説明

工具ダイ用の耐摩耗性被覆

未焼成セラミック体を形成するための工具ダイが記載されている。この工具ダイは、基体上に堆積された耐摩耗性被覆を有し、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有する外面または自由面を有する。ある実施の形態において、この耐摩耗性被覆は、微細な粒状材料と粗い粒状材料の多数の交互の層を有する。工具ダイおよび耐摩耗性被覆を製造する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、ここにその全てを引用する、2008年8月28日に出願された米国仮特許出願第61/092424号の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、未焼成セラミック体を形成するのに使用される工具ダイに関する。より詳しくは、本開示は、耐摩耗性被覆を有する工具ダイに関する。さらにより詳しくは、本開示は、多層からなる耐摩耗性被覆を有する工具ダイに関する。
【背景技術】
【0003】
フィルタおよび触媒担体として使用されるハニカム構造体などのセラミック製品は、典型的に、少なくとも1つの押出ダイに通される押出しにより未焼成体が形成され、次いで、この未焼成体は乾燥され、焼成されて、強力な耐火性セラミック構造体を生成することによって製造される。現在、そのようなダイは、特殊鋼やステンレス鋼などの耐久性金属または合金から製造される。ダイは、押し出されるセラミックバッチ材料からの急激な摩耗に曝され、摩耗量により、仕様を満たす製品の押出しが妨げられたときに、廃棄されなければならない。
【0004】
そのようなダイに、耐用期間を長くするために、耐摩耗性被覆が施されることが多々ある。そのような被覆は、化学的気相成長法を使用して、無機炭化物、窒化物、およびそれらの組合せなどの耐火性材料から製造されることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、そのような被覆には、その硬度と表面粗さのために、製造に使用するのに適するようになる前に、長期間のプリコンディショニングまたはならし運転が必要である。そのようなプリコンディショニングは、時々、そのダイの耐用期間の大部分を費やすほど長いことがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、未焼成セラミック体を形成するための工具ダイを提供する。この工具ダイは、基体上に堆積された耐摩耗性被覆を有し、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態(morphology)を有する外面または自由面を有する。ある実施の形態において、この耐摩耗性被覆は、微細な粒状材料と粗い粒状材料の多数の交互の層を有する。この工具ダイおよび耐摩耗性被覆を製造する方法も提供される。
【0007】
したがって、本開示のある態様は、未焼成セラミック体を製造するための工具ダイを提供することにある。この工具ダイは、基体と、この基体の表面に堆積された耐摩耗性被覆とを含む。この耐摩耗性被覆は、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有する外面を有する。
【0008】
本開示の第2の態様は、未焼成セラミック体を形成するための工具ダイ用の耐摩耗性複合被覆を提供することにある。この耐摩耗性複合被覆は、基体の表面に堆積された基層、この基層上に堆積された複数の層、および微細な粒状材料の外層を含む。これら複数の層は、粗い粒状材料の第2の層と交互になった微細な粒状材料の第1の層を含む。外層は、これら複数の層上に堆積された外面を有する。この外面は、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有する。
【0009】
本開示の第3の態様は、未焼成セラミック体を形成するための工具ダイであって、耐摩耗性被覆を有する工具ダイを製造する方法を提供することにある。この方法は、工具ダイを提供する工程、およびこの工具ダイの表面に耐摩耗性被覆を堆積させる工程を有してなる。この耐摩耗性被覆は、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有する外面を有する。
【0010】
本開示の第4の態様は、工具ダイに耐摩耗性層を堆積させる方法を提供することにある。この方法は、工具ダイの表面に基層を堆積させる工程、基層上に複数の層を堆積させる工程であって、この複数の層が、粗い粒状材料の第2の層と交互になった微細な粒状材料の第1の層を含むものである工程、およびこの複数の層上に外層を堆積させる工程を有してなる。この外層は、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有する外面を有する。
【0011】
本開示のこれらと他の態様、利点、および顕著な特徴は、以下の詳細な説明、添付の図面、および添付の特許請求の範囲から明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】柱状粒子構造を有するTiCx1-x被覆を有する押出ダイのピン側表面の平面図の走査型電子顕微鏡(SEM)画像
【図2】製造時間の関数としてのTiCx1-x被覆されたハニカム押出ダイに亘る押出圧力のグラフ
【図3】定常状態の押出性能の全間隔後の押出ダイのTiCx1-x被覆されたピン側表面のSEM画像
【図4】工具ダイの概略断面図
【図5】ホウ素が未添加のものと添加されたTiCx1-x被覆の自由表面の表面粗さRqのグラフ
【図6】ホウ素が添加されたTiCx1-x被覆の自由表面のSEM画像
【図7】ホウ素が未添加のものと添加されたTiCx1-x被覆の自由表面の硬度のグラフ
【図8】多層を有する耐摩耗性被覆の概略断面図
【図9】多層を有する耐摩耗性被覆の断面のSEM画像
【図10】工具ダイの概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の説明において、図面に示されたいくつかの図に渡り、同種の参照文字が同種のまたは対応する部品を指す。別記しない限り、「上部」、「下部」、「外部」、「内部」などの用語は、便宜上の単語であり、制限用語として考えるものではない。その上、ある群が、要素の群の内の少なくとも1つまたはその組合せを含むと記載されているときはいつでも、その群は、列記された任意の数のそれらの要素を、個々にまたは互いの組合せのいずれかで、含む、それらから実質的になる、またはそれらからなるものであってよいことが理解されよう。同様に、ある群が、要素の群の内の少なくとも1つまたはその組合せからなると記載されているときはいつでも、その群は、個々にまたは互いの組合せのいずれかで、列記された任意の数のそれらの要素からなるものであってよいことが理解されよう。別記しない限り、値の範囲が列記されている場合、その範囲の上限と下限の両方、並びにそれらの間の任意の部分的な範囲を含む。
【0014】
一般に図面を、特に図1を参照すると、説明図は、特定の実施の形態を説明する目的のためであり、その開示または添付の特許請求の範囲をそれに制限することを意図したものではないことが理解されよう。図面は、必ずしも、一定の縮尺で描かれておらず、図面の特定のある特徴やある図は、明瞭さ簡潔さのために、縮尺で、または構造で誇張されて示されているであろう。
【0015】
工具ダイ、特に押出プロセスに用いられるものは、大きな摩耗に曝される。そのような摩耗は、工具ダイの本体が、ステンレス鋼などの軟質金属または合金である場合、および押し出されているバッチ材料が、例えば、コージエライト(マグネシウム・鉄・アルミニウム・シリケート)、チタン酸アルミニウムなどの硬質セラミック材料を含む場合に悪化してしまう。
【0016】
そのような工具ダイの耐用期間を長くするために、そのようなダイの表面に耐摩耗性被覆が設けられる。そのような被覆は、典型的に、無機炭化物または窒化物を含み、化学的気相成長(CVD)法により工具ダイに施される。CVD法が行われる条件によって、耐摩耗性被覆の表面形態が決まる。例えば、炭窒化チタン(TiCx1-x)被覆は約800℃から850℃に及ぶ温度で成長させられる。これらの被覆は、柱状様式で成長する傾向にあり、これにより、被覆の自由表面または外面に刻面(faceted)形態が生成する。押出ダイの吐出面からスロット形成ピンの側面に堆積した、TiCx1-x被覆の表面の、2000倍の倍率で得られた走査型電子顕微鏡(SEM)画像(図1)は、個々の粒子の柱状構造を明白に示している。この被覆の自由表面上の鋭い微細な特徴の長さ規模は、1〜3μmの範囲にある。
【0017】
初期の使用段階でダイが示す高い押出圧力は、高度の表面粗さが最初にTiCx1-x被覆に存在することを示唆している。TiCx1-x被覆ハニカム押出ダイを通る押出圧力が、図2において製造時間(相対的な製造間隔として表される)の関数としてプロットされている。押出圧力は、TiCx1-x被覆の表面仕上げの直接的な指標と解釈される。TiCx1-x被覆の高い硬度のために、適度に低い押出圧力での定常状態の押出性能が達成される前に、長い使用期間または「ならし運転」期間が必要である。図1は、図2のゼロの製造間隔に対応する、ダイを製造に使用し始める前のピン側表面の画像である。図3は、図2に示された水平目盛りの10の相対的な製造間隔での同様のピン側表面のSEMの顕微鏡写真であり、図2の定常状態の押出性能の全期間に亘るピンの表面仕上げを表すと考えられる。図1に示された初期の被覆は、被覆されたピンの表面上で可塑化された粉末バッチ材料の滑らかな流れを著しく妨害するほど十分に大きい規模の刻面TiCx1-x結晶形態を示しているのに対し、図3に示されたピンの表面仕上げは、目に見えるような結晶性凸部、結晶面、または結晶粒界がほぼ完全にないことにより特徴付けられる。
【0018】
そのような被覆と接触するセラミックバッチは、図1に示される粒子よりも尺度がずっと小さい成分を含有する。押出中、バッチ材料は、被覆の表面特徴と絡み合う。この現象により、摩擦と壁の抗力が増加し、それゆえ、ダイの全体の圧力が増加する。特に、被覆の形態とバッチ材料との間の相互作用は、押出中のダイ圧力に段階的変化をもたらす。この圧力曲線の段階的変化は、押出機械設備の構成の安定性を不十分なものにする。その結果、押出製品には、その製品の表皮、素地または塊に未焼成状態での欠陥が多く生じてしまう。
【0019】
ここには、耐摩耗性被覆およびそのような被覆を有する工具ダイが記載されている。ここに記載された耐摩耗性被覆は、その被覆に得られる自由表面または外面が滑らかになるように成長させられる。ある実施の形態において、被覆の成長機構は、その被覆に少なくとも1種類の添加物を添加することによって変更される。成長機構の変更により、被覆材料に通常観察される柱状の粗い粒状構造から、滑らかな表面に適する等軸の微細な粒状構造に移行する。
【0020】
未焼成セラミック構造体を形成するための工具ダイが提供される。出口のピン面の一部が切り取られている工具ダイの断面図が、図10に概略的に示されている。この工具ダイ310は、複数の供給孔330に開いた入口面または供給孔面312および吐出スロット320により囲まれた複数のピン318を備えた出口面またはピン面316を有する。外皮形成領域に隣接した出口面316の一部は322で切り取られている。シム326によりダイ310から間隔がおかれたマスクまたは表皮形成環324が、切り取られた部分322と重なっている。環またはマスク324は、マスクとダイとの間の切り取られた部分322に貯留部328を形成し、ここに、可塑化されたバッチ材料(図示せず)が矢印Aの方向に流されたときに、供給孔330および削減されたスロット332からバッチ材料が供給される。貯留部328に収集された材料は、表皮形成環324により覆われていないスロット320から吐出される可塑化されたバッチ材料から同時に形成されるハニカムコア上の表皮層として表皮形成間隙334を通って流動する。
【0021】
図10に示された工具ダイ310の一部の断面が、図4に概略的に示されている。図4に示された工具ダイ100の部分は、セラミック前駆体材料の押出しに使用されるピンであり、基体110および基体110の表面112に堆積した耐摩耗性被覆120を備えている。耐摩耗性被覆120は、当該技術分野に公知の干渉計技法により決定される約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲にある平均粗さを有する形態を持つ外面128を有する。この平均粗さRqは、ダイのインピーダンスに対して高い相関性を有する。
【0022】
ある実施の形態において、工具ダイ100は、ハニカム押出ダイなどの押出ダイであるが、これに限られない。そのような押出ダイは、典型的に、スロット構造とピン構造を含む。あるいは、工具ダイ100は、小さい表面粗さが望ましい、ネジ、プランジャなどの、他の押出要素または道具設備であってもよい。
【0023】
基体110は、工具ダイを製造するのに使用される、当該技術分野で公知のどのような材料であってもよい。その例としては、金属、合金、複合材などが挙げられる。ある実施の形態において、基体110は、特殊鋼または、以下に限られないが、422および450ステンレス鋼などのステンレス鋼である。ニッケル、ニッケル系合金などの金属または合金の追加の被覆を基体の表面に施してもよい。
【0024】
耐摩耗性被覆120は、少なくとも20μm、ある実施の形態において、少なくとも50μmの厚さtを有する。ある実施の形態において、耐摩耗性被覆120は約65μmまでの厚さを有する。耐摩耗性被覆120は、無機炭化物、無機窒化物、またはそれらの組合せの内の少なくとも1つを含む。そのような組合せとしては、以下に限られないが、炭窒化物などの単相材料、および炭化物と窒化物の多相の組合せが挙げられる。そのような炭化物と窒化物の非限定的な例としては、炭化チタン(TiC)、炭化タングステン(W3C、WC、W2C)、炭化モリブデン(Moxy)、窒化チタン(TiN)、および炭窒化チタン(TiCx1-x、ここで、0.35≦x≦0.65)が挙げられる。そのような材料は、化学量論的または非化学量論的(例えば、不足当量的)組成のいずれを有してもよい。
【0025】
図1に示された柱状成長は、ほとんどのCVD法を促進する高堆積速度条件を考えると、核形成の競合性質および耐摩耗性被覆120を形成する材料の成長の直接的な結果である。したがって、そのようなCVD法において滑らかで微細な粒状表面を達成するために、基板の自由表面上の粒子の柱状または刻面成長を促進する機構を変更しなければならない。ある実施の形態において、成長機構は、非常に高い表面拡散性を有する添加物を導入することによって変更してもよく、この添加物は、耐摩耗性被覆120の普通の成長機構をくつがえす。したがって、耐摩耗性被覆120は、少なくとも1種類の添加物をさらに含んでよい。ある実施の形態において、添加物は、耐摩耗性被覆120の形成中に外面128で高い拡散性を有する。そのような添加物としては、以下に限られないが、ホウ素、一酸化炭素、アルミニウム、硫黄などが挙げられる。予備段階の結果は、TiCx1-x被覆の表面粗さは、添加物としてホウ素を導入することによって、2分の1、ある実施の形態においては、10分の1に減少し得る。図5にプロットされたデータは、ホウ素が添加物として使用されたときの、TiCx1-x被覆の自由表面の平均粗さRqの3分の1への減少を示している。ホウ素が添加されたTiCx1-x被覆の自由表面のSEM画像(2000倍の倍率)が図6に示されている。図1に示された未添加のTiCx1-x被覆の表面と比べると、図6の被覆の表面粗さは、著しく減少している。
【0026】
ここに用いたように、「形態(morphology)」という用語は、一般に、耐摩耗性被覆120を含む個々の結晶性粒子の形状とサイズを称する。所定の材料について、異なるタイプの結晶形状および習性が達成され、そのような形状は、材料の組成およびその材料(および得られた被覆)が基体110上に形成される条件により決まるであろうことが当業者によって認識されるであろう。外面128の形態は、外面128に所望のレベルの粗さを与えるように選択される。すなわち、耐摩耗性被覆120を堆積させる条件は、外面128に所望の形態を与えるように選択される。ある実施の形態において、外面の形態は、約0.05μm以下の平均粒径(「微細な粒状」形態または構造とも称される)を有する等軸形態である。さらに、耐摩耗性被覆120の硬度は、図7にプロットされたように、微細な粒状形態のために増加している。
【0027】
耐摩耗性被覆120における応力レベルは自発的破壊(spontaneous spallation)を促進し得る。熱歪みの不一致から生じる応力の程度は、完全には除去できないが、耐摩耗性被覆120の形態を制御することによって減少させることができる。そのような応力を減少させる様式の1つは、歪み許容範囲を被覆に構築するための多孔質微細構造を使用することである。構成層の厚さは、被覆の表面の形態(または)粗さを制御するために使用できるプロセスパラメータである。したがって、耐摩耗性被覆120のある実施の形態は、歪みを許容する固有の気孔率を有する層を含む材料の多層を含む。例えば、CVD堆積されたTiCx1-x層は、約20%までの固有気孔率を有する。そのような実施の形態の1つの概略的な断面図が図8に示されており、同じ実施の形態の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像が図9に示されている。耐摩耗性被覆220は、基体210の表面212に堆積された基層222を含む。複数の層224が基層222上に堆積され、外層226が複数の層224上に堆積され、この層は外面228を有する。
【0028】
基層222は、粗い粒状(すなわち、少なくとも約1μmの平均粒径を有する)または柱状粒状構造を備え、約1μmから約5μmに及ぶ厚さを有する。ある実施の形態において、基層222は約9μmの厚さを有する。複数の層224は、粗い粒状材料の第2の層と交互になった微細な粒状材料の第1の層を含む。第1と第2の層の各々は、約0.5μmから約3μmの範囲にある厚さを有する。ある実施の形態において、第1の層と第2の層の各々は、約1μmまでの厚さを有する。外層226は、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを外面228に与える形態を有する材料からなり、約3μmから約15μmまでの範囲の厚さを有する。ある実施の形態において、外層226は約10μmの厚さを有する。
【0029】
図9に示された耐摩耗性被覆220において、基層222は炭化チタンからなる。複数の層224は、交互になった、ホウ素が添加された炭窒化チタンの第1の微細な粒状層および炭化チタンの第2の粗い粒状層を含む。外層226は、微細な粒状のホウ素が添加された炭窒化チタンからなる。
【0030】
基層222、複数の層224、および外層226に加え、基層222と複数の層224との間に配置された追加の材料層を含む。例えば、約1μmまでの厚さを有するTiNまたは元素のチタンの層(図8の221)が基体210と基層222との間に配置されて、基体210の固有粗さを滑らかにし、下にある基層222と基体210を実質的に完全に覆うように炭窒化チタンの成長を確実にする。
【0031】
ここに記載された耐摩耗性被覆を有する工具ダイを製造する方法も提供される。この工具ダイは、工具ダイを製造するのに使用される当該技術分野に公知のどのような材料であってもよい。これらの例としては、金属、合金、複合材などが挙げられる。ある実施の形態において、工具ダイは、以下に限られないが、422および450ステンレス鋼などのステンレス鋼である。工具ダイは、以下に限られないが、放電機械加工法などの当該技術分野に公知の方法を使用して、機械加工され、最終形状に仕上げられる。
【0032】
耐摩耗性被覆は、当該技術分野に公知であり、ここにおいて先に記載された方法を使用して、工具ダイの表面に堆積される。この耐摩耗性被覆は、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有する外面を有する。耐摩耗性被覆は、無機炭化物、無機窒化物、およびそれらの組合せの内の少なくとも1つを含み、少なくとも1種類の添加物をさらに含んでもよい。
【0033】
ある実施の形態において、耐摩耗性被覆は、基層、交互になった第1と第2の層を含む複数の層、および外層を備えている。ある実施の形態において、耐摩耗性被覆は、当該技術分野に公知の化学的気相成長(CVD)法を使用して形成される。しかしながら、当該技術分野に公知の物理的気相成長法などの他の手段を使用して、耐摩耗性被覆120を形成してもよい。その上、そのような方法をCVD法と組み合わせて、耐摩耗性被覆120を形成してもよい。プラズマ支援または助長化学的気相成長法は、そのような物理的気相成長技法と化学的気相成長技法が組み合わされた非限定的例である。
【0034】
耐摩耗性被覆を堆積させるために使用される実際の条件(すなわち、温度、レトルト圧、前駆体、および気体種の流量)は、少なくとも一部には、被覆の所望の組成に依存することが当業者に認識されるであろう。例えば、TiCx1-x被覆の化学的気相成長法は、典型的に、四塩化チタン(または他のハロゲン化チタン)、水素、およびシアン化メチル(CH3CN)などの前駆体を使用して、約800℃から約850℃に及ぶ温度で行われる。炭化タングステン被覆を、WF6、C66およびH2の組合せを使用して、300℃から500℃までに及ぶ温度で堆積させてもよい。炭化モリブデン被覆は、例えば、六フッ化モリブデンと、水素と、ベンゼン、キシレン、ブタン、プロパンなどの内の少なくとも1つとを含む雰囲気中で堆積させてもよい。
【実施例】
【0035】
以下の実施例は、本発明をそれらに制限することを決して意図するものではないが、422ステンレス鋼製ハニカムダイに様々な添加物を使用した、窒化チタン(TiN)基層および炭窒化チタン(TiCx1-x)外層を含む耐摩耗性被覆の堆積を記載している。ここに記載したように、「添加物(dopant)」という用語は、耐摩耗性被覆の形態または成長反応速度を変更することが意図された気相並びに凝縮相の種を含む。
【0036】
実施例1. 窒素による被覆
実施例1において、反応体の低い分圧と共に、窒素(N2)の流量のTiNおよびTiCx1-x被覆の化学的気相成長への影響を研究した。窒素(N2)のCVDシステムへの添加により、結果として得られた被覆の均一性が改善されたが、形態の著しい変化は観察されなかった。窒素(N2)を使用した基体の被覆に使用したCVD法のパラメータが表1に列記されている。
【表1】

【0037】
実施例2. H2Sによる被覆
成長抑制剤としてのH2Sの影響を実施例2において研究した。H2Sを使用した基体の被覆に使用したCVD法のパラメータが表2に列記されている。H2Sの添加により、滑らかな外側被覆が設けられた。しかしながら、H2Sの添加から生じた高い成長速度により、ハニカムダイが閉塞された。
【表2】

【0038】
実施例3. Heによる被覆
成長抑制剤としての不活性ガスのヘリウムの影響を実施例3において研究した。ヘリウムはH2に近い粘度および良好な熱伝導率を有し、優れた浸透特性および高い拡散性が与えられる。ヘリウムを使用した基体の被覆に使用したCVD法のパラメータが表3に列記されている。
【表3】

【0039】
実施例4. プロパンによる被覆
成長抑制剤としてのプロパンの影響を実施例4において研究した。プロパンを使用した基体の被覆に使用したCVD法のパラメータが表4に列記されている。
【表4】

【0040】
実施例5. 一酸化炭素による被覆
成長抑制剤としての一酸化炭素の影響を実施例5において研究した。ダイを、100分間に亘りCOを添加せずにTiCx1-xで被覆し、その後、500分間に亘りCOを添加して被覆した。一酸化炭素は、強力な酸化剤であるので、TiCx1-xと反応して、カルボキシ窒化チタン(titanium carboxynitride)を形成し、この存在により、被覆の構造と形態に影響があり得る。一酸化炭素を使用した基体の被覆に使用したCVD法のパラメータが表5に列記されている。
【表5】

【0041】
実施例6. 塩化アルミニウムによる被覆
成長抑制剤としての塩化アルミニウム(AlCl3)の影響を実施例6において研究した。ダイを、1時間に亘りAlCl3を添加せずにTiCx1-xで被覆し、その後、9時間に亘りAlCl3を添加して被覆した。その結果は、AlCl3は抑制剤として働くが、堆積速度が増加したことを示した。AlCl3を使用した基体の被覆に使用したCVD法のパラメータが表6に列記されている。
【表6】

【0042】
実施例7. 前駆体としての金属のチタンによる被覆
前駆体として金属のチタンを使用したダイの被覆の影響を実施例7において研究した。金属のチタンの存在により、塩素の陰イオンの数を増加させずに、チタンの陽イオンが増加し、これは通常、摩耗を減少させる。チタンを使用した基体の被覆に使用したCVD法のパラメータが表7に列記されている。
【表7】

【0043】
実施例8. ホウ素が添加されたTiCx1-xによる被覆
成長抑制剤としてのホウ素の影響を実施例8において研究した。ダイを、3時間に亘りホウ素を添加せずにTiCx1-xで被覆し、その後、7時間に亘りホウ素を添加して被覆した。その結果は、ホウ素は、細粒化剤(grain refining agent)として働き、TiCx1-xの粒界の形態を滑らかにできる。ホウ素を使用した基体の被覆に使用したCVD法のパラメータが表8に列記されている。
【表8】

【0044】
典型的な実施の形態を説明の目的で述べてきたが、先の説明は、本開示または添付の請求項の範囲への制限と考えるべきではない。したがって、本開示および請求項の精神および範囲から逸脱せずに、様々な改変、適用、および変更が当業者に想起されるであろう。
【符号の説明】
【0045】
100,310 工具ダイ
110,210 基体
120,220 耐摩耗性被覆
222 基層
224 複数の層
226 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未焼成セラミック体を製造するための工具ダイにおいて、
a. 基体と、
b. 前記基体の表面に堆積された耐摩耗性被覆であって、該耐摩耗性被覆は、50μmから65μmまでの範囲の厚さおよび外面を有し、該外面が、約0.03μmから約0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有するものである耐摩耗性被覆と、
を有してなる工具ダイ。
【請求項2】
ハニカム押出ダイ、押出スクリュー、またはプランジャの内の1つであることを特徴とする請求項1記載の工具ダイ。
【請求項3】
前記耐摩耗性被覆が、無機炭化物、無機窒化物、およびそれらの組合せの内の少なくとも1つ、並びに少なくとも1種類の添加物を含むことを特徴とする請求項1または2記載の工具ダイ。
【請求項4】
前記耐摩耗性被覆が、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、炭化タングステン、炭化モリブデン、およびそれらの組合せの内の少なくとも1つを含み、前記少なくとも1種類の添加物が、ホウ素、硫黄、およびアルミニウムの内の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項3記載の工具ダイ。
【請求項5】
前記形態が微細粒等軸形態であることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の工具ダイ。
【請求項6】
前記耐摩耗性被覆が、
a. 前記基体の表面に堆積された基層、
b. 前記基層上に堆積された複数の層であって、粗い粒状材料の第2の層と交互になった微細な粒状材料の第1の層を含む複数の層、および
c. 前記複数の層の上に堆積され、外面を有する微細な粒状材料の外層であって、0.03μmから0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを有する与える形態を有する外層、
を含むことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の工具ダイ。
【請求項7】
未焼成セラミック体を形成するための、耐摩耗性被覆を有する工具ダイを製造する方法において、
a. 工具ダイを提供する工程、および
b. 前記工具ダイの表面に化学的気相成長法により耐摩耗性被覆を堆積させる工程であって、前記耐摩耗性被覆が、無機炭化物、無機窒化物、およびそれらの組合せの内の少なくとも1つを含み、外面を有し、該外面が、0.03μmから0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有し、前記耐摩耗性被覆が50μmから65μmまでの範囲の厚さを有するものである工程、
を有してなる方法。
【請求項8】
前記工具ダイの表面に耐摩耗性被覆を堆積させる工程が、前記耐摩耗性被覆を堆積させながら、少なくとも1種類の添加物を提供する工程を含み、該少なくとも1種類の添加物が、0.03μmから0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を提供するように、前記耐摩耗性被覆の成長を変更することを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記耐摩耗性被覆が、窒化チタン、炭化チタン、炭窒化チタン、炭化タングステン、炭化モリブデン、およびそれらの組合せの内の少なくとも1つを含み、前記少なくとも1種類の添加物が、ホウ素、硫黄、およびアルミニウムの内の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記工具ダイの表面に耐摩耗性被覆を堆積させる工程が、
a. 前記工具ダイの表面に基層を堆積させる工程、
b. 前記基層上に複数の層を堆積させる工程であって、該複数の層が、粗い粒状材料の第2の層と交互になった微細な粒状材料の第1の層を含むものである工程、および
c. 前記複数の層の上に前記微細な粒状材料の外層を堆積させる工程であって、前記外層が外面を有し、該外面が、0.03μmから0.8μmRqまでの範囲の平均粗さを与える形態を有するものである工程、
を含むことを特徴とする請求項7から9いずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−501257(P2012−501257A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524997(P2011−524997)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/004873
【国際公開番号】WO2010/024902
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】