説明

少なくとも1個の共振器モード形状を有するMEMS共振器

本発明は、少なくとも1個のモード形状を有するMEMS共振器に関し、表面(12)および共振器構造(1)を有する基板(2)を備え、共振器構造(1)は基板(2)の一部であり、共振器構造(1)は第1クローズドトレンチ(3)および第2クローズドトレンチ(3)によって画定することを特徴とする。第1クローズドトレンチ(3)は第2クローズドトレンチ(3)の内側に位置し、基板(2)内にチューブ状構造(1)を形成し、また共振器構造(1)を表面(12)から表面に平行な方向にのみ離れるようにする。本発明は、さらに、MEMS共振器の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1個の共振器モード形状を有するMEMS共振器であって、表面を有する基板と、共振器構造を有するMEMS共振器に関する。また、本発明は、このようなMEMS共振器の製造方法に関する。さらに、本発明は、MEMS共振器を備えたMEMS発振器(オシレータ)に関する。本発明は、さらにまた、MEMS共振器を備えたMEMSフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
様々なMEMS共振器ジオメトリおよび製造プロセスが、発振器あるいはオシレータ(またはフィルタ)に用いられる嵩張った水晶振動子のとって代わるため、文献で報告されている。半導体プロセスの集積化は、サイズの大幅な縮小化および経費削減になる。
【0003】
MEMS共振器はポリシリコンまたは単結晶シリコンで形成する。単結晶シリコンは、ポリシリコンに比べて魅力的な材料である。それは、内部摩擦が小さく、したがって、機械的品質係数が高く、内部応力が小さく、種々の加工パラメータから独立しているためである。にもかかわらず、単結晶シリコンの微細加工はシリコン・オン・インシュレータ(SOI)のようなコストのかかる特定のシリコンウエハを必要とし、集積化を制限し、またはHARPSSプロセスやBOSCHプロセスなどの特別なプロセスの使用を制限し、それはMOS(金属酸化膜半導体)やパッシブ処理との適合性も制限することになり、結果として共振器の厚さに限界がある。
【0004】
異なるコンセプトを使用してMEMS共振器を製造することもできる。すなわち、薄い梁、ディスク、薄膜(代表的には、6ミクロ以下の厚さ)の屈曲モード、および比較的厚い梁、プレート、ディスク(代表的には18ミクロン以下の厚さ)のバルク音響モードである。屈曲モード共振器の大きな欠点は、10MHz以上の周波数で低質量のため低パワー処理である点である。このことは、とくに共振器がHARPSSプロセスまたはBOSCHプロセスを用いて形成されたときに当てはまる。なぜなら、幅の広い機械構造をアンダーカットすることは、側方寸法が限定されている場合に問題になるからである。伸張モードに基づくディスクは、パワー処理の点で見込みがある。
【0005】
特許文献1(米国特許第6,856,217号)は半径方向または側方方向に振動するディスク構造に基づき100MHzを大きく越える振動数で振動できるマイクロメカニカル共振装置を開示している。このディスクの中心は結節点であり、ディスク共振器を中心で支持するとき、基板に対するアンカー消散が最小限に抑えられ、この設計は高振動数で高いQ品質を保持できる。さらに、この設計は、高振動数で強剛性を維持し、そのためダイナミック・レンジを最大限まで高める。さらにまた、このディスク共振器の側壁表面積は、従来の屈曲モード共振器設計におけるよりも一層大きくなり、所定振動数で容量性(もしくは静電気)変換器を使用する場合、他のものより直列動抵抗が一層小さいディスク設計にすることができる。この共振器で実現しうる振動数やダイナミック・レンジによって、通信システムで広範囲な高いQ(高品質な)のRFフィルタリングおよび発振器の用途に適用できるようになる。そのサイズも、とくに携帯型、無線用途に適しており、多数使用される場合、この共振器は消費電力を大幅に抑えることができ、堅牢性を向上し、高性能無線トランシーバの用途範囲を広げることができる。しかし、特許文献1(米国特許第6,856,217号)は、単結晶シリコンMEMS共振器を開示していない。
【0006】
既知のMEMS共振器の欠点は、安価なバルク基板で製造した場合、10〜50MHzの範囲における振動数に適さないことにある。10〜50MHzにおける振動数を得るには、ディスク共振器の所要面積を極めて大きくする必要がある。MEMS振器を製造するHARPSSプロセスまたはBOSCHプロセスのようなプロセスは使用できない。HARPSSプロセスは非特許文献1で開示されている。
【特許文献1】米国特許第6,856,217号明細書
【非特許文献1】マイクロエレクトロメカニカル・システムズ・ジャーナル、2003年8月第12巻第4号、第487〜496頁におけるシアバッシュ・ポウルカマリ(Siavash Pourkamali)氏らの論文「High-Q Single Crystal Silicon HARPSS Capacitive Beam Resonators With Self-Aligned Sub-100-nm Transduction Gaps」,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、改良したMEMS共振器、およびこのようなMEMS共振器の改良した製造方法を得るにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は独立請求項で定義する。従属請求項は有利な実施形態を定義する。
【0009】
この目的を達成するため、本発明は、共振器構造を基板の一部とし、さらに、共振器構造を、第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチによって画定し、第1トレンチを第2トレンチの内側に配置して、基板の内側にチューブ状構造を形成し、共振器構造を表面に平行な方向にのみ基板から切り離す。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、MEMS共振器は、2個のクローズドトレンチで構成し、したがって、単純な構造になり、極めて安価な基板で製造できる。もはや共振器構造の下側に犠牲層は何ら必要なく(この犠牲層は、例えばシリコン・オン・インシュレータ基板の場合必要である)、このことは、MEMS共振器をバルク基板に製造することができることを意味する。必要なのは一方が内側、他方が外側にある2個のクローズドトレンチを形成するだけであり、この結果、チューブ状構造となることである。さらに、チューブ状構造は、ディスク構造よりも低い剛性であり、この結果、所定振動数に対してサイズを小さくできる。
【0011】
本発明によれば、MEMS共振器は他の利点がある。まず、チューブ状構造はより効率的に共振器の電気的性能を調節することができるようになることである。厚さ、長さおよび半径に依存する振動数を持つ梁状共振器やディスク状共振器とは反対に、チューブ振動数は、チューブの長さ、サイズ(外側トレンチの半径/幅)、または厚さ(外側トレンチと内側トレンチとの間における距離)を変化させることで調節できる。
【0012】
さらに、チューブを任意の所望の長さにできる。したがって、チューブの側壁面積は、SOIウエハに製造する同等のディスクよりも同一範囲またはそれより大きくなるよう設計できる。さらに、共振器の閉じた形状により、剛性をより一層高め、チューブの側壁面積は、SOIウエハに製造する、またはHARPSSプロセス/BOSCHプロセスを用いて製造する同等の梁状共振器の側壁面積よりも相当大きくなる。この結果、アクチュエータ(作用)電極も、また大きくすることができ、装置の動抵抗をより低くできる。
【0013】
発明によるMEMS共振器の製造方法は、多くの従来型製造プロセス、例えばPICSプロセスに適合できる。これに対して、特許文献1(米国特許第6,856,217号)は、MEMS共振器の可動素子を創製するために、基板上における層堆積ステップ、層パターン形成ステップ、選択除去ステップの組み合わよりなる複雑なMEMS共振器製造方法を開示している。しかし、このようなプロセスは、例えばPICSプロセスなど多くの従来加工プロセスに適合しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明によるMEMS共振器の有利な実施形態は、基板を単結晶シリコン基板としたことを特徴とする。単結晶シリコンは、ポリシリコンに比べより魅力的な材料であり、なぜなら、その内部摩擦が低くいことにより機械的高品質を実現でき、内部応力を減らし、さまざまな加工パラメータから独立させることができるからである。したがって、MEMS共振器の向上した性能が実現される。
【0015】
本発明によるMEMS共振器の他の実施形態は、第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチを円形形状にし、円形のチューブ状構造を形成したことを特徴とする。ディスクおよび円形チューブはMEMS共振器を取り扱う際、良好なパワー処理を発揮する。さらに、円形形状は、多くの加工プロセスで製造が容易になる。
【0016】
本発明によるMEMS共振器の上述した実施形態の改良として、第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチを、互いに同心状に配置して、表面平行なすべての半径方向に一定の厚さとなるようにチューブ状構造を形成する。この実施形態では、チューブにおけるすべての半径方向の厚みは一定であり、その結果この実施形態は基板のヤング率をすべての半径方向に同一である場合、狭帯域共振器(代表的にはオシレータ(発振器)に使われる)を形成するのに有利である。
【0017】
好適には、チューブ状構造の高さを第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチによって画定し、チューブ状構造の厚さよりも2倍大きいものとする。この実施形態では、共振振動数を、無線用途に必要とされる振動数例えば10〜50MHzの範囲内にすることができる。高さ−厚さ比が大きくなるにつれて共振振動数が小さくなる。このような共振振動数で共振するように既知のディスク状共振器を形成するのはあまり魅了的ではないことに留意しなくてはいけない。このようなディスク状共振器の面積は極めて大きくなるであろう。
【0018】
本発明によるMEMS共振器の他の実施形態は、第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチを非円形とし、表面に平行な半径方向厚さが変化するチューブ状構造を形成し、半径方向における基板材料のヤング率の差を補償するようにする。この実施形態では、表面に平行な半径方向の厚さを変化させることにより、これら半径方向における基板のヤング率の変動を補償することができる。代案として、このような変動は共振振動数帯域を生成するのに利用することができ、MEMSフィルタに使用することができる。
【0019】
本発明によるMEMS共振器の他の実施形態では、アクチュエータ電極をクローズドトレンチのうち一方の側壁に配置し、このアクチュエータ(作用)電極は、共振器を作動させるよう構成する。アクチュエータ電極はMEMS共振器のモード形状を作動させるのに有利に使用できる。この構造は、1ポート・マイクロメカニカル共振器として知られている。
【0020】
この実施形態の有利な改良例としては、アクチュエータ電極をクローズドトレンチの全長に沿って設ける。この実施形態では、振動モードはチューブが周辺全域で同調して伸縮する。このモード形状は、半径モード形状とも称される。
【0021】
MEMS共振器のいくつかの実施形態では、アクチュエータ電極は、さらに共振器の運動を感知するよう構成する。これらの実施形態は、個別の感知電極を必要としないので、面積節約に有利である。
【0022】
さらに他の実施形態において、感知電極をクローズドトレンチの他方の側壁に配置する。この構造は、2ポートマイクロメカニカル共振器として知られている。この実施形態は、バイアス電圧を共振器に直接加えることができるので、必要な複雑な電子的操作が減る。2ポート構造の他の利点は、電極−共振器キャパシタが入力から出力に接続していない点にある。この方法で、このキャパシタは入力が出力から良好に分離している。
【0023】
本発明は、さらに、MEMS共振器の製造方法に関する。本発明方法は、
・表面を有する基板準備するステップと、
・前記基板に第1クローズドトレンチを形成するステップと、
・前記基板に第2クトーズドトレンチを、前記第1クローズドトレンチを包囲するよう形成し、これにより、チューブ状構造を形成するステップと、
・前記基板にドーパント原子を注入して、前記共振器構造を導電性にし、また電極を形成するステップと、
・前記基板上および前記トレンチの側壁全体に誘電体層を形成するステップと、
・前記基板上および前記トレンチ内で導電層を設けるステップと、
・前記チューブ状構造の位置に前記誘電体層を局部的に露出させる開口を形成するよう前記導電層をパターン形成するステップであって、前記第1トレンチの内側における個別の内側電極および前記第2トレンチの内側における個別の外側電極を形成する該パターン形成ステップと、
・前記内側電極と前記チューブ状構造との間に第1空隙を形成し、また前記外側電極と前記チューブ状構造との間に第2ギャップを形成するよう前記開口から前記誘電体層を選択的にかつ部分的に除去するステップと
を有する。
【0024】
本発明による製造方法は、チューブ状構造を有するMEMS共振器を形成する都合のよい方法を提供する。
さらに本発明は、本発明MEMS共振器を有するMEMS発振器(オシレータ)に関する。そのMEMS発振器(オシレータ)の利点は、位相ノイズが低く、また低コストでサイズが小さいため、集積度が高めることができる点にある。
【0025】
さらに、本発明は、MEMS発振器(オシレータ)からなる積分回路にも関する。このような集積回路の利点は、オシレータが、高価な基板や経費のかかる付加的製造ステップを必要とせず、受動素子および/または能動素子の製造と同時に製造することができる。
【0026】
したがって、本発明によるMEMS共振器は、モノリシック集積MEMS発振器(オシレータ)に対して比較的単純に集積化することができる。
【0027】
本発明は、単独MEMS共振器を備えたMEMSフィルタに関する。このMEMSフィルタは、既知のMEMSフィルタほど複雑ではない。なぜなら、周波数帯域フィルタを形成する個別MEMS共振器の接続は不要になるからである。したがって、単独MEMSフィルタの使用によりコストを抑えられる。
【0028】
また、本発明は複数のMEMS共振器を備えたMEMSフィルタに関するものであり、MEMS共振器は電気的または機械的に結合できる。
【0029】
任意の付加的特徴も組み合わせ、また任意の態様と組み合わせることができる。他の利点は当業者には明らかであろう。本発明の特許請求の範囲から逸脱することなく、多くの変更や改変を行うことができる。したがって、本明細書は単に例示的なものであり、本発明を限定するものではない。
【0030】
本発明をどのように実施するかを添加図面につき、例示として説明する。
本発明は特定の実施例および図に関して説明しており、これに限定するものではなく、本発明は請求項にのみ限定される。請求項におけるどの参照符号も発明の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。図面の記載は単に図式的であり、これに限定するものではない。これら図面では、構成要素のサイズは、説明目的で誇張されており、縮尺通りに描いていない。本明細書および特許請求の範囲で使用する用語「有する/備える」は、他の構成用途やステップを除外しない。単数名詞、例えば「a」,「an」,「the」を用いるとき、不明確または明確な論が用いられる場所で、これは特別に明記しない限りこれら名詞の複数形をも含む。
【0031】
さらに明細書および特許請求の範囲における用語「第1」,「第2」,「第3」等は、酷似した構成要素相互を区別するためであり、必ずしも配列順や時系列順を説明するのではない。使用する用語は、適当な状況下で交換可能であり、また本明細書に記載する実施例は、本明細書に記載または説明するのと異なるシーケンス(順序)でも動作可能であることを理解されたい。
【実施例】
【0032】
図1a〜1eは、本発明によるMEMS製造方法の有利な実施例を示し、各図面は、それぞれ三つの異なる視点、すなわち水平断面図A−A、垂直断面図B−Bおよび平面図で見た、異なる各段階を示す。これら三つの図面で示した本発明方法は、大きな利点を有する。本発明方法は、極めて簡素化したMEMS共振器構造を提供するだけでなく、PICSプロセスと称される既知のプロセスに完全に適合可能である。MEMS共振器は、僅かなプロセス変更を伴って、例えば選択的に誘電体層を一部除去し、共振器と電極との間にギャップを形成することによって、PICSプロセスで製造することができる。。後述の非特許文献2に見られるように、PICSプロセスは技術者にとっては周知であり、例えば、F.ルーゼブーム(F. Rooseboom)氏らの、電気化学学会シンポジウム議事録第2005−8号、2005年6月2日付け、第16〜31頁における「More than ‘Moore’:toward Passive and System-in-Package integration」を参照されたい。
【0033】
本発明は、図1a〜1eに記載された製造方法の実施例に限定されないことに留意されたい。多くの変更例が可能である。
【0034】
図1aは、本発明による製造方法の実施例における一段階を示す。この段階では、共振器構造1を、頂面12を有する単結晶シリコン製の基板2によって垂直方向に画定する。このことは、エッチング加工した、互いに並置した2個のクトーズド(周方向に閉じた)トレンチ3によって得る。この特別な実施例では、トレンチはともに円形であり、互いに同心状に配置するが、他の形状および非同心状配置も可能である。基板は単結晶シリコン基板である必要はない。しかし、単結晶シリコン基板は、ポリシリコン基板よりも内部摩擦が小さく、機械的品質係数が高い。本発明の大きな利点であると見なされているのは、あらゆる種類の基板も用いることができる点である。極端に安価なバルク基板でさえ用いることができる。本明細書中、バルク基板とは、異なる材料層(例えば、酸化物層)を持たない基板、異なる材料の層(パターン形成したまたはパターン形成していない層)、異なる構造を有する層(例えば、エピ層)、または異なるドーピングを行った層(例えば、ウエル領域)、を有する基板として定義する。
【0035】
図1bは、本発明による製造方法の実施例における他の段階を示す。この段階では、シリコン基板2をドーピングし、共振器構造1に導電層4を形成し、この導電層4はMEMS共振器の電極を画定する。ドーピングは、(高濃度でドーピングした)n型導電層4を形成するよう選択することができる。ホウ素原子をこの目的で用いることができる。言うまでもなく、リンやヒ素のようなp型ドーパントも可能であり、これによりp型導電層4となる。
【0036】
図1cは、本発明による製造方法の実施例における他の段階を示す。この段階では、トレンチ3を、薄い誘電体膜5およびポリシリコン層6で埋める。この後、ポリシリコン層6をパターン形成し、駆動および感知電極8を画定する。これにより、下層の誘電体膜5が露出した円形開口7を形成する。誘電体膜5は、酸化ケイ素、窒化ケイ素、ポリアミド、および他のポリマーのような材料で構成することができる。さらに誘電体膜5は、異なる材料による積層とすることができ、例えば酸化ケイ素/窒化ケイ素/酸化ケイ素による積層スタックとすることができ、このスタックは完全にPICSプロセスに準拠する。ポリシリコン層6は、(n型であれp型であれ)ドーピングしたポリシリコン層である。このポリシリコン層は、ドーピングしたポリシリコン−ゲルマニウム層または金属層で代用することができる。
【0037】
図1dは、本発明による製造方法の実施例における他の段階を示す。この段階では、接点9を駆動および感知電極8上に形成する。さらに、導電層4に接点10を形成する。接点10を形成する前に、薄い誘電体膜5を局部的に除去することによって、接点10と導電層4との電気接触が可能になる。この接点は、異なる材料、例えばアルミニウム、タングステン、金、銅、高濃度ドーピングポリシリコン、ポリシリコン‐ゲルマニウムにより構成することができる。
【0038】
図1eは、本発明による製造方法の実施例における他の段階を示す。この段階は、(図には示されていない)マスクをその構造上に設け、少なくとも電極8の外側を取り囲む部分の薄い誘電体膜5を覆うようにパターン形成する。次に、ポリシリコン層6にある開口7を通して、薄い誘電体膜5の一部を選択的に除去する。この選択的除去は、チューブ状共振器構造1の各側面における薄い誘電体膜が少なくともトレンチ3の底まで除去される期間にわたって行う必要がある。したがって、この選択的除去中に、空隙(エアギャップ)11が、チューブ状共振器構造1の両側側面に形成され、その結果、構造は頂面12に平行な方向に離れる。最終的に、このマスクをこの段階の終了時に除去する。
【0039】
誘電体膜5をそれ以上除去するよう除去を若干長く行っても、問題ない。なぜなら、トレンチの底付近にある電極の一部が両側側面から離れるだけであるから。
【0040】
層の選択的な除去は技術者には良く知られた技術であり、例えば湿式エッチングを使用して行うことができる。しかし、他の技術でも可能である。
【0041】
図1a〜1eに示すMEMS共振器の製造方法は、本発明による製造方法の単に一つの実施例に過ぎない。図示のプロセスは、PICSプロセスに適合するが、多くの変更例も本発明の範囲内で可能である。(明らかにPICSプロセスにそれほど適合しないプロセスでも形成することができる)。例えば、トレンチ3は異なる形状、例えば楕円形、正方形、円形、三角形、長方形および他の形状にすることができる。トレンチ3の形状を変えることにより、共振器構造1は異なった形状になる。これら共振器構造1の異なる形状は、材料のヤング率(異なる方向における)の差を補償する、またはMEMS共振器をフィルタとして使用することができる周波数帯域を生ずるのに利用できる。このことは、PICSプロセスを変更しなくても可能である。
【0042】
この特別な実施例において、外側電極は入力電極/作用電極INであり、内側電極は出力電極/感知電極OUTである。第3電極は導電層4に接続しており、バイアス電極VBIASである。MEMS共振器の支持構造13(アンカーと称される)は、基板2に付いているチューブ状構造の底によって画定される。
【0043】
チューブ状MEMS共振器1の実行可能性は、シミュレーションによる計算およびモード解析によって検証された。モデルを製作し、シミュレーションした共振器は、底部が固定されたチューブ状の共振器構造1、共振器構造1の外側表面を囲む電極8、および共振器構造1の内側表面に面する他の電極9を有する。この特別な実施例では、チューブ状構造1の寸法は、以下のように選択した。すなわち、
・チューブ状構造の高さ=30μm
・チューブ状構造の厚さ=10μm
・チューブ状構造の平均的な半径=55μmそして、
・空隙の厚さ(各電極とチューブ状構造との間)=35μm
チューブ状構造1厚さは、図1aの表面12に平行なすべての半径方向寸法と定義する。言い換れば、表面12に平行な方向かつチューブ状構造に直交する方向である。
【0044】
チューブ状MEMS共振器は、以下のように動作する。外側電極INとチューブ状構造1の電極VBIAS間で電圧を加えるとき、半径方向力がチューブ状構造1の外側表面に生じ、これにより、チューブ状構造1をすべての半径方向に拡張しようとする。この結果、振動モードにすると、チューブ状構造の上方部分の伸縮を生ずる。他方の電極OUTは、共振器構造1の運動を感知するのに用いる。
【0045】
モード形状はチューブ状構造に平行な軸線方向の関数であることに留意されたい。共振器としてのチューブ状構造の底部、すなわちアンカー13とも称される部分の近傍では、伸縮量は最も小さく(アンカー13では0に近似する)、共振器としてのチューブ状構造1における頂面の近傍では伸縮量は最も大きい。実際、このチューブ状構造1のモード形状は、共振器構造の半径方向拡張(表面12に平行な平面における)と、屈曲屈曲との組み合わせと見なすことができる。この電極の場合、共振器構造を完全には包囲していない電極の場合、共振器構造の輪郭さえ変更できる。共振器の輪郭変更に関する詳細な情報は、マイクロエレクトロメカニカル・システム・ジャーナル、2004年12月第13巻第6号、第1043〜1053頁におけるジリ・ハオ氏らの論文「VHF Single-Crystal Elliptic Bulk-Mode Capacitive Disc Resonators---Part I」から得ることができる。
【0046】
共振器の実行可能性を実証するため、FEAソフトウェアツール「ANSYS」使用した。製作されたモデルは以下の表1における定数/パラメータに基づいている。
【表1】

表1:シミュレーションおよび計算に使用した定数/パラメータ
【0047】
平均的なチューブ半径はチューブ状構造の内側半径の平均(この例では50μm)と外側半径の平均(この例では60μm)との平均として定義する。
【0048】
モード解析は、考慮した寸法および振動モードに対する振動数を示し、26.5MHzである。図2aおよび2bは、振動しているチューブ状MEMS共振器のシミュレーション状態を示す。この図面では、電極を示していない。
【0049】
理論とANSYSシミュレーションは、チューブの高さまたは半径が大きくなるとき、MEMS共振器の共振振動数が減少するとともに、チューブの幅に伴って共振振動数が増大することを示す。したがって、共振は、寸法修正により調整することができる。しかし、高さは幅の少なくとも2,3倍にすることが重要である。
【0050】
このタイプのMEMS共振器に関して、パワー処理や動抵抗は推定できる。パワー処理 Pmax は次式で表される。
【数1】

ただし、ω,K,Xmax ,Qは、それぞれ角共振振動数、剛比、最大振幅、品質係数である。
【0051】
本公式を用いると、パワー処理は次のように推測される。剛比Kは静剛性と等しいと推測される。最大振幅Xmaxは10nm、品質係数Qは4000と確定する。これら数値をこの公式に代入すると最大パワー処理Pmaxは20μWになる。この数値は、これまで文献で見られた最良結果に匹敵するオーダーの振幅である。
【0052】
動抵抗Rは次の式で与えられる。
【数2】


ただし、mとηはそれぞれ相対質量、電気機械結合係数である。
【0053】
電気機械結合係数は次の式と等しい。すなわち、
【数3】

ただし、Vp,ε,ε,L,T,R,dは、それぞれ分極電圧、自由空間誘電率、比誘電率、チューブ高さ、チューブ厚さ、チューブ平均半径、空隙の厚さである。
【0054】
構造質量は次の公式であると推測される。
= ρ・2・π・R・T・L
ただし、ρ,L,T,Rは、それぞれ密度、チューブ高さ、チューブ厚さ、チューブ平均半径である。
【0055】
分極電圧Vは、1ボルトだと推測される。この数値を動抵抗R の公式に代入すると1.5kΩになる。この数値は、今までの文献で見られた最良結果に匹敵するオーダーの振幅である。
【0056】
当業者は、チューブ半径R、チューブ厚さT、さらにまたチューブ高さLを調整することにより、動抵抗Rおよびパワー処理Pmax を最適化することができる。
【0057】
図3aおよび3bは、2個の共振器を互いに機械的に結合する二種類の方法の平面図を示す。結合複合共振器は一般的にフィルタを作るのに用いられる。この場合、各共振器フィルタはそれぞれの振動数または振動数帯域をフィルタ処理するように設計する。図3aおよび3bにおいて、共振器構造のみを線図的に示す。図3aでは、第1共振器構造1と第2共振器構造1´は、互いに側方に隣接させて設け、機械的結合装置15により双方の共振器構造を結合する。図3aでは、共振器構造は同じ大きさに描かれているが、必ずしもそのようにする必要はない。実際に、第2共振器構造1´のすべてのパラメータを第1共振器構造1と異ならせ、第2共振器構造を異なる振動数で発振/フィルタ処理させることができる。図3bでは、第1共振器構造1および第2共振器構造1´は、一方を内側、他方を外側に配置し、機械的結合装置15により互いに結合する。
【0058】
機械的結合の代わりとして、多重共振器の電気的結合を行うことができる。機械的結合、電気的結合どちらも当業者には既知であり、例えば、第17回マイクロ・エレクトロメカニカル・システムズIEEE国際会議、2004年議事録第584〜587頁におけるシアバッシュ・ポウルカマリ(Siavash Pourkamali)氏らの論文「Elecrtostatically coupled micromechanical beam filters」、およびソリッド−ステート回路IEEEジャーナル、2000年4月第35巻第4号、第512〜526頁の論文「High-Q HF Microelectromechanical Filters」を参照されたい。
【0059】
図4aおよび4bは、発振しているチューブ状MEMS共振器の第2実施例のシミュレーション状態を示す。この実施例では、共振器は他の固有振動モードに相当するモード形状で動作する。例えば、このモード形状に関する共振器の検出感度は、電極(図示せず)が完全にはチューブ状構造を包囲しないよう電極を設計することによって倍化することができる。代わりに、電極を分割し、チューブ状構造の両脇に設ける。一方の方向(例えば図4aにおけるX−方向)にチューブ状構造は伸張し、他方の方向(例えばY−方向)にチューブ状構造は収縮させ、図4aに示す楕円モード形状となる。つぎに、このチューブ状構造は、一方の方向(図4bにおけるX−方向)に収縮し、他方の方向(例えばY−方向)に伸張し、図4bに示す逆楕円モード形状となる。
【0060】
図5aと5bは、発振しているチューブ状MEMS共振器の第3実例のシミュレーション状態を示す。この実施例では、共振器は、他の固有モードに対応するモード形状で動作する。このモード形状に関する共振器の検出感度は、電極(図示せず)がやはり完全にはチューブ状構造を包囲しないよう電極を設計することにより、倍加することができる。代わりに、3個の作用電極を、チューブ状構造の周りに等距離で分布させて設ける。一つの状態(図5a参照)では、チューブ状構造は電極が位置する方向に伸張しているが他の方向(これら電極間における方向)にはチューブ状構造が収縮している。他の状態(図5b参照)では、チューブ状構造の伸縮は完全に逆転している。
【0061】
このように、本発明は、文献で報告された最高の数値に匹敵する性能(パワー処理および動抵抗の点で)を有する魅力的なMEMS共振器を提供する。
【0062】
発明によるMEMS共振器のいくつかの実施例は、バルク基板で製造する場合、とくに10〜50MHzの範囲の振動数に適している。同時に、これら実施例は良好な性能(高パワー処理や低動摩擦)を維持する。
【0063】
さらに、本発明はこのようなMEMS共振器の製造方法を提供し、この製造方法はPICSプロセスのような既知のプロセスに適合し、容易に形成することができる。
【0064】
MEMS共振装置という用語を特許請求の範囲に使用しているが、本発明は、共振器や発振器のみに限定するものではない。この共振装置はMEMSフィルタ装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1a】本発明によるMEMS共振器製造方法における各段階を示す説明図である。
【図1b】本発明によるMEMS共振器製造方法における各段階を示す説明図である。
【図1c】本発明によるMEMS共振器製造方法における各段階を示す説明図である。
【図1d】本発明によるMEMS共振器製造方法における各段階を示す説明図である。
【図1e】本発明によるMEMS共振器製造方法における各段階を示す説明図である。
【図2a】チューブ状MEMS共振器の第1実施例における振動状態にあるシミュレーション段階を示す説明図である。
【図2b】チューブ状MEMS共振器の第1実施例における振動状態にあるシミュレーション段階を示す説明図である。
【図3a】分離MEMS共振器を互いに結合する方法を示す説明図である。
【図3b】分離MEMS共振器を互いに結合する方法を示す説明図である。
【図4a】チューブ状MEMS共振器の第2実施例における振動状態にあるシミュレーション段階を示す説明図である。
【図4b】振動中のチューブ状MEMS共振器の第2実施例における振動状態にあるシミュレーション段階を示す説明図である。
【図5a】振動中のチューブ状MEMS共振器の第3実施例におけるシミュレーション状態を示す説明図である。
【図5b】振動中のチューブ状MEMS共振器の第3実施例におけるシミュレーション状態を示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個のモード形状を有するMEMS共振器であって、表面を有する基板と、共振器構造を備えたMEMS共振器において、前記共振器構造を基板の一部とし、さらに、前記共振器構造を、第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチによって画定し、第1クローズドトレンチを第2クローズドトレンチの内側に配置して、基板の内側にチューブ状構造を形成し、共振器構造を表面(12)に平行な方向にのみ、基板から切り離したことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項2】
請求項1に記載のMEMS共振器において、前記第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチを円形形状にし、円形のチューブ状構造を形成したことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項3】
請求項2に記載のMEMS共振器において、前記第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチを、互いに同心状に配置して、表面平行なすべての半径方向に一定の厚さとなるようにチューブ状構造を形成した、ことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項4】
請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のMEMS共振器において、前記チューブ状構造の高さを前記第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチによって画定し、前記チューブ状構造の厚さよりも2倍大きいものとしたことを特徴するMEMS共振器。
【請求項5】
請求項1記載のMEMS共振器において、前記第1クローズドトレンチおよび第2クローズドトレンチを非円形とし、表面に平行な半径方向厚さが変化するチューブ状構造を形成し、半径方向における基板材料のヤング率の差を補償するようにしたことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項に記載の、アクチュエータ電極を前記クローズドトレンチのうち一方の側壁に配置し、このアクチュエータ電極は、共振器を作動させるよう構成したことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項7】
請求項6に記載のMEMS共振器において、前記アクチュエータ電極を前記クローズドトレンチの全長に沿って設けたことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項8】
請求項6または7に記載のMEMS共振器において、前記アクチュエータ電極は、さらに共振器の運動を感知するよう構成したことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項9】
請求項6または7に記載のMEMS共振器において、感知電極を前記クローズドトレンチの他方の側壁に配置したことを特徴とするMEMS共振器。
【請求項10】
次の方法からなる少なくとも1個のモード形状を有するMEMS共振器を製造する方法において、
・表面を有する基板準備するステップと、
・前記基板に第1クローズドトレンチを形成するステップと、
・前記基板に第2クトーズドトレンチを、前記第1クローズドトレンチを包囲するよう形成し、これにより、チューブ状構造を形成するステップと、
・前記基板にドーパント原子を注入して、前記共振器構造を導電性にし、また電極を形成するステップと、
・前記基板上および前記トレンチの側壁全体に誘電体層を形成するステップと、
・前記基板上および前記トレンチ内で導電層を設けるステップと、
・前記チューブ状構造の位置に前記誘電体層を局部的に露出させる開口を形成するよう前記導電層をパターン形成するステップであって、前記第1トレンチの内側における個別の内側電極および前記第2トレンチの内側における個別の外側電極を形成する該パターン形成ステップと、
・前記内側電極と前記チューブ状構造との間に第1空隙を形成し、また前記外側電極と前記チューブ状構造との間に第2ギャップを形成するよう前記開口から前記誘電体層を選択的にかつ部分的に除去するステップと
を有することを特徴とするMEMS共振器の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のうちいずれか一項記載の、MEMS共振器を備えたMEMS発振器。
【請求項12】
請求項1〜9のうちいずれか一項記載の、単独のMEMS共振器を備えたMEMSフィルタ。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図1d】
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【図1e】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5a】
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【図5b】
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【公表番号】特表2009−529820(P2009−529820A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557881(P2008−557881)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際出願番号】PCT/IB2007/050770
【国際公開番号】WO2007/102130
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(507219491)エヌエックスピー ビー ヴィ (657)
【Fターム(参考)】