説明

希土類焼結磁石製造方法

【課題】有機分散剤や有機潤滑剤による影響を受けることなく、高い磁気特性を有する希土類焼結磁石の製造方法を提供する。
【解決手段】本方法は原料の合金を粗粉砕した後にジェットミル法によって微粉砕することにより合金粉末を得る粉砕工程と、その合金粉末を磁界中で配向する配向工程と、配向工程後の合金粉末を焼結する焼結工程とを有し、微粉砕を水素ガス中、又は水素ガスと不活性ガスの混合ガス中で行うことを特徴とする。本方法では水素が分散剤となり、有機分散剤を用いずに効率よく微粉砕することができるため、有機分散剤に由来する炭素、酸素、窒素原子が合金粉末の微粉粒子内に侵入することがなく、磁気特性が向上する。また、粉砕工程と配向工程の間に合金粉末と液化不活性ガスを混合し、液化不活性ガスが完全に気化する前に配向工程を行うと、有機潤滑剤を用いずに配向性が高まるため、有機潤滑剤に由来する炭素等の影響がないうえ、脱有機潤滑剤工程が不要になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類−鉄−ホウ素(以下、「R-Fe-B」という)系や希土類−コバルト(R-Co)系の希土類焼結磁石を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
R-Fe-B系磁石は、1982年に佐川(本願発明者のうちの1人)らによって見出されたものであり、それまでの永久磁石をはるかに凌駕する特性を示し、ネオジム(希土類の一種)、鉄及び硼素という比較的豊富で廉価な原料から製造することができるという特長を有する。そのため、R-Fe-B系磁石は、ハードディスク等のボイスコイルモータ、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モータ、電動補助型自転車用モータ、産業用モータ、高級スピーカー、ヘッドホン、永久磁石式磁気共鳴診断装置等、様々な製品に使用されている。
【0003】
R-Fe-B系磁石の製造方法の1つに焼結法がある。焼結法は、それにより作製されるR-Fe-B系磁石の磁気特性が優れているうえ、且つ工業的に確立しているという特長を有する。焼結法によりR-Fe-B系磁石を製造する際には一般的に、まず溶解・鋳造によりR-Fe-B合金材を作製し、これを粉砕することにより合金粉末を得る。次に、得られた合金粉末を金型に充填し、この合金粉末にプレス機で圧力を加えつつ磁界を印加することにより成形と配向処理を同時に行う。そして、得られた成形体を金型から取り出し、加熱して焼結することにより、R-Fe-B系焼結磁石を得る。以下、このように圧力下で成形及び配向処理を行う製造方法を「プレス法」と呼ぶ。
【0004】
一方、佐川らは「プレスレス法」によりR-Fe-B系焼結磁石を作製することを提案している(特許文献1)。プレスレス法は、充填容器に合金粉末を充填し、合金粉末に圧力を加えることなく磁界を印加することにより配向処理を行った後、充填容器ごと加熱して合金粉末を焼結するものである。この方法によれば、磁界配向時に合金粉末に圧力が印加されないため、合金粉末の各粒子の配向が拘束されることがなく、より高い磁気特性を持つR-Fe-B系焼結磁石を得ることができる。また、プレス機が不要になるため、製造装置を小型化することができる。
【0005】
プレス法、プレスレス法を問わず、R-Fe-B系焼結磁石では、それを構成する微結晶の平均粒径が大きくなると、微結晶内に磁区が形成されやすくなり、隣接する磁区の磁化が互いに逆方向になるため、焼結磁石の磁気特性が低下する。そこで、R-Fe-B系焼結磁石では、焼結前の合金粉末の粒子を単磁区の大きさに近い数μm程度まで小さくすることにより、多数の磁区が形成されることを防いで磁気特性を高めることが行われている(特許文献1〜3)。なお、本願では粒径はレーザ法により測定される値を用い、メジアン径(D50)で表す。
【0006】
数μm程度の粒径を持つ合金粒子を作製する際には、一般に、まず原料の合金材を数mm〜数百μmの粒径になるまで粗粉砕した後、数μm程度の粒径になるまで微粉砕する、という2段階の粉砕を行う(特許文献3)。以下、粗粉砕後且つ微粉砕前の合金粒子を「粗粉粒子」と、微粉砕後の合金粒子を「微粉粒子」と呼ぶ。粗粉砕は多くの場合、水素解砕法を用いて行う。水素解砕法は、原料の合金材に水素を吸蔵させることによって合金材を脆化させ、自然崩壊やボールミル等を用いた粉砕により粒子を得るものである。微粉砕は多くの場合、ジェットミル法を用いて行う。ジェットミル法は、粒子を高速の気流中に導入し、粒子同士又は粒子と衝突板を衝突させて粒子を粉砕するものである。
【0007】
粗粉粒子をそのまま微粉砕すると、粉砕中の粒子の表面に現れた活性な面において粒子同士が再付着することによって凝集したり、ジェットミルの側壁に付着したりするため、気流中での微粉砕を効率よく行うことができない。そこで、粗粉粒子に分散剤を添加することが行われている(特許文献4)。これによって活性面を含む粒子の表面が分散剤で被覆されるため、粒子同士が再付着したりジェットミルの側壁に付着したりすることなく気流中に分散し、微粉砕の効率が向上する。
【0008】
分散剤には、R-Fe-B系磁石の粒子に付着しやすい脂肪酸や脂肪酸エステル等の有機物から成るものが用いられる。このような有機分散剤は微粉粒子の表面に残留し、微粉砕後の配向工程においては、磁界による微粉粒子の回動を生じやすくして配向性を高めるという潤滑剤の役割を果たす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-019521号公報
【特許文献2】特開昭59-163802号公報
【特許文献3】特開昭63-033505号公報
【特許文献4】特開2007-266026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このような有機分散剤は炭素、酸素又は/及び窒素原子を含有しているため、配向工程後の微粉粒子に有機分散剤が残留していると、焼結工程時にこれら炭素、酸素又は/及び窒素原子が微粉粒子内に侵入し、R-Fe-B系焼結磁石の磁気特性が低下する。特に、磁気特性を高めるために粒径を小さくすると、有機分散剤に接触する微粉粒子の表面積が大きくなり、炭素、酸素又は/及び窒素原子が微粉粒子内に侵入やすくなるため、却って磁気特性が低下してしまう。
【0011】
特許文献4には、配向工程後、焼結工程の前に、合金粉末の成形体を焼結温度よりも低い温度に加熱することにより有機分散剤を除去することが記載されている。しかし、有機分散剤を完全に除去することは困難であり、磁気特性の低下は避けられない。
【0012】
ここまではR-Fe-B系焼結磁石を例に説明したが、R-Co系焼結磁石等の他の希土類焼結磁石でも同様の問題が生じる。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、有機分散剤による影響を受けることなく、高い磁気特性を有する希土類焼結磁石を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明に係る希土類焼結磁石製造方法は、原料の合金材を粗粉砕した後にジェットミル法によって微粉砕することにより合金粉末を得る粉砕工程と、前記合金粉末を磁界中で配向する配向工程と、前記配向工程後の合金粉末を焼結する焼結工程とを有する方法であって、
前記微粉砕を水素ガス中、又は水素ガスと不活性ガスの混合ガスである水素含有ガス中で行うことを特徴とする。
【0015】
本発明では、微粉砕を水素ガス中又は水素含有ガス中で行うことにより、水素が分散剤の役割を果たし、合金の粒子同士が再付着によって凝集することが抑制される。これにより、有機分散剤を用いなくとも効率よく微粉砕を行うことができるため、微粉砕で得られた合金粉末を焼結する際に有機分散剤に由来する炭素、酸素又は/及び窒素原子が合金粉末の微粉粒子内に侵入することがない。そのため、希土類焼結磁石の磁気特性が向上する。
【0016】
前記不活性ガスには、例えば、窒素ガス、若しくは希ガス又はそれらの2種以上のガスの混合ガスを用いることができる。それらのうち、微粉砕時に合金粒子と反応しない希ガス(又は2種以上の希ガスの混合ガス)を用いることが望ましい。特に希ガスの1種であるヘリウムガスは、ジェットミル法において気流の流速を高くすることができる点、及び循環再利用の技術が確立している点で好適に用いることができる。また、アルゴンガスは希ガスの中で最も安価であるという点で好適に用いることができる。一方、窒素ガスは、アルゴンガスよりも安価であるうえ、粉砕工程後に微粉粒子の表面に残留する窒素の量が(希ガスほどではないものの)有機分散剤と比較するとはるかに少ないため、焼結工程時に微粉粒子内に窒素原子が微粉粒子内に侵入することによる磁気特性の低下を抑えることができるという利点を有する。
【0017】
水素ガスは、従来の有機分散剤とは異なり、配向工程における潤滑剤としての役割は果たさない。そこで、前記粉砕工程と前記配向工程の間に、前記合金粉末に液化不活性ガスを混合し、該液化不活性ガスが完全に気化する前に前記配向工程を行うことが望ましい。液化不活性ガスは微粉粒子の表面に一定時間付着しており、その間に配向工程を行うことにより、液化不活性ガスが潤滑剤として作用する。これにより、磁界から受ける力による微粉粒子の回動を生じやすくし、配向性を高めることができる。また、成形後の合金粉末は潤滑剤を含んでいないので、分散剤の場合と同様に有機潤滑剤に由来する炭素、酸素又は/及び窒素原子が微粉粒子内に侵入することがないうえ、焼結の際に長時間の脱有機潤滑剤工程(仮焼工程)が不要になる。
【0018】
前記液化不活性ガスには、例えば、窒素ガス、又は希ガスを液化したもの(液化希ガス)を用いることができる。その中で、前記水素含有ガス中の不活性ガスと同様の理由により、液化希ガスが望ましい。なお、液化不活性ガスは水素含有ガスで用いた不活性ガスと同じ成分のものである必要はない。例えば、水素含有ガス中の不活性ガスには気流の流速を高くするためにヘリウムガスを用い、液化不活性ガスには安価な液化アルゴンを用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、有機物を含有する分散剤を用いることなく希土類焼結磁石の原料の合金を微粉砕することができる。このため、有機分散剤に由来する炭素、酸素又は/及び窒素原子が微粉粒子内に侵入することを防ぐことができ、希土類焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。
【0020】
また、粉砕工程と配向工程の間に合金粉末に液化不活性ガスを混合し、液化不活性ガスが完全に気化する前に配向工程を行うことにより、有機物を含有する潤滑剤を用いることなく配向性を高めることができる。このため、分散剤の場合と同様に、有機潤滑剤に由来する炭素、酸素又は/及び窒素原子が微粉粒子内に侵入することを防ぐことができ、希土類焼結磁石の磁気特性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
まず、本発明に係る方法により製造される希土類焼結磁石の例として、R-Fe-B系焼結磁石及びR-Co系焼結磁石について説明する。
R-Fe-B系焼結磁石は、基本的には、R(RはYを含む希土類元素のうち少なくとも一種)が2〜30原子%、Bが2〜28原子%、及び残部が実質的にFeから成るものである。但し、磁石の温度特性や耐食性の改善、微粉末の安定性改善のためにFeの50原子%未満をCoに置換してもよい。また、保磁力の改善、焼結性やその他製造性の改善のために、Feの一部をTi, Zr, Hf, V, Nb, Ta, Cr, Mo, W, Mn, Ni, Al, Ga, Ge, Sn, Sb, Biなどに置換してもよい(特に、V, Moが好ましい)。これら(Co以外の)添加元素は複合添加してもよいが、総量で6原子%以下であることが好ましい。さらに、RをR1(Dy, Tb, Gd, Ho, Er, Tm, Ybの一種以上)とR2(Nd又は/及びPrの合計が80%以上で残りがR1以外のYを含む希土類元素の一種以上)の和とし、R1が12〜20原子%、R2がRの残部、Bが4〜20原子%、Feが全体の残部からなる組成は、減磁曲線の高い角型性と高い保磁力を得ることができるため好ましい。R-Fe-B系焼結磁石の場合、焼結温度は900〜1200℃の間である。
【0022】
R-Co系焼結磁石には、「1-5型」のものと「2-17型」のものがある。
1-5型R-Co系焼結磁石は組成式でRTx(3.6<x<7.5)と表されるものである。RはSm又はSmとLa, Ce, Pr, Nd, Y, Gdの1種又は2種以上の組み合わせから成り、TはCo又はCoとMn, Fe, Cu, Niのうち1種又は2種以上の組み合わせから成る。焼結温度は1050〜1200℃である。
2-17型R-Co系焼結磁石の組成範囲は、R(Sm又はSmを50原子%以上含む2種以上の希土類元素)が10〜16原子%、Feが2〜25原子%、Cuが2〜12原子%、Zr, Nb, Hf, Vのうちの1種以上が0.5〜3原子%、残部がCo及び不可避的不純物、というものである。焼結温度は1050〜1250℃である。
1-5型、2-17型のいずれの場合も、焼結後に900℃以下で熱処理を施すことによって保磁力を高めることができる。
【0023】
次に、本発明に係る希土類焼結磁石製造方法の一実施形態を説明する。
まず、製造しようとする希土類焼結磁石と(製造工程中に不可避的に混入する不純物を除いて)同じ組成を有する合金材をストリップ法により作製する。ストリップ法は、溶解した合金原料を水冷ロール上で急速に冷却することによって合金の薄片(合金材)を作製するものである。次に、得られた合金材を水素ガスに晒して水素を吸蔵させることにより脆化させ、ボールミルで粉砕する(粗粉砕)。これにより、メジアン径で数百μmの粗粉粒子が得られる。
【0024】
次に、得られた粗粉粒子をジェットミルで微粉砕する。ジェットミルには、一般的に流動層式、渦流式及び衝突板式のものがあり、本実施形態ではそれらのいずれを用いてもよい。流動層式と渦流式は気流中で粒子同士を衝突させることにより粒子を粉砕するものであるのに対して、衝突板式は気体と粒子の混合体の気流を衝突板に衝突させることにより粒子を粉砕するものである。本実施形態では、気流を形成する気体に、水素ガス、又は水素ガスと不活性ガスの混合気体(水素含有ガス)を用いる。このように水素ガス又は水素含有ガスを用いることにより、粗粉粒子、微粉粒子及び微粉砕の途上にある粒子の表面に水素ガスの分子が付着し、それにより粒子が他の粒子やジェットミルの側壁に付着することが抑えられるため、有機分散剤を用いることなく、微粉粒子から成る合金粉末を効率よく得ることができる。
【0025】
水素ガスと混合する不活性ガスとして、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、キセノンガスのうちの1種又は2種以上を混合したものが挙げられる。
【0026】
このように微粉砕を行った後、そのまま次の工程に進むこともできるが、微粉粒子中には微粉砕時に用いた水素が吸蔵されているため、この段階で合金粉末を300〜600℃の真空中で加熱することにより水素を除去することが望ましい。
【0027】
次に、得られた合金粉末を充填容器に充填する。そして、プレス法の場合には合金粉末に圧力を加えつつ磁界を印加することにより成形と配向処理を同時に行い、プレスレス法の場合には合金粉末に圧力を加えることなく磁界を印加することにより配向処理を行う。ここで、プレス法、プレスレス法のいずれの場合においても、合金粉末に液化不活性ガスを混合することが望ましい。このような液化不活性ガスは潤滑剤として作用するため、配向処理の際に微粉粒子が磁界による力を受けて回動しやすくなり、配向性が高まる。液化不活性ガスには、液化窒素や液化した希ガスを用いることができるが、微粉粒子との反応性が低い液化希ガスを用いることが望ましい。
【0028】
プレス法の場合には、配向工程後、合金粉末の成形体を充填容器から取り出し、上述の焼結温度まで加熱する。プレスレス法の場合には、配向工程後、合金粉末を充填容器から取り出すことなく、充填容器ごと上述の焼結温度まで加熱する。これにより、合金粉末が焼結し、希土類焼結磁石が得られる。
【0029】
本実施形態では粉砕処理及び配向処理のいずれにおいても有機分散剤(潤滑剤)を用いないため、焼結処理時に合金粉末の微粉粒子に有機物に起因する炭素、酸素又は/及び窒素原子が混入することがない。
【実施例】
【0030】
以下、実施例として、本発明に係る方法を用いてR-Fe-B系希土類焼結磁石を作製し、その磁気特性を測定した結果を説明する。併せて、有機分散剤及び有機潤滑剤を用い、それ以外の点は本実施例と同じ方法で、本実施例と同じ組成のR-Fe-B系希土類焼結磁石を作製し、その磁気特性を測定した結果(比較例)を説明する。
【0031】
まず、本実施例の製造方法を説明する。まず、Nd:9.8原子%、Pr:4.6原子%、B:6.1原子%、Co:1.1原子%、 Al:0.6原子%、Cu:0.1原子%、Fe:残部という組成を有する合金の薄片をストリップキャスト法で作製した。そして、この薄片を水素吸蔵法で粗粉砕することにより粗粉粒子を作製した。
【0032】
次に、得られた粗粉粒子をジェットミルにより微粉砕した。その際、気流を形成する気体には、ヘリウムガスに水素ガスを3%混合した水素含有ガスを用いた。また、水素含有ガスは、水素ガスの濃度を測定しつつ繰り返し循環使用し、使用中に水素ガス濃度が2%を下回った時には水素ガスを補充して濃度を3%に回復させる操作を行った。この微粉砕により得られた合金粉末のメジアン径D50を測定したところ、約2μmであった。その後、得られた合金粉末を真空中で4時間、600℃に加熱することにより脱水素処理を行った。
【0033】
続いて、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内において、潤滑剤としての液化アルゴンと合金粉末を混合し、混合物をスラリー状にしたうえで、充填容器に充填し、充填容器に蓋を取り付けた。そして、合金粉末に対して、圧力を印加することなく、充填容器と共に9Tのパルス磁界を印加することにより、合金粉末の微粉粒子を配向させた。
【0034】
そして、配向処理後の合金粉末を充填容器に充填したままの状態で980℃に加熱することにより、合金粉末を焼結させた。これにより、R-Fe-B系希土類焼結磁石(サンプルA)が得られた。
【0035】
次に、比較例の製造方法を説明する。粗粉粒子を作製するまでの工程は上記実施例と同じである。その後、粗粉粒子と分散剤としてのオクタン酸メチル(粗粉粒子に対して0.2重量%)を混合したうえで、ヘリウムガス(水素ガスを含有せず)を用いてジェットミルにより粗粉粒子を微粉砕した。この微粉砕により得られた合金粉末のメジアン径D50を測定したところ、上記実施例と同様に約2μmであった。
【0036】
続いて、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内において、合金粉末と潤滑剤としてのオクタン酸メチル(合金粉末に対して0.1重量%)を混合し、充填容器に充填した。なお、分散剤として粗粉粒子と混合されたオクタン酸メチルも合金粉末の表面に残留し、潤滑剤として機能する。その後、上記実施例と同じ方法により、配向処理及び焼結処理を行うことにより、R-Fe-B系希土類焼結磁石(サンプルB)が得られた。
【0037】
このように得られたサンプルA及びサンプルBにつき、酸素、炭素及び窒素の含有濃度、並びに保磁力を測定した。その結果を表1に示す。参考として、微粉砕を行う前の粗粉粒子(サンプルC)につき、酸素、炭素及び窒素の含有濃度を測定した結果を併せて示す。
【0038】
【表1】

【0039】
サンプルA中の炭素量はサンプルBの約1/5であり、サンプルA中の酸素量及び窒素量は共にサンプルBの約1/3であった。そして、サンプルAの保磁力はサンプルBの約1.6倍であった。これらの結果から、本実施例の方法により製造された希土類焼結磁石は比較例の場合よりも炭素、酸素及び窒素の含有量が抑えられ、それにより保磁力が高まることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の合金を粗粉砕した後にジェットミル法によって微粉砕することにより合金粉末を得る粉砕工程と、前記合金粉末を磁界中で配向する配向工程と、前記配向工程後の合金粉末を焼結する焼結工程とを有する希土類焼結磁石の製造方法であって、
前記微粉砕を水素ガス中、又は水素ガスと不活性ガスの混合ガスである水素含有ガス中で行うことを特徴とする希土類焼結磁石製造方法。
【請求項2】
前記不活性ガスが希ガス又は2種以上の希ガスの混合ガスであることを特徴とする請求項1に記載の希土類焼結磁石製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスがヘリウムガスであることを特徴とする請求項2に記載の希土類焼結磁石製造方法。
【請求項4】
前記粉砕工程と前記配向工程の間に、前記合金粉末と液化不活性ガスを混合し、該液化不活性ガスが完全に気化する前に前記配向工程を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の希土類焼結磁石製造方法。
【請求項5】
前記液化不活性ガスが液化希ガスであることを特徴とする請求項4に記載の希土類焼結磁石製造方法。

【公開番号】特開2010−232587(P2010−232587A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−81034(P2009−81034)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、希少金属代替材料開発プロジェクトの希土類磁石向けディスプロシウム使用量低減技術開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591044544)インターメタリックス株式会社 (23)
【出願人】(000158301)岩谷瓦斯株式会社 (56)
【Fターム(参考)】