説明

太陽電池カバー、その製造方法及び融雪方法

【課題】膜表面に発現した光触媒作用を速やかに消失させることができる光触媒性薄膜を表層に有する太陽電池モジュール用カバーを提供する。
【解決手段】太陽電池カバー100は、透光性基板102と、発熱層としての透明導電膜104と、光触媒性薄膜106とを積層して構成され、光触媒性薄膜106は、成膜プロセス領域で、チタンで構成されたターゲットをスパッタし、膜原料物質を付着させるスパッタ工程と、反応プロセス領域で、少なくとも反応性ガスのプラズマを膜原料物質に接触させ第1の薄膜を生成する反応工程と、成膜プロセス領域と反応プロセス領域の間で第1の薄膜が形成された基板を移動させ、スパッタ工程及び反応工程を複数回繰り返し第2の薄膜を形成する薄膜堆積工程と、第2の薄膜に対し、不活性ガスを反応性ガスの導入流量と少なくとも同一流量で積極的に混合した混合ガスのプラズマを接触させるプラズマ後処理工程によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光励起により光触媒作用を発現する酸化物光触媒からなる薄膜を表面に有する太陽電池カバーに関わり、特に積雪量の多い豪雪地帯において、家屋の屋根に太陽電池を設置して利用する場合に好適に用いることができる太陽電池カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
住居その他の建物の屋根に太陽電池を設置し、太陽光を光電変換して利用することが行われているが、豪雪地帯では、太陽電池上に積雪が生じる。積雪状態では太陽電池の受光面が太陽光に晒されず、太陽光の効率的な利用が図れない。そこで太陽光を効率的に利用するために、定期的に雪下ろしの作業を行う必要があり、これが豪雪地帯での太陽電池設置の普及を妨げている。雪下ろしの作業は作業員が屋根の上にのぼり、スコップで積雪を切り取り、ブロック状となった雪を屋根下へ落下させることにより行われる。
【0003】
近年、豪雪地帯での太陽電池設置の普及を図るために種々の提案が為されている。例えば特許文献1では、太陽電池モジュールの受光面側に抵抗発熱線を設ける技術が提案されている。
【0004】
また、太陽電池モジュールの受光面は、耐候性樹脂フィルムなどで構成される保護カバーによって保護されることが多いが、このカバーは、太陽電池モジュールの長期間の使用中に煤塵で汚れ、次第に光透過率が低下し、これによって太陽電池のエネルギー変換効率を減少させる。その一方で、太陽電池カバーは、建物の屋根や外壁に設置されるため、これを定期的に又は必要に応じてクリーニングすることは容易でない。そこで、例えば特許文献2では、酸化物光触媒を含有する表層部を基材フィルムの上に形成した太陽電池カバーが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−260638号公報
【特許文献2】特開平10−107303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、酸化チタンに代表される酸化物光触媒による光触媒作用の発現機構は、光励起により伝導帯に電子を生じ、価電子帯に正孔を生じることに起因するものと考えられている。電子の強い還元力、正孔の強い酸化力により、光触媒に接触してくる有機物や窒素酸化物を水や炭酸ガスなどに分解することができ、防汚、防臭、抗菌機能などの諸機能が発揮される。すなわち、上記酸化物光触媒に、そのバンドギャップ以上のエネルギーを持つ波長の光(例えば紫外光)を照射すると、その酸化物光触媒表面の水の接触角が低下し、高度に親水化された状態となる。その一方で、紫外光の照射を停止すると、水の接触角が20〜30度程度の元の状態に戻る。
【0007】
しかしながら、一旦、十分に親水化した酸化物光触媒は、少なくとも数十時間もの間、紫外光が当たらずとも高度な親水化状態が持続される。従って、表面エネルギー状態を元の状態に戻すことを望む場合、数十時間もの長い時間を無駄に費やさなければならないという問題があった。
【0008】
例えば、特許文献1と特許文献2を組み合わせた技術により、抵抗発熱体を通電し、太陽電池モジュールの受光面側の雪を溶かしても、受光面側の表層部が親水化状態に持続されていると、次の不都合を生じる。抵抗発熱体に直接接触する雪は溶解し、その部分は水となる反面、積雪は厚みが厚く、厚み方向のすべての積雪を溶解させることは困難である。従って、溶解しなかった積雪部分がその自重によってモジュール受光面側へ圧縮され、表層部は親水状態にあるため、溶解しなかった積雪部分を保持することとなって、結局は、別途、雪下ろし作業を行わなければならない。
【0009】
発明が解決しようとする課題は、膜表面に発現した光触媒作用を速やかに消失させることができる光触媒性薄膜を表層に有する太陽電池カバー、その製造方法及び融雪方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る太陽電池カバーは、透光性基板と、透明導電膜で構成される発熱層と、光触媒性薄膜とをこの順に積層してあり、前記光触媒性薄膜は、前記発熱層の表面に、下記処理を施すことにより成膜されたものであることを特徴とする。真空容器の内部に形成された成膜プロセス領域で、チタン金属で構成されたターゲットをスパッタし、前記発熱層の表面に前記チタンで構成される膜原料物質を付着させるスパッタ工程。前記成膜プロセス領域とは離間して形成された反応プロセス領域で、少なくとも反応性ガスのプラズマを前記膜原料物質に接触させて第1の薄膜を生成させる反応工程。前記発熱層が形成された前記透光性基板を前記成膜プロセス領域と前記反応プロセス領域の間で移動させ、前記スパッタ工程及び前記反応工程を複数回繰り返し、前記第1の薄膜を複数回堆積させて第2の薄膜を形成する薄膜堆積工程。前記不活性ガスを前記反応性ガスに対して前記反応性ガスの導入流量と少なくとも同一流量で積極的に混合した混合ガスのプラズマを前記第2の薄膜に接触させるプラズマ後処理工程。
【0011】
本発明に係る太陽電池カバーの製造方法は、透光性基板の表面に透明導電膜で構成された発熱層が積層してあり、前記発熱層の表面に光触媒性薄膜が積層してある太陽電池カバーを製造する方法であって、前記透光性基板の表面に前記発熱層を成膜する第1の成膜工程と、前記発熱層の表面に前記光触媒性薄膜を成膜する第2の成膜工程とを有し、前記第2の成膜工程は、真空容器の内部に形成された成膜プロセス領域で、チタン金属で構成されたターゲットをスパッタし、前記発熱層の表面に前記チタンで構成される膜原料物質を付着させるスパッタ工程と、前記成膜プロセス領域とは離間して形成された反応プロセス領域で、少なくとも反応性ガスのプラズマを前記膜原料物質に接触させて第1の薄膜を生成させる反応工程と、前記透光性基板を前記成膜プロセス領域と前記反応プロセス領域の間で移動させ、前記スパッタ工程及び前記反応工程を複数回繰り返し、前記第1の薄膜を複数回堆積させて第2の薄膜を形成する薄膜堆積工程と、前記不活性ガスを前記反応性ガスに対して前記反応性ガスの導入流量と少なくとも同一流量で積極的に混合した混合ガスのプラズマを前記第2の薄膜に接触させるプラズマ後処理工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る融雪方法は、直列又は並列に配線された複数枚の太陽電池セルをパッケージングし、ユニット化した太陽電池モジュールの受光面側に、請求項1〜3の何れか一項記載の太陽電池カバーをその透光性基板を積層するとともに、前記太陽電池カバーの前記発熱層を電源に対して電気的に接続し、電力を供給することによって前記発熱層を発熱させ、前記光触媒性薄膜の表面に堆積した雪を融雪することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、発熱層の表面に光触媒性薄膜を堆積させた後、反応性ガスと不活性ガスを含む混合ガスのプラズマを接触させるプラズマ後処理を施すことにより、膜表面に発現した光触媒作用を速やかに消失させることが可能な光触媒性薄膜を表層に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る太陽電池カバーの構成例を示す断面図である。
【図2】図2は図1の太陽電池カバーを製造することができる成膜装置の一例を示す部分横断面図である。
【図3】図3は図2のII−II線に沿った部分縦断面図である。
【図4】図4は図1の太陽電池カバーを適用しうる太陽電池の構成例を示す平面図である。
【図5】図5は図4の断面図である。
【図6】図6は図4及び図5の太陽電池の設置例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に従って本発明に係る太陽電池カバーの好ましい実施の形態について詳説する。
【0016】
《太陽電池カバー》
図1に示すように、本実施形態に係る太陽電池カバー100は、透光性基板102を有する。透光性基板102の表面の少なくとも一部(好ましくは全部)には、発熱層としての透明導電膜104が積層してある。透明導電膜104の上には、光触媒性薄膜106が積層してある。
【0017】
《透光性基板》
透光性基板102の形成材料としては、ガラス及び合成樹脂が使用される。透光性基板102に使用される合成樹脂としては、例えばポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、アセタール系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂の中でも、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂又はポリエステル系樹脂が特に好ましい。
【0018】
なお、合成樹脂製の透光性基板102の場合、加工性、耐熱性、耐候性、機械的性質、寸法安定性等を改良、改質する目的で、例えば滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、充填剤、強化繊維、補強剤、難燃剤、耐炎剤、発泡剤、防カビ剤、顔料等の各種添加剤を含有することも可能である。
【0019】
透光性基板102の厚さは、特に限定されず、使用する材料に応じて所要の強度等を具備するよう適宜選択される。合成樹脂製の透光性基板102の厚さとしては6〜300μmが好ましい。また、ガラス製の透光性基板102の厚さとしては、一般的には3mm程度とされる。
【0020】
《透明導電膜》
透明導電膜104は、電流が導通されることで発熱し、その結果、光触媒性薄膜106の外面に積雪している雪を融雪させる加熱手段としての機能を有する。
【0021】
透明導電膜104としては、金属薄膜、半導体薄膜の単層や積層体、または金属薄膜と透明薄膜とを積層したものが適用できる。積層は各一層でも、それ以上の多層であってもよい。金属薄膜としては、銀、金、銅、アルミニウム、ニッケル、クロム、等の金属が使われるが、銀、金、銅が好ましい。
【0022】
半導体薄膜としては、インジウム、スズ、亜鉛、アンチモン等を含む酸化物で導電性を示すものであれば如何なるものでもよいが、好ましくは酸化インジウム、酸化スズ、ITO(酸化インジウム・スズ)、IZO(酸化インジウム・亜鉛)、ITZO(酸化インジウム・亜鉛・スズ)、AZO(酸化亜鉛・アンチモン)、AIZO(酸化インジウム・亜鉛・アンチモン)等の薄膜が挙げられる。
【0023】
中でも本実施形態では、主成分である酸化亜鉛に対し、ドーピング成分を所定割合で含有するZnO系半導体薄膜で構成することが好ましい。こうしたZnO系半導体薄膜は、成膜が比較的容易であり、しかも、ある電気伝導性を得るための膜厚において可視光線の透過率を比較的高くすることができる。ドーピング成分は導電膜104の抵抗率を制御し、しかも耐熱性などの耐久性を向上させる成分であり、例えばAl、Pb、Sn、In、Cdなどが挙げられる。
【0024】
透明導電膜104の厚みは例えば300〜1000nm、好ましくは300〜700nmであり、抵抗率は1.0×10−3(Ω・cm)以下、全光線透過率は好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上である。
【0025】
透明導電膜104は、例えばイオンプレーティング法、スパッタ法、真空蒸着法などの各種成膜方法を用いて成膜することができるが、スパッタ法を用いると、緻密な膜を形成でき、耐摩耗性が向上するので好ましい。
【0026】
《光触媒性薄膜》
光触媒性薄膜106は、一旦、発現した光触媒作用を速やかに消失させることが可能であり、本実施形態では酸化チタンで構成してある。
【0027】
本実施形態では、薄膜106の厚みを300nm未満、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下と薄く形成しても、透明導電膜104がバッファ層として機能するために必要十分な光触媒活性を発現することが可能である。一般に、薄膜106の厚みが厚ければ厚いほど、光触媒活性は高めると考えられるが、その反面、膜応力により基板102が変形し、或いは全体の透過率が低下するなどの不都合を生じる。こうした不都合を生じない範囲で光触媒活性を必要レベルで可能な限り維持するために、上述した透明導電成膜104をバッファ層として介在させたものである。なお、導電膜104なしに薄膜106単独で光触媒活性を十分に発現させるには、当該薄膜106の厚みを300nm以上とする必要がある。なお、薄膜106の厚みの下限は好ましくは50nm、より好ましくは100nmである。
【0028】
光触媒性薄膜106は、例えばイオンプレーティング法、スパッタ法、真空蒸着法などの各種成膜方法を用いて成膜することができるが、スパッタ法を用いると、緻密な膜を形成でき、耐摩耗性が向上するので好ましい。特に透明導電膜104の上に光触媒性薄膜106を成膜するに際し、後述するように、スパッタ→プラズマ処理の後、プラズマ後処理を施すことで、薄膜106の成膜厚みが薄い状態でも、必要十分な光触媒活性を発現させることができる。その理由は必ずしも明らかではないが、プラズマ後処理を施すことで、成膜される光触媒性薄膜106の成長結晶、表面形状、活性などの複数の要因が適正化されることにより、薄膜106の厚みが薄くても必要十分な光触媒活性を発現させられるものと推測される。
【0029】
《太陽電池カバーの製造方法》
次に、太陽電池カバー100の光触媒性薄膜106の好ましい成膜方法の一例を説明する。まず、この方法を実現可能な一例としての装置の構成例を説明する。
【0030】
《成膜装置》
図2及び図3に示すように、成膜装置1は、略直方体状の中空体である真空容器11を有する。真空容器11には排気用の配管15aが接続され、この配管には容器11内排気のための真空ポンプ15が接続されている。真空ポンプ15は、例えば、ロータリポンプやターボ分子ポンプ(TMP)などで構成される。真空容器11内には回転ドラム13が配設されている。回転ドラム13(基体保持手段)は、その外周面に成膜対象としての基板Sを真空容器11内で保持可能な筒状部材で構成されている。本実施形態の回転ドラム13は、筒方向に延びる回転軸線Zが真空容器11の鉛直方向(Y方向)へ向くように真空容器11内に配設される。回転ドラム13は、モータ17を駆動させることにより軸線Zを中心に回転する。
【0031】
本実施形態では、真空容器11内の、回転ドラム13の周りには、2つのスパッタ源と、1つのプラズマ源80とが配設されている。
【0032】
本実施形態の各スパッタ源は、2つのマグネトロンスパッタ電極21a,21b(又は41a,41b)を備えたデュアルカソードタイプで構成されている。成膜に際し、各電極21a,21b(又は41a,41b)の一端側表面には、それぞれ、金属などの膜原料物質で構成されるターゲット29a,29b(又は49a,49b)が着脱自在に保持される。各電極21a,21b(又は41a,41b)の他端側には、電力量を調整する電力制御手段としてのトランス24(又は44)を介して、電力供給手段としての交流電源23(又は43)が接続されており、各電極21a,21b(又は41a,41b)に例えば1k〜100kHz程度の交流電圧が印加されるように構成されている。
【0033】
各スパッタ源には、スパッタ用ガス供給手段が接続されている。本実施形態のスパッタ用ガス供給手段は、スパッタ用ガスの一例としての反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ26(又は46)と、反応性ガスボンベ26(又は46)より供給される反応性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ25(又は45)と、スパッタ用ガスの一例としての不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ28(又は48)と、不活性ガスボンベ28(又は48)より供給される不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ27(又は47)とを含む。
【0034】
スパッタ用ガスは、配管を通じてそれぞれ成膜プロセス領域20(又は40)に導入される。マスフローコントローラ25,27(又は45,47)はスパッタ用ガスの流量を調節する装置である。ボンベ26,28(又は46,48)からのスパッタ用ガスは、マスフローコントローラ25,27(又は45,47)により流量を調節されて成膜プロセス領域20(又は40)に導入される。
【0035】
本実施形態のプラズマ源80は、真空容器11の壁面に形成された開口を塞ぐように固定されたケース体81と、このケース体81に固定された誘電体板83とを有する。そして、誘電体板83がケース体81に固定されることで、ケース体81と誘電体板83により囲まれる領域にアンテナ収容室が形成されるように構成されている。アンテナ収容室は配管15aを介して真空ポンプ15に連通しており、真空ポンプ15で真空引きすることでアンテナ収容室内部を排気して真空状態にすることができる。
【0036】
プラズマ源80は、また、ケース体81及び誘電体板83の他に、アンテナ85a,85bを含む。アンテナ85a,85bは、マッチング回路を収容するマッチングボックス87を介して高周波電源89に接続されている。アンテナ85a,85bは、高周波電源89から電力の供給を受けて真空容器11の内部(反応プロセス領域60)に誘導電界を発生させ、反応プロセス領域60にプラズマを発生させる。本実施形態では、高周波電源89からアンテナ85a,85bに周波数1〜27MHzの交流電圧を印加して、反応プロセス領域60に反応性ガスのプラズマを発生させるように構成されている。マッチングボックス87内には、可変コンデンサが設けられており、高周波電源89からアンテナ85a,85bに供給される電力を変更できるようになっている。
【0037】
プラズマ源80には、反応処理用ガス供給手段が接続されている。本実施形態の反応処理用ガス供給手段は、反応処理用ガスの一例としての反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ66と、反応性ガスボンベ66より供給される反応性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ65と、反応処理用ガスの一例としての不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ68と、不活性ガスボンベ68より供給される不活性ガスの流量を調整するマスフローコントローラ67とを含む。
【0038】
反応処理用ガスは、配管を通じて反応プロセス領域60に導入される。マスフローコントローラ65,67は反応処理用ガスの流量を調節する装置である。ボンベ66,68からの反応処理用ガスは、マスフローコントローラ65,67により流量を調節されて反応プロセス領域60に導入される。
【0039】
なお、反応性ガスボンベ66と不活性ガスボンベ68は、成膜プロセス領域20,40の反応性ガスボンベ26,46及び不活性ガスボンベ28,48と同様の装置としたり、または兼用してもよい。また、マスフローコントローラ65とマスフローコントローラ67についても、成膜プロセス領域20,40のマスフローコントローラ25,27(又は45,47)と同様の装置としたり、または兼用してもよい。
【0040】
各スパッタ源の前面には、それぞれ成膜プロセス領域20,40が形成されている。各領域20,40は、真空容器11の内壁面から回転ドラム13に向けて突出する仕切壁12,14により四方が取り囲まれており、それぞれが真空容器11の内部で独立した空間を確保できるように区画されている。同じく、プラズマ源80の前面には、反応プロセス領域60が形成されている。該領域60も領域20,40と同様に、真空容器11の内壁面から回転ドラム13に向けて突出する仕切壁16により四方が取り囲まれており、これにより領域60についても真空容器11の内部で領域20,40とは独立した空間が確保される。
【0041】
《成膜方法》
次に、成膜装置1を用いた成膜方法の一例を説明する。
【0042】
(1)まず、成膜の前準備をする。具体的には、まず電極21a,21b(又は41a,41b)の上にターゲット29a,29b(又は49a,49b)をセットする。これとともに、真空容器11の外で回転ドラム13に基板Sをセットし、真空容器11のロードロック室内に収容する。
【0043】
基板Sとしては、図1の透光性基板102が使用され、回転ドラム13の外周面に、回転ドラム13の回転方向(横方向)に沿って断続的に複数配列され、かつ回転ドラム13の軸線Zと平行な方向(縦方向、Y方向)に沿って断続的に複数配列される。
【0044】
ターゲット29a,29b(又は49a,49b)は、膜原料物質を平板状に形成したものであり、その長手方向が回転ドラム13の回転軸線Zと平行になり、しかもその平行方向の面が回転ドラム13の側面に対向するように、各電極21a,21b(又は41a,41b)の表面に保持させる。
【0045】
本実施形態のターゲット29a,29bとしては、亜鉛(Zn)が用いられる。Znは、その酸化物が後に成膜される酸化チタン薄膜(光触媒性薄膜)のバッファ層として機能するとともに、成膜後に透明性の確保に寄与しうる。本実施形態のターゲット49a,49bとしては、チタン(Ti)が用いられる。Ti以外に、その酸化物が紫外光により光触媒作用を示す他の金属材料(Znを除く)、例えばニオブ(Nb)、タンタル(Ta)若しくはこれらの少なくとも2つの合金を用いることもできる。
【0046】
次に、回転ドラム13を真空容器11の成膜室に移動させた後、ロードロック室との間の扉を閉じた状態で真空容器11内を密閉し、真空ポンプ15を用いて真空容器11内を10−5〜0.1Pa程度の高真空状態にする。このとき、バルブが開放され、プラズマ源80のアンテナ収容室も同時に排気される。
【0047】
次に、モータ17の駆動を開始し、軸線Zを中心に回転ドラム13を回転させる。回転ドラム13の回転速度は、例えば50rpm以下(0rpmを除く。以下同じ)、好ましくは10rpm以下、より好ましくは6rpm以下の範囲で適宜選択される。すると、回転ドラム13の外周面に保持される基板Sは、回転ドラム13の自転軸である軸線Zを中心に公転し、成膜プロセス領域20,40に面する位置と反応プロセス領域60に面する位置との間を繰り返し移動する。そして、何れかの領域20,40で行われるスパッタ処理と、領域60で行われるプラズマ処理とが順次繰り返され、基板Sの表面に所定膜厚の最終的な薄膜を生成させる。
【0048】
本実施形態では、スパッタ処理で基板Sの表面に中間薄膜が形成され、その後のプラズマ処理でこの中間薄膜が膜変換して超薄膜とされる。そして、スパッタ処理とプラズマ処理とが繰り返し行われることで、超薄膜の上に次の超薄膜が堆積していき、最終的な薄膜となるまでこの操作が繰り返される。
【0049】
なお、「中間薄膜」とは、本実施形態ではターゲット29a,29b(又は49a,49b)を構成する金属あるいはその不完全酸化物からなり、領域20(又は40)で形成される薄膜のことである。「超薄膜」とは、超薄膜が複数回堆積されて最終的な薄膜(目標膜厚の薄膜)となることから、この最終的な「薄膜」との混同を防止するために用いる用語であり、最終的な「薄膜」より十分薄いという意味で用いる。
【0050】
(2)以下、基板S上にZnOを主成分とする第1薄膜(発熱層としての透明導電膜104)を成膜した後、この第1薄膜の上にTiOで構成される第2薄膜(光触媒性薄膜)を形成する場合を説明する。
【0051】
(2−1)まず、基板S上に第1薄膜を成膜する。この場合のスパッタ処理は、次のようにして行われる。
【0052】
真空容器11内の圧力の安定を確認した後、成膜プロセス領域20内の圧力を例えば0.05〜0.2Paに調整し、その後、マスフローコントローラ25,27を介して、反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ26や、不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ28から所定流量のスパッタ用ガスを成膜プロセス領域20に導入する。本実施形態では、スパッタ用ガスとして、不活性ガスを単独で使用してもよいが、不活性ガスに反応性ガスを混合させた状態で領域20に導入してもよい。すると、ターゲット29a,29bの周辺が所定ガス雰囲気になる。この状態で、交流電源23からトランス22を介して、各電極21a,21bに交流電圧を印加し、ターゲット29a,29bに交番電界が掛かるようにする。本実施形態では、例えば4kW〜6kW程度の電力(スパッタ電力)を供給する。これにより、ある時点においてはターゲット29aがカソード(マイナス極)となり、その時ターゲット29bは必ずアノード(プラス極)となる。次の時点において交流の向きが変化すると、今度はターゲット29bがカソード(マイナス極)となり、ターゲット29aがアノード(プラス極)となる。このように一対のターゲット29a,29bが交互にアノードとカソードとなることにより、各ターゲット29a,29b周辺のスパッタ用ガスの一部は電子を放出してイオン化する。各電極21a,21bに配置された磁石により各ターゲット29a,29bの表面に漏洩磁界が形成されるため、この電子は各ターゲット29a,29bの表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って強いプラズマが発生し、このプラズマ中のスパッタ用ガスのイオンが負電位状態(カソード側)のターゲットに向けて加速され、各ターゲット29a,29bに衝突することで各ターゲット29a,29b表面の原子や粒子(Zn原子やZn粒子)が叩き出される(スパッタ)。この原子や粒子は薄膜の原料である膜原料物質であり、基板Sの表面に付着して中間薄膜を形成する。
【0053】
なお、スパッタを行っている最中に、アノード上には非導電性あるいは導電性の低い不完全酸化物などが付着することもあるが、このアノードが交番電界によりカソードに変換されると、これら不完全酸化物などがスパッタされ、ターゲット表面は元の清浄な状態となる。そして、一対のターゲット29a、29bが、交互にアノードとカソードとなることを繰り返すことにより、常に安定なアノード電位状態が得られ、プラズマ電位(通常アノード電位とほぼ等しい)の変化が防止され、基板Sの表面に安定して中間薄膜が形成される。
【0054】
プラズマ処理は次のようにして行われる。マスフローコントローラ65,67を介して、反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ66や、不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ68から所定流量の反応処理用ガスを反応プロセス領域60に導入させ、アンテナ85a,85bの周辺を所定ガス雰囲気にする。
【0055】
反応プロセス領域60の圧力は、例えば0.07〜1Paに維持される。また、少なくとも反応プロセス領域60にプラズマを発生させている際中は、アンテナ収容室の内部圧力を0.001Pa以下に保持する。
【0056】
反応性ガスボンベ66や不活性ガスボンベ68から反応性ガスや不活性ガスを導入した状態で、アンテナ85a,85bに高周波電源89から周波数100k〜50MHz(好ましくは1M〜27MHz)の電圧が印加されると、反応プロセス領域60内のアンテナ85a,85bに面した領域にプラズマが発生する。高周波電源89から供給する電力(プラズマ処理電力)は、基板Sがガラス材料で構成される場合には、例えば3kW以上、好ましくは4kW以上、より好ましくは4.5kW以上の大きな電力とし、基板Sが樹脂材料で構成される場合には、例えば1kW以下、好ましくは0.8kW以下、より好ましくは0.5kW以下の小さな電力とする。
【0057】
発生したプラズマ中には、少量の反応性ガスの活性種が存在し、この活性種は、反応プロセス領域60に導かれる。そして、回転ドラム13が回転して基板Sが反応プロセス領域60に導入されると、成膜プロセス領域20で基板Sの表面に形成された中間薄膜はプラズマ処理され、膜原料物質の完全反応物や不完全反応物に膜変換して超薄膜を形成する。
【0058】
なお、第1薄膜のプラズマ処理においては、反応処理用ガスとして、反応性ガスを単独で使用してもよいが、反応性ガスに不活性ガスを積極的に混合させた状態で領域60に導入することもできる。「積極的に混合させる」の用語の意味は後述する。
【0059】
本実施形態では、基板Sの表面に形成される超薄膜が所定膜厚となるまでスパッタ処理とプラズマ処理を複数回繰り返す(薄膜堆積工程)。これにより、目的とする膜厚の最終的な薄膜(第1薄膜)を基板S上に生成させる。
【0060】
なお、上述したスパッタ処理及びプラズマ処理ともに、一般的に、不活性ガスとしては、例えばアルゴン,ヘリウムなどが考えられ、反応性ガスとしては、例えば酸素ガス,窒素ガス,弗素ガス,オゾンガスなどが考えられる。本実施形態では、不活性ガスとしてアルゴンを用い、反応性ガスとして酸素ガスを用いる。
【0061】
(2−2)第1薄膜の成膜が終了すると、成膜プロセス領域20内の作動(スパッタ用ガスの供給、交流電源23からの電力の供給)を停止する。一方で。反応プロセス領域60の作動はそのまま持続させる。
【0062】
(2−3)次に、第1薄膜上に第2薄膜を成膜する。この場合のスパッタ処理は、次のようにして行われる。
【0063】
成膜プロセス領域40内の圧力を例えば0.05〜0.2Paに調整し、その後、マスフローコントローラ45,47を介して、反応性ガスを貯蔵する反応性ガスボンベ46や、不活性ガスを貯蔵する不活性ガスボンベ48から所定流量のスパッタ用ガスを成膜プロセス領域40に導入する。本実施形態では、スパッタ用ガスとして、不活性ガスを単独で使用してもよいが、不活性ガスに反応性ガスを混合させた状態で領域40に導入してもよい。すると、ターゲット49a,49bの周辺が所定ガス雰囲気になる。この状態で、交流電源43からトランス42を介して、各電極41a,41bに交流電圧を印加し、ターゲット49a,49bに交番電界が掛かるようにする。本実施形態では、例えば4kW〜6kW程度の電力(スパッタ電力)を供給する。これにより、ある時点においてはターゲット49aがカソード(マイナス極)となり、その時ターゲット49bは必ずアノード(プラス極)となる。次の時点において交流の向きが変化すると、今度はターゲット49bがカソードとなり、ターゲット49aがアノードとなる。このように一対のターゲット49a,49bが交互にアノードとカソードとなることにより、各ターゲット49a,49b周辺のスパッタ用ガスの一部は電子を放出してイオン化する。各電極41a,41bに配置された磁石により各ターゲット49a,49bの表面に漏洩磁界が形成されるため、この電子は各ターゲット49a,49bの表面近傍に発生した磁界中を、トロイダル曲線を描きながら周回する。この電子の軌道に沿って強いプラズマが発生し、このプラズマ中のスパッタ用ガスのイオンが負電位状態(カソード側)のターゲットに向けて加速され、各ターゲット49a,49bに衝突することで各ターゲット49a,49b表面の原子や粒子(Ti原子やTi粒子)が叩き出される。この原子や粒子は薄膜の原料である膜原料物質であり、基板S上の第1薄膜の表面に付着して中間薄膜を形成する。
【0064】
プラズマ処理は、第1薄膜の場合と同様の手順で行うことができる。なお、第2薄膜のプラズマ処理は、反応処理用ガスとして、反応性ガスに不活性ガスを積極的に混合させた状態で領域60に導入することが好ましい。「積極的に混合させる」とは、意図に反し、結果として不活性ガスが含まれることとなる場合を排除する趣旨である。例えば、成膜プロセス領域20(又は40)に導入される不活性ガスが何らかの理由で該領域20(又は40)から漏れ、これが反応プロセス領域60に紛れ込み、結果として反応プロセス領域60に導入される反応性ガスと混合して反応処理用ガスを形成する場合、は除かれる。
【0065】
反応プロセス領域60へ積極的に混合させる不活性ガスの流量は、特に制限されず、反応性ガスを導入する効果を阻害しない程度の少量(反応性ガス100sccmに対する不活性ガスの導入量が例えば数〜数十sccm)でもよく、あるいは反応性ガスの導入流量と同一流量程度若しくはそれ以上の流量で導入することもできる。
【0066】
本実施形態では、基板S上の第1薄膜の表面に形成される超薄膜が所定膜厚となるまでスパッタ処理とプラズマ処理を複数回繰り返す(薄膜堆積工程)。これにより、目的とする膜厚の最終的な薄膜(第2薄膜)を第1薄膜上に生成させる。
【0067】
(3)本実施形態では、第2薄膜を成膜した後、この薄膜に対してプラズマ後処理を施す。具体的には、まず回転ドラム13の回転を一旦停止し、成膜プロセス領域40内の作動(スパッタ用ガスの供給、交流電源43からの電力の供給)を停止する。一方で、反応プロセス領域60の作動はそのまま持続させる。すなわち反応プロセス領域60では、反応処理用ガスの供給と、高周波電源89からの電力の供給を継続して、プラズマを発生させる。この状態で、回転ドラム13を再回転させ、基板S(第1薄膜及び第2薄膜を含む)を反応プロセス領域60に搬送すると、基板Sの最外面に生成した第2薄膜は、反応プロセス領域60を通過する間にプラズマ処理される(後処理)。
【0068】
このようなプラズマ後処理を施すことで、一旦、発現した光触媒作用を速やかに消失させることが可能な第2薄膜としての酸化チタン薄膜を得ることができる。
【0069】
なお「光触媒性」又は「光触媒作用」とは、光励起により活性酸素種を発生させ有機物を分解する特性(分解活性)と、高度な親水化現象を発現する特性(光励起による親水化現象)のことを意味する。
【0070】
本実施形態のプラズマ後処理においては、反応プロセス領域60へ積極的に混合させる不活性ガスの導入流量を、好ましくは反応性ガスの導入流量と少なくとも同一流量とする。ただし、反応プロセス領域60での反応処理用ガスのプラズマ密度をより濃くし、上述した特性を円滑に発現させるために、不活性ガスの導入流量を反応性ガスの導入流量よりも多くすることが好ましい。より好ましくは、不活性ガスの導入流量を反応性ガスの導入流量の少なくとも3倍にし、さらに好ましくは5倍以上、最も好ましくは7倍以上とする。具体的には、例えば、100sccmの反応性ガスに対する不活性ガスの導入流量を、好ましくは300sccm以上、より好ましくは500sccm以上、さらに好ましくは700sccm以上とする。積極的に混合させる不活性ガスの導入割合を調整することで、光触媒作用の消失に至るまでの時間をコントロールすることが可能となる。なお、不活性ガスの導入割合が多くなると、光触媒作用の消失までに時間がかかる傾向がある。
【0071】
プラズマ後処理の時間は、形成後の酸化チタン薄膜に要求される物理的・光学的特性に応じて1〜60分程度の範囲内で適切な時間とする。
【0072】
薄膜の結晶粒界に界面準位を形成させ、その結果、光触媒作用の発現状態を速やかに消失させるため、反応プロセス領域60に導入される反応処理用ガスの圧力(後処理圧力)を適切に制御する。具体的には例えば0.07〜1Paに維持する。また、反応プロセス領域60にプラズマを発生させている際中は、アンテナ収容室の内部圧力を0.001Pa以下に保持する。
【0073】
反応性ガスの流量はマスフローコントローラ65で、高周波電源89から供給される電力はマッチングボックス87で、それぞれ調整することができる。不活性ガスの流量はマスフローコントローラ67で調整する。
【0074】
反応性ガスボンベ66や不活性ガスボンベ68から反応性ガスや不活性ガスを導入した状態で、アンテナ85a,85bに高周波電源89から周波数100k〜50MHz(好ましくは1M〜27MHz)の電圧が印加されると、反応プロセス領域60内のアンテナ85a,85bに面した領域にプラズマが発生する。高周波電源89から供給する電力(プラズマ後処理電力)は、基板Sがガラス材料で構成される場合には、例えば3kW以上、好ましくは4kW以上、より好ましくは4.5kW以上の大きな電力とし、基板Sが樹脂材料で構成される場合には、例えば1kW以下、好ましくは0.8kW以下、より好ましくは0.5kW以下の小さな電力とする。
【0075】
なお、プラズマ後処理を行うに際し、反応プロセス領域60から成膜プロセス領域20(又は40)に流入する反応性ガスによってターゲット29a,29b(又は49a,49b)の表面が化学変化(例えば酸化)されるのを防ぐため、成膜プロセス領域20(又は40)内に不活性ガスを導入しておくことが好ましい。この時点においては、電極21a,21b(又は41a,41b)には交流電源23(又は43)から電力を供給していないため、ターゲット29a,29b(又は49a,49b)はスパッタされない。
【0076】
本実施形態では、第1薄膜及び第2薄膜形成の際のプラズマ処理(反応処理)と、第2薄膜形成後のプラズマ後処理とを同一の条件で行ってもよいし、異なる条件で行うこともできる。
【0077】
(4)以上の工程が終了すると、回転ドラム13の再回転を停止し、真空容器11の内部の真空状態を解除して、回転ドラム13を真空容器11から取り出し、基板Sを回収する。回収した基板Sの表面には、光触媒作用を適切に制御しうる第2薄膜としての酸化チタン薄膜(光触媒性薄膜)が成膜される。
【0078】
本実施形態で得られた、酸化チタン薄膜が成膜された基板Sは、図1に示す太陽電池カバー100に使用される。
【0079】
光触媒作用を示す酸化チタン(酸化チタン光触媒)に紫外光が照射されると、光励起され、その内部に荷電子対が生成される。さらに、その荷電子対により表面及びその近傍に水酸基ラジカルや、スーパーオキサイドイオン等の活性酸素種が発生し、これらの活性酸素種の持つ強力な酸化力により有機物を分解する特性(分解活性)を発現する。このように励起状態の酸化チタン光触媒では、分解活性とともに、高度な親水性も発現する(光励起による親水化現象)。その一方で、励起状態の酸化チタン光触媒を暗所放置し、所定時間を経過させると、その酸化チタン光触媒は基底状態に戻る。
【0080】
しかしながら、従来の酸化チタン光触媒では、一旦、そのエネルギー状態が励起状態になって親水化現象が発現すると、これを暗所放置しても、撥水性を示す基底状態(例えば水の接触角が20〜30度程度)に戻るのに数週間もの長期間を要する。このため、例えば日中(昼間)又は積雪がない間は光触媒作用を発現させ、酸化チタン光触媒の表面に付着した汚れなどの有機物成分を分解する一方で、夜間又は積雪に覆われている間は光触媒作用を消失させ、後に訪れる翌日の日中又は積雪がないときに酸化チタン光触媒表面に付着した有機物成分を容易に分解させるために、酸化チタン光触媒表面に付着した有機物成分を浮かび上がらせるとの作用を発現させることは困難であった。
【0081】
なお、酸化チタン光触媒を基底状態から励起状態へ変動させるには、積極的に紫外光を照射する場合は勿論こと、太陽光に晒しておくことも有効である。太陽光には紫外光成分が含まれるので、酸化チタン光触媒を太陽光に晒すことによって当該酸化チタン光触媒のエネルギー状態を基底状態から励起状態へと変動させることができる。豪雪地帯における積雪時、又は積雪がないときにも、同様のことが言える。
【0082】
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ねた。その結果、以下のように考えた。
(1)一度励起状態になり光触媒作用を発現した酸化チタン光触媒が、その後に暗所放置しても長期間にわたり光触媒作用を発現し続けるのは、光触媒作用を発現する起源と考えられる、薄膜表面(以下「膜表面」という。)に存在する活性電子(e)と活性正孔(h)の存在寿命が長いためである。
(2)そして、この膜表面に存在する活性電子と活性正孔の寿命を短くすることができれば、膜表面に発現している光触媒作用を速やかに消失させることができるのではないか。
【0083】
こうした作用を生じさせるために、図2及び図3に示す成膜装置1を用いた成膜方法によれば、チタンの不完全酸化超薄膜をチタンの完全酸化物に変換させた後の反応プロセス領域60内に、反応性ガスとしての酸素ガスに、不活性ガスとしてのアルゴンガスを積極的に混合し、こうした混合ガス(反応処理用ガス)のプラズマを発生させ、このプラズマを用いた後処理を施す。この後処理を施すことで、一旦、発現した光触媒作用を速やかに消失させることが可能な第2薄膜としての酸化チタン薄膜を得ることができることを見出した。
【0084】
なお、こうした特性が、特定の後処理を施すことによって発現するメカニズムは必ずしも明らかではない。一般に、結晶成長の理論から、バルク内部に存在する不純物や欠陥は、バルク内の結晶相の成長に伴い、結晶相の外方に析出する傾向があることが知られている。思うに、本実施形態では、後処理において、反応性ガスに不活性ガスを積極的に含有させると、反応プロセス領域60での混合ガスのプラズマ密度が濃くなる。密度が高濃度のプラズマが第2薄膜に接触すると、酸化チタン中に形成された欠陥は、酸化チタンの結晶構造がアナターゼ構造に変動する過程で、柱状組織の外方、すなわち結晶粒界部分に析出する。そして、この析出した欠陥部分が、光触媒作用を発現させる、膜表面に生じた活性電子(e)と活性正孔(h)の再結合中心としての界面準位(欠陥準位)として機能し、こうした機能を発揮することで、上述した特性が得られたものではないかと思われる。この界面準位は、膜表面に発現した活性電子と活性正孔を膜内部に引き込み、膜表面から消失させる。膜表面に存在していた活性電子と活性正孔が消失すると同時に、膜表面の光触媒作用は消失する。なお、「界面準位」とは、界面の存在(或いは形成)によって生じる電子準位(電子状態)を意味する。
【0085】
図2及び図3に例示される成膜装置1を用いて特定の方法で製造される、図1に示す太陽電池カバー100は、太陽電池の受光面側に配置して用いられることが好ましい。なお、上記積層体(太陽電池カバー)は太陽電池のカバー以外の他の用途に適用してもよい。例えば、建材、建物外装、建物内装、窓枠、窓ガラス、構造部材、板材、乗物の外装および塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバーおよび塗装、道路標識用反射板、各種表示装置、広告塔、道路用遮音壁、鉄道用遮音壁、道路用化粧版、信号機用光源カバー、屋外表示板、橋梁、ガードレールの外装および塗装、トンネル内装および塗装、トンネル内照明装置、硝子、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、道路用鏡、車両用鏡、二輪車用計器カバーおよび計器盤、ガラスレンズ、プラスチックレンズ、ヘルメットシールド、家屋ならびに自動車および鉄道車両用窓ガラス、ショーケース、保温ショーケース、膜構造材、熱交換用フィン、種々場所のガラス表面、ブラインド、タイヤホイール、屋根材、アンテナ、送電線、住宅設備、便器、浴槽、洗面台、照明器具、照明カバー、台所用品、食器、食器収納器、食器洗浄器、食器乾燥器、流し、調理レンジ、キッチンフード、換気扇、抗血栓性材料、抗蛋白質付着性材料、船底、および上記物品に貼付させるためのフィルムなどが挙げられる。
【0086】
《太陽電池モジュール》
太陽電池の一例としての太陽電池モジュール200は、図4及び図5に示すように、入射面側光透過性基材201の裏面201Aに充填剤層202を介して例えば6×6列の太陽電池セル204が積層されるとともに、これらの太陽電池セル204に裏面側光透過性基材としてのバックガラス206が積層され、そして、各太陽電池セル204に接続された端子ボックス208がバックガラス206の裏面206Aに固定されることにより構成されている。
【0087】
《入射面側光透過性基材》
入射面側光透過性基材201は、図1に示す太陽電池カバー100の透光性基材102と同様の材質で構成することができる。なお、太陽電池カバー100の透光性基材102を、上記入射面側光透過性基材201に用いてもよい。この場合、太陽電池カバー100の透光性基材102がモジュール200の入射面側光透過性基材として機能する。
【0088】
《充填剤層》
充填剤層202は、カバー100及びバックガラス206間における太陽電池セル204の周囲に充填されており、入射面側光透過性基材201及びバックガラス206の接着性や、太陽電池セル204を保護するための耐スクラッチ性、衝撃吸収性等を有している。なお、太陽電池セル204の表面に積層される充填剤層202は、上記諸機能に加え、太陽光を透過する透明性を有している。
【0089】
充填剤層202の形成材料としては、例えばフッ素系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−アクリル酸又はメタクリル酸共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂をアクリル酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレンフィン系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。これらの合成樹脂の中でも、耐候性、耐熱性、ガスバリア性等に優れるフッ素系樹脂、シリコーン系樹脂又はエチレン−酢酸ビニル系樹脂が好ましい。なお、充填剤層202の形成材料には、耐候性、耐熱性、ガスバリア性等の向上を目的として例えば架橋剤、熱酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、光酸化防止剤等の各種添加剤を適宜含有することができる。充填剤層202の厚さは、特に限定されるものではないが、200〜1000μmが好ましい。
【0090】
《太陽電池セル》
太陽電池セル204は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光起電力素子である。各太陽電池セル204は、略同一平面内に敷設され、直列又は並列に配線されている。太陽電池セル204としては、例えば単結晶シリコン型太陽電池素子、多結晶シリコン型太陽電池素子等の結晶シリコン太陽電子素子、シングル接合型やタンデム構造型等からなるアモルファスシリコン太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等の第3〜第5族化合物半導体太陽電子素子、カドミウムテルル(CdTe)や銅インジウムセレナイド(CuInSe)等の第2〜第6族化合物半導体太陽電子素子等を使用することができ、それらのハイブリット素子も使用することができる。なお、複数枚の太陽電池セル54間にも充填剤層202が隙間なく充填されている。
【0091】
《バックガラス》
バックガラス206は、裏面側透光性基材として機能する。なお、バックガラス206の代わりに、板状のガラス、フイルム状の有機材料や無機材料を用いてもよい。
【0092】
入射面側光透過性基材201及びバックガラス206の厚みは、モジュール200全体に必要な強度を維持することができるよう、太陽電池セル204が配設された層部分における強度や太陽電池モジュール200の面積の大きさなどに応じて適宜に設定することができる。一例を示すと、太陽電池200の面積が例えば1m程度である場合には、入射面側光透過性基材201の厚みは、例えば4〜6mmとされ、バックガラス206の厚みは、例えばフロートガラスが用いられた場合には、例えば4〜8mmとされる。
【0093】
《太陽電池モジュールの製造方法》
太陽電池モジュール200の製造方法としては、特に限定されるもではないが、一般的には、まず、入射面側光透過性基材201、充填剤層202、複数枚の太陽電池セル204及びバックガラス206をこの順に積層する工程と、次に、それらを真空吸引により一体化して加熱圧着する真空加熱ラミネーション法等により一体成形するラミネート工程とを有している。上記太陽電池モジュール200の製造方法において、各層間の接着性等を目的として、加熱溶融型接着剤、溶剤型接着剤、光硬化型接着剤等を塗工すること、又は、各積層対向面にコロナ放電処理、オゾン処理、低温プラズマ処理、グロー放電処理、酸化処理、プライマーコート処理、アンダーコート処理、アンカーコート処理等を施すこともできる。
【0094】
《太陽電池モジュールの設置》
太陽電池モジュール200は、例えば図6に示すように、多雪地帯の家屋、特にその南面に傾斜を付けて設置することができる(例えば南向きの屋根300の上など)。こうしたモジュール200の表面に雪が積もった場合、モジュール200内のセル204に太陽光が入射せず、その後の発電を行うことはできない。
【0095】
本実施形態では、図1に示す太陽電池カバー100を、モジュール200の受光面側に配置するとともに、太陽電池カバー100の透明導電膜104を、モジュール200内の少なくとも1つの太陽電池セル204(好ましくは太陽電池モジュール200。以下単に太陽電池200とする。)に電気的に接続し、太陽電池200を電源として電力を供給することによって透明導電膜104を発熱させることができるようにする。
【0096】
透明導電膜104を太陽電池200に電気的に接続するには、例えば透明導電膜104に電流を導通できるように電極(図示省略)を形成し、ここに太陽電池200から電流を導通させることにより実現することが可能である。なお、カバー100の発熱に、太陽電池200で発電した電力を利用する必要は必ずしもなく、他の電源で発電した電力を利用してもよい。
【0097】
太陽電池カバー100の透明導電膜104に形成される電極としては、導電性を有するものであればよく、材質や形状は特に限定されない。
【0098】
電極の例としては、例えば、導電性樹脂;導電性樹脂と金属箔;導電性樹脂に金属めっき層;金属めっき層;などが挙げられる。導電性樹脂としては、ポリピロール等の樹脂その物が導電性を有しているもの、銀ペースト、銅ペーストや銀−銅ペースト等の銀や銅等の金属粉やカーボンブラック等の炭素を単独または混合物で樹脂に混合したもの等が例示される。金属箔としては、金属の箔であればよく、好ましくは銅箔やニッケル箔等の金属箔が例示される。金属めっき層としては、ニッケル、銅等、通常めっき可能な金属からなる層が例示される。これらを単独あるいは積層または混合層として使用し、電極とすることが可能である。言うまでもなく、これらを多層にして使用しても良い。
【0099】
導電性樹脂層は通常の印刷法等により設置され、金属箔を使用する場合は、その片面に接着剤を設けて、導電性樹脂層に接着させ、接着剤の塗布されていない面に導電性樹脂を設けた電極の形成が例示される。金属めっき層は電気めっき法、無電解めっき法またはダイレクトプレーティング法等のウェットプロセスから選ばれた方法により形成される。
【0100】
電極の厚みは、透明導電膜104が発熱面として機能できるだけの電流を流すことができるだけの厚みがあれば良いが、通常0.1μm以上、好ましくは0.5〜100μm、さらに好ましくは1〜50μm、より好ましくは5〜20μm程度である。
【0101】
太陽電池カバー100の透明導電膜104に電力を供給して発熱させることにより、モジュール200の表面に雪が積もった場合には、太陽電池200に蓄積されているエネルギーを電源として透明導電膜104を発熱させ、カバー100上の雪を溶かす。このとき、最表面に形成される薄膜106の表面状態は撥水状態に戻っているので、これに便乗して溶けた雪の自重によって積雪全体がモジュール200の表面へ圧縮されるとともに、モジュール200の上部から下部に向けてずり落ちやすくなる(図6の矢印参照)。その結果、光触媒性薄膜106上の積雪を効果的に取り除くことが可能となり、以降、モジュール200内のセル204に太陽光を入射させることができ、その後の発電を継続することができる。
【0102】
なお、太陽電池モジュール200の設置態様は、こうした屋根上への設置に限定されず、屋根材に一体化させる態様であってもよく、さらには屋根以外の地上設置タイプとすることも可能である。
【0103】
《その他の実施形態》
以上説明した実施形態は、上記発明の理解を容易にするために記載されたものであって、上記発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、上記発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0104】
上述した実施形態では、基板S上に第1薄膜を成膜するのに先立ち、基板Sの表面に対し、プラズマによる前処理を施すこともできる。この場合、前処理は、薄膜形成時のプラズマ処理及び第2薄膜形成後のプラズマ後処理と同一の条件で行ってもよいし、異なる条件で行うこともできる。
【0105】
上述した実施形態では、光触媒性薄膜106を、スパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行う成膜装置1を用いたスパッタリング法により成膜する場合を例示したが、これに限定されず、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ等、他の公知のスパッタを行う成膜装置を用いた他のスパッタリング法や、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、イオンプレーティングなどの真空蒸着法により成膜することもできる。
【実施例】
【0106】
次に、上記発明の実施形態をより具体化した実施例を挙げ、発明をさらに詳細に説明する。
【0107】
《実施例1》
図2及び図3に示す成膜装置1を用い、(1)まず、基板Sの表面に、酸化亜鉛(ZnO)の透明導電性薄膜(第1薄膜)を形成した。基板Sとして、ガラス性基板であるBK7を用いた。成膜は以下の条件で行った。なお、成膜レートは0.45nm/sとした。
【0108】
《成膜プロセス領域20での処理》
・基板温度:室温、
・ターゲット29a,29b:亜鉛(Zn)、
・ターゲットに供給される電力(スパッタ電力):3.0kW、
・電極21a,21bに印加する交流電圧の周波数:40kHz、
・アルゴンガスの導入流量:250sccm。
【0109】
《反応プロセス領域60での処理》
・高周波電源89からアンテナ85a,85bに供給される電力(プラズマ処理電力):2kW、
・アンテナ85a,85bに印加する交流電圧の周波数:13.56MHz、
・酸素ガスの導入流量:80sccm、
・アルゴンガスの導入流量:0sccm。
【0110】
上述した成膜条件で、成膜プロセス領域20での処理と、反応プロセス領域60での処理を複数回繰り返し(薄膜堆積工程)、基板Sの表面に厚み600nmの第1薄膜としての酸化亜鉛薄膜を形成した。
【0111】
(2)次に、回転ドラム13の回転を停止し、交流電源23からの電力供給を停止(成膜プロセス領域20の作動を停止)して薄膜堆積を終了するとともに、反応プロセス領域60では、上述した酸素ガス及びアルゴンガスの供給、並びに高周波電源89からの電力の供給を継続し、反応プロセス領域60に酸素及びアルゴンの混合ガスのプラズマを発生させた状態で、交流電源43からの電力供給を開始(成膜プロセス領域40の作動を開始)し、回転ドラム13を再回転させて、第1薄膜の表面に以下の成膜を行った。なお、成膜レートは0.3nm/sとした。
【0112】
《成膜プロセス領域40での処理》
・基板温度:室温、
・ターゲット49a,49b:チタン(Ti)、
・ターゲットに供給される電力(スパッタ電力):5.0kW、
・電極41a,41bに印加する交流電圧の周波数:40kHz、
・アルゴンガスの導入流量:500sccm。
【0113】
《反応プロセス領域60での処理》
・高周波電源89からアンテナ85a,85bに供給される電力(プラズマ処理電力):3kW、
・アンテナ85a,85bに印加する交流電圧の周波数:13.56MHz、
・酸素ガスの導入流量:200sccm、
・アルゴンガスの導入流量:500sccm。
【0114】
上述した成膜条件で、成膜プロセス領域40での処理と、反応プロセス領域60での処理を複数回繰り返し(薄膜堆積工程)、基板S上の酸化亜鉛薄膜の表面に厚み180nmの第2薄膜としての酸化チタン(TiO)の光触媒性薄膜を形成した。
【0115】
(3)次に、回転ドラム13の回転を停止し、交流電源43からの電力供給を停止(成膜プロセス領域40の作動を停止)して薄膜堆積を終了するとともに、反応プロセス領域60では、上述した酸素ガス及びアルゴンガスの供給、並びに高周波電源89からの電力の供給を継続し、反応プロセス領域60に酸素及びアルゴンの混合ガスのプラズマを発生させた状態で、回転ドラム13を再回転して基板Sを反応プロセス領域60に搬送し、基板Sの最表面に生成した酸化チタン薄膜(第2薄膜)に対して、反応プロセス領域60を通過する間にプラズマ後処理を施した。後処理時間は30分とした。
【0116】
以上の条件で、基板Sの最表面に、厚み180nm(全成膜時間45分(成膜15分+後処理30分))の酸化チタン薄膜を形成した。
【0117】
《比較例1》
プラズマ後処理を行わなかった以外は、実施例1と同様の方法で、基板Sの最表面に酸化チタン薄膜を形成した。
【0118】
《薄膜の評価》
実施例1及び比較例1で得られた酸化チタン薄膜の光触媒作用の発現と消失のサイクル評価を行った。この評価は、作成した酸化チタン薄膜に対して、水の接触角の経時変化を調べることにより行った。
【0119】
具体的には、まず、(1)作成直後の酸化チタン薄膜に対して、水の接触角を測定した(接触角a)。次に、(2)この作成直後の酸化チタン薄膜に対して、紫外線を10mW/cmの照射量で60分照射し、水の接触角を所定値(接触角b。本例ではb=10°前後)以下にまで低下させた。次に、(3)水の接触角がbにまで低下した、すなわち光触媒作用を発現した状態の酸化チタン薄膜を暗所に放置し、水の接触角が上述したaに戻るまでの時間を求めた。
【0120】
なお、水に対する接触角は、JIS−R3257に準拠した方法(ぬれ性試験)で測定される値を用いた。具体的には、試験台に基板Sを載置し、基板Sの酸化チタン薄膜側に蒸留水を滴下し、静置した状態で水滴の接触角を自動接触角計(DM500、協和界面科学社)を用いて光学的に測定することにより、水に対する接触角を求めた。
【0121】
その結果、実施例1のサンプルでは、紫外線の照射が約60分で薄膜の水の接触角が、接触角aの70°弱から接触角bの10°付近まで低下した。すなわち、約60分の紫外線照射で光触媒作用を発現した。一方、暗所に放置してから約30分で水の接触角が、接触角bの10°付近から接触角aの70°付近にまで上昇した。すなわち、約30分の暗所放置で光触媒作用が消失した。
【0122】
これに対し、比較例1のサンプルでは、紫外線の照射が1時間で薄膜の水の接触角が、接触角aの70°弱から接触角bの10°付近まで低下した。すなわち、1時間の紫外線照射で光触媒作用を発現した。一方、暗所に放置してから1時間を経過しても水の接触角は、接触角bの10°付近から変動せず、この状態をさらに3日間継続させてはじめて水の接触角が接触角aの70°付近にまで上昇した。すなわち、合計72時間もの長時間にわたる暗所放置で、ようやく光触媒作用が消失した。
【0123】
以上の結果からも分かるように、実施例1のサンプルでは、比較例1のサンプルと比較して、酸化チタン薄膜の膜表面に発現した光触媒作用を速やかに消失させることができることが確認できた。
【0124】
《実施例2〜5》
酸素ガスの導入流量は200sccmのままで、反応プロセス領域60へのアルゴンガスの導入流量を、200sccm、400sccm、600sccm、800sccmとした以外は、実施例1と同様の条件で、基板Sの最表面に、厚み180nm(全成膜時間45分(成膜15分+後処理30分))の酸化チタン薄膜を形成した。
【0125】
酸素ガスに対するアルゴンガスの導入割合が多くなると、光触媒作用の消失までに時間がかかる傾向があるが、比較例1のサンプルと比較した場合、格段に、酸化チタン薄膜の膜表面に発現した光触媒作用を速やかに消失させることができることが確認できた。
【符号の説明】
【0126】
200…太陽電池モジュール(太陽電池)、100…太陽電池カバー、102…透光性基板、104…透明導電膜、106…光触媒性薄膜、201…透光性基板、202…充填剤層、204…太陽電池セル、206…バックガラス、208…端子ボックス、300…屋根、
1…成膜装置、11…真空容器、13…回転ドラム、S…基板、12,14,16…仕切壁、
20,40…成膜プロセス領域、
スパッタ源(21a,21b,41a,41b…マグネトロンスパッタ電極、23,43…交流電源、24,44…トランス、29a,29b,49a,49b…ターゲット)、
スパッタ用ガス供給手段(26,46…反応性ガスボンベ、28,48…不活性ガスボンベ、25,27,45,47…マスフローコントローラ)、
60…反応プロセス領域、
80…プラズマ源(81…ケース体、83…誘電体板、85a,85b…アンテナ、87…マッチングボックス、89…高周波電源)、反応処理用ガス供給手段(66…反応性ガスボンベ、68…不活性ガスボンベ、65,67…マスフローコントローラ)、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板と、透明導電膜で構成される発熱層と、光触媒性薄膜とをこの順に積層してある太陽電池カバーにおいて、
前記光触媒性薄膜は、前記発熱層の表面に、下記(1)〜(4)の処理を施すことにより成膜されたものであることを特徴とする太陽電池カバー。
(1)真空容器の内部に形成された成膜プロセス領域で、チタン金属で構成されたターゲットをスパッタし、前記発熱層の表面に前記チタンで構成される膜原料物質を付着させるスパッタ工程、
(2)前記成膜プロセス領域とは離間して形成された反応プロセス領域で、少なくとも反応性ガスのプラズマを前記膜原料物質に接触させて第1の薄膜を生成させる反応工程、
(3)前記発熱層が形成された前記透光性基板を前記成膜プロセス領域と前記反応プロセス領域の間で移動させ、前記スパッタ工程及び前記反応工程を複数回繰り返し、前記第1の薄膜を複数回堆積させて第2の薄膜を形成する薄膜堆積工程、
(4)前記不活性ガスを前記反応性ガスに対して前記反応性ガスの導入流量と少なくとも同一流量で積極的に混合した混合ガスのプラズマを前記第2の薄膜に接触させるプラズマ後処理工程。
【請求項2】
請求項1記載のカバーにおいて、
前記発熱層は、ZnO系の透明導電膜で形成してあり、厚みが300〜700nmであることを特徴とする太陽電池カバー。
【請求項3】
請求項1又は2記載のカバーにおいて、
前記光触媒性薄膜は、厚みが50〜250nmであることを特徴とする太陽電池カバー。
【請求項4】
透光性基板の表面に透明導電膜で構成された発熱層が積層してあり、前記発熱層の表面に光触媒性薄膜が積層してある太陽電池カバーを製造する方法であって、
前記透光性基板の表面に前記発熱層を成膜する第1の成膜工程と、
前記発熱層の表面に前記光触媒性薄膜を成膜する第2の成膜工程とを有し、
前記第2の成膜工程は、
真空容器の内部に形成された成膜プロセス領域で、チタン金属で構成されたターゲットをスパッタし、前記発熱層の表面に前記チタンで構成される膜原料物質を付着させるスパッタ工程と、
前記成膜プロセス領域とは離間して形成された反応プロセス領域で、少なくとも反応性ガスのプラズマを前記膜原料物質に接触させて第1の薄膜を生成させる反応工程と、
前記透光性基板を前記成膜プロセス領域と前記反応プロセス領域の間で移動させ、前記スパッタ工程及び前記反応工程を複数回繰り返し、前記第1の薄膜を複数回堆積させて第2の薄膜を形成する薄膜堆積工程と、
前記不活性ガスを前記反応性ガスに対して前記反応性ガスの導入流量と少なくとも同一流量で積極的に混合した混合ガスのプラズマを前記第2の薄膜に接触させるプラズマ後処理工程とを有することを特徴とする太陽電池カバーの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の製造方法において、
前記後処理工程では、前記不活性ガスを前記反応性ガスの導入流量よりも多い流量で導入し、前記混合ガスのプラズマを発生させることを特徴とする太陽電池カバーの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5記載の製造方法において、
前記後処理工程では、前記反応プロセス領域に、前記不活性ガスを前記反応性ガスの導入流量の少なくとも3倍の流量で導入し、前記混合ガスのプラズマを発生させることを特徴とする太陽電池カバーの製造方法。
【請求項7】
直列又は並列に配線された複数枚の太陽電池セルをパッケージングし、ユニット化した太陽電池モジュールの受光面側に、請求項1〜3の何れか一項記載の太陽電池カバーをその透光性基板を積層するとともに、
前記太陽電池カバーの前記発熱層を電源に対して電気的に接続し、電力を供給することによって前記発熱層を発熱させ、
前記光触媒性薄膜の表面に堆積した雪を融雪することを特徴とする融雪方法。
【請求項8】
請求項7記載の融雪方法であって、
前記発熱層を少なくとも1つの前記太陽電池セルに対して電気的に接続し、電力を供給することによって前記発熱層を発熱させることを特徴とする融雪方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−127198(P2011−127198A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287963(P2009−287963)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【出願人】(505383316)中国科学技▲術▼大学 (8)
【復代理人】
【識別番号】100111419
【弁理士】
【氏名又は名称】大倉 宏一郎
【Fターム(参考)】