説明

射出成形方法及び射出成形装置

【課題】合成樹脂材料の歩留まりを向上でき、さらに成形型の構造が簡単になるとともに、生産性を向上できるようにした射出成形方法及び射出成形装置を提供する。
【解決手段】円筒状の鉄心14の軸線方向に沿って形成された収容孔内に磁石を挿入するとともに、その磁石の外周面と収容孔の内周面との間に合成樹脂Rよりなる封止材を射出する。射出初期の合成樹脂のスラグを、ランナー21から分岐したスラグ溜部22に貯留させる。型開きに際してランナー21及びスラグ溜部22内に形成された合成樹脂部Raを、保持部材25により鉄心14の端面に保持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばモータ用の回転子鉄心に形成された永久磁石の収容孔に合成樹脂を射出するための射出成形方法及び射出成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記回転子鉄心には、その周方向に沿って複数の収容孔が形成され、その収容孔に永久磁石が収容されている。そして、前記永久磁石を固定するとともに、収容孔の内周面と永久磁石の外周面との間の隙間を封止するために、収容孔と永久磁石との間には封止材として合成樹脂が射出により充填される。
【0003】
このような合成樹脂による封止のための技術が例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1の従来技術においては、回転子鉄心が上型と下型との間に保持されるとともに、上型に形成された複数のポット内に熱硬化性合成樹脂が挿入される。そして、合成樹脂がポット内において加熱溶融されながら、プランジャにより上型のゲートを介して、収容孔の内周面と永久磁石の外周面との間に圧入される。この合成樹脂が硬化されることにより、永久磁石が回転子鉄心の収容孔内に封止状態で固定される。
【0004】
ところが、この従来装置においては、封止材として熱硬化性合成樹脂が使用されている。このため、ポット内において合成樹脂が熱硬化しやすく、硬化すれば射出することができずに廃棄される。このため、合成樹脂材料の歩留まりが悪くて、材料費が高くなるという問題があった。
【0005】
このような問題に対処するため、封止材として熱可塑性合成樹脂を使用することも考えられる。この方法においては、成形型内に合成樹脂材料を熱溶融状態で保持できるため、熱硬化性合成樹脂を用いた場合とは異なり、前記のような熱硬化による問題は生じない。しかし、この方法においては、型のスプルーやランナーに抜き勾配が形成されていても、射出成形後の型開き時に、スプルー及びランナーの部分で固化された合成樹脂部が型側に残り、除去し難くい。このため、射出成形終了ごとに、スプルー及びランナーの合成樹脂部をノズルの先端から除去する作業を必要とする必要な場合が多く、生産性の低下を招くという問題が生じた。
【0006】
さらに、熱可塑性合成樹脂を用いる場合、合成樹脂材料の射出初期には、ノズルの先端部分において硬化したスラグが射出されることを避けることができない。このため、特許文献2のように、スプルーの一部には前記スラグを収容するためのコールドスラグウェルと称されるスラグ溜部を設けることが一般に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−68356号公報
【特許文献2】特開2003−39495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、前記特許文献2のような従来技術の場合は、スプルーの一部に小部屋状のスラグ溜部が設けられるため、スプルー内の硬化した合成樹脂部を製品部側から引く抜くことができない。このため、成形型をスプルーの部分がその延長方向に沿って2分割されるように構成する必要があって、成形型の構成が複雑になる。しかも、成形型内においてスプルーの途中にスラグ溜部を設ける必要からスプルーが長くなり、従って廃棄される合成樹脂の量も多くなり、前記と同様に、歩留まりの向上が困難であった。
【0009】
この発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、合成樹脂材料の歩留まりを向上でき、さらに成形型の構造が簡単になるとともに、生産性を向上できる射出成形方法及び射出成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の目的を達成するために、射出成形方法の発明は、外殻体の端面に型を接合させて、その型と外殻体との間に形成されたランナーから外殻体に形成された空間内に合成樹脂を射出する射出成形方法において、射出初期の合成樹脂のスラグを、前記外殻体の端面側に開口するように前記型に形成されたスラグ溜部に貯留し、型開き時に、前記ランナー及びスラグ溜部内に形成された合成樹脂部を前記外殻体の端面に保持させることを特徴とする。
【0011】
前記射出成形方法において、前記空間が複数設けられ、成形型の1つのスプルーから複数のランナーを介して各空間に合成樹脂を充填するとともに、各ランナーに設けられたスラグ溜部にスラグを貯留することが望ましい。
【0012】
また、前記射出成形方法において、前記外殻体が円筒状の鉄心であって、前記空間が永久磁石を収容するための収容孔であり、前記合成樹脂を収容孔の内周面と鉄心の外周面との間に充填することが好ましい。
【0013】
以上の目的を達成するために、射出成形装置の発明では、外殻体を保持する第1型と、第1型に対して開閉されることにより前記外殻体の端面に接離可能に対応する第2型とを備え、その第2型に前記外殻体の端面側に開口するランナーを設け、型閉鎖時に前記外殻体に形成された空間内に対して、第2型のスプルーから前記ランナーを経て合成樹脂を射出するようにした射出成形装置において、前記第2型には、前記外殻体の端面側に開口するスラグ溜部を前記ランナーから分岐させるとともに、型開き時にランナー及びスラグ溜部内に形成された合成樹脂部を前記外殻体の端面に保持させる保持手段を設けたことを特徴とする。
【0014】
前記の構成において、それぞれ複数の前記ランナー及びスラグ溜部を第2型の環状領域に設けることが好ましい。
前記の構成において、複数のランナーを1つのスプルーから延長するとよい。
【0015】
前記の構成において、前記ランナーの中間部に屈曲部を形成するとともに、前記スラグ溜部をその屈曲部から分岐させるとよい。
前記の構成において、前記スラグ溜部をスプルーに対してランナーよりも直線的な線上に配置するとよい。
【0016】
前記の構成において、前記保持手段は、第2型の開閉面から出没可能な保持部材と、その保持部材を突出方向に付勢する付勢部材とよりなることが好ましい。
前記の構成において、前記保持手段はスラグ溜部内のスラグを保持するように、スラグ溜部と対応する位置に設けるとよい。
【0017】
さらに、前記の構成において、前記保持手段を隣接するスラグ溜部の間の位置に設けたことが望ましい。
従って、この発明においては、型閉鎖状態で、ノズルからランナーを経て外殻体の空間内に合成樹脂が射出される際に、その射出初期の合成樹脂のスラグがランナーを経てスラグ溜部に導かれて貯留される。引き続き、スラグが取り除かれた合成樹脂が前記空間内に射出される。従って、射出初期の合成樹脂のスラグが空間内に導入されることを防止できて、成形品の品質を向上させることができる。しかも、この発明においては、射出成形後の型開き時に、ランナー及びスラグ溜部内に形成された合成樹脂部が外殻体の端面に保持される。よって、スラグをスラグ溜部に貯溜して取り除くことができるため、合成樹脂として熱可塑性樹脂を問題なく使用できる。しかも、ランナー及びスラグ溜部が外殻体に面した位置に配置されるため、スプルーを外殻体に接近させて、ランナーを短くすることが可能になる。従って、ランナー及びスラグ溜部内の合成樹脂を小さくできる。よって、合成樹脂材料の歩留まりを向上できる。また、ランナー及びスラグ溜部の合成樹脂部が型側に残ることを防止することができて、その合成樹脂部をノズルの先端から除去するという煩雑な作業を省略することができる。また、ランナー及びスラグ溜部の合成樹脂部が外殻体側に保持されるため、合成樹脂部を取り出すために型を2分割するような複雑な構成は不要である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、この発明によれば、合成樹脂材料の歩留まりを向上でき、さらに成形型の構造が簡単になるとともに、生産性を向上できるという効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明を具体化した射出成形装置の一実施形態を示す断面図。
【図2】図1の射出成形装置の射出成形に用いられる鉄心の平面図。
【図3】図2の鉄心に対する射出成形後の状態を示す部分拡大平面図。
【図4】図3の4−4線において断面にして示す射出成形装置の成形時の状態を示す部分断面図。
【図5】図4の射出成形装置の保持部材を拡大して示す斜視図。
【図6】図4に示す状態から射出成形装置の型が開放される過程の動作状態を示す部分断面図。
【図7】図6の状態から型の開放動作が進行した状態を示す部分断面図。
【図8】射出成形が完了した状態を示す鉄心の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、この発明を具体化した射出成形方法及び射出成形装置の一実施形態を図面に基づいて説明する。この実施形態においては、モータ用の回転子鉄心の収容孔に対して熱可塑性合成樹脂(例えば、ポニフェニレンサルファイド:PPS)を射出する射出成形方法及び射出成形装置に具体化される。
【0021】
図1に示すように、この実施形態の射出成形装置は、下側の第1型11と、その第1型11の上方において複数のガイドロッド13を介して上下方向へ開閉可能に対向配置された第2型12とを備えている。第1型11は、上面に載置台15を備え、その載置台15上には、外殻体としての円筒状の回転子鉄心14が載置される。載置台15上には、回転子鉄心14の外周を支持する外周支持部15aと、内周を支持する内周支持部15bとが設けられている。
【0022】
前記回転子鉄心14は、図2に示す鉄心片14cを多数枚積層することによって構成されている。回転子鉄心14には、同一円周上において空間としての複数の向きの異なる収容孔14a,14bが交互に形成され、これらの収容孔14a,14bは回転子鉄心14の軸線方向に延びている。そして、各収容孔14a,14b内には、断面四角形をなす棒状の永久磁石16が挿入される。
【0023】
図1に示すように、前記第2型12に形成した複数の装着孔17bには、それぞれノズル17が同一円周上において所定の相互間隔を隔てて(図2及び図3参照)装着されている。各ノズル17は、第1型11上に回転子鉄心14が保持された状態で、近接する各一対の収容孔14a,14b間の中央位置において回転子鉄心14の上面と対応するように配置されている。第2型12の上面中央部には口金18が配置され、この口金18の上端部に図示しない射出装置が接続されるとともに、口金18の下端部はマニホールド19を介して各ノズル17の上端部に連結されている。
【0024】
そして、前記第1型11及び第2型12の型閉鎖時に、加熱溶融状態の熱可塑性合成樹脂Rが前記射出装置から口金18を経て、マニホールド19を介して各ノズル17に分配される。図4に示すように、各ノズル17にはヒータ17aが組み込まれるとともに、マニホールド19にも図示しないヒータが組み込まれている。これらのヒータ17aにより、分配される合成樹脂Rが熱溶融状態に保持される。
【0025】
図4に示すように、前記第2型12の下部にはその開閉面12aに向かって開口するように、各ノズル17の下端部と連通するとともに、下方へ向かって広がる複数のテーパ状のスプルー20が形成されている。スプルー20の上端には円筒部20aが形成されている。図3及び図4に示すように、回転子鉄心14上の隣接する各一対の収容孔14a,14bと各スプルー20の下端部との間に位置するように、第2型12の開閉面12aには複数のランナー21が開閉面12a側に開口した状態で形成されている。従って、1対のランナー21がスプルー20の下端から互いの反対方向に延長されている。各ランナー21の延長方向の中間部には、屈曲部21aが形成されている。
【0026】
そして、前記第1型11及び第2型12の型閉鎖状態において、第2型12の下面が回転子鉄心14の上端面に接合して、各スプルー20及びランナー21の下面開口が回転子鉄心14の上面によって閉鎖される。従って、回転子鉄心14が各スプルー20及びランナー21の一部を構成する。この状態において、各ノズル17に分配される合成樹脂Rが、各スプルー20及びランナー21を経て回転子鉄心14の各収容孔14a内に射出される。この射出により、各収容孔14aの内周面と永久磁石16の外周面との間及び永久磁石16の上端面の位置に合成樹脂Rが封止材として充填されて、永久磁石16が収容孔14a内に封止状態で固定される。
【0027】
図3及び図4に示すように、前記各ランナー21の屈曲部21aから分岐するように、第2型12の開閉面12aには複数のスラグ溜部22が開閉面12a側に開口した状態で形成されている。従って、このスラグ溜部22も第2型12の型閉鎖状態において回転子鉄心14の上面によって閉鎖されるようになっていて、回転子鉄心14がスラグ溜部22の一部を構成する。このスラグ溜部22は、前記屈曲部21aから屈曲されることなく分岐され、回転子鉄心14の円周方向に沿ってほぼ直線的に延びるように形成されている。これらのスラグ溜部22,前記ランナー21及びスプルー20は、回転子鉄心14の収容孔14aの内周側における環状領域と対応するように配置されている。
【0028】
図3及び図6に示すように、隣接する各一対のスラグ溜部22間に位置するように、前記第2型12には複数の保持手段としての保持機構23が配置されている。そして、前記第1型11及び第2型12の型開き時に、スプルー20、ランナー21及びスラグ溜部22内に形成されている合成樹脂部Raが、この保持機構23により回転子鉄心14の端面に押し付けられてその端面に保持されるようになっている。すなわち、図4及び図5に示すように、前記各保持機構23においては、第2型12の開閉面12aに収容凹部24が形成されている。収容凹部24内には、保持部材25が第2型12の開閉面12aから出没可能に収容されている。保持部材25の上部両側には突出部25aが形成され、この突出部25aが収容凹部24の両側内面に設けられた規制部24aの上端または下端に係合することにより、保持部材25の没入位置または突出位置が規制される。収容凹部24の内頂部と保持部材25との間には、その保持部材25を突出方向に付勢するための付勢部材としてのバネ26が介装されている。
【0029】
前記保持部材25の下部両側には、前記スラグ溜部22に対応し、その一部を形成する一対の溝部25bが形成されている。そして、図4に示すように、第1型11及び第2型12の型閉鎖時に、保持部材25が回転子鉄心14の上端面との当接により、バネ26の付勢力に抗して収容凹部24内に没入される。この没入状態で、前記各溝部25bが隣接する一対のスラグ溜部22の先端の一部を形成する位置に配置される。
【0030】
そして、射出初期においてスラグ溜部22に合成樹脂Rのスラグが導入されたときには、そのスラグが溝部25bの部分により堰き止められて、スラグ溜部22内に貯留される。また、図6に示すように、第1型11及び第2型12が型開きされたときには、その片開きにともない保持部材25がバネ26の付勢力により、回転子鉄心14の上面位置に保持される。この結果、保持部材25は、第2型12の開閉面12aから突出される。このため、隣接する一対のスラグ溜部22内に形成された合成樹脂部Raの先端が、保持部材25の両側溝部25bによって下方に押し付けられる。その結果、スプルー20内に形成された合成樹脂部Raがノズル17の下端から分離されて、スプルー20、ランナー21及びスラグ溜部22内の合成樹脂部Raが回転子鉄心14の上端面に押し付けられて、その上端面に保持される。
【0031】
次に、前記のように構成された射出成形装置において、回転子鉄心14の収容孔14aに合成樹脂を射出する射出成形方法について説明する。
さて、この射出成形時には、第1型11の外部において、その第1型11から外された載置台15上に回転子鉄心14が載置され、その状態で、回転子鉄心14の各収容孔14a内に永久磁石16が挿入される。そして、型開き状態にある第1型11上に載置台15が回転子鉄心14とともにセットされて、回転子鉄心14が第1型11上に保持される。その後、第1型11及び第2型12が型閉鎖されると、図1に示すように、第2型12の開閉面12aが回転子鉄心14の上端面に接合される。このとき、図4に示すように、各保持機構23の保持部材25が回転子鉄心14の上端面との当接により、バネ26の付勢力に抗して収容凹部24内に没入される。
【0032】
この状態で、加熱溶融状態の熱可塑性合成樹脂Rが各ノズル17からスプルー20及びランナー21を経て回転子鉄心14の各収容孔14aに射出される。この射出初期においては、合成樹脂Rのスラグがランナー21の屈曲部21aから直線的に分岐したスラグ溜部22に導かれて、そのスラグ溜部22内に貯留される。そして、スラグ溜部22内にスラグを含む合成樹脂が充満されると、スラグを含まない合成樹脂Rがランナー21を介して、各収容孔14aの内周面と永久磁石16の外周面との間等に充填され、その合成樹脂Rを封止材として永久磁石16が収容孔14a内に固定される。
【0033】
そして、収容孔14a内に射出された合成樹脂Rが固化した後、第1型11及び第2型12が型開きされると、図6に示すように、第2型12の型開きにともない各保持機構23の保持部材25がバネ26の付勢力により、第2型12の開閉面12aから突出され、回転子鉄心14の上端面に接合した位置を維持する。このため、隣接する一対のスラグ溜部22内に形成された合成樹脂部Raが保持部材25によって回転子鉄心14の上面に同時に押し付けられて、スプルー20内の合成樹脂部Raの先端がノズル17の下端から分離される。従って、図7に示すように、第1型11及び第2型12の型開きが進行すると、スプルー20、ランナー21及びスラグ溜部22内の一体化された合成樹脂部Raが回転子鉄心14の端面に保持される。
【0034】
よって、第1型11及び第2型12の型開き後に、回転子鉄心14を載置台15とともに第1型11上から取り出すと、図8に示すように、回転子鉄心14の上端面にはスプルー20、ランナー21及びスラグ溜部22内で形成された複数の合成樹脂部Raが突設されている。これらの合成樹脂部Raは、後工程において回転子鉄心14の上端面から除去される。
【0035】
従って、この実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1) この実施形態においては、型閉鎖状態で、ノズル17からランナー21を経て回転子鉄心14の収容孔14aに合成樹脂Rが射出される際に、その射出初期の合成樹脂Rのスラグがランナー21から分岐したスラグ溜部22に導かれて貯留される。このため、収容孔14a内にはスラグを除いた合成樹脂が射出される。従って、射出初期の劣化した合成樹脂Rであるスラグが回転子鉄心14の収容孔14a内に導入されることを防止でき、成形品の品質低下を招くおそれを回避することができて、成形品である封止材の品質向上を図ることができる。以上のように、スラグを適切に処理できるため、合成樹脂Rとして熱可塑性樹脂を用いることができて、熱硬化性樹脂を用いた場合とは異なり、材料の歩留まりを向上させることができる。
【0036】
(2) この実施形態においては、ランナー21及びスラグ溜部22が第1型11の回転子鉄心14と接合する面に形成されている。従って、スプルー20を回転子鉄心14に接近して配置することができ、その結果スプルー20が短くなり、スプルー20内の合成樹脂部Raも小さくなって、前記と同様に材料の歩留まりを向上できる。
【0037】
(3) この実施形態においては、射出成形後の型開き時に、その型開き動作にともなう保持機構23の作用により、ランナー21及びスラグ溜部22内に形成された合成樹脂部Raが回転子鉄心14の端面に保持されるようになっている。このため、ランナー21及びスラグ溜部22の合成樹脂部Raがノズル17の先端部分に残ることを防止できる。よって、射出成形が終了するごとにランナー21等の合成樹脂部Raをノズル17の先端部分から分離するという煩雑な作業を行う必要がなく、生産性を高めることができる。また、合成樹脂部Raを型開きとともに回転子鉄心14から剥がすと、合成樹脂部Raと永久磁石16の封止部との間のジョイント部において封止部の上面が抉られたり、封止部の上面に小突起が残留したりするおそれがある。このような場合は、回転子鉄心14が不良製品となる可能性が高い。しかし、この実施形態においては、合成樹脂部Raが回転子鉄心14の上面に保持され、後工程において例えば研削により合成樹脂部Raを取り除くことができるため、不良製品になるおそれはほとんどない。さらに、合成樹脂部Raが保持部材25により保持されるため、合成樹脂部Raがスプルー20の上端とノズル17の先端との間で、適切に分離される。すなわち、スプルー20の上端には、ノズル17の上下位置の誤差を吸収するための円筒部20aが形成されているが、多数回の射出にともないこの円筒部20aが磨耗されてアンダーカット形状に変形することがある。このような場合は、スプルー20内の合成樹脂部がノズル17の先端部分から離脱しにくくなるが、この実施形態においては、保持部材25により合成樹脂部Raが回転子鉄心14の上端面に押し付けられるため、このようなおそれを未然に回避できる。
【0038】
(4) この実施形態においては、ランナー21の延長方向の中間位置に屈曲部21aが形成され、その屈曲部21aから直線的に分岐するようにスラグ溜部22が形成されている。言い換えれば、スプルー20を起点とするほぼ直線上に位置にスラグ溜部22が位置し、ランナー21は屈曲して収容孔14aに至る。このため、射出初期の合成樹脂Rのスラグがノズル17からランナー21内に供給されたとき、スラグを含む合成樹脂は、まずスラグ溜部22に貯留され、その後、劣化していない合成樹脂が収容孔14aに充填される。従って、スラグが収容孔14a内に導かれることを回避できて、高品質の封止部を形成でき、ひいては高品質の回転子鉄心14を得ることができる。
【0039】
(5) この実施形態においては、保持機構23の保持部材25が、保持部材25が型の型開きにともなってバネ26により第2型12の開閉面12aから突出される。このため、保持部材25を動作させるためのアクチュエータが不要で、構成が簡単である。
【0040】
(6) この実施形態においては、隣接する一対の収容孔14a間に位置されるように、第2型12にノズル17が設けられている。そして、そのノズル17と収容孔14aとの間にランナー21が設けられている。従って、ノズル17を収容孔14aの数よりも少なくできて、構成を簡素化できる。
【0041】
(7) この実施形態においては、スラグ溜部22がランナー21から分岐され、隣接するスラグ溜部22は、互いに接近する方向に延びるように形成されている。そして、隣接する一対のスラグ溜部22間に位置するように、第2型12に保持機構23が配置されている。このため、複数の保持機構23をノズル17に干渉することなく第2型12に配置することができるとともに、隣接する一対のスラグ溜部22を1つの保持機構23により同時に押し付け保持することができて、構造の簡略化を図ることができる。
【0042】
(変更例)
なお、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ スラグを保持するための保持機構23の保持部材25がスラグの先端以外のところを保持するように構成すること。
【0043】
・ 保持機構23の保持部材25として、スラグを保持する構成に代えて、ランナー21の部分の合成樹脂部Raを保持するように構成すること。このように構成した場合、スラグ溜部22の部分の合成樹脂部Raはランナー21の部分の合成樹脂部Raと一体であるため、前記と同様に合成樹脂部Ra全体を回転子鉄心14の上端面に保持できる。
【0044】
・ 外殻体として、回転子鉄心14以外のもの、例えばモータの固定子鉄心を用いること。
・ スプルー20から3本以上のランナー21を延長して、合成樹脂を3箇所以上の収容孔14aに対して同時に射出するように構成すること。
【符号の説明】
【0045】
11…第1型、12…第2型、12a…開閉面、14…回転子鉄心、14a…収容孔、14b…収容孔、16…永久磁石、17…ノズル、20…スプルー、21…ランナー、21a…屈曲部、22…スラグ溜部、23…保持手段としての保持機構、25…保持部材、26…付勢部材としてのバネ、R…合成樹脂、Ra…合成樹脂部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻体の端面に型を接合させて、その型と外殻体との間に形成されたランナーから外殻体に形成された空間内に合成樹脂を射出する射出成形方法において、
射出初期の合成樹脂のスラグを、前記外殻体の端面側に開口するように前記型に形成されたスラグ溜部に貯留し、型開き時に、前記ランナー及びスラグ溜部内に形成された合成樹脂部を前記外殻体の端面に保持させることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
前記空間が複数設けられ、成形型の1つのスプルーから複数のランナーを介して各空間に合成樹脂を充填するとともに、各ランナーに設けられたスラグ溜部にスラグを貯留することを特徴とする請求項1に記載の射出成形方法。
【請求項3】
前記外殻体が円筒状の鉄心であって、前記空間が永久磁石を収容するための収容孔であり、前記合成樹脂を収容孔の内周面と鉄心の外周面との間に充填することを特徴とする請求項1または2に記載の射出成形方法。
【請求項4】
外殻体を保持する第1型と、第1型に対して開閉されることにより前記外殻体の端面に接離可能に対応する第2型とを備え、その第2型に前記外殻体の端面側に開口するランナーを設け、型閉鎖時に前記外殻体に形成された空間内に対して、第2型のスプルーから前記ランナーを経て合成樹脂を射出するようにした射出成形装置において、
前記第2型には、前記外殻体の端面側に開口するスラグ溜部を前記ランナーから分岐させるとともに、型開き時にランナー及びスラグ溜部内に形成された合成樹脂部を前記外殻体の端面に保持させる保持手段を設けたことを特徴とする射出成形装置。
【請求項5】
それぞれ複数の前記ランナー及びスラグ溜部を第2型の環状領域に設けたことを特徴とする請求項4に記載の射出成形装置。
【請求項6】
複数のランナーを1つのスプルーから延長したことを特徴とする請求項4または5に記載の射出成形装置。
【請求項7】
前記ランナーの中間部に屈曲部を形成するとともに、前記スラグ溜部をその屈曲部から分岐させたことを特徴とする請求項4〜6のうちのいずれか一項に記載の射出成形装置。
【請求項8】
前記スラグ溜部をスプルーに対してランナーよりも直線的な線上に配置したことを特徴とする請求項7に記載の射出成形装置。
【請求項9】
前記保持手段は、第2型の開閉面から出没可能な保持部材と、その保持部材を突出方向に付勢する付勢部材とよりなることを特徴とする請求項4〜8のうちのいずれか一項に記載の射出成形装置。
【請求項10】
前記保持手段はスラグ溜部内のスラグを保持するように、スラグ溜部と対応する位置に設けたことを特徴とする請求項9に記載の射出成形装置。
【請求項11】
前記保持手段を隣接するスラグ溜部の間の位置に設けたことを特徴とする請求項10に記載の射出成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−83931(P2011−83931A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237365(P2009−237365)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】