説明

多自由度球面軸受

【課題】保持しようとする対象物の角度の調整が可能であると共に距離の差も吸収することができ、かつ、充分な剛性が得られる多自由度球面軸受を提供する。
【解決手段】内部に凹状の球面が形成された外筒11と、外筒11の凹状の球面によって外周を揺動可能に支持された中心球体12とを有し、中心球体12は、中心球体12の中央に貫通孔12bが形成されると共に、貫通孔の両端部に対応する中心球体12の部分には、貫通孔に直交し且つ相互に平行な摺動面12cが形成され、中心球体の貫通孔に遊嵌される中心軸15の両端に形成されたフランジ面15aによって中心軸15は中心球体の摺動面12cに沿って移動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多自由度球面軸受に関し、特に中心球体の中央に貫通孔を設け、この貫通孔に中心軸を挿通して、この中心軸を中心球体において貫通孔に直交する方向にも移動可能な多自由度球面軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、保持しようとする対象物を保持して対象物の角度を調整できるようにするために、球面軸受が用いられる。この球面軸受は、外周部材と、保持器と、複数の鋼球と、ロッドの先端部を有している。ロッドの先端部は球体状であり、保持器は外周部材の凹部内に配置されている。ロッドの先端部と保持器との間には、複数の鋼球が配置されていて、ロッドの先端部が外周部材に対して複数の鋼球を介して揺動できるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
ところで保持しようとする対象物として多数のパネルの集合体、例えば大型のパラポラアンテナは、個々の反射面を構成するパネルをそれぞれ異なった所定の角度に調整して固定し、全体としてパラボラ状のアンテナ面を形成するように構成されている。
【0003】
しかしながら、このようなパラボラアンテナは、個々の反射面を構成するパネルを取り付けるためにパネルの角度調整装置が用いられている。パネルの角度調整装置は、基体を有しており、この基体が大型の溶接構造のフレームとなっているので、この基体において反射面を取り付ける取付け位置が高い精度で仕上げられていることは期待できない。このため、個々の反射面となるパネルを取り付けた後で、各パネルの反射面の角度をそれぞれ調整する必要が生じる。
【0004】
そして、このような大型のパラボラアンテナは山頂に近い屋外に設置されるものなので、一旦設置されたパラボラアンテナは、その後、長期間にわたって屋外で外気温度の大きな変化と風雪にさらされた状態で設置されることになる。このため、パラボラアンテナは、長期間にわたって、調整された反射面の角度が変わることがないように、強風にも耐えられるようにしっかりと固定されなければならない。さらに外気温度が大きく変化してパネル自体が伸び縮みしてもパネルにその応力が加わらないよう支持部はパネルの伸縮方向に対し拘束があってはならない。
【0005】
このようなパネルの角度調整装置の一例を図8及び図9に示す。
ここで、図8は角度が調整されるパネル50の平面図である。図8に示すパネル50の背面に設けられた3個所の調整位置51a、51b、51cの高さを調整して、パネル50の角度を調整する。図9は図8のD−D断面図であり、例えば、図9に示す構造の角度調整装置52は、パネル50の角度を調整するように構成されている。
【0006】
図9に示す角度調整装置52は、パネル50の3個所の調整位置51a、51b、51cにおいて基台53からの高さを調整することによってパネル50の傾き方向と角度を調整する。パネル50に取り付けられた球面軸受54a、54b、54bをそれぞれ調整ねじ55で昇降させることによってパネル50の傾きの方向と角度を任意に調整する。そして、調整ねじ55の下端には、調整ねじ55を回転させるための最も簡便な駆動源として、つまみ56が設けられている。
【特許文献1】特開2002−339947号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、このような構造の角度調整装置52では、パネル50を傾斜させることによって、図8に示す調整位置51aから調整位置51b、51cまでの距離L1と、図9に示す球面軸受54a、54b間の距離L2との間に距離との差が生じる。この距離の差(L2−L1)を吸収するために、パネル50と球面軸受54a、54bの間には何らかの距離の差の吸収装置を設けるか、あるいは角度の調整後にパネル50と球面軸受54a、54bとを固定しなければならない。
【0008】
しかし、パネル50と球面軸受54a、54bの間に距離の差の吸収装置を設けると、通常の吸収装置ではどうしても剛性が低くなり、長期間にわたって風雪にさらされ、強風に耐えることが困難になる。一方、角度の調整後にパネル50と球面軸受54a、54bとを固定すれば、充分な剛性は得られるが、パネル50の取付作業に手間が掛かり、特に、現地で角度の調整をしなければならないときには、高所などの危険個所で、手間の掛かるパネル50の取付け作業をしなければならない。
そこで、本発明は、上記のような従来技術の課題を解消するために、保持しようとする対象物の角度の調整が可能であると共に距離の差も吸収することができ、充分な剛性が得られる多自由度球面軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解消するために、本発明の多自由度球面軸受は、内部に凹状の球面が形成された外筒と、前記外筒の前記凹状の球面によって外周を揺動可能に支持された中心球体と、を有する球面軸受において、
前記中心球体は、前記中心球体の中央に貫通孔が形成されると共に、前記貫通孔の両端部に対応する前記中心球体の部分には、前記貫通孔に直交し且つ相互に平行な摺動面がそれぞれ形成され、
前記中心球体の前記貫通孔に遊嵌される中心軸であって、前記中心軸の両端に形成されたフランジ面によって前記中心球体の前記摺動面に沿って移動可能な前記中心軸を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の多自由度球面軸受は、好ましくは前記外筒の前記凹状の球面と前記中心球体の前記外周との間に複数の小球を配置して玉軸受とし、前記中心球体の前記摺動面と前記中心軸の前記フランジ面との間に多数の小球を配置して別の玉軸受とすることを特徴とする。
本発明の多自由度球面軸受は、好ましくは前記中心球体の前記摺動面及び前記中心軸の前記フランジ面の少なくとも一方の面に、前記小球を転動するための複数条の転動溝が相互に平行に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の多自由度球面軸受は、好ましくは前記複数条の転動溝が、前記中心球体の前記摺動面及び前記中心軸の前記フランジ面の片側のみに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多自由度球面軸受によれば、保持しようとする対象物の角度の調整が可能であると共に距離の差も吸収することができ、充分な剛性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の多自由度球面軸受の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の多自由度球面軸受の第1の実施例を示す断面図であり、図2は、第2の実施例を示す断面図である。
図3(a)は、第2の実施例の中心軸のフランジのフランジ面23aを示し、図2におけるA−A線における断面図である。図3(b)は、図3(a)のB−B線における断面図である。
【0014】
図4は、本発明の多自由度球面軸受の実施例が用いられている角度調整装置により角度が調整されるパネルの第1の実施例を示す平面図であり、図5は、本発明の多自由度球面軸受の実施例が用いられている角度調整装置の第1の実施例の構造を示す図4のC−C線における断面図である。
図6は、本発明の多自由度球面軸受の実施例が用いられている角度調整装置により角度が調整されるパネルの第2の実施例を示す平面図である。図7は本発明の多自由度球面軸受の実施例が用いられている角度調整装置の第2の実施例の構造を示す断面図である。
【0015】
図1を参照して、第1の実施例の多自由度球面軸受10を説明する。
図1の多自由度球面軸受10は、外筒11と中心球体12を有している球面軸受である。外筒11の内部には、凹状の球面11aが形成されている。中心球体12の外周面12aは球面状であり、外周面12aは外筒11の凹状の球面11aによって揺動可能に支持されている。
【0016】
多自由度球面軸受10では、外筒11の凹状の球面11aと中心球体12の外周12aとの間に、リテーナ13によって相互に離間された多数の小球14が配置されている。リテーナ13と多数の小球14は玉軸受161を構成している。これにより、中心球体12は、外筒11に対して玉軸受161の多数の小球14を介して、R方向に沿って揺動可能である。
【0017】
中心球体12には、その中央に貫通孔12bが形成されており、この貫通孔12bの両端部(一方の端部と他方の端部)には、貫通孔12bに直交し且つ相互に平行な摺動面12c、12cが形成されている。上側の摺動面12cと下側の摺動面12cは平行な面である。
中心球体12の貫通孔12bには、中心軸15が遊嵌されている。すなわち、中心軸15の直径は貫通孔12bの内径よりも小さく形成されていることにより、中心軸15は、貫通孔12b内において、中心軸15の軸方向Zに対して直交する方向に形成される面内(図1のX―Y面内)において移動可能である。
【0018】
この中心軸15の両端部15F、15Gには、フランジ150,151がねじ152を用いてそれぞれ固定されている。フランジ150,151の内面側には、中心軸15に直交し且つ相互に平行なフランジ面15aがそれぞれ形成されている。フランジ150,151は中心軸15の組立体の一部である。
多自由度球面軸受10は、中心球体12の摺動面12cとフランジ150のフランジ面15aとの間と、そして中心球体12の摺動面12cとフランジ151のフランジ面15aとの間に、それぞれリテーナ16を備えている。各リテーナ16には、相互に離間された多数の小球17が配置されている。リテーナ16と多数の小球17は、玉軸受160を構成している。
これにより、中心軸15とフランジ150,151の組立体は、第1のフランジ150,のフランジ面15aと第2のフランジ151のフランジ面15aと、中心球体12の摺動面12c、12cに沿って、玉軸受160、160を介して、X―Y面において移動可能となっている。
【0019】
この多自由度球面軸受10では、玉軸受160,161が示されているが、玉軸受である必然性はない。例えば、この小球14、17は含油焼結金属やプラスチックのような軸受材料としてもよい。
あるいは、この玉軸受160,161または軸受材料自体も無くして、外筒11の凹状の球面11aが中心球体12の外周12aを支持して、中心球体12の摺動面12cが中心軸15のフランジ面15aを支持するようにしてもよい。このように構成することによって、多自由度球面軸受10における滑らかな調整はやや行いにくくなるが、構造を単純化でき、より高い剛性を得ることができる。
【0020】
多自由度球面軸受10は、上記のように構成されているので、中心球体12が外筒11の内部をR方向に沿って自由に揺動可能であり、中心軸15は、中心軸15に直交する面内では、中心球体12に対して任意の方向に移動可能となっている。
【0021】
次に、図2と図3を参照して、第2の実施例の多自由度球面軸受18を説明する。
図2の多自由度球面軸受18は、外筒19と中心球体20を有している球面軸受である。外筒19の内部には、凹状の球面19aが形成されている。中心球体20の外周面20aは球面状であり、外周面20aは外筒19の凹状の球面19aによって、R方向に沿って揺動可能に支持されている。
【0022】
多自由度球面軸受18では、外筒19の凹状の球面19aと中心球体20の外周20aとの間に、リテーナ21によって相互に離間された多数の小球22が配置されている。リテーナ21と多数の小球22は、玉軸受161を構成している。これにより、中心球体20は、外筒19に対して玉軸受161の多数の小球22を介して、R方向に揺動可能である。
【0023】
中心球体20には、その中央に貫通孔20bが形成されており、この貫通孔20bの両端部には、貫通孔20bに直交し且つ相互に平行な摺動面20c、20cが形成されている。上側の摺動面20cと下側の摺動面20cは、平行である。
中心球体20の貫通孔20bには、中心軸23が遊嵌されている。すなわち、中心軸23の直径は貫通孔20bの内径よりも小さく形成されていることにより、中心軸23は、貫通孔20b内において、中心軸23の軸方向Zに対して直交する方向に形成される面内(図2のX―Y面内)において移動可能である。
【0024】
この中心軸23の両端部23F、23Gには、フランジ250,251がねじ152を用いてそれぞれ固定されている。フランジ250,251の内面側には、中心軸23に直交し且つ相互に平行なフランジ面23aがそれぞれ形成されている。
多自由度球面軸受18は、中心球体20の摺動面20cとフランジ250のフランジ面15aとの間と中心球体20の摺動面20cと、フランジ251のフランジ面15aとの間に、それぞれリテーナ24を備えている。各リテーナ24には、相互に離間された多数の小球25が配置されている。リテーナ24と多数の小球25は、玉軸受160を構成している。
これにより、中心軸23とフランジ250,251の組立体は、第1のフランジ250,のフランジ面23aと第2のフランジ251のフランジ面23aと、中心球体12の摺動面20c、20cに沿って、玉軸受160、160を介してX―Y面内のX方向において移動可能となっている。このように、中心軸23とフランジ250,251の組立体がX方向にだけ移動可能になっているのは、多自由度球面軸受18が、次に図3と図2を参照して説明する移動方向規制部99を備えているからである。この移動方向規制部99は、中心軸23とフランジ250,251の組立体がX―Y面内においてX方向のみに沿って移動できるように移動方向を規制する。
【0025】
図3(a)は、第2の実施例の中心軸23のフランジ250,251のフランジ面23aを示しており、図3(b)は、図3(a)のB−B線における断面構造を示している。
図3(a)と図3(b)を参照すると、中心軸2のフランジ250,251のフランジ面23aの形状例が詳細に示されている。
図3(a)と図3(b)に示すように、中心軸23のフランジ面23aには、複数条の転動溝23bが互いに平行に形成されている。
【0026】
これに対して、図2に示すように、中心球体20の摺動面20cには、複数条の転動溝20dが互いに平行に形成されている。複数条の転動溝23bと複数条の転動溝20dはそれぞれ対面した位置に形成されており、複数条の転動溝23bと複数条の転動溝20dは、共に図2の紙面垂直方向(X方向)に沿って形成されており、対応する位置の転動溝23bと転動溝20dの間には、複数の小球25が配置されている。複数の小球25はリテーナ24で離間されている。この複数条の転動溝23bと複数条の転動溝20dと複数の小球25は、上述した移動方向規制部99を構成している。
【0027】
これにより、複数条の転動溝23bと複数条の転動溝20dは、複数の小球25を転動する役割を果たす。この転動溝20d、23bを設けることによって、中心軸23の移動は、中心球体23の貫通孔23bの軸方向Zに直交するX―Y平面においてX方向(図2の紙面垂直方向)のみに制限することができる。
【0028】
また、図2と図3に示す実施例では、中心球体20の両端面に形成された摺動面20cと中心軸23の上下のフランジ面23aには、それぞれ転動溝20d、23bが形成されている。
しかしこれに限らず、本発明の他の実施例として、中心球体20の上側の摺動面20cと中心軸20の上側のフランジ面23aとにそれぞれ転動溝20d、23bを形成するが、中心球体20の下側の摺動面20cと中心軸20の下側のフランジ面23aはそれぞれ溝のない平面のままの形状としても同様の効果が得られる。これにより、多自由度球面軸受の構造が単純化できる。
【0029】
本発明のさらに他の実施例として、中心軸23の上下のフランジ面23a、23aのみに転動溝23bを形成して、中心球体20の上側と下側の摺動面20c、20cでは転動溝20dを形成しないようにすることもできる。このときには、もちろん上下のフランジ面23aに形成される転動溝23bが、相互に平行でなければならない。このように構成すると、中心球体20の摺動面20c、20cには転動溝20dが形成されていないので、中心球体20は中心軸23に対して回転可能となるが、中心球体20の摺動面20cは相互に平行に形成されているので、中心球体20が回転したとしても何の支障も生じない。
【0030】
本発明のさらに他の実施例として、この転動溝23bが設けられる位置を、中心軸23の上側のフランジ250のフランジ面23aのみにすることも可能である。また、小球の代わりに含油焼結金属やプラスチックのような軸受材料を使用したスベリ軸受を使用する場合には、中心球体20の摺動面20cと中心軸23のフランジ面23aには、転動溝と同様の嵌合溝を形成して、小球の代わりの軸受材料に対してこの嵌合溝に嵌まるような形状の突起を形成してすることによって、全く同様に構成することができる。
【0031】
以上説明したように、図2と図3に示す多自由度球面軸受18では、転動溝20dが上側の摺動面20cと下側の摺動面20cの両方に設けられ、転動溝23bが上側のフランジ面23aと下側のフランジ面23aの両方に設けられている。あるいは、中心球体20の上側の摺動面20cと中心軸20の上側のフランジ面23aとにそれぞれ転動溝20d、23bを形成はするが、中心球体20の下側の摺動面20cと中心軸20の下側のフランジ面23aはそれぞれ溝のない平面のままの形状とする。さらに、中心軸23の上下のフランジ面23a、23aのみに転動溝23bを形成して、中心球体20の上側と下側の摺動面20c、20cでは転動溝20dを形成しないようにすることもできる。
このように、転動溝20d、23bは、摺動面20cとフランジ面23aに対して、任意に選択して形成することができる。いずれにしても、図2に示す多自由度球面軸受18では、中心球体20が外筒19の内部において自由にR方向に沿って揺動可能であり、かつ中心軸23が、中心球体20に対して転動溝20d又は転動溝23bに沿った一定の方向(X方向)のみに移動可能となっている。
【0032】
次に、図1に示す多自由度球面軸受10、あるいは図2と図3に示す多自由度球面軸受18が、平板の角度調整装置に採用された場合における角度調整のための構造を、図4と図5を参照して説明する。
図4は、本発明の多自由度球面軸受の実施例が用いられている角度調整装置により角度が調整される平板の第1の実施例を示す平面図である。図5は、本発明の多自由度球面軸受の実施例が用いられている角度調整装置の第1の実施例の構造を示す図4のC−C線における断面図である。
【0033】
図4と図5に示すパネルの角度調整装置300は、例えばパラボラアンテナの反射板のような平板30の向きと角度を調整するように構成されている。パネル30は、このパネル30の背面に設けられた3個所の調整位置30a、30b、30cで高さを調整して、パネル30の向きと角度が任意に調整できる。
【0034】
図5に示すように、3個所の調整位置30a、30b、30cには、高さの調整機構31A,31B,31Cが配置されている。高さの調整機構31Aは、球面軸受32aを有している。高さの調整機構31Bは、図1に示す多自由度球面軸受18を有している。高さの調整機構31Cは、図2に示す多自由度球面軸受10を有している。
この球面軸受32aは通常の構造の球面軸受を採用しており、球面軸受32aは支持体38Aに固定されている。多自由度球面軸受18は、支持体38Bに固定され、多自由度球面軸受10は、支持体38Cに固定されている。
【0035】
支持体38A、38B、38Cは、それぞれ調整ねじ33により基板34に対して保持されている。調整ねじ33の下端には、調整ねじ33を回転させるためのつまみ35が設けられている。つまみ35を操作して調整ねじ33を回転することで、支持体38A、38B、38Cは昇降されて、支持体38A、38B、38CのZ方向の高さをそれぞれ調整することができる。
【0036】
上述したように、図4と図5に示す例では、調整位置30aに取り付けられる球面軸受32aは、従来技術の球面軸受と同様の回転して揺動するのみの球面軸受である。これに対して、図4と図5に示す調整位置30bに取り付けられる球面軸受は、図2の多自由度球面軸受18であり、図2と図3に示す多自由度球面軸受18の転動溝20d、23bの形成方向が、矢印調整位置30aと調整位置30cとを結ぶラインLに沿うように、多自由度球面軸受18が支持体38Bに取り付けられている。
図4と図5に示す調整位置30cに取り付けられる球面軸受は、図1の多自由度球面軸受10である。
【0037】
このようにそれぞれの調整位置30a、30b、30cに球面軸受32a、18,10をそれぞれ配置することによって、パネル30は次のように移動可能である。すなわち、調整位置30aでは、平板30は揺動するのみで球面軸受32aとパネル30との位置関係は変わることない。しかし、調整位置30bでは、図4に矢印Pで示すように、パネル30は調整位置30aと調整位置30bとを結ぶラインLに沿って移動可能となり、調整位置30cでは、図4に十字の矢印P1,P2で示すように、パネル30は任意の方向に移動可能である。このため、パネルの角度調整装置300は、調整位置30aを基準位置とした距離の差の吸収装置を構成できる。
【0038】
多自由度球面軸受18,10は、適切なプリロードをかけることによって、滑らかに移動することができると共に、充分な剛性を得ることができるので、パネルの角度調整装置300は、多自由度球面軸受18,10を採用することによって、長期間にわたって風雪にさらされても、強風に耐えることができる。しかも、パネルの角度調整装置300は、パネル30の角度の調整が容易であり、パネル30における距離の差が吸収できる距離差の吸収装置として機能する。
【0039】
図6は、パネルの角度調整パネル装置400に対して、3つの多自由度球面軸受18を採用したときの第2の実施例を示す平面図である。図7は本発明の多自由度球面軸受の実施例が用いられている角度調整装置の第2の実施例の構造を示す断面図である。
図6を参照すると、角度調整装置400は、一定の方向のみに移動する3つの多自由度球面軸受18,18,18を有している。多自由度球面軸受18,18,18が、調整位置30a、30b、30cにそれぞれ配置されており、各移動方向は矢印PTで示している。各多自由度球面軸受18,18,18の移動方向PTがパネル30の中心位置Oに向かうように各多自由度球面軸受18,18,18が配置されれば、3個所の調整位置30a、30b、30cにおいてパネル30の高さを調整しても、パネル30の中心位置Oが移動することなくパネル30の角度の調整を行うことができる。
【0040】
図6に示す角度調整装置400は、第1の実施例と同様に、パネル30を、背面に設けられた3個所の調整位置30a、30b、30cで高さを調整して、平板30の向きと角度を任意に調整する。3個所の調整位置30a、30b、30cにおける高さの調整機構31A,31B,31Cは、パネル30に取り付けられた多自由度球面軸受18,18,18をそれぞれ調整ねじ33で昇降させて、基板34からの高さを変えることによって、パネル30の傾きの方向と角度を任意に調整する。調整ねじ33の下端には、調整ねじ33を回転させるためのつまみ35が設けられている。
【0041】
調整ねじ33は、基板34に固定された軸受ハウジング36に設けられた玉軸受37によって回転可能に支持されている。調整ねじ33のねじ込まれた球面軸受の支持体38は、回り止め39によって軸受ハウジング36に対して回転不能となっているので、調整ねじ33の回転によって支持体38が回転することはない。
【0042】
このように構成することによって、パネル30の高さを調整してもつまみ35の位置が移動しないようにすることができ、つまみ35を歯車に代えて、任意のモータのような駆動手段によって、パネル30の高さを自動的に調整することも可能になる。このような、調整ねじ33の回転によって支持体38が回転しない構造は、図5の角度調整装置300においても採用することができる。
【0043】
以上説明したように、図4と図5の実施例においては、角度調整装置300の調整位置30aに取り付けられる球面軸受32aは、従来技術の球面軸受と同様の球面軸受とし、調整位置30bに取り付けられる球面軸受は、図2の多自由度球面軸受18を採用し、調整位置30cに取り付けられる球面軸受は、図1の多自由度球面軸受10を採用している。図2の多自由度球面軸受18の転動溝20d、23bが、調整位置30aと調整位置30bとを結ぶラインLに沿うように、多自由度球面軸受18が取り付けられている。
【0044】
これにより、調整位置30a〜30cに球面軸受を配置することによって、調整位置30aでは揺動するのみで球面軸受32aとパネル30との位置は変わらず、調整位置30bでは調整位置30aと調整位置30bとを結ぶラインLに沿って移動可能となり、調整位置30cでは任意の方向P1,P2に移動可能である。このため、角度調整装置300は、調整位置30aを基準位置とした距離の差の吸収装置を構成することができる。
【0045】
一方、図6と図7の実施例においては、全部の調整位置30a、30b、30cに対して、一定の方向のみに移動する多自由度球面軸受18が、移動方向を矢印PTで示すようにパネル30の中心位置Oに向かうように配置されている。各多自由度球面軸受18,18,18の移動方向がパネル30の中心位置Oに向かうように配置すれば、3個所の調整位置30a、30b、30cでパネル30の高さを調整しても、パネル30の中心位置Oが移動することなくパネル30の角度の調整を行うことができる。
【0046】
本発明の実施例の多自由度球面軸受10,18は、以上に述べたように構成されているので、保持しようとする対象物として、平板、例えば大型のパラボラアンテナのように屋外に設置され、長期間にわたって屋外で風雪にさらされるパネルの角度を調整するための角度調整装置に採用できる。多自由度球面軸受10,18を採用することで、調整された反射面の角度が変わることなく、多自由度球面軸受10,18は強風にも耐えられるように充分な剛性を有する。パネルの角度調整装置の多自由度球面軸受10,18は、角度の変化による距離の差及び気温の高低によるパネル自体の伸び縮みの吸収装置としても使用することができる。
【0047】
本発明の実施例の多自由度球面軸受は、内部に凹状の球面が形成された外筒11,19と、外筒11,19の凹状の球面によって外周を揺動可能に支持された中心球体12,20と、を有する。中心球体12,20は、中心球体12,20の中央に貫通孔12b、20bが形成されると共に、貫通孔の両端部に対応する中心球体12,20の部分には、貫通孔に直交し且つ相互に平行な摺動面12c、20cが形成され、中心球体の貫通孔に遊嵌される中心軸15,23の両端に形成されたフランジ面15a,23aによって中心軸15,23は中心球体の摺動面12c、20cに沿って移動可能である。これにより、保持しようとする対象物の角度の調整が可能であると共に距離の差も吸収することができ、かつ、充分な剛性が得られる。
【0048】
本発明の多自由度球面軸受は、外筒の凹状の球面と中心球体の外周との間に複数の小球を配置して玉軸受とし、中心球体の摺動面と中心軸のフランジ面との間に多数の小球を配置して別の玉軸受とする。これにより、多自由度球面軸受の中心球体は、外筒に対して玉軸受を用いてR方向にスムーズに揺動でき、中心軸は中心球体に対してスムーズに移動して、保持しようとする対象物の角度の調整が可能であると共に距離の差も吸収することができる。
【0049】
本発明の多自由度球面軸受は、中心球体の摺動面及び中心軸のフランジ面の少なくとも一方の面に、小球を転動するための複数条の転動溝が相互に平行に形成されている。これにより、保持しようとする対象物の距離の差を吸収する方向は、転動溝に沿って一定の方向に規制することができる。
本発明の多自由度球面軸受は、複数条の転動溝が、中心球体の摺動面及び中心軸のフランジ面の片側のみに形成されている。これにより、保持しようとする対象物の距離の差を吸収する方向は、転動溝に沿って一定の方向に規制することができる。
【0050】
本発明の多自由度球面軸受は、複数条の転動溝が、中心軸の前記フランジ面に形成されている。これにより、保持しようとする対象物の距離の差を吸収する方向は、転動溝に沿って一定の方向に規制することができる。
本発明の多自由度球面軸受は、複数条の転動溝が、中心軸の片側のフランジ面のみに形成されている。これにより、保持しようとする対象物の距離の差を吸収する方向は、転動溝に沿って一定の方向に規制することができる。
【0051】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されず種々の変形例を採用できる。
外筒11,19は本体とも呼ぶことができ、例えば円柱形や角柱形を有することができる。また、保持しようとする対象物であるパネル30は、図4と図6に示す均一な厚みを有する板形状に限らず、他の形状、例えば長方形や円形であっても良い。保持しようとする対象物は、パネルに限らず装置や部品の水平だしを行うためのベース等厚みのある物体であってもかまわない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の多自由度球面軸受の第1の実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の多自由度球面軸受の第2の実施例を示す断面図である。
【図3】(a)は第2の実施例の中心軸のフランジ面を示す図2のA−A断面図、(b)は(a)のB−B断面図である。
【図4】角度を調整されるパネルの第1の実施例を示す平面図である。
【図5】角度調整装置の第1の実施例の構造を示す図4のC−C断面図である。
【図6】角度を調整されるパネルの第2の実施例を示す平面図である。
【図7】角度調整装置の第2の実施例の構造を示す断面図である。
【図8】従来技術を示す角度を調整されるパネルの平面図である。
【図9】従来技術を示す角度調整装置の実施例の構造を示す図8のD−D断面図である。
【符号の説明】
【0053】
10,18 多自由度球面軸受
11,19 外筒
11a,19a 凹状の球面
12,20 中心球体
12a,20a 外周
12b,20b 貫通孔
12c,20c 摺動面
13,21 リテーナ
14,22 小球
15,23 中心軸
15a,23a フランジ面
16,24 リテーナ
17,25 小球
20d,23b 転動溝
30 パネル(保持しようとする対象物の一例)
30a、30b、30c 調整位置
31 調整機構
32a,32b,32c 球面軸受
33 調整ねじ
34 基板
35 つまみ
36 軸受ハウジング
37 玉軸受
38 支持体
39 回り止め
150,151 フランジ
250,251 フランジ
300,400 パネルの角度調整装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に凹状の球面が形成された外筒と、前記外筒の前記凹状の球面によって外周を揺動可能に支持された中心球体と、を有する球面軸受において、
前記中心球体は、前記中心球体の中央に貫通孔が形成されると共に、前記貫通孔の両端部に対応する前記中心球体の部分には、前記貫通孔に直交し且つ相互に平行な摺動面がそれぞれ形成され、
前記中心球体の前記貫通孔に遊嵌される中心軸であって、前記中心軸の両端に形成されたフランジ面によって前記中心球体の前記摺動面に沿って移動可能な前記中心軸を有することを特徴とする多自由度球面軸受。
【請求項2】
前記外筒の前記凹状の球面と前記中心球体の前記外周との間に複数の小球を配置して玉軸受とし、前記中心球体の前記摺動面と前記中心軸の前記フランジ面との間に多数の小球を配置して別の玉軸受とすることを特徴とする請求項1に記載の多自由度球面軸受。
【請求項3】
前記中心球体の前記摺動面及び前記中心軸の前記フランジ面の少なくとも一方の面に、前記小球を転動するための複数条の転動溝が相互に平行に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の多自由度球面軸受。
【請求項4】
前記複数条の転動溝が、前記中心球体の前記摺動面及び前記中心軸の前記フランジ面の片側のみに形成されていることを特徴とする請求項3に記載の多自由度球面軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−128357(P2008−128357A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313833(P2006−313833)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(394000493)ヒーハイスト精工株式会社 (76)
【Fターム(参考)】