説明

小滴中で反応を行うための装置及びその使用方法

液滴(1)中の生物試料及び/又は化学試料を処理するための装置が提供される。装置は処理区画(20)、底面(21)及び少なくとも一つの周縁壁(25)を含む。処理区画(20)は底面(21)の少なくとも一部、周縁壁(25)の少なくとも一部、及び注入口部材(4)によって画成される。注入口部材(4)は処理区画(20)の上部に位置し、少なくとも一つの小滴注入チャネル(3)を含む。小滴注入チャネル(3)は注入口部材(4)を通じて伸びて、小滴注入チャネル(3)の周囲への注入開口部(28)及び処理区画(20)への流出開口部(27)との間の制限部(2)を含む。さらに、液滴(1)中の生物試料及び/又は化学試料を処理するための方法が提供される。方法は、本発明の装置の処理区画(20)に液滴(1)と非混和性である溶媒を配置する工程を含み、制限部(2)が溶媒に浸漬される。小滴(1)は小滴注入チャネル(3)の制限部(2)の下に位置するように小滴注入チャネル(3)内に配置される。処理は小滴(1)中の生物試料及び/又は化学試料に対して行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴中の生物試料及び/又は化学試料の処理を行うための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小型化は生命科学及び薬剤の研究に重要な利益を提供することによって、生物測定器における実現技術の役割を果たし続けている。最も重要なことには、小型化は高価な試薬の消費を減らすことで研究費用の著しい削減を可能にする。さらに、小型化は希少であるか、又は多量規模で研究を行うには高価すぎるタンパク質及び化合物の研究を可能にする。アッセイの小型化は情報処理能力及び情報密度の向上を容易にし、一連のアッセイにおいてより高いデータ品質及びより小さい試料間変動を導くことができる。
【0003】
生物測定器における小型化の努力は数多くの画期的なツールを実現させ、生命科学及び薬剤研究における新しい場を拓いた。特に、小型化はより低い費用、より高速でより簡単な操作での生物試料の大規模解析を可能にし「オミクス」の時代をもたらした。小型化された装置のよく知られた例は、比較的短時間かつ低費用での大規模な平行解析又は試料の反応を可能にするDNAマイクロアレイである。現在、一般的に使用されているマルチウェルプレート(「マイクロタイタープート(登録商標)」とも呼ばれる)の小型化が試みられている。試料操作を自動化することによって、ハイスループット・スクリーニングを行うことができる。細胞が実質的に単層に配列されるように細胞の滴を担体上に配置することで、それぞれの小型化の取り組みを拡張することが提案されている(特許文献1を参照)。
【0004】
小型化された装置のもう一つの例は、ラボオンチップ−マイクロ流体デバイスである。前記ラボオンチップデバイスは、例えば混合、分離、反応、分析、検出、及び測定といった処理を可能にする液体操作機能をさらにもたらす。それぞれのチップは、例えば三次元細胞培養システムの確立において行われるマルチウェルプレートによる取り組みと組み合わせることもできる(非特許文献1、特許文献2)。小型化における更なる取り組みとして、材料の微小規模での導入と混合を目的とした電場での微小滴の利用が提案されている(非特許文献2)。これらの微小滴は、誘電泳動現象(DEP)として当業者に知られる現象によって、荷電され電場中を移動する。別の取り組みでは、例えば回転ディスクの非湿潤性表面に小滴などの細胞を置くことによって、磁気記憶媒体又は光学記憶媒体において利用される原理の応用が提案されている(特許文献3)。さらに、より一層の小型化の取り組みは、例えばコンビナトリアルケミストリー又はオンビーズアッセイといった、マイクロビーズの利用である。マイクロビーズはその光学的密度又は蛍光特性といった性質に基づいて自動的に仕分け、分注することができる。
【特許文献1】国際出願第2004/111610号
【特許文献2】日本国特許出願第2005095058号
【特許文献3】米国特許第6,121,048号
【特許文献4】米国特許出願第2003/0209560号
【非特許文献1】トリサワ、ワイら(Torisawa, Y. et al.)、Biomaterials、第26巻、2165〜2172ページ(2005年)
【非特許文献2】ベレブ、オー・ディーら(Velev O.D. et al.)、Nature、第426巻、515〜516ぺージ(2003年)
【非特許文献3】ローチら(Roach,et al.)Anal. Chem.第77巻、785ページ(2005年)
【非特許文献4】マツダ、ティーら(Matsuda, T et al.) Biomaterials、第24巻、4517〜4527ページ(2003年)
【非特許文献5】シュワブ、エムら(Schwab, M. et al.)、Genetic Engineering News、第25巻、21ページ、(2005年)
【非特許文献6】メア、エルら、Drug Discovery Today 第4巻、363〜369ページ(1999年)
【非特許文献7】ローズ、ディー(Rose D)、Drug Discovery Today、第4巻、411〜419ページ(1999年)
【非特許文献8】J. Biotech、第112巻、47〜63ページ(2004年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
固体−水界面でのタンパク質の吸着を最小限にするため、被覆加工などといった表面処理が通常用いられる。しかし、特異な表面被覆加工の再現性、一貫性、及び均一性の達成、ならびに高品質管理の確立は、生産環境における絶え間ない挑戦である。
【0006】
さらに、タンパク質の吸着は固体−水で生じる問題のみならず、気体−水界面、及び当てはまる場合には油−水界面でも生じる問題である。近年、ローチ(Roach)ら(非特許文献3)は、水溶液−ペルフルオロカーボン界面での非特異的タンパク質吸着の特性、ならびに吸着の制御方法を明らかにした。彼等の研究では、タンパク質及び酵素の水溶液小滴がペルフルオロカーボン−エチレングリコール界面活性剤を含むペルフルオロカーボン液によってカプセル化された。ペルフルオロカーボン液−水溶液界面は、フィブリノゲン及びウシ血清アルブミンの界面への非特異的吸着を最小限に抑えた。ペルフルオロカーボン−水溶液界面で囲まれたナノリットル規模でのリボヌクレアーゼA及びアルカリホスファターゼの活性は、大量規模での活性と同一だった。特に、例えばペルフルオロカーボン−エチレングリコール界面活性剤が存在する場合の実施形態では、ペルフルオロカーボン液及び水溶液の間の界面は、水溶液の蒸発を最小限に抑えることに加え、生体適合性表面を提供する。ペルフルオロカーボン液は、水非混和性の液体のうちで最も生体適合性が高い界面の一つを提供することが知られている。
【0007】
マイクロデバイスの使用、特に、例えば37℃でのインキュベーション、長期保管、及び例えばスクリーニング目的で多数のマルチウェルプレートを用いる長時間の試料調製の間の使用に関するさらなる問題は蒸発である。この問題を克服するために現在用いられている方法は、マルチウェルプレートカバー又はシールストリップの使用、積み重ね、密閉マイクロチップの使用、及び待ち時間を最小限にするためのアッセイプロトコルの至適化である。蒸発は、もしマルチウェルプレートのいたるところで不規則に生じるとすればデータを歪める可能性があることから、特に実用的に懸念される。
【0008】
さらに、異なる試薬を添加及び混合するための液体の取り扱いの自由と柔軟性は小型化において限定されことになる。小型化のための最も一般的なプラットホームはラボオンチップである。このプラットホームでは、試薬は開口部を通じて注入され、かなり長いチャネルを通じて特定のチャンバー又はエリアに運ばれる。ラボオンチップデバイスでは、流体回路は一般的にあらかじめ、しかるべく前もってプログラムされる必要があり、特定の試薬を特定の位置に必要に応じて添加することができなければ不便である。一方、オープンウェル型デザインでは、この種の操作は望ましい位置の上にディスペンサーを単に置いて試薬を分注することにより実行することができる。従って、チップ内での試薬の分注及び混合の設定が単純で直接的であるオープンウェル型デザインが与えられるのが望ましい
従って、本発明の目的は、マルチウェルプレート及びラボオンチップデバイスの上述の不都合を回避する、化学試料及び/又は生物試料を処理するための装置及び方法を提供す
ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施態様において、本発明は液滴中の生物試料及び/又は化学試料の処理を行うための装置を提供する。前記装置は処理区画、底面、及び少なくとも一つの周縁壁を含む。処理区画は装置の底面の少なくとも一部、少なくとも一つの周縁壁の少なくとも一部、及び注入口部材によって画成される。注入口部材は処理区画上部に位置する。注入口部材は、少なくとも一つの小滴注入チャネルを含む。小滴注入チャネルは注入口部材を通じて伸びている。小滴注入チャネルは、注入口部材の周囲への注入開口部及び注入口部材の処理区画への流出開口部の間の制限部を含む。
【0010】
さらなる実施態様において、本発明は液滴中の生物試料及び/又は化学試料の処理方法を提供する。前記方法は、装置の提供も含む。前記装置は処理区画、底面、及び少なくとも一つの周縁壁を含む。処理区画は装置の底面の少なくとも一部、少なくとも一つの周縁壁の少なくとも一部、及び注入口部材によって画成される。注入口部材は処理区画上部に位置する。注入口部材は、少なくとも一つの小滴注入チャネルを含む。小滴注入チャネルは注入抗部材を通じて伸びている。小滴注入チャネルは、小滴注入チャネルの周囲への注入開口部及び小滴注入チャネルの処理区画への流出開口部の間の制限部を含む。装置の提供は、注入口部材の収容することができる容器を含むデバイスの提供、それぞれの注入口部材の提供、及び容器への注入口部材の配置、従って装置の処理区画の成形を含む場合もある。
【0011】
前記方法は液滴と非混和性である溶媒の提供も含む。本方法は注入口部材に含まれる制限部が溶媒に浸漬されるように、提供される装置の処理区画への溶媒の配置をさらに含む。本方法は液滴が少なくとも一つの小滴注入チャネルで制限部の下に位置するように、注入口部材の小滴注入チャネルへの小滴の配置も含む。本方法は小滴中の生物試料及び/又は化学試料の処理実施も含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
限定されない例及び添付の図面を合わせて考慮するなら、本発明は詳細な説明を参照することでより良く理解されるだろう。
本発明は液滴中の生物試料及び/又は化学試料の処理を行うための装置を提供する。本装置は任意の処理、具体的にはマイクロ規模の液体中で行われる可能性がある処理に適している(下記参照)。小滴は、非プロトン性無極性液体、プロトン性無極性液体、プロトン性双極性液体、非プロトン性双極性液体、又はイオン液体のいずれであろうと、任意の所望の液体を含んでもよい。当然のことながら適した液体が所望の処理の実施を可能にする。非プロトン性無極性液体の例としては、それだけに限らないがヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、ピリジン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、二硫化炭素、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル又はテトラヒドロフランが挙げられる。非プロトン性双極性液体の例は、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、イソ酪酸イソブチル、エチレングリコールジアセテート、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、N,N−ジメチルアセトアミド、ニトロメタン、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、及びジメチルスルホキシドである。プロトン性極性液体の例は、水、メタノール、エタノール、ブチルアルコール、ギ酸、ジメチルアルシン酸[(CHAsO(OH)]、N,N−ジメチル−ホルムアミド、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、又はクロロフェノールである。プロトン性無極性液体の例は、酢酸、タート−ブチルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール又はアニリンである。イオン液体の二つの具体例は、1,3−ジアルキルイミダゾリウム−テトラフルオロホウ酸塩、及び1,3−ジアルキルイミダゾリウム−ヘキサフルオロホウ
酸である。この関連において、本発明で使用される可能性がある小滴は、実施される所望の処理に適した任意の粘性であってもよいことが留意される。細胞の培養に使用されるのであれば、小滴は酵素のアッセイで一般的に用いられる低粘性の水溶液であることに加えて、例えばヒマシ油、溶融ポリマー、又は例えばベクトンディキンソンアンドコーポレーション社(Becton, Dickinson and Co.)から市販されているペプチドヒドロゲルなどの高粘性材料を例えば含んでも、又は高粘性材料から成ってもよい。タンパク質の結晶化に用いられるのであれば、小滴は例えば高粘性であってもよく、従って高塩濃度であっても、又はタンパク質の結晶化に一般的に使用される例えばポリエチレン4000又はポリエチレン1000のような沈殿剤を含んでもよい。小滴は、一つ以上の液体を含んでもよい。一つ以上の液体が使用される場合には、液体は一般的に互いに選択された割合で混和性である。
【0013】
小滴は、任意の所望の体積であってもよい。例えばおよそ0.1nlからおよそ50μl、例えばおよそ1nlからおよそ200nlの範囲の体積であってもよい。典型的な実施形態において、小滴の体積は10μl未満である。当業者は、大きな体積(例えば10μl又は50μl)の小滴が用いられた場合には、溶媒に接触する際に各小滴がより小さな小滴に分裂する可能性があることに気づくだろう。このような分裂が望ましくない場合、選択された液体の小滴に適した体積は実験的に容易に決定することができる。
【0014】
本発明の装置は、底面及び一般的に側壁である少なくとも一つの周縁壁を含む。また装置は処理区画も含む。少なくとも一つの周縁壁又はその一部は、底面又はその一部及び注入口部材と共に(下記参照)処理区画を定義し、その形状を決定する(例えば、図1A−
Eを参照)。
【0015】
処理区画は、底面の一部及び周縁壁の一部を含む。装置の周縁壁及び底面の両方は、さらに装置に含まれる可能性がある他の構造の一部であるか、又は装置に含まれる可能性がある他の構造を取り囲んでもよい。一部の実施形態では、装置の周縁壁の一部の少なくとも内部表面は、処理区画の周縁壁又はその一部を提供するが、一方で別の実施形態では、装置の周縁壁全体が処理区画の周縁壁を提供する。同様に、一部の実施形態では装置の底面の一部の内部表面が処理区画の底面を提供するが、一方、別の実施形態では、装置の底面全体が処理区画の底面を提供する。従って、処理区画は周縁壁、底面、及び注入口部材によって画成され、後者は処理区画の上部を画成する。一部の実施形態では、本発明の装置の周縁壁及び底面は処理区画の周縁壁及び底面と同一のものである。一部の実施形態では、装置の周縁壁及び底面の内部表面は処理区画の周縁壁及び底面を画成する。さらに追加的な実施形態では、装置の周縁壁及び底面の一部又は部分は、処理区画の周縁壁及び底面と重複する。従って、本発明の装置の更なる態様は、周縁壁、底面、及び注入口部材によって画成され、注入口部材が少なくとも基本的に底面とは反対である処理区画の上部に位置する処理区画を含んでいるとして画成することもできる。
【0016】
装置の周縁壁及び底面、ならびに処理区画の周縁壁及び底面は、任意の所望の材料を含んでも、あるいは任意の所望の材料から成ってもよい。一般的に、処理区画を取り囲んでいる、装置の周縁壁のそれらの部分ならびに底面のそれらの部分は固く、実施される、又はその中で行われることが望まれる生物試料及び/又は化学試料の処理を妨げることはない。装置の周縁壁及び底面(ならびに処理区画)は、例えばペルフルオロカーボンポリマー、ヒドロペルフルオロカーボンポリマーといったプラスチック、ガラス、石英、シリコン、陽極処理アルミニウム、又はステンレス鋼といった、例えば有機担体、無機担体、金属担体を含んでもよい。処理区画は、任意の所望の外形及び容積であってもよい。一部の実施形態では、例えばその中に配置される小滴の運動の自由度を制限する容積を提供するために設計又は適合されてもよい。このような実施形態では、容器の容積は例えば1nlから500μl、又は100nlから10μlの容積であってもよい。別の実施形態では
、処理区画は同時に多量の小滴を収容することができるように設計又は適合されてもよい。このような実施形態では、処理区画の容積は、例えば0.1mlから500ml、又は1mlから100mlの容積であってもよい。処理区画内に溶媒が満たされる場合には、処理区画の容積の一部のみが各溶媒で満たされてもよい。処理区画の残りは、例えば液体、例えば空気又は不活性気体といった、その他の溶媒で例えば占められてもよい。
【0017】
既に上述したように、処理区画は処理区画の上部に位置する注入口部材を含んでもよい。従って、注入口部材は処理区画の上端を画成する(下記も参照)。注入口部材は一般的に底面の反対に、又は基本的に底面の反対に位置する。本明細書で用いられるように、「上」、「垂直」、「下側」、「上側」、及び「上部」という用語は、本発明の装置が底面を地面にむけた状態で置かれた場合、又は地面の水平面に対して底面の水平面が少なくとも基本的に平行であるように置かれた場合の位置を意味する。典型的な実施形態では、この位置は注入口部材の注入開口部が上側に面し、デバイスを平らな表面に置くことができる装置の方向を反映している(例えば図1を参照)。
【0018】
注入口部材は処理区画の上部に位置することから、処理区画の上側の空隙と液体連通を構築することができる。さらに処理区画は装置の周囲と液体連通することができる。一般的に、装置は例えば開口部のような上部注入口を含む。この上部注入口は、処理区画及び装置の周囲の間の液体連通を提供することができる。このような注入口は、処理区画に例えば溶媒又は小滴といった物質を導入するために利用することもできる。一実施形態において、小滴が処理区画内に配置される際に適切な位置に配置する助けとなるように、注入口は位置付けられ、形作られる(例えば、図1Eを参照)。この実施形態において、注入口は処理区画内の溶媒と接触する際に、小滴がより小さな小滴に分裂しないよう防ぐ助けとなることもできる。一部の実施形態では、各注入口は、例えばふたを用いることで密封可能であってもよい。以下で明らかになるように、本発明のデバイス及び方法は、一方で処理区画の注入口の密閉なしに便利に使用することもできる。
【0019】
一部の実施形態では、装置の処理区画は溶媒を収容するために設計又は適合されてもよい。このような実施形態では、処理区画は一般的に小滴に含まれる液体(例えば混合液のような液体を含む)と非混和性の溶媒を収容することができる(下記参照)。従って、各溶媒及び小滴の液体は、混ぜたときに混合又は均質に達することができない。このような実施形態では、所望の液体の小滴が溶媒に入ることができるかぎり、また溶媒と接触し溶媒中に入る際に無傷のままであるかぎりは、本発明のデバイスに任意の溶媒を用いてもよい。溶媒は、例えば液体のような例えば流体であってもよい。各液体の具体例のように、小滴に含まれる液体が水である場合、適した非混和性の液体はオクタンであり、逆の場合も同じである。結果として、小滴は非混和性の液体中に配置された場合には各液体に溶解しない。
【0020】
小滴の液体が水である場合に適した液体の別の例としては、それだけに限らないが、ミネラルオイル、シリコーン油、炭化水素化合物、ペルフルオロカーボン化合物、又はペルフルオロカーボン化合物などが挙げられる。ペルフルオロカーボン(PFC)化合物はペルフルオロ化された、すなわち完全にフッ素置換された炭素化合物である。ヒドロペルフルオロカーボン化合物は、部分的にフッ素置換された炭化水素化合物であり、すなわちフッ素置換及び水素置換された炭素化合物である。ペルフルオロカーボン化合物及びヒドロペルフルオロカーボン化合物は、一つ又はそれ以上の不飽和炭素− 炭素結合ならびに芳
香族部分を含む可能性がある直鎖又は分岐したアルキル鎖及び/又はアルキル環からなる。ペルフルオロカーボン化合物の鎖/環はヘテロ原子、すなわち炭素とは別の原子を含んでもよい。このようなヘテロ原子の例としては、それに限らないが、O、N、S及びSiなどが挙げられる。
【0021】
数多くのペルフルオロカーボン化合物及びヒドロペルフルオロ炭素化合物が当業者に知られている。ペルフルオロカーボン化合物の例として、それだけに限らないがほんのわずかだけ名前を挙げると、ドコサフルオロデカン[化学情報検索サービス機関(CAS)番号307−45−9]、ドデカフルオロ−ペンタン[CAS番号678−26−2]、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ヘプタデカフルオロ−オクタン[CAS番号335−65−9]、ヘルフルオロデカリン[CAS番号306−94−5]、テトラトリアコンタフルオロ−ヘキサデカン[CAS番号355−49−7]、n−ペルフルオロヘキサン、l,l,l,2,2,3,3,6,6,7,7,8,8,8−テトラデカフルオロ−4−オクタン[CAS番号3910−82−5]、1,1,2−トリヒドロペルフルオロ−l−デセン[CAS番号21652−58−4]、1,1,2−トリヒドロペルフルオロ−l−オクテン[CAS番号25291−17−2]、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8−ヘプタデカフルオロ−デカン[CAS番号77117−48−7]、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロ−6−ペンタデセン[CAS番号118202−35−0]、8,8,9,9,10,10,11,1l,12,12,13,13,14,14,15,15,15−ヘプタデカフルオロ−5−ペンタデセン[CAS番号118642−83−4]、2,2,3,3,4,4,5−ヘプタフルオロテトラヒドロ−5−(ノナフルオロブチル)−フラン[CAS番号335−36−4]、及び4−[ジフルオロ(ウンデカフルオロシクロヘキシル)メチル]−2,2,3,3,5,5,6,6−オクタフルオロ−モルホリン[CAS番号132252−23−4]−、l,l,2,2,3,3,3−ヘプタフルオロ−N,N−ビス(ヘプタフルオロプロピル)−l−プロパンアミン[CAS番号338−83−0]などが挙げられる。ヒドロペルフルオロ炭素化合物の例として、それだけに限らないがほんのわずかだけ名前を挙げると、2,2,3,3−テトラフルオロ−ヘキサン[CAS番号83225−48−3]、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロペンタン[CAS番号754−68−7]、1,1,1,2,2,3,3−ヘプタフルオロ−ノナン[CAS番号755−89−5]、1,2,3,4,5,6−ヘキサフルオロ−シクロヘキサン[CAS番号22060−80−6]、トリフルオロメチル−ベンゼン[CAS番号98−08−8]、1,2,3,4−テトラフルオロ−ナフタレン[CAS番号711−55−7]、l,l’−オキシビス[3,3,4,4,5,6,6,6−オクタフルオロ−5−(トリフルオロメチル)−ヘキサン[CAS番号220469−12−5]などが挙げられる。
【0022】
本発明の一部の実施形態では、小滴の液体は、その液体と非混和性である溶媒よりも低密度である。これらの実施形態では、各小滴は溶媒中に配置されるとすぐに溶媒表面上に浮く。本発明の別の実施形態では、小滴の液体は、その液体と非混和性である溶媒よりも低密度である。これらの実施形態では、各小滴は溶媒中に配置されるとすぐに溶媒に沈む。
【0023】
以下で「内部壁」として一般に呼ばれる処理区画の周縁壁及び底面の内部表面は、一部の実施形態において周縁壁の残りの部分及び底面の残りの部分と全く同じ材料からなる。別の実施形態では、各材料は周縁壁の残りの部分及び/又は底面の残りの部分と同一の成分、又は例えば量もしくは割合が異なる少なくとも類似の成分を含む。さらに別の実施形態では、各材料は追加の材料又は完全に異なる材料を含む。処理区画の内部壁は、壁が所望の溶媒を収容することができる限りは任意の内部表面特性を有してもよい。従って、例えば液体が供給される場合、内壁は親水性又は疎水性のいずれであってもよい。さらに、処理区画の内壁は別の表面特性を提供してもよい。従って、一部の内壁又は壁の一部分は親水であり、一方で別の一部の内壁又は壁の一部分は疎水性であってもよい。
【0024】
容器の内壁の任意部分も、それぞれ親水性又は疎水性の表面特性をもたらすこのような方法で処理してもよい。それぞれの処理は、例えば選択された液滴の液体との相互作用が
例えば低減又は無視できるように変更された特性をもつ表面を提供することが望まれる場合もある。例えば、容器の底面領域は個別に処理しても良い。一部の実施形態では、容器の内壁はさらに容器に収容されることが望まれる溶媒に対して不活性であってもよい。このような実施形態は、デバイスの複数回の再使用を可能にする。大部分の腐食性溶媒に対して不活性である材料の具体例は、例えばフルオロエチレンプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PFTE、テフロン(登録商標))、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロメチルビニルエーテル(MFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、テトラフルオロエチレン−ヘキサ−フルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンターポリマー、ペルフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレンコポリマー、ペルフルオロアルコキシコポリマー(PFA)、ポリ(フッ化ビニル樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン、フルオロシリコーン、又はフルオロホスファゼンである。
【0025】
表面特性を変更するために行われる可能性がある処理は、例えば機械的方法、熱、電気的方法、化学的方法といった様々な方法を含んでもよい。例として、プラスチック材料の表面は、希塩酸又は希硝酸による処理を介して親水性にすることもできる。別の例としては、ポリジメチルシロキサン(PDMS)表面は酸素又は空気プラズマで酸化することによって親水性にすることもできる。もう一つの方法として、任意の疎水性表面の表面特性は、親水性ポリマーで被覆することによって、又は界面活性剤で処理することによってより親水性にすることもできる。化学的表面処理の例としては、それだけに限らないが、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、プロピルトリクロロシラン、テトラエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−(2,3−エポキシプロポキシル)プロピルトリメトキシシラン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、ポリ(メチルメタクリレート)もしくはポリメタクリレートコポリマー、ウレタン、ポリウレタン、フルオロポリアクリレート、ポリ(メトキシポリエチレングリコールメタクリレート)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、ポリ[N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド](PHPMA)、アルファ−ホスホリルコリン−o−(N,N−ジエチルジチオ−カルバミル)ウンデシル−オリゴDMAAm−オリゴ−STblockオリゴマー(非特許文献4)、ポリ(3,4−エポキシ−l−ブテン)、3,4−エポキシ−シクロヘキシルメチルメタクリレート、2,2−ビス[4−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル]プロパン、3,4−エポキシ−シクロヘキシルメチルアクリレート、(3’,4’−エポキシシクロヘキシルメチル)−3,4−エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ジ−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビスフェノールA(2,2−ビス−(p−(2,3−エポキシプロポキシ)フェニル)プロパン)又は2,3−エポキシ−1−プロパノールへの曝露が挙げられる。
【0026】
処理区画に疎水性の内部壁(又は壁の一部分)を提供することが所望される場合、それぞれの壁、具体的には壁表面は、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリエステルスルホン、又は、例えばポリテトラフルオロエチレン(PFTE)といったペルフルオロカーボン化合物などといった疎水性材料を例えば含んでもよい。
【0027】
一部の実施形態では、装置の処理区画の内部壁又は壁の一部分は、従って、材料が内部壁表面及び各小滴の間の相互作用がほとんど少しも検出されないか全く検出されない、小滴の液体に対して低親和性を有する。具体例としては、例えば、小滴が処理区画に収容される溶媒に浸漬されている場合、例えば処理区画の底面領域のような内部壁への小滴の付着を防ぐために所望される可能性がある。このような実施形態では、処理区画に収容される溶媒よりも低密度である小滴を浸漬するために、静電場又は磁場などを含む電場(下記
参照)が適用されてもよい。このような場合、例えば処理区画の底面領域に関する限りは、小滴は電場又は磁場によって浸漬することもできる。底面領域が小滴に対して高親和性を有する場合、小滴は上述のように底面領域に張り付く可能性がある。底面領域が小滴に対して親和性を持たない場合、電場/磁場が消滅した後は、小滴は浮力によって上に行くことを余儀なくされる。従って、一部の実施形態では、処理区画の底面領域の表面、具体的には内部表面は、材料の親和性が前記溶媒中で小滴に対して発揮することができる最大限の力が浮力未満である、小滴の液体に対してこのように低親和性である材料を含む。
【0028】
一部の実施形態では、装置の処理区画の底面が半透明の領域を有する。「半透明」という用語は、少なくとも一定の割合の放射エネルギーを透過することができる材料の性質を述べると理解される。これらの実施形態の一つでは、底面は少なくとも実質的に透明な領域を有する。具体例としては、底面領域の一部又は底面領域の全体が、一定の範囲の電磁スペクトル内、例えば可視光、赤外光、X線、及び/又はUV光で半透明である場合がある。可視光、すなわちおよそ7x10−5からおよそ4x10−5cmまでの波長のエネルギーに対する可視光の範囲内で例えば透明又は基本的に透明であってもよい。一部の実施形態では、半透明な(透明を含む)領域は、実施される検出過程のために開始又は触媒される特定の過程に利用されるエネルギーが処理区画への進入を可能にするうえで役立つ可能性もある。これらの一部の実施形態、ならびにその他の実施形態では、透明な領域又は基本的に透明な領域は、例えば検出過程の間に処理区画からエネルギーが出るのを可能にするうえで役立つ。一部の実施形態では、それぞれの半透明な領域は処理区画の残りの部分とは別の材料で作られる。透明な領域に適した材料の例としては、それだけに限らないが、ガラス又はプラスチック材料が挙げられる。半透明の領域又は透明な領域を作り出すために適したプラスチック材料としては、それだけに限らないが、ポリメチルメアクリレート(例えば、ポリメチル−メタクリレート(PMMA)又はカルバゾールをベースとしたメタクリレート及びジメタクリレート)、ポリスチレン、ポリカーボネート、及びポリ環状オレフィンなどが挙げられる。また半透明領域を作り出すために適した材料のさらなる具体例は、フルオロ−エチレン−プロピレン(FEP)である。
【0029】
処理区画の周縁壁は、任意の形状と数であってもよい。具体例としては、装置は(垂直な)真っ直ぐな側壁を含んでもよい。この周縁壁/側壁は、例えば処理区画を取り囲む筒状の壁であってもよい。真っ直ぐな周縁壁の更なる例としては、装置は、互いに縁を介して連結した馬蹄形の一つの側壁及び一つの平面の側壁を含んでもよい。その上、更なる例としては、装置は、互いに縁を介して連結した3、4、5又はそれ以上の平面の又は曲線的な周縁壁を含んでもよい。周縁壁の設計、数、配置、ならびに底面の設計は、例えば処理区画内に位置する、又は配置されるデバイスを前提として選択してもよい。
【0030】
処理区画内に含まれるこのようなデバイスは、注入口部材である(例えば、図1を参照)。注入口部材は、小滴を処理区画内に固定するために役立つ(説明のために、例えば図4A− 4Eを参照)。一部の実施形態では、注入口部材は装置の一体部分である。例え
ば、処理区画の周縁壁又は底面から突出してもよい。別の実施形態では、注入口部材は処理区画から取り外し可能である。これらの実施形態の一つでは、注入口部材は装置から取り外し可能である。注入口部材は任意の形状及び材料であってもよい。例えば、プレート状、レンガ状、又はディスク状であってもよい(下記も参照)。このような注入口部材に含まれる材料の例としては、それだけに限らないが、金属、石英、ガラス、シリコーン、プラスチック、ポリマー、セラミック、絶縁体、半導体、有機材料、無機材料、及びそれらの複合材料が挙げられる。小滴注入チャネルを含むことに加えて、注入口部材はその他のデバイス又は例えばバーコード部分又はハンドルといった構成要素を含む場合もある。
【0031】
装置の底面のように、小滴注入チャネルの表面を含む注入口部材の表面は、注入口部材の残りの部分と同一又は別の材料を含んでもよい。さらに、注入口部材の表面は、所望の
溶媒中に注入口部材の収容が可能であるかぎり、任意の表面特性を有してもよい(上記参照)。また注入口部材表面の任意の部分は親水性又は疎水性表面特性のそれぞれを与える上述の方法で処理してもよい(上記参照)。
【0032】
一部の実施形態では、注入口部材の表面又は一部分は、上述のように注入口部材表面及びそれぞれの小滴の間に相互作用がほとんど検出されない、又は全く検出されない、小滴の液体に対して低い親和性を有する材料を含む。具体例として、小滴が処理区画に収容されている溶媒に浸漬されている場合には、例えば小滴注入チャネルといった注入口部材に対する小滴の付着を防ぐことが所望される可能性もある。このような場合、小滴は重力によって溶媒に浸漬され、その後注入口部材に接触する場合もある。例えば電場(静電場を含む)又は磁場を用いることによって(下記も参照)、小滴はさらに注入口部材の小滴注入チャネルを通って強制的に進む場合もある。このような実施形態及び別の実施形態においては、例えば小滴注入チャネルの制限部を通じて小滴の移動を助けるために、小滴及び小滴注入チャネルの表面の間の顕著な相互作用を避けることが所望される場合もある。従って、一部の実施形態では、小滴注入チャネルの表面又はその一部が、材料の親和性が前記溶媒中で小滴に対して発揮することができる最大限の力が電場/磁場によって発揮される力未満である、小滴の液体に対してこのように低親和性である材料を含む。別の実施形態では、小滴注入チャネルの表面又はその一部が、材料の親和性が前記溶媒中で小滴に対して発揮することができる最大限の力が重力によって発揮される力未満である、小滴の液体に対してこのように低親和性である材料を含む。
【0033】
別の場合では、処理区画に収容された溶媒よりも低密度である小滴を浸漬するために電場又は磁場を適用してもよい。底面領域が小滴に対する高親和性を有する場合、小滴は上述のように底面領域に付着する可能性がある。底面領域が小滴に対する親和性を持たない場合、電場/磁場が消滅した後は、小滴は浮力によって上に行くことを余儀なくされる。従って、一部の実施形態では、処理区画の底面領域の内部表面は、材料の親和性が前記溶媒中で小滴に対して発揮することができる最大限の力が浮力未満である、小滴の液体に対してこのように低親和性である材料を含む。
【0034】
所望される場合、注入口部材の表面は、大部分の腐食性溶媒に対して不活性であると同時に材料の親和性が前記溶媒中で小滴に対して発揮することができる最大限の力が浮力未満である、小滴の液体に対してこのように低親和性である材料を含んでもよい。このような材料の具体例は、例えばフルオルエチレンプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PFTE)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロメチルビニルエーテル(MFA)、又はペルフルオロアルコキシコポリマー(PFA)といったフルオロポリマーである。本発明の一実施形態では、小滴注入チャネルの表面はこのような材料を含む。
【0035】
一部の実施形態では、装置の処理区画は、その全体で各プレートを収容することが可能である(例えば図2Cを参照)。このような実施形態は、例えば処理区画に液体を収容することが所望される場合に選択してもよい。従って、このような実施形態では、処理区画がプレートを収容する時点で、プレート全体が溶媒に浸漬される。これらの実施形態の一部では、処理区画は処理区画に配置される各プレートのために別々の注入口を備える。一部の実施形態は、例えば各デバイスに付随する密閉可能な開口部を備えることによって、各プレートを同時にいくつかのマイクロデバイスに接触させることを可能にする場合もある。一実施形態において、各プレートを一つのデバイスから別のデバイスに移動させてもよい。本文脈中において、本発明のデバイス及び方法は一般的に一つのデバイスから別のデバイスへの試料の移動を必要としないことが理解されるべきである。
【0036】
本発明の装置の注入口部材の表面は、少なくとも一つの小滴注入チャネルを含む。小滴
注入チャネルは注入口部材を通じて伸びている。小滴注入チャネルは注入開口部及び流出開口部を有する(例えば図1Aを参照)。流出開口部は処理区画への開口部であり、注入開口部は注入口部材の上側の空隙への開口部である。注入口部材の上側又は上部上には、一部の実施形態ではさらに装置の内部がある場合もある。別の実施形態では、注入口部材が装置の上部を形成する場合もある。このような実施形態では、注入開口部は上述のように装置の周囲への開口部である可能性がある。これらの全ての実施形態では、処理区画は注入口部材の注入口を介して周囲と液体連通している。
【0037】
さらに、小滴注入チャネルは注入開口部及び流出開口部の間に制限部を含む。注入口部材が処理区画の上端を形成するため、小滴注入チャネルは処理区画及び処理区画の上側に位置する環境の間に連絡手段を与えることができる。従って、小滴注入チャネルの下部、すなわち制限部から下側に伸びる部分が処理区画の一部を成す。小滴注入チャネルが一つ又はそれ以上の制限部を含む場合、処理区画の上端を成す各制限部は、液滴の通過を可能にする最少の直径を有する制限部として画成される場合もある。
【0038】
制限部は、処理区画の底面領域の面に対して平行な面に外形を有する。一般的に、この面は少なくとも底面領域の面に対して基本的に平行であり、さらに、一般的に液滴と非混和性である処理区画中の溶媒の上表面に対して基本的に平行である。底面領域の面に対して平行なこの面において、制限部の直径は、処理区画及び周囲の間の液体連通を可能にする開口部を提供するかぎりは、例えば円形、正方形、三角形、又は任意のオリゴ面体形といった任意の外形であってもよい。同様に、底面領域の面に対して平行な面において、少なくとも一つの小滴注入チャネルの外形は任意の形状であってもよい(下記も参照)。小滴注入チャネルの外形は、それぞれの面において例えば砂時計形、凹んだ半円形、V字形、三角形、長方形、正方形、任意のオリゴ面体、及びそれらの任意の組み合わせの少なくとも一つの形状であってもよい。一部の実施形態では、非混和性の溶媒中で液滴が有する直径よりも小さい直径であるように小滴注入チャネルの制限部が選択されることによって開口部が画成される(下記も参照)。これらの実施形態の一部では、理論上であれ、選択された実施形態においてであれ、任意の液滴が通過するために利用可能な直径は、非混和性の溶媒中で用いられた特定の液滴が有する直径よりも小さい直径である。従って、このような実施形態において、制限部の正確な直径、又は(すなわち任意の)液滴が通過するために利用可能な直径は、望ましい温度と圧力条件下では選択された溶媒及び選択された液滴によって決まる。具体的には、直径は処理区画内で溶媒中に分注された時点で液滴のその結果として生じる大きさによって決まる。具体例として、小滴が通過するために利用可能な制限部の直径は、100μmから10mmまでの範囲、例えば300μmから2mmまでの範囲内で選択することができる。
【0039】
一般的に、小滴注入チャネルの制限部は、試料を含む小滴が自発的に小滴注入チャネルを通過しないようにすることができる。当業者は、使用される小滴の液体及び処理区画内に含まれる溶媒にもよるが、小滴のこのような自発的な動きが例えば重力又は浮力によって動かされる場合があることに気がつくであろう。
【0040】
処理区画が注入口部材及び一定量の溶媒を収容した時点で、制限部は溶媒に浸漬される。制限部の直径は、底面に対して平行な、すなわち、一般的に、液体の表面に対しても平行である面における任意の外形であってもよい。各外形の例としては、それだけに限らないが、円形、半円形、卵形、V字形、I字形、U字形、皮針形(やりの先端のような形)、台形、砂時計形、三角形、長方形、正方形、任意のオリゴ面体、又はそれらの任意の組み合わせの形が挙げられる。制限部はさらに、底面に対して垂直な平面において任意の厚さであってもよい。具体例として、およそ100μmから10cmまでの範囲、例えばおよそ300μmから5mmまでの範囲の厚さであってもよい。
【0041】
制限部は一般的に溶媒中で小滴が有する直径よりも小さい直径である。そのため、制限部を小滴が通過するためには一定の力が必要である。制限部を通じて小滴が押し通された時点で、制限部よりも小滴が大きいために、小滴は制限部より下又は上側に捕らえられたままになる。小滴を押し戻すには、浮力又は重力は十分ではない。同時に、直径がある程度変化して小滴が形成される実施形態においては、制限部は選択的フィルターの役割も果たす場合がある。使用される非混和性の液体中で期待される値よりも大きい又は小さい直径の小滴は、追加の力を加えずに制限部を通過するか、又は制限部を通過することができないかのいずれかだろう。
【0042】
制限部は、例えば小滴注入チャネルのネックもしくは穴であってもよく、又は小滴注入チャネルに含まれていてもよい。小滴注入チャネルは装置(上述)の底面に対して垂直な面において任意の外形であってもよい。このような外形は、左右対称であっても、又は非対称であってもよい。例えば、直径が不均一な筒状の形状から派生してもよい。それぞれの外形の例としては、それだけに限らないが、円形、凹んだ半円形(平凹形)、卵形、V字形、C字形、D字形、I字形、皮針形(やりの先端のような形)、台形、凹んだ半円形(平凹形)、三角形、長方形、正方形、又は任意のオリゴ面体が挙げられる。図1Bは、小滴注入チャネルの適した外形のいくつかの具体例を示す。一部の実施形態では、小滴が通過するために利用可能な直径は、小滴と非混和性である液体の表面からの距離が離れるにつれて狭くなってもよい。各小滴注入チャネルは、例えばV字形の外形であってもよい。
【0043】
これらの実施形態の一つにおいて、液体中で小滴がとる直径よりも直径が小さい制限部は、小滴注入チャネルの底部に位置する。小滴注入チャネルの各外形は、制限部に向かって小滴を導くよう所望される場合もある。
【0044】
一部の実施形態では、小滴が通過するために利用可能な小滴注入チャネルの直径は、小滴と非混和性である液体の表面からの距離が離れるにつれて大きくなってもよい。各小滴注入チャネルは、例えばピラミッド形又は円錐形(Δ字形)の外形であってもよい。
【0045】
これらの実施形態の一つにおいて液体中で小滴がとる直径よりも直径が小さい制限部は、小滴注入チャネルの上部に含まれてもよい。小滴注入チャネルの各外形は、小滴を制限部の直ぐ下に固定するように所望される場合もある。特定の位置に小滴を固定するのは、例えば、小滴の検出また放射などが行われる場合に所望される場合もある。例えば、いくつかの異なる小滴が用いられる実施形態において、同定の助けになるよう所望される場合もある。
【0046】
一部の実施形態において、小滴が通過するために利用可能な小滴注入チャネルの直径は、注入開口部から特定の点までの距離が遠くなるにつれて小さくなってもよい。従って、小滴注入チャネルの利用可能な直径は、注入開口部からの距離が遠くなるにつれて、すなわち流出開口部までの距離が近くなるにつれて、再び大きくなってもよい。具体例として、小滴注入チャネルの外形は、液体の表面に対して垂直な面において砂時計の形状であってもよい。図1Bに描かれた最初の6つの外形は、このような小滴注入チャネルの各外形の更なる例である。これらの実施形態の一つにおいて、小滴が液体中でとる直径よりも直径が小さい制限部は、例えば小滴注入チャネルの中央又は中央近くに、上述のように小滴注入チャネル内に含まれる。各実施形態において、制限部はボトルネックとしての役割を果たしてもよい。このようなボトルネックは、更なる外的な力の作用なしに小滴が通過しないよう防ぎ、小滴が通過するとすぐに小滴を捉え、重力又は浮力の作用によって小滴を固定する役割を果たすことも可能である。
【0047】
本発明の一部の実施形態において、装置は例えば上述のような複数の注入開口部及び/
又は制限部を提供する。注入開口部及び/又は制限部の任意の配置は、このような実勢形態から選択してもよい。一実施形態において、全ての注入開口部は同一である(例えば、図1D又は図4A− 4Eを参照)。このような実施形態では、同一直径及び例えば同一
の液体のいくつかの小滴を同時にデバイスと共に用いてもよい。別の実施形態では、装置の底面に対して垂直な水平面において同一の外形を有するが、一方で小滴が通過するために利用可能な直径が異なる、いくつかの小滴注入チャネルが提供されてもよい。具体例として、これらの小滴注入チャネルの制限部は、小滴が通過するために利用可能な異なる直径を提供してもよい。さらに別の実施形態では、例えば異なる外形の小滴注入チャネル内に異なって位置する制限部、及び小滴が利用可能な直径が異なる制限部が提供される。これらの実施形態それぞれにおいて、全て、又はいくつかの制限部は同一の材料又は異なる材料内に位置してもよい(下記参照)。
【0048】
一部の実施形態において、小滴注入チャネルはプレート、レンガ状の塊、もしくはディスクの貫通孔、又はそれらの一部である。各プレート、レンガ状の塊、もしくはディスクはマイクロデバイスから取り外し可能であってもよい。このようなモジュールは、任意の所望される形状であってもよい。従って、一例として、従来の実験機器への適合が必要に応じてマイクロタイタープレート(MTP)を適合させても良い。具体例としては、適切なプレートの注入チャネルの注入開口部は、従来の48ウェル、96ウェル、384ウェル、1536ウェル、又は3456ウェルのプレート上に位置する各ウェルに配置されてもよい(例として、図面2Dを参照)。
【0049】
各実施形態において、プレート、レンガ状の塊、もしくはディスクの交換は、例えば選択された直径の一つの小滴注入チャネル又はいくつかの小滴注入チャネルを提供してもよい。プレート、レンガ状の塊、もしくはディスクの交換は、例えば選択された小滴の液体と最低限の相互作用を有する材料を提供してもよいし(下記も参照)、又は選択された液体と全く相互作用を有さない又は最低限の相互作用を有することを示すよう処理された材料を提供してもよい。
【0050】
一部の実施形態では、温度を変化させることによって化学試料又は生物試料の処理に(例えば触媒としての作用によって)影響を与えるために、装置はサーモスタットデバイス又はそれに組み込まれたペルチェヒーターを備える。この点において、サーモスタットデバイス又はペルチェヒーターは、加熱手段、冷却手段、又はその両方として作用する場合もある。従って、例えば均一な温度分布を提供するための加熱方法又は冷却方法は、それだけに限らないが、処理区画表面に取り付けられたペルチェヒーター、又は処理区画の周囲にぐるりと巻き付いた加熱コイルもしくは冷却コイルであってもよい。
【0051】
本発明はさらに液滴中の生物試料及び/又は化学試料の処理方法を提供する。任意の処理を液滴中で行ってもよい。所望の処理を実施可能にするために、当然のことながら更なる液滴を加えてもよい。実施する可能性がある処理の例としては、それだけに限らないが、試料中に含まれる化合物の物理的検出、化学反応、細胞溶解、生物又は生物の一部からの分子の抽出、生物からの分子の放出、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。物理的検出の例としては、それだけに限らないが、分光法、光化学的手法、光度測定法、蛍光分析法、放射線法、又は熱力学的手法が挙げられ、また例えば、感光性標識、蛍光標識、放射線標識、酵素標識の利用などが挙げられる。化学反応の例としては、それだけに限らないが、タンパク質合成、核酸合成、ペプチド合成、酵素分解、結合分子との相互作用、及びそれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0052】
試料の処理に用いられる場合、小滴が特定の処理を開始又は触媒するためのエネルギー源に曝される場合もある。適用される可能性があるエネルギーの例としては、それだけに限らないが、マイクロ波エネルギー又は光分解エネルギーなどが挙げられる。装置は処理
区画にエネルギーが進入及び/又は出ることができる、処理区画の周縁壁又は底面の特定の領域を含む場合もある。一部の実施形態では、本発明の装置は、例えば処理区画の周縁壁もしくはその一部、又は底面もしくはその一部などの、半透明又は少なくとも基本的に透明な領域を含む場合もある。
【0053】
一部の処理のために、例えば反応物質などといった別の材料を含む追加の小滴を使用してもよい。このような追加の小滴は、例えば試料を含む小滴と融合されてもよい。一部の実施形態では、行われる処理は被分析物の検出である。このような処理は、一つ又はそれ以上の反応が含まれる場合もある。被分析物は、例えば液滴中に含まれた試料であってもよい。このような実施形態で行われる反応の選択は、検出を可能にする被分析物の特性がどのようなものであるかを考慮しながら、検出される被分析物の種類によって決まる。
【0054】
小滴中でおこなわれる処理に含まれる可能性がある反応の具体例は、検出標的である被分析物及び被分析物の検出陽性を示す検出可能なシグナルを提供する指標化合物の間の結合反応である。例としては、当業者によく知られている、例えば、酵素免疫測定法(ELISA)のような免疫化学反応が挙げられる。各結合反応のアッセイは、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、蛍光消滅もしくは蛍光増大、蛍光相関分光法(FCS)、蛍光強度分布解析法(FIDA)、又は蛍光相互相関分光法(FCCS)も含む場合もある。FRETの場合では、結合パートナーは一般的に、検出を可能にするために、例えば例としてSNAPタグ(非特許文献5を参照)のような、アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼの変異体を用いて標識される必要がある。FRETを用いる方法の具体例は、各末端にフルオロフォア及びクエンチャーと架橋されたペプチドである基質が酵素β−セクレターゼによる開裂で蛍光を発するようになる、β−セクレターゼFRETアッセイである。FPの場合では、フルオロフォアを一般的に結合パートナーの一方に結合してトレーサーと呼ばれるものを形成する必要がある。FCCSは単独標識、及び二重標識した物質の同時モニターを可能にし、二つの結合パートナーの検出には密接な接近は必要ない。別の例は、蛍光又は吸収特性を有する分子の発生又は消費に依存する酵素反応を含む。このような反応は当業者によく知られており、例えばニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD/NADH)などの分子の酸化還元変化を伴う。さらによく知られた例は、例えば二重鎖核酸に結合したときのみ蛍光シグナルを発するSYBR Greenなどといった色素の存在のリアルタイム検出を伴うポリメラーゼ連鎖反応である。さらに別の例は、標的とするDNA配列及びその相補DNA又はフルオロフォアで標識した断片との間の結合反応であり、テスト試料が標的DNA配列を含む場合に蛍光シグナルが生じる。更なる例として、興味がある特定の分子の画像化もコヒーレント・アンチストークス・ラマン分光(CARS)顕微鏡によって行われてよい。
【0055】
各反応は、小滴中に存在する被分析物に関連する比色分析、蛍光分析、又は発光分析の結果をもたらす、定性的又は定量的データを提供することもできる。例えばタンパク質の被分析物の検出のための比色分析結果が必要に応じて、液体試料中に存在する任意のタンパク質を染色するのに適した色素が使用される場合もある。利用可能な色素の例は、酢酸に溶解したスルホローダミンB(SRB)から得られる。蛍光分析結果が必要な場合、蛍光色素が使用される。蛍光分析結果は、標的とされた被分析物へのフルオロフォアの直接的な結合又は標的とされた被分析物へのフルオロフォア標識化合物の結合のいずれかによってもたらされる蛍光発光からも得られる。具体例として、被分析物に対する抗体のアミノ基又はチオ基が、Cy5、Cy7もしくはDy647といった低分子有機分子に、又はアロフィコシアニン(APC)のような蛍光タンパク質に共有的に結合してもよい。更なる具体例として、被分析物は細胞内で発現される細胞間タンパク質及び緑色蛍光タンパク質(GFP)のコンストラクトであってもよい。更なる実施形態では、フルオロフォア、酵素、又は結合複合体の構成要素の少なくとも一つと結合するプローブが被分析物の検出に用いられる。
【0056】
本方法は生物材料又は非生物材料由来の試料を処理するために行ってもよい。非生物材料の例としては、それだけに限らないが、合成有機化合物又は合成無機化合物、有機化学組成、無機化学組成、コンビナトリアル化学製品、薬剤候補分子、薬剤分子、薬剤代謝物、及びそれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。生物材料の例としては、それだけに限らないが、ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、核酸、アミノ酸、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、生化学組成、脂質、炭水化物、細胞、微生物、及びそれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。
【0057】
核酸の例は、DNA又は例えばPCRといった遺伝子フィンガープリント法のための核酸処理からの増幅産物である。微生物の例としては、例えば細菌もしくはウイルスといった病原体、又は癌性細胞などが挙げられる。このような被分析物は、非常に多様な出所に由来する可能性がある。本方法を用いて分析される可能性がある液体試料としては、植物材料及び動物組織(例えば、虫、魚、鳥、ネコ、家畜、飼われている動物、及びヒト)、ならびにこのような動物に由来する血液、尿、精子、糞便検体に由来する生物試料などが挙げられる。生きた動物の生物組織だけでなく、例えば死後組織バイオプシーのために、又は例えば同定を目的として、動物の死骸又はヒトの死体も分析される可能性がある。別の実施形態では、液体試料は、標的とされる細菌、汚染物、元素又は化合物の存在を測定するために、海、湖、貯水池、又は工業用水といった非生物源から得られる水である場合もある。さらなる実施形態としては、それだけに限らないが、固体の溶解液又は懸濁液(例えばミクロ流体)、及びイオン液体などが挙げられる。さらに別の実施形態では、液体試料中の被分析物濃度、反応速度定数、被分析物の純度、及び被分析物の不均一性などを含む液体試料の性質を定量するために、被分析物に関する定量的データが用いられる。
【0058】
具体例としては、病状を識別するために、細菌、ウイルス、又はDNA配列が本発明を用いて検出される可能性がある。検出される可能性がある疾患としては、それだけに限らないが、重症急性呼吸器症候群(SARS)、A型、B型、及びC型肝炎、HIV/AIDS、マラリア、ポリオ、結核、ならびにインフルエンザなどといった伝染病、(例えば染色体異常などの検出を介して)出生前に検出することができる鎌状赤血球貧血などといった先天性症状、心房中隔欠損症、大動脈弁上狭窄、心筋ミオパチー、ダウン症候群、などといった心臓の先天異常、内反足、多指症、合指症、萎縮指、裂手裂足などが挙げられる。本方法は癌の検出及びスクリーニングにも適している。
【0059】
別の実施形態では、本発明の方法は例えば薬剤といった、一つ又はそれ以上の医薬品の検出、反応(生物細胞又はその一部に対する結合反応を含む)、合成、又はそれらの任意の組み合わせに使用してもよい。医薬品などの化合物の合成は、例えば誘導体化したビーズ上で固相反応として行ってもよい。医薬品化合物は、例えばライブラリーの形で用いてもよい。このようなライブラリーの例は、モデル化合物として化学的に合成された様々な低分子有機分子、又は多数の配列変化を含む核酸分子のコレクションである。例として、このようなライブラリーの各化合物は、一つの小滴中に配置してもよい。このような小滴は、当業者によく知られている市販の機械によって自動的な方法で供給してもよい。本発明の方法は、例えば薬剤スクリーニング又は尿もしくは血液試料中の薬剤の存在の検出に用いてもよい。
【0060】
さらに別の実施形態では、本発明の方法は、タンパク質の結晶化に用いてもよい。具体例として、タンパク質及び様々な種類の緩衝液及び添加物を含む一連の小滴チップが簡単である可能性がある。当技術分野で、タンパク質結晶化システムのための標準的な技術的必要条件としては、(1)高価なタンパク質の費用削減のための小型化、(2)各試行で広範囲の条件をテストするための種々の結晶化溶液組成の柔軟性、及び(3)6ヶ月までの期間にわたって蒸発が非常にゆっくり起こるような蒸発速度の制御などが挙げられる。
本発明は、これらの条件全てを満足させることができる。分注された小滴の大きさは単に用いられるディスペンサーの種類によって制限され、市販されている技術により100pLほどの小ささにすることができる。典型的なアレイの各小滴を反応器として定義することもできる。反応器組成は、各小滴に異なる溶液の添加をプログラムすることによって容易に変更することができる。例えばタンパク質の結晶化溶液を二つの異なる添加物で、可能な全ての組成の組み合わせで調製する必要がある場合には、本発明の方法を容易に適用することができる。対象リアクターの全容積が1nLであって最少分注単位が0.2nLである場合、本システムは操作の簡単なプログラムによって合計20の異なる組成を提供することができる。蒸発は容易に制御することができる(標準処理、上記も参照)。1nLレベルでは、当技術分野で現在用いられているペルフルオロカーボン液中で小滴は1日以内に蒸発する。処理区画内の溶媒がペルフルオロカーボン液であり、ペルフルオロカーボン液が水で完全に覆われる(すなわち上部が、下記も参照)場合の実施形態では、小滴の蒸発はごくわずかである。従って、相対湿度及びペルフルオロカーボン液中に存在する水分量の制御によって、小滴の蒸発速度は所望通りに調節することができる。
【0061】
その上さらなる実施形態では、本発明の方法は例えば全細胞アッセイを行う場合などといった生細胞を扱うために利用することができる。試薬分注ロボットを用いた生細胞の分注が細胞の生存率に影響せず、細胞はその後3456ウェルプレート中で増殖することができたことが過去に報告されている(非特許文献6)。全細胞アッセイの例としては、細胞内分子濃度(例えば、環状アデノシン一リン酸)もしくは細胞内分子の活性(例えば、カスパーゼのような酵素)の検出、特定分子に対する細胞表面上の結合部位の測定、このような細胞表面上の結合部位との分子の複合体形成の測定(例えば、シンチレーション近接アッセイなどの置換−結合アッセイ)、又はレポーター遺伝子に基づくアッセイでの試料中の被分析物の検出が挙げられる。接着細胞アッセイは、必要に応じて、固体の担体との直接滴な接触が全くなしに小滴を扱うことができる。例として、小滴は、細胞接着のための物理的支持体として機能することができる三次元マトリックスを含んでもよい。別の例としては、小滴は接着細胞に物理的支持を提供する粒子を含んでもよい(例えば、図12を参照)。
【0062】
本方法は、上述のように底面、少なくとも一つの周縁壁、及び注入口部材によって画成される処理区画を備える装置の提供を含む。装置の提供は、例えばプレート、レンガ状の塊、又はディスクといった、注入口部材を収容することができる容器を含むデバイスの提供を含む場合もある。このような場合、方法はさらに各注入口部材の提供も含む場合もある。上述のように、注入口部材の表面は、所望の反応が起こるようにするかぎり、任意の表面特性を有してもよい。方法が注入口部材を収容することができる容器を含むデバイスの提供を含む場合、方法はさらに容器内への注入口部材の配置を含み、従って、上述の装置の処理区画の形成を含む。注入口部材を支持するよう設計又は適合された一部の実施形態では、容器の周縁壁は、注入口部材が容器内部に備えられた時点で処理区画を形成する。
【0063】
一例として、装置の周縁壁が処理区画の内部に伸びて、注入口部材を支えることができる段差を形成する場合もある。このような実施形態では、段差は底面及び注入口部材の間の直接接触を防ぐ底面との距離を提供するように設計又は位置づけられる場合もある。このような空隙は、従って、処理区画の高さに寄与又は高さを画成してもよい。従って、このような実施形態においては、処理区画は底面及び注入口部材の少なくとも一部の間の空隙を含む。図2Aは、段差を用いてバイオチップを支えるよう設計又は適合されたそれぞれの周縁壁の例を示す(図2Bも参照)。バイオチップが容器に挿入され(例えば2Gを参照)、周縁壁によって支えられた時点で、処理区画が組み立てられる(例えば図2Cを参照)別の実施形態では、容器の周縁壁は底面及び注入口部材の間の距離を与えずに注入口部材を支えるよう設計又は適合される。これらの実施形態の一部では、処理区画内の空
隙、又は処理区の一部の空隙は処理区画の残りの部分と隔てられる場合もある。それによって、例えば、小滴が小滴注入チャネルを離れるのを防ぐ。具体例として、注入口部材は、その下端に空洞を備えてもよい。容器内に挿入された時点で、注入口部材の下端は装置の底面と接触する場合もある。その結果、空洞が処理区画を画成する場合もある。従って、これらの実施形態の一部では、注入口部材は処理区画及び/又は装置の周縁壁の少なくとも一部も提供する。これらの実施形態の一部では、物理的な分離によっていくつかの処理区画が同一装置内に存在することを可能にすることもできる(例えば、図1Eを参照)。
【0064】
本発明の方法は、さらに液滴と非混和性である溶媒の提供も含む(上述)。本方法はさらに、注入口部材に含まれる制限部が溶媒に浸漬するように、提供された装置の処理区画への溶媒の配置も含む。上記で説明されたように、一部の実施形態において、装置は注入口部材を提供、及び適したデバイスの容器への配置を含む。これらの実施形態の一つでは、注入口部材が処理区画内に配置された後に、溶媒が処理区画に配置される。別の実施形態では、容器と共にデバイスが最初に用意され、その後溶媒がデバイスの容器内に配置され、その後注入口部材が容器内に配置される。後者の実施形態は、例えば装置を用意し装置の処理区画内に液体を満たす際に望ましくない気泡の形成を防ぐために選択してもよい。
【0065】
必要に応じて、処理区画内の所望の液滴の分注を妨げたり又は干渉しないかぎりは、処理区画内の溶媒と非混和性の溶媒をさらに追加してもよい。別の低密度の液体が、例えば層を形成して、例えば処理区画内の溶媒の表面を覆うために、例えば処理区画内の溶媒に添加される場合もある。図12Cは、追加の溶媒が処理区画内の溶媒上に配置され、その上に層を形成する場合の具体例を示す。このような実施形態においては、追加の各液体は一般的に処理区画内の溶媒と非混和性であるように、またおそらく処理区画内の溶媒よりも密度が低い液体が選択される。これは、例えば処理区画内の溶媒の蒸発を防ぐために所望される可能性がある。具体例としては、処理区画内の溶媒は、ヒドロペルフルオロカーボン化合物、又はペルフルオロカーボン化合物であってもよく、液体は水の層であってもよい。このような実施形態においては、従って本発明の方法は、溶媒と非混和性であり(例えば、既に処理区画内に配置されていてもよい)、溶媒よりも低密度である液体の提供、及び装置の処理区画内への前記液体の配置を含む。
【0066】
一部の実施形態では、本発明の方法は、界面活性剤の提供及び界面活性剤の容器内の配置をさらに含み、前記溶媒と接触して溶媒中に溶解することができる。任意の界面活性剤を用いてもよく、海面下製剤は表面に蓄積するため、一般的に界面活性剤は処理区画内の溶媒及び小滴の液体に照らして選択される。界面活性剤は、例えば小滴の液体の表面張力を下げるために、及び/又は溶媒も液体である場合には、処理区画内の各液体の表面張力を下げるために選択される。また、処理区画内の溶媒及び底面又は周縁壁といった処理区画の内部壁との間の相互作用を低下させる、又は最小限にするために選択される場合もある。一般的に、界面活性剤は、陰イオン性化合物、陽イオン性化合物、両性イオン性化合物、又は非イオン性化合物などを含む両親媒性有機化合物である。
【0067】
界面活性剤は、例えば、スルホン酸、スルホンアミド、カルボン酸、カルボン酸アミド、リン酸塩、又はヒドロキシル基から成る群から選択された部分によって置換される、炭化水素化合物、ヒドロペルフルオロカーボン化合物、又はペルフルオロカーボン化合物であってもよい(上述)。例えば、数多くのペルフルオロカーボン界面活性剤が当業者に知られている。例としては、それだけに限らないが、わずかに名前を挙げるとヘンタデカフルオロオクタン酸、ヘプタデカフルオロノナン酸、トリデカフルオロヘプタン酸、ウンデカフルオロヘキサン酸、1,1,1,2,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,1l−ヘンエイコサフルオロ−3−オキソ−2−ウンデ
カンスルホン酸、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6−トリデカフルオロ−1−ヘキサンスルホン酸、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロ−5−[(トリデカフルオロヘキシル)オキシ]−ペンタン酸[化学情報検索サービス機関(CAS)番号174767−00−1]、2,2,3,3−テトラフルオロ−3−[(トリ−デカフルオロヘキシル)オキシ]−プロパン酸][CAS番号376−39−6]、N,N’−[ホスフィニコビス(オキシ−2,l−エタンジイル)]ビス[l,l,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ヘプタデカフルオロ−N−プロピル−l−オクタンスルホンアミド[ナトリウム塩はCAS番号82393−02−0]、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ヘプタデカフルオロ−1−オクタンスルホン酸、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ヘプタデカフルオロ−l−オクタンスルホニルフルオリド、[CAS番号190002−24−5]、2−[(β−D−ガラクトピラノシロキシ)メチル]−2−[(l−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−l,3−プロパンジイルカルバミン酸(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチル)−エステル[CAS番号190002−24−5]、6−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−リン酸水素トリデカフルオロオクチル)−D−グルコース[モノナトリウム塩はCAS番号142740−63−4]、3−(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−リン酸水素ヘプタデカフルオロデシル)−D−グルコース[モノナトリウム塩はCAS番号142740−66−7]、2−(ペルフルオロヘキシル)エチルイソチアネート[CAS番号142010−49−9]、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−N−フェニル−オクタンアミド[CAS番号3316−17−4]、1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,12,12,12−ペンタコサフルオロ−N−(2−ヒドロキシエチル)−N−プロピル−l−ドデカンスルホンアミド[CAS番号84002−45−9]、2−メチル−,2−[[(ヘプタデカフルオロオクチル)スルホニル]メチルアミノ]−2−プロペン酸エチルエステル[CAS番号14650−24−9]、3−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−l−オキソオクチル−ベンゼンスルホン酸[モノナトリウム塩はCAS番号131666−65−4]、3−(ヘプタデカフルオロオクチル)−ベンゼンスルホン酸[ナトリウム塩はCAS番号146444−79−3]、4−[(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−ペンタデカフルオロ−l−オキソオクチル)アミノ]−ベンゼンスルホン酸[モノナトリウム塩はCAS番号176515−54−1]、3−[(o−ペルフルオロオクタノイル)フェノキシ]プロパンスルホン酸[ナトリウム塩はCAS番号176515−56−3]、N−エチル−l,l,2,2,2−ペンタフルオロ−N−(26−ヒドロキシ−3,6,9,12,15,18,21,24−オクタオキサヘキサコス−1−イル)−エタンスルホンアミド[CAS番号173219−11−9]、3−[エチル[(ヘプタデカフルオロオクチル)スルホニル]アミノ]−l−プロパンスルホン酸[ナトリウム塩はCAS番号75032−81−4]、1,2,2,3,3,4,5,5,6,6−デカフルオロ−4−(ペンタフルオロエチル)−シクロヘキサンスルホン酸[ナトリウム塩はCAS番号151017−94−6],2−[l−[ジフルオロ(ペンタフルオロエトキシ)メチル]−l,2,2,2−テトラフルオロエトキシ]−l,l,2,2−テトラフルオロ−エタンスルホン酸[カリウム塩はCAS番号70755−50−9]、N−[3−(ジメチルオキシドアミノ)プロピル]−2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロ−4−(ヘプタフルオロプロポキシ)−ブタンアミド[CAS番号87112−48−9]、N−エチル−N−[(ヘプタデカフルオロオクチル)スルホニル]−グリシン[カリウム塩はCAS番号2991−51−7]、又は2,3,3,3−テトラフルオロ−2−[l,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−[(トリデカフルオロヘキシル)オキシ]プロポキシ]−l−プロパノール[CAS番号484001−47−0]などがある。
【0068】
またペルフルオロカーボン界面活性剤の例としては、例えばα−[2−[ビス(ヘプタフルオロプロピル)アミノ]−2−フルオロ−l−(トリフルオロメチル)−エテニル]−ω−[[2−[ビス(ヘプタフルオロプロピル)アミノ]−2−フルオロ−l−(トリフルオロメチル)エテニル]オキシ]−ポリ−(オキシ−l,2−エタンジイル)[CAS番号135089−94−0]、α−[2−[[(ノナコサフルオロテトラデシル)−スルホニル]プロピルアミノ]エチル]−ω−ヒドロキシ−ポリ(オキシ−l,2−エタンジイル)[CAS番号83995−63−5],ポリエチレングリコールジペルフルオロデシルエーテル[CAS番号37382−58−4]、α−[2−[エチル[(ヘプタデカフルオロオクチル)スルホニル]アミノ]エチル]−ω−ヒドロキシ−ポリ(オキシ−l,2−エタンジイル)[CAS番号29117−08−6]、α−[2−[エチル[(ペンタコサフルオロドデシル)スルホニル]アミノ]エチル]−ω−ヒドロキシ−ポリ(オキシ−l,2−エタンジイル)[CAS番号82397−47−5]、α−[2−[[(ヘプタデカフルオロオクチル)−スルホニル]プロピルアミノ]エチル]−ω−ヒドロキシ−ポリ(オキシ−l,2−エタンジイル)[CAS番号52550−45−5]、N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)−2,2−ジフルオロ−2−[l,1,2,2−テトラフルオロ−2−[(トリデカフルオロヘキシル)オキシ]−エトキシ]−アセトアミド[CAS番号141483−28−5]、α−(2−カルボキシエチル)−ω−[[(トリデカフルオロヘキシル)オキシ]メトキシ]−ポリ(オキシ−l,2−エタンジイル)[リチウム塩はCAS番号496850−57−8]、α−[2,3,3,3−テトラフルオロ−2−[1,1,2,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−(ヘプタフルオロプロポキシ)プロポキシ]−1−オキソ−プロピル]−ω−ヒドロキシ−ポリ(オキシ−l,2−エタンジイル)[CAS番号37541−12−1]、及び2,3,3,3−テトラフルオロ−2−(ヘプタフルオロプロポキシ)−プロピオン酸ポリマー[CAS番号26099−32−1]といった重合体化合物が挙げられる。
【0069】
一実施形態において、界面活性剤はCF(CF−(CH−(OCHCH−OHの構造をもち、mは3から100の整数であり、nは0から10の整数であり、kは1から200の整数である。各界面活性剤の具体例は、α−(2,2,3,3,4,4,5,5,5−ノナフルオロペンチル)−ω−ヒドロキシ−ポリ(オキシ−l,2−エタンジイル)[CAS番号82397−48−6]である。ヒドロペルフルオロ界面活性剤の具体例は、l−デオキシ−l−[(4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカフルオロ−l−オクソノニル)アミノ]−キシリトール[CAS番号487027−48−5]である。
【0070】
本方法は、注入口部材の小滴注入チャネルへの小滴の配置をさらに含む。配置された小滴は、小滴注入チャネル中に含まれる制限部の下に位置する。一部の実施形態において、制限部は小滴が小滴注入チャネルを自然に通過するのを防ぐ。この点において、本発明の方法が本発明の装置及び液滴の間の引力に依存する必要がないことは、当業者にとっては当然のことである。本発明の方法において役立つ又は依存する可能性があるこのような引力は、例えば非極性の液滴と併用される非極性の底面領域もしくは非極性の注入口部材といった、例えば選択された液滴に対して親和性がある表面が挙げられ、又は、さらなる例として、小滴注入チャネルでの毛管力が挙げられる。装置はこのような引力が可能となるように選択される可能性があるものの、上記で説明されたように別の方法が用いられる可能性もある。既に説明したように、一部の実施形態において、制限部は、例えば処理区画中に満たされる非混和性溶媒中で小滴がとる直径よりも小さい。一部の実施形態において、具体的には、荷電した液滴の場合に、電場又は電磁場が例えば用いられる場合がある(上述)。電場又は電磁場の強度などといった性質の変更を含む、このような電場又は電磁場は、液滴の位置をさらに制御するためにも利用してもよい。特に、例えば、液滴を小滴注入チャネルの制限部に押し込むといった液滴の位置を変更することが所望される実施形
態においては、液滴の液体に対する親和性が低い、又は基本的に親和性がない表面を有する装置を提供することが所望される可能性がある。各表面の例としては、それだけに限らないが、処理区画の底面領域及び注入口部材の表面などが挙げられる。このような低親和性の表面を有する装置を選択することは、例えば小滴の位置変更を妨げる可能性がある、液滴に対する望ましくない力の作用を回避することもできる。
【0071】
小滴注入チャネルへの小滴の配置は、処理区画内又は処理区画上の任意の場所を含む、本発明の装置内又は装置上の任意の場所への小滴の配置を含む可能性もある。小滴注入チャネルへの小滴の配置は、典型的には分注することによる小滴の形成を含む可能性もある。例としては、例えば小滴注入チャネルへの注入開口部の上側の中心又は横といった、小滴注入チャネルの制限部上に小滴が配置されてもよい。本発明の方法の一部の実施形態においては、小滴は装置の処理区画中に配置された非混和性溶媒上及び/又は非混和性溶媒中に向けて滴下される。別の実施形態においては、小滴は非混和性の各溶媒と共に形成される。本発明の方法の全ての実施形態の中で、小滴は非混和性溶媒中に浸漬される。非混和性溶媒よりも小滴の液体の密度が高い場合、小滴はその後、溶媒中に沈む。密度が低い場合には、小滴は溶媒表面に浮くか、又は溶媒表面の方向に上昇する。
【0072】
小滴の配置には、任意の方法で行ってもよい。例としては、ディスペンサーが提供される可能性がある。ディスペンサーは、所望の大きさの小滴を供給又は分注するために適した任意のデバイス又は機器が用いられる可能性がある。例としては、それだけに限らないが、圧電ピペッター、シリンジポンプピペッター、蠕動ポンプ、タッチオフ分注、インクジェット分注(シリンジ電磁分注を含む)、及びピントランスファー(総説として非特許文献7を参照)などが挙げられる。ディスペンサーを用いることによって、一実施形態では、小滴は注入口部材の小滴注入チャネルの注入開口部の上側で、非混和性溶媒と接触することなく非混和性溶媒の表面に配置される。別の実施形態では、例えば処理区画中の溶媒よりも小滴の液体密度が低い場合には、小滴は(非混和性溶媒と接触せずに)非混和性溶媒の表面上の任意の場所に分注され、その後、(静電場を含む)磁場又は電場を用いて小滴注入チャネルの注入開口部上に置かれる可能性もある。さらに別の実施形態では、小滴は接触分注を用いて、処理区画中の溶媒表面上に直接分注される。必要に応じて、分注された量は、例えば、特許文献4に開示されたようなカメラを用いて測定することもできる。
【0073】
上記に示されるように、一部の実施形態では、小滴注入チャネルへの液滴の分注は、処理区画への液滴の分注も含む。小滴は、側壁又は処理区画内に挿入されたデバイスを含む、処理区画内の任意の位置から分注してもよい。小滴注入チャネルの制限部の下に、例えば機械的な方法で、小滴注入チャネルに直接的又は間接的に分注してもよい。一部の実施形態では、小滴を分注するためにディスペンサーのノズルが処理区画内の非混和性の液体中の任意の場所に挿入される場合もある。小滴の密度が非混和性の液体よりも低い場合、形成された液滴が小滴注入チャネルの制限部の下に浮力によって上に向かって進むように、ノズルは例えば小滴注入チャネルの下に置かれる。一部の実施形態では、図4Fに描かれたように、例えばディスペンサーのノズルといった分注チューブが小滴注入チャネルを通じて直接挿入される。図4Fに見られるように、各分注チューブの流出口は、制限部よりも小さい断面を備えてもよい。このような実施形態において、例えば浮力を用いて、小滴注入チャネルを通過するために最大限利用可能な直径よりも大きい直径で、小滴が制限部の下に形成してもよい。分注チューブのさらに二つの具体例として、小滴は、ピペットチップ又は毛細管を用いて分注してもよい。ピペットチップ又は毛細管の開口部が処理区画内に到達するように、ピペットチップ又は毛細管は小滴注入チャネル内に挿入してもよい。溶媒中で小滴を形成するために、各ディスペンサーは小滴の液体を含み、例えばチップ末端などの流出口で滴を作る又は液切りするために設計又は適合される場合もある。ディスペンサーの流出口からの滴の液切れを容易にするために、ディスペンサー表面は、例
えばテフロン(登録商標)といったペルフルオロカーボン膜のような、疎水性及び/又は疎油性の被覆剤で被覆することもできる(上記も参照)。一部の実施形態では、液体のディスペンサーはチップ先端から滴を液切りするために、短時間激しく動かす場合もある。小滴を放つこのような方法は、個別に、又は組み合わせで利用してもよい。
【0074】
別の実施形態では、液体は小滴注入チャネル中に直接的に分注できる。これは、例えば陽圧などの機械的な力を発揮することによって実現される。具体例としては、液体の小滴は小滴注入チャネルの制限部の上側で小滴注入チャネル中に分注できる。圧力を用いた小滴の分注は、小滴が制限部を通過して処理区分に入ることを可能にするに十分な速度をもたらす力を液滴にかけることもできる。これらの実施形態において、各小滴の運動エネルギーは、溶媒の抵抗性及び制限部での小滴の変形の両方よりも大きい。小滴が制限部を通過し、処理区画に入る時点で、小滴は制限部に捉えられて処理区画内に留まる。
【0075】
一部の実施形態において、本方法は液滴を帯電させることも含む(図3Cを参照)。このような実施形態においては、液滴は一般的に、液滴と非混和性である処理区画内の溶媒に接触する前に帯電する。これらの実施形態の一つでは、液体は分注される前にノズルで帯電する。別の実施形態では、液滴は例えばディスペンサーのノズルからまず分注され、液滴が形成された後で例えばイオン化空気を用いて帯電させる。必要に応じて、例えば分注される前に、特定の液体を選択的に帯電させる場合もある。液体は、例えばSimco’s V− Block静電チャージャーといった市販のチャージャーを用いてコロナ荷電を用いて分注前であれ分注後であれ帯電させる場合もある。当然のことながら帯電させるには、チャージャーから正又は負いずれかの荷電イオンのみが一つの電極から放出される。多数の帯電装置が市販されており、必要に応じて興味ある変更を加えたディペンサーを用意すべく容易に適合させることができる。
【0076】
小滴が小滴注入チャネルの制限部の上側に分注される実施形態では、方法は一般的に、制限部を通じた小滴注入チャネル中への液滴の通過を可能にし、小滴を処理区画に移動させることも含む。一実施形態では、方法は静電場を含む電場への液滴の曝露を含み、小滴を小滴注入チャネルの制限部を通過させる。一般的に、この実施形態では液滴は通過前に帯電させる(上述)。別の実施形態においては、方法は磁場への液滴の曝露を含み、小滴を小滴注入チャネルの制限を通過させる。さらに別の実施形態では、方法は磁場及び電場両方への液滴の曝露を含み、小滴を小滴注入チャネルの制限部を通過させる。小滴が非混和性溶媒中でとる直径よりも制限部の直径が小さい場合には、小滴は制限部の下か上に捕捉される(上述)。別の実施形態においては、小滴は重力を用いて制限部を通過させる。一般的にこの実施形態では、小滴は処理区画内に含まれる溶媒よりも重い。さらに別の実施形態においては、液滴の制限部通過には、電場、静電場、磁場、及び重力の任意の組み合わせに小滴を曝すことも含まれる。一部の実施形態においては、処理は小滴に制限部を通過させて処理区画に入った時点でのみ行われる。一部の実施形態においては、小滴は制限部の通過を可能にされるかもしくは強制的に通過させられるか、及び/又は電場/磁場を用いて捕捉される。方法の一部の実施形態においては、小滴が小滴注入チャネルの制限部の上又は下に捕捉された後に、電場/磁場が停止される。必要に応じて、液滴は帯電後に中和されてもよい。これには、例えば液滴位置の制御能力を強化することが所望される可能性がある。放電は、例えばSimco’s V−Block静電チャージャーのような市販のデバイスを用いて行うことができる。放電するためには、正及び負の荷電イオン発生器が作動し、両方の符号の中和に十分な電荷を発生させる。中和目的のためには、十分な量の正及び負の荷電が対象物に供給されなければならない点に留意すべきである。荷電発生装置及びチップ装置の選択された設定によって、中和は局部的に、又はチップ装置全体にわたって生じる可能性がある。
【0077】
本発明の方法の一部の実施形態においては、電場/磁場への小滴の曝露は、小滴を反発
させることを含む。これらの実施形態の一部及び別の実施形態においては、電場/磁場への小滴の曝露は、小滴を誘引することも含む。電場を用いた小滴の誘引及び/又は反発は、例えば電極を用いることによって実現される可能性がある。一部の実施形態においては、各電極は例えばエレクトロチップの形で本発明のデバイスに含まれる(上述)(例えば図4B)。一部の実施形態においては、小滴は例えばイオン化空気を用いて、非混和性の液体に入る前に帯電する(例えば、図3Cを参照)。一部の実施形態においては、小滴は非混和性の溶媒に入る前に帯電する。
【0078】
磁場が利用される実施形態においては、小滴は磁性粒子を含んでもよい。このような場合、小滴が全体として小滴注入チャネルの制限部を通じて強制的に通過させられるように、磁場への小滴の曝露は磁性粒子に対して力を発揮する。小滴は、(静電場を含む)電場中の帯電した小滴と同様の方法で磁場によって誘引又は反発する可能性がある。一部の実施形態においては、小滴が非混和性溶媒に入る前に磁場が適用される。小滴注入チャネルの制限部の利用可能な直径より小滴の直径が大きい場合、小滴は強力な磁場を用いて制限部を強制的に通過させられる。磁場の除去状態では、小滴に対する浮力が小滴を変形させて小滴注入チャネルの制限部を通じて動かすのに十分に強くないために、小滴は制限部の上又は下に捕捉されたままになる。このような実施形態において使用される磁性粒子は、例えばタンパク質、ペプチド、核酸及びその他の化合物を吸収/吸着できるある種の物質に対する親和性を有する表面を備える場合もある。磁性粒子は、強磁性材料又は超磁性材料を含んでもよい。超磁性材料は永久磁化を引き起こすことなく、誘起磁場による磁場の影響を受ける。酸化鉄に基づく磁性粒子は、例えばダイナルバイオテック社(Dynal
Biotech)のDynabeads(登録商標)、ミルテニーバイオテク社(Miltenyi Biotec)の磁気MicroBeads、シーピージーインコーポレイテッド社(CPG Inc.)の多孔性磁性ビーズ、ならびにわずかながら名前を挙げると、ローチェアプライドサイエンス社(Roche Applied Science)、バイオクロ社(BIOCLON)、バイオソースインターナショナルインコーポレイテッド社(BioSource International Inc.)又はノバゲンインコーポレイテッド社(Novagen Inc社)といった様々なその他の供給源から市販され入手可能である。超磁性Co及びFeCo、ならびに強磁性Coナノ結晶に基づく磁性ナノ粒子が、例えばH・狽狽・雌凾ノ よって記載されている(非特許文献8)

【0079】
上述のように、一部の実施形態においては、本発明の装置は複数の注入開口部及び/又は制限部を提供する。一部の実施形態においては、装置は複数の小滴注入チャネルを含む。従って、それぞれの装置が本発明の方法において使用される可能性がある。本発明の方法のこのような実施形態は、複数の小滴注入チャネルへの複数の液滴の配置を含んでもよい。複数の液滴は、例えば、複数の小滴注入チャネルの下に、例えば上述のような機械的な方法で分注してもよい。単一のディスペンサーが例えば処理区画内の選択された場所で液滴を連続的に分注してもよく、また複数のディスペンサーが同時に使用してもよい。具体例としては、全て又は選択された液滴の集団が複数の小滴注入チャネルの制限部の下に位置するように、一つ又はそれ以上のディスペンサーの一つ又はそれ以上のノズルが、複数の小滴注入チャネルに複数の液滴を分注するために使用される場合もある。必要に応じて、液滴の配置は平行に行われてもよい。複数の液滴の各小滴は、例えば様々な由来の試料などの生物試料及び/又は化学試料を含む可能性もある。処理は、前記複数の液滴のうちの任意の数の試料に対して行われてもよい。一部の実施形態においては、様々な処理が様々な試料に対して行われ、一部の実施形態においては、同じ処理が様々な試料に対して行われる。これらの実施形態の一つにおいては、複数の処理を含む処理が複数の液滴において平行に行われるように、全ての試料が同時並行で処理される。
【0080】
本発明の方法の任意の部分は、手動もしくは自動的な方法で、又はそれらの組み合わせ
で行うこともできる。化合物、液体、及び試薬の自動分配は自動インキュベーター、及びプレートリーダーを含む高性能蛍光リーダーが、当技術分野において既に十分に確立されている。マルチウェルプレートなどの従来の実験機器との本発明の装置の適合性の例は、図2Dに説明されている。例えばマルチプレートリーダー、マルチプレートグリッパー、マルチプレート注入器、マルチプレート洗浄機、又はマルチプレートスタッカーといったこのような機器は、一般的に本発明の装置と共に使用される。具体例としては、市販の任意のハイスループットスクリーニング試薬分注ロボットが本発明の装置の小滴注入チャネルへの液滴の分注に使用される可能性がある。必要に応じて、特定の応用のために、このような機器の適合又は本発明の機器の適合のいずれかが当業者によって容易に行われる。
【0081】
本発明を容易に理解し実用的な効果を得るために、以下の例となる実施形態及び限定のない実施例により具体的な実施形態を説明する。
[発明の典型的な実施形態]
【0082】
本発明の装置及び方法の典型的な実施形態を添付された図面に示す。
図1Aは、小滴(1)中の試料を処理するための本発明による装置の実施形態を示す。本装置は底面(21)及び側壁である周縁壁(25)により画成される処理区画(20)を含む。注入口部材(4)は処理区画(20)の上部に位置する。注入口部材(4)は小滴注入チャネル(3)を含む。小滴注入チャネルは注入開口部(28)及び流出開口部(27)を有する。小滴注入チャネル(3)中には、さらに制限部(2)が含まれる。図1Bは、注入口部材(4)、ひいては小滴注入チャネル(3)の高さが注入チャネル(3)の直径、すなわち底面に対して平行な水平面における直径の数分の一である装置を示す。装置は溶媒(8)を収容している設定で示されている。小滴注入チャネル(3)は溶媒(8)に浸漬されている。図1Cは小滴注入チャネル(3)の外形の例を示す。小滴注入チャネルの内部が灰色で描かれている。図1Dはそれぞれが制限部(2)を含んでいる複数の小滴注入チャネル(3)を含む装置を示す。全ての小滴注入チャネル(3)は同一であり、かつ同一注入口部材(4)内に設置した。図1Eに描かれた本発明の装置の実施形態も、同一注入口部材(4)内に設置された複数の小滴注入チャネル(3)、制限部(2)を含む各小滴注入チャネルを提供する。小滴注入チャネル(3)は、様々な外形である。さらに、制限部(2)は溶媒(8)表面に対して様々な距離に置かれる。また装置は一つ以上の処理区画を含む(装置の左側を参照)。また装置は処理区画及び装置周囲との間の液体連通を提供する複数の上部注入口(14)を備えるカバー部材(26)を含み、カバー部材(26)へ小滴が配置される場合もある。
【0083】
図2は複数の制限部を提供するためにチップが使用される場合の本発明の装置の実施形態を示す。装置は、図2Aに断面図が、図2Bに上面図が示されているチップホルダーを含む。チップホルダーは容器(23)及び透明な底面領域としてカバースリップガラスである薄い透明プラスチックフィルム(6)を含む。容器の周縁壁(25)は、容器内部に伸びる注入口部材を支え、それによって注入部材を支持することができる段差を形成するように構成されている。図2Cは挿入されたチップ(4)及び溶媒(8)を含むチップホルダーを示す。図2Dは、96ウェルプレート(5)のサイズに一致するチップ(4)を選択することができることを説明する。また一方、本発明の装置の制限部(2)のサイズは一般的にマルチウェルプレートのウェルのサイズより数倍小さいことに留意しなければならない。当然のことながら別の実施形態においては、制限部(2)はここに描かれたものよりも小さい。いずれにせよ、本発明の装置で使用されるチップの小滴注入チャネルの注入開口部は、96ウェルプレートの壁のサイズに類似したサイズを有する。さらに、一部の実施形態においては本発明の装置の一部として、チップが従来のマルチウェルプレートのような底面を備えたウェルを持たず、(例えば、図1D,図3Aを参照)、装置の制限部のみを備えることに留意しなければならない。図2E,図2Fは、本発明の装置の処理区画を形成するために用いられる可能性がある各チップの更なる実施形態を示す。図を
見やすくするために、注入開口部のみで小滴注入チャネル(3)が示されている。図2Gは、どのようにチップ(4)をチップホルダーに挿入することができるかを説明する。チップ(4)の小滴注入チャネル(3)は、中央に位置する制限部(2)を有し、小滴注入チャネル(3)が砂時計形の外形を取る。
【0084】
図3Aは、本発明の装置の実施形態によって処理される場合の一連の試料を概略的に説明する。マルチウェルプレート又は反応チューブといった従来型のデバイスでは、使用される容器によって処理体積が決定されるが、本発明の装置では、個別の小滴(1)が所望の処理に曝される。従って、従来型のデバイスはおよそ10μl− およそ1000μl
の反応体積によく適しているが、さらに小さい体積には適していない。本発明の装置及び方法では、溶媒(8)に浸漬される小滴(1)は任意の体積であってよい。従って、処理体積は例えば使用されるディスペンサー、ならびに使用される液体及び小滴と非混和性である処理区分内の溶媒の性質によって決定される。方法及び装置は、具体的にはおよそ10− 500nlの体積によく適している。
【0085】
図3Bは、図3Aに示されるように、本発明の装置においてチップ(4)の小滴注入チャネル(3)上部への一連の試料の分注を説明する。この目的のために、ディスペンサー(9)の先端は、各小滴注入チャネル(3)上に配置されてもよい。
【0086】
図3Cは、制限部(2)を含む小滴注入チャネル(3)上に配置された典型的なディスペンサー(9)のノズルの拡大を示す。例えば、ノズルから小滴が配置されてすぐに、小滴の帯電にイオン化空気(「+」及び「− 」の電荷の記号で表される)を使用してもよ
い。その結果、小滴は本発明の装置の、制限部(2)を含む注入チャネル(3)に入る前に帯電する。さらなる例として、ノズル内の液体がノズルから放出される前に帯電されてもよい。分注中、ディスペンサーからの小滴は、注入チャネルに入った後もなお帯電したままである。
【0087】
図3Dは、典型的なディスペンサー(9)のさらなる実施形態のノズルの拡大を示す。ディスペンサーは、ノズルが小滴注入チャネル(3)の制限部(2)を通じて伸びることができるような方法で配置される。
【0088】
図4Aは、小滴注入チャネル(3)の制限部(2)を通って小滴(1)を非混和性溶媒(8)中に押し込み(左手側を参照)、制限部(2)の下に小滴を捕捉する、小滴の分注の図式を示す。図に見られるように、非混和性溶媒(8)中で小滴(1)がとる直径よりも制限部(2)の直径は小さい。小滴注入チャネル(3)はチップ(4)内に位置する。小滴(1)中に含まれる試料を解析するために光学的検出(14)が行われる。
【0089】
図4Bは、電場又は磁場を用いることによってチップ(4)の小滴注入チャネル(3)の制限部(2)を通って非混和性溶媒(8)中に小滴を押し込む典型的図式を示す(小滴が磁性材料を含む場合)。電場はエレクトロチップ(11)及び平坦電極(10)を用いることによって発生する。磁場の適用が必要に応じて、電極の代わりに磁石を用いてもよい。
【0090】
図4Cは、電場を用いてチップ(4)の小滴注入チャネル(3)の制限部(2)を通って非混和性溶媒(8)中に小滴を押し込むさらなる典型的図式を示す。電場は、外部電極(12)及び平坦電極(10)を用いることによって発生する。
【0091】
さらに図4Dは、電場を用いてチップ(4)の小滴注入チャネル(3)の制限部(2)を通って非混和性溶媒(8)中に小滴を押し込むさらなる典型的図式を示す。電場は、ディスペンサー先端(18)及び平坦電極(10)をワイヤーで巻くことにより発生する。
【0092】
図4Eは、電場を用いてチップ(4)の小滴注入チャネル(3)の制限部(2)を通って非混和性溶媒(8)中に小滴を押し込むさらなる典型的図式を示す。電場は、動かせるように適合された先が尖った電極(29)を用いることによって発生する。小滴注入チャネル上に浮く小滴上に先が尖った電極(29)を動かして配置した状態で、電場をもたらすために電極を活性化する。これは、チップ(4)の小滴注入チャネル(3)に入って小滴注入チャネル(3)の制限部を通過するよう、小滴を非混和性溶媒(8)中に押し込む。
【0093】
図4Fは、チップ(4)の小滴注入チャネル(3)の制限部(2)の下に小滴(1)を捕捉する典型的図式を示す。ディスペンサー(9)のノズルは、小滴注入チャネル(3)の制限部(2)を通って伸びる(図3Dも参照)。従って、小滴は制限部(2)の下の処理区画内の非混和性溶媒(8)中に分注される。
【0094】
図4Gは、本発明の方法の評価において行われた比較を説明する。およそ40− 10
0μlの体積で処理を行う従来型チューブ(「バルク」)及び本発明の装置の小滴(1)中で処理が行われた(次の図を参照)。従来型チューブでの処理のために、均一の試料を得るために、反応混合液をあらかじめ混合した。小滴中の液体ならびに従来型チューブは水であり、小滴中の液体と非混和性である溶媒はペルフルオロカーボン化合物の液体だった。本発明の装置の注入口部材は、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))プレート(12)だった。
【0095】
図4Hは、本発明の装置で行われる可能性がある、例えばカスパーゼ3蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)アッセイなどといったプロテアーゼアッセイの典型的処理を概略的に示す。近傍部分「A」は部分「D」の蛍光シグナルに対してクエンチング作用をもたらし、シグナルの散乱を抑制する。プロテアーゼによってペプチド結合が開裂すると、クエンチング部分「A」が部分「D」から遊離する。その結果として、部分「D」の蛍光シグナルが検出される。
【0096】
図5は、異なる二つの酵素濃度で界面活性剤の非存在下での、従来型チューブ内でのバルク条件(30μL、□)(図4Gを参照)及び小型化条件(60nL、●)におけるβセクレターゼアッセイの動態学的データを示す。酵素濃度は、0.34単位/mL(図5A)及び0.17単位/mL(図5B)だった。本発明の方法及び従来型バルクアッセイで、反応動態は試験された酵素濃度に関わらず同様だった。この結果は、他の方法で処理規模を縮小又は拡大する際に当技術分野で一般的に必要とされるような二次的な至適化実験を必要とせずに、当業者に用いられる標準的方法から本発明の方法及び装置による小型化反応体積へと容易に移行可能であることを明らかにする。
【0097】
図6は、界面活性剤の非存在下での、従来型チューブ内でのバルク条件(100μL、■)(図4Gを参照)及び小型化条件(60nL、●)で行った、カスパーゼアッセイの阻害アッセイを示す。酵素濃度は、0.1ng/mL(図6A)及び1ng/mL(図6B)だった。この場合もやはり、本発明の装置及び方法を用いて得たデータを従来型の実験機器を用いて得たデータに対して比較した。
【0098】
図7は、本発明の方法及び装置で用いられる可能性がある、生細胞を含む20nlの小滴の写真を示す。細胞の生存を示し、装置が生細胞を扱うのに適していることを検証するために、生死判別蛍光色素による標識を使用してもよい。細胞はフルオレセイン−メチレン−イミノ二酢酸(カルセイン)で染色する。この色素は生細胞の細胞膜を通過して、培養細胞の生存率を証明する。
【0099】
図8は、接着性MC3T3細胞を含む細胞培養液の液滴の写真を示す。小滴はさらに細胞付着のための三次元マトリックスを含む(BD ペプチドハイドロゲル)。小滴中の細胞は、分注の際に作られた小さな気泡と混在している。図に描かれているように、液滴はチップの小滴注入チャネル中の制限部の下に配置することもできる。
【0100】
図9は、本発明の方法及び装置を用いる出発培養細胞の実施形態の図式を示す(図4Fも参照)。図9Aは、チップ(4)の小滴注入チャネル(3)中の制限部(2)への、細胞付着のための三次元マトリックス(BD ペプチドハイドロゲル)を含む小滴(1)の捕捉を示す。小滴は制限部(2)の下の処理区画中に直接分注される。図9Bは、制限部(2)の下の処理区画中への、細胞を含む小滴(31)の捕捉を示す。図9Cは、小滴システムの自己組織化の性質のために二つの滴が融合し、細胞が三次元マトリックスと接触し、それに付着できるようになることを示す。描かれた実施形態において、処理区画中の溶媒と非混和性である液体の相(30)がさらに前記溶媒上に配置される。
【0101】
図10は、本発明の方法及び装置で使用される可能性がある接着マトリックスなしの細胞培養液を含む小滴中の、非接着性のThp−1細胞を示す。図10Aは、本発明の装置に捕捉される可能性がある、非接着性のThp−1細胞を含む9.5nlの小滴を示す。細い白いバーで示された直径は、289μmであると測定された。図10Bは、矢印で示された小滴内の細胞の拡大写真を示す。
実施例1:装置のチップ及びチップホルダー
本実施例は、本発明の装置のチップ及びチップホルダーの実施形態を説明する。前記実施形態では、ホルダーのポケットにチップが配置され、非混和性溶媒中に浸漬される。使用される小滴の液体及び非混和性溶媒によって、チップは例えばプラスチック、ガラス、シリコン、又はステンレス鋼といった有機担体、無機担体、又は金属担体で作られ、砂時計形の一連の小滴注入チャネルを有する。図2Fに描かれたモデルチップの大きさは、37.8mmx17.8mmであり、最大直径800μm及び制限部の直径300μmの19x10の配列の小滴注入チャネルを有する。小滴注入チャネルの外形は、図1Cの左上に描かれた最初の外形に相当する。小滴注入チャネルの直径がチップ全体にわたって異なる場合には、さらなるチップは円筒型の一連の小滴注入チャネルアレイを有する。それぞれの外形は、図1Cの上段の左から二つめに相当する。例えば、小滴注入チャネルの外径は700− 1200μmで、ネックの中央部の直径は300− 600μmである場合がある。大部分のチップはポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))で作られており、一方、別のチップは例えばポリスチレンといったプラスチックで作られ、プラズマ蒸着でペルフルオロカーボンシラン膜又はペルフルオロカーボン膜で覆われていた。シラン膜について、被覆は塩基性洗剤液中での超音波によるプレートの洗浄、及び脱イオン水による徹底的なすすぎの後に、ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロトリメトキシシランの蒸気への150℃2時間の曝露によって行われた。あるいは、チップはペルフルオロシラン及びテフロン(登録商標)AF膜で浸漬被覆した。あるいは、チップは、プラズマ蒸着によってペルフルオロカーボン膜又はヒドロペルフルオロカーボン膜で被覆した。材料自体が望ましい疎水性及び疎油性表面を提供することから、ポリテトラフルオロエチレンでできたチップは被覆の必要がない。
【0102】
処理区画は例えばプラスチック、ガラス、シリコン、陽極処理アルミニウム、又はステンレス鋼といった有機担体、無機担体、又は金属担体で作られたチップホルダーに含まれる。処理区画は、中央部にチップを収容することができるポケットを備える。ポケットの底面は、ペルフルオロカーボン膜で被覆されたカバースリップガラス又はヒドロフルオロカーボン膜もしくはペルフルオロカーボンで被覆された類似のプラスチックプレートを含む。いくつかの装置の薄いプレートはペルフルオロカーボンフィルムで全体的に被覆されており、一方その他は露出した部分が選択的に被覆される。処理されたカバースリップガラスは薄いプレートであり、チップホルダーの枠にのり付けされる。薄いプレート上のポ
ケットの周縁には、厚さ0− 500μmの段差がある。この段差は、ポケット内に置か
れるチップ及び薄いプレートとの間のスペーサーとして機能する。一部の実施形態においては、このようなスペーサーは不要であり、チップは底の薄いプレートの上に直接配置される。図2A,2Bに描かれたモデルチップホルダーの大きさは75mmx25mmであり、高さは5mmである。中央に、ホルダーはペルフルオロシランで被覆したカバースリップガラスでふたをした38mm x 18mmのポケットを有する。一部のチップは、チップ及びカバースリップガラスとの間のスペーサーとして、ポケットの底に0− 30
0μmの厚さの段差を有する。
【0103】
実施例2:液体の取り扱い
非混和性溶媒は、容器の半分をちょうど満たすようにチップホルダーの容器中に分注される液体であってもよい(実施例1参照)。非混和性液体は、ミネラルオイル、シリコーンオイル、又は適切な炭化水素もしくはペルフルオロカーボン界面活性剤を含むもしくは含まないペルフルオロカーボン液であってもよい。大部分の試験では0−10%ペルフルオロカーボン−エチレングリコール界面活性剤を含むペルフルオロカーボン液が用いられた。より具体的には、ペルフルオロカーボン液は3Mから入手可能なパーフルオロデカリン又はFluorinert(商標)であってもよい。ペルフルオロカーボン−エチレングリコール界面活性剤はCF(CF−(CH−(OCHCH−OHの構造をとる化合物であってもよく、mは3から100の整数であり、nは0から10の整数であり、kは1から200の整数である。一般的に用いられる化合物においては、mは7− 9の整数であり、nは1− 4の整数であり、kは1− 200の整数である(
具体的な「支援情報」として、上記の非特許文献3を参照)。ペルフルオロカーボン液の添加の際にはチップ中の気泡を防ぐためにチップはポケットにゆっくりと置かれ、反応区画が形成される。ペルフルオロカーボン液の体積は、チップの上部を覆うのにちょうど十分な量である。反応液は非接触型ディスペンサーによってペルフルオロカーボン液の薄い層で覆われた小滴注入チャネル内に分注される。ペルフルオロカーボン液及び水溶液の密度がそれぞれおよそ1.8〜1.9g/mL及び〜1g/mLであることから、分注された溶液は球状の小滴の形でペルフルオロカーボン液の上に浮く。
【0104】
分注された反応液の小滴は、砂時計形の小滴注入チャネルの低い部分に移動し、一つ一つ、あるいは全て一緒に保持される(図4A)。分注された小滴は、正又は負いずれかのイオンの流れを発生させ、小滴ならびに直ぐ近くの周囲のものを電荷するイオン化装置を用いて、さらにイオン化される。次に、イオン化装置及び/又はチップの近くに配置されたエレクトロチップによる電場の存在下で、小滴(又は分注された小滴群)は処理区画へと下に移動する。分注された小滴の大きさは、注入口部材の小滴注入チャネルの制限部の直径よりも大きい。小滴は、下向きの強い力で変形し、砂時計形の小滴注入チャネルの制限部を通過する。浮力は、小滴に小滴注入チャネルの制限部を通過させるには十分に強くないため、電場が存在しない場合でも、小滴は小滴注入チャネルの下の部分、すなわち制限部の下で処理区画内に留まる。ひとたび小滴が捕捉されると、大きさにかかわらず分注することによってその後の小滴を添加することができる。さらなる実施形態においては、小滴又は小滴群は、上部電極によってイオン化され上にはじかれて、チップの低い部分に移動する場合もある(図4B)。ひとたび小滴がチップの低い部分に移動し留まると、反対の電荷又は正もしくは負の両方の電荷のいずれかの流れによって小滴は中和される。
【0105】
同じ方法を用いる別の反応液の添加及び混合は単純で容易である。添加される溶液は、小滴注入チャネルに分注され、小滴注入チャネルの下半分に追いやられる。静電気引力及び物理的類似性によって、新しい小滴は既存の小滴と容易に融合する。新しい小滴がネックよりも大きい既存の小滴と融合するため、新しい小滴はネックよりも小さくてもよい。疎水性かつ疎油性のペルフルオロカーボン液中では、水の小滴は別々のままでいるようりも、むしろ互いに融合する。融合すると、融合の瞬間の液体の複雑な流体工学及び比較的
小さい小滴の大きさのために、溶液の混合が直ちに生じる。チップ内のペルフルオロカーボン液に浸漬した小滴は、一般的なインキュベーション期間の間は液体の蒸発がごくわずかであるために必要とされるだけ長くインキュベートすることができる。
【0106】
実施例3:小滴の取り扱いのための電場
静電場を含む電場は、ペルフルオロカーボン液中の小滴を制御する一般的な方法である。特定の必要性に応じて、数多くの方法で電極を設定してもよい。一つの設定においては、小滴注入チャネルのアレイと設置面積が同じエレクトロチップが試料チップ上に配置されて電極として利用される(図4C)。エレクトロチップは、例えばアルミニウムもしくはステンレス鋼といった金属、又は金属で被覆したガラスもしくはシリコンといった非金属で作られてもよい。別の平面スライドの電極がチップホルダーの底に配置される。電極に適用される電圧は、電極間の距離ならびに小滴及び小滴注入チャネルの大きさによって様々である。一般的に、(a)電極間の距離が長くなるにつれて、及び(b)小滴注入チャネルのネックの直径に対する小滴の大きさの比が大きくなるにつれて、より高い電圧が必要である。例えば、二つの電極が3mm離れ、小滴の大きさが400μm、小滴注入チャネルの制限部の直径が300μmである場合、3kVの電圧が必要である。
【0107】
もう一つの設定では、ペルフルオロカーボン液上の小滴を帯電させるために、高電圧イオン化装置が用いられる。小滴は静電反発力によってチップのより低い部分に下へと移動する。チップホルダーが平面接地電極上に配置され、高電圧イオン化装置がチップ上に設置される。小滴はイオン化装置からの正又は負いずれかの電荷によって帯電し、静電反発力によってイオン化装置から離れる。チップホルダーの下の接地電極の存在は、このような小滴の下向きの移動を助ける。ひとたび小滴が下に移動すると、正又は負の電荷の流れによって、分注された小滴を含めてチップ及びチップホルダーの全体のシステムが中和される(図4B)。
【0108】
別の設定では、一つの電極(平面スライド)がチップホルダーの底に配置され、別の電極(細い円形ワイヤー)が分注ノズルの先端の周りに配置される(図4D)。一方の電極が正又は負に帯電し、もう一方の電極が接地される。
【0109】
さらなる設定では、一つの先が尖った電極が分注ノズルの直ぐ近くに配置され、別の電極(平面スライド)がチップホルダーの底に配置される(図4E)。溶液の分注の際に、先が尖った電極は浮いている小滴と共に小滴注入チャネルの上に移動し、1秒未満の間留まり、小滴を小滴注入チャネルのもう一方の側に押し進める。一方の電極が正又は負に帯電し、もう一方の電極が接地される。使用される特定の電圧はまさにその設定次第で至適化される。
【0110】
さらに別の設定では、一つの平坦電極がチップホルダーの底に配置される。一連の分注が完了した後で、アレイ全体を覆うには十分大きい別の電極(平面スライド)が上から一連の液滴の近くに運ばれる。一方の電極が正又は負に帯電し、もう一方の電極が接地される。使用される電圧は、電極間の距離ならび小滴及び小滴注入チャネルの大きさによって至適化される。
【0111】
実施例4:光学的検出
大部分の生物学的応用には、小滴中で行われた処理を解析するために光学的検出が用いられる。チップホルダーを蛍光顕微鏡又は先端的な共焦点蛍光顕微鏡であるEvotec
Insightの適切な位置に置く。チップホルダーの底部の透明なカバースリップスライドを通して、各小滴注入チャネルに保持された小滴を下から観察することができる。
【0112】
実施例5:均一酵素アッセイ
二つのFRETに基づく簡易プロテアーゼアッセイ(図4Gの図式を参照)、カスパーゼ3アッセイ及びβセクレターゼアッセイがモデルとして選択された。ペルフルオロカーボン界面活性剤を含むペルフルオロカーボン液及び含まないペルフルオロカーボン液の接触面をこれらのアッセイで試験を行って、生体適合性を検討した。さらに、システム全体の詳細な計画及び機能性を、処理を実行しながら評価した。
【0113】
モデルチップ及びチップホルダーを用いる典型的方法において、カスパーゼ3又はβセクレターゼのいずれかの酵素溶液を40nLの小滴として穴の中のペルフルオロカーボン液状に分注する。40nLの小滴の直径は424μmであり、小滴注入チャネルのネックの直径(400μm)よりわずかに大きい。40nLの基質溶液の添加で、小滴は80nLになる(直径535μm)。様々な濃度の阻害剤は、ディスペンサーを適宜プログラムすることによって添加することもできる。一例では、10種類の濃度の阻害剤を200pLの一番小さい分注滴サイズで添加する。各阻害剤は200pLの体積で分注された小滴の数を変化させることで、緩衝溶液との混合液として以下の組み合わせで分注される。すなわち、阻害剤+緩衝液→10+0,9+1,8+2,7+3,...,1+9。
【0114】
各濃度の200pLの小滴10個で、各阻害剤溶液の体積は2nLになる。阻害剤を酵素溶液の小滴に添加する場合、緩衝液を最初に添加し、次いで対応する量の阻害剤溶液を添加する。この過程は、基質溶液の添加前に行う。インキュベーション後、必要であれば、蛍光顕微鏡による各小滴の測定前に停止液を添加する。
【0115】
実施例6:非接着細胞アッセイ
ヒト白血球細胞株Thp−1をモデルとして用いて、システムの詳細な計画、及び細胞にとってのインターフェースの生体適合性を試験した。
【0116】
インキュベーションの期間によって、Thp−1細胞株を用いる非接着性細胞アッセイは、実験室で容易に至適化することができる、若干変更した作業処理が必要である。一日以内に細胞アッセイを実施するためには、アッセイは上述の酵素アッセイと同様の方法で行うこともできる。細胞液、次いで必要であれば様々な濃度の阻害剤及び基質を分注する。培養のために、ペルフルオロカーボン液に浸漬したチップを脱イオン水又はPBS緩衝液などといった水溶液の層で覆う。チップ表面の疎水性の性質及びペルフルオロカーボン液の存在のために、水溶液は密度の違いにもかかわらずペルフルオロカーボン液の上に留まる。一番上の水層は、インキュベーター内での保存中にペルフルオロカーボン液に浸漬した小滴からの水の蒸発を防ぐのに役立つ。インキュベーションが数時間未満の場合、一番上の水層は不要である。アッセイの最後に、各小滴を光学的検出によって測定する。1日以上インキュベートした細胞アッセイについては、チップを完全に浸漬するための追加のペルフルオロカーボン液及びペルフルオロカーボン液の上の水層がチップに必要である。ペルフルオロカーボン上の水層は、蒸発を防ぐために、局部的に100%の相対湿度をもたらす。
【0117】
別の実施形態においては、細胞に基づくアッセイのための非混和性溶媒としては、シリコーンオイル及びミネラルオイルなどといったオイルを使用することもできる。一設定においては、医療用等級のシリコーンオイルを非混和性溶媒として用いた。シリコーンオイルの密度(0.96g/cm)が水(1g/cm)より低いため、水溶液小滴は自然に下に沈み、チップホルダーのカバースリップガラス上に配置される。
【0118】
結果と考察
小滴マイクロアレイシステムにおいては、水を含む小滴は非混和性の溶媒とのみ接触し、反応区画又は注入口部材の内部壁とは接触しない。水を含む小滴と接触する、注入口部材、チップ、及び使用されるチップホルダーの壁の全ての表面が、ペルフルオロカーボン
又は同様の表面張力の材料で被覆される。水を含む小滴は、ペルフルオロカーボン界面活性剤の存在にもかかわらず、ペルフルオロカーボンで被覆した固体表面全体をペルフルオロカーボン液で取り囲むのが好ましいようである。特にチップ内の水を含む小滴は、直接接触することによって小滴が固体表面上に吸着しないよう念をいれるため、小滴注入チャネルの特定の位置には決して固定されなかった。
【0119】
ペルフルオロカーボン液中の小型化アッセイの性質が同様の条件下で小滴マイクロアレイフォーマットで研究されてきた。模擬的な概念実証研究においては、ペルフルオロカーボン液中での小型化アッセイをバルクアッセイと比較した。カスパーゼ3又はβセクレターゼのいずれかの酵素液及び基質溶液がバルクで混合し、バルク溶液の一部をペルフルオロカーボン液に浸漬したポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))チューブの内部に置いた(図5,6)。大部分の試験では、ペルフルオロカーボン液中に置いたバルク溶液の体積は100nL未満だった。アッセイの収量時、共焦点顕微鏡によりバルク条件と小型化条件での各アッセイ溶液の蛍光シグナルの強さを測定した。二つのモデル酵素アッセイの動態アッセイ及び阻害アッセイの両方とも、バルク及び小型化条件でペルフルオロカーボン活性剤の存在又は非存在下において、同程度の成績を示した。図5は、バルク条件(30μL)及び小型化条件(<100nL)の二つの異なる酵素濃度でのペルフルオロカーボン活性剤の非存在下のβセクレターゼアッセイの動態を示す。縦軸は蛍光強度、横軸は時間(分)を示す。酵素濃度は、供給業者(インビトロゲン社による推奨の100%又は50%の濃度だった。図5は、バルクアッセイ及び小型化アッセイの動態は、試験を行った酵素濃度に関わらず同様だったことを明らかにしている。この結果は、アッセイの小型化に関連しては有害な影響がないことを示唆した。
【0120】
図6は、バルク条件(100μL)及び小型化条件(<100nL)下のペルフルオロカーボン活性剤の非存在下のカスパーゼの阻害アッセイを示す。縦軸は蛍光強度、横軸は阻害剤の量(nM)である。カスパーゼアッセイは、βセクレターゼ動態アッセイと同様の方法で行われた。全てのアッセイ溶液はバルクで調製し、バルク溶液の一部をペルフルオロカーボン液に浸漬したポリテトラフルオロエチレンチューブ中に置いた。1ng/mL及び0.1ng/mLの酵素濃度で、阻害特性及びIC50ポイントはバルク条件及び小型化条件について同様だった。この結果は、小型化はカスパーゼ3アッセイの成績に影響しなかったことを示唆した。
【0121】
酵素アッセイに対する接触面及び電場の影響を調査するため、さらなる研究が行われた。最初に、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))又はその他の材料の固体表面と直接接触させて小滴を置き、同時にペルフルオロカーボン液に浸漬することによって、接触面の影響を検討した。アッセイ結果は、ペルフルオロカーボン液のみに囲まれる場合と比較して酵素活性が10−70%減少したことを示した。固体表面との直接接触でのアッセイ成績の悪さは、接触面が小型化において強い影響を持つことを示唆した。別の組の実験では、小型化条件で行われたアッセイを培養前に強い電場及び/又は帯電及び放電に曝した(図4Fの図式を参照)。これらのアッセイは、電場及び/又は帯電及び放電なしで行ったアッセイと同様の成績を示した。全体としてこの概念実証研究からの結果は、ペルフルオロカーボン界面活性剤及び電場の存在にかかわらず、ペルフルオロカーボン液中での小型化酵素アッセイがバルクアッセイと同様に機能したことを示した。
【0122】
アッセイとの適合性を確認するために、酵素アッセイで小滴マイクロアレイシステムの試験を行った。例えば、上部で幅500μm、下側で幅1000μmの小滴注入チャネルのアレイを得るため、チップホルダー内にポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))チップのシステムを取りつけた。小滴を小滴注入チャネルの幅500μmの注入開口部上に分注し、幅1000μmの小滴注入チャネルの下部分に押し進めた。βセクレターゼアッセイについては、60nLの酵素溶液を、次いで60nLの基質溶液をポリテ
トラフルオロエチレンチップ上に分注した。それぞれの分注後、小滴のアレイを正の電荷に曝して、小滴及び帯電電極の間の静電反発力によって、ならびに小滴及び接地電極の間の静電気引力によって小滴をチップの下部分へと下に動かした。小滴がチップの下部分に保持された時に、小滴は次に正及び負の電荷の流れによって中和された。2.5時間のインキュベーション後、共焦点顕微鏡下での測定の前に、アッセイを停止するためにさらに60nLの停止液を添加し混合した。30μL及び120nLで行ったアッセイからの蛍光シグナルは同一であり、小滴の小型化は120nLの規模のアッセイの成績に影響しなかったことを示唆した。さらに、共焦点顕微鏡による小滴の3次元スキャンは、完全な球場の小滴がウェルの中心に位置していたことを示した。従って、小滴マイクロアレイプラットホームは、データ品質又は液体の取り扱いの柔軟性に妥協することなく、小型化アッセイに革新的なツールを提供した。
【0123】
細胞に基づくアッセイのための小滴マイクロアレイは、非混和性溶媒として医療用等級のシリコーンオイルを用いて行うこともできる。この設定において、1−100nLのThp−1細胞の小滴をシリコーンオイルに浸漬したポリテトラフルオロエチレンチップの各小滴注入チャネルに分注することもできる。細胞の生存率は、生細胞について緑色蛍光をもたらす色素を用いて確認することもできる(図7)。細胞小滴アッセイは、例えばレポーター遺伝子及び/又はレポータータンパク質をもつ遺伝子操作した細胞を分注することによって、薬剤試験用に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1A】小滴(1)中の試料処理のための本発明による装置の実施形態を示す上面図。
【図1B】小滴(1)中の試料処理のための本発明による装置の実施形態を示す上面図。
【図1C】本発明による装置の実施形態に含まれる小滴注入チャネルの制限部の側面図。
【図1D】小滴(1)中の試料処理のための本発明による装置の実施形態を示す上面図。
【図1E】小滴(1)中の試料処理のための本発明による装置の実施形態を示す上面図。
【図2A】複数個の制限部を提供するためにチップが用いられる場合の本発明の装置の一実施形態を示す側面図。
【図2B】複数個の制限部を提供するためにチップが用いられる場合の本発明の装置の一実施形態を示す上面図。
【図2C】複数個の制限部を提供するためにチップが用いられる場合の本発明の装置の一実施形態を示す側面図。
【図2D】複数個の制限部を提供するためにチップが用いられる場合の本発明の装置を示す斜視図。
【図2E】複数個の制限部を提供するためにチップが用いられる場合の本発明の装置を示す斜視図。
【図2F】複数個の制限部を提供するためにチップが用いられる場合の本発明の装置を示す回路図。
【図2G】複数個の制限部を提供するためにチップが用いられる場合の本発明の装置を示す分解斜視図。
【図3A】本発明の装置の実施形態で処理される、一連の小滴中の試料を概略的に示す図。
【図3B】本発明の装置の実施形態で処理される一連の小滴の分注の一例を概略的に示す斜視図。
【図3C】本発明の装置の実施形態で処理される、小滴を分注する前の典型的な分注器及びノズルの拡大図を示す概念図。
【図3D】本発明の装置の実施形態で処理される、小滴の分注中の状態を示す典型的な分注器及びノズルの拡大図。
【図4A】本発明の方法及び装置を用いてどのように小滴を適切な位置に配置し、捕捉することができるかを概略的に示す断面図。
【図4B】本発明の方法及び装置を用いてどのように小滴を適切な位置に配置し、捕捉することができるかを概略的に示す断面図。
【図4C】本発明の方法及び装置を用いてどのように小滴を適切な位置に配置し、捕捉することができるかを概略的に示す断面図。
【図4D】本発明の方法及び装置を用いてどのように小滴を適切な位置に配置し、捕捉することができるかを概略的に示す断面図。
【図4E】本発明の方法及び装置を用いてどのように小滴を適切な位置に配置し、捕捉することができるかを概略的に示す断面図。
【図4F】本発明の方法及び装置を用いてどのように小滴を適切な位置に配置し、捕捉することができるかを概略的に示す断面図。
【図4G】従来型チューブ(「バルク」)及び本発明の装置で小滴中で行われる処理を比較して示す断面図。
【図4H】本発明の装置において行われる可能性がある処理の概念図。
【図5A】従来型チューブ(□)及び本発明の装置を用いて(●)酵素濃度0.34単位/mLで行われたβ−セクレターゼアッセイの実験データを示すグラフ。
【図5B】従来型チューブ(□)及び本発明の装置を用いて(●)酵素濃度0.17単位/mLで行われたβ−セクレターゼアッセイの実験データを示す。
【図6A】従来型チューブ(■)(図4Gを参照)及び本発明の装置を用いて(●)酵素濃度0.1ng/mLで行われたカスパーゼアッセイの実験データを示すグラフ。
【図6B】従来型チューブ(■)(図4Gを参照)及び本発明の装置を用いて(●)酵素濃度1ng/mLで行われたカスパーゼアッセイの実験データを示すグラフ。
【図7】本発明の装置で用いられる可能性がある、生細胞を含む20nlの小滴の写真。
【図8】ノズルを用いて処理区画に分配することもできる、細胞培養液の小滴中のMC3T3細胞の写真。
【図9A】本発明の方法及びデバイスを用いてどのように接着細胞を培養することができるかを概略的に示す断面図。
【図9B】本発明の方法及びデバイスを用いてどのように接着細胞を培養することができるかを概略的に示す断面図。
【図9C】本発明の方法及びデバイスを用いてどのように接着細胞を培養することができるかを概略的に示す断面図。
【図10A】9.5nlの小滴中の非接着性Thp−1細胞を示す写真。
【図10B】より良好な観察のために拡大した写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴中の生物試料及び化学試料のうちの少なくとも一方の処理を行うための装置であって、
前記装置が処理区画、底面、及び少なくとも一つの周縁壁を備え、
前記処理区画が前記底面の少なくとも一部、前記少なくとも一つの周縁壁の少なくとも一部、及び注入口部材によって画成され、
前記注入口部材が前記処理区画の上部に位置し、
前記注入口部材が少なくとも一つの小滴注入チャネルを備え、
前記小滴注入チャネルが前記注入口部材を通じて伸びて、周囲への前記小滴注入チャネルの前記注入開口部及び前記処理区画への前記注入チャネルの前記流出開口部の間の制限部を備える装置。
【請求項2】
前記処理区画及び前記装置の周囲との間の液体連通を提供することが出来る上部注入口をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記小滴が前記少なくとも一つの小滴注入チャネルを自発的に通過することを防ぐために前記制限部が適合されている請求項1又は請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記処理区画が溶媒を収容するために適切である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記溶媒中で前記小滴がとる直径よりも前記制限部の前記直径が小さい、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記装置の前記底面に対して垂直な平面において前記少なくとも一つの小滴注入チャネルの外形が、砂時計形、凹んだ半円形、V字形、三角形、長方形、正方形、任意のオリゴ面体及びそれらの任意の組み合わせのみから成る群から選択された形状である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記周縁壁が真っ直ぐな壁である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置。
【請求項8】
前記真っ直ぐな壁が円筒形、馬蹄形、及び平面からのみ成る群から選択された形状である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
前記周縁壁が前記注入口部材を支持するために適切である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記周縁壁が前記処理区画の内部に伸びることによって前記注入口部材を支持できる段差を形成する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記注入口部材がプレート、レンガ状の塊、もしくはディスクのみから成る群から選択される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
前記注入口部材がプラスチック、ガラス、石英、シリコン、金属及びそれらの複合材料のみからなる群から選択された材料からなる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
前記注入口部材が前記装置から着脱自在である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
前記注入口部材が複数の小滴注入チャネルを備える、請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
電場を提供することが出来る電極をさらに備える、請求項1〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
前記底面が底面プレートを備える請求項1〜15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
前記底面が半透明領域を備える請求項1〜16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
前記半透明領域が少なくとも実質的に透明である請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記半透明領域がガラス及びプラスチックのみからなる群から選択される材料からなる、請求項17又は請求項18に記載の装置。
【請求項20】
前記材料の親和性が前記溶媒中で前記小滴に対して発揮することができる最大の力が浮力未満であるような前記小滴の前記液体に対して低親和性である材料を含む表面を前記処理区画の前記底面が備える請求項1〜19のいずれか1項に記載の装置。
【請求項21】
材料の親和性が前記溶媒中で前記小滴に対して発揮することができる最大の力が、重力及び浮力のみから成る群から選択された前記力未満であるような前記小滴の前記液体に対して低親和性である前記材料の含む表面を前記注入口部材が備える請求項1〜20のいずれか1項に記載の装置。
【請求項22】
前記表面が前記少なくとも一つの小滴注入チャネルの前記表面である請求項21に記載の装置。
【請求項23】
前記材料がフルオロエチレンプロピレン(FEP)、ポリテトラフルオロエチレン(PFTE)、エチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロメチルビニルエーテル(MFA)、又はペルフルオロアルコキシコポリマー(PFA)のみからなる群から選択される請求項20〜22のいずれか1項に記載の装置。
【請求項24】
液滴中の生物試料及び化学試料のうちの少なくとも一方の処理を行うための方法であって、
処理区画、底面、及び少なくとも一つの周縁壁を備え、前記処理区画が前記底面の少なくとも一部、前記少なくとも一つの周縁壁の少なくとも一部、及び注入口部材によって画成され、前記注入口部材が前記処理区画の上部に位置し、前記注入口部材が少なくとも一つの小滴注入チャネルを備え、前記小滴注入チャネルが前記注入口部材を通じて伸びて前記注入口部材の周囲への前記注入開口部及び前記処理区画への前記注入口部材の前記流出開口部の間の制限部を備える装置を設けるステップと、
前記液滴と非混和性である溶媒を提供するステップと、
前記制限部が前記溶媒に浸漬されるような前記装置の前記処理区画内に前記溶媒を配置するステップと、
前記少なくとも一つの液滴注入チャネルに備えられた前記制限部の下に配置されるように、前記液滴注入チャネル内に前記液滴を配置するステップと、
前記液滴中の前記生物試料及び/又は化学試料に対して処理を行うステップとを備える方法。
【請求項25】
前記装置が前記処理区画及び前記装置の周囲との間に液体連通を提供する上部注入口をさ
らに備える請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記装置の前記制限部が前記小滴が前記少なくとも一つの小滴注入チャネルを自発的に通過しないように防ぐ方法。
【請求項27】
方法であって、前記溶媒中で前記小滴がとる直径よりも前記制限部の直径が小さい請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記装置の前記底面に対して垂直な平面において前記少なくとも一つの小滴注入チャネルの外形が、砂時計形、凹んだ半円形、V字形、三角形、長方形、正方形、任意のオリゴ面体及びそれらの任意の組み合わせのみから成る群から選択された形状である請求項24〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記周縁壁が真っ直ぐな壁である請求項24〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記真っ直ぐな壁が円筒形、馬蹄形、及び平面からのみ成る群から選択された形状である請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記少なくとも一つの小滴注入チャネルの前記制限部上に前記小滴を分注するステップを含む、前記少なくとも一つの小滴注入チャネル内に前記小滴を配置する請求項24〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記液滴を前記制限部を通じて前記少なくとも一つの小滴注入チャネルに通過させることを可能にし、それによって前記小滴を前記処理区画への移動させるステップをさらに含む請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記液滴を前記制限部を通じて前記少なくとも一つの小滴注入チャネルに通過させることを可能にするステップが、前記液滴を電場、静電場、磁場、重力、及びそれらの任意の組み合わせのみからなる群から選択された力に曝露するステップを含む請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記液滴を押し込んで、前記液滴注入チャネルの前記制限部を通過させるように、前記液滴を電場又は静電場に曝露する前に前記液滴をイオン化するステップをさらに含む請求項33に記載の方法。
【請求項35】
方法であって、前記液滴を電場、静電場、又は磁場に曝露するステップが前記液滴を反発するステップ及び前記液滴を誘引するステップのうちの少なくとも一方からなる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記処理区画中の前記溶媒に接触する前に前記液滴がイオン化される請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記少なくとも一つの小滴注入チャネル内に前記液滴を配置するステップが前記処理区画内に小滴を分注するステップを備える、請求項24〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも一つの小滴注入チャネルの前記制限部の下に前記小滴が分注される請求項37に記載の方法。
【請求項39】
分注チューブを用いることによって前記小滴が分注され、前記分注チューブの流出口の断面が前記少なくとも一つの小滴注入チャネルの前記制限部よりも小さい請求項38に記載
の方法。
【請求項40】
前記分注チューブがピペットチップ又は毛細管である請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記装置を設けるステップが、
底面及び少なくとも一つの周縁壁を有する容器を備え、前記容器が注入口部材を収容することが出来るデバイスを設けるステップと、
前記注入口部材を設けるステップと、
前記注入口部材を容器内に配置し、その結果前記装置の前記処理区画を形成するステップとを備える、請求項24〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記容器に前記溶媒を最初に配置するステップ、及びその後に前記容器内に前記注入口部材を配置するステップをさらに備える、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記装置の前記注入口部材が複数の小滴注入チャネルを備える、請求項24〜42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記複数の小滴注入チャネル内に複数の液滴を分注するステップをさらに備える、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記複数の液滴において前記生物試料及び化学試料のうちの少なくとも一方に対する処理を平行して行うステップをさらに備える、請求項43又は請求項44に記載の方法。
【請求項46】
界面活性剤を提供するステップと、
前記溶媒と接触し、溶媒中に溶解することができるように、容器に界面活性剤を分注するステップと
をさらに備える、請求項24〜45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記界面活性剤が炭化水素化合物、ヒドロペルフルオロカーボン化合物、及びペルフルオロカーボン化合物のみから成る群から選択され、前記化合物がスルホン酸、スルホンアミド、カルボン酸、カルボキシレート、カルボン酸アミド、リン酸塩、及びヒドロキシル基のみから成る群から選択される疎水性部分をさらに含む請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記界面活性剤が化学式CF(CF−(CH−(OCHCH−OHを有し、式中、mが3から100の整数であり、nが0から10の整数であり、kが1から200の整数である請求項46に記載の方法。
【請求項49】
前記溶媒が液体である請求項24〜48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記液体がミネラルオイル、シリコーンオイル、炭化水素化合物、ヒドロペルフルオロカーボン化合物、及びペルフルオロカーボン化合物のみから成る群から選択される請求項49に記載の方法。
【請求項51】
前記小滴の前記液体よりも前記溶媒の密度が高い請求項24〜50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
前記液滴の前記液体が水である請求項24〜51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
前記装置の前記周縁壁が前記注入口部材を支持するために適切である、請求項24〜52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記周縁壁が前記処理区画の前記内部に伸び、それによって前記注入口部材を支持することができる段差を形成する請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記装置から前記注入口部材が取り外し可能である、請求項24〜54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記溶媒と非混和性であり、前記溶媒よりも密度が低い液体を提供するステップと、
前記装置の前記処理区画内に前記液体を配置するステップと
をさらに備える、請求項24〜55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記処理区画内の前記溶媒の前記表面を前記液体が覆う請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記溶媒がヒドロペルフルオロカーボン化合物又はペルフルオロカーボン化合物であって、前記液体が水である請求項56又は請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記試料が試料中に含まれる化合物の物理的検出、化学反応、細胞溶解、生物又は生物の一部からの分子の抽出、生物からの分子の放出、及びそれらの任意の組み合わせのみから成る群から選択される処理に曝される請求項24〜58のいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記物理的検出が分光法、光化学的手法、光度測定法、蛍光分析法、放射線法、又は熱力学的検出である請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記化学反応がタンパク質合成、核酸合成、ペプチド合成、酵素分解、結合分子との相互作用、及びそれらの任意の組み合わせのみから成る群から選択される請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記試料が乳汁、土壌、血液試料、血清試料、血漿試料、尿試料、精子試料、リンパ液試料、脳脊髄液、乳汁試料、羊水試料、生検試料、癌試料、腫瘍試料、組織試料、細胞試料、細胞溶解物試料、ウイルス培養試料、粗細胞溶解物試料、法医学試料、考古学試料、感染試料、院内感染試料、生産物試料、薬物製剤試料、生体分子産物試料、タンパク質調製試料、脂質調製試料、炭水化物調製試料、ヌクレオチド溶液、ポリヌクレオチド溶液、核酸溶液、ペプチド溶液、ポリペプチド溶液、アミノ酸溶液、タンパク質溶液、合成ポリマー溶液、生化学的組成溶液、有機化学組成溶液、無機化学組成溶液、脂質溶液、炭水化物溶液、コンビナトリアルケミストリー産物溶液、薬剤候補分子溶液、薬剤分子溶液、薬剤代謝物溶液、細胞懸濁液、ウイルス懸濁液、微生物懸濁液、及びそれらの任意の組み合わせのみから成る群から選択される請求項24〜61のいずれか1項に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図4G】
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【図4H】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【公表番号】特表2009−529670(P2009−529670A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558237(P2008−558237)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際出願番号】PCT/SG2006/000050
【国際公開番号】WO2007/102785
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(503231882)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (179)
【Fターム(参考)】