説明

強化された生物学的活性を有する組換えインターフェロン−β

天然ヒトインターフェロン−βにしたがって番号付けされた25位でアスパラギンが組換えによりアスパラギン酸残基で置き換えられたヒトインターフェロン−βタンパク質類似体はIFN−β 1bと比較して増大したレベルでヒトインターフェロン−β(例えばIFN−β 1b)の生物学的活性を呈する。これらの類似体はAsp25 IFN−βをコードする遺伝子を細胞に導入し、そして組換えタンパク質を発現させることにより得られる。得られたIFN−βタンパク質類似体は多発性硬化症を含む疾患を処置するためのHA含有またはHA不含治療に組み入れるための大規模な製造に適当である。酵素消化、続いてRP−HPLCを用いてタンパク質に関するフィンガープリントプロフィールを生み出す還元型Lysエンドプロテイナーゼ−Cペプチドマップ技術はIFN−βタンパク質類似体生成物に関する確認試験として品質管理においても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1 技術分野
本発明は生物学的活性タンパク質化学の一般的な分野に入る。さらに具体的にはシステイン、アスパラギンおよびその他の残基の置換、欠失または修飾により天然のタンパク質とは異なる、変異により改変されたインターフェロン−β類似体に関する。
【背景技術】
【0002】
2 背景技術
インターフェロン−βはヒト疾患の処置、とりわけ多発性硬化症において有用であることが分かっている。多発性硬化症(MS)は神経線維を取り囲む保護鞘が破損したときに生じる中枢神経系の、慢性のしばしば身体障害をもたらす疾患である。MS患者の約30%が、病徴が再燃後に全体的または部分的に消失し、そして数か月または数年持続し得る安定期が続く疾患の再発−寛解形態を被る。ベータインターフェロン(インターフェロン−βまたはIFN−β)の投与はMSの再発−寛解形態の処置のためにFDAにより承認されている。現在では、MS治療のために市販されている三つのインターフェロン−β生成物、Betaseron(登録商標)、Avonex(登録商標)およびRebif(登録商標)の売上高は合わせて年間30億ドルを超える。さらに有効なIFN−β生成物およびそれらを製造するためのさらに効率的な方法が継続的に必要とされている。
【0003】
インターフェロン−β基盤の医薬品の大規模製造を促進するために組換えDNA(rDNA)技術が開発されている。組換えDNA分子は、自然のまたは合成のDNAセグメントを、生存細胞において複製できるDNA分子に結合させることにより生存細胞の外で構築されたDNA分子、またはその複製の結果である分子である。組換えDNA技術により天然のまたは変異により改変されたタンパク質の大規模製造が可能になる。とりわけこれらの技術により対処される必要のある一つの問題は、そのアミノ酸配列が図1(配列番号:1)で提供されるヒトβインターフェロンが17、31および141位でシステイン残基を含有し(Gene(1980) 10:11-15およびNature(1980) 285:542-547)、それらは製造工程のいくつかの間に分子間または分子内連結を形成することができるという点であった。これらの連結は変性IFN−βの復元の間に形成され、望ましくないミスフォールディングされた構造および凝集物を導き得る。rDNA技術によるIFN−βの微生物調製の過程で、高濃度のIFN−βを含有する抽出物中でこの分子間連結のためにIFN−βの二量体およびオリゴマーが形成されることが観察されている。この多量体形成のためにIFN−βの精製および単離は非常に骨の折れる、そして時間のかかるものになり、そして精製および単離手順、例えば精製の間にタンパク質を還元すること、およびそれをその元来の立体配置に回復するためにそれを再度酸化することのいくつかのさらなる工程が必要とされ、それにより誤ったジスルフィド結合形成の可能性が増大する。加えてこの多量体形成は特異性の低い生物学的活性に関連している。
【0004】
これらの問題点に対処するために、微生物により製造された生物学的に活性なIFN−βタンパク質類似体を、その活性に有害な影響を及ぼさないが、タンパク質に望ましくない三次元構造(例えばタンパク質の活性を低減させる立体配置)を取らせる分子間架橋または分子内結合を形成するその能力を低減させるか、または排除する型に改変するために、改良rDNA技術が開発されている。定方向変異誘発技術は、その親タンパク質の望ましい活性を保持するが、分子間連結または望ましくない分子内ジスルフィド結合を形成する能力を欠く、変異により改変された生物学的に活性なタンパク質類似体(本明細書では「タンパク質類似体」とは一つ以上のアミノ酸が遺伝的および/または化学的および/または熱的に修飾され、そして親タンパク質の生物学的活性を保持する合成タンパク質を指す)を形成するために成功裏に用いられている。17位で欠失された、または別のアミノ酸により置き換えられたシステイン残基を有するIFN−β生物学的活性タンパク質の合成タンパク質類似体は望ましい活性および特徴を有することが見出されている。
【0005】
とりわけIFN−βの合成組換えタンパク質類似体であるインターフェロン−β 1b(IFN−β 1b)は17位のシステイン残基がセリン残基により置き換えられている生物学的活性タンパク質である。微生物により生成されたタンパク質であるため、IFN−β 1bはグリコシル化されていない。それはN末端メチオニン欠失をも有する。IFN−β 1bはBetaseron(登録商標)として市販されている医薬品への製剤化に成功しており、それはMSの処置および管理に有効であることが示されている。このタンパク質類似体、その製造のための物質および技術、治療薬としてのその製剤化ならびにMSを処置するためのその使用は1986年5月13日発行の特許第4588585号;1988年4月12日発行の特許第4737462号;および1990年9月25日発行の第4959314号(その各々はこれらの特色の開示に関して出典明示により本明細書の一部とする)を含む多くの米国特許および出願において記載され、そして権利が主張される。
【0006】
医薬用のIFN−βの大規模製造はまた哺乳動物起源、とりわけチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞からも行われる。IFN−β 1aと称されるこのIFN−β類似体はIFN−β 1bのSer17変異を欠き、そしてグリコシル化されている。IFN−β 1aはAvonex(登録商標)およびRebif(登録商標)として市販されている治療用生成物に製剤化される。
たいていの治療薬と同様、さらに強力な生物学的に活性な薬剤の同定および製造が継続的に望まれている。IFN−β基盤の医薬品の場合、生物学的活性が増大されたIFN−β類似体が望ましい。
【0007】
加えて、Betaseron(登録商標)を含むいくつかのIFN−β医薬製剤は一般的なタンパク質安定剤であるヒトアルブミン(HAまたはHSA)を含有する。HAはヒト血液生成物であり、そして供給が漸減している。したがってさらに最近では、HA不含薬物製剤が望まれており、そして安定な、および有効なHA不含IFN−β製剤が望まれている。
一般に、HAを伴って、または伴わずに製剤化できる、生物学的活性が増大したIFN−β組成物およびかかる組成物を製造する方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0008】
本発明は天然のインターフェロン−βにしたがって番号付けされた25位のアスパラギンが変異を介してアスパラギン酸残基により置き換えられているIFN−βを含有する精製および単離された組換えヒトインターフェロン−βタンパク質類似体を提供することによりこれらの必要性に対処する。rDNA技術を用いてAsp25 IFN−βをコードする遺伝子を提供することにより、およびこの遺伝子を微生物細胞または真核細胞(例えばCHO細胞または昆虫細胞)のような細胞に導入して、これらの細胞においてAsp25 IFN−βタンパク質類似体を発現させることによりAsn25Asp変異を導入する。いくつかの実施態様では、細胞の形質転換に用いられるrDNAはまたプロモーター配列をも含む。組換えインターフェロン−βタンパク質類似体は天然のAsn25 IFN−βを含まず、そしてIFN−β 1bと比較して増大したレベルでIFN−β(例えばIFN−β 1b)の生物学的活性を呈する。このタンパク質類似体はHA不在下で安定であり、そしてHA不含またはHA含有治療用組成物に製剤化できる。
【0009】
組換えインターフェロン−βタンパク質類似体はAsp25 IFN−βタンパク質類似体に加えて、図2で示されるイソasp25およびイミド25タンパク質変異体のようなその分解生成物をも含有し得る。
具体的な実施態様では、組換えAsp25 IFN−βは、天然のインターフェロン−βにしたがって番号付けされた17位でシステインが欠失されているか、または中性アミノ酸、とりわけセリンにより置き換えられており、そして25位のアスパラギンが組換えによりアスパラギン酸と交換されている合成ヒトインターフェロン−β 1bタンパク質類似体である。この実施態様では、Asp25 IFN−βはN末端メチオニン欠失を有し、そしてグリコシル化されていない。具体的には、Asp25 IFN−βは図3(配列番号:2)で示される一次アミノ酸配列を有し得る。
【0010】
少なくとも約6.5、好ましくは約6.9から約7.1の範囲のpHで、および最も好ましくは約7のpHで実施される還元型Lys−Cエンドプロテイナーゼアッセイを用いてヒトインターフェロン−βタンパク質類似体を特徴付けすることができる。このpH範囲で実施されるLys−C消化は試料中の分解生成物の相対量を改変することなく、特異的部位でタンパク質を切断する。消化で得られたペプチドフラグメントを逆相(RP)HPLCによりさらに分離し、そしてエドマンシークエンシングにより同定することができる。
HA不含およびHA含有製剤を含む治療用組成物中の活性タンパク質類似体化合物の製剤、ならびに製造および使用の方法もまた提供される。
本発明のこれらのおよびその他の目的および特色は以下の本発明の詳細な説明を添付の図面と組み合わせて読めばさらに十分に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒトIFN−βのアミノ酸配列(配列番号:1)の図である。
【図2】天然のIFN−βにしたがって番号付けされた25位のアスパラギン酸残基を示すAsp25 IFN−β減成経路を説明する図である。
【図3】本発明によるAsn25Asp変異の部位およびLys−C切断部位を示すAsp25 IFN−β 1bのアミノ酸配列(配列番号:2)の図である。
【図4A】Asp25 IFN−β 1bおよびAsn25 IFN−β 1bの還元型Lys−Cペプチドマップを示す。
【図4B】図4Aのマップの一部の拡大図を示す。
【図5A】Asp25 IFN−β 1bおよびAsp25 IFN−β 1b高温処理試料の還元型Lys−Cペプチドマップを示す。
【図5B】図5Aのマップの一部の拡大図を示す。
【図6】Asn25 IFN−β 1b、Asp25 IFN−β 1bおよびAsp25 IFN−β 1b高pH処理試料のMono−Sカチオン交換(CEX)HPLCを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
今回、本発明の化合物、組成物、原料ならびに関連する技術および使用をいくつかの実施態様に関連して記載する。記載された実施態様の重要な特性および特徴を文章の形で説明する。本発明はこれらの実施態様に関連して記載されるが、本発明はこれらの実施態様に限定されると意図されるわけではないということを理解すべきである。対照的に、代替え、改良および均等物を包含することが意図され、特許請求の範囲により定義される本発明の精神および範囲内に含まれ得る。以下の記載では、本発明の完全な理解を提供するために非常に多くの具体的な詳細を示す。これらの具体的な詳細のいくつかまたは全てを伴わずとも本発明を実行することができる。その他の例では、本発明を不必要に不明瞭にしないために、周知の処理操作は詳細には記載されていない。
【0013】
序文
本発明はIFN−β 1bと比較して増大したレベルでヒトインターフェロン−β(例えばIFN−β 1b)の生物学的活性を呈する、組換えにより製造されたインターフェロン−βタンパク質類似体を提供する。HAを伴って、または伴わずにタンパク質類似体を製剤化できるが、タンパク質安定化にHAは必要としない。具体的には、インターフェロン−βタンパク質類似体は、天然のインターフェロン−βにしたがって番号付けされた25位でアスパラギンがアスパラギン酸残基により組換えにより置き換えられたヒトインターフェロン−β類似体を含有する。このインターフェロン−βタンパク質類似体は天然のAsn25 IFN−βを含まない。
【0014】
一つの実施態様では、組換えにより製造されたインターフェロン−βタンパク質類似体はまた図2で示される生成物のようなAsp25 IFN−βの分解生成物をも含有し得る。Asp25 IFN−βの主な分解経路を記載する図2のスキームを参照して、Asp25残基201を、スクシンイミド中間体205(イミド25)を介してイソアスパラギン酸残基203(イソasp25)に変換することができる。かかる変換は、例えば高温または高pH条件への暴露時に生じ得る。イソアスパラギン酸またはスクシンイミドにより25位で置換されたインターフェロン−β類似体は組換えAsp25 IFN−β類似体の生物学的活性を有意に低下させず、そしてIFN−β類似体生成物およびその治療用製剤中に存在し得る。rDNA技術を用いてAsp25 IFN−βをコードする遺伝子を提供することにより、およびこの遺伝子を微生物細胞または真核細胞(例えばCHO細胞または昆虫細胞)のような細胞に導入して、これらの細胞においてAsp25 IFN−βタンパク質類似体を発現させることによりAsn25Asp変異を導入する。いくつかの実施態様では、細胞の形質転換に用いられるrDNAはまたプロモーター配列をも含む。
【0015】
少なくとも6.5、好ましくは約7のpHで実施される還元型Lys−Cエンドプロテイナーゼアッセイを用いてIFN−βタンパク質類似体を特徴付けすることができる。このpHで実施されるLys−C消化は試料中の分解生成物の相対量を改変することなく、特異的部位でタンパク質を切断する。消化で得られたペプチドフラグメントをRP HPLCによりさらに分離し、収集し、そしてエドマンシークエンシングにより同定することができる。
治療用組成物中の活性タンパク質類似体化合物の製剤、ならびに製造および使用の方法もまた提供される。
【0016】
「タンパク質類似体」とは本明細書では、一つまたはそれより多いアミノ酸が遺伝的および/または化学的に修飾されており、そして細胞の細胞変性効果または抗増殖活性のような親タンパク質の生物学的活性を保持する合成タンパク質を指す。具体的な実施態様では、組換えヒトインターフェロン−βタンパク質類似体は、天然のインターフェロン−βにしたがって番号付けされた17位でシステインが欠失されているか、または中性アミノ酸、とりわけセリンにより置き換えられており、そして25位のアスパラギンが組換えによりアスパラギン酸により置き換えられているヒトインターフェロン−β 1bタンパク質類似体(例えばIFN−βser17,asp25)を含有する。その他の実施態様では、Asp25はさらにイソアスパラギン酸またはスクシンイミド残基に化学的に修飾される(例えば各々eIFN−βser17,イソasp2525またはIFN−βser17,スクシンイミド25)。Asp25 IFN−β 1bタンパク質類似体はIFN−β 1bに比較して増大したレベルでヒトインターフェロン−βの生物学的活性を呈する。加えてこのタンパク質類似体のHA不含製剤では、強化された生物学的活性が観察され、HA不含IFN−β 1b治療を可能にする。
【0017】
Asn25のAsp25への置き換え
本発明の合成タンパク質類似体では、システイン17残基が欠失されるか、またはセリン、スレオニン、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファンもしくはメチオニンにより置き換えられてよい。具体的な実施態様では、置換はセリン17である。アスパラギン25残基はrDNA技術を用いてアスパラギン酸残基により置き換えられる。図3を参照して、本発明によるAsp25 IFN−β 1bタンパク質類似体の一次(アミノ酸配列(配列番号:2))および二次(フォールディング、架橋)構造を説明する。25位では天然のAsn残基は組換えにより導入されたAsp残基で置き換えられる。例えばAsp25 IFN−β類似体を高温または高pHのような異性化誘起条件に暴露することによりAsp25残基を部分的に、または実質的にスクシンイミドおよび/またはイソアスパラギン酸に変換することができる。これらの条件はアスパラギン酸のL体からD体への光学異性化を誘起することもできる。本発明はAsp25、イソasp25およびイミド25 IFN−βタンパク質類似体のLおよびD体双方を包含する。
【0018】
タンパク質類似体を組換え合成技術により製造し、場合によってはそれに発現後化学的修飾を追加することができる。Asp25 IFN−β 1b合成タンパク質類似体を組換えDNA定方向変異誘発技術により製造する。Cys17Ser交換は前記で本出願の背景技術のセクションにて参照された特許に記載されている。定方向変異誘発技術は周知であり、そしてLather, R. F. and Lecoq, J. P. in Genetic Engineering Academic Press(1983)pp 31-50により概説されている。オリゴヌクレオチド−特異的変異誘発は具体的にはSmith, M. and Gillaun, S. in Genetic Engineering: Principles and Methods, Plenum Press(1981)3:1-32により概説されている。Asn25Asp変異を本明細書にてさらに詳細に記載する。以下の変異誘発の記載は例としてのみ提供され、そしていかなるようにも本発明を限定することを意図するものではないことを理解すべきである。本発明はまた当業者に明白であろう以下のプロトコールの修飾をも包含する。
【0019】
鋳型として提供されるIFN−β生成プラスミド(pSY2501)でPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)方法により変異を導入する。Quik−Change変異誘発キット(Stratagene kit #200516, Stratagene, La Jolla, CA)を使用することができる。PCRにおいて合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる。Asn25Asp変異誘発に使用されるプライマーを以下に示す:
Asp25フォワードプライマーBSN25DF(配列番号:3):
【化1】

Asp25リバースプライマーBSN25DR(配列番号:4):
【化2】

【0020】
フォワードプライマー(配列番号:3)はヌクレオチドGATをコードするアスパラギン酸を含有する。リバースプライマー(配列番号:4)はフォワードプライマーに相補的である。二つのプライマーは逆の配向であるが、同一の位置でプラスミドDNAの異なる鎖に結合する。全プラスミドはPCRにより複製され、そして次にDpnI酵素により消化される。DpnIはメチル化された細菌性鋳型DNA鎖のみを消化するが、メチル化されていないPCR複製プラスミドをそのまま残す。次いでDpnI処理反応混合物をXL Goldウルトラコンピテント細胞(Stratagene)に加えて、変異担持プラスミドで細胞を形質転換させる。カルベニシリンおよびトリプトファンの存在下、Luria寒天培地中で細胞コロニーを増殖させる。次いでいくつかのコロニーを取り、そしてカルベニシリンおよびトリプトファンの存在下、Luria培地中で培養する。各培養物からプラスミドDNAを抽出し、そしてプラスミドのIFN−β挿入をシークエンシングすることにより分析する。IFN−β挿入のシークエンシングによりAsn25からAsp25への変異を確認する。プラスミドの残りの徹底した制限消化をも実施する。IFN−β挿入はプロモーター、直に続いてAsp25 IFN−β 1bタンパク質をコードする遺伝子を含有する。Asp25 IFN−β 1bコード化遺伝子(配列番号:5)およびIFN−β挿入(遺伝子およびプロモーター、配列番号:6)に関するヌクレオチド配列を以下に提供する。アスパラギン酸コード化コドンGATおよび停止コドンTGAに下線を付している。
【0021】
Asp25 IFN−β 1bコード化遺伝子配列(配列番号:5)
【化3】

【0022】
Asp25 IFN−β 1bの発現のために用いられるプロモーターおよび遺伝子配列(配列番号:6)
【化4】

【0023】
標準的なタンパク質発現技術を用いて細菌細胞においてAsp25 IFN−βを発現させた。トリプトファンレプレッサーを発現する大腸菌細胞をAsp25 IFN−β 1b遺伝子を担持するプラスミドで形質転換した。細胞を培養してAsp25 IFN−β 1bを発現させ、そして発現されたタンパク質を単離し、そして精製した。
【0024】
哺乳動物細胞(HEK293またはCHO−K)、バキュロウイルス/昆虫細胞、または酵母系のようなその他の発現系を使用できることは当業者には理解されよう。これらの系のいくつかで(例えば真核細胞において)実施された発現は末端Met欠失を伴わないAsp25 IFNタンパク質またはグリコシル化タンパク質に至り得て、そしてこれらは本発明の範囲内である。
【0025】
Asp25変異体タンパク質の同一性をペプチドフラグメントのエドマンシークエンシングにより確認し、それはタンパク質をpH7で還元型Lys−Cエンドプロテイナーゼマッピング消化に供することにより得られた。組換えにより製造されたAsp25 IFN−β 1bは多量のAsp25種および少量の二つの分解生成物、イソasp25およびイミド25 IFN−β 1b類似体を含有することが決定された。これらの生成物は図2で説明される分解経路を介して組換えAsp25 IFN−βから形成される。化学的手段または熱処理によりイソasp25およびイミド25種の量を改変することができる。例えばAsp25 IFN−βを高温処理に供したとき、イソasp25種の画分を増加させることができる。混合物のpHを変えることによりIFN−βタンパク質類似体中のAsp25、イソasp25およびイミド25種の相対比率を変化させることもできる。例えばイミド25画分の相対量は9.25のような高pHで減少する。「ヒトIFN−βタンパク質類似体」なる用語は組換えAsp25 IFN−βならびにイソasp25およびイミド25のようなその分解生成物を包含する。組換えAsp25 IFN−βタンパク質類似体はAsn25 IFN−βを全く含まないことを理解すべきである。米国特許出願第11/271516号に記載されるように、アスパラギン残基の化学的脱アミド化を介して25位で脱アミド化されたインターフェロン類似体を得ることは可能であるが、化学的に脱アミド化されたインターフェロン生成物は一般的に未反応の天然のAsn25タンパク質を含有する。Asn25インターフェロンはAsp25 IFN−βタンパク質類似体よりも低い生物学的活性を呈し、そしてそれ故にAsn25不含であるインターフェロン類似体を得ることは有利である。
【0026】
細胞の細胞変性効果(CPE)アッセイおよびHs294T抗増殖アッセイを実施することにより、組換えAsp25 IFN−βタンパク質類似体生成物の生物学的活性を研究した。Asp25 IFN−β 1bのCPE活性は5.82×10IU/mgであり、それはHA不含Asn25 IFN−β 1bのCPE活性よりも1.6倍高く、そしてHA添加IFN−β 1b(Betaseron(登録商標))のCPE活性よりも1.7倍高い。Asp25 IFN−β 1bのHs294T抗増殖生物学的活性は5.72×10IU/mgであり、それはHA不含Asn25 IFN−β 1bのHs294T抗増殖活性よりも1.3倍高く、そしてHA添加IFN−βser17の対応する活性よりも1.7倍高い。
【0027】
Asp25 IFN−βタンパク質類似体は高pHおよび高温条件を含む多くの条件下で、HA不在下でその生物学的活性を保持する。それ故にAsp25 IFN−βを含有する治療用生成物の生物学的活性を維持するために、HAを伴う製剤化は必要とされない。高pHまたは高温処理されたHA不含Asp25 IFN−β 1b試料の特徴付けを、タンパク質そのまま、またはLys−C消化により得られたペプチド混合物のいずれかで実施できるRP HPLCおよびCEX HPLCにより行った。予期されないタンパク質減成を示し得る予期されないピークが、高pH(例えばpH9.25)に供された試料および高温(例えば37℃)処理に供された試料の双方において観察された。Asp25、イソasp25およびイミド25種の存在が全ての試料に関して確認された。試料を37℃に18日間暴露することにより、IFN−βタンパク質類似体中のイソasp25画分の量の増加を導く。試料をpH9.25に4時間暴露することにより、イミド25種画分の減少およびAspまたはイソasp画分の増加を招く。
【0028】
組換えAsp25 IFN−βタンパク質類似体IFN−βの生物学的活性は、Asp25 IFN−βが高温に暴露されたときに増大することも観察された。37℃で18日間インキュベートされたAsp25 IFN−β 1b試料のCPE活性は、HA添加IFN−β 1bと比較して2.9倍の増大、およびHA不含IFN−β 1bと比較して2.7倍の増大を呈し、そして9.6×10IU/mgに達する。生物学的活性の増大はIFN−βタンパク質類似体中のイソasp25またはイミド25種の比率がより高いことに起因し得る。
【0029】
一般的に、組換えにより製造されたAsp25 IFN−βタンパク質類似体中のイソasp25またはイミド25類似体の量の増加を導き得る多くの可能な技術がある。これらの技術は大規模の医薬品の製造に適用するのに有効および適当であり得て、そして天然の生物学的活性、好ましくは増大した生物学的活性を維持しながらAsp25、イソasp25およびイミド25の相対量を変化させる任意の技術を用いることができる。概して中から高温(例えば約25−60℃)および種々のpH、低(例えば約0−4)、中(例えば約4−10)から高(例えば約10−14)pHで、条件に依存して約1分から約90日以上の反応時間でのインキュベーションにより、Asp25、イソasp25およびイミド25 IFN−β類似体の相対量を変えることができる。例えばAsp25 IFN−β(例えばAsp25 IFN−β 1aまたはAsp25 IFN−β 1b)の60℃まで;または約25℃から40℃、例えば約37℃で少なくとも24時間、例えば18日間、または40日までのインキュベーションにより、生物学的活性が増大したIFN−βタンパク質類似体を得ることができる。
【0030】
組換えヒトAsp25 IFN−βタンパク質類似体を製造するための技術はAsn25種を含有しない生成物を製造する。Asp25、イソasp25およびイミド25の相対量は組換えタンパク質生成の条件および続く高温または高pHへの暴露のような化学的処理に依存して変わり得る。例えば少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも75%または約100%のAsp25 IFN−βを含有するIFN−βタンパク質類似体を得ることができる。IFN−βタンパク質類似体混合物の個々の種を精製および単離することが望ましいかもしれない場合もある。例えば以下の条件を用いてカチオン交換(CEX)HPLCによりこの精製および単離を達成することができる;
クロマトグラフィー固定相:Pharmacia Mono S HR 5/5、または均等物;
溶離バッファー:0.5% Empigen BB(n−ドデシル−N,N−ジメチルグリシン(アルキルベタインラウリルジメチルベタイン、両性界面活性剤))を含む20mM Tris−HCl、pH7.0;
グラジエント:溶離バッファー中200mMまで、またはそれより高いNaCl直線グラジエント。
製造用にこの技術を大規模に行うことができる。
【0031】
一つの実施態様では、合成タンパク質類似体が微生物により生成されたとき、それはグリコシル化されない。またタンパク質類似体はN末端メチオニン欠失を有する。その他の実施態様では、タンパク質類似体は哺乳動物細胞において生成され、そして故にグリコシル化され得る。
【0032】
以下でさらに詳細に記載されるように、種々の活性アッセイにより、組換えAsp25 IFN−β 1bタンパク質類似体はその親Asn25 IFN−β 1bタンパク質と比較して増大した生物活性を有することが実証される。HA不含試料で安定性結果が得られており、それは本発明の組換えIFN−βタンパク質類似体が治療薬としてのHA不含製剤に適当であることを示している。治療用組成物を形成するために、前記されたように部分的または実質的に純粋であるタンパク質類似体を、この型の治療用生成物用に周知であるような薬学的に許容される担体溶媒と混合することができる。
【0033】
本発明の組成物がHA不含安定性を呈することは、それの有利な特性であるが、Asp25 IFN−βタンパク質類似体をHA含有製剤に利用することもでき、そしてこれらは本発明の範囲から排除されるものではない。加えて、本発明は主にIFN−β 1bタンパク質類似体に関して本明細書にて記載されるが、本発明はまたIFN−β 1a類似体およびIFN−βタンパク質のその他の機能的変異体を含むその他のIFN−β類似体にも適用可能である。
【0034】
本発明のIFN−βタンパク質類似体および組成物は、患者における細胞増殖を調節すること、およびウイルス疾患の患者を処置することを含む多くの適応での治療薬における有用性を示唆する生物学的活性を呈する。本発明による治療薬は患者の多発性硬化症、とりわけ再発−寛解型のMSの処置に有用であることが証明できる。
【実施例】
【0035】
実施例
以下の実施例は本発明の態様を説明するものであるが、いかなるときも本発明を限定することを意図するものではない。
【0036】
実施例1 組換えAsp25 IFN−β 1bの製造
PCR混合物の代表的な組成および組換えにより脱アミド化されたIFN−β 1bの製造のための代表的なPCRプロトコールを各々表1および表2において説明する。
【0037】
表1
PCR混合物の組成
【表1】

【0038】
表2
代表的なPCRプロトコール
【表2】

【0039】
PCRの完了時に、DpnI(2μl)を各反応混合物が入った試験管に加え、そしてその試験管を37℃で1時間インキュベートした。次いでDpnI含有混合物(2μl)をXL Goldウルトラコンピテント細胞(細胞45μlおよびβ−メルカプトエタノール2μl)に加えた。得られた混合物を30分間0℃に保ち、次いで45秒間42℃に保ち、そしてSOC培養培地(500μl)の添加時に250rpmで振盪しながら37℃で1時間インキュベートした。Luria−B/L−カルベニシリン(100μg/ml)およびトリプトファン(50μg/ml)プレートに細胞を撒いた。コロニーを37℃で24時間成長させた。6個のコロニーを取り、そして各々を、カルベニシリン(100μg/ml)およびトリプトファン(50μg/ml)含有Luria Broth培地(2ml)の入った別個の試験管に移した。細菌を37℃で24時間増殖させた。標準的なQiagenプロトコールにしたがって細胞培養物からDNAを得た。慣用的なシークエンシングによりDNAの同一性を決定した。次いで大腸菌MM294−1細胞をAsp25 IFN−β 1b挿入含有プラスミドDNAで形質転換した。トリプトファンを補充した培地中に細胞を接種した。細胞を37℃でおよそ21時間培養し、そしてトリプトファンが枯渇した後に収集した。標準的な生化学的技術を用いて発現されたAsp25 IFN−β 1bタンパク質を単離し、そして精製した。
【0040】
実施例2 組換えAsp25 IFN−β 1bにおける能力増大
CPEおよびHs294T抗増殖生物活性アッセイの結果を各々表3および表4にまとめる。表3はHA添加(Betaseron(登録商標))およびHA不含Asn25 IFN−β 1bのCPE活性と比較したAsp25 IFN−β 1b、熱処理および高pH処理Asp25 IFN−β 1bのCPE活性を提示する。
【0041】
表3
IFN−β 1bタンパク質類似体のCPE生物活性
【表3】

【0042】
表4はAsp25 IFN−β 1bのHs294T抗増殖生物活性をHA添加(Betaseron(登録商標))およびHA不含Asn25 IFN−β 1bの対応する活性と比較して提示する。
【0043】
表4
IFN−β 1bタンパク質類似体のHs294T抗増殖生物活性
【表4】

【0044】
2.1.CPEバイオアッセイ
IFN−βは哺乳動物細胞において、いくつかのウイルス型が複製を阻止され、そして細胞の細胞変性効果(CPE)を引き起こす抗ウイルス状態を誘起する。A549ヒト肺癌細胞およびネズミ脳心筋炎(EMC)ウイルスを用いてAsp25 IFN−β 1bおよびその高温(37℃で約18日間)および高pH(pH9.25で4時間)処理試料の生物学的活性を評価した。
【0045】
96ウェルプレートでIFN−β試験試料の連続希釈を実施した。組織培養培地でA549細胞を調製し、そしてアッセイプレートに加えた。一晩インキュベートした後、EMCウイルスをアッセイプレートに加え、続いてさらに一晩インキュベートしてウイルス複製を可能にする。十分なIFN−β 1bで処理された細胞はウイルスの攻撃から保護され、そして生き残った。保護されなかった細胞は細胞変性変化を被り、そして死んだ。ホスファターゼ(pNPP)染色技術を用いてインターフェロン用量依存性CPEを定量化し、そして細胞生存性(光学密度測定値)対IFN−β濃度のプロットから用量応答曲線を準備した。試験試料およびWHO補正参照基準のED50(細胞保護の最大半量のための必要濃度)の比率からIFN−β活性を計算した。
【0046】
表3で示されるように、HA不含Asp25 IFN−β 1bのCPE活性はHA添加IFN−β 1b(1.7倍増大)およびHA不含Asn 25 IFN−β 1b(1.6倍)よりも有意に高い。熱処理されたHA不含 Asp25 IFN−β 1bのCPE活性はさらに高い(HA添加IFN−β 1bと比較して2.9倍、およびHA不含Asn 25 IFN−β 1bと比較して2.6倍増大)。高pH処理されたAsp25 IFN−β 1bは、IFN−β 1bおよびHA不含Asn 25 IFN−β 1bのCPE活性よりも各々1.8および1.6倍高いその高活性を保持する。
【0047】
2.2.抗増殖活性
IFN−βはヒト腫瘍から確立された多くの細胞系に対して抗増殖活性を示す。ヒトメラノーマ細胞系(Hs294T)を使用してHA不含Asn25 IFN−β 1bおよびHA不含Asp25 IFN−β 1b試料の生物学的活性を評価した。
【0048】
96ウェルプレートでIFN−β試験試料の連続希釈を実施した。組織培養培地で応答細胞を製造し、そしてアッセイプレートに加えた。3日間インキュベートした後、細胞をpNPP(ホスファターゼ染色)で染色して成長応答を測定した。用量依存的な様式でIFN−βに応答して細胞成長が阻止された。細胞数(光学密度測定値)対IFN−β濃度のプロットから用量応答曲線を準備した。試験試料およびWHO補正参照基準のED50(細胞成長応答の最大半量のための必要濃度)の比率からIFN−β活性を計算した。
表4で示されるように、Asp25 IFN−β 1bの抗増殖活性はHA添加IFN−β 1b(1.7倍増大)およびHA不含Asn25 IFN−β 1b(1.3倍)よりも有意に高い。
【0049】
組換えAsp25 IFN−β 1bの特徴付け
組換えAsp25 IFN−β 1bは、天然インターフェロンにしたがって番号付けされた25位でアスパラギン残基が組換えによりアスパラギン酸残基により置き換えられている。それはまたCys17Ser変異をも担持する。Asp25 IFN−β 1bの一次配列を図3に示す。図2にて説明される減成経路にしたがって25位のアスパラギン酸をスクシンイミドおよびイソアスパラギン酸種に変換することができる。本発明の組換えIFN−β 1bタンパク質類似体はAsp25変異体タンパク質ならびにAsp25変異体から誘導されたイミド25およびイソasp25インターフェロンを包含する。本発明の組換えIFN−β 1bタンパク質類似体の組成物を以下に記載されるアッセイで研究した。
【0050】
3.1.還元型Lys−Cペプチドマップ
酵素消化、続いてRP−HPLCを用いてペプチドマップがタンパク質に関するフィンガープリントプロフィールを生み出す。RP−HPLCにより分離された各々のペプチドフラグメントを単離し、そして質量分析またはエドマンペプチドシークエンシングのようなその他の分析方法によりさらに特徴付けすることができる。一般的にペプチドマッピングを確認試験として品質管理において利用する。クリッピング、変異および酸化または脱アミド化による減成のような事象からのタンパク質における小規模な一次構造修飾をモニタリングすることも強力な手段である。米国特許出願第11/271516号に記載される化学的脱アミド化研究により、化学的に脱アミド化されたIFN−βがアスパラギン酸、スクシンイミドおよびイソアスパラギン酸バリアントを含有し、ここで脱アミド化は25位でのみ生じることが示された。それ故に組換えAsp25 IFN−βタンパク質類似体を分析するために用いられるペプチドマッピングは試料中のAsp25、イミド25およびイソasp25種の配分を改変しない条件下で行われるべきである。高pHで環状イミドは不安定であり、そして人為的にその他の種に変換されることが知られている。一つの態様では、本発明は本質的に中性のpHで、少なくとも約6.5で、好ましくは約6.9から約7.1のpHで、そしてさらに好ましくは約7のpHで実施される独特なエンドプロテイナーゼ消化を提供する。この消化はスクシンイミドの分解を人為的に誘起せず、それ故に、分析される試料中のAsp25、イミド25およびイソasp25種の配分に影響しない。タンパク質が指示されたpH範囲で安定性を欠くこれらの場合には、Empigen BB、アルキルベタイン両性界面活性剤のような安定剤の存在下でこの消化を行うことができる。これらの安定剤はまたLys−Cエンドプロテイナーゼと適合する当業者に公知の非イオン性(例えばTween 80、Sigma−Aldrich, Milwaukee WIから入手可能)、カチオン性、アニオン性または両性界面活性剤を含み得る。この消化を伴うタンパク質マッピングはIFN−βの分析に特に適当であるが、高pHで不安定であるタンパク質のようなその他のタンパク質の分析に適用することもできる。
【0051】
組換えIFN−βタンパク質類似体に存在する種を特徴付けするための、少なくとも約6.5、好ましくは約6.9−7.1のpHで、機能的な還元剤と組み合わされた新しい還元型リジンエンドプロテイナーゼ(R)(Lys−C)ペプチドマップが開発されている。このアッセイで使用できる適当な還元剤はジチオスレイトール(DTT)である。試料調製物を用いて、約7.0のpHでの消化および続く還元を含む組換えIFN−β 1bタンパク質類似体のLys−C消化を実施したが、それは約6.9−7.1の最適pH範囲で実施される。試料中のAsp25、イソasp25およびイミド25形態の天然のレベルを保持するため、ならびにタンパク質を効率的に還元および切断するための双方でこの範囲が必要とされる。本明細書で開発されたペプチドマップは中性pH試料調製物を用いるので、Asp25 IFN−βおよびその減成生成物の天然のレベルの正確なモニタリングが成功裏に達成される。その方法と組み合わせて使用できるその他の適当な還元剤にはトリス−(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、2−メルカプトエタノール、システイン、還元型グルタチオン、2−メルカプトエチルアミンおよびチオグリコール酸が含まれ得る。
【0052】
組換えAsp25 IFN−β 1bの試料を還元型Lys−Cペプチドマップにより試験して25位でのAsnのAspへの変異を確認した。2mMアスパラギン酸製剤バッファー中0.25から0.5mg/mlの濃度のIFN試料各0.4mlに1M TRIS HCl(pH7.0)25Oμl、30% Empigen BB(Calbiochem, San Diego, CAから入手可能)5μlおよび0.01N HCl 62Oμlを加えた。1mg/ml Lys−C 4μlの添加および37℃で4時間のインキュベーションで消化を開始した。次いでさらに1mg/ml Lys−C 4μlを加え、そして試料を37℃で、全部で24時間インキュベートした。消化をクエンチするために、8Mグアニジン100μlを加えた。次いで消化された試料を1M DTT 8μlの添加、続いて37℃で45分間のインキュベーションにより還元した。溶離バッファーとして0.1%トリフルオロ酢酸中のアセトニトリルグラジエントを用いて流速2ml/分およびカラム温度40℃でRP−HPLCクロマトグラフィー(Vydac 218TP54C18、250×4.6mm)によりペプチドフラグメントを解析した。Lys−Cエンドプロテイナーゼは特異的な部位でインターフェロンタンパク質を切断して、12個の主要なペプチドフラグメントKl−K12を導く。一次および二次Lys−C切断部位および対応するペプチドフラグメントを図3にて説明する。K2フラグメントは25位で変異した残基を含有する。残基の性質に依存して、K2フラグメントはRP−HPLCで異なる保持時間で溶離し、Asp25、イソasp25およびイミド25種の間の区別が可能になる。この方法により、脱アミド化された種を天然Asn25 IFNと識別することも可能になる。
【0053】
図4AはLys−C消化されたインターフェロンのRP−HPLCトレースを示す。トレース405は組換えAsp25 IFN−β 1bタンパク質類似体に対応し、トレース403は対照Asn25 IFN−β 1bに対応し、そしてトレース401はブランクLys−C酵素試料を表す。K1およびK2フラグメントに対応するピークは32−40分の保持時間間隔で現れる。この間隔の拡大図を図4Bで示す。組換えAsp25 IFN−β 1bタンパク質類似体の主要なK2フラグメントは天然のAsn25 IFN−β 1b対照のK2フラグメントよりも遅い保持時間で溶離することを示すことができる。組換えにより生成されたAsp25 IFN−βにおいてこの主要なフラグメントが単離され、そして質量分析およびエドマンシークエンシング技術によりAsp25 IFN−β 1bとして同定された。組換えAsp25 IFN−β 1bタンパク質類似体生成物に存在する二つの少量のフラグメントはイミド25およびイソasp25種として同定された。
K1およびK2フラグメントの同一性を確認するエドマンシークエンシングデータを図5に提示する。
【0054】
表5
エドマンシークエンシングによるLys−Cペプチドマップフラグメントの同定
【表5】

【0055】
HA不含組換えAsp25 IFN−β 1b生成物の安定性
HA不含治療用製剤中では組換えAsp25 IFN−βを使用するのが望ましいので、HA不含Asp25 IFN−β 1bの生物学的活性に関して安定性を調査した。二つの型の安定性研究を実施した。HA不含Asp25 IFN−β 1bを37℃に22日間、および別の実験ではpH9.25に4時間供することにより、高温に対する安定性および高pHに対する安定性を研究した。
【0056】
図5Aは熱処理された前および後の、Lys−C消化されたHA不含Asp25 IFN−β 1bのRP HPLCデータを提示する。トレース501はブランクLys−C酵素に関するトレースであり、トレース503はAsp25 IFN−β 1bに対応し、そしてトレース505は37℃で22日間インキュベートされたAsp25 IFN−β 1bに対応する。この図から見出すことができるとおり、イソasp25およびイミド25 IFN−β類似体以外のその他の分解種を示す予期されないピークは高温安定性試料では観察されない。図5Bでより詳細にK1およびK2フラグメントに対応する目的のピークを示す。Asp25、イソasp25およびイミド25種の相対量が熱処理時に変化することを示すことができる。注目すべきことには、イソasp25フラグメントの比率が増大する。この実験によりHA不含Asp25 IFN−β 1bが、その生物学的活性に悪影響を及ぼす分解種の著しい増加を伴わずに長期間高温暴露に耐えることができ、そしてそれ故にHA不含製剤に適当であることが実証される。
【0057】
そのままのタンパク質で実施されるMono−S CEX HPLCにより高pHでのHA不含Asp25 IFN−β 1b試料の安定性を分析した。高pH処理の前および後のAsp25 IFN−β 1bのクロマトグラムを図6に示す。HA不含高pH安定性試料に関して予期されない減成を示すピークは観察されない。トレース601はAsn25 IFN−β 1bに対応し、トレース603はAsp25 IFN−β 1bに対応し、そしてトレース605はpH9.25に4時間暴露されたAsp25 IFN−β 1bに対応する。Asp25、イソasp25およびイミド25種の相対量が高pH処理時に変化することを示すことができる。具体的にはイミド25フラグメントが有意に減少するが、イソasp25種は増加する。この実験により、HA不含Asp25 IFN−β 1bが高pHで予期されない減成生成物を形成しないことが実証される。HAを含む製剤は、典型的には高pHで実施される工程を伴い、そしてそれ故にAsp25 IFN−β 1bが高pH条件下でその生物学的活性を保持し、そしてHA含有治療用生成物に製剤化され得ることは有利である。
【0058】
Asp25 IFN−β 1bはその生物学的活性を維持し、そして高温および高pH双方の条件下で予期されない減成生成物を何ら形成しないと結論される。多発性硬化症およびその他の疾患の処置のためにAsp25 IFN−β 1bをHA不含またはHA含有治療薬に成功裏に製剤化できると結論付けされる。
【0059】
結論
前記された研究から得られた結果に基づいて、組換えAsp25 IFN−βタンパク質類似体(Asp25、イソasp25およびイミド25 IFN−β種を含む)は増大したレベルでIFN−β(例えばIFN−β 1b)の生物学的活性を呈する。組換えAsp25 IFN−β、例えばAsp25 IFN−β 1bを薬学的に許容される様式で製造し、そして生物学的活性が増大した治療用生成物に製剤化することができる。部位特異的変異誘発技術を用いてAsp25変異をヒトIFN−βに導入することにより本発明の組換えIFN−βタンパク質類似体を製造することができる。本発明の組換えIFN−βタンパク質類似体はHA不含およびHA含有IFN−β製剤において必要とされる臨床用量を低下させることができる。臨床用量を低下させることにより、有害な免疫反応(例えば中和抗体)を経験する患者の比率が低下する。
【0060】
理解を明確にする目的で前記の発明をいくらか詳細に記載してきたが、特許請求の範囲内で特定の変化および修飾を実行できることは明らかであろう。本発明の方法および組成物の双方を具現化する多くの代替えの方式が存在することに留意すべきである。したがって本実施態様は説明的であり、制限的ではないとして考えられるべきであり、そして本発明は本明細書に示される詳細に限定されるものではないが、特許請求の範囲の範囲および均等物内で修飾され得る。
本明細書にて引用された全ての文献はその全てにおいて、および全目的のために出典明示により本明細書の一部とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Asn25不含Asp25ヒトインターフェロン−βを含むヒトインターフェロン−βタンパク質類似体。
【請求項2】
該タンパク質類似体が天然ヒトインターフェロン−βの生物学的活性を呈する請求項1に記載のタンパク質類似体。
【請求項3】
(配列番号:2)に示されるアミノ酸配列を含む請求項1に記載のタンパク質類似体。
【請求項4】
天然インターフェロン−βにしたがって番号付けされた17位でシステインが欠失しているかまたは中性アミノ酸により置き換えられている請求項1に記載のタンパク質類似体。
【請求項5】
該システイン残基がセリン残基により置き換えられている請求項4に記載のタンパク質類似体。
【請求項6】
25位で残基がイソアスパラギン酸および環状イミドからなる群から選択されるヒトインターフェロン−βをさらに含む請求項5に記載のタンパク質類似体。
【請求項7】
タンパク質類似体がグリコシル化されていない請求項5に記載のタンパク質類似体。
【請求項8】
タンパク質類似体がN末端メチオニン欠失を有する請求項7に記載のタンパク質類似体。
【請求項9】
タンパク質類似体がIFN−β 1bよりも大きな生物学的活性を有する請求項2に記載の合成タンパク質類似体。
【請求項10】
タンパク質類似体がHA不含IFN−β 1bよりも少なくとも約1.6倍大きい生物学的活性を有する請求項9に記載のタンパク質類似体。
【請求項11】
タンパク質類似体がHA添加IFN−β 1bよりも少なくとも約1.7倍大きい生物学的活性を有する請求項9に記載のタンパク質類似体。
【請求項12】
薬学的に許容される担体溶媒と混合された治療有効量の請求項1に記載のタンパク質類似体を含むIFN−β活性を有する治療用組成物。
【請求項13】
組成物がHA不含である請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
組成物がHAを伴って製剤化されている請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
Asp25インターフェロン−βコード化配列で細胞を形質転換し;そして
形質転換された細胞を培養してAsp25 IFN−βタンパク質類似体を発現させること;
を含むIFN−βタンパク質類似体を製造する方法。
【請求項16】
該Asp25 IFN−βタンパク質類似体を単離し、そして精製すること;
をさらに含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法にしたがって製造されたAsn不含Asp25ヒトインターフェロン−βタンパク質類似体。
【請求項18】
有効量の請求項12に記載の組成物を患者に投与することを含む患者を処置する方法。
【請求項19】
処置が患者の多発性硬化症のためのものであり、そして有効量が組成物の治療有効量である請求項18に記載の方法。
【請求項20】
該多発性硬化症が再発−寛解型である請求項19に記載の方法。
【請求項21】
Lysエンドプロテイナーゼ−Cを含有する緩衝溶液中少なくとも6.5のpHでタンパク質試料をインキュベートし;
Lysエンドプロテイナーゼ−Cにタンパク質試料を消化させ;
消化されたタンパク質試料を還元剤で還元し;そして
液体クロマトグラフィーにより消化されたタンパク質試料のペプチドフラグメントを解析すること;
を含むペプチドマッピング方法。
【請求項22】
還元剤がジチオスレイトール(DTT)である請求項21に記載の方法。
【請求項23】
タンパク質試料がヒトIFN−βタンパク質類似体である請求項22に記載の方法。
【請求項24】
液体クロマトグラフィーがRP−HPLCである請求項21に記載の方法。
【請求項25】
インキュベーションが約7のpHで行われる請求項23に記載の方法。
【請求項26】
緩衝溶液が安定剤をも含む請求項21に記載の方法。
【請求項27】
安定剤がアルキルベタイン両性界面活性剤である請求項26に記載の方法。
【請求項28】
Asp25ヒトインターフェロン−βをコードするDNA配列を有する微生物。
【請求項29】
Asp25ヒトインターフェロン−βをコードし、そして(配列番号:5)に示される配列を含むDNA配列。
【請求項30】
Asp25ヒトインターフェロン−βの発現に用いられるプロモーター配列、(配列番号:6)に示される配列を含むコード化およびプロモーター配列をさらに含む請求項29に記載の配列。
【請求項31】
医薬的利用に許容される純度を有する請求項1に記載のヒトインターフェロン−β類似体。
【請求項32】
形質転換される細胞が微生物細胞、CHO細胞および昆虫細胞からなる群から選択される請求項15に記載の方法。
【請求項33】
形質転換される細胞が大腸菌細胞である請求項32に記載の方法。
【請求項34】
形質転換される細胞が真核細胞である請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−500024(P2010−500024A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523766(P2009−523766)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/016722
【国際公開番号】WO2008/020968
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】