説明

導電性組成物および導電性複合体

【課題】導電性が高く、高温下においても安定な特性を示す耐熱性に優れた導電性複合体を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブおよび非共役系分散剤からなる組成物であり、さらに不揮発性有機酸を含むことを特徴とする導電性組成物。非共役系分散剤がイオン性高分子であることを特徴とする導電性組成物。不揮発性有機酸が芳香族系有機酸であることを特徴とする導電性組成物。不揮発性有機酸がカーボンナノチューブ100重量部に対して50〜300重量部含有される導電性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性組成物および導電性複合体、それらの製造方法に関する。より詳細には、導電性が高く、高温下においても安定な特性を示す耐熱性に優れた導電性組成物および導電性複合体、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは高い導電性が期待できる材料である。実際に使用する際には、より少量で高い導電性を達成するためにマトリックス中で均一に分散している必要がある。分散方法としては、カーボンナノチューブ自体を修飾して分散させる方法、界面活性剤やポリマーなどの分散剤を用いて分散させる方法の大きく2つに分類でき、導電性を維持しながら均一に高分散できることから、分散剤を用いる方法が好ましく用いられている。
【0003】
なかでも分散剤として導電性ポリマーなどの共役系分散剤が知られているが、分散剤の吸収による透明性の低下や、色見に課題がある。また、非共役系分散剤の場合は、それ自体絶縁物であるため、カーボンナノチューブを高度に分散させようとして過剰に用いるとカーボンナノチューブの接点抵抗を上昇させる原因となってしまい、カーボンナノチューブ本来の導電特性を十分に発揮できないという課題がある。
【0004】
また、一般的に、分散剤として用いられる化合物は熱により結晶性が変化し、たとえば膨潤や収縮、分解、昇華がおこりカーボンナノチューブの分散性が低下する原因や、あるいは、導電ネットワークが乱れ、導電性が著しく低下してしまう原因となってしまうといった問題がある。
【0005】
一方、カーボンナノチューブを、臭素、カリウム、水、硝酸や硫酸でドーピングすることにより導電性を上げることができることが知られている(非特許文献1)。しかしながら、これらドーパントは高温下で揮発・分解したり、組成物中を移動して安定に導電性を上げることが難しかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lee et al, Nature 388 ,6639, p255 (1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、カーボンナノチューブの本来持つ導電特性を著しく損なうことなく、高温下においても安定に導電特性を発揮することができる、高耐熱性、高導電性を有する導電性組成物および導電性複合体、それらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、カーボンナノチューブの分散剤として非共役系分散剤を選択することで光線透過率が高く、さらに不揮発性有機酸を添加することで、得られたカーボンナノチューブ組成物が高温下においても高い導電性を発揮できることを見出し、本発明に到ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、下記の構成からなる。
<1>カーボンナノチューブ、非共役系分散剤および不揮発性有機酸を含むことを特徴とする導電性組成物。
<2>非共役系分散剤がイオン性高分子であることを特徴とする<1>記載の導電性組成物。
<3>上記、不揮発性有機酸が芳香族系有機酸であることを特徴とする<1>または<2>記載の導電性組成物。
<4>上記、不揮発性有機酸がカーボンナノチューブ100重量部に対して50〜300重量部含有されることを特徴とする<1>〜<3>のいずれか記載の導電性組成物。
<5>カーボンナノチューブが主として2層カーボンナノチューブであることを特徴とする<1>〜<4>のいずれか記載の導電性組成物。
<6>上記、カーボンナノチューブが酸化処理されたカーボンナノチューブであることを特徴とする<1>〜<5>のいずれか記載の導電性組成物。
<7>上記、不揮発性有機酸が、上記、不揮発性有機酸が、スルホン酸またはカルボン酸基およびその塩から選択される少なくとも1つ有することを特徴とする特徴とする<1>〜<6>のいずれか記載の導電性組成物。
<8>組成物のpHが2〜6であることを特徴とする<1>〜<7>のいずれか記載の導電性組成物。
<9><1>〜<8>のいずれか記載の導電性組成物からなる導電性複合体。
<10><1>〜<8>のいずれか記載の導電性組成物を基材に固定してなる導電性複合体。
<11>導電性組成物の上にポリマー系バインダーを塗布してなる<9>または<10>記載の導電性複合体。
<12><1>〜<8>のいずれか記載の導電性組成物からなるタッチパネル用導電性複合体。
<13>光線透過率50%以上、表面抵抗値10Ω/□以下であることを特徴とする<9>〜<12>のいずれか記載の導電性複合体。
<14><9>〜<13>のいずれか記載の導電性複合体を用いてなるタッチパネル。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温下においても導電性に優れた耐熱性の高い導電性組成物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は参考例1で使用した流動床装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の導電性組成物はカーボンナノチューブおよび非共役系分散剤からなる組成物であり、さらに不揮発性有機酸を含むことが特徴である。カーボンナノチューブのドーパントとして水や硝酸や硫酸などが知られているが、水や硝酸は高温下にさらすと分解・揮発してしまうため、高温下でカーボンナノチューブの導電性が著しく低下してしまう。また、硫酸は揮発の程度は低いがカーボンナノチューブ組成物中で移動してしまい、安定にカーボンナノチューブの特性を向上することは難しい。本発明では、不揮発性有機酸を含むことで、カーボンナノチューブの導電性・分散性が向上でき、さらに、高温下においても分解や揮発、移動が起こらず、カーボンナノチューブの導電性を低下させることなく高導電性を維持することができるというものである。
【0013】
また、カーボンナノチューブは室温において水を容易に吸蔵し、電気抵抗を下げることができるが、高温下においては脱水されてしまうため、水分量の変化により著しく導電性が低下してしまう。本発明では、不揮発性有機酸を系中に存在させることで、水吸蔵能を高め高温下においても高い導電性を維持することができる。
【0014】
カーボンナノチューブはグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、2層に巻いたものを2層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブという。
【0015】
本発明の導電性組成物には求められる用途特性に応じて、単層、2層、多層のいずれのカーボンナノチューブも用いることができる。単層〜5層と層数の少ないカーボンナノチューブを用いれば導電性がより高く、光透過性も高い導電性複合体を得ることができ、2層以上のカーボンナノチューブを用いれば光学特性において、光波長依存性の少ない導電性組成物を得ることができる。光透過性の高い導電性組成物を得るには、好ましくは、層数が単層から5層であるカーボンナノチューブが100本中50本以上含まれることが好ましい。6層以上の多層カーボンナノチューブは一般に結晶化度が低く導電性が低いうえ、直径が太く導電層中のカーボンナノチューブ単位量あたりの接点数が小さくなり透明導電性が低くなる。すなわち、単層から5層であるカーボンナノチューブは導電性が高く透明性に優れ好ましい。好ましくは、単層から5層のカーボンナノチューブが100本中70本以上である。さらに好ましくは単層から5層のカーボンナノチューブが100本中80本以上である。さらに好ましい形態では、2層から5層が100本中50本以上であれば分散性、導電性が好ましい。さらに好ましくは2層から5層が70本以上である。好ましいのは上記単層から5層のカーボンナノチューブの本数の範囲と2層から5層のカーボンナノチューブの本数の範囲の両方を満たすことである。上記範囲を満たす中で、特に2層カーボンナノチューブがカーボンナノチューブ100本中50本以上であると導電性ならびに分散性が極めて高く好ましい。また、2層カーボンナノチューブは酸化処理などによって表面が官能基化されても導電性などの本来の機能が損なわれず好ましい。
【0016】
カーボンナノチューブの層数は、例えば後述のようにサンプルを作成し測定できる。カーボンナノチューブが液などの媒体中に分散した組成物中に存在する場合、溶媒が水系の場合は組成物を水で見えやすい濃度に適宜希釈しコロジオン膜上に数μL滴下し風乾させた後、直接透過型電子顕微鏡でコロジオン膜上のカーボンナノチューブを調べる。溶媒が非水系の場合は、一度乾燥により溶媒を除去した後、再度水中で分散させてから適宜希釈してコロジオン膜上に数μL滴下し風乾させた後、透過型電子顕微鏡で観察する。導電性組成物中のカーボンナノチューブの層数は、塗布前の組成物を同様にして観察することができる。導電性複合体からカーボンナノチューブを採取する際は、エポキシ樹脂で包埋した後、カミソリなどを用いて0.1μm以下に薄く切断した切片を観察することによって、導電性複合体を透過型電子顕微鏡で調べることができる。また、溶媒でカーボンナノチューブを抽出し、組成物の場合と同様にして高分解能透過型電子顕微鏡で観察することによって調べることもできる。
【0017】
コロジオン膜上に滴下する液のカーボンナノチューブ濃度は、カーボンナノチューブを一本一本観察できる濃度であればよいが、例えば0.001重量%である。
【0018】
具体的には上記の方法で得られたカーボンナノチューブを透過型電子顕微鏡で観察した時に100本中50本以上のカーボンナノチューブが単層〜5層の範囲であることが好ましい。上記カーボンナノチューブの層数の測定は、次のようにして行う。透過型電子顕微鏡で40万倍で観察し、75nm四方の視野の中で視野面積の10%以上がカーボンナノチューブである視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて層数を測定し、評価する。一つの視野中で100本の測定ができない場合は、100本になるまで複数の視野から測定する。このとき、カーボンナノチューブ1本とは視野中で一部カーボンナノチューブが見えていれば1本と計上し、必ずしも両端が見えている必要はない。また視野中で2本と認識されても視野外でつながって1本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上する。
【0019】
カーボンナノチューブの直径は、特に限定はないが,上記範囲の層数を満たすカーボンナノチューブであればより好ましく、上記範囲の層数のカーボンナノチューブは一般的に平均1nm〜10nmであることが好ましい。より好ましくは、1nm〜5nmである。
合計100本のカーボンナノチューブについて直径を測定することによって100本中に含まれるカーボンナノチューブの直径の相加平均を確認することができる。 カーボンナノチューブの直径を測る位置はカーボンナノチューブが湾曲していない直線性のある位置を選んで測定するものとする。
【0020】
カーボンナノチューブは表面や末端が官能基で付加・修飾されていることが好ましい。例えば酸化剤の存在下加熱することにより、カルボキシル基、カルボニル基、水酸基で官能基化でき、カーボンナノチューブの導電性が向上し好ましい。また、表面や末端が修飾されたカーボンナノチューブは耐熱性が高く、高温下においても高い導電性を維持することができ好ましい。また、親水性の官能基を表面に有することから、水吸着能に優れ、高温下においても導電性が維持され好ましい。
【0021】
また、カーボンナノチューブの表面や末端がアルキル基やアルカリ金属やハロゲンで修飾されているものも好ましく用いることができる。
【0022】
カーボンナノチューブの長さは特に限定はないが、短すぎると効率的に導電性パスを形成できないため0.1μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5μm以上である。上限は長すぎると分散性が低下する傾向にあるため5μm以下であることが好ましい。
【0023】
カーボンナノチューブの長さは、後述するように電解放射走査型電子顕微鏡を用いて調べることができる。カーボンナノチューブが液などの媒体中に分散した組成物である場合には、マイカ基板上に数μL滴下し風乾させた後、電解放射走査型電子顕微鏡で調べることができる。組成物からカーボンナノチューブを採取する場合は、溶媒を用いてカーボンナノチューブを抽出してから液などの組成物と同様の方法で観察することができる。観察する際に、イオンスパッタリングを用いて、あるいは350℃、30分大気雰囲気下で焼成して分散剤などを除去し、カーボンナノチューブを露出してから観察することができる。
【0024】
導電性複合体中のカーボンナノチューブの長さは、固定前の組成物を上記の組成物の場合と同様にして観察することができる。滴下するカーボンナノチューブ濃度はカーボンナノチューブが一本一本観察できる濃度が好ましく適宜希釈すれば良いが、例えば0.01重量%である。
【0025】
導電性複合体からカーボンナノチューブを採取する際は、導電性複合体から溶媒を用いてカーボンナノチューブを抽出してから組成物と同様の方法で観察することができる。
【0026】
カーボンナノチューブの長さについては、上記方法で試料を作成し電解放射走査型電子顕微鏡で1万倍で観察し、8μm四方の視野の中で10本以上のカーボンナノチューブが含まれるところで写真を撮り、各カーボンナノチューブの長さを測定する。視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブの長さを繊維に沿って測定する。一つの視野中で100本の測定ができない場合は、100本になるまで複数の視野から測定する。合計100本のカーボンナノチューブについて長さを測定することによって100本中に含まれるカーボンナノチューブの長さとその本数を確認することができる。本発明においては、長さが0.1μm以下の範囲にあるカーボンナノチューブが100本中30本以下であれば、接点抵抗を低減でき、光線透過率を向上することができ好ましく、さらに0.5μm以下の範囲にあるカーボンナノチューブが100本中30本以下であるとより好ましい。さらに、本発明においては、長さが5μm以上の範囲にあるカーボンナノチューブが100本中30本以下であると分散性が向上でき好ましい。カーボンナノチューブの長さが長く、視野内で全体の長さが見えていない場合は、視野内のカーボンナノチューブの長さを測定し、5μm以内であれば測定値の長さと見なし、5μmより大きければ5μm超の長さと見なして0.5〜5μmの範囲にあるカーボンナノチューブの本数を数えることとする。
【0027】
また、透明導電性に優れた導電性複合体を得るには、結晶化度の高い高品質のカーボンナノチューブを用いることが好ましい。結晶化度の高いカーボンナノチューブは、それ自体電気伝導性に優れる。しかし、このような高品質のカーボンナノチューブは、結晶化度の低いカーボンナノチューブと比べより強固にバンドルや凝集体を形成しているため、一本一本を解し安定に高分散させるのは非常に困難である。そのため、結晶化度の高いカーボンナノチューブを用いて、より導電性の高い導電性複合体を得るには、カーボンナノチューブの分散技術が非常に重要である。
【0028】
本発明で用いる非共役系分散剤とはカーボンナノチューブの分散性がある化合物であって、主鎖共役型でない化合物である。分散性がある化合物とは、カーボンナノチューブを分散剤を含んだ媒体中で超音波を照射することによって、一部でもカーボンナノチューブが目視にて識別できない大きさまでほぐれ散在すれば分散性があるとみなす。主鎖共役型化合物としては、ポリアセチレン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリピロールなどの導電性高分子があげられるが、これらの主鎖共役型化合物は、着色があり、透明性が低下してしまうという問題がある。本発明の非共役系分散剤であれば、着色が少なく、高い透明性を得ることができる。
【0029】
本発明の非共役系分散剤は、カーボンナノチューブの分散能があれば、低分子、高分子を問わないが、分散性、分散安定性から高分子であることが好ましい。高分子の場合、ポリマー鎖が長くなるとポリマーがカーボンナノチューブにからみつき非常に安定に分散することができる。しかし、分子量が大きすぎると逆に分散性が低下するので好ましくは1万〜1000万以下であり、さらに好ましくは、1万〜100万である。高分子の種類としては、カーボンナノチューブが分散できれば限定はなく、合成高分子、天然高分子などから選択できる。合成高分子は、例えば、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリビニルアルコール、部分けん化ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、アセタール基変性ポリビニルアルコール、ブチラール基変性ポリビニルアルコール、シラノール基変性ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合樹脂、ジメチルアミノエチルアクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ系樹脂、フェノキシ樹脂、変性フェノキシ系樹脂、フェノキシエーテル樹脂、フェノキシエステル樹脂、フッ素系樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンおよびその誘導体から選択できる。天然高分子は、例えば、多糖類であるデンプン、プルラン、デキストラン、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アミロース、アミロペクチン、アルギン酸、アラビアガム、カラギーナン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カードラン、キチン、キトサン、セルロースおよびその誘導体から選択できる。誘導体とはエステルやエーテル、塩などの従来公知の化合物を意味する。これらは、1種または2種以上を混合して用いることができる。中でも、カーボンナノチューブ分散性、導電性に優れることから、イオン性高分子が好ましく用いられる。
【0030】
本発明におけるイオン性高分子とは、上記、高分子においてイオン性官能基を少なくともひとつ以上有するものであってよい。
【0031】
イオン性高分子の中でも、スルホン酸やカルボン酸などのイオン性官能基を持つものが分散性、導電性が高く好ましい。また、イオン性官能基を持つものは、水吸蔵能が高く高温下において、導電性を維持でき好ましい。具体的には、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウムおよびそれらの誘導体があげられる。
【0032】
低分子(モノマーやオリゴマー(例えば、2〜20単位))の種類としては、例えばイオン性界面活性剤である陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、グルコース、リボース、デオキシリボースなどの単糖、スクロース、マルトース、ラクトース、セロビオース、トレハロースなどの二糖、シクロデキストリンなどのオリゴ糖、胆汁酸やコレステロール、コール酸などのステロイド誘導体などがあげられる。
【0033】
非イオン性界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤をあげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0034】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0035】
陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤であり、中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0036】
低分子分散剤の中でも、カーボンナノチューブ分散性、導電性から陰イオン性界面活性剤およびステロイド誘導体が好ましく用いられる。
【0037】
本発明で用いる不揮発性有機酸における不揮発とは、常温常圧下で容易に大気中に揮発しないものである。たとえば、少なくとも25℃、1気圧(101325Pa)において、100時間後の重量減少が20%以内とする。例えば、常温で固体のものが好ましくあげられる。
【0038】
本発明における有機酸とは酸性を示す有機化合物の総称であり、たとえば、カルボン酸、スルホン酸、スルフィン酸、フェノール、エノール、チオール、酸イミド、オキシム、スルホンアミド、リン酸、ホスホン酸など酸性の官能基と疎水基とをそれぞれ少なくとも1つ有する低分子有機酸、あるいは、分子内に上記酸性の官能基を少なくとも1つ有し、繰り返し単位構造を有する有機酸ポリマーである。
【0039】
本発明では、不揮発性の有機酸を用いることで高温下(たとえば、100℃以上)においても揮発、分解されにくい、安定に存在できるため安定的に導電性向上効果が得られる。また、非共役系分散剤以外に不揮発性有機酸を添加し分散させることで、カーボンナノチューブをさらに分散させることができる。低分子不揮発性有機酸中の疎水基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基および芳香環含有炭化水素基等が挙げられる。
【0040】
脂肪族炭化水素基としては、アルキル基及びアルケニル基等が含まれる(直鎖状又は分岐状のいずれでもよい)。
【0041】
炭素数としては、たとえば、1〜36であり、分散性、導電性より好ましくは1〜15であり、さらに好ましくは、7〜15である。特に酸性官能基がカルボン酸の場合においては、7〜15が好ましい。
【0042】
アルキル基としては、メチル、エチル、n−又はi−プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘキコシル、ドコシル、トリコシル、テトラコシル、ペンタコシル、ヘキサコシル、ヘプタコシル、オクタコシル、ノナコシル、トリアコンチル、ヘキトリアコンチル、ドトリアコンチル、トリトリアコンチル、テトラトリアコンチル、ペンタトリアコンチル及びヘキサトリアコンチル基などが挙げられる。
【0043】
アルケニル基としては、n−又はi−プロペニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、2−エチルデセニル、エイコセニル、ヘキコセニル、ドコセニル、トリコセニル、テトラコセニル、ペンタコセニル、ヘキサコセニル、ヘプタコセニル、オクタコセニル及びノナコセニル基などが挙げられる。
【0044】
脂環式炭化水素基としては、シクロアルキル基等が含まれ、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、シクロドデシル、シクロヘキサデシル、シクロエイコシル、シクロヘキサコシル、シクロノナコシル、シクロテトラトリアコンチル、シクロペンタトリアコンチル及びシクロヘキサトリアコンチル基等が挙げられる。
【0045】
芳香環含有炭化水素基としては、フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、n−又はi−プロピルフェニル、ブチルフェニル、ペンチルフェニル、ヘキシルフェニル、ヘプチルフェニル、オクチルフェニル、ノニルフェニル、デシルフェニル、ウンデシルフェニル、ドデシルフェニル、メチルナフチル、エチルナフチル、ナフチル、n−又はi−プロピルナフチル、ブチルナフチル、ペンチルナフチル、ヘキシルナフチル、ヘプチルナフチル、オクチルナフチル、ノニルナフチル、デシルナフチル、ウンデシルナフチル、及びドデシルナフチル基などが挙げられる。
【0046】
これらの炭化水素基中の水素原子の一部又は全部が他の原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など)または官能基(水酸基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、ニトロ基、パーフルオロ基など)で置換されていてもよい。
【0047】
これらの中で、スルホン酸基やカルボン酸基を有する低分子不揮発性有機酸が分散性、導電性から好ましく用いられる。また、高温下においても水吸蔵能が高く、高い導電性を維持することができる。
【0048】
スルホン酸基やカルボン酸基を有する不揮発性低分子有機酸の具体例としては、以下の化合物などが挙げられる。
【0049】
スルホン酸基を有する化合物
アルキルスルホン酸(オクチルスルホン酸、デシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、ミリスチルスルホン酸、セチルスルホン酸、ステアリルスルホン酸、ブロモエタンスルホン酸など)、ベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸(トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、エイコシルベンゼンスルホン酸など)、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸(メチルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸、エイコシルナフタレンスルホン酸など)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルスルホン酸(ポリオキシエチレンオクチルエーテルスルホン酸、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホン酸など)、ポリオキシアルキレンアルキルアリールエーテルスルホン酸(ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルスルホン酸、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテルスルホン酸など)、スルホコハク酸{(ジ)オクチルスルホコハク酸、(ジ)ラウリルスルホコハク酸、(ジ)オクチルポリオキシエチレンスルホコハク酸、(ジ)ラウリルポリオキシエチレンスルホコハク酸、(ジ)アミルスルホコハク酸、(ジ)2−エチルヘキシルスルホコハク酸など}、α−オレフィンスルホン酸(1−オクテンのスルホン化物、1−ノネンのスルホン化物、1−デセンのスルホン化物、1−ドデセンのスルホン化物、1−テトラデセンのスルホン化物、1−ペンタデセンのスルホン化物、1−ヘキサデセンのスルホン化物、1−オクタデセンのスルホン化物など)、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸{メチルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸、ドデシルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸など}、アルキロイルアミノエチルスルホン酸(オクチロイル−N−メチルアミノエチルスルホン酸、ラウリロイル−N−メチルアミノエチルスルホン酸など)、脂肪酸エチルエステルスルホン酸(オクチル酸エチルエステルスルホン酸、ラウリン酸エチルエステルスルホン酸など)。これらの化合物の誘導体や塩も用いることができる。中でも、耐熱性の効果に優れることより遊離酸が好ましい。
【0050】
カルボン酸基を有する化合物
脂肪族モノカルボン酸(例えば、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、カプリン酸、ウンデカン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、イソカプロン酸、エチル酪酸、メチル吉草酸、イソカプリル酸、プロピル吉草酸、エチルカプロン酸、イソカプリン酸、ピバリン酸、2,2−ジメチルブタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、2−メチル−2−エチルブタン酸、2−メチル−2−エチルペンタン酸、2−メチル−2−エチルヘキサン酸、2−メチル−2−エチルヘプタン酸、2−メチル−2−プロピルペンタン酸、2−メチル−2−プロピルヘキサン酸、2−メチル−2−プロピルヘプタン酸、アクリル酸、クロトン酸、メタクリル酸、イソクロトン酸、3−ブテン酸、ペンテン酸、ヘキセン酸、ヘプチン酸、オクテン酸、ノネン酸、デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、ツズイン酸、フィステリン酸、ゴッシュ酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、3−メチルクロトン酸、チグリン酸、メチルペンテン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、フェニル酢酸、グリコール酸、乳酸など)。これらの化合物の誘導体や塩も用いることができる。中でも、耐熱性の効果に優れることより遊離酸が好ましい。
【0051】
脂肪族ポリカルボン酸(例えば蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、プロピルマロン酸、ブチルマロン酸、ペンチルマロン酸、ヘキシルマロン酸、ジメチルマロン酸、メチルエチルマロン酸、ジエチルマロン酸、メチルプロピルマロン酸、メチルブチルマロン酸、エチルプロピルマロン酸、ジプロピルマロン酸、エチルブチルマロン酸、プロピルブチルマロン酸、ジブチルマロン酸、メチルコハク酸、エチルコハク酸、2,2−ジメチルコハク酸、2,3−ジメチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、3−メチル−3−エチルグルタル酸、3,3−ジエチルグルタル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、メチレングルタル酸、マレイン酸モノメチル、1,5−オクタンジカルボン酸、5,6−デカンジカルボン酸、1,7−デカンジカルボン酸、4,6−ジメチル−4−ノネン−1,2−ジカルボン酸、4,6−ジメチル−1,2−ノナンジカルボン酸、1,7−ドデカンジカルボン酸、5−エチル−1,10−デカンジカルボン酸、6−メチル−6−ドデセン−1,12−ジカルボン酸、6−メチル−1,12−ドデカンジカルボン酸、6−エチレン−1,12−ドデカンジカルボン酸、6−エチル−1,12−ドデカンジカルボン酸、7−メチル−7−テトラデセン−1,14−ジカルボン酸、7−メチル−1,14−テトラデカンジカルボン酸、3−ヘキシル−4−デセン−1,2−ジカルボン酸、3−ヘキシル−1,2−デカンジカルボン酸、6−エチレン−9−ヘキサデセン−1,16−ジカルボン酸、6−エチル−1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、6−フェニル−1,12−ドデカンジカルボン酸、7,12−ジメチル−7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボン酸、7,12−ジメチル−1,18−オクタデカンジカルボン酸、6,8−ジフェニル−1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,1−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロペンタンジカルボン酸、1,1−シクロヘキセンジカルボン酸、1,2−シクロヘキセンジカルボン酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸、リンゴ酸、グルタミン酸、酒石酸など)。これらの化合物の誘導体や塩も用いることができる。中でも、耐熱性の効果に優れることより遊離酸が好ましい。
【0052】
芳香族モノカルボン酸(例えば、安息香酸、トルイル酸、エチル安息香酸、プロピル安息香酸、イソプロピル安息香酸、ブチル安息香酸、イソブチル安息香酸、第二ブチル安息香酸、第三ブチル安息香酸、ヒドロキシ安息香酸、アニス酸、エトキシ安息香酸、プロポキシ安息香酸、イソプロポキシ安息香酸、ブトキシ安息香酸、イソブトキシ安息香酸、第二ブトキシ安息香酸、第三ブトキシ安息香酸、アミノ安息香酸、N−メチルアミノ安息香酸、N−エチルアミノ安息香酸、N−プロピルアミノ安息香酸、N−イソプロピルアミノ安息香酸、N−ブチルアミノ安息香酸、N−イソブチルアミノ安息香酸、N−第二ブチルアミノ安息香酸、N−第三ブチルアミノ安息香酸、N,N−ジメチルアミノ安息香酸、N,N−ジエチルアミノ安息香酸、ニトロ安息香酸、レゾルシン安息香酸など)
芳香族ポリカルボン酸(例えばフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ニトロフタル酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、メリティック酸など)。これらの化合物の誘導体や塩も用いることができる。中でも、耐熱性の効果に優れることより遊離酸が好ましい。
【0053】
これらのうち、芳香族スルホン酸、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸等の芳香族系有機酸が分散性、耐熱性が高く、好ましく用いられる。不揮発性有機酸の中でも、芳香族であることで、カーボンナノチューブ表面とπ−πスタッキングできるため、安定にカーボンナノチューブ表面に存在することができ高い分散性・導電性が高温下においても維持できる。中でも、具体的には、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、メリティック酸などが好ましくあげられる。
【0054】
不揮発性有機酸は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0055】
分子内に上記酸基を少なくとも1つ有し、繰り返し単位構造を有する不揮発性有機酸ポリマーも好ましく用いることができる。
【0056】
これらのポリマーは、酸性の官能基を含む不飽和モノマーを用いてラジカル重合により得ることもできるし、ポリマー反応により酸性官能基を導入しても得ることもできるし、分子内に酸性の官能基を有する芳香族化合物を用いてホルムアルデヒドとの重縮合反応によっても得ることができる。本発明に用いるポリマーは、単独で用いても良いが、2種以上の混合物として用いることもできる。
【0057】
ポリマーの具体例としては、ポリスチレンスルホン酸、スチレン/スチレンスルホン酸共重合体、ポリ{2−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸}、2−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸/スチレン共重合体、2−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸/アクリルアミド共重合体及び2−(メタ)アクリロイルアミノ−2,2−ジメチルエタンスルホン酸/スチレン/アクリルアミド共重合体、ポリ{2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート硫酸エステル}、2−ヒドロキシエチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレート硫酸エステル共重合体及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレート硫酸エステル共重合体、ポリ{2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートリン酸エステル}、2−ヒドロキシエチルアクリレート/2−ヒドロキシエチルアクリレートリン酸エステル共重合体及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート/2−ヒドロキシエチルメタクリレートリン酸エステル共重合体、ポリ{(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート}、2−ヒドロキシエチルアクリレート/アクリロイルオキシエチルホスフェート共重合体及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリロイルオキシエチルホスフェート共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸/酢酸ビニル共重合体及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート/(メタ)アクリル酸共重合体などが挙げられる。これらの化合物の誘導体や塩も用いることができる。中でも、耐熱性の効果に優れることより遊離酸が好ましい。
【0058】
ポリマーの構成モノマー単位当たりの酸性官能基率(モル%)は、水への溶解性の観点等から、50〜100モル%が好ましく、さらに好ましくは80〜99モル%である。なお、酸性官能基率は、ポリマー中の構成モノマー単位当たり、いくつの酸性官能基が導入されたかを表す指標であり、例えば、ポリスチレンのスルホン化物の場合、スルホン化率が100モル%とは、ポリスチレン中の全ての芳香族環に対して1つのスルホン酸基が導入されたことを意味する。スルホン化率は、公知の方法によって求めることができ、例えば元素分析により炭素原子と硫黄原子との比率を測定する方法により求められる。
【0059】
スルホン化反応法としては、例えば、反応溶剤(例えば、1,2―ジクロロエタン、メチレンジクロリド、塩化エチル、四塩化炭素、1,1―ジクロルエタン、1,1,2,3−テトラクロルエタン、クロロホルム、エチレンジブロミドなどのスルホン化に不活性な溶剤)、スルホン化剤(例えば、無水硫酸、クロルスルホン酸など)を仕込んだ後、0〜50℃で反応させ、必要により溶剤をろ過、留去させることによりスルホン化物を得ることができる。
【0060】
カルボキシル基を有するポリマーは、例えば、カルボキシル基を有する不飽和モノマーを用いてラジカル重合により、また、分子内にカルボキシル基を有する芳香族化合物とホルムアルデヒドとの重縮合反応によって得られる。カルボキシル基の量は、JIS K0070−1992酸価の測定法に準拠して求めることができる。
【0061】
ポリマーの重量平均分子量(以下、Mwと略記。)は、分散性、導電性の観点から、300〜2000,000が好ましく、さらに好ましくは1000〜500,000、特に好ましくは1,000〜300,000である。本発明におけるMwは、たとえば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略記。)によって測定することができる。
【0062】
なお、本発明における分散剤の中には、不揮発性有機酸に含まれるものもあるが、分散剤単独では高温下における水吸蔵能が不十分で、高温下において抵抗変化率が大きくなってしまうため、所望の耐熱性を得るには、分散剤以外に分散剤とは異なる不揮発性有機酸を添加することが好ましい。分散剤、有機酸にも含まれる酸あるいは塩をそれぞれ分散剤、有機酸として使用する場合、カーボンナノチューブを分散させる性質のより強い方を分散剤として扱うものとする。
【0063】
本発明における導電性組成物は、少なくともカーボンナノチューブと非共役系分散剤、不揮発性有機酸が混合されている粉末、ペースト、液状のものである。
本発明で好ましく用いられるカーボンナノチューブは、例えば以下のように製造される。
【0064】
マグネシアに鉄を担持した粉末状の触媒を、縦型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させ、該反応器内にメタンを鉛直方向に流通させ、メタンと上記触媒を500〜1200℃で接触させ、カーボンナノチューブを製造した後、カーボンナノチューブを精製することにより得られる。
【0065】
すなわち上記カーボンナノチューブの合成法により、単層〜5層のカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブを得ることができる。カーボンナノチューブは、製造した後、精製される。精製により、触媒や副生する炭素不純物を除去する。炭素不純物を除去する方法として酸化処理をする方法が挙げられる。酸化処理を施すことにより単層から5層の割合を、特に2層から5層の割合を増加させることもできる。
【0066】
酸化処理は例えば、焼成処理する方法により行われる。焼成処理の温度は本発明のカーボンナノチューブが得られる限り、特に限定されないが、通常、300〜1000℃の範囲で選択される。酸化温度は雰囲気ガスに影響されるため、酸素濃度が高い場合には比較的低温で、酸素濃度が低い場合には比較的高温で焼成処理することが好ましい。カーボンナノチューブの焼成処理としては、例えば大気下、カーボンナノチューブの燃焼ピーク温度±50℃の範囲内で焼成処理をする方法が挙げられるが、酸素濃度が大気よりも高い場合はこれよりも低目の温度範囲、低い場合には高めの温度範囲が選択されるのが通常である。
【0067】
特に大気下で焼成処理を行う場合は燃焼ピーク温度±15℃の範囲で行うことが好ましい。
【0068】
カーボンナノチューブの燃焼ピーク温度は熱分析することで測定が可能である。大気下、熱分析するとは、約10mgの試料を示差熱分析装置(例えば島津製作所製 DTG−60)に設置し、空気中、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温する。その時、試料の燃焼時の発熱ピーク温度を求めることが可能である。求めた燃焼ピーク温度±50℃の範囲で焼成処理することにより、製造したカーボンナノチューブ中の不純物や耐久性の低い単層カーボンナノチューブを除去することが可能である。このとき燃焼ピークよりあまりにも低い温度、例えば、−50℃未満で焼成処理を行っても、不純物や純度の低い単層カーボンナノチューブは焼成されないために、除去されず単層から5層カーボンナノチューブの純度は向上しない。また燃焼ピーク温度よりあまりにも高い温度、50℃超で焼成処理を行っても、今度は生成カーボンナノチューブ全てが焼成されて消失してしまう。よってカーボンナノチューブの燃焼ピーク温度付近で焼成するのが好ましい。このとき燃焼ピーク温度±50℃の範囲で焼成処理することが好ましい。カーボンナノチューブは一般的に層数が多いほど燃焼温度が高いため、±50℃の範囲で焼成することで純度の高い単層から5層を、−15℃〜+50℃の範囲で焼成することで、単層が消失するため、2層〜5層のカーボンナノチューブの純度を向上することができ好ましい。さらに、±15℃の範囲であれば、2層〜5層のカーボンナノチューブのなかでもより2層カーボンナノチューブの割合を増加でき、100本中50本以上を2層カーボンナノチューブとすることができ好ましい。
【0069】
また、酸素または酸素を含む混合気体を間欠的に接触させて焼成処理を行なう方法によっても行なうことができる。
【0070】
酸素または酸素を含む混合気体を間欠的に接触させて焼成処理する場合は、酸素濃度が高くても、比較的高温、例えば500〜1000℃で処理が可能である。これは間欠的に酸素または酸素を含む混合気体を流すために、酸化が起きても、酸素を消費した時点ですぐに反応が停止するからである。このようにすることで酸化反応を制御することが可能となる。
【0071】
焼成温度が低いときは焼成処理時間を長く、焼成温度が高いときは焼成時間を短くするなどして、反応条件を調整することができる。よって焼成処理時間は所望のカーボンナノチューブが得られる限り特に限定されない。通常は5分から24時間、好ましくは10分から12時間、さらに好ましくは30分から5時間である。焼成は大気下で行うことが好ましいが、酸素濃度を調節した酸素または酸素/不活性ガスの混合ガス下で行っても良い。このときの酸素濃度は特に限定されない。酸素0.1%〜100%の範囲で適宜設定して良い。また不活性ガスはヘリウム、窒素、アルゴン等が用いられる。
【0072】
本発明において、酸化されたカーボンナノチューブを用いることが好ましい。酸化されたカーボンナノチューブは、カーボンナノチューブの表面がカルボン酸など酸性官能基で修飾されており、イオン交換水中に懸濁した液は酸性を示す。酸化されたカーボンナノチューブを用いることで、高温下においても高い導電性を維持でき、導電性が高く耐熱性が高い導電材料を得ることができる。
【0073】
カーボンナノチューブの酸化処理として上記焼成処理の他、過酸化水素や混酸、硝酸等の酸化剤で処理することが挙げられる。
【0074】
カーボンナノチューブを過酸化水素で処理する場合、上記カーボンナノチューブを例えば市販の34.5%過酸化水素水中に0.01重量%〜10重量%になるように混合し、0〜100℃の温度にて0.5〜48時間反応させる方法が挙げられる。
【0075】
またカーボンナノチューブを混酸で処理する場合、上記カーボンナノチューブを例えば濃硫酸/濃硝酸(3/1)混合溶液中に0.01重量%〜10重量%になるように混合し、0〜100℃の温度にて0.5〜48時間反応させる方法が挙げられる。混酸の混合比としては生成したカーボンナノチューブ中の単層カーボンナノチューブの量に応じて濃硫酸/濃硝酸の比を1/10〜10/1とすることも可能である。
【0076】
カーボンナノチューブを硝酸で処理する場合、上記カーボンナノチューブを例えば市販の硝酸40〜80重量%中に0.01重量%〜10重量%になるように混合し、60〜150℃の温度にて0.5〜48時間反応させる方法が挙げられる。
【0077】
また上記、酸化処理した後、有機アミンで処理しても良い。有機アミンで処理することで残存酸を減少させることができ、さらにアモルファスカーボンなどの不純物に生成したと考えられるカルボキシル基などの酸性基を塩化すると考えられ、これらアモルファスカーボンとカーボンナノチューブとの分離がより良くなると考えられる。つまり酸化処理された不純物の水溶性が増し、ろ過することでカーボンナノチューブと不純物が容易に分離することが可能となる。有機アミンの中でもメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン等の低級アミンが好ましく、さらに好ましくはエチルアミン、プロピルアミンである。
【0078】
このような酸化処理を行うことで、生成物中のアモルファスカーボンなどの不純物および耐熱性の低い単層CNTを選択的に除去することが可能となり、単層から5層、特に2層〜5層カーボンナノチューブの純度を向上することができる。なかでも、硝酸で酸化処理を行うことによって、2層カーボンナノチューブの純度をあげることができ好ましい。
【0079】
これら酸化処理はカーボンナノチューブ合成直後に行っても良いし、別の精製処理後に行っても良い。例えば触媒として鉄/マグネシアを用いる場合、焼成処理後、塩酸等の酸により、さらに触媒除去のための精製処理を行っても良いし、先に塩酸等の酸により触媒除去のための精製処理を行った後に酸化処理してもよい。
【0080】
次に、上記のようにして得られたカーボンナノチューブと非共役系分散剤、不揮発性有機酸を用いて導電性組成物を調製する。調製方法には特に制限はない。
【0081】
例えば上記のようにして得たカーボンナノチューブと非共役系分散剤、不揮発性有機酸を溶媒中で塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波装置、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合し、組成物を製造することができる。中でも、超音波を用いて分散することで得られる組成物のカーボンナノチューブの分散性が向上し好ましい。分散させるカーボンナノチューブは乾燥状態であっても、溶媒を含んだ状態でもよいが、精製後乾燥させずに溶媒を含んだ状態で分散させることで、分散性が向上し好ましい。溶媒は、非共役系分散剤が溶解し、カーボンナノチューブが分散するものであれば限定はなく、水系溶媒でも良いし非水系溶媒でも良い。非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン、アセトニトリル等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
【0082】
これらのなかでも、水、アルコール、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有することがカーボンナノチューブ分散性から好ましい。
【0083】
非共役系分散剤および不揮発性有機酸を添加する順序に特に制限はなく、同時に添加してもよく、それぞれ別々に添加してもよい。また、どちらを先に添加してもよい。中でも、カーボンナノチューブをより分散させるために同時に添加することが好ましい。
【0084】
本発明において、上記組成物は、遠心分離、フィルター濾過、ゲル濾過によって分画することが好ましい。例えば、組成物を遠心分離することによって、未分散のカーボンナノチューブや、過剰量の分散剤、カーボンナノチューブ合成時に混入する可能性のある金属触媒などは沈殿するので、遠心上清を回収すれば組成物中に分散しているカーボンナノチューブを採取することができる。未分散のカーボンナノチューブおよび、不純物などは沈殿物として除去することができ、それによって、カーボンナノチューブの再凝集を防止でき、組成物の安定性を向上することができる。さらに、強力な遠心力においては、カーボンナノチューブの太さや長さによって分離することができ、導電性複合体の透明性、導電性を向上させることができる。
【0085】
遠心分離する際の遠心力は、100G以上の遠心力であればよく、好ましくは、1000G以上、より好ましくは10,000G以上である。上限としては特に制限はないが、汎用超遠心機の性能より2,000,000G以下であることが好ましい。
【0086】
また、フィルター濾過に用いるフィルターは、0.05μmから100μmの間で適宜選択することができる。それにより、未分散のカーボンナノチューブや、カーボンナノチューブ合成時に混入する可能性のある不純物等のうち比較的サイズの大きいものを除去することができる。
【0087】
このように分画する場合においては、この分画される量を見越して、サイズ分画前の配合割合を決定する。サイズ分画前の配合割合の決定は、遠心分離後の沈殿物やフィルター上に残った分画物を乾燥させた後、400℃で1時間焼成した後秤量し、濃度を算出する方法により行われる。このようなサイズ分画の結果、カーボンナノチューブの長さや、層数、その他性状等バンドル構造の有無などでカーボンナノチューブを分離することができる。
【0088】
この組成物には上記カーボンナノチューブ、非共役系分散剤、不揮発性有機酸の他、必要に応じその他の添加剤を含有させることができる。
【0089】
上記、添加剤の含有量は、本発明の効果を阻害しない範囲で添加できる。
【0090】
上記組成物における各成分の配合割合は、以下のとおりである。
【0091】
非共役系分散剤の組成物中の含有量としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、カーボンナノチューブ100重量部に対して30〜1000重量部、より好ましくは、50〜300重量部である。
【0092】
不揮発性有機酸の組成物中の含有量としては、好ましくは、カーボンナノチューブ100重量部に対して50重量部が、高温下において導電性が維持でき好ましい。上限は特にないが、好ましくは300重量部以下である。
【0093】
組成物は溶媒を含む液体状であっても良い。塗膜等を形成するため、溶媒を用いて希釈し、塗液とすることも好ましく行われる。このような液体状の組成物とする場合、それらの中でのカーボンナノチューブ濃度は0.001重量%以上、20重量%以下が好ましく、さらに、0.05〜10重量%であることが好ましい。
【0094】
組成物が液体であるときの好ましい粘度は、例えばE型粘度計を用いて測定しCassonの式により求めた絶対粘度が0.5〜100であり、さらに好ましくは0.5〜50である。
【0095】
また、組成物が液体であるときの好ましいpHは酸性領域(pH7未満)である。分散剤の種類にもよるがより好ましくはpH2〜6、より好ましくは3〜6である。pHが低すぎると分散剤の溶解性が低下したり、カーボンナノチューブ同士の斥力が小さくなり、カーボンナノチューブが凝集してしまう。しかしながらpHが中性以上であると導電性が低下してしまう。したがって、pHが酸性領域であるとカーボンナノチューブの分散安定性が高く高導電性であり耐熱性の高い導電性複合体を形成することができる。
【0096】
pHの調整に際しては、不揮発性有機酸の添加量を調整してもよいし、不揮発性有機酸の添加により低くなりすぎる場合には、アンモニア等のアルカリ性物質等を添加して調整してもよい。
【0097】
本発明における導電性複合体は、例えば、導電性組成物を塗布し基材に固定したものが好ましい。
【0098】
上記本発明の導電性複合体における基材は、導電性組成物が塗布でき、得られる導電層が固定できれば形状、サイズ、および材質は特に限定されず、目的とする用途によって選択でき、例えばフィルム、シート、板、紙、繊維、粒子状であってもよい。材質は例えば、有機材料であれば、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、セルロース、トリアセチルセルロース、非晶質ポリオレフィンなどの樹脂、無機材料であればステンレス、アルミ、鉄、金、銀などの金属、ガラスおよび炭素材料等から選択できる。基材に樹脂フィルムを用いた場合は、接着性、延伸追従性、柔軟性に優れた導電性フィルムを得ることができ好ましい。その際の好ましい基材の厚みは、特に限定されず中程度の厚さから非常に薄い厚さまで種々の範囲をとることができる。例えば、本発明の基材は約0.5nm〜約1000μmの間の厚さとしうる。好ましい実施形態では基材の厚さは約0.005〜約1000μmとなりうる。別の好ましい実施形態では基材の厚さは約0.05〜約500μmである。また、別の好ましい実施形態では基材の厚さは約1.0〜約200μmである。
【0099】
基材は必要に応じ表面処理を施してあってもよい。表面処理は、グロー放電、コロナ放電処理やオゾン処理等の物理的処理、あるいは樹脂層を設けてあっても良い。
【0100】
樹脂層の樹脂は特に限定されず、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂であってよく、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂およびこれら樹脂を2種類以上組み合わせたものなどを用いることができる。基材、導電層との密着性に特に優れ、高耐熱性、高透明性であることからポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂から選ばれる樹脂を用いることがより好ましく、ポリエステル樹脂とアクリル樹脂、ポリエステル樹脂とウレタン樹脂、アクリル樹脂とウレタン樹脂を組み合わせてもよい。
【0101】
樹脂層には、樹脂以外の成分として各種の添加剤、例えば、架橋剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、および核剤が添加されていてもよい。
【0102】
樹脂層は通常、フィルムを基材とした場合には、樹脂成分をオフラインコーティングあるいはインラインコーティングすることにより形成することができる。また、易接着層を有するポリエステルフィルムの“ルミラー”(東レ(株)社製)等の商標で市販されているものを使用してもよい。樹脂層が存在することの確認方法は、積層されていることが確認できる方法であれば限定されないが、例えば透過型電子顕微鏡を用いてフィルムの断面写真をとることで確認できる。必要であればフィルムを染色してもよい。樹脂層は基材との界面が明確でなくグラデーションがかかっている場合においても、グラデーション部分の片側(基材とは反対側)に樹脂層が認められれば、樹脂層があることとする。また、基材はカーボンナノチューブを塗布する反対面に耐摩耗性、高表面硬度、耐溶剤性、耐汚染性、耐指紋性等を付与したハードコート処理が施されているものも併せて用いることができる。
【0103】
また、基材は透明性があってもなくてもどちらでもよい。透明性がある基材を用いることにより透明性・導電性に優れた導電性複合体を得ることができ好ましい。透明性がある基材とは、550nmの光線透過率が50%以上であることを示す。
【0104】
導電性組成物を塗布する方法は特に限定されない。公知の塗布方法、例えばスプレーコーティング、ディップコーティング、ロールコーティング、スピンコーティング、ドクターナイフコーティング、キスコーティング、スリットコーティング、ダイコーティング、スリットダイコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、ブレードコーティング、ワイヤーバーコーティング、押出コーティングや、スクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷などが利用できる。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。最も好ましい塗布方法は、マイクログラビアコーティング、ワイヤーバーコーティングである。
【0105】
塗布厚み(ウエット厚)は塗布液の濃度にも依存するため、望む導電性が得られれば特に規定する必要はない。しかしその中でも0.01μm〜50μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.1μm〜20μmである。塗布厚み(Dry厚)は導電性複合体断面を観察することで測定でき、例えば、透過型顕微鏡において観察でき、必要であれば染色してもよい。好ましいDry厚は望む導電性が得られれば規定はないが、好ましくは、0.001μm〜5μmである。さらに好ましくは、0.001〜1μmである。
【0106】
導電性組成物が水系であるとき、基材上に塗布する時、導電性組成物中に濡れ剤を添加しても良い。非親水性の基材へは特に界面活性剤やアルコール等の濡れ剤を導電性組成物中に添加することで、基材に組成物がはじかれることなく塗布することができる。中でもアルコールが好ましく、アルコールの中でもメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールが好ましい。メタノール、エタノール、イソプロパノールなどの低級アルコールは揮発性が高いために塗布後の基材乾燥時に容易に除去可能である。場合によってはアルコールと水の混合液を用いても良い。
【0107】
このようにして導電性組成物を基材に塗布した後、風乾、加熱、減圧などの方法により不要な溶媒を除去し、形成される導電層を乾燥させることが好ましい。それによりカーボンナノチューブは、3次元編目構造を形成し基材に固定化される。中でも加熱による乾燥が好ましい。乾燥温度は溶媒が除去可能であり基材の耐熱温度以下であればよく、樹脂製基材の場合は、好ましくは0℃〜250℃であり、さらに好ましくは、15℃〜150℃である。
【0108】
乾燥後、導電層中の非導電性成分を適当な溶媒を用いて除去することもできる。また、加熱により非導電性成分を熱分解することもできる。この操作により、電荷の分散が容易になり導電性複合体の導電性が向上する。特に組成物中透明導電性を低下させるような非導電性成分を含有する場合、例えば添加剤や余剰量の分散剤で、導電性を低下させるものなどは、除去することが好ましい。
【0109】
上記の成分を除去するための溶媒としては除去したい透明導電性を低下させる成分を溶解し、かつカーボンナノチューブを除去しないものであれば特に制限はなく、水性溶媒でも非水性溶媒でもよい。具体的には水性溶媒であれば、水やアルコール類、アセトニトリルが挙げられ、非水性溶媒であれば、クロロホルム、トルエンなどがあげられる。
【0110】
上記の成分を除去する方法としては導電層を乾燥後、溶媒中へ浸漬させる、あるいは溶媒を導電層へ噴霧させる方法がある。
【0111】
本発明においては上記のように導電性組成物を塗布してカーボンナノチューブを含む導電性複合体を形成後、このフィルムを有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料でオーバーコーティングすることも好ましい。オーバーコーティングすることにより、さらに透明性、導電性や耐熱性、耐候性が向上できる。
【0112】
また、本発明の導電性複合体は、液中に有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料を含有させ、適当な基材に塗布後、必要により加熱して塗膜の乾燥ないし焼付(硬化)を行っても得ることができる。その際の加熱条件は、バインダー種に応じて適宜に設定する。バインダーが光または放射線硬化性の場合には、加熱硬化ではなく、塗布後直ちに塗膜に光または放射線を照射することにより塗膜を硬化させる。放射線としては電子線、紫外線、X線、ガンマー線等のイオン化性放射線が使用でき、照射線量はバインダー種に応じて決定する。
【0113】
上記バインダー材料としては、導電性塗料に使用されるものであれば特に制限はなく、各種の有機および無機バインダー、すなわち透明な有機ポリマーまたはその前駆体(以下「有機ポリマー系バインダー」と称する場合もある)または無機ポリマーまたはその前駆体(以下「無機ポリマー系バインダー」と称する場合もある)が使用できる。
【0114】
有機ポリマー系バインダーは熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線、電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。適当な有機バインダーの例としては、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6・10等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコン系ポリマー、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなど有機ポリマー、ならびこれらのポリマーの前駆体(モノマー、オリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により、あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により有機ポリマー系透明被膜(もしくはマトリックス(液中に配合する場合))を形成することができる。
【0115】
有機ポリマー系バインダーとして好ましいのは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしてはスチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは、高硬度で耐擦過性に優れ、透明度の高い導電フィルム膜(もしくはマトリックス(液中に配合する場合))を形成することができる。
【0116】
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機リン化合物および有機ボロン化合物、ならびに有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物などの有機金属化合物がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
【0117】
これらの1種もしくは2種以上の無機ポリマー系バインダーを焼成すると、重合し、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜(もしくはマトリックス(液中に配合する場合))を形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、透明性も高い。
【0118】
上記バインダーのうち、無機ポリマー系バインダーが耐熱性、透明性が高く好ましく用いられる。中でも、有機シラン化合物が好ましく、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン、その加水分解物が好ましく用いることができる。
【0119】
バインダーの使用量は、オーバーコートをするのに十分な量、液中に配合する場合には塗布に適した粘性を得るのに十分な量であればよい。少なすぎると塗布がうまくいかず、多すぎても導電性を阻害し良くない。
【0120】
本発明において光線透過率は、導電性複合体を分光光度計(日立製作所 U−2100)に装填し、波長550nmでの光線透過率を測定して得られる値である。
【0121】
表面抵抗値はJISK7194(1994年度制定)準処の4探針法を用い、ロレスタEPMCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いて得られる値である。
【0122】
ラマン分光分析は、共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製 INF-300)に粉末試料を設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行う。測定に際しては3ヶ所、別の場所にて分析を行い、Gバンド、Dバンドの高さを測定し、それぞれの高さの比でG/D比を求め、その相加平均を表す。
【0123】
導電性複合体の耐熱性試験は、乾燥機を用いて導電性複合体を一定温度条件下に一定時間静置することで行われる。熱処理前後の表面抵抗値を測定し導電性複合体の耐熱性を表面抵抗値変化率で評価する。表面抵抗値変化率とは、耐熱後の表面抵抗値を耐熱前表面抵抗値で除した値とする。表面抵抗値変化率は低い方が好ましく、一定である方が好ましい。
【0124】
なお、本発明では乾燥機(エスペック製LKL−112)より取り出して10分室温静置後の表面抵抗値を測定するものとする。
【0125】
本発明において好ましい態様によれば、上記測定法で測定した150℃の条件下、30分後の耐熱性試験後の表面抵抗値変化率が0.5〜1.8の範囲である導電性複合体を得ることができ、さらには表面抵抗値変化率が0.5〜1.2である導電性複合体を得ることができる。抵抗変化率が小さいほど、導電性複合体に配線を施す際の加熱時に特性が変化せずに好ましい。また、0.5〜1.8の範囲であれば、一般的なタッチパネルの電極など耐熱性が必要とされる導電性複合体として、0.5〜1.2の範囲であれば高耐熱性が要求される車載用タッチパネルなどを目的とした導電性複合体として好ましく用いることができる。
【0126】
本発明における導電性複合体のカーボンナノチューブ塗布量は、導電性を必要とする種々の用途を達成するために、容易に調整可能であり、例えば膜厚を厚くすることにより表面抵抗は低くなり、膜厚を薄くすることにより高くなる傾向にあり、塗布量が1mg/mから40mg/mであれば導電性複合体の550nmの光線/基材の550nmの光線透過率×100の値を50%以上とすることができる。塗布量を40mg/m以下とすれば50%以上とすることができる。さらに、塗布量を30mg/m以下とすれば60%以上とすることができる。さらに、塗布量を20mg/m以下であれば70%以上、塗布量を10mg/m以下であれば80%以上とすることでき好ましい。基材の550nmの光線透過率とは、基材に樹脂層がある場合は、樹脂層も含めた光線透過率をいう。
【0127】
また、塗布量により導電性複合体の表面抵抗値も容易に調整可能であり、塗布量が1mg/mから40mg/mであれば導電性複合体の表面抵抗値は10から10Ω/□とすることができ、好ましい。さらに、非共役系分散剤や不揮発性有機酸、各種添加剤の含有量にもよるが、塗布量を40mg/m以上とすれば導電性複合体の表面抵抗値を10Ω/□以下とすることができる。塗布量を30mg/m以上とすれば導電性複合体の表面抵抗値を10Ω/□以下とすることができる。さらに、塗布量が20mg/m以上であれば、10Ω/□以下、塗布量を10mg/m以上であれば10Ω/□以下とすることできる。
【0128】
ただし、光線透過率と表面抵抗値は光線透過率をあげるために、塗布量を減らすと表面抵抗値が上昇し、表面抵抗値を下げるために塗布量を増やすと光線透過率が減少するといった相反する値であるため、所望の表面抵抗値および、光線透過率を選択し塗布量を調整する。また非共役系分散剤や不揮発性有機酸の量を加減することによっても表面抵抗値を調整し得る。非共役系分散剤の量を少なくすることで表面抵抗値を低下させる。本発明においては、非共役系分散剤をカーボンナノチューブの分散剤として用いてさらに不揮発性有機酸を用いることにより上記の優れた導電性を達成しかつ高温下においても表面抵抗値の変化率の小さい耐熱性の高い導電性複合体が得られる。
【0129】
本発明の導電性複合体は耐熱性が高く、高導電性であり、制電靴や、制電板などのクリーンルーム用部材や、電磁波遮蔽、近赤外カット、透明電極、タッチパネル、電波吸収などのディスプレー用、自動車用部材として使える。中でもタッチパネル用途に特に優れた性能を発揮する。
【0130】
以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0131】
実施例中、光線透過率、表面抵抗値、カーボンナノチューブのG/D、カーボンナノチューブの層数測定、耐熱性試験は前述の方法で実施した。
【0132】
(参考例1)
以下のようにカーボンナノチューブを得た。
【0133】
(触媒調製)
クエン酸アンモニウム鉄(緑色)(和光純薬工業社製)2.459gをメタノール(関東化学社製)500mLに溶解した。この溶液に、軽質マグネシア(岩谷社製、かさ密度は0.125g/mLであった)を100g加え、室温で60分間攪拌し、40℃から60℃で攪拌しながら減圧乾燥してメタノールを除去し、軽質マグネシア粉末に金属塩が担持された触媒を得た。
【0134】
(カーボンナノチューブ製造)
図1に示した流動床縦型反応装置でカーボンナノチューブを合成した。図1は上記流動床縦型反応装置の概略図である。
【0135】
反応器100は内径32mm、長さは1200mmの円筒形石英管である。中央部に石英焼結板101を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガス供給ライン104、上部には廃ガスライン105および、触媒投入ライン103を具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器106を具備する。加熱器106には装置内の流動状態が確認できるよう点検口107が設けられている。
【0136】
触媒12gを取り、密閉型触媒供給機102から触媒投入ライン103を通して、石英焼結板101上に参考例1で示した触媒108をセットした。次いで、原料ガス供給ライン104からアルゴンガスを1000mL/分で供給開始した。反応器内をアルゴンガス雰囲気下とした後、温度を850℃に加熱した(昇温時間30分)。
【0137】
850℃に到達した後、温度を保持し、原料ガス供給ライン104のアルゴン流量を2000mL/分に上げ、石英焼結板上の固体触媒の流動化を開始させた。加熱炉点検口107から流動化を確認した後、さらにメタンを95mL/分(メタン濃度4.5vol%で反応器に供給開始した。該混合ガスを90分供給した後、アルゴンガスのみの流通に切り替え、合成を終了させた。
【0138】
加熱を停止させ室温まで放置し、室温になってから反応器から触媒とカーボンナノチューブを含有するカーボンナノチューブ組成物を取り出した。
【0139】
この触媒付きカーボンナノチューブ組成物の示差熱分析による燃焼ピーク温度は456℃であった。
【0140】
上記で示した触媒付きカーボンナノチューブ組成物23.4gを磁性皿(150φ)に取り、予め446℃まで加熱しておいたマッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)にて大気下、446℃で2時間加熱した後、マッフル炉から取り出した。次に、触媒を除去するため、カーボンナノチューブ組成物を6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。これを濾過し、数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥することでマグネシアおよび金属が除去されたカーボンナノチューブ組成物を57.1mg得ることができ、上記操作を繰り返すことによりマグネシアおよび金属が除去されたカーボンナノチューブ組成物を500mg用意した。
【0141】
一方、マッフル炉で消失した炭素量を調べるため、マッフル炉で加熱していない触媒付きのカーボンナノチューブ組成物5.2gを6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。濾過して得られた回収物を、さらに6Nの塩酸水溶液に添加し、室温で1時間攪拌した。これを濾過し、数回水洗した後、濾過物を120℃のオーブンで一晩乾燥してカーボンナノチューブ組成物が107.2mg得られた。
【0142】
これを基に換算すると、マッフル炉中での炭素の消失量は88%であった。また、この様にして得られたカーボンナノチューブ組成物を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブはきれいなグラファイト層で構成されており、層数が2層のカーボンナノチューブが観測された。また観察されたカーボンナノチューブ総本数(100本)のうち88本を2層カーボンナノチューブが占めていた。残りは、3層が10本、4層が2本であった。また、この時のカーボンナノチューブ組成物の波長633によるラマン分光分析の結果、G/D比は75であった。
【0143】
(カーボンナノチューブの酸化処理)
次に、マッフル炉で加熱して触媒を取り除いた2層カーボンナノチューブ組成物80mgを濃硝酸(和光純薬工業社製 1級 Assay60〜61%)27mLに添加し、130℃のオイルバスで5時間攪拌しながら加熱した。加熱攪拌終了後、カーボンナノチューブを含む硝酸溶液をろ過し、蒸留水で水洗後、水を含んだウエット状態のままカーボンナノチューブ組成物を保存した。このとき水を含んだウエット状態のカーボンナノチューブ組成物全体の重量は1266.4mgで、一部377.1mgを取り出し120℃で1晩乾燥させたところ、乾燥状態のカーボンナノチューブ17.0mgが得られた。したがって硝酸化処理後の水を含んだウエット状態のカーボンナノチューブ組成物全体のカーボンナノチューブ濃度は4.5重量%で、硝酸処理の収率は71重量%であった。
【0144】
上記のようにして製造したカーボンナノチューブ組成物について、XPSを用いて測定した。表面組成(atomic%)解析の結果、C;94.4%,N;0.2%,O;5.1%であった。したがってカーボンナノチューブ中の炭素原子に対する酸素原子の割合は5.4%(atomic%)であった。XPS測定は励起X線:Monochromatic Al K1,2線、X線径:1000μm、光電子脱出角度:90°(試料表面に対する検出器の傾き)の条件で測定した。C−O基とC=O基が存在することはO1sのBinding Energy(eV)から判断した。
【0145】
また、得られたカーボンナノチューブ組成物をイオン交換水中に懸濁した液は酸性を示した。したがって、上記カーボンナノチューブはカルボン酸等の酸性官能基で修飾されたものであると考えられる。
【0146】
(実施例1)
(カーボンナノチューブ組成物調製)
10mLの容器に参考例1で得られた酸化処理カーボンナノチューブ15mg(乾燥時換算)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(シグマ社製90kDa,50〜200cps)15mgとナフタレンジスルホン酸4水和物(和光社製)15mgを量りとり、イオン交換水を加え10gにした。アンモニアを用いてpHを4.0に合わせ超音波ホモジナイザー出力20W、20分間で氷冷下分散処理しカーボンナノチューブ液を調製した。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心し、上清9mLを得た。この時の残存液1mLを孔径1μmのフィルターを用いてろ過、その後よく洗浄して得られたろ過物を120℃乾燥機にて乾燥した。重量を測ったところ、1.4mgであった。よって13.6mg(1.36mg/mL)のカーボンナノチューブが上清中に分散していることがわかった。
【0147】
(カーボンナノチューブとカルボキシメチルセルロースを含む導電性複合体)
上記で得た遠心後上清のカーボンナノチューブ分散液をイオン交換水で1.5倍に希釈しポリエステル樹脂表面樹脂層(Dry厚み140nm)を持つポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製188μm)光線透過率90.2%、15cm×30cm)上にバーコーター(No.5、塗布厚み7.5μm、カーボンナノチューブ塗布量6.8mg/m))を用いて塗布し、風乾した後、120℃乾燥機内で2分間乾燥させカーボンナノチューブを固定化した。得られた塗布フィルムの表面抵抗値は1170Ω/□、光線透過率は83.3%(導電性複合体の550nmの光線透過率(83.3%)/基材の550nmの光線透過率(90.2%)×100=92%)であり、高い導電性および、透明性を示した。
耐熱性試験前後で表面抵抗値を測定したところ、表面抵抗値の変化率は1.2であった。
【0148】
(実施例2)
実施例1においてナフタレンジスルホン酸四水和物の代わりにトリメリット酸(1,2,4−ベンゼンスルホン酸)を用いた以外は同条件で行った。
【0149】
(実施例3)
実施例1においてナフタレンジスルホン酸四水和物の代わりに2−ブロモエタンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は同条件で行った。
【0150】
(実施例4)
実施例1において酸化処理カーボンナノチューブの代わりに酸化処理前カーボンナノチューブを用いた以外は同条件で行った。
【0151】
(実施例5)
実施例1においてナフタレンジスルホン酸四水和物の量を半分にした以外は同条件で行った。
【0152】
(実施例6)
実施例1で得られた導電性複合体に下記のようにして、被覆層を設けた。
【0153】
100mLポリ容器中に、エタノール20gを入れ、テトラ−n−ブトキシシラン40gを添加し30分間撹拌した。その後、0.1N塩酸水溶液を10g添加した後2時間撹拌を行い4℃で保管した。24hr後得られた溶液をトルエンとイソプロピルアルコールの混合液で1.0wt%に希釈しバーコーター(No.8、塗布厚み12μm)を用いて塗布後150℃で1分乾燥、加熱させた。
【0154】
(比較例1)
実施例1においてナフタレンジスルホン酸四水和物の代わりに硝酸を添加し、アンモニアを添加せずに硝酸でpH4にした以外は同条件で行った。
【0155】
(比較例2)
実施例1においてナフタレンジスルホン酸四水和物の代わりに硫酸を添加し、アンモニアを添加せずに硫酸でpH4にした以外は同条件で行った。
【0156】
(比較例3)
実施例1においてナフタレンジスルホン酸4水和物を添加せず、pH調整もしない以外は同条件で行った。
【0157】
実施例1〜6、比較例1〜3の導電性複合体の光線透過率、表面抵抗値、耐熱試験後の表面抵抗値変化率を表1にまとめた。
【0158】
(実施例7)
(ハードコート剤コーティング)
実施例6で作成した導電性複合体の基材側(導電層と反対面)に次の組成のハードコート層形成塗液を塗布後、紫外線を15秒間照射し、硬化させハードコート層を設けた。
(ハードコート層形成塗液)
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート 70重量部
・ジペンタエリスリトールテトラメタアクリレート 10重量部
・エチルアクリレート 5重量部
・N−ビニルピロリドン 15重量部
・1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 4重量部
【0159】
上部電極として上記で得られたフィルムに150℃で加熱し配線を施した。配線を施した前後で抵抗の変化率は1.0で変化しなかった。これを、下部電極として配線を施した樹脂スペーサーを有するITOガラスを用いて、両面テープで張り合わせ、フレキシブルプリント回路を接続し抵抗膜式タッチパネル用透明導電電極を作成した。ペンでタッチ操作したところ、上部電極と下部電極が接触しタッチ操作した箇所の座標情報が出力できた。
【0160】
【表1】

【符号の説明】
【0161】
100 反応器
101 石英焼結板
102 密閉型触媒供給機
103 触媒投入ライン
104 原料ガス供給ライン
105 廃ガスライン
106 加熱器
107 点検口
108 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、非共役系分散剤および不揮発性有機酸を含むことを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
非共役系分散剤がイオン性高分子であることを特徴とする請求項1記載の導電性組成物。
【請求項3】
上記、不揮発性有機酸が芳香族系有機酸であることを特徴とする請求項1または2記載の導電性組成物。
【請求項4】
上記、不揮発性有機酸がカーボンナノチューブ100重量部に対して50〜300重量部含有されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の導電性組成物。
【請求項5】
カーボンナノチューブが主として2層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の導電性組成物。
【請求項6】
上記、カーボンナノチューブが酸化処理されたカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の導電性組成物。
【請求項7】
上記、不揮発性有機酸が、スルホン酸またはカルボン酸基およびその塩から選択される少なくとも1つ有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の導電性組成物。
【請求項8】
組成物のpHが2〜6であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項記載の導電性組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の導電性組成物からなる導電性複合体。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項記載の導電性組成物を基材に固定してなる導電性複合体。
【請求項11】
導電性組成物の上にポリマー系バインダーを塗布してなる請求項9または10記載の導電性複合体。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれか1項記載の導電性組成物からなるタッチパネル用導電性複合体。
【請求項13】
光線透過率50%以上、表面抵抗値10Ω/□以下であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項記載の導電性複合体。
【請求項14】
請求項9〜13のいずれか1項記載の導電性複合体を用いてなるタッチパネル。

【図1】
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【公開番号】特開2010−163568(P2010−163568A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8259(P2009−8259)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】