微生物への電子供与体供給方法及びその装置並びにそれを利用したバイオリアクター
【課題】 電子供与体を隅々まで供給してリアクターの大型化や薄型化が可能となる微生物への電子供与体供給方法及び装置を提供する。ポンプや制御装置などを用いずに簡易に微生物への電子供与体供給を実現できる方法及び装置を提供する。
【解決手段】非多孔性膜2を少なくとも一部に備える密封構造の容器4の中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物3と共に揮発性有機物3を浸透させ得る液体浸透部材13を収容し、液体浸透部材13の全面に浸透している揮発性有機物13を非多孔性膜2の隅々まで供給し、揮発性有機物3を容器4の非多孔性膜2の部分から非多孔性膜2の分子透過性能に支配される速度で容器4の周辺の微生物に供給する。
【解決手段】非多孔性膜2を少なくとも一部に備える密封構造の容器4の中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物3と共に揮発性有機物3を浸透させ得る液体浸透部材13を収容し、液体浸透部材13の全面に浸透している揮発性有機物13を非多孔性膜2の隅々まで供給し、揮発性有機物3を容器4の非多孔性膜2の部分から非多孔性膜2の分子透過性能に支配される速度で容器4の周辺の微生物に供給する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物への電子供与体供給方法及びその装置並びにそれを利用したバイオリアクターに関する。さらに詳述すると、本発明は、微生物を利用した生物学的処理により被処理液中に存在する物質、例えばアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオン等の窒素化合物を効率良く除去するための微生物への電子供与体供給方法及びその装置並びにそれを利用したバイオリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用した生物学的処理を行う際には、アルコールなどの有機物を微生物のエネルギー源となる電子供与体として供給しなければならない場合がある。例えば、被処理液中に存在するアンモニア等の窒素化合物を生物学的処理によって除去する下水処理プロセスにおいては、硝化反応の後の脱窒反応の際に、脱窒反応を速めるために、メタノールが微生物のエネルギー源となる電子供与体として制御装置により制御されるポンプ装置によって必要量だけ供給されるようにしている(特許文献1)。
【0003】
また、被処理液中に存在するアンモニア等の窒素化合物の除去に有効な微生物が固定化されたシート状の高分子ゲルの一面に被処理液を接触させ、他面に脱窒処理に必要なエネルギー源としての電子供与体を接触させる形式の窒素除去バイオリアクター(特許文献2並びに3)においても、微生物のエネルギー源となるアルコールを電子供与体として供給するようにしている。アルコールの供給は、バイオリアクター内に形成された高分子ゲル担体の内側の空間とアルコール貯留槽とを配管で連結した循環路を利用して、循環ポンプや様々なバルブや計器類などを操作してアルコールの供給タイミング並びに量を制御している。
【0004】
ここで、アルコールの供給が過剰であると、微生物が消費しきれずに水中などにアルコールが残留して水質を悪化させる虞があり、その反面、アルコールの供給量が少ないと、エネルギー源不足となって脱窒反応が不十分となり亜硝酸濃度が高まる問題が生ずる。そこで、アルコールの供給は、ポンプなどを用いてその供給量とタイミングが制御され、アルコール貯留タンクから10容量%程度の濃度に希釈されたアルコールが供給されるように設けられている。
【0005】
【特許文献1】特許第3260554号
【特許文献2】特許第3340356号
【特許文献3】特許第2887737号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、従来のバイオリアクターにおける微生物への電子供与体供給方法は、脱窒菌のエネルギー源となる電子供与体であるメタノールやエタノール等のアルコール溶液の供給量を一定量に維持するためのポンプや制御装置などの一連の設備が必要であり、設備が大型化すると共に設備操作も複雑化することから、ランニングコストが高くなるという問題を有している。
【0007】
また、メタノールやエタノール等のアルコール溶液が高濃度の場合、前記溶液を微生物に直接接触させると微生物が死に至ることがあり、前記溶液は必ず水で希釈して微生物が死なない程度の濃度に調整しなければならないという煩わしさも有している。しかも、アルコール原液を使うことができないため、希釈して貯蔵しなければならず、その分だけ貯留タンクが大型化してしまう問題を有している。さらに、従来の微生物への電子供与体供給方法は、アルコールを希釈したものをそのまま微生物に供給するようにしているため、不純物の多い廃アルコールなどを利用できない問題がある。例えば、茶の精製過程で生じる廃アルコールには、カテキンが含まれるため、これをエネルギー源として用いると、希釈して用いても微生物を死滅させる虞がある。そこで、不純物を除いた状態で用いなければならないため、廃アルコールの再利用が事実上できなかった。
【0008】
さらに、特許文献2あるいは3に記載されているような、微生物が固定化されたシート状の高分子ゲルで囲まれた空間内に、脱窒菌に必要なエネルギー源としての電子供与体を接触させる形式の窒素除去バイオリアクターにおいては、リアクターから溢れ出ない程度の量のアルコールを供給パイプでリアクターの中に供給しなければならないため、リアクターを大型化するほどアルコールを隅々までうまく拡散することが困難となり、大型化が難しい。また、このようなアルコールの供給方法では、装置の薄型化を図ることが難しい。
【0009】
そこで、本発明は、電子供与体を隅々まで供給してリアクターの大型化や薄型化が可能となる微生物への電子供与体供給方法及び装置を提供することを目的とする。また、本発明は、ポンプや制御装置などを用いずに簡易に微生物への電子供与体供給を実現できる方法及び装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は廃アルコールをエネルギー源として再利用可能な微生物への電子供与体供給方法および装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は微生物への電子供与体供給に関し、管理の必要のないコンパクトなバイオリアクターを提供することを目的とする。さらに、本発明は被処理液中に存在する有害物質、例えばアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンなどを効率良く除去するためのバイオリアクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するための本発明の微生物への電子供与体供給装置は、微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物(以下、単に揮発性有機物と呼ぶこともある。)と、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器とを含み、容器内に揮発性有機物と共に液体浸透部材を収容し、揮発性有機物を容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の微生物に供給するものである。また、本発明の微生物への電子供与体供給方法は、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物と共に揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を収容し、液体浸透部材の全面に浸透している揮発性有機物を非多孔性膜の隅々まで供給し、揮発性有機物を容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の微生物に供給するようにしている。
【0012】
また、かかる課題を解決するための本発明の微生物への電子供与体供給装置は、微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜を一部に備える密封構造の容器と、容器に設けられた揮発性有機物を補充し得る供給口とを含み、供給口から揮発性有機物を補充することにより液体浸透部材に揮発性有機物を浸透させ、揮発性有機物を容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の微生物に供給するものである。また、本発明にかかる微生物への電子供与体供給方法は、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を収容すると共に揮発性有機物を補充し得る供給口を容器に設けて、供給口から揮発性有機物を補充することにより液体浸透部材に揮発性有機物を浸透させ、液体浸透部材の全面に浸透している揮発性有機物を非多孔性膜の隅々まで供給し、揮発性有機物を容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の微生物に供給するようにしている。
【0013】
容器内に収容された液体浸透部材には、揮発性有機物が毛管現象により隅々まで均一に浸透するので、液体浸透部材と接触している非多孔性膜の面の隅々まで揮発性有機物を供給することができる。したがって、液体浸透部材と接触している非多孔性膜の面全体から揮発性有機物を均一に徐放することができる。
【0014】
また、容器内に収容された液体浸透部材は、液体を保持すると共に液体の通路として機能する。また、スペーサーとしての役割も果たす。したがって、容器の一部あるいは全体に押圧力が掛かって潰れた場合にも、揮発性有機物の浸透経路が確保されて、液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透するので、揮発性有機物の徐放面積を減少させることがない。
【0015】
液体浸透部材に浸透している揮発性有機物は、非多孔性膜の分子透過性能に支配される緩やかな速度で徐放されるので、容器周辺の微生物に対し生存に影響を与えることのない濃度に希釈された状態で微生物に電子供与体として供給される。しかも、揮発性有機物の透過速度は、非多孔性膜の分子透過性能に支配されるので、この分子透過性能を膜材料や膜厚、膜密度などで調整することにより、微生物が必要とする量の電子供与体を常時緩やかに供給することができる。
【0016】
また、揮発性有機物を補充し得る供給口を設けることにより、容器内の揮発性有機物の減少分を補充することが可能となるので、微生物が必要とする量の電子供与体を長期に亘って緩やかに供給することが可能となる。
【0017】
ここで、本発明の電子供与体供給装置の容器は特定の形状に限定されるものではないが、非多孔性膜だけで袋状に形成し、液体浸透部材と揮発性有機物を収容しているものであることが好ましい。容器を袋状とすることで、非常に使いやすい形態となり、容器内の揮発性有機物を消費し尽くして容器周辺の微生物に揮発性有機物を供給できなくなった場合には、液体浸透部材と揮発性有機物を密封した新しい袋と交換するだけで、微生物に対して再び揮発性有機物を供給制御することができる。また、液体浸透部材は袋の内部全体に配置されるようにして収容することが好ましい。液体浸透部材をこのように収容することで、非多孔性膜の全面から均一に揮発性有機物を徐放させることができる。つまり、容器の大きさに対する揮発性有機物の徐放面を最大化できる。
【0018】
また、前記したように、容器には揮発性有機物を補充する供給口を設けることが好ましく、もしくは容器を揮発性有機物貯留タンクと連通し、必要に応じて揮発性有機物を補充可能とする供給ノズルを備えることが好ましい。この場合には、タンク内に揮発性有機物の原液を貯留しておけば、袋内に収容された液体浸透部材に浸透している揮発性有機物が減少した場合に、揮発性有機物がタンクと容器の圧力差により補充できる。
【0019】
ここで、容器下部に押圧力が掛かると、液体浸透部材に浸透していない余剰分の揮発性有機物が押圧力の掛かっていない容器上部へ移動して貯留される。この場合、押圧力が掛かっている容器下部においては、揮発性有機物の浸透経路が確保されて液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透すると共に、押圧力により容器がつぶされて薄くなる。また、押圧力が掛けられていない容器上部には揮発性有機物が貯留される。したがって、貯留している揮発性有機物を、液体浸透部材に浸透している揮発性有機物の減少分だけ供給して、容器の下部の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放することができる。
【0020】
前記のような形態は容器を予め加工して得ることも可能である。例えば、容器を二領域に区画すると共に二領域に跨って液体浸透部材を配置することにより当該二領域を連通し、二領域のうちの一方の領域に前記揮発性有機物を貯留するようにしてもよい。
【0021】
また、本発明の微生物への電子供与体供給装置は、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜とを含み、液体浸透部材が二枚の非多孔性膜で挟持された積層体が形成されていると共に、積層体の周縁部がヒートシールされて液体浸透部材の毛管構造が閉塞されているものである。このような構造の微生物への電子供与体供給装置は、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、積層体の周縁部をヒートシールして液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む製造方法により得られる。また、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、微生物を担持させ得る担体及び積層体を外部衝撃から保護する保護材のうちのいずれか一方もしくは双方を積層体の表面に備える工程と、積層体の周縁部をヒートシールして液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む製造方法により得られる。
【0022】
したがって、ヒートシールされた積層体の周縁部では、液体浸透部材の毛管構造が閉塞される。また、積層体の周縁部では液体浸透部材と非多孔性膜が溶着しているので、揮発性有機物が浸透する領域が密閉された状態となる。また、この場合には、積層体の周縁部をヒートシールするだけで揮発性有機物が浸透する密閉領域を形成することができるので、その作製が非常に容易である。また、非多孔性膜の表面に微生物を担持し得る担体及び積層体を外部衝撃から保護する保護材のうちのいずれか一方もしくは双方をさらに備えている場合でも、積層体の周縁部を担体や保護材ごとヒートシールすることで、容易に多層構造体を形成できる。
【0023】
ここで、本発明における揮発性有機物としてはメタノール、エタノール、プロパノール、ベンゼン、トルエン、フェノール等が適宜用いられるが、廃アルコールの使用も可能である。非多孔性膜は「分子ふるい」のような役割を持っており、透過させようとする分子の分子量が大きくなるにつれて、その分子を透過し難くなる。したがって、揮発性有機物の中に不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子量の大きなカテキンや極性の大きなシアン化合物は透過し難く、微生物にとって無害な揮発性有機物を主成分として透過させることが可能になる。
【0024】
また、本発明にかかる微生物への電子供与体供給装置において、非多孔性膜としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ビニロンなどのプラスチックフィルムの他に、ポリエチレン系、エチレンアクリル酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート混合物系などの気液系膜が使用可能であるが、安価で耐久性や耐薬品性に優れたポリエチレンやポリプロピレンの使用、特に、分子を透過しやすい低密度ポリエチレンが好ましい。勿論、これら素材に限定されるものではない。
【0025】
本発明の微生物への電子供与体供給方法及び装置は、電子供与体を微生物に供給する必要があるあらゆる施設並びにバイオリアクター全般に対して利用可能である。例えば、目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体が、電子供与体供給装置の非多孔性膜部分の周りに配置されているバイオリアクターを構成することができる。また、担体に、本発明の電子供与体供給装置がその非多孔性膜部分を当てて貼着されたバイオリアクターを構成することができる。また、担体を袋形状とし、その内側の空間に上述の微生物への電子供与体供給装置を収容したバイオリアクターを構成することも可能である。
【0026】
この場合、液体浸透部材に浸透している揮発性有機物は非多孔性膜を透過して容器の周辺に徐放されるので、微生物を固定した担体に直接あるいは一旦担体の袋内に放出されてから電子供与体として供給される。したがって、微生物のエネルギー源である電子供与体として機能する揮発性有機物を自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもってバイオリアクターに固定されている微生物に供給することが可能となる。
【0027】
さらに、本発明のバイオリアクターは、上述の微生物への電子供与体供給装置の容器の非多孔性膜の表面に微生物を直接担持させて成るものである。この場合には、揮発性有機物が透過する面に微生物が固定されているので、供給される揮発性有機物のほぼ全量が微生物に直接供給される。ここで、微生物の固定は、非多孔性膜を有する膜の表面を親水性処理することで高分子ゲルを前記表面に付着させやすくすることによって、あるいは起毛処理することによって、非多孔性膜の表面に直接微生物を付着させるようにしている。
【0028】
また、本発明のバイオリアクターにおいて担体は吸水性ポリマーであることを特徴としている。吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、微生物を良好な状態で担持させて目的とする成分の除去を効率よく行うことが可能となる。
【0029】
さらに、本発明のバイオリアクターは、微生物を固定し得る担体に被処理液中の目的とする成分の除去に有効な微生物とその微生物が産生する物質を酸化または還元する微生物をそれぞれ1種または2種以上固定化した担体の一方の面に被処理液を接触させ他面に上述の電子供与体供給装置を接触させるものである。微生物の一例を挙げると、目的とする成分の除去に有効な微生物としてはアンモニア酸化菌、目的とする成分の除去に有効な微生物が産生する物質を還元する微生物としては脱窒菌である。さらに、目的とする成分の除去に有効な微生物が産生する物質を酸化する微生物として亜硝酸酸化菌を用いることにより、亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化することができ、処理効率が向上する。したがって、被処理液中の窒素化合物(アンモニア、硝酸イオン、亜硝酸イオン)を無害な窒素ガスに変換することが可能となる。
【0030】
次に、本発明のガス状アンモニアの除去方法は、ガス状アンモニアと水とを接触させてガス状アンモニアを水に溶解させる第一の工程と、ガス状アンモニアと接触させた水をアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌及び及び脱窒菌が存在している微生物領域に接触させる第二の工程とを含み、微生物領域に本発明の電子供与体供給装置を配置して、揮発性有機物を電子供与体供給装置の容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の脱窒菌に供給し、アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンまたはアンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンと亜硝酸酸化菌により生成された硝酸イオンが窒素ガスに還元するようにしている。また、本発明のガス状アンモニアの除去装置は、ガス状アンモニアを導入するガス導入部と、ガス導入部から導入されたガス状アンモニアに水を接触させてアンモニア含有水を得る散水手段と、アンモニア含有水を接触させてアンモニア含有水に含まれているアンモニウムイオンを分解処理する微生物処理領域とを含み、微生物処理領域にはアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌および脱窒菌を存在させると共に本発明の電子供与体供給装置を配置しているものである。
【0031】
ガス状アンモニアは水に溶解してアンモニウムイオンとなる。そして、アンモニウムイオンはアンモニア酸化菌と接触して亜硝酸イオンに酸化され、亜硝酸酸化菌も存在する場合は硝酸イオンにまで酸化される。そして、アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンまたはアンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンと亜硝酸酸化菌により生成された硝酸イオンは脱窒菌と接触して窒素ガスに還元される。ここで、脱窒菌を機能させるためには、電子供与体が必要である。そこで、微生物処理領域に本発明の電子供与体供給装置を配置することにより、脱窒菌に電子供与体となる揮発性有機物を緩やかに供給して、脱窒菌を機能させることができる。
【0032】
尚、微生物処理領域の代わりに、請求項24に記載のバイオリアクターを用いてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の微生物への電子供与体供給方法並びに装置によれば、容器内に収容された液体浸透部材には、揮発性有機物が毛管現象により隅々まで均一に浸透するので、液体浸透部材と接触している非多孔性膜の面の隅々まで揮発性有機物を供給することができる。したがって、液体浸透部材と接触している非多孔性膜の面全体から揮発性有機物を均一に徐放することができるので、装置を大型化しても揮発性有機物を非多孔性膜の全面から均一に徐放することが可能となり、容器全体が非多孔性膜で構成され、液体浸透部材を容器内の全領域を占めるようにして収容した場合には、容器の大きさに対する揮発性有機物の徐放面を最大化できる。
【0034】
また、揮発性有機物を液体浸透部材に浸透させることにより、揮発性有機物が容器の底部に溜まることによる容器底部の膨らみや、揮発性有機物のガス化による容器の膨らみを防ぐことが可能になるので、容器の薄型化を図ることも可能である。したがって、複数の電子供与体供給装置を処理槽などに集積させて収容するときに、電子供与体供給装置の収容密度を上げることができる。また、液体浸透部材は芯材としても機能するので、液体浸透部材を容器内に収容することにより、電子供与体供給装置の容器の強度を向上させることができる。
【0035】
さらに、容器内に収容された液体浸透部材は、液体を保持すると共に液体の通路として機能する。また、スペーサーとしての役割も果たす。したがって、容器の一部あるいは全体に押圧力が掛かって潰れた場合にも、揮発性有機物の浸透経路が確保されて、液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透するので、揮発性有機物の徐放面積を減少させることがなく、押圧力が掛かる環境下、例えば水中に容器を浸漬して用いても、容器の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放させることが可能である。
【0036】
また、本発明の微生物への電子供与体供給方法並びに装置によれば、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物と、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材とを非多孔性膜を一部に備える密封構造の容器内に収容することにより、揮発性有機物を非多孔性膜から少しずつ透過させて微生物に対して緩やかに供給することが可能である。したがって、揮発性有機物供給量を一定量に維持するための設備を備える必要がなくなり、ランニングコストを大幅に低下させることが可能である。
【0037】
さらに、揮発性有機物を補充し得る供給口を設けることにより、容器内の揮発性有機物の減少分を補充することが可能となるので、微生物が必要とする量の電子供与体を長期に亘って緩やかに供給することが可能となる。
【0038】
また、容器下部に押圧力が掛かると、液体浸透部材に浸透していない余剰分の揮発性有機物が、押圧力の掛かっていない容器上部へ移動して貯留される。この場合、押圧力が掛けられている容器下部においては揮発性有機物の浸透経路が確保されて液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透すると共に、押圧力により容器がつぶされて薄くなる。また、押圧力が掛けられていない容器上部には揮発性有機物が貯留される。したがって、貯留している揮発性有機物を、液体浸透部材に浸透している揮発性有機物の減少分だけ供給して、容器の下部の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放することができる。
【0039】
また、本発明の電子供与体供給方法並びに装置によれば、揮発性有機物を原液のまま液体浸透部材に浸透させても、揮発性有機物分子が少しずつ非多孔性膜を透過するので、微生物に対して揮発性有機物を緩やかに供給することができる。したがって、従来のように微生物が死滅しない程度に揮発性有機物を水で希釈する工程を省略して手間を省くことができると共に、同じ容積の液量で長時間揮発性有機物を供給することが可能となる。また、誤って原液を供給して微生物を死滅させるような事故を防ぐことが可能となる。さらに、容器そのものを小さくできるし、この容器に対して揮発性有機物を補給するための貯蔵タンクが存在する場合にも希釈しない原液状態での貯蔵を可能とするためタンク容量を小さくできる。
【0040】
また、非多孔性膜が分子ふるいとして機能するため、透過させようとする分子の分子量が大きくなるにつれて、その分子を透過し難くなる。したがって、有機物の中に不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子量の大きなカテキンは透過し難く、微生物にとって無害な揮発性有機物が主成分として透過して容器外に徐放され、不純物のほとんどが容器内に残留する。したがって、廃アルコールのように、不純物を含んでいる揮発性有機物を用いることができる。廃アルコールの再利用は、廃棄物の量を減らすことができて環境にとって好ましいと共に廃棄物の有用化を可能としてエネルギー源のコストを下げることができる。例えば、現在、蒸留、精製等の過程を経て再生されている廃アルコールを、これらの処理を行うことなくそのまま用いることができ、大幅なコストダウンを実現できる。より具体的には、食品、医薬品製造工程などで生じる廃アルコールを、微生物毒性を持つ物質(カテキンやシアン化合物など)を蒸留などの除去工程を経ることなく、微生物のエネルギー源として有効利用できる。
【0041】
さらに、本発明の電子供与体供給方法並びに装置は、非多孔性膜から成る袋状の容器に揮発性有機物と揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を密封しているので、容器内の揮発性有機物が消費され尽くすまでは自律的に緩やかに且つ均一に一定速度で揮発性有機物が供給される。したがって、メンテナンスを必要とせず、装置構成を簡素化することが可能である。また、容器内の揮発性有機物を消費し尽くしたときには、揮発性有機物と揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材が密封された新しい袋状の容器と交換するだけで良い。使用済みの袋状の容器は、リサイクルに供することで、再資源化が可能である。
【0042】
また、本発明の微生物への電子供与体供給装置は、液体浸透部材が非多孔性膜で挟持された積層体の周縁部がヒートシールされて液体浸透部材の毛管構造が閉塞されているので、液体浸透部材に揮発性有機物が供給された場合には、液体浸透部材を挟持している非多孔性膜と液体浸透部材の周縁部の毛管構造の閉塞により、揮発性有機物が浸透する領域が密閉された状態となって、密封構造の容器と同様の機能を発揮する。したがって、非多孔性膜の全面から均一に揮発性有機物を徐放できる。また、このような構造の微生物への電子供与体供給装置は、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、積層体の周縁部をヒートシールして液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む製造方法により得られる。あるいは、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、微生物を担持させ得る担体および積層体を外部衝撃から保護する保護材のいずれか一方もしくは双方を積層体の表面に備える工程と、積層体の周縁部をヒートシールして液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む製造方法により得られる。したがって、積層体の周縁部をヒートシールするだけで揮発性有機物が浸透する密閉領域を形成することができるので、液体浸透部材を袋あるいは容器内に入れる手間を省くことができ、作製が非常に容易である。また、非多孔性膜の表面に微生物を担持し得る担体及び積層体を外部衝撃から保護する保護材のうちのいずれか一方もしくは双方をさらに備えている場合でも、積層体の周縁部を担体や保護材全てをまとめてヒートシールすることで、容易に多層構造体を形成できるので、多層構造体を大面積且つ薄く形成しておけば、大型で薄い装置の作製も容易となる。
【0043】
また、本発明の電子供与体供給装置を利用したバイオリアクターによれば、微生物への電子供与体として機能する揮発性有機物を微生物が固定された担体に自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって供給することを可能とするので、バイオリアクターを大型化しても、電子供与体供給装置全体が非多孔性膜で構成される場合には、容器内に収容されている液体浸透部材に浸透させた揮発性有機物が非多孔性膜の全面から均一に透過して容器の周辺に徐放する。したがって、揮発性有機物が電子供与体を必要とする微生物が固定された面の隅々まで供給される。しかも、揮発性有機物を浸透させた液体浸透部材を収容した容器を微生物を固定した担体の近くに配置して自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって供給するようにしているので、バイオリアクター毎に独立して取り扱うことができ、使用に便利である。また、非多孔性膜の表面に微生物を直接担持させてなるバイオリアクターの場合、供給される揮発性有機物の全量が微生物に直接に供給されるので、無駄に消費されたり被処理液を汚染することがなく、さらには担体を付着させた別の容器を必要としない。
【0044】
さらに、本発明のバイオリアクターにおいて担体として吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、微生物を良好な状態で担持させて目的とする成分の除去を効率よく行うことが可能となる。
【0045】
また、本発明のガス状アンモニアの除去方法並びに装置によれば、本発明の電子供与体供給装置あるいは本発明の電子供与体供給装置を用いたバイオリアクターを利用しているので、脱窒菌への電子供与体となる揮発性有機物の供給量を一定量に維持するための設備を備える必要がなく、ガス状アンモニアの除去にかかるランニングコストを大幅に低下させることが可能である。また、電子供与体供給装置の容器を薄くできるので、電子供与体供給装置を高密度に集積させて配置することができる。したがって、ガス状アンモニアの除去装置の小型化、コンパクト化が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0047】
本発明にかかる微生物への電子供与体供給装置の一実施形態として、容器内に液体浸透部材を収容したタイプの電子供与体供給装置である図1〜図8に基づいて説明する。
【0048】
図1に示す電子供与体供給装置1は、微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物3と、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材13と、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器4とを含み、容器4内には揮発性有機物3と共に液体浸透部材13が収容されて、揮発性有機物3を容器4の非多孔性膜2の部分から非多孔性膜2の分子透過性能に支配される速度で容器4の周辺の微生物に供給するものである。本実施形態では、容器4は全体が非多孔性膜2で構成される袋状を成し、周縁をヒートシールなどで溶着して、揮発性有機物3を浸透させたシート状の液体浸透部材13を非多孔性膜2でラミネートした形態としているが、形態や構造は特に限定されない。例えば、容器をチューブ状として揮発性有機物と共に棒状の液体浸透部材を密封するような構造としても良い。また、袋状の容器(単に袋と呼ぶこともある)4は、全体を非多孔性膜で構成するものに特に限られず、一部例えば片面だけを非多孔性膜で構成したり、1つの面のさらに一部分を非多孔性膜で構成するようにしても良い。この際、他面あるいは残部を揮発性有機物を透過しない膜で構成することも可能である。このように構成することで、容器の所望の部分から揮発性有機物を徐放させることが可能である。
【0049】
微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物3としては、微生物に対して毒性を呈さない物質であって、非多孔性膜2を腐食しない性質を持ち、かつ非多孔性膜2を透過できる分子量、性質を有するものが適宜選択される。例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。尚、微生物によってはベンゼン、トルエン、フェノールなども利用可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
ここで、揮発性有機物3は、原液のままで用いることができる。従来であれば、メタノールやエタノール等のアルコールを微生物のエネルギー源として用いる場合には、微生物が死なない程度の濃度に水で希釈する必要があったが、本発明によれば、揮発性有機物は微生物へ緩やかに供給されるため、揮発性有機物の原液を用いても、微生物が死に至ることはない。尚、必ずしも揮発性有機物の原液を用いる必要はなく、揮発性有機物の原液を水で希釈して用いた場合や、不純物が混在しているような場合であっても、揮発性有機物分子が非多孔性膜を透過して微生物に緩やかに供給される。したがって、揮発性有機物に不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子量の大きなカテキンや極性の大きなシアン化合物は透過し難く、微生物にとって無害な揮発性有機物を主成分として透過させて容器外に徐放させることが可能となり、不純物は容器内にほとんど残留する。したがって、廃アルコールのように、不純物を含んでいる揮発性有機物を用いることができる。
【0051】
揮発性有機物3を浸透させ得る液体浸透部材13としては、揮発性有機物3を毛管現象により均一に拡散させることができる部材であればよい。例示すると、多孔質体、繊維状物質、粉体などが挙げられる。より具体的には、例えば多孔質体であれば、金属多孔質体であっても、セラミックス多孔質体であってもよいし、可撓性のプラスチック多孔質体などを用いてもよい。つまり、剛性の高い金属やセラミックスなどの部材を用いれば、容器4が変形し難くなるし、可撓性の部材を用いれば、容器4を可撓性として、変形し易くすることができる。また、繊維状物質としては、濾紙等の紙、不織布、その他発泡体などが挙げられる。さらに、粉体としては容器4に充填して揮発性有機物3を浸透し得るものであればよい。また、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム、塩化ビニールスポンジ、天然ゴムスポンジ、シリコンゴムスポンジ、セルローススポンジなどを用いることもできる。尚、液体浸透部材13はここで例示したものに限られるものではない。ここで、揮発性有機物3は液体浸透部材13を介して供給されるので、液体浸透部材13は、容器4の非多孔性膜2で構成される徐放面全体に揮発性有機物3を供給できる大きさにすることが好ましい。この場合には、非多孔性膜2の全面に揮発性有機物3が供給されて、非多孔性膜2を透過して均一に徐放される。図1に示すように、容器4を全体が非多孔性膜2で構成される袋状として、袋の内部全体に揮発性有機物3を浸透させたシート状の液体浸透部材13を収容して密封することで、非多孔性膜2の全面、つまり容器4の全体から揮発性有機物3を均一に徐放することができる。この場合、容器の大きさに占める揮発性有機物の徐放面が最大化できる。
【0052】
液体浸透部材13の厚さについては、厚くすれば揮発性有機物3の浸透容量を増加させることができるが、容器の厚さは厚くなる。逆に、液体浸透部材13の厚さを薄くすれば揮発性有機物3の浸透容量は減少するものの、容器の厚さは薄くできる。したがって、これらのバランスにより、容器4の厚さが所望の厚さとなるよう液体浸透部材13の厚さを調整すればよい。尚、液体浸透部材13の形状は図1に示すような四角形である必要は無く、例えば櫛状にして、櫛の歯の部分以外で非多孔性膜どうしを溶着したり、適度に孔を設けて、孔の部分で非多孔性膜どうしを溶着してラミネートされた状態とすることで、液体浸透部材の全面と非多孔性膜を接触させるようにしてもよい。この場合には、揮発性有機物3のガス化を抑えて容器4の膨らみを防止することができる。また、液体浸透部材が芯材として機能するので、容器の強度を向上させる効果がある。
【0053】
非多孔性膜2は、揮発性有機物3の分子を少しずつ透過させることによって徐放するものである。非多孔性膜2の材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ビニロンなどのプラスチックフィルムの他に、ポリエチレン系、エチレンアクリル酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート混合物系などの気液系膜が使用可能なものの例として挙げられるが、安価で入手し易く、耐久性や耐薬品性に優れたポリエチレンやポリプロピレンの使用が好ましい。ポリエチレンやポリプロピレンは、水を透過し難く、適度な物質の透過性、熱可逆性を有しており、柔軟で成形が容易であるという利点を有している。また、様々な物質に対して安定である。勿論、ポリエチレンやポリプロピレンを含めて上述したものに特に限定されるものではない。この非多孔性膜2は、膜材料、膜厚、該膜の表面積、揮発性有機物3の分子量や性質、温度及び外圧等により、透過する揮発性有機物3の分子の量を制御することが可能である。本発明者等のポリエチレン膜に対する実験によると、同じ膜材料の場合には膜厚によって分子透過量が変化することが確認されている。そこで、微生物に対して必要な揮発性有機物の供給量に応じて、適宜膜厚などを選定することによって、必要な速度で必要な量の揮発性有機物3を供給することができる。このとき、揮発性有機物3は、非多孔性膜2の透過性能に支配される緩やかな速度で漏れ出るので、容器周辺の微生物に対し生存に影響を与えることのない濃度に希釈された状態で微生物に供給される。
【0054】
ここで、非多孔性膜2は、膜の密度によっても分子透過量が変化する。ポリエチレンを例に挙げて説明すると、JIS K6922−2により分類される低密度ポリエチレン(密度910kg/m3以上、930kg/m3未満)を用いた場合、微生物に対して十分な量の揮発性有機物3が膜外に透過するが、高密度ポリエチレン(密度942kg/m3以上)を用いた場合には、揮発性有機物3の膜外への透過量が減少する。したがって、所望の揮発性有機物供給量に応じて、非多孔性膜2の膜厚と膜密度のバランスにより、微生物への揮発性有機物供給量を制御すればよい。ここで、膜密度は、例えば延伸処理により可変することができるので、当該処理により所望の膜材料の膜密度を可変し、揮発性有機物供給量を制御することが可能である。
【0055】
揮発性有機物3の非多孔性膜2の透過は、揮発性有機物分子が膜に溶け込み、その溶け込んだ分子が膜内部を拡散して反対側に達することにより起こる。したがって、膜への溶け込みが起こらない程大きなサイズの分子であるカテキンや極性の高いシアン化合物などは非多孔性膜を透過しにくい。また、ポリエチレンやポリプロピレン等は水となじむ官能基が存在しない疎水性の強い膜であると共に低極性であるため、極性分子である水が膜に溶け込みにくい。また、水分子同士の水素結合が強いため、常温では水が当該膜を透過することはほとんど無い。したがって、非多孔性膜2は、水や分子量の大きなカテキン、極性の高いシアン化合物等の不純物はほとんど透過させずに、所望の揮発性有機物を主成分として透過させる「分子ふるい」として機能する。また、揮発性有機物3は、分子状態、つまり、液体のように分子間の引力により凝集することのないガス(気体)の状態で非多孔性膜2を透過して徐放される。したがって、非多孔性膜2はガス透過性膜とも表現できる。
【0056】
また、非多孔性膜は、上述したように揮発性有機物が膜に溶け込むことにより透過させており、多孔質膜のように孔の大きさや数で揮発性有機物の種類や量を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる。
【0057】
また、非多孔性膜2の表面の性質は使用される揮発性有機物3の性質によって決定するのがよい。例えば、非多孔性膜2の表面を疎水性とすれば、炭素鎖のような疎水基を有する分子を透過しやすくなる。一方、非多孔性膜2の表面を親水性とすれば、親水基を有する分子を透過しやすくなる。よって、使用する揮発性有機物3の性質に合わせて、非多孔性膜2表面の性質を決定すればよい。また、膜内部に極性を与えることで膜を構成する分子鎖どうしの結合を強めて分子鎖間の空隙を小さくし、分子透過性能の制御を行うことが可能である。例えば、ポリ塩化ビニリデンのようにポリエチレンの水素の一部が塩素で置換された極性分子により構成された膜は、ポリエチレンと比較して分子鎖間の空隙が小さく、分子透過性能が低くなる。さらに、疎水性膜と親水性膜を貼り合わせて、両方の性質を与える膜として、揮発性有機物の透過性を制御することもできる。
【0058】
ここで、液体浸透部材13の容器4内への収容状態について説明する。図1に示す微生物への電子供与体供給装置1においては、液体浸透部材13が非多孔性膜2によってラミネートされた状態となっており、揮発性有機物3を含む液体浸透部材13と非多孔性膜2とが接触している。この場合、液体浸透部材13の全面に均一に拡散している揮発性有機物3を非多孔性膜2の全面から均一且つ緩やかに容器周辺の微生物に供給することができる上に、容器4の厚さを液体浸透部材13の厚さ程度まで薄くすることができ、容器4が非常にコンパクトなものとなる。また、容器4に押圧力が掛かることで、液体浸透部材ににも押圧力が掛かって潰れるので、液体浸透部材13の厚さよりもさらに薄くなる場合もある。このように、押圧力が掛かって液体浸透部材が潰れた場合でも、揮発性有機物の浸透経路が確保されて、液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透するので、揮発性有機物の徐放面積が減少することはない。
【0059】
尚、液体浸透部材13の容器4内への収容状態は、図1に示す形態に限定されるものではない。例えば、図2に示すように、液体浸透部材13に浸透させることのできる量以上の揮発性有機物3a(以下、余剰揮発性有機物と呼ぶこともある。)を容器内に併存させて、液体浸透部材13の全面に非多孔性膜2が接触しない状態で収容してもよい。図2に示すように、容器4を縦にして使用する場合、余剰揮発性有機物3aは容器の底部に溜まる。そして、容器4の底部に溜まっている余剰揮発性有機物3aがガス化して容器4内に拡散する。したがって、この場合には容器4の膨らみは発生してしまう。しかし、容器4の一部に押圧力を掛けて、当該部分の非多孔性膜2と液体浸透部材13とを接触させるといった用い方をすることで、押圧力を掛けた部分を薄くすることができる。そして、押圧力の掛けられていない部分には揮発性有機物を貯留して用いることが可能となる。例えば、図3に示すように、容器下部4aを水中に浸漬すると、水圧が掛かるため、水面下の容器下部4aの非多孔性膜2aと液体浸透部材13aとを接触させて薄くすると共に、余剰揮発性有機物3aが水圧の掛かっていない水面上の容器上部4bに押し上げられて貯留される。そして、容器下部4aの液体浸透部材13aに浸透している揮発性有機物3の量が減少した場合には、液体浸透部材13aを介して毛管現象により余剰揮発性有機物3aを浸透させて供給することができ、非多孔性膜2aの全面から揮発性有機物3を長期に亘って徐放させ続けることが可能である。ここで、水圧が掛けられている容器下部4aからだけ揮発性有機物3を徐放させたい場合には、容器上部4bを揮発性有機物を透過しない素材で覆ったり、あるいは、容器上部4bの素材そのものを揮発性有機物を透過しない素材を用いるようにする。尚、容器4は水中に浸漬しようとしても浮いてしまう場合がある。このような場合には、容器4の底部に錘(不図示)を備えるようにして、錘の重さにより所望の部分まで容器4を浸漬するように調整すれば良い。
【0060】
また、容器4内に収容された液体浸透部材13は、液体を保持すると共に液体の通路として機能する。また、スペーサーとしての役割も果たす。したがって、容器4の一部あるいは全体に押圧力が掛かって潰れた場合にも、揮発性有機物3の浸透経路が確保されて、液体浸透部材13の隅々まで揮発性有機物3が浸透するので、揮発性有機物3の徐放面積が減少することがなく、水中に容器を浸漬して用いても、容器の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放させることが可能である。したがって、図3に示すような容器下部4aのみを水面下に浸漬させる場合に限らず、容器4の全体を浸漬して使用しても、揮発性有機物3を容器4の非多孔性膜部分全体から徐放させることができる。
【0061】
以上のように構成された電子供与体供給装置1は、電子供与体の供給が必要な微生物の近くに配置するだけで、容器4内から非多孔性膜2を分子ふるいとして透過する揮発性有機物の分子が自律的に一定速度で緩やかに徐放され、微生物に供給される。このとき、容器4から透過する揮発性有機物の量は、非多孔性膜の材料や膜厚、膜密度などの選択によって、必要とする揮発性有機物量となるように制御されているので、微生物の生存に影響を与えることのない濃度に希釈された状態で微生物に揮発性有機物として供給される。また、押圧力が掛かる環境下、例えば水中で用いる場合であっても、容器内には液体浸透部材を収容しているので、容器が水圧により押し潰されても、揮発性有機物の浸透経路は液体浸透部材に確保されて、揮発性有機物が全面に均一に浸透している状態を保持することができ、非多孔性膜の全面から均一に揮発性有機物を徐放させて微生物に供給することが可能である。
【0062】
次に、図4並び図5に他の実施形態を示す。この実施形態の微生物への電子供与体供給装置は、非多孔性膜2からなる容器4を完全密封された独立したものとはせずに、揮発性有機物3を導入する手段を有する密封状の袋状とした容器とし、揮発性有機物3を外部から補充可能としたものである。
【0063】
揮発性有機物3を導入する手段は、図4に示すように容器4の縁の一部に揮発性有機物3を注入する供給口5を設けて、さらに図5に示すようにノズルないしパイプ7を装着する構造でも良いし、容器4と一体となったノズルないしパイプ7のようなものでも良い。図5に示す微生物への電子供与体供給装置1は、容器4の縁に設けられた供給口5に装着された供給ノズル7あるいは容器4と一体となった供給ノズル7と、揮発性有機物を貯留するタンク6とをチューブ8などで連結し、必要に応じて揮発性有機物3を補充可能としている。この場合、タンク6と容器4とはチューブ8を介して連通されているので、タンク6内に揮発性有機物の原液3’を貯蔵しておけば、容器4内に収容されている液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が減少してきたときに、揮発性有機物3’をタンクと容器の圧力差により補充でき、液体浸透部材3を介して、容器4の全面に供給することができる。尚、容器4は供給口5あるいはノズル7を設けているので厳密な意味での密封構造ではないが、供給ノズル7内がタンクから供給される揮発性有機物3’で満たされている状態では、液面がシールとなって容器内は事実上密封状態にある。このため、容器4内に収容されている液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が供給口5やノズル7を通って容器4外に漏れ出ることはない。
【0064】
ここで、図4及び図5においては、液体浸透部材13の容器4内への収容状態は、前記と同様に液体浸透部材13が非多孔性膜2によってラミネートされた状態となっている。この場合、液体浸透部材13の全面に均一に拡散している揮発性有機物3を非多孔性膜2の全面から均一且つ緩やかに容器周辺の微生物に供給することができる上に、容器4の厚さを液体浸透部材13の厚さ程度まで薄くすることができ、容器4が非常にコンパクトなものとなる。
【0065】
尚、液体浸透部材13の容器4内への収容状態は、前記の形態に限定されるものではなく、液体浸透部材13と非多孔性膜2の間に隙間を設けるようにして液体浸透部材13を収容するようにしてもよい。この場合、例えば、以下のようにして用いることで、容器4の一部を薄くして用いることができる。
【0066】
図6に示す電子供与体供給装置は、図3に示す電子供与体供給装置に揮発性有機物を補充し得る供給口5を備えたものである。この場合、押圧力が掛かっていない容器上部4bに揮発性有機物3を補充することができるので、随意にあるいは定期的に揮発性有機物3を補充して、長期に亘って揮発性有機物3を容器4の周辺に徐放することができる。
【0067】
ここで、押圧力が掛けられていない容器上部4bの容積は、容器4の内部の容積に比例して増加するので、揮発性有機物3の貯留量を増やしたい場合には、容器4の容積を大きくしておけばよい。尚、前記と同様、押圧力が掛けられている容器下部4aからだけ揮発性有機物3を徐放させる場合には、貯留している揮発性有機物3の容器上部4bからの透過を防ぐように構成しておく。
【0068】
以上、本発明の電子供与体供給装置1を図6のようにして用いることで、押圧力が掛かる環境下、例えば水中に容器を浸漬して用いても、押圧力が掛けられている容器下部4aにおいては揮発性有機物3の浸透経路が確保されつつ、押圧力により容器がつぶされて薄くなると共に、押圧力が掛けられていない容器上部4bには揮発性有機物を貯留することができ、揮発性有機物3の供給に都合がよい。しかも、押圧力により容器が潰されても、液体浸透部材13を収容していることにより、揮発性有機物3の供給経路が遮断されることがないので、貯留している揮発性有機物3の液体浸透部材13への供給がし易いという利点を有すると共に、押圧力が掛かっている面全体から揮発性有機物3を徐放することができる。
【0069】
尚、前記したように、容器4内に収容された液体浸透部材13は、液体を保持すると共に液体の通路として機能する。また、スペーサーとしての役割も果たす。したがって、容器4に押圧力が掛かって潰れた場合にも、揮発性有機物3の浸透経路が確保されて、液体浸透部材13の隅々まで揮発性有機物3が浸透するので、揮発性有機物3の徐放面積を減少させることがなく、水中に容器を浸漬して用いても、容器の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放させることが可能である。したがって、容器4の少なくとも供給口5の部分以外の全体に押圧力を掛けて使用することも可能である。つまり、容器4の供給口5以外の徐放面全体を水中に浸漬して使用してもよい。この場合、容器4内に揮発性有機物を貯留することはできないものの、容器の大きさに占める揮発性有機物の徐放面が最大化できる。
【0070】
また、図7に示すように、容器4の全体を鞘体14に内挿して、液体浸透部材13と非多孔性膜2を接触させて用いるようにしてもよい。この場合には、鞘体14が非多孔性膜2を外部衝撃などから保護する保護材としても機能するので、容器のコンパクト化と非多孔性膜の保護が同時に達成される。鞘体14は揮発性有機物3の徐放を妨げないものであればよい。例えば不織布等が挙げられるが、これに限定されない。
【0071】
尚、容器下部4aのみを鞘体14に内挿し、内挿された部分において液体浸透部材13aと非多孔性膜2aを接触させ、鞘体14に内挿されていない容器上部4bの容積を増加させて、揮発性有機物3を貯留してもよい。
【0072】
ここで、容器4を図6に示した形態に予め加工することもできる。例えば、図8に示すように、容器上部4bと下部4aに区画すると共に上部4bと下部4aとを液体浸透部材13により連通し、上部4bに揮発性有機物3を貯留するように加工しても良い。さらに具体的に説明すると、容器4の境界部15をヒートシールなどにより溶着して上部4bと下部4aに区画する。この際、境界部15の一部分は溶着せずに液体浸透部材13を貫通させて、上部4bと下部4aを液体浸透部材13により連通させ、上部4bから揮発性有機物3を浸透させて下部4aに揮発性有機物3を毛管現象により供給するようにしている。このように構成することにより、容器4の上部4bに貯留されている揮発性有機物3が容器上部4bに貫通している液体浸透部材13bに浸透して容器下部4aの液体浸透部材13aに供給される。そして、液体浸透部材13aから非多孔性膜2aを介して揮発性有機物3が徐放される。ここで、図8に示すように、容器下部4aの液体浸透部材13aは非多孔性膜2aと接触させるようにして密封する。つまり、液体浸透部材13aが非多孔性膜2aによりラミネートされている状態とすることで、水中で入れた場合と同様の形態となる。
【0073】
尚、図8に示す容器上部4bは脱着可能としても良い。例えば、容器上部4bに貯留している揮発性有機物3を消費し尽くした場合に、溶着されている境界部15を切断して上部4bを切り離し、容器下部4aから露出している液体浸透部材13を揮発性有機物3を密封した新しい容器に差し込んで、当該容器を容器下部4aに接着して用いる所謂カートリッジタイプのような形態にしても良い。
【0074】
また、図6並びに図8に示す容器上部4bには揮発性有機物の供給口と共に、排出口を設けてもよい。排出口を設けることにより、容器上部4bに揮発性有機物を供給する際の圧力損失を減らすことができる。圧力損失を減らすことで、容器上部4bに無駄な圧力が掛かることが無くなり、容器下部4aの液体浸透部材13aと非多孔性膜2aの間に揮発性有機物が入り込むことなく、液体浸透部材13に浸透して、揮発性有機物3の供給に好適な形態となる。
【0075】
次に、電子供与体供給装置1の他の形態及びその製造方法について説明する。前記した袋状の容器4の場合、容器4は全体が非多孔性膜2で構成される袋状を成し、周縁をヒートシールなどで溶着して、揮発性有機物3を浸透させたシート状の液体浸透部材13を密封するようにしている。つまり、揮発性有機物3は非多孔性膜2で構成される容器内に密封されているが、以下に説明する実施形態では、液体浸透部材13を非多孔性膜2により挟持した積層体を形成した上で、当該積層体の周縁部をヒートシールして電子供与体供給装置1を形成するようにしている。尚、ここで言う積層体は、液体浸透部材13と非多孔性膜2の全面あるいは一部が接着あるいは溶着されているものの他、接着あるいは溶着等がされることなく単に液体浸透部材13に非多孔性膜2を重ねただけの積層体も含むんでいる。
【0076】
図9に示す本発明の電子供与体供給装置は、液体浸透部材13を非多孔性膜2で挟持して積層体を形成した後、当該積層体の周縁部をヒートシールして形成されている。ここで、周縁部のうちの一部はヒートシールせずに揮発性有機物導入部20として確保しておくことが好ましい。この場合には、揮発性有機物導入部20に揮発性有機物を接触させると、毛管現象により、液体浸透部材13に揮発性有機物が浸透して供給される。例えば、上述した図8に示す容器上部4bを脱着可能としてカートリッジタイプの形態にしたものを接着することにより繋げて、揮発性有機物を供給するようにする。また、周縁部の全体をヒートシールした場合であっても、例えば、揮発性有機物が浸透する領域にノズルなどを差し込んで揮発性有機物を供給することが可能である。尚、予め液体浸透部材13に揮発性有機物3を浸透させた状態で非多孔性膜2と積層体を形成し、当該積層体の周縁部全てをヒートシールして、液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3を密封して用いることも可能である。
【0077】
この場合の液体浸透部材13としては、非多孔性膜と溶着し得る素材であって、ヒートシールした際に毛管構造が閉塞する素材を用いる。したがって、液体浸透部材13のヒートシール部13’の毛管構造閉塞部と非多孔性膜2により囲まれた領域の全体に揮発性有機物3が供給されて、周縁部以外の非多孔成膜2の全面から揮発性有機物3を徐放できる。
【0078】
この場合に用いる液体浸透部材13の具体例としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンを繊維状にした素材や、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム、塩化ビニールスポンジ、天然ゴムスポンジ、シリコンゴムスポンジ、セルローススポンジが挙げられる。この場合、前記した非多孔性膜の素材と溶着させやすく、特に、非多孔性膜としてポリエチレンやポリプロピレンを用いた場合には、素材の出発原料が同一あるいは類似しており、非常に溶着させやすい。
【0079】
ここで、非多孔性膜2と液体浸透部材13を溶着させる場合には、以下の方法が好ましい。液体浸透部材13としてポリエチレンの繊維状素材を、非多孔性膜2としてポリエチレンを用いた場合を例に挙げて説明すると、まず、加熱して軟化させたポリエチレンの繊維状素材を非多孔性膜2の表面上に撒く。次に、ポリエチレンの軟化状態が維持されている間に、もう一枚の非多孔性膜2を載せる。これにより、ポリエチレン膜自体を高温加熱することなく、ポリエチレン膜の分子透過性能を保持したまま液体浸透部材13を非多孔性膜2に溶着させて挟持することができる。
【0080】
ここで、非多孔性膜2と液体浸透部材13は全面で溶着されている場合には、非多孔性膜2と液体浸透部材3に隙間がないので、毛管現象により浸透した揮発性有機物が隙間にしみ出して膨らむの防いで非常に薄くできるので好ましい。しかしながら、非多孔性膜2と液体浸透部材13を必ずしも全面で接触させなければならない訳ではない。例えば、シート上の液体浸透部材と非多孔性膜を全面で溶着することなく、ヒートシールされる周縁部だけで非多孔性膜2と液体浸透部材13とを溶着すると共に、液体浸透部材13の毛管閉塞を行うようにしてもよい。または、液体浸透部材13と非多孔性膜2を全面では無く数カ所だけ溶着あるいは接着しておいて、ヒートシールされる周縁部で非多孔性膜2と液体浸透部材13とを溶着すると共に、液体浸透部材13の毛管構造の閉塞を行うようにしてもよい。
【0081】
また、図10に示すように、非多孔性膜2の表面に微生物を固定し得る担体17を積層してから周縁部をヒートシールして一体化してもよい。担体17としては、微生物や酵素の固定化に用いられている高分子ゲルを使用することができる。具体的には、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体が挙げられる。
【0082】
尚、担体17としては吸水性ポリマーを用いることが好ましい。吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、微生物を良好な状態で担持させて目的とする成分の除去を効率よく行うことが可能となる。ここで、吸水性ポリマーとしては一般的に用いられているものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させた物である。
【0083】
このように、予め非多孔性膜2の表面に担体17を備えることにより、微生物を担体に固定することが可能となる。したがって、微生物が添加されている液体に電子供与体供給装置の容器を浸漬して所望の微生物を固定したり、被処理液に添加した微生物を固定したりすることが可能になる。尚、上述の図1〜図8に示した電子供与体供給装置に担体17を備えるようにしても同様の効果を発揮する。
【0084】
また、図11に示すように、担体17の表面にはさらに保護材16を設けても良い。この場合には、電子供与体供給装置1が外部衝撃から保護されると共に、補強材としても機能し、電子供与体供給装置1が大型化に伴って自重が増加した場合に、自重により装置破損が生じるのを防ぐことが可能である。尚、担体17を備えずに保護材16を単独で備えた場合であっても、電子供与体供給装置1の外部衝撃からの保護および補強材としての機能が発揮される。
【0085】
上述した方法によれば、積層体の周縁部をヒートシールするだけで揮発性有機物が浸透する密閉領域を形成することができるので、その作製が非常に容易であり、微生物への電子供与体供給装置を作製する手間やコストが大幅に削減できる。また、非多孔性膜の表面に微生物を担持し得る担体17や積層体を外部衝撃から保護する保護材16をさらに備えている場合でも、積層体の周縁部を担体や保護材全てをまとめてヒートシールすることで、容易にに多層構造体を形成できる。したがって、多層構造体を大面積且つ薄く形成しておけば、大型で薄い装置の作製も容易となる。
【0086】
上述の微生物への電子供与体供給方法及び装置1は、電子供与体を微生物に供給する必要があるあらゆる施設並びにバイオリアクター全般に対して利用可能である。また、使用する環境も特に限定されず、本発明の微生物への電子供与体供給方法及び装置を使用すれば、微生物への揮発性有機物を、液体中でも緩やかに均一に徐放することができる。例えば、図12並びに図13に示すバイオリアクターに適用することが可能である。本実施形態では微生物としてアンモニア酸化菌と脱窒菌を用いた場合について説明するが、この例に限られるものではなく、これらの菌以外にも、目的の成分を除去可能な微生物を用いれば、アンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンなどの窒素化合物以外の成分を除去可能となる。図12並びに図13(A)に示す実施形態のバイオリアクター9は、アンモニア酸化菌および脱窒菌を担持させた担体11と、該担体11の構造的補強を図る不織布から成る袋10と、該不織布の袋10によって補強されている袋状の担体11の内側に形成されるポケット12に収納されて担体11に固定された脱窒菌にエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を自律的に一定速度で緩やかに供給する電子供与体供給装置1を密封した容器4とを備えものである。担体11は、不織布の袋10の内側の面あるいは表側の面に塗布され、不織布の袋10を補強構造物として一定の形態を保つように設けられている。尚、担体の補強のための素材としては、不織布に限られず、ナイロンネットなどを用いても良い。
【0087】
担体11としては、微生物や酵素の固定化に用いられている高分子ゲルを使用することができる。具体的には、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体が挙げられる。
【0088】
尚、担体11としては吸水性ポリマーを用いることが好ましい。吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、微生物を良好な状態で担持させて目的とする成分の除去を効率よく行うことが可能となる。ここで、吸水性ポリマーとしては一般的に用いられているものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させた物である。
【0089】
尚、担体11は上記したものに限られるものではなく、不織布を起毛処理してそこに微生物を直接担持させるようにしてもよいし、あるいは、非多孔性膜2の表面を起毛処理して、微生物を担持させるようにしても良い。
【0090】
また、アンモニア酸化菌と脱窒菌は、従来この種の分野で知られているものが使用できるが、より具体的には、例えば、アンモニア酸化菌としては、
Nitrosomonas europaea IFO-14298、
Nitrosomonas europaea、 N.marina*、
Nitrosococcus oceanus*、 N.mobilis、
Nitrosospira briensis、
Nitroso lobus multiformis、
Nitrosovibrio tenuis、
脱窒菌としては、
Paracoccus denitrificans JCM-6892、
Paracoccus denitrificans、
Alcaligenes eutrophus、 A. faecalis、
Alcaligenes sp.Ab-A-1、 Ab-A-2、 G-A-2-1(FERM P-13862、 P-13860、P-13861)*
Pseudomonas denitrificans、
などを挙げることができる。
【0091】
尚、亜硝酸酸化菌をさらに担持してもよい。亜硝酸酸化菌としては、従来この種の分野で知られているものが使用できるが、より具体的には、例えば、
Nitrobacter winogradskyi N. hamburgensis
Nitrospina gracilis*
Nitrococcus mobilis*
Nitrospira marina*
などを挙げることができる。
【0092】
尚、上記において*を付した菌株は海水の処理にのみ適用できる菌株であり、それ以外は淡水の処理にのみ適用できる菌株である。N.europaeaとN.winogradskyiは淡水で用いることのできるものと海水で用いることができるものが存在する。寄託番号が付された菌株は、出願人により寄託済の菌株である。
【0093】
アンモニア酸化菌はアンモニア(アンモニウムイオン)を亜硝酸イオンに変換(酸化)する好気性微生物であり、脱窒菌は硝酸イオンや亜硝酸イオンを窒素ガスに変換(還元)する嫌気性微生物である。即ち、アンモニア酸化菌が担持されたバイオリアクターを好気性条件下で使用すれば、アンモニアを亜硝酸イオンに変換して悪臭を抑えることができる。また、脱窒菌が担持されたバイオリアクターを嫌気性条件下で用いれば、硝酸イオンと亜硝酸イオンが無害な窒素ガスに変換される。これらの菌を組み合わせて用いることで、アンモニアと硝酸イオン、亜硝酸イオンが除去可能になる。尚、アンモニア酸化菌に対して酸素を供給すると、嫌気性微生物である脱窒菌の機能は低下するが、この場合には、脱窒菌はバイオリアクター内の好適な領域、即ち、酸素が供給されている位置から離れた嫌気性領域に局所的に偏在して脱窒を行う。尚、亜硝酸酸化菌は亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化する微生物であり、この菌を担持させることで、脱窒反応がより効率的に起こるようになる。
【0094】
上記した菌株は単独で担体に固定してもよいし、同種あるいは異種の菌株を併用して固定してもよい。
【0095】
以上のように構成されたバイオリアクターによれば、容器4内に収容された液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が非多孔性膜2を透過して容器4の周辺即ち容器4を更に覆う外側の担体11の袋内(ポケット12)に漏れ出し、担体11の袋内で拡散しながら電子供与体を必要とする微生物即ち脱窒菌が固定された面に均一に供給する。即ち、微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物3を担体に固定されている微生物に対して自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって供給することが可能となる。このバイオリアクターは、担体11の袋10内に揮発性有機物3を浸透させた液体浸透部材13を密封した電子供与体供給装置としての容器4を装入するだけで構成されているので、密封した液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3を使いきったときには、液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が密封された新しい袋と交換することで持続的に被処理液中のアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンを窒素に変えて除去することができる。尚、容器4の周りに被処理液が満たされたとしても脱窒菌は機能するし、また、バイオリアクターの表側の面を曝気することにより、アンモニア酸化菌が活性化し、アンモニアを効率よく除去できるようになる。
【0096】
また、図13(B)に示すように、図12に示す実施形態のバイオリアクター9の電子供与体供給装置としての容器4の代わりに、図4に示す揮発性有機物3を導入する手段を有する密封状の袋状とした容器とし、図5に示す揮発性有機物3を外部から補充可能とした電子供与体供給装置を用いることも可能である。この場合には、タンク6内に揮発性有機物の原液3’を貯蔵しておけば、容器4内の液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が減ってきたときに、タンク6から揮発性有機物3’がタンクと容器の圧力差により補充されるので、容器・袋4の大きさにかかわらず長時間・長期間にわたって被処理液中の目的とする化合物の除去例えばアンモニア除去などを実施できる。しかも、この場合には、タンク6内の揮発性有機物量3’を監視して適宜補充すれば、該タンク6に接続される多数の電子供与体供給装置を個々に制御・監視する必要がない。
【0097】
ここで、上述したように、本発明の電子供与体供給装置1は、図6に示したように、容器下部4aを水中に浸漬することで、容器下部4aを薄くすることができる。したがって、図14に示すように、袋状のバイオリアクター9に電子供与体供給装置1の容器下部4aを入れて水に浸漬した際に、バイオリアクターの袋と電子供与体供給装置1の容器下部4aに水圧が掛かり、バイオリアクターの厚みを薄くすることができる。したがって、水中に複数のバイオリアクターを設けても嵩張ることが無いので、複数のバイオリアクターを集積して設けることができる。尚、容器4の供給口5以外の部分をバイオリアクター内に入れて水中に浸漬し、徐放面を広くして使用しても良い。
【0098】
また、上述の電子供与体供給装置の容器4と目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体11とを一体化したバイオリアクターを構成してもよい。例えば、揮発性有機物3を密封する容器4の非多孔性膜2の部分を、担体11に当てるように貼着して、担体11と電子供与体供給装置1とを一体化したバイオリアクターを構成する。この場合には、揮発性有機物3が透過する面に微生物が固定されているので、供給される揮発性有機物の全量が微生物に直接に供給される。この場合にも、バイオリアクターを水中に浸漬した場合にその厚みが薄くなって、集積させやすくなる。したがって、バイオリアクターを処理槽などに収容するときの密度を上げることができる。
【0099】
また、バイオリアクターを鞘体としてもよい。つまり、担体11の袋をタイトなものとして、中に入れる電子供与体供給装置1の容器下部4aを薄く潰し、担体11の袋の外にある容器上部4bから揮発性有機物3が液体浸透部材13に浸透して容器下部4aの全面から揮発性有機物3が徐放されるようにしてもよい。このようにすることで、バイオリアクターを薄く、コンパクトにすることができると共に、鞘体として機能するバイオリアクターが保護材として機能し、電子供与体供給装置1が摩擦などの外部衝撃から保護される。
【0100】
次に、図17に示す、本発明のガス状アンモニアの除去装置の一実施形態について説明する。本発明のガス状アンモニア除去装置20は、ガス状アンモニアを導入するガス導入部27と、ガス導入部27から導入されたガス状アンモニアに水を接触させてアンモニア含有水を得る散水手段と、ガス状アンモニアと接触させた水を接触させて水に含まれているアンモニウムイオンを分解処理する微生物処理領域28とを含み、さらに、微生物処理領域28にはアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌および脱窒菌を存在させると共に本発明の電子供与体供給装置1が配置されているものである。散水手段は、循環タンク24に貯留されている水25を汲み上げる散水ポンプ21と、散水ポンプ21により汲み上げた水を通過させる配管22と、水25を下方に散水するための散水管23より構成される。
【0101】
ガス状アンモニアは、ガス導入部27からガス状アンモニア除去装置20内に導入される。尚、本実施形態では、ガス導入部27を散水ノズル23の直下に設けているが、ガス状アンモニアは空気より軽いので、微生物処理領域28の下にガス導入部27を設けて、ガス状アンモニアを装置20内の上方に拡散させるようにしても良い。次に、循環タンク24内の水25は、散水ポンプ21により汲み上げられ、配管22を通って、散水管23から散水される。散水された水25は、装置20内に導入されたガス状アンモニアと接触してこれを溶解し、ガス状アンモニアをアンモニウムイオンに変換して、微生物処理領域28と接触する。水25に含まれているアンモニウムイオンは、アンモニア酸化菌により亜硝酸イオンに酸化され、亜硝酸酸化菌も存在する場合は硝酸イオンにまで酸化される。そして、アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンまたはアンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンと亜硝酸酸化菌により生成された硝酸イオンは、脱窒菌により窒素ガスに還元される。したがって、ガス状アンモニア除去装置20により、ガス状アンモニアを脱臭すると共に無害化することができる。また、水25と微生物処理領域28が接触することで、微生物処理領域内に存在している微生物への水の供給が同時に行われる。微生物処理領域28を通過した水25は、循環タンク24に戻る。この際、除去されなかったアンモニウムイオンが循環タンク24内に混入して、pHを上昇させる虞があるので、給水手段26を設けて、循環タンク24内の水25を希釈して、pHを一定値に保つようにしている。
【0102】
ここで、微生物処理領域28におけるアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌および脱窒菌の存在のさせ方は特に限定されないが、例えば、前述した担体17に担持させてもよいし、多孔質体などを用いてもよい。電子供与体供給装置1の配置の仕方も脱窒菌に揮発性有機物3を供給できるのであれば特に限定されない。尚、微生物処理領域28の代わりに、本発明のバイオリアクター9を配置しても良い。バイオリアクター9の配置の仕方は特に限定されるものではないが、複数のバイオリアクター9を対面させて集積し、バイオリアクター9の面と散水方向とが平行になるように配置することが好ましい。この場合には、バイオリアクター9の集積密度の向上させることができると共に、水が各バイオリアクターを通過し易くなるので、ガス状アンモニアの除去効率が向上する。
【0103】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0104】
(実施例1)
ポリエチレン膜を用いて袋を形成し、その中にメタノール、エタノールを密封した場合の有機物の透過量を測定して、本発明の電子供与体供給装置の有効性について確認した。
厚さ0.05mm、0.1mm、0.3mm、0.5mmのポリエチレン膜(商品名:ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)中にメタノール(和光純薬工業製、99.8%)、エタノール(和光純薬工業製、99.5%)を密封して袋状とし、これを水中に浸漬し、経過日数に対して分子透過量をTOC濃度を測定することによりメタノールおよびエタノールの透過量を評価した。TOC濃度は燃焼−赤外線式全有機炭素分析計(TOC−650、東レエンジニアリング製)により測定した。この結果を図15の(A)並びに(B)に示す。図中において、Bはバックグラウンド、MeOHはメタノール、EtOHはエタノール、0.05、0.1、0.3、0.5等の数値はポリエチレン膜厚(単位;mm)を表している。この実験から、メタノール、エタノール共に、ポリエチレン膜厚が薄くなるにつれて、TOC濃度も増加していくことから、ポリエチレン膜の膜厚により、電子供与体供給量の制御が可能であることが確認された。したがって、この原理を利用することにより、メタノールやエタノールなどの揮発性有機物を濾紙等の液体浸透部材に浸透させてからポリエチレン膜などの非多孔性膜に密封して用いることで、非多孔性膜の全面から均一且つ緩やかに徐放することが可能である。
【0105】
(実施例2)
実施例1で用いたエタノールを密封するポリエチレンの袋とを使って、バイオリアクターの機能を確認した。
【0106】
(供試菌株とその培養)
アンモニア酸化菌としてNitrosomonas europaea IFO-14298、脱窒菌としてParacoccus denitrificans JCM-6892を用いた。培養には、Nitrosomonas europaeaはIFO Medium List No.240、Paracoccus denitrificansは JCM Medium List No.22(Nutrient agar No.2)を基本とした液体培地を用いた。培地の組成を表1に示す。IFO培地No.240にPhenol RedをpH指示薬として添加し、pHはCaCO3の代わりにNa2CO3を適宜添加することにより調整した。また、JCM培地No.22からは寒天を除き、液体培地として用いた。それぞれ30℃で振とう(110rpm)培養後、遠心分離により集菌し、リン酸緩衝液(9g/l Na2HPO4・12H2O、1.5g/l KH2PO4、pH=7.5)により3回洗浄した。洗浄菌体は、N.europaeaは8mg dry wt./ml、P.denitrificansは33mg dry wt./mlになるようそれぞれリン酸緩衝液に懸濁した。
【0107】
【表1】
【0108】
(菌固定化方法)
光硬化性樹脂PVA−SbQ(SPP−H−13、東洋合成工業製)9mlに対し、前述のN.europaeaの菌懸濁液1ml、P.denitrificansの菌懸濁液2mlを混合し、固定化した。菌体と樹脂の混合液は直接不織布に塗布し、メタルハロゲンランプ下で1時間照射することにより不織布の片面にシート状に固定化担体(縦50mm、横50mm、厚さ20mm)を成形した。
【0109】
(性能評価)
固定化担体を用いたバイオリアクターにポリエチレン膜でエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたときの性能評価を行った。
上記実施例で作製した、Nitrosomonas europaea IFO-14298とParacoccus denitrificans JCM-6892を同時に包埋した担体を不織布の片面にシート状に成形したものを、不織布を外側になるようにし、且つ、担体に電子供与体供給制御装置用ポケットを設けるようにして、その中に厚さ0.05mmおよび0.3mmのポリエチレン膜にてエタノールを密封した袋状の電子供与体供給制御装置を入れて、アンモニア排水処理能力を評価した。
【0110】
(分析方法)
培地溶液中のアンモニア、亜硝酸濃度は、それぞれインドフェノール青吸光光度法、ナフチルアミン吸光光度法により測定した。
【0111】
(固定化担体を用いたバイオリアクターにポリエチレン膜でエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたときの性能評価結果)
図16にバイオリアクターの性能評価結果を示す。Cは電子供与体を供給していないバイオリアクターで、EtOH−0.05はポリエチレン膜厚0.05mmでエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたバイオリアクター、EtOH−0.3はポリエチレン膜厚0.3mmでエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたバイオリアクターの結果である。C、EtOH−0.05、EtOH−0.3共に、4日目にはアンモニア濃度は0になったが、亜硝酸濃度に関しては、Cの場合は7日目まで上昇し続け、EtOH−0.3では2日目までは上昇したが、それ以降は減少し、7日目には検出されなかった、また、EtOH−0.05は1日目から亜硝酸は検出されなかった。従って、ポリエチレン膜を介してエタノールがバイオリアクターに供給されていることが確認され、ポリエチレン膜厚が薄い方がエタノールを供給しやすいことが確認された。以上の結果から、本発明のように、エタノール等の揮発性有機物を液体浸透部材に浸透させてからポリエチレン膜等で密封した場合にも、微生物(脱窒菌)に電子供与体として揮発性有機物を与えてアンモニアや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに変換することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の電子供与体供給装置の一実施形態である密封タイプ(ラミネート)の例を示す図で、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図2】本発明の電子供与体供給装置の一実施形態である他の密封形態を示す縦断面図である。
【図3】図2に示す本発明の電子供与体供給装置の下部を水中に浸漬して用いた場合の形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の電子供与体供給制御装置の他の実施形態である補充タイプの例を示す縦断面図である。
【図5】図2の実施形態の電子供与体供給制御装置の全体構成を示す概略図である。
【図6】図2に示す本発明の電子供与体供給装置の下部を水中に浸漬して用いた場合の形態を示す縦断面図である。
【図7】図4に示す本発明の電子供与体供給装置の容器下部を鞘体に内挿して用いた場合の形態を示す縦断面図である。
【図8】本発明の電子供与体供給装置を予め加工した場合の形態を示す斜視図である。
【図9】液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成した後に周縁部をヒートシールして形成した場合の電子供与体供給装置を示す図で、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図10】図9に示す本発明の電子供与体供給装置の非多孔性膜の表面に担体を備えた例を示す図である。
【図11】図9に示す本発明の電子供与体供給装置の非多孔性膜の表面に担体と保護材を備えた例を示す図である。
【図12】本発明の電子供与体供給装置を利用したバイオリアクターの構成の一例を示す斜視図である。
【図13】本発明のバイオリアクターの構成の一例を示す縦断面図であり、(A)は密封タイプの例を、(B)は補充タイプの例をそれぞれ示す。
【図14】本発明のバイオリアクターを水中で使用した場合の形態を示す縦断面図である。
【図15】ポリエチレン膜からの揮発性有機物の透過量測定結果を示す図で、(A)はメタノール、(B)はエタノールのそれぞれの測定結果を示す。
【図16】固定化担体を用いたバイオリアクターにポリエチレン膜でエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたときの性能評価結果を示す図で、(A)はアンモニア濃度と経過日数との関係を、(B)は亜硝酸濃度と経過日数との関係をそれぞれ示す。
【図17】本発明のガス状アンモニア除去装置の構成の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0113】
1 電子供与体供給装置
2 非多孔性膜
3 揮発性有機物
4 容器
4a 容器下部
4b 容器上部
5 供給口
6 揮発性有機物貯留タンク
7 供給ノズル
8 チューブ
9 バイオリアクター
10 不織布
11 担体
12 電子供与体供給装置用ポケット
13 液体浸透部材
14 鞘体
16 保護材
17 担体
20 ガス状アンモニア除去装置
21 散水ポンプ
25 水
27 ガス導入部
28 微生物処理領域
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物への電子供与体供給方法及びその装置並びにそれを利用したバイオリアクターに関する。さらに詳述すると、本発明は、微生物を利用した生物学的処理により被処理液中に存在する物質、例えばアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオン等の窒素化合物を効率良く除去するための微生物への電子供与体供給方法及びその装置並びにそれを利用したバイオリアクターに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用した生物学的処理を行う際には、アルコールなどの有機物を微生物のエネルギー源となる電子供与体として供給しなければならない場合がある。例えば、被処理液中に存在するアンモニア等の窒素化合物を生物学的処理によって除去する下水処理プロセスにおいては、硝化反応の後の脱窒反応の際に、脱窒反応を速めるために、メタノールが微生物のエネルギー源となる電子供与体として制御装置により制御されるポンプ装置によって必要量だけ供給されるようにしている(特許文献1)。
【0003】
また、被処理液中に存在するアンモニア等の窒素化合物の除去に有効な微生物が固定化されたシート状の高分子ゲルの一面に被処理液を接触させ、他面に脱窒処理に必要なエネルギー源としての電子供与体を接触させる形式の窒素除去バイオリアクター(特許文献2並びに3)においても、微生物のエネルギー源となるアルコールを電子供与体として供給するようにしている。アルコールの供給は、バイオリアクター内に形成された高分子ゲル担体の内側の空間とアルコール貯留槽とを配管で連結した循環路を利用して、循環ポンプや様々なバルブや計器類などを操作してアルコールの供給タイミング並びに量を制御している。
【0004】
ここで、アルコールの供給が過剰であると、微生物が消費しきれずに水中などにアルコールが残留して水質を悪化させる虞があり、その反面、アルコールの供給量が少ないと、エネルギー源不足となって脱窒反応が不十分となり亜硝酸濃度が高まる問題が生ずる。そこで、アルコールの供給は、ポンプなどを用いてその供給量とタイミングが制御され、アルコール貯留タンクから10容量%程度の濃度に希釈されたアルコールが供給されるように設けられている。
【0005】
【特許文献1】特許第3260554号
【特許文献2】特許第3340356号
【特許文献3】特許第2887737号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、従来のバイオリアクターにおける微生物への電子供与体供給方法は、脱窒菌のエネルギー源となる電子供与体であるメタノールやエタノール等のアルコール溶液の供給量を一定量に維持するためのポンプや制御装置などの一連の設備が必要であり、設備が大型化すると共に設備操作も複雑化することから、ランニングコストが高くなるという問題を有している。
【0007】
また、メタノールやエタノール等のアルコール溶液が高濃度の場合、前記溶液を微生物に直接接触させると微生物が死に至ることがあり、前記溶液は必ず水で希釈して微生物が死なない程度の濃度に調整しなければならないという煩わしさも有している。しかも、アルコール原液を使うことができないため、希釈して貯蔵しなければならず、その分だけ貯留タンクが大型化してしまう問題を有している。さらに、従来の微生物への電子供与体供給方法は、アルコールを希釈したものをそのまま微生物に供給するようにしているため、不純物の多い廃アルコールなどを利用できない問題がある。例えば、茶の精製過程で生じる廃アルコールには、カテキンが含まれるため、これをエネルギー源として用いると、希釈して用いても微生物を死滅させる虞がある。そこで、不純物を除いた状態で用いなければならないため、廃アルコールの再利用が事実上できなかった。
【0008】
さらに、特許文献2あるいは3に記載されているような、微生物が固定化されたシート状の高分子ゲルで囲まれた空間内に、脱窒菌に必要なエネルギー源としての電子供与体を接触させる形式の窒素除去バイオリアクターにおいては、リアクターから溢れ出ない程度の量のアルコールを供給パイプでリアクターの中に供給しなければならないため、リアクターを大型化するほどアルコールを隅々までうまく拡散することが困難となり、大型化が難しい。また、このようなアルコールの供給方法では、装置の薄型化を図ることが難しい。
【0009】
そこで、本発明は、電子供与体を隅々まで供給してリアクターの大型化や薄型化が可能となる微生物への電子供与体供給方法及び装置を提供することを目的とする。また、本発明は、ポンプや制御装置などを用いずに簡易に微生物への電子供与体供給を実現できる方法及び装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は廃アルコールをエネルギー源として再利用可能な微生物への電子供与体供給方法および装置を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は微生物への電子供与体供給に関し、管理の必要のないコンパクトなバイオリアクターを提供することを目的とする。さらに、本発明は被処理液中に存在する有害物質、例えばアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンなどを効率良く除去するためのバイオリアクターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するための本発明の微生物への電子供与体供給装置は、微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物(以下、単に揮発性有機物と呼ぶこともある。)と、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器とを含み、容器内に揮発性有機物と共に液体浸透部材を収容し、揮発性有機物を容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の微生物に供給するものである。また、本発明の微生物への電子供与体供給方法は、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物と共に揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を収容し、液体浸透部材の全面に浸透している揮発性有機物を非多孔性膜の隅々まで供給し、揮発性有機物を容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の微生物に供給するようにしている。
【0012】
また、かかる課題を解決するための本発明の微生物への電子供与体供給装置は、微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜を一部に備える密封構造の容器と、容器に設けられた揮発性有機物を補充し得る供給口とを含み、供給口から揮発性有機物を補充することにより液体浸透部材に揮発性有機物を浸透させ、揮発性有機物を容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の微生物に供給するものである。また、本発明にかかる微生物への電子供与体供給方法は、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を収容すると共に揮発性有機物を補充し得る供給口を容器に設けて、供給口から揮発性有機物を補充することにより液体浸透部材に揮発性有機物を浸透させ、液体浸透部材の全面に浸透している揮発性有機物を非多孔性膜の隅々まで供給し、揮発性有機物を容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の微生物に供給するようにしている。
【0013】
容器内に収容された液体浸透部材には、揮発性有機物が毛管現象により隅々まで均一に浸透するので、液体浸透部材と接触している非多孔性膜の面の隅々まで揮発性有機物を供給することができる。したがって、液体浸透部材と接触している非多孔性膜の面全体から揮発性有機物を均一に徐放することができる。
【0014】
また、容器内に収容された液体浸透部材は、液体を保持すると共に液体の通路として機能する。また、スペーサーとしての役割も果たす。したがって、容器の一部あるいは全体に押圧力が掛かって潰れた場合にも、揮発性有機物の浸透経路が確保されて、液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透するので、揮発性有機物の徐放面積を減少させることがない。
【0015】
液体浸透部材に浸透している揮発性有機物は、非多孔性膜の分子透過性能に支配される緩やかな速度で徐放されるので、容器周辺の微生物に対し生存に影響を与えることのない濃度に希釈された状態で微生物に電子供与体として供給される。しかも、揮発性有機物の透過速度は、非多孔性膜の分子透過性能に支配されるので、この分子透過性能を膜材料や膜厚、膜密度などで調整することにより、微生物が必要とする量の電子供与体を常時緩やかに供給することができる。
【0016】
また、揮発性有機物を補充し得る供給口を設けることにより、容器内の揮発性有機物の減少分を補充することが可能となるので、微生物が必要とする量の電子供与体を長期に亘って緩やかに供給することが可能となる。
【0017】
ここで、本発明の電子供与体供給装置の容器は特定の形状に限定されるものではないが、非多孔性膜だけで袋状に形成し、液体浸透部材と揮発性有機物を収容しているものであることが好ましい。容器を袋状とすることで、非常に使いやすい形態となり、容器内の揮発性有機物を消費し尽くして容器周辺の微生物に揮発性有機物を供給できなくなった場合には、液体浸透部材と揮発性有機物を密封した新しい袋と交換するだけで、微生物に対して再び揮発性有機物を供給制御することができる。また、液体浸透部材は袋の内部全体に配置されるようにして収容することが好ましい。液体浸透部材をこのように収容することで、非多孔性膜の全面から均一に揮発性有機物を徐放させることができる。つまり、容器の大きさに対する揮発性有機物の徐放面を最大化できる。
【0018】
また、前記したように、容器には揮発性有機物を補充する供給口を設けることが好ましく、もしくは容器を揮発性有機物貯留タンクと連通し、必要に応じて揮発性有機物を補充可能とする供給ノズルを備えることが好ましい。この場合には、タンク内に揮発性有機物の原液を貯留しておけば、袋内に収容された液体浸透部材に浸透している揮発性有機物が減少した場合に、揮発性有機物がタンクと容器の圧力差により補充できる。
【0019】
ここで、容器下部に押圧力が掛かると、液体浸透部材に浸透していない余剰分の揮発性有機物が押圧力の掛かっていない容器上部へ移動して貯留される。この場合、押圧力が掛かっている容器下部においては、揮発性有機物の浸透経路が確保されて液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透すると共に、押圧力により容器がつぶされて薄くなる。また、押圧力が掛けられていない容器上部には揮発性有機物が貯留される。したがって、貯留している揮発性有機物を、液体浸透部材に浸透している揮発性有機物の減少分だけ供給して、容器の下部の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放することができる。
【0020】
前記のような形態は容器を予め加工して得ることも可能である。例えば、容器を二領域に区画すると共に二領域に跨って液体浸透部材を配置することにより当該二領域を連通し、二領域のうちの一方の領域に前記揮発性有機物を貯留するようにしてもよい。
【0021】
また、本発明の微生物への電子供与体供給装置は、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜とを含み、液体浸透部材が二枚の非多孔性膜で挟持された積層体が形成されていると共に、積層体の周縁部がヒートシールされて液体浸透部材の毛管構造が閉塞されているものである。このような構造の微生物への電子供与体供給装置は、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、積層体の周縁部をヒートシールして液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む製造方法により得られる。また、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、微生物を担持させ得る担体及び積層体を外部衝撃から保護する保護材のうちのいずれか一方もしくは双方を積層体の表面に備える工程と、積層体の周縁部をヒートシールして液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む製造方法により得られる。
【0022】
したがって、ヒートシールされた積層体の周縁部では、液体浸透部材の毛管構造が閉塞される。また、積層体の周縁部では液体浸透部材と非多孔性膜が溶着しているので、揮発性有機物が浸透する領域が密閉された状態となる。また、この場合には、積層体の周縁部をヒートシールするだけで揮発性有機物が浸透する密閉領域を形成することができるので、その作製が非常に容易である。また、非多孔性膜の表面に微生物を担持し得る担体及び積層体を外部衝撃から保護する保護材のうちのいずれか一方もしくは双方をさらに備えている場合でも、積層体の周縁部を担体や保護材ごとヒートシールすることで、容易に多層構造体を形成できる。
【0023】
ここで、本発明における揮発性有機物としてはメタノール、エタノール、プロパノール、ベンゼン、トルエン、フェノール等が適宜用いられるが、廃アルコールの使用も可能である。非多孔性膜は「分子ふるい」のような役割を持っており、透過させようとする分子の分子量が大きくなるにつれて、その分子を透過し難くなる。したがって、揮発性有機物の中に不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子量の大きなカテキンや極性の大きなシアン化合物は透過し難く、微生物にとって無害な揮発性有機物を主成分として透過させることが可能になる。
【0024】
また、本発明にかかる微生物への電子供与体供給装置において、非多孔性膜としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ビニロンなどのプラスチックフィルムの他に、ポリエチレン系、エチレンアクリル酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート混合物系などの気液系膜が使用可能であるが、安価で耐久性や耐薬品性に優れたポリエチレンやポリプロピレンの使用、特に、分子を透過しやすい低密度ポリエチレンが好ましい。勿論、これら素材に限定されるものではない。
【0025】
本発明の微生物への電子供与体供給方法及び装置は、電子供与体を微生物に供給する必要があるあらゆる施設並びにバイオリアクター全般に対して利用可能である。例えば、目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体が、電子供与体供給装置の非多孔性膜部分の周りに配置されているバイオリアクターを構成することができる。また、担体に、本発明の電子供与体供給装置がその非多孔性膜部分を当てて貼着されたバイオリアクターを構成することができる。また、担体を袋形状とし、その内側の空間に上述の微生物への電子供与体供給装置を収容したバイオリアクターを構成することも可能である。
【0026】
この場合、液体浸透部材に浸透している揮発性有機物は非多孔性膜を透過して容器の周辺に徐放されるので、微生物を固定した担体に直接あるいは一旦担体の袋内に放出されてから電子供与体として供給される。したがって、微生物のエネルギー源である電子供与体として機能する揮発性有機物を自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもってバイオリアクターに固定されている微生物に供給することが可能となる。
【0027】
さらに、本発明のバイオリアクターは、上述の微生物への電子供与体供給装置の容器の非多孔性膜の表面に微生物を直接担持させて成るものである。この場合には、揮発性有機物が透過する面に微生物が固定されているので、供給される揮発性有機物のほぼ全量が微生物に直接供給される。ここで、微生物の固定は、非多孔性膜を有する膜の表面を親水性処理することで高分子ゲルを前記表面に付着させやすくすることによって、あるいは起毛処理することによって、非多孔性膜の表面に直接微生物を付着させるようにしている。
【0028】
また、本発明のバイオリアクターにおいて担体は吸水性ポリマーであることを特徴としている。吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、微生物を良好な状態で担持させて目的とする成分の除去を効率よく行うことが可能となる。
【0029】
さらに、本発明のバイオリアクターは、微生物を固定し得る担体に被処理液中の目的とする成分の除去に有効な微生物とその微生物が産生する物質を酸化または還元する微生物をそれぞれ1種または2種以上固定化した担体の一方の面に被処理液を接触させ他面に上述の電子供与体供給装置を接触させるものである。微生物の一例を挙げると、目的とする成分の除去に有効な微生物としてはアンモニア酸化菌、目的とする成分の除去に有効な微生物が産生する物質を還元する微生物としては脱窒菌である。さらに、目的とする成分の除去に有効な微生物が産生する物質を酸化する微生物として亜硝酸酸化菌を用いることにより、亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化することができ、処理効率が向上する。したがって、被処理液中の窒素化合物(アンモニア、硝酸イオン、亜硝酸イオン)を無害な窒素ガスに変換することが可能となる。
【0030】
次に、本発明のガス状アンモニアの除去方法は、ガス状アンモニアと水とを接触させてガス状アンモニアを水に溶解させる第一の工程と、ガス状アンモニアと接触させた水をアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌及び及び脱窒菌が存在している微生物領域に接触させる第二の工程とを含み、微生物領域に本発明の電子供与体供給装置を配置して、揮発性有機物を電子供与体供給装置の容器の非多孔性膜部分から非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で容器周辺の脱窒菌に供給し、アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンまたはアンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンと亜硝酸酸化菌により生成された硝酸イオンが窒素ガスに還元するようにしている。また、本発明のガス状アンモニアの除去装置は、ガス状アンモニアを導入するガス導入部と、ガス導入部から導入されたガス状アンモニアに水を接触させてアンモニア含有水を得る散水手段と、アンモニア含有水を接触させてアンモニア含有水に含まれているアンモニウムイオンを分解処理する微生物処理領域とを含み、微生物処理領域にはアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌および脱窒菌を存在させると共に本発明の電子供与体供給装置を配置しているものである。
【0031】
ガス状アンモニアは水に溶解してアンモニウムイオンとなる。そして、アンモニウムイオンはアンモニア酸化菌と接触して亜硝酸イオンに酸化され、亜硝酸酸化菌も存在する場合は硝酸イオンにまで酸化される。そして、アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンまたはアンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンと亜硝酸酸化菌により生成された硝酸イオンは脱窒菌と接触して窒素ガスに還元される。ここで、脱窒菌を機能させるためには、電子供与体が必要である。そこで、微生物処理領域に本発明の電子供与体供給装置を配置することにより、脱窒菌に電子供与体となる揮発性有機物を緩やかに供給して、脱窒菌を機能させることができる。
【0032】
尚、微生物処理領域の代わりに、請求項24に記載のバイオリアクターを用いてもよい。
【発明の効果】
【0033】
本発明の微生物への電子供与体供給方法並びに装置によれば、容器内に収容された液体浸透部材には、揮発性有機物が毛管現象により隅々まで均一に浸透するので、液体浸透部材と接触している非多孔性膜の面の隅々まで揮発性有機物を供給することができる。したがって、液体浸透部材と接触している非多孔性膜の面全体から揮発性有機物を均一に徐放することができるので、装置を大型化しても揮発性有機物を非多孔性膜の全面から均一に徐放することが可能となり、容器全体が非多孔性膜で構成され、液体浸透部材を容器内の全領域を占めるようにして収容した場合には、容器の大きさに対する揮発性有機物の徐放面を最大化できる。
【0034】
また、揮発性有機物を液体浸透部材に浸透させることにより、揮発性有機物が容器の底部に溜まることによる容器底部の膨らみや、揮発性有機物のガス化による容器の膨らみを防ぐことが可能になるので、容器の薄型化を図ることも可能である。したがって、複数の電子供与体供給装置を処理槽などに集積させて収容するときに、電子供与体供給装置の収容密度を上げることができる。また、液体浸透部材は芯材としても機能するので、液体浸透部材を容器内に収容することにより、電子供与体供給装置の容器の強度を向上させることができる。
【0035】
さらに、容器内に収容された液体浸透部材は、液体を保持すると共に液体の通路として機能する。また、スペーサーとしての役割も果たす。したがって、容器の一部あるいは全体に押圧力が掛かって潰れた場合にも、揮発性有機物の浸透経路が確保されて、液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透するので、揮発性有機物の徐放面積を減少させることがなく、押圧力が掛かる環境下、例えば水中に容器を浸漬して用いても、容器の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放させることが可能である。
【0036】
また、本発明の微生物への電子供与体供給方法並びに装置によれば、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物と、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材とを非多孔性膜を一部に備える密封構造の容器内に収容することにより、揮発性有機物を非多孔性膜から少しずつ透過させて微生物に対して緩やかに供給することが可能である。したがって、揮発性有機物供給量を一定量に維持するための設備を備える必要がなくなり、ランニングコストを大幅に低下させることが可能である。
【0037】
さらに、揮発性有機物を補充し得る供給口を設けることにより、容器内の揮発性有機物の減少分を補充することが可能となるので、微生物が必要とする量の電子供与体を長期に亘って緩やかに供給することが可能となる。
【0038】
また、容器下部に押圧力が掛かると、液体浸透部材に浸透していない余剰分の揮発性有機物が、押圧力の掛かっていない容器上部へ移動して貯留される。この場合、押圧力が掛けられている容器下部においては揮発性有機物の浸透経路が確保されて液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透すると共に、押圧力により容器がつぶされて薄くなる。また、押圧力が掛けられていない容器上部には揮発性有機物が貯留される。したがって、貯留している揮発性有機物を、液体浸透部材に浸透している揮発性有機物の減少分だけ供給して、容器の下部の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放することができる。
【0039】
また、本発明の電子供与体供給方法並びに装置によれば、揮発性有機物を原液のまま液体浸透部材に浸透させても、揮発性有機物分子が少しずつ非多孔性膜を透過するので、微生物に対して揮発性有機物を緩やかに供給することができる。したがって、従来のように微生物が死滅しない程度に揮発性有機物を水で希釈する工程を省略して手間を省くことができると共に、同じ容積の液量で長時間揮発性有機物を供給することが可能となる。また、誤って原液を供給して微生物を死滅させるような事故を防ぐことが可能となる。さらに、容器そのものを小さくできるし、この容器に対して揮発性有機物を補給するための貯蔵タンクが存在する場合にも希釈しない原液状態での貯蔵を可能とするためタンク容量を小さくできる。
【0040】
また、非多孔性膜が分子ふるいとして機能するため、透過させようとする分子の分子量が大きくなるにつれて、その分子を透過し難くなる。したがって、有機物の中に不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子量の大きなカテキンは透過し難く、微生物にとって無害な揮発性有機物が主成分として透過して容器外に徐放され、不純物のほとんどが容器内に残留する。したがって、廃アルコールのように、不純物を含んでいる揮発性有機物を用いることができる。廃アルコールの再利用は、廃棄物の量を減らすことができて環境にとって好ましいと共に廃棄物の有用化を可能としてエネルギー源のコストを下げることができる。例えば、現在、蒸留、精製等の過程を経て再生されている廃アルコールを、これらの処理を行うことなくそのまま用いることができ、大幅なコストダウンを実現できる。より具体的には、食品、医薬品製造工程などで生じる廃アルコールを、微生物毒性を持つ物質(カテキンやシアン化合物など)を蒸留などの除去工程を経ることなく、微生物のエネルギー源として有効利用できる。
【0041】
さらに、本発明の電子供与体供給方法並びに装置は、非多孔性膜から成る袋状の容器に揮発性有機物と揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を密封しているので、容器内の揮発性有機物が消費され尽くすまでは自律的に緩やかに且つ均一に一定速度で揮発性有機物が供給される。したがって、メンテナンスを必要とせず、装置構成を簡素化することが可能である。また、容器内の揮発性有機物を消費し尽くしたときには、揮発性有機物と揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材が密封された新しい袋状の容器と交換するだけで良い。使用済みの袋状の容器は、リサイクルに供することで、再資源化が可能である。
【0042】
また、本発明の微生物への電子供与体供給装置は、液体浸透部材が非多孔性膜で挟持された積層体の周縁部がヒートシールされて液体浸透部材の毛管構造が閉塞されているので、液体浸透部材に揮発性有機物が供給された場合には、液体浸透部材を挟持している非多孔性膜と液体浸透部材の周縁部の毛管構造の閉塞により、揮発性有機物が浸透する領域が密閉された状態となって、密封構造の容器と同様の機能を発揮する。したがって、非多孔性膜の全面から均一に揮発性有機物を徐放できる。また、このような構造の微生物への電子供与体供給装置は、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、積層体の周縁部をヒートシールして液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む製造方法により得られる。あるいは、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、微生物を担持させ得る担体および積層体を外部衝撃から保護する保護材のいずれか一方もしくは双方を積層体の表面に備える工程と、積層体の周縁部をヒートシールして液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む製造方法により得られる。したがって、積層体の周縁部をヒートシールするだけで揮発性有機物が浸透する密閉領域を形成することができるので、液体浸透部材を袋あるいは容器内に入れる手間を省くことができ、作製が非常に容易である。また、非多孔性膜の表面に微生物を担持し得る担体及び積層体を外部衝撃から保護する保護材のうちのいずれか一方もしくは双方をさらに備えている場合でも、積層体の周縁部を担体や保護材全てをまとめてヒートシールすることで、容易に多層構造体を形成できるので、多層構造体を大面積且つ薄く形成しておけば、大型で薄い装置の作製も容易となる。
【0043】
また、本発明の電子供与体供給装置を利用したバイオリアクターによれば、微生物への電子供与体として機能する揮発性有機物を微生物が固定された担体に自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって供給することを可能とするので、バイオリアクターを大型化しても、電子供与体供給装置全体が非多孔性膜で構成される場合には、容器内に収容されている液体浸透部材に浸透させた揮発性有機物が非多孔性膜の全面から均一に透過して容器の周辺に徐放する。したがって、揮発性有機物が電子供与体を必要とする微生物が固定された面の隅々まで供給される。しかも、揮発性有機物を浸透させた液体浸透部材を収容した容器を微生物を固定した担体の近くに配置して自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって供給するようにしているので、バイオリアクター毎に独立して取り扱うことができ、使用に便利である。また、非多孔性膜の表面に微生物を直接担持させてなるバイオリアクターの場合、供給される揮発性有機物の全量が微生物に直接に供給されるので、無駄に消費されたり被処理液を汚染することがなく、さらには担体を付着させた別の容器を必要としない。
【0044】
さらに、本発明のバイオリアクターにおいて担体として吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、微生物を良好な状態で担持させて目的とする成分の除去を効率よく行うことが可能となる。
【0045】
また、本発明のガス状アンモニアの除去方法並びに装置によれば、本発明の電子供与体供給装置あるいは本発明の電子供与体供給装置を用いたバイオリアクターを利用しているので、脱窒菌への電子供与体となる揮発性有機物の供給量を一定量に維持するための設備を備える必要がなく、ガス状アンモニアの除去にかかるランニングコストを大幅に低下させることが可能である。また、電子供与体供給装置の容器を薄くできるので、電子供与体供給装置を高密度に集積させて配置することができる。したがって、ガス状アンモニアの除去装置の小型化、コンパクト化が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
【0047】
本発明にかかる微生物への電子供与体供給装置の一実施形態として、容器内に液体浸透部材を収容したタイプの電子供与体供給装置である図1〜図8に基づいて説明する。
【0048】
図1に示す電子供与体供給装置1は、微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物3と、揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材13と、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器4とを含み、容器4内には揮発性有機物3と共に液体浸透部材13が収容されて、揮発性有機物3を容器4の非多孔性膜2の部分から非多孔性膜2の分子透過性能に支配される速度で容器4の周辺の微生物に供給するものである。本実施形態では、容器4は全体が非多孔性膜2で構成される袋状を成し、周縁をヒートシールなどで溶着して、揮発性有機物3を浸透させたシート状の液体浸透部材13を非多孔性膜2でラミネートした形態としているが、形態や構造は特に限定されない。例えば、容器をチューブ状として揮発性有機物と共に棒状の液体浸透部材を密封するような構造としても良い。また、袋状の容器(単に袋と呼ぶこともある)4は、全体を非多孔性膜で構成するものに特に限られず、一部例えば片面だけを非多孔性膜で構成したり、1つの面のさらに一部分を非多孔性膜で構成するようにしても良い。この際、他面あるいは残部を揮発性有機物を透過しない膜で構成することも可能である。このように構成することで、容器の所望の部分から揮発性有機物を徐放させることが可能である。
【0049】
微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物3としては、微生物に対して毒性を呈さない物質であって、非多孔性膜2を腐食しない性質を持ち、かつ非多孔性膜2を透過できる分子量、性質を有するものが適宜選択される。例示すると、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられる。尚、微生物によってはベンゼン、トルエン、フェノールなども利用可能であるが、これらに限定されるものではない。
【0050】
ここで、揮発性有機物3は、原液のままで用いることができる。従来であれば、メタノールやエタノール等のアルコールを微生物のエネルギー源として用いる場合には、微生物が死なない程度の濃度に水で希釈する必要があったが、本発明によれば、揮発性有機物は微生物へ緩やかに供給されるため、揮発性有機物の原液を用いても、微生物が死に至ることはない。尚、必ずしも揮発性有機物の原液を用いる必要はなく、揮発性有機物の原液を水で希釈して用いた場合や、不純物が混在しているような場合であっても、揮発性有機物分子が非多孔性膜を透過して微生物に緩やかに供給される。したがって、揮発性有機物に不純物例えばカテキンやシアン化合物のように微生物に対して毒性を呈する抗菌性の分子が混入していても、分子量の大きなカテキンや極性の大きなシアン化合物は透過し難く、微生物にとって無害な揮発性有機物を主成分として透過させて容器外に徐放させることが可能となり、不純物は容器内にほとんど残留する。したがって、廃アルコールのように、不純物を含んでいる揮発性有機物を用いることができる。
【0051】
揮発性有機物3を浸透させ得る液体浸透部材13としては、揮発性有機物3を毛管現象により均一に拡散させることができる部材であればよい。例示すると、多孔質体、繊維状物質、粉体などが挙げられる。より具体的には、例えば多孔質体であれば、金属多孔質体であっても、セラミックス多孔質体であってもよいし、可撓性のプラスチック多孔質体などを用いてもよい。つまり、剛性の高い金属やセラミックスなどの部材を用いれば、容器4が変形し難くなるし、可撓性の部材を用いれば、容器4を可撓性として、変形し易くすることができる。また、繊維状物質としては、濾紙等の紙、不織布、その他発泡体などが挙げられる。さらに、粉体としては容器4に充填して揮発性有機物3を浸透し得るものであればよい。また、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム、塩化ビニールスポンジ、天然ゴムスポンジ、シリコンゴムスポンジ、セルローススポンジなどを用いることもできる。尚、液体浸透部材13はここで例示したものに限られるものではない。ここで、揮発性有機物3は液体浸透部材13を介して供給されるので、液体浸透部材13は、容器4の非多孔性膜2で構成される徐放面全体に揮発性有機物3を供給できる大きさにすることが好ましい。この場合には、非多孔性膜2の全面に揮発性有機物3が供給されて、非多孔性膜2を透過して均一に徐放される。図1に示すように、容器4を全体が非多孔性膜2で構成される袋状として、袋の内部全体に揮発性有機物3を浸透させたシート状の液体浸透部材13を収容して密封することで、非多孔性膜2の全面、つまり容器4の全体から揮発性有機物3を均一に徐放することができる。この場合、容器の大きさに占める揮発性有機物の徐放面が最大化できる。
【0052】
液体浸透部材13の厚さについては、厚くすれば揮発性有機物3の浸透容量を増加させることができるが、容器の厚さは厚くなる。逆に、液体浸透部材13の厚さを薄くすれば揮発性有機物3の浸透容量は減少するものの、容器の厚さは薄くできる。したがって、これらのバランスにより、容器4の厚さが所望の厚さとなるよう液体浸透部材13の厚さを調整すればよい。尚、液体浸透部材13の形状は図1に示すような四角形である必要は無く、例えば櫛状にして、櫛の歯の部分以外で非多孔性膜どうしを溶着したり、適度に孔を設けて、孔の部分で非多孔性膜どうしを溶着してラミネートされた状態とすることで、液体浸透部材の全面と非多孔性膜を接触させるようにしてもよい。この場合には、揮発性有機物3のガス化を抑えて容器4の膨らみを防止することができる。また、液体浸透部材が芯材として機能するので、容器の強度を向上させる効果がある。
【0053】
非多孔性膜2は、揮発性有機物3の分子を少しずつ透過させることによって徐放するものである。非多孔性膜2の材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ビニロンなどのプラスチックフィルムの他に、ポリエチレン系、エチレンアクリル酸共重合体、ポリエチレンテレフタレート混合物系などの気液系膜が使用可能なものの例として挙げられるが、安価で入手し易く、耐久性や耐薬品性に優れたポリエチレンやポリプロピレンの使用が好ましい。ポリエチレンやポリプロピレンは、水を透過し難く、適度な物質の透過性、熱可逆性を有しており、柔軟で成形が容易であるという利点を有している。また、様々な物質に対して安定である。勿論、ポリエチレンやポリプロピレンを含めて上述したものに特に限定されるものではない。この非多孔性膜2は、膜材料、膜厚、該膜の表面積、揮発性有機物3の分子量や性質、温度及び外圧等により、透過する揮発性有機物3の分子の量を制御することが可能である。本発明者等のポリエチレン膜に対する実験によると、同じ膜材料の場合には膜厚によって分子透過量が変化することが確認されている。そこで、微生物に対して必要な揮発性有機物の供給量に応じて、適宜膜厚などを選定することによって、必要な速度で必要な量の揮発性有機物3を供給することができる。このとき、揮発性有機物3は、非多孔性膜2の透過性能に支配される緩やかな速度で漏れ出るので、容器周辺の微生物に対し生存に影響を与えることのない濃度に希釈された状態で微生物に供給される。
【0054】
ここで、非多孔性膜2は、膜の密度によっても分子透過量が変化する。ポリエチレンを例に挙げて説明すると、JIS K6922−2により分類される低密度ポリエチレン(密度910kg/m3以上、930kg/m3未満)を用いた場合、微生物に対して十分な量の揮発性有機物3が膜外に透過するが、高密度ポリエチレン(密度942kg/m3以上)を用いた場合には、揮発性有機物3の膜外への透過量が減少する。したがって、所望の揮発性有機物供給量に応じて、非多孔性膜2の膜厚と膜密度のバランスにより、微生物への揮発性有機物供給量を制御すればよい。ここで、膜密度は、例えば延伸処理により可変することができるので、当該処理により所望の膜材料の膜密度を可変し、揮発性有機物供給量を制御することが可能である。
【0055】
揮発性有機物3の非多孔性膜2の透過は、揮発性有機物分子が膜に溶け込み、その溶け込んだ分子が膜内部を拡散して反対側に達することにより起こる。したがって、膜への溶け込みが起こらない程大きなサイズの分子であるカテキンや極性の高いシアン化合物などは非多孔性膜を透過しにくい。また、ポリエチレンやポリプロピレン等は水となじむ官能基が存在しない疎水性の強い膜であると共に低極性であるため、極性分子である水が膜に溶け込みにくい。また、水分子同士の水素結合が強いため、常温では水が当該膜を透過することはほとんど無い。したがって、非多孔性膜2は、水や分子量の大きなカテキン、極性の高いシアン化合物等の不純物はほとんど透過させずに、所望の揮発性有機物を主成分として透過させる「分子ふるい」として機能する。また、揮発性有機物3は、分子状態、つまり、液体のように分子間の引力により凝集することのないガス(気体)の状態で非多孔性膜2を透過して徐放される。したがって、非多孔性膜2はガス透過性膜とも表現できる。
【0056】
また、非多孔性膜は、上述したように揮発性有機物が膜に溶け込むことにより透過させており、多孔質膜のように孔の大きさや数で揮発性有機物の種類や量を制御するものではない。したがって、長期間の使用による孔の閉塞の問題も生じることが無く、定期的な逆洗浄の必要もない。したがって長期間メンテナンスを行うことなく使用でき、ランニングコストを低減できる。
【0057】
また、非多孔性膜2の表面の性質は使用される揮発性有機物3の性質によって決定するのがよい。例えば、非多孔性膜2の表面を疎水性とすれば、炭素鎖のような疎水基を有する分子を透過しやすくなる。一方、非多孔性膜2の表面を親水性とすれば、親水基を有する分子を透過しやすくなる。よって、使用する揮発性有機物3の性質に合わせて、非多孔性膜2表面の性質を決定すればよい。また、膜内部に極性を与えることで膜を構成する分子鎖どうしの結合を強めて分子鎖間の空隙を小さくし、分子透過性能の制御を行うことが可能である。例えば、ポリ塩化ビニリデンのようにポリエチレンの水素の一部が塩素で置換された極性分子により構成された膜は、ポリエチレンと比較して分子鎖間の空隙が小さく、分子透過性能が低くなる。さらに、疎水性膜と親水性膜を貼り合わせて、両方の性質を与える膜として、揮発性有機物の透過性を制御することもできる。
【0058】
ここで、液体浸透部材13の容器4内への収容状態について説明する。図1に示す微生物への電子供与体供給装置1においては、液体浸透部材13が非多孔性膜2によってラミネートされた状態となっており、揮発性有機物3を含む液体浸透部材13と非多孔性膜2とが接触している。この場合、液体浸透部材13の全面に均一に拡散している揮発性有機物3を非多孔性膜2の全面から均一且つ緩やかに容器周辺の微生物に供給することができる上に、容器4の厚さを液体浸透部材13の厚さ程度まで薄くすることができ、容器4が非常にコンパクトなものとなる。また、容器4に押圧力が掛かることで、液体浸透部材ににも押圧力が掛かって潰れるので、液体浸透部材13の厚さよりもさらに薄くなる場合もある。このように、押圧力が掛かって液体浸透部材が潰れた場合でも、揮発性有機物の浸透経路が確保されて、液体浸透部材の隅々まで揮発性有機物が浸透するので、揮発性有機物の徐放面積が減少することはない。
【0059】
尚、液体浸透部材13の容器4内への収容状態は、図1に示す形態に限定されるものではない。例えば、図2に示すように、液体浸透部材13に浸透させることのできる量以上の揮発性有機物3a(以下、余剰揮発性有機物と呼ぶこともある。)を容器内に併存させて、液体浸透部材13の全面に非多孔性膜2が接触しない状態で収容してもよい。図2に示すように、容器4を縦にして使用する場合、余剰揮発性有機物3aは容器の底部に溜まる。そして、容器4の底部に溜まっている余剰揮発性有機物3aがガス化して容器4内に拡散する。したがって、この場合には容器4の膨らみは発生してしまう。しかし、容器4の一部に押圧力を掛けて、当該部分の非多孔性膜2と液体浸透部材13とを接触させるといった用い方をすることで、押圧力を掛けた部分を薄くすることができる。そして、押圧力の掛けられていない部分には揮発性有機物を貯留して用いることが可能となる。例えば、図3に示すように、容器下部4aを水中に浸漬すると、水圧が掛かるため、水面下の容器下部4aの非多孔性膜2aと液体浸透部材13aとを接触させて薄くすると共に、余剰揮発性有機物3aが水圧の掛かっていない水面上の容器上部4bに押し上げられて貯留される。そして、容器下部4aの液体浸透部材13aに浸透している揮発性有機物3の量が減少した場合には、液体浸透部材13aを介して毛管現象により余剰揮発性有機物3aを浸透させて供給することができ、非多孔性膜2aの全面から揮発性有機物3を長期に亘って徐放させ続けることが可能である。ここで、水圧が掛けられている容器下部4aからだけ揮発性有機物3を徐放させたい場合には、容器上部4bを揮発性有機物を透過しない素材で覆ったり、あるいは、容器上部4bの素材そのものを揮発性有機物を透過しない素材を用いるようにする。尚、容器4は水中に浸漬しようとしても浮いてしまう場合がある。このような場合には、容器4の底部に錘(不図示)を備えるようにして、錘の重さにより所望の部分まで容器4を浸漬するように調整すれば良い。
【0060】
また、容器4内に収容された液体浸透部材13は、液体を保持すると共に液体の通路として機能する。また、スペーサーとしての役割も果たす。したがって、容器4の一部あるいは全体に押圧力が掛かって潰れた場合にも、揮発性有機物3の浸透経路が確保されて、液体浸透部材13の隅々まで揮発性有機物3が浸透するので、揮発性有機物3の徐放面積が減少することがなく、水中に容器を浸漬して用いても、容器の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放させることが可能である。したがって、図3に示すような容器下部4aのみを水面下に浸漬させる場合に限らず、容器4の全体を浸漬して使用しても、揮発性有機物3を容器4の非多孔性膜部分全体から徐放させることができる。
【0061】
以上のように構成された電子供与体供給装置1は、電子供与体の供給が必要な微生物の近くに配置するだけで、容器4内から非多孔性膜2を分子ふるいとして透過する揮発性有機物の分子が自律的に一定速度で緩やかに徐放され、微生物に供給される。このとき、容器4から透過する揮発性有機物の量は、非多孔性膜の材料や膜厚、膜密度などの選択によって、必要とする揮発性有機物量となるように制御されているので、微生物の生存に影響を与えることのない濃度に希釈された状態で微生物に揮発性有機物として供給される。また、押圧力が掛かる環境下、例えば水中で用いる場合であっても、容器内には液体浸透部材を収容しているので、容器が水圧により押し潰されても、揮発性有機物の浸透経路は液体浸透部材に確保されて、揮発性有機物が全面に均一に浸透している状態を保持することができ、非多孔性膜の全面から均一に揮発性有機物を徐放させて微生物に供給することが可能である。
【0062】
次に、図4並び図5に他の実施形態を示す。この実施形態の微生物への電子供与体供給装置は、非多孔性膜2からなる容器4を完全密封された独立したものとはせずに、揮発性有機物3を導入する手段を有する密封状の袋状とした容器とし、揮発性有機物3を外部から補充可能としたものである。
【0063】
揮発性有機物3を導入する手段は、図4に示すように容器4の縁の一部に揮発性有機物3を注入する供給口5を設けて、さらに図5に示すようにノズルないしパイプ7を装着する構造でも良いし、容器4と一体となったノズルないしパイプ7のようなものでも良い。図5に示す微生物への電子供与体供給装置1は、容器4の縁に設けられた供給口5に装着された供給ノズル7あるいは容器4と一体となった供給ノズル7と、揮発性有機物を貯留するタンク6とをチューブ8などで連結し、必要に応じて揮発性有機物3を補充可能としている。この場合、タンク6と容器4とはチューブ8を介して連通されているので、タンク6内に揮発性有機物の原液3’を貯蔵しておけば、容器4内に収容されている液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が減少してきたときに、揮発性有機物3’をタンクと容器の圧力差により補充でき、液体浸透部材3を介して、容器4の全面に供給することができる。尚、容器4は供給口5あるいはノズル7を設けているので厳密な意味での密封構造ではないが、供給ノズル7内がタンクから供給される揮発性有機物3’で満たされている状態では、液面がシールとなって容器内は事実上密封状態にある。このため、容器4内に収容されている液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が供給口5やノズル7を通って容器4外に漏れ出ることはない。
【0064】
ここで、図4及び図5においては、液体浸透部材13の容器4内への収容状態は、前記と同様に液体浸透部材13が非多孔性膜2によってラミネートされた状態となっている。この場合、液体浸透部材13の全面に均一に拡散している揮発性有機物3を非多孔性膜2の全面から均一且つ緩やかに容器周辺の微生物に供給することができる上に、容器4の厚さを液体浸透部材13の厚さ程度まで薄くすることができ、容器4が非常にコンパクトなものとなる。
【0065】
尚、液体浸透部材13の容器4内への収容状態は、前記の形態に限定されるものではなく、液体浸透部材13と非多孔性膜2の間に隙間を設けるようにして液体浸透部材13を収容するようにしてもよい。この場合、例えば、以下のようにして用いることで、容器4の一部を薄くして用いることができる。
【0066】
図6に示す電子供与体供給装置は、図3に示す電子供与体供給装置に揮発性有機物を補充し得る供給口5を備えたものである。この場合、押圧力が掛かっていない容器上部4bに揮発性有機物3を補充することができるので、随意にあるいは定期的に揮発性有機物3を補充して、長期に亘って揮発性有機物3を容器4の周辺に徐放することができる。
【0067】
ここで、押圧力が掛けられていない容器上部4bの容積は、容器4の内部の容積に比例して増加するので、揮発性有機物3の貯留量を増やしたい場合には、容器4の容積を大きくしておけばよい。尚、前記と同様、押圧力が掛けられている容器下部4aからだけ揮発性有機物3を徐放させる場合には、貯留している揮発性有機物3の容器上部4bからの透過を防ぐように構成しておく。
【0068】
以上、本発明の電子供与体供給装置1を図6のようにして用いることで、押圧力が掛かる環境下、例えば水中に容器を浸漬して用いても、押圧力が掛けられている容器下部4aにおいては揮発性有機物3の浸透経路が確保されつつ、押圧力により容器がつぶされて薄くなると共に、押圧力が掛けられていない容器上部4bには揮発性有機物を貯留することができ、揮発性有機物3の供給に都合がよい。しかも、押圧力により容器が潰されても、液体浸透部材13を収容していることにより、揮発性有機物3の供給経路が遮断されることがないので、貯留している揮発性有機物3の液体浸透部材13への供給がし易いという利点を有すると共に、押圧力が掛かっている面全体から揮発性有機物3を徐放することができる。
【0069】
尚、前記したように、容器4内に収容された液体浸透部材13は、液体を保持すると共に液体の通路として機能する。また、スペーサーとしての役割も果たす。したがって、容器4に押圧力が掛かって潰れた場合にも、揮発性有機物3の浸透経路が確保されて、液体浸透部材13の隅々まで揮発性有機物3が浸透するので、揮発性有機物3の徐放面積を減少させることがなく、水中に容器を浸漬して用いても、容器の非多孔性膜部分から揮発性有機物を均一に徐放させることが可能である。したがって、容器4の少なくとも供給口5の部分以外の全体に押圧力を掛けて使用することも可能である。つまり、容器4の供給口5以外の徐放面全体を水中に浸漬して使用してもよい。この場合、容器4内に揮発性有機物を貯留することはできないものの、容器の大きさに占める揮発性有機物の徐放面が最大化できる。
【0070】
また、図7に示すように、容器4の全体を鞘体14に内挿して、液体浸透部材13と非多孔性膜2を接触させて用いるようにしてもよい。この場合には、鞘体14が非多孔性膜2を外部衝撃などから保護する保護材としても機能するので、容器のコンパクト化と非多孔性膜の保護が同時に達成される。鞘体14は揮発性有機物3の徐放を妨げないものであればよい。例えば不織布等が挙げられるが、これに限定されない。
【0071】
尚、容器下部4aのみを鞘体14に内挿し、内挿された部分において液体浸透部材13aと非多孔性膜2aを接触させ、鞘体14に内挿されていない容器上部4bの容積を増加させて、揮発性有機物3を貯留してもよい。
【0072】
ここで、容器4を図6に示した形態に予め加工することもできる。例えば、図8に示すように、容器上部4bと下部4aに区画すると共に上部4bと下部4aとを液体浸透部材13により連通し、上部4bに揮発性有機物3を貯留するように加工しても良い。さらに具体的に説明すると、容器4の境界部15をヒートシールなどにより溶着して上部4bと下部4aに区画する。この際、境界部15の一部分は溶着せずに液体浸透部材13を貫通させて、上部4bと下部4aを液体浸透部材13により連通させ、上部4bから揮発性有機物3を浸透させて下部4aに揮発性有機物3を毛管現象により供給するようにしている。このように構成することにより、容器4の上部4bに貯留されている揮発性有機物3が容器上部4bに貫通している液体浸透部材13bに浸透して容器下部4aの液体浸透部材13aに供給される。そして、液体浸透部材13aから非多孔性膜2aを介して揮発性有機物3が徐放される。ここで、図8に示すように、容器下部4aの液体浸透部材13aは非多孔性膜2aと接触させるようにして密封する。つまり、液体浸透部材13aが非多孔性膜2aによりラミネートされている状態とすることで、水中で入れた場合と同様の形態となる。
【0073】
尚、図8に示す容器上部4bは脱着可能としても良い。例えば、容器上部4bに貯留している揮発性有機物3を消費し尽くした場合に、溶着されている境界部15を切断して上部4bを切り離し、容器下部4aから露出している液体浸透部材13を揮発性有機物3を密封した新しい容器に差し込んで、当該容器を容器下部4aに接着して用いる所謂カートリッジタイプのような形態にしても良い。
【0074】
また、図6並びに図8に示す容器上部4bには揮発性有機物の供給口と共に、排出口を設けてもよい。排出口を設けることにより、容器上部4bに揮発性有機物を供給する際の圧力損失を減らすことができる。圧力損失を減らすことで、容器上部4bに無駄な圧力が掛かることが無くなり、容器下部4aの液体浸透部材13aと非多孔性膜2aの間に揮発性有機物が入り込むことなく、液体浸透部材13に浸透して、揮発性有機物3の供給に好適な形態となる。
【0075】
次に、電子供与体供給装置1の他の形態及びその製造方法について説明する。前記した袋状の容器4の場合、容器4は全体が非多孔性膜2で構成される袋状を成し、周縁をヒートシールなどで溶着して、揮発性有機物3を浸透させたシート状の液体浸透部材13を密封するようにしている。つまり、揮発性有機物3は非多孔性膜2で構成される容器内に密封されているが、以下に説明する実施形態では、液体浸透部材13を非多孔性膜2により挟持した積層体を形成した上で、当該積層体の周縁部をヒートシールして電子供与体供給装置1を形成するようにしている。尚、ここで言う積層体は、液体浸透部材13と非多孔性膜2の全面あるいは一部が接着あるいは溶着されているものの他、接着あるいは溶着等がされることなく単に液体浸透部材13に非多孔性膜2を重ねただけの積層体も含むんでいる。
【0076】
図9に示す本発明の電子供与体供給装置は、液体浸透部材13を非多孔性膜2で挟持して積層体を形成した後、当該積層体の周縁部をヒートシールして形成されている。ここで、周縁部のうちの一部はヒートシールせずに揮発性有機物導入部20として確保しておくことが好ましい。この場合には、揮発性有機物導入部20に揮発性有機物を接触させると、毛管現象により、液体浸透部材13に揮発性有機物が浸透して供給される。例えば、上述した図8に示す容器上部4bを脱着可能としてカートリッジタイプの形態にしたものを接着することにより繋げて、揮発性有機物を供給するようにする。また、周縁部の全体をヒートシールした場合であっても、例えば、揮発性有機物が浸透する領域にノズルなどを差し込んで揮発性有機物を供給することが可能である。尚、予め液体浸透部材13に揮発性有機物3を浸透させた状態で非多孔性膜2と積層体を形成し、当該積層体の周縁部全てをヒートシールして、液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3を密封して用いることも可能である。
【0077】
この場合の液体浸透部材13としては、非多孔性膜と溶着し得る素材であって、ヒートシールした際に毛管構造が閉塞する素材を用いる。したがって、液体浸透部材13のヒートシール部13’の毛管構造閉塞部と非多孔性膜2により囲まれた領域の全体に揮発性有機物3が供給されて、周縁部以外の非多孔成膜2の全面から揮発性有機物3を徐放できる。
【0078】
この場合に用いる液体浸透部材13の具体例としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンを繊維状にした素材や、ポリエチレンフォーム、ポリウレタンフォーム、塩化ビニールスポンジ、天然ゴムスポンジ、シリコンゴムスポンジ、セルローススポンジが挙げられる。この場合、前記した非多孔性膜の素材と溶着させやすく、特に、非多孔性膜としてポリエチレンやポリプロピレンを用いた場合には、素材の出発原料が同一あるいは類似しており、非常に溶着させやすい。
【0079】
ここで、非多孔性膜2と液体浸透部材13を溶着させる場合には、以下の方法が好ましい。液体浸透部材13としてポリエチレンの繊維状素材を、非多孔性膜2としてポリエチレンを用いた場合を例に挙げて説明すると、まず、加熱して軟化させたポリエチレンの繊維状素材を非多孔性膜2の表面上に撒く。次に、ポリエチレンの軟化状態が維持されている間に、もう一枚の非多孔性膜2を載せる。これにより、ポリエチレン膜自体を高温加熱することなく、ポリエチレン膜の分子透過性能を保持したまま液体浸透部材13を非多孔性膜2に溶着させて挟持することができる。
【0080】
ここで、非多孔性膜2と液体浸透部材13は全面で溶着されている場合には、非多孔性膜2と液体浸透部材3に隙間がないので、毛管現象により浸透した揮発性有機物が隙間にしみ出して膨らむの防いで非常に薄くできるので好ましい。しかしながら、非多孔性膜2と液体浸透部材13を必ずしも全面で接触させなければならない訳ではない。例えば、シート上の液体浸透部材と非多孔性膜を全面で溶着することなく、ヒートシールされる周縁部だけで非多孔性膜2と液体浸透部材13とを溶着すると共に、液体浸透部材13の毛管閉塞を行うようにしてもよい。または、液体浸透部材13と非多孔性膜2を全面では無く数カ所だけ溶着あるいは接着しておいて、ヒートシールされる周縁部で非多孔性膜2と液体浸透部材13とを溶着すると共に、液体浸透部材13の毛管構造の閉塞を行うようにしてもよい。
【0081】
また、図10に示すように、非多孔性膜2の表面に微生物を固定し得る担体17を積層してから周縁部をヒートシールして一体化してもよい。担体17としては、微生物や酵素の固定化に用いられている高分子ゲルを使用することができる。具体的には、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体が挙げられる。
【0082】
尚、担体17としては吸水性ポリマーを用いることが好ましい。吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、微生物を良好な状態で担持させて目的とする成分の除去を効率よく行うことが可能となる。ここで、吸水性ポリマーとしては一般的に用いられているものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させた物である。
【0083】
このように、予め非多孔性膜2の表面に担体17を備えることにより、微生物を担体に固定することが可能となる。したがって、微生物が添加されている液体に電子供与体供給装置の容器を浸漬して所望の微生物を固定したり、被処理液に添加した微生物を固定したりすることが可能になる。尚、上述の図1〜図8に示した電子供与体供給装置に担体17を備えるようにしても同様の効果を発揮する。
【0084】
また、図11に示すように、担体17の表面にはさらに保護材16を設けても良い。この場合には、電子供与体供給装置1が外部衝撃から保護されると共に、補強材としても機能し、電子供与体供給装置1が大型化に伴って自重が増加した場合に、自重により装置破損が生じるのを防ぐことが可能である。尚、担体17を備えずに保護材16を単独で備えた場合であっても、電子供与体供給装置1の外部衝撃からの保護および補強材としての機能が発揮される。
【0085】
上述した方法によれば、積層体の周縁部をヒートシールするだけで揮発性有機物が浸透する密閉領域を形成することができるので、その作製が非常に容易であり、微生物への電子供与体供給装置を作製する手間やコストが大幅に削減できる。また、非多孔性膜の表面に微生物を担持し得る担体17や積層体を外部衝撃から保護する保護材16をさらに備えている場合でも、積層体の周縁部を担体や保護材全てをまとめてヒートシールすることで、容易にに多層構造体を形成できる。したがって、多層構造体を大面積且つ薄く形成しておけば、大型で薄い装置の作製も容易となる。
【0086】
上述の微生物への電子供与体供給方法及び装置1は、電子供与体を微生物に供給する必要があるあらゆる施設並びにバイオリアクター全般に対して利用可能である。また、使用する環境も特に限定されず、本発明の微生物への電子供与体供給方法及び装置を使用すれば、微生物への揮発性有機物を、液体中でも緩やかに均一に徐放することができる。例えば、図12並びに図13に示すバイオリアクターに適用することが可能である。本実施形態では微生物としてアンモニア酸化菌と脱窒菌を用いた場合について説明するが、この例に限られるものではなく、これらの菌以外にも、目的の成分を除去可能な微生物を用いれば、アンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンなどの窒素化合物以外の成分を除去可能となる。図12並びに図13(A)に示す実施形態のバイオリアクター9は、アンモニア酸化菌および脱窒菌を担持させた担体11と、該担体11の構造的補強を図る不織布から成る袋10と、該不織布の袋10によって補強されている袋状の担体11の内側に形成されるポケット12に収納されて担体11に固定された脱窒菌にエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を自律的に一定速度で緩やかに供給する電子供与体供給装置1を密封した容器4とを備えものである。担体11は、不織布の袋10の内側の面あるいは表側の面に塗布され、不織布の袋10を補強構造物として一定の形態を保つように設けられている。尚、担体の補強のための素材としては、不織布に限られず、ナイロンネットなどを用いても良い。
【0087】
担体11としては、微生物や酵素の固定化に用いられている高分子ゲルを使用することができる。具体的には、コラーゲン、フィブリン、アルブミン、カゼイン、セルロースファイバー、セルローストリアセタート、寒天、アルギン酸カルシウム、カラギーナン、アガロース等の天然高分子、ポリアクリルアミド、ポリ−2−ヒドロキシエチルメタクリル酸、ポリビニルクロリド、γ−メチルポリグルタミン酸、ポリスチレン、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリウレタン、光硬化性樹脂(ポリビニルアルコール誘導体、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体、ポリブタジエン誘導体等)等の合成高分子、またはこれらの複合体が挙げられる。
【0088】
尚、担体11としては吸水性ポリマーを用いることが好ましい。吸水性ポリマーを用いることで、担体の保水力、吸水力が高まるので、微生物を良好な状態で担持させて目的とする成分の除去を効率よく行うことが可能となる。ここで、吸水性ポリマーとしては一般的に用いられているものを使用することができるが、具体的には、ポリアクリル酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸やそれらの改変物、ポリエチレングリコール改変物等が挙げられる。尚、ここで言う改変物とは、イオン性基をもつ高分子を前記高分子の一部に架橋させた物である。
【0089】
尚、担体11は上記したものに限られるものではなく、不織布を起毛処理してそこに微生物を直接担持させるようにしてもよいし、あるいは、非多孔性膜2の表面を起毛処理して、微生物を担持させるようにしても良い。
【0090】
また、アンモニア酸化菌と脱窒菌は、従来この種の分野で知られているものが使用できるが、より具体的には、例えば、アンモニア酸化菌としては、
Nitrosomonas europaea IFO-14298、
Nitrosomonas europaea、 N.marina*、
Nitrosococcus oceanus*、 N.mobilis、
Nitrosospira briensis、
Nitroso lobus multiformis、
Nitrosovibrio tenuis、
脱窒菌としては、
Paracoccus denitrificans JCM-6892、
Paracoccus denitrificans、
Alcaligenes eutrophus、 A. faecalis、
Alcaligenes sp.Ab-A-1、 Ab-A-2、 G-A-2-1(FERM P-13862、 P-13860、P-13861)*
Pseudomonas denitrificans、
などを挙げることができる。
【0091】
尚、亜硝酸酸化菌をさらに担持してもよい。亜硝酸酸化菌としては、従来この種の分野で知られているものが使用できるが、より具体的には、例えば、
Nitrobacter winogradskyi N. hamburgensis
Nitrospina gracilis*
Nitrococcus mobilis*
Nitrospira marina*
などを挙げることができる。
【0092】
尚、上記において*を付した菌株は海水の処理にのみ適用できる菌株であり、それ以外は淡水の処理にのみ適用できる菌株である。N.europaeaとN.winogradskyiは淡水で用いることのできるものと海水で用いることができるものが存在する。寄託番号が付された菌株は、出願人により寄託済の菌株である。
【0093】
アンモニア酸化菌はアンモニア(アンモニウムイオン)を亜硝酸イオンに変換(酸化)する好気性微生物であり、脱窒菌は硝酸イオンや亜硝酸イオンを窒素ガスに変換(還元)する嫌気性微生物である。即ち、アンモニア酸化菌が担持されたバイオリアクターを好気性条件下で使用すれば、アンモニアを亜硝酸イオンに変換して悪臭を抑えることができる。また、脱窒菌が担持されたバイオリアクターを嫌気性条件下で用いれば、硝酸イオンと亜硝酸イオンが無害な窒素ガスに変換される。これらの菌を組み合わせて用いることで、アンモニアと硝酸イオン、亜硝酸イオンが除去可能になる。尚、アンモニア酸化菌に対して酸素を供給すると、嫌気性微生物である脱窒菌の機能は低下するが、この場合には、脱窒菌はバイオリアクター内の好適な領域、即ち、酸素が供給されている位置から離れた嫌気性領域に局所的に偏在して脱窒を行う。尚、亜硝酸酸化菌は亜硝酸イオンを硝酸イオンに酸化する微生物であり、この菌を担持させることで、脱窒反応がより効率的に起こるようになる。
【0094】
上記した菌株は単独で担体に固定してもよいし、同種あるいは異種の菌株を併用して固定してもよい。
【0095】
以上のように構成されたバイオリアクターによれば、容器4内に収容された液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が非多孔性膜2を透過して容器4の周辺即ち容器4を更に覆う外側の担体11の袋内(ポケット12)に漏れ出し、担体11の袋内で拡散しながら電子供与体を必要とする微生物即ち脱窒菌が固定された面に均一に供給する。即ち、微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物3を担体に固定されている微生物に対して自律的に均一かつ緩やかな徐放性をもって供給することが可能となる。このバイオリアクターは、担体11の袋10内に揮発性有機物3を浸透させた液体浸透部材13を密封した電子供与体供給装置としての容器4を装入するだけで構成されているので、密封した液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3を使いきったときには、液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が密封された新しい袋と交換することで持続的に被処理液中のアンモニアや硝酸イオン、亜硝酸イオンを窒素に変えて除去することができる。尚、容器4の周りに被処理液が満たされたとしても脱窒菌は機能するし、また、バイオリアクターの表側の面を曝気することにより、アンモニア酸化菌が活性化し、アンモニアを効率よく除去できるようになる。
【0096】
また、図13(B)に示すように、図12に示す実施形態のバイオリアクター9の電子供与体供給装置としての容器4の代わりに、図4に示す揮発性有機物3を導入する手段を有する密封状の袋状とした容器とし、図5に示す揮発性有機物3を外部から補充可能とした電子供与体供給装置を用いることも可能である。この場合には、タンク6内に揮発性有機物の原液3’を貯蔵しておけば、容器4内の液体浸透部材13に浸透している揮発性有機物3が減ってきたときに、タンク6から揮発性有機物3’がタンクと容器の圧力差により補充されるので、容器・袋4の大きさにかかわらず長時間・長期間にわたって被処理液中の目的とする化合物の除去例えばアンモニア除去などを実施できる。しかも、この場合には、タンク6内の揮発性有機物量3’を監視して適宜補充すれば、該タンク6に接続される多数の電子供与体供給装置を個々に制御・監視する必要がない。
【0097】
ここで、上述したように、本発明の電子供与体供給装置1は、図6に示したように、容器下部4aを水中に浸漬することで、容器下部4aを薄くすることができる。したがって、図14に示すように、袋状のバイオリアクター9に電子供与体供給装置1の容器下部4aを入れて水に浸漬した際に、バイオリアクターの袋と電子供与体供給装置1の容器下部4aに水圧が掛かり、バイオリアクターの厚みを薄くすることができる。したがって、水中に複数のバイオリアクターを設けても嵩張ることが無いので、複数のバイオリアクターを集積して設けることができる。尚、容器4の供給口5以外の部分をバイオリアクター内に入れて水中に浸漬し、徐放面を広くして使用しても良い。
【0098】
また、上述の電子供与体供給装置の容器4と目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体11とを一体化したバイオリアクターを構成してもよい。例えば、揮発性有機物3を密封する容器4の非多孔性膜2の部分を、担体11に当てるように貼着して、担体11と電子供与体供給装置1とを一体化したバイオリアクターを構成する。この場合には、揮発性有機物3が透過する面に微生物が固定されているので、供給される揮発性有機物の全量が微生物に直接に供給される。この場合にも、バイオリアクターを水中に浸漬した場合にその厚みが薄くなって、集積させやすくなる。したがって、バイオリアクターを処理槽などに収容するときの密度を上げることができる。
【0099】
また、バイオリアクターを鞘体としてもよい。つまり、担体11の袋をタイトなものとして、中に入れる電子供与体供給装置1の容器下部4aを薄く潰し、担体11の袋の外にある容器上部4bから揮発性有機物3が液体浸透部材13に浸透して容器下部4aの全面から揮発性有機物3が徐放されるようにしてもよい。このようにすることで、バイオリアクターを薄く、コンパクトにすることができると共に、鞘体として機能するバイオリアクターが保護材として機能し、電子供与体供給装置1が摩擦などの外部衝撃から保護される。
【0100】
次に、図17に示す、本発明のガス状アンモニアの除去装置の一実施形態について説明する。本発明のガス状アンモニア除去装置20は、ガス状アンモニアを導入するガス導入部27と、ガス導入部27から導入されたガス状アンモニアに水を接触させてアンモニア含有水を得る散水手段と、ガス状アンモニアと接触させた水を接触させて水に含まれているアンモニウムイオンを分解処理する微生物処理領域28とを含み、さらに、微生物処理領域28にはアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌および脱窒菌を存在させると共に本発明の電子供与体供給装置1が配置されているものである。散水手段は、循環タンク24に貯留されている水25を汲み上げる散水ポンプ21と、散水ポンプ21により汲み上げた水を通過させる配管22と、水25を下方に散水するための散水管23より構成される。
【0101】
ガス状アンモニアは、ガス導入部27からガス状アンモニア除去装置20内に導入される。尚、本実施形態では、ガス導入部27を散水ノズル23の直下に設けているが、ガス状アンモニアは空気より軽いので、微生物処理領域28の下にガス導入部27を設けて、ガス状アンモニアを装置20内の上方に拡散させるようにしても良い。次に、循環タンク24内の水25は、散水ポンプ21により汲み上げられ、配管22を通って、散水管23から散水される。散水された水25は、装置20内に導入されたガス状アンモニアと接触してこれを溶解し、ガス状アンモニアをアンモニウムイオンに変換して、微生物処理領域28と接触する。水25に含まれているアンモニウムイオンは、アンモニア酸化菌により亜硝酸イオンに酸化され、亜硝酸酸化菌も存在する場合は硝酸イオンにまで酸化される。そして、アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンまたはアンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンと亜硝酸酸化菌により生成された硝酸イオンは、脱窒菌により窒素ガスに還元される。したがって、ガス状アンモニア除去装置20により、ガス状アンモニアを脱臭すると共に無害化することができる。また、水25と微生物処理領域28が接触することで、微生物処理領域内に存在している微生物への水の供給が同時に行われる。微生物処理領域28を通過した水25は、循環タンク24に戻る。この際、除去されなかったアンモニウムイオンが循環タンク24内に混入して、pHを上昇させる虞があるので、給水手段26を設けて、循環タンク24内の水25を希釈して、pHを一定値に保つようにしている。
【0102】
ここで、微生物処理領域28におけるアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌および脱窒菌の存在のさせ方は特に限定されないが、例えば、前述した担体17に担持させてもよいし、多孔質体などを用いてもよい。電子供与体供給装置1の配置の仕方も脱窒菌に揮発性有機物3を供給できるのであれば特に限定されない。尚、微生物処理領域28の代わりに、本発明のバイオリアクター9を配置しても良い。バイオリアクター9の配置の仕方は特に限定されるものではないが、複数のバイオリアクター9を対面させて集積し、バイオリアクター9の面と散水方向とが平行になるように配置することが好ましい。この場合には、バイオリアクター9の集積密度の向上させることができると共に、水が各バイオリアクターを通過し易くなるので、ガス状アンモニアの除去効率が向上する。
【0103】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【実施例】
【0104】
(実施例1)
ポリエチレン膜を用いて袋を形成し、その中にメタノール、エタノールを密封した場合の有機物の透過量を測定して、本発明の電子供与体供給装置の有効性について確認した。
厚さ0.05mm、0.1mm、0.3mm、0.5mmのポリエチレン膜(商品名:ミポロンフィルム、ミツワ(株)製)中にメタノール(和光純薬工業製、99.8%)、エタノール(和光純薬工業製、99.5%)を密封して袋状とし、これを水中に浸漬し、経過日数に対して分子透過量をTOC濃度を測定することによりメタノールおよびエタノールの透過量を評価した。TOC濃度は燃焼−赤外線式全有機炭素分析計(TOC−650、東レエンジニアリング製)により測定した。この結果を図15の(A)並びに(B)に示す。図中において、Bはバックグラウンド、MeOHはメタノール、EtOHはエタノール、0.05、0.1、0.3、0.5等の数値はポリエチレン膜厚(単位;mm)を表している。この実験から、メタノール、エタノール共に、ポリエチレン膜厚が薄くなるにつれて、TOC濃度も増加していくことから、ポリエチレン膜の膜厚により、電子供与体供給量の制御が可能であることが確認された。したがって、この原理を利用することにより、メタノールやエタノールなどの揮発性有機物を濾紙等の液体浸透部材に浸透させてからポリエチレン膜などの非多孔性膜に密封して用いることで、非多孔性膜の全面から均一且つ緩やかに徐放することが可能である。
【0105】
(実施例2)
実施例1で用いたエタノールを密封するポリエチレンの袋とを使って、バイオリアクターの機能を確認した。
【0106】
(供試菌株とその培養)
アンモニア酸化菌としてNitrosomonas europaea IFO-14298、脱窒菌としてParacoccus denitrificans JCM-6892を用いた。培養には、Nitrosomonas europaeaはIFO Medium List No.240、Paracoccus denitrificansは JCM Medium List No.22(Nutrient agar No.2)を基本とした液体培地を用いた。培地の組成を表1に示す。IFO培地No.240にPhenol RedをpH指示薬として添加し、pHはCaCO3の代わりにNa2CO3を適宜添加することにより調整した。また、JCM培地No.22からは寒天を除き、液体培地として用いた。それぞれ30℃で振とう(110rpm)培養後、遠心分離により集菌し、リン酸緩衝液(9g/l Na2HPO4・12H2O、1.5g/l KH2PO4、pH=7.5)により3回洗浄した。洗浄菌体は、N.europaeaは8mg dry wt./ml、P.denitrificansは33mg dry wt./mlになるようそれぞれリン酸緩衝液に懸濁した。
【0107】
【表1】
【0108】
(菌固定化方法)
光硬化性樹脂PVA−SbQ(SPP−H−13、東洋合成工業製)9mlに対し、前述のN.europaeaの菌懸濁液1ml、P.denitrificansの菌懸濁液2mlを混合し、固定化した。菌体と樹脂の混合液は直接不織布に塗布し、メタルハロゲンランプ下で1時間照射することにより不織布の片面にシート状に固定化担体(縦50mm、横50mm、厚さ20mm)を成形した。
【0109】
(性能評価)
固定化担体を用いたバイオリアクターにポリエチレン膜でエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたときの性能評価を行った。
上記実施例で作製した、Nitrosomonas europaea IFO-14298とParacoccus denitrificans JCM-6892を同時に包埋した担体を不織布の片面にシート状に成形したものを、不織布を外側になるようにし、且つ、担体に電子供与体供給制御装置用ポケットを設けるようにして、その中に厚さ0.05mmおよび0.3mmのポリエチレン膜にてエタノールを密封した袋状の電子供与体供給制御装置を入れて、アンモニア排水処理能力を評価した。
【0110】
(分析方法)
培地溶液中のアンモニア、亜硝酸濃度は、それぞれインドフェノール青吸光光度法、ナフチルアミン吸光光度法により測定した。
【0111】
(固定化担体を用いたバイオリアクターにポリエチレン膜でエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたときの性能評価結果)
図16にバイオリアクターの性能評価結果を示す。Cは電子供与体を供給していないバイオリアクターで、EtOH−0.05はポリエチレン膜厚0.05mmでエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたバイオリアクター、EtOH−0.3はポリエチレン膜厚0.3mmでエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたバイオリアクターの結果である。C、EtOH−0.05、EtOH−0.3共に、4日目にはアンモニア濃度は0になったが、亜硝酸濃度に関しては、Cの場合は7日目まで上昇し続け、EtOH−0.3では2日目までは上昇したが、それ以降は減少し、7日目には検出されなかった、また、EtOH−0.05は1日目から亜硝酸は検出されなかった。従って、ポリエチレン膜を介してエタノールがバイオリアクターに供給されていることが確認され、ポリエチレン膜厚が薄い方がエタノールを供給しやすいことが確認された。以上の結果から、本発明のように、エタノール等の揮発性有機物を液体浸透部材に浸透させてからポリエチレン膜等で密封した場合にも、微生物(脱窒菌)に電子供与体として揮発性有機物を与えてアンモニアや亜硝酸イオンを無害な窒素ガスに変換することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の電子供与体供給装置の一実施形態である密封タイプ(ラミネート)の例を示す図で、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図2】本発明の電子供与体供給装置の一実施形態である他の密封形態を示す縦断面図である。
【図3】図2に示す本発明の電子供与体供給装置の下部を水中に浸漬して用いた場合の形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の電子供与体供給制御装置の他の実施形態である補充タイプの例を示す縦断面図である。
【図5】図2の実施形態の電子供与体供給制御装置の全体構成を示す概略図である。
【図6】図2に示す本発明の電子供与体供給装置の下部を水中に浸漬して用いた場合の形態を示す縦断面図である。
【図7】図4に示す本発明の電子供与体供給装置の容器下部を鞘体に内挿して用いた場合の形態を示す縦断面図である。
【図8】本発明の電子供与体供給装置を予め加工した場合の形態を示す斜視図である。
【図9】液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成した後に周縁部をヒートシールして形成した場合の電子供与体供給装置を示す図で、(A)は斜視図、(B)は縦断面図である。
【図10】図9に示す本発明の電子供与体供給装置の非多孔性膜の表面に担体を備えた例を示す図である。
【図11】図9に示す本発明の電子供与体供給装置の非多孔性膜の表面に担体と保護材を備えた例を示す図である。
【図12】本発明の電子供与体供給装置を利用したバイオリアクターの構成の一例を示す斜視図である。
【図13】本発明のバイオリアクターの構成の一例を示す縦断面図であり、(A)は密封タイプの例を、(B)は補充タイプの例をそれぞれ示す。
【図14】本発明のバイオリアクターを水中で使用した場合の形態を示す縦断面図である。
【図15】ポリエチレン膜からの揮発性有機物の透過量測定結果を示す図で、(A)はメタノール、(B)はエタノールのそれぞれの測定結果を示す。
【図16】固定化担体を用いたバイオリアクターにポリエチレン膜でエタノールを密封した電子供与体供給装置を用いたときの性能評価結果を示す図で、(A)はアンモニア濃度と経過日数との関係を、(B)は亜硝酸濃度と経過日数との関係をそれぞれ示す。
【図17】本発明のガス状アンモニア除去装置の構成の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0113】
1 電子供与体供給装置
2 非多孔性膜
3 揮発性有機物
4 容器
4a 容器下部
4b 容器上部
5 供給口
6 揮発性有機物貯留タンク
7 供給ノズル
8 チューブ
9 バイオリアクター
10 不織布
11 担体
12 電子供与体供給装置用ポケット
13 液体浸透部材
14 鞘体
16 保護材
17 担体
20 ガス状アンモニア除去装置
21 散水ポンプ
25 水
27 ガス導入部
28 微生物処理領域
【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物と、前記揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器とを含み、前記容器内に前記揮発性有機物と共に前記液体浸透部材を収容し、前記揮発性有機物を前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の微生物に供給するものである微生物への電子供与体供給装置。
【請求項2】
微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜を一部に備える密封構造の容器と、前記容器に設けられた前記揮発性有機物を補充し得る供給口とを含み、前記供給口から前記揮発性有機物を補充して前記液体浸透部材に前記揮発性有機物を浸透させ、前記揮発性有機物を前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の微生物に供給するものである微生物への電子供与体供給装置。
【請求項3】
前記容器を二領域に区画すると共に前記二領域に跨って前記液体浸透部材を配置することにより前記二領域を連通し、前記二領域のうちの一方の領域に前記揮発性有機物を貯留するものである請求項1または2に記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項4】
前記容器の形状が袋状である請求項1または2に記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項5】
前記供給口には、揮発性有機物貯留タンクと連通し必要に応じて揮発性有機物を補充可能とする供給ノズルが装着されている請求項2〜4のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項6】
揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜とを含み、前記液体浸透部材が前記非多孔性膜で挟持されている積層体が形成されていると共に、前記積層体の周縁部がヒートシールされて前記液体浸透部材の毛管構造が閉塞されている微生物への電子供与体供給装置。
【請求項7】
前記揮発性有機物が廃アルコールである請求項1〜6のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項8】
前記非多孔性膜はポリエチレン膜またはポリプロピレン膜である請求項1〜7のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項9】
前記非多孔性膜の表面には、前記非多孔性膜を保護する保護材が備えられている請求項1〜8のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項10】
前記非多孔性膜の表面には、微生物を担持し得る担体が備えられている請求項1〜8のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項11】
前記非多孔性膜の表面には、微生物を担持し得る担体が備えられ、前記担体の表面には前記非多孔性膜を保護する保護材が備えられている請求項1〜8のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項12】
前記担体は吸水性ポリマーである請求項10または11に記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項13】
揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、前記積層体の周縁部をヒートシールして前記液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む微生物への電子供与体供給装置の製造方法。
【請求項14】
揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、微生物を担持させ得る担体及び前記積層体を外部衝撃から保護する保護材のいずれか一方もしくは双方を前記積層体の表面に備える工程と、前記積層体の周縁部をヒートシールして前記液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む微生物への電子供与体供給装置の製造方法。
【請求項15】
非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物と共に前記揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を収容し、前記液体浸透部材の全面に浸透している前記揮発性有機物を前記非多孔性膜の隅々まで供給して、前記揮発性有機物を前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の微生物に供給することを特徴とする微生物への電子供与体供給方法。
【請求項16】
非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を収容すると共に前記揮発性有機物を補充し得る供給口を前記容器に設けて、前記供給口から前記揮発性有機物を補充することにより前記液体浸透部材に前記揮発性有機物を浸透させ、前記液体浸透部材の全面に浸透している前記揮発性有機物を前記非多孔性膜の隅々まで供給して、前記揮発性有機物を前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の微生物に供給することを特徴とする微生物への電子供与体供給方法。
【請求項17】
前記容器の下部に押圧力を掛けると共に前記押圧力が掛けられていない前記容器の上部に前記揮発性有機物を貯留し、前記液体浸透部材は前記容器の前記下部と前記上部に跨って配置されて、貯留している前記揮発性有機物が前記液体浸透部材の全面に浸透して供給される請求項15または16に記載の微生物への電子供与体供給方法。
【請求項18】
目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体が、請求項1〜9のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置の非多孔性膜部分の周りに配置されているバイオリアクター。
【請求項19】
前記担体が、前記非多孔性膜部分に当てられて貼着されている請求項18に記載のバイオリアクター。
【請求項20】
前記担体を袋形状とし、その内側の空間に請求項1〜9のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置を収容したものである請求項18に記載のバイオリアクター。
【請求項21】
前記担体は吸水性ポリマーである請求項18に記載のバイオリアクター。
【請求項22】
請求項1〜9のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置の前記非多孔性膜の表面に微生物を直接担持させてなるバイオリアクター。
【請求項23】
被処理液中の目的とする成分の除去に有効な微生物と前記微生物が産生する物質を酸化または還元する微生物とをそれぞれ1種または2種以上固定化した担体の一方の面に被処理液を接触させ他面に請求項1〜9のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置を接触させたものである請求項18に記載のバイオリアクター。
【請求項24】
前記被処理液中の目的とする成分の除去に有効な微生物としてはアンモニア酸化菌、前記微生物が産生する物質を還元する微生物としては脱窒菌を用いる請求項23に記載のバイオリアクター。
【請求項25】
ガス状アンモニアと水とを接触させて前記ガス状アンモニアを前記水に溶解させる第一の工程と、前記ガス状アンモニアと接触させた前記水をアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌及び脱窒菌が存在している微生物領域に接触させる第二の工程とを含み、前記微生物領域に請求項1〜9のいずれかに記載の電子供与体供給装置を配置して、前記揮発性有機物を前記電子供与体供給装置の前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の脱窒菌に供給し、前記アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンまたは前記アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンと前記亜硝酸酸化菌により生成された硝酸イオンが窒素ガスに還元されるガス状アンモニアの除去方法。
【請求項26】
ガス状アンモニアと水とを接触させ、前記ガス状アンモニアを前記水に溶解させてアンモニア含有水を得る第一の工程と、前記アンモニア含有水を請求項24に記載のバイオリアクター接触させる第二の工程とを含むガス状アンモニアの除去方法。
【請求項27】
ガス状アンモニアを導入するガス導入部と、前記ガス導入部から導入された前記ガス状アンモニアに水を接触させてアンモニア含有水を得る散水手段と、前記アンモニア含有水を接触させて前記アンモニア含有水に含まれているアンモニウムイオンを分解処理する微生物処理領域とを備え、前記微生物処理槽にはアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌及び脱窒菌を存在させると共に請求項1〜9のいずれかに記載の電子供与体供給装置を配置しているものであるガス状アンモニアの除去装置。
【請求項28】
ガス状アンモニアを導入するガス導入部と、前記ガス導入部から導入された前記ガス状アンモニアに水を接触させてアンモニア含有水を得る散水手段と、前記アンモニア含有水を接触させて前記アンモニア含有水に含まれているアンモニウムイオンを分解処理する請求項24に記載のバイオリアクターとを含むものであるガス状アンモニアの除去装置。
【請求項1】
微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物と、前記揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器とを含み、前記容器内に前記揮発性有機物と共に前記液体浸透部材を収容し、前記揮発性有機物を前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の微生物に供給するものである微生物への電子供与体供給装置。
【請求項2】
微生物へのエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜を一部に備える密封構造の容器と、前記容器に設けられた前記揮発性有機物を補充し得る供給口とを含み、前記供給口から前記揮発性有機物を補充して前記液体浸透部材に前記揮発性有機物を浸透させ、前記揮発性有機物を前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の微生物に供給するものである微生物への電子供与体供給装置。
【請求項3】
前記容器を二領域に区画すると共に前記二領域に跨って前記液体浸透部材を配置することにより前記二領域を連通し、前記二領域のうちの一方の領域に前記揮発性有機物を貯留するものである請求項1または2に記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項4】
前記容器の形状が袋状である請求項1または2に記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項5】
前記供給口には、揮発性有機物貯留タンクと連通し必要に応じて揮発性有機物を補充可能とする供給ノズルが装着されている請求項2〜4のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項6】
揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材と、非多孔性膜とを含み、前記液体浸透部材が前記非多孔性膜で挟持されている積層体が形成されていると共に、前記積層体の周縁部がヒートシールされて前記液体浸透部材の毛管構造が閉塞されている微生物への電子供与体供給装置。
【請求項7】
前記揮発性有機物が廃アルコールである請求項1〜6のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項8】
前記非多孔性膜はポリエチレン膜またはポリプロピレン膜である請求項1〜7のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項9】
前記非多孔性膜の表面には、前記非多孔性膜を保護する保護材が備えられている請求項1〜8のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項10】
前記非多孔性膜の表面には、微生物を担持し得る担体が備えられている請求項1〜8のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項11】
前記非多孔性膜の表面には、微生物を担持し得る担体が備えられ、前記担体の表面には前記非多孔性膜を保護する保護材が備えられている請求項1〜8のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項12】
前記担体は吸水性ポリマーである請求項10または11に記載の微生物への電子供与体供給装置。
【請求項13】
揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、前記積層体の周縁部をヒートシールして前記液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む微生物への電子供与体供給装置の製造方法。
【請求項14】
揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を非多孔性膜で挟持して積層体を形成する工程と、微生物を担持させ得る担体及び前記積層体を外部衝撃から保護する保護材のいずれか一方もしくは双方を前記積層体の表面に備える工程と、前記積層体の周縁部をヒートシールして前記液体浸透部材の毛管構造を閉塞させる工程とを含む微生物への電子供与体供給装置の製造方法。
【請求項15】
非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物と共に前記揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を収容し、前記液体浸透部材の全面に浸透している前記揮発性有機物を前記非多孔性膜の隅々まで供給して、前記揮発性有機物を前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の微生物に供給することを特徴とする微生物への電子供与体供給方法。
【請求項16】
非多孔性膜を少なくとも一部に備える密封構造の容器中に、微生物のエネルギー源となる電子供与体として機能する揮発性有機物を浸透させ得る液体浸透部材を収容すると共に前記揮発性有機物を補充し得る供給口を前記容器に設けて、前記供給口から前記揮発性有機物を補充することにより前記液体浸透部材に前記揮発性有機物を浸透させ、前記液体浸透部材の全面に浸透している前記揮発性有機物を前記非多孔性膜の隅々まで供給して、前記揮発性有機物を前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の微生物に供給することを特徴とする微生物への電子供与体供給方法。
【請求項17】
前記容器の下部に押圧力を掛けると共に前記押圧力が掛けられていない前記容器の上部に前記揮発性有機物を貯留し、前記液体浸透部材は前記容器の前記下部と前記上部に跨って配置されて、貯留している前記揮発性有機物が前記液体浸透部材の全面に浸透して供給される請求項15または16に記載の微生物への電子供与体供給方法。
【請求項18】
目的とする成分の除去に有効な微生物を固定した担体が、請求項1〜9のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置の非多孔性膜部分の周りに配置されているバイオリアクター。
【請求項19】
前記担体が、前記非多孔性膜部分に当てられて貼着されている請求項18に記載のバイオリアクター。
【請求項20】
前記担体を袋形状とし、その内側の空間に請求項1〜9のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置を収容したものである請求項18に記載のバイオリアクター。
【請求項21】
前記担体は吸水性ポリマーである請求項18に記載のバイオリアクター。
【請求項22】
請求項1〜9のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置の前記非多孔性膜の表面に微生物を直接担持させてなるバイオリアクター。
【請求項23】
被処理液中の目的とする成分の除去に有効な微生物と前記微生物が産生する物質を酸化または還元する微生物とをそれぞれ1種または2種以上固定化した担体の一方の面に被処理液を接触させ他面に請求項1〜9のいずれかに記載の微生物への電子供与体供給装置を接触させたものである請求項18に記載のバイオリアクター。
【請求項24】
前記被処理液中の目的とする成分の除去に有効な微生物としてはアンモニア酸化菌、前記微生物が産生する物質を還元する微生物としては脱窒菌を用いる請求項23に記載のバイオリアクター。
【請求項25】
ガス状アンモニアと水とを接触させて前記ガス状アンモニアを前記水に溶解させる第一の工程と、前記ガス状アンモニアと接触させた前記水をアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌及び脱窒菌が存在している微生物領域に接触させる第二の工程とを含み、前記微生物領域に請求項1〜9のいずれかに記載の電子供与体供給装置を配置して、前記揮発性有機物を前記電子供与体供給装置の前記容器の前記非多孔性膜部分から前記非多孔性膜の分子透過性能に支配される速度で前記容器周辺の脱窒菌に供給し、前記アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンまたは前記アンモニア酸化菌により生成された亜硝酸イオンと前記亜硝酸酸化菌により生成された硝酸イオンが窒素ガスに還元されるガス状アンモニアの除去方法。
【請求項26】
ガス状アンモニアと水とを接触させ、前記ガス状アンモニアを前記水に溶解させてアンモニア含有水を得る第一の工程と、前記アンモニア含有水を請求項24に記載のバイオリアクター接触させる第二の工程とを含むガス状アンモニアの除去方法。
【請求項27】
ガス状アンモニアを導入するガス導入部と、前記ガス導入部から導入された前記ガス状アンモニアに水を接触させてアンモニア含有水を得る散水手段と、前記アンモニア含有水を接触させて前記アンモニア含有水に含まれているアンモニウムイオンを分解処理する微生物処理領域とを備え、前記微生物処理槽にはアンモニア酸化菌またはアンモニア酸化菌と亜硝酸酸化菌及び脱窒菌を存在させると共に請求項1〜9のいずれかに記載の電子供与体供給装置を配置しているものであるガス状アンモニアの除去装置。
【請求項28】
ガス状アンモニアを導入するガス導入部と、前記ガス導入部から導入された前記ガス状アンモニアに水を接触させてアンモニア含有水を得る散水手段と、前記アンモニア含有水を接触させて前記アンモニア含有水に含まれているアンモニウムイオンを分解処理する請求項24に記載のバイオリアクターとを含むものであるガス状アンモニアの除去装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2008−23488(P2008−23488A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201123(P2006−201123)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000120401)荏原実業株式会社 (31)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【出願人】(000120401)荏原実業株式会社 (31)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】
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