説明

封着材料層付きガラス部材の製造方法と電子デバイスの製造方法

【課題】ガラス基板全体を加熱することができないような場合においても、封着材料層を良好に形成することを可能にした封着材料層付きガラス部材の製造方法を提供する。
【解決手段】封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、ガラス基板2の封止領域上に枠状に塗布する。封着材料ペーストの塗布層8に沿って第1のレーザ光9を照射し、塗布層8を選択的に加熱して有機バインダを除去する。続いて、脱バイ層10に沿って第2のレーザ光11を照射し、脱バイ層10を選択的に加熱することによって、封着材料を焼成して封着材料層7を形成する。このような封着材料層7を用いて、2枚のガラス基板間を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は封着材料層付きガラス部材の製造方法と電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(Organic Electro−Luminescence Display:OELD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、液晶表示装置(LCD)等の平板型ディスプレイ装置(FPD)は、発光素子を形成した素子用ガラス基板と封止用ガラス基板とを対向配置し、これら2枚のガラス基板を封着したガラスパッケージで発光素子を封止した構造を有している(特許文献1参照)。色素増感型太陽電池のような太陽電池においても、2枚のガラス基板で太陽電池素子(光電変換素子)を封止したガラスパッケージを適用することが検討されている(特許文献2参照)。
【0003】
2枚のガラス基板間を封止する封着材料には、耐湿性等に優れる封着ガラスの適用が進められている。封着ガラスによる封着温度は400〜600℃程度であるため、通常の加熱炉を用いて焼成した場合にはOEL素子等の電子素子部の特性が劣化してしまう。そこで、2枚のガラス基板の周辺部に設けられた封止領域間に、封着ガラス(ガラスフリット)とレーザ吸収材とを含む封着材料層を配置し、これにレーザ光を照射して封着材料層を加熱、溶融させて封着することが試みられている(特許文献1,2参照)。
【0004】
レーザ封着を適用する場合には、まず封着材料をビヒクルと混合して封着材料ペーストを調製し、これを一方のガラス基板の封止領域に塗布した後、封着材料の焼成温度(封着ガラスの軟化温度以上の温度)まで昇温し、封着ガラスを溶融してガラス基板に焼き付けて封着材料層を形成する。また、封着材料の焼成温度への昇温過程で有機バインダを熱分解して除去する。次いで、封着材料層を有するガラス基板と他方のガラス基板とを封着材料層を介して積層した後、一方のガラス基板側からレーザ光を照射し、封着材料層を加熱、溶融させてガラス基板間に設けられた電子素子部を封止する。
【0005】
封着材料層の形成には一般的に加熱炉が用いられている。特許文献3には、封着材料層の形成工程で有機バインダを除去する第1の昇温過程と封着材料を焼き付ける第2の昇温過程とを実施することが記載されている。第1の昇温過程においては、ホットプレート、IRヒータ、加熱用ランプ、レーザ光等を用いて、ガラス基板をその裏面側から加熱している。第2の昇温過程は通常の焼成工程と同様に、加熱炉内のヒータを用いてガラス基板全体を加熱している。特許文献3に記載された方法においても、封着材料の焼き付けは加熱炉を用いてガラス基板全体を加熱することにより実施されている。
【0006】
ところで、FPD用のガラスパッケージにおいては、素子用ガラス基板のみならず、封止用ガラス基板にもカラーフィルタ等の有機樹脂膜を形成することが行われている。このような場合には、加熱炉を用いて基板全体を加熱すると有機樹脂膜が熱ダメージを受けるため、封止用ガラス基板への封着材料層の形成時においても、一般的な加熱炉を用いた焼成工程を適用することができない。また、色素増感型太陽電池では対向基板側にも素子膜等が形成されるため、焼成工程における素子膜等の熱劣化を抑制することが求められている。さらに、加熱炉を用いた焼成工程は通常長時間要し、エネルギー消費量も多いことから、製造工数や製造コストの削減、また省エネの観点等からも改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2006−524419号公報
【特許文献2】特開2008−115057号公報
【特許文献3】特開2003−068199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ガラス基板全体を加熱することができないような場合においても、封着材料層を良好に形成することを可能にした封着材料層付きガラス部材の製造方法と電子デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様に係る封着材料層付きガラス部材の製造方法は、封止領域を有するガラス基板を用意する工程と、封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記ガラス基板の前記封止領域上に枠状に塗布する工程と、前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って第1のレーザ光を照射して選択的に加熱し、前記塗布層内の前記有機バインダを除去する工程と、前記有機バインダを除去した前記塗布層に沿って第2のレーザ光を照射して選択的に加熱し、前記封着材料を焼成して封着材料層を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【0010】
本発明の態様に係る電子デバイスの製造方法は、第1の封止領域を備える表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域上に枠状に塗布する工程と、前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って第1のレーザ光を照射して選択的に加熱し、前記塗布層内の前記有機バインダを除去する工程と、前記有機バインダを除去した前記塗布層に沿って第2のレーザ光を照射して選択的に加熱し、前記封着材料を焼成して封着材料層を形成する工程と、前記第1のガラス基板の前記表面と前記第2のガラス基板の前記表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、前記第1のガラス基板または前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層に第3のレーザ光を照射し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する封着層を形成する工程とを具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様に係る封着材料層付きガラス部材の製造方法によれば、ガラス基板全体を加熱することができないような場合においても、封着材料層を良好に形成することができる。従って、そのようなガラス基板を用いる場合においても、信頼性や封止性等に優れる電子デバイスを再現性よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態による電子デバイスの製造工程を示す断面図である。
【図2】図1に示す電子デバイスの製造工程で使用する第1のガラス基板を示す平面図である。
【図3】図2のA−A線に沿った断面図である。
【図4】図1に示す電子デバイスの製造工程で使用する第2のガラス基板を示す平面図である。
【図5】図4のA−A線に沿った断面図である。
【図6】図1に示す電子デバイスの製造工程における第2のガラス基板への封着材料層の形成過程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。図1ないし図6は本発明の実施形態による電子デバイスの製造工程を示す図である。ここで、本発明の実施形態の製造方法を適用する電子デバイスとしては、OELD、PDP、LCD等のFPD、OEL素子等の発光素子を使用した照明装置、あるいは色素増感型太陽電池のような封止型の太陽電池が挙げられる。
【0014】
まず、図1(a)に示すように、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを用意する。第1および第2のガラス基板1、2には、例えば各種公知の組成を有する無アルカリガラスやソーダライムガラス等で形成されたガラス基板が用いられる。無アルカリガラスは30〜40×10-7/℃程度の熱膨張係数を有している。ソーダライムガラスは80〜90×10-7/℃程度の熱膨張係数を有している。
【0015】
第1のガラス基板1は、図2および図3に示すように、素子領域3が設けられた表面1aを有している。素子領域3には対象物である電子デバイスに応じた電子素子部4が設けられる。電子素子部4は、例えばOELDやOEL照明であればOEL素子、PDPであればプラズマ発光素子、LCDであれば液晶表示素子、太陽電池であれば色素増感型太陽電池素子(色素増感型光電変換素子)を備えている。OEL素子のような発光素子や色素増感型太陽電池素子等を備える電子素子部4は各種公知の構造を有している。この実施形態は電子素子部4の素子構造に限定されるものではない。
【0016】
第1のガラス基板1の表面1aには、素子領域3の外周に沿って第1の封止領域5が設けられている。第1の封止領域5は素子領域3を囲うように設けられている。第2のガラス基板2は、第1のガラス基板1の表面1aと対向する表面2aを有している。第2のガラス基板2の表面2aには、図4および図5に示すように、第1の封止領域5に対応する第2の封止領域6が設けられている。第1および第2の封止領域5、6は封着層の形成領域(第2の封止領域6については封着材料層の形成領域)となる。
【0017】
電子素子部4は第1のガラス基板1の表面1aと第2のガラス基板2の表面2aとの間に設けられる。図1に示す電子デバイスの製造工程において、第1のガラス基板1は素子用ガラス基板を構成しており、その表面1aにOEL素子やPDP素子等の素子構造体が電子素子部4として形成されている。第2のガラス基板2は第1のガラス基板1の表面1aに形成された電子素子部4の封止用ガラス基板を構成するものである。ただし、電子素子部4の構成はこれに限られるものではない。
【0018】
例えば、電子素子部4が色素増感型太陽電池素子等の場合には、第1および第2のガラス基板1、2の各表面1a、2aに素子構造を形成する配線膜や電極膜等の素子膜が形成される。電子素子部4を構成する素子膜やそれらに基づく素子構造体は、第1および第2のガラス基板1、2の表面1a、2aの少なくとも一方に形成される。さらに、封止用ガラス基板を構成する第2のガラス基板2の表面2aには、前述したようにカラーフィルタ等の有機樹脂膜が形成される場合がある。この実施形態の製造方法は、特に第2のガラス基板2の表面2aに有機樹脂膜や素子膜等が形成されている場合に有効である。
【0019】
第2のガラス基板2の封止領域6には、図1(a)、図4および図5に示すように枠状の封着材料層7が形成されている。封着材料層7は封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着材料の焼成層である。封着材料は主成分としての封着ガラスにレーザ吸収材、さらに必要に応じて低膨張充填材等の無機充填材を配合したものである。封着材料はこれら以外の充填材や添加材を必要に応じて含有していてもよい。
【0020】
封着ガラス(ガラスフリット)には、例えば錫−リン酸系ガラス、ビスマス系ガラス、バナジウム系ガラス、鉛系ガラス等の低融点ガラスが用いられる。これらのうち、ガラス基板1、2に対する封着性(接着性)やその信頼性(接着信頼性や気密封止性)、さらには環境や人体に対する影響性等を考慮して、錫−リン酸系ガラスやビスマス系ガラスからなる封着ガラスを使用することが好ましい。
【0021】
錫−リン酸系ガラス(ガラスフリット)は、55〜68質量%のSnO、0.5〜5質量%のSnO2、および20〜40質量%のP25(基本的には合計量を100質量%とする)の組成を有することが好ましい。SnOはガラスを低融点化させるための成分である。SnOの含有量が55質量%未満であるとガラスの粘性が高くなって封着温度が高くなりすぎ、68質量%を超えるとガラス化しなくなる。
【0022】
SnO2はガラスを安定化するための成分である。SnO2の含有量が0.5質量%未満であると封着作業時に軟化溶融したガラス中にSnO2が分離、析出し、流動性が損なわれて封着作業性が低下する。SnO2の含有量が5質量%を超えると低融点ガラスの溶融中からSnO2が析出しやすくなる。P25はガラス骨格を形成するための成分である。P25の含有量が20質量%未満であるとガラス化せず、その含有量が40質量%を超えるとリン酸塩ガラス特有の欠点である耐候性の悪化を引き起こすおそれがある。
【0023】
ここで、ガラスフリット中のSnOおよびSnO2の割合(質量%)は以下のようにして求めることができる。まず、ガラスフリット(低融点ガラス粉末)を酸分解した後、ICP発光分光分析によりガラスフリット中に含有されているSn原子の総量を測定する。次に、Sn2+(SnO)は酸分解したものをヨウ素滴定法により求められるので、そこで求められたSn2+の量をSn原子の総量から減じてSn4+(SnO2)を求める。
【0024】
上記した3成分で形成されるガラスはガラス転移点が低く、低温用の封着材料に適したものであるが、SiO2等のガラスの骨格を形成する成分やZnO、B23、Al23、WO3、MoO3、Nb25、TiO2、ZrO2、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、BaO等のガラスを安定化させる成分等を任意成分として含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、またガラス転移点や軟化点が上昇するおそれがあるため、任意成分の合計含有量は30質量%以下とすることが好ましい。この場合のガラス組成は基本成分と任意成分との合計量が基本的には100質量%となるように調整される。
【0025】
ビスマス系ガラス(ガラスフリット)は、70〜90質量%のBi23、1〜20質量%のZnO、および2〜12質量%のB23(基本的には合計量を100質量%とする)の組成を有することが好ましい。Bi23はガラスの網目を形成する成分である。Bi23の含有量が70質量%未満であると低融点ガラスの軟化点が高くなり、低温での封着が困難になる。Bi23の含有量が90質量%を超えるとガラス化しにくくなると共に、熱膨張係数が高くなりすぎる傾向がある。
【0026】
ZnOは熱膨張係数等を下げる成分である。ZnOの含有量が1質量%未満であるとガラス化が困難になる。ZnOの含有量が20質量%を超えると低融点ガラス成形時の安定性が低下し、失透が発生しやすくなる。B23はガラスの骨格を形成してガラス化が可能となる範囲を広げる成分である。B23の含有量が2質量%未満であるとガラス化が困難となり、12質量%を超えると軟化点が高くなりすぎて、封着時に荷重をかけたとしても低温で封着することが困難となる。
【0027】
上記した3成分で形成されるガラスはガラス転移点が低く、低温用の封着材料に適したものであるが、Al23、CeO2、SiO2、Ag2O、MoO3、Nb23、Ta25、Ga23、Sb23、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、CaO、SrO、BaO、WO3、P25、SnOx(xは1または2である)等の任意成分を含有していてもよい。ただし、任意成分の含有量が多すぎるとガラスが不安定となって失透が発生したり、またガラス転移点や軟化点が上昇するおそれがあるため、任意成分の合計含有量は30質量%以下とすることが好ましい。この場合のガラス組成は基本成分と任意成分との合計量が基本的には100質量%となるように調整される。
【0028】
封着材料はレーザ吸収材を含有している。レーザ吸収材としてはFe、Cr、Mn、Co、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種の金属または前記金属を含む酸化物等の化合物が用いられる。また、これら以外の顔料であってもよい。レーザ吸収材の含有量は封着材料に対して0.1〜10体積%の範囲とすることが好ましい。レーザ吸収材の含有量が0.1体積%未満であると封着材料層7を十分に溶融させることができないおそれがある。レーザ吸収材の含有量が10体積%を超えると第2のガラス基板2との界面近傍で局所的に発熱するおそれがあり、また封着材料の溶融時の流動性が劣化して第1のガラス基板1との接着性が低下するおそれがある。
【0029】
さらに、封着材料は必要に応じて低膨張充填材を含有する。低膨張充填材としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、コージェライト、ユークリプタイト、スポジュメン、リン酸ジルコニウム系化合物、石英固溶体、ソーダライムガラス、および硼珪酸ガラスから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。リン酸ジルコニウム系化合物としては、(ZrO)227、NaZr2(PO43、KZr2(PO43、Ca0.5Zr2(PO43、NbZr(PO43、Zr2(WO3)(PO42、これらの複合化合物が挙げられる。低膨張充填材とは封着ガラスより低い熱膨張係数を有するものである。
【0030】
低膨張充填材の含有量は、封着ガラスの熱膨張係数がガラス基板1、2の熱膨張係数に近づくように適宜に設定される。低膨張充填材は封着ガラスやガラス基板1、2の熱膨張係数にもよるが、封着材料に対して5〜50体積%の範囲で含有させることが好ましい。ガラス基板1、2を無アルカリガラス(熱膨張係数:30〜40×10-7/℃)で形成する場合には、比較的多量(例えば30〜50体積%の範囲)の低膨張充填材を添加することが好ましい。ガラス基板1、2をソーダライムガラス(熱膨張係数:80〜90×10-7/℃)で形成する場合には、比較的少量(例えば5〜40体積%の範囲)の低膨張充填材を添加することが好ましい。
【0031】
封着材料層7は以下のようにして形成される。封着材料層7の形成工程について、図6を参照して説明する。図6は本発明の封着材料層付きガラス部材の実施形態を示すものである。まず、封着ガラスにレーザ吸収材や低膨張充填材等を配合して封着材料を作製し、これをビヒクルと混合して封着材料ペーストを調製する。
【0032】
ビヒクルとしては、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、オキシエチルセルロース、ベンジルセルロース、プロピルセルロース、ニトロセルロース等の樹脂を、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したもの、またメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロオキシエチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂を、メチルエチルケトン、ターピネオール、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート等の溶剤に溶解したものが用いられる。
【0033】
ビヒクル中の樹脂成分は封着材料の有機バインダとして機能するものであり、封着材料を焼成する以前に除去する必要である。封着材料ペーストの粘度は、ガラス基板2に塗布する装置に対応した粘度に合わせればよく、樹脂成分(有機バインダ)と溶剤(有機溶剤等)の割合や封着材料とビヒクルとの割合により調整することができる。封着材料ペーストには、消泡剤や分散剤のようにガラスペーストで公知の添加物を加えてもよい。封着材料ペーストの調製には、攪拌翼を備えた回転式の混合機やロールミル、ボールミル等を用いた公知の方法を適用することができる。
【0034】
図6(a)に示すように、第2のガラス基板2の封止領域6に封着材料ペーストを塗布し、これを乾燥させて塗布層8を形成する。封着材料ペーストは、例えばスクリーン印刷やグラビア印刷等の印刷法を適用して第2の封止領域6上に塗布したり、あるいはディスペンサ等を用いて第2の封止領域6に沿って塗布する。塗布層8は、例えば120℃以上の温度で10分以上乾燥させる。乾燥工程は塗布層8内の溶剤を除去するために実施するものである。塗布層8内に溶剤が残留していると、その後の焼成工程(レーザ焼成工程)で有機バインダを十分に除去できないおそれがある。
【0035】
次に、図6(b)に示すように、封着材料ペーストの塗布層(乾燥膜)8に第1のレーザ光9を照射する。第1のレーザ光9を塗布層8に沿って照射し、塗布層8中の有機バインダを熱分解させることによって、塗布層8から有機バインダを除去した層(脱バイ層)10を形成する(図6(c))。第1のレーザ光9は特に限定されるものではなく、半導体レーザ、炭酸ガスレーザ、エキシマレーザ、YAGレーザ、HeNeレーザ等からのレーザ光が使用される。後述する第2および第3のレーザ光も同様である。
【0036】
第1のレーザ光9は、有機バインダの熱分解温度T1(℃)と封着ガラスの軟化温度T2(℃)に対して、塗布層8の加熱温度が(T1+200℃)以上で(T2+120℃)以下の範囲の温度となるように、塗布層8に沿って0.1mm/秒以上で1mm/秒以下の範囲の走査速度で照射することが好ましい。ここで、封着ガラスの軟化温度T2は軟化流動するが結晶化しない温度を示すものである。また、第1のレーザ光9を照射した際の塗布層8の温度は放射温度計で測定した値を示すものとする。後述する第2のレーザ光を照射した際の脱バイ層10の温度も同様である。
【0037】
塗布層8の温度が(T1+200℃)以上で(T2+120℃)以下の範囲の温度となるように第1のレーザ光9を照射すると、塗布層8中の有機バインダが熱分解し、熱分解成分(ガス成分)が層外に揮散して除去される。得られる脱バイ層10はガラス基板2から剥がれることなく、ガラス基板2に固着した状態となる。塗布層8の温度が(T1+200℃)に達しないようなレーザ光9の照射条件下では、有機バインダの熱分解を十分に進行させることができず、バインダ成分が残留するおそれがある。塗布層8の温度が(T2+120℃)を超えるようなレーザ光9の照射条件下では、塗布層8中の封着ガラスの溶融が進行し、有機バインダの熱分解成分の層外への揮散を阻害するおそれがある。
【0038】
このように、第1のレーザ光9を塗布層8に照射して有機バインダを除去することによって、封着材料層7内の残留カーボン量を低減することができる。残留カーボンはガラスパネル内の不純物ガス濃度を上昇させる要因となる。このような有機バインダの除去工程を実現する上で、第1のレーザ光9は0.1mm/秒以上で1mm/秒以下の範囲の走査速度で照射することが好ましい。第1のレーザ光9の走査速度が0.1mm/秒未満であると、ガラス基板2が過剰に加熱されてクラックや割れ等が生じるおそれがある。
【0039】
一方、第1のレーザ光9の走査速度が1mm/秒を超えると、有機バインダの熱分解を十分に進行させることができず、バインダ成分が残留するおそれがある。脱バイ層10中にバインダ成分が残留すると、その後の焼成工程(第2のレーザ光の照射工程)で形成する封着材料層7の内部に気泡が生じたり、また表面に気泡による変形が生じる。さらに、封着材料層7内の残留カーボン量を十分に低減することができないため、ガラス基板1、2間をレーザ封着する際に発生するガス量が増加して気密性が低下するおそれがある。
【0040】
さらに、走査速度が0.1mm/秒以上で1mm/秒以下の範囲の第1のレーザ光9で、塗布層8の加熱温度を(T1+200℃)以上で(T2+120℃)以下の範囲とするにあたって、第1のレーザ光9は190〜250W/cm2の範囲のパワー密度を有することが好ましい。第1のレーザ光9のパワー密度が190W/cm2未満であると、塗布層8全体を均一に加熱することができない。第1のレーザ光9のパワー密度が250W/cm2を超えると、上記した加熱温度と走査速度とを両立させることが困難となる。
【0041】
次に、図6(d)に示すように、脱バイ層10に第2のレーザ光11を照射する。第2のレーザ光11を脱バイ層10に沿って照射することによって、封着材料を焼成して封着材料層7を形成する(図6(e))。第2のレーザ光11は封着ガラスの軟化温度T2(℃)に対して、脱バイ層10の加熱温度が(T2+120℃)以上で(T2+550℃)以下の範囲の温度となるように、脱バイ層10に沿って0.1mm/秒以上で50mm/秒以下の範囲の走査速度で照射することが好ましい。
【0042】
脱バイ層10の温度が(T2+120℃)以上で(T2+550℃)以下の範囲となるように第2のレーザ光11を照射すると、封着材料中の封着ガラスが溶融並びに急冷固化され、これにより封着材料が第2のガラス基板2に焼き付けられて封着材料層7が形成される。脱バイ層10の温度が(T2+120℃)に達しないようなレーザ光11の照射条件下では脱バイ層10の表面部分のみが溶融され、脱バイ層10全体を均一に溶融させることができない。脱バイ層10の温度が(T2+550℃)を超えるようなレーザ光11の照射条件下では、ガラス基板2や封着材料層7にクラックや割れ等が生じやすくなる。
【0043】
また、第2のレーザ光11の走査速度が0.1mm/秒未満であると、ガラス基板2が過剰に加熱されてクラックや割れ等が生じやすくなる。一方、第2のレーザ光11の走査速度が50mm/秒を超えると、脱バイ層10全体を均一に溶融させることができないおそれがある。さらに、予め第1のレーザ光9で封着材料ペーストの脱バイ処理を実施しているため、第2のレーザ光11の照射時にはバインダ成分の除去を考慮する必要がない。従って、第2のレーザ光11の走査速度は封着ガラスが溶融可能な範囲で速くすることができ、具体的には10mm/秒以上とすることがより好ましい。これによって、封着材料層7の製造工数や製造コストをより一層削減することが可能となる。
【0044】
さらに、走査速度が0.1mm/秒以上で50mm/秒以下の範囲の第2のレーザ光11で、脱バイ層10の加熱温度を(T2+120℃)以上で(T2+550℃)以下の範囲とするにあたって、第2のレーザ光11は250〜2000W/cm2の範囲のパワー密度を有することが好ましい。第2のレーザ光11のパワー密度が250W/cm2未満であると、脱バイ層10全体を均一に加熱することができず、表面部分のみが溶融して気泡や変形が生じやすくなる。また、パワー密度が2000W/cm2を超えると、ガラス基板2や封着材料が過剰に加熱されてクラックや割れ等が生じやすくなる。
【0045】
封着材料層7の形成工程は、塗布層8の膜厚に限定されるものではないが、焼成後の厚さ(封着材料層7の厚さ)が20μm未満となるような膜厚を有する塗布層8に対して有効である。焼成後の厚さが20μm以上となるような膜厚を有する塗布層8では、レーザ光9、11で塗布層8や脱バイ層10全体を均一に加熱することができないおそれがある。このような場合には、第2のレーザ光11の照射時に脱バイ層10の表面部分のみが溶融してガラス化され、封着材料層7の内部に気泡が生じたり、また表面に気泡による変形が生じやすくなる。封着材料層7の膜厚は20μm未満、さらに10μm以下とすることが好ましい。封着材料層7の厚さは実用的には5μm以上とすることが好ましい。
【0046】
この実施形態による封着材料層7の形成工程においては、封着材料ペーストの塗布層8に第1のレーザ光9と第2のレーザ光11を順に照射することによって、塗布層8や脱バイ層10を選択的に加熱している。このため、第2のガラス基板2の表面2aにカラーフィルタ等の有機樹脂膜、また素子膜等が形成されているような場合においても、有機樹脂膜や素子膜等に熱ダメージを与えることなく、封着材料層7を良好に形成することができる。さらに、有機バインダの除去性に優れ、残留カーボン量を十分に低減することができるため、封着性や信頼性等に優れる封着材料層7を得ることができる。
【0047】
また当然ながら、第1および第2のレーザ光9、11を用いた封着材料層7の形成工程は、第2のガラス基板2の表面2aに有機樹脂膜や素子膜等が形成されていない場合においても適用することが可能であり、そのような場合にも封着性や信頼性等に優れる封着材料層7を得ることができる。さらに、レーザ光9、11による封着材料層7の形成工程(脱バイおよび焼成工程)は、従来の加熱炉による焼成工程に比べてエネルギー消費量が少なく、また製造工数や製造コストの削減にも寄与する。従って、省エネやコスト削減等の観点からも、レーザ光9、11による封着材料層7の形成工程は有効である。
【0048】
次に、第2のガラス基板2とは別に作製した第1のガラス基板1を用意し、これらガラス基板1、2を用いて、OELD、PDP、LCD等のFPD、OEL素子を用いた照明装置、色素増感型太陽電池のような太陽電池等の電子デバイスを作製する。すなわち、図1(b)に示すように、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2とを、それらの表面1a、2a同士が対向するように封着材料層7を介して積層する。第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間には、封着材料層7の厚さに基づいて間隙が形成される。
【0049】
次いで、図1(c)に示すように、第2のガラス基板2を通して封着材料層7に第3のレーザ光12を照射する。第3のレーザ光12は第1のガラス基板1を通して封着材料層7に照射してもよい。第3のレーザ光12は枠状の封着材料層7に沿って走査しながら照射される。封着材料層7はレーザ光12が照射された部分から順に溶融し、レーザ光12の照射終了と共に急冷固化されて第1のガラス基板1に固着する。そして、封着材料層7の全周にわたって第3のレーザ光12を照射することによって、図1(d)に示すように第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間を封止する封着層13を形成する。
【0050】
このようにして、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2と封着層13とで構成したガラスパネルで、第1のガラス基板1と第2のガラス基板2との間に配置された電子素子部4を気密封止した電子デバイス14を作製する。なお、この実施形態のガラスパネルは電子デバイス14の構成部品に限られるものではなく、電子部品の封止体、あるいは真空ペアガラスのようなガラス部材(建材等)にも応用することが可能である。
【0051】
この実施形態の電子デバイス14の製造工程によれば、第2のガラス基板2の表面2aに有機樹脂膜や素子膜等が形成されているような場合においても、それらに熱ダメージを与えることなく、封着材料層7並びに封着層13を良好に形成することができる。従って、電子デバイス14の機能やその信頼性を低下させることなく、気密封止性や信頼性に優れる電子デバイス14を再現性よく作製することが可能となる。
【実施例】
【0052】
次に、本発明の具体的な実施例およびその評価結果について述べる。なお、以下の説明は本発明を限定するものではく、本発明の趣旨に沿った形での改変が可能である。
【0053】
(実施例1)
Bi2383.2質量%、B235.6質量%、ZnO10.7質量%、Al230.5質量%の組成を有し、平均粒径が1μmのビスマス系ガラスフリット(軟化温度:450℃)と、低膨張充填材として平均粒径が2μmのコージェライト粉末と、Fe23−Cr23−MnO−Co23組成を有し、平均粒径が1μmのレーザ吸収材とを用意した。
【0054】
上記したビスマス系ガラスフリット72.7体積%とコージェライト粉末22.0体積%とレーザ吸収材5.3体積%とを混合して封着材料を作製した。この封着材料80質量%をビヒクル20質量%と混合して封着材料ペーストを調製した。ビヒクルはバインダ成分としてのエチルセルロース(2.5質量%)をターピネオールからなる溶剤(97.5質量%)に溶解したものである。エチルセルロースの熱分解温度は250℃である。
【0055】
次に、無アルカリガラス(熱膨張係数:38×10-7/℃)からなる第2のガラス基板(寸法:90×90×0.7mmt)を用意し、このガラス基板の封止領域に封着材料ペーストをスクリーン印刷法で塗布した後、120℃×10分の条件で乾燥させた。封着材料ペーストは乾燥後の膜厚が20μm、線幅が1mmとなるように塗布した。第2のガラス基板の表面には樹脂製カラーフィルタが形成されており、カラーフィルタに熱ダメージを与えることなく、第2のガラス基板の封止領域に封着層を形成する必要がある。
【0056】
次いで、封着材料ペーストの塗布層を形成した無アルカリガラス基板を、半導体レーザを用いたレーザ照射装置・LD−Heater L10060(商品名、浜松ホトニクス社製)のサンプルホルダ上にアルミナ基板(厚さ0.5mm)を介して配置し、塗布層に波長940nm、パワー密度249W/cm2のレーザ光(第1のレーザ光)を1mm/秒の走査速度で照射して脱バイ層を形成した。第1のレーザ光を照射した際の塗布層の加熱温度を放射温度計で測定したところ、塗布層の温度は560℃であった。
【0057】
続いて、同一のレーザ照射装置を用いて、レーザ光の照射条件をパワー密度746W/cm2、走査速度10mm/秒に変更した後、脱バイ層に沿ってレーザ光(第2のレーザ光)を照射することによって、膜厚が12μmの封着材料層(封着材料の焼成層)を形成した。第2のレーザ光を照射した際の脱バイ層の加熱温度を放射温度計で測定したところ、脱バイ層の温度は732℃であった。
【0058】
このようにして得た封着材料層の状態をSEMで観察したところ、良好にガラス化していることが確認された。封着材料層にはバインダ成分の残留に起因する気泡や表面変形の発生も認められなかった。封着材料層の残留カーボン量を測定したところ、同一の封着材料ペーストの塗布層を電気炉で焼成(250℃×40分)した際の残留カーボン量と同等であることが確認された。さらに、ガラス基板の表面に形成されたカラーフィルタに熱ダメージ等は生じていないことが確認された。
【0059】
次に、上述した封着材料層を有する第2のガラス基板と素子領域(OEL素子を形成した領域)を有する第1のガラス基板(第2のガラス基板と同組成、同形状の無アルカリガラスからなる基板)とを積層した。次いで、第2のガラス基板を通して封着材料層に対して、波長940nm、出力60W、スポット径1.6mmのレーザ光(第3のレーザ光)を10mm/sの走査速度で照射し、封着材料層を溶融並びに急冷固化することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。
【0060】
このようにして作製したガラスパネルの外観について、ガラス基板や封着層のクラックや割れ、封着層の接合状態等を光学顕微鏡で観察して評価したところ、いずれも良好であることが確認された。ガラスパネルの気密性をヘリウムリークテストで測定したところ、良好な気密状態が得られていることが確認された。また、ガラス基板と封着層との接合強度を測定したところ、上記した電気炉で焼成した封着層を用いて作製したガラスパネルと同等の強度が得られていることが確認された。
【0061】
(実施例2)
脱バイ層に対する第2のレーザ光の照射条件を、パワー密度1742W/cm2、走査速度50mm/秒に変更する以外は、実施例1と同様にして封着材料ペーストの塗布層の脱バイ工程および脱バイ層の焼成工程を実施することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。第2のレーザ光を照射した際の脱バイ層の温度は870℃であった。第1のレーザ光を照射した際の塗布層の温度は実施例1と同一であった。
【0062】
このようにして得た封着材料層の状態をSEMで観察したところ、良好にガラス化していることが確認された。また、封着材料層には有機バインダに起因する気泡や表面変形の発生も認められなかった。さらに、封着材料層の残留カーボン量を測定したところ、同一の封着材料ペーストの塗布層を電気炉で焼成(250℃×40分)した際の残留カーボン量と同等であることが確認された。
【0063】
次に、実施例1と同様にして、封着材料層を有する第2のガラス基板と素子領域を有する第1のガラス基板とを積層した後、第2のガラス基板を通して封着材料層に第3のレーザ光を照射することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。第1および第2のガラス基板は実施例1と同様に無アルカリガラスからなる。得られたガラスパネルは実施例1と同様に外観、気密性、接合強度等に優れるものであった。
【0064】
(実施例3)
封着材料ペーストの塗布層に対する第1のレーザ光の照射条件を、パワー密度199W/cm2、走査速度0.5mm/秒に変更する以外は、実施例1と同様にして封着材料ペーストの塗布層の脱バイ工程および脱バイ層の焼成工程を実施することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。第1のレーザ光を照射した際の塗布層の温度は560℃、第2のレーザ光を照射した際の脱バイ層の温度は730℃であった。
【0065】
このようにして得た封着材料層の状態をSEMで観察したところ、良好にガラス化していることが確認された。また、封着材料層には有機バインダに起因する気泡や表面変形の発生も認められなかった。さらに、封着材料層の残留カーボン量を測定したところ、同一の封着材料ペーストの塗布層を電気炉で焼成(250℃×40分)した際の残留カーボン量と同等であることが確認された。
【0066】
次に、実施例1と同様にして、封着材料層を有する第2のガラス基板と素子領域を有する第1のガラス基板とを積層した後、第2のガラス基板を通して封着材料層に第3のレーザ光を照射することによって、第1のガラス基板と第2のガラス基板とを封着した。第1および第2のガラス基板は実施例1と同様に無アルカリガラスからなる。得られたガラスパネルは実施例1と同様に外観、気密性、接合強度等に優れるものであった。
【0067】
(参考例1)
封着材料ペーストの塗布層に対する第1のレーザ光の照射条件を、パワー密度149W/cm2、走査速度1mm/秒に変更する以外は、実施例1と同様にして封着材料ペーストの塗布層の脱バイ工程および脱バイ層の焼成工程を実施することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。第1のレーザ光を照射した際の塗布層の温度は428℃、第2のレーザ光を照射した際の脱バイ層の温度は730℃であった。
【0068】
得られた封着材料層の状態をSEMで観察したところ、ガラス化していることは確認されたものの、表面には有機バインダ由来の気泡による変形が認められ、また内部には気泡が残留していることが確認された。このような封着材料層を用いて、第1のガラス基板と第2のガラス基板とのレーザ封着工程を実施例1と同一条件で実施したところ、良好な封着状態や気密性は得られなかった。
【0069】
(参考例2)
封着材料ペーストの塗布層に対する第1のレーザ光の照射条件を、パワー密度149W/cm2、走査速度0.5mm/秒に変更する以外は、実施例1と同様にして封着材料ペーストの塗布層の脱バイ工程および脱バイ層の焼成工程を実施することによって、膜厚が12μmの封着材料層を形成した。第1のレーザ光を照射した際の塗布層の温度は428℃、第2のレーザ光を照射した際の脱バイ層の温度は730℃であった。
【0070】
得られた封着材料層の状態をSEMで観察したところ、ガラス化していることは確認されたものの、表面には有機バインダ由来の気泡による変形が認められ、また内部には気泡が残留していることが確認された。このような封着材料層を用いて、第1のガラス基板と第2のガラス基板とのレーザ封着工程を実施例1と同一条件で実施したところ、良好な封着状態や気密性は得られなかった。
【符号の説明】
【0071】
1…第1のガラス基板、1a…表面、2…第2のガラス基板、2a…表面、3…素子領域、4…電子素子部、5…第1の封止領域、6…第2の封止領域、7…封着材料層、8…封着材料ペーストの塗布層、9…第1のレーザ光、10…脱バイ層、11…第2のレーザ光、12…第2のレーザ光、13…封着層、14…電子デバイス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
封止領域を有するガラス基板を用意する工程と、
封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着用ガラス材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記ガラス基板の前記封止領域上に枠状に塗布する工程と、
前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って第1のレーザ光を照射して選択的に加熱し、前記塗布層内の前記有機バインダを除去する工程と、
前記有機バインダを除去した前記塗布層に沿って第2のレーザ光を照射して選択的に加熱し、前記封着用ガラス材料を焼成して封着材料層を形成する工程と
を具備することを特徴とする封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項2】
前記有機バインダの熱分解温度をT1(℃)、前記封着ガラスの軟化温度をT2(℃)としたとき、前記第1のレーザ光の照射工程で前記塗布層の加熱温度が(T1+200℃)以上で(T2+120℃)以下の範囲の温度となるように、前記第1のレーザ光を0.1mm/秒以上で1mm/秒以下の範囲の走査速度で照射し、前記第2のレーザ光の照射工程で前記塗布層の加熱温度が(T2+120℃)以上で(T2+550℃)以下の範囲の温度となるように、前記第2のレーザ光を0.1mm/秒以上で50mm/秒以下の範囲の走査速度で照射することを特徴とする請求項1記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項3】
前記第1のレーザ光は190〜250W/cm2の範囲のエネルギー密度を有し、前記第2のレーザ光は250〜2000W/cm2の範囲のエネルギー密度を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項4】
前記封着材料層は20μm未満の厚さを有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項5】
前記封着用ガラス材料は、錫−リン酸系ガラスまたはビスマス系ガラスからなる前記封着ガラスを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項6】
前記封着用ガラス材料は、Fe、Cr、Mn、Co、NiおよびCuから選ばれる少なくとも1種の金属または前記金属を含む化合物からなる前記レーザ吸収材を0.1〜10体積%の範囲で含むことを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項7】
前記封着用ガラス材料は、シリカ、アルミナ、ジルコニア、珪酸ジルコニウム、チタン酸アルミニウム、ムライト、コージェライト、ユークリプタイト、スポジュメン、リン酸ジルコニウム系化合物、石英固溶体、ソーダライムガラス、および硼珪酸ガラスから選ばれる少なくとも1種からなる低膨張充填材を5〜50体積%の範囲で含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項記載の封着材料層付きガラス部材の製造方法。
【請求項8】
第1の封止領域を備える表面を有する第1のガラス基板を用意する工程と、
前記第1の封止領域に対応する第2の封止領域を備える表面を有する第2のガラス基板を用意する工程と、
封着ガラスとレーザ吸収材とを含む封着用ガラス材料を有機バインダと混合して調製した封着材料ペーストを、前記第2のガラス基板の前記第2の封止領域上に枠状に塗布する工程と、
前記枠状の封着材料ペーストの塗布層に沿って第1のレーザ光を照射して選択的に加熱し、前記塗布層内の前記有機バインダを除去する工程と、
前記有機バインダを除去した前記塗布層に沿って第2のレーザ光を照射して選択的に加熱し、前記封着用ガラス材料を焼成して封着材料層を形成する工程と、
前記第1のガラス基板の前記表面と前記第2のガラス基板の前記表面とを対向させつつ、前記封着材料層を介して前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板とを積層する工程と、
前記第1のガラス基板または前記第2のガラス基板を通して前記封着材料層に第3のレーザ光を照射し、前記封着材料層を溶融させて前記第1のガラス基板と前記第2のガラス基板との間に設けられた電子素子部を封止する封着層を形成する工程と
を具備することを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項9】
前記有機バインダの熱分解温度をT1(℃)、前記封着ガラスの軟化温度をT2(℃)としたとき、前記第1のレーザ光の照射工程で前記塗布層の加熱温度が(T1+200℃)以上で(T2+120℃)以下の範囲の温度となるように、前記第1のレーザ光を0.1mm/秒以上で1mm/秒以下の範囲の走査速度で照射し、前記第2のレーザ光の照射工程で前記塗布層の加熱温度が(T2+120℃)以上で(T2+550℃)以下の範囲の温度となるように、前記第2のレーザ光を0.1mm/秒以上で50mm/秒以下の範囲の走査速度で照射することを特徴とすることを特徴とする請求項8記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項10】
前記封着材料層は20μm未満の厚さを有することを特徴とする請求項8または請求項9記載の電子デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−51811(P2011−51811A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200460(P2009−200460)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】