説明

小型車両の変速制御装置

【課題】 内燃機関の吹け上がりを防止して、燃料を無駄にせずに省エネルギー化を図ることができる小型車両の変速制御装置を提供する。
【解決手段】 トランスミッション200の変速段を切り替える動作に連動して、クラッチ92を自動的に断続する機構を有する小型車両の変速制御装置であって、クラッチ92の切断状態を検出するセンサ409と、センサ409によりクラッチ92が切断状態にあることを検出した際に、内燃機関1の出力を低下させる手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の変速段を切り替える動作に連動してクラッチを自動的に断続する機構を内蔵した小型車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型車両の変速制御装置の一例として、変速機の変速段を切り替える動作に連動してクラッチを自動的に断続する変速機が提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−159973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1では、変速動作の際チェンジペダルの戻し動作が遅いと、変速過程で内燃機関が空転する、いわゆる吹け上がりを起して燃料を無駄にしてしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、内燃機関の吹け上がりを防止して、燃料を無駄にせずに省エネルギー化を図ることができる小型車両の変速制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、トランスミッションの変速段を切り替える動作に連動して、クラッチを自動的に断続する機構を有する小型車両の変速制御装置であって、前記クラッチの切断状態を検出するセンサと、前記センサにより前記クラッチが切断状態にあることを検出した際に、内燃機関の出力を低下させる手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記内燃機関の出力を低下させる手段が、点火時期制御であることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明の構成に加えて、前記内燃機関の出力を低下させる手段が、燃料噴射装置の燃料噴射量を制御することであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の小型車両の変速制御装置によれば、センサによってクラッチが切断状態にあることを検出することで内燃機関の出力が低下するため、内燃機関が吹け上がりを伴わずに変速動作を行うことができ、無駄な燃料を消費することがない。
【0010】
請求項2記載の小型車両の変速制御装置によれば、アイドル制御に加え、センサによってクラッチが切断状態にあることを検出した際に、点火時期を遅らせるように制御するため、内燃機関の出力を低下させることができるので、変速時の吹け上がりを防止することができる。
【0011】
請求項3記載の小型車両の変速制御装置によれば、アイドル制御に加え、センサによってクラッチが切断状態にあることを検出した際に、燃料噴射装置の燃料噴射量を絞るように制御するため、燃焼室内を希薄燃料状態にすることができる。これにより、内燃機関の出力を低下させることができるので、変速時の吹け上がりを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1〜図15は本発明の一実施形態を示すもので、図1は本発明に係る小型車両の変速制御装置を搭載した車両の側面図、図2は図1に示した車両の平面図、図3は本発明に係る小型車両の変速制御装置を説明するパワーユニットのシリンダヘッドとシリンダブロックとクランク軸とメイン軸とカウンタ軸と中間軸とデファレンシャルとの中心を結んだ線で切断した断面図、図4は図3に示したパワーユニットのフォーク軸とメイン軸とリバース軸とカウンタ軸とフォーク軸の各軸線を通る面で切断した断面図、図5は図3に示したパワーユニットの左クランクケースを内側から見た一部切欠側面図、図6は図3に示したパワーユニットの左クランクケースを外側から見た一部切欠側面図、図7は図3に示したパワーユニットの右クランクケースを外側から見た一部切欠側面図、図8は図3に示したパワーユニットのギアチェンジ機構を説明する右クランクケースを外側から見た一部切欠側面図、図9(a)は図8に示したギアチェンジ機構のチェンジアームの側面図、図9(b)は図9(a)のA−A線断面図、図9(c)は図9(a)のB−B線断面図、図10(a)は図8に示したギアチェンジ機構のサブプレートの側面図、図10(b)は図10(a)のC−C線断面図、図11(a)は図8に示したギアチェンジ機構の星型カムプレートの側面図、図11(b)は図11(a)のD−D線断面図、図12は図8に示したギアチェンジ機構のシフト開始状態を説明するための側面図、図13は図8に示したギアチェンジ機構のクラッチ切断状態を説明するための側面図、図14は図8に示したギアチェンジ機構のシフト途中状態を説明するための側面図、図15は図8に示したギアチェンジ機構のシフト完了状態を説明するための側面図である。なお、図1及び図2において、「前」、「後」、「左」、「右」は運転者から見た方向に従い、Frを前側、Rrを後側、Lを左側、Rを右側として示す。
【0013】
図1及び図2に示すように、車両10は、車体(車体フレーム)11に左右2つの前輪12,12並びに左右2つの後輪13,13を備え、車体11の前部にバーハンドル15式の繰舵機構14を備えている。また、車体11の中心部に前部シート16並びに後部シート17を備え、車体11の後下部にパワーユニット(変速制御装置、内燃機関)1を備えている。さらに、車体11前部の周囲を覆うフロントカバー18、フロントカバー18の上部に取り付けられるウインドスクリーン19、ウインドスクリーン19の上端から後方へ連続して延びて前部・後部シート16,17の上方を覆うルーフ20、車体11の後部を覆うリヤカバー21を備えた、小型の自動4輪車である。
【0014】
ルーフ20の支持構造は、左右のルーフサイドピラー22,22にてルーフ20を支えるものである。この左右のルーフサイドピラー22,22は、車体前部から車体後部にかけてアーチ状に湾曲したパイプ状のルーフピラーであって、前部のフロントピラー23,23と後部のリヤピラー24,24との組合せ構造である。
【0015】
左右のフロントピラー23,23は、車体前部でフロントカバー18の上端から後上方へ延し、その上端間に前部クロスメンバ25を掛け渡した部材で、この左右のフロントピラー23,23の間には、ウインドスクリーン19が設けられる。
【0016】
左右のリヤピラー24,24は、車体後部に設けた左右の支持部材26,26の上端から上方へ延し、その上端から更に前方へ延し、その前端をフロントピラー23,23の後端にボルト止めにて着脱自在に取り付けた部材であって、このリヤピラー24,24の後部上端間には、後部クロスメンバ27が掛け渡されている。また、左右の支持部材26,26は、上端に左右のリヤピラー24,24をボルトにて着脱自在に支持する。
【0017】
そして、これら左右のフロントピラー23,23、左右のリヤピラー24,24及び前部・後部クロスメンバ25,27とからなる枠に、概ね平板状のルーフ20を着脱自在に取り付けることで、ルーフ20を支えることができる。
【0018】
ルーフ20の後端は後部シート17よりも後方にある。ルーフ20の幅は、車幅と概ね同一又は若干小さい程度である。車両10の側方は解放されており、運転者や後部乗員の乗り降りは自由である。
【0019】
このようにして、前部シート16の前をウインドスクリーン19で覆うとともに、前部シート16の上及び後部シート17の上をルーフ20で覆うことができる。雨などから運転者ばかりでなく、後部乗員をも保護することができる。また、後部シート17に荷物を置く場合にも雨などに対しては有利である。さらには、ルーフ20だけであり、側方部が開放されているので、ルーフ20があるにもかかわらず乗り降りが楽になる。
【0020】
また、車両10は、変速レバー28、パーキングレバー29、ヘッドランプ30、ウインカ31、サイドミラー32、フロントフェンダ33,33、リヤフェンダ34,34、アクセルペダル(不図示)、ブレーキペダル(不図示)を備える。
【0021】
図3に示すように、パワーユニット1は、水冷式4ストロークサイクル単気筒内燃機関であって、図1に示すように、クランク軸の軸線を車両の進行方向に直交させると共に、シリンダヘッドが前方を向くようシリンダ軸を進行方向に沿ってほぼ水平になるように車両10に搭載される。
【0022】
パワーユニット1は、図3に示すように、左クランクケース2と、右クランクケース3と、シリンダブロック40と、シリンダヘッド50と、左クランクケースカバー60と、右クランクケースカバー61と、中間歯車収納室カバー62と、を結合して外殻を構成している。また、左クランクケース2と右クランクケース3とを結合することで形成されるクランク室4内には、クランク軸100と、トランスミッション200と、デファレンシャル300とが配設される。なお、左クランクケース2の左側面には、左クランクケースカバー60がボルト止めされ、右クランクケース3の右側面には、右クランクケースカバー61がボルト止めされる。
【0023】
左クランクケース2は、内蔵するトランスミッション200のカウンタ軸202に固定される第1中間歯車202aと、中間軸203に固定される第2中間歯車203aとをクランク室4とは別室に配置するための中間歯車収納室5を形成している。また、中間歯車収納室5は、両中間歯車202a,203aを囲繞するような周壁2cを左クランクケース2の外側に突出させることで形成され、中間歯車収納室カバー62を左クランクケース2にボルト止めすることによって開口部が閉塞される。
【0024】
シリンダヘッド50は、結合した左、右クランクケース2,3の上部の開口に挿入されるシリンダブロック40と共にスタッドボルト45により共締めされ、その下面には燃焼室51が形成され、燃焼室51に臨むようにスパークプラグ52が装着される。
【0025】
また、シリンダヘッド50内には、動弁機構のカム軸53が回動自在に支持されており、その端部にはカムスプロケット54が固定される。このカムスプロケット54には、クランク軸100に固定された駆動スプロケット102に架け渡されたカムチェーン94が架け渡される。これにより、クランク軸100の回転駆動力をカム軸53に伝達し、シリンダヘッド50に配置されているロッカーアーム55を駆動して、燃焼室51内で吸気バルブ56(図5参照)、排気バルブ57(図5参照)を所定のタイミングで開閉させる。
【0026】
また、シリンダヘッド50の左側にはウォーターポンプ95が設けられており、ウォーターポンプ95のポンプ軸96の右端部が動弁機構のカム軸53の左端部に接続される。これにより、カム軸53と共にポンプ軸96が回転してウォーターポンプ95を作動させる。
【0027】
さらに、シリンダヘッド50の燃焼室51の上方に隣接してウォータージャケット58が形成されている。また、シリンダブロック40の燃焼室51に近い部分の周囲にウォータージャケット44が形成されており、シリンダヘッド50とシリンダブロック40とを結合することで、両ウォータージャケット44,58は連通される。
【0028】
クランク軸100は、左右のパーツからなり、クランクピン101によって一体化されるもので、左クランクケース2と右クランクケース3にそれぞれ配置される転がり軸受70,71を介して回動自在に支持されており、軸方向左側に交流発電機90が、軸方向右側にトルクコンバータ91が組み付けられる。また、クランクピン101には、コンロッド41を介してピストン42が接続され、このピストン42は、シリンダブロック40内に一体成型されたシリンダライナー43の中でシリンダ軸線方向に往復運動する。
【0029】
交流発電機90は、イグニションコイル(不図示)を通じてスパークプラグ52に与える高電圧を発生すると共にバッテリー(不図示)の充電電流を発生する。
【0030】
トルクコンバータ91は、クランク軸100にスプライン結合されているポンプインペラ91aと、ポンプインペラ91aに対向配置されたタービンランナ91bと、一方向クラッチ91cを介してクランク軸100に結合されているステータ91dと、ステータ91dに与えられる反力を受けるステータ固定プレート91eと、を備えている。
【0031】
トルクコンバータ91は、クランク室4潤滑兼用のトルコンオイルが充填され、クランク軸100と共にポンプインペラ91aが回転する際、タービンランナ91bがポンプインペラ91aに追従しないときに、ポンプインペラ91aの回転方向とは反対方向の反力をステータ91dが受け、その反力をステータ固定プレート91eが受けるようになっている。そして、タービンランナ91bの回転動力がクランク軸100に外装されたプライマリ駆動歯車103を介してメイン軸201の右側に装備される多板クラッチ92のプライマリ従動歯車93に伝達される。
【0032】
多板クラッチ92は、湿式のシフトチェンジ用クラッチであって、メイン軸201の右側に組み付けられており、アウターケース92a内に、複数枚のクラッチプレート92bと、クラッチプレート92bに交互に配置されている複数枚のクラッチディスク92cとを備え、それぞれ不図示の、ダンパスプリングと、ドライブプレートと、ストップリングと、クラッチスプリングと、クラッチウェイトと、アウタドライブ歯車と、センタークラッチと、フリースプリングと、セットリングと、を内蔵して構成される。また、多板クラッチ92は、左、右クランクケース2,3に支持されているチェンジスピンドル401に結合されるクラッチリフターレバー402が、多板クラッチ92に組み付けられているクラッチリフターカムプレート92dを回動させる(図7参照)。これにより、トランスミッション200のギア切換え中にクランク軸100の回転動力をトランスミッション200に伝達せずにニュートラル状態とし、トランスミッション200のギア切換えが終了したと同時にクランク軸100の回転動力をトランスミッション200に伝達する。
【0033】
トランスミッション200は、図3〜図5に示すように、メイン軸201と、カウンタ軸202と、中間軸203と、リバース軸204と、フォーク軸205と、シフトドラム206とから構成され、各軸はクランク軸100に平行に配置される。なお、図4は、フォーク軸205とメイン軸201とリバース軸204とカウンタ軸202とフォーク軸205とを結んだ線で切断した断面図であるため、フォーク軸205が2本示されているが、実際には1本である。
【0034】
メイン軸201は、左、右クランクケース2,3にそれぞれ配置される転がり軸受72,73を介して回動自在に支持され、相対回転自在に挿通される歯車201a,201bと、この歯車201a,201bの間でメイン軸201の軸方向にスライド移動可能にして回転方向に係止されていて第1シフトフォーク207の移動により歯車201aまたは歯車201bに係合可能な歯車201cと、メイン軸201に一体成形される歯車201dと、を備える。
【0035】
カウンタ軸202は、左、右クランクケース2,3にそれぞれ配置される転がり軸受74,75を介して回動自在に支持され、固定された歯車202bと、相対回転自在に挿通される歯車202c,202dと、この歯車202c,202dの間でカウンタ軸202の軸方向にスライド移動可能にして回転方向に係止されていて第2シフトフォーク208の移動により歯車202cまたは歯車202dに係合可能な歯車202eと、を備える。また、カウンタ軸202の左端部には第1中間歯車202a(図3参照)が固定され、中間歯車収容室5内に第1中間歯車202aを配置している。
【0036】
中間軸203は、左、右クランクケース2,3にそれぞれ配置される転がり軸受76,77を介して回動自在に支持されるもので、左端部に固定される第2中間歯車203aと、ばね機構209によって左側に付勢されて回転方向に係止される歯車203bとを備える。この第2中間歯車203aは中間歯車収容室5内に配置され、歯車203bはデファレンシャル室301内に配置される。ここで、デファレンシャル室301とは、トランスミッション200の後方のクランク室4において、左、右クランクケース2,3にそれぞれ形成される隔壁6,7によって、クランク室4及び中間歯車収納室5とは独立して形成されるものである。なお、第1中間歯車202aと第2中間歯車203aは常時噛合されている。
【0037】
リバース軸204は、左、右クランクケース2,3にそれぞれ形成される嵌合部に支持されるもので、一体成形された歯車204a,204bを回動自在に軸支する。
【0038】
フォーク軸205は、左、右クランクケース2,3にそれぞれ形成される嵌合部に支持されるもので、第1シフトフォーク207と第2シフトフォーク208とを軸方向にスライド移動可能に軸支する。
【0039】
シフトドラム206は、外周に螺旋状のカム溝206a,206bを形成しており、回動することで、このカム溝206a,206bにそれぞれ挿入される第1、第2シフトフォーク207,208を軸方向にスライド移動させる。また、シフトドラム206は、ギアチェンジ機構400の一部を構成する星型カムプレート406と同軸線上に結合され、星型カムプレート406が段階的に回動することで、第1,第2シフトフォーク207,208を移動させて変速動作を行う。
【0040】
デファレンシャル300は、デファレンシャル室301内に配置されるもので、リング歯車302が中間軸203の歯車203bに噛合されているので、中間軸203の回転動力が歯車203bを介してリング歯車302に伝達されて、差動歯車機構303により左右のドライブ軸304,305を回転させる。
【0041】
図5に示すように、シリンダヘッド50には、吸気バルブ56が配置された吸気ポート50aと、排気バルブ57が配置された排気ポート50bが形成されており、吸気ポート50aにインジェクタ(燃料噴射装置)59が組み付けられている。インジェクタ59は、不図示のエンジンコントロールユニットに電気的に接続されており、このエンジンコントロールユニットから与えられた電流によって、回転数に応じて、高燃圧の燃料を吸気ポート50a内に噴射する。
【0042】
左、右クランクケース2,3の割り面には、それぞれに潤滑油送給用の送油通路2aが左右対称に形成される。この送油通路2aは、両クランクケース2,3が結合されることにより密閉され、前端部がオイルポンプ80(図7参照)の吐出口に送油通路3a(図7参照)及び分配口3b(図7参照)を介して連通接続され、後端部が中間歯車収納室5に有する送油通路(図6参照)5aに連通接続される。また、オイルポンプ80は、クランク軸100にキー結合された歯車104とポンプ歯車81とを介してクランク軸100の回転に伴って作動し、潤滑油を分配口3bに吐出する。
【0043】
図6に示すように、中間歯車収納室5は、前述したように、両中間歯車202a,203aを囲繞するような周壁2cを左クランクケース2の外側に突出させることで形成され、周板2cの端面には側面視略逆L字形状の送油通路5aが形成されている。この送油通路5aは、送油通路2a,3aに連通する中央孔5bと、中央孔5bの下方側に設けられるメイン軸孔5cと、中央孔5bの後方側に設けられるリバース軸孔5dと、周板2cの端面においてこれら各孔5c,5b,5dを繋ぐ接続溝5e,5eとで構成されている。また、メイン軸孔5c及びリバース軸孔5dは、周板2cの端面からクランク室4内に貫通している。
【0044】
また、中間歯車収納室5には、メイン軸孔5cに隣接した位置において、左クランクケース2に貫通して形成されるオリフィス孔2dが開口されている。このオリフィス孔2dは、図3にも示されるように、メイン軸孔5cを介して送油通路5aに連通されると共に、メイン軸201内に形成される潤滑油路201e(図3参照)に連通される。さらに、中間歯車収納室5には、第1中間歯車202aの裏面側の位置において、クランク室4に貫通して形成される潤滑油戻り孔2eが開口されている。
【0045】
そして、中間歯車収納室5は、中間歯車収納室カバー62が組み付けられることにより、開口が閉塞されると共に、送油通路5aが密閉されて、オリフィス孔2dから吐出される潤滑油によってバスタブ方式で第1、第2中間歯車202a,203aを潤滑しつつ周板2cの底部に溜まり、その後、周板2cの底部に溜まった潤滑油は、潤滑油戻り孔2eからクランク室4内に潤滑油が戻される。
【0046】
従って、オイルポンプ80から吐出された潤滑油は、分配口3b(図7参照)に送給され、一方がクランクケースカバー61内に形成された送油通路(不図示)を通じてクランク軸100の潤滑孔105に送給され、他方が右クランクケース3に形成された送油通路3aに送給される。潤滑孔105に送給された潤滑油は、トルクコンバータ91内を通過して、クランクピン101内に送給される。
【0047】
右クランクケース3の送油通路3aに送給された潤滑油は、送油通路3aと連通接続する左、右クランクケース2,3に形成された送油通路2aの前端部から後端部へ送給され、中間歯車収容室5の送油通路5a内において中央孔5bからメイン軸孔5cとリバース軸孔5dとに分岐される。そして、メイン軸孔5cに送給された潤滑油は、メイン軸孔5cからメイン軸201における左側の軸受72部分に送られ、メイン軸201内に形成される潤滑油路201e(図3参照)内に一旦取り込まれてからオリフィス孔2dに送られ、オリフィス孔2dから中間歯車収納室5内に吐出される。
【0048】
一方、中央孔5bからリバース軸孔5dに送給された潤滑油は、リバース軸孔5dからリバース軸204の左側部分に送られ、リバース軸204内に形成された潤滑油路204c(図4参照)内に送給される。ここで、カウンタ軸202内に形成された潤滑孔202f(図4参照)に対しては、右クランクケース3に形成されるオイルポケット3cに溜まった潤滑油が供給される。
【0049】
次に、図3,4及び図7〜図15を参照してギアチェンジ機構400について詳細に説明する。
【0050】
図7,図8に示すように、ギアチェンジ機構400は、クラッチリフターレバー402と、シフトプレート404を装備したチェンジアーム403と、サブアーム405と、星型カムプレート406と、チェンジアーム復帰ばね407と、ストッパローラ408と、クラッチリフターレバー402の動きをセンシングするセンサ409(図3参照)と、から構成されている。
【0051】
クラッチリフターレバー402は、左、右クランクケース2,3に回動自在に支持されるチェンジスピンドル401に溶着されているもので、図3,7に示すように、クラッチリフターレバー402の外側面には、センサ409の接触端子409aに対応する位置にホルダ402aが嵌合されており、ホルダ402aには接触子402bが嵌め込まれている。また、クラッチリフターレバー402は、上端部に設けられた係合突起402cが多板クラッチ92のクラッチリフターカムプレート92dに係合される。
【0052】
また、チェンジスピンドル401は、左クランクケース2の側面に左端部を突出しており、その突出した左端部にシフトレバー8(図6参照)が取り付けられる。そして、シフトレバー8は、例えばワイヤーやリンク機構等を介して変速レバー28(図1参照)に連結され、変速レバー28の操作によって前後に揺動する。
【0053】
チェンジアーム403は、図9(a),(b),(c)に示すように、チェンジスピンドル401に軸支される筒状支持部410の中心からほぼ60度の挟角をもって第1アーム部411と第2アーム部412とが2方向に伸びている。第1アーム部411には、中心線上に一対のガイドピン413,414が固定されており、右クランクケース3側にシフトプレート404が配置されている。
【0054】
シフトプレート404は、頭部が略傘形状に形成されており、その中心線を、第1アーム部411の中心線に重ねてガイドピン413,414によってチェンジアーム403に保持されている。シフトプレート404は、両端縁に送り突起415,416を有し、長孔417,418がガイドピン413,414に外挿されており、ガイドピン413に組み付けられたシフトプレート付勢ばね419の両先端部が送り突起415,416に係止されているために、第1アーム部411に対し、長孔417,418の長さに応じて進退自在に支持されていて、第1アーム部411に重なるように付勢されている。
【0055】
第2アーム部412は、中央部に開口部420を有し、この開口部420の筒状支持部410側にチェンジアーム復帰ばね407に係合する突起421を有する。
【0056】
サブアーム405は、図10(a),(b)に示すように、チェンジアーム403における第2アーム部412の中心線上に配置されるものであり、チェンジアーム403の筒状支持部410内に挿通されたチェンジスピンドル401に溶着される。このサブアーム405には、チェンジアーム403の開口部420内に挿入され、チェンジアーム復帰ばね407に係合する突起422が形成される。サブアーム405は、クラッチリフターレバー402とともにチェンジスピンドル401と一体的に回動する。
【0057】
また、チェンジアーム403とサブアーム405は、チェンジアーム403の筒状支持部410の外周に組み付けられるチェンジアーム復帰ばね407の2本の先端部427,428と、右クランクケース3から突出した規制軸部材429と、によって、規制軸部材429の中心方向に付勢されている。そのため、チェンジアーム403とサブアーム405がどちらの方向に回動したとしても、その回動力がなくなると、サブアーム405の突起422と、規制軸部材429と、第2アーム部412の突起421と、が同軸線上に並ぶように付勢力が働く。
【0058】
星型カムプレート406は、図11(a),(b)に示すように、略六点星形状の板部材であって、ボルト423(図4参照)によってシフトドラム206の右端部に固定される。星型カムプレート406の外周には、6個の山部424と谷部425とが連続して形成されている。また、星型カムプレート406には、6個の山部424の中央位置に対応して6本の送りピン426a,426b,426c,426d,426e,426fが円周方向に沿って等間隔で圧入固定されている。
【0059】
ストッパローラ408は、図12に示すように、右クランクケース3の外側面に回動自在にボルト止めされるもので、先端部に押圧ローラ430を回動自在に軸支しており、戻しばね431によって押圧ローラ430を星型カムプレート406側に常時押圧するように付勢する。
【0060】
センサ409は、図3に示すように、右クランクケース3に固定される右クランクケースカバー61にボルト止めされており、エンジンコントロールユニット(不図示)に電気的に接続されている。センサ409は、クラッチリフターレバー402の接触子402bと接触端子409aとが非接触状態のときにオフとなり、反対に、接触子402bと接触端子409aとが接触状態のときにオンとなる接触センサである。
【0061】
センサ409は、ギアチェンジ機構400によってシフトアップ及びシフトダウンの変速途中において、クラッチリフターレバー402が回動されることによって多板クラッチ92がニュートラル状態となるとき、クラッチリフターレバー402の接触子402bとセンサ409の接触端子409aとが非接触状態となり、多板クラッチ92の切断状態を検出する。そして、センサ409で検出されたオフ信号がエンジンコントロールユニットに送信されて、エンジンコントロールユニットがスパークプラグ52の点火時期を遅らせる制御を実行する。これにより、多板クラッチ92がニュートラル状態にあるとき、燃焼室51内の燃料を燃焼させないので、パワーユニット1の出力を低下させることができ、変速時の吹け上がりを防止することができる。
【0062】
また、エンジンコントロールユニットによるパワーユニット1の制御は、センサ409で検出したオフ信号をエンジンコントロールユニットで受信したときに、エンジンコントロールユニットがインジェクタ59の燃料噴射量を絞ることでも行うことができる。この場合、多板クラッチ92がニュートラル状態にあるとき、燃焼室51内を希薄燃料状態にするので、パワーユニット1の回転数を強制的に下げることができ、パワーユニット1の出力を低下させることができる。
【0063】
図12〜15はいずれも上記ギアチェンジ機構400を単純化して示すと共に、このギアチェンジ機構400のシフトダウン操作時の一連の動作を示した図である。
【0064】
まず、シフト開始状態では、図12に示すように、サブアーム405は復帰位置E1にあり、チェンジアーム403の第1アーム部411は復帰位置F1にあり、シフトプレート404は第1アーム部411に対して後退位置G1にある。そして、ストッパローラ408が星型カムプレート406の谷部425を押圧して星型カムプレート406を位置J1に保持している。このときストッパローラ408は位置H1にある。
【0065】
そして、図13に示すように、変速レバー28(図1参照)がシフトダウン操作されると、チェンジスピンドル401が回動を始める。チェンジスピンドル401が回動されると、クラッチリフターレバー402とともにサブアーム405がチェンジアーム復帰ばね407に抗して復帰位置E1から位置E2に時計回転方向に回動される。このとき、チェンジアーム403は回動せず、シフトプレート404の送り突起415は、星型カムプレート406の送りピン426aとは接触していない。
【0066】
次に、図14に示すように、チェンジスピンドル401がさらに回動されると、サブアーム405がチェンジアーム復帰ばね407に抗して位置E2から位置E3に時計回転方向に回動される。これにより、サブアーム405の突起422がチェンジアーム403の開口部420の端壁に内接してチェンジアーム403を復帰位置F1から位置F2に時計回転方向に回動させる。そして、チェンジアーム403の回動に伴ってシフトプレート404が回動されるため、シフトプレート404の送り突起415が星型カムプレート406の送りピン426aに接触して送りピン426aを時計回転方向に押圧移動させ、星型カムプレート406を位置J1から位置J2に回動させる。これと同時に、ストッパローラ408の押圧ローラ430が星型カムプレート406の山部424を乗り越え、押圧ローラ430が星型カムプレート406の山部424から谷部425を押圧することで、星型カムプレート406が位置J2から位置J3(図15参照)に回動し、トランスミッション200内のシフトチェンジが完了する。
【0067】
次に、変速レバー28からの回動力がなくなるため、図15に示すように、チェンジアーム復帰ばね407の弾性復元力によりサブアーム405が位置E3から位置E4に反時計回転方向に回動され、これと同時に、チェンジアーム403も位置F2から位置F3に反時計回転方向に回動される。このとき、シフトプレート404の送り突起415の外縁部が星型カムプレート406の送りピン426bに接触することで、シフトプレートシフト404がプレート付勢ばね419に抗して後退位置G1から進出位置G2にスライドして、送り突起415,416が送りピン426b,426aを避けた後、進出位置G2から後退位置G1にスライドする。
【0068】
次いで、図12に示すように、サブアーム405は復帰位置E1に、チェンジアーム403は復帰位置F1に反時計回転方向に回動し、シフトプレート404は後退位置G1に戻り、星型カムプレート406は、星型カムプレート406の谷部425を押圧するストッパローラ408により位置J3に保持されて、シフトチェンジの一連の動作が完了される。
【0069】
そして、クラッチリフターレバー402は、チェンジスピンドル401に溶着されているので、サブアーム405と同様に位置E1,E2,E3,E4の順で回動し、位置E2にクラッチリフターレバー402が回動された時点で、上端部に設けられた係合突起402cが多板クラッチ92のクラッチリフターカムプレート92dを回動させ、多板クラッチ92をニュートラル状態にする。これにより、クラッチリフターレバー402に設けられる接触子402bとセンサ409の接触端子409aとが非接触状態となり、多板クラッチ92の切断状態を検出する。
【0070】
以上説明した小型車両の変速制御装置1では、センサ409によって多板クラッチ92が切断状態にあることを検出することで内燃機関の出力を低下させるため、内燃機関が吹け上がりを伴わずに変速動作を行うことができ、無駄な燃料を消費することがない。
【0071】
また、上記した小型車両の変速制御装置1では、アイドル制御に加え、センサ409によって多板クラッチ92が切断状態にあることを検出した際に、点火時期を遅らせるように制御するため、内燃機関の出力を低下させることができるので、変速時の吹け上がりを防止することができる。
【0072】
また、上記した小型車両の変速制御装置1では、アイドル制御に加え、センサ409によって多板クラッチ92が切断状態にあることを検出した際に、インジェクタ59の燃料噴射量を絞るように制御するため、燃焼室51内を希薄燃料状態にすることができる。これにより、内燃機関の出力を低下させることができるので、変速時の吹け上がりを防止することができる。
【0073】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
例えば、上記実施形態では、クラッチの切断状態を検出するセンサに接触式センサを使用した場合を示すが、非接触式センサを使用した場合にも、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る小型車両の変速制御装置を搭載した車両の側面図である。
【図2】図1に示した車両の平面図である。
【図3】本発明に係る小型車両の変速制御装置を説明するパワーユニットのシリンダヘッドとシリンダブロックとクランク軸とメイン軸とカウンタ軸と中間軸とデファレンシャルとの中心を結んだ線で切断した断面図である。
【図4】図3に示したパワーユニットのフォーク軸とメイン軸とリバース軸とカウンタ軸とフォーク軸の各軸線を通る面で切断した断面図である。
【図5】図3に示したパワーユニットの左クランクケースを内側から見た一部切欠側面図である。
【図6】図3に示したパワーユニットの左クランクケースを外側から見た一部切欠側面図である。
【図7】図3に示したパワーユニットの右クランクケースを外側から見た一部切欠側面図である。
【図8】図3に示したパワーユニットのギアチェンジ機構を説明する右クランクケースを外側から見た一部切欠側面図である。
【図9】(a)は図8に示したギアチェンジ機構のチェンジアームの側面図、(b)は図9(a)のA−A線断面図、(c)は図9(a)のB−B線断面図である。
【図10】(a)は図8に示したギアチェンジ機構のサブプレートの側面図、(b)は図10(a)のC−C線断面図である。
【図11】(a)は図8に示したギアチェンジ機構の星型カムプレートの側面図、(b)は図11(a)のD−D線断面図である。
【図12】図8に示したギアチェンジ機構のシフト開始状態を説明するための側面図である。
【図13】図8に示したギアチェンジ機構のクラッチ切断状態を説明するための側面図である。
【図14】図8に示したギアチェンジ機構のシフト途中状態を説明するための側面図である。
【図15】図8に示したギアチェンジ機構のシフト完了状態を説明するための側面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 パワーユニット(変速制御装置,内燃機関)
2 左クランクケース
3 右クランクケース
4 クランク室
5 中間歯車収容室
10 車両
59 インジェクタ(燃料噴射装置)
92 多板クラッチ(クラッチ)
200 トランスミション(変速機)
300 デファレンシャル
400 ギアチェンジ機構
401 チェンジスピンドル
402 クラッチリフターレバー
403 チェンジアーム
404 シフトプレート
405 サブアーム
406 星型カムプレート
407 チェンジアーム復帰ばね
408 ストッパローラ
409 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッションの変速段を切り替える動作に連動して、クラッチを自動的に断続する機構を有する小型車両の変速制御装置であって、
前記クラッチの切断状態を検出するセンサと、
前記センサにより前記クラッチが切断状態にあることを検出した際に、内燃機関の出力を低下させる手段と、を備えることを特徴とする小型車両の変速制御装置。
【請求項2】
前記内燃機関の出力を低下させる手段が、点火時期制御であることを特徴とする請求項1記載の小型車両の変速制御装置。
【請求項3】
前記内燃機関の出力を低下させる手段が、燃料噴射装置の燃料噴射量を制御することであることを特徴とする請求項1記載の小型車両の変速制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2006−283646(P2006−283646A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−103846(P2005−103846)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】