説明

導電性成形体の製造方法及び導電性成形体の製造装置

【課題】複雑形状の導電性成形体を高密度にかつ短時間で成形できる導電性成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、第1の導電性粉末を成形して得られた予備成形体を放電プラズマ焼結法により焼結して導電性成形体を得る工程を有する導電性成形体の製造方法であって、前記工程において、前記予備成形体に対して第2の導電性粉末を介して圧力を付与しながら直流パルス電流を流通して前記予備成形体を焼結する製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性成形体の製造方法及び導電性成形体の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複雑形状の金属部品を高密度に成形するために、例えば熱間静水圧加圧(Hot Isostatic Pressing;HIP)焼結法が用いられている。このHIP焼結法では、圧力容器中で、不活性ガスを圧力媒体として、粉末を等方的に加熱して焼結することで成形する。この方法により、理論密度に近い緻密化した複雑形状の焼結体が得られる。
【0003】
しかしながら、このHIP焼結法に用いられる装置は一般に大規模となるため、HIP焼結法には高い設備費用が必要となる。また、チタン合金のような難焼結材料の焼結及び成形時には、特に長時間で高温の加熱加圧を施さなければならず、その結果、難焼結材料の結晶粒が成長してしまい、その力学的特性が低下することとなる。
【0004】
また、複雑形状の金属部品を成形する方法として、金属粉末射出成形(Metal Injection Molding;MIM)法がある。しかしながら、このMIM法によると、金属粉末を結着するバインダーが必要であり、そのバインダーを通常の焼結により除去して最終的に成形体を得るため、その成形体の密度が低くなり、やはり機械的強度の点で十分とは言い難い。
【0005】
一方、設備費用が低価で、しかも加熱加圧に要する時間が短時間ですむ焼結法として、放電プラズマ焼結(Spark Plasma Sintering;SPS)法が知られている(例えば特許文献1参照)。このSPS法は、ON−OFF直流パルス通電を用いた加圧焼結法の一種であり、中空柱状のダイ内に導電性粉末を収容し、その粉末をパンチで加圧しつつ、その粉末に直接低電圧でパルス状の電流を流通する。これにより、火花放電現象により瞬時に導電性粉末の粒子間に放電プラズマのエネルギーを発生させ、これを熱拡散・電界拡散などにより周囲に拡散させて加熱焼結を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−89807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SPS法では、瞬間的に数千〜一万℃程度の高温度場が導電性粉末の粒子間に生じることに起因して、従来に比べて、加熱時間が短時間であっても高密度で質の高い焼結を可能とし、しかも、焼結エネルギーの制御性、安全性、確実性、省スペース、省エネルギー等の点でも優れている。
【0008】
しかしながら、従来のSPS法では、中空柱状のダイ内で導電性粉末をパンチにより加圧しながら焼結するため、複雑形状の金属部品などの導電性成形体を得るには不十分である。
【0009】
そこで、本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、複雑形状の導電性成形体を高密度にかつ短時間で成形できる導電性成形体の製造方法及び導電性成形体の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、SPS法により導電性粉末から直接最終の成形体を作製するのではなく、予備的に複雑形状の成形体を作製し、その成形体に対して均等に加圧できるようにSPS法を改良することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、第1の導電性粉末を成形して得られた予備成形体を放電プラズマ焼結(SPS)法により焼結して導電性成形体を得る工程を有する導電性成形体の製造方法であって、上記工程において、予備成形体に対して第2の導電性粉末を介して圧力を付与しながら直流パルス電流を流通して予備成形体を焼結する製造方法である。本発明の導電性成形体の製造方法によると、第2の導電性粉末は、導電性を有するが故に予備成形体への直流パルス電流の導通体になると共に、粉末であることに起因してその予備成形体に付与するパンチやダイからの圧力を均等に分散することができる。そのため、SPS法を用いても、予備成形体の形状を保持することが可能となるので、複雑形状の導電性成形体を高密度に作製することができる。また、SPS法を採用することにより、短時間での成形も可能となる。
【0012】
また、本発明において、第1の導電性粉末と第2の導電性粉末とは、互いに異なる材料からなる粉末であると好ましい。具体的には、第2の導電性粉末は、炭素粉末及び/又は導電性セラミック粉末であると好ましく、炭素粉末であるとより好ましい。一方、第1の導電性粉末は、純チタン粉末及び/又はチタン合金粉末であると好適である。
【0013】
そして、本発明は、第1の導電性粉末を成形して得られた予備成形体を収容して、その予備成形体に圧力を付与する収容加圧手段と、予備成形体に直流パルス電流を流通して焼結する通電焼結手段と、収容加圧手段と予備成形体との間に配置される第2の導電性粉末とを備える導電性成形体の製造装置を提供する。本発明の導電性成形体の製造装置を用いると、第2の導電性粉末は、導電性を有するが故に通電焼結手段からの直流パルス電流を予備成形体に導通する導通体になると共に、粉末であることに起因して収容加圧手段内でその予備成形体に付与する圧力を均等に分散することができる。そのため、予備成形体の形状を崩すことなく保持することが可能となるので、SPS法を用いても複雑形状の導電性成形体を高密度に作製することができる。また、SPS法を採用することにより、短時間での成形も可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複雑形状の導電性成形体を高密度にかつ短時間で成形できる導電性成形体の製造方法及び導電性成形体の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態に係る導電性成形体の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【図2】本実施形態の係る導電性成形体の製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
本実施形態の導電性成形体の製造方法(以下、単に「製造方法」という。)は、第1の導電性粉末を成形して得られた予備成形体を放電プラズマ焼結法により焼結して導電性成形体を得る工程を有する導電性成形体の製造方法であって、上記工程において、予備成形体に対して第2の導電性粉末を介して圧力を付与しながら直流パルス電流を流通して予備成形体を焼結するものである。
【0018】
また、本実施形態の導電性成形体の製造装置(以下、単に「製造装置」という。)は、第1の導電性粉末を成形して得られた予備成形体を収容して、その予備成形体に圧力を付与する収容加圧手段と、予備成形体に直流パルス電流を流通して焼結する通電焼結手段と、収容加圧手段と予備成形体との間に配置される第2の導電性粉末とを備えるものである。
【0019】
図1は、本実施形態の導電性成形体の製造方法の一例を示すフローチャートであり。図2は、本実施形態の導電性成形体の製造装置の一例を示す概略図である。図1によると、本実施形態の製造方法は、第1の導電性粉末を含む導電性成形体の原料を準備する原料準備工程S10と、準備した原料を予備的に成形して予備成形体を得る予備成形工程S20と、予備成形体の表面に焼付防止剤を塗布する塗布工程S30と、焼付防止剤を塗布した予備成形体を、製造装置の収容加圧手段内に充填された第2の導電性粉末中に埋没させる埋没工程S40と、上記製造装置においてSPS法により予備成形体を焼結して導電性成形体を得る本焼結工程S50とを有する。
【0020】
原料準備工程S10で準備する第1の導電性粉末は、SPS法により焼結可能であるものであれば特に限定されないが、従来のHIP焼結法などの成形法では十分な力学的特性を有するものが得られ難く、かつ、後述の第2の導電性粉末よりも融点が低い観点から、純金属及び/又は合金粉末が好ましく、純チタン粉末、チタン合金(チタンが主成分である合金。以下同様。)粉末、アルミニウム合金粉末、銅合金粉末及びタングステン合金粉末からなる群より選ばれる1種以上の導電性粉末が好ましく、純チタン粉末及び/又はチタン合金粉末がより好ましい。チタン合金粉末におけるチタン合金としては、例えば、Ti−6Al−4V、Ti−3Al−2.5Vなどのチタン−アルミニウム−バナジウム合金、Ti−5Al−2.5Sn、Ti−8Al−1Mo−1V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−2Mo、Ti−6Al−2Sn−6V、Ti−6Al−2Sn−4Zr−6Mo、Ti−5Al−2Sn−2Zr−4Cr−4Mo、Ti−3Al−10V−2Fe、Ti−13V−11Cr−3Al、Ti−4Mo−8V−6Cr−4Zr−3Al、Ti−8Mo−8V−2Fe−3Al、Ti−11.5Mo−6Zr−4.5Snが挙げられる。また、アルミニウム合金粉末におけるアルミニウム合金としては、例えば、Al−20Si、Al−5Mg、Al−5Cuが挙げられる。銅合金粉末における銅合金としては、例えばCu−10Wが挙げられる。さらにタングステン合金粉末におけるタングステン合金としては、例えばW−10Cu、W−20Cuが挙げられる。
【0021】
第1の導電性粉末の形状も特に限定されないが、下記予備成形工程S20及び本焼結工程S50における加圧の際に均一に加圧されやすく力学的特性に優れる観点から、球形であると好ましい。また、第1の導電性粉末の製造方法は、金属などの導電性粉末を作製できる方法であれば特に限定されないが、上記球形の粒子を容易に得ることができる観点から、例えばガスアトマイジング法が挙げられる。さらに、第1の導電性粉末の平均粒子径(レーザ回折式粒度分布測定装置により測定。)は、力学的特性の観点から、5〜50μmであると好ましい。
【0022】
原料準備工程S10において準備する原料は、第1の導電性粉末の他、例えば、バインダー(樹脂、ワックス)等が挙げられる。バインダーは、MIM法などで第1の導電性粉末の粒子同士を結着するために用いられるので、その結着が可能なものであれば従来公知のものを用いることができる。バインダーとしては、例えば、各種ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレートなどの樹脂、パラフィンワックス、カルナウバワックスなどのワックス、ステアリン酸、フタル酸n−ブチルなどの飽和若しくは不飽和脂肪酸又はそのエステルが挙げられ、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0023】
上述のバインダー等は、後述の予備成形工程S20において、第1の導電性粉末を結着する等、予備成形体の成形方法によって必要がある場合に用いられ得る。ただし、バインダー等は、本焼結工程S50において予備成形体から揮発、分解又は燃焼除去されるため、導電性成形体の密度を高める観点及び予備成形体から導電性成形体への形状保持の観点から、原料としてバインダー等を用いない、すなわち第1の導電性粉末のみを用いる方が好ましい。
【0024】
次いで、予備成形工程S20において、準備した上記原料を予備的に成形して予備成形体を得る。この工程S20での成形方法は、上記原料を所望の形状に成形できる方法であれば特に限定されず、例えば、MIM法、電子ビーム積層造形法等の、金属粉末を主成分とする原料を用いる粉末冶金法が挙げられる。MIM法によると、例えば第1の導電性粉末がTi−6Al−4V、Ti−6Al−7Nbなどのチタン合金である場合、比較的高い機械的強度の予備成形体を得ることができる。また、電子ビーム積層造形法によると、予備成形体の原料として第1の導電性粉末のみを用い、真空の装置チャンバー内で金属粉末を一層毎に溶解して積層することによって、不純物が少なく、比較的高い強度と密度とを有する予備成形体を短時間で形成することができる。予備成形工程S20では、1種の成形方法による1回の処理により予備成形体を成形してもよく、1種の成形方法を繰り返して原料から予備成形体を作製してもよく、2種以上の成形方法を用いて原料から予備成形体を作製してもよい。
【0025】
予備成形工程S20では、予備成形体が必ずしも最終製品としての機械的強度等の諸特性を確保する必要はないため、その成形時間、成形圧力及び成形温度等(例えば焼結時間、焼結温度など)の諸条件を厳しく設定する必要はない。すなわち、最終製品と同程度の諸特性を確保するために、予備成形工程S20おける成形時間を長くしたり、成形圧力及び成形温度を高くしたりする必要はない。よって、例えば、予備成形工程S20おける成形時間は、下記本焼結工程S50における成形時間よりも短い時間であってもよく、予備成形工程S20における成形圧力又は成形温度は、下記本焼結工程S50における成形圧力又は成形温度より低くてもよい。これにより、成形体中の導電性材料などの粒成長を抑制することが可能となる。
【0026】
一方で、後述の本焼結工程S50において、形状や寸法が著しく変化すると、最終製品としての導電性成形体の諸特性が低下することになるため、予備成形工程S20を経て得られる予備成形体はある程度良好な諸特性を有することが望ましい。また、原料としてバインダー等をも用いる場合、それらのバインダー等を予備成形工程S20において除去できれば、形状や寸法の変化を低減することができるため望ましい。これらの観点から、予備成形工程S20における上記諸条件を設定すればよい。
【0027】
なお、予備成形工程S20に代えて、すでに上述の成形方法等により成形された成形体を予備成形体として入手し、下記塗布工程S30以降の工程に用いてもよい。
【0028】
次に、塗布工程S30では、予備成形体の表面に焼付防止剤を塗布する。この焼付防止剤は、下記本焼結工程S50を経て得られた導電性成形体と第2の導電性粉末との焼付け、又は予備成形体への第2の導電性粉末の拡散を防止するために塗布される。焼付防止剤としては、例えば、窒化ホウ素(BN)が挙げられる。窒化ホウ素は第2の導電性粉末に悪影響を与えない点から好ましく、特に第1の導電性粉末がチタン合金粉末である場合に有効である。
【0029】
塗布工程における塗布方法としては、固体表面に液状又はスラリー状のものを塗布するのに通常用いられる方法であれば特に限定されず、例えば浸漬塗布、スプレー塗布、スピン塗布、バーコート、刷毛塗りが挙げられる。
【0030】
焼付防止剤の塗布量は、予備成形体の表面全体に塗布できる量であれば特に限定されないが、その塗布量が多くなると予備成形体の取扱い性が困難になるだけでなく、下記本焼結工程S50において、予備成形体(導電性成形体)のボイド(空孔)への浸透という不具合が生じる。そこで、焼付防止剤の塗布量の目安として、塗布した後の予備成形体表面の焼付防止剤の厚さが100μm以下であると好ましい。
【0031】
例えば第1の導電性粉末などの予備成形体を構成する材料と、下記第2の導電性粉末との組み合わせにおいて、上記焼付け又は拡散が生じない組み合わせであれば、塗布工程S30を省略してもよい。そのような組み合わせとしては、例えば、予備成形体を構成する材料がチタン合金であって、第2の導電性粉末が炭素粉末である組み合わせが挙げられる。
【0032】
次に、埋没工程S40において、上記各工程を経た予備成形体を、製造装置の収容加圧手段内に充填された第2の導電性粉末中に埋没させる。図2に概略的に示す製造装置200は、SPS法に用いられる製造装置であり、いわゆる放電プラズマ焼結装置である。その具体例としては、例えば、住友石炭鉱業社製の放電プラズマ焼結装置(DR.SINTER SPS3.20MK−IV)が挙げられる。製造装置200は、真空チャンバー211、中空円筒状の焼結ダイ212、上部パンチ231、下部パンチ232、上部パンチ電極251、下部パンチ電極252、焼結電源216、加圧装置217、及び第2の導電性粉末220を備える。この製造装置200において、焼結条件等は、焼結電源216及び加圧装置217を制御装置(図示せず)により調整することで設定される。また、本焼結工程S50における耐久性の観点から、焼結ダイ212、上部パンチ231及び下部パンチ232の材質は、好ましくは、グラファイトであり、炭化タングステン(WC)であってもよい。
【0033】
第2の導電性粉末220は、焼結ダイ212、上部パンチ231及び下部パンチ232で構成された収容加圧手段内に充填されており、圧力媒体としても作用するものである。埋没工程S40では、上部パンチ231を移動させて、焼結ダイ212の上方開口部を開放し、そこから予備成形体270を収容加圧手段内で第2の導電性粉末220中に埋没するように配置する。図2では、そのように予備成形体270を配置した後、更に上部パンチ231を焼結ダイ212の上方開口部内に挿入し、収容加圧手段内を密閉した状態にある。
【0034】
予備成形体270は、所望形状の導電性成形体を得る観点から、第2の導電性粉末220中に完全に埋没させるのが好ましい。ただし、上部パンチ231、下部パンチ232又は焼結ダイ212の表面形状を予備成形体270の表面形状に転写してもよい場合は、その転写してもよい部分を露出した状態で、予備成形体270を第2の導電性粉末220に埋没させてもよい。
【0035】
第2の導電性粉末は、導電性を有し、本焼結工程S50において、かつ上部パンチ231、下部パンチ232及び焼結ダイ212から構成される収容加圧手段からの圧力を予備成形体に均一に付与できるものであれば特に限定されない。本焼結工程S50において予備成形体との融着又は圧着を避ける観点から、第2の導電性粉末と第1の導電性粉末とは互いに異なる材料からなる粉末であると好ましい。
【0036】
また、本焼結工程S50における焼結温度によっても溶融し難くする観点から、第2の導電性粉末は第1の導電性粉末と同じかそれよりも高い融点を有するものであることが好ましい。さらには、上記焼結温度によっても溶融し難く、かつ予備成形体に圧力を均一に付与できる観点から、第2の導電性粉末は、炭素粉末及び/又は導電性セラミック粉末であると好ましく、炭素粉末であるとより好ましい。炭素粉末はいわゆるカーボンパウダーであり、常法により合成してもよく、市販品を入手してもよい。炭素粉末の市販品としては、例えば、(株)高純度化学研究所製炭素粉末(商品名「CCE03PB」、「CCE06PB」、「CCE07PB」など)が挙げられる。また、導電性セラミック粉末としては、例えば炭化タングステン(WC)、アルミナ(Al23)、窒化ケイ素(Si34)が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0037】
第2の導電性粉末の形状は特に限定されないが、本焼結工程S50において、収容加圧手段からの圧力を予備成形体に更に均一に付与する観点から、球形であると好ましい。また、第2の導電性粉末の平均粒子径は、力学的特性の観点から、5〜50μmであると好ましい。
【0038】
そして、本焼結工程S50において、SPS法により予備成形体を焼結して導電性成形体を得る。本焼結工程S50において導電性成形体を作製する際、まず、加圧装置217により上部パンチ電極251、下部パンチ電極252、上部パンチ231及び下部パンチ232に図示したX1方向の圧力をかけて、第2の導電性粉末220及び予備成形体270を所定の焼結圧力で圧縮する。この状態で、上部パンチ電極251及び下部パンチ電極252に直流のON、OFFパルス電流を印加すると、ON時に高温の放電プラズマが発生し、瞬時に発生するプラズマの高エネルギーが熱拡散と電界拡散により第2の導電性粉末220及び予備成形体270中を高速で分散して、それらを加熱する。その際、直流パルス電流がON、OFFを繰り返すので、予備成形体を構成する第1の導電性粉末は結晶粒子の成長が抑制され、微細な組織を維持することができる。
【0039】
放電プラズマ焼結装置200の各種運転条件、例えば予備成形体の焼結温度、その焼結温度までの昇温速度、焼結圧力、及び焼結温度での保持時間は、第1の導電性粉末などの予備成形体270を構成する原料、第2の導電性粉末の種類、導電性成形体の用途等によって、本発明の目的をより有効かつ確実に達成できるような条件に適宜調整すればよい。まず、予備成形体の焼結温度は、結晶化を防ぐと共に緻密な導電性成形体を得る観点から、第1の導電性粉末の構成材料の融点よりも低く、かつ1000℃以下の温度であると好ましい。例えば、第1の導電性粉末がTi−6Al−4V合金の粉末であり、第2の導電性粉末が炭素粉末である場合、焼結温度は1000℃以下であると好ましい。また、焼結温度までの昇温速度は、急激な加熱による内部応力の増大を抑制しつつ、短時間での導電性成形体の作製を図る観点から、20〜100℃/分であると好ましい。
【0040】
焼結圧力は、緻密化した導電性成形体を作製する観点から60MPa以上の条件を満足する圧力であると好ましい。例えば、第1の導電性粉末がTi−6Al−4V合金の粉末であり、第2の導電性粉末が炭素粉末である場合、焼結圧力は60〜75MPaであると好ましい。焼結温度での保持時間は、焼結温度との兼ね合いもあるが、導電性成形体を構成する材料の粒成長を防ぐと共に緻密な導電性成形体を得る観点から決定すると好ましい。例えば、第1の導電性粉末がTi−6Al−4V合金の粉末であり、第2の導電性粉末が炭素粉末である場合、保持時間は10〜30分であると好ましい。
【0041】
こうして、本実施形態に係る導電性成形体が得られる。導電性成形体の形状及び寸法は、その用途に適したものであれば特に限定されず、例えば100mm×100mm×100mm程度の比較的大きな成形体であっても、本実施形態によれば作製することができる。導電性成形体の用途としては、例えば、鍵部品、電動工具部品(電動のこぎり用クラッチハブ・バランスホイール、ギアなどの日用雑貨部品、歯車、自動車部品(バルブ、オイルポンプ部品、ブレーキ部品等)などの構造部品、インプラント、アパタイト製及びチタン製人工骨(アパタイト−チタン系傾斜機能材料を含む)、人工股関節などの医用部品、ジェットエンジン(タービンブレード)、締結部品(ファスナー、ボルト)、取付部品などの航空宇宙機器用構造部品、放熱板(ヒートシンク)の電気・電子部品が挙げられる。
【0042】
本実施形態によると、上述から明らかなように、複雑形状の導電性成形体を緻密に、かつ短時間で得ることができる。また、本実施形態では、導電性成形体における導電性材料の粒成長を抑制することができるため、高い機械的強度(例えば引張強度、引張伸びなど)を有する導電性成形体が得られるという効果も奏する。さらには、焼結工程で採用する放電プラズマ焼結法は真空中で行われるため、不純物の少ない導電性成形体を形成することも可能となる。
【0043】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。例えば、原料準備工程S10において準備する原料がバインダーを含む場合、本焼結工程S50よりも前の段階で脱脂を行う脱脂工程を含むと好ましい。これにより、更に緻密化した導電性成形体を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例では、本発明の製造方法で得られた導電性成形体が、高密度を有し、密度の低い予備成形体から得たものであってもその形状の変形が抑制され(すなわち複雑形状の成形体として作製され得)、かつ短時間で得られるものであることを確認した。なお、放電プラズマ焼結装置における直流パルス電流のON・OFF周期(1周期)は3.3ミリ秒、ON/OFF比は12/2とし、真空中で焼結した。
【0045】
(実施例1)
第1の導電性粉末としてガスアトマイジング法により得られた純チタン粉末(平均粒子径:37μm、粒子形状:球形)を準備した。この純チタン粉末を、下側の開口部からグラファイト製下部パンチを挿入したグラファイト製中空円筒状の焼結ダイ(内径:20mm)内に充填し、それを住友石炭鉱業社製の放電プラズマ焼結装置(DR.SINTER SPS3.20MK−IV)の所定位置に設置した。上記焼結ダイの上側の開口部から上部パンチを挿入して、ダイ内の圧力(焼結圧力)を20MPaまで加圧して純チタン粉末を圧縮した後、昇温速度100℃/分で700℃まで加熱した時点で加熱及び加圧を停止して、円筒状(直径20.06mm、高さ5.76mm)の予備成形体を得た。この予備成形体の質量を測定してかさ密度を導出し、純チタンの真密度に対するそのかさ密度の比率を百分率で算出して相対密度を求めた。その結果、予備成形体の相対密度は88.0%であった。
【0046】
次いで、第2の導電性粉末としての炭素粉末(平均粒子径:50μm、粒子形状:球形、使用量:約60g)を、下側の開口部からグラファイト製下部パンチを挿入したグラファイト製中空円筒状の焼結ダイ(内径:50mm)内に充填した。次に、上記予備成形体を、その焼結ダイ内の炭素粉末に完全に埋没するように収容し、それらを上記放電プラズマ焼結装置の所定位置に設置した。上記焼結ダイの上側の開口部から上部パンチを挿入して、ダイ内の圧力(焼結圧力)を70MPaまで加圧して第2の導電性粉末及び予備成形体を圧縮した後、昇温速度20℃/分で900℃の焼結温度まで加熱し、その焼結温度で10分間保持した時点で加熱及び加圧を停止した。こうして、円筒状(直径19.96mm、高さ5.14mm)の導電性成形体を得た。この導電性成形体の相対密度を、上記予備成形体のものと同様にして求めたところ、99.0%であった。
【0047】
(実施例2)
第1の導電性粉末を、純チタン粉末から、ガスアトマイジング法により得られたチタン合金粉末(Ti−6Al−4V、平均粒子径:18μm、粒子形状:球形)に代えた以外は実施例1と同様にして、円筒状(直径19.90mm、高さ6.18mm)の予備成形体、及び円筒状(直径19.68mm、高さ5.79mm)の導電性成形体を得た。予備成形体の相対密度は79.2%、導電性成形体の相対密度は99.1%であった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
HIP焼結法のような従来の金属部品の加工技術では、上述のような過酷な条件での加工となるため製造コストがかかる他、設備が大がかりであるため設備費が高額になるという懸念点もある。この点、本発明の導電性成形体の製造方法によると、設備コストはさほど大きくなく、緩やかな条件での加工が可能となるため製造コストも低減される。したがって、高い機械的強度を有する複雑形状の金属部品市場において、そのニーズは高いものである。また、本発明の製造方法で得られた導電性成形体は、複雑形状で高密度のものとなるため、高い機械的強度を必要とする複雑形状の金属部品、例えば、自動車、自動車部品、航空宇宙機器及び医用インプラントなどの分野への応用が期待される。
【符号の説明】
【0049】
200…導電性成形体の製造装置、211…真空チャンバー、212…焼結ダイ、216…焼結電源、217…加圧装置、220…第2の導電性粉末、231…上部パンチ、232…下部パンチ、251…上部パンチ電極、252…下部パンチ電極、270…予備成形体、S10…原料準備工程、S20…予備成形工程、S30…塗布工程、S40…埋没工程、S50…本焼結工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電性粉末を成形して得られた予備成形体を放電プラズマ焼結法により焼結して導電性成形体を得る工程を有する導電性成形体の製造方法であって、
前記工程において、前記予備成形体に対して第2の導電性粉末を介して圧力を付与しながら直流パルス電流を流通して前記予備成形体を焼結する製造方法。
【請求項2】
前記第1の導電性粉末と前記第2の導電性粉末とは、互いに異なる材料からなる粉末である、請求項1に記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項3】
前記第2の導電性粉末は、炭素粉末及び/又は導電性セラミック粉末である、請求項1又は2に記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項4】
前記第2の導電性粉末は、炭素粉末である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項5】
前記第1の導電性粉末は、純チタン粉末及び/又はチタン合金粉末である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性成形体の製造方法。
【請求項6】
第1の導電性粉末を成形して得られた予備成形体を収容して、その予備成形体に圧力を付与する収容加圧手段と、
前記予備成形体に直流パルス電流を流通して焼結する通電焼結手段と、
前記収容加圧手段と前記予備成形体との間に配置される第2の導電性粉末と、
を備える導電性成形体の製造装置。
【請求項7】
前記第2の導電性粉末は、前記第1の導電性粉末とは異なる材料からなる粉末である、請求項6に記載の導電性成形体の製造装置。
【請求項8】
前記第2の導電性粉末は、炭素粉末及び/又は導電性セラミック粉末である、請求項6又は7に記載の導電性成形体の製造装置。
【請求項9】
前記第2の導電性粉末は、炭素粉末である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の導電性成形体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−237021(P2012−237021A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209555(P2009−209555)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】