2.6g添加した。つぎに、これをハイブリッドミキサー(HM−500、キーエンス社製)で2分間攪拌して各被験点眼剤を得た。また、各被験点眼剤に水酸化ナトリウム又は希塩酸を加えてpHを7.0(±0.5)に調整し、E型粘度計Rotovisco CV20(HAAKE社)を用いて、測定温度25℃で、ずり速度100s−1時の値を測定し、粘度とした。また、寒天の粒子径は、光学顕微鏡(ニコン社製 OPTIPHOTO−2)を用いて粒子の最大粒子径を測定した。なお、コントロールとして、寒天溶液の代わりに滅菌精製水を用い、同様の操作を行なって比較点眼剤(比較試験例2)を得た。
【0142】
(ii)投与方法及び測定方法
上記調製方法によって得られた各被験点眼剤を雄性日本白色ウサギの眼に点眼した後、1、2、3、4、6および8時間後の角膜および房水内のフルオレセイン濃度を蛍光分光光度計を用いて測定した(なお、各被験点眼剤、比較点眼剤ともにそれぞれ4例測定して平均値を算出した。)。フルオレセイン濃度の測定値からAUC(濃度曲線下面積)を算出し、比較点眼剤に対する各被験点眼剤のAUC比を下式より求めた。これらの結果を表4に示す。また、角膜および房水内のフルオレセイン濃度推移を図3および図4 に示す。
【数1】

【0143】
なお、寒天溶液の代わりにCVP溶液(1.0%)を用いる以外は、前記調製方法と同様の方法で点眼剤を調製したが、CVPを含有する点眼剤は非常に高粘度(1139mPa・s)であるため、点眼することができなかった。
【表4】

【0144】
B.ピロカルピンを用いた眼内移行試験
(i)被験点眼剤の調製方法
製造例1で調製した寒天溶液(100g)に、塩酸ピロカルピン、濃グリセリンをそれぞれ1.0g、2.6g添加した。つぎに、この溶液をマグネチックスターラーで攪拌し、被験点眼剤とした。また、被験点眼剤に水酸化ナトリウム又は希塩酸を加えてpHを7.0に調整した。その粘度(25℃)をE型粘度計で測定した。なお、コントロールとして、寒天溶液(製造例1)の代わりに滅菌精製水を用い、同様の操作を行なって比較点眼剤(比較試験例3)を得た。
【0145】
(ii)投与方法及び測定方法
上記調製方法によって得られた各被験点眼剤を雄性日本白色ウサギの眼に点眼した後、0.25、0.5、0.75、1、1.5、2、2.5および3時間後の瞳孔径を測定した。各測定時の瞳孔径を点眼前の瞳孔径から減じた値を縮瞳値とした(なお、被験点眼剤、比較点眼剤ともにそれぞれ6例測定して平均値を算出した。)。また、得られた縮瞳値からAUC(薬理効果-時間曲線下面積)を算出した。これらの結果を表5、図5に示す。
【表5】

【0146】
(3)製剤例
本発明に用いられる代表的な点眼剤および点耳剤の製剤例を以下に示す。
【0147】
処方例1
製造例18で調製した寒天溶液(100g)に、塩酸ピロカルピン及び濃グリセリンを加え、ハイブリッドミキサー(HM−500、キーエンス社製)で2分間攪拌を行った後、0.1N水酸化ナトリウムまたは0.1N希塩酸を加えてpHを7.0に調整し、点眼剤を調製した。
【0148】
100g中
寒天(UP−6) 1.0g
塩酸ピロカルピン 1.0g
濃グリセリン 2.6g
水酸化ナトリウム 適量
塩酸 適量
滅菌精製水 適量
処方例2
製造例1で調整した寒天溶液(100g)に、プラノプロフェン及び濃グリセリンを加え、ハイブリッドミキサー(HM−500、キーエンス社製)で2分間攪拌を行った後、0.1N水酸化ナトリウムまたは0.1N希塩酸を加えてpHを7.0に調整し、点眼剤を調製した。
【0149】
100g中
寒天(UP−6) 0.5g
プラノプロフェン 0.1g
濃グリセリン 2.6g
水酸化ナトリウム 適量
塩酸 適量
滅菌精製水 適量
様々な濃度の寒天溶液を調製し、処方例1、2と同様の操作を行なうことによって、所望の濃度の寒天を含有する点眼剤を調製することができる。
【0150】
処方例3
以下の処方により、点耳剤溶液を調製した。
【0151】
ガチフロキサシン 0.5g
エデト酸ナトリウム 0.1g
塩化ナトリウム 0.9g
製造例12の寒天溶液 70.0g
精製水 28.5g
これらの成分を均一になるまで撹拌混合し、調製した溶液を適量の塩酸あるいは水酸化ナトリウムを用い、pH 7.0 とした。得られた点耳剤溶液は低粘度でありながらも展着生に非常に優れており、点耳後の液だれを生じることがなかった。
【図面の簡単な説明】
【0152】
【図1】図1は製造例1で調製した寒天溶液の光学顕微鏡写真を示す。
【図2】図2は、製造例4〜9および製造例26〜30における粘度と撹拌速度(剪断速度に相当)の関係を示す。
【図3】図3は、試験例10、試験例12および比較試験例2(コントロール)の各点眼剤をウサギに点眼後、各時間における角膜中のフルオレセイン濃度を測定した結果を示すグラフである。縦軸は角膜中のフルオレセイン濃度(ng/mL)を示し、横軸は時間(hr)を示す。
【図4】図4は、試験例10、試験例12および比較試験例2(コントロール)の各点眼剤をウサギに点眼後、各時間における房水中のフルオレセイン濃度を測定した結果を示すグラフである。縦軸は房水中のフルオレセイン濃度(ng/mL)を示し、横軸は時間(hr)を示す。
【図5】図5は、試験例20および比較試験例3(コントロール)の各点眼剤をウサギに点眼後、各時間におけるピロカルピンによる縮瞳値を測定した結果を示すグラフである。縦軸はピロカルピンによる縮瞳値(mm)を、また、横軸は時間(hr)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.1〜30重量%の多糖類を含有し、B型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が700mPa・s以下であることを特徴とする多糖類含有組成物。
【請求項2】
B型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が500mPa・s以下であることを特徴とする請求項1記載の多糖類含有組成物。
【請求項3】
多糖類の含有量が、0.2〜10重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の多糖類含有組成物。
【請求項4】
多糖類と水系媒体とを含み、該水系媒体は水と水溶性化合物とからなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の多糖類含有組成物。
【請求項5】
水溶性化合物が多価アルコールであることを特徴とする請求項4記載の多糖類含有組成物。
【請求項6】
多糖類と水溶性化合物とを少なくとも含有し、下記式で表される増粘率Xが1.005以上であることを特徴とする多糖類含有組成物。
X=Z/Y(ここで、Yは水溶性化合物を含む多糖類含有組成物のB型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度であり、Zは該多糖類含有組成物にさらに0.9重量%のNaClを添加した後にB型粘度計(ローターNo.2)で20℃、60rpmの条件下で測定した粘度。)
【請求項7】
増粘率Xが1.008以上であることを特徴とする請求項6記載の多糖類含有組成物。
【請求項8】
増粘率Xが1.010以上であることを特徴とする請求項6記載の多糖類含有組成物。
【請求項9】
多糖類が微粒子状であり、微粒子状多糖類の全部もしくはその一部が水溶液中に分散していることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の多糖類含有組成物。
【請求項10】
微粒子状多糖類の粒子径が100μm以下であることを特徴とする請求項9記載の多糖類含有組成物。
【請求項11】
微粒子状多糖類の粒子径が20μm以下であることを特徴とする請求項9記載の多糖類含有組成物。
【請求項12】
植物から得られる多糖類を含有することを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の多糖類含有組成物。
【請求項13】
植物から得られる多糖類が、寒天であることを特徴とする、請求項12記載の多糖類含有組成物。
【請求項14】
寒天の重量平均分子量が5千〜120万である請求項13記載の多糖類含有組成物。
【請求項15】
寒天の重量平均分子量が3万〜80万である請求項13記載の多糖類含有組成物。
【請求項16】
等張化剤が含まれることを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の多糖類含有組成物。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか1項に記載の多糖類含有組成物を用いた医薬品用基剤。
【請求項18】
請求項1から16のいずれか1項に記載の多糖類含有組成物を含む医薬品。
【請求項19】
請求項1から16のいずれか1項に記載の多糖類含有組成物を含む眼内移行性向上剤。
【請求項20】
請求項1から16のいずれか1項に記載の多糖類含有組成物を含む食品。
【請求項21】
請求項1から16のいずれか1項に記載の多糖類含有組成物を含む化粧品。
【請求項22】
0.1〜30重量%の多糖類と水系媒体とを含む組成物を該多糖類のゲル転移温度以上に加熱して溶解し、該組成物をこれに剪断力を加えながらゲル転移温度以下に冷却して得る多糖類含有組成物の製造方法であって、得られた組成物の、B型粘度計(ローターNo.2)を用い20℃、60rpmの条件下で測定した粘度が700mPa・s以下であることを特徴とする多糖類含有組成物の製造方法。
【請求項23】
請求項22記載の剪断力は、さらに高い剪断力を加えた場合にその製造物の粘度がより高くなる剪断力領域から選ばれることを特徴とする請求項22記載の多糖類含有組成物の製造方法。
【請求項24】
寒天を配合することによって薬物の眼内移行性を向上させた点眼剤。
【請求項25】
寒天の重量平均分子量が5千〜120万である請求項24記載の点眼剤。
【請求項26】
寒天の重量平均分子量が3万〜80万である請求項24記載の点眼剤。
【請求項27】
寒天の含有量が0.1〜10重量%である請求項24記載の点眼剤。
【請求項28】
寒天の含有量が0.2〜5重量%である請求項24記載の点眼剤。
【請求項29】
点眼剤の粘度がE型粘度計(25℃、ずり速度:100s−1)で150mPa・s以下である請求項24記載の点眼剤。
【請求項30】
点眼剤の粘度がE型粘度計(25℃、ずり速度:100s−1)で100mPa・s以下である請求項24記載の点眼剤。
【請求項31】
寒天が粒子径100μm以下の微粒子状である請求項24記載の点眼剤。
【請求項32】
寒天が粒子径20μm以下の微粒子状である請求項24記載の点眼剤。
【請求項33】
重量平均分子量が5千〜120万で、粒子径が100μm以下である寒天0.1〜10重量%を配合し、E型粘度計(25℃、ずり速度:100s−1)で測定した粘度が150mPa・s以下である点眼剤。
【請求項34】
重量平均分子量が3万〜80万で、粒子径が20μm以下である寒天0.2〜5重量%を配合し、E型粘度計(25℃、ずり速度:100s−1)で測定した粘度が100mPa・s以下である点眼剤。
【請求項35】
寒天を水溶液中で加熱溶解後、応力を加えながら冷却して得られる微粒子状の寒天を配合することによって薬物の眼内移行性を向上させた点眼剤。
【請求項36】
寒天の重量平均分子量が5千〜120万で、微粒子状の寒天の粒子径が100μm以下である請求項35記載の点眼剤。
【請求項37】
寒天の重量平均分子量が3万〜80万で、微粒子状の寒天の粒子径が20μm以下である請求項35記載の点眼剤。
【請求項38】
寒天を基剤として使用することを特徴とする薬物の眼内移行性向上剤。
【請求項39】
寒天を水溶液中で加熱溶解後、応力を加えながら冷却して得られる微粒子状の寒天を基剤として使用することを特徴とする薬物の眼内移行性向上剤。
【請求項40】
寒天の重量平均分子量が5千〜120万で、微粒子状の寒天の粒子径が100μm以下である請求項39記載の薬物の眼内移行性向上剤。
【請求項41】
寒天の重量平均分子量が3万〜80万で、微粒子状の寒天の粒子径が20μm以下である請求項39記載の薬物の眼内移行性向上剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−201789(P2008−201789A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−97280(P2008−97280)
【出願日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【分割の表示】特願2002−235062(P2002−235062)の分割
【原出願日】平成14年8月12日(2002.8.12)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】