説明

密封装置及び転動装置

【課題】低温から高温までの幅広い温度範囲で良好な特性を持ち耐久性及び密封性の優れた密封装置を提供することを目的とする。
【解決手段】玉軸受1の密封装置11は、シロキサン結合を主骨格とするシリコーンゴム100質量部あたり有機過酸化物0.2質量部以上10質量部以下、及び、炭素を主成分とする粉末状のフィラー0.2質量部以上30質量部以下を含有するシリコーンゴム組成物で構成されたシール部材7と補強部材9との一体成形物で構成されている。このような構成により、本実施形態の密封装置11は耐久性及び密封性に優れており、また低温から高温までの幅広い温度範囲で良好な特性を持つ。また、玉軸受1は、密封装置11を備えているので、軸受外部から軌道面側への異物等の侵入が生じにくく、軸受内部に封入された潤滑用グリースの漏出が生じにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置及びそれを備えた転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば転がり軸受には、軸受外部から軌道面側への水、水蒸気、異物などの侵入を防止すると共に、軸受内部に封入された潤滑用グリースの漏出を防止するため、外輪の内周面と内輪の外周面との間に形成された間隙を塞ぐように形成された密封装置が設けられている。特に、グリース封入型の転がり軸受には、グリースの漏洩を防ぐために接触式の密封装置が使用されている。これら密封装置には一般的にゴム組成物が用いられているが、元来、ゴム組成物は一般的に他の部材との接触において摩擦抵抗が大きく、摺動による摩擦に対する耐久性が乏しい。そのため、潤滑油等を密封装置の部材表面に付与する等、密封装置に摩擦抵抗を低下することを目的とする処理を施す場合が多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、フッ素ゴムに二硫化モリブデンやグラファイト粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を配合させることにより、空気圧シリンダ等に使用されるシール材の摩擦抵抗を低下させる方法が記載されている。また、特許文献2には、ゴム表面にダイヤモンドライクカーボン(DLC)等の硬質炭素皮膜を形成させることにより、摺動材料の摩擦抵抗を低下させる方法が記載されている。さらに、特許文献3には、ジエン系ゴムに対して変性シリコーンゴムを配合させることにより摺動材料の摩擦抵抗を低下させるといった方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−285562号公報
【特許文献2】特開2004−347053号公報
【特許文献3】特開平9−48879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにゴム組成物と、ゴム組成物と接触する相手部材の摩擦抵抗を低下させる対策はなされているが、一般的にゴム組成物として使用されているニトリルゴムやアクリルゴムは、低温から高温までの幅広い温度範囲における信頼性ならびに耐久性を確保できない恐れがある。また、フッ素ゴムも、高温条件下における耐久性の信頼性は高いものの、価格が高価であり、低温条件下における耐久性は十分ではないという課題が残されている。
【0006】
また、上記ゴムと比較し、シリコーンゴムは広い温度範囲で安定した物性を維持することから優れたシール性を発揮するが、摺動部材として使用するには強度の脆弱性及び動摩擦係数が高いという問題がある。
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、低温から高温までの幅広い温度範囲で良好な特性を持ち耐久性及び密封性の優れた密封装置を提供することを目的とする。また、軸受外部から軌道面側への異物等の侵入が生じにくく、軸受内部に封入された潤滑用グリースの漏出が生じにくい転動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するため、本発明の一態様に係る密封装置は、互いに対向配置される軌道面を備えた第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材の軌道面間に転動自在に配設された複数個の転動体とを備え、前記転動体の転動を介して前記第1部材及び前記第2部材の一方が他方に対して相対移動し、前記両軌道面と前記転動体の転動面とがグリースで潤滑される転動装置に用いられ、前記第1部材及び前記第2部材の間に形成された間隙の開口を密封するように配置される密封装置であって、ゴム組成物からなるシール部材と、前記シール部材を補強する補強部材との一体成形物で構成され、前記ゴム組成物は、シロキサン結合を主骨格とするシリコーンゴム100質量部あたり有機過酸化物0.2質量部以上10質量部以下、及び、炭素を主成分とする粉末状のフィラー0.2質量部以上30質量部以下を含有するシリコーンゴム組成物であることを特徴とする。
【0008】
また、上記密封装置においては、前記シリコーンゴムが、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴムの少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。
さらに、上記密封装置においては、前記炭素を主成分とする粉末状のフィラーが、黒鉛粉、カーボンブラックの少なくともいずれか一つを含むことが好ましい。
また、前記炭素を主成分とする粉末状のフィラーの平均粒径が1μm以上50μm以下であることが好ましい。
【0009】
さらに、本発明の一態様に係る転動装置は、互いに対向配置される軌道面を備えた第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材の軌道面間に転動自在に配設された複数個の転動体と、前記第1部材及び前記第2部材の間に形成された間隙の開口を密封するように配置される密封装置と、を備え、前記転動体の転動を介して前記第1部材及び前記第2部材の一方が他方に対して相対移動し、前記両軌道面と前記転動体の転動面とがグリースで潤滑される転動装置において、前記密封装置は、上記の各態様のうちいずれかの密封装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の密封装置は、ゴム組成物からなるシール部材と、シール部材を補強する補強部材との一体成形物で構成されており、ゴム組成物は、シリコーンゴム組成物である。そのため、本発明の密封装置は低温から高温までの幅広い温度範囲で良好な特性を持つ。また、ゴム組成物は、シロキサン結合を主骨格とするシリコーンゴム100質量部あたり有機過酸化物0.2質量部以上10質量部以下、及び、炭素を主成分とする粉末状のフィラー0.2質量部以上30質量部以下を含有するシリコーンゴム組成物である。そのため、本発明の密封装置は耐久性及び密封性に優れている。
【0011】
また、本発明の転動装置は、上記の密封装置を備える。上記の密封装置は、耐久性及び密封性に優れ、低温から高温までの幅広い温度範囲で良好な特性を持つ。そのため、本発明の転動装置は、軸受外部から軌道面側への異物等の侵入が生じにくく、軸受内部に封入された潤滑用グリースの漏出が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態を示す玉軸受の部分縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示すリニアガイドの説明図であり、(a)は斜視図、(b)は密封装置の縦断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態を示すボールねじの説明図であり、(a)は一部を破断して示した正面図、(b)は密封装置の縦断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態を示すウォータポンプの説明図であり、(a)はウォータポンプの断面図、(b)は密封装置の縦断面図である。
【図5】本発明の第5実施形態を示すハブユニットシールの縦断面図である。
【図6】本発明の第6実施形態を示す鉄道車両用軸受の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る密封装置及び転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1は、本発明の転動装置の第1実施形態である転がり軸受、具体的には玉軸受1の縦断面図である。この玉軸受1は、外輪3、内輪5、転動体6、保持器10、密封装置11を備えて構成される。複数個の転動体6は、外輪3の内周面に形成された軌道面2と、軌道面2に対向するように内輪5の外周面に形成された軌道面4との間に転動自在に配設されると共に、保持器10によって回転可能に保持されている。密封装置11は、外輪3と内輪5との間に形成された間隙の開口を閉鎖し、内部を密封するものであり、外輪3、内輪5、転動体6の間の空間にはグリース8が封入されている。
【0014】
密封装置11は、外輪3及び内輪5の一方に固定されて他の一方に滑り接触しているシール部材7と、シール部材7を補強する補強部材9との一体成形物で構成される。本実施形態ではシール部材7は外輪3に固定されており、内輪5に滑り接触している。シール部材7はゴム組成物で構成されており、補強部材9は金属やプラスチックで構成されている。なお、本実施形態では、外輪3及び内輪5が、第1部材及び第2部材に相当する。
【0015】
以下に、ゴム組成物について説明する。ゴム組成物は、シリコーンゴム組成物であり、シロキサン結合を主骨格とするシリコーンゴム100質量部あたり有機過酸化物0.2質量部以上10質量部以下、及び、炭素を主成分とする粉末状のフィラー0.2質量部以上30質量部以下を含有する。
【0016】
本実施形態の密封装置11は、上記のシリコーンゴム組成物で構成されたシール部材7と補強材9との一体成形物で構成されている。上記のシリコーンゴム組成物は、炭素を主成分とする粉末状のフィラーを含有しているため、摩擦係数が低い。よって、本実施形態の密封装置11は耐久性及び密封性に優れており、また低温から高温までの幅広い温度範囲で良好な特性を持つ。また、本実施形態の玉軸受1は、密封装置11を備える。このような構成により、本実施形態の玉軸受1は軸受外部から軌道面側への異物等の侵入が生じにくく、軸受内部に封入されたグリース8の漏出が生じにくい。
【0017】
シリコーンゴム組成物のベースゴムとなるシリコーンゴムとしては、シロキサン結合を主骨格とするシリコーンゴムであれば特に限定されるものではないが、具体的には、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴム等が挙げられる。特に、フロロシリコーンゴムは、耐熱性・耐薬品性に優れている。これらのシリコーンゴムは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、これらのシリコーンゴムに他種のシリコーンゴムを混合して用いてもよい。
【0018】
炭素を主成分とする粉末状のフィラーとしては、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛粉等が挙げられる。これらの炭素を主成分とする粉末状のフィラーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。機械物性を低下させずに摺動性を高めるために使用する場合には、特に黒鉛粉を用いることが好ましい。
炭素を主成分とする粉末状のフィラーの配合量は、ベースゴム100質量部に対して0.2質量部以上30質量部以下とする。配合量が0.2質量部未満の場合は、目的とする補強性等の効果が得られず、また加工性等も不十分となるからである。また、配合量が30質量部超過の場合は、硬度が高くなりすぎると共に、加工性を大きく損ない、目的とする効果が得られない恐れがあるからである。
【0019】
炭素を主成分とする粉末状のフィラーの粒径は、1μm以上50μm以下とすることが好ましい。粒径が1μm未満の場合は、粒径が細かすぎるため良好な分散を得られない恐れがあるからである。また、粒径が50μm超過の場合は、物性の低下を招き、必要な物性を得ることが困難となる恐れがあるからである。機械物性を低下させずに摺動性を高めるために使用する場合には、特に粒径が1μm以上10μm以下の黒鉛粉を用いることが好ましい。
【0020】
シリコーンゴム組成物の架橋剤として用いられる有機過酸化物は、特に限定されるものではないが、具体的には、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、パラメチルベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン等が挙げられる。
【0021】
有機過酸化物の配合量は、ベースゴム100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.5質量部以上5質量部以下とする。有機過酸化物の配合量が0.2質量部未満の場合は、シリコーンゴムの十分な架橋をスムーズに行うことが困難となる恐れがあると共に、シリコーンゴム組成物の十分な強度を得ることができない恐れがあるからである。また、有機過酸化物の配合量が10質量部超過の場合は、架橋量が過剰となり、シール性に必要な強度及び粘弾性を得ることができないばかりでなく、ゴム組成物と金属補強部材との接触が困難となるからである。なお、硬化用触媒等の有機過酸化物以外の架橋剤を用いることも可能である。
【0022】
また、本発明の目的が損なわれない限りにおいて、これらに加えて、公知の添加剤を適宜シリコーンゴム組成物に配合することもできる。例えば、架橋助剤、充填剤、補強材等が挙げられる。
架橋助剤となるトリス(2−アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレートの配合量は、ベースゴム100質量部に対して、1質量部以上5質量部以下とする。架橋助剤の配合量が1質量部未満の場合は、十分な引張強度の向上が得られず、また、架橋助剤の配合量が5質量部超過の場合は、ベースゴムに相溶できなくなり、混練が困難となるため好ましくないからである。
【0023】
充填剤としては、乾式シリカ、湿式シリカ、表面が疎水化処理された乾式シリカ及び湿式シリカ、クレー、石英微粉末、珪藻土、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、タルク、マイカ、カオリン、ベントナイト、シラス、ウォラストナイト、炭化ケイ素、ガラス粉末、アラミド繊維等が挙げられる。これらはその他の充填剤、例えばケイ酸カルシウム、カーボンブラック、硝子繊維などを若干含んでいてもよい。充填剤の配合量は、ベースゴム100質量部に対して、10質量部以上300質量部以下である。充填剤の配合量が10質量部未満の場合は、目的とする補強性などが得られず、また加工性なども不十分となるからである。また、充填剤の配合量が300質量部超過の場合は、型流れ性、吐出性などの加工性が極端に低下するため好ましくないからである。
【0024】
また、他の添加材としては、例えば、充填剤の分散性の向上を図る添加剤として、低分子量シロキサン、シラノール基含有シラン、アルコキシ基含有シランなどの分散剤等を配合することができる。さらに、耐熱性の向上を図る添加剤として、酸化鉄、酸化セリウム、オクチル酸鉄、酸化チタン等が挙げられる。また、難燃性の向上を図る添加剤として、白金化合物、パラジウム化合物等が挙げられる。また、補強部材との接着性の向上を図る添加剤として、トリアリルイソチオシアネート、シランカップリング剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、同じ効果を付与する添加剤を2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
上記の各成分を用いてゴム組成物を得るための方法は、特に限定されるものではないが、上記した各材料の所定量をゴム混練ロール、加圧ニーダー、バンバリーミキサーなどの従来から公知のゴム用混練装置に投入し、均一に混練りすることが可能である。混練り条件は特に限定はないが、通常は30〜80℃の温度で、5〜60分間混練りすることによって、各種添加剤を十分に分散させることが可能である。
【0026】
また、上記ゴム組成物の架橋方法も特に限定はないが、未架橋のゴム組成物を金型の中で加圧しながら加熱すればよく、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形などの公知のゴム成形方法により製造することができる。通常、120〜200℃で30秒〜30分程度加圧架橋し、更に、必要に応じて、120〜200℃で10分〜10時間程度の二次架橋により作成される。
【0027】
本実施形態の玉軸受1は、−50℃の低温から180℃の高温までの過酷な環境下において、グリース潤滑で使用することができる。例えば、オルタネータ、コンプレッサ等のエンジンルーム内に設置する自動車補機の回転支持部を構成する軸受等において、封入グリースの漏洩が生じにくく、軸受外部からの塵埃、水、泥水等の侵入が生じにくい。
【0028】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては転がり軸受の例として深溝玉軸受を挙げて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受、自動調心玉軸受、円筒ころ軸受、円すいころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受、スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0029】
[第2実施形態]
図2は、本発明の転動装置の第2実施形態であるリニアガイドである。本実施形態のリニアガイド100は、図2(a)に示すように、案内レール130とスライダ120とからなり、スライダ120のスライド方向両端に密封装置110が取付けられている。この密封装置110は、図2(b)に示すように、金属製の補強部材140とゴム組成物製のシール部材150とからなり、シール部材150は3つのリップ部160,170,180を有する。本実施形態では、案内レール130及びスライダ120が、第1部材及び第2部材に相当する。
この密封装置110のゴム組成物には、前記第1実施形態のゴム組成物と同等のシリコーンゴム組成物を使用することができる。なお、このシリコーンゴム組成物を使用した効果は第1実施形態と同様であるため記載を省略する。
【0030】
[第3実施形態]
図3は、本発明の転動装置の第3実施形態であるボールねじである。本実施形態のボールねじ200は、図3(a)に示すように、ねじ軸220とナット230とからなり、ナット230の軸方向両端に密封装置210が取付けられている。この密封装置210は、図3(b)に示すように、金属製の補強部材250とゴム組成物製のシール部材260とからなり、ゴム組成物は、ねじ軸220のねじ溝240に接触するリップ部270を有する。本実施形態ではねじ軸220及びナット230が、第1部材及び第2部材に相当する。
この密封装置210のゴム組成物には、前記第1実施形態のゴム組成物と同等のシリコーンゴム組成物を使用することができる。なお、このシリコーンゴム組成物を使用した効果は第1実施形態と同様であるため記載を省略する。
【0031】
[第4実施形態]
図4(a)は、本発明の転動装置の第4実施形態であるウォータポンプの断面図である。また、図4(b)は本実施形態のウォータポンプの要部の軸方向断面図である。本実施形態のウォータポンプ300は、インペラ340が固定された回転軸320を、軸方向に間隔をおいて配置した複数個の転がり軸受310によりケーシング350に支承して構成されており、ウォータポンプ用軸受310のインペラ340側に密封装置380が設けられている。さらに、ウォータポンプ用軸受310の駆動側330にも密封装置380が設けられている。
【0032】
図4(b)において、ウォータポンプ用軸受310は、外輪310aと、内輪を構成する回転軸320と、外輪310aと回転軸320との間に挟持されたボール310bと、ボール310bを保持する保持器310cとからなる。密封装置380は密封板360とフリンガー370とからなる。外輪310aの軸方向端部のシール溝310dには、密封板360が配置されている。本実施形態では、外輪310a及び回転軸320が、第1部材及び第2部材に相当する。この密封板360は補強部材である芯金360aとシール部材である弾性材360bとからなり、弾性材360bにも、前記第1実施形態のゴム組成物と同等のシリコーンゴム組成物を使用することができる。なお、このシリコーンゴム組成物を使用した効果は第1実施形態と同様であるため記載を省略する。
【0033】
[第5実施形態]
図5は、本発明の密封装置の一実施形態であるハブユニットシールの断面図である。本実施形態のハブユニットシール400は、補強部材である芯金405と、スリンガ406と、シール部材である弾性部材407とで構成されている。このうち芯金405は、低炭素鋼板等の金属板にプレス加工等の打ち抜き加工及び塑性加工を施すことによって、一体的に形成されている。このような芯金405は、図示しない転がり軸受を構成する外輪の端部の内周面に内嵌固定自在な外径側円筒部409と、この外径側円筒部409の軸方向内端縁(図5の左端縁)から径方向内方に折れ曲がった内側円輪部410とを備えており、断面略L字形の円環状をなしている。
【0034】
また、スリンガ406は、ステンレス鋼板等の優れた耐食性を有する金属板にプレス加工等の打ち抜き加工及び塑性加工を施すことによって、一体的に形成されている。このようなスリンガ406は、前記転がり軸受を構成する内輪の端部の外周面に外嵌固定自在な内径側円筒部412と、この内径側円筒部412の軸方向外端縁(図5の右端縁)から径方向外方に折れ曲がった外側円輪部413とを備えており、断面略L字形の円環状をなしている。
【0035】
さらに、弾性部材407は弾性を有するゴム組成物で構成されていて、外側,中間,内側の3つのシールリップ414,415,416を有している。そして、その基端部が芯金405に固着されている。最も外側に位置する外側シールリップ414の先端がスリンガ406を構成する外側円輪部413の内側面に摺接し、中間シールリップ415及び内側シールリップ416の先端がスリンガ406を構成する内径側円筒部412の外周面に摺接している。この弾性部材407にも、前記第1実施形態のゴム組成物と同等のシリコーンゴム組成物を使用することができる。このシリコーンゴム組成物を使用した効果は第1実施形態と同様であるため記載を省略する。なお、本実施形態のハブユニットシール400は、上記実施形態の玉軸受、リニアガイド、ボールねじに使用することができ、また、鉄道車両用軸受や自動車用ハブユニット軸受等の様に、水や塵埃が多量に存在するような過酷な環境において使用される転動装置に好適に使用することができる。
【0036】
[第6実施形態]
図6は、本発明の転動装置の第6実施形態である鉄道車両用軸受の断面図である。本実施形態の鉄道車両用軸受500は、常時非回転状態に維持された外輪(静止輪)501と、外輪501の内側に対向して回転可能に配置された内輪(回転輪)503と、外輪501及び内輪503の対向面にそれぞれ周方向に連続して複数形成された軌道面501s,503s間に沿って転動自在に組み込まれた複数の転動体(ころ)505と、複数の転動体(ころ)505を1つずつ回転自在に保持しながら、外内輪501,503間に沿って公転する例えば樹脂製の保持器511とを備えている。なお、本実施形態では、外輪501及び内輪503が、第1部材及び第2部材に相当する。
【0037】
また、鉄道車両用軸受500は、軸受回転中における潤滑性能や回転性能を一定に維持するために、所定量の潤滑剤(例えば、油、グリース)が軸受内部に封入されている。この場合、潤滑剤の軸受外部への漏洩防止を図ると共に、異物(例えば、水、塵埃)の軸受内部への浸入防止を図るために、外内輪501,503の軸方向両端側には、それぞれ、軸受内部を軸受外部から密封するための密封装置が設けられている。密封装置として、図6中向って左側の油切り部材517と右側の油切り部材519とのそれぞれに対向した環状のシール構造体525a,525bが設けられている。この密封装置として、第1,4,5実施形態の密封装置を用いることができる。なお、このシリコーンゴム組成物を使用した効果は第1実施形態と同様であるため記載を省略する。
【実施例】
【0038】
以下に、本実施形態の実施条件と得られた効果について具体的に示すが、本発明はこれにより何ら制限されることはない。
実施例1〜8は、表1に示す主な配合、架橋条件に従い、ベースゴム、架橋剤、黒鉛粉又はカーボンブラック、老化防止剤等その他の添加剤をゴム混練ロールにて混練りし、架橋を行い得られたゴム組成物である。また、比較例1〜6は表2に示す主な配合、架橋条件に従い、ベースゴム、架橋剤、黒鉛粉、シリカ、老化防止剤等その他の添加剤をゴム混練ロールにて混練りし、架橋を行い得られたゴム組成物である。さらに、参考例1〜4は表3に示す主な配合、架橋条件に従い、ベースゴム、架橋剤、黒鉛粉、シリカ、老化防止剤等その他の添加剤をゴム混練ロールにて混練りし、架橋を行い得られたゴム組成物である。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
表1〜3に示した配合剤は以下の通りである。
*1は、東レ・ダウコーニング株式会社製のシリコーンコンパウンド、商品名「SH75UN」であり、シリカがベースゴム100質量部に対して40質量部コンパウンドされたものである。
*2は、オリエンタル産業株式会社製の平均粒径8μmの黒鉛粉、商品名「AT−No.20」である。
*3は、オリエンタル産業株式会社製の平均粒径7μmの黒鉛粉、商品名「AT−No.40」である。
*4は、東海カーボン株式会社製の平均粒径38nmのカーボンブラック、商品名「シースト116」である。
*5は、三菱化学株式会社製の平均粒径19μmのカーボンブラック、商品名「ダイアブラックA」である。
*6は、日本アエロジル株式会社製の疎水性シリカ、商品名「AEROSIL(登録商標)106」である。
*7は、信越化学工業株式会社製の2,5ジメチル−2,5ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、商品名「C−8」である。
【0043】
前述のようにして得られたゴム組成物を試験片とし、該試験片の機械的物性を23℃の環境下で、以下の方法により実施した。
(1)硬さ測定
JIS K6253に従って測定を行った。架橋した2mm厚のシート状サンプルを重ねて6mm以上とし、デュローメーターAで製品硬さを求めた。結果を表4〜6に示す。
(2)一軸引張試験
JIS K6251に従い、引張速度500mm/minの条件で引張試験を行い、破断時の強度、破断時の伸びを測定した。結果を表4〜6に示す。
(3)摩擦係数測定
得られた試験片を縦30mm×横30mm×厚さ2mmの板状に加工し、板状試験片とした。摩擦の相手材は、SUSJ2(軸受鋼)を内径20mm、外径26mmのリングとし、リングオンディスク試験で試験を行った。結果を表4〜6に示す。
【0044】
【表4】

【0045】
【表5】

【0046】
【表6】

【0047】
表4の実施例1〜8、及び、表5の比較例2から、シリコーンゴムに黒鉛粉、カーボンブラックを配合することで、シリカを配合した試験片より摩擦係数が低減することがわかる。また、表4の実施例1及び2と実施例3及び4から、シリコーンゴムに黒鉛粉を配合した方が、カーボンブラックを配合するより摩擦係数の低減に対する効果が高いことがわかる。また、表4の比較例1及び2から、シリカを配合しても摩擦係数の低減に対する効果がないことがわかる。
【0048】
さらに、表4の実施例5及び表5の比較例3から、黒鉛粉の配合量を0.2質量部以上とすることで摩擦係数の低減に対する効果が現れることがわかる。一方、表4の実施例6から、黒鉛粉の配合量が30質量部の場合には若干の強度の低下が見られるものの、摩擦係数の低減に効果があることがわかる。他方、黒鉛粉の配合量が35質量部である比較例4は、硬さの増加と強度の低下が顕著に現れることがわかる。
【0049】
また、表6の参考例1及び参考例3から、架橋剤の配合量が0.2質量部である参考例1と比して、参考例3は架橋剤の配合量が0.1質量部であり、十分な架橋が行われていないため、その強度が顕著に低下していることがわかる。さらに、表5の比較例5から、黒鉛粉の配合によって多少の補強効果は見られるものの、架橋剤の配合が不十分であるため摩擦係数の低減は見られないことがわかった。一方、表6の参考例4は架橋剤の配合量が12質量部であるが、架橋剤の配合量が10質量部である参考例2と比して、伸びが小さくなっていることから、柔軟性が失われていることがわかる。また、比較例6から、黒鉛粉の配合によって若干の補強効果及び摩擦係数の低減効果は得られるものの、架橋剤が過剰に配合されているため柔軟性が失われることがわかる。
【符号の説明】
【0050】
1は玉軸受(転がり軸受)、2,4,501s,503sは軌道面、3,310a,501は外輪、5,503は内輪、6,505は転動体、7,150,260はシール部材、8はグリース、9,140,250は補強部材、11,110,210,380,400,525a,525bは密封装置、100はリニアガイド装置、120はスライダ、130は案内レール、200はボールねじ、220はねじ軸、230はナット、240はねじ溝、310はウォータポンプ用軸受、310bはボール、320は回転軸、360a,405は芯金、360bは弾性材、407は弾性部材、500は鉄道車両用軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置される軌道面を備えた第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材の軌道面間に転動自在に配設された複数個の転動体とを備え、前記転動体の転動を介して前記第1部材及び前記第2部材の一方が他方に対して相対移動し、前記両軌道面と前記転動体の転動面とがグリースで潤滑される転動装置に用いられ、前記第1部材及び前記第2部材の間に形成された間隙の開口を密封するように配置される密封装置であって、
ゴム組成物からなるシール部材と、前記シール部材を補強する補強部材との一体成形物で構成され、
前記ゴム組成物は、シロキサン結合を主骨格とするシリコーンゴム100質量部あたり有機過酸化物0.2質量部以上10質量部以下、及び、炭素を主成分とする粉末状のフィラー0.2質量部以上30質量部以下を含有するシリコーンゴム組成物であることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記シリコーンゴムが、ジメチルシリコーンゴム、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルシリコーンゴム、フロロシリコーンゴムの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記炭素を主成分とする粉末状のフィラーが、黒鉛粉、カーボンブラックの少なくともいずれか一つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の密封装置。
【請求項4】
前記炭素を主成分とする粉末状のフィラーの平均粒径が1μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項5】
互いに対向配置される軌道面を備えた第1部材及び第2部材と、前記第1部材及び前記第2部材の軌道面間に転動自在に配設された複数個の転動体と、前記第1部材及び前記第2部材の間に形成された間隙の開口を密封するように配置される密封装置と、を備え、前記転動体の転動を介して前記第1部材及び前記第2部材の一方が他方に対して相対移動し、前記両軌道面と前記転動体の転動面とがグリースで潤滑される転動装置において、
前記密封装置は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の密封装置であることを特徴とする転動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167812(P2012−167812A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241455(P2011−241455)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】