説明

廃水処理装置及び廃水処理方法

【課題】バチルス属細菌を十分に効率的且つ低コストにて優占化することが可能であり、有機性廃水を生物処理する際に生じる悪臭の発生を十分に抑制できる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明の廃水処理装置は、有機性廃水に含まれる異物及び浮遊物質を分離除去する前処理手段12と、前処理手段12からの有機性廃水を、バチルス属細菌を含有する汚泥で生物処理する生物処理手段14と、生物処理手段14から排出される生物処理液に含まれる汚泥の少なくとも一部を、前処理手段12及び生物処理手段14の両方又はいずれか一方に返送する返送路(L7,L9,L10,L10a,L10b)と、返送路で返送される汚泥の少なくとも一部を、加熱処理する加熱処理手段20と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃水を生物処理するための廃水処理装置及び廃水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機性廃水の処理施設においては、処理タンクや管路から発生する悪臭に対して防除策を講じる必要がある。悪臭の原因となる臭気物質は、主に、硫化水素、メチルカプタン、硫化メチル、二硫化メチル及びアンモニアなどである。これらの臭気物質は、硫黄や窒素を含有する有機物が嫌気状態にて分解されることで生成する。
【0003】
悪臭に対する防除策の一つとして、バチルス属細菌を利用する方法が知られている。バチルス属細菌は、有機性廃水の生物処理に使用される活性汚泥中に存在する土壌細菌の一種であり、臭気物質の発生を抑制する作用を有している。これは、バチルス属細菌が臭気物質を生成する硫酸還元菌などの働きを抑制する性質があるためと考えられている。
【0004】
このような性質を有するバチルス属細菌を利用した廃水処理装置として、例えば、特許文献1にはバチルス属細菌を優占種とする生物相を活性汚泥中に形成し、これを用いて廃水の生物処理を行う装置が記載されている。
【特許文献1】特開2005−329301号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の廃水処理装置においては、バチルス属細菌を優占種とするために被処理水に対して酸化剤を添加する必要がある。酸化剤などの添加薬剤の添加量につき、被処理水の性状の変動に応じた制御を要するため、廃水処理を十分に効率的に行うことが困難であるといえる。また、添加薬剤の使用は、廃水処理装置のランニングコストを増大させる要因となる。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、バチルス属細菌を十分に効率的且つ低コストにて優占化することが可能であり、有機性廃水を生物処理する際に生じる悪臭の発生を十分に抑制できる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の廃水処理装置は、有機性廃水に含まれる異物及び浮遊物質を分離除去する前処理手段と、前処理手段からの有機性廃水を、バチルス属細菌を含有する汚泥で生物処理する生物処理手段と、生物処理手段から排出される生物処理液に含まれる汚泥の少なくとも一部を、前処理手段及び生物処理手段の両方又はいずれか一方に返送する返送路と、返送路で返送される汚泥の少なくとも一部を、加熱処理する加熱処理手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の廃水処理装置によれば、生物処理手段から流出する汚泥を前処理手段及び/又は生物処理手段に返送する際に、返送する汚泥の少なくとも一部に対して加熱処理を行うことができる。これにより、汚泥に含まれるバチルス属細菌を優占化することができる。
【0009】
汚泥に含まれる細菌は、一般に、低温環境に対する抵抗性は強いが、高温環境に対する抵抗性が弱い。有機性廃水の処理において出現する多くの細菌は高温条件下(例えば、65〜70℃)に数分間置くと死滅する。これに対し、バチルス属細菌は、このような温度条件下においては、胞子を形成する性質を有し、この性質により死滅せずに生存可能である。
【0010】
本発明の廃水処理装置は、当該装置の上流側に、加熱処理を経た汚泥を返送する返送路を備えている。返送された汚泥に含まれるバチルス属細菌は、当該装置内において再び好気状態に曝されると活性化する。したがって、バチルス属細菌を選択的に増殖させることができる。
【0011】
バチルス属細菌は臭気物質の発生を抑制する作用を有する。このため、返送される汚泥の少なくとも一部を、優占種がバチルス属細菌である活性汚泥(以下、「バチルス優占汚泥」という。)とし、これを生物処理手段よりも上流側に返送することで、廃水処理装置から生じる悪臭が抑制される。
【0012】
なお、本発明において、「優占種」とは、汚泥中に生息している生物相において数が最も多い種を意味する。また、「優占化」とは、ある種の細菌を対象の生物相における優占種にすることを意味する。優占化は、例えば、特定の細菌を選択的に増殖させることによって行うことができる。また、特定の細菌以外の細菌を淘汰することによって行うこともでき、これと上記の選択的な増殖とを組み合わせて行うこともできる。
【0013】
また、本発明に係る廃水処理装置において、加熱処理手段は、加熱処理が施される被処理汚泥を収容する加熱処理槽と、加熱処理槽内の被処理汚泥を曝気する曝気手段と、加熱処理槽内の被処理汚泥を加熱する加熱部と、を有し、曝気手段によって曝気することで加熱処理槽内に部分的に好気領域が形成される構成であることが好ましい。
【0014】
バチルス属細菌を含む活性汚泥を、加熱部により加熱すると同時に、好気状態及び嫌気状態に繰り返し曝すことで、より効率的にバチルス属細菌を優占化させることができる。上記構成の加熱処理手段によれば、加熱処理槽内に好気領域を部分的に形成させることが可能である。このため、加熱処理槽内に収容された活性汚泥は、対流によって好気領域及び当該好気領域以外の嫌気領域を繰り返し通過する。
【0015】
嫌気状態に曝されると、バチルス属細菌は胞子を形成する性質を有し、この性質により嫌気状態であっても死滅せずに生存可能である。これに対し、好気条件下にて生息する偏性好気性菌などは嫌気状態に曝されると死滅する。他方、好気状態に曝されると、バチルス属細菌は活性化し、他の菌を捕食して増殖する。また、バチルス属細菌は、他の菌の増殖を妨げる物質を放出する性質があるので、バチルス属細菌が増えるにつれて更にバチルス属細菌は増殖しやすくなる。
【0016】
このように被処理汚泥を好気領域及び嫌気領域を繰り返し通過させることによって、酸化剤や殺菌剤などの添加薬剤を使用しなくても、被処理汚泥中のバチルス属細菌を選択的に増殖させることができる。その結果、被処理汚泥中のバチルス属細菌を優占種とすることができる。
【0017】
また、本発明に係る廃水処理装置は、生物処理手段からの生物処理液を固液分離して汚泥と分離液とを得る固液分離手段を更に備え、前記被処理汚泥として前記生物処理手段からの生物処理液及び前記固液分離手段からの汚泥の両方又はいずれか一方を、前記加熱処理手段に供給可能な構成であることが好ましい。固液分離手段からの汚泥(以下、「分離汚泥」という)は、生物処理手段からの生物処理液と比較して、高濃度に活性汚泥を含有している。このため、分離汚泥を返送し、分離汚泥の少なくとも一部を加熱処理手段に供給することで、より効率的なバチルス属細菌の優占化処理が実現する。
【0018】
また、本発明に係る廃水処理装置は、固液分離手段からの汚泥を脱水処理する脱水手段と、脱水手段からの脱水汚泥を焼却処理する汚泥焼却手段とを更に備え、加熱処理手段が有する加熱部は、汚泥焼却手段により生じる熱によって加熱されるものであることが好ましい。すなわち、加熱処理手段が備える加熱部は、脱水汚泥の焼却で生じる熱源(例えば、洗煙排水)との熱交換によって加熱されるものであることが好ましい。これにより、有機性廃水を処理する過程で生じる熱をより有効利用することができる。
【0019】
本発明に係る廃水処理方法は、有機性廃水に含まれる異物及び浮遊物質を分離除去する前処理工程と、前処理工程を経た有機性廃水を、バチルス属細菌を含有する汚泥で生物処理する生物処理工程と、生物処理工程により得られる生物処理液に含まれる汚泥の少なくとも一部を返送し、前処理に供される有機性廃水及び前記生物処理に供される有機性廃水の両方又はいずれか一方に添加する返送工程と、返送工程にて返送される汚泥の少なくとも一部に対し、加熱処理を行う加熱処理工程と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の廃水処理方法においては、バチルス属細菌を含有する汚泥を前処理に供される有機性廃水及び/又は生物処理に供される有機性廃水に返送する際に、この汚泥の少なくとも一部に対して加熱処理を行う。これにより、高温条件に対する耐性が低い細菌を死滅させ、バチルス属細菌を選択的に増殖させることができる。
【0021】
バチルス属細菌は臭気物質の発生を抑制する作用を有するため、返送される汚泥の少なくとも一部をバチルス優占汚泥とすることで、廃水処理装置から生じる悪臭が抑制される。
【0022】
本発明に係る廃水処理方法における加熱処理は、返送される汚泥の少なくとも一部(被処理汚泥)に対し、加熱処理を行うとともに、好気処理及び嫌気処理を施す工程を繰り返し行うものであることが好ましい。被処理汚泥に対して好気処理及び嫌気処理を繰り返し行うことによって、酸化剤や殺菌剤などの添加薬剤を使用しなくても、被処理汚泥中のバチルス属細菌を選択的に増殖させることができる。その結果、被処理汚泥の優占種をバチルス属細菌とすることができる。
【0023】
また、本発明に係る廃水処理方法では、返送工程において返送しない汚泥を脱水処理して脱水汚泥を得る脱水工程と、脱水汚泥を焼却処理する汚泥焼却工程とを更に備え、加熱処理工程は、汚泥焼却工程で生じる熱を熱源として利用するものであることが好ましい。これにより、有機性廃水を処理する過程で生じる熱をより有効利用することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、バチルス属細菌を十分に効率的且つ低コストにて優占化することが可能であり、有機性廃水を生物処理する際に生じる悪臭の発生を十分に抑制できる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、以下の説明においては、同一の要素には同一の符号を用いることとし重複する説明は省略する。
【0026】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の廃水処理装置の概略構成図である。廃水処理装置10Aは、有機物を含有する有機性廃水を、バチルス属細菌を含む活性汚泥を用いて生物処理するための装置である。
【0027】
廃水処理装置10Aは、沈砂槽(前処理手段)12、曝気槽(生物処理手段)14、沈殿槽(固液分離手段)16、脱水機(脱水手段)17、汚泥焼却装置(汚泥焼却手段)18及び加熱処理手段20を有する。
【0028】
沈砂槽12は、ラインL1を通じて導入される有機性廃水に含まれる異物及び浮遊物質を分離除去するためのものである。沈砂槽12は有機性廃水の流入口部分に網(図示せず)が設けられており、この網の目よりも大きな異物が分離除去される。また、沈砂槽12に流入した有機性廃水に含まれる浮遊物質のうち、沈殿したものがラインL2から排出される。沈砂槽12で処理された有機性廃水はラインL3を通じて曝気槽14に導入されるようになっている。なお、本明細書において「ライン」とは、管路を意味するものとする。
【0029】
曝気槽14は、好気性菌を含む活性汚泥によって有機性廃水を生物処理するためのものである。図示していないが、曝気槽14は空気又は酸素を曝気する曝気装置を備えている。本実施形態では、主に、好気性菌であるバチルス属細菌によって有機性廃水に含まれる有機物を分解する。曝気槽14には、ラインL4が接続されている。曝気槽14から排出される曝気液(生物処理液)は、ラインL4を通じて沈殿槽16に導入されるようになっている。
【0030】
沈殿槽16は、曝気槽14からの曝気液を、分離汚泥と分離液とに分離するためのものである。分離液は、いわゆる上澄み液であり、活性汚泥の含有量が十分に低減されている。一方、分離汚泥は、固形分である活性汚泥を高濃度に含有するとともに、曝気槽14における生物処理で分解されなかったものも含有している。また、活性汚泥には、バチルス属細菌をはじめ複数の菌が含まれている。
【0031】
沈殿槽16には、ラインL5及びラインL6が接続されている。ラインL5は、分離液を排水浄化設備へと移送するためのラインである。ラインL6は、分離汚泥を排出するためのラインである。
【0032】
ラインL6には、ラインL7及びラインL8が接続されている。ラインL7を通じて分離汚泥の少なくとも一部が、廃水処理装置10Aの上流側に返送されるようになっている。ラインL7を通じて返送される汚泥が返送汚泥と称されるものである。一方、ラインL8を通じて廃水処理装置10Aの上流側に返送されない分離汚泥(余剰汚泥)が、脱水機17へと移送されるようになっている。
【0033】
脱水機17は、沈殿槽16からの分離汚泥を、脱水汚泥と脱水分離液とに分離するためのものである。脱水機17には、ラインL20及びラインL22が接続されている。ラインL20は、脱水分離液を排水浄化設備へと移送するためのラインである。ラインL22は、脱水汚泥を汚泥焼却装置18へと移送するためのラインである。なお、脱水機17としては、あらゆる脱水機が適用可能であり、例えば、スクリュープレス脱水機、遠心脱水機、多重円板型脱水機、ベルトプレス脱水機、フィルタープレス脱水機、ロータリープレス脱水機などが挙げられる。これらの脱水機は1種を単独もしくは複数で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
汚泥焼却装置18は、脱水機17からの脱水汚泥を、焼却処理するためのものである。汚泥焼却装置18は、図示していないが、脱水汚泥の焼却処理を行う汚泥焼却炉と、汚泥焼却炉から生じる排煙と水とを接触させる排煙処理塔と、を備えている。排煙と水とを気液接触させることで、排煙の低温化、排煙中の固形分及び有害物質の低減化を図ることができる。汚泥焼却装置18には、ラインL24が接続されており、このラインL24を通じて、排煙の熱を吸収した水(洗煙排水)を排出できるようになっている。
【0035】
洗煙排水を移送するラインL24は、後述の加熱処理手段20の加熱処理槽21内を通過するように設けられている。これにより、ラインL24内を流れる洗煙排水と加熱処理槽21内の被処理汚泥との熱交換が行われるようになっている。
【0036】
加熱処理手段20は、ラインL7を通じて返送される返送汚泥の少なくとも一部に対し、加熱処理を行うためのものである。加熱処理手段20には、ラインL7から分岐したラインL9を通じて返送汚泥の少なくとも一部(被処理汚泥)が導入されるようになっている。そして、加熱処理後の返送汚泥はラインL10から排出されるようになっている。
【0037】
ラインL10にはラインL10a及びラインL10bが接続されている。ラインL10a及びラインL10bそれぞれは、加熱処理後の返送汚泥を、ラインL7及びラインL1に導入するためのラインである。上記ラインL7,L9,L10,L10a,L10bは、活性汚泥を返送する汚泥返送路(返送路)として機能している。
【0038】
次に、図2を参照しながら、加熱処理手段20の構成及び加熱処理方法について説明する。
【0039】
図2は被処理汚泥の加熱処理を行っている状態の加熱処理手段20の好適な一形態を示す模式断面図である。加熱処理手段20は、被処理汚泥を収容する加熱処理槽21と、加熱処理槽21内の被処理汚泥を曝気する曝気装置(曝気手段)22と、加熱処理槽21内の被処理汚泥を攪拌する攪拌機23とを有している。また、攪拌機23の上方には、被処理汚泥よりも高い温度の洗煙排水を移送するラインL24が配設されている。ラインL24は、その外周面と被処理汚泥とが十分に接触する深度に位置している。ラインL24の加熱処理槽21内に配設されている部分によって、加熱処理手段20の加熱部が構成されている。
【0040】
加熱処理手段20は、曝気装置22から空気又は酸素を曝気することで加熱処理槽21内に部分的に好気領域を形成可能な構成となっている。そして、加熱処理槽21内の曝気が行われない領域には嫌気領域が形成される構成となっている。
【0041】
加熱処理槽21内の好気領域及び嫌気領域は、加熱処理槽21内の分離汚泥の酸化還元電位(ORP)を測定することにより判別可能である。ORPは、対象の液体が好気状態であるか嫌気状態であるかを電位で示す指標である。好気状態であると電位は高い値となり、嫌気状態であると電位は低い値となる。ただし、加熱処理槽21内においては、被処理汚泥は流動しているため、好気領域と嫌気領域との明確な境界線はなく、これらの遷移領域(例えば、無酸素領域)も存在する。
【0042】
図2に示す加熱処理手段20の構成は、曝気装置22の上方領域に好気領域が、攪拌機23の上方領域に嫌気領域が、それぞれ形成されるように設計されている。なお、曝気によって被処理汚泥を適度に対流させることが可能な場合は、攪拌機23が設けられていない槽を使用してもよい。また、曝気によって過度の対流が生じる場合は、対流を抑制するための邪魔板を加熱処理槽21内に配置してもよい。
【0043】
曝気装置22及び攪拌機23の配置は、加熱処理槽21内に好気領域及び嫌気領域を形成可能であれば、特に限定されない。ただし、活性化した状態のバチルス属細菌をラインL10から排出させる観点から、加熱処理槽21の出口側に好気領域を形成することが好ましい。したがって、加熱処理槽21として、出口側に曝気装置22が配置された加熱処理槽を使用することが好ましい。また、洗煙排水を移送するラインL24は、加熱処理槽21内の被処理汚泥と接触可能であれば、攪拌機23の上方の位置に限定されない。ただし、偏性好気性菌などをより効率的に死滅させる観点から、嫌気領域が形成される攪拌機23の上方領域にラインL24を配設することが好ましい。
【0044】
次に、廃水処理装置10Aを用いた有機性廃水の廃水処理方法について説明する。
【0045】
まず、ラインL1を通じて沈砂槽12に有機性廃水を導入する。ここで有機性廃水の原水に含まれている異物及び浮遊物質を分離除去する。
【0046】
ラインL3を通じて曝気槽14に有機性廃水を導入する。ここで有機性廃水に含まれる有機物を、バチルス属細菌を含有する活性汚泥によって生物処理する。有機性廃水を生物処理する際の重要な環境条件の一つは、処理温度である。有機性廃水の処理に寄与する微生物の増殖可能な温度は一般に、5〜45℃の範囲である。そして、微生物の増殖速度は、25〜32℃の範囲で最大になるものが多いといわれている。
【0047】
曝気槽14における生物処理の温度条件は、15〜35℃とすることが好ましく、20〜30℃とすることがより好ましい。生物処理の温度が15℃未満であると、活性汚泥の酵素活性が低下する傾向があり、他方、35℃を超えると、好気性菌の増殖が阻害される傾向がある。
【0048】
曝気槽14から排出される曝気液を、ラインL4を通じて沈殿槽16に導入し、曝気液に含まれる活性汚泥を沈殿させて、分離汚泥と分離液とに分離する。沈殿槽16における上澄み液である分離液を、ラインL5を通じて排水浄化施設に移送する。排水浄化設備において、脱水分離液の消毒や高度凝集処理といった処理が行われる。
【0049】
一方、沈殿槽16からの分離汚泥を、ラインL6から排出する。分離汚泥の排出量は、沈殿槽16に供給する曝気液を1体積部とすると、0.5〜2体積部とすることが好ましい。ラインL6から排出した分離汚泥の少なくとも一部を、ラインL7を通じて廃水処理装置10Aの上流側に返送する。廃水処理装置10Aの上流側に返送しない分離汚泥を、ラインL8を通じて脱水機17に導入する。脱水機17に導入した分離汚泥を、脱水処理することにより、脱水汚泥と脱水分離液とに分離する。
【0050】
得られた脱水汚泥を汚泥焼却装置18に導入し、焼却処理を行う。脱水汚泥の焼却処理において生じる洗煙排水を、ラインL24を通じて移送する。洗煙排水を加熱処理手段20の熱源として使用するためには、洗煙排水の温度は、加熱処理槽21内の被処理汚泥温度よりも高い必要があり、例えば、80℃であることが好ましい。加熱処理槽21内の被処理汚泥との熱交換後、洗煙排水を沈砂槽12に返送するなどして、洗煙排水の浄化処理を行うことが好ましい。
【0051】
ラインL7で返送する返送汚泥の一部をラインL9を通じて加熱処理手段20に導入する。加熱処理手段20では、高温条件下において、被処理汚泥を好気状態及び嫌気状態に繰り返し曝すことで優占化処理を行う。洗煙排水との熱交換により、加熱処理槽21内の被処理汚泥の温度を、50〜70℃とすることが好ましく、55〜60℃とすることがより好ましい。被処理汚泥の温度を上記範囲内とすると、バチルス属細菌をより効率的に優占化させることができる。
【0052】
加熱処理槽21内における好気領域及び嫌気領域は、被処理汚泥の曝気及び攪拌によって形成することができる。曝気及び攪拌は、加熱処理槽21内に好ましくはORPが50mV以上(より好ましくは100〜400mV)の好気領域が形成されると共に、好ましくはORPが−100mV以下(より好ましくは−500〜−150mV)の嫌気領域が形成されるように行えばよい。
【0053】
また、加熱処理手段20では、嫌気領域における対流速度が、汚泥の移動開始速度から浮遊開始速度の間となるように被処理汚泥を攪拌することが好ましい。一般に汚泥の浮遊開始速度は0.2〜0.3m/秒である。また、被処理汚泥の加熱処理槽21内の滞留時間は、24時間以上とすることが好ましく、36〜48時間とすることがより好ましい。滞留時間が24時間未満であると、優占化処理が不十分となる傾向がある。
【0054】
また、加熱処理槽21内の嫌気条件と好気条件の水理学的な滞留時間の比率が、好ましくは嫌気条件/好気条件=1/4〜1/2(より好ましくは1/3〜1/2)となるように、加熱処理槽21内に嫌気領域及び好気領域を形成する。当該比率が1/4未満であると、偏性好気性菌などの淘汰が不十分となる傾向があり、他方、1/2を越えると、バチルス属細菌の活性化が不十分となる傾向がある。
【0055】
曝気装置22からの曝気は必ずしも常時行う必要はなく、間欠的に曝気することで加熱処理槽21内が交互に好気状態及び嫌気状態となるようにしてもよい。従来、処理槽内を交互に好気状態及び嫌気状態とする方法としては、有機性廃水に含まれる燐の除去又は糸状性細菌の増殖に起因する固液分離の悪化、いわゆるバルキングの防止を目的として、曝気槽において行う方法が知られている。従来の方法においては、曝気槽内の嫌気条件と好気条件の水理学的な滞留時間の比率を、嫌気条件/好気条件=1/9〜1/3の範囲とすることが一般的である。
【0056】
加熱処理手段20において上記の加熱処理により得られるバチルス優占汚泥を、ラインL10及びラインL10aを通じてラインL7内の返送汚泥に添加する。また、バチルス優占汚泥を、ラインL10及びラインL10bを通じて沈砂槽12に添加する。
【0057】
なお、必ずしもラインL7及びラインL1の両方に返送汚泥を供給する必要はなく、いずれか一方でもよい。ただし、廃水処理装置10Aの系内広域にわたりバチルス属細菌を存在せしめる観点から、ラインL7及びラインL1の両方にバチルス優占汚泥を供給することが好ましい。
【0058】
上記構成の廃水処理装置及びこれを用いた処理方法により得られる効果としては以下のものが挙げられる。すなわち、バチルス属細菌は、好気性菌であって有機物を分解する性質を有するので、バチルス属細菌を優占化させることにより、有機性廃水中の有機物が効率的に分解される。これにより、例えば、バチルス属細菌の量が10〜10個/ml程度になると、沈砂槽12や曝気槽14などのカビ臭及び汚泥の腐敗臭などが低減される。
【0059】
有機性廃水に硫化物が含まれており、その有機性廃水が嫌気性になると、硫化水素が形成され悪臭が生じたり、廃水処理装置10Aを構成する各部に腐食が生じたりすることがある。しかしながら、バチルス属細菌は、硫化水素を発生させにくい性質も有している。そのため、廃水処理装置10Aの腐食が抑制され、腐食臭も低減される。
【0060】
また、バチルス属細菌は沈降性がよいので、活性汚泥に含まれるバチルス属細菌の量が多くなると、活性汚泥の沈降性もよくなる。そのため、活性汚泥が曝気槽14から流出しにくいことから、バチルス属細菌の量が増加すると、余剰汚泥が減容・減量されやすい。更に、バチルス属細菌を含む活性汚泥の沈降性がよいことから、沈殿槽16で固液分離すると効率的に活性汚泥が有機性廃水から分離される。そして、その活性汚泥の一部を返送汚泥として、曝気槽14を含む上流側に返送するので、曝気槽14中の活性汚泥濃度が濃くなる。したがって、有機性廃水に含まれる有機物の分解効率が向上する。これにより、曝気槽14で生物処理された有機性廃水に含まれる処理水の水質が向上する。
【0061】
また、例えば、バチルス属細菌の優占化処理を行わない場合、曝気槽14内の浮遊固形物濃度が約6000mg/Lであると、通常、その固形物の30分間沈殿率は90〜100であるのに対して、上記方法によって優占化処理を行なうことによって固形物の30分間沈殿率が20〜40程度になる。これは、バチルス属細菌により有機性廃水に含まれる有機物がより多く分解されることを示している。また、バチルス属細菌は桿菌ではあるが、形状が糸状になったり、胞子になったり変化し、糸状化した菌は凝集化を促進する。
【0062】
更に、バチルス属細菌を含む活性汚泥の沈降性がよいことから、活性汚泥の濃度が安定しやすくなっている。そのため、廃水処理装置10Aの運転管理が容易になっている。
【0063】
以上述べたように、廃水処理装置10Aを用いた有機性廃水の廃水処理方法では、そのバチルス属細菌の働きにより、優れた処理水質が確保されつつ廃水処理装置10Aからの悪臭及び余剰汚泥が低減される。本実施形態では、これらの効果を添加薬剤を使用せずに得ることができる。また、添加薬剤を使用しないため、廃水処理装置の運転管理が容易であることに加え、添加薬剤等を使用する場合よりもランニングコストを低減できる。
【0064】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態の廃水処理装置の概略構成図である。第1実施形態に係る廃水処理装置10Aでは、返送汚泥を加熱処理手段20に導入している。これに対し、廃水処理装置10Bでは、ラインL8Bで移送される余剰汚泥を加熱処理手段20に導入する。
【0065】
沈殿槽16から分離汚泥を排出するラインL6には、ラインL7及びラインL8Bが接続されている。ラインL8Bを通じて余剰汚泥の全量が加熱処理手段20に導入されるようになっている。
【0066】
廃水処理装置10Bを用いた有機性廃水の廃水処理方法は、余剰汚泥の全量を加熱処理手段20に導入して加熱処理を行う点で廃水処理装置10Aを用いた場合と相違する。
【0067】
この場合、余剰汚泥の全量に対して加熱処理を行い、バチルス属細菌の優占化処理が行われるため、余剰汚泥から生じる悪臭をより確実に抑制可能である。このため、廃水処理装置10Bによれば、廃水処理装置10Aにより得られる効果に加え、余剰汚泥が移送される汚泥処理設備における悪臭の発生をより確実に低減できるという効果が得られる。
【0068】
(第3の実施形態)
図4は、第3の実施形態の廃水処理装置の概略構成図である。廃水処理装置10Cは、曝気槽14から排出される曝気液を上流側に返送する構成である点が廃水処理装置10Aと相違する。
【0069】
すなわち、廃水処理装置10Cは、(1)曝気槽14から排出される曝気液を加熱処理手段20に導入する、ラインL4から分岐したラインL12を有している点、(2)加熱処理後の曝気液を返送するラインL14,L14a,L14bを有している点、(3)加熱処理後の曝気液を、沈殿槽16に導入するラインL13を有している点で廃水処理装置10Aと相違する。
【0070】
曝気槽14からの曝気液を移送するラインL4にはラインL12が接続されている。ラインL12を通じて曝気液の少なくとも一部が加熱処理手段20に導入されるようになっている。ラインL14は加熱処理が施された曝気液を廃水処理装置10Cの上流側に返送するためのラインである。ラインL14にはラインL14a及びラインL14bが接続されている。ラインL14a及びラインL14bそれぞれは、加熱処理後の曝気液を、ラインL3及びラインL1に導入するためのラインである。上記ラインL12,L14,L14a,14bは、曝気液を返送する曝気液返送路(返送路)として機能している。また、加熱処理が施された曝気液を、ラインL13を通じて沈殿槽16に導入できるようになっている。
【0071】
廃水処理装置10Cを用いた有機性廃水の廃水処理方法は、曝気液の少なくとも一部を加熱処理手段20に導入して加熱処理を行う点で、廃水処理装置10Aを用いた場合と相違する。また、加熱処理が施された曝気液をラインL13を通じて沈殿槽16に供給できる点で相違する。
【0072】
この場合、曝気液に対して加熱処理を行い、バチルス属細菌の優占化処理が行われるため、曝気液から生じる悪臭をより確実に抑制可能である。加熱処理手段20では、第1実施形態と同様に、高温条件下において曝気液を好気状態及び嫌気状態に繰り返し曝すことで優占化処理を行う。
【0073】
廃水処理装置10Cによれば、廃水処理装置10Aにより得られる効果に加え、沈殿槽16で分離された分離液が移送される排水浄化設備における悪臭の発生をより確実に低減できるという効果が得られる。
【0074】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0075】
例えば、上記第1〜3実施形態に係る各廃水処理装置においては、1つの加熱処理手段を用いているが、2つ以上の加熱処理手段を設けてもよい。この場合、それぞれの加熱処理手段の設置位置については、上記第1〜3実施形態における加熱処理手段の設置位置を適宜採用すればよい。
【0076】
また、第1及び第2実施形態では、沈殿槽16での固液分離処理を経た分離汚泥の少なくとも一部が加熱処理手段20に供給される構成であるが、曝気槽14から排出される曝気液についても加熱処理手段20に供給可能な構成としてもよい。具体的には、曝気液を移送するラインL4と加熱処理手段20とを接続するラインを更に設け、このラインを通じて曝気液を加熱処理手段20に供給してもよい。この場合、加熱処理手段20に供給する分離汚泥及び曝気液の比率を制御する制御手段を用いることで、被処理汚泥を加熱処理に適した濃度に調整することが可能となる。
【0077】
また、同様の観点から、第3実施形態において、沈殿槽16からの分離汚泥を移送するライン(ラインL6,L7,L8)と加熱処理手段20とを接続するラインを更に設け、このラインを通じて分離汚泥を加熱処理手段20に供給可能な構成としてもよい。
【0078】
なお、沈砂槽12に返送汚泥又は曝気液を返送して添加するとは、沈砂槽12に有機性廃水を流入させるためのラインL1に添加するだけでなく、沈砂槽12に直接添加する場合も含む意味である。また、曝気槽14に返送汚泥又は曝気液を返送して添加するとは、曝気槽14に有機性廃水を流入させるためのラインL3又はラインL7に添加するだけでなく、曝気槽14に直接添加する場合も含む意味である。
【0079】
前処理手段として、沈砂槽12を例示したがこれに限られない。その他、例えば、沈砂池やスクリーンなどを採用してもよい。生物処理手段として、曝気槽14を例示したがこれに限られない。その他、例えば、好気性処理槽として、回転曝気法に用いられるもの、接触酸化法に用いられるもの、生物膜法に用いられるもの、オキシデーションディッチ法に用いられるものなどであってもよい。また、固液分離手段として、沈殿槽16を例示したが、例えば、遠心分離機や膜分離装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】第1の実施形態の廃水処理装置の概略構成図である。
【図2】加熱処理手段の好適な一形態を示す模式断面図である。
【図3】第2の実施形態の廃水処理装置の概略構成図である。
【図4】第3の実施形態の廃水処理装置の概略構成図である。
【符号の説明】
【0081】
10A〜10C…廃水処理装置、12…沈砂槽(前処理手段)、14…曝気槽(生物処理手段)、16…沈殿槽(固液分離手段)、17…脱水機(脱水手段)、18…汚泥焼却装置(汚泥焼却手段)、20…加熱処理手段、21…加熱処理槽、22…曝気装置(曝気手段)、L7,L9,L10,L10a,L10b…汚泥返送路(返送路),L12,L14,L14a,L14b…曝気液返送路(返送路)、L24…ライン(加熱部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃水に含まれる異物及び浮遊物質を分離除去する前処理手段と、
前記前処理手段からの有機性廃水を、バチルス属細菌を含有する汚泥で生物処理する生物処理手段と、
前記生物処理手段から排出される生物処理液に含まれる汚泥の少なくとも一部を、前記前処理手段及び前記生物処理手段の両方又はいずれか一方に返送する返送路と、
前記返送路で返送される汚泥の少なくとも一部を、加熱処理する加熱処理手段と、
を備えることを特徴とする廃水処理装置。
【請求項2】
前記加熱処理手段は、加熱処理が施される被処理汚泥を収容する加熱処理槽と、前記加熱処理槽内の被処理汚泥を曝気する曝気手段と、前記加熱処理槽内の被処理汚泥を加熱する加熱部と、を有し、前記曝気手段によって曝気することで前記加熱処理槽内に部分的に好気領域が形成される構成であることを特徴とする請求項1に記載の廃水処理装置。
【請求項3】
前記生物処理手段からの生物処理液を固液分離して汚泥と分離液とを得る固液分離手段を更に備え、前記被処理汚泥として前記生物処理手段からの生物処理液及び前記固液分離手段からの汚泥の両方又はいずれか一方を、前記加熱処理手段に供給可能な構成であることを特徴とする請求項2に記載の廃水処理装置。
【請求項4】
前記固液分離手段からの汚泥を脱水処理する脱水手段と、前記脱水手段からの脱水汚泥を焼却処理する汚泥焼却手段とを更に備え、
前記加熱処理手段が有する前記加熱部は、前記汚泥焼却手段により生じる熱によって加熱されるものであることを特徴とする請求項3に記載の廃水処理装置。
【請求項5】
有機性廃水に含まれる異物及び浮遊物質を分離除去する前処理工程と、
前記前処理工程を経た有機性廃水を、バチルス属細菌を含有する汚泥で生物処理する生物処理工程と、
前記生物処理工程により得られる生物処理液に含まれる汚泥の少なくとも一部を返送し、前記前処理に供される有機性廃水及び前記生物処理に供される有機性廃水の両方又はいずれか一方に添加する返送工程と、
前記返送工程にて返送される汚泥の少なくとも一部に対し、加熱処理を行う加熱処理工程と、
を備えることを特徴とする廃水処理方法。
【請求項6】
前記加熱処理工程は、前記返送される汚泥の少なくとも一部に対し、加熱処理を行うとともに、好気処理及び嫌気処理を施す工程を繰り返し行うものであることを特徴とする請求項5に記載の廃水処理方法。
【請求項7】
前記返送工程において返送しない汚泥を脱水処理して脱水汚泥を得る脱水工程と、前記脱水汚泥を焼却処理する汚泥焼却工程とを更に備え、前記加熱処理工程は、前記汚泥焼却工程で生じる熱を熱源として利用するものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の廃水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−18357(P2008−18357A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−192953(P2006−192953)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【出願人】(598067603)住重環境エンジニアリング株式会社 (36)
【Fターム(参考)】