説明

延性に優れた高強度鋼線用線材及び鋼線並びにその製造方法

【課題】伸線加工性に優れた線材を得て、これを素材とする鋼線を高い生産性の下に歩留まり良く廉価に提供する。
【解決手段】成分が、質量%で、C:0.95〜1.30%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜1.0%、Al:0.1%以下、Ti:0.1%以下、N:10〜50質量ppm、O:10ppm以上40ppm以下を含有し、残部はFe及び不純物からなる、パーライト組織の面積率が97%以上、残部がベイナイト、擬似パーライト、フェライト、粒界フェライト、初析セメンタイトからなる線材であり、線材中心部の半径が100μmの領域における初析セメンタイト面積率が0.5%以下であり、且つ線材表層から50μmまでの深さの領域における初析セメンタイトの面積率が0.5%以下であるような、延性に優れた高強度鋼線用線材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼線材、鋼線及びそれらの製造方法に関する。より詳しくは、例えば、自動車のラジアルタイヤや、各種産業用ベルトやホースの補強材として用いられるスチールコードソーイングワイヤ、更にはPC鋼線、亜鉛めっき鋼撚線、ばね用鋼線、吊り橋用ケーブルなどの用途に好適な圧延線材とその製造方法、および前記の圧延線材を素材とする鋼線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のラジアルタイヤや、各種のベルト、ホースの補強材として用いられるスチールコード用鋼線、あるいは、ソーイングワイヤ用の鋼線は、一般に、熱間圧延後調整冷却した線径(直径)が5〜6mmの鋼線材を、1次伸線加工して直径を3〜4mmにし、次いで、パテンティング処理を行い、更に2次伸線加工して1〜2mmの直径にする。この後、最終パテンティング処理を行い、次いで、ブラスメッキを施し、更に最終湿式伸線加工を施して直径0.15〜0.40mmにする。このようにして得られた極細鋼線を、更に撚り加工で複数本撚り合わせて撚鋼線とすることでスチールコードが製造される。
一般に、線材を鋼線に加工する際や鋼線を撚り加工する際に断線が生ずると、生産性と歩留りが大きく低下してしまう。したがって、上記技術分野に属する線材や鋼線は、伸線加工時や撚り加工時に断線しないことが強く要求される。伸線加工のうちでも最終湿式伸線加工の場合には、被処理鋼線の線径が極めて細いため、特に断線が発生しやすい。更に、近年、種々の目的からスチールコードなどを軽量化する動きが高まってきた。このため、前記の各種製品に対して高強度が要求されるようになってきた。
【0003】
また、PC鋼線、PCより線、ロープ、橋梁用PWSワイヤなどとして用いられる鋼線は、一般に、熱間圧延後調整冷却した線径(直径)が5〜16mmの鋼線材を、伸線加工して直径を2〜8mmにし、必要に応じて伸線後もしくは伸線途中の段階で溶融亜鉛めっきを施し、撚り合わせる、もしくは撚り合わせること無しに結束することでストランド状に成型される。一般に、線材を鋼線に加工する際に断線、あるいは鋼線を撚り加工する際に縦割れ(デラミネーション)が生ずると、生産性と歩留りが大きく低下してしまう。したがって、上記技術分野に属する線材や鋼線は、伸線加工時や撚りもしくは結束加工時に断線しないことが強く要求される。このような製品は、従来1600MPa以上の強度を確保すると共に、捻り試験などによって評価される靭延性についても十分な性能を確保することが求められてきたが、近年、種々の目的からワイヤを軽量化する動きが高まってきた。
【0004】
このため、前記の各種製品に対して高強度が要求されるようになり、C含有量が0.9質量%未満の炭素鋼線材などでは、所望の高強度が得られなくなっており、0.9質量%以上のC含有量の鋼線への要望が高まっている。しかし、C含有量を高めると初析セメンタイトの生成により伸線加工性やねじり特性(耐デラミネーション性)が低下するので、断線頻度が高くなる。このため、C含有量が高くて鋼線に高い強度を確保させることができ、しかも伸線加工性にも優れた線材に対する要求が極めて大きくなっている。
【0005】
上記した近年の産業界からの要望に対して、1%を超えるような高炭素線材の製造技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、特定の化学組成を有する鋼材からなり、初析セメンタイトの含有平均面積率を規定した「高強度高靱性極細鋼線用線材、高強度高靱性極細鋼線、および該極細鋼線を用いた撚り製品、並びに該極細鋼線の製造方法」が開示されている。しかし、この公報で提案された線材は、高価な元素であるNi及びCoの1種以上を必須の成分として含有するため、製造コストが嵩む。
特許文献2では、0.6%以上のAlを添加することで、1%を超える高炭素鋼の初析セメンタイトの生成を抑制する技術が提案されている。しかしながら、Alは強脱酸元素であり、伸線における断線の原因となる硬質介在物量が増加するため、スチールコードのような細径鋼線用の線材に適用することは難しい。
【0006】
一方、特許文献3では、高炭素線材をオーステナイト温度域に加熱後、823〜1023Kの温度範囲に冷却し、この温度域で加工度:15〜80%の塑性加工を行った後、823〜923Kの温度域で恒温変態させることで、初析セメンタイトを抑制する技術を提案している。しかしながら、このような温度域で所定の加工を施すためには大掛かりな設備投資が必要で、製造コストの増加を招く虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2609387号公報
【特許文献2】特開2003−193129号公報
【特許文献3】特開平8−283867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みなされたもので、その目的は、スチールコードやソーイングワイヤ、更にはPC鋼線、亜鉛めっき鋼撚線、ばね用鋼線、吊り橋用ケーブルなどの用途になどの用途に好適な伸線性に優れた高強度線材を高い生産性の下に歩留りよく廉価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできた本発明に係る製造方法の構成は、下記(1)から(2)に示す線材、(3)、(4)に示す高強度鋼線、(5)、(6)、(7)に示す線材の製造方法、(8)に示す鋼線の製造方法にある。
(1)成分が、質量%で、C:0.95〜1.30%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜1.0%、Al:0.1%以下、Ti:0.1%以下、N:10〜50質量ppm、O:10ppm以上40ppm以下を含有し、残部はFe及び不純物からなる、パーライト組織の面積率が97%以上、残部がベイナイト、擬似パーライト、フェライト、粒界フェライト、初析セメンタイトからなる線材であり、線材中心部の半径が100μmの領域における初析セメンタイト面積率が0.5%以下であり、且つ線材表層から50μmまでの深さの領域における初析セメンタイトの面積率が0.5%以下であるような、延性に優れた高強度鋼線用線材。
(2)更に質量%で、Cr:0.5%以下(0%を含まない),Ni:0.5%以下(0%を含まない),Co:0.5%以下(0%を含まない),V :0.5%以下(0%を含まない),Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない),Mo:0.2%以下(0%を含まない),W:0.2%以下(0%を含まない)、B:4〜30ppm、よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の高強度鋼線用線材。
(3)上記(1)または(2)に記載のφ3〜7mmの線材を伸線し、パテンティング処理した後に再び伸線した鋼線であって、引張強さが4200MPa以上であり、その表層から10μmまでの深さの領域における初析セメンタイト面積率が0.5%以下であるような、延性に優れた高強度鋼線。
(4)上記(1)または(2)に記載のφ5.0〜16mmの線材を伸線し、ブルーイング、ヒートストレッチ、溶融亜鉛めっき、または溶融亜鉛合金めっきを施した鋼線、あるいは請求項1または2に記載のφ5.0〜16mmの線材に溶融亜鉛めっきもしくは溶融亜鉛合金めっき後、伸線を施した鋼線、もしくは(1)または(2)に記載のφ5.0〜16mmの線材を伸線し、溶融亜鉛めっきもしくは溶融亜鉛合金めっき後、さらに伸線を施した鋼線であって、引張強さが1800MPa以上であり、その表層から20μmまでの深さの領域における初析セメンタイト面積率が0.5%以下であるような、延性に優れた高強度鋼線。
(5)上記(1)または2に記載の成分の鋼片を、線径3〜16mmに熱間圧延をするに際して、仕上げ圧延および巻き取りをした後、溶融ソルト漕へ浸漬する際の線材の温度を900℃以上とし、引き続き500〜600℃の溶融ソルトに直接浸漬することでパテンティング処理を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の延性に優れた高強度鋼線用線材の製造方法。
(6)上記(1)または(2)に記載の成分の鋼片を、線径3〜16mmに熱間圧延するに際して、仕上げ圧延および巻き取りをした後、パテンティングのためのステルモア等の冷却開始の際の線材温度を900℃以上とし、続くパテンティング処理において、900℃から650℃まで冷却される間の冷速Yが式(1)
Y≧exp((C%−0.66)/0.12) (1)
を満たすような方法にて急冷し、その後500〜650℃の温度にてパーライト変態を終了させることを特徴とする、(1)または(2)に記載の延性に優れた高強度鋼線用線材の製造方法。
(7)上記(1)または(2)に記載の成分を有する線径3〜16mmの線材を再加熱パテンティングするに際して、線材の加熱温度を950℃以上1050℃以下とし、パテンティングのための冷却開始時の線材温度を900℃以上とし、直ちに500〜600℃の鉛もしくは流動床にてパテンティング処理を実施することを特徴とする、(1)または(2)に記載の延性に優れた高強度鋼線用線材の製造方法。
(8)上記(5)〜(7)のいずれかに記載の製造方法によって製造されたφ3〜7mmの線材を伸線し、パテンティング後さらに冷間伸線を施すに際して、パテンティング時の鋼線の加熱温度を950℃以上1050℃以下とし、パテンティングのための冷却開始時の鋼線温度を900℃以上とし、直ちに〜600℃の鉛もしくは流動床にてパテンティング処理を実施した鋼線を伸線することを特徴とする、(3)に記載の延性に優れた高強度鋼線の製造方法。
【0010】
本発明者らは、線材の化学組成と機械的性質が伸線加工性に及ぼす影響について調査・研究を重ね、その結果、下記の知見を得た。
(a)引張強さを高めるためには、C、Si、Mn、Crなどの合金元素の含有量を増やせばよい。特にCを1%以上に増加させ、目的とする強度を得るための加工ひずみを相対的に低下させることにより、鋼線の延性を高く保ちつつ高強度化が図れる。
(b)Cを増加させると、パテンティング処理の際のオーステナイト域からの冷却過程において、冷却開始からパーライト変態が開始するまでの間に過冷オーステナイト中で、初析セメンタイトが析出しやすくなる。この傾向は、冷却速度が小さくなる線材中心部で顕著となる。
(c)線材中心部の初析セメンタイト生成を抑制できる限界冷却速度は、C量の関数で表すことができる。母相オーステナイトをこれ以上の速度で冷却し、引き続き恒温処理を施すことで、冷速が低下する線材中心部の初析セメンタイトの生成を抑制することが出来る。
(d)C含有量が1.3%以下である、線径3〜16mmの線材を加熱後に溶融ソルトに浸漬することで、上記の限界冷却速度以上の冷却速度を得ることができる。
(e)通常の線材圧延ラインでは、仕上げ圧延後に一定の温度で線材を巻き取り、ステルモア等のパテンティング処理ゾーンにコンベアで搬送する。再加熱パテンティングラインにおいて、線材の巻き取り工程は無いが、加熱帯出側からパテンティングのための冷却帯までの搬送にはある程度の時間を要する。1%を超える高C材では、セメンタイト析出温度(オーステナイト→オーステナイト+セメンタイト温度)が高いため、従来通りの加熱・搬送条件では、搬送中に大気に触れる線材最表層数十μmの深さの領域における温度が低下し、パテンティング処理のための冷却を開始する前に、線材最表層で初析セメンタイトが生成する虞がある。
(f)このような表層のセメンタイトは、脆い組織であるため、伸線時に表層き裂の原因となり、伸線よって得られる鋼線のデラミネーション発生の原因となるなど、鋼線の延性を著しく低下させる。
(g)このような線材最表層の初析セメンタイトを抑制するには、パテンティングのための線材の冷却開始温度を900℃以上とする必要がある。そのためには、仕上圧延を980℃以上とし、かつ従来よりも巻き取りあるいは再加熱温度を高めの925℃以上、好ましくは950℃より高い温度とし、かつ搬送時間を極力短縮する、もしくは搬送中の温度低下を抑制することが必要となる。
(h)仕上げ圧延温度および巻き取り温度を高くしすぎると、線材のオーステナイト粒径が粗大化し、延性が低下するため、延性を確保できる上限温度がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、スチールコード、ソーイングワイヤ、PC鋼線、亜鉛めっき鋼撚線、ばね用鋼線、吊り橋用ケーブルなどの用途に好適な伸線性に優れた高強度線材を高い生産性の下に歩留まりよく廉価に提供することができ、産業上有用な効果がもたらせる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】線材表層の初析セメンタイトの例を示す。
【図2】線材の巻き取り後の冷却開始温度と線材表層の初析セメンタイト面積率の関係を示す。
【図3】線材のC量と線材表層の初析セメンタイト面積率の関係を示す。
【図4】線材のC量と線材中心部の初析セメンタイト面積率の関係を示す。
【図5】900→650℃の冷却温度とC量が、線材中心部の初析セメンタイト析出量に及ぼす影響。
【図6】線材の巻き取り後の冷却開始温度と線材表層の初析セメンタイト面積率の関係を示す。
【図7】線材のC量と線材表層の初析セメンタイト面積率の関係を示す。
【図8】線材のC量と線材中心部の初析セメンタイト面積率の関係を示す。
【図9】900→650℃の冷却温度とC量が、線材中心部の初析セメンタイト析出量に及ぼす影響。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。
線材の組織および機械的性質
本発明者らの検討によれば、伸線前の線材表層と線材中心部の初析セメンタイト率と、伸線後の鋼線の延性には相関があり、線材表層のセメンタイトの面積率を0.5%以下に抑制することができれば、伸線することで得られる鋼線の延性が向上し、線材中心部のセメンタイトの面積率を0.5%以下の抑制することで、伸線断線を抑制できる。ここで線材の最表層とは表面から50μmまでの深さの領域であり、線材中心とは線材中心部から半径100μmの領域を意味し、初析セメンタイトとは、旧オーステナイト粒界に生成した、厚みが100nmを超える、変形能が小さいセメンタイトを意味する。
【0014】
0.95〜1.3%の高C材の圧延線材、線材表層における初析セメンタイトを上記の面積率に抑制するためには、鋼片を、線径3〜16mmに熱間圧延するに際して、ソルト漕もしくはステルモアによってパテンティングのための冷却を開始する際の線材温度を900℃以上とする必要がある。より好ましくは920℃以上である。そのためには、980℃以上にて仕上げ圧延を行い、925℃より高い温度域、好ましくは950℃より高い温度にて巻き取りすることが望ましい。仕上げ圧延温度および巻き取り温度を高くしすぎると、線材のオーステナイト粒径が粗大化し、延性(絞り値)が低下するため、仕上げ圧延温度、巻き取り温度、共に1050℃以下とすることが望ましい。
【0015】
線材中心部の初析セメンタイトは900℃から650℃まで冷却される間の冷速Yに依存し、Y≧exp((C%−0.66)/0.12)を満たすような方法にて急冷し、その後500〜650℃の温度にてパーライト変態を終了させることが有効である。
【0016】
同様の対策は、伸線前もしくは伸線途中の鋼線に施す再加熱・パテンティングの工程でも必要であり、0.95〜1.3%の高C材の再加熱パテンティング鋼線の表層および中心部における初析セメンタイトを上記の面積率に抑制するためには、再加熱温度を950℃以上1050℃以下、望ましくは、950℃もしくはC%×450+450(℃)のいずれか高い温度以上1050℃以下としCおよびその他の合金元素を十分に固溶させた後、パテンティングのための冷却開始時の鋼線温度を900℃以上とし、500〜600℃の鉛もしくは流動床にてパテンティング処理を施すことが有効である。
成分組成
C:Cは、線材の強度を高めるのに有効な元素であり、その含有量が0.95%未満の場合には(3)に規定する高い強度を安定して最終製品に付与させることが困難である。一方、Cの含有量が多すぎるとオーステナイト粒界にネット状の初析セメンタイトが生成して伸線加工時に断線が発生しやすくなるだけでなく、最終伸線後における極細線材の靱性・延性を著しく劣化させる。したがって、Cの含有量を0.95〜1.30質量%とした。高級強度鋼線を得るためには1.1%以上が好ましい。
【0017】
Si:Siは強度を高めるのに有効な元素である。更に脱酸剤として有用な元素であり、Alを含有しない鋼線材を対象とする際にも必要な元素である。0.1質量%未満では脱酸作用が過少である。−方、Si量が多すぎると過共析鋼においても初析フェライトの析出を促進するとともに、伸線加工での限界加工度が低下する。更にメカニカルデスケーリング(以下、MDと略記する。)による伸線工程が困難になる。したがって、Siの含有量を0.1〜1.5質量%とした。好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.35%以下である。
【0018】
Mn:MnもSiと同様、脱酸剤として有用な元素である。また、焼き入れ性を向上させ、線材の強度を高めるのにも有効である。更にMnは、鋼中のSをMnSとして固定して熱間脆性を防止する作用を有する。その含有量が0.1質量%未満では前記の効果が得難い。一方、Mnは偏析しやすい元素であり、1.0質量%を超えると特に線材の中心部に偏析し、その偏析部にはマルテンサイトやベイナイトが生成するので、伸線加工性が低下する。したがって、Mnの含有量を0.1〜1.0質量%とした。
Al:Alの含有量は、硬質非変形のアルミナ系非金属介在物が生成して鋼線の延性劣化と伸線性劣化を招かないように0%を含む0.1%以下と規定した。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.01%以下である。
【0019】
Ti:Tiの含有量は、硬質非変形の酸化物が生成して鋼線の延性劣化と伸線性劣化を招かないように0%を含む0.1%以下と規定した。好ましくは0.05%以下、さらに好ましくは0.01%以下である。
【0020】
N:10〜50ppm:Nは、鋼中でAl、Ti、Bと窒化物を生成し、加熱時におけるオーステナイト粒度の粗大化を防止する作用があり、その効果は10ppm以上含有させることによって有効に発揮される。しかし、含有量が多くなり過ぎると、窒化物量が増大し過ぎて、オーステナイト中の固溶B量を低下させる。さらに固溶Nが伸線中の時効を促進する恐れが生じてくるので、上限を50ppmとする。好ましくは30ppm以下である。
O:10ppm以上40ppm以下:Oは、Siその他と複合介在物を形成することで、伸線特性への悪影響を及ぼさない軟質介在物を形成させることが可能となる。このような軟質介在物は圧延後に微細分散させることが可能で、ピニング効果によりγ粒径を微細化し、パテンティング線材の延性を向上させる効果がある。そのため下限を10ppmとした。しかし、含有量が多くなり過ぎると、硬質な介在物を形成し、伸線特性が劣化するので、Oの上限を40質量ppmとした。
【0021】
なお、不純物であるPとSは特に規定しないが、従来の極細鋼線と同様に延性を確保する観点から、各々0.02%以下とすることが望ましい。
【0022】
本発明に用いられる鋼線材は上記元素を基本成分とするものであるが、更に強度、靭性、延性等の機械的特性の向上を目的として、以下の様な選択的許容添加元素を1種または2種以上、積極的に含有してもよい。Cr:0.5%以下(0%を含まない),Ni:0.5%以下(0%を含まない),Co:0.5%以下(0%を含まない),V :0.5%以下(0%を含まない),Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない)、Mo:0.2%以下(0%を含まない),W:0.2%以下(0%を含まない)、B:4〜30ppm。以下、各元素について説明する。
Cr:0.5%以下 Crはパーライトのラメラ間隔を微細化し、線材の強度や伸線加工性等を向上させるのに有効な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。 一方、Cr量が多過ぎると変態終了時間が長くなり、熱間圧延線材中にマルテンサイトやベイナイトなどの過冷組織が生じる恐れがあるほか、メカニカルでスケーリング性も悪くなるので、その上限を0.5%とした。
【0023】
Ni:0.5%以下 Niは線材の強度上昇にはあまり寄与しないが、伸線材の靭性を高める元素である。この様な、作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。 一方、Niを過剰に添加すると変態終了時間が長くなるので、上限値を0.5%とした。
【0024】
Co:1%以下 Coは、圧延材における初析セメンタイトの析出を抑制するのに有効な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。一方、Coを過剰に添加してもその効果は飽和して経済的に無駄であるので、その上限値を0.5%とした。
【0025】
V:0.5%以下 Vはフェライト中に微細な炭窒化物を形成することにより、加熱時のオーステナイト粒の粗大化を防止するとともに、圧延後の強度上昇にも寄与する。この様な作用を有効に発揮させるには0.05%以上の添加が好ましい。しかし、過剰に添加し過ぎると、炭窒化物の形成量が多くなり過ぎると共に、炭窒化物の粒子径も大きくなるため上限を0.5%とした。
Cu:0.5%以下 Cuは、極細鋼線の耐食性を高める効果がある。この様な作用を有効に発揮させるには0.1%以上の添加が好ましい。しかし過剰に添加すると、Sと反応して粒界中にCuSを偏析するため、線材製造過程で鋼塊や線材などに疵を発生させる。この様な悪影響を防止するために、その上限を0.5%とした。
【0026】
Nb:0.1%以下 Nbは、極細鋼線の耐食性を高める効果がある。この様な作用を有効に発揮させるには0.05%以上の添加が好ましい。一方、Nbを過剰に添加すると変態終了時間が長くなるので、上限値を0.1%とした。
【0027】
Mo:0.2%以下 Moはパーライト成長界面に濃縮し、いわゆるソリュートドラッグ効果によりパーライトの成長を抑制する効果がある。適量を添加することにより、600℃以上の高温域におけるパーライトの成長のみを抑制することが可能であり、粗大なラメラ間隔のパーライトの生成を抑制することができる。また、Moはフェライト生成を抑制する、焼き入れ性向上の効果も有し、非パーライト組織の低減にも有効である。Moは過剰であると、全温度域におけるパーライト成長が抑制され、パテンティングに長時間を要し、生産性の低下を招くと共に、粗大なMoC炭化物が析出し、伸線加工性が低下する。したがって、Moの含有量を0.2%以下とした。好ましい含有量は0.005〜0.06%である。
【0028】
W:0.2%以下 WはMo同様、パーライト成長界面に濃縮し、いわゆるソリュートドラッグ効果によりパーライトの成長を抑制する効果がある。適量を添加することにより、600℃以上の高温域におけるパーライトの成長のみを抑制することが可能であり、粗大なラメラ間隔のパーライトの生成を抑制することができる。また、Wはフェライト生成を抑制する、焼き入れ性向上の効果も有し、非パーライト組織の低減にも有効である。Wは過剰であると、全温度域におけるパーライト成長が抑制され、パテンティングに長時間を要し、生産性の低下を招くと共に、粗大なW2C炭化物が析出し、伸線加工性が低下する。したがって、Wの含有量を0.2%以下とした。好ましい含有量は0.005〜0.06%である。
【0029】
B:4〜30ppm:Bは固溶状態でオーステナイト中に存在する場合、粒界に濃化してフェライト、擬似パーライト、ベイナイト等の非パーライト析出の生成を抑制する。一方、Bを添加しすぎるとオーステナイト中において粗大なFe23(CB)炭化物の析出を促進し、伸線性に悪影響を及ぼす。これを満足するためにBの含有量の下限値を4ppm、上限値を30ppmとした。好ましい含有量は6〜15ppm、より好ましくは8〜12ppmである。
伸線条件
上記(1)及び(2)に記載のφ3.0〜7.0mmの線材に冷間伸線を施し、上記(8)に記載の方法でパテンティング処理を施し、さらに伸線することで、引張り強さが4200MPa以上であることを特徴とする延性に優れた高強度鋼線を得ることができる。
【0030】
上記(1)及び(2)に記載のφ5.5〜16mmの線材を伸線し、ブルーイング、ヒートストレッチ、溶融亜鉛めっきまたは溶融亜鉛合金めっきを施すこと、あるいは上記(1)または(2)に記載のφ5.5〜16mmの線材に溶融亜鉛めっきまたは溶融亜鉛合金めっき後、伸線を施すこと、もしくは上記(1)または(2)に記載のφ5.5〜16mmの線材を伸線し、溶融亜鉛めっきまたは溶融亜鉛合金めっき後、さらに伸線を施すことで、引張り強さが1800MPa以上であることを特徴とする延性に優れた高強度鋼線を得ることができる。
【0031】
次に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0032】
表1に示す化学成分の鋼のビレットを加熱後、熱間圧延により直径3〜7mmの線材とし、所定の温度にて仕上げ圧延、巻き取り後、パテンティング処理を施した。なお、表1において、A〜Qは本発明の組成鋼であり、R〜Vは比較鋼である。
【0033】
圧延線材はリング状に巻き取られた後、ステルモアもしくは直接溶融ソルト浸漬(DLP)によるパテンティング処理が施される。900℃から650℃までの冷速は、ステルモアの場合はステルモアコンベア上で、リング重なり部の温度を非接触タイプの温度計にて0.5mおきに測定することによって、900℃から650℃までの冷却される所要時間tを測定し、(900−650)/tとして求めた。
【0034】
圧延線材のパーライト組織の面積率と初析セメンタイト面積率の測定のため、直径1.0〜1.5mのリング状の線材1リングを8等分し、TSが最も高い部位と低い部位を同定した。連続するリングのこれらの部位に相当する部分から10mm長さのサンプルを切り出し、長さ方向に垂直な断面(C断面)を観察できるように樹脂埋め込みした後、アルミナ研磨し、飽和ピクラールにて腐食し、SEM観察を実施した。
【0035】
パーライト組織の面積率は、上記2部位の1/4D部分の、200×200μmの領域を円周方向に90度毎に4箇所、3000倍で測定し、セメンタイトが粒状に分散した擬似パーライト部、板状セメンタイトが周囲より3倍以上の粗いラメラ間隔で分散しているベイナイト部、オーステナイトに沿って析出した粒界フェライト部、初析セメンタイト部を除いた面積率を、パーライト組織の面積率として、画像解析によって測定し、4箇所の平均値として求めた。
【0036】
初析セメンタイトの面積率のSEM撮影箇所は、線材中心部分は、TSが最も低い部位のサンプルの中心部の半径100μmの領域を、線材表層部はTSが最も高い部位のサンプルの最表層50μm×50μmの領域を円周方向に90度毎に4箇所とし、倍率が5000倍で測定し、厚みが100nm程度以上である初析セメンタイトの面積率を画像解析によって測定し、4箇所の測定結果の最大値を用いた。
【0037】
線材の伸線特性は、圧延線材のスケールを酸洗にて除去した後、ボンデ処理によりリン酸亜鉛皮膜を付与した長さ10mの線材を用意し、1パス当たりの減面率16〜20%の単頭式伸線を行い、途中で(6)に示す方法に従って鉛パテンティングもしくは流動床パテンティングを実施し、線径0.18〜0.22mmまで湿式連続伸線し、高強度鋼線を得た。
【0038】
伸線した鋼線の初析セメンタイト面積率の測定のため、直径0.18〜0.22mの鋼線から10mm長さのサンプルを切り出し、長さ方向に垂直な断面(C断面)を観察できるように樹脂埋め込みした後、アルミナ研磨し、飽和ピクラールにて腐食し、SEM観察を実施した。SEMの観察領域は、最表層の深さ10μm×幅50μmの領域を倍率が10000倍で測定し、初析セメンタイトの面積率を画像解析によって測定した。
【0039】
これらの結果、圧延線材の表層および中心部の初析セメンタイト分率を抑制すると、伸線後の鋼線において、デラミネーションおよび伸線断線を抑制できる。
【0040】
上記の測定結果を表2および表3に示した。表2および表3において、A−1、B−1、C−1、D−1、E−1、G−1、H、I、J、K、L−1、M、N、O、PおよびQは本発明の組成鋼を本発明の製造条件で処理したものであり、A−2、B−4、C−2、D−2は本発明鋼(A、B、C及びD)について、パテンティングのための冷却開始時の線材温度が低いため、圧延線材の表層初析セメンタイト生成を抑制できなかった例である。
【0041】
図2に圧延線材の冷却開始時の温度と表層セメンタイト面積率の関係を示す。冷却開始時の線材温度を900℃以上とすることで、線材表層の初析セメンタイトを0.5%以下に抑制できる。
【0042】
A−3は、本発明鋼(A)について、本発明の巻き取り温度範囲より高くしたため、圧延線材の延性が低く、一次伸線で断線した例である。
【0043】
B−2は、本発明鋼(B)について、本発明の最終パテンティング時の加熱温度より低くしたため、最終伸線ワイヤの表層および中心部でセメンタイトが抑制できず、デラミネーションが生成した例である。
【0044】
B−3およびL−2は、本発明鋼(B、L)について、圧延線材のパテンティング処理をステルモアで実施したため、C量に応じた所定の冷却速度が得られず、線材中心での初析セメンタイトが多量に生成し、一次伸線で断線した例である。
【0045】
図5に900→650℃の冷却温度とC量が、線材中心部の初析セメンタイト析出量に及ぼす影響を示す。式(1)を満たせば、線材中心部の初析セメンタイトを0.5%以下に抑制することが出来る。
【0046】
G−2は、本発明鋼(G)について、溶融ソルト温度が低かったため、上部ベイナイトが生成し、延性が低すぎたため、一次伸線で断線が発生した例である。
【0047】
G−3は、本発明鋼(G)について、仕上げ圧延温度が低すぎたため、仕上げ圧延時に線材表層に初析セメンタイトが生成した例である。
【0048】
G−4は、本発明鋼(G)について、仕上げ圧延温度が高すぎたため、線材の延性が低下し、一次伸線で断線が発生した例である。
【0049】
RはC量が高すぎたため、線材の強度が高く、延性が低すぎたため、一次伸線で断線が発生した例である。
【0050】
SおよびUはC量が低かったため、所定のTSの鋼線が得られなかった例である。
【0051】
TはMn量が高かったため、ベイナイトやミクロマルテンサイトが生成し、所定のパーライト分率を満足できなかったため、一次伸線で断線が発生した例である。
【0052】
VはSi量が高かったため、ベイナイトやミクロマルテンサイトが生成し、所定のパーライト分率を満足できなかったため、一次伸線で断線が発生した例である。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表4に示す化学成分の鋼のビレットを加熱後、熱間圧延により直径5.0〜16mmの線材とし、所定の温度にて仕上げ圧延、巻き取り後、パテンティング処理、あるいは再加熱パテンティングを施した。なお、表4において、a〜lは本発明の組成鋼である。
【0057】
圧延線材はリング状に巻き取られた後、ステルモアもしくは直接溶融ソルト浸漬(DLP)によるパテンティング処理が施される。900℃から650℃までの冷速は、ステルモアの場合はステルモアコンベア上で、リング重なり部の温度を非接触タイプの温度計にて0.5mおきに測定することによって、900℃から650℃までの冷却される所要時間tを測定し、(900−650)/tとして求めた。
【0058】
圧延線材のパーライト組織の面積率と初析セメンタイト面積率の測定のため、直径1.0〜1.5mのリング状の線材1リングを8等分し、TSが最も高い部位と低い部位を同定した。連続するリングのこれらの部位に相当する部分から10mm長さのサンプルを切り出し、長さ方向に垂直な断面(C断面)を観察できるように樹脂埋め込みした後、アルミナ研磨し、飽和ピクラールにて腐食し、SEM観察を実施した。
【0059】
パーライト組織の面積率は、上記2部位の1/4D部分の、200×200μmの領域を円周方向に90度毎に4箇所、3000倍で測定し、セメンタイトが粒状に分散した擬似パーライト部、板状セメンタイトが周囲より3倍以上の粗いラメラ間隔で分散しているベイナイト部、オーステナイトに沿って析出した粒界フェライト部、初析セメンタイト部を除いた面積率を、パーライト組織の面積率として、画像解析によって測定し、4箇所の平均値として求めた。
【0060】
初析セメンタイトの面積率のSEM撮影箇所は、線材中心部分は、TSが最も低い部位のサンプルの中心部の半径100μmの領域を、線材表層部はTSが最も高い部位のサンプルの最表層50μm×50μmの領域を円周方向に90度毎に4箇所とし、倍率が5000倍で測定し、厚みが100nm程度以上である初析セメンタイトの面積率を画像解析によって測定し、4箇所の測定結果の最大値を用いた。
【0061】
線材の伸線特性は、以下のいずれかの方法にて目的とする高強度鋼線を得て、引張試験と捻回試験を行うことで評価した。1)圧延線材のスケールを酸洗にて除去した後、ボンデ処理によりリン酸亜鉛皮膜を付与した長さ20mの線材を用意し、1パス当たりの減面率16〜20%の単頭式伸線を行い、線径3〜7mmの高強度鋼線を得た。この鋼線に溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛合金めっき、ブルーイング、ヒートストレッチのいずれかを施した。2)圧延線材のスケールを酸洗にて除去した後、溶融亜鉛めっきもしくは溶融亜鉛合金めっきを施した長さ20mの線材を用意し、1パス当たりの減面率16〜20%の単頭式伸線を行い、線径3〜7mmの高強度鋼線を得た。3)圧延線材のスケールを酸洗にて除去した後、ボンデ処理によりリン酸亜鉛皮膜を付与した長さ20mの線材を用意し、1パス当たりの減面率16〜20%の単頭式伸線を行い、溶融亜鉛めっきもしくは溶融亜鉛合金めっきを施した後、さらに伸線を施し、線径3〜7mmの高強度鋼線を得た。
【0062】
伸線した鋼線の初析セメンタイト面積率の測定のため、上記鋼線から10mm長さのサンプルを切り出し、長さ方向に垂直な断面(C断面)を観察できるように樹脂埋め込みした後、アルミナ研磨し、飽和ピクラールにて腐食し、SEM観察を実施した。SEMの観察領域は、最表層の深さ20μm×幅50μmの領域を倍率が10000倍で測定し、初析セメンタイトの面積率を画像解析によって測定した。
【0063】
これらの結果、圧延線材の表層および中心部の初析セメンタイト分率を抑制すると、伸線後の鋼線において、デラミネーションおよび伸線断線を抑制できる。
【0064】
上記の測定結果を表5に示した。表5において、a−1、b−1、c、d、e、f−1、g−1、h、i、j−1、k、l及びmは本発明の組成鋼を本発明の製造条件で処理したものであり、g−2及びj−2は本発明鋼(g及びj)について、パテンティングのための冷却開始時の線材温度が低いため、圧延線材の表層初析セメンタイト生成を抑制できなかった例である。図6に圧延線材の冷却開始時の温度と表層セメンタイト面積率の関係を示す。冷却開始時の線材温度を900℃以上とすることで、線材表層の初析セメンタイトを0.5%以下に抑制できる。
【0065】
a−2及びf−2は、本発明鋼(a及びf)について、圧延線材のパテンティング処理をステルモアで実施したため、C量に応じた所定の冷却速度が得られず、線材中心での初析セメンタイトが多量に生成し、伸線中に断線した例である。
【0066】
図9に900→650℃の冷却温度とC量が、線材中心部の初析セメンタイト析出量に及ぼす影響を示す。式(1)を満たせば、線材中心部の初析セメンタイトを0.5%以下に抑制することが出来る。
【0067】
b−2は、本発明鋼(b)について、仕上げ圧延温度が低すぎたため、仕上げ圧延時に線材表層に初析セメンタイトが生成した例である。
【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、スチールコード、ソーイングワイヤ、PC鋼線、亜鉛めっき鋼撚線、ばね用鋼線、吊り橋用ケーブルなどの用途に好適な伸線性に優れた高強度線材を高い生産性の下に歩留まりよく廉価に提供することができ、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分が、質量%で、C:0.95〜1.30%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.1〜1.0%、Al:0.1%以下、Ti:0.1%以下、N:10〜50質量ppm、O:10ppm以上40ppm以下を含有し、残部はFe及び不純物からなる、パーライト組織の面積率が97%以上、残部がベイナイト、擬似パーライト、フェライト、粒界フェライト、初析セメンタイトからなる線材であり、線材中心部の半径が100μmの領域における初析セメンタイト面積率が0.5%以下であり、且つ線材表層から50μmまでの深さの領域における初析セメンタイトの面積率が0.5%以下である、延性に優れた高強度鋼線用線材。
【請求項2】
更に質量%で、Cr:0.5%以下(0%を含まない),Ni:0.5%以下(0%を含まない),Co:0.5%以下(0%を含まない),V :0.5%以下(0%を含まない),Cu:0.5%以下(0%を含まない)、Nb:0.1%以下(0%を含まない),Mo:0.2%以下(0%を含まない),W:0.2%以下(0%を含まない)、B:4〜30ppm、よりなる群から選択される少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼線用線材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のφ3〜7mmの線材を伸線し、パテンティング処理した後に再び伸線した鋼線であって、引張強さが4200MPa以上であり、その表層から10μmまでの深さの領域における初析セメンタイト面積率が0.5%以下である、延性に優れた高強度鋼線。
【請求項4】
請求項1または2に記載のφ5.0〜16mmの線材を伸線し、ブルーイング、ヒートストレッチ、溶融亜鉛めっき、または溶融亜鉛合金めっきを施した鋼線、あるいは請求項1または2に記載のφ5.0〜16mmの線材に溶融亜鉛めっきもしくは溶融亜鉛合金めっき後、伸線を施した鋼線、もしくは請求項1または2に記載のφ5.0〜16mmの線材を伸線し、溶融亜鉛めっきもしくは溶融亜鉛合金めっき後、さらに伸線を施した鋼線であって、引張強さが1800MPa以上であり、その表層から20μmまでの深さの領域における初析セメンタイト面積率が0.5%以下である、延性に優れた高強度鋼線。
【請求項5】
請求項1または2に記載の成分の鋼片を、線径3〜16mmに熱間圧延をするに際して、仕上げ圧延および巻き取りをした後、溶融ソルト漕へ浸漬する際の線材の温度を900℃以上とし、引き続き500〜600℃の溶融ソルトに直接浸漬することでパテンティング処理を行うことを特徴とする、請求項1または2に記載の延性に優れた高強度鋼線用線材の製造方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の成分の鋼片を、線径3〜16mmに熱間圧延するに際して、仕上げ圧延および巻き取りをした後、パテンティングのためのステルモア等の冷却開始の際の線材温度を900℃以上とし、続くパテンティング処理において、900℃から650℃まで冷却される間の冷速Yが式(1)
Y≧exp((C%−0.66)/0.12) (1)
を満たすような方法にて急冷し、その後500〜650℃の温度にてパーライト変態を終了させることを特徴とする、請求項1または2に記載の延性に優れた高強度鋼線用線材の製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の成分を有する線径3〜16mmの線材を再加熱パテンティングするに際して、線材の加熱温度を950℃以上1050℃以下とし、パテンティングのための冷却開始時の線材温度を900℃以上とし、直ちに500〜600℃の鉛もしくは流動床にてパテンティング処理を実施することを特徴とする、請求項1または2に記載の延性に優れた高強度鋼線用線材の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法によって製造されたφ3〜7mmの線材を伸線し、パテンティング後さらに冷間伸線を施すに際して、パテンティング時の鋼線の加熱温度を950℃以上1050℃以下とし、パテンティングのための冷却開始時の鋼線温度を900℃以上とし、直ちに500〜600℃の鉛もしくは流動床にてパテンティング処理を実施した鋼線を伸線することを特徴とする、請求項3に記載の延性に優れた高強度鋼線の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図1】
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【公開番号】特開2010−270391(P2010−270391A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20185(P2010−20185)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】