説明

強化繊維積層体の製造方法および製造装置

【課題】
ドライな強化繊維テープの集合体を積層させた強化繊維積層体を製造するにあたり、長手方向に湾曲した形状の強化繊維積層体を製造する場合においても、強化繊維テープの載置・積層作業を繊維の位置ズレなく高精度で効率良く製造することができ、高品位の強化繊維積層体を得ることができる製造方法および製造装置を提供する。
【解決手段】
強化繊維の糸条が少なくとも長手方向に平行に延在する強化繊維テープを、該強化繊維テープの長手方向に対して互いに隣接するように載置し、強化繊維集合体とする載置作業や、載置テーブルに載置された強化繊維集合体を別の載置テーブルへ移載する移載作業や、さらに強化繊維集合体を複数枚積層し、強化繊維積層体を形成する積層作業において、静電吸着を利用することにより強化繊維の角度のズレや位置ズレすることなく高い精度でかつ効率良く作業を行うことを特徴とする、強化繊維積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維積層体の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維を強化繊維として用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)は、軽量でかつ高い耐久性を有するものであることから、自動車や航空機などを構成する各種の構成部材として理想的な材料である。比較的長尺の強化繊維プラスチックを成形する場合、目標とする方向に高い強度や剛性を確保するために、強化繊維の配向方向が所定の各方向に設定された複数の帯状の強化繊維テープ集合体を積層した積層体の構成を採用することが多い。
【0003】
例えば、航空機の胴体に使用される構造部材には直線状のものは少なく、長手方向に湾曲した形状の複合材料構造体が必要となり、複数の円弧状に形成された構造材を連結させて円環状として使用する用途などが挙げられる。
【0004】
これら円弧状の強化繊維プラスチック(FRP)を成形する方法としては、強化繊維の織物による製造方法が従来から知られている。例えば、特許文献1のようなやり方で強化繊維を多数の強化繊維張設用のピンを植設した複数のピン植設部材で固定し、これらピン植設部材同士の相対位置を変化させて湾曲させ、円弧形状の構造体を形成するという方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、この発明においてはピンの表面同士を結ぶ接線が強化繊維の方向となり、強化繊維はジグザグに配置され、隣接する強化繊維同士は厳密に平行にならず、折り返しの端部付近で繊維がピンに対し縦長に広がってしまう。これらを軽減するためには、細い繊維束と狭いピンのピッチが必要となるが、そのため生産効率が悪くなる。
【0006】
また、強化繊維は相対するピン同士を結ぶ直線で配置されるが、例えば強化繊維が円弧の長手軸線に対して90°の傾斜角を持つ場合は、強化繊維は常に直線でも長手軸線との角度90°を保つことができるが、円弧の長手軸線に対して直線強化繊維が0°や45°の傾斜角を持つような場合では、強化繊維は直線でなく、円弧に沿って曲線でなければならず、幅方向の両端をピンで支持する技術ではこれを達成することができないという問題がった。
【0007】
一方、強化繊維に予め高靭性のマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグテープを複数層に重ねて所望する円弧状の積層体に賦形して、オートクレープ(圧力釜)で加圧および加熱して硬化させるオートクレープ成形方法がある。
【0008】
しかしながら、プリプレグテープは強化繊維の長手方向へのせん断変形が困難であるため、繊維の角度を変えつつ徐々に湾曲させて積層していくと容易にしわが発生してしまう。
【0009】
この問題を解決するために、例えば特許文献2のように、連続繊維と熱可塑性樹脂からなるプリプレグテープを強化繊維と直交する方向へスリットを入れることで、複雑な形状へ変形可能となる基材が開示されているが、連続繊維の基材と比較するとスリットという欠陥を内包した構成であるために、構造材として十分な強度があるとは言えず、応力集中点であるスリットが破壊の起点となり、特に引張強度、引張疲労強度が低下するという問題があった。
【0010】
そこで、プリプレグテープでなく、マトリックス樹脂を含浸していない織物等のドライな強化繊維テープを用いる方法が注目されている。ドライな強化繊維テープは樹脂を含浸させたプリプレグテープと比較して柔軟性があり、テープを円弧状に湾曲させても、皺が発生し難いことから、より複雑な形状を作ることができる。しかし、一方で、ドライな強化繊維テープはマトリックス樹脂が含浸されていないがゆえに、形状安定性が悪く、慎重に取り扱わなければ容易に変形してしまい、高い精度で強化繊維の角度のズレや位置ズレなくテーブルや型等のツール上に載置することは非常に困難である。
【0011】
これを解決する手段として、強化繊維テープを載置するツール表面から真空吸引することで固定するという方法があるが、紙やフィルムといったシート材では厚さ方向に空気を通さないが、ドライな強化繊維テープは繊維束の間が密でなく空気を通してしまうため、真空を維持する空気の流量を非常に大きくする必要があり、そのため吸引ブロワやエアの通路など付随する装置が大型になってしまう欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許第4090892号公報
【特許文献2】特開平09−254227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上述したような点に臨み、ドライな強化繊維テープを用いて長手方向に湾曲した形状の強化繊維積層体を製造する場合においても、強化繊維テープの載置作業や積層作業を高精度でかつ効率良く製造することができる、強化繊維積層体の製造方法および製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の手段を採用するものである。すなわち、
(1)強化繊維の糸条が少なくとも長手方向に延在する強化繊維テープを複数枚積層させた強化繊維積層体の製造方法であって、前記強化繊維テープの少なくとも一部が強化繊維テープの長手方向に湾曲するように第1の載置面上に静電気力により吸着固定させながら前記強化繊維テープを載置することを特徴とする強化繊維積層体の製造方法。
(2)前記強化繊維テープの強化繊維が互いに平行になるように複数枚載置することにより長手方向に湾曲した強化繊維集合体を形成することを特徴とする(1)に記載の強化繊維積層体の製造方法。
(3)前記強化繊維集合体を複数枚積層して長手方向に湾曲した強化繊維積層体を形成することを特徴とする請求項2に記載の強化繊維積層体の製造方法。
(4)ロール状に巻かれた強化繊維テープを解反させながら、該強化繊維テープを第1の載置面上に載置することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
(5)第1の載置面上に載置された強化繊維集合体の上に第2の載置面を接触させ、第2の載置面の静電気力を作用させた後に、第1の載置面の静電気力を解除し、前記第2の載置面上に前記強化繊維集合体を静電気力により吸着固定し、しかる後に第1の載置面を第2の載置面から離反させ、前記強化繊維集合体を前記第2の載置面へ移載する移載工程を複数回繰り返すことで強化繊維集合体を積層して強化繊維積層体を形成することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
(6)第1の載置面上に載置された強化繊維集合体の上に第3の載置面を接触させ、第3の載置面の静電気力を作用させた後に前記第1の載置面の静電気力を解除し、前記第3の載置面に強化繊維集合体を静電気力により吸着固定し、前記第3の載置面を第1の載置面から離反し、前記強化繊維集合体を吸着保持した状態で前記第3の載置面を第2の載置面まで移載し、前記第3の載置面と第2の載置面を接触させ、第2の載置面の静電気力を作用させた後に第3の載置面の吸着を解除し、前記第2の載置面上に前記強化繊維集合体を静電気力により吸着固定し、前記第3の載置面を第2の載置面から離反させる工程を複数回繰り返すことで、前記強化繊維集合体を積層して強化繊維積層体を形成することを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
(7)第1の載置面上に載置された強化繊維テープの形状を加熱固定することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
(8)第2の載置面上に載置された強化繊維集合体の形状を加熱固定することを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
(9)強化繊維テープに用いる強化繊維が導電性を有する炭素繊維を少なくとも含んでなることを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
(10)ロール状に巻かれた強化繊維テープを解反させつつ第1の載置面上に供給する基材供給手段と、基材供給手段を第1の載置面上で移動する移動手段と、第1の載置面が前記強化繊維テープを静電気力により静電吸着させる吸着手段とを備えることを特徴とする、強化繊維積層体の製造装置。
(11)前記第1の載置面に載置された強化繊維集合体を第2の載置面へ移載・載置する移載手段を備えることを特徴とする(10)に記載の強化繊維積層体の製造装置。
(12)強化繊維集合体を載置する第2の載置面の吸着手段として、静電気力により前記強化繊維集合体を吸着保持する静電吸着機能を備えることを特徴とする(11)に記載の強化繊維積層体の製造装置。
(13)前記第1の載置面に載置された前記強化繊維集合体を第3の載置面上に吸着させる吸着手段と、前記第3の載置面を第2の載置面上まで移載する移載手段と、前記強化繊維集合体を第2の載置面に吸着する吸着手段とを備えることを特徴とする(10)に記載の強化繊維積層体の製造装置。
(14)強化繊維集合体を載置する第2の載置面や第3の載置面の吸着手段として、静電気力により前記強化繊維集合体を吸着保持する静電吸着機能を備えることを特徴とする(13)に記載の強化繊維積層体の製造装置。
(15)第1の載置面上に載置された強化繊維テープの形状を加熱固定する加熱手段を有することを特徴とする(10)に記載の強化繊維積層体の製造装置。
(16)第2の載置面上に載置された強化繊維集合体の形状を加熱固定する加熱手段を有することを特徴とする(12)に記載の強化繊維積層体の製造装置。
である。
【0015】
本発明において、「強化繊維テープ」とは、強化繊維を主成分とする、帯状のシート材であり、強化繊維ストランド単体を平坦化したものや、複数の強化繊維ストランドを少なくとも一方向に引き揃え、隣接する強化繊維ストランド間を他の糸条で拘束した、織物や、組物、不織布貼付シート等が好適に用いられる。さらに、シート材の表面には、常温では付着性を有さない接着樹脂材料を部分的に付着させたものを用いることが好ましい。それは、シート材単体の形態安定性が高いだけでなく、強化繊維テープを複数層にわたって積層した後に、加熱により接着樹脂を軟化させて上下層間を接着することで、積層体の形態を固定させることができるからである。
【0016】
強化繊維テープの幅は特に限定されるものではないが、取扱いの観点から1mmから300mmが好ましく、強化繊維の特性を十分に発現させ、かつ湾曲形状などの複雑な形状への追従性を付与させるようにするためには、2mmから200mmにすることがより好ましい。また、強化繊維としては通電性を有する炭素繊維を用いることができる。
【0017】
「接着樹脂材料」とは、強化繊維への樹脂の接着や、常温環境での取扱いを考慮すると、50乃至100℃範囲のガラス転移温度を有しているものが好ましい。接着樹脂材料の成分としては、強化繊維プラスチックの機械的特性を向上させるものが好ましく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエーテルサルファン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンスルファイド樹脂などが挙げられる。なお、接着樹脂材料は、強化繊維テープの片面のみ付着させてもよいし、両面に付着させてもよい。
【0018】
また、「第1の載置面」、「第2の載置面」および「第3の載置面」とは、材質は特に限定されるものではないが、取り扱い上、軽量であることが好ましく、また、その表面に静電気力を発生させる静電吸着板が貼り付けられているため、静電吸着板がたわまぬよう軽量なアルミ材等で補強したフレーム構成であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法および製造装置によれば、以下に説明するとおり、ドライな強化繊維テープの集合体を積層させた強化繊維積層体を製造するにあたり、長手方向に湾曲した形状の強化繊維積層体を製造する場合においても、強化繊維テープの載置作業や積層作業を繊維の位置ズレなく高精度で効率良く製造することができ、高品位の強化繊維積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】強化繊維テープの載置工程を示す概略斜視図
【図2】載置された強化繊維集合体を示す概略断面図である。
【図3】強化繊維集合体の長手方向X−Xと強化繊維の方向とがなす角度θが(a)θ=90°、(b)θ=45°、(c)θ=−45°をそれぞれ示す概略断面図である。
【図4】本発明における強化繊維集合体の移載・積層工程の一例を示す概略斜視図である。
【図5】本発明における強化繊維集合体の移載・積層工程の他の実施例を示す概略斜視図である。
【図6】(a)本発明で利用する静電吸着機構の一態様を説明する断面図、(b)静電吸着機構の吸着原理を示す断面図である。
【図7】曲率半径Rに湾曲したプリフォームを示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の強化繊維積層体の製造方法と製造装置の好ましい実施形態を、強化繊維テープを自動的に積層するオートテープレイアップ装置(以下、ATL装置と称す)を用い、長手方向に湾曲した形状を有する強化繊維積層体を製造する場合について、図を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、強化繊維テープの載置工程を示す概略斜視図であり、強化繊維の方向と長手方向X−Xとがなす角度θがθ=0°の場合を示している。
【0023】
図1において、10は強化繊維テープ11を供給する供給リール、12はATL装置であり、装置本体と供給リールを繋ぐアーム13と、その接合部を中心に上下左右に揺動可能な揺動機構14とを備えている。この揺動機構14を設けることにより、供給リール10の位置を所望する方向および角度に変えることができるので、例えば長手方向に湾曲するように強化繊維テープ11を載置することができる。15は静電吸着機能を有する第1の載置面であり、ATL装置12により供給される強化繊維テープ11を載置し、強化繊維集合体16を形成するテーブルである。
【0024】
載置工程においては、供給リール10にロール状に巻かれた強化繊維テープ11は、ATL装置12から連続的に供給され、第1の載置面15上を所定の位置まで供給リールが移動し、図示されていない基材切断機により強化繊維テープ11を所定の位置で切断する。次にATL装置12は供給リール10を初期位置まで移動させて、前回載置した強化繊維テープ11に隣接し、かつ強化繊維同士が互いに平行になるように新たに強化繊維テープ11を載置していく。なお、強化繊維テープ11を載置する際には、既に載置されている強化繊維テープ11と離間しないように、また強化繊維テープ11同士が重なり合わないように、強化繊維テープ11の端部同士が接するように載置することが好ましい。強化繊維テープ11が重なり合ったり離間したりすると、CFRPに加工した際に目的とする材料特性が得られないことや、また表面に凹凸が発生し寸法精度が得られない恐れがあるためである。強化繊維テープ11の端部同士が接するように載置する方法としては、予め入力した位置データに基づき、供給リール10の移動位置を制御させる方法や、第1の載置面15上に所望とする形状の基準線をマーキングしておき、載置の際にその位置を赤外線センサにより検出させる方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
第1の載置面15は静電吸着機能を有しているため、供給される強化繊維テープ11は載置直後から順次吸着固定されるので、単にテープ同士が接するように載置するだけで、位置ズレなく正確に強化繊維テープ11を並べていくことができる。また、静電吸着により載置した強化繊維テープ11の全面を吸着固定することができるので、強化繊維テープ自体の反力により元の形状へ戻ることなく、所望とする湾曲形状を維持することができるため有効である。
【0026】
上記の作業を複数回繰り返すことにより、図2に示すような強化繊維の方向と長手方向X−Xとがなす角度θ=0°の強化繊維集合体16を高精度に形成することができる。
【0027】
また、図3に示すようにATL装置12を適用することにより長手方向X−Xが湾曲した曲線形状でかつ強化繊維の方向と長手方向X−Xとがなす角度θが(a)θ=90°、(b)θ=45°、および(c)θ=−45°の強化繊維集合体16を形成することができる。なお、θ=45°、−45°の場合においても、強化繊維が若干曲線形状をしているので、強化繊維テープ自体の反力により元の形状へ戻らないようにするためには、やはり第1の載置面15が静電吸着機能を有することが有効である。
【0028】
また、第1の載置面15は加熱機能を有することが好ましい。それは、特に長手方向X−Xに湾曲した強化繊維集合体16を形成する場合に、載置後に強化繊維テープ11に付着している接着樹脂材料(図示しない)を加熱して融解させることにより湾曲形状に固定することで、テープ自体の反力による戻りをより防止できるからである。なお、第1の載置面に加熱機能を設ける代わりに、供給リール10に加熱機能を設けて加熱しながら強化繊維テープ11を湾曲形状に載置しても良い。
【0029】
さらに、第1の載置面15は冷却機能を有することが好ましい。それは、接着樹脂材料を加熱して融解させることにより、第1の載置面15と強化繊維テープ11が接着してしまい、後述する移載・積層載置工程で載置面を離反させる際に、強化繊維テープ11が剥がれなくなる恐れがあるからである。なお、第1の載置面が冷却機能を有してなくても、加熱してから十分に時間をおき、強化繊維テープ11を自然冷却させても良い。
【0030】
また、加熱機能を設ける場合は、接着樹脂材料が強化繊維テープ11の片面のみに付着されている材料を用いて、接着樹脂材料が付着している面が上面になるように載置面上に載置すれば、接着樹脂材料の融解により強化繊維テープ11と第1の載置面15が接着することがないので有効である。
【0031】
強化繊維積層体を製造する方法を以下の図面に基づいてさらに詳しく説明する。
【0032】
図4は載置された強化繊維集合体16の移載・積層工程の一例を示す概略斜視図である。
【0033】
図4において、20は移載装置であり、第1の載置面15に接続され一体化している。21は静電吸着機能を有する第2の載置面であり、移載された強化繊維集合体16を積層するテーブルである。
【0034】
移載・積層工程においては、移載装置20は、載置工程にて形成された強化繊維集合体16を、静電気力で吸着固定した状態で第1の載置面15を第2の載置面21上まで移動させるものである。第2の載置面21上の所定の位置で位置決めした後、第1の載置面を第2の載置面21上に載置して、第2の載置面21の静電吸着機能を作用させる。次いで第1の載置面15の静電吸着機能を解除し、第2の載置面21上に強化繊維集合体16を吸着させた後、第1の載置面15を離反させる。離反させた後、第1の載置面15はATL装置12が備え付けられている位置まで戻り、再度、載置工程を経て強化繊維集合体16を形成した後に、再度第2の載置面上に載置されている強化繊維集合体16上に移載・積層する。
【0035】
上記の工程を繰り返すことにより、長手方向X−Xに湾曲した形状を有する強化繊維積層体22を高精度に製造することができる。
【0036】
なお、移載装置20に位置決め制御機能を備えた場合には、積層される強化繊維集合体16の位置がずれることなく、所定の位置に正確に移載することが可能である。たとえ位置決め制御機能を有してなくても、位置ズレを防止するために第2の載置面21上に載置する際に、第1の載置面15を当接させて位置決めが容易になる基準ブロック等を第2の載置面21に設置しても良い。
【0037】
本発明は、上記のような工程のほかにも、図5に示すような形態にすることも可能である。
【0038】
図5は強化繊維集合体の移載・積層工程の他の実施形態を示す概略斜視図である。図5において、30は静電吸着機能を有する第3の載置面であり、移載装置20に接続され一体化している。
【0039】
この場合の移載・積層工程においては、移載装置20は、第3の載置面30を第1の載置面15に載置された強化繊維集合体16上まで移動することができる。第3の載置面30は所定の位置で位置決めされ、第1の載置面上15に載置した後、第3の載置面30の静電吸着機能を作用させる。次いで第1の載置面15の静電吸着を解除して、第3の載置面30上に強化繊維集合体16を吸着する。次いで移載装置20により、第3の載置面30を第1の載置面15から離反させ、第2の載置面21上まで移動させる。第3の載置面30を所定の位置で位置決めした後、第2の載置面21上に強化繊維集合体16を載置して、第2の載置面21の静電吸着機能を作用させる。最後に第3の載置面30の静電吸着を解除して、第2の載置面21上に強化繊維集合体16を吸着させた後、第3の載置面30を離反させる。このとき、移載・積層工程を行っている間に載置工程により強化繊維集合体16を第1の載置面15上に予め準備しておくと、連続的に移載・積層工程を行うことができるので、強化繊維積層体を効率良く製造することができる。
【0040】
上記のように、全工程を通じて強化繊維テープ11および強化繊維集合体16を静電吸着させておくと、変形しやすい強化繊維テープの切断時や移載時に変形させることなく、寸法精度の高い強化繊維積層体を製造することができる。特に2層以上積層する場合においては、積層テーブルとなる第2の載置面21は静電吸着機能を有することが有効である。それは、最下層となる強化繊維集合体16上に次の強化繊維集合体を載置したり位置決め等をしたりする際に、最下層の強化繊維集合体16の滑りを防止することができるからである。
【0041】
また、強化繊維テープ11は、プリプレグテープと異なってタック性が無いため、一つの載置テーブル上で順次積層していくと、重ねる層が増えていくにつれ、載置面が安定せず正確に載置することができなくなり、位置ズレや角度ズレを生じさせてしまい、高精度の強化繊維積層体を製造することができなくなる恐れがある。しかし、本実施形態のように、一旦、第1の載置面上で強化繊維集合体16を形成し、別のテーブル等で積層していけば、強化繊維集合体16を構成する各々の強化繊維テープに対して位置や角度等の精度をチェックすることができるので、積層数が増えていくにしても強化繊維積層体の精度が落ちることがないため好ましい。
【0042】
図6(a)は、本実施形態で用いる静電吸着機能の一態様を表す断面図であり、同図(b)は静電吸着原理を示す断面図である。静電吸着機能は絶縁層である基板40、金属電極41、導線42で構成され、第1の載置面および第2、第3の載置面上に静電吸着板として貼付けられている。基板40は高抵抗(1016〜17Ω)を有する硬質プラスチック板で、その基板40上に金属電極41が作られ、体積抵抗率が108〜10Ω・cmの導電体からなる特殊プラスチックの保持層43で覆われている。また、金属電極41はプラス電極とマイナス電極とがあり、この間に直流電圧Vが印加される。また、図6(b)に示すように、静電吸着機能が保持力を生じさせる原理は、双極型で保持層43の内部に設けた2つ以上の金属電極41に電圧を印加させ、被吸着物である強化繊維テープと静電吸着板の表面に正・負の電荷を発生させ、この間に働くジョンソン・ラーベック力により強化繊維テープを吸着させるというものである。また、静電吸着機能の吸着を解除する際には、静電吸着板の主電源を切断し、変圧器2次側を接地および短絡する機能を持ち合わせることにより、蓄積した電荷を消滅させ、吸着を瞬時に解除することができるように構成されていると良い。
【0043】
また、上記の製造方法により製造された強化繊維積層体を用いて、所定形態のプリフォームが賦形される。プリフォームの形状としては、上記のような湾曲形状を利用した任意の形状を採り得るが、航空機の胴体構成材のような長尺で高強度、高剛性が求められる場合には、横断面形状としてフランジ部を備えたものに賦形されることが多い。
【0044】
例えば、図7に示すように、上記のような強化繊維積層体22を用いて、曲率半径Rで湾曲してその周方向50(長手方向)に延びるプリフォーム51が、周方向において円弧形部を有する立体形状の型に沿わせて賦形される。このようなプリフォームにおいては、上述した強化繊維積層体22が該積層体22の長手方向X−Xと直交する積層体幅方向の断面でみて、湾曲形状の周縁に沿って折れ曲げ成形されたフランジ部52a、52bを有する形状に賦形されている。賦形後はRTM成形方法や真空RTM成形方法により、プリフォーム51にマトリックス樹脂を含浸させて強化繊維プラスチック成形品とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、強化繊維テープに限らず、紙やフィルムを用いた積層体の製造にも応用することができ、さらにその応用範囲はこれらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0046】
10:供給リール
11:強化繊維テープ
12:ATL装置
13:アーム
14:揺動機構
15:第1の載置面
16:強化繊維集合体
20:移載装置
21:第2の載置面
22:強化繊維積層体
30:第3の載置面
40:基板
41:金属電極
42:導線
43:保持層
50:周方向
51:プリフォーム
52a、52b:フランジ部
X−X:長手方向
R:曲率半径
θ:強化繊維の方向と長手方向X−Xとがなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維の糸条が少なくとも長手方向に延在する強化繊維テープを複数枚積層させた強化繊維積層体の製造方法であって、前記強化繊維テープの少なくとも一部が強化繊維テープの長手方向に湾曲するように第1の載置面上に静電気力により吸着固定させながら前記強化繊維テープを載置することを特徴とする強化繊維積層体の製造方法。
【請求項2】
前記強化繊維テープの強化繊維が互いに平行になるように複数枚載置することにより長手方向に湾曲した強化繊維集合体を形成することを特徴とする請求項1に記載の強化繊維積層体の製造方法。
【請求項3】
前記強化繊維集合体を複数枚積層して長手方向に湾曲した強化繊維積層体を形成することを特徴とする請求項2に記載の強化繊維積層体の製造方法。
【請求項4】
ロール状に巻かれた強化繊維テープを解反させながら、該強化繊維テープを第1の載置面上に載置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
【請求項5】
第1の載置面上に載置された強化繊維集合体の上に第2の載置面を接触させ、第2の載置面の静電気力を作用させた後に、第1の載置面の静電気力を解除し、前記第2の載置面上に前記強化繊維集合体を静電気力により吸着固定し、しかる後に第1の載置面を第2の載置面から離反させ、前記強化繊維集合体を前記第2の載置面へ移載する移載工程を複数回繰り返すことで強化繊維集合体を積層して強化繊維積層体を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
【請求項6】
第1の載置面上に載置された強化繊維集合体の上に第3の載置面を接触させ、第3の載置面の静電気力を作用させた後に前記第1の載置面の静電気力を解除し、前記第3の載置面に強化繊維集合体を静電気力により吸着固定し、前記第3の載置面を第1の載置面から離反し、前記強化繊維集合体を吸着保持した状態で前記第3の載置面を第2の載置面まで移載し、前記第3の載置面と第2の載置面を接触させ、第2の載置面の静電気力を作用させた後に第3の載置面の吸着を解除し、前記第2の載置面上に前記強化繊維集合体を静電気力により吸着固定し、前記第3の載置面を第2の載置面から離反させる工程を複数回繰り返すことで、前記強化繊維集合体を積層して強化繊維積層体を形成することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
【請求項7】
第1の載置面上に載置された強化繊維テープの形状を加熱固定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
【請求項8】
第2の載置面上に載置された強化繊維集合体の形状を加熱固定することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
【請求項9】
強化繊維テープに用いる強化繊維が導電性を有する炭素繊維を少なくとも含んでなることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の強化繊維積層体の製造方法。
【請求項10】
ロール状に巻かれた強化繊維テープを解反させつつ第1の載置面上に供給する基材供給手段と、基材供給手段を第1の載置面上で移動する移動手段と、第1の載置面が前記強化繊維テープを静電気力により静電吸着させる吸着手段とを備えることを特徴とする強化繊維積層体の製造装置。
【請求項11】
前記第1の載置面に載置された強化繊維集合体を第2の載置面へ移載・載置する移載手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の強化繊維積層体の製造装置。
【請求項12】
強化繊維集合体を載置する第2の載置面の吸着手段として、静電気力により前記強化繊維集合体を吸着保持する静電吸着機能を備えることを特徴とする請求項11に記載の強化繊維積層体の製造装置。
【請求項13】
前記第1の載置面に載置された前記強化繊維集合体を第3の載置面上に吸着させる吸着手段と、前記第3の載置面を第2の載置面上まで移載する移載手段と、前記強化繊維集合体を第2の載置面に吸着する吸着手段とを備えることを特徴とする請求項10に記載の強化繊維積層体の製造装置。
【請求項14】
強化繊維集合体を載置する第2の載置面や第3の載置面の吸着手段として、静電気力により前記強化繊維集合体を吸着保持する静電吸着機能を備えることを特徴とする請求項13に記載の強化繊維積層体の製造装置。
【請求項15】
第1の載置面上に載置された強化繊維テープの形状を加熱固定する加熱手段を有することを特徴とする請求項10に記載の強化繊維積層体の製造装置。
【請求項16】
第2の載置面上に載置された強化繊維集合体の形状を加熱固定する加熱手段を有することを特徴とする請求項12に記載の強化繊維積層体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−143610(P2011−143610A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−5790(P2010−5790)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】