説明

定着用ヒータとその製造方法

【課題】定着用ヒータとしての特性に優れた材料を発熱体とする定着用ヒータを提供する。
【解決手段】フラン樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂などの炭素含有樹脂に窒化硼素などの導電阻害物質となり得る金属または半金属化合物を混合し、基材上にスクリーン印刷により発熱体のパターンを形成し、1000℃程度の温度で焼成してNTC特性の定着用ヒータを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式による画像形成装置の定着用ヒータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、複写機の定着用ヒータとして、銀、銀・パラジウムなどの金属粉末、あるいは炭素粉末などの導電性粉末を合成樹脂で結着した発熱体を基体上に形成した定着用ヒータが開示されている。発熱体の表面は被加熱物との滑りを良くし発熱体の摩耗を防止するため、ガラス質の保護膜で被覆されている。また、特許文献2には、フィルム加熱方式の加熱装置の発熱体として、Mn,Ni,Fe等の遷移金属化合物を焼結した負の温度特性(NTC;Negative Temperature Coefficient)を持つものを使用して、そのNTC特性を利用して発熱体自身の温度を制御することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−147595号公報
【特許文献2】特開平7−160132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、電子写真方式による画像形成装置の定着装置のための発熱体としての特性に優れた材料からなる発熱体の層を基材上に形成した新規な定着用ヒータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば基材と、該基材上に設けられ、アモルファス炭素と該アモルファス炭素中に均一に分散した導電阻害物質としての金属または半金属化合物とを含む炭素系発熱層とを具備する定着用ヒータが提供される。
【0006】
前記炭素系発熱層は、前記アモルファス炭素中に均一に分散した炭素粉末をさらに含んでも良い。
【0007】
本発明の定着用ヒータは、炭素含有樹脂に、炭素含有樹脂の炭素化後に導電阻害物質となり得る金属または半金属化合物を均一に混合し、該混合物の層を基材上に設け、該基材上に設けられた該混合物を不活性雰囲気中、好ましくは真空中で焼成して前記炭素含有樹脂を炭素化するステップを具備する方法により製造することができる。この場合に、炭素含有樹脂と金属または半金属化合物の配合比を調節して、焼成後の発熱体中の電気電導体としての炭素と導電阻害物としての金属または半金属化合物との割合を調節することによって、所望の固有抵抗値を有する発熱体を得ることができる。
【0008】
スクリーン印刷等の手法を用いて発熱体を薄膜に形成する場合のように、発熱体の断面積が小さくなる場合には、所望の抵抗値を得るためには低い固有抵抗値のものが求められる場合がある。この場合には、金属または半金属化合物を使わず、炭素含有樹脂と炭素粉末の配合比を調節して、焼成後の発熱体中のアモルファス炭素と炭素粉末の割合を調節することでも所望の固有抵抗値を有する発熱体が得られる。この場合には、炭素粉末に対してアモルファス炭素が相対的に導電阻害物質として作用することになる。
【0009】
本発明の定着用ヒータは発熱体の主成分が炭素であるので、熱容量が小さくて昇温および放冷に要する時間が短く、装置のウォーミングアップ時間を短縮できるという定着用ヒータとして優れた特性を備えている。また、アモルファス炭素を主体としているので耐摩耗性が高く、例えばフィルム加熱定着方式においても、Ag/Pd系では必要であった保護膜を設ける必要がない。
【0010】
特開2001−15250号公報に記載されているように、炭素含有樹脂を焼成して得られるアモルファス炭素とアモルファス炭素中に均一に分散した導電阻害物質としての金属または半金属化合物とを含む複合炭素材料は、焼成温度等の条件によってNTCからPTC(Positive Temperature Coefficient)までその温度特性を変えることができる。したがって例えば炭素化の際の焼成温度を1700℃未満とすることで、NTC特性の定着用ヒータを得ることができる。
【0011】
前記基材上に前記混合物の層を設けるには、例えばスクリーン印刷の手法により行う。基材上に混合物の層を設けて焼成する代わりに、薄板状に形成した混合物の板を焼成した後、粘着材等により基材に貼り合わせるようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】発熱体層のパターンの第1の例を示す図である。
【図2】発熱体層のパターンの第2の例を示す図である。
【図3】発熱体層のパターンの第3の例を示す図である。
【図4】発熱体層のパターンの第4の例を示す図である。
【図5】発熱体層のパターンの第5の例を示す図である。
【図6】発熱体層のパターンの第6の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の定着用ヒータにおいて、基材上に設けられる発熱体層のパターンの例を図1〜図6に示す。図1の例では、基材10上に発熱体12が直線状に設けられ、その両端に電極14の層が設けられる。図2の例では発熱体12がUの字状に形成され、基材10上を一往復する。図3は複数回往復させる例を示す。図4は一方の電極から他方の電極への方向と垂直な方向において発熱体の幅及び/又は断面積を変えて温度分布を制御する例を示す。図5および図6は一方の電極から他方の電極への方向において発熱体の幅及び/又は断面積を変える例を示す。
【0014】
前述の金属或いは半金属化合物とは一般に入手可能な金属炭化物、金属硼化物、金属珪化物、金属窒化物、金属酸化物、半金属窒化物、半金属酸化物、半金属炭化物等が挙げられる。使用する金属或いは半金属化合物種と量は、目的とする発熱体の抵抗値・形状により適宜選択され、単独でも二種以上の混合体でも使用することができるが、抵抗値制御の簡易さから、特に炭化硼素、炭化珪素、窒化硼素、酸化アルミを使用することが好ましく、炭素の持つ優れた特性を堅持するためにもその使用量は70%以下が好ましい。
【0015】
前述の炭素含有樹脂としては、具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル−ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリアミド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の熱硬化性樹脂、リグニン、セルロース、トラガントガム、アラビアガム、糖類等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内に持つ天然高分子物質、及び前記には含有されない、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、コブナ樹脂等の縮合多環芳香族を分子の基本構造内に持つ合成高分子物質が挙げられる。特にポリ塩化ビニル樹脂、フラン樹脂を使用することが好ましく、炭素の持つ優れた特性を堅持するためにもその使用量は30%以上が好ましい。
【0016】
前述の炭素粉末としては、カーボンブラック、黒鉛、コークス粉等が挙げられるが、特に黒鉛を使用することが好ましい。
【実施例1】
【0017】
フラン樹脂(日立化成工業(株)製)70部と窒化硼素(信越化学工業製 平均粒径6μm)30部を充分に分散、混合して、平板作製用液状材料を得た。これをアルミナ基板上にスクリーン印刷して基板上にグリーンシートを作製した。これを、加熱硬化処理を行い、さらに不活性雰囲気中で1000℃で焼成して、アルミナ基板上に炭素系発熱体を得た。アルミナ基板上に得られた炭素系発熱体部は、厚さ0.1mm、幅4mm、長さ300mm、冷間で4×10-3Ω・cmの値を有するNTC特性をもつ発熱体であった。
【実施例2】
【0018】
塩素化塩化ビニル樹脂(日本カーバイド社製 T−741)33部に天然黒鉛微粉末(日本黒鉛製 平均粒径5μm)1部、窒化硼素(信越化学工業製 平均粒径2μm)67部に対し、可塑剤としてジアリルフタレートモノマー20部を添加して、ヘンシェルミキサーを用いて分散した後、表面温度を120℃に保ったミキシング用二本ロールを用いて十分に混練を繰り返して組成物を得、ペレタイザーによってペレット化し、成形用組成物を得た。このペレットをスクリュー型押出機で押し出し成形し、これを200℃に加熱されたエアオープン中で5時間処理してプレカーサー(炭素前駆体)板材とした。次に、これを不活性雰囲気中で1000℃で焼成し、板状の炭素系発熱体を得た。
【0019】
得られた炭素系発熱体は、厚み0.3mm、幅6mm、冷間で4×10-3Ω・cmの値を有するNTC特性をもつ発熱体であった。得られた炭素系発熱体を300mmの長さで切断し、アルミナ基材上に設置し、端部に電気供給用の電極を設け、発熱体表面にガラス絶縁保護層を設けた。
【実施例3】
【0020】
実施例2の炭素前駆体を真空中で2000℃で焼成し、板状の炭素系発熱体を得た。
【0021】
得られた炭素系発熱体は、厚み0.3mm、幅3mm、冷間で4×10-3Ω・cmのPTC特性をもつ発熱体であった。得られた炭素系発熱体を300mmの長さで切断し、アルミナ基材に設置し、端部に電気供給用の電極を設け、発熱体表面にガラス絶縁保護層を設けた。
【実施例4】
【0022】
フラン樹脂(日立化成工業(株)製)70部と天然黒鉛微粉末(同上)30部を充分に分散、混合して、平板作製用液状材料を得た。これをアルミナ基板上にスクリーン印刷して基板上にグリーンシートを作製した。これを、加熱硬化処理を行い、さらに不活性雰囲気中で1000℃で焼成して、アルミナ基板上に炭素系発熱体を得た。アルミナ基板上に得られた炭素系発熱体部は、厚さ0.06mm、幅3mm、長さ300mm、冷間で2×10-3Ω・cmの値を有するNTC特性をもつ発熱体であった。この発熱体の両端部に電極を設け、発熱体表面にガラス絶縁保護層を設けた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
該基材上に設けられ、アモルファス炭素と、該アモルファス炭素中に均一に分散した導電阻害物質としての金属または半金属化合物とを含み、厚さ0.06mm以上である炭素系発熱層とを具備する定着用ヒータ。
【請求項2】
前記炭素系発熱層は、前記アモルファス炭素中に均一に分散した炭素粉末をさらに含む請求項1記載の定着用ヒータ。
【請求項3】
前記金属または半金属化合物は窒化硼素を含む請求項1または2記載の定着用ヒータ。
【請求項4】
前記炭素系発熱層が負の温度特性を有する請求項1〜3のいずれか1項記載の定着用ヒータ。
【請求項5】
基材と、
該基材上に設けられ、導電阻害物質としてのアモルファス炭素と、該アモルファス炭素中に均一に分散した炭素粉末とを含み、アモルファス炭素と炭素粉末の割合を調節することにより調節される固有抵抗値を有する炭素系発熱層とを具備する定着用ヒータ。
【請求項6】
炭素含有樹脂に、炭素含有樹脂の炭素化後に導電阻害物質となり得る金属または半金属化合物の層を均一に混合して混合物を形成し、
該混合物の層をスクリーン印刷により基材上に設け、
該基材上に設けられた該混合物を不活性雰囲気中で焼成して前記炭素含有樹脂を炭素化して厚さ0.06mm以上の炭素系発熱層とするステップを具備する定着用ヒータの製造方法。
【請求項7】
前記炭素含有樹脂に炭素粉末を混合するステップをさらに具備する請求項6記載の定着用ヒータの製造方法。
【請求項8】
前記金属または半金属化合物は窒化硼素を含む請求項6または7記載の定着用ヒータの製造方法。
【請求項9】
前記炭素化は1700℃未満の温度で行なわれる請求項6〜8のいずれか1項記載の定着用ヒータの製造方法。
【請求項10】
炭素含有樹脂に、炭素粉末を均一に混合して混合物を形成し、
該混合物の層を基材上に設け、
該基材上に設けられた該混合物を不活性雰囲気中で焼成して前記炭素含有樹脂を炭素化して発熱層を形成し、
前記炭素含有樹脂と前記炭素粉末の混合比を調節することにより発熱層の固有抵抗値を調節するステップを具備する定着用ヒータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−156993(P2010−156993A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32885(P2010−32885)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【分割の表示】特願2006−514842(P2006−514842)の分割
【原出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】