説明

廃熱回生システム

【課題】過冷却度が過大となるのを防止し、廃熱回生効率を維持することができる廃熱回生システムを提供する。
【解決手段】廃熱回生システム100は、ポンプ111と、冷却水ボイラ112と、排気ガスボイラ113と、膨張機114と、コンデンサ115と、気液分離器116と、過冷却器117とを備える。流量調整弁119は、過冷却器117の上流側における作動流体の温度T1と下流側における作動流体の温度T2との温度差T1−T2に対応する圧力差P1−P2に基づいて、その開度を制御してバイパス流路118を流通する作動流体の量を調整することにより、温度差T1−T2を、所定以下に保つ。これにより、過冷却度αが過大となるのを防止し、ランキンサイクル装置の廃熱回生効率を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、廃熱回生システムに係り、特にランキンサイクル装置を利用した廃熱回生システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンの廃熱から機械的エネルギー(動力)を回収するランキンサイクル装置を利用した廃熱回生システムが開発されている。一般的なランキンサイクル装置は、作動流体を圧送するポンプと、作動流体をエンジンの廃熱と熱交換させて加熱する熱交換器と、加熱された作動流体を膨張させて機械的エネルギーを回収する膨張機と、膨張後の作動流体を冷却凝縮させるコンデンサとから構成され、これらが順次環状に接続されて閉回路を形成している。
【0003】
車両に搭載される廃熱回生システムでは、コンデンサの冷却媒体として車両の外気が用いられることが多い。この冷却媒体としての外気に急激な温度変化が生じると、コンデンサを出てポンプに吸入される液相の作動流体が沸騰してしまい、ポンプにおいてキャビテーションが発生する場合がある。キャビテーションが発生するとポンプは動作不能となり、ランキンサイクル運転が停止してしまう。そのため、ポンプにおけるキャビテーションの発生を防止するために、コンデンサで冷却凝縮された作動流体をさらに冷却して過冷却(サブクール)状態にしてポンプに吸入させることが行われている。
【0004】
特許文献1には、凝縮器(コンデンサ)と液送ポンプとの間に過冷却器を設けた発電装置が記載されている。特許文献1の図1を参照すると、この発電装置では、過冷却器16で使用した後の冷却媒体を凝縮器14で使用することにより、凝縮器14の冷却媒体の温度を過冷却器16の冷却媒体の温度よりも常に高く保っている。その結果、過冷却器16の上流側における作動流体と下流側における作動流体との間には常に温度差が生じ、過冷却器16を出て送液ポンプ15に吸入される作動流体は過冷却状態となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−339965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発電装置では、送液ポンプ15に吸入される作動流体を過冷却状態にすることはできるが、その際に確保される過冷却度を制御することはできない。そのため、冷却媒体の温度によっては、過冷却度が大きくなりすぎてしまう場合がある。作動流体の過冷却度が大きくなりすぎると、作動流体を熱交換器において加熱する際に必要とされる熱量が増加するため、ランキンサイクル装置の廃熱回生効率が低下してしまう。
【0007】
この発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、過冷却度が過大となるのを防止し、廃熱回生効率を維持することができる廃熱回生システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明に係る廃熱回生システムは、作動流体をポンプによって圧送し、圧送された作動流体を熱交換器によってエンジンの廃熱で加熱し、加熱された作動流体を膨張機で膨張させて機械的エネルギーを回収し、膨張後の作動流体をコンデンサによって凝縮させるランキンサイクル装置を有する廃熱回生システムにおいて、コンデンサの下流側かつポンプの上流側に設けられると共に作動流体を過冷却する過冷却器と、過冷却器の少なくとも一部を迂回するバイパス流路と、バイパス流路を流通する作動流体の量を調整する開閉弁と、開閉弁の開度を制御する制御手段とを備え、制御手段は、過冷却器の上流側における作動流体の温度と下流側における作動流体の温度との温度差が大きくなるほど、開閉弁の開度を制御してバイパス流路を流通する作動流体の量を増加させる。
これにより、過冷却度が過大となるのを防止できる。
【0009】
制御手段は、過冷却器の上流側における作動流体の温度に相関のある値と下流側における作動流体の温度に相関のある値との温度差に基づいて、開閉弁の開度を制御してバイパス流路を流通する作動流体の量を調整することにより、過冷却器の上下流側の温度差を所定以下に保ってもよい。
これにより、常に所定以下の過冷却度とすることができる。
【0010】
コンデンサの下流側かつ過冷却器の上流側には、作動流体を気液分離する気液分離器が設けられ、過冷却器の上流側における作動流体の温度に相関のある値は、ポンプの上流側かつ膨張機の下流側の圧力でもよい。
【0011】
開閉弁は、バイパス流路の途中に設けられてもよい。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係る廃熱回生システムによれば、過冷却度が過大となるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態に係る廃熱回生システムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態について添付図面に基づいて説明する。
実施の形態.
この発明の実施の形態に係る廃熱回生システム100の構成を図1に示す。
廃熱回生システム100は、ポンプ111と、冷却水ボイラ112と、排気ガスボイラ113と、膨張機114と、コンデンサ115と、気液分離器116と、過冷却器117とを備え、これらが順次環状に接続されて閉回路110を形成している。
【0015】
ポンプ111は閉回路110内の作動流体を圧送する。冷却水ボイラ112は第1の熱交換器であり、作動流体をエンジン130の冷却水と熱交換させて加熱する。排気ガスボイラ113は第2の熱交換器であり、作動流体をエンジン130から排出される排気ガスと熱交換させて加熱する。膨張機114は、冷却水ボイラ112及び排気ガスボイラ113において加熱されて気化した作動流体を膨張させて機械的エネルギー(動力)を発生させる。コンデンサ115は、膨張後の作動流体を外気と熱交換させて冷却凝縮させる。ポンプ111、冷却水ボイラ112、排気ガスボイラ113、膨張機114、及びコンデンサ115が通常のランキンサイクル装置における主要な構成要素となる。また、エンジン130の廃熱が冷却水ボイラ112及び排気ガスボイラ113の加熱媒体であり、外気がコンデンサ115の冷却媒体である。
【0016】
気液分離器116は、気液混合状態の作動流体を気体と液体とに分離するものであり、気液分離器116を出た作動流体は飽和液状態となる。過冷却器117は、飽和液状態の作動流体を外気と熱交換させてさらに冷却(過冷却)することにより、作動流体を過冷却(サブクール)状態にする。
【0017】
また、気液分離器116の下流側かつ過冷却器117の上流側には、過冷却器117の上流側と下流側とを連通させるバイパス流路118の入口が接続されており、バイパス流路118の出口は、過冷却器117の下流側かつポンプ111の上流側に接続されている。バイパス流路118は、過冷却器117全体を迂回し、過冷却器117に比べて十分小さい圧力損失及び熱交換率を有すると共に、その途中にはバイパス流路118を流通する作動流体の量を調整する開閉弁である流量調整弁119が設けられている。
【0018】
流量調整弁119は、その開度を制御する機構(制御手段)を内部に含む周知のダイヤフラム式流量調整弁であり、弁体内部に設けられたダイヤフラムの上側と下側とに2つの参照圧力が加えられると、それらの圧力差によってダイヤフラムが上下し、弁の開度が変化する。この実施の形態では、過冷却器117の上流側の圧力P1と、過冷却器117の下流側の配管に取り付けられた感温筒120から取得される圧力P2とが参照圧力として加えられる。
【0019】
気液分離器116を出た後の作動流体は飽和液状態であるため、その温度と圧力との間には一対一の対応関係がある。そのため、過冷却器117の上流側の圧力P1から、過冷却器117の上流側における作動流体の温度T1を求めることができる。
また、閉回路110内の各箇所における配管の温度は、その内部を流通する作動流体の温度にほぼ等しいと考えられるため、感温筒120から取得される圧力P2から、過冷却器117の下流側における作動流体の温度T2を求めることができる。つまり、圧力P1は温度T1と、圧力P2は温度T2と相関がある。感温筒120内の流体はさまざまなものを用いることができるが、本実施の形態ではランキンサイクル装置に使用されている流体と同じとしている。
【0020】
流量調整弁119は、過冷却器117の上流側における作動流体の温度T1に対応する圧力P1と、過冷却器117の下流側における作動流体の温度T2に対応する圧力P2との圧力差P1−P2に基づいて、バイパス流路118を流通する作動流体の量を調整する。詳細には、圧力差P1−P2が所定の圧力差ΔPよりも大きい場合には、流量調整弁119の開度を増加させてバイパス流路118を流通する作動流体の量を増加させ、圧力差P1−P2が所定の圧力差ΔPよりも小さい場合には、流量調整弁119を全閉させてバイパス流路118を流通する作動流体の量をゼロとする。ここで、所定の圧力差ΔPは、ランキンサイクル装置の廃熱回生効率を維持しながらポンプ111におけるキャビテーションの発生を防止するのに必要な所定の過冷却度αに対応するように設定されている。所定の過冷却度α、すなわち過冷却器117の上下流側の温度差T1−T2の所定値は10℃に設定されており、温度差T1−T2を10℃以下に保つように、バイパス流路118を流通する作動流体の量が調整される。
【0021】
次に、実施の形態に係る廃熱回生システム100の動作について説明する。
廃熱回生システム100のランキンサイクル装置運転が開始されると、図示しない駆動源によってポンプ111が駆動され、ポンプ111の下流側に向けて作動流体が圧送される。ポンプ111から圧送された作動流体は、冷却水ボイラ112及び排気ガスボイラ113を流通する過程において、エンジン130の冷却水及びエンジン130から排出される排気ガスから熱を吸収して高温のガスとなった後、膨張機114において膨張して機械的エネルギーを発生させ、膨張機114の駆動軸114aを回転駆動させる。駆動軸114aには図示しない発電機が接続されており、機械的エネルギーが電力に変換される。
【0022】
膨張機114を出た作動流体は、コンデンサ115を流通する過程で外気と熱交換することによって冷却凝縮され、気液分離器116において気体と液体とに分離される。気液分離器116から出た飽和液状態の作動流体は、流量調整弁119の開度によって決まる比率で過冷却器117とバイパス流路118とに分流される。過冷却器117を流通する作動流体は、外気と熱交換することによってさらに冷却(過冷却)される。一方、バイパス流路118の熱交換率は小さいため、バイパス流路118を流通する作動流体はほとんど熱を失うことがない。これら2つの経路を流通した作動流体は、バイパス流路118の出口において合流し、ポンプ111に吸入されて冷却水ボイラ112に向けて圧送される。
【0023】
このとき、先に述べたように、流量調整弁119は、作動流体の温度差T1−T2が所定の過冷却度αよりも大きく、P1−P2>ΔPである場合には、その開度を増加させてバイパス流路118を流通する作動流体の量を増加させる。その結果、過冷却器117を流通して過冷却される作動流体の量が減少して温度T2が上昇し、温度差T1−T2が減少する。
一方、過冷却度α、すなわち温度差T1−T2が所定よりも小さく、P1−P2<ΔPである場合には、流量調整弁119は全閉してバイパス流路118を流通する作動流体の量をゼロとする。その結果、過冷却器117を流通して過冷却される作動流体の量が増加して温度T2が下降し、温度差T1−T2が増加する。
これらにより、コンデンサ115の冷却媒体である外気の温度が変化することによって、過冷却器117の上流側における作動流体の温度T1と下流側における作動流体の温度T2とが変動しても、それらの温度差T1−T2は常に所定以下の過冷却度αに保たれる。換言すれば、過冷却器117を出てポンプ111に吸入される作動流体は、常に所定以下の過冷却度αを有する。
【0024】
以上説明したように、実施の形態に係る廃熱回生システム100では、流量調整弁119は、過冷却器117の上流側における作動流体の温度T1と下流側における作動流体の温度T2との温度差T1−T2に対応する圧力差P1−P2に基づいて、その開度を制御してバイパス流路118を流通する作動流体の量を調整することにより、温度差T1−T2を、所定以下に保つ。これにより、過冷却度αが過大となるのを防止し、ランキンサイクル装置の廃熱回生効率を維持することができる。
【0025】
また、ダイヤフラム式の流量調整弁119を用いることにより、作動流体の温度差T1−T2に対応する圧力差P1−P2に基づいて作動流体の流量を調整しているため、温度センサや弁の開度を制御するマイクロコンピュータ等が不要であり、廃熱回生システムの構成が簡素になる。
また、膨張機114の下流側からポンプ111の上流側の圧力は一定であるため、過冷却器117の上流側の圧力P1に代えて、膨張機114の下流側からポンプ111の上流側の間の任意の位置の圧力を用いることができる。すなわち、作動流体の温度T1は、膨張機114の下流側からポンプ111の上流側の間の任意の位置における圧力に基づいて求めることができるため、温度検出位置の自由度が高い。
さらに、過冷却器を有する既存のランキンサイクル装置に対して、配管118と流量調整弁119とを追加するだけの構成であるため、省スペースかつ低コストとなる。
【0026】
その他の実施の形態.
過冷却器117の上流側における作動流体の温度T1に相関のある値と下流側における作動流体の温度T2に相関のある値とを取得する手段としては、様々な方法を用いることができる。例えば、配管内に温度センサを挿入して作動流体の温度T1,T2を検出してもよい。また、配管表面の温度はその内部を流通する作動流体の温度にほぼ等しいと考えられるため、温度センサを配管表面に取り付けて温度を検出してもよい。
【0027】
また、過冷却器117の途中からバイパス流路118を設けてもよい。
【符号の説明】
【0028】
100 廃熱回生システム、110 閉回路、111 ポンプ、112 冷却水ボイラ(熱交換器)、113 排気ガスボイラ(熱交換器)、114 膨張機、115 コンデンサ、116 気液分離器、117 過冷却器、118 バイパス流路、119 流量調整弁(開閉弁、制御手段)、130 エンジン、T1 過冷却器の上流側における作動流体の温度、T2 過冷却器の下流側における作動流体の温度、T1−T2 温度差。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体をポンプによって圧送し、圧送された前記作動流体を熱交換器によってエンジンの廃熱で加熱し、加熱された前記作動流体を膨張機で膨張させて機械的エネルギーを回収し、膨張後の前記作動流体をコンデンサによって凝縮させるランキンサイクル装置を有する廃熱回生システムにおいて、
前記コンデンサの下流側かつ前記ポンプの上流側に設けられると共に前記作動流体を過冷却する過冷却器と、
該過冷却器の少なくとも一部を迂回するバイパス流路と、
該バイパス流路を流通する前記作動流体の量を調整する開閉弁と、
該開閉弁の開度を制御する制御手段とを備え、
該制御手段は、前記過冷却器の上流側における前記作動流体の温度と下流側における前記作動流体の温度との温度差が大きくなるほど、前記開閉弁の開度を制御して前記バイパス流路を流通する前記作動流体の量を増加させる、廃熱回生システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記過冷却器の上流側における前記作動流体の温度に相関のある値と下流側における前記作動流体の温度に相関のある値とに基づいて、前記開閉弁の開度を制御して前記バイパス流路を流通する前記作動流体の量を調整することにより、前記過冷却器の上下流側の温度差を所定以下に保つ、請求項1に記載の廃熱回生システム。
【請求項3】
前記コンデンサの下流側かつ前記過冷却器の上流側には、前記作動流体を気液分離する気液分離器が設けられ、
前記過冷却器の上流側における前記作動流体の温度に相関のある値は、前記ポンプの上流側かつ前記膨張機の下流側の圧力である、請求項2に記載の廃熱回生システム。
【請求項4】
前記開閉弁は、前記バイパス流路の途中に設けられる、請求項1〜3のいずれかに記載の廃熱回生システム。

【図1】
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【公開番号】特開2011−208525(P2011−208525A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75167(P2010−75167)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】