弾性表面波素子及びその製造方法
【課題】挿入損失劣化を低減し、肩特性を向上できる優れた弾性表面波素子を提供する。
【解決手段】圧電基板10上に一対の平行バスバー電極31a,31bと複数の電極指32a,32bとからなるIDT電極3が形成され、IDT電極3の表面が保護膜6で被覆されており、保護膜6は、前記バスバー電極31a,31b上のバスバー電極領域B上の厚み及び前記電極指32a,32bにおける電極指非交差領域R上の厚みが、前記電極指32a,32bにおける電極指交差領域S上の厚みより厚く形成されている。
【解決手段】圧電基板10上に一対の平行バスバー電極31a,31bと複数の電極指32a,32bとからなるIDT電極3が形成され、IDT電極3の表面が保護膜6で被覆されており、保護膜6は、前記バスバー電極31a,31b上のバスバー電極領域B上の厚み及び前記電極指32a,32bにおける電極指非交差領域R上の厚みが、前記電極指32a,32bにおける電極指交差領域S上の厚みより厚く形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話機等の通信装置に用いられる弾性表面波素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波素子(Surface Acoustic Wave Device)が各種通信装置に使用されるようになっているが、通信装置の高周波数化、高機能化の進展にともない、圧電基板材料に起因する固有損が増大するため、弾性表面波素子を低損失化する要求が益々増大してきている。
また、IDT(Inter Digital Transducer)電極の電極指ピッチは、高周波になるほど小さくなり、IDT電極の膜厚は薄くなる。例えば、1.9GHz帯弾性表面波素子のIDT電極膜厚は、900MHz弾性表面波素子の約半分の膜厚で設計されることとなり、フィルタ間を接続する引き出し電極等の伝送線路におけるオーミック損失が高周波になるほど大きくなる。そのため、さらに挿入損失が劣化する傾向がある。
【0003】
このような挿入損失の劣化を回避するために、種々の提案がされている。例えば、圧電基板上に3つのIDT電極を設け、励振する弾性表面波の共振周波数の異なる縦1次モードと縦3次モードとの2つの共振モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタについて、次のような挿入損失を改善する手段が提案されている。
図14(a)に従来の共振器型弾性表面波素子の電極構造の平面図を示す。圧電基板上に複数の電極指を有するIDT電極204が配設されている。IDT電極204は、互いに対向させ噛み合わせた一対の櫛歯状電極からなり、この一対の櫛歯状電極に電界を印加し弾性表面波を生じさせるものである。IDT電極204に接続された入力端子215から電気信号を入力することにより、励振された弾性表面波がIDT電極204の両側に配置されたIDT電極203,205に伝搬される。また、IDT電極203,205のそれぞれから、段間接続用電極を通して、IDT電極206,209に電気信号が伝えられ、それぞれ弾性表面波が励振される。弾性表面波はIDT電極207,208に伝搬され、IDT電極207,208を通じて出力端子216,217へ電気信号が出力される。
【0004】
このように、同様の特性をもつ弾性表面波素子を2段縦続接続の構成とすることで、1段目と2段目の定在波の相互干渉を減らすことができる。また、1段目で減衰された信号が2段目でさらに減衰され,帯域外減衰量を約2倍に向上させることができる。
なお、図中210,211,212,213はそれぞれ反射器電極であり、これらの反射器電極210,211,212,213により弾性表面波が反射され、両端の反射器電極間で定在波となる。この定在波のモードには、3つのIDT電極により1次モードとその高次(3次)モードが含まれる。これらのモードで発生する共振により通過特性が得られるため、これらのモードで発生する共振周波数のピーク位置を制御することにより通過帯域内の挿入損失を改善することができる。
【0005】
従来、図14(b)に示すように、隣り合うIDT電極207,208の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、挿入損失の改善が図られていた(例えば、特許文献1,2を参照。)。
また、図15に他の従来の弾性表面波素子の電極構造の平面図を示す。低損失化を実現する他の手段として、IDT電極におけるバスバー電極(電極指の片側につながる幅の広い電極をいう。電極指はこのバスバー電極の側面から直角方向に伸びている)303の少なくとも一部315の厚みが、電極指304の厚みよりも厚くされている。この構造により、バスバー電極303からその外側への方向Pに向かって伝搬する弾性表面波の音速が、電極指を伝搬する弾性表面波の音速に比べて遅くなり、弾性表面波のエネルギーがIDT電極内に閉じ込められやすくなり、低損失化を実現できるとされている(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【特許文献2】特表2002−528987号公報
【特許文献3】特開2002−100952号公報
【非特許文献1】Masanori Ueda, "High Performance SAW Antenna Duplexer using Ultra-Low-Loss Ladder Filter and DMS for 1.9GHz US PCS", in:Second International Symposium on Acoustic Wave Devices for Future Mobile Communication Systems 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1,2に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極間における弾性表面波がバルク波(圧電基板の表面から内部へ進む弾性波をいう)へモード変換されることによる挿入損失の劣化を抑制することは可能であるが、IDT電極、隣接するIDT電極間及び隣接するIDT電極−反射器電極間領域(図5にWで示す)における弾性表面波の伝搬方向にほぼ垂直な方向(図15に示した方向P)における弾性表面波のエネルギーの閉じ込めが不完全である。
【0007】
すなわち、弾性表面波の伝搬方向においては、反射器電極により、弾性表面波を反射させてエネルギーを閉じ込めることができる。しかし、弾性表面波の伝搬方向だけでなく、弾性表面波の伝搬漏れの光学的観察によって、伝搬方向に対してほぼ垂直な方向Pにおける漏れが発生する。さらに、シミュレーションの結果、IDT電極のバスバー電極上の音速Vbに対してIDT電極の電極指上の音速Vgが遅い場合又は等しい場合、弾性表面波の伝搬方向に対してほぼ垂直な方向の漏れが発生すると報告されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0008】
このため、弾性表面波の伝搬方向にほぼ垂直な方向においても弾性表面波のエネルギーを十分に閉じ込める必要がある。
要するに、特許文献1,2に開示されている弾性表面波装置のように隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、挿入損失を改善しただけでは不充分であり、さらに弾性表面波の伝搬方向に対して垂直方向の漏れに起因する挿入損失の劣化を抑制する必要がある。
【0009】
また、特許文献3に開示されているような弾性表面波装置では、IDT電極の一方のバスバー電極に形成された電極指304の先端と相対する他方のバスバー電極303までの領域(「電極指非交差領域R」という。図15にRで示す)は、電極が形成されておらず、弾性表面波の励振に寄与しない領域である。そのため、この電極指非交差領域Rでの音速は電極指交差部Sと比較して早くなる。この電極指非交差領域Rの音速が、弾性表面波の励振に寄与する電極交差部領域Sの音速に比べて早いことにより、弾性表面波の伝搬方向に対してほぼ垂直方向Pの漏れを抑制することが充分にできない。
【0010】
本発明は上述した従来の諸問題に鑑み提案されたものであって、その目的は挿入損失の劣化を生じず、優れたフィルタ特性を有する、高品質な弾性表面波素子及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の弾性表面波素子は、圧電基板と、該圧電基板上に形成された、一対の平行バスバー電極、及び該各バスバー電極から延びて交互に噛み合わされた複数の電極指を含むIDT電極と、該圧電基板上に形成された、前記IDT電極の表面を被覆する保護膜とを備える弾性表面波素子であり、前記電極指の先端とこれに対向するバスバー電極との間の電極指非交差領域Rにおける前記保護膜の厚み、及び前記バスバー電極上の前記保護膜の厚みが、前記一対のバスバー電極から延びた電極指同士が交差する電極指交差領域Sにおける前記保護膜の厚みよりも厚く設定されているものである(R,S等の符号は図面に示されている。以下同じ)。
【0012】
図2及び図3に、IDT電極の断面位置(断面方向は、弾性表面波(以下「表面波」ともいう)の伝搬方向に対して直角にとる)における表面波の音速分布の模式図を示す。
図3は、従来構造における保護膜の膜厚が、バスバー電極及び電極指で同じ場合(保護膜の膜厚が0の場合、つまり保護膜が形成されていない場合を含む)の音速分布を示す。
図2は、本発明のIDT電極においてバスバー電極上及び電極指非交差領域R上の保護膜の膜厚が、IDT電極の電極指交差領域S上の保護膜の膜厚より厚い場合の、表面波の音速分布を模式的に表した図である。
【0013】
図3の場合、表面波の励振に寄与する電極指交差領域Sと比較して、バスバー電極上における音速が等しいか又は速くなっている。そのため、弾性表面波の伝搬方向に対して垂直な方向のエネルギーを充分に閉じ込めることができない。さらに、IDT電極の電極指非交差領域Rにおける表面波の音速が、電極指交差領域Sに比較して、速くなっているため、弾性表面波のエネルギーの漏れを抑制することが困難になっている。
【0014】
それに対して、図2の場合、IDT電極のバスバー電極上及び電極指非交差領域R上の保護膜の膜厚が、電極指交差領域S上の保護膜の膜厚より厚いため、表面波の音速が遅くなっている。この構造により、弾性表面波の励振に寄与しないIDT電極のバスバー電極及び電極指非交差領域Rにおける音速を、弾性表面波の励振に寄与する電極指交差領域Sの音速より遅くすることができ、弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることが可能となり、挿入損失を低減し、通過帯域におけるフィルタ特性の急峻性を向上させた弾性表面波素子を提供することができる。
【0015】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、図4に示すように、前記構成において、複数の前記IDT電極がそれらのバスバー電極を揃えて隣接して形成され、さらに絶縁体からなる前記保護膜が、隣接する前記IDT電極のIDT電極間領域Uにわたって前記圧電基板上を被覆しており、前記IDT電極間領域Uにおいて、前記保護膜の、前記バスバー電極の延長部Tにおける厚みが前記バスバー電極の延長部以外の部分における厚みより厚くなっている場合には、IDT電極のみならず、IDT電極間領域Uにおけるバスバー電極の延長部の弾性表面波の音速が、電極指の伝搬方向における延長部での弾性表面波の音速より遅くなる。したがって、IDT電極が隣接した箇所においても弾性表面波の伝搬方向に対して垂直方向のエネルギーの漏れを防止することができ、フィルタ特性における挿入損失を充分に低減した弾性表面波素子を提供することができる。
【0016】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、図5に示すように、前記構成において、前記圧電基板上に、一対の平行バスバー電極及び該各バスバー電極から対向する前記バスバー電極へ接続される複数の電極指を含む反射器電極が、そのバスバー電極を前記IDT電極の前記バスバー電極と揃えて前記IDT電極に隣接して形成されているとともに、前記保護膜が、隣接する前記IDT電極と前記反射器電極との間のIDT電極−反射器電極間領域W、並びに前記反射器電極の表面を被覆しており、前記IDT電極−反射器電極間領域Wのバスバー電極の延長部V並びに前記反射器電極の前記バスバー電極上における前記保護膜の厚みが、前記IDT電極−反射器電極間領域Wのバスバー電極の延長部以外の部分及び前記反射器電極の前記電極指の領域S′上における前記保護膜の厚みよりも厚くなっている場合には、次のような効果がある。すなわち、励振に寄与していないIDT電極−反射器電極間領域Wのバスバー電極延長部における音速を、電極指の領域S′の音速より遅くすることができるので、弾性表面波のエネルギーがビーム状に広がって伝搬する漏れが生じず、弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果を向上させることが可能となり、さらにフィルタ特性における挿入損失を充分に低減させた弾性表面波素子を提供することができる。
【0017】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、前記各構成において、前記保護膜の厚みの厚い部分と薄い部分との比が1.5倍〜20倍であることが望ましい。
また、本発明の弾性表面波素子によれば、前記各構成において、前記IDT電極の一方のバスバー電極に形成された電極指先端に相対する他方のバスバー電極に、ダミー電極を形成することが望ましい。
【0018】
図8に前記構造における表面波の音速の模式図を示す。弾性表面波の電極指非交差領域Rの保護膜の膜厚を厚くすること及びダミー電極を意図的に形成させることにより、IDT電極の電極指非交差領域Rおける音速を、電極指交差領域Sの音速よりさらに遅くすることができ、弾性表面波の励振に寄与していない箇所の音速を充分に遅くできるので、さらに弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果を向上させることが可能となり、フィルタ特性における挿入損失を格段に向上させた弾性表面波素子を提供することができる。
【0019】
また、本発明の弾性表面波素子の製造方法によれば、前記IDT電極上を保護膜で被覆し、前記保護膜の前記電極指交差領域S上の部位をエッチングして薄くすることにより、本発明の弾性表面波素子を製造することができる。この製造方法により、IDT電極の電極指にエッチングによる影響を与えることなく、電極指の膜厚を一定に保ちながら電極指交差領域S上の保護膜の膜厚を制御することができる。保護膜の膜厚を制御することにより、弾性表面波の非励振部における音速を、励振部の音速より遅くすることができ、フィルタ特性における挿入損失を向上させた弾性表面波素子を得ることができる。
【0020】
なお、弾性表面波素子に、バスバー電極同士を揃えて隣接した複数のIDT電極を形成する場合は、前記隣接するIDT電極間領域Uの圧電基板上を保護膜で被覆し、前記IDT電極間領域Uの前記電極指間の部位をエッチングして薄くしていくことにより、弾性表面波素子を製造することができる。この場合にも、IDT電極の電極指にエッチングによる影響を与えることなく、電極指の膜厚を一定に保ちながら電極指交差領域S上及びIDT電極間領域Uにおける保護膜の膜厚を制御することができる。それにより、弾性表面波の非励振部における音速を、励振部の音速より遅くすることができ、フィルタ特性における挿入損失を向上させた弾性表面波素子を得ることができる。
【0021】
また、さらに反射器電極を形成する場合には、前記反射器電極上並びに隣接する前記IDT電極及び前記反射器電極間の前記圧電基板上を保護膜で被覆し、前記反射器電極の前記電極指の領域上の部位並びに隣接する前記IDT電極及び前記反射器電極の前記電極指間の領域の部位をエッチングして薄くしていくことにより、弾性表面波素子を製造することができる。この場合も、前記と同様に、IDT電極の電極指にエッチングによる影響を与えることなく、一括して前述した領域の部位における保護膜の膜厚を効率的に制御することができる。それにより、弾性表面波の非励振部における音速を、励振部の音速より遅くすることができ、フィルタ特性における挿入損失を向上させた弾性表面波素子を得ることができる。
【0022】
本発明の通信装置は、受信回路及び/又は送信回路(受信回路及び送信回路の少なくとも一方)を含む通信装置であって、前記弾性表面波素子を、受信回路の回路部品及び/又は送信回路の回路部品に含むものである。この通信装置によれば、以上のような本発明の弾性表面波素子を通信装置に用いることにより、従来要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、共振器型弾性表面波素子を例にとり説明する。
なお、以下の図面において、各電極の大きさや電極間の距離、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に描いたものである。
図1(a)に、圧電基板10上に形成されている縦結合共振子型電極の平面構造を示す。また図1(b)に、図1(a)におけるA−A線断面構造を示す。
【0024】
弾性表面波素子は、板状の圧電基板10と、この圧電基板10の主面上に形成された、IDT電極3及び反射器電極1,5を有している。
なお、本明細書での「主面」とは、圧電基板10の表面のIDT電極3や反射器電極1,5が形成される面のことをいう。
圧電基板10は、LiTaO3単結晶、LiNbO3単結晶、LiB4O7単結晶等の圧電性を有する材料で形成されている。これらの圧電性の高い材料を選択することにより、圧電基板10の電気機械結合係数を大きくすることができ、かつ、群遅延時間温度係数を小さくすることができる。
【0025】
また、これらの圧電性を有する材料に、酸素欠陥を発生させたり、Fe等を固溶さたりして、圧電基板10に生じる焦電効果を著しく低減することができる。これにより、圧電基板10に生じる焦電効果による放電を低減することができ、IDT電極3や反射器電極1,5の電極指の放電破壊を防止でき、結果として、弾性表面波素子の信頼性を良好に保つことができる。
【0026】
図1(a)に示すように、圧電基板10上には、一対の平行バスバー電極31a,31b(総称するときは「バスバー電極31」という)と各バスバー電極31a,31bの内側面から直角方向に延びた複数の電極指32a,32b(総称するときは「電極指32」という)とからなるIDT電極3が形成されている。前記複数の電極指32は、互いにかみ合うように配置されている。電極指32の本数は、実際には、数本〜数100本に及んでいる。
【0027】
さらに、IDT電極3の弾性表面波伝搬方向外側には、IDT電極3に隣接して、一対の平行バスバー電極11a,11b(総称するときは「バスバー電極11」という)と、バスバー電極11a,11b間にわたって複数の電極指12が形成された反射器電極1が形成されている。
さらに、IDT電極3の他方の弾性表面波伝搬方向外側には、IDT電極3に隣接して、一対の平行バスバー電極51a,51b(総称するときは「バスバー電極51」という)と、バスバー電極51a,51b間にわたって複数の電極指52が形成された反射器電極5が形成されている。
【0028】
この反射器電極1の一対のバスバー電極11a,11bと、IDT電極3の一対のバスバー電極31a,31bと、反射器電極5の一対のバスバー電極51a,51bと、は、それぞれ同一方向に揃えるようにして形成されている。
これらの圧電基板10上のIDT電極3と、反射器電極1,5とにより、縦結合共振子型電極が形成される。
【0029】
前記一対のバスバー電極31a,31bから延びた電極指32a,32b同士が交差する領域を「電極指交差領域S」という。IDT電極3の一方のバスバー電極31a又は31bに形成された電極指32a,32bの先端から、その電極指32a,32bに相対する他方のバスバー電極31b又は31aまでの領域を「電極指非交差領域R」という。またバスバー電極31a,31bが形成されている領域を「バスバー電極領域B」という。
【0030】
圧電基板10のIDT電極3の上は、SiO2,SiNx,Si,Al2O3等の材料で形成された保護膜6で覆われている。この保護膜6により、導電性異物による通電防止や耐電力の向上を図ることができる。また、この保護膜6には、後に詳しく説明するように、弾性表面波の音速を制限する機能もある。
また、圧電基板10の主面上には、弾性表面波素子を取り囲むように、四角枠状の環状電極(図示せず)が形成されている。
【0031】
一方、この弾性表面波素子を実装するための実装用基板(図示せず)には、圧電基板10の入出力用端子に対向する位置に、所定の導体パッドが設けられ、圧電基板10の環状電極に対向する位置に、所定の環状導体(図示せず)が設けられている。
これらの弾性表面波素子が形成された弾性表面波素子を、実装用基板に対してフェースダウン実装する。すなわち、半田等の金属接合材料を用いて、実装用基板上の所定の環状導体に、圧電基板10の主面上の環状電極を接合し、圧電基板10の主面、実装用基板の実装面及び環状電極で囲まれた空間に、弾性表面波素子を閉じ込めるとともに、実装用基板側の所定の導体パッド(図示せず)に、入出力用端子を電気的に接続する。
【0032】
このようにして、弾性表面波素子を含む弾性表面波装置が作製される。この弾性表面波素子は、近年の通信装置の小型化に対応することができ、結果として、チップサイズの大きさを小さくすることができる。なお、本発明の弾性表面波装置の実装構造は、前述した環状電極等で囲まれた封止構造の態様に限定されるものではない。
以下、この弾性表面波素子の特徴的な構造を説明する。
【0033】
IDT電極3の電極指交差領域S、電極指非交差領域R及びバスバー電極領域Bは、保護膜6で被覆されている。この保護膜6は、図1(b)に示すように、バスバー電極領域B上の厚み及び電極指非交差領域R上の厚みが、電極指交差領域S上の厚みより厚くなっている。
このように厚みが変化した保護膜6の構造により、弾性表面波の励振に寄与しないIDT電極3のバスバー電極領域B及び電極指非交差領域Rにおける音速を、弾性表面波の励振に寄与する電極指交差領域Sの音速より遅くすることができる。
【0034】
図2は、弾性表面波の音速分布を示すグラフであり、縦軸は音速、横軸は圧電基板10の表面の前記A−A線に沿った断面上の位置を示す。バスバー電極領域B上及び電極指非交差領域R上で保護膜6の厚みを厚くしたことにより、電極指交差領域Sに比べて、弾性表面波の音速が低下していることが示されている。
一方、図3は従来の弾性表面波の音速分布を示すグラフであり、IDT電極上に保護膜が形成されていないケースを示している。この場合は、電極指交差領域S及びバスバー電極領域B上で音速は同じであり、電極指非交差領域R上で音速が上昇している。なお、IDT電極3上に保護膜6が等しい厚みで形成されている場合でも、図3と同じようなグラフが得られる。
【0035】
本発明のように保護膜6の厚みに段差を設定することにより、弾性表面波のエネルギーを電極指交差領域Sに閉じ込め、その漏れを抑制することが可能となり、特にフィルタ特性の挿入損失を低減し、通過帯域における肩特性を向上させることができる。
特に、前記保護膜6の厚みの厚い部分と薄い部分との比は、1.5倍〜20倍であることが望ましい。保護膜6の厚みの厚い部分の膜厚が、薄い部分の1.5倍より薄い場合、弾性表面波のエネルギーの閉じこめ効果が発現しない。また、保護膜6の厚みの厚い部分の膜厚が、薄い部分の20倍より厚い場合、保護膜6の成膜工程において、成膜に長時間を要することとなり、実用的な工程とならない。
【0036】
図4に本発明の弾性表面波素子の他の構造の平面図を示す。
この図では、圧電基板10上には、3つのIDT電極2,3,4が、その弾性表面波の伝搬方向が同一方向になるように、一方のバスバー電極21a,31a,41aを揃え、かつ他方のバスバー電極21b,31b,41bを揃えて配置されている。さらに、両端のIDT電極2,4の外側には、反射器電極1,5が配置されている。
【0037】
中央のIDT電極3は、その一方のバスバー電極31aが入力用端子INに接続されている。両端のIDT電極2,4は、それらの他方のバスバー電極21b,41bから出る出力は、1つにまとめられて出力用端子OUTに接続されている。
それぞれのIDT電極2,3,4において、前述したのと同様、IDT電極2,3,4の一方のバスバー電極21a,31a,41aに形成された電極指22a,32a,42aの先端から相対する他方のバスバー電極21b,31b,41bまでの領域及び他方のバスバー電極21b,31b,41bに形成された電極指22b,32b,42bの先端から相対する一方のバスバー電極21a,31a,41aまでの領域を「電極指非交差領域R」という。前記一対のバスバー電極21,31,41から延びた電極指22,32,42同士が交差する領域を「電極指交差領域S」という。また、バスバー電極21,31,41が形成されている領域を「バスバー電極領域B」という。
【0038】
また、隣接するIDT電極間の領域を、「IDT電極間領域U」といい、IDT電極間領域Uのうち、バスバー電極領域Bの延長上にある領域を「IDT電極間バスバー電極延長領域T」という。
この図4の縦結合共振子型電極においては、図1の構造と同様、IDT電極2,3,4の電極指交差領域S、電極指非交差領域R及びバスバー電極領域Bが、すべてSiO2,SiNx,Si,Al2O3等の材料で形成された保護膜6で被覆されている。さらに、隣接するIDT電極間のIDT電極間領域Uにおいても保護膜6が形成されている。
【0039】
そして、図1の構造と同様、IDT電極2,3,4における、バスバー電極領域B上の保護膜6の厚み及び電極指非交差領域R上の保護膜6の厚みが、電極指交差領域S上の保護膜6の厚みより厚くなっている。
さらに、この図4の構造においては、IDT電極間領域Uのうち、IDT電極間バスバー電極延長領域Tにおいて、保護膜6は、その厚みが残りのIDT電極間領域Uの厚みより厚い構造になっている。
【0040】
これにより、IDT電極間領域Uにおいて、IDT電極間バスバー電極延長領域Tにおける弾性表面波の音速が、IDT電極間バスバー電極延長領域T以外のIDT電極間領域Uの弾性表面波の音速より遅くなり、IDT電極2,3間及びIDT電極3,4間の隣接した箇所においても弾性表面波の伝搬方向から垂直方向へのエネルギーの漏れを防止することができる。よって、弾性表面波の漏れを抑制することが可能となり、特にフィルタ特性の挿入損失を充分に低減した弾性表面波素子を提供することができる。
【0041】
図5は、本発明の弾性表面波素子のさらに他の一例を示す平面図である。
この図において、IDT電極2,3,4と反射器電極1,5の配置は図4と同じになっている。
反射器電極1,5のバスバー電極11a,11b間及びバスバー電極51a,51b間にわたって形成された電極指12,52の領域を「電極指の領域S´」という。
【0042】
反射器電極1,5のバスバー電極11a,11b,51a,51bが形成されている領域を「バスバー電極領域B」という。
また、反射器電極1,5とこれに隣接するIDT電極2,4との間の領域を「IDT電極−反射器電極間領域W」といい、IDT電極−反射器電極間領域Wのうち、バスバー電極11a,11b,51a,51bの延長上にある領域を「IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域V」という。
【0043】
保護膜6は、IDT電極2,3,4にわたって形成されているのみならず、反射器電極1,5を被覆し、さらにIDT電極−反射器電極間領域Wの表面を被覆している。
そしてIDT電極2,3,4においては、図4と同様に、保護膜6のバスバー電極領域B上の厚み及び電極指非交差領域R上の厚みが、電極指交差領域S上の厚みより厚くなっており、IDT電極間領域Uのうち、IDT電極間バスバー電極延長領域Tにおいて、保護膜6の厚みは、残りのIDT電極間領域Uの厚みより厚い構造になっている。
【0044】
さらに、この図5の構成では、反射器電極1,5におけるバスバー電極領域B上の厚みが、電極指の領域S′の厚みより厚い構造になっており、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vにおける保護膜6の厚みが、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vを除いたIDT電極−反射器電極間領域W上の厚みより厚い構造になっている。
【0045】
この構造により、励振に寄与していない反射器電極1,5のバスバー電極領域B上の音速を、反射器電極1,5の電極指の領域S′の弾性表面波の音速より遅くすることができ、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域V上の音速を、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vを除いたIDT電極−反射器電極間領域W上の音速よりも遅くすることができる。
【0046】
従って、弾性表面波のエネルギーがビーム状に広がって伝搬する漏れが生じず、弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果を向上させることが可能となり、さらにフィルタ特性における挿入損失を充分に低減させ、通過帯域における肩特性を向上させた弾性表面波素子を提供することができる。
さらに、図6に本発明の弾性表面波素子の変形例の平面図を示す。
【0047】
この構成では、前記図5の構成に加えて、入力側のIDT電極3と、このIDT電極3に近接した1対のIDT電極2,4との間に、伝搬方向に対して直交する方向に長い4本以上の電極指を伝搬方向に沿って並べて構成した反射器電極12,13をそれぞれ配設している。
そして、この反射器電極12,13のバスバー電極上の保護膜6の厚み及びバスバー電極の延長上の、隣り合うIDT電極との間の領域における保護膜6の厚みが、電極指の領域S′上の厚みより厚い構造になっている。これにより、図1、図4、図5の構造と同様に、弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果を向上させることが可能となり、フィルタ特性における挿入損失を向上させることができる。
【0048】
さらに、この反射器電極12の隣り合う電極指の中心間距離は、反射器電極12の両端部に位置する電極指から中央部に位置する電極指に向かって漸次短くなっている。反射器電極13についても同様である。
したがって、弾性表面波のバルク波への放射損を防ぐことが可能となるとともに、1次と3次モードとそれらの高調波モード間の周波数をさらに微調整することが可能となり、広帯域かつ低損失である良好な電気特性を持つ弾性表面波装置を実現できる。
【0049】
次に、本発明の弾性表面波素子のさらに他の実施形態の平面図を図7(a)に、また、図7(a)のA−A線における断面図を図7(b)に示す。
この構成と前記図5の構成と異なるところを説明すると、中央のIDT電極3の一方のバスバー電極31aから延びる電極指32aの先端と相対する位置に、他方のバスバー電極31bより電極33bを突出させるとともに、中央のIDT電極3の他方のバスバー電極31bから延びる電極指32bの先端と相対する位置に、一方のバスバー電極31aより電極33aを突出させていることである。この突出した電極33a,33bを「ダミー電極33a,33b」という。ダミー電極33a,33bとこれに相対する電極指32b,32aとは、接近しているが接触することはない。このダミー電極33a,33bも、電極指非交差領域Rに含まれている。
【0050】
また、中央のIDT電極3の外側に配置されるIDT電極2,4においても、IDT電極3と同様に、ダミー電極が形成されている。
保護膜6は、IDT電極2,3,4のバスバー電極領域B上、及び電極指非交差領域R上において、電極指交差領域S上の厚みより厚くなっている。
また、IDT電極間バスバー電極延長領域Tにおいても、保護膜6は、IDT電極間バスバー電極延長領域Tを除いたIDT電極間領域Uの厚みより厚い構造になっている。
【0051】
また、この反射器電極1,5において、バスバー電極11,51上の保護膜6の厚み及びIDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vにおける保護膜6の厚みは、電極指の領域S′上の厚み、及びIDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vを除いたIDT電極−反射器電極間領域W上の厚みより厚い構造になっている。
この構造により、ダミー電極33a,33bを意図的に形成し、電極指非交差領域Rの保護膜6の膜厚を厚くすることにより、IDT電極2,3,4の電極指非交差領域Rにおける音速を、電極指交差領域Sの音速より遅くすることができる。
【0052】
図8は、弾性表面波の音速分布を示すグラフであり、縦軸は音速、横軸は圧電基板10の表面の前記A−A線に沿った断面上の位置を示す。バスバー電極領域B上及び電極指非交差領域R上で保護膜6の厚みを厚くしたことにより、電極指交差領域Sに比べて、弾性表面波の音速が低下していることが示されている。
したがって、弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果をさらに向上させることが可能となり、フィルタ特性における挿入損失を格段に向上させた弾性表面波素子を提供することができる。
【0053】
また、図9に本発明の弾性表面波素子の実施の形態の変形例を示す。
この図9の構成と図7の構成とが異なっているところは、隣接するIDT電極2,3のIDT電極間バスバー電極延長領域Tを電極指非交差領域Rの延長部にまで広げ、隣接するIDT電極3,4のIDT電極間バスバー電極延長領域Tを電極指非交差領域Rの延長部にまで広げていることである。以下、これらの拡大されたIDT電極間バスバー電極延長領域Tを、「IDT電極間バスバー電極延長領域T′」という。
【0054】
また、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vも、前記と同様に、電極指非交差領域Rの延長部にまで広げられており、この拡大されたIDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vを「IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域V′」という。
この図9の構造においては、保護膜6の膜厚が厚くなっている領域が、図7の構造と比べて、IDT電極間バスバー電極延長領域T′、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域V′にまで広がっている。
【0055】
さらに、反射器電極1,5においても、保護膜6の膜厚が厚くなっている領域が電極指非交差領域Rの延長部にまで広がっている。
これにより、保護膜6が成膜されている部分が広がっているので、電極指交差領域Sにおける弾性表面波の音速はさらに遅くなり、より効果的に弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることができ、フィルタ特性における挿入損失を大幅に向上させることができる。
【0056】
次に、図10(a)〜(d)に本発明の弾性表面波素子の製造方法を工程毎の断面図で示す。
以下、図1のIDT電極3の製造工程を説明するが、IDT電極3以外のIDT電極や反射器電極もIDT電極3と同時に形成され、それらの製造工程は、IDT電極3とまったく同じである。
【0057】
図10(a)〜(d)の断面図は、弾性表面波の伝搬方向に平行な図1のB−B線に沿ってとったものである。
まず、図10(a)に示すように、圧電基板10上にIDT電極3を構成する導体層30を形成する。ここで、圧電基板10としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。また、圧電基板10上の導体層30にはアルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、又はこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料との積層膜を用いることができる。導体層30の成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0058】
次に、この導体層30を一対の平行バスバー電極31a,31bと各バスバー電極31a,31bから互いにかみ合うように延びた複数の電極指32a,32bとにパターニングしてIDT電極3を形成する。
図10(b)では、パターンニングされる電極指32の部分を描いている。
この導体層30をパターニングする方法としては、導体層30の成膜後にフォトリソグラフィを行い、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行う方法がある。又は、導体層30の成膜前に圧電基板10の一方主面にレジストを形成しフォトリソグラフィを行って所望のパターンを開口した後、導体層30を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された導体層30ごと除去するリフトオフプロセスを行ってもよい。
【0059】
次に、図10(c)に示すように、IDT電極3上を保護膜6で被覆する。保護膜6の材料としてはシリコン,シリカ等を用いることができる。成膜方法としては、スパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,電子ビーム蒸着法等を用いることができる。
次に、図10(d)に示すように、保護膜6の電極指32a,32bにおける電極指交差領域S上の部位をエッチングして薄くする。保護膜6をエッチングする方法としては、RIE等のドライエッチングやウェットエッチングを行う方法がある。この製造方法に用いることにより、IDT電極3の電極指32にエッチングによる影響を与えることなく、電極指32の膜厚を一定に保ちながら電極指交差領域S上の保護膜6の膜厚を制御することができる。
【0060】
また、図11(a)〜(d)に本発明の弾性表面波素子の他の製造方法を工程毎の断面図で示す。
この図11では、図5のIDT電極4及び反射器電極5の製造工程を説明するが、IDT電極4や反射器電極5以外のIDT電極や反射器電極もIDT電極4や反射器電極5と同時に形成され、それらの製造工程は、IDT電極4や反射器電極5とまったく同じである。
【0061】
図11(a)〜(d)断面は、弾性表面波の伝搬方向に平行な図5のB−B線に沿ってとっている。
まず、図11(a)に示すように、圧電基板10上に導体層30を形成する。
次に、この導体層30を一対の平行バスバー電極41a,41bと各バスバー電極41a,41bから互いにかみ合うように延びた複数の電極指42a,42bとにパターニングしてIDT電極4を形成するとともに、導体層30を一対の平行バスバー電極51a,51bと各バスバー電極51a,51bから互いにかみ合うように延びた複数の電極指52とにパターニングして、そのバスバー電極51a,51bを前記IDT電極4の前記バスバー電極41a,41bと揃えるようにして前記IDT電極4に隣接した反射器電極5を形成する。
【0062】
図11(b)は、パターンニングされる電極指42,52の断面を描いている。IDT電極4と反射器電極5との間は、IDT電極−反射器電極間領域Wとなる。次に図11(c)に示すように、IDT電極4及び反射器電極5上並びにIDT電極−反射器電極間領域W上を保護膜6で被覆する。
図11(d)に示すように、保護膜6のIDT電極4の電極指42における電極指交差領域S上の部位、反射器電極5の電極指52の電極指の領域S′上の部位、並びに隣接するIDT電極4及び反射器電極5のIDT電極−反射器電極間領域Wの部位(反射器電極5のバスバー電極領域Bを除く)をエッチングして薄くする。これにより、図10と同様に、IDT電極4の電極指42に、エッチングによる影響を与えることなく、一括して前述した領域の部位における保護膜6の膜厚を効率よく制御することができる。
【0063】
以上に説明した弾性表面波素子の製造方法では、電極指交差領域Sにおいて、導体層30を削ることにより、その厚みを調整していた。しかし、電極指非交差領域Rやバスバー電極領域Bにおいて導体層30をさらに積層していくことにより、その厚みを厚くするように制御することも可能である。導体層30の一部の厚みを厚くする方法として、Al又はAlより密度が大きい金属を電極指非交差領域Rやバスバー電極領域Bに成膜して積層していくとよい。
【0064】
本発明の弾性表面波素子は、通信装置に適用することができる。
すなわち、受信回路又は送信回路の一方又は両方を備える通信装置において、本発明の弾性表面波素子を、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いることができる。
前記送信回路は、例えば、送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信する回路である。前記受信回路は、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す回路である。
【0065】
本発明の弾性表面波素子を採用すれば、感度が向上した優れた通信装置を提供できる。
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば、今まで説明した例では、IDT電極や反射器電極の電極指交差領域S上に保護膜6が形成されていたが、電極指交差領域S上に保護膜6が形成されていない構造を採用してもかまわない。その他、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0066】
次に、本発明をより具体化した実施例について説明する。
<作製>
図5及び図7に示す弾性表面波素子を具体的に作製した。
図5に示す電極指のパターンを有するものを実施例1とし、図7に示すダミー電極を用いたものを実施例2とする。
【0067】
実施例1,2ともに、38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO3単結晶の圧電基板10上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)によるIDT電極2,3,4、反射器電極1,5の微細電極パターンを形成した。
パターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを行った。
【0068】
まず、圧電基板10をアセトン・IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板10の乾燥を行った後、電極の成膜を行った。電極の成膜にはスパッタリング装置を使用し、Al(99質量%)−Cu(1質量%)合金から成る材料を用いた。このときの電極膜厚は約0.15μmとした。
【0069】
次に、フォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出した後、RIE装置により電極膜のエッチングを行い、パターニングを終了し、縦結合共振子型電極の電極パターンを得た。
この後、IDT電極2,3,4及び反射器電極1,5の所定領域上に保護膜6を作製した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、電極パターン及び圧電基板10上にSiO2を約1.0μmの厚みに形成した。
【0070】
その後、フォトリソグラフィによってフォトレジストのパターニングを行い、RIE装置で保護膜の電極指交差領域S上の部位並びにIDT電極間領域UとIDT電極−反射器電極間領域Wの電極指間の領域の部位をエッチングして保護膜6の膜厚を薄くした。エッチング後の膜厚は、0.01μmとした。また、同時にフリップチップ実装における電極パッド部分の保護膜6の窓開けも行った。
【0071】
その後、スパッタリング装置を使用し、Alを主体とする電極を成膜した。このときの電極膜厚は約1.0μmとした。その後、フォトレジスト及び不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、フリップチップ用バンプを形成するパッドを完成した。
次に、前記パッドにAuからなるフリップチップ用バンプを、バンプボンディング装置を使用し形成した。バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0072】
次に、圧電基板10をダイシング線に沿ってダイシング加工を施し、チップごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極形成面を下面にして実装用基板に接着した。その後、N2雰囲気中でベーキングを行い、弾性表面波素子を完成した。パッケージは2.5×2.0mm角のセラミック製の積層構造のものを用いた。
比較用サンプルとして、図5に示すIDT電極2,3,4及び反射器電極1,5の微細電極パターンを形成するとともに、被覆する保護膜6の膜厚を0.01μmと一定にした比較例も前記と同様な工程で作製を行った。
【0073】
<測定・評価>
次に、本実施例における弾性表面波素子の特性測定を行った。
弾性表面波素子に0dBmの信号を入力し、周波数1760MHz〜2160MHz、測定ポイントを800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個、測定機器はアジレント・テクノロジー社製マルチポート・ネットワークアナライザE5071Aである。
【0074】
通過帯域近傍の挿入損失の周波数特性グラフを図12、図13に示す。
実施例1のフィルタ特性は、図12の実線に示すように挿入損失は2.23dBであり、リップル(通過帯域内の減衰量の極大値と極小値との差)は0.20dBであり、非常に良好な特性を示した。一方、比較例のフィルタ特性は、図12の破線に示すように、挿入損失が2.35dBであり、リップルは0.30dBであった。
【0075】
また、図13に、実施例2と比較例を対比した通過帯域近傍の周波数特性グラフ示す。
実施例2の挿入損失は、図13の実線に示すように2.13dBであり、リップルは、0.30dBであった。実施例2の挿入損失は、実施例1の挿入損失と比べて減少しており、ダミー電極を付加することにより、さらに挿入損失を改善することができることが分かる。
このように本実施例では、フィルタ特性において挿入損失及びリップルを低減し、通過帯域の肩特性を向上させた弾性表面波素子を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す図であり、(a)は電極が形成された圧電基板の平面図、(b)はA−A線断面図である。
【図2】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例における弾性表面波の音速分布を模式的に示す線図である。
【図3】従来の弾性表面波素子の電極構造における弾性表面波の音速分布を模式的に示す線図である。
【図4】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す平面図である。
【図5】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す図であり、(a)は電極が形成された圧電基板の平面図、(b)はA−A線断面図である。
【図8】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例における弾性表面波の音速を模式的に示す線図である。
【図9】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す平面図である。
【図10】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の弾性表面波素子の製造方法の一例を示す工程毎の断面図である。
【図11】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の弾性表面波素子の製造方法の一例を示す工程毎の断面図である。
【図12】実施例1における弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図13】実施例2における弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図14】従来の弾性表面波素子の電極構造例を模式的に示す図であり、(a)は電極構造の平面図、(b)は電極位置と電極指ピッチとの関係を模式的に説明する線図である。
【図15】従来の弾性表面波素子の電極構造例を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0077】
1,5 反射器電極
2,3,4 IDT電極
6 保護膜
10 圧電基板
11a,11b,21a,21b,31a,31b,41a,41b,51a,51b バスバー電極
12,22a,22b,32a,32b,42a,42b,52 電極指
33a,33b ダミー電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話機等の通信装置に用いられる弾性表面波素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波素子(Surface Acoustic Wave Device)が各種通信装置に使用されるようになっているが、通信装置の高周波数化、高機能化の進展にともない、圧電基板材料に起因する固有損が増大するため、弾性表面波素子を低損失化する要求が益々増大してきている。
また、IDT(Inter Digital Transducer)電極の電極指ピッチは、高周波になるほど小さくなり、IDT電極の膜厚は薄くなる。例えば、1.9GHz帯弾性表面波素子のIDT電極膜厚は、900MHz弾性表面波素子の約半分の膜厚で設計されることとなり、フィルタ間を接続する引き出し電極等の伝送線路におけるオーミック損失が高周波になるほど大きくなる。そのため、さらに挿入損失が劣化する傾向がある。
【0003】
このような挿入損失の劣化を回避するために、種々の提案がされている。例えば、圧電基板上に3つのIDT電極を設け、励振する弾性表面波の共振周波数の異なる縦1次モードと縦3次モードとの2つの共振モードを利用した2重モード弾性表面波共振器フィルタについて、次のような挿入損失を改善する手段が提案されている。
図14(a)に従来の共振器型弾性表面波素子の電極構造の平面図を示す。圧電基板上に複数の電極指を有するIDT電極204が配設されている。IDT電極204は、互いに対向させ噛み合わせた一対の櫛歯状電極からなり、この一対の櫛歯状電極に電界を印加し弾性表面波を生じさせるものである。IDT電極204に接続された入力端子215から電気信号を入力することにより、励振された弾性表面波がIDT電極204の両側に配置されたIDT電極203,205に伝搬される。また、IDT電極203,205のそれぞれから、段間接続用電極を通して、IDT電極206,209に電気信号が伝えられ、それぞれ弾性表面波が励振される。弾性表面波はIDT電極207,208に伝搬され、IDT電極207,208を通じて出力端子216,217へ電気信号が出力される。
【0004】
このように、同様の特性をもつ弾性表面波素子を2段縦続接続の構成とすることで、1段目と2段目の定在波の相互干渉を減らすことができる。また、1段目で減衰された信号が2段目でさらに減衰され,帯域外減衰量を約2倍に向上させることができる。
なお、図中210,211,212,213はそれぞれ反射器電極であり、これらの反射器電極210,211,212,213により弾性表面波が反射され、両端の反射器電極間で定在波となる。この定在波のモードには、3つのIDT電極により1次モードとその高次(3次)モードが含まれる。これらのモードで発生する共振により通過特性が得られるため、これらのモードで発生する共振周波数のピーク位置を制御することにより通過帯域内の挿入損失を改善することができる。
【0005】
従来、図14(b)に示すように、隣り合うIDT電極207,208の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、IDT電極間におけるバルク波の放射損を低減して、挿入損失の改善が図られていた(例えば、特許文献1,2を参照。)。
また、図15に他の従来の弾性表面波素子の電極構造の平面図を示す。低損失化を実現する他の手段として、IDT電極におけるバスバー電極(電極指の片側につながる幅の広い電極をいう。電極指はこのバスバー電極の側面から直角方向に伸びている)303の少なくとも一部315の厚みが、電極指304の厚みよりも厚くされている。この構造により、バスバー電極303からその外側への方向Pに向かって伝搬する弾性表面波の音速が、電極指を伝搬する弾性表面波の音速に比べて遅くなり、弾性表面波のエネルギーがIDT電極内に閉じ込められやすくなり、低損失化を実現できるとされている(例えば、特許文献3を参照)。
【特許文献1】特開2002−9587号公報
【特許文献2】特表2002−528987号公報
【特許文献3】特開2002−100952号公報
【非特許文献1】Masanori Ueda, "High Performance SAW Antenna Duplexer using Ultra-Low-Loss Ladder Filter and DMS for 1.9GHz US PCS", in:Second International Symposium on Acoustic Wave Devices for Future Mobile Communication Systems 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1,2に開示されている弾性表面波装置では、IDT電極間における弾性表面波がバルク波(圧電基板の表面から内部へ進む弾性波をいう)へモード変換されることによる挿入損失の劣化を抑制することは可能であるが、IDT電極、隣接するIDT電極間及び隣接するIDT電極−反射器電極間領域(図5にWで示す)における弾性表面波の伝搬方向にほぼ垂直な方向(図15に示した方向P)における弾性表面波のエネルギーの閉じ込めが不完全である。
【0007】
すなわち、弾性表面波の伝搬方向においては、反射器電極により、弾性表面波を反射させてエネルギーを閉じ込めることができる。しかし、弾性表面波の伝搬方向だけでなく、弾性表面波の伝搬漏れの光学的観察によって、伝搬方向に対してほぼ垂直な方向Pにおける漏れが発生する。さらに、シミュレーションの結果、IDT電極のバスバー電極上の音速Vbに対してIDT電極の電極指上の音速Vgが遅い場合又は等しい場合、弾性表面波の伝搬方向に対してほぼ垂直な方向の漏れが発生すると報告されている(例えば、非特許文献1を参照。)。
【0008】
このため、弾性表面波の伝搬方向にほぼ垂直な方向においても弾性表面波のエネルギーを十分に閉じ込める必要がある。
要するに、特許文献1,2に開示されている弾性表面波装置のように隣り合うIDT電極の端部に電極指の狭ピッチ部を設けることにより、挿入損失を改善しただけでは不充分であり、さらに弾性表面波の伝搬方向に対して垂直方向の漏れに起因する挿入損失の劣化を抑制する必要がある。
【0009】
また、特許文献3に開示されているような弾性表面波装置では、IDT電極の一方のバスバー電極に形成された電極指304の先端と相対する他方のバスバー電極303までの領域(「電極指非交差領域R」という。図15にRで示す)は、電極が形成されておらず、弾性表面波の励振に寄与しない領域である。そのため、この電極指非交差領域Rでの音速は電極指交差部Sと比較して早くなる。この電極指非交差領域Rの音速が、弾性表面波の励振に寄与する電極交差部領域Sの音速に比べて早いことにより、弾性表面波の伝搬方向に対してほぼ垂直方向Pの漏れを抑制することが充分にできない。
【0010】
本発明は上述した従来の諸問題に鑑み提案されたものであって、その目的は挿入損失の劣化を生じず、優れたフィルタ特性を有する、高品質な弾性表面波素子及びそれを用いた通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の弾性表面波素子は、圧電基板と、該圧電基板上に形成された、一対の平行バスバー電極、及び該各バスバー電極から延びて交互に噛み合わされた複数の電極指を含むIDT電極と、該圧電基板上に形成された、前記IDT電極の表面を被覆する保護膜とを備える弾性表面波素子であり、前記電極指の先端とこれに対向するバスバー電極との間の電極指非交差領域Rにおける前記保護膜の厚み、及び前記バスバー電極上の前記保護膜の厚みが、前記一対のバスバー電極から延びた電極指同士が交差する電極指交差領域Sにおける前記保護膜の厚みよりも厚く設定されているものである(R,S等の符号は図面に示されている。以下同じ)。
【0012】
図2及び図3に、IDT電極の断面位置(断面方向は、弾性表面波(以下「表面波」ともいう)の伝搬方向に対して直角にとる)における表面波の音速分布の模式図を示す。
図3は、従来構造における保護膜の膜厚が、バスバー電極及び電極指で同じ場合(保護膜の膜厚が0の場合、つまり保護膜が形成されていない場合を含む)の音速分布を示す。
図2は、本発明のIDT電極においてバスバー電極上及び電極指非交差領域R上の保護膜の膜厚が、IDT電極の電極指交差領域S上の保護膜の膜厚より厚い場合の、表面波の音速分布を模式的に表した図である。
【0013】
図3の場合、表面波の励振に寄与する電極指交差領域Sと比較して、バスバー電極上における音速が等しいか又は速くなっている。そのため、弾性表面波の伝搬方向に対して垂直な方向のエネルギーを充分に閉じ込めることができない。さらに、IDT電極の電極指非交差領域Rにおける表面波の音速が、電極指交差領域Sに比較して、速くなっているため、弾性表面波のエネルギーの漏れを抑制することが困難になっている。
【0014】
それに対して、図2の場合、IDT電極のバスバー電極上及び電極指非交差領域R上の保護膜の膜厚が、電極指交差領域S上の保護膜の膜厚より厚いため、表面波の音速が遅くなっている。この構造により、弾性表面波の励振に寄与しないIDT電極のバスバー電極及び電極指非交差領域Rにおける音速を、弾性表面波の励振に寄与する電極指交差領域Sの音速より遅くすることができ、弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることが可能となり、挿入損失を低減し、通過帯域におけるフィルタ特性の急峻性を向上させた弾性表面波素子を提供することができる。
【0015】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、図4に示すように、前記構成において、複数の前記IDT電極がそれらのバスバー電極を揃えて隣接して形成され、さらに絶縁体からなる前記保護膜が、隣接する前記IDT電極のIDT電極間領域Uにわたって前記圧電基板上を被覆しており、前記IDT電極間領域Uにおいて、前記保護膜の、前記バスバー電極の延長部Tにおける厚みが前記バスバー電極の延長部以外の部分における厚みより厚くなっている場合には、IDT電極のみならず、IDT電極間領域Uにおけるバスバー電極の延長部の弾性表面波の音速が、電極指の伝搬方向における延長部での弾性表面波の音速より遅くなる。したがって、IDT電極が隣接した箇所においても弾性表面波の伝搬方向に対して垂直方向のエネルギーの漏れを防止することができ、フィルタ特性における挿入損失を充分に低減した弾性表面波素子を提供することができる。
【0016】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、図5に示すように、前記構成において、前記圧電基板上に、一対の平行バスバー電極及び該各バスバー電極から対向する前記バスバー電極へ接続される複数の電極指を含む反射器電極が、そのバスバー電極を前記IDT電極の前記バスバー電極と揃えて前記IDT電極に隣接して形成されているとともに、前記保護膜が、隣接する前記IDT電極と前記反射器電極との間のIDT電極−反射器電極間領域W、並びに前記反射器電極の表面を被覆しており、前記IDT電極−反射器電極間領域Wのバスバー電極の延長部V並びに前記反射器電極の前記バスバー電極上における前記保護膜の厚みが、前記IDT電極−反射器電極間領域Wのバスバー電極の延長部以外の部分及び前記反射器電極の前記電極指の領域S′上における前記保護膜の厚みよりも厚くなっている場合には、次のような効果がある。すなわち、励振に寄与していないIDT電極−反射器電極間領域Wのバスバー電極延長部における音速を、電極指の領域S′の音速より遅くすることができるので、弾性表面波のエネルギーがビーム状に広がって伝搬する漏れが生じず、弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果を向上させることが可能となり、さらにフィルタ特性における挿入損失を充分に低減させた弾性表面波素子を提供することができる。
【0017】
また、本発明の弾性表面波素子によれば、前記各構成において、前記保護膜の厚みの厚い部分と薄い部分との比が1.5倍〜20倍であることが望ましい。
また、本発明の弾性表面波素子によれば、前記各構成において、前記IDT電極の一方のバスバー電極に形成された電極指先端に相対する他方のバスバー電極に、ダミー電極を形成することが望ましい。
【0018】
図8に前記構造における表面波の音速の模式図を示す。弾性表面波の電極指非交差領域Rの保護膜の膜厚を厚くすること及びダミー電極を意図的に形成させることにより、IDT電極の電極指非交差領域Rおける音速を、電極指交差領域Sの音速よりさらに遅くすることができ、弾性表面波の励振に寄与していない箇所の音速を充分に遅くできるので、さらに弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果を向上させることが可能となり、フィルタ特性における挿入損失を格段に向上させた弾性表面波素子を提供することができる。
【0019】
また、本発明の弾性表面波素子の製造方法によれば、前記IDT電極上を保護膜で被覆し、前記保護膜の前記電極指交差領域S上の部位をエッチングして薄くすることにより、本発明の弾性表面波素子を製造することができる。この製造方法により、IDT電極の電極指にエッチングによる影響を与えることなく、電極指の膜厚を一定に保ちながら電極指交差領域S上の保護膜の膜厚を制御することができる。保護膜の膜厚を制御することにより、弾性表面波の非励振部における音速を、励振部の音速より遅くすることができ、フィルタ特性における挿入損失を向上させた弾性表面波素子を得ることができる。
【0020】
なお、弾性表面波素子に、バスバー電極同士を揃えて隣接した複数のIDT電極を形成する場合は、前記隣接するIDT電極間領域Uの圧電基板上を保護膜で被覆し、前記IDT電極間領域Uの前記電極指間の部位をエッチングして薄くしていくことにより、弾性表面波素子を製造することができる。この場合にも、IDT電極の電極指にエッチングによる影響を与えることなく、電極指の膜厚を一定に保ちながら電極指交差領域S上及びIDT電極間領域Uにおける保護膜の膜厚を制御することができる。それにより、弾性表面波の非励振部における音速を、励振部の音速より遅くすることができ、フィルタ特性における挿入損失を向上させた弾性表面波素子を得ることができる。
【0021】
また、さらに反射器電極を形成する場合には、前記反射器電極上並びに隣接する前記IDT電極及び前記反射器電極間の前記圧電基板上を保護膜で被覆し、前記反射器電極の前記電極指の領域上の部位並びに隣接する前記IDT電極及び前記反射器電極の前記電極指間の領域の部位をエッチングして薄くしていくことにより、弾性表面波素子を製造することができる。この場合も、前記と同様に、IDT電極の電極指にエッチングによる影響を与えることなく、一括して前述した領域の部位における保護膜の膜厚を効率的に制御することができる。それにより、弾性表面波の非励振部における音速を、励振部の音速より遅くすることができ、フィルタ特性における挿入損失を向上させた弾性表面波素子を得ることができる。
【0022】
本発明の通信装置は、受信回路及び/又は送信回路(受信回路及び送信回路の少なくとも一方)を含む通信装置であって、前記弾性表面波素子を、受信回路の回路部品及び/又は送信回路の回路部品に含むものである。この通信装置によれば、以上のような本発明の弾性表面波素子を通信装置に用いることにより、従来要求されていた厳しい挿入損失を満たすことができるものが得られ、感度が格段に良好な通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、共振器型弾性表面波素子を例にとり説明する。
なお、以下の図面において、各電極の大きさや電極間の距離、電極指の本数や間隔等については、説明のために模式的に描いたものである。
図1(a)に、圧電基板10上に形成されている縦結合共振子型電極の平面構造を示す。また図1(b)に、図1(a)におけるA−A線断面構造を示す。
【0024】
弾性表面波素子は、板状の圧電基板10と、この圧電基板10の主面上に形成された、IDT電極3及び反射器電極1,5を有している。
なお、本明細書での「主面」とは、圧電基板10の表面のIDT電極3や反射器電極1,5が形成される面のことをいう。
圧電基板10は、LiTaO3単結晶、LiNbO3単結晶、LiB4O7単結晶等の圧電性を有する材料で形成されている。これらの圧電性の高い材料を選択することにより、圧電基板10の電気機械結合係数を大きくすることができ、かつ、群遅延時間温度係数を小さくすることができる。
【0025】
また、これらの圧電性を有する材料に、酸素欠陥を発生させたり、Fe等を固溶さたりして、圧電基板10に生じる焦電効果を著しく低減することができる。これにより、圧電基板10に生じる焦電効果による放電を低減することができ、IDT電極3や反射器電極1,5の電極指の放電破壊を防止でき、結果として、弾性表面波素子の信頼性を良好に保つことができる。
【0026】
図1(a)に示すように、圧電基板10上には、一対の平行バスバー電極31a,31b(総称するときは「バスバー電極31」という)と各バスバー電極31a,31bの内側面から直角方向に延びた複数の電極指32a,32b(総称するときは「電極指32」という)とからなるIDT電極3が形成されている。前記複数の電極指32は、互いにかみ合うように配置されている。電極指32の本数は、実際には、数本〜数100本に及んでいる。
【0027】
さらに、IDT電極3の弾性表面波伝搬方向外側には、IDT電極3に隣接して、一対の平行バスバー電極11a,11b(総称するときは「バスバー電極11」という)と、バスバー電極11a,11b間にわたって複数の電極指12が形成された反射器電極1が形成されている。
さらに、IDT電極3の他方の弾性表面波伝搬方向外側には、IDT電極3に隣接して、一対の平行バスバー電極51a,51b(総称するときは「バスバー電極51」という)と、バスバー電極51a,51b間にわたって複数の電極指52が形成された反射器電極5が形成されている。
【0028】
この反射器電極1の一対のバスバー電極11a,11bと、IDT電極3の一対のバスバー電極31a,31bと、反射器電極5の一対のバスバー電極51a,51bと、は、それぞれ同一方向に揃えるようにして形成されている。
これらの圧電基板10上のIDT電極3と、反射器電極1,5とにより、縦結合共振子型電極が形成される。
【0029】
前記一対のバスバー電極31a,31bから延びた電極指32a,32b同士が交差する領域を「電極指交差領域S」という。IDT電極3の一方のバスバー電極31a又は31bに形成された電極指32a,32bの先端から、その電極指32a,32bに相対する他方のバスバー電極31b又は31aまでの領域を「電極指非交差領域R」という。またバスバー電極31a,31bが形成されている領域を「バスバー電極領域B」という。
【0030】
圧電基板10のIDT電極3の上は、SiO2,SiNx,Si,Al2O3等の材料で形成された保護膜6で覆われている。この保護膜6により、導電性異物による通電防止や耐電力の向上を図ることができる。また、この保護膜6には、後に詳しく説明するように、弾性表面波の音速を制限する機能もある。
また、圧電基板10の主面上には、弾性表面波素子を取り囲むように、四角枠状の環状電極(図示せず)が形成されている。
【0031】
一方、この弾性表面波素子を実装するための実装用基板(図示せず)には、圧電基板10の入出力用端子に対向する位置に、所定の導体パッドが設けられ、圧電基板10の環状電極に対向する位置に、所定の環状導体(図示せず)が設けられている。
これらの弾性表面波素子が形成された弾性表面波素子を、実装用基板に対してフェースダウン実装する。すなわち、半田等の金属接合材料を用いて、実装用基板上の所定の環状導体に、圧電基板10の主面上の環状電極を接合し、圧電基板10の主面、実装用基板の実装面及び環状電極で囲まれた空間に、弾性表面波素子を閉じ込めるとともに、実装用基板側の所定の導体パッド(図示せず)に、入出力用端子を電気的に接続する。
【0032】
このようにして、弾性表面波素子を含む弾性表面波装置が作製される。この弾性表面波素子は、近年の通信装置の小型化に対応することができ、結果として、チップサイズの大きさを小さくすることができる。なお、本発明の弾性表面波装置の実装構造は、前述した環状電極等で囲まれた封止構造の態様に限定されるものではない。
以下、この弾性表面波素子の特徴的な構造を説明する。
【0033】
IDT電極3の電極指交差領域S、電極指非交差領域R及びバスバー電極領域Bは、保護膜6で被覆されている。この保護膜6は、図1(b)に示すように、バスバー電極領域B上の厚み及び電極指非交差領域R上の厚みが、電極指交差領域S上の厚みより厚くなっている。
このように厚みが変化した保護膜6の構造により、弾性表面波の励振に寄与しないIDT電極3のバスバー電極領域B及び電極指非交差領域Rにおける音速を、弾性表面波の励振に寄与する電極指交差領域Sの音速より遅くすることができる。
【0034】
図2は、弾性表面波の音速分布を示すグラフであり、縦軸は音速、横軸は圧電基板10の表面の前記A−A線に沿った断面上の位置を示す。バスバー電極領域B上及び電極指非交差領域R上で保護膜6の厚みを厚くしたことにより、電極指交差領域Sに比べて、弾性表面波の音速が低下していることが示されている。
一方、図3は従来の弾性表面波の音速分布を示すグラフであり、IDT電極上に保護膜が形成されていないケースを示している。この場合は、電極指交差領域S及びバスバー電極領域B上で音速は同じであり、電極指非交差領域R上で音速が上昇している。なお、IDT電極3上に保護膜6が等しい厚みで形成されている場合でも、図3と同じようなグラフが得られる。
【0035】
本発明のように保護膜6の厚みに段差を設定することにより、弾性表面波のエネルギーを電極指交差領域Sに閉じ込め、その漏れを抑制することが可能となり、特にフィルタ特性の挿入損失を低減し、通過帯域における肩特性を向上させることができる。
特に、前記保護膜6の厚みの厚い部分と薄い部分との比は、1.5倍〜20倍であることが望ましい。保護膜6の厚みの厚い部分の膜厚が、薄い部分の1.5倍より薄い場合、弾性表面波のエネルギーの閉じこめ効果が発現しない。また、保護膜6の厚みの厚い部分の膜厚が、薄い部分の20倍より厚い場合、保護膜6の成膜工程において、成膜に長時間を要することとなり、実用的な工程とならない。
【0036】
図4に本発明の弾性表面波素子の他の構造の平面図を示す。
この図では、圧電基板10上には、3つのIDT電極2,3,4が、その弾性表面波の伝搬方向が同一方向になるように、一方のバスバー電極21a,31a,41aを揃え、かつ他方のバスバー電極21b,31b,41bを揃えて配置されている。さらに、両端のIDT電極2,4の外側には、反射器電極1,5が配置されている。
【0037】
中央のIDT電極3は、その一方のバスバー電極31aが入力用端子INに接続されている。両端のIDT電極2,4は、それらの他方のバスバー電極21b,41bから出る出力は、1つにまとめられて出力用端子OUTに接続されている。
それぞれのIDT電極2,3,4において、前述したのと同様、IDT電極2,3,4の一方のバスバー電極21a,31a,41aに形成された電極指22a,32a,42aの先端から相対する他方のバスバー電極21b,31b,41bまでの領域及び他方のバスバー電極21b,31b,41bに形成された電極指22b,32b,42bの先端から相対する一方のバスバー電極21a,31a,41aまでの領域を「電極指非交差領域R」という。前記一対のバスバー電極21,31,41から延びた電極指22,32,42同士が交差する領域を「電極指交差領域S」という。また、バスバー電極21,31,41が形成されている領域を「バスバー電極領域B」という。
【0038】
また、隣接するIDT電極間の領域を、「IDT電極間領域U」といい、IDT電極間領域Uのうち、バスバー電極領域Bの延長上にある領域を「IDT電極間バスバー電極延長領域T」という。
この図4の縦結合共振子型電極においては、図1の構造と同様、IDT電極2,3,4の電極指交差領域S、電極指非交差領域R及びバスバー電極領域Bが、すべてSiO2,SiNx,Si,Al2O3等の材料で形成された保護膜6で被覆されている。さらに、隣接するIDT電極間のIDT電極間領域Uにおいても保護膜6が形成されている。
【0039】
そして、図1の構造と同様、IDT電極2,3,4における、バスバー電極領域B上の保護膜6の厚み及び電極指非交差領域R上の保護膜6の厚みが、電極指交差領域S上の保護膜6の厚みより厚くなっている。
さらに、この図4の構造においては、IDT電極間領域Uのうち、IDT電極間バスバー電極延長領域Tにおいて、保護膜6は、その厚みが残りのIDT電極間領域Uの厚みより厚い構造になっている。
【0040】
これにより、IDT電極間領域Uにおいて、IDT電極間バスバー電極延長領域Tにおける弾性表面波の音速が、IDT電極間バスバー電極延長領域T以外のIDT電極間領域Uの弾性表面波の音速より遅くなり、IDT電極2,3間及びIDT電極3,4間の隣接した箇所においても弾性表面波の伝搬方向から垂直方向へのエネルギーの漏れを防止することができる。よって、弾性表面波の漏れを抑制することが可能となり、特にフィルタ特性の挿入損失を充分に低減した弾性表面波素子を提供することができる。
【0041】
図5は、本発明の弾性表面波素子のさらに他の一例を示す平面図である。
この図において、IDT電極2,3,4と反射器電極1,5の配置は図4と同じになっている。
反射器電極1,5のバスバー電極11a,11b間及びバスバー電極51a,51b間にわたって形成された電極指12,52の領域を「電極指の領域S´」という。
【0042】
反射器電極1,5のバスバー電極11a,11b,51a,51bが形成されている領域を「バスバー電極領域B」という。
また、反射器電極1,5とこれに隣接するIDT電極2,4との間の領域を「IDT電極−反射器電極間領域W」といい、IDT電極−反射器電極間領域Wのうち、バスバー電極11a,11b,51a,51bの延長上にある領域を「IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域V」という。
【0043】
保護膜6は、IDT電極2,3,4にわたって形成されているのみならず、反射器電極1,5を被覆し、さらにIDT電極−反射器電極間領域Wの表面を被覆している。
そしてIDT電極2,3,4においては、図4と同様に、保護膜6のバスバー電極領域B上の厚み及び電極指非交差領域R上の厚みが、電極指交差領域S上の厚みより厚くなっており、IDT電極間領域Uのうち、IDT電極間バスバー電極延長領域Tにおいて、保護膜6の厚みは、残りのIDT電極間領域Uの厚みより厚い構造になっている。
【0044】
さらに、この図5の構成では、反射器電極1,5におけるバスバー電極領域B上の厚みが、電極指の領域S′の厚みより厚い構造になっており、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vにおける保護膜6の厚みが、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vを除いたIDT電極−反射器電極間領域W上の厚みより厚い構造になっている。
【0045】
この構造により、励振に寄与していない反射器電極1,5のバスバー電極領域B上の音速を、反射器電極1,5の電極指の領域S′の弾性表面波の音速より遅くすることができ、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域V上の音速を、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vを除いたIDT電極−反射器電極間領域W上の音速よりも遅くすることができる。
【0046】
従って、弾性表面波のエネルギーがビーム状に広がって伝搬する漏れが生じず、弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果を向上させることが可能となり、さらにフィルタ特性における挿入損失を充分に低減させ、通過帯域における肩特性を向上させた弾性表面波素子を提供することができる。
さらに、図6に本発明の弾性表面波素子の変形例の平面図を示す。
【0047】
この構成では、前記図5の構成に加えて、入力側のIDT電極3と、このIDT電極3に近接した1対のIDT電極2,4との間に、伝搬方向に対して直交する方向に長い4本以上の電極指を伝搬方向に沿って並べて構成した反射器電極12,13をそれぞれ配設している。
そして、この反射器電極12,13のバスバー電極上の保護膜6の厚み及びバスバー電極の延長上の、隣り合うIDT電極との間の領域における保護膜6の厚みが、電極指の領域S′上の厚みより厚い構造になっている。これにより、図1、図4、図5の構造と同様に、弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果を向上させることが可能となり、フィルタ特性における挿入損失を向上させることができる。
【0048】
さらに、この反射器電極12の隣り合う電極指の中心間距離は、反射器電極12の両端部に位置する電極指から中央部に位置する電極指に向かって漸次短くなっている。反射器電極13についても同様である。
したがって、弾性表面波のバルク波への放射損を防ぐことが可能となるとともに、1次と3次モードとそれらの高調波モード間の周波数をさらに微調整することが可能となり、広帯域かつ低損失である良好な電気特性を持つ弾性表面波装置を実現できる。
【0049】
次に、本発明の弾性表面波素子のさらに他の実施形態の平面図を図7(a)に、また、図7(a)のA−A線における断面図を図7(b)に示す。
この構成と前記図5の構成と異なるところを説明すると、中央のIDT電極3の一方のバスバー電極31aから延びる電極指32aの先端と相対する位置に、他方のバスバー電極31bより電極33bを突出させるとともに、中央のIDT電極3の他方のバスバー電極31bから延びる電極指32bの先端と相対する位置に、一方のバスバー電極31aより電極33aを突出させていることである。この突出した電極33a,33bを「ダミー電極33a,33b」という。ダミー電極33a,33bとこれに相対する電極指32b,32aとは、接近しているが接触することはない。このダミー電極33a,33bも、電極指非交差領域Rに含まれている。
【0050】
また、中央のIDT電極3の外側に配置されるIDT電極2,4においても、IDT電極3と同様に、ダミー電極が形成されている。
保護膜6は、IDT電極2,3,4のバスバー電極領域B上、及び電極指非交差領域R上において、電極指交差領域S上の厚みより厚くなっている。
また、IDT電極間バスバー電極延長領域Tにおいても、保護膜6は、IDT電極間バスバー電極延長領域Tを除いたIDT電極間領域Uの厚みより厚い構造になっている。
【0051】
また、この反射器電極1,5において、バスバー電極11,51上の保護膜6の厚み及びIDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vにおける保護膜6の厚みは、電極指の領域S′上の厚み、及びIDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vを除いたIDT電極−反射器電極間領域W上の厚みより厚い構造になっている。
この構造により、ダミー電極33a,33bを意図的に形成し、電極指非交差領域Rの保護膜6の膜厚を厚くすることにより、IDT電極2,3,4の電極指非交差領域Rにおける音速を、電極指交差領域Sの音速より遅くすることができる。
【0052】
図8は、弾性表面波の音速分布を示すグラフであり、縦軸は音速、横軸は圧電基板10の表面の前記A−A線に沿った断面上の位置を示す。バスバー電極領域B上及び電極指非交差領域R上で保護膜6の厚みを厚くしたことにより、電極指交差領域Sに比べて、弾性表面波の音速が低下していることが示されている。
したがって、弾性表面波のエネルギーの閉じ込め効果をさらに向上させることが可能となり、フィルタ特性における挿入損失を格段に向上させた弾性表面波素子を提供することができる。
【0053】
また、図9に本発明の弾性表面波素子の実施の形態の変形例を示す。
この図9の構成と図7の構成とが異なっているところは、隣接するIDT電極2,3のIDT電極間バスバー電極延長領域Tを電極指非交差領域Rの延長部にまで広げ、隣接するIDT電極3,4のIDT電極間バスバー電極延長領域Tを電極指非交差領域Rの延長部にまで広げていることである。以下、これらの拡大されたIDT電極間バスバー電極延長領域Tを、「IDT電極間バスバー電極延長領域T′」という。
【0054】
また、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vも、前記と同様に、電極指非交差領域Rの延長部にまで広げられており、この拡大されたIDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域Vを「IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域V′」という。
この図9の構造においては、保護膜6の膜厚が厚くなっている領域が、図7の構造と比べて、IDT電極間バスバー電極延長領域T′、IDT電極−反射器電極間バスバー電極延長領域V′にまで広がっている。
【0055】
さらに、反射器電極1,5においても、保護膜6の膜厚が厚くなっている領域が電極指非交差領域Rの延長部にまで広がっている。
これにより、保護膜6が成膜されている部分が広がっているので、電極指交差領域Sにおける弾性表面波の音速はさらに遅くなり、より効果的に弾性表面波のエネルギーを閉じ込めることができ、フィルタ特性における挿入損失を大幅に向上させることができる。
【0056】
次に、図10(a)〜(d)に本発明の弾性表面波素子の製造方法を工程毎の断面図で示す。
以下、図1のIDT電極3の製造工程を説明するが、IDT電極3以外のIDT電極や反射器電極もIDT電極3と同時に形成され、それらの製造工程は、IDT電極3とまったく同じである。
【0057】
図10(a)〜(d)の断面図は、弾性表面波の伝搬方向に平行な図1のB−B線に沿ってとったものである。
まず、図10(a)に示すように、圧電基板10上にIDT電極3を構成する導体層30を形成する。ここで、圧電基板10としてはタンタル酸リチウム単結晶やニオブ酸リチウム単結晶や四ホウ酸リチウム単結晶等を用いることができる。また、圧電基板10上の導体層30にはアルミニウム,アルミニウム合金,銅,銅合金,金,金合金,タンタル,タンタル合金、又はこれらの材料から成る層の積層膜やこれらの材料とチタン,クロム等の材料との積層膜を用いることができる。導体層30の成膜方法としてはスパッタリング法や電子ビーム蒸着法を用いることができる。
【0058】
次に、この導体層30を一対の平行バスバー電極31a,31bと各バスバー電極31a,31bから互いにかみ合うように延びた複数の電極指32a,32bとにパターニングしてIDT電極3を形成する。
図10(b)では、パターンニングされる電極指32の部分を描いている。
この導体層30をパターニングする方法としては、導体層30の成膜後にフォトリソグラフィを行い、次いでRIE(Reactive Ion Etching)やウェットエッチングを行う方法がある。又は、導体層30の成膜前に圧電基板10の一方主面にレジストを形成しフォトリソグラフィを行って所望のパターンを開口した後、導体層30を成膜し、その後レジストを不要部分に成膜された導体層30ごと除去するリフトオフプロセスを行ってもよい。
【0059】
次に、図10(c)に示すように、IDT電極3上を保護膜6で被覆する。保護膜6の材料としてはシリコン,シリカ等を用いることができる。成膜方法としては、スパッタリング法,CVD(Chemical Vapor Deposition)法,電子ビーム蒸着法等を用いることができる。
次に、図10(d)に示すように、保護膜6の電極指32a,32bにおける電極指交差領域S上の部位をエッチングして薄くする。保護膜6をエッチングする方法としては、RIE等のドライエッチングやウェットエッチングを行う方法がある。この製造方法に用いることにより、IDT電極3の電極指32にエッチングによる影響を与えることなく、電極指32の膜厚を一定に保ちながら電極指交差領域S上の保護膜6の膜厚を制御することができる。
【0060】
また、図11(a)〜(d)に本発明の弾性表面波素子の他の製造方法を工程毎の断面図で示す。
この図11では、図5のIDT電極4及び反射器電極5の製造工程を説明するが、IDT電極4や反射器電極5以外のIDT電極や反射器電極もIDT電極4や反射器電極5と同時に形成され、それらの製造工程は、IDT電極4や反射器電極5とまったく同じである。
【0061】
図11(a)〜(d)断面は、弾性表面波の伝搬方向に平行な図5のB−B線に沿ってとっている。
まず、図11(a)に示すように、圧電基板10上に導体層30を形成する。
次に、この導体層30を一対の平行バスバー電極41a,41bと各バスバー電極41a,41bから互いにかみ合うように延びた複数の電極指42a,42bとにパターニングしてIDT電極4を形成するとともに、導体層30を一対の平行バスバー電極51a,51bと各バスバー電極51a,51bから互いにかみ合うように延びた複数の電極指52とにパターニングして、そのバスバー電極51a,51bを前記IDT電極4の前記バスバー電極41a,41bと揃えるようにして前記IDT電極4に隣接した反射器電極5を形成する。
【0062】
図11(b)は、パターンニングされる電極指42,52の断面を描いている。IDT電極4と反射器電極5との間は、IDT電極−反射器電極間領域Wとなる。次に図11(c)に示すように、IDT電極4及び反射器電極5上並びにIDT電極−反射器電極間領域W上を保護膜6で被覆する。
図11(d)に示すように、保護膜6のIDT電極4の電極指42における電極指交差領域S上の部位、反射器電極5の電極指52の電極指の領域S′上の部位、並びに隣接するIDT電極4及び反射器電極5のIDT電極−反射器電極間領域Wの部位(反射器電極5のバスバー電極領域Bを除く)をエッチングして薄くする。これにより、図10と同様に、IDT電極4の電極指42に、エッチングによる影響を与えることなく、一括して前述した領域の部位における保護膜6の膜厚を効率よく制御することができる。
【0063】
以上に説明した弾性表面波素子の製造方法では、電極指交差領域Sにおいて、導体層30を削ることにより、その厚みを調整していた。しかし、電極指非交差領域Rやバスバー電極領域Bにおいて導体層30をさらに積層していくことにより、その厚みを厚くするように制御することも可能である。導体層30の一部の厚みを厚くする方法として、Al又はAlより密度が大きい金属を電極指非交差領域Rやバスバー電極領域Bに成膜して積層していくとよい。
【0064】
本発明の弾性表面波素子は、通信装置に適用することができる。
すなわち、受信回路又は送信回路の一方又は両方を備える通信装置において、本発明の弾性表面波素子を、これらの回路に含まれるバンドパスフィルタとして用いることができる。
前記送信回路は、例えば、送信信号をミキサでキャリア周波数にのせて、不要信号をバンドパスフィルタで減衰させ、その後、パワーアンプで送信信号を増幅して、デュプレクサを通ってアンテナより送信する回路である。前記受信回路は、受信信号をアンテナで受信し、デュプレクサを通った受信信号をローノイズアンプで増幅し、その後、バンドパスフィルタで不要信号を減衰して、ミキサでキャリア周波数から信号を分離し、この信号を取り出す回路である。
【0065】
本発明の弾性表面波素子を採用すれば、感度が向上した優れた通信装置を提供できる。
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば、今まで説明した例では、IDT電極や反射器電極の電極指交差領域S上に保護膜6が形成されていたが、電極指交差領域S上に保護膜6が形成されていない構造を採用してもかまわない。その他、本発明の範囲内で種々の変更を施すことが可能である。
【実施例】
【0066】
次に、本発明をより具体化した実施例について説明する。
<作製>
図5及び図7に示す弾性表面波素子を具体的に作製した。
図5に示す電極指のパターンを有するものを実施例1とし、図7に示すダミー電極を用いたものを実施例2とする。
【0067】
実施例1,2ともに、38.7°YカットのX方向伝搬とするLiTaO3単結晶の圧電基板10上に、Al(99質量%)−Cu(1質量%)によるIDT電極2,3,4、反射器電極1,5の微細電極パターンを形成した。
パターン作製には、スパッタリング装置、縮小投影露光機(ステッパー)、及びRIE(Reactive Ion Etching)装置によりフォトリソグラフィを行った。
【0068】
まず、圧電基板10をアセトン・IPA(イソプロピルアルコール)等によって超音波洗浄し、有機成分を落とした。次に、クリーンオーブンによって充分に圧電基板10の乾燥を行った後、電極の成膜を行った。電極の成膜にはスパッタリング装置を使用し、Al(99質量%)−Cu(1質量%)合金から成る材料を用いた。このときの電極膜厚は約0.15μmとした。
【0069】
次に、フォトレジストを約0.5μmの厚みにスピンコートし、縮小投影露光装置(ステッパー)により、所望形状にパターニングを行い、現像装置にて不要部分のフォトレジストをアルカリ現像液で溶解させ、所望パターンを表出した後、RIE装置により電極膜のエッチングを行い、パターニングを終了し、縦結合共振子型電極の電極パターンを得た。
この後、IDT電極2,3,4及び反射器電極1,5の所定領域上に保護膜6を作製した。すなわち、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置により、電極パターン及び圧電基板10上にSiO2を約1.0μmの厚みに形成した。
【0070】
その後、フォトリソグラフィによってフォトレジストのパターニングを行い、RIE装置で保護膜の電極指交差領域S上の部位並びにIDT電極間領域UとIDT電極−反射器電極間領域Wの電極指間の領域の部位をエッチングして保護膜6の膜厚を薄くした。エッチング後の膜厚は、0.01μmとした。また、同時にフリップチップ実装における電極パッド部分の保護膜6の窓開けも行った。
【0071】
その後、スパッタリング装置を使用し、Alを主体とする電極を成膜した。このときの電極膜厚は約1.0μmとした。その後、フォトレジスト及び不要箇所のAlをリフトオフ法により同時に除去し、フリップチップ用バンプを形成するパッドを完成した。
次に、前記パッドにAuからなるフリップチップ用バンプを、バンプボンディング装置を使用し形成した。バンプの直径は約80μm、その高さは約30μmであった。
【0072】
次に、圧電基板10をダイシング線に沿ってダイシング加工を施し、チップごとに分割した。その後、各チップをフリップチップ実装装置にて電極形成面を下面にして実装用基板に接着した。その後、N2雰囲気中でベーキングを行い、弾性表面波素子を完成した。パッケージは2.5×2.0mm角のセラミック製の積層構造のものを用いた。
比較用サンプルとして、図5に示すIDT電極2,3,4及び反射器電極1,5の微細電極パターンを形成するとともに、被覆する保護膜6の膜厚を0.01μmと一定にした比較例も前記と同様な工程で作製を行った。
【0073】
<測定・評価>
次に、本実施例における弾性表面波素子の特性測定を行った。
弾性表面波素子に0dBmの信号を入力し、周波数1760MHz〜2160MHz、測定ポイントを800ポイントの条件にて測定した。サンプル数は30個、測定機器はアジレント・テクノロジー社製マルチポート・ネットワークアナライザE5071Aである。
【0074】
通過帯域近傍の挿入損失の周波数特性グラフを図12、図13に示す。
実施例1のフィルタ特性は、図12の実線に示すように挿入損失は2.23dBであり、リップル(通過帯域内の減衰量の極大値と極小値との差)は0.20dBであり、非常に良好な特性を示した。一方、比較例のフィルタ特性は、図12の破線に示すように、挿入損失が2.35dBであり、リップルは0.30dBであった。
【0075】
また、図13に、実施例2と比較例を対比した通過帯域近傍の周波数特性グラフ示す。
実施例2の挿入損失は、図13の実線に示すように2.13dBであり、リップルは、0.30dBであった。実施例2の挿入損失は、実施例1の挿入損失と比べて減少しており、ダミー電極を付加することにより、さらに挿入損失を改善することができることが分かる。
このように本実施例では、フィルタ特性において挿入損失及びリップルを低減し、通過帯域の肩特性を向上させた弾性表面波素子を実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す図であり、(a)は電極が形成された圧電基板の平面図、(b)はA−A線断面図である。
【図2】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例における弾性表面波の音速分布を模式的に示す線図である。
【図3】従来の弾性表面波素子の電極構造における弾性表面波の音速分布を模式的に示す線図である。
【図4】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す平面図である。
【図5】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す平面図である。
【図6】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す平面図である。
【図7】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す図であり、(a)は電極が形成された圧電基板の平面図、(b)はA−A線断面図である。
【図8】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例における弾性表面波の音速を模式的に示す線図である。
【図9】本発明の弾性表面波素子の電極及び保護膜の構造例を模式的に示す平面図である。
【図10】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の弾性表面波素子の製造方法の一例を示す工程毎の断面図である。
【図11】(a)〜(d)は、それぞれ本発明の弾性表面波素子の製造方法の一例を示す工程毎の断面図である。
【図12】実施例1における弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図13】実施例2における弾性表面波素子の通過帯域及びその近傍における挿入損失の周波数特性を示す線図である。
【図14】従来の弾性表面波素子の電極構造例を模式的に示す図であり、(a)は電極構造の平面図、(b)は電極位置と電極指ピッチとの関係を模式的に説明する線図である。
【図15】従来の弾性表面波素子の電極構造例を模式的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0077】
1,5 反射器電極
2,3,4 IDT電極
6 保護膜
10 圧電基板
11a,11b,21a,21b,31a,31b,41a,41b,51a,51b バスバー電極
12,22a,22b,32a,32b,42a,42b,52 電極指
33a,33b ダミー電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
該圧電基板上に形成された、一対の平行バスバー電極、及び該各バスバー電極から延びて交互に噛み合わされた複数の電極指を含むIDT電極と、
該圧電基板上に形成された、前記IDT電極の表面を被覆する保護膜とを備える弾性表面波素子であって、
前記電極指の先端とこれに対向するバスバー電極との間の電極指非交差領域における前記保護膜の厚み、及び前記バスバー電極上の前記保護膜の厚みが、前記一対のバスバー電極から延びた電極指同士が交差する電極指交差領域における前記保護膜の厚みよりも厚いことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
複数の前記IDT電極がそれらのバスバー電極を揃えて隣接して形成され、さらに前記保護膜が、隣接する前記IDT電極のIDT電極間領域にわたって前記圧電基板上を被覆しており、前記IDT電極間領域において、前記保護膜の、前記バスバー電極の延長部における厚みが前記バスバー電極の延長部以外の部分における厚みより厚くなっている請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記圧電基板上に、一対の平行バスバー電極及び該各バスバー電極から対向する前記バスバー電極へ接続される複数の電極指を含む反射器電極が、そのバスバー電極を前記IDT電極の前記バスバー電極と揃えて前記IDT電極に隣接して形成されているとともに、
前記保護膜が、隣接する前記IDT電極と前記反射器電極との間のIDT電極−反射器電極間領域、並びに前記反射器電極の表面を被覆しており、
前記IDT電極−反射器電極間領域のバスバー電極の延長部並びに前記反射器電極の前記バスバー電極上における前記保護膜の厚みが、前記IDT電極−反射器電極間領域のバスバー電極の延長部以外の部分及び前記反射器電極の前記電極指の領域上における前記保護膜の厚みよりも厚くなっている請求項1又は請求項2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記保護膜の厚みの厚い部分と薄い部分との厚みの比が1.5倍〜20倍である請求項1から請求項3のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記IDT電極の一方の前記バスバー電極に形成された前記電極指の先端に対向するダミー電極が、他方の前記バスバー電極に形成されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
(a)圧電基板上に導体層を形成する工程と、
(b)該導体層を一対の平行バスバー電極と該各バスバー電極から交互に噛み合うように延びた複数の電極指とを形成するようにパターニングしてIDT電極を形成する工程と、
(c)前記IDT電極上を保護膜で被覆する工程と、
(d)前記保護膜の前記電極指交差領域上の部位をエッチングして薄くする工程とを具備していることを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)は、バスバー電極同士を揃えて隣接した複数のIDT電極を形成する工程を含み、
前記工程(c)は、隣接するIDT電極間領域の前記圧電基板上を保護膜で被覆する工程を含み、
前記工程(d)は、隣接する前記IDT電極間領域の前記電極指間の部位をエッチングして薄くする工程を含む、請求項6に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)は、前記導体層を一対の平行バスバー電極と該各バスバー電極から対向する前記バスバー電極へ延びた複数の電極指とを形成するようにパターニングするとともに、そのバスバー電極を前記IDT電極の前記バスバー電極と揃えて前記IDT電極に隣接した反射器電極を形成する工程を含み、
前記工程(c)は、前記反射器電極上並びに隣接する前記IDT電極及び前記反射器電極間の前記圧電基板上を保護膜で被覆する工程を含み、
前記工程(d)は、前記反射器電極の前記電極指の領域上の部位並びに隣接する前記IDT電極及び前記反射器電極の前記電極指間の領域の部位をエッチングして薄くする工程を含む、請求項6又は請求項7に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項9】
受信回路及び/又は送信回路を含む通信装置であって、
請求項1記載の弾性表面波素子を、受信回路の回路部品及び/又は送信回路の回路部品に含む通信装置。
【請求項1】
圧電基板と、
該圧電基板上に形成された、一対の平行バスバー電極、及び該各バスバー電極から延びて交互に噛み合わされた複数の電極指を含むIDT電極と、
該圧電基板上に形成された、前記IDT電極の表面を被覆する保護膜とを備える弾性表面波素子であって、
前記電極指の先端とこれに対向するバスバー電極との間の電極指非交差領域における前記保護膜の厚み、及び前記バスバー電極上の前記保護膜の厚みが、前記一対のバスバー電極から延びた電極指同士が交差する電極指交差領域における前記保護膜の厚みよりも厚いことを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
複数の前記IDT電極がそれらのバスバー電極を揃えて隣接して形成され、さらに前記保護膜が、隣接する前記IDT電極のIDT電極間領域にわたって前記圧電基板上を被覆しており、前記IDT電極間領域において、前記保護膜の、前記バスバー電極の延長部における厚みが前記バスバー電極の延長部以外の部分における厚みより厚くなっている請求項1に記載の弾性表面波素子。
【請求項3】
前記圧電基板上に、一対の平行バスバー電極及び該各バスバー電極から対向する前記バスバー電極へ接続される複数の電極指を含む反射器電極が、そのバスバー電極を前記IDT電極の前記バスバー電極と揃えて前記IDT電極に隣接して形成されているとともに、
前記保護膜が、隣接する前記IDT電極と前記反射器電極との間のIDT電極−反射器電極間領域、並びに前記反射器電極の表面を被覆しており、
前記IDT電極−反射器電極間領域のバスバー電極の延長部並びに前記反射器電極の前記バスバー電極上における前記保護膜の厚みが、前記IDT電極−反射器電極間領域のバスバー電極の延長部以外の部分及び前記反射器電極の前記電極指の領域上における前記保護膜の厚みよりも厚くなっている請求項1又は請求項2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記保護膜の厚みの厚い部分と薄い部分との厚みの比が1.5倍〜20倍である請求項1から請求項3のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
前記IDT電極の一方の前記バスバー電極に形成された前記電極指の先端に対向するダミー電極が、他方の前記バスバー電極に形成されている請求項1から請求項4のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
(a)圧電基板上に導体層を形成する工程と、
(b)該導体層を一対の平行バスバー電極と該各バスバー電極から交互に噛み合うように延びた複数の電極指とを形成するようにパターニングしてIDT電極を形成する工程と、
(c)前記IDT電極上を保護膜で被覆する工程と、
(d)前記保護膜の前記電極指交差領域上の部位をエッチングして薄くする工程とを具備していることを特徴とする弾性表面波素子の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)は、バスバー電極同士を揃えて隣接した複数のIDT電極を形成する工程を含み、
前記工程(c)は、隣接するIDT電極間領域の前記圧電基板上を保護膜で被覆する工程を含み、
前記工程(d)は、隣接する前記IDT電極間領域の前記電極指間の部位をエッチングして薄くする工程を含む、請求項6に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項8】
前記工程(b)は、前記導体層を一対の平行バスバー電極と該各バスバー電極から対向する前記バスバー電極へ延びた複数の電極指とを形成するようにパターニングするとともに、そのバスバー電極を前記IDT電極の前記バスバー電極と揃えて前記IDT電極に隣接した反射器電極を形成する工程を含み、
前記工程(c)は、前記反射器電極上並びに隣接する前記IDT電極及び前記反射器電極間の前記圧電基板上を保護膜で被覆する工程を含み、
前記工程(d)は、前記反射器電極の前記電極指の領域上の部位並びに隣接する前記IDT電極及び前記反射器電極の前記電極指間の領域の部位をエッチングして薄くする工程を含む、請求項6又は請求項7に記載の弾性表面波素子の製造方法。
【請求項9】
受信回路及び/又は送信回路を含む通信装置であって、
請求項1記載の弾性表面波素子を、受信回路の回路部品及び/又は送信回路の回路部品に含む通信装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−110342(P2007−110342A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298070(P2005−298070)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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