説明

射出成形方法

【課題】歪みの発生や形状転写性の悪化を抑制することができる射出成形方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る射出成形方法は、熱可塑性樹脂中に粒子径が100nm以下の無機微粒子が分散された有機無機複合材料を射出・成形する射出成形方法であって、前記有機無機複合材料を金型1のキャビティ26に充填する工程と、金型1のキャビティ26から前記有機無機複合材料で構成された成形品を取り出す工程と、を有し、前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとした場合に、前記有機無機複合材料を充填する工程では、金型1のキャビティ26表面の温度をTg+15℃以上でTg+70℃以下の温度とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は射出成形方法に関し、特に熱可塑性樹脂中に粒子径が100nm以下の無機微粒子が分散された有機無機複合材料を射出・成形する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂等の光学材料に、使用される波長より十分に小さい無機微粒子を分散させることにより、光学材料としての透明性を損なうことなく、光学性能を調整した有機無機複合材料が開発されている(特許文献1,2参照)。特に十分な光学材料としての透明性を得るために、粒子径が100nm以下の無機微粒子を分散させた有機無機複合材料が開発されている。しかしながら、実際に、高い光学的な精度が要求される撮像素子や光ピックアップ装置用の光学素子として成形した場合に、期待された光学性能が得られないという問題が発生している。
【0003】
本発明者らの検討の結果、光学材料に粒子径が100nm以下の非常に微細な無機微粒子を分散させた場合、熱可塑性樹脂と無機微粒子の界面の表面積が著しく大きくなるため、有機無機複合材料の流動性が低下し、また、無機微粒子を分散させた場合、従来の熱可塑性樹脂に比べ、熱伝導率が高くなる性質が見られることが判明した。そのため、有機無機複合材料を従来の熱可塑性樹脂の成形方法により成形すると、流動性の低さに起因して成形された光学素子に歪みが生じたり、熱伝導率が高いことに起因して成形面に接触した際に急激に固化して表面性(形状転写性)が悪化してしまい、結果として、光学性能が悪化するという問題を引き起こしていることが判明した。
【特許文献1】特開2002−207101号公報
【特許文献2】特開2002−240901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の主な目的は、熱可塑性樹脂中に粒子径が100nm以下の無機微粒子が分散された有機無機複合材料を射出・成形する射出成形方法であって、歪みの発生や形状転写性の悪化を抑制することができる射出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明によれば、
熱可塑性樹脂中に粒子径が100nm以下の無機微粒子が分散された有機無機複合材料を射出・成形する射出成形方法であって、
前記有機無機複合材料を金型のキャビティに充填する工程と、
前記金型のキャビティから前記有機無機複合材料で構成された成形品を取り出す工程と、
を有し、
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとした場合に、前記有機無機複合材料を充填する工程では、前記金型のキャビティ表面の温度をTg+15℃以上でTg+70℃以下の温度とすることを特徴とする射出成形方法が提供される。
【0006】
好ましくは、前記有機無機複合材料の成形品を取り出す工程では、前記金型のキャビティ表面の温度をTg−30℃以上でTg以下の温度とする。
更に好ましくは、前記金型のキャビティ表面には微細構造が設けられている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、有機無機複合材料を充填する工程で金型のキャビティ表面の温度をTg+15℃以上でTg+70℃以下という一定範囲にするから、歪みの発生や形状転写性の悪化を抑制することができる(下記実施例参照)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0009】
本実施形態は、射出成形用の金型を用いて熱可塑性樹脂中に無機微粒子が分散された有機無機複合材料を射出・成形し、光学素子を製造する方法を提供するものである。本発明の射出成形方法により製造できる光学素子としては特に限定はないが、特に光学的な安定性や精密性が求められる光ピックアップ装置用の光学素子や、撮像装置用の光学素子の製造方法として特に好ましい。
下記では、始めに(1)金型の構成について説明し、その後に有機無機複合材料を構成する(2)熱可塑性樹脂と(3)無機微粒子とについて説明し、最後に(4)その金型を用いて光学素子を製造する方法(射出成形方法を含む。)について説明する。
【0010】
(1)金型の構成
本実施形態に係る金型1は図1上段に示す通りに固定型10と可動型20とで構成されており、固定型10と可動型20とが互いに重ね合わせられる構成を有している。
【0011】
固定型10と可動型20とは互いに分離するようになっており、樹脂等の被成形材料(本実施形態では有機無機複合材料)を射出・成形(充填)する場合には互いに密着して閉じられ、その被成形材料(成形品)を取り出す場合には可動型20が固定型10に対し分離するように移動して開けられるようになっている。
【0012】
図1下段に示す通り、可動型20にはスプルー22、ランナー23、ゲート24及びキャビティ26が設けられている。スプルー22は被成形材料の流入口となるもので、可動型20のほぼ中心部に配置されている。ランナー23はスプルー22から放射状に延出しており、ゲート24に連通している。ゲート24は、ランナー23から被成形材料の流入を受けてその被成形材料をキャビティ26に注入する部位である。
【0013】
キャビティ26は成形品が形成される部位であり、ゲート26から被成形材料の注入(充填)を受けてその被成形材料から成形品を形成するようになっている。本実施形態においては、成形品として、成形面(光学面)に微細構造である回折構造が設けられた光ピックアップ装置用の光学素子を例として挙げる。微細構造としては、光学面に設けることで様々な機能を持たせることができる微細構造が知られており、本発明においても特に限定されない。例えば、断面が鋸歯状となる光軸を中心とする同心円状の微細な段差構造により構成される位相構造(回折構造を含む)や、反射防止機能を付与する為の微細構造等が知られているが、これらの構造については公知である為詳細は省略する。キャビティ26には成形品に対し微細構造を付与するための微細構造部28(同心円状の段差構造)が形成されており、キャビティ26に充填された被成形材料にその微細構造が転写されるようになっている。
【0014】
金型1の周縁部には、スプルー22、ランナー23、ゲート24及びキャビティ26を取り囲むように円形状の流路32,42が形成されている。流路32,42には流入・流出口(図示略)が接続されており、当該流入・流出口から媒体(流体)を流入・流出させることで流路32,42に媒体を循環させることができるようになっている。そして当該媒体として高温媒体や低温媒体(冷媒)を使用することで、金型1(特にキャビティ26の表面)を加熱したり冷却したりすることができるようになっている。流路32,42に循環させる「媒体」としては、オイル等の液体やエアー等の気体を使用することができる。
【0015】
一方、固定型10においては、可動型20のスプルー22、ランナー23、ゲート24、キャビティ26等に対し相補的な関係を有する部位が形成されており、固定型10は可動型20とほぼ同様の構成を有している。
【0016】
(2)熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂としては、光学素子としての加工性の観点から、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂又はポリイミド樹脂であることが好ましく、環状オレフィンであることが特に好ましい。具体例として、特開2003−73559号公報に記載の化合物を挙げることができ、その好ましい化合物を下記表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
なお、上述した熱可塑性樹脂は、光学材料としての寸法安定性の観点から、吸湿率が0.2%以下であることが望ましいため、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(登録商標)AF:デュポン社製)、環状オレフィン樹脂(日本ゼオン製:ZEONEX、三井化学製:APEL、JSR製:アートン、チコナ製:TOPAS)、インデン/スチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂等が好適に用いられる。
【0019】
(3)無機微粒子
無機微粒子としては、酸化物微粒子、金属塩微粒子、半導体微粒子などが挙げられ、この中から、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光、蛍光等が生じないものを適宜選択して使用することができる。
【0020】
酸化物微粒子としては、金属酸化物を構成する金属が、Li、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Rb、Sr、Y、Nb、Zr、Mo、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Cs、Ba、La、Ta、Hf、W、Ir、Tl、Pb、Bi及び希土類金属からなる群より選ばれる1種または2種以上の金属である金属酸化物を用いることができ、具体的には、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム、アルミニウム・マグネシウム酸化物(MgAl24)等が挙げられる。
【0021】
その他の酸化物微粒子として希土類酸化物を用いることもでき、具体的には酸化スカンジウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化プラセオジム、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化ユウロピウム、酸化ガドリニウム、酸化テルビウム、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウム、酸化ルテチウム等も挙げられる。金属塩微粒子としては、炭酸塩、リン酸塩、硫酸塩などが挙げられ、具体的には炭酸カルシウム、リン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0022】
半導体微粒子とは、半導体結晶組成の微粒子を意味し、該半導体結晶組成の具体的な組成例としては、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン、テルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II,IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ga2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII−VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As23)、セレン化砒素(III)(As2Se3)、テルル化砒素(III)(As2Te3)、硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(Cu2O)、セレン化銅(I)(Cu2Se)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO3)等が挙げられる。なお、G.Schmidら;Adv.Mater.,4巻,494頁(1991)に報告されている(BN)75(BF1515や、D.Fenskeら;Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,29巻,1452頁(1990)に報告されているCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0023】
上記の無機微粒子の中でも、光学材料として用いられる樹脂の屈折率が1.4〜1.7程度である場合が多いことから、これに近い屈折率をもつ酸化物微粒子が、好ましく用いられる。具体的には、シリカ(酸化ケイ素)、炭酸カルシウム、リン酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、アルミニウム・マグネシウム酸化物などが挙げられる。任意に屈折率を調節できるという観点から、SiとSi以外の金属元素を含む複合酸化物微粒子がさらに好ましく用いられる。また、複合粒子の形態については、同一粒子内で成分がほぼ均一である複合構造であっても、粒子を構成する内層の成分と外層の成分とが異なる所謂コアシェル構造と呼ばれる複合構造であってもよい。
【0024】
本実施形態において熱可塑性樹脂中に分散される無機微粒子は、光線透過率を劣化させない範囲であれば、1種類の無機微粒子を用いてもよく、また複数種類の無機微粒子を併用してもよい。異なる性質を有する複数種類の微粒子を用いることで、必要とされる特性を更に効率よく向上させることもできる。
【0025】
無機微粒子の平均一次粒子径は、1〜100nmであることが好ましく、1〜50nmであることがより好ましく、1〜15nmであることが特に好ましい。無機微粒子の平均一次粒子径は、無機微粒子を同体積の球に換算したときの直径の平均値を示し、この値は透過型電子顕微鏡写真から評価することができる。
【0026】
無機微粒子の形状は、特に限定されるものではないが、球状の微粒子が好適に用いられる。具体的には、粒子の最小径(微粒子の外周に接する2本の接線を引く場合における当該接線間の距離の最小値)/最大径(微粒子の外周に接する2本の接線を引く場合における当該接線間の距離の最大値)が0.5〜1.0であることが好ましく、0.7〜1.0であることが更に好ましい。
【0027】
また、有機無機複合材料とされた状態(熱可塑性樹脂中に分散された状態)において、その有機無機複合材料全体に対する無機微粒子の混合比は、下限が5体積%以上であり、好ましくは10体積%以上であり、より好ましくは20体積%以上であり、上限が50体積%以下であり、好ましくは40体積%以下である。
【0028】
(4)光学素子の製造方法
始めに、樹脂可塑性樹脂に無機微粒子が分散された有機無機複合材料を製造する。具体的には、無機微粒子存在下で熱可塑性樹脂を重合させることで複合化する方法、熱可塑性樹脂の存在下で無機微粒子を形成し複合化する方法、無機微粒子を熱可塑性樹脂の溶媒になる液中に分散液とし、その後溶媒を除去することで複合化する方法、無機微粒子と熱可塑性樹脂を別々に用意し、溶融混練、溶媒を含んだ状態での溶融混練などで複合化する方法等、何れの方法によっても製造することができる。
【0029】
これらの中で、無機微粒子と熱可塑性樹脂を別々に用意し、溶融混練で複合化する方法は、簡便で製造コストを抑えることが可能なことから、好ましく用いられる。溶融混練に用いることのできる装置としては、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置またはバッチ式混練装置を挙げることができる。また、単軸押出機、二軸押出機等のように連続式の溶融混練装置を用いて製造することもできる。
【0030】
有機無機複合材料の製造方法において、溶融混練を用いる場合、熱可塑性樹脂と無機微粒子を一括で添加し混練してもよいし、段階的に分割添加して混練してもよい。この場合、押出機などの溶融混練装置では、段階的に添加する成分をシリンダーの途中から添加することも可能である。また、予め混練後、熱可塑性樹脂以外の成分で予め添加しなかった成分を添加して更に溶融混練する際も、これらを一括で添加して、混練してもよいし、段階的に分割添加して混練してもよい。分割して添加する方法も、一成分を数回に分けて添加する方法も採用でき、一成分は一括で添加し、異なる成分を段階的に添加する方法も採用でき、そのいずれをも合わせた方法でも良い。
【0031】
溶融混練による複合化を行う場合、無機微粒子は粉体のまま添加することも可能であるし、又は液中に分散された状態で添加することも可能であるが、予め所定の混合比で無機微粒子と樹脂とを予備混合したマスターバッチを作製し、その後にそのマスターバッチと樹脂とを溶融混練で複合化する方法が好適である。この場合に、マスターバッチの作製方法としては、有機無機複合材料へのダメージが少なく、均一に混合することができるという観点から、湿式混合方式を適用するのが好ましい。湿式混合方式とは、適宜選択された溶媒中に樹脂を溶解させ、この樹脂が溶解した溶媒と無機微粒子とを混合することによりマスターバッチを作製する方法であり、前記溶媒を揮発させることにより最終的にマスターバッチを得ることができる。
【0032】
マスターバッチの作製に適用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ヘプタノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸−t−ブチル、酢酸−n−ブチル、酢酸−n−ヘキシル等のエステル類、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等のエーテル類、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等を挙げることができる。これらの溶媒は、単独で使用することもできるし、又は2種以上を混合して使用することもできる。
【0033】
有機無機複合材料の製造を終えたら、金型1を用いてその有機無機複合材料を射出・成形し、光学素子を製造する。
【0034】
具体的には、固定型10と可動型20とを閉じた状態で、金型1の流路32,42にオイル等の高温媒体を循環させておき、有機無機複合材料中の熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとして、キャビティ26の表面の温度をTg+15℃以上でTg+70℃以下の温度とし、キャビティ26の表面の温度が所望の温度に達したら、スプルー22から調製済みの有機無機複合材料を流入させ、この有機無機複合材料をランナー23,ゲート24からキャビティ26に注入・充填する。本発明において、ガラス転移温度(Tg)とは、JIS K7121に基く示差走査熱量分析法により昇温速度10℃/minで測定された温度を意味するものとする。
【0035】
その後、流路32,42に対し上記高温媒体に代えてオイル等の低温媒体を循環させ、キャビティ26の表面の温度をTg−30℃以上でTg以下の温度となるまで金型1を冷却し、キャビティ26の表面の温度が所望の温度に達したら、固定型10に対し移動型20を分離するように移動させ、有機無機複合材料から構成された成形品をキャビティ26から取り出す。その結果、キャビティ26の微細構造部28の形状が転写されて微細構造を有する光学素子を製造することができる。
【0036】
そしてこれら充填工程から取出し工程まで(有機無機複合材料のキャビティ26への充填からその次の充填まで)の各処理を1サイクルとして、これらサイクルを複数回にわたり繰り返すことにより、そのサイクル数に応じた複数個の成形品(すなわち光学素子)を量産することができる。本実施形態では、金型1には4つのキャビティ26が設けられているから、1サイクルの成形で4つの光学素子を製造することができる。
【0037】
以上の本実施形態では、有機無機複合材料を充填する工程で金型1のキャビティ26の表面の温度をTg+15℃以上でTg+70℃以下という一定範囲にするから、歪みの発生や形状転写性の悪化を抑制することができる(下記実施例参照)。
【実施例】
【0038】
(1)試料の作製
(1.1)無機微粒子の合成
シリカゾル(触媒化成工業(株)製:カタロイド、粒子径5nm、SiO濃度20重量%)460gと水176kgを混合し、これに濃度5重量%のNaOH水溶液6500gを添加して、分散液のpHを10.5とし、ついで、分散液の温度を95℃に昇温し、30分間95℃に維持して粒子分散液を調製した。
【0039】
温度を95℃に維持した粒子分散液に、水硝子(洞海化学(株)製:JIS3号水硝子、SiO濃度24重量%)17744gと水54320gとを混合して得た珪酸アルカリ水溶液と、アルミン酸ナトリウム水溶液(Al濃度22重量%、NaO濃度17重量%)5440gと水102880gとを混合して得たアルミン酸ナトリウム水溶液と、硫酸アンモニウム2280gと水57360gとを混合して得た電解質水溶液を11時間で添加した。このときの添加速度は、1.2(SiO+Al)g/核粒子単位表面積(m)時間、アルカリ(珪酸アルカリとアルミン酸ナトリウムのアルカリとの和)と電解質の当量比E/Eは2.18であった。ついで、1時間熟成を行った後、限外濾過膜により成長核粒子分散液のpHが10になるまで洗浄を行った。
【0040】
さらに、メチルトリメトキシシランを15.4g添加し、室温にて1時間攪拌後、2時間還流を行った。その後、常圧下、加熱蒸留しつつ、メチルエチルケトンを、容量を一定に保ちつつ滴下し、塔頂温が79℃に達し且つ水分が1.0%以下になったのを確認した時点で終了し、室温まで冷却後、3μメンブランフィルターを用いて精密濾過を行い、メチルエチルケトン分散ゾルを得た。TEM観察の結果、体積換算平均粒子径は、10nmであった。これらの作業を数回繰り返し、複合体作製(混練)用に必要な粒子量を確保した。
【0041】
(1.2)有機無機複合材料の作製
上記粒子分散液を、三井化学株式会社製アペル5014(ガラス転移点Tg=135℃;JIS K7121の示差走査熱量分析(DSC)において昇温速度10℃/minで測定された値)に脱揮しながら溶融混練し、有機無機複合材料を作製した。有機無機複合材料中の無機微粒子の含有量は、各50重量%になるようにした。溶融混練時にシクロヘキシルメチルジメトキシシランを加えることで無機微粒子の表面処理を行った。溶融混練には、ラボプラストミルKF−6Vを用い、窒素下で行った。100rpmで10分間混練し、終了前に2分間20Torrで減圧脱気を行った。これらの作業を数回繰り返したのち、得られた固形物を粉砕し、射出成形用の有機無機複合材料を得た。
【0042】
(1.3)成形品の作製
成形は型締力30tonのインライン方式の射出成形機を用いた。シリンダー温度を280℃に設定し、シリンダー内で可塑化した上記有機無機複合材料を射出成形した。その射出成形時において、樹脂の充填時のキャビティの温度と、成形品の取出し時のキャビティの温度とを変化させながら、その充填時の温度と取出し時の温度との組合せに応じて9種類の成形品を作製し(表2参照)、これら成形品を「試料1〜9」とした。
【0043】
射出成形に使用したレンズ金型は、CD/DVD互換性の光ピックアップレンズであり、光学機能面の全面に回折構造を有しており、CDの開口数(NA)が0.45であり、DVDの開口数(NA)が0.65であった。成形品はともに、レンズ部と当該レンズ部を囲繞するフランジ部を有するものであり、光軸方向の最大長さ(レンズ部の最大の厚さ)が2.00mmであり、光軸方向と垂直方向の最大長さ(フランジ部の端部同士を結ぶ最大の長さ)が5.00mmであった。
【0044】
(2)試料の評価
(2.1)収差の測定
各試料1〜9について、周知の方法を用いながら数値解析可能な干渉計(使用波長を100nmとした。)でコマ(COMA)収差を測定した。その測定結果を下記表2に示す。なお、試料4ではキャビティ表面での急激な固化による無機微粒子の浮出しが発生し、また試料5では添加剤のブリードアウトによると思われる表面荒れにより干渉縞が乱れ、収差の測定ができなかった。
【0045】
(2.2)外観の観察
各試料1〜9について光学顕微鏡によりレンズ面の観察を行い、歪み等の形状変化の有無を確認した。その観察結果を下記表2に示す。
【0046】
(2.3)形状転写性の観察
成形を自動運転する際に、自動取出機による成形品の自動取り出しを行い、成形品の形状転写性(離型性)を観察した。その観察結果を下記表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(3)結果と考察
表2に示す通り、コマ収差の測定においては、試料1〜3,6〜9で良好な値を得られた。成形品の外観の観察においては、試料1〜3,6〜9で表面光沢のある光学面が得られたが、試料4では無機微粒子の浮出しと思われる転写不良が観察され(表2中「×(1)」参照)、試料5では表面荒れがそれぞれ観察された(表2中「×(2)」参照)。成形品の形状転写性の観察においては、試料1〜9のいずれの試料でもレンズ性能としての許容範囲内の形状転写性を有し、自動取出しによる不具合は発生しなかったが、試料7ではランナー部の変形が発生し(表2中「△(3)」参照)、試料8ではランナーに欠けを生じた(表2中「△(4)」参照)。
【0049】
以上のように、樹脂充填時の金型温度を有機無機複合材料の母材樹脂のガラス転移温度Tg+15℃以上でTg+70℃以下に設定すると、成形品の外観が良好で形状転写性に優れかつコマ収差の小さいレンズ成形品が得られることがわかった。以上から、樹脂充填時の金型温度を母材樹脂のガラス転移温度Tg+15℃以上でTg+70℃以下にすることは、歪みの発生や形状転写性の悪化を抑制する上で有用であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の好ましい実施形態に係る金型の概略図であり、上段は当該金型の正面図であり、下段は上段中A−A線を上方から見た図面(雌型の平面図)である。
【符号の説明】
【0051】
1 金型
10 固定型
20 可動型
22 スプルー
24 ゲート
26 キャビティ
28 微細構造部
32,42 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂中に粒子径が100nm以下の無機微粒子が分散された有機無機複合材料を射出・成形する射出成形方法であって、
前記有機無機複合材料を金型のキャビティに充填する工程と、
前記金型のキャビティから前記有機無機複合材料で構成された成形品を取り出す工程と、
を有し、
前記熱可塑性樹脂のガラス転移温度をTgとした場合に、前記有機無機複合材料を充填する工程では、前記金型のキャビティ表面の温度をTg+15℃以上でTg+70℃以下の温度とすることを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
請求項1に記載の射出成形方法において、
前記有機無機複合材料の成形品を取り出す工程では、前記金型のキャビティ表面の温度をTg−30℃以上でTg以下の温度とすることを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の射出成形方法において、
前記金型のキャビティ表面には微細構造が設けられていることを特徴とする射出成形方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−238705(P2008−238705A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−84867(P2007−84867)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】