説明

広帯域光源

【課題】エネルギー効率が優れ小型化が可能な広帯域光源を提供する。
【解決手段】広帯域光源1は、光源部10Aおよび光ファイバ20を備え、光源部10Aから出力される種光を光ファイバ20に導波させて非線形光学現象を発現させ、この非線形光学現象に因り帯域が拡大されたSC光を光ファイバ20において発生させて出力する。光ファイバ20は、コア領域21と、このコア領域21を取り囲むクラッド領域22とを有する。クラッド領域22は、ファイバ軸に垂直な断面において2次元周期構造を有してファイバ軸に沿って略同一形状である屈折率分布を有する。この2次元周期構造は、バックグラウンドとなる略均一の屈折率を有する固体材料からなる低屈折率領域23と、この低屈折率領域23の屈折率より高い屈折率を有する材料からなる高屈折率領域24とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域光を出力する広帯域光源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
広帯域光を出力する広帯域光源として、特許文献1,2に開示されたものが知られている。これらの文献に記載された広帯域光源は、光ファイバに種光を導波させて非線形光学現象を発現させ、この非線形光学現象に因り帯域が拡大されたスーパーコンティニューム光(Supercontinuum光、以下「SC光」という。)を該光ファイバにおいて発生させる。
【特許文献1】特開平6-291398号公報
【特許文献2】特開2007-147663号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
用途によっては、広帯域光は不要の帯域が除去されて所望の帯域に限られることが要求される場合がある。上記のような従来の広帯域光源では、所望の帯域のSC光を出力する為に、光フィルタを用いて帯域を制限している。それ故、光フィルタが設けられた従来の広帯域光源は、エネルギー利用効率が低く、また、より装置規模が大きくなる。
【0004】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、エネルギー効率が優れ小型化が可能な広帯域光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る広帯域光源は、(1) 導波帯域および遮断帯域を有し、導波帯域に含まれる波長の種光が入力され、この入力された種光の導波に伴い非線形光学現象により帯域が拡大された光を発生させて出力する光ファイバと、(2) 光ファイバに入力されるべき種光を出力する光源部と、を備える。この光ファイバが、コア領域と、このコア領域を取り囲むクラッド領域とを有する。クラッド領域が、ファイバ軸に垂直な断面において2次元周期構造を有してファイバ軸に沿って略同一形状である屈折率分布を有する。2次元周期構造が、バックグラウンドとなる固体材料からなる低屈折率領域と、この低屈折率領域の屈折率より高い屈折率を有する材料からなる高屈折率領域とからなる。コア領域が、2次元周期構造の断面の中央部にある欠陥からなり、2次元周期構造を形成する材料のうち最も高い屈折率より低い屈折率を有する材料からなる。また、導波帯域および遮断帯域が2次元周期構造に由来し、導波帯域にゼロ分散波長を有する。
【0006】
また、本発明に係る広帯域光源では、光ファイバが、導波帯域として第1導波帯域および第2導波帯域を有し、光源部が、第1導波帯域に含まれる波長であって光ファイバに入力されるべき種光を出力するとともに、第2導波帯域に含まれる波長であって光ファイバに入力されるべき種光を出力するのが好適である。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る広帯域光源は、エネルギー効率が優れ、小型化が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0009】
(第1実施形態)
【0010】
先ず、本発明に係る広帯域光源の第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る広帯域光源1の構成を示す図である。この図に示される広帯域光源1は、光源部10Aおよび光ファイバ20を備え、光源部10Aから出力される種光を光ファイバ20に導波させて非線形光学現象を発現させ、この非線形光学現象に因り帯域が拡大されたSC光を光ファイバ20において発生させて出力する。
【0011】
光源部10Aは、光ファイバ20に入力されるべき種光を出力する。この光源部10Aは、種類については特に限定されないが、例えば、チタン・サファイア・レーザ光源(波長800nm、パルス幅100fs以下)、光パラメトリック増幅器(波長1500nm、パルス幅260fs以下)およびYAGレーザ光源(波長1064nm、パルス幅6ns)などが好適に用いられ得る。光源部10Aから出力される種光は、光ファイバ20のゼロ分散波長の付近の波長であって、光ファイバ20内で非線形光学現象を生じさせ得るパワーを有する。
【0012】
光ファイバ20は、フォトニック結晶ファイバであって、導波帯域および遮断帯域を有し、導波帯域に含まれる波長の種光が入力され、この入力された種光の導波に伴い非線形光学現象により帯域が拡大された光を発生させる。図2は、第1実施形態に係る広帯域光源1に含まれる光ファイバ20の断面の一例を示す図である。この図は、光ファイバ20のファイバ軸に垂直な断面を示している。
【0013】
この光ファイバ20は、コア領域21と、このコア領域21を取り囲むクラッド領域22とを有する。クラッド領域22は、ファイバ軸に垂直な断面において2次元周期構造を有してファイバ軸に沿って略同一形状である屈折率分布を有する。この2次元周期構造は、バックグラウンドとなる略均一の屈折率を有する固体材料からなる低屈折率領域23と、この低屈折率領域23の屈折率より高い屈折率を有する材料からなる高屈折率領域24とからなる。高屈折率領域24は、図示のとおり、2次元三角格子の各格子点上に配置されている。格子点の間の距離は周期と呼ばれる。コア領域21は、2次元周期構造の断面の中央部にある欠陥からなり、2次元周期構造を形成する材料のうち最も高い屈折率より低い屈折率を有する材料からなる。光ファイバ20の導波帯域および遮断帯域は2次元周期構造に由来し、光ファイバ20は導波帯域にゼロ分散波長を有する。
【0014】
導波帯域に含まれる波長の光は、光ファイバ20のコア領域21により導波されてファイバ軸方向に沿って進むことができる。一方、遮断帯域に含まれる波長の光は、光ファイバ20のファイバ軸に沿って進む際の損失が大きい。導波帯域と遮断帯域とでは、導波光の損失の差が3dB以上ある。屈折率差は公知の方法を用いて作製される。例えば低屈折率領域23は純シリカガラスまたは純シリカガラスにF,B,Cl等の元素を添加したシリカガラスを用いることができる。また、高屈折率領域24は、Ge,Cl,Ti,Al等の元素を添加したシリカガラスを用いることができる。
【0015】
図3は、第1実施形態に係る広帯域光源1に含まれる光ファイバ20の透過特性の一例を示す図である。ここでは、純シリカガラスの屈折率を基準として、低屈折率領域23の比屈折率差を0.0%とし、高屈折率領域24の比屈折率差を3%とした。高屈折率領域24の径を3.6μmとし、高屈折率領域24を周期5.7μmで三角格子状に配置して、その周期構造の欠陥を中心に設けてコア領域21とした。この図に示されるように、光ファイバ20は導波帯域と遮断帯域とを交互に有する。
【0016】
図4は、第1実施形態に係る広帯域光源1に含まれる光ファイバ20の透過特性および分散特性を模式的に示す図である。この図に示されるように、光ファイバ20は、各々の導波帯域においてゼロ分散波長を有する。
【0017】
光ファイバ20の諸特性は、低屈折率領域23および高屈折率領域24それぞれの屈折率、ならびに、高屈折率領域24の径や配置の周期、等によって決定される。光ファイバ20の全損失は、屈折率の2次元周期構造に由来する不連続な透過波形に、曲げ損失や材料損失が加わったものとなる。またフォトニックバンドギャップ効果によって光が導波される場合は、閉じ込め損も含まれる。図3は、光ファイバ20を略直線状とした場合の透過特性の一例である。SC光発生の効率の点では、コア領域21が中実であることが望ましい。また、光ファイバ20が全て固体材料からなる場合、中空のファイバに比べて製造が容易である。またフォトニックバンドギャップ効果によって光が導波される場合、ゼロ分散波長を含む導波帯域が容易に複数得られるので、波長帯域の選択が可能となる。
【0018】
このような光ファイバ20に種光が入力されると、この光ファイバ20においてSC光が発生する。このとき得られるSC光の帯域は、光ファイバ20の導波帯域によって制限される。本実施形態に係る広帯域光源1では、SC光発生と波長フィルタリングとが同時に行われるので、導波帯域のSC光の発生効率を改善することができる。また、白色光を光ファイバ20内で発生させることから、白色ランプなどに比べて光の集光が容易である。
【0019】
図5は、従来の広帯域光源から出力されるSC光のスペクトルと対比して、第1実施形態に係る広帯域光源1から出力されるSC光のスペクトルを説明する図である。従来の広帯域光源から出力されるSC光は、光ファイバから出力される光の帯域Aが光フィルタにより帯域Bに狭められたものとなる。これに対して、第1実施形態に係る広帯域光源1から出力されるSC光は、光ファイバ20の導波帯域Cに限られ、しかも、エネルギー効率が優れていて、単位帯域幅当たりのパワーが従来技術と比較して大きい。
【0020】
光ファイバ20の一つの具体例は以下のとおりである。低屈折率領域23の比屈折率差が−0.7%であり、高屈折率領域24の比屈折率差が2%であり、高屈折率領域24の径が6.7μmであり、高屈折率領域24が周期11.4μmで三角格子状に配置される。コアは2次元周期構造中央部の高屈折率構造を1つ取り除くことによって形成される。このような光ファイバ20は、光通信帯域のEバンドからSバンドまでを含む導波帯域を有し、波長1.55μm付近にゼロ分散波長を有する。したがって、光源部10Aから波長1.55μm付近の種光を出力し、この種光を光ファイバ20に入力させることで、EバンドからSバンドまでを含む導波帯域に限られた帯域を有するSC光を光ファイバ20において発生させることができる。
【0021】
光ファイバ20の他の具体例は以下のとおりである。低屈折率領域23の比屈折率差が0.0%であり、高屈折率領域24の比屈折率差が3%であり、高屈折率領域24の径が3.6μmであり、高屈折率領域24が周期5.7μmで三角格子状に配置される。このとき屈折率領域24の外径と周期構造の周期との比は、0.6となる。コアは2次元周期構造中央部の高屈折率構造を1つ取り除くことによって形成される。図6は、この光ファイバ20の透過特性を示す図である。この図には、光ファイバ20を略直線状とした場合の透過特性が示されるとともに、光ファイバ20を曲げ径60mmφで巻いた場合の透過特性が示されている。この図に示されるように、ピーク強度に対して−3dB以上となる導波帯域幅は、光ファイバ20を略直線状とした場合には149nmであるのに対して、光ファイバ20を曲げ径60mmφで巻いた場合には143nmであって、曲げ径60mmφの曲げに因る導波帯域幅の減少は10nm以下となる。また、曲げ径60mmφの曲げに因る損失は1.5dB以下である。このように高屈折率領域24の外径と周期構造の周期との比が0.6以上である光ファイバ20を用いると、SC光の強度や導波帯域幅を殆ど損なうことなく、装置の小型化が可能となる。
【0022】
光ファイバ20の更に他の具体例は以下のとおりである。低屈折率領域23の比屈折率差が0.0%であり、高屈折率領域24の比屈折率差が3%であり、高屈折率領域24の径が4.7μmであり、高屈折率領域24が周期7.5μmで三角格子状に配置される。図7は、この光ファイバ20の透過特性を示す図である。この図には、光ファイバ20を曲げ径22mmφで巻いた場合の透過特性が示されるとともに、光ファイバ20を曲げ径40mmφで巻いた場合の透過特性が示されている。この図に示されるように、曲げ径を40mmΦから22mmΦにすることで、導波帯域幅は50nmだけ小さくなる。このことを利用すると、導波帯域幅の調整が可能である。このように光ファイバ20の導波帯域幅を調整することで、所望の帯域幅のパワーをより一層向上させることが可能となる。
【0023】
以上のとおり、本実施形態に係る広帯域光源1は、光ファイバ20において導波帯域に限られた波長域のSC光を発生させるので、これとは別に光フィルタを設ける必要がない。したがって、本実施形態に係る広帯域光源1は、エネルギー効率が優れ、小型化が可能である。所望の光が光ファイバ20から直接得られるので、光源の取り回しが容易である。光ファイバ20は全てまたは大部分が固体材料からなるので、ホーリーファイバに比べて作製が容易である。
【0024】
(第2実施形態)
【0025】
次に、本発明に係る広帯域光源の第2実施形態について説明する。図8は、第2実施形態に係る広帯域光源2の構成を示す図である。この図に示される広帯域光源2は、光源部10Bおよび光ファイバ20を備え、光源部10Bから出力される種光を光ファイバ20に導波させて非線形光学現象を発現させ、この非線形光学現象に因り帯域が拡大されたSC光を光ファイバ20において発生させて出力する。
【0026】
特に第2実施形態では、光ファイバ20は、導波帯域として第1導波帯域および第2導波帯域を有する。また、光源部10Bは、第1導波帯域に含まれる波長であって光ファイバ20に入力されるべき種光を出力するとともに、第2導波帯域に含まれる波長であって光ファイバ20に入力されるべき種光を出力する。
【0027】
光源部10Bは、N個の光源11〜11および光合波部12を含む。ここで、Nは2以上の整数であり、また、以下に登場するnは1以上N以下の各整数である。N個の光源11〜11それぞれは、光ファイバ20に入力されるべき種光を出力する。N個の光源11〜11それぞれは、種類については特に限定されないが、例えば、チタン・サファイア・レーザ光源(波長800nm、パルス幅100fs以下)、光パラメトリック増幅器(波長1500nm、パルス幅260fs以下)およびYAGレーザ光源(波長1064nm、パルス幅6ns)などが好適に用いられ得る。N個の光源11〜11それぞれから出力される種光は、光ファイバ20の何れかの導波帯域内のゼロ分散波長の付近の波長であって、光ファイバ20内で非線形光学現象を生じさせ得るパワーを有する。光合波部12は、N個の光源11〜11それぞれから出力された種光を合波して、その合波した光を光ファイバ20の一端に入力させる。
【0028】
光ファイバ20の一つの具体例は以下のとおりである。低屈折率領域23の比屈折率差が−0.7%であり、高屈折率領域24の比屈折率差が2%であり、高屈折率領域24の径が4.1μmであり、高屈折率領域24が周期6.8μmで三角格子状に配置される。このような光ファイバ20は、0.6μm〜1.1μmの帯域内で0.78μmを境に2つの導波帯域を有する。このような光ファイバ20と、2つのゼロ分散波長付近の種光を発生する2つの光源11,11とを組み合わせる。このとき光ファイバ20に入力させる種光の波長を選択することで、一方または双方の導波帯域に対応するSC光を得ることができる。
【0029】
この第2実施形態に係る広帯域光源2も、第1実施形態に係る広帯域光源1と同様の効果を奏することができる。また、第2実施形態に係る広帯域光源2は、650nm〜760nmの帯域と820nm〜1000nmの波長帯域のみを選択してパワーを増大させてSC光を出力することができるので、例えば特開2003-279412号公報に開示されているような波長域700nm〜1100nmの光を用いた液体試料の分析を行う際に実用上有益である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】第1実施形態に係る広帯域光源1の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態に係る広帯域光源1に含まれる光ファイバ20の断面を示す図である。
【図3】第1実施形態に係る広帯域光源1に含まれる光ファイバ20の透過特性の一例を示す図である。
【図4】第1実施形態に係る広帯域光源1に含まれる光ファイバ20の透過特性および分散特性を模式的に示す図である。
【図5】従来の広帯域光源から出力されるSC光のスペクトルと対比して、第1実施形態に係る広帯域光源1から出力されるSC光のスペクトルを説明する図である。
【図6】第1実施形態に係る広帯域光源1に含まれる光ファイバ20の透過特性の一例を示す図である。
【図7】第1実施形態に係る広帯域光源1に含まれる光ファイバ20の透過特性の一例を示す図である。
【図8】第2実施形態に係る広帯域光源2の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1,2…広帯域光源、10A,10B…光源部、20…光ファイバ、21…コア領域、22…クラッド領域、23…低屈折率領域、24…高屈折率領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導波帯域および遮断帯域を有し、前記導波帯域に含まれる波長の種光が入力され、この入力された種光の導波に伴い非線形光学現象により帯域が拡大された光を発生させて出力する光ファイバと、
前記光ファイバに入力されるべき種光を出力する光源部と、
を備え、
前記光ファイバが、コア領域と、このコア領域を取り囲むクラッド領域とを有し、
前記クラッド領域が、ファイバ軸に垂直な断面において2次元周期構造を有してファイバ軸に沿って略同一形状である屈折率分布を有し、
前記2次元周期構造が、バックグラウンドとなる固体材料からなる低屈折率領域と、この低屈折率領域の屈折率より高い屈折率を有する材料からなる高屈折率領域とからなり、
前記コア領域が、前記2次元周期構造の前記断面の中央部にある欠陥からなり、前記2次元周期構造を形成する材料のうち最も高い屈折率より低い屈折率を有する材料からなり、
前記導波帯域および前記遮断帯域が前記2次元周期構造に由来し、前記導波帯域にゼロ分散波長を有する、
ことを特徴とする広帯域光源。
【請求項2】
前記光ファイバが、前記導波帯域として第1導波帯域および第2導波帯域を有し、
前記光源部が、前記第1導波帯域に含まれる波長であって前記光ファイバに入力されるべき種光を出力するとともに、前記第2導波帯域に含まれる波長であって前記光ファイバに入力されるべき種光を出力する、
ことを特徴とする請求項1記載の広帯域光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−222908(P2009−222908A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66316(P2008−66316)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】