説明

帯電防止性フィルムシートの製造方法

【課題】透明でかつ低反射であり、かつ、導電性が付与された延伸フィルムシートを提供する。
【解決手段】基体フィルムシートの少なくとも一方の面に、酸化剤を塗布して酸化剤層を形成し、単量体を供給して前記酸化剤と接触させて、基材フィルムシートの表面に導電性ポリマー層を形成後、当該フィルムシートを延伸することを特徴とする帯電防止性フィルムシートの製造方法および当該製造方法により得られる帯電防止性フィルムシート。前記基体フィルムシートは、ノルボルネン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルニトリルまたはセルロース系樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な帯電防止性フィルムシートの製造方法および当該製造方法により得られる新規な帯電防止性延伸フィルムシートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、透明延伸フィルムシートは数々の光学フィルムシートとして用いられている。
しかしながら、従来の光学フィルムシートでは帯電防止機能を有さないために、帯電し易く、埃やゴミが発生した静電気により吸着して、表面が汚れるという問題があった。このために、樹脂フィルムシートに帯電防止剤を配合したり、新たに帯電防止層(導電層)を形成して帯電を防止する必要があった。
【0003】
例えば帯電防止剤を配合する場合には、透明性が低下したり、着色したり、帯電防止剤のブリードにより表面のべたつきが生じたり、湿気の少ない冬場には帯電防止機能が低下する本質的な問題もあった。
【0004】
また、帯電防止層としてスパッタ等の方法でITO等の導電層を設ける方法では、透明性の低下や着色等光学特性が低下する問題が生じ、かつ加工コストが大幅に上昇する問題があった。
【0005】
このような無機系の導電層の代わりに、ポリピロールやポリチオフェンなる複素環状の伝導性高分子を使用することも考えられている。これらは、電気化学的重合法や化学酸化法で比較的容易に合成できることが知られており、高い電気伝導性と優れた大気下での安定性を有するが、溶融や溶解が困難なことが多く、フィルムシート状に加工しにくい問題があった。また電気化学的重合法によれば薄いフィルムシート状のものを得ることは可能であるが、得られたフィルムシートは、機械強度が低く、フィルムシートロールでの連続生産に問題があって実質的に応用には困難が伴っていた。更に、従来知られているこれらの製法により得られる有機導電膜フィルムシートの導電性高分子鎖は機械強度が弱く、フィルムシートを延伸すると主鎖切断に伴い、導電性が著しく損なわれるという問題があった。
【0006】
上述した問題点を補完するための一般的な方法としては、粒子状の伝導性高分子を他の一般的な高分子と混合して複合材料とすることで、加工性と接着性等の物性を向上させる方法が提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この複合材料を他の基材に塗布することで、帯電防止機能を付与することができるが、基材に対し十分な接着性を与えるには、通常、混合される一般的な高分子の量が50重量%以上、場合によっては80重量%以上と多くする必要があった。この複合材料の主なる物性値は、混合された一般的な高分子の物性値に支配されることになり、常に充分な帯電防止機能が発現されるとは限らなかった。
【0008】
また、上記複合材料を、高分子樹脂フィルムシートに塗布し、帯電防止機能を付与できた場合においても、塗布層の厚みが、数ミクロン程度と厚くする必要がある場合が多く、このため混合された一般高分子に起因して、透明性が悪化したり、着色が起こったり、耐熱性や耐湿性に問題が生じる場合が多い。しかも、耐擦傷性が低いので、強い摩耗に対してはげ落ちる場合が多いという問題を有していた。また複合材料系では、導電性を有する
粒子同士が直接接触していないと、導電パスが形成されないため、粒子間距離を伸ばす延伸加工において、著しく伝導度が劣化する傾向にあり、延伸倍率1.2倍から10倍程度の広範囲の条件下で加工した際に、所望の伝導度を維持することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、上記課題を解決した帯電防止機能を持つ延伸フィルムシートの製造方法を提供することにある。また本発明の更なる目的は、前記製造方法により、とくにフラットパネルディスプレイやタッチパネル、実装材料、包装材料等の光学材料、電子材料用途に好適な延伸フィルムシートを提供することにある。
【0010】
本発明は、基体フィルムシートの少なくとも一方の面に、気相重合法により少なくとも1層の導電性ポリマー層を形成させた後、当該フィルムシートを延伸することを特徴とするフィルムシート及びその製造方法を提供するものである。
【0011】
すなわち、本発明に係る帯電防止製フィルムシートの製造方法は以下のとおりである。(1)基体フィルムシートの少なくとも一方の面に、酸化剤を塗布して酸化剤層を形成し、
単量体を供給して前記酸化剤と接触させて、基材フィルムシートの表面に導電性ポリマー層を形成後、当該フィルムシートを延伸する帯電防止性フィルムシートの製造方法。
(2)基体フィルムシートがノルボルネン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカー
ボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルニトリルまたはセルロース系樹脂からなる。
(3)導電性ポリマーがポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリセレノフェンま
たはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)およびこれらの誘導体である。
(4)廷伸倍率が1.01倍〜30倍の範囲にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、透明でかつ低反射であり、かつ、導電性が付与された延伸フィルムシートが得られる。かかるフィルムシートは、ディスプレーの前面に配置すると帯電防止および低反射機能を併せ持つので、有用である。また、延伸しても導電性が損なわれないため、光学材料や電子材料、実装材料、包装材料、など様々な分野に使用されている延伸フィルムシートに帯電防止能を賦与することが可能である。このような帯電防止能は、例えば、液晶ディスプレイに用いられる位相差フィルム用は、本発明によれば、帯電防止付きの位相差フィルムとすることができ、液晶パネルの大型化に伴うパネル製造工程中の静電気対策として必要な除電設備の簡略化を可能にするなど多大なメリットを提供する。また電子材料用や包装材料用の延伸フィルムにも、本発明によれば簡便に低コストで帯電防止付き延伸フィルムを適用することができ、電子デバイスの保護やホコリ付着防止に有用な効果をもたらす。更には、半導体チップ用に成形加工してつくられるキャリアトレイについても、本発明により得られる帯電防止付きシートをプレス加工するだけで、所望の帯電防止能を維持したまま、簡便に製造することが可能となる。また、高い延伸倍率でも導電性が損なわれないため、従来技術と比較して、薄膜フィルムシートの成形が容易となり、軽薄化が進む各種光学デバイス、電子材料用途に新たな付加価値をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る帯電防止用フィルムシートの製造方法について説明する。
本発明に使用する基体フィルムシートとしては、ノルボルネン系樹脂、例えば商品名ARTON(JSR株式会社製)、商品名ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、商品名ZEONOR(日本ゼオン株式会社製)など、ポリエーテルテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルニトリル、セルロース系フィルムシート、例えばトリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)などを挙げることができる。
【0014】
これらの基体フィルムシートは、公知の方法、例えば射出成形法、溶融押し出し法、溶液流延法や型内で重合させるキャスティング法等で製造されたフィルムシートであり、特に製造方法は限定されるものではない。また、ロール状、枚葉等形状も限定されるものではなく、厚みは、通常0.1μmから10,000μm、取り扱いの容易さから、好まし
くは10μmから5000μmのものが使用される。
【0015】
また、本発明の導電性ポリマー層が形成される面もしくは反対面に、或いは両面のフィルムシート表面にドットやプリズムなどの特殊な形状を有していても良く、公知の方法で種々の目的に応じて反射防止層、アンチグレア層、防汚層、ハードコート層等公知の機能層が、1種もしくは数種が組み合わせてあらかじめ処理されているものであっても構わない。これらの機能層は、特性の均一性の面から、後述する延伸加工後に、形成することが好ましい。
【0016】
かかる基材フィルムシート表面に、本発明では、導電性ポリマー層を形成する。
酸化剤層の形成
本発明では、まず、基材フィルムシート表面に、0.5〜10重量%の酸化剤を含む溶液を塗布して、数ナノメートルから数ミクロン単位の酸化剤層を形成する。酸化剤は、フィルムシートの片面または両面に塗布される。
【0017】
塗布に当たり、基体フィルムシートは、生産性の観点で、ロール状で連続的に供給するのが好ましい。また、接着性をあげるために、必要に応じてフィルムシートはコロナ処理やプラズマ処理等を行い、表面を荒らしておいてもよいし、あるいはプライマー処理を施していても良い。
【0018】
酸化剤は通常溶剤に溶解または分散させて使用される。溶剤は使用基材および酸化剤の種類に応じて適宜選択され、通常2種以上の有機溶剤を混合して用いられる。
酸化剤としては、CuCl3、トルエンスルホン酸鉄(III)、過塩素酸鉄(III)、FeCl3及びCu(ClO4)2・6H2O、スルフィン酸鉄、硝酸鉄等の遷移金属化合物や強酸性の
ルイス酸からなる群から少なくとも1種が選択される。
【0019】
有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−ブチルアルコール等のアルコール類、エチルセルソルブ等のセルソルブ類、メチルアセテートやエチルアセテート等のアセテート類、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサンやトルエン等のハイドロカーボン類等から適宜選ばれた少なくとも1種が挙げられる。溶剤は、用いた酸化剤の種類によって、溶解性や分散性を考慮して選ぶことができる。また、上記溶剤以外に問題が生じない程度の別の溶剤を混入させることも可能である。
【0020】
前記酸化剤の濃度は、特に限定されるものではないが、塗布性や溶解性もしくは分散性を考慮して、0.3重量%〜10重量%、より好適には0.5〜10重量%の範囲が望ましい。
【0021】
酸化剤を溶解もしくは分散させた溶液を、公知のディップ法、コーティング法、印刷法等で基体フィルムシート上に塗布することができる。
塗布された酸化剤層の厚みは、目的に応じ適宜選択されるが、通常数ナノメートルから数ミクロン単位、好ましくは数ナノメートルから数100ナノメートルの厚みで薄く塗布するのが好ましい。
【0022】
塗布されたフィルムシートは、フィルムシートの種類や用いた溶剤の種類によって適宜
選定された温度で乾燥させる。通常、乾燥は、150℃以下、好ましくは30℃から120℃にて、1秒から1時間の条件で行う。フィルムシートの変質や乾燥速度、乾燥状態の観点で、更に好ましくは50℃から120℃の温度で10秒から10分間の乾燥を行う方法があげられる。
【0023】
前記酸化剤の他に、ホスト高分子が添加されていてもよい。ホスト高分子は、酸化剤層に機械的強度をもたせ、さらに、後述するピロールやチオフェン等の単量体に対して高い親和力をもたせるためのものである。
【0024】
ホスト高分子としては、ポリアクリル酸ブチルやポリメタクリル酸メチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル類及び数種の共重合体、ポリカーボネート類、ポリエステル類、ポリウレタン類ポリ塩化ビニル類、ポリビニルアルコール類、メチルセルロース類、キトサン類から選択される1種もしくは数種の混合物から選択され、これらの紫外線硬化型または熱硬化型のアクリル樹脂を用いることもできる。このホスト高分子の濃度は、特に限定されるものではないが、全体重量の0.1%から10重量%の間で適宜選択できる。
【0025】
導電性ポリマー層の形成
次に、酸化剤で塗布された基材に、導電性ポリマーを形成しうる単量体を接触させて、酸化剤層表面で重合反応を行ない、導電性ポリマー層を形成する。
【0026】
かかる単量体としては、ピロール、チオフェン、フラン、セレノフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン及びこれらの誘導体から構成される群から選択される1種以上が好ましい。したがって導電性ポリマーとしては、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリセレノフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)およびこれらの誘導体が好ましい。これらの単量体は、気化されて接触させる。単量体を気化させる方法としては、密閉されたチャンバー内で単量体を0〜100℃で蒸留させる方法と、CVD(Chemical Vapor Deposition)による方法などが挙げられる。
【0027】
この時、温度条件と反応時間を適宜調整することが望ましく、重合反応は、2秒〜40分程度行なわれ、一般的には、単量体の種類に応じて変化するが、膜厚および表面抵抗値などが目標値に達するまで行う。
【0028】
重合完了後、未反応の単量体及び酸化剤を除去するために溶剤による洗浄を行う。この際の使用溶剤としては、通常メタノールなどのアルコール類が挙げられ、必要に応じて水で洗浄することもできる。上記のような一連の工程は、段階的または連続的に行われることができ、単量体の重合から導電膜の形成までは、一連の作業工程で処理することができる。得られた導電性ポリマーフィルムシートは、基材に対する密着性は良好であり、アルコール溶剤に対する耐性も十分である。
【0029】
フィルムシート基体上に形成される導電性ポリマーの膜厚は、通常0.01〜10μmとすることが好ましいが、更に透明性を必要とする用途に適用する場合には、通常、0.02〜0.5μmとすることが好ましい。 導電性ポリマーの表面抵抗は、101Ω/□
〜108Ω/□であり、この表面抵抗値は、導電性ポリマーの種類、酸化剤の濃度、重合
時間及び温度によって制御される。
【0030】
フィルムシートの延伸
基体フィルムシートに導電性ポリマー層を形成したフィルムシートは、次いで、公知の一軸延伸法あるいは二軸延伸法により延伸される。すなわち、テンター法による横一軸延伸法、ロール間圧縮延伸法、周遠の異なるロールを利用する縦一軸延伸法等あるいは横一軸と縦一軸を組合せた二軸延伸法、インフレーション法による延伸法等を用いることがで
きる。
【0031】
一軸延伸法の場合、延伸速度は通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分である。
二軸延伸法の場合、同時2方向に延伸を行う場合や一軸延伸後に最初の延伸方向と異なる方向に延伸処理する場合がある。この時、屈折率楕円体の形状を制御するための2つの延伸軸の交わり角度は、所望する特性により決定されるため特に限定はされないが、通常は120〜60度の範囲である。また、延伸速度は各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0032】
延伸加工温度は、特に限定されるものではないが、用いる基体フィルムシートを構成するポリマーのガラス転移温度(以下、単に「Tg」という)を基準として、通常は前記Tg±30℃、好ましくはTg±15℃、さらに好ましくはTg−5〜Tg+15℃の範囲である。
【0033】
延伸倍率は、所望する特性により決定されるため特に限定はされないが、通常は1.01〜30倍、好ましくは1.03〜20倍、さらに好ましくは1.2〜10倍である。本発明による導電性フィルムシートも、延伸倍率によっては電気伝導度が若干低下することがあるが、前記既知の他の製造方法で製造したフィルムを延伸した際の電気伝導度の低下と極めて著しく小さい。とくに1.2倍から10倍の延伸倍率での加工に際しては、本発明により製造した帯電防止付きフィルムの伝導度低下は、通常、既知の他の方法で製造した帯電防止付きフィルムの伝導度低下に対して、1/2〜1/1000程度に抑えられる。延伸したフィルムシートは、そのまま冷却してもよいが、Tg−20℃〜Tgの温度雰囲気下に少なくとも10秒以上、好ましくは30秒〜60分間、さらに好ましくは1分〜60分間保持してヒートセットすることが好ましい。
[実施例]
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り「重量部」を意味する。
また、以下の実施例において、全光線透過率、ヘイズ値、表面抵抗率、透過光の位相差は、下記の方法により測定した。
【0034】
[全光線透過率]
スガ試験機(株)製のヘイズメーター「HGM−2DP型」を用い、全光線透過率を測定した。
【0035】
[ヘイズ値]
スガ試験機(株)製のヘイズメーター「HGM−2DP型」を用い、全光線透過率を測定した。
【0036】
[表面抵抗率]
三菱化学(株)製の低抵抗率計「ロレスタ−GP」を用い、表面抵抗率を測定した。
[透過光の位相差]
王子計測機器(株)製の「KOBRA−21ADH」を用い、波長590nmでの垂直透過光の位相差を測定した。
【0037】
実施例1
基材として0.188mm厚のポリエチレンテレフタレートフィルムシート(PETフ
ィルムシート)を用い、この上に、メチルアルコール、2−ブチルアルコール及びエチルセロソルブを重量比で7:2:1の割合で混合された溶媒中に酸化剤としての3塩化鉄を重量比2%で溶解した溶液を、スピンコーティングし、65℃で3分間乾燥させた。
【0038】
飽和状態のエチレンジオキシチオフェンが生成されるように設計されたCVDチャンバー内で、前記酸化剤が塗布された基材上に、40℃で1分間、エチレンジオキシチオフェンを蒸発させ付着、反応させた。その後、未反応物や酸化剤の残査をメタノールで十分に洗浄除去した。
【0039】
この結果、わずか青みのある透明なポリエチレンジオキシチオフェンが付着したPETフィルムシートを得た。導電性ポリマー層の厚みは52nm、表面抵抗値は8×104Ω
/□、全光線透過率は91%であった。この塗布層をイソプロピルアルコールで洗浄し、乾燥した。
【0040】
このフィルムシートをテンター内で、75℃に加熱し、延伸速度300%/分で1.2倍に延伸した後、75℃の雰囲気下で約1分間この状態を保持しながら冷却し、室温へとさらに冷却して取り出しフィルムシートを得た。
【0041】
得られたフィルムシートの、全光線透過率は91%、ヘイズ値は1.8、表面抵抗値は9.5×104Ω/□であった。
実施例2
基材として0.1mm厚のJSR製ノルボルネン系の透明フィルムシート(商品名アートン:Tg130℃)を用い、表面をコロナ処理した。この透明フィルムシート上に、メチルアルコール、2−ブチルアルコール及びエチルセルソルブが重量比で6:2:2の割合で混合された溶媒に重量比で3%のCu(ClO4)2・6H2Oを溶解させた溶液を、実施例1と同様にスピンコーティングし、乾燥させたのち、エチレンジオキシチオフェンを蒸着・重合させて、導電性ポリマー層を形成した。
【0042】
導電性ポリマー層の厚みは48nm、表面抵抗値は5×105Ω/□、全光線透過率は
93%、位相差は4nmであった。
このフィルムシートをテンター内で、140℃に加熱し、延伸速度300%/分で1.5倍に延伸した後、110℃の雰囲気下で約1分間この状態を保持しながら冷却し、室温へとさらに冷却して取り出しフィルムシートを得た。
【0043】
得られたフィルムシートの、全光線透過率は93%、ヘイズ値は0.6、表面抵抗値は1.5×105Ω/□、位相差は140nmであった。
実施例3
基材として黒色に着色された3mm厚のポリカーボネートシートを用い、表面をコロナ処理した。このフィルムシート上に、メチルアルコール、2−ブチルアルコール及びエチルセルソルブが重量比で8:1:1の割合で混合された溶媒に重量比で1%の硝酸鉄を溶解させた溶液を、実施例1と同様にスピンコーティングし、乾燥させたのち、ピロールを蒸着・重合させて、導電性ポリマー層を形成した。
【0044】
導電性ポリマー層の厚みは0.12um、表面抵抗値は1.5×102Ω/□であった。
このフィルムシートにプレス成形で、縦、横5cm、深さ3cmの凹加工を行い、局所的にシートが延伸された導電性キャリアトレイを得た。最も応力が集中する褶曲部位においても導電性に顕著な劣化は認められず、半導体ICチップを絶縁破壊することなく運搬するキャリアトレイとして、そのまま好適に使用することができた。
【0045】
比較例1
導電ポリマー層を形成しなかったこと以外は実施例2と同様にして、延伸したフィルムシートを得た。
【0046】
得られたフィルムシートの、全光線透過率は93%、ヘイズ値は0.6、表面抵抗値は1.5×1014Ω/□、位相差は140nmであった。
比較例2
エチレンジオキシチオフェンモノマーを購入し、ラジカル重合あるいはカチオン重合等の定法に従いホモポリマーを合成し、得られたホモポリマーを溶解塗布することで、実施例1と類似の帯電防止付きフィルムを得ようとしたが、高分子量化に伴いポリマーが難溶化し、基板フィルムへのコーティングに適切な溶媒種を見出すことができなかった。次いで、重合度を低く抑えMw1,500程度の可溶性ポリエチレンジオキシチオフェンオリ
ゴマーを得て、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤など各種溶剤系で、実施例2に用いた0.1mm厚の基体フィルムシート上へのコーティングを試みたが、オリゴマーの分子量が低すぎて、基体フィルム上で綺麗に製膜することができず、いずれも激しい相分離を生じたため、全光線透過率、ヘイズ等の光学評価を実施し得なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体フィルムシートの少なくとも一方の面に、酸化剤を塗布して酸化剤層を形成し、
単量体を供給して前記酸化剤と接触させて、基材フィルムシートの表面に導電性ポリマー層を形成後、
当該フィルムシートを延伸することを特徴とする帯電防止性フィルムシートの製造方法。
【請求項2】
基体フィルムシートがノルボルネン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルニトリルまたはセルロース系樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のフィルムシートの製造方法。
【請求項3】
導電性ポリマーがポリピロール、ポリチオフェン、ポリフラン、ポリセレノフェンまたはポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)およびこれらの誘導体であることを特徴とする請求項1に記載のフィルムシートの製造方法。
【請求項4】
延伸倍率が1.01倍から30倍の範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載のフィルムシート製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された製造方法により得られる帯電防止性フィルムシート。

【公開番号】特開2006−224517(P2006−224517A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−42259(P2005−42259)
【出願日】平成17年2月18日(2005.2.18)
【出願人】(503118918)ナノイーニクス,インコーポレーテッド (1)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】