説明

希土類磁石の製造方法及び希土類磁石

【解決手段】R1214B型化合物を主相とするR1−T−B系焼結体に、R2(Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素)と、M(B、C、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上の元素)とを含有する溶湯を急冷して得た急冷合金粉末を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結体の焼結温度以下の温度に加熱することによりR2元素を焼結体の内部に拡散させる。
【効果】R2とMを含有する急冷合金粉末を焼結体上に塗布、拡散処理することにより、粉末の酸化が抑制されて取り扱い上の危険性が低減し、生産性に優れると共に、高価なTbやDy使用量が少なく、残留磁束密度の低減を抑制しながら保磁力を増大させた高性能のR−T−B系焼結磁石を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類を含む急冷合金粉末を用いた希土類磁石の製造方法、及び残留磁束密度の低減を抑制しながら保磁力を増大させた希土類磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系焼結磁石は、近年、家電をはじめ、産業機器、電気自動車、風力発電など適用範囲が更に広がってきている。それに伴い、磁石特性の更なる高性能化が要求されている。
【0003】
Nd−Fe−B焼結磁石の特性を向上させるために、これまで様々な改良が行われている。このうち保磁力に関しては、結晶粒の微細化やAl、Gaなどの元素添加、Ndリッチ相の体積比率を増やすことなどが知られているが、現在最も一般的に行われている方法はNdの一部をDyやTb元素で置換することである。
【0004】
Nd−Fe−B磁石の保磁力機構はニュークリエーションタイプであり、R2Fe14B主相結晶粒界面での逆磁区の核生成が保磁力を支配すると言われている。DyやTbで置換するとR2Fe14B相の異方性磁界が増大するため逆磁区の核生成が生じにくくなり、保磁力が向上する。しかし、通常の方法でDyやTbを添加した場合、主相粒の界面近傍だけでなく、粒内部までDyやTbで置換されるため、残留磁束密度の低下が避けられない。更に、高価なTbやDyの使用量が多くなるという問題もあった。
【0005】
これに対し、組成の異なる2種類の合金粉体を混合、焼結してNd−Fe−B磁石を製造する方法が開発された(2合金法)。これは、R2Fe14B相を主とし、かつRがNd、Prである合金粉末と、DyやTbを含むRリッチの合金粉末を混合した後、微粉砕、磁界中成形、焼結、時効処理を経て、Nd−Fe−B磁石を作製するものである(特許文献1:特公平05−031807号公報、特許文献2:特開平05−021218号公報)。この方法の意図するところは、保磁力への影響が大きい粒界面付近だけをDy、Tbで置換し、粒内部はNdやPrのままにして、残留磁束密度の低下を抑制し、かつ効果的に保磁力を向上させる点にある。しかし、実際には、焼結中にDyやTbが主相粒内部に拡散するため、粒界部近傍のDy、Tbが偏在する厚みは1μm程度以上となり、逆磁区の核生成を生じる深さに比べて著しく厚くなってしまい、その効果はまだ十分とはいえない。
【0006】
最近、希土類元素をR−Fe−B焼結体母材の表面から拡散させる手段がいくつか開発されている。例えば、蒸着やスパッタリング法を用いてNd−Fe−B磁石表面にYb、Dy、Pr、Tbなどの希土類金属やAl、Taなどを成膜した後に熱処理を行う方法(特許文献3:特開昭62−074048号公報、特許文献4:特開平01−117303号公報、特許文献5:特開2004−296973号公報、特許文献6:特開2004−304038号公報、特許文献7:特開2005−011973号公報、非特許文献1:K. T. Park, K. Hiraga and M. Sagawa, “Effect of Metal-Coating and Consecutive Heat Treatment on Coercivity of Thin Nd-Fe-B Sintered Magnets”, Proceedings of the Sixteen International Workshop on Rare-Earth Magnets and Their Applications, Sendai, (2000) p.257、非特許文献2:町田憲一、李徳善、「特定元素を粒界に偏在させた高性能希土類磁石」、金属、78、(2008)、760)や、Dy蒸気雰囲気中で焼結体表面からDy元素を拡散させる方法(特許文献8:国際公開2007/102391号パンフレット、特許文献9:国際公開2008/023731号パンフレット)、焼結体表面にフッ化物や酸化物などの希土類無機化合物粉末を塗布した後、熱処理を施す方法(特許文献10:国際公開2006/043348号パンフレット)、CaH2還元剤で希土類フッ化物や酸化物を還元しながら拡散させる方法(特許文献11:国際公開2006/064848号パンフレット)、希土類を含む金属間化合物粉末を用いる方法(特許文献12:特開2008−263179号公報)などである。
【0007】
これらの手法では、焼結体母材の表面に設置されたDy、Tbなどの元素が熱処理中に焼結体組織の粒界部を主な経路として焼結体母材の内部まで拡散していく。このとき熱処理条件を最適に設定すれば、主相粒内部への体拡散は抑制され、DyやTbが粒界部や焼結体主相粒内の粒界部近傍のみに極めて高濃度に濃化した組織となる。これは前述の2合金法の場合と比べてより理想的な組織形態であり、磁石特性もこの組織形態を反映して、残留磁束密度の低下抑制と高保磁力化が更に顕著に発現し、磁石性能の大幅な向上が図られる。
【0008】
しかし、特開昭62−074048号公報、特開平01−117303号公報、特開2004−296973号公報、特開2004−304038号公報、特開2005−011973号公報、国際公開2007/102391号パンフレット、国際公開2008/023731号パンフレット(特許文献3〜9)や、K. T. Park et al., Proceedings of the Sixteen International Workshop on Rare-Earth Magnets and Their Applications, Sendai, (2000) p.257(非特許文献1)に記載されているスパッタリングや蒸着法を用いる方法は、大量の試料を一度に処理するのが困難であったり、特性のばらつきが大きかったりするなど量産性に問題があり、また、蒸着源のDyがチャンバー内に多く飛散して工程上のDyロスが大きいなどの問題点を有する。
【0009】
また、国際公開2006/064848号パンフレット(特許文献11)に記載の方法は、CaH2還元剤で希土類フッ化物や酸化物を還元するものであるが、CaH2は水分と容易に反応するため、取り扱い上の危険性が大きく、やはり量産に向かない。
【0010】
更に、特開2008−263179号公報(特許文献12)記載の方法は、Dy、Tbなどの希土類元素と、M元素(MはAl、Si、C、P、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上)とからなる金属間化合物相を主体とする粉末を焼結体上に塗布、熱処理する方法である。硬く脆い金属間化合物は粉砕しやすく、また粉末を水やアルコールなどの液中に分散させたときも酸化などの反応を起こしにくいので、取り扱いが比較的容易である。しかし、金属間化合物の酸化等の反応が完全に生じないわけではなく、また、例えば、目的組成からずれがあった場合に、金属間化合物相以外の反応活性な相が形成されて、着火、燃焼などを生じる場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平05−031807号公報
【特許文献2】特開平05−021218号公報
【特許文献3】特開昭62−074048号公報
【特許文献4】特開平01−117303号公報
【特許文献5】特開2004−296973号公報
【特許文献6】特開2004−304038号公報
【特許文献7】特開2005−011973号公報
【特許文献8】国際公開2007/102391号パンフレット
【特許文献9】国際公開2008/023731号パンフレット
【特許文献10】国際公開2006/043348号パンフレット
【特許文献11】国際公開2006/064848号パンフレット
【特許文献12】特開2008−263179号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】K. T. Park, K. Hiraga and M. Sagawa, “Effect of Metal-Coating and Consecutive Heat Treatment on Coercivity of Thin Nd-Fe-B Sintered Magnets”, Proceedings of the Sixteen International Workshop on Rare-Earth Magnets and Their Applications, Sendai, (2000) p.257
【非特許文献2】町田憲一、李徳善、「特定元素を粒界に偏在させた高性能希土類磁石」、金属、78、(2008)、760
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたもので、焼結磁石の残留磁束密度の低減を抑制しながら保磁力を増大させたR−T−B系希土類永久磁石、及びこのようなR−T−B系希土類永久磁石を効率よく、かつ確実に製造することができる方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、R−Fe−B系焼結体の表面に拡散材料を接触させた状態で熱処理を施す拡散処理のための該拡散材料として、R2(Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素)と、M(B、C、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上の元素)とを含有する溶湯を急冷して得た急冷合金粉末を用いることにより、粉末の酸化が抑制され、取り扱い上の危険性が低減し、高い特性を有するR−Fe−B磁石を生産性に優れた方法で作製できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
従って、本発明は、以下の希土類磁石の製造方法及び希土類磁石を提供する。
請求項1:
1214B型化合物(R1はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、TはFe及び/又はCo)を主相とするR1−T−B系焼結体を用意する工程、
2とMを含有する合金の粉末(R2はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、MはB、C、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上の元素)を用意する工程、
上記焼結体の表面に上記合金粉末を存在させる工程、及び
上記焼結体及び上記合金粉末を真空又は不活性ガス雰囲気中で上記焼結体の焼結温度以下の温度に加熱することにより、R2元素を上記焼結体の内部に拡散させる工程
とを含む希土類磁石の製造方法であって、
上記合金粉末がR2とMを含有する溶湯を急冷して得た急冷合金粉末であることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
請求項2:
上記急冷合金粉末が、R2−M金属間化合物相の微結晶を含有することを特徴とする請求項1記載の希土類磁石の製造方法。
請求項3:
上記急冷合金粉末が、非晶質合金を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の希土類磁石の製造方法。
請求項4:
2とMを含有する急冷合金粉末(R2はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、MはB、C、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上の元素)をR1−T−B系焼結体(R1はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、TはFe及び/又はCo)の表面に存在させた状態で熱処理して得た希土類磁石であって、R2とMのうち少なくとも一方の元素が上記焼結体の粒界部及び/又はR1214B型化合物の結晶粒表面近傍に偏在していることを特徴とする希土類磁石。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、R2とMを含有する急冷合金粉末を焼結体上に塗布、拡散処理することにより、粉末の酸化が抑制されて取り扱い上の危険性が低減し、生産性に優れると共に、高価なTbやDy使用量が少なく、残留磁束密度の低減を抑制しながら保磁力を増大させた高性能のR−T−B系焼結磁石を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1に用いた粉末の断面の反射電子像写真である。
【図2】比較例1に用いた粉末の断面の反射電子像写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において、母材となるR1−T−B系焼結体(以後、焼結体母材と称する)のR1は、Sc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素であり、具体的にはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが挙げられ、好ましくはNd及び/又はPrを主体とする。これらSc及びYを含む希土類元素は、焼結体全体の12〜20原子%、特に14〜18原子%であることが好ましい。TはFe、Coのうちの1種又は2種であり、焼結体全体の72〜84原子%、特に75.5〜81原子%であることが好ましい。必要に応じてTの一部をAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biなどの元素で置換してもよいが、磁気特性の低下を避けるために置換量は、焼結体全体に対して10%以下が好ましい。Bはホウ素であり、焼結体全体の4〜8原子%が好ましい。特に5〜6.5原子%のときは、拡散処理による保磁力の向上が大きい。
【0019】
焼結体母材作製用の合金は、原料金属又は合金を、真空又は不活性ガス、好ましくはAr雰囲気中で溶解した後、平型やブックモールドなどに鋳込んだり、ストリップキャスト法による鋳造を行ったりして得られる。初晶α−Feが残存する場合は、必要に応じて、真空又はAr雰囲気中にて700〜1200℃で1時間以上熱処理する均質化処理を施してもよい。また、本系合金の主相であるR2Fe14B化合物組成に近い合金と焼結補助となる希土類に富む合金とを別々に作製して粗粉砕後に秤量混合する、いわゆる2合金法も焼結体母材の作製に適用可能である。
【0020】
上記合金はまず0.05〜3mm程度に粗粉砕される。粗粉砕工程には通常ブラウンミルや水素化粉砕などが用いられる。粗粉は更にジェットミルやボールミルなどにより微粉砕される。例えば高圧窒素を用いたジェットミルの場合、通常は平均粒径が0.5〜20μm、更に好ましくは1〜10μm程度の微粉末となるようにする。微粉末は外部磁界により磁化容易軸を揃えた状態で圧縮成形され、焼結炉に投入される。焼結は真空又は不活性ガス雰囲気中、通常900〜1250℃、好ましくは1000〜1100℃で行われる。更にその後、必要に応じて熱処理を行ってもよい。また、酸化を抑制するために、一連の工程の全て又は一部を酸素低減した雰囲気で行ってもよい。焼結体は、更に必要に応じて所定形状に研削加工してよい。
【0021】
焼結体は、正方晶R214B化合物(R1214B化合物)を主相として好ましくは60〜99体積%、より好ましくは80〜98体積%含有するものが好ましい。また、焼結体の残部に含まれるものとしては、0.5〜20体積%の希土類に富む相、0.1〜10体積%の希土類酸化物及び不可避的不純物により生成した希土類炭化物、窒化物、水酸化物のうち少なくとも1種又はこれらの混合物若しくは複合物などが挙げられる。
【0022】
続いて、焼結体母材上に塗布し拡散処理させる粉末材料を用意する。本発明の要点は、この塗布用材料としてR2とMを含有する急冷合金の粉末を用いる点にある。ここでR2はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上であり、具体的にはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Yb及びLuが挙げられ、好ましくはNd、Pr、Tb及びDy選ばれる1種又は2種以上を主体とする。MはB、C、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上の元素である。
【0023】
塗布用合金が、単一金属や共晶合金などから成る場合は、粉砕し難いので塗布に適した粉末とすることができないが、金属間化合物相を主体とするインゴット合金を原料とした場合、金属間化合物は一般的に硬く脆い性質をもつため粉砕が容易であり、また化学的安定性も高く酸化しにくいので、その粉末は塗布材料として好都合である。しかし、初晶として別相が形成される場合があり、また、組成の自由度も比較的小さいため、目的である金属間化合物相以外に、例えば反応活性な希土類リッチな相などが局所的に偏析する場合がある。このとき粉末状態では酸化などの反応を起こしやすく、着火、燃焼などの危険を生じる可能性がある。
【0024】
これに対し、本発明で用いられる急冷合金粉末は、微細均一な組織を有しており化学的安定性は更に優れている。また、反応活性相などの偏析も生じにくいので、溶媒との反応は著しく抑制され、取り扱い上の危険性が大幅に低減する。更に、急冷合金粉末の場合は、R2とMの比率の広い範囲で作製が可能であり組成の選択自由度が高いという利点も有する。
【0025】
急冷合金粉末を作製する手段としては、単ロール法や双ロール法、遠心急冷法、ガスアトマイズ法など各種の急冷合金作製法を適用できるが、なかでも単ロール法は溶湯の冷却効率が高く、ロール周速による冷却速度が調整し易いので、作製が容易である。
【0026】
単ロール法で上記粉末を作製するためには、まず原料金属又は合金を、真空又は不活性ガス、好ましくはAr雰囲気中で溶解し、その合金溶湯を急速回転させた単ロール上に噴出させて急冷合金薄帯を得る。このときロール周速は、R2、M元素の組み合わせや組成にも依存するが、5〜50m/秒程度、望ましくは10〜40m/秒程度とすることが好ましい。
【0027】
得られた急冷合金薄帯を、ボールミル、ジェットミル、スタンプミル、ディスクミル等による公知の粉砕方法により平均粒径が0.1〜100μmに粉砕され急冷合金粉末とする。水素化粉砕などの手法を用いてもよい。平均粒径が0.1μmより細かい場合は急冷合金粉末であっても急激な酸化を免れがたく、反応の危険性が増大する。一方、100μmより粗いとアルコールなどの有機溶媒や水などに対して十分に分散させることが難しく、特性向上に必要な量が塗布できない場合がある。
【0028】
急冷合金粉末の平均粒径は、より好ましくは0.5〜50μm、更に好ましくは1〜20μmが良い。なお、平均粒径は、例えばレーザー回折法などによる粒度分布測定装置等を用いて質量平均値D50(即ち、累積質量が50%になるときの粒子径又はメジアン径)などとして求めることができる。
【0029】
急冷合金粉末の組織形態としては、非晶質合金や微結晶を含む合金が挙げられる。
非晶質とするには、R2−M平衡状態で共晶点となる付近の合金組成を選んで急冷合金薄帯を作ればよい。例えば、Dy−Al系ならDy−20原子%Al、Dy−Cu系ならDy−30原子%Cu、Tb−Co系ならTb−37.5原子%Coに共晶点が存在する。MがFe、Co、Ni、Cuなどの3d遷移元素やAl、Gaなどの系では、R260〜95原子%の比較的R2リッチな組成で非晶質となりやすい傾向がある。また、BやC、Si元素など非晶質化を促進する元素を添加してもよい。非晶質合金粉末は化学的安定性が高く耐食性に優れる。
【0030】
一方、微結晶を含む合金粉末は、R2−M金属間化合物相の微結晶を主体とする。微結晶組織を得るには、平衡状態で存在するR2−M金属間化合物相に近い合金組成を選んで急冷合金薄帯を作るのがよい。微結晶の平均粒径は3μm以下、より好ましくは1μmが好ましい。このようにして作製した微結晶合金の組織は巨視的にほぼ均質であり、化合物以外の別相が局所的に粗大化することが少ない。組成ずれにより異相が生じた場合であっても、微結晶間の粒界に極薄相として形成されるため急激な反応が生じにくく、着火、燃焼などの危険性が低下する。更に、微結晶から成るため粉砕性は非晶質合金より良好である。微結晶を主体とする合金粉末の場合、主相微結晶の体積比率は70%以上が好ましく、90%以上であれば更に好ましい。このときの体積比率としては、粉末断面の反射電子像写真などから計算される面積比率をそのまま体積比率とみなすことができる。
更に、組織形態として、R2−M金属間化合物相と非晶質相を両方ともに含むものでもよい。
【0031】
次いで、この急冷合金粉末を、用意した焼結体母材の表面に存在させ、真空、又はAr、He等の不活性ガス雰囲気中で焼結温度以下の温度で熱処理する。急冷合金粉末を焼結体母材の表面上に存在させる(接触させる)方法としては、例えば、粉末をアルコールなどの有機溶剤や水などに分散させ、このスラリーに焼結体母材を浸した後に熱風や真空により乾燥させたり、自然乾燥させたりすればよい。塗布量をコントロールするために粘性が付加された溶媒を用いる方法も有効であり、また、スプレーによる塗布等も可能である。
【0032】
熱処理条件は急冷合金粉末の構成元素や組成によって異なるが、R2やMが焼結体内部の粒界部や焼結体主相粒内の粒界部近傍に濃化するような条件が好ましい。熱処理温度は焼結体母材の焼結温度以下とする。母材の焼結温度よりも高いと、焼結体組織が変質して高い磁気特性が得られず、また、熱変形などの問題も生じる。好ましくは母材焼結温度より100℃以上低い温度が良い。また、熱処理温度の下限は、所定の拡散組織を得るために300℃以上、更に好ましくは500℃以上とするのが良い。
【0033】
処理時間は1分〜50時間とすることが好ましい。1分未満では拡散処理が完了せず、50時間を超えると、焼結体の組織が変質したり、不可避的な酸化や成分の蒸発が磁気特性に悪い影響を与えたり、また、R2やMが粒界部や主相粒内の粒界部近傍だけに濃化せずに主相粒の内部まで拡散したりする問題が生じるおそれがある。より好ましくは10分〜30時間、更に好ましくは30分〜20時間である。
【0034】
焼結体母材の表面に塗布された急冷合金粉末の構成元素R2やMは、最適な熱処理を施すことで、焼結体組織のうち粒界部を主な経路として焼結体内部に拡散していく。これにより、R2、M又はそれら双方が、焼結体内部の粒界部及び/又は焼結体主相(R1214B型化合物相)粒内の粒界部近傍(結晶粒表面近傍)に濃化し、R2及び/又はMが偏在した組織が得られる。
【0035】
微結晶を主体とする急冷合金粉末では、融点が拡散熱処理温度より高い場合がある。しかし、このときもR2やM元素は熱処理によって焼結体内部へ十分に拡散する。これは、塗布された粉末の合金成分が焼結体表面のRリッチ相と反応しながら焼結体内部へ取り込まれていくためと考えられる。
【0036】
以上のようにして得られたR−Fe−B系磁石は、R2やM元素が粒界部や焼結体主相粒内の粒界部近傍に濃化するが、主相粒内部への体拡散はわずかにとどまる。そのため、拡散熱処理前後での残留磁束密度の低下は小さい。一方でR2の拡散により主相粒内の粒界部近傍の結晶磁気異方性が向上するため、保磁力は大幅に向上して高性能な永久磁石となる。また、M元素も同時に拡散することで、R2の拡散が促進されたり、粒界にMを含む相が形成されたりして保磁力を向上させる。
【0037】
保磁力の増大効果を増すため、上記の拡散処理を施した磁石体に対して、更に、200〜900℃の温度で熱処理を施してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例と比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1、比較例1,2]
純度99質量%以上のNd、Pr、Fe、Coメタルとフェロボロンを原料としてAr雰囲気中で高周波溶解し、ストリップキャスト法により磁石合金を作製した。この合金を水素化粉砕して、1mm以下の粗粉末とした。更に、この粗粉末をジェットミルにて粉末の質量中位粒径4.6μmに微粉砕し、得られた微粉末を、窒素雰囲気下で1.6MA/mの磁界中で配向させながら約100MPaの圧力で成形した。次いで、この成形体を真空焼結炉内に投入し、1060℃で3時間焼結して焼結体ブロックを作製した。更に、この焼結体ブロックから4mm×4mm×2mm寸法の試料を切り出して焼結体母材とした。このときの組成は、原子百分率でNd13.2%、Pr1.2%、Co2.5%、B6.0%、残部Feであった。
【0040】
次に、純度99質量%以上のDy、Alメタルを原料としてアーク溶解し、組成が原子百分率でDy35%、残部Alとなるようインゴット合金を作製した。また、同じ組成の合金を0.5mmのノズル穴を有する石英管内に入れ、Ar雰囲気中で高周波溶解した後、周速30m/秒で回転するCuロール上に噴き付けて急冷合金薄帯とした。更に、得られた急冷合金薄帯及びインゴット合金をボールミルにより30分間微粉砕した。粉末の質量中位粒径は、急冷合金薄帯の粉末(実施例1)が9.1μm、インゴットの粉末(比較例1)が8.8μmであった。
【0041】
急冷合金薄帯の粉末及びインゴットの粉末各15gを別々にエタノール45gと混合した。攪拌された各々の粉末混濁液中に、上記焼結体母材を浸して引き上げた後、更に、温風で乾燥して、焼結体母材表面への粉末の塗布を行った。これらに真空中850℃8時間の拡散処理(熱処理)を施し、更に、450℃で時効処理を行って、実施例1及び比較例1の磁石を得た。また、粉末の塗布を行わず焼結体母材のみに同様の熱処理及び時効処理を施したものを比較例2とした。これらについてVSMで磁気特性を測定した。粉末平均塗布量、反磁界補正したときの磁気特性(残留磁化J及び保磁力Hcj)を表1に示す。
【0042】
実施例1、比較例1に用いた合金粉末及びインゴット粉末は、X線回折測定により、どちらも主相がDyAl2相であることを確認した。また、EPMAによる粉末断面の反射電子像写真より、粉末に占める主相の平均体積比率は、実施例1の粉末が8.1%、比較例1の粉末が9.0%であった。これら粉末を純水中に1週間浸漬し、酸素濃度をICP分析で調べた。結果を表1に示す。純水中浸漬前後での酸素濃度(質量比)の差(ΔO)は、実施例1の粉末において、比較例1の粉末より大幅に低減した。
【0043】
粉末の反射電子像写真を図1,2に示す。比較例1の粉末(図2)では、灰色部の主相とともに、白色で示される希土類リッチな異相が局所的に偏在している。一方、実施例1の粉末(図1)では、1μm以下の微細な主相(灰色部)の周囲に希土類リッチな異相(白色)が薄い粒界相として形成されている。
【0044】
[実施例2]
純度99質量%以上のDy、Alメタルを原料としてアーク溶解し、組成が原子百分率でDy80%、残部Alとなるよう合金を作製して、実施例1と同様の方法で急冷合金薄帯とした後、遊星ボールミルにより3時間微粉砕した。得られた粉末の質量中位粒径は26.2μmであった。また、X線回折より、この急冷合金粉末は特定の結晶ピークをもたない非晶質構造であることを確認した。更に、この粉末を用い、実施例1と同様に、焼結体母材表面に塗布し拡散処理及び時効処理を行った。粉末平均塗布量、得られた磁石の磁気特性、並びに拡散合金粉末の酸素量変化を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
[実施例3,4、比較例3,4]
純度99質量%以上のNd、Fe、Coメタルとフェロボロンを原料として高周波溶解し、ストリップキャスト法により磁石合金を作製した。この合金から実施例1と同様に焼結体ブロックを作製し、更に、寸法10mm×10mm×5mmの焼結体母材を切り出した。このときの組成は、原子百分率でNd13.8%、Co1.0%、B5.8%、残部Feであった。
【0047】
次に、純度99質量%以上のTb、Co、Feメタルを原料として高周波溶解で合金を作製し、実施例1,2と同様の方法で急冷合金薄帯から急冷合金粉末を作製した。これを焼結体母材に塗布し、900℃10時間の拡散処理(熱処理)と450℃での時効処理を行った(実施例3,4)。表2に、拡散合金粉末の組成及び平均粒径、並びに主相及びその比率、表3に、粉末平均塗布量、磁気特性(残留磁化J及び保磁力Hcj)及び拡散合金粉末の酸素量変化を示す。比較例3は、比較例1と同様の方法でTb、Co、Feメタルを原料として作製したインゴット合金の粉末を塗布、熱処理及び時効処理して得た磁石であり、比較例4は焼結体母材のみに同様の熱処理及び時効処理を施したものである。
【0048】
【表2】

【0049】
【表3】

【0050】
[実施例5、比較例5]
純度99質量%以上のNd、Dy、Feメタルとフェロボロンを原料として高周波溶解し、ストリップキャスト法により磁石合金を作製した。この合金から実施例1と同様に焼結体ブロックを作製し、更に寸法10mm×10mm×5mmの焼結体母材を切り出した。このときの組成は、原子百分率でNd14.4%、Dy1.2%、B5.3%、残部Feであった。
【0051】
次に、純度99質量%以上のDy、Snメタルを原料として高周波溶解で合金を作製し、実施例1と同様の方法でDy35%、残部Sn組成の急冷合金薄帯から急冷合金粉末を作製した。X線回折よりこのときの主相はDySn2相であることを確認した。この粉末を焼結体母材に塗布し、750℃20時間の拡散処理を行った。得られた磁石の磁気特性は、残留磁化Jが1.22T、保磁力Hcjが2.05MA/mであった。一方、比較例5として、実施例5と同組成のインゴット合金をボールミルで30分間粉砕したが、得られた粉末は大気中で着火・燃焼したため、以降の工程処理を行えなかった。
【0052】
[実施例6〜15、比較例6]
実施例1,2と同様に種々の急冷合金薄帯から急冷合金粉末を作製し、組成が原子百分率でNd14.0%、Co1.0%、Al0.4%、B6.4%、残部Feで寸法8mm×8mm×4mmの焼結体母材に塗布し、830℃12時間の拡散処理(熱処理)と450℃での時効処理を行った。各々の拡散合金粉末の組成、主相及びその体積率、並びに得られた磁石の磁気特性(残留磁化J及び保磁力Hcj)を表4に示す。
【0053】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1214B型化合物(R1はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、TはFe及び/又はCo)を主相とするR1−T−B系焼結体を用意する工程、
2とMを含有する合金の粉末(R2はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、MはB、C、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上の元素)を用意する工程、
上記焼結体の表面に上記合金粉末を存在させる工程、及び
上記焼結体及び上記合金粉末を真空又は不活性ガス雰囲気中で上記焼結体の焼結温度以下の温度に加熱することにより、R2元素を上記焼結体の内部に拡散させる工程
とを含む希土類磁石の製造方法であって、
上記合金粉末がR2とMを含有する溶湯を急冷して得た急冷合金粉末であることを特徴とする希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
上記急冷合金粉末が、R2−M金属間化合物相の微結晶を含有することを特徴とする請求項1記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
上記急冷合金粉末が、非晶質合金を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の希土類磁石の製造方法。
【請求項4】
2とMを含有する急冷合金粉末(R2はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、MはB、C、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Sb、Hf、Ta、W、Pt、Au、Pb、Biから選ばれる1種又は2種以上の元素)をR1−T−B系焼結体(R1はSc及びYを含む希土類元素から選ばれる1種又は2種以上の元素、TはFe及び/又はCo)の表面に存在させた状態で熱処理して得た希土類磁石であって、R2とMのうち少なくとも一方の元素が上記焼結体の粒界部及び/又はR1214B型化合物の結晶粒表面近傍に偏在していることを特徴とする希土類磁石。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−14668(P2011−14668A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156644(P2009−156644)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】