説明

幹細胞増殖因子発現上昇抑制剤

【課題】安全性の高い天然物の中から幹細胞増殖因子(SCF)発現上昇抑制作用を有するものを見出し、それを有効成分とする幹細胞増殖因子(SCF)発現上昇抑制剤および該抑制剤を含有する予防・治療剤を提供する。
【解決手段】五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分とするSCF発現上昇抑制剤および該抑制剤を含有する予防・治療剤。該抑制剤は、骨髄芽球の異常増殖を抑制し、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の予防又は治療に有用である。また、該抑制剤は、色素細胞の増殖を抑制し、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制することにより、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等の予防又は抑制に効果のある化粧料としても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幹細胞増殖因子発現上昇抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シミ、ソバカス、日焼け後の皮膚色素沈着症等は、皮膚内に存在する色素細胞(メラノサイト)の活性化によりメラニン産生が著しく亢進した結果として生ずるものであり、多くの女性において肌の悩みの一つになっている。従来、美白効果を有するものとして種々の治療薬、皮膚外用剤、化粧料等が知られている。例えば、チロシナーゼ活性を阻害してメラニン産生を抑制するものとして、コロイド硫黄やグルタチオンに代表される硫黄化合物が用いられている。また、産生したメラニンを淡色漂白化するものとして、アスコルビン酸類、過酸化水素、ハイドロキノン、カテコール等が用いられている。
【0003】
しかしながら、アスコルビン酸類は、含水化粧料のような水分を多く含むものに含有せしめると酸化されやいために不安定であり、化粧料の変色の原因となってしまう。また、過酸化水素水は、保存上の安定性及び使用上の安全性に問題がある。さらに、グルタチオン及びコロイド硫黄等の硫黄化合物は、著しい異臭を放つ点で問題がある。さらにまた、ハイドロキノン及びカテコールは、皮膚刺激性及びアレルギー性等を有し、使用上の安全性に問題がある。したがって、これらの美白成分を化粧料等の製品に使用することは制約されており、未だ十分に満足できる美白成分は知られておらず、より優れた美白剤の開発が所望されている。
【0004】
幹細胞増殖因子(Stem Cell Factor,SCF)は、Must Cell Growth Factor、C-Kit Ligand、Steel Factor等とも呼ばれ、角化細胞、線維芽細胞、血管内皮細胞、骨髄ストローマ細胞等から産生されるタンパク質である。SCFは、多能性造血幹細胞、生殖細胞、肥満細胞、巨核球系前駆細胞、顆粒球・マクロファージ系前駆細胞、色素細胞等の増殖や分化を促進する作用を有することが知られている。また、SCFは、シミ部位や紫外線照射等によって発現が亢進することが知られている(非特許文献1参照)。
【0005】
SCFとしては、273のアミノ酸残基からなる膜結合型SCFと、タンパク質分解酵素の作用により切断され、膜から遊離する分泌型SCFとが知られている。膜結合型SCFは、角化細胞等に結合したまま色素細胞のSCFレセプターに結合し、色素細胞の増殖を促進する。分泌型SCFは、その結合部位にて切断され、細胞膜から遊離し、色素細胞のSCFレセプターに結合することによって、色素細胞の増殖を促進する。
【0006】
また、SCFは、急性骨髄性白血病患者において、インターロイキン−3(Interleukin-3,IL−3)や顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte Macrophage Colony Stimulating Factor ,GM−CSF)の共存下で骨髄芽球の増殖を促進することが知られている(非特許文献2参照)。
【0007】
そのため、SCFの異常産生は、色素細胞の異常増殖につながり、メラニン産生を亢進させ、シミ、ソバカス、くすみ等の原因となると考えられる。また、SCFの異常産生は、骨髄芽球の異常増殖につながり、それにより骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病(AML)等の疾患を引き起こすものと考えられる。
【0008】
したがって、SCFの発現上昇を抑制することは、色素細胞の増殖を抑制し、皮膚におけるメラニンの過剰産生を抑制し、日焼け後の色素沈着、シミ、ソバカス等の予防又は抑制に有用であると考えられる。また、SCFの発現上昇を抑制することは、骨髄芽球の異常増殖を抑制し、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の予防又は治療に有用であると考えられる。
【非特許文献1】Hachiya A et al., J. Invest. Dermatol., No.116, 2001, p.578-586
【非特許文献2】Virginia C. Broudy et al., Blood, Vol.80, No.1, 1992, p.60-67
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、安全性の高い天然物の中からSCF発現上昇抑制作用を有するものを見出し、それを有効成分とする幹細胞増殖因子(SCF)発現上昇抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の幹細胞増殖因子(SCF)発現上昇抑制剤は、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の幹細胞増殖因子(SCF)の発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤は、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有し、安全性に優れた幹細胞増殖因子(SCF)発現上昇抑制剤及び幹細胞増殖因子(SCF)の発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
〔幹細胞増殖因子発現上昇抑制剤〕
本発明の幹細胞増殖因子(以下「SCF」という。)発現上昇抑制剤は、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有する。
【0014】
ここで、本発明において「抽出物」には、上記植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0015】
本発明において使用する抽出原料は、五斂子、甘草葉部、オニイチゴ、ビワ、マチルス、メリッサ、月桃、ハトムギ、センキュウ、トウニン及びゲンチアナである。2種以上の植物を抽出原料として用いる場合、上記植物を任意に組み合わせて使用することができる。
【0016】
五斂子(学名:Averrhoa carambola L.)は、カタバミ科ゴレンシ属に属し、新鮮な果実は食用にされる。五斂子は、中国では紀元前から文献に記載され、その果実は断面が星形であることからスターフルーツとも呼ばれている。五斂子は、沖縄、中国東南部や雲南その他熱帯各地で栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、幹部、地上部、花部、果実部、種子部、根部、全草又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0017】
甘草は、マメ科カンゾウ属に属し、古代より薬用又は甘味料の原料として利用されている有用植物である。特に甘草の根部には、グリチルリチン、その他有用成分が含有されていることが確認されているが、これらの有用成分は甘草の葉部には含有されていない。これに対して、本発明者によって初めて確認されたSCF発現上昇抑制作用を有する成分は、甘草の葉部に含有されている。
【0018】
甘草には、Glychyrrhiza glabra、Glychyrrhiza inflata、Glychyrrhiza uralensis、Glychyrrhiza aspera、Glychyrrhiza eurycarpa、Glychyrrhiza pallidiflora、Glychyrrhiza yunnanensis、Glychyrrhiza lepidota、Glychyrrhiza echinata、Glychyrrhiza acanthocarpa等、様々な種類のものがあり、これらのうち、いずれの種類の甘草の葉部を抽出原料として使用してもよいが、特にGlychyrrhiza glabraの甘草の葉部を抽出原料として使用することが好ましい。
【0019】
オニイチゴ(学名:Rubus ellipticus,中国名:切頭懸鉤子,別名:キミノヒマラヤキイチゴ)は、バラ科キイチゴ属に属する常緑低木であり、新鮮な果実は香りがあり、食用にされている。オニイチゴは、ヒマラヤから東南アジア、中国東南部で自生し又は栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、幹部、地上部、花部、果実部、種子部、根部、全草又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根部である。
【0020】
ビワ(学名:Eriobotrya japonica Lindley)は、バラ科ビワ属に属する常緑高木であり、中国南西部原産であり、長崎、千葉、鹿児島等で栽培されており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、幹部、枝部、花部、果実部、種子部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。ビワの葉部は、「名医別録」に収載され、古くから薬草として用いられてきた。葉の形が琵琶に似ているからその名が付いたといわれている。日本では江戸時代にこのビワの葉の毛を除去して乾燥したものを主剤とした煎じ薬を「枇杷薬湯」と称し、暑気払いに用いていた。
【0021】
マチルス(学名:Machilus odoratissima)は、クスノキ科マチルス属に属する常緑高木であって、雲南、貴州、四川、チベット等に分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、樹皮部、葉部、幹部、地上部、花部、果実部、種子部、根部、全草又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは樹皮部である。
【0022】
メリッサ(学名:Melissa officinalis)は、シソ科コウスイハッカ属に属する多年生草本であり、別名としてコウスイハッカ、レモンバーム等と呼ばれている。メリッサは、地中海沿岸地方にて自生し又は栽培されている。メリッサ(Melissa)という語が、ギリシャ語のメリソフィロン(melissophyllon)、ミツバチの葉(bee leaf)に由来するように、2000年以上も前から養蜂植物として栽培され続けており、また抗アレルギー作用があることも知られている。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、幹部、地上部、花部、果実部、種子部、根部、全草又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは全草である。
【0023】
月桃(学名:Alpinia spesiosa)は、ショウガ科ハナミョウガ属に属する多年生常緑草本であり、九州南部からインドにまで分布しており、これらの地域から容易に入手することができる。月桃は、沖縄ではサンニンと呼ばれ、琉球王朝以来の伝統菓子であるムーチーに利用されるほか、ハーブとしても利用されている。抽出原料として使用し得る部位としては、例えば、葉部、幹部、地上部、花部、果実部、種子部、根部、全草又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは葉部である。
【0024】
ハトムギ(学名:Coix lachrymal-jobi L.)は、中国、インドシナ地方原産の植物であって、日本では西南部の暖地で栽培されているイネ科ジュズダマ属に属する一年草であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは種子部である。ハトムギの種子部は特にヨクイニンと呼ばれ、利水滲湿、清熱、排膿、除痺、健脾止痛等の用途に用いられている。
【0025】
センキュウ(学名:Ligusticum wallichii Franch.)は、中国原産の植物であって、日本では北海道、東北地方、長野、静岡、三重等で栽培されているセリ科マルバトウキ属に属する多年草であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部、根茎部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根茎部(根部を除く)である。センキュウの根茎部(根部を除く)は、主として漢方処方薬として利用されており、婦人薬、冷え性用薬、皮膚疾患用薬、消炎背膿用薬として配合されている。
【0026】
トウニンは、バラ科サクラ属に属するモモ(学名:Prunus persica)の種子であり、中国や日本で古くから栽培されていて、これらの地域から容易に入手することができる。モモは、多くの品種が分化しており、花は観賞用として、果実は食用として利用されている。トウニンは、古くから民間薬として利用されており、浄血、鎮咳、消炎等の作用を有することが知られている。
【0027】
ゲンチアナ(学名:Gentiana Lutea)は、リンドウ科リンドウ属に属する多年生草本であり、高さ1m以上にまで達し、山地に生える多年生草本である。ゲンチアナは、ヨーロッパのアルプス山麓に自生しており、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得る構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、種子部、花部、根茎部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは根部及び根茎部である。
【0028】
五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物又はゲンチアナ抽出物に含有されるSCF発現上昇抑制作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、五斂子、甘草葉部、オニイチゴ、ビワ、マチルス、メリッサ、月桃、ハトムギ、センキュウ、トウニン又はゲンチアナからSCF発現上昇抑制作用を有する抽出物を得ることができる。
【0029】
例えば、上記植物を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより、SCF発現上昇抑制作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は、天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記植物の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0030】
抽出溶媒としては、極性溶媒を用いるのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0031】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0032】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0033】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール10〜90質量部を混合することが好ましい。
【0034】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を溶出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0035】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液はそのままでもSCF発現上昇抑制剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0036】
五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物又はゲンチアナ抽出物は、特有の匂いと味とを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、SCF発現上昇抑制剤に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0037】
以上のようにして得られる五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物又はゲンチアナ抽出物は、SCF発現上昇抑制作用を有しているため、その作用を利用してSCF発現上昇抑制剤の有効成分として用いることができる。
【0038】
また、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物又はゲンチアナ抽出物は、そのSCF発現上昇抑制作用を利用して、SCFの発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤、具体的には骨髄異形成症候群予防・治療剤、急性骨髄性白血病予防・治療剤、抗腫瘍剤等の有効成分として用いることもできる。
【0039】
本発明のSCF発現上昇抑制剤又はbFGF発現上昇抑制剤は、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物のみからなるものでもよいし、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を製剤化したものでもよい。
【0040】
五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化して提供することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。また、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物は、他の組成物に配合して使用できるほか、軟膏剤、外用液剤、貼付剤等として使用することができる。
【0041】
なお、本発明のSCF発現上昇抑制剤は、必要に応じてSCF発現上昇抑制作用を有する他の天然抽出物等を、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0042】
本発明のSCF発現上昇抑制剤の患者に対する投与方法としては、皮下組織内投与、筋肉内投与、静脈内投与、経口投与、経皮投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本発明のSCF発現上昇抑制剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0043】
本発明のSCF発現上昇抑制剤は、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物が有するSCF発現上昇抑制作用を通じて、SCFの発現の上昇を抑制することができ、これにより色素細胞の増殖やメラニンの産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。
【0044】
また、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物が有するSCF発現上昇抑制作用を通じて、骨髄芽球の異常増殖を抑制することができ、これにより骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の疾患を予防、治療又は改善することができる。
【0045】
ただし、本発明のSCF発現上昇抑制剤は、これらの用途以外にもSCF発現上昇抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0046】
〔皮膚化粧料〕
本発明の五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有するSCF発現上昇抑制剤は、皮膚化粧料に配合して使用することができる。
【0047】
皮膚化粧料におけるSCF発現上昇抑制剤の配合量は、皮膚化粧料の種類や抽出物の生理活性等によって適宜調整することができるが、好適な配合率は標準的な抽出物に換算して0.001〜10質量%である。
【0048】
本発明のSCF発現上昇抑制剤を配合し得る皮膚化粧料は、本発明のSCF発現上昇抑制剤が有する作用を損なわない範囲で、必要に応じて皮膚化粧料の製造に通常使用される各種主剤及び助剤を併用することができる。
【0049】
本発明のSCF発現上昇抑制剤とともに皮膚化粧料構成成分として併用可能なものとしては、例えば、グリセリン、コラーゲン、ヒアルロン酸及びその塩、コンドロイチン酸及びその塩、キチン、キトサン等の保湿剤;パラジメチルアミノ安息香酸アミル等の紫外線吸収剤;グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質等の複合脂質;β−カロチン、油溶性甘草エキス、リコカルコンA、バイカリン、バイカレイン、その他の活性酸素消去作用を有する物質;アズレン、グリチルリチン酸及びその塩類、グリチルレチン酸及びその誘導体、酸化亜鉛等の抗炎症作用物質;リボフラビン、トロフェロール、アスコルビン酸、葉酸等のビタミン及びその誘導体類;ホホバ油、ラノリン、流動パラフィン、スクワラン、イソステアリルアルコール等の油性成分;ステアリル硫酸ナトリウム、セシル硫酸ジエタノールアミン、ステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;エリソルビン酸ナトリウム等の酸化防止剤;エチルパラベン等の防腐剤;植物ステロール類;リポプロテイン類;ビフィズス菌培養物、乳酸菌培養物、酵母抽出物、ブクリョウ抽出物等の微生物由来成分;褐藻抽出物、紅藻抽出物等の藻類抽出物;γ−オリザノール等の血行促進剤;硫黄等の抗脂漏剤;香料;アルコール;カルボキシポリマー等の増粘剤;チタンイエロー、ベニバナ、その他の着色料等が挙げられる。このように併用することで、より一般性のある製品となり、また、それにより、併用された他の有効成分との間の相乗作用が通常期待される以上の優れた効果をもたらすことがある。
【0050】
上記皮膚化粧料は、その構成成分としてのSCF発現上昇抑制剤が有するSCF発現上昇抑制作用を通じて、色素細胞の増殖やメラニンの産生を抑制し、シミ、ソバカス、皮膚色素沈着症等を予防又は改善することができ、美白効果を得ることができる。
【0051】
なお、本発明のSCF発現上昇抑制剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0052】
以下、製造例、試験例及び配合例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0053】
〔製造例1〕五斂子抽出物の製造
五斂子の葉部の粗砕物100gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)1000mLを加え、70℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、五斂子の葉部からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させて五斂子抽出物(試料1)を得た。得られた五斂子抽出物の収率は28.7質量%であった。
【0054】
〔製造例2〕甘草葉部抽出物の製造
甘草の葉部の粗砕物100gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)1000mLを加え、70℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、甘草の葉部からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させて甘草葉部抽出物(試料2)を得た。得られた甘草葉部抽出物の収率は21.7質量%であった。
【0055】
〔製造例3〕オニイチゴ抽出物の製造
オニイチゴの根部の粗砕物300gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)2000mLを加え、80℃に保温しながら3時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、オニイチゴの根部からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させてオニイチゴ抽出物(試料3)を得た。得られたオニイチゴ抽出物の収率は12.1質量%であった。
【0056】
〔製造例4〕ビワ抽出物の製造
ビワの葉部の粗砕物100gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)2000mLを加え、70℃に保温しながら3時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、ビワの葉部からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させてビワ抽出物(試料4)を得た。得られたビワ抽出物の収率は12.9質量%であった。
【0057】
〔製造例5〕マチルス抽出物の製造
マチルスの樹皮部の粗砕物200gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)2000mLを加え、80℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、マチルスの樹皮部からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させてマチルス抽出物(試料5)を得た。得られたマチルス抽出物の収率は6.2質量%であった。
【0058】
〔製造例6〕メリッサ抽出物の製造
メリッサの全草の粗砕物50gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)500mLを加え、70℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、メリッサの全草からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させてメリッサ抽出物(試料6)を得た。得られたメリッサ抽出物の収率は30.7質量%であった。
【0059】
〔製造例7〕月桃抽出物の製造
月桃の葉部の粗砕物100gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)1000mLを加え、70℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、月桃の葉部からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させて月桃抽出物(試料7)を得た。得られた月桃抽出物の収率は16.0質量%であった。
【0060】
〔製造例8〕ハトムギ抽出物の製造
ハトムギの種子部の粗砕物300gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)3000mLを加え、80℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、ハトムギの種子部からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させてハトムギ抽出物(試料8)を得た。得られたハトムギ抽出物の収率は2.0質量%であった。
【0061】
〔製造例9〕センキュウ抽出物の製造
センキュウの根茎部(根部を除く)の粗砕物100gに90質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:9)500mLを加え、80℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、センキュウの根茎部(根部を除く)からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させてセンキュウ抽出物(試料9)を得た。得られたセンキュウ抽出物の収率は10.0質量%であった。
【0062】
〔製造例10〕トウニン抽出物の製造
トウニンの粗砕物100gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)500mLを加え、80℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、トウニンからの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させてトウニン抽出物(試料10)を得た。得られたトウニン抽出物の収率は13.3質量%であった。
【0063】
〔製造例11〕ゲンチアナ抽出物の製造
ゲンチアナの根部及び根茎部の粗砕物100gにエタノール2500mLを加え、80℃に保温しながら2時間ゆるく攪拌した後、濾紙を用いて濾過し、ゲンチアナの根部及び根茎部からの抽出液を得た。得られた抽出液を40℃で減圧濃縮した後、減圧乾燥機で乾燥させてゲンチアナ抽出物(試料11)を得た。得られたゲンチアナ抽出物の収率は14.8質量%であった。
【0064】
〔試験例1〕SCF mRNA発現上昇抑制作用試験
製造例1〜11で得られた各植物抽出物(試料1〜11)について、以下のようにしてSCF mRNA発現上昇抑制作用を試験した。
【0065】
(1)一本鎖DNAの調製
ヒト正常新生児表皮角化細胞(NHEK)を35mm dishに播種し、37℃、5%CO2−95%airの条件下にて24時間培養を行った。培養終了後、リン酸生理緩衝液1mLで洗浄し、ハンクス液1mLに交換した。これにTOREX FL20SE-30/DMRを4灯装着した紫外線照射装置を光源として、紫外線UV−Bを50mJ/cm照射した。照射後直ちに、所定濃度(表1参照)の試料(試料1〜11)添加培地に交換し、24時間培養した。培養終了後、常法により総RNAを調製した。また、「試料無添加・紫外線照射なし」及び「試料無添加・紫外線照射あり」で培養した細胞に関しても、同様に総RNAを調製した。総RNAの調製は、下記の方法を用いて行った。
【0066】
細胞を1mLのRNA抽出用試薬(製品名:ISOGEN,ニッポンジーン社製)に溶解し、クロロホルムを200μL添加後、遠心(12000回転,4℃,15分間)にて上層RNA層を単離し、さらにイソプロパノールで濃縮した。濃縮沈殿させた総RNAをTE溶液(10mM Tris-HCl/1mM EDTA,pH=8.0)に溶解して総RNA標品とし、PCR装置(製品名:TaKaRa PCR Themal Cycler MP,タカラバイオ社製)及びリアルタイムPCR専用逆転写キット(製品名:TaKaRa ExScript RT reagent Kit,タカラバイオ社製)を用いて、SCF mRNA発現量を測定するための鋳型に使用する一本鎖DNAを合成した。
【0067】
(2)サイバーグリーン法を用いたリアルタイム−PCR反応
SCF遺伝子増幅用プライマーとして下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを作製した(タカラバイオ社製)。
センスプライマー:5'-cccttaggaatgacagcagtagca-3'
アンチセンスプライマー:5'-gcccttgtaagacttggctgtctc-3'
【0068】
また、内部標準としてのG3PDH遺伝子増幅用プライマーとして下記の配列を有するセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを作製した(タカラバイオ社製)。
センスプライマー:5'-gcaccgtcaaggctgagaac-3'
アンチセンスプライマー:5'-atggtggtgaagacgccagt-3'
【0069】
「試料無添加・紫外線照射なし」、「試料無添加・紫外線照射あり」及び「試料添加・紫外線照射あり」でそれぞれ培養した細胞から調製した総RNA標品を基に調製した一本鎖DNA及び検量線作成用一本鎖DNA溶液を用いて、リアルタイムPCR装置(製品名:Real Time PCR System Smart Cycler II,Cepheid社製)及びリアルタイムPCRキット(製品名:SYBR Premix Ex Taq,タカラバイオ社製)でリアルタイムPCR反応を行った。なお、検量線作成用一本鎖DNA溶液は、原液濃度の相対値を便宜的に「100000」とし、以降10倍希釈を繰り返して濃度値「100000」、「10000」、「1000」、「100」及び「10」の5段階の希釈系列とした。反応は、95℃で10秒間保温の後、95℃で5秒間、57℃で20秒間の反応を45サイクル繰り返し、1サイクルごとにサイバーグリーン色素の発光量を測定した。
【0070】
(3)解析
各サイクルのサイバーグリーン色素の発光量からSCF及びG3PDHのそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成した。検量線作成用一本鎖DNA溶液の希釈系列の増幅曲線から横軸に濃度、縦軸に増幅曲線の2次導関数が最大となるサイクル数をとった検量線を作成した。各発現定量用サンプルについては、増幅曲線の2次導関数が最大となるサイクル数を検量線上にプロットし、相対的な発現量を算出した。SCFの発現量は、同一サンプルにおけるG3PDHの発現量の値で補正した後、さらに「試料無添加・紫外線照射なし」の補正値を100としたときの「試料無添加・紫外線照射あり」及び「試料添加・紫外線照射あり」の補正値として算出した。
【0071】
SCF mRNA発現上昇率(%)は下記式により算出した。
mRNA発現上昇抑制率(%)={(A−B)−(A−C)}/(A−B)×100
式中、Aは「試料無添加・紫外線照射なしの補正値」を表し、Bは、「試料無添加・紫外線照射ありの補正値」を表し、Cは、「試料添加・紫外線照射ありの補正値」を表す。
SCF mRNA発現上昇抑制作用試験の結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に示すように、五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物は、優れたSCF mRNA発現上昇抑制作用を有することが確認された。
【0074】
〔配合例1〕
下記組成の乳液を常法により製造した。
五斂子葉部50質量%エタノール抽出物(製造例1) 0.01g
ホホバオイル 4.0g
プラセンタエキス 0.1g
オリーブオイル 2.0g
スクワラン 2.0g
セタノール 2.0g
モノステアリン酸グリセリル 2.0g
ポリオキシエチレンセチルエーテル(20E.0) 2.5g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.0) 2.0g
グリチルレチン酸ステアリル 0.1g
1,3−ブチレングリコール 3.0g
ヒノキチオール 0.15g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0075】
〔配合例2〕
下記組成の化粧水を常法により製造した。
ビワ葉部50質量%エタノール抽出物(製造例1) 2g
グリセリン 3g
1,3−ブチレングリコール 3g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.0) 0.5g
パラオキシ安息香酸メチル 0.15g
クエン酸 0.1g
クエン酸ソーダ 0.1g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0076】
〔配合例3〕
下記組成のクリームを常法により製造した。
マチルス樹皮部50質量%エタノール抽出物(製造例5) 0.05g
アロエエキス 0.1g
流動パラフィン 5.0g
サラシミツロウ 4.0g
スクワラン 10.0g
セタノール 3.0g
ラノリン 2.0g
ステアリン酸 1.0g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.0) 1.5g
モノステアリン酸グリセリル 3.0g
油溶性甘草エキス 0.1g
1,3−ブチレングリコール 6.0g
パラオキシ安息香酸メチル 1.5g
香料 0.1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0077】
〔配合例4〕
下記組成のパックを常法により製造した。
メリッサ全草50質量%エタノール抽出物(製造例6) 0.05g
ヨクイニンエキス 0.1g
ポリビニルアルコール 15g
ポリエチレングリコール 3g
プロピレングリコール 7g
エタノール 10g
パラオキシ安息香酸メチル 0.05g
グリチルリチン酸ジカリウム 0.1g
香料 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の幹細胞増殖因子(SCF)発現上昇抑制剤は、日焼け後の皮膚色素沈着症、シミ、ソバカス等の予防又は改善に有用である。また、本発明の幹細胞増殖因子(SCF)発現上昇抑制剤は、骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病等の予防又は治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)発現上昇抑制剤。
【請求項2】
五斂子抽出物、甘草葉部抽出物、オニイチゴ抽出物、ビワ抽出物、マチルス抽出物、メリッサ抽出物、月桃抽出物、ハトムギ抽出物、センキュウ抽出物、トウニン抽出物及びゲンチアナ抽出物からなる群より選ばれる1種又は2種以上の植物抽出物を有効成分として含有することを特徴とする幹細胞増殖因子(SCF)の発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤。

【公開番号】特開2008−273875(P2008−273875A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−119579(P2007−119579)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】