説明

工作機械

【課題】主に難削材からなるワークの加工品質を高品位に安定化させることができると共に火災発生を抑制し、なお且つ、実用的で、ワークの加工形状が限定されず、しかも、ワークの回転数又は切削工具の回転数に対して切屑を細かく分断できる最適な振動で低周波振動切削を実行させることができる工作機械を提供することを目的としている。
【解決手段】ワーク加工用の切削工具4を保持し、その切削工具4をワーク2に対して送り動作させる切削工具送り機構7と、前記切削工具送り機構7の駆動源である切削工具送り駆動モータ7aを制御することで前記切削工具4を低周波振動させてなる制御装置8とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具又はワークを回転させてワークの切削加工を行う工作機械に関する。より詳しくは、切削工具及び/又はワークを低周波振動させてワークを切削加工する工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の工作機械として、ワークに対してバイト等の切削工具を相対的に一定の方向に進行させて上記ワークを切削加工する、いわゆる慣用切削加工を行う工作機械が知られている。また一方、切削工具の刃先に圧電素子を用いて超音波領域の振動を与えながらワークを切削加工する、いわゆる超音波振動切削加工を行う工作機械も知られている(例えば、特許文献1)。そしてさらには、特許文献2に記載のように、切削工具に加振機を取付ける工作機械も知られている。
【0003】
この特許文献2に記載の工作機械を、図13を参照して説明すれば、当該工作機械100は、第1案内路101を有し、この第1案内路101は、油圧シリンダ102のピストンロッド103と連結した刃物台104をワークWの軸心Oと直角の向きに移動させるように案内している。また工作機械100は、加振機105を有し、この加振機105はワークWの軸心Oと平行な送り方向の向きに振動を発生させる振動機構と、切削工具106を着脱自在に固定する装置とを有し、そしてさらに、送りシリンダ107のピストンロッド108と連結して上記刃物台104に固着された第2案内路109にて送り方向の向きに移動可能となっている。そして、このように構成される工作機械100を振動させることによって、軸心O周りに回転しているワークWの切削加工が行われるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−052101号公報
【特許文献2】特公昭49−17790号公報
【特許文献3】特開平6−285701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の工作機械には以下のような問題があった。すなわち、慣用切削加工を行う工作機械は、バイト等の切削工具を相対的に一定の方向に進行させて上記ワークを切削加工するのであるが、その際発生する切削熱や摩擦熱を効果的に冷却及び潤滑させることができず、それが原因で切削工具の刃先を著しく摩耗させてしまい、ワークの加工品質にばらつきを生じさせてしまうという問題があった。さらに、切削加工する際発生する切屑が上記切削工具に絡まり、それが原因で品質にばらつきが生じるばかりか火災が発生するという問題もあった。
【0006】
一方、超音波振動切削加工を行う工作機械は、難削材の切削加工を可能にするという利点があるものの加工時間が大幅に掛かるばかりか、非常に高価であり、さらには、圧電素子を用いているため切削工具を工作機械に取り付けるためのアダプターの役割を持つツーリングの設置箇所に制約が生じる等の問題があった。そのため、上記超音波振動切削加工を行う工作機械は、実用性に欠けるという問題があった。
【0007】
また一方、切削工具に加振機を取付けた工作機械は、難削材の切削加工を可能にするという利点があるものの、ワークの加工形状が限定されてしまうという問題があった。すなわち、工作機械100は、加振機105を取り付けているため、切削工具106を垂直方向と水平方向にしか移動させることができず、ワークを図13に示すワークWの加工形状にしようとすれば、ワークWの円弧部WRを切削加工する際、矢印P10の向きに工作機械100を回転させて切削加工しなければならない。しかしながら、実際のところ、工作機械100を矢印P10方向に回転させようとすれば、ワークWや、図13には図示していない他の機械に干渉してしまい、矢印P10方向に回転させることは物理的に不可能であった。それゆえ、切削工具に加振機を取付けた工作機械では、ワークの加工形状が限定されてしまうという問題があった。
【0008】
そこで、上記のような問題点を解決すべく、特許文献3に記載のようなNC旋削加工装置を用いて低周波振動切削をさせるように設計変更することも考えられる。すなわち、このNC旋削加工装置は、サーボモータによって、工具を所定距離だけ移動させて一旦停止させ、さらに所定距離だけリバースさせるという動作を繰り返すことによって、ある程度長い切屑に分断し、ワークを切削加工するというものである。そこで、この動作を応用し、工具の動作を停止させずに前進後退を繰り返し、上記工具を低周波振動切削させることも考えられる。
【0009】
しかしながら、周波数は、理論上、振幅とその補間速度によって決定するが、実際は、振幅やその補間速度と周波数の関係は工作機械の機械特性(例えばテーブル上の質量やモータ特性等)によって種々様々に変化し、比例関係のような一定の関係になっておらず、机上の計算では所望の振動(最適な周波数及び振幅)を作成することができないという問題があった。また、切屑を分断することを目的として、低周波振動切削を実行させようとすれば、ワークの回転数又は切削工具の回転数と低周波振動切削する際の周期とを同期させないように設定しなければならないが、そのような周期を計算で算出するのは非常に困難であった。
【0010】
以上のことより、ワークの回転数又は切削工具の回転数に対して切屑を細かく分断できるような最適な振動で低周波振動切削を実行させることは非常に困難であるという問題があった。
【0011】
そこで本発明は、上記問題点に鑑み、主に難削材からなるワークの加工品質を高品位に安定化させることができると共に火災発生を抑制し、なお且つ、実用的で、ワークの加工形状が限定されず、しかも、ワークの回転数又は切削工具の回転数に対して切屑を細かく分断できる最適な振動で低周波振動切削を実行させることができる工作機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記本発明の目的は、以下の手段によって達成される。なお、括弧内は、後述する実施形態の参照符号を付したものであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
請求項1に係る工作機械は、ワーク加工用の切削工具(4)を保持し、その切削工具(4)をワーク(2)に対して送り動作させる切削工具送り機構(7,34)と、前記切削工具送り機構(7,34)の駆動源である切削工具送り駆動モータ(7a)を制御することで前記切削工具(4)を低周波振動させてなる制御機構(制御装置8)とを有し、
前記制御機構(制御装置8)は、各種設定を行う操作手段(入力部81)と、該操作手段(入力部81)によって設定された前記ワーク(2)の回転数又は前記切削工具(4)の回転数と該ワーク(2)又は切削工具(4)1回転当たりの切削工具(4)の送り量に応じて前記切削工具(4)を低周波振動させるためのデータが予め格納されている振動切削情報格納手段(振動切削情報格納部83)と、該振動切削情報格納手段(振動切削情報格納部83)に格納されている当該データに基づいて前記切削工具送り駆動モータ(7a)を制御してなるモータ制御手段(モータ制御部84)とを有してなることを特徴としている。
【0014】
一方、請求項2に係る工作機械は、ワーク(2)を保持し、そのワーク(2)をワーク加工用の切削工具(4)に対して送り動作させるワーク送り機構(11)と、前記ワーク送り機構(11)の駆動源であるワーク送り駆動モータ(11a)を制御することで前記ワーク(2)を低周波振動させてなる制御機構(制御装置8)とを有し、
前記制御機構(制御装置8)は、各種設定を行う操作手段(入力部81)と、該操作手段(入力部81)によって設定された前記ワーク(2)の回転数又は前記切削工具(4)の回転数と該ワーク(2)又は切削工具(4)1回転当たりのワーク(2)の送り量に応じて前記ワーク(2)を低周波振動させるためのデータが予め格納されている振動切削情報格納手段(振動切削情報格納部83)と、該振動切削情報格納手段(振動切削情報格納部83)に格納されている当該データに基づいて前記ワーク送り駆動モータ(11a)を制御してなるモータ制御手段(モータ制御部84)とを有してなることを特徴としている。
【0015】
また、請求項3に係る工作機械は、ワーク加工用の切削工具(4)を保持し、その切削工具(4)をワーク(2)に対して送り動作させる切削工具送り機構(7,34)と、ワーク(2)を保持し、そのワーク(2)をワーク加工用の切削工具(4)に対して送り動作させるワーク送り機構(11)と、前記切削工具送り機構(7,34)の駆動源である切削工具送り駆動モータ(7a)及び前記ワーク送り機構(11)の駆動源であるワーク送り駆動モータ(11a)を夫々制御することで前記切削工具(4)及びワーク(2)を低周波振動させてなる制御機構(制御装置8)とを有し、
前記制御機構(制御装置8)は、各種設定を行う操作手段(入力部81)と、該操作手段(入力部81)によって設定された前記切削工具(4)の回転数又は前記ワーク(2)の回転数と該切削工具(4)又はワーク(2)1回転当たりの切削工具(4)及びワーク(2)の送り量に応じて前記切削工具(4)及びワーク(2)を低周波振動させるためのデータが予め格納されている振動切削情報格納手段(振動切削情報格納部83)と、該振動切削情報格納手段(振動切削情報格納部83)に格納されている当該データに基づいて前記切削工具送り駆動モータ(7a)及びワーク送り駆動モータ(11a)を夫々制御してなるモータ制御手段(モータ制御部84)とを有してなることを特徴としている。
【0016】
そして、請求項4に係る工作機械は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の工作機械において、前記切削工具送り駆動モータ(7a)、前記ワーク送り駆動モータ(11a)はリニアモータであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
次に、本発明の効果について、図面の参照符号を付して説明する。まず、請求項1の発明にかかる工作機械では、ワーク2を切削加工する切削工具4の送り動作を行う切削工具送り機構7の駆動源である切削工具送り駆動モータ7aを制御機構(制御装置8)によって、上記切削工具4を低周波振動させるように制御する。これにより、ワーク2と切削工具4内に生じる空間K(図1参照)にキャビテーションが発生し、そこに切削加工を行う際使用されるクーラント等が吸い込まれるため、ワーク2を加工する際発生する切削熱や摩擦熱を効果的に冷却及び潤滑させることができる。そのため、本発明によればワークの加工品質を安定させることができる。
【0018】
また、本発明によれば、切削工具4は低周波振動しながらワーク2を切削加工するため、低周波振動によってワーク2の切屑が粉状となり、切削工具に切屑が絡まりにくくなる。それゆえ、品質が安定し、さらには、火災の発生を抑制することができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、切削工具4を低周波振動させるにあたって、制御機構(制御装置8)を用いて切削工具送り駆動モータ7aを制御しているだけであるから、簡便な構造であるため実用的であり、なお且つ、ワークの加工形状が限定されないという効果を奏する。
【0020】
そして、本発明によれば、振動切削情報格納手段(振動切削情報格納部83)に、ワーク2の回転数又は切削工具4の回転数と該ワーク2又は切削工具4の1回転当たりの切削工具4の送り量に応じて切削工具4を低周波数振動させるためのデータが予め格納されているから、切屑を細かく分断できる最適な振動で低周波振動切削を実行させることができる。
【0021】
一方、請求項2及び3の発明にかかる工作機械では、請求項1の発明にかかる工作機械と相違する点は、低周波振動させる対象が異なる(請求項2にかかる工作機械では低周波振動の対象がワーク2であって、請求項3にかかる工作機械ではワーク2及び切削工具4である)だけであるから、請求項1と同様の効果を奏する。
【0022】
他方、請求項4の発明によれば、上記切削工具送り駆動モータ7a、ワーク送り駆動モータ11aとしてリニアモータを用いているから、切削工具4に対してワーク2を送り動作させる際、又は、ワーク2に対して切削工具4を送り動作させる際、バックラッシュによる振動吸収がないため、切削工具4に対してワーク2を安定して送ることができ、さらに、ワーク2に対して切削工具4を安定して送ることができる。
【0023】
なお、本明細書における低周波とは、0Hzより大きく1000Hz以下の範囲をいうものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る工作機械の概略構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態の制御装置のブロック図である。
【図3】同実施形態の振動切削情報格納部に格納されているテーブル図である。
【図4】同実施形態に係る切削工具をA点からB点まで直線補間等によって移動させる場合を示した説明図である。
【図5】同実施形態に係る工作機械の一使用例を示すフローチャート図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る工作機械の概略構成を示すブロック図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る工作機械の概略構成を示すブロック図である。
【図8】同実施形態に係る工作機械の動作を説明するための説明図である。
【図9】本発明の第4実施形態に係る工作機械の概略構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第5実施形態に係る工作機械の概略構成を示すブロック図である。
【図11】実施例1の工作機械を用いてワークを低周波振動切削加工した際の加工品を示す写真である。
【図12】実施例2又は比較例1の工作機械を用いてワークを切削加工した際の加工品を示す図である。
【図13】従来の工作機械の概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る第1実施形態について、図1〜図5を参照して具体的に説明する。
【0026】
本実施形態に係る工作機械1は、CNC旋盤からなるもので、図1に示すように、被加工物であるワーク2を回転自在に支持する回転機構3と、ベース6上に設けられ、なお且つ、上記ワーク2を切削加工する切削工具(図示ではバイト)4を保持する切削工具台5が載置されてなる切削工具送り機構7と、その切削工具送り機構7の動作を、サーボアンプ9を介して制御する制御装置8とを備えている。なお、図1では、Z軸上の切削工具送り機構7しか図示していないが、直交するX軸上の切削工具送り機構も有している。
【0027】
上記回転機構3は、スピンドルモータ3aを有し、そのスピンドルモータ3aの主軸3bにはチャック機構3cが回転可能に取り付けられている。そして、そのチャック機構3cには被加工物であるワーク2が掴時されており、この掴持されたワーク2は、スピンドルモータ3aの回転駆動により回転軸R周りで回転駆動するようになっている。
【0028】
一方、上記切削工具送り機構7は、ワーク2に対して進退自在(矢印P1参照)に切削工具4の送り動作をさせる駆動源であるリニアサーボモータからなる切削工具送り駆動モータ7aを有している。この切削工具送り駆動モータ7aは、可動子7a1と固定子7a2とで構成されており、この可動子7a1は、磁性体の構造物に励磁コイルが巻回されて構成され、固定子7a2は、多数のマグネットが長手方向に列設されて構成されている。
【0029】
そしてこの可動子7a1は、上記切削工具台5が載置されているテーブル7bの下部に設けられ、固定子7a2は、上記ベース6上に設けられているガイドレール7cの上部に設けられている。また、上記テーブル7bの下部には、そのテーブル7bが上記ガイドレール7cに沿うように移動するのを案内する一対のガイド7dが設けられている。
【0030】
このように構成される切削工具送り機構7をワーク2に対して進退自在(矢印P1参照)に移動させるには、まず、サーボアンプ9が、制御装置8より送出される指令に基づく電流を可動子7a1に送出する。これにより、可動子7a1と固定子7b1の夫々の磁極が吸引・反発を行うため、前後方向(矢印P1参照)の推力が発生し、その推力に伴ってテーブル7bが前後方向(矢印P1参照)に移動することとなる。そして、その推力に伴うテーブル7bの移動にあたっては、一対のガイド7dが設けられているから、その一対のガイド7dによって、テーブル7bは、ガイドレール7cに沿うように移動することとなる。それゆえ、切削工具送り機構7をワーク2に対して進退自在(矢印P1参照)に移動させることができる。なお本実施形態においては、切削工具送り駆動モータ7aとして、リニアサーボモータを用いたが、それに限らずどのようなリニアモータを用いても良い。また、リニアモータに限らず、サーボモータを用いても良いが、サーボモータを用いる際、ボールネジを用いることとなる。そのため、切削工具送り機構7の進退動作を行っている際、バックラッシュが発生してしまうと、振動が吸収されてしまうため、ボールネジ等を必要としないダイレクト制御が可能なリニアモータを用いた方が好ましい。
【0031】
ここで、制御装置8について図2及び図3を用いてより詳しく説明する。制御装置8は、図2に示すように、CPU等からなる中央制御部80と、タッチパネル等からなる入力部81と、その入力部81を用いて使用者がプログラムしたプログラム情報を格納するプログラム情報格納部82と、切削工具4を低周波振動させるためのデータが格納されている振動切削情報格納部83と、サーボアンプ9を介して切削工具送り駆動モータ7aの動作を制御するモータ制御部84と、液晶モニタ等からなる表示部85とで構成されている。
【0032】
振動切削情報格納部83は、図3に示す振動切削情報テーブルVC_TBLが格納されている。すなわち、振動切削情報テーブルVC_TBLには、プログラム設定値(ワーク2の回転数(rpm),ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量(mm))に対応したデータ(切削工具送り機構7の前進量(mm),切削工具送り機構7の後退量(mm),切削工具送り機構7の前進速度(mm/min),切削工具送り機構7の後退速度(mm/min),切削工具4の振動周波数(Hz))が格納されている。より具体的に説明すると、使用者が入力部81を用いて、例えば、ワーク2の回転数を1000(rpm)とプログラムした場合、そのワーク2の回転数1000(rpm)に適切なワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量として、0.005(mm),0.01(mm),0.015(mm)の3種類の送り量を設定できるようになっている。そして、振動切削情報テーブルVC_TBLには、これら送り量(0.005(mm),0.01(mm),0.015(mm))に対応した切削工具送り機構7の前進量(0.035(mm),0.04(mm),0.045(mm))、切削工具送り機構7の後退量(0.03(mm),0.03(mm),0.03(mm))、切削工具送り機構7の前進速度(290(mm/min),300(mm/min),350(mm/min))、切削工具送り機構7の後退速度(290(mm/min),300(mm/min),350(mm/min))、切削工具4の振動周波数(25(Hz),25(Hz),25(Hz))が格納されている。このように、振動切削情報テーブルVC_TBLには、使用者が入力部81を用いてプログラムした回転数(rpm)及びその1回転当たりの送り量(mm)に対応した切削工具送り機構7の前進量(mm),切削工具送り機構7の後退量(mm),切削工具送り機構7の前進速度(mm/min),切削工具送り機構7の後退速度(mm/min),切削工具4の振動周波数(Hz)が格納されている。
【0033】
これにより、例えば、使用者が入力部81を用いてワーク2の回転数を1000(rpm)、当該ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量を0.005(mm)にプログラムしたとすると、切削工具送り機構7の前進量0.035(mm),切削工具送り機構7の後退量0.03(mm),切削工具送り機構7の前進速度290(mm/min),切削工具送り機構7の後退速度290(mm/min)が選定され、この選定されたデータに基づいてモータ制御部84がサーボアンプ9を介して切削工具送り駆動モータ7aの動作を制御するため、切削工具4が低周波振動することとなる。なお、振動切削情報テーブルVC_TBLに格納されている切削工具4の振動周波数25(Hz)は、表示部85に表示されるもので、切削工具4の低周波振動には何ら関与していない。そのため、振動切削情報テーブルVC_TBLには、切削工具4の振動周波数を格納しなくても良いが、使用者がプログラムしたワーク2の回転数(rpm)、当該ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量(mm)に対応する切削工具4の振動周波数(Hz)を簡単容易に確認できるため、切削工具4の振動周波数を格納するのが好ましい。
【0034】
なお、このように、本実施形態において説示した振動切削情報テーブルVC_TBLに格納されている値はあくまで例示であり、工作機械の機械特性に応じた種々様々な値を予め格納することができる。
【0035】
ところで、この工作機械の機械特性に応じた値は、当該工作機械を予め動作実験することにより、その実験したデータを収集し決定されるものである。
【0036】
次に、本実施形態に係る工作機械1の一使用例として、切削工具4を、図4に示すA点(u0,w0)からB点(U,W)まで移動させる方法について図5を用いて説明する。なおここで、A点とは切削工具4の現在位置を示すものである。
【0037】
まず、使用者は入力部81を用いて、NC言語を用いたプログラムを作成する。具体的には、ワーク2の回転数を入力し、通常の切削(慣用切削)から低周波振動切削を行う場合の振動切削指令コードの入力を行う。なお、当然のことながら、低周波振動切削を行わない場合は、振動切削指令コードの入力は行われない。
【0038】
さらに、使用者は、入力部81を用いて、切削工具4の移動地点であるB点(U,W)の入力をし、そして、そのB点までの移動に際して、直補補間しながら切削工具4を移動させるのか、又は、時計方向に円弧補間しながら切削工具4を移動させるのか、あるいは、反時計方向に円弧補間しながら切削工具4を移動させるのかの補間方法の入力と、円弧補間するのであれば半径の入力と、ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量の入力を、NC言語を用いてプログラム作成する。このプログラムを具体的に示せば、例えば、次のように記述することができる。
【0039】
<NCプログラム>
S1000(ワーク2の回転数);
M123(振動切削ONコード);
G1(直線補間) XU ZW(移動地点までの座標値)
F0.01(ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量);
又は
G2(円弧補間(時計方向)) XU ZW(移動地点までの座標値)
R10.0(円弧半径)
F0.01(ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量);
又は
G3(円弧補間(反時計方向)) XU ZW(移動地点までの座標値)
R10.0(円弧半径)
F0.01(ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量);
M456(振動切削OFFコード);
【0040】
上記NCプログラムは、まず、「S1000」と記述することで、ワーク2の回転数を1000(rpm)とプログラム設定している。そして、「M123」と記述することで、振動切削をONに設定し、切削工具4をB点まで直線補間させるのであれば、「G1 XU ZW」と記述し、さらに「F0.01」と記述することで、ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量を0.01(mm)にプログラム設定している。
【0041】
一方、切削工具4をB点まで円弧補間(時計方向)させるのであれば、「G2 XU ZW」と記述し、そして、「R10.0」記述することで、円弧補間する際の円弧半径を10.0(mm)にプログラム設定し、さらに、「F0.01」と記述することで、ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量を0.01(mm)にプログラム設定している。
【0042】
他方、切削工具4をB点まで円弧補間(反時計方向)させるのであれば、「G3 XU ZW」と記述し、そして、「R10.0」記述することで、円弧補間する際の円弧半径を10.0(mm)にプログラム設定し、さらに、「F0.01」と記述することで、ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量を0.01(mm)にプログラム設定している。
【0043】
そして、このようなプログラムを記述した後、「M456」と記述することで、振動切削をOFFに設定する。なお、振動切削させず、通常の切削(慣用切削)をさせる場合は、「M123」「M456」の振動切削指令コードを記述しなければ良い。
【0044】
かくして、上記のようなプログラムが作成されると、中央制御部80は、その作成したプログラムをプログラム情報格納部82に格納する(ステップS1)。なお、上記NCプログラムにおける「M123」「M456」は、あくまで例示であり、任意のコードに変更可能である。
【0045】
上記プログラム作成後、使用者は入力部81を用いて上記作成したプログラムの実行指令を行う(ステップS2)。これにより、中央制御部80は、プログラム情報格納部82に格納されているプログラムを読み出し、切削モードの確認を行う(ステップS3)。
【0046】
切削モードが、通常の切削(慣用切削)を行うモード(「M123」の振動切削指令コードがプログラムされていない)であれば(ステップS3:NO)、中央制御部80は、上記プログラムされた切削工具4の移動地点であるB点(U,W)までの補間方法に基づいた補間軌道の演算処理を行い、その演算結果をモータ制御部84に出力する。そして、その情報を受け取ったモータ制御部84は、その情報に基づき切削工具4をA点(u0,w0)からB点(U,W)まで、サーボアンプ9を介して切削工具送り駆動モータ7aを制御することで、上記補間軌道に沿って移動させる(ステップS4)。その後、中央制御部80は、その情報処理を終了する。
【0047】
一方、切削モードが、低周波振動切削を行うモード(「M123」の振動切削指令コードがプログラムされている)であれば(ステップS3:YES)、中央制御部80は、振動切削情報格納部83に格納されている振動切削情報テーブルVC_TBLのプログラム設定値と一致するような、ワーク2の回転数及びワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量がプログラムされたか否かを確認する(ステップS5)。振動切削情報テーブルVC_TBLのプログラム設定値と一致するようなプログラム設定がされていなければ(ステップS5:NO)、中央制御部80は、表示部85に適正値がプログラム設定されていない旨の警告を表示させ(ステップS6)、処理を終了する。すなわち、例えば、使用者が入力部81を用いてワーク2の回転数を1000(rpm)、ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量を0.020(mm)にプログラムしたとすると、図3に示す振動切削情報テーブルVC_TBLを見れば明らかなように、ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量0.020(mm)は、ワーク2の回転数1000(rpm)に対する適切なワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量(0.005(mm),0.01(mm),0.015(mm))のプログラム設定値と一致しない。そのため、中央制御部80は、表示部85に適正値がプログラム設定されていない旨の警告を表示させることとなる。これより、使用者は、ワーク2の1回転当たりの切削工具4の適切な送り量を確実にプログラムすることができる。
【0048】
また一方、振動切削情報テーブルVC_TBLのプログラム設定値と一致するようなプログラム設定がされていれば(ステップS5:YES)、中央制御部80は、振動切削情報格納部83に格納されている振動切削情報テーブルVC_TBLより、使用者が入力部81を用いてプログラムしたワーク2の回転数及びワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量に対応した切削工具送り機構7の前進量,切削工具送り機構7の後退量,切削工具送り機構7の前進速度,切削工具送り機構7の後退速度,切削工具4の振動周波数を選定する。そしてさらに、中央制御部80は、プログラム情報格納部82に格納されている切削工具4の移動地点であるB点までの補間方法のプログラム情報と上記選定した情報(切削工具送り機構7の前進量,切削工具送り機構7の後退量,切削工具送り機構7の前進速度,切削工具送り機構7の後退速度)により、補間軌道に沿った前進、後退運動の演算処理を行う。そして、中央制御部80は、この演算結果をモータ制御部84に出力し、それと共に、上記選定した切削工具4の振動周波数を表示部85に出力する。(ステップS7)。
【0049】
このような演算結果を受け取ったモータ制御部84は、その情報に基づいて、サーボアンプ9を介して切削工具送り駆動モータ7aを制御し、切削工具4を低周波振動させる。すなわち、モータ制御部84は、切削工具送り機構7を上記演算結果に基づいて前進、後退させるという動作を繰り返す処理を行う。これにより、切削工具4は、図1に示すように実線位置、破線位置に交互に移動し、低周波振動することとなる。このように、モータ制御部84は、切削工具4を上記補間軌道に沿って前進後退の動作を繰り返して振動させながら、A点(u0,w0)からB点(U,W)まで移動させる(ステップS8)。これにより、ワーク2を低周波振動させた切削工具4にて加工することができる。なお、表示部85に出力された切削工具4の振動周波数は、表示部85に表示されることとなる。
【0050】
以上説明した本実施形態によれば、ワーク2を切削加工する切削工具4の送り動作を行う切削工具送り機構7の駆動源である切削工具送り駆動モータ7aを制御装置8によって、上記切削工具4を低周波振動させるように制御している。これにより、図1に示すように、ワーク2と切削工具4内に生じる空間Kにキャビテーションが発生し、そこに切削加工を行う際使用されるクーラント等が吸い込まれるため、ワーク2を加工する際に発生する切削熱や摩擦熱を効果的に冷却及び潤滑させることができる。そのため、本実施形態によればワークの加工品質を安定させることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、切削工具4は低周波振動しながらワーク2を切削加工するため、低周波振動によってワーク2の切屑が粉状となり、切削工具に切屑が絡まりにくくなる。それゆえ、品質が安定し、火災の発生を抑制することができる。
【0052】
さらに、本実施形態によれば、切削工具4を低周波振動させるにあたって、制御装置8を用いて切削工具送り駆動モータ7aを制御しているだけであるから、簡便な構造であるため実用的である。しかも、制御装置8を用いて切削工具送り駆動モータ7aを補間方向に制御することができるため、ワークを自由自在に加工することができる。それゆえ、ワークの加工形状が限定されないという効果を奏する。
【0053】
一方、本実施形態によれば、振動切削情報格納部83に、ワーク2の回転数と当該ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量に応じて切削工具4を低周波数振動させるためのデータが予め格納されているから、切屑を細かく分断できる最適な振動で低周波振動切削を実行させることができる。
【0054】
そしてさらには、本実施形態によれば、使用者は、NCプログラムを作成する際、通常の慣用切削を実行させるプログラムに加え、振動切削指令コード(振動切削ONコード、振動切削OFFコード)を付加したプログラムを作成するだけで、最適な振動で低周波振動切削を実行させることができる。
【0055】
なお、本実施形態においては、補間方法として、直線補間と円弧補間を例示したが、勿論、それに限らず、テーパ補間等、どのような補間方法でもよいことは言うまでもない。
【0056】
<第2実施形態>
次に、本発明に係る第2実施形態について、図6を参照して具体的に説明する。なお、第1実施形態と同一構成については、同一の符号を付し、説明は省略する。
【0057】
本実施形態に係る工作機械10は、CNC旋盤からなるもので、図6に示すように、被加工物であるワーク2を切削加工する切削工具4を保持する切削工具台5と、上記ワーク2を回転自在に支持する回転機構3と、その回転機構3の下部に設けられているワーク2を切削工具4に対して進退自在(矢印P2参照)に送り動作させるワーク送り機構11と、そのワーク送り機構11の動作を、サーボアンプ9を介して制御する制御装置8とを備えている。なお、図6では、Z軸上のワーク送り機構11しか図示していないが、直交するX軸上のワーク送り機構も有している。
【0058】
ワーク送り機構11は、切削工具4に対して進退自在(矢印P2参照)にワーク2の送り動作をさせる駆動源であるリニアサーボモータからなるワーク送り駆動モータ11aを有している。このワーク送り駆動モータ11aは、可動子11a1と固定子11a2とで構成されており、この可動子11a1は、磁性体の構造物に励磁コイルが巻回されて構成され、固定子11a2は、多数のマグネットが長手方向に列設されて構成されている。
【0059】
そしてこの可動子11a1は、上記回転機構3のスピンドルモータ3aの下部に設けられ、固定子11a2は、ベース12の上端部に設けられているガイドレール11bの上部に設けられている。また、上記スピンドルモータ3aの下部には、そのスピンドルモータ3aが上記ガイドレール11bに沿うように移動するのを案内する一対のガイド11cが設けられている。なお、ベース12の上他端部には、上記切削工具台5が設けられている。
【0060】
このように構成されるワーク送り機構11を切削工具4に対して進退自在(矢印P2参照)に移動させるには、まず、サーボアンプ9が、制御装置8より送出される指令に基づく電流を可動子11a1に送出する。これにより、可動子11a1と固定子11b1の夫々の磁極が吸引・反発を行うため、前後方向(矢印P2参照)の推力が発生し、その推力に伴ってスピンドルモータ3aが前後方向(矢印P2参照)に移動することとなる。そして、その推力に伴うスピンドルモータ3aの移動にあたっては、一対のガイド11cが設けられているから、その一対のガイド11cによって、上記スピンドルモータ3aは、ガイドレール11bに沿うように移動することとなる。それゆえ、ワーク送り機構11を切削工具4に対して進退自在(矢印P2参照)に移動させることができる。なお本実施形態においては、ワーク送り駆動モータ11aとして、リニアサーボモータを用いたが、それに限らずどのようなリニアモータを用いても良い。また、リニアモータに限らず、サーボモータを用いても良いが、サーボモータを用いる際、ボールネジを用いることとなるため、ワーク送り機構の進退動作を行っている際、バックラッシュが発生してしまうと、振動が吸収されてしまうため、ボールネジ等を必要としないダイレクト制御が可能なリニアモータを用いた方が好ましい。
【0061】
次に、このように構成される工作機械10のワーク2を、図6に示すように実線位置、破線位置に交互に移動させて、振動させながら、切削工具4にて切削加工させる方法について説明する。なお、この方法は、第1実施形態とほぼ同様であるため、第1実施形態と相違する点のみを述べることとする。
【0062】
振動切削情報格納部83に格納されている振動切削情報テーブルVC_TBL(図3参照)には、使用者が入力部81を用いてプログラムしたワーク2の回転数(rpm)及びワーク2の1回転当たりのワーク2の送り量(mm)に対応したワーク送り機構11の前進量(mm),ワーク送り機構11の後退量(mm),ワーク送り機構11の前進速度(mm/min),ワーク送り機構11の後退速度(mm/min),ワーク2の振動周波数(Hz)が格納されている。これにより、中央制御部80は、使用者が入力部81を用いてプログラムしたワーク2の回転数及びワーク2の1回転当たりのワーク2の送り量に対応したワーク送り機構11の前進量,ワーク送り機構11の後退量,ワーク送り機構11の前進速度,ワーク送り機構11の後退速度,ワーク2の振動周波数を選定する。そして、中央制御部80は、プログラム情報格納部82に格納されているワーク2の移動地点であるB点までの補間方法のプログラム情報と上記選定した情報(ワーク送り機構11の前進量,ワーク送り機構11の後退量,ワーク送り機構11の前進速度,ワーク送り機構11の後退速度)により、補間軌道に沿った前進、後退運動の演算処理を行う。そして、中央制御部80は、この演算結果をモータ制御部84に出力し、それと共に、上記選定したワーク2の振動周波数を表示部85に出力する。
【0063】
モータ制御部84は、上記演算結果に基づいて、ワーク2を、図6に示すように実線位置、破線位置に交互に移動させるように制御する。これにより、ワーク2が低周波振動しながら、切削工具4にて切削加工されることとなる。なお、表示部85に出力されたワーク2の振動周波数は、表示部85に表示されることとなる。
【0064】
しかして、本実施形態と第1実施形態とは低周波振動させる対象が異なるだけであるから、本実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏することとなる。
【0065】
<第3実施形態>
次に、本発明に係る第3実施形態について、図7を参照して具体的に説明する。なお、第1実施形態及び第2実施形態と同一構成については、同一の符号を付し、説明は省略する。
【0066】
本実施形態に係る工作機械20は、CNC旋盤からなるもので、図7に示すように、Z軸上には、被加工物であるワーク2を回転自在に支持する回転機構3と、その回転機構3の下部に設けられ、且つ、ベース21上に設けられている上記ワーク2を進退自在(矢印P3参照)に送り動作させるワーク送り機構11とが設けられている。そして、Z軸に垂直なX軸上には、ベース22上に設けられ、上記ワーク2を切削加工する切削工具4を進退自在(矢印P4参照)に送り動作させる切削工具送り機構7が設けられている。そしてさらに、工作機械20には、その切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の動作を、サーボアンプ9を介して夫々制御する制御装置8が備えられている。なお、図7では、Z軸上のワーク送り機構11,X軸上の切削工具送り機構7しか図示していないが、XZ軸に直交するY軸上のワーク送り機構、切削工具送り機構も有している。
【0067】
次に、このように構成される工作機械20のワーク2及び切削工具4を、図7に示すように実線位置、破線位置に交互に移動させて、振動させながら、上記ワーク2を上記切削工具4にて切削加工させる方法について、図8も用いて説明する。なお、この方法は、第1実施形態とほぼ同様であるため、第1実施形態と相違する点のみを述べることとする。
【0068】
振動切削情報格納部83に格納されている振動切削情報テーブルVC_TBL(図3参照)には、使用者が入力部81を用いてプログラムしたワーク2の回転数(rpm)及び当該ワーク2の1回転当たりの切削工具4及びワーク2の送り量(mm)に対応した切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の前進量(mm),切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の後退量(mm),切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の前進速度(mm/min),切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の後退速度(mm/min),切削工具4及びワーク2の振動周波数(Hz)が格納されている。これにより、中央制御部80は、使用者が入力部81を用いてプログラムしたワーク2の回転数及び当該ワーク2の1回転当たりの切削工具4及びワーク2の送り量に対応した切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の前進量,切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の後退量,切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の前進速度,切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の後退速度,切削工具4及びワーク2の振動周波数を選定する。そして、中央制御部80は、プログラム情報格納部82に格納されているワーク2及び切削工具4の移動地点であるB点までの補間方法のプログラム情報と上記選定した情報(切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の前進量,切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の後退量,切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の前進速度,切削工具送り機構7及びワーク送り機構11の後退速度)により、補間軌道に沿った前進、後退運動の演算処理を行う。そして、中央制御部80は、この演算結果をモータ制御部84に出力し、それと共に、上記選定した切削工具4及びワーク2の振動周波数を表示部85に出力する。
【0069】
モータ制御部84は、上記演算結果に基づいて、切削工具4及びワーク2を、図7に示すように実線位置、破線位置に交互に移動させるように制御する。これにより、ワーク2が、切削工具4にて切削加工されることとなる。なお、表示部85に出力された切削工具4及びワーク2の振動周波数は、表示部85に表示されることとなる。
【0070】
ところで、このように、低周波振動する切削工具4及びワーク2は、個々別々に動作するのではなく、互いに同期しながら動作することとなる。この点を、図8を用いて説明する。
【0071】
図8は、X軸とZ軸の2軸が同期しながら、切削工具4を用いてワーク2を切削加工する手順を説明するための図である。ここでは、ワーク2をZ軸に沿って点TP1Zから点TP10ZまでのTL1Zの距離だけ移動させ、さらに、切削工具4をX軸に沿って点TP1Xから点TP10XまでのTL1Xの距離だけ移動させる場合を示す。
【0072】
まず、点(TP1X,TP1Z)から点(TP2X,TP2Z)までのTL2の距離だけ、ワーク2及び切削工具4を前進移動させようとすれば、ワーク2をZ軸に沿ってTL2Zの距離だけ前進移動させ、切削工具4をX軸に沿ってTL2Xの距離だけ前進移動させることとなる。これにより、XZ2軸同期してTL2の距離だけ、ワーク2及び切削工具4を前進移動させることができる。
【0073】
そして、点(TP2X,TP2Z)に到達後、点(TP3X,TP3Z)までのTL3の距離だけ、ワーク2及び切削工具4を後退移動させようとすれば、ワーク2をZ軸に沿ってTL3Zの距離だけ後退移動させ、切削工具4をX軸に沿ってTL3Xの距離だけ後退移動させることとなる。これにより、XZ2軸同期してTL3の距離だけ、ワーク2及び切削工具4を後退移動させることができる。
【0074】
このように、TL2の距離だけ、ワーク2及び切削工具4を前進移動させ、すなわち、ワーク2をZ軸に沿ってTL2Zの距離だけ前進移動させ、切削工具4をX軸に沿ってTL2Xの距離だけ前進移動させ、そして、TL3の距離だけ、ワーク2及び切削工具4を後退移動させ、すなわち、ワーク2をZ軸に沿ってTL3Zの距離だけ後退移動させ、切削工具4をX軸に沿ってTL3Xの距離だけ後退移動させるという動作を繰り返すことにより、点(TP1X,TP1Z)から点(TP10X,TP10Z)までのTL1の距離だけ切削工具4及びワーク2が移動することとなる。
【0075】
これにより、点(TP1X,TP1Z)の位置から点(TP10X,TP10Z)までを結んだ直線(テーパ)に沿って、切削工具4によりワーク2を切削加工することができる。
【0076】
このように、低周波振動する切削工具4及びワーク2は、個々別々に動作するのではなく、X軸とZ軸の2軸が同期しながら動作することとなる。それゆえ、切削工具4及びワーク2の動作は、切削工具4の側から見れば、ワーク2は停止しているように見え、ワーク2の側から見れば、切削工具4は停止しているように見える。そのため、本実施形態における動作は、第1実施形態にて示した切削工具4の動作又は第2実施形態にて示したワーク2の動作と実質的に同様である。なお、XZ軸に直交するY軸を含めた3軸の場合は、3軸が同期しながら動作することとなる。
【0077】
しかして、本実施形態と第1実施形態とは低周波振動させる対象が異なるだけであるから、本実施形態は、第1実施形態と同様の効果を奏することとなる。
【0078】
なお、第1〜第3実施形態においては、ワーク2を回転させて切削工具4にてワーク2を切削加工させる例を示したが、例えば、図9及び図10に示すような、切削工具4を回転させてワーク2を切削工具4にて切削加工する第4実施形態及び第5実施形態に係る工作機械にも適用可能である。
【0079】
<第4実施形態>
すなわち、図9に示す、第4実施形態に係る工作機械30は、CNC旋盤からなるもので、被加工物であるワーク2を支持するワークチャック機構32と、上記ワーク2を切削加工する切削工具4を回転自在に支持する回転機構31と、その回転機構31の下部に設けられると共に、ベース33上に設けられた切削工具4を進退自在(矢印P5参照)に送り動作させる切削工具送り機構34とが設けられている。そして、この工作機械30には、上記切削工具送り機構34の動作を、サーボアンプ9を介して制御する制御装置8が備えられている。なお、図9では、Z軸上の切削工具送り機構34しか図示していないが、直交するX軸上の切削工具送り機構も有している。また、切削工具送り機構34の構成は、ワーク送り機構11とほぼ同様の構成であり、ワーク送り駆動モータ11aを切削工具送り駆動モータ7aに代えただけである。そのため、同一の符号を付し説明は省略することとする。
【0080】
一方、上記回転機構31は、スピンドルモータ31aを有し、そのスピンドルモータ31aの主軸31bには切削工具チャック機構31cが回転可能に取り付けられている。そして、その切削工具チャック機構31cには切削工具4が掴時されており、この掴持された切削工具4は、スピンドルモータ31aの回転駆動により回転軸R周りで回転駆動するようになっている。なお、このように構成される工作機械30の切削工具4を、図9に示すように実線位置、破線位置に交互に移動させて、振動させながら、ワーク2を切削加工させる方法は、第1実施形態とほぼ同様であり、振動切削情報格納部83に格納されている振動切削情報テーブルVC_TBL(図3参照)に格納されているデータに対応するプログラム設定値が、使用者が入力部81を用いてプログラムした切削工具4の回転数(rpm)及び当該切削工具4の1回転当たりの切削工具4の送り量(mm)になる点が相違するのみで他は同一である。
【0081】
<第5実施形態>
他方、図10に示す、第5実施形態に係る工作機械40は、CNC旋盤からなるもので、被加工物であるワーク2を支持するワークチャック機構32と、上記ワーク2を切削加工する切削工具4を回転自在に支持する回転機構31と、上記ワークチャック機構32の下部に設けられると共にベース41上に設けられたワーク2を進退自在(矢印P6参照)に送り動作させるワーク送り機構11とが設けられている。そして、この工作機械40には、上記ワーク送り機構11の動作を、サーボアンプ9を介して制御する制御装置8が備えられている。なお、図10では、Z軸上のワーク送り機構11しか図示していないが、直交するX軸上のワーク送り機構も有している。また、第2実施形態の工作機械20及び図9に示す工作機械30と同一構成については、同一の符号を付し説明は省略することとする。
【0082】
このように構成される工作機械40のワーク2を、図10に示すように実線位置、破線位置に交互に移動させて、振動させる方法は、第2実施形態とほぼ同様であり、振動切削情報格納部83に格納されている振動切削情報テーブルVC_TBL(図3参照)に格納されているデータに対応するプログラム設定値が、使用者が入力部81を用いてプログラムした切削工具4の回転数(rpm)及び当該切削工具4の1回転当たりのワーク2の送り量(mm)になる点が相違するのみで他は同一である。
【実施例】
【0083】
次に、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳しく説明する。
【0084】
<実施例1>
第3実施形態に係る工作機械20を用いて、ワーク2の加工を行った。工作機械20としては、シチズンマシナリー社製のL16CNC自動旋盤を使用した。またワーク2としては、SKD11−φ12.0の棒材を使用し、切削工具4は、寸法12mmのバイトを使用した。また、切削工具送り機構7としては、ボールネジとサーボモータの組み合わせを使用した。そして、ワーク2の回転数を600rpm、当該ワーク2の1回転当たりの切削工具4及びワーク2の送り量をそれぞれ、0.01mmにプログラム設定し、ワーク2の切削加工を行った。その結果、図11に示す加工品を作成することができた。なお、上記プログラム設定された値に応じた切削工具4及びワーク2の低周波振動の振幅はそれぞれ0.03、周波数はそれぞれ9Hzになるように設定されている。
【0085】
他方、周波数設定をせず同機械を用いて慣用切削により、図11に示すような加工形状からなる加工品を作成しようとした。しかしながら、共振による工具破損のため、切削加工自体を行うことができなかった。
【0086】
以上のことから、低周波振動切削の方が、従来の慣用切削に比べ、切削抵抗が小さく、加工性能が格段に優れていることが分かる。なお、図13に示すような切削工具に加振機を取付けた工作機械100では、上述した問題点を有していることから、図11に示す加工品における先端部のテーパ形状を加工することはできない。
【0087】
<実施例2>
次に、第1実施形態に係る工作機械1を用いて、低周波振動切削によって図12に示す加工品を作成すべくワーク2の加工を行った。工作機械1としては、シチズンマシナリー社製のNL−10CNC旋盤を使用した。またワーク2としては、φ10−SUS304の棒材を使用し、切削工具4は、京セラ社製のDCGT11T304ER−U−PR930を使用した。また、切削工具送り機構7としては、三菱社製のリニアサーボモータを使用した。そして、ワーク2の回転数を3750rpm、当該ワーク2の1回転当たりの切削工具4の送り量を0.01mmにプログラム設定し、クーラントとしては、日本グリース社製のサンカットEF−5N(不水溶性)を使用した。なお、上記プログラム設定された値に応じた切削工具4の低周波振動の振幅は0.03、周波数は48Hzになるように設定されている。
【0088】
<比較例1>
他方、慣用切削によって、第1実施形態に係る工作機械1を用いて、図12に示す加工品を作成すべくワーク2の加工を行った。工作機械1としては、シチズンマシナリー社製のNL−10CNC旋盤を使用した。またワーク2としては、φ10−SUS304の棒材を使用し、切削工具4は、京セラ社製のDCGT11T304ER−U−PR930を使用した。また、切削工具送り機構7としては、三菱社製のリニアサーボモータを使用した。そして、上記実施例2の低周波振動切削と切削時間が同じになるように送り量を28mm/minに設定した。なお、クーラントとしては、日本グリース社製のサンカットEF−5N(不水溶性)を使用した。
【0089】
<切削精度評価>
上記実施例2、比較例1にて得られた加工品のT1及びT2(図12参照)の径を測定し、T3(図12参照)のバリを測定した。その測定結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【0091】
上記表1に示すように、実施例2におけるT1,T2の径の誤差はほとんどないのに対し、比較例1におけるT1,T2の径の誤差は大きい。また、比較例1におけるT3におけるバリは、実施例2におけるT3のバリよりも大きい。このことから、低周波振動切削の方が、従来の慣用切削に比べ、加工精度が高く、加工硬化を抑制することができることが分かる。
【0092】
なお、本実施形態においては、上記第1〜第5実施形態に係る工作機械として、2軸又は3軸のCNC旋盤を用いた例を示したが、これに限らず種々様々な工作機械に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0093】
1,10,20,30,40 工作機械
2 ワーク
4 切削工具
7,34 切削工具送り機構
7a 切削工具送り駆動モータ
8 制御装置(制御機構)
11 ワーク送り機構
11a ワーク送り駆動モータ
81 入力部(操作手段)
83 振動切削情報格納部(振動切削情報格納手段)
84 モータ制御部(モータ制御手段)
VC_TBL 振動切削情報テーブル
K 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク加工用の切削工具を保持し、その切削工具をワークに対して送り動作させる切削工具送り機構と、
前記切削工具送り機構の駆動源である切削工具送り駆動モータを制御することで前記切削工具を低周波振動させてなる制御機構とを有し、
前記制御機構は、各種設定を行う操作手段と、該操作手段によって設定された前記ワークの回転数又は前記切削工具の回転数と該ワーク又は切削工具1回転当たりの切削工具の送り量に応じて前記切削工具を低周波振動させるためのデータが予め格納されている振動切削情報格納手段と、該振動切削情報格納手段に格納されている当該データに基づいて前記切削工具送り駆動モータを制御してなるモータ制御手段とを有してなることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
ワークを保持し、そのワークをワーク加工用の切削工具に対して送り動作させるワーク送り機構と、
前記ワーク送り機構の駆動源であるワーク送り駆動モータを制御することで前記ワークを低周波振動させてなる制御機構とを有し、
前記制御機構は、各種設定を行う操作手段と、該操作手段によって設定された前記ワークの回転数又は前記切削工具の回転数と該ワーク又は切削工具1回転当たりのワークの送り量に応じて前記ワークを低周波振動させるためのデータが予め格納されている振動切削情報格納手段と、該振動切削情報格納手段に格納されている当該データに基づいて前記ワーク送り駆動モータを制御してなるモータ制御手段とを有してなることを特徴とする工作機械。
【請求項3】
ワーク加工用の切削工具を保持し、その切削工具をワークに対して送り動作させる切削工具送り機構と、
ワークを保持し、そのワークをワーク加工用の切削工具に対して送り動作させるワーク送り機構と、
前記切削工具送り機構の駆動源である切削工具送り駆動モータ及び前記ワーク送り機構の駆動源であるワーク送り駆動モータを夫々制御することで前記切削工具及びワークを低周波振動させてなる制御機構とを有し、
前記制御機構は、各種設定を行う操作手段と、該操作手段によって設定された前記切削工具の回転数又は前記ワークの回転数と該切削工具又はワーク1回転当たりの切削工具及びワークの送り量に応じて前記切削工具及びワークを低周波振動させるためのデータが予め格納されている振動切削情報格納手段と、該振動切削情報格納手段に格納されている当該データに基づいて前記切削工具送り駆動モータ及びワーク送り駆動モータを夫々制御してなるモータ制御手段とを有してなることを特徴とする工作機械。
【請求項4】
前記切削工具送り駆動モータ、前記ワーク送り駆動モータはリニアモータであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図13】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−103279(P2013−103279A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246433(P2011−246433)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【特許番号】特許第5033929号(P5033929)
【特許公報発行日】平成24年9月26日(2012.9.26)
【出願人】(510183235)ハリキ精工株式会社 (1)
【出願人】(510183279)有限会社アドバンテック (1)
【Fターム(参考)】