説明

希土類焼結磁石および遷移金属系スクラップのリサイクル方法、GHz帯域対応電波吸収体用磁性体粉末および電波吸収体の製造方法

【課題】 希土類磁石製造工程において生ずるスクラップ(希土類磁石の研磨過程において発生する切削屑など)のリサイクル法に関し、特に、携帯電波、自動料金支払システム、デジタル放送、室内の無線LAN等々で近年その使用量が増大しているGHz帯域のGHz帯域に電磁波吸収特性を有する磁性体粉末の製造方法及びこれを用いた電波吸収体の製造方法に関する。
【解決手段】 希土類金属と遷移金属との金属間化合物から構成された希土類磁石の製造時に発生するスクラップを原料の一部として用いることで、原料コストを大幅に減少することができ、これまでの技術で作製されたFe金属をベースとする電波吸収材がFe金属の低い磁気異方性のために数GHzの電波にのみ吸収を示すのに対して、本発明では、上記スクラップより簡便なプロセスで分離回収されるFe金属とTiとを化合化させ、結晶磁気異方性を有せしめることにより、数GHz以上の電波に対して良好な吸収特性を有する電波吸収材の作製が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、希土類磁石の製造工程において生ずるスクラップ(希土類磁石の研磨過程において発生する切削屑など)のリサイクル法に関し、特に、携帯電波、自動料金支払システム、デジタル放送、室内の無線LAN等々で近年その使用量が増大しているGHz帯域のGHz帯域に電磁波吸収特性を有する磁性体粉末の製造方法及びこれを用いた電波吸収体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報通信機器や制御機器、小型モータを使用する民生用弱電機器、さらには医療診断装置などに高性能な希土類焼結磁石が使用され、その生産量は年々増加している。特にNd−Fe−B系焼結磁石の製造においては、合金溶解から始まり、粉砕、成形、焼結、切断・研磨、表面処理を経て最終磁石製品が出来上がるが、その中でも、切断、研磨の工程において発生する磁石スクラップは磁石仕込み量の数十%に達する。
【0003】
上記の焼結磁石スクラップの再利用法として、酸に溶解させた後に希土類元素のみを溶媒抽出して分離・乾燥し、さらに酸化させて再度焼結磁石用の原料とする手法(特開平5−287405号公報、特開平9−217132号公報)が提案されている。しかしながら、上記の方法では、磁石原料合金としての再生に複雑かつ高エネルギー投入を要するプロセスを必要とする点で問題が残る。
【0004】
他方で、軽量かつ耐食性に優れるTi金属は航空宇宙産業から化学プラント、民生品用途としての時計、メガネなどあらゆる製品に使用されており、産業の発展に伴い、Tiの再利用法が重要視されている。Tiの切削加工時に発生する研磨屑に対しては、これらのスクラップが不純物金属の混入とともに酸素を含有するために、不純物金属を除去した後、金属Mgを用いたテルミット反応によりTi金属として再生されている。これらの手法は、Ti金属としての再利用を考えたもので、その品質として高純度を必要とするために再生に供せられるエネルギーは多大なものとなる。
【特許文献1】特開平5−287405号公報
【特許文献2】特開平9−217132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Nd−Fe−B系希土類焼結磁石は、その高い磁気特性のために希土類磁石市場の大半を占めているが、大きさや形状を所望の寸法に合せる際に多量の研磨屑(スラッジ)が発生する。これらスラッジは酸素や炭素等の不純物を多く含んでおり、そのままでは使用できない。そこで、貴重な資源である希土類成分のみが、酸溶解に基づく湿式法によって分離精製され、再利用されている。しかしながら、多量の酸が必要であることや、コストに見合わないために鉄分を廃棄していることなどの問題があり、簡便に再生することはできない。
【0006】
一方、Siはエレクトロニクス産業を支える最重要素材となっているが、半導体製造過程で使われるSiは20%が製品化されるものの、残りの80%は排水中に含まれ、産業廃棄物として処分されているという問題がある。
【0007】
同様に、Tiは軽量、強靭、高耐食性、高耐熱性等の優れた特性を持つ素材としてさまざまな産業分野において、その用途は急速に拡がっている(Ti伸展材の出荷量はこの10年で2倍近く成長)が、Ti鋼研磨過程で排出されるTi屑は産業廃棄物として埋め立てられており、これらの資源の有効なリサイクル技術の確立は、今後ますます重要になってくると考えられる。
【0008】
また、今日、携帯電話や無線LANをはじめとした情報通信機器の高速化、高周波数化が進むにつれ、電磁波環境問題はますます重要性を増している。電磁波障害は機器の誤動作から、人体への影響といった多岐に及ぶため、これら電磁波による利便性を損なわず、なおかつ安全に利用するための対策は必要不可欠となっている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、希土類焼結磁石研削屑(スラッジ)の新規なリサイクル方法として、スラッジをSi、Al、Ti等の金属と共にアーク溶解もしくは高周波誘導加熱およびそれに引き続く液体急冷により、Fe系金属間化合物および副生成物のスラグとすることで、前者をGHz領域の電磁波に対して有効な電磁波吸収材料とし、後者を多量の希土類を含む希土類酸化物スラグ相として有効に回収する手法を確立した。
【0010】
本発明は、希土類金属と遷移金属との金属間化合物から構成された希土類磁石の製造時に発生するスクラップを原料の一部として用いることで、原料コストを大幅に減少することができる。また、これまでの技術で作製されたFe金属をベースとする電波吸収材がFe金属の低い磁気異方性のために数GHzの電波にのみ吸収を示すのに対して、本発明では、上記スクラップより簡便なプロセスで分離回収されるFe金属とTiとを化合化させ、結晶磁気異方性を有せしめることにより、数GHz以上の電波に対して良好な吸収特性を有する電波吸収材の作製が可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明技術の適用により、希土類磁石スラッジより、効率よく希土類成分とFe成分とを酸化物スラグおよび遷移金属系合金または金属間化合物として分別でき、更に前者を希土類磁石用希土類金属として、また後者はGHz帯域対応電波吸収体用磁性体としてそれぞれ有効利用することが可能となり、該磁石のエコマテリアル化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の好ましい実施の形態を示す。
図1はこの発明に関わる電波吸収体の断面図を示したものである。反射損失(電波吸収性能)の算出は、図1のようなインピーダンス整合型のモデルを用いておこなう。このモデルでは、右図のように厚さdの吸収体の裏に金属板が置いてあり、吸収体に電波が垂直に入射する場合、吸収体表面から金属板を見込む試料のインピーダンスZinは電波の波長λ、複素誘電率ε、複素透磁率μ、自由空間のインピーダンスZ0を用いて下記(1)式のように表される。このモデルにおいては、吸収が最大、つまり反射が最小となる条件は下記(2)式に示す反射係数Sが最小の時である。このとき入射面から見たインピーダンスZinは自由空間のインピーダンスZ0と等しくなる。また、反射損失(RL)は下記(3)式のように書くことができ、Sがf(λ=c/f)とdを含むことから、(1)〜(3)式を用いて試験体の厚さdを変えた場合の反射損失を算出することができる。S<0.1となる場合は、反射波の振幅が1/10、反射電力にすれば1/100ということであり(99%吸収)、このとき (3) 式よりRL=20 (dB)となり、この値を目安として電波吸収体を設計、製造することができる。


すなわち、上記詳述した本発明の方法により得られる電波吸収体用磁性体粉末に対しエポキシ樹脂等の樹脂バインダを、例えば重量比において100:10〜100:25で配合、混練し、例えば金属板等を基板として所定の厚さのシートあるいはボード状に成型し、これを電波吸収体として使用する。なお、電磁波が最も良好に吸収される共鳴周波数は、上述の通り電波吸収体の厚みに依存し、所望の電波の周波数に応じて厚みを調整することができる。また、図1に示した形態よりも更に薄板状としたシートまたはテープ形態、あるいは信号用ケーブル等のコードの被覆体形状に電波吸収体を加工することも可能である。
【実施例】
【0013】
以下、本発明においてSiを導入した場合の実施例を詳細に説明する。
【0014】
実施例1
R'−Fe−B系焼結磁石スクラップとして、Nd−Fe−B系焼結磁石研磨屑粉末を用意した。また、Si原料としてSi片を用意した。
【0015】
アーク溶解の際に溶解しやすくするために、Nd:Fe:Bの組成比が1:14:0.5となるように上記焼結磁石研磨粉末にFe粉末を加え、加圧成型することにより圧紛体を得た。この圧紛体と、圧紛体に含まれるFe成分に対して3原子%となるようにSi片を混合し、減圧アルゴン雰囲気下でアーク溶解することにより、所望のFe系金属間化合物を得た。この際、焼結磁石研磨粉末に含まれる希土類成分はFeよりも酸化されやすいために、希土類酸化物スラグとして生成する。
【0016】
アーク溶解で得られた生成物を、主としてFe系金属間化合物からなる合金相と、主として希土類酸化物からなるスラグ相とに分離をした。得られた合金相を、石英ノズルに装填し、液体急冷凝固装置を用い、リボン状の生成物を得た。このときの作製条件は、減圧アルゴン雰囲気で高周波溶解した後、加圧したアルゴンガスを石英ノズル内に導入することにより、溶融合金を石英ノズル下部の直径0.5mmの細孔から、回転周速度25m/sの銅ロール上に噴射し急冷凝固させた。この際、アーク溶解後に分離した合金中に残留していた希土類成分は、希土類酸化物スラグとなり石英ノズル壁面に生成する。
【0017】
上記過程を経て得られたリボン状の合金は、Siの含有量が少なく、そのままでは粉砕できないため、500℃で2時間、その後引き続き400℃で2時間窒化をおこなった後、ボールミル粉砕をした。その後、得られた粉末を450℃で2時間水素還元することで、最終的な電波吸収体用磁性材料粉末を得た。この一連の過程における試料のXRDパターンの変化を図2に示す。図より、まずアーク溶解後急冷した試料ではα-Feにごくごく近い回折ピークが観測された。その後、窒化をおこなうことでXRDパターンはFe3Nに基づくブロードな回折ピークとなり、窒化が充分にされていることが確認された。その後、水素還元した試料では、観測される回折ピークは再びα-Feにごくごく近いものとなり、水素還元が充分にされていることが確認された。
【0018】
次に、上記試料粉末を25重量%のエポキシ樹脂と混合し、130℃で30分その後170℃で30分加熱・硬化することにより、外径約10mmφの円板状試料を作製した。この試料を超音波加工機を用いて外計7.00mmφ、内径3.04mmφのドーナツ状に成形後、市販のネットワークアナライザーを用いて、Sパラメータ法により0〜20GHzの周波数領域で複素誘電率および複素透磁率の周波数依存性を求めた。得られた値より反射損失(dB)の周波数依存性を計算し、試料の電波吸収特性を評価した。
【0019】
得られた電波吸収特性を図3に示す。また、図4に何ら処理を施さないNd−Fe−B系焼結磁石研磨屑粉末成形体(a)および何ら処理を施さないα-Fe粉末(b)について測定した電波吸収特性を比較として示す。図3に示した両試料においては、20 dBを超えるような良好な電波吸収特性は観測されなかった。一方で、図2に示した結果より、本試料は試料厚みを3.0から6.0mmまで変化させることで、1.5〜3.9GHzの周波数領域にわたって20dBを超える良好な電磁波の吸収が見られることがわかった。最大の吸収は、厚み5.4mmのときに1.9GHzにおいて34.4dBであった。通常球状のα-Feの共鳴周波数は1.5GHzである。この試料はSiの添加により若干の形状異方性が生じたため、わずかに高い周波数域での吸収が得られたものの、XRDパターンからもわかるように、電磁波の吸収に寄与している成分としては、ほぼα-Feと考えられる。しかし、α-Feと比較して吸収量が大幅に増加している要因については、結晶粒が細かくなり、さらに絶縁性のNd23を主とする希土類酸化物で覆われることでより渦電流の発生が少なくなったためと思われる。
【0020】
実施例2
Nd:Fe:Bの組成比が1.5:14:0.75となるように焼結磁石研磨粉末とFe粉末を混合し、実施例1と同様に加圧成型することにより圧紛体を得た。実施例1よりも希土類成分を多くしたのは合金相の粉砕を容易にするためである。この圧紛体と、圧紛体に含まれるFe成分に対して10原子%となるようにSi片を混合し、減圧アルゴン雰囲気下でアーク溶解することにより、所望のFe系金属間化合物を得た。この際、焼結磁石研磨粉末に含まれる希土類成分は実施例1と同様に、希土類酸化物スラグとして生成する。
【0021】
アーク溶解で得られた生成物を、実施例1と同様に合金相とスラグ相に分離し、合金相は液体急冷凝固装置を用いて、リボン状にした。この処理においても、実施例1と同様に、アーク溶解後の合金相中に残留していた希土類成分は、希土類酸化物スラグとなり石英ノズル壁面に生成する。
【0022】
上記過程を経て得られたリボン状の合金は、Siの含有量が多く容易に粉砕可能であったので、ボールミルにより粉砕処理を施し電波吸収体用磁性材料粉末を得た。ボールミル粉砕処理の条件は、400rpmで2時間とした。得られた粉末のXRDパターンにはFe3Siに近いピークが観測された。
【0023】
上記試料粉末を25重量%のエポキシ樹脂と混合し、実施例1と同様の手法で電波吸収特性測定用の成型体試料を作製し、試料の電波吸収特性の評価をおこなった。
【0024】
得られた電波吸収特性を図5に示す。本試料は試料厚みを3.7から6.0mmまで変化させることで、1.2〜2.3GHzの周波数領域にわたって20dBを超える良好な電磁波の吸収が見られることがわかった。最大の吸収は、厚み5.0mmのときに1.6GHzにおいて33.7dBであった。実施例1と比較すると、20dBを超える吸収が見られる周波数域は狭くなったものの、最大の吸収が見られた周波数および吸収量はほとんど変化がなく、Si成分はFe成分に対して10原子%まで導入しても、電波吸収特性に大きな影響がないことが確認された。Si導入量を多くできる場合、得られる合金は容易に粉砕可能となるために、実施例1でおこなったような窒化・水素化等の処理を経る必要がない。これはより少ないエネルギーで焼結磁石研磨粉末スクラップを電波吸収体用磁性材料粉末として再生できることを示している。
【0025】
実施例3
Nd:Fe:Bの組成比が1:14:0.5となるように焼結磁石研磨粉末とFe粉末を混合し、実施例1〜2と同様に加圧成型することにより圧紛体を得た。これとAl薄板およびSi片を、高透磁率な軟磁性材料であるセンダスト合金(Fe:Si:Al=84.9:9.7:5.4 重量比)における各元素の比率になるように混合した。この場合、Si成分量はFe成分に対して18.5原子%となる。これらの圧紛体とAl薄板およびSi片を、減圧アルゴン雰囲気下でアーク溶解することにより、所望のFe系金属間化合物を得た。この際、焼結磁石研磨粉末に含まれる希土類成分は実施例1〜2と同様に、希土類酸化物スラグとして生成する。
【0026】
アーク溶解で得られた生成物を、実施例1〜2と同様に合金相とスラグ相に分離し、合金相は液体急冷凝固装置を用いて、リボン状にした。この処理においても、実施例1〜2と同様に、合金相中に残留していた希土類成分は、希土類酸化物スラグとなり石英ノズル壁面に生成する。得られたリボン状の合金は、実施例2と同様の手法でボールミル粉砕処理を施し、電波吸収体用磁性材料粉末とした。得られた粉末のXRDパターンにはFe3Al0.7Si0.3の回折ピークが観測された。
【0027】
上記試料粉末を25重量%のエポキシ樹脂と混合し、実施例1〜2と同様の手法で電波吸収特性測定用の成型体試料を作製し、試料の電波吸収特性の評価をおこなった。
【0028】
得られた電波吸収特性を図6に示す。本試料は試料厚みを3.5から7.0mmまで変化させることで、1.9〜4.6GHzの周波数領域にわたって20dBを超える良好な電磁波の吸収が見られることがわかった。最大の吸収は、厚み5.0mmのときに2.9GHzにおいて34.0dBであった。実施例1〜2と比較すると、最大の吸収量はほとんど変化がないものの、最大の吸収が見られた周波数は高周波数側へ移動しており、より高い周波数領域での効率的な吸収材として有望であることがわかった。
【0029】
実施例4
Nd:Fe:Bの組成比が1:14:0.5となるように焼結磁石研磨粉末とFe粉末を混合し、実施例1〜3と同様に加圧成型することにより圧紛体を得た。これとSi片を、高透磁率な軟磁性材料であるセンダスト合金(Fe:Si:Al=84.9:9.7:5.4 重量比)におけるFeおよびSiの比率になるように混合した。この場合、Si成分量はFe成分に対して18.5原子%となる。これらの圧紛体とSi片を、減圧アルゴン雰囲気下でアーク溶解することにより、所望のFe系金属間化合物を得た。この際、焼結磁石研磨粉末に含まれる希土類成分は実施例1〜3と同様に、希土類酸化物スラグとして生成する。
【0030】
アーク溶解で得られた生成物を、実施例1〜3と同様に合金相とスラグ相に分離し、合金相は液体急冷凝固装置を用いて、リボン状にした。この処理においても、実施例1〜3と同様に、合金相中に残留していた希土類成分は、希土類酸化物スラグとなり石英ノズル壁面に生成する。得られたリボン状の合金は、実施例2〜3と同様の手法でボールミル粉砕処理を施し、電波吸収体用磁性材料粉末とした。得られた粉末のXRDパターンにはFe3Siの回折ピークが観測された。
【0031】
上記試料粉末を25重量%のエポキシ樹脂と混合し、実施例1〜3と同様の手法で電波吸収特性測定用の成型体試料を作製し、試料の電波吸収特性の評価をおこなった。
【0032】
得られた電波吸収特性を図7に示す。本試料は試料厚みを3.4から6.2mmまで変化させることで、2.2〜4.6GHzの周波数領域にわたって20dBを超える良好な電磁波の吸収が見られることがわかった。最大の吸収は、厚み4.5mmのときに3.3GHzにおいて38.9dBであった。実施例1〜3と比較すると、本試料が最大の吸収量が一番大きく、また最大の吸収が見られた周波数も一番高いものであった。さらに、最大の吸収を示す試料厚みも4.5mmと実施例1〜3の中で一番薄く、本試料は高い吸収特性を持つ電波吸収材として有望であることがわかった。
【0033】
実施例5
以下、本発明においてTiを導入した場合の実施例を詳細に説明する。
【0034】
R'−Fe−B系焼結磁石スクラップとして、Nd−Fe−B系焼結磁石研磨屑粉末を用意した。また、Ti原料としてTi棒を用意した。
【0035】
まず、焼結磁石研磨屑粉末を加圧成型することにより圧紛体を得た。この圧紛体と、圧紛体に含まれるFe成分に対して60原子%となるようにTiを混合し、減圧アルゴン雰囲気下でアーク溶解することにより、所望のFe系金属間化合物を得た。この際、焼結磁石研磨粉末に含まれる希土類成分はFeよりも酸化されやすいために、希土類酸化物スラグとして生成する。
【0036】
アーク溶解で得られた生成物を、主としてFe系金属間化合物からなる合金相と、主として希土類酸化物からなるスラグ相とに分離をした。得られた合金相は、後述するXRDパターンより合金相ラーベス相のFe2Tiであり、乳鉢で容易に砕くことが可能であった。乳鉢を用いて粉砕することで粉末の粒径を35μm以下にし、その後マッフル炉内にて250℃で3時間および12時間の熱処理をし、粉末表面を酸化させた。粉末の酸素濃度は、熱処理前が0.33重量%、3時間および12時間の熱処理後はそれぞれ1.42および1.88重量%であった。
【0037】
次に、上記試料粉末を20重量%のエポキシ樹脂と混合し、130℃で30分その後170℃で30分加熱・硬化することにより、外径約10mmφの円板状試料を作製した。この試料を超音波加工機を用いて外径7.00mmφ、内径3.04mmφのドーナツ状に成形後、市販のネットワークアナライザーを用いて、Sパラメータ法により0〜20GHzの周波数領域で複素誘電率および複素透磁率の周波数依存性を求めた。得られた値より反射損失(dB)の周波数依存性を計算し、試料の電波吸収特性を評価した。
【0038】
一連の過程における試料のXRDパターンの変化を図8に示す。観測された回折ピークは、すべてFe2Tiのものであり、処理の前後でXRDパターンにはほとんど変化が見られないことがわかった。
【0039】
次に、熱処理後の粉末について得られた電波吸収特性を、熱処理を施さなかった試料の特性と併せて図9に示す。図9(a)に示した3時間熱処理した後の試料は、試料厚みを0.9から2.0mmまで変化させることで、7.8〜17.6GHzの周波数領域にわたって20dBを超える良好な電磁波の吸収が見られることがわかった。最大の吸収は、厚み1.4mmのときに11.3GHzにおいて45.3dBであった。また、図9(b)に示した12時間熱処理した後の試料は、試料厚みを0.9から1.1mmまで変化させることで、15.6〜18.8GHzの周波数領域にわたって20dBを超える良好な電磁波の吸収が見られることがわかった。最大の吸収は、厚み1.0mmのときに17.5GHzにおいて37.4dBであった。図9(c)に示した熱処理をしなかった場合の試料に比べ、熱処理をした場合の試料は、どちらも20dBを大きく超える良好な吸収特性を示した。これは、酸化処理によって粉末表面が絶縁性の酸化皮膜によって覆われることで、渦電流の発生が少なくなったためと考えられる。図9(a)と(b)を比較すると、(b)の方で吸収ピークが見られる周波数域は(a)の方でカバーできており、熱処理に必要な時間は3時間で充分であることがわかった。本実施例の結果は、焼結磁石研磨粉末スクラップを電波吸収体用磁性材料粉末として有効に再生できることを示している。
【0040】
実施例6
実施例5と同様の手法で、焼結磁石研磨屑粉末圧紛体とTiを混合・アーク溶解して所望のFe系金属間化合物および副生成物の希土類酸化物スラグを得た。
【0041】
アーク溶解で得られた生成物を、実施例5と同様に合金相とスラグ相とに分離をし、合金相は乳鉢を用いて数100μmに粉砕したのち、ボールミル粉砕処理をした。そして引き続きマッフル炉内にて熱処理をし、粉末表面を酸化させた。ボールミル粉砕処理、熱処理の条件および熱処理後の粉末の酸素濃度(重量%)は、以下の表1のとおりである。なお、熱処理前の粉末の酸素濃度は0.34重量%であった。また、XRDパターンにはいずれの試料もFe2Tiの回折ピークが観測された。
【0042】
【表1】

【0043】
上記試料粉末を20重量%のエポキシ樹脂と混合し、実施例5と同様の手法で電波吸収特性測定用の成型体試料を作製し、試料の電波吸収特性の評価をおこなった。
【0044】
得られた電波吸収特性を図10に示す。これら3つの試料の中で最もよい電波吸収特性を示したのは、図10(c)の試料3であった。試料3は試料厚みを1.0から2.3mmまで変化させることで、6.2〜13.4GHzの周波数領域にわたって20dBを超える良好な電磁波の吸収が見られることがわかった。最大の吸収は、厚み1.2mmのときに12GHzにおいて32.5dBであった。試料3と比較すると、図10(a)の試料1は20dBを超える吸収に必要な試料厚みが2.0〜6.0mmと厚く、また最大の吸収を示す周波数は10.2GHzと若干低いものであった。また、図10(b)の試料2は20dBを超える吸収に必要な試料厚みが3.7〜6.0mmと厚く、またその周波数範囲も狭いものであった。これら試料1および2に見られる特性の低下は、ボールミルによる粉砕で化合物の分解が始まってしまったためと思われる。試料3に見られた特性は、実施例5での試料の電波吸収特性には劣るものの、必要な熱処理条件が150℃・1時間と穏やかな条件であるため、焼結磁石研磨粉末スクラップを電波吸収体用磁性材料粉末として再生する手法として非常に有効であると思われる。
【0045】
実施例7
焼結磁石研磨屑粉末にSiを導入した実施例1〜4および、Tiを導入した実施例5〜6において、アーク溶解もしくは液体急冷凝固処理の際に発生した、希土類酸化物スラグ相に含まれる希土類成分の量を概算した。
【0046】
(a)実施例1〜4の場合、原料の焼結磁石研磨屑粉末とSiの総量に対して、得られたスラグは12.3重量%であった。また、(b)実施例5〜6の場合、原料の焼結磁石研磨屑粉末とTiの総量に対して、得られたスラグは17.5重量%であった。(a)、(b)どちらの場合も、得られたスラグのXRD測定およびEDX(エネルギー分散型蛍光X線分析)測定による成分分析の結果、スラグはほぼ希土類酸化物Nd23であることがわかった。また、(a)、(b)それぞれの場合のスラグの酸素濃度は10.72、10.53重量%であった。
【0047】
上記結果より、スラグに含まれる希土類成分を概算すると、(a)の場合は原料の焼結磁石研磨屑粉末に含まれる希土類成分の62%、また(b)の場合は64%となり、貴重な資源である希土類成分を有効に回収できていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に関わる電波吸収体の基本構造である。
【図2】焼結磁石研磨屑粉末に3原子%のSiを導入し、アーク溶解および急冷した後の試料、その後窒化した試料、その後水素還元した試料のX線回折パターンである。
【図3】焼結磁石研磨屑粉末に3原子%のSiを導入して作製した試料の、反射損失の周波数依存性である。
【図4】(a)何ら処理を施さないNd−Fe−B系焼結磁石研磨屑粉末成形体、および(b)何ら処理を施さないα-Fe粉末について測定した反射損失の周波数依存性である
【図5】焼結磁石研磨屑粉末に10原子%のSiを導入して作製した試料の、反射損失の周波数依存性である。
【図6】焼結磁石研磨屑粉末に、Fe:Si:Al=84.9:9.7:5.4(重量比)となるようにAlおよびSiを導入して作製した試料の、反射損失の周波数依存性である。
【図7】焼結磁石研磨屑粉末に、Fe:Si=84.9:9.7(重量比)となるようにSiを導入して作製した試料の、反射損失の周波数依存性である。
【図8】焼結磁石研磨屑粉末に60原子%のTiを導入し、アーク溶解し粉砕した後の試料、その後250℃で3時間および12時間の熱処理をした試料のX線回折パターンである。
【図9】焼結磁石研磨屑粉末に60原子%のTiを導入し、アーク溶解し粉砕した後、マッフル炉を使って、(a)250℃で3時間熱処理、(b)250℃で12時間熱処理、(c)熱処理なし、それぞれの試料の反射損失の周波数依存性である。
【図10】焼結磁石研磨屑粉末に60原子%のTiを導入して作製した試料を、ボールミル粉砕装置およびマッフル炉を使って、(a)400rpmで1時間粉砕、150℃で1時間熱処理、(b)400rpmで1時間粉砕、250℃で1時間熱処理、(c)200rpmで2時間粉砕、150℃で1時間熱処理をした試料の反射損失の周波数依存性である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Nd−Fe−B系希土類焼結磁石研削屑(スラッジ)に対する有効なリサイクル方法として、スラッジ粉末、磁性体中の磁性成分(主にFe)組成比調整のためのFe、CoおよびNi金属(以下M'金属という)と磁性体の構造形成成分であるAl、Si、Ti、Zr、NbおよびMo金属(以下M''金属という)のうち、少なくともそれぞれを一種以上とを原子比(スラッジに含まれるFeとM'金属との合計量/M''金属量)として3から60%で溶解し、該スラッジ中の希土類成分を主成分とする酸化物スラグと該スラグ中のFeとM'金属とM''金属とからなる合金または金属間化合物の融液とを形成せしめ、前者を希土類粗原料として再利用すると共に、後者をM'金属とM''金属とからなる合金または金属間化合物からなる磁性材料として再利用することを特徴とする再生技術。
【請求項2】
請求項1において、該スラッジ粉末、M'金属およびM''金属の混合物を高周波またはアーク溶解後、表層にあるスラグ部と合金または金属間化合物からなる磁性材料部とを粗粉砕により分離することを特徴とする該磁石スクラップ再生技術。
【請求項3】
請求項1において、該スラッジ粉末、M'金属およびM''金属の混合物を、高周波またはアーク溶解により融液とし、溶湯の流し出しによりスラグ部と合金または金属間化合物からなる磁性材料部とを分離することを特徴とする該磁石スクラップの再生技術。
【請求項4】
上記請求項において、スラグ部より分離させた合金または金属間化合物インゴットまたは溶湯を、最溶解またはそのままの状態で急冷し、均一な微結晶組織からなる薄帯とする該磁石スクラップの再生技術。
【請求項5】
上記請求項1から3において、スラグ部より分離させた合金または金属間化合物インゴットをそのまま、または上記請求項4において、急冷した合金または金属間化合物薄帯を、それぞれ粉砕し、樹脂とのコンパウンド状シートまたはボンド状等の成型体をGHz帯域対応の合金または金属間化合物に基づく電波吸収材として再利用する再生技術。
【請求項6】
上記請求項において得られたFe系金属間化合物に対して、空気中で150〜250℃の温度範囲で1〜12時間熱処理をし、合金または金属間化合物粉末表面に酸化被膜を形成せしめることでFe系金属間化合物粉末同士の絶縁をはかり、複素誘電率を低く抑えかつ粉末粒子内の渦電流の発生を抑制することで、更なる高い電磁波吸収特性を有することを特徴とする合金または金属間化合物粉末を製造する方法。
【請求項7】
上記請求項において、M'およびM''金属が、製造過程または使用済み機器から発生するスクラップである該再生技術。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−77264(P2006−77264A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259282(P2004−259282)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年5月13日 日本希土類学会発行の「希土類No.44」に発表
【出願人】(300011416)
【Fターム(参考)】