説明

導電性組成物、導電性組成物の製造方法および帯電防止用積層体

【課題】安定性に優れる導電性組成物およびその製造方法の提供。
【解決手段】少なくともピロールと2位に置換基を有するピロール誘導体とをモル比で1/0.01〜1/0.004で含むモノマー組成物を反応させて得られるポリピロールと、0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒とを含有する導電性組成物、およびその製造方法、ならびに、これらを用いて得られる帯電防止用積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物、導電性組成物の製造方法および帯電防止用積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、透明性と環境に対する安定性が求められている帯電防止用途に導電ポリマーが使われている。導電ポリマーとしては例えばピロール系、アニリン系、チオフェン系があるが、価格、安定性からポリピロールが優れている。しかしながら、ポリピロールは重合反応が非常に早く、容易に重合し、凝集を起こしやすいため、ポリピロールを含有する均一な溶媒分散液を作製するのは非常に難しい。
本願出願人は、以前、導電性ポリアニリンの製造方法について、アニリン/4−メチルアニリンを1/0.00005〜1/0.5のモル比で反応させて分子量を調節することを提案している(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/035626号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリピロールについては反応時間を短くしてポリピロールの分子量を抑えることによって分散液中でのポリピロールの凝集を少なくすることができる。しかしながら、そのような場合も分散液中でピロールの重合反応が進行し、経時的にポリピロールが分散液中で凝集してしまうという問題があった。
そこで、本発明は、安定性に優れる導電性組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、水と、水に相溶しない有機溶剤と、ピロールと、2位に置換基を有するピロール誘導体とを含有し、前記ピロールと前記ピロール誘導体のモル比が1/0.01〜1/0.004であるモノマー組成物を化学酸化重合によって反応させてポリピロールを含有する混合液を得る合成工程と、前記混合液から水を除去してポリピロール含有有機溶剤分散液を得る精製工程と、前記ポリピロール含有有機溶剤分散液に0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒を加えて導電性組成物とする混合工程とを有する製造方法によれば、安定性に優れる導電性組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記1〜7を提供する。
1. ピロールと2位に置換基を有するピロール誘導体とをモル比で1/0.01〜1/0.004で含むモノマー組成物を反応させて得られるポリピロールと、0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒とを少なくとも含有する導電性組成物。
2. 前記極性有機溶媒の量が前記ポリピロール100質量部に対して100〜10,000質量部であり、かつ前記極性有機溶媒の量が当該導電性組成物中の10〜70質量%である上記1に記載の導電性組成物。
3. さらに、バインダ樹脂を含有する上記1または2に記載の導電性組成物。
4. 前記ポリピロールと前記バインダ樹脂との質量比(前記ポリピロール/前記バインダ樹脂)が、5/95〜80/20である上記3に記載の導電性組成物。
5. 水と、水に相溶しない有機溶剤と、ピロールと、2位に置換基を有するピロール誘導体とを含有し、前記ピロールと前記ピロール誘導体のモル比(前記ピロール/前記2位に置換基を有するピロール誘導体)が1/0.01〜1/0.004であるモノマー組成物を化学酸化重合によって反応させてポリピロールを含有する混合液を得る合成工程と、前記混合液から水を除去してポリピロール含有有機溶剤分散液を得る精製工程と、前記ポリピロール含有有機溶剤分散液に0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒を加えて導電性組成物とする混合工程とを有する上記1または2に記載の導電性組成物の製造方法。
6. 前記混合工程において、さらにバインダ樹脂を加える上記5に記載の導電性組成物の製造方法。
7. 基材と、前記基材の上に上記1〜4のいずれかに記載の導電性組成物または上記5もしくは6に記載の導電性組成物の製造方法によって得られる導電性組成物を用いて形成される帯電防止層とを有する帯電防止用積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性組成物は安定性に優れる。
本発明の導電性組成物の製造方法によれば安定性に優れる導電性組成物を製造することができる。
本発明の帯電防止用積層体は導電性、透明性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について以下詳細に説明する。
まず、本発明の導電性組成物の製造方法について以下に説明する。
本発明の導電性組成物の製造方法は、
水と、水に相溶しない有機溶剤と、ピロールと、2位に置換基を有するピロール誘導体とを含有し、前記ピロールと前記ピロール誘導体のモル比が1/0.01〜1/0.004であるモノマー組成物を化学酸化重合によって反応させてポリピロールを含有する混合液を得る合成工程と、前記混合液から水を除去してポリピロール含有有機溶剤分散液を得る精製工程と、前記ポリピロール含有有機溶剤分散液に0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒を加えて導電性組成物とする混合工程とを有するものである。
【0009】
合成工程について以下に説明する。
合成工程は、水と、水に相溶しない有機溶剤と、ピロールと、2位に置換基を有するピロール誘導体とを含有し、前記ピロールと前記ピロール誘導体のモル比が1/0.01〜1/0.004であるモノマー組成物を化学酸化重合によって反応させてポリピロールを含有する混合液を得る工程である。
【0010】
ピロール誘導体について以下に説明する。
モノマー組成物に含有されるピロール誘導体は2位に置換基を有する。
置換基は特に制限されない。例えば、メチル基、エチル基のようなアルキル基;芳香族基;アラルキル基が挙げられる。
ピロール誘導体としては、例えば、2−メチルピロール、2−エチルピロール、2−メチルピロール−3−カルボン酸メチル、2−エチルヘキシルピロール等が挙げられる。
なかでも、得られるポリピロールの分子量が制御しやすく、ポリピロールが凝集しにくく安定性により優れるという観点から、2−エチルピロールが好ましい。
ピロール誘導体はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0011】
ピロールと2位に置換基を有するピロール誘導体とのモル比(ピロール/2位に置換基を有するピロール誘導体)は、1/0.01〜1/0.004である。このような範囲の場合、ポリピロールの分子量が計算上は1万〜3万となり、導電性と貯蔵時の安定性が両立できる。
安定性により優れ、導電性、透明性に優れるという観点から、ピロールと2位に置換基を有するピロール誘導体とのモル比は、1/0.004〜1/0.007であるのが好ましい。
【0012】
モノマー組成物は、ピロールおよびピロール誘導体以外のピロール化合物を含有することができる。このようなピロール化合物としては、例えば、N−メチルピロール、3−メチルピロール、3,5−ジメチルピロール、4−メチルピロール−3−カルボン酸メチル、3−エチルピロール、3−オクチルピロールが挙げられる。
【0013】
従来、導電性ポリマーの合成は、水溶性の酸化剤によって重合が行われるため、水中での合成に限られていたが、国際公開第2005/035626号パンフレットに示されるように、水と、水に相溶しない有機溶剤及びアニオン系界面活性剤中で過硫酸アンモニウムなどの酸化剤を使用して重合した後、水と有機溶剤を分液すれば導電性ポリマーにアニオン系界面活性剤がドープした導電性ポリマーの有機溶剤分散液が得られる事が分かっている。これをもとに、本発明の導電性組成物の製造方法において使用されるモノマー組成物は、重合反応を効果的に進めることができる点から、水に相溶しない有機溶剤を含有する。水に相溶しない有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン(MEK)、ヘキサン、酢酸エチルなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ポリピロールが分散しやすいという観点から、トルエン、キシレンが好ましい。なお、「水に相溶しない有機溶剤」を以下「有機溶剤」と言うことがある。有機溶剤はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0014】
ポリピロールの製造の際に使用される有機溶剤の量は、ポリピロールが凝集しにくく安定性により優れるという観点から、ピロールおよびピロール誘導体の合計量100質量部に対して、1,000〜50,000質量部であるのが好ましく、5,000〜10,000質量部であるのがより好ましい。
【0015】
モノマー組成物はさらにドーパントを含有することができる。
モノマー組成物が含有することができるドーパントは特に制限されない。例えば、ヨウ素、臭素、塩素、ヨウ素等のハロゲン化合物;硫酸、塩酸、硝酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸;これらプロトン酸の各種塩;三塩化アルミニウム、三塩化鉄、塩化モリブデン、塩化アンチモン、五フッ化ヒ素、五フッ化アンチモン等のルイス酸;酢酸、トリフルオロ酢酸、ポリエチレンカルボン酸、ギ酸、安息香酸等の有機カルボン酸;これら有機カルボン酸の各種塩;フェノール、ニトロフェノール、シアノフェノール等のフェノール類;これらフェノール類の各種塩;ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸、スルホコハク酸のようなスルホコハク酸類;スルホコハク酸類の塩;p−トルエンスルホン酸のようなアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ポリエチレンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、アルキルスルホン酸(例えば、ドデシルスルホン酸)、樟脳スルホン酸、銅フタロシアニンテトラスルホン酸、ポルフィリンテトラスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ナフタレンスルホン酸縮合物等の有機スルホン酸;これら有機スルホン酸の各種塩;ポリアクリル酸等の高分子酸;プロピルリン酸エステル、ブチルリン酸エステル、ヘキシルリン酸エステルのようなアルキルリン酸エステル;ポリエチレンオキシドドデシルエーテルリン酸エステル、ポリエチレンオキシドアルキルエーテルリン酸エステル等のポリアルキレンオキシドリン酸エステル;アルキルリン酸エステル、ポリアルキレンオキシドリン酸エステルの各種塩;ラウリル硫酸エステル、セチル硫酸エステル、ステアリル硫酸エステル、ラウリルエーテル硫酸エステル等の硫酸エステル;これら硫酸エステルの各種塩等が挙げられる。
なかでも、有機溶剤中への分散を考慮すると、スルホン酸基を有したアニオン系界面活性剤、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、スルホコハク酸類、これらの塩などが挙げられる。
ドーパントはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
ドーパントの量はモノマー1モルに対して、0.1〜5モルであるのが好ましく、0.2〜1.0モルであるのがより好ましい。
【0016】
モノマー組成物の化学酸化重合は、水と、水に相溶しない有機溶剤と、ピロールと、2位に置換基を有するピロール誘導体とを含有し、前記ピロールと前記ピロール誘導体のモル比が1/0.01〜1/0.004であるモノマー組成物を反応させること以外は、特に制限されない。例えば、従来公知のものが挙げられる。
化学酸化重合によって得られるポリピロールは、その分子量が1万〜3万であるのが好ましい。このような範囲の場合、ポリピロールが凝集しにくく安定性により優れる。
ポリピロールを含有する混合液は、ポリピロール、水、水に相溶しない有機溶剤のほかに、未反応物等を含有することがある。
【0017】
精製工程について以下に説明する。
精製工程は、合成工程で得られた混合液から水を除去してポリピロール含有有機溶剤分散液を得る工程である。
混合液から水を除去する方法としては、例えば、分液が挙げられる。
分液は、混合液に、水を加えて、酸化剤の残渣や未反応物を水中に溶解させ、静置して混合液が上下に分離した後、水層部分を除去する。その後残った有機層にまた水を加えて洗浄し、静置、水層の除去を行う。これを3回ほど繰り返すと不純物の少ないポリピロール含有有機溶剤分散液を得る事ができる。
【0018】
混合工程について以下に説明する。
混合工程は、ポリピロール含有有機溶剤分散液に0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒を加えて導電性組成物とする工程である。
【0019】
極性有機溶媒について以下に説明する。
本発明の導電性組成物に含有される極性有機溶媒は、0.25以上のETN値を有するものである。
0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒は、ポリピロールの分子を水素結合によって膨潤させる作用を有し、その結果、導電ポリマーの体積が増加し、導電性が向上する。また、水素結合により溶媒中でより安定する効果があると考えられる。
TN値は、ピリジニウム−N−フェノキシドベタイン誘導体の吸収スペクトルの極大波長が溶媒の性質によって変化する現象を利用して定められた極性パラメーターである(化学便覧 基礎編 I−770〜I−775頁参照)。
TN値が0.25以上である場合、外観、透明性に優れ安定性に優れる。安定性により優れるという観点から、ETN値は、0.25〜0.95であるのが好ましい。
【0020】
0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒としては、例えば、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、フェノール、クレゾール、エチレングリコールなどが挙げられる。なかでも、ポリピロールを溶解させやすく、導電性に優れ、安定性により優れるという観点から、シクロヘキサノンが好ましい。極性有機溶媒はそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
極性有機溶媒の量は、ポリピロールを溶解させやすく、導電性に優れ、安定性により優れるという観点から、ポリピロール100質量部に対して、100〜10,000質量部であるのが好ましく、200〜5,000質量部であるのがより好ましい。
また、極性有機溶媒の量は、ポリピロールを溶解させやすく、導電性に優れ、安定性により優れるという観点から、導電性組成物中の10〜70質量%であるのが好ましく、20〜50質量%であるのがより好ましい。
【0022】
本発明の導電性組成物がさらにバインダ樹脂を含有する場合、混合工程において、さらにバインダ樹脂を加えることができる。または混合工程後に得られた導電性組成物にバインダ樹脂を加えることができる。
【0023】
バインダ樹脂について以下に説明する。
本発明の導電性組成物の製造方法において使用することができるバインダ樹脂は、特に制限されない。例えば、ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、非晶性ポリエステル樹脂が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なかでも、導電ポリマーとの相溶性に優れるという観点から、非晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0024】
非晶性ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート骨格に第3成分を加えた、非晶性で有機溶剤に可溶なポリエステル樹脂が挙げられる。具体的には、東洋紡績社製のバイロン等が好適に挙げられる。
【0025】
ポリピロールとバインダ樹脂との量は、ポリピロールとバインダ樹脂との質量比(ポリピロール/バインダ樹脂)が、5/95〜80/20であるのが好ましく、10/90〜30/70であるのがより好ましい。
ポリピロールが5質量部以上の場合、導電性に優れ、帯電防止性能が十分発揮される。
ポリピロールが80質量部以下の場合、基材との接着性に優れる。
【0026】
混合工程における混合方法は特に制限されない。例えば、2軸混練機、バンバリーミキサー、ニーダー等を用いることによって行うことができる。バインダ樹脂として非晶性ポリエステル樹脂を用いる場合は、非晶性ポリエステル樹脂がメチルエチルケトン(MEK)やトルエン等の有機溶剤に可溶であるため、有機溶剤に非晶性ポリエステル樹脂を溶解または分散させ、バインダ樹脂を導電性組成物に混合する事ができる。
【0027】
導電性組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、例えば、充填剤、反応遅延剤、老化防止剤、酸化防止剤、顔料(染料)、可塑剤、揺変性付与剤、紫外線吸収剤、難燃剤、界面活性剤、分散剤、脱水剤、接着付与剤等の添加剤を含有することができる。
添加剤を使用する場合、例えば、添加剤を極性有機溶媒とともにポリピロール含有有機溶剤分散液に加えて導電性組成物とすることができる。
本発明の導電性組成物の製造方法によって、本発明の導電性組成物を製造することができる。
【0028】
次に、本発明の導電性組成物について以下に説明する。
本発明の導電性組成物は、ピロールと2位に置換基を有するピロール誘導体とをモル比で1/0.01〜1/0.004で含むモノマー組成物を反応させて得られるポリピロールと、0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒とを少なくとも含有する組成物である。
【0029】
本発明の導電性組成物に含有される、ポリピロールと、0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒とはそれぞれ上記と同義である。
極性有機溶媒の量は、ポリピロールを溶解させやすく、導電性に優れ、安定性により優れるという観点から、ポリピロール100質量部に対して、100〜10,000質量部であるのが好ましく、200〜5,000質量部であるのがより好ましい。
また、極性有機溶媒の量は、ポリピロールを溶解させやすく、導電性に優れ、安定性により優れるという観点から、本発明の導電性組成物中の10〜70質量%であるのが好ましく、20〜50質量%であるのがより好ましい。
【0030】
本発明の導電性組成物は、安定性により優れるという観点から、さらに水に相溶しない有機溶剤を含有することができる。有機溶剤は上記と同義である。
【0031】
有機溶剤の量は、ポリピロールを溶解させやすく、導電性に優れ、安定性により優れるという観点から、極性有機溶媒の量が本発明の導電性組成物中の10〜70質量%となるような量として使用することができる。
【0032】
本発明の導電性組成物は、導電性、帯電防止性能、基材との接着性に優れるという観点から、さらにバインダ樹脂を含有することができる。バインダ樹脂は上記と同義である。
導電性、帯電防止性能、基材との接着性に優れるという観点から、ポリピロールとバインダ樹脂との質量比(ポリピロール/バインダ樹脂)は、5/95〜80/20であるのが好ましく、10/90〜30/70であるのがより好ましい。
【0033】
本発明の導電性組成物は、本発明の目的、効果を損なわない範囲で添加剤を含有することができる。添加剤は上記と同義である。
本発明の導電性組成物を製造する方法としては、上述の本発明の導電性組成物の製造方法が好ましい。
【0034】
次に、本発明の帯電防止用積層体について以下に説明する。
本発明の帯電防止用積層体は、基材と、前記基材の上に本発明の導電性組成物または本発明の導電性組成物の製造方法によって得られる導電性組成物を用いて形成される帯電防止層とを有するものである。
【0035】
本発明の帯電防止用積層体に使用される導電性組成物は本発明の導電性組成物または本発明の導電性組成物の製造方法によって得られる導電性組成物であれば特に制限されない。本発明の帯電防止用積層体に使用される導電性組成物はさまざまな基材へ塗布することができ帯電防止性能に優れる帯電防止層を形成することができる。
本発明の帯電防止用積層体に使用される基材は、特に限定されない。例えば、フィルム、シートが挙げられる。基材は透明であるのが好ましい。具体的には、例えば、ポリエステル;ナイロン;ポリオレフィン等のフィルムが挙げられる。これらの中でも、帯電防止層との接着性に優れる点からポリエステル系フィルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)がより好ましい。
【0036】
本発明の帯電防止用積層体の製造方法としては、例えば、基材に導電性組成物を塗布する塗布工程と、基材に塗布された導電性組成物を乾燥させる乾燥工程とを有するもの、基材と導電性組成物との2層押出方法、射出成形によるサンドイッチ方法、2枚のフィルムの熱融着が挙げられる。
基材に導電性組成物を塗布する塗布工程と、基材に塗布された導電性組成物を乾燥させる乾燥工程とを有する製造方法について以下に説明する。
まず、塗布工程において、基材に導電性組成物を塗布する工程としては、例えば、スピンコート法、グラビア印刷、スクリーン印刷、ハケ塗り法、スプレーコーティング法、ワイヤバー法、ブレード法、ロールコーティング法、ディッピング法等が挙げられる。
本発明においてスピンコートを採用する場合、1分間当りの回転数を2,000回転と設定し、20秒間回転させるのが好ましい態様の1つとして挙げられる。
【0037】
塗布工程の後、乾燥工程において、基材に塗布された導電性組成物を乾燥させて帯電防止層とし、本発明の帯電防止用積層体とすることができる。乾燥温度は、生産性と基材保護という観点から、80〜120℃であるのが好ましい。乾燥時間は、生産性という観点から、0.5〜5分間であるのが好ましい。
帯電防止層の厚さは、価格、製造スピードの点から、0.01μm〜2mmであるのが好ましく、0.05μm〜0.5μmであるのがより好ましい。
【0038】
本発明の帯電防止用積層体について添付の図面を用いて以下に説明する。なお本発明は添付の図面に制限されない。
図1は、本発明の帯電防止用積層体の一例の断面を模式的に示す断面図である。
図1において、本発明の帯電防止用積層体100は、基材101と、基材101の上の帯電防止層103とを有する。帯電防止層103は本発明の導電性組成物または本発明の導電性組成物の製造方法によって得られる導電性組成物を用いて形成することができる。また、帯電防止用積層体100は、帯電防止層103が設けられている反対側の面に粘着層(図示せず。)を有することができる。
【0039】
従来のポリピロールは、反応性が早すぎる事から分散液として安定性が乏しく商品化されていなかった。
一方、この反応性が早い事を利用して、フィルム等の基材上でピロールを重合し、帯電防止フィルムとして市販されていたが、元来、黒色の材料で表面抵抗値を下げるにはポリピロールを厚くしなければならず光透過性に劣っていた。
本発明は、ピロールと2位に置換基を有するピロール誘導体とを所定量で重合する事により貯蔵安定性のよいポリピロール分散液がつくれ、かつ、0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒との併用で、導電性が向上するため、ポリピロール塗布厚を薄くでき、結果として透明性も向上するというものである。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
1.導電性組成物の製造
(1)ポリピロールを含有する混合液の製造
下記第1表に示す成分を同表に示す量(質量部)で使用しこれらを混合してモノマー組成物とし、モノマー組成物を−10℃の条件下で3時間反応させ冷却して、ポリピロールを含有する混合液を得た。
(2)混合液の精製
上記で得られた混合液に100gの水を加え撹拌後分液ロートに移しかえて静置し、液が上下に分離した後、下部の水層を除去した。この方法で液を3回洗浄し上ずみ液(有機溶剤層)を得た。第1表に示す合成例1〜6で得られた有機溶剤層をポリピロール含有有機溶剤分散液1〜6として使用した。
各ポリピロール含有有機溶剤分散液中のポリピロールの濃度は、液を約1g採取し採取した液を150℃で3時間乾燥後、得られた固形分を計量して算出した。結果を第1表に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
第1表に示されている各成分の詳細は以下のとおりである。
・ピロール:試薬、関東化学社製
・ピロール誘導体:2−エチルピロール、試薬、関東化学社製
・ドーパント:ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム(商品名リパール870P、ライオンアクゾ社製)
・有機溶剤:トルエン、試薬、関東化学社製
・酸化剤:過硫酸アンモニウム、試薬、関東化学社製
【0043】
(3)導電性組成物
下記第2表に示す成分を同表に示す量(質量部)で使用し、これらをホモジナイザー(IKA−WERKE社 ウルトラタルラックス T−18)を用いて9500rpmdで3分間混合して導電性組成物を得た。
2.帯電防止用積層体の製造
上記のようにして得られた導電性組成物をPETフィルム(厚さ25μm)の上にスピンコータ(1分間当たり2,000回転の設定で20秒間回転させた。)を用いて塗布した後、オーブン内で100℃で1分間乾燥して、厚さ0.5μmの帯電防止層を形成し、帯電防止用積層体を得た。
【0044】
3.評価
上記のようにして得られた帯電防止用積層体について次に示す評価方法によって、外観、接着性、表面抵抗、全光透過率、ヘーズおよび乾燥性を評価した。結果を第2表に示す。
【0045】
(1)外観(表面平滑性)
得られた導電性組成物をPETフィルム上にスピンコーター(1分間当たり2,000回転の設定で20秒間回転させた。)を用いて、0.5μmの厚みで塗布し、目視にて外観を観察した。
塗膜が平滑なものを「○」、凝集物がわずかにあるものを「△」、凝集物が多く見られて平滑でないものを「×」とした。
【0046】
(2)接着性
得られた帯電防止用積層体について、碁盤目テープ剥離試験を行った。
帯電防止用積層体の帯電防止層に、1mmの基盤目100個(縦10個×横10個)を作り、基盤目上にセロハン粘着テープ(幅18mm)を完全に付着させ、直ちにテープの一端を直角に保ち、瞬間的に引き離し、完全に剥がれないで残った基盤目の個数を調べた。
【0047】
(3)表面抵抗
得られた帯電防止用積層体について、抵抗測定器(ダイアインスツルメンツ社製、ハイレスタIPとHRプローブ)を用い、25℃、50%RHの条件下において100Vにおける帯電防止層の表面抵抗を求めた。
表面抵抗の評価基準としては、1×1010Ω/□未満の場合表面抵抗が低く実用的であるとした。
【0048】
(4)全光透過率、ヘーズ
得られた帯電防止用積層体について、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)により、全光透過率およびヘーズを求めた。
全光透過率の評価基準は、80%以上の場合が透明性に優れ実用的であるとした。
ヘーズの評価基準は、1.0以下の場合が透明性に優れ実用的であるとした。
【0049】
(5)乾燥性
得られた導電性組成物をPETフィルム(厚さ25μm)の上にスピンコータ(1分間当たり2,000回転の設定で20秒間回転させた。)を用いて塗布したものを2枚用意し、1枚をオーブン内で100℃で1分間乾燥させ、別の一枚をオーブン内で100℃で3分間乾燥させた。乾燥後帯電防止用積層体の帯電防止層の乾燥性を指触で評価した。
乾燥性の評価基準としては、帯電防止層にべたつきがないものを「○」、多少ベタツキがあるものを「△」、ベタツキがひどいものを「×」とした。
【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
第2表に示す各成分の詳細は次のとおりである。
・ポリピロール含有有機溶剤分散液1〜6:上述のとおりにして得られたポリピロール含有有機溶剤分散液1〜6
・バインダ樹脂:非晶性ポリエステル樹脂(商品名バイロン200、東洋紡績社製)
・トルエン:ETN値0.099、試薬、関東化学社製
・酢酸エチル:ETN値0.228、試薬、関東化学社製
・極性有機溶媒1:シクロヘキサノン、ETN値0.280、試薬、関東化学社製
・極性有機溶媒2:ジメチルスルホキシド、ETN値0.44、試薬、関東化学社製
【0053】
第2表に示す結果から明らかなように、ピロールとピロール誘導体とのモル比がピロール1に対してピロール誘導体0.004未満である比較例1、2はヘーズが高く透明性に劣り、外観が悪く安定性に劣った。ピロールとピロール誘導体とのモル比がピロール1に対してピロール誘導体が0.01を超える比較例5は表面抵抗が高く導電性に劣った。0.25未満のETN値を有する極性有機溶媒を含有する比較例3、4はヘーズが高く透明性に劣り、外観が悪く安定性に劣った。
これらに対して、実施例1〜8は外観が良く透過性が高く安定性に優れ、表面抵抗が低く導電性に優れる。また、実施例1〜8は乾燥性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、本発明の帯電防止用積層体の一例の断面を模式的に示す断面図である。である。
【符号の説明】
【0055】
100 本発明の帯電防止用積層体
101 基材 103 帯電防止層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロールと2位に置換基を有するピロール誘導体とをモル比で1/0.01〜1/0.004で含むモノマー組成物を反応させて得られるポリピロールと、0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒とを少なくとも含有する導電性組成物。
【請求項2】
前記極性有機溶媒の量が前記ポリピロール100質量部に対して100〜10,000質量部であり、かつ前記極性有機溶媒の量が当該導電性組成物中の10〜70質量%である請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
さらに、バインダ樹脂を含有する請求項1または2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記ポリピロールと前記バインダ樹脂との質量比が、5/95〜80/20である請求項3に記載の導電性組成物。
【請求項5】
水と、水に相溶しない有機溶剤と、ピロールと、2位に置換基を有するピロール誘導体とを含有し、前記ピロールと前記ピロール誘導体のモル比が1/0.01〜1/0.004であるモノマー組成物を化学酸化重合によって反応させてポリピロールを含有する混合液を得る合成工程と、前記混合液から水を除去してポリピロール含有有機溶剤分散液を得る精製工程と、前記ポリピロール含有有機溶剤分散液に0.25以上のETN値を有する極性有機溶媒を加えて導電性組成物とする混合工程とを有する請求項1または2に記載の導電性組成物の製造方法。
【請求項6】
前記混合工程において、さらにバインダ樹脂を加える請求項5に記載の導電性組成物の製造方法。
【請求項7】
基材と、前記基材の上に請求項1〜4のいずれかに記載の導電性組成物または請求項5もしくは6に記載の導電性組成物の製造方法によって得られる導電性組成物を用いて形成される帯電防止層とを有する帯電防止用積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163514(P2010−163514A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5689(P2009−5689)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】