微小光電気機械素子加速度センサおよび微小光電気機械素子加速度センサ製造方法
【課題】小型でSoC構造化への要請に応じることができ、単結晶Siを材料とすることに限定されず材料の選択が可能であり、複雑なプロセスを経ることなく従来の加工技術をMEMS構造体の製造へ援用できる光MEMS加速度センサを提供する。
【解決手段】光MEMSにより形成されたファブリ・ペロ型光共振器16と、その下部に設けられた錘8および光取り出し開口部19とを備えている。ファブリ・ペロ型光共振器16は、光取り出し開口部19側と光導入側Aとに各々設けられた基本膜厚が1μm以下の複数種類の薄膜14(高屈折率の誘電体薄膜)および15(低屈折率の誘電体薄膜)を交互に積層した多層膜構造体13と11とにより空気層12を挟んだ構造を有している。重力加速度を受けた時、錘18が取り付けられた多層膜構造体13と11とではその撓み量が異なるため、重力加速度が反映された分光波形が光取り出し開口部19から取り出される。
【解決手段】光MEMSにより形成されたファブリ・ペロ型光共振器16と、その下部に設けられた錘8および光取り出し開口部19とを備えている。ファブリ・ペロ型光共振器16は、光取り出し開口部19側と光導入側Aとに各々設けられた基本膜厚が1μm以下の複数種類の薄膜14(高屈折率の誘電体薄膜)および15(低屈折率の誘電体薄膜)を交互に積層した多層膜構造体13と11とにより空気層12を挟んだ構造を有している。重力加速度を受けた時、錘18が取り付けられた多層膜構造体13と11とではその撓み量が異なるため、重力加速度が反映された分光波形が光取り出し開口部19から取り出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小光電気機械素子により形成された微小光電気機械素子加速度センサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小電気機械素子(Micro Electro Mechanical Systems : MEMS)は、シリコン半導体デバイスの製造技術およびその構造を援用して、微小な電気機械構造を形成したものである。マイクロ・ナノ機械は様々な応用分野があり、なかでもセンサへの応用として加速度センサへの応用がある。加速度センサの原理は、バネに支持された錘構造に加速度が作用することにより発生する慣性力と、この慣性力によりバネが変位して発生するバネ力とがバランスすることに基づくものであり、変位の時間2次微分関数である加速度をバネ変位の原関数で計測するものである(非特許文献1参照)。この原理によれば計測回路の簡略化が可能となるため、ほとんどの加速度センサは当該原理を用いている(特許文献1参照)。特許文献1では、バネにシリコン(Si)メンブレンダイヤフラムを用いる構造が示されている。
【0003】
図13は、はり構造のバネ(はりバネ)を採用した従来の加速度センサの原理および構造を示す。図13において、符号1はSiで形成されたはりバネ、2は錘、3はベースである。加速度(α)が錘2(質量:m)に作用すると、錘2には加速度の方向に慣性力による力(Fα=mα)が作用する。一方、はりバネ1のバネ定数(k)と、加速度とは反対方向の変位(x)とによりバネ力による反力(Fk=kx)が錘2に作用する。この慣性力(Fα)と反力(Fk)とはバランスするため、Fα=mα=kx=Fkとなり、これより、α=(k/m)xとなる。この結果、はりバネ1の変位(x)を計測することにより加速度(α)を測定することができる。加速度(α)は、一般に変位(x)の時間2次微分の形式(α=d2x/dt2)であるため、これから直接計測するには変位(x)の時間変化を記録して計算することが必要となり、そのためには煩雑な処理回路が必要となる。上述したはりバネを用いることにより簡便に加速度(α)の測定ができるため、多くの加速度センサに上記原理が採用されている。
【0004】
上述したバネの構造は、厚みが約10〜100μmとなっている。バネ構造は繰返し荷重による負荷が印加されるため、材料の疲労現象により加速度センサ等のセンサの信頼性が低下したり、バネ構造自体が破壊されたりする(疲労破壊現象)。材料の疲労現象は、材料組成そのものよりも多結晶で構成される材料の結晶粒界(多結晶粒界)に負荷が集中することにより起きる。MEMS構造体で用いられる厚みが約10〜100μm程度の成膜においては電解めっき法が有用であるが、その膜質は膜密度が低く多結晶粒界が多い。従って、疲労破壊現象の発生が予測されるため、多結晶で構成される材料のMEMS構造体への応用には限界があるという問題があった。
【0005】
上述した問題を解決するために、バネ等のマイクロ機械構造材料として結晶性の優れた単結晶Siが広く用いられている。単結晶Siは半導体デバイス産業分野でその材料技術、加工技術等の周辺技術が完成度高く構築されており、これらの周辺技術をMEMS構造体の製造に援用することができるということも、単結晶Siがマイクロ機械構造材料として広く用いられている一因となっている。しかし、本来、Si半導体加工技術は半導体デバイスの平坦化構造技術に併せて構築されてきたものであるため、その加工深さ(膜厚)は半導体デバイスおよびその加工技術共に1μm程度である。一方、上記バネの構造は厚みが約10〜100μmとなっているため、10〜100μmを構成単位(膜厚)とするMEMS構造体の製造(MEMS構造化)への当該加工技術の応用には種々の制限があるという問題があった。例えば、特許文献1では、ウエハ厚みのバラツキ等のためダイヤフラム厚みを正確に制御することが難しい等、加速度検知の特性に影響する基本性能である膜厚の制御が問題であることが提示されている。特許文献1にはこの問題を回避するための複雑なプロセスが記載されている。
【0006】
Si基板を加工して得られるMEMS構造体は、その構造自体の形成に関しては加工技術および材料特性の観点において優れている。しかし、当該MEMS構造体はSi基板上に形成するべき計測、制御等の本来の半導体電気回路(半導体装置)との共存は困難である。詳しくは、MEMS構造体の製造と半導体装置の製造とではそのプロセス温度が異なっているため、一連のプロセスでMEMS構造体と半導体装置とを製造する過程において、MEMS構造体、半導体装置に損傷を与える可能性があり、従って、Si基板上でのMEMS構造体と半導体装置との共存は困難であるという問題があった。この問題を解決するために、従来、全く別の工程、基板で製造したMEMS構造体と半導体装置とを電気機械的に貼り合せてシステム化する手法が一般的に用いられている。
【0007】
【非特許文献1】藤田博之著、「マイクロ・ナノマシン技術入門」、株式会社工業調査会発行、2003年8月15日.
【特許文献1】特開平5−63212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した全く別の工程、基板で製造したMEMS構造体と半導体装置とを電気機械的に貼り合せてシステム化する手法では、表面実装方式またはチップボンディング構造のデバイスとなるため、小型化という観点からは不利である。近年、RFID(Radio Frequency IDentification)を用いたユビキタス環境でのセンシングが望まれている。このため、小型で、MEMSセンサ構造体、計測・制御電子回路および外部入出力回路等が同一チップ上に配置されるシステム・オン・チップ(System on Chip : SoC)構造化への要請が高い。従って、上述した全く別の工程、基板で製造したMEMS構造体と半導体装置とを電気機械的に貼り合せてシステム化する従来の手法には、SoC構造化への要請に応じることが極めて困難であるという問題があった。
【0009】
上述したSi基板を加工して得られるMEMS構造体は単結晶Siを材料とすることに限定されてしまうため、構造化のプロセス、必要とされる機械特性および使用される環境等に合わせた材料の選択が困難であるという問題があった。
【0010】
上述したように、MEMS構造体の製造(MEMS構造化)への従来の加工技術の応用には種々の制限があり、これを回避するためには、複雑なプロセスを経る必要があるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、小型で、SoC構造化への要請に応じることが可能な微小光電気機械素子加速度センサおよびその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の目的は、単結晶Siを材料とすることに限定されず、構造化のプロセス、必要とされる機械特性および使用される環境等に合わせた材料の選択が可能なMEMS構造体による微小光電気機械素子加速度センサ等を提供することにある。
【0013】
本発明の第3の目的は、複雑なプロセスを経ることなく、従来の加工技術をMEMS構造体の製造へ援用することができる微小光電気機械素子加速度センサ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の微小光電気機械素子加速度センサは、微小電気機械素子により形成されたファブリ・ペロ型光共振器と、該ファブリ・ペロ型光共振器の下部に設けられた錘及び光取り出し開口部とを備えたことを特徴とする。
【0015】
ここで、この発明の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記ファブリ・ペロ型光共振器は、前記光取り出し開口部側と光導入側とに各々設けられた複数種類の薄膜を交互に積層した多層膜構造体により空気層を挟んだ構造を有することができる。
【0016】
ここで、この発明の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記複数種類の薄膜は高屈折率及び低屈折率の2種類の誘電体薄膜とすることができる。
【0017】
ここで、この発明の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記誘電体薄膜はSiO2、Ta2O5又はTaOxNyのいずれか2つの組合とすることができる。
【0018】
この発明の微小光電気機械素子加速度センサ製造方法は、本発明のいずれかの微小光電気機械素子加速度センサの多層膜構造体を電子サイクロトロン共鳴プラズマ成膜により形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の微小光電気機械素子加速度センサ(光MEMS加速度センサ)は、MEMSにより形成されたファブリ・ペロ型光共振器と、ファブリ・ペロ型光共振器の下部に設けられた錘および光取り出し開口部とを備えている。ファブリ・ペロ型光共振器は、光取り出し開口部側と光導入側とに各々設けられた複数種類の薄膜を交互に積層した2つの多層膜構造体(上層多層膜構造体よび下層多層膜構造体)により空気層を挟んだ構造を有している。この複数種類の薄膜の基本膜厚は1μm以下であり、屈折率の異なる誘電体薄膜とすることが好適である。例えば、高屈折率の誘電体薄膜と低屈折率の誘電体薄膜との2種類の誘電体薄膜とすればよい。光MEMS加速度センサにおいて、加速度検出を行う基本部分はファブリ・ペロ型光共振器である。上層および下層の2つの多層膜構造(上層および下層の2つのメンブレン)が重力加速度を受けた時、錘が取り付けられた下層メンブレンと、上層メンブレンとではその撓み量が異なるため、両メンブレンの中心部における空気層の厚みは重力加速度の変化に対応して変化する。この時、ファブリ・ペロ型光共振器に外部(光導入側)から光を導入すると、重力加速度が反映された分光波形が光取り出し開口部から取り出される。この結果、光MEMS加速度センサはファブリ・ペロ型光共振器を用いて加速度検出を行うことができる。
【0020】
光MEMS加速度センサのメンブレンの作製は、室温で形成できるECRプラズマ成膜により形成する。即ち、1000℃級で成膜する従来の成膜手法と同等の品質の薄膜を、より低温プロセス且つ簡略化した工程で成膜することができるため、半導体電子回路とのSoc化を可能とすることができる。MEMS加速度センサのメンブレンの基本膜厚は1μm以下であるため、半導体集積回路の製造を目的に高品位の薄膜を形成する従来の装置および加工技術をそのまま援用することが可能であり、構造化材料の選択性の拡大、構造プロセスの簡略化を可能とすることができる。さらに、MEMS加速度センサにより例示されるように、従来は単結晶Siを材料とすることに限定されていたMEMS構造体を種々の材料に置き換えることも可能であり、構造化のプロセス、必要とされる機械特性および使用される環境等に合わせた材料の選択が可能なMEMS構造体によるMEMS加速度センサを提供することができる。以上より、MEMS加速度センサの経済性、高感度・広帯域測定性、高機能化、高信頼化を実現することが可能であるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の実施例1における光MEMS加速度センサ(微小光電気機械素子加速度センサ)10を示す。図1において、符号11、13は各々低屈折率の誘電体薄膜15と高屈折率の誘電体薄膜14とを交互に積層することにより形成された多層膜構造体、12は多層膜構造体11と13との間に挟まれた空気層、16は多層膜構造体11および13と空気層12とにより形成されるファブリ・ペロ型光共振器、17は多層膜構造体11および13を支持・固定するスペーサ、18はファブリ・ペロ型光共振器16の下部に取り付けられた錘、19は光取り出し開口部である。
【0023】
図1に示されるように、本発明の実施例1における光MEMS加速度センサ10では、背景技術で説明したような従来構造のはりバネは見られず、従来構造とは全く異なる新規の構造となっている。即ち、本発明の実施例1における光MEMS加速度センサ10は、MEMSにより形成されたファブリ・ペロ型光共振器16と、ファブリ・ペロ型光共振器16の下部に設けられた錘18および光取り出し開口部19とを備えている。光取り出し開口部19は、図1に示されるように左右の錘18の中央部に設けることが好適である。ファブリ・ペロ型光共振器16は、光取り出し開口部19側と光導入側Aとに各々設けられた複数種類の薄膜14および15を交互に積層した多層膜構造体11と13とにより空気層12を挟んだ構造を有している。この複数種類の薄膜14および15は、屈折率の異なる誘電体薄膜とすることが好適であり、例えば上述のように、高屈折率の誘電体薄膜14と低屈折率の誘電体薄膜15との2種類の誘電体薄膜とすればよい。
【0024】
光MEMS加速度センサ10において、加速度検出を行う基本部分はファブリ・ペロ型光共振器16である。多層膜構造11および13は低屈折率の誘電体薄膜15により支持・固定されているため、メンブレン構造となっている(以下、多層膜構造11をメンブレン11、多層膜構造13をメンブレン13とも言う。)。このメンブレン11および13が重力加速度を受けた時、錘18が取り付けられたメンブレン13と、上部(光導入側A)のメンブレン11とではその撓み量が異なるため、両メンブレン11および13の中心部における空気層12の厚みは重力加速度の変化に対応して変化する。この時、ファブリ・ペロ型光共振器16に外部(光導入側A)から光を導入すると(詳しくは、メンブレン11の上部からメンブレン13へ向けて光を導入すると)、重力加速度が反映された分光波形が光取り出し開口部19から取り出される。以上のようにして、光MEMS加速度センサ10はファブリ・ペロ型光共振器16を用いて加速度検出を行うことができる。
【0025】
図2は、光MEMS加速度センサ10において計算から得られた典型的な分光波形を示す。図2で、横軸は波長(Wavelength(nm))、縦軸は強度(Intensity(a.u.))である。原図では透過率(Transmittance)は黒三角および黒線で表示され、反射率(Reflectance)は赤三角および赤線で表示されているが、出願図面では白黒でしか表示できないため、透過率の方をT、反射率の方をRと付してある。ファブリ・ペロ型光共振器16の設計波長はλ=780nmとした。この時、メンブレン11および13を構成する低屈折率の誘電体薄膜15(SiO2:屈折率n=1.5)および高屈折率の誘電体薄膜14(Ta2O5:屈折率n=1.9)の厚みはλ/4、空気層12の厚みはλ/2である。図2に示されるように、設計波長λ=780nmにおいて、反射率0%、透過率100%となっていることがわかる。詳しくは、反射率は685nmあたりから上がってほぼ1.0となり780nm直前で1.0から急峻に下がり、780nmで0となり、780nm直後に0から1.0へ急峻に上がっている。一方、透過率は685nmあたりから下がってほぼ0となり780nm直前で0から急峻に上がり、780nmで1.0となり、780nm直後に1.0から0へ急峻に下がっている。透過率は780nmで最大値1.0となっており、その強度が半分になるスペクトルの幅(半値全幅。Full Width with Half-Maximum : FWHM)は1nm以下と非常に小さい。これらはファブリ・ぺロ型光共振器10の特徴的な性質である。以上のスペクトルは一般的な分光測定系を用いることで容易に検出することができる。
【0026】
図3は、光MEMS加速度センサ10を構成する時の単一薄膜の光損失の計算結果を示す。光MEMS加速度センサ10のメンブレン11等の作製においては電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance : ECR)プラズマ成膜により形成するため、ECR装置により作製された薄膜の表面状態を反映させて計算を行った(参照文献:Y.
Jin et al., Electron-cyclotron-resonance sputtering apparatus for multilayered
optical bandpass filters to wavelength division multiplexing, JVST A22, p.2431)。図3で、横軸はECR薄膜の表面粗さRrms(Surface roughness σ(nm))、縦軸は500nm単位の散乱損失(Scattering loss(%)@500nm)である。原図では波長λ=500nmを黒丸および黒線、波長λ=780nmを赤四角および赤線で表示してあるが、出願図面では白黒でしか表示できないため、波長λ=500nm、波長λ=780nmと付してある。参照文献によれば、ECR薄膜の表面粗さRrmsは〜0.2nm程度(図3では0.2nm付近の縦線Bで示す。)である。図3の縦線Bと波長λ=500nmおよび780nmの両グラフとの交わる付近に示されるように、計算からECR薄膜の光損失は、計算したいずれの設計波長(λ=500nm、780nm)においても、10−3%程度と非常に低い値である。これは、ECR技術を用いることにより光損失の少ない光MEMS加速度センサ10を実現することができることを示している。
【0027】
図4は、低屈折率の誘電体薄膜15および高屈折率の誘電体薄膜14の組合せを変えた場合における光MEMS加速度センサ10の計算された分光波形を示す。用いる誘電体薄膜(材料)15および14は、SiO2(屈折率n=1.5)、Ta2O5(屈折率n=1.9)またはTaOxNy(屈折率n=2.9)のいずれか2つの組合せである。図4で、横軸は波長(Wavelength(nm))、縦軸は透過率(Transmittance(%))である。原図では、SiO2を低屈折率の誘電体薄膜15としTa2O5を高屈折率の誘電体薄膜14とする組合せ(C1)を黒丸および黒線、Ta2O5を低屈折率の誘電体薄膜15としTaOxNyを高屈折率の誘電体薄膜14とする組合せ(C2)を青四角および青線、SiO2を低屈折率の誘電体薄膜15としTaOxNyを高屈折率の誘電体薄膜14とする組合せ(C3)を赤三角および赤線で表示してあるが、出願図面では白黒でしか表示できないため、各々C1,C2、C3と付してある。図4に示されるように、いずれの計算結果においても、設計波長780nmで鋭いピークが現れており、ピーク波長の長波長および短波長の両サイドでは低反射率を示している。上記両サイドではしばらく低反射を示すが、その後、ピーク波長から徐々に透過スペクトル(サイドバンドスペクトル)が現れてきている。屈折率比を高屈折率nH/低屈折率nLと定義すると、組合せC1の屈折率比は1.9/1.5〜1.2、組合せC2の屈折率比は2.9/1.9〜1.5、組合せC3の屈折率比は2.9/1.5〜1.9となり、組合せC1、C2およびC3の順に屈折率比は大きくなる。図4に示されるように、組合せの屈折率比が大きくなると、短波長および長波長のサイドバンドスペクトルが現れる波長城(設計波長780nmに対してサイドバンドスペクトルが現れるまでの透過率0の領域の幅)が幅広くなっていることがわかる。具体的には、組合せC1の波長域は170nm、C2は250nm、C3は340nmとなっている。この波長域(幅)で空気層12の厚みの変化が可能である。
【0028】
図5は、光MEMS加速度センサ10の空気層12の厚みを変化させた時における分光波形の計算結果を示す。図5で、横軸は波長(Wavelength(nm))、縦軸は透過率(Transmittance(%))である。誘電体薄膜(材料)15および14は各々SiO2およびTa2O5(組合せC1。屈折率比〜1.2)であり、設計波長は780nmである。空気層12の厚みは、設計波長780nmに対して、λ/2であるため、390nmとなる。この値から、図5に示される凡例LD中の数字を引いたものが空気層12の厚みである。例えば、図5の曲線R1は空気層12の厚みが390−100(=凡例LD中の一番上の数字)=290nmの場合の分光波形を示し、曲線R2は空気層12の厚みが390−145(=凡例LD中の一番下の数字)=245nmの場合の分光波形を示している。凡例LD中の数字は0nmから145nmまでとすることができるが、図5では、図面の都合上、100nmから145nmまでの範囲のプロットになっている。図5に示されるように、空気層12の厚みを薄くしていくと(図5の曲線R1からR2への方向の矢印で示す。)、ピーク波長は、780nmよりも短波長側へ移動していくことが確認できる。これとは逆に、空気層12の厚みが厚くなるとピーク波長は長波長側へ移動していく。図6は組合せC2(屈折率比〜1.5)の場合における図5と同様の分光波形の計算結果を示し、図7は組合せC3(屈折率比〜1.9)の場合における図5と同様の分光波形の計算結果を示す。図6および7で、縦軸、横軸は図5と同様であるため説明は省略する。但し、凡例LD中の数字は0nmから145nmまでとなっており、0nmから145nmまでの範囲のプロットになっている。図5ないし7に示されるように、屈折率比が大きくなる薄膜の組合せほど同じ空気層12の厚みの変化に対してピーク波長の移動範囲が広い。この結果、屈折率比が大きくなる薄膜の組合せが大きな波長変化に対応できることがわかる。
【0029】
図8は、図5の空気層12の厚みの変化に対してピーク波長の変化およびピーク強度へ読み替えたものを示す。図8で、横軸は空気層12の厚み(変位)に対応する図5の凡例LD中の数字(Variation of air gap(nm))、左側の縦軸は空気層12の厚みに対応するピーク波長の変化(Wavelength(nm))であり、楕円E1で囲まれたデータに関してはその矢印の方向にある左側の縦軸が対応し、右側の縦軸は空気層12の厚みに対応するピーク波長の強度(Transmittance×100(%))であり、楕円E2で囲まれたデータに関してはその矢印の方向にある右側の縦軸が対応する。原図では、組合せC1を黒丸および黒線、組合せC2を青四角および青線、組合せC3を赤三角および赤線で表示してあるが、出願図面では白黒でしか表示できないため、各々C1,C2、C3と付してある。
【0030】
図8に示されるように、空気層12の厚みの変化に対してピーク強度はほとんど100%と一定である。ピーク波長は空気層12の厚みが薄くなっていくと短くなっていく。しかし、空気層12の厚みが薄い領域では、わずかではあるが線形性が失われていることが確認できる。この領域でも、光の波長から加速度を検出可能であるが、補正を要する。加速度の検出を光の波長から直接計測するために、線形性が失われていない部分を利用する。この線形性は相対誤差が±5%の範囲で決定した。図8に示されるように、組合せC1では直線L1で示される付近まで、組合せC2では直線L2示される付近まで、組合せC3では直線L3示される付近までは相対誤差が±5%であり、線形性が保たれているものとする。空気層12の厚みの変化は錘18により調整可能であるため、ピーク波長のずれを重力加速度の変化に割り当てることが可能である。つまり、錘18の重さと最大重力加速度(100g)とにより決まる空気層12の変位と、線形性の相対誤差が±5%の範囲で計測に有効な最大ピーク波長のずれとを対応させることが可能である。この波長の変化を加速度計測に必要な桁数で割ると、加速度計測に必要な分光測定系の波長分解能を見積もることができる。例えば、組合せC3のグラフの場合、図8に示されるように相対誤差が±5%に収まる有効ピーク波長は、左縦軸780nmから660nmを引いた120nmであり、この波長の変化の値を加速度計測定器に必要な0.1〜100gまでの桁数1000で割ったものが、加速度計測に必要な分光測定系の波長分解能Δλとなる。従って、例の場合、波長分解能Δλは、120nm/1000=0.12nmとなる。従来の加速度計測デバイスでは1〜2弱桁程度の加速度計側を行っていることを考慮すると、本発明の光MEMS加速度センサ10では上記桁程度の計測は容易に行うことができるということがわかる。ここで、0.1〜100gまでの加速度を計測する場合、各組合せC1等についての波長分解能△λは図8の上に示される枠内の値となる(組合せC1:Δλ=0.049nm、組合せC2:Δλ=0.076nm、組合せC3:Δλ=0.120nm)。これらの波長分解能の分光計測系を用いることにより、幅の広いダイナミックレンジを持った加速度計側も可能となる。
【0031】
図9は、多層膜構造(メンブレン11等)の平面図を示す。図9に示されるように、メンブレン11等の形状は正方形であり、その一辺の長さは2aである。その正方形の外周部20がメンブレン11等の固定部分となっている。ここで、一辺2aのメンブレン11等に等分布加重P(Pa)を加えた時、メンブレン11等の中央部の撓み量(メンブレン11であれば空気層12方向へ撓む撓み量)w(m)は以下の式1で表される。
【0032】
w = 0.221×(Pa4/Eh3) (1)
【0033】
ここで、Eはメンブレン11等のヤング率(Pa)、hはメンブレン11等の厚み(m)、P=ρgh(ρは密度。gは重力加速度)、aはメンブレン11等の一辺÷2である。式1を用いて、光MEMS加速度センサ10ヘ取付ける錘18の厚みtを機械力学的計算により求める。簡略化のためメンブレン11等および錘18はSiで構成すると仮定した場合、ρ=2330kg/m3、E=160GPaとなる。hは、錘18の厚みtを考慮する場合、h+tとする。
【0034】
図10は、僥み量wの計算のためのモデル光MEMS加速度センサ10の概略図である。図10で図1と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。僥み量wの計算において、メンブレン11等を構成する材料は組合せC1、即ちSiO2およびTa2O5であり、10対(pairs)のSiO2/Ta2O5で空気層12を挟むことにより、ファブリ・ぺロ型光共振器16を構成している。図10に示されるように、hは鍾18(Si)の厚みtを含めた下層メンブレン13の厚みとしている。
【0035】
図11は、Si錘18の厚みtを変えた場合の空気層12の変位量dを示す。図11で、横軸はSi錘18の厚みt(thickness of weight t(μm))、縦軸は空気層12の変位量d(Displacement d(nm))である。原図ではメンブレン11等の一辺2aが1.0mmの場合は黒、5.0mmの場合は水色と表示されているが、出願図面では白黒でしか表示できないため、各々1.0、2.0、3.0、4.0、5.0と付してある。空気層12の変位量dは以下の式2で表される。
【0036】
d = w − w0 (2)
【0037】
ここで、w0はSi鍾18がない場合、即ち上層メンブレン11の僥み量、wはSi錘18がある場合、即ち下層メンブレン13の僥み量である。式1の計算におけるヤング率EはSiのものとして仮定したため、上述のようにE=160GPaとなる。下層メンブレン13の僥み量wの場合はメンブレン13の厚みをh+tとするため、式2の計算、従って式1の計算におけるパラメータは、錘18の厚みtおよびメンブレン11等の一辺の長さ(窓の大きさ)2aである。図11に示されるように、窓の大きさ2aに関わらず、錘18の厚みtが僅かに与えられた領域(t〜0.3位までの領域)では、空気層12の変位量dは急激な変化をしている。しかし、錘18の厚みtが厚い領域(t>0.5の領域)では、空気層12の変位量dは一定の値に収束する傾向にある。空気層12の厚みの最大変位量を100nmとすれば、図11に示されるように、100nm一定の線と計算曲線とが交差するのは、窓の大きさ2aが2mm以上の場合である。
【0038】
図12は、重力加速度に対する空気層12の変位量を示す。図12で、横軸は重力定数(Gravitational constant(g))、縦軸は空気層12の変位量(Displacement d(nm))である。原図では錘18の厚みtが0.3μmの場合は黒、2.0μmの場合は橙、5.0μmの場合は緑で表示されているが、出願図面では白黒でしか表示できないため、各々0.3、2.0、5.0と付してある。この場合、式1の計算における窓の大きさ2aは2mm(即ちa=1mm)とし、メンブレン11の厚みはhとし、メンブレン13の厚みはh+tとした。その他の値は上述と同様である。計算におけるパラメータは、重力加速度Gおよび錘の厚みtである。重力加速度gは等分布加重Pに変換して計算を行った。図12に示されるように、錘18の厚みtおよび重力加速度が大きくなるにつれて、空気層12の変位量dは大きくなっていることがわかる。空気層12の厚みの最大変位量を100nmとすれば、図12に示されるように錘18の厚みtは0.3μm以下とすることが好適である。従って、錘18の作製には、nm精度の成膜が行える従来の半導体デバイス製造技術が十分利用可能であることがわかる。
【0039】
以上より、本発明の実施例1によれば、光MEMS加速度センサ10は、MEMSにより形成されたファブリ・ペロ型光共振器16と、ファブリ・ペロ型光共振器16の下部に設けられた錘8および光取り出し開口部19とを備えている。ファブリ・ペロ型光共振器16は、光取り出し開口部19側と光導入側Aとに各々設けられた複数種類の薄膜14および15を交互に積層した多層膜構造体13と11とにより空気層12を挟んだ構造を有している。この複数種類の薄膜14および15の基本膜厚は1μm以下であり、屈折率の異なる誘電体薄膜とすることが好適である。例えば、高屈折率の誘電体薄膜14と低屈折率の誘電体薄膜15との2種類の誘電体薄膜とすればよい。光MEMS加速度センサ10において、加速度検出を行う基本部分はファブリ・ペロ型光共振器16である。多層膜構造11および13(メンブレン11および13)が重力加速度を受けた時、錘18が取り付けられたメンブレン13と、上部(光導入側A)のメンブレン11とではその撓み量が異なるため、両メンブレン11および13の中心部における空気層12の厚みは重力加速度の変化に対応して変化する。この時、ファブリ・ペロ型光共振器16に外部(光導入側A)から光を導入すると、重力加速度が反映された分光波形が光取り出し開口部19から取り出される。以上のようにして、光MEMS加速度センサ10はファブリ・ペロ型光共振器16を用いて加速度検出を行うことができる。
【0040】
光MEMS加速度センサ10のメンブレン11等の作製は、室温で形成できるECRプラズマ成膜により形成する。即ち、1000℃級で成膜する従来の成膜手法と同等の品質の薄膜を、より低温プロセス且つ簡略化した工程で成膜することができるため、半導体電子回路とのSoc化を可能とすることができる。つまり、小型で、SoC構造化への要請に応じることが可能な光MEMS加速度センサ10およびその製造方法を提供することができる。光MEMS加速度センサ10のメンブレン11等の基本膜厚は1μm以下であるため、半導体集積回路の製造を目的に高品位の薄膜を形成する従来の装置および加工技術をそのまま援用することが可能であり、構造化材料の選択性の拡大、構造プロセスの簡略化を可能とすることができる。即ち、複雑なプロセスを経ることなく、従来の加工技術をMEMS構造体の製造へ援用することができる光MEMS加速度センサ10を提供することができる。さらに、光MEMS加速度センサ10により例示されるように、従来は単結晶Siを材料とすることに限定されていたMEMS構造体を種々の材料に置き換えることも可能であり、構造化のプロセス、必要とされる機械特性および使用される環境等に合わせた材料の選択が可能なMEMS構造体による光MEMS加速度センサ10を提供することができる。以上より、光MEMS加速度センサ10の経済性、高感度・広帯域測定性、高機能化、高信頼化を実現することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の活用例として、加速度センサ以外の機械的、物理的に稼動する構造体を有する電子、電気、化学、物理素子のMEMS構造化に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1における微小光電気機械素子加速度センサを示す図である。
【図2】光MEMS加速度センサ10において計算から得られた典型的な分光波形を示す図である。
【図3】光MEMS加速度センサ10を構成する時の単一薄膜の光損失の計算結果を示す図である。
【図4】低屈折率の誘電体薄膜15および高屈折率の誘電体薄膜14の組合せを変えた場合における光MEMS加速度センサ10の計算された分光波形を示す図である。
【図5】光MEMS加速度センサ10の空気層12の厚みを変化させた時における分光波形の計算結果を示す図である。
【図6】組合せC2(屈折率比〜1.5)の場合における図5と同様の分光波形の計算結果を示す図である。
【図7】組合せC3(屈折率比〜1.9)の場合における図5と同様の分光波形の計算結果を示す図である。
【図8】図5の空気層12の厚みの変化に対してピーク波長の変化およびピーク強度へ読み替えたものを示す図である。
【図9】多層膜構造(メンブレン11等)の平面図である。
【図10】僥み量wの計算のためのモデル光MEMS加速度センサ10の概略図である。
【図11】Si錘18の厚みtを変えた場合の空気層12の変位量dを示す図である。
【図12】重力加速度に対する空気層12の変位量を示す図である。
【図13】はり構造のバネ(はりバネ)を採用した従来の加速度センサの原理および構造を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 はりバネ、 2、18 錘、 3 ベース、 10 光MEMS加速度センサ、 11、13 多層膜構造体(メンブレン)、 12 空気層、 16 ファブリ・ペロ型光共振器、 17 スペーサ、 19 光取り出し開口部、 20 メンブレン固定部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小光電気機械素子により形成された微小光電気機械素子加速度センサおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微小電気機械素子(Micro Electro Mechanical Systems : MEMS)は、シリコン半導体デバイスの製造技術およびその構造を援用して、微小な電気機械構造を形成したものである。マイクロ・ナノ機械は様々な応用分野があり、なかでもセンサへの応用として加速度センサへの応用がある。加速度センサの原理は、バネに支持された錘構造に加速度が作用することにより発生する慣性力と、この慣性力によりバネが変位して発生するバネ力とがバランスすることに基づくものであり、変位の時間2次微分関数である加速度をバネ変位の原関数で計測するものである(非特許文献1参照)。この原理によれば計測回路の簡略化が可能となるため、ほとんどの加速度センサは当該原理を用いている(特許文献1参照)。特許文献1では、バネにシリコン(Si)メンブレンダイヤフラムを用いる構造が示されている。
【0003】
図13は、はり構造のバネ(はりバネ)を採用した従来の加速度センサの原理および構造を示す。図13において、符号1はSiで形成されたはりバネ、2は錘、3はベースである。加速度(α)が錘2(質量:m)に作用すると、錘2には加速度の方向に慣性力による力(Fα=mα)が作用する。一方、はりバネ1のバネ定数(k)と、加速度とは反対方向の変位(x)とによりバネ力による反力(Fk=kx)が錘2に作用する。この慣性力(Fα)と反力(Fk)とはバランスするため、Fα=mα=kx=Fkとなり、これより、α=(k/m)xとなる。この結果、はりバネ1の変位(x)を計測することにより加速度(α)を測定することができる。加速度(α)は、一般に変位(x)の時間2次微分の形式(α=d2x/dt2)であるため、これから直接計測するには変位(x)の時間変化を記録して計算することが必要となり、そのためには煩雑な処理回路が必要となる。上述したはりバネを用いることにより簡便に加速度(α)の測定ができるため、多くの加速度センサに上記原理が採用されている。
【0004】
上述したバネの構造は、厚みが約10〜100μmとなっている。バネ構造は繰返し荷重による負荷が印加されるため、材料の疲労現象により加速度センサ等のセンサの信頼性が低下したり、バネ構造自体が破壊されたりする(疲労破壊現象)。材料の疲労現象は、材料組成そのものよりも多結晶で構成される材料の結晶粒界(多結晶粒界)に負荷が集中することにより起きる。MEMS構造体で用いられる厚みが約10〜100μm程度の成膜においては電解めっき法が有用であるが、その膜質は膜密度が低く多結晶粒界が多い。従って、疲労破壊現象の発生が予測されるため、多結晶で構成される材料のMEMS構造体への応用には限界があるという問題があった。
【0005】
上述した問題を解決するために、バネ等のマイクロ機械構造材料として結晶性の優れた単結晶Siが広く用いられている。単結晶Siは半導体デバイス産業分野でその材料技術、加工技術等の周辺技術が完成度高く構築されており、これらの周辺技術をMEMS構造体の製造に援用することができるということも、単結晶Siがマイクロ機械構造材料として広く用いられている一因となっている。しかし、本来、Si半導体加工技術は半導体デバイスの平坦化構造技術に併せて構築されてきたものであるため、その加工深さ(膜厚)は半導体デバイスおよびその加工技術共に1μm程度である。一方、上記バネの構造は厚みが約10〜100μmとなっているため、10〜100μmを構成単位(膜厚)とするMEMS構造体の製造(MEMS構造化)への当該加工技術の応用には種々の制限があるという問題があった。例えば、特許文献1では、ウエハ厚みのバラツキ等のためダイヤフラム厚みを正確に制御することが難しい等、加速度検知の特性に影響する基本性能である膜厚の制御が問題であることが提示されている。特許文献1にはこの問題を回避するための複雑なプロセスが記載されている。
【0006】
Si基板を加工して得られるMEMS構造体は、その構造自体の形成に関しては加工技術および材料特性の観点において優れている。しかし、当該MEMS構造体はSi基板上に形成するべき計測、制御等の本来の半導体電気回路(半導体装置)との共存は困難である。詳しくは、MEMS構造体の製造と半導体装置の製造とではそのプロセス温度が異なっているため、一連のプロセスでMEMS構造体と半導体装置とを製造する過程において、MEMS構造体、半導体装置に損傷を与える可能性があり、従って、Si基板上でのMEMS構造体と半導体装置との共存は困難であるという問題があった。この問題を解決するために、従来、全く別の工程、基板で製造したMEMS構造体と半導体装置とを電気機械的に貼り合せてシステム化する手法が一般的に用いられている。
【0007】
【非特許文献1】藤田博之著、「マイクロ・ナノマシン技術入門」、株式会社工業調査会発行、2003年8月15日.
【特許文献1】特開平5−63212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した全く別の工程、基板で製造したMEMS構造体と半導体装置とを電気機械的に貼り合せてシステム化する手法では、表面実装方式またはチップボンディング構造のデバイスとなるため、小型化という観点からは不利である。近年、RFID(Radio Frequency IDentification)を用いたユビキタス環境でのセンシングが望まれている。このため、小型で、MEMSセンサ構造体、計測・制御電子回路および外部入出力回路等が同一チップ上に配置されるシステム・オン・チップ(System on Chip : SoC)構造化への要請が高い。従って、上述した全く別の工程、基板で製造したMEMS構造体と半導体装置とを電気機械的に貼り合せてシステム化する従来の手法には、SoC構造化への要請に応じることが極めて困難であるという問題があった。
【0009】
上述したSi基板を加工して得られるMEMS構造体は単結晶Siを材料とすることに限定されてしまうため、構造化のプロセス、必要とされる機械特性および使用される環境等に合わせた材料の選択が困難であるという問題があった。
【0010】
上述したように、MEMS構造体の製造(MEMS構造化)への従来の加工技術の応用には種々の制限があり、これを回避するためには、複雑なプロセスを経る必要があるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記問題を解決するためになされたものであり、小型で、SoC構造化への要請に応じることが可能な微小光電気機械素子加速度センサおよびその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の第2の目的は、単結晶Siを材料とすることに限定されず、構造化のプロセス、必要とされる機械特性および使用される環境等に合わせた材料の選択が可能なMEMS構造体による微小光電気機械素子加速度センサ等を提供することにある。
【0013】
本発明の第3の目的は、複雑なプロセスを経ることなく、従来の加工技術をMEMS構造体の製造へ援用することができる微小光電気機械素子加速度センサ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明の微小光電気機械素子加速度センサは、微小電気機械素子により形成されたファブリ・ペロ型光共振器と、該ファブリ・ペロ型光共振器の下部に設けられた錘及び光取り出し開口部とを備えたことを特徴とする。
【0015】
ここで、この発明の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記ファブリ・ペロ型光共振器は、前記光取り出し開口部側と光導入側とに各々設けられた複数種類の薄膜を交互に積層した多層膜構造体により空気層を挟んだ構造を有することができる。
【0016】
ここで、この発明の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記複数種類の薄膜は高屈折率及び低屈折率の2種類の誘電体薄膜とすることができる。
【0017】
ここで、この発明の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記誘電体薄膜はSiO2、Ta2O5又はTaOxNyのいずれか2つの組合とすることができる。
【0018】
この発明の微小光電気機械素子加速度センサ製造方法は、本発明のいずれかの微小光電気機械素子加速度センサの多層膜構造体を電子サイクロトロン共鳴プラズマ成膜により形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の微小光電気機械素子加速度センサ(光MEMS加速度センサ)は、MEMSにより形成されたファブリ・ペロ型光共振器と、ファブリ・ペロ型光共振器の下部に設けられた錘および光取り出し開口部とを備えている。ファブリ・ペロ型光共振器は、光取り出し開口部側と光導入側とに各々設けられた複数種類の薄膜を交互に積層した2つの多層膜構造体(上層多層膜構造体よび下層多層膜構造体)により空気層を挟んだ構造を有している。この複数種類の薄膜の基本膜厚は1μm以下であり、屈折率の異なる誘電体薄膜とすることが好適である。例えば、高屈折率の誘電体薄膜と低屈折率の誘電体薄膜との2種類の誘電体薄膜とすればよい。光MEMS加速度センサにおいて、加速度検出を行う基本部分はファブリ・ペロ型光共振器である。上層および下層の2つの多層膜構造(上層および下層の2つのメンブレン)が重力加速度を受けた時、錘が取り付けられた下層メンブレンと、上層メンブレンとではその撓み量が異なるため、両メンブレンの中心部における空気層の厚みは重力加速度の変化に対応して変化する。この時、ファブリ・ペロ型光共振器に外部(光導入側)から光を導入すると、重力加速度が反映された分光波形が光取り出し開口部から取り出される。この結果、光MEMS加速度センサはファブリ・ペロ型光共振器を用いて加速度検出を行うことができる。
【0020】
光MEMS加速度センサのメンブレンの作製は、室温で形成できるECRプラズマ成膜により形成する。即ち、1000℃級で成膜する従来の成膜手法と同等の品質の薄膜を、より低温プロセス且つ簡略化した工程で成膜することができるため、半導体電子回路とのSoc化を可能とすることができる。MEMS加速度センサのメンブレンの基本膜厚は1μm以下であるため、半導体集積回路の製造を目的に高品位の薄膜を形成する従来の装置および加工技術をそのまま援用することが可能であり、構造化材料の選択性の拡大、構造プロセスの簡略化を可能とすることができる。さらに、MEMS加速度センサにより例示されるように、従来は単結晶Siを材料とすることに限定されていたMEMS構造体を種々の材料に置き換えることも可能であり、構造化のプロセス、必要とされる機械特性および使用される環境等に合わせた材料の選択が可能なMEMS構造体によるMEMS加速度センサを提供することができる。以上より、MEMS加速度センサの経済性、高感度・広帯域測定性、高機能化、高信頼化を実現することが可能であるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、実施例について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
図1は本発明の実施例1における光MEMS加速度センサ(微小光電気機械素子加速度センサ)10を示す。図1において、符号11、13は各々低屈折率の誘電体薄膜15と高屈折率の誘電体薄膜14とを交互に積層することにより形成された多層膜構造体、12は多層膜構造体11と13との間に挟まれた空気層、16は多層膜構造体11および13と空気層12とにより形成されるファブリ・ペロ型光共振器、17は多層膜構造体11および13を支持・固定するスペーサ、18はファブリ・ペロ型光共振器16の下部に取り付けられた錘、19は光取り出し開口部である。
【0023】
図1に示されるように、本発明の実施例1における光MEMS加速度センサ10では、背景技術で説明したような従来構造のはりバネは見られず、従来構造とは全く異なる新規の構造となっている。即ち、本発明の実施例1における光MEMS加速度センサ10は、MEMSにより形成されたファブリ・ペロ型光共振器16と、ファブリ・ペロ型光共振器16の下部に設けられた錘18および光取り出し開口部19とを備えている。光取り出し開口部19は、図1に示されるように左右の錘18の中央部に設けることが好適である。ファブリ・ペロ型光共振器16は、光取り出し開口部19側と光導入側Aとに各々設けられた複数種類の薄膜14および15を交互に積層した多層膜構造体11と13とにより空気層12を挟んだ構造を有している。この複数種類の薄膜14および15は、屈折率の異なる誘電体薄膜とすることが好適であり、例えば上述のように、高屈折率の誘電体薄膜14と低屈折率の誘電体薄膜15との2種類の誘電体薄膜とすればよい。
【0024】
光MEMS加速度センサ10において、加速度検出を行う基本部分はファブリ・ペロ型光共振器16である。多層膜構造11および13は低屈折率の誘電体薄膜15により支持・固定されているため、メンブレン構造となっている(以下、多層膜構造11をメンブレン11、多層膜構造13をメンブレン13とも言う。)。このメンブレン11および13が重力加速度を受けた時、錘18が取り付けられたメンブレン13と、上部(光導入側A)のメンブレン11とではその撓み量が異なるため、両メンブレン11および13の中心部における空気層12の厚みは重力加速度の変化に対応して変化する。この時、ファブリ・ペロ型光共振器16に外部(光導入側A)から光を導入すると(詳しくは、メンブレン11の上部からメンブレン13へ向けて光を導入すると)、重力加速度が反映された分光波形が光取り出し開口部19から取り出される。以上のようにして、光MEMS加速度センサ10はファブリ・ペロ型光共振器16を用いて加速度検出を行うことができる。
【0025】
図2は、光MEMS加速度センサ10において計算から得られた典型的な分光波形を示す。図2で、横軸は波長(Wavelength(nm))、縦軸は強度(Intensity(a.u.))である。原図では透過率(Transmittance)は黒三角および黒線で表示され、反射率(Reflectance)は赤三角および赤線で表示されているが、出願図面では白黒でしか表示できないため、透過率の方をT、反射率の方をRと付してある。ファブリ・ペロ型光共振器16の設計波長はλ=780nmとした。この時、メンブレン11および13を構成する低屈折率の誘電体薄膜15(SiO2:屈折率n=1.5)および高屈折率の誘電体薄膜14(Ta2O5:屈折率n=1.9)の厚みはλ/4、空気層12の厚みはλ/2である。図2に示されるように、設計波長λ=780nmにおいて、反射率0%、透過率100%となっていることがわかる。詳しくは、反射率は685nmあたりから上がってほぼ1.0となり780nm直前で1.0から急峻に下がり、780nmで0となり、780nm直後に0から1.0へ急峻に上がっている。一方、透過率は685nmあたりから下がってほぼ0となり780nm直前で0から急峻に上がり、780nmで1.0となり、780nm直後に1.0から0へ急峻に下がっている。透過率は780nmで最大値1.0となっており、その強度が半分になるスペクトルの幅(半値全幅。Full Width with Half-Maximum : FWHM)は1nm以下と非常に小さい。これらはファブリ・ぺロ型光共振器10の特徴的な性質である。以上のスペクトルは一般的な分光測定系を用いることで容易に検出することができる。
【0026】
図3は、光MEMS加速度センサ10を構成する時の単一薄膜の光損失の計算結果を示す。光MEMS加速度センサ10のメンブレン11等の作製においては電子サイクロトロン共鳴(Electron Cyclotron Resonance : ECR)プラズマ成膜により形成するため、ECR装置により作製された薄膜の表面状態を反映させて計算を行った(参照文献:Y.
Jin et al., Electron-cyclotron-resonance sputtering apparatus for multilayered
optical bandpass filters to wavelength division multiplexing, JVST A22, p.2431)。図3で、横軸はECR薄膜の表面粗さRrms(Surface roughness σ(nm))、縦軸は500nm単位の散乱損失(Scattering loss(%)@500nm)である。原図では波長λ=500nmを黒丸および黒線、波長λ=780nmを赤四角および赤線で表示してあるが、出願図面では白黒でしか表示できないため、波長λ=500nm、波長λ=780nmと付してある。参照文献によれば、ECR薄膜の表面粗さRrmsは〜0.2nm程度(図3では0.2nm付近の縦線Bで示す。)である。図3の縦線Bと波長λ=500nmおよび780nmの両グラフとの交わる付近に示されるように、計算からECR薄膜の光損失は、計算したいずれの設計波長(λ=500nm、780nm)においても、10−3%程度と非常に低い値である。これは、ECR技術を用いることにより光損失の少ない光MEMS加速度センサ10を実現することができることを示している。
【0027】
図4は、低屈折率の誘電体薄膜15および高屈折率の誘電体薄膜14の組合せを変えた場合における光MEMS加速度センサ10の計算された分光波形を示す。用いる誘電体薄膜(材料)15および14は、SiO2(屈折率n=1.5)、Ta2O5(屈折率n=1.9)またはTaOxNy(屈折率n=2.9)のいずれか2つの組合せである。図4で、横軸は波長(Wavelength(nm))、縦軸は透過率(Transmittance(%))である。原図では、SiO2を低屈折率の誘電体薄膜15としTa2O5を高屈折率の誘電体薄膜14とする組合せ(C1)を黒丸および黒線、Ta2O5を低屈折率の誘電体薄膜15としTaOxNyを高屈折率の誘電体薄膜14とする組合せ(C2)を青四角および青線、SiO2を低屈折率の誘電体薄膜15としTaOxNyを高屈折率の誘電体薄膜14とする組合せ(C3)を赤三角および赤線で表示してあるが、出願図面では白黒でしか表示できないため、各々C1,C2、C3と付してある。図4に示されるように、いずれの計算結果においても、設計波長780nmで鋭いピークが現れており、ピーク波長の長波長および短波長の両サイドでは低反射率を示している。上記両サイドではしばらく低反射を示すが、その後、ピーク波長から徐々に透過スペクトル(サイドバンドスペクトル)が現れてきている。屈折率比を高屈折率nH/低屈折率nLと定義すると、組合せC1の屈折率比は1.9/1.5〜1.2、組合せC2の屈折率比は2.9/1.9〜1.5、組合せC3の屈折率比は2.9/1.5〜1.9となり、組合せC1、C2およびC3の順に屈折率比は大きくなる。図4に示されるように、組合せの屈折率比が大きくなると、短波長および長波長のサイドバンドスペクトルが現れる波長城(設計波長780nmに対してサイドバンドスペクトルが現れるまでの透過率0の領域の幅)が幅広くなっていることがわかる。具体的には、組合せC1の波長域は170nm、C2は250nm、C3は340nmとなっている。この波長域(幅)で空気層12の厚みの変化が可能である。
【0028】
図5は、光MEMS加速度センサ10の空気層12の厚みを変化させた時における分光波形の計算結果を示す。図5で、横軸は波長(Wavelength(nm))、縦軸は透過率(Transmittance(%))である。誘電体薄膜(材料)15および14は各々SiO2およびTa2O5(組合せC1。屈折率比〜1.2)であり、設計波長は780nmである。空気層12の厚みは、設計波長780nmに対して、λ/2であるため、390nmとなる。この値から、図5に示される凡例LD中の数字を引いたものが空気層12の厚みである。例えば、図5の曲線R1は空気層12の厚みが390−100(=凡例LD中の一番上の数字)=290nmの場合の分光波形を示し、曲線R2は空気層12の厚みが390−145(=凡例LD中の一番下の数字)=245nmの場合の分光波形を示している。凡例LD中の数字は0nmから145nmまでとすることができるが、図5では、図面の都合上、100nmから145nmまでの範囲のプロットになっている。図5に示されるように、空気層12の厚みを薄くしていくと(図5の曲線R1からR2への方向の矢印で示す。)、ピーク波長は、780nmよりも短波長側へ移動していくことが確認できる。これとは逆に、空気層12の厚みが厚くなるとピーク波長は長波長側へ移動していく。図6は組合せC2(屈折率比〜1.5)の場合における図5と同様の分光波形の計算結果を示し、図7は組合せC3(屈折率比〜1.9)の場合における図5と同様の分光波形の計算結果を示す。図6および7で、縦軸、横軸は図5と同様であるため説明は省略する。但し、凡例LD中の数字は0nmから145nmまでとなっており、0nmから145nmまでの範囲のプロットになっている。図5ないし7に示されるように、屈折率比が大きくなる薄膜の組合せほど同じ空気層12の厚みの変化に対してピーク波長の移動範囲が広い。この結果、屈折率比が大きくなる薄膜の組合せが大きな波長変化に対応できることがわかる。
【0029】
図8は、図5の空気層12の厚みの変化に対してピーク波長の変化およびピーク強度へ読み替えたものを示す。図8で、横軸は空気層12の厚み(変位)に対応する図5の凡例LD中の数字(Variation of air gap(nm))、左側の縦軸は空気層12の厚みに対応するピーク波長の変化(Wavelength(nm))であり、楕円E1で囲まれたデータに関してはその矢印の方向にある左側の縦軸が対応し、右側の縦軸は空気層12の厚みに対応するピーク波長の強度(Transmittance×100(%))であり、楕円E2で囲まれたデータに関してはその矢印の方向にある右側の縦軸が対応する。原図では、組合せC1を黒丸および黒線、組合せC2を青四角および青線、組合せC3を赤三角および赤線で表示してあるが、出願図面では白黒でしか表示できないため、各々C1,C2、C3と付してある。
【0030】
図8に示されるように、空気層12の厚みの変化に対してピーク強度はほとんど100%と一定である。ピーク波長は空気層12の厚みが薄くなっていくと短くなっていく。しかし、空気層12の厚みが薄い領域では、わずかではあるが線形性が失われていることが確認できる。この領域でも、光の波長から加速度を検出可能であるが、補正を要する。加速度の検出を光の波長から直接計測するために、線形性が失われていない部分を利用する。この線形性は相対誤差が±5%の範囲で決定した。図8に示されるように、組合せC1では直線L1で示される付近まで、組合せC2では直線L2示される付近まで、組合せC3では直線L3示される付近までは相対誤差が±5%であり、線形性が保たれているものとする。空気層12の厚みの変化は錘18により調整可能であるため、ピーク波長のずれを重力加速度の変化に割り当てることが可能である。つまり、錘18の重さと最大重力加速度(100g)とにより決まる空気層12の変位と、線形性の相対誤差が±5%の範囲で計測に有効な最大ピーク波長のずれとを対応させることが可能である。この波長の変化を加速度計測に必要な桁数で割ると、加速度計測に必要な分光測定系の波長分解能を見積もることができる。例えば、組合せC3のグラフの場合、図8に示されるように相対誤差が±5%に収まる有効ピーク波長は、左縦軸780nmから660nmを引いた120nmであり、この波長の変化の値を加速度計測定器に必要な0.1〜100gまでの桁数1000で割ったものが、加速度計測に必要な分光測定系の波長分解能Δλとなる。従って、例の場合、波長分解能Δλは、120nm/1000=0.12nmとなる。従来の加速度計測デバイスでは1〜2弱桁程度の加速度計側を行っていることを考慮すると、本発明の光MEMS加速度センサ10では上記桁程度の計測は容易に行うことができるということがわかる。ここで、0.1〜100gまでの加速度を計測する場合、各組合せC1等についての波長分解能△λは図8の上に示される枠内の値となる(組合せC1:Δλ=0.049nm、組合せC2:Δλ=0.076nm、組合せC3:Δλ=0.120nm)。これらの波長分解能の分光計測系を用いることにより、幅の広いダイナミックレンジを持った加速度計側も可能となる。
【0031】
図9は、多層膜構造(メンブレン11等)の平面図を示す。図9に示されるように、メンブレン11等の形状は正方形であり、その一辺の長さは2aである。その正方形の外周部20がメンブレン11等の固定部分となっている。ここで、一辺2aのメンブレン11等に等分布加重P(Pa)を加えた時、メンブレン11等の中央部の撓み量(メンブレン11であれば空気層12方向へ撓む撓み量)w(m)は以下の式1で表される。
【0032】
w = 0.221×(Pa4/Eh3) (1)
【0033】
ここで、Eはメンブレン11等のヤング率(Pa)、hはメンブレン11等の厚み(m)、P=ρgh(ρは密度。gは重力加速度)、aはメンブレン11等の一辺÷2である。式1を用いて、光MEMS加速度センサ10ヘ取付ける錘18の厚みtを機械力学的計算により求める。簡略化のためメンブレン11等および錘18はSiで構成すると仮定した場合、ρ=2330kg/m3、E=160GPaとなる。hは、錘18の厚みtを考慮する場合、h+tとする。
【0034】
図10は、僥み量wの計算のためのモデル光MEMS加速度センサ10の概略図である。図10で図1と同じ符号を付した箇所は同じ要素を示すため、説明は省略する。僥み量wの計算において、メンブレン11等を構成する材料は組合せC1、即ちSiO2およびTa2O5であり、10対(pairs)のSiO2/Ta2O5で空気層12を挟むことにより、ファブリ・ぺロ型光共振器16を構成している。図10に示されるように、hは鍾18(Si)の厚みtを含めた下層メンブレン13の厚みとしている。
【0035】
図11は、Si錘18の厚みtを変えた場合の空気層12の変位量dを示す。図11で、横軸はSi錘18の厚みt(thickness of weight t(μm))、縦軸は空気層12の変位量d(Displacement d(nm))である。原図ではメンブレン11等の一辺2aが1.0mmの場合は黒、5.0mmの場合は水色と表示されているが、出願図面では白黒でしか表示できないため、各々1.0、2.0、3.0、4.0、5.0と付してある。空気層12の変位量dは以下の式2で表される。
【0036】
d = w − w0 (2)
【0037】
ここで、w0はSi鍾18がない場合、即ち上層メンブレン11の僥み量、wはSi錘18がある場合、即ち下層メンブレン13の僥み量である。式1の計算におけるヤング率EはSiのものとして仮定したため、上述のようにE=160GPaとなる。下層メンブレン13の僥み量wの場合はメンブレン13の厚みをh+tとするため、式2の計算、従って式1の計算におけるパラメータは、錘18の厚みtおよびメンブレン11等の一辺の長さ(窓の大きさ)2aである。図11に示されるように、窓の大きさ2aに関わらず、錘18の厚みtが僅かに与えられた領域(t〜0.3位までの領域)では、空気層12の変位量dは急激な変化をしている。しかし、錘18の厚みtが厚い領域(t>0.5の領域)では、空気層12の変位量dは一定の値に収束する傾向にある。空気層12の厚みの最大変位量を100nmとすれば、図11に示されるように、100nm一定の線と計算曲線とが交差するのは、窓の大きさ2aが2mm以上の場合である。
【0038】
図12は、重力加速度に対する空気層12の変位量を示す。図12で、横軸は重力定数(Gravitational constant(g))、縦軸は空気層12の変位量(Displacement d(nm))である。原図では錘18の厚みtが0.3μmの場合は黒、2.0μmの場合は橙、5.0μmの場合は緑で表示されているが、出願図面では白黒でしか表示できないため、各々0.3、2.0、5.0と付してある。この場合、式1の計算における窓の大きさ2aは2mm(即ちa=1mm)とし、メンブレン11の厚みはhとし、メンブレン13の厚みはh+tとした。その他の値は上述と同様である。計算におけるパラメータは、重力加速度Gおよび錘の厚みtである。重力加速度gは等分布加重Pに変換して計算を行った。図12に示されるように、錘18の厚みtおよび重力加速度が大きくなるにつれて、空気層12の変位量dは大きくなっていることがわかる。空気層12の厚みの最大変位量を100nmとすれば、図12に示されるように錘18の厚みtは0.3μm以下とすることが好適である。従って、錘18の作製には、nm精度の成膜が行える従来の半導体デバイス製造技術が十分利用可能であることがわかる。
【0039】
以上より、本発明の実施例1によれば、光MEMS加速度センサ10は、MEMSにより形成されたファブリ・ペロ型光共振器16と、ファブリ・ペロ型光共振器16の下部に設けられた錘8および光取り出し開口部19とを備えている。ファブリ・ペロ型光共振器16は、光取り出し開口部19側と光導入側Aとに各々設けられた複数種類の薄膜14および15を交互に積層した多層膜構造体13と11とにより空気層12を挟んだ構造を有している。この複数種類の薄膜14および15の基本膜厚は1μm以下であり、屈折率の異なる誘電体薄膜とすることが好適である。例えば、高屈折率の誘電体薄膜14と低屈折率の誘電体薄膜15との2種類の誘電体薄膜とすればよい。光MEMS加速度センサ10において、加速度検出を行う基本部分はファブリ・ペロ型光共振器16である。多層膜構造11および13(メンブレン11および13)が重力加速度を受けた時、錘18が取り付けられたメンブレン13と、上部(光導入側A)のメンブレン11とではその撓み量が異なるため、両メンブレン11および13の中心部における空気層12の厚みは重力加速度の変化に対応して変化する。この時、ファブリ・ペロ型光共振器16に外部(光導入側A)から光を導入すると、重力加速度が反映された分光波形が光取り出し開口部19から取り出される。以上のようにして、光MEMS加速度センサ10はファブリ・ペロ型光共振器16を用いて加速度検出を行うことができる。
【0040】
光MEMS加速度センサ10のメンブレン11等の作製は、室温で形成できるECRプラズマ成膜により形成する。即ち、1000℃級で成膜する従来の成膜手法と同等の品質の薄膜を、より低温プロセス且つ簡略化した工程で成膜することができるため、半導体電子回路とのSoc化を可能とすることができる。つまり、小型で、SoC構造化への要請に応じることが可能な光MEMS加速度センサ10およびその製造方法を提供することができる。光MEMS加速度センサ10のメンブレン11等の基本膜厚は1μm以下であるため、半導体集積回路の製造を目的に高品位の薄膜を形成する従来の装置および加工技術をそのまま援用することが可能であり、構造化材料の選択性の拡大、構造プロセスの簡略化を可能とすることができる。即ち、複雑なプロセスを経ることなく、従来の加工技術をMEMS構造体の製造へ援用することができる光MEMS加速度センサ10を提供することができる。さらに、光MEMS加速度センサ10により例示されるように、従来は単結晶Siを材料とすることに限定されていたMEMS構造体を種々の材料に置き換えることも可能であり、構造化のプロセス、必要とされる機械特性および使用される環境等に合わせた材料の選択が可能なMEMS構造体による光MEMS加速度センサ10を提供することができる。以上より、光MEMS加速度センサ10の経済性、高感度・広帯域測定性、高機能化、高信頼化を実現することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の活用例として、加速度センサ以外の機械的、物理的に稼動する構造体を有する電子、電気、化学、物理素子のMEMS構造化に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施例1における微小光電気機械素子加速度センサを示す図である。
【図2】光MEMS加速度センサ10において計算から得られた典型的な分光波形を示す図である。
【図3】光MEMS加速度センサ10を構成する時の単一薄膜の光損失の計算結果を示す図である。
【図4】低屈折率の誘電体薄膜15および高屈折率の誘電体薄膜14の組合せを変えた場合における光MEMS加速度センサ10の計算された分光波形を示す図である。
【図5】光MEMS加速度センサ10の空気層12の厚みを変化させた時における分光波形の計算結果を示す図である。
【図6】組合せC2(屈折率比〜1.5)の場合における図5と同様の分光波形の計算結果を示す図である。
【図7】組合せC3(屈折率比〜1.9)の場合における図5と同様の分光波形の計算結果を示す図である。
【図8】図5の空気層12の厚みの変化に対してピーク波長の変化およびピーク強度へ読み替えたものを示す図である。
【図9】多層膜構造(メンブレン11等)の平面図である。
【図10】僥み量wの計算のためのモデル光MEMS加速度センサ10の概略図である。
【図11】Si錘18の厚みtを変えた場合の空気層12の変位量dを示す図である。
【図12】重力加速度に対する空気層12の変位量を示す図である。
【図13】はり構造のバネ(はりバネ)を採用した従来の加速度センサの原理および構造を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 はりバネ、 2、18 錘、 3 ベース、 10 光MEMS加速度センサ、 11、13 多層膜構造体(メンブレン)、 12 空気層、 16 ファブリ・ペロ型光共振器、 17 スペーサ、 19 光取り出し開口部、 20 メンブレン固定部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小電気機械素子により形成されたファブリ・ペロ型光共振器と、該ファブリ・ペロ型光共振器の下部に設けられた錘及び光取り出し開口部とを備えたことを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ。
【請求項2】
請求項1記載の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記ファブリ・ペロ型光共振器は、前記光取り出し開口部側と光導入側とに各々設けられた複数種類の薄膜を交互に積層した多層膜構造体により空気層を挟んだ構造を有することを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ。
【請求項3】
請求項2記載の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記複数種類の薄膜は高屈折率及び低屈折率の2種類の誘電体薄膜であることを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ。
【請求項4】
請求項3記載の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記誘電体薄膜はSiO2、Ta2O5又はTaOxNyのいずれか2つの組合せであることを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の微小光電気機械素子加速度センサの多層膜構造体を電子サイクロトロン共鳴プラズマ成膜により形成することを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ製造方法。
【請求項1】
微小電気機械素子により形成されたファブリ・ペロ型光共振器と、該ファブリ・ペロ型光共振器の下部に設けられた錘及び光取り出し開口部とを備えたことを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ。
【請求項2】
請求項1記載の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記ファブリ・ペロ型光共振器は、前記光取り出し開口部側と光導入側とに各々設けられた複数種類の薄膜を交互に積層した多層膜構造体により空気層を挟んだ構造を有することを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ。
【請求項3】
請求項2記載の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記複数種類の薄膜は高屈折率及び低屈折率の2種類の誘電体薄膜であることを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ。
【請求項4】
請求項3記載の微小光電気機械素子加速度センサにおいて、前記誘電体薄膜はSiO2、Ta2O5又はTaOxNyのいずれか2つの組合せであることを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の微小光電気機械素子加速度センサの多層膜構造体を電子サイクロトロン共鳴プラズマ成膜により形成することを特徴とする微小光電気機械素子加速度センサ製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−168687(P2009−168687A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−8455(P2008−8455)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月1日 社団法人精密工学会東北支部主催の「2007年度精密工学会東北支部学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年12月1日 社団法人精密工学会東北支部主催の「2007年度精密工学会東北支部学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】
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