説明

微細構造体の製造装置、及び微細構造体

【課題】緩く傾斜する傾斜形状を有する微細構造体を良好に製造する方法を提供する。
【解決手段】感光性樹脂へレーザ光を照射して微細構造体を得る微細構造体の製造方法であって、基板に感光性樹脂を塗布する塗布工程と、感光性樹脂に照射するレーザ光の光量を設定する光量設定工程と、感光性樹脂に、前記設定した光量に応じて、レーザ光の光量を変調させつつスキャニングする露光工程と、露光された前記基板を現像する現像工程と、を備える。製造する微細構造体は、角度が10度以下の傾斜形状を含む。感光性樹脂は、感光性樹脂を感光、現像した後のレジスト残膜量と露光量とを対応づけたレジスト感度曲線のうち、レジスト残膜量の上限値の30%から70%までの範囲において、レジスト感度曲線の傾きが0.28(μm/mW)より小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細構造体の製造に関し、特に、緩い傾斜形状を有する微細構造体の製造方法、及び微細構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
微細構造体を製造する加工方法として、感光性樹脂を塗布した基板にレーザ光を照射して露光し、現像するフォトリソグラフィが知られている。フォトリソグラフィでは、所望の微細構造体の傾斜や曲面などの凹凸形状を形成するため、凹凸の深さに応じて露光量を変化させる。このとき、感光性樹脂のレジスト感度曲線を用いて、所望の高さの感光性樹脂が残存するように露光量を算出する。レジスト感度曲線は、レジスト除去量と感光量との関係を表したものである。
【0003】
露光量とレジスト除去量との関係は、所定の露光量を用いて感光性樹脂を露光し、現像後のレジスト残膜値を計測して得る。計測に用いる所定の露光量は、ゼロから、当該感光性樹脂が現像後に残膜がゼロになるまでの範囲である。この範囲内の複数の露光量を用いて、露光量に応じたレジスト除去量を取得する。
【0004】
通常、微細構造体を製造する際には、微細構造体を任意の露光領域(例えば、短冊状の領域)に細分化し、露光領域毎に露光量を変化させて露光して、所望の微細構造体を製造する。また、露光量に応じたレジスト除去量を精度よく感光できるように、高感度の感光性樹脂を用い、良好な微細構造体を製造する手法がとられていた。また、良好な微細構造体を製造するため、解像度の低下を抑える手法が開発されている(特許文献1,2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−43698号公報
【特許文献2】特開2004−46003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らは、従来の微細構造体の製造方法では、良好な微細構造体が製造できない形状があることを発見した。例えば、緩い傾斜を持つ斜面形状を造形する場合に、平滑な斜面が形成されなかった。また、微細構造体の外形線が緩い傾斜線となる場合に、直線状の滑らかな線が形成されなかった。
【0007】
斜面形状を造形する場合、レジスト除去量が段階的に変化するように、露光量を変調させてレーザ光を感光性樹脂へ照射する。このとき、レーザ露光量の変調跡(レーザパワーの変調によるもの)が残り、平滑な斜面を形成しづらい。この変調跡を小さくするためには、目標とする3次元パターンに対する露光量(レーザパワー)の変調幅を微細化させるパターンニングによって対応する。上述したように、微細構造体を造形する場合、感光性樹脂として高感度レジストを使用してパターンニングを行う。高感度レジストは、所定の複雑な外形を持つ微細構造体の造形には適している。
【0008】
しかしながら、緩い斜面形状を造形する場合、僅かな露光量の差であってもレジスト除去量が所望の量に比べて大きくなることが生じていた。その結果、現像後に得られるパターンが、例えば所望の形状より深くなるなど、所望の形状と異なるものになっていた。そのため、緩い斜面形状を造形する場合、微小な露光量差によって、微小な段差を連続させても、斜面を平滑にすることは困難であった。同様に、緩い傾斜線を滑らかな直線状に造形することは困難であった。
【0009】
また、緩い斜面や緩い傾斜線を頂点から裾野(底面)まで平滑に造形しようとする場合、レジスト裾野付近の形状を精度よく造形することが困難であった。
このように、緩く傾斜する形状を有する微細構造体において、所望の形状を造形できないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、緩く傾斜する傾斜形状を有する微細構造体を良好に製造する方法、及びその微細構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る微細構造体の製造方法の一態様は、感光性樹脂へレーザ光を照射して微細構造体を得る微細構造体の製造方法であって、基板に感光性樹脂を塗布する塗布工程と、感光性樹脂に照射するレーザ光の光量を設定する光量設定工程と、感光性樹脂に、前記設定した光量に応じて、レーザ光の光量を変調させつつスキャニングする露光工程と、露光された前記基板を現像する現像工程と、を備える。微細構造体は、角度が10度以下の傾斜形状を含む。また、製造に用いる感光性樹脂は、感光性樹脂を感光、現像した後のレジスト残膜量と露光量とを対応づけたレジスト感度曲線のうち、レジスト残膜量の上限値の30%から70%までの範囲において、レジスト感度曲線の傾きが0.28(μm/mW)より小さいことを特徴とする。微細構造体が上述した緩い傾斜形状を有する場合、レジスト感度曲線を用いて条件を満たすような適切な感光性樹脂を選択する。これにより、緩い傾斜形状を良好に造形する。
【0012】
また、本発明に係る微細構造体の製造方法の一態様において、感光性樹脂は、上述した範囲のレジスト感度曲線の傾きが0.12(μm/mW)以下であることが好ましい。傾きがより小さくなることにより、露光量に応じて変化するレジスト残膜量を小さくすることが可能になる。
【0013】
さらに、微細構造体の製造方法の一態様において、感光性樹脂は、2.5mWの露光量において2μmのレジスト残膜量となることがより好ましい。これにより、微細構造体の緩い傾斜形状が底面近傍に存在する場合であっても、露光量に応じたレジスト残膜量を造形する。
【0014】
微細構造体の製造方法の一態様において、上述した傾斜形状が、直線状に傾斜するものである場合に滑らかな傾斜形状を造形するものである。また、微細構造体は、表面粗さ(Ra)が20nm以下の平滑性を有することが好ましい。さらに、上述した傾斜形状が、斜面と傾斜線との少なくともいずれかを含む場合に良好な傾斜形状を造形できることが好ましい。
【0015】
本発明に係る微細構造体の一態様は、感光性樹脂へレーザ光を照射して製造された微細構造体であって、角度が10度以下の傾斜形状を含むものである。微細構造体を製造する感光性樹脂は、感光性樹脂を感光、現像した後のレジスト残膜量と露光量とを対応づけたレジスト感度曲線のうち、前記レジストの残膜量の上限値の30%から70%までの範囲において、レジスト感度曲線の傾きが0.28(μm/mW)より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、緩く傾斜する傾斜形状を有する微細構造体を良好に製造する方法、及びその微細構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態1に係る微細構造体を造形する製造装置の構成例の概略を示すブロック図である。
【図2】緩い傾斜形状の一例を示す図である。
【図3】緩い傾斜形状の他の一例を示す図である。
【図4】実施例で用いた感光性樹脂のレジスト感度曲線を示すグラフである。
【図5】実施例で造形する傾斜形状を示す斜視図である。
【図6】レジストA,Bを用いて造形した斜面の状態を示す模式図である。
【図7】レジストCを用いて造形した斜面の状態を示す模式図である。
【図8】傾斜形状の表面の段差を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において同一の構成または機能を有する構成要素および相当部分には、同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0019】
本発明は、微細構造体のうち、緩く傾斜する傾斜形状(以降、適宜「緩い傾斜形状」ともいう)を有する微細構造体の製造に適用され得る。緩い傾斜形状を造形する際の不具合は、露光量の変化に伴って変化するレジスト除去量が、微細構造体の形状の変化に比べて大きい場合、すなわち、露光量に応じたレジスト除去量の変化が微細構造体の形状(高さ)の変化より大きい場合に生じる。これは、高感度レジストでは、低い露光量域においてレジスト感度曲線の傾きが大きいことが一つの原因であることを発見した。
そこで、本発明では、露光量に応じたレジスト除去量の変化を、微細構造体の形状の変化に対応できるようにすることによって、緩く傾斜する傾斜形状を有する微細構造体を良好に製造する方法を提供する。
【0020】
レジスト感度曲線は、上述した通り、レジスト除去量と露光量との関係を表す。レジスト感度曲線は、感光性樹脂を感光、現像した後のレジスト残膜量を用いて示すことがある。以降の説明では、レジスト感度曲線は、レジスト残膜量、すなわち、感光、現像後に残存するレジスト感光性樹脂の「高さ」と、露光量との関係を示す場合を用いて説明する。
【0021】
緩い傾斜形状には、平面状の斜面を含む。また、平面状に限らず、微細構造体の外形線など直線状の傾斜線を含む。
【0022】
まず、微細構造体を製造する製造装置について説明する。
図1は、本発明の実施形態1に係る微細構造体を造形する製造装置の構成例の概略を示すブロック図である。
製造装置は、光量制御部1、露光部2、及びステージ6を備える。露光部2は、光源3、ミラー4、及びレンズ5から構成される。また、ステージ6には、基板11に塗布された感光性樹脂(レジストとも称する)12が配置される。
光量制御部1は、感光性樹脂(レジスト)12に照射するレーザ光の光量を、レジスト感度曲線(単に、「感度曲線」ともいう)を用いて制御する。レジスト感度曲線は、予め取得する。光量制御部1は、感光性樹脂のレジスト感度曲線を保持する、あるいは、微細構造体の造形開始の際に、外部から入力される。また、光量制御部1は、造形する微細構造体の情報(微細構造体情報)を外部から受け取る。
【0023】
微細構造体の製造は、まず、ステージ6に感光性樹脂12が塗布された基板11を設置する(塗布工程)。また、微細構造体情報を光量制御部1へ入力する。次に、光量制御部1が微細構造体情報とレジスト感度曲線とに基づいて、感光性樹脂に照射するレーザ光の光量を設定する(光量設定工程)。その後、光量制御部1が光源3を制御することによって、感光性樹脂に、設定した光量に応じて、レーザ光の光量を変調させつつスキャニングする(露光工程)。露光された基板を現像する(現像工程)。
【0024】
上述した製造方法により、緩い傾斜形状を含む微細構造体を製造する場合、平滑な形状が容易に造形できなかった。緩い傾斜形状の具体例を、図2を参照して説明する。図2では、基板11上に造形する所望の微細構造体の傾斜形状22の一部分(断面図)を示している。本実施形態の緩い傾斜形状は、基板11と傾斜形状22とによって形成される角度(図2では、符号Aで示す角度)が10度以下となる形状をいう。図2において、傾斜形状22は、斜面の断面であってもよいし、外形線(傾斜線)の部分の断面であってもよい。
【0025】
また、緩い傾斜形状は、実質的に傾斜が比例して変化する平面状あるいは直線状であればよい。例えば、緩い傾斜形状の一部分において、傾斜角度が1度から2度変化する場合であってもよい。
傾斜形状の具体例としては、V溝プリズム(V字形状のプリズム)、左右の傾斜角度が異なるプリズムなどがあげられる。また、例えば、微細形状体が多角錘体であるときに、多角錘体を構成する斜面が緩い傾斜形状(斜面)である場合がある。あるいは、斜面が緩い傾斜形状であるか否かにかかわらず、多角錘体の外形線が緩い傾斜形状(傾斜線)である場合がある。さらに、これらの具体例に限られず、緩い傾斜形状が、微細構造体の一部分の形状として含まれる場合であってもよい。
【0026】
緩い傾斜形状を良好に造形するためには、高感度レジストにおいて、僅かな露光量差であっても、現像後に得られるパターンの深さの差が傾斜形状の変化量より大きいことが問題であった。言い換えれば、露光量の差に応じたレジスト除去量の差が、微細構造体の変化量より大きくなっていた。このため、緩い斜面を平滑に造形することができなかった。従って、所望の微細構造体に応じた、露光量の差とレジスト除去量の差とを可能にするレジスト感度曲線を有する感光性樹脂を用いることが有効である。
【0027】
また、緩い斜面形状は、微小な段差を連続させた階段形状によって造形する。露光量の差によって形成されるレジスト除去量の差が、この階段形状の微小な段差となる感光性樹脂が必要となる。例えば、傾斜形状の表面粗さが所定の数値以下になるような感光性樹脂を用いる。さらに、高感度レジストでは、低い露光量域において、レジスト感度曲線の傾きが大きくなっている。すなわち、僅かな露光量の差であっても、レジスト除去量の変化が高い露光量領域に比べ大きく変化する。
【0028】
そこで、レジスト感度曲線において、レジスト残膜量(露光、現像後の高さ)の上限値の30%から70%までのレジスト残膜量(レジスト除去量)の変化を用いて感光性樹脂を選択することが有効であることに至った。具体的には、レジスト感度曲線に基づいて、レジスト残膜量の上限値の30%から70%の範囲の傾き(以下、適宜「レジスト感度の傾き」ともいう)を用いる。
【0029】
上述したように、レジスト感度曲線に示されるように、感光性樹脂は、露光量に応じて段階的にレジスト残膜量が変化する。複数の感光性樹脂を比較する場合、レジスト感度曲線の傾きを用いて比較することができる。ただし、レジスト感動曲線の傾きは一様ではない。また、微細な形状を造形するためには、露光量に応じたレジスト残膜量の変化が小さいこと、すなわちレジスト感度の傾きが小さいことが望ましい。従って、レジスト感度曲線のうち、傾きが一様な部分を選択すること、傾きが大きい部分を含むこと、感光性樹脂の特徴を示す部分を含むこと、などを考慮することが好ましい。
【0030】
上述した検討に基づいて多数の感光性樹脂を調査・試験した結果、緩い傾斜形状には、レジスト感度の傾きが0.28(μm/mW)より小さいことが好ましいことを見出した。また、レジスト感度の傾きが0.12(μm/mW)以下であることがより好ましいことを見出した。
このように、レジスト感度の傾きは、上述した閾値、0.28(μm/mW)より小さいことが好ましい。しかし、レジスト感度の傾きを小さくすぎても所望の微細構造体を造形することができない場合が生じる。例えば、所望の微細構造体が、緩い傾斜形状を含むとともに、段差の大きい凹凸を有する場合がある。このような多様な形状を、露光量差に応じたレジスト残渣を用いて造形可能なレジスト感度曲線を有する感光性樹脂を用いる必要がある。レジスト感度の傾きがゼロに近くなるほど、段差大きい応答を造形することが困難になる。
【0031】
所望の微細構造体の形状が、頂点から裾野まで緩い傾斜形状である場合、すなわち微細構造体の底面近傍(基板近傍)まで緩く傾斜する場合がある。このような場合、感光を開始する露光量において、現像後に残る感光性樹脂の高さ(レジスト残膜量)が低いほど好ましい。図3に底面近傍まで緩く傾斜する傾斜形状の一例を示す。図3に示すような傾斜形状22を造形する場合、基板11に塗布した感光性樹脂の底面(基板11に接する面)により近い高さ(ゼロにより近い高さ)を造形できることが好ましい。
感光性樹脂では、極めて低い露光量では感光せず、ある露光量を境に感光が起こる。従って、感光を開始する露光量まで、レジスト除去量を変化させることが困難である。低感度レジストに比べ、高感度レジストでは、感光が開始する露光量におけるレジスト残膜量(最小のレジスト残膜量)が大きくなっていた。微細構造体の底面から最小のレジスト残膜量までの範囲(高さ)では、所望の形状を造形することができない。そのため、微細構造体が底面近傍まで形状が変化する場合、最小のレジスト残膜量が低いことが好ましい。例えば、2μm以下であることが好ましい。
【0032】
また、レジスト感度曲線ではある露光量を閾値としてレジスト除去が始まる。目標形状の斜面の中でレジスト表層部に相当する部分(レジスト表層部近傍部分)を平滑に作成するためには、この閾値は小さいほうが好ましい。ここで、レジスト表層部は、図1の
【0033】
上述したように、緩い傾斜形状を造形する場合、レジスト感度曲線を使用して、複数の感光性樹脂から露光感度の低い低感度レジストを選択する。またこのとき、指標として、感度曲線からレジスト感度の傾きを算出するレジスト感度の傾きを用いることができる。このような手法で選択した低感度レジストを用いて、露光量を変調させつつ、レーザ光を走査させてパターンニングを行う。
低感度レジストのレジスト感度曲線は、高感度レジストに比べて、低露光量領域において傾きが小さい。このため露光量変化に対するレジスト除去量差が小さくなる。従って、緩い傾斜形状を造形しようとした場合、斜面に微小な段差がつかないように微細構造体を作製することができる。さらに、最小のレジスト残膜量が小さい感光性樹脂を用いることにより、緩い傾斜形状が頂点から裾野に存在場合にも、正確な形状を造形することができる。
【実施例】
【0034】
3種類の感光性樹脂(レジストA、B、C)を用いて微細構造体を造形した、図4に3種類の感光性樹脂のレジスト感度曲線を示す。図4の縦軸に示す高さは、レジスト残膜量である。上限値、上限値の70%、及び上限値の30%の値を、レジストBについては、破線で、レジストCについては、2点破線を用いて示す。
【0035】
レジストB、Cに関して、レジスト感度曲線を解析した結果を示す。
【表1】

【0036】
[実施例]
1.感光性樹脂について
低感度レジストの一例として、レジストA、Bを用いた。
2.微細構造体の造形
図3に示す緩い傾斜形状の斜面23を含む3次元形状を造形した。斜面23は、底面まで緩い斜面が連続する。また、斜面23と基板11との角度Aは、10度以下である。
目標形状である3次元形状を短冊状に幅1μmで細分化し、それぞれの領域に対して目標形状に適した露光量を設定して作製した。
【0037】
[比較例]
高感度のレジストの一例として、レジストCを用いて実施例と同様に緩い傾斜形状の斜面を造形した。
【0038】
[造形した結果]
図6にレジストA,Bを用いて造形した斜面の状態の模式図を示す。また、図7にレジストCを用いて造形した斜面の状態の模式図を示す。下段は側面図である。上段は斜面の正面図であり、一点破線で側面図との対応を示す。
レジストA、Bに露光、現像して得られる3次元形状の斜面24は、平滑な斜面となり、階段状の段差を小さくすることができた。
レジストCに露光、現像して得られる3次元形状の斜面25は、幅1μmの階段状の段差が形成された。3次元形状の裾野部分において、点線で示す目標形状との差が生じた。レジストCでは、16.6mWで露光か開始され、最小のレジスト残膜量が2.7μmである。レジストCは、裾野部分において、目標形状を造形できなかった。
図4に示すレジスト感度曲線から、レジストA、Bでは、低い露光量域において、露光量の変化に対するレジスト除去量差が小さくなる。このため、階段状の段差を小さくすることができる。従って、斜面を平滑に作製することができる。
【0039】
図8に、AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)を用いて、斜面24,25の表面を測定した結果を示す。AFMを用いて、斜面24、25の表面についてスキャンレンジを20μmとして段差を計測した。図8に示す通り、レジストCに比べ、レジストA、Bでは、傾斜形状の表面に形成された段差が小さくなっている。平面を滑らかにする場合、表面粗さ(Ra)が20nm以下であることが好ましい。レジストA、Bでは、この条件を満たしている。
【0040】
実施例の結果から、レジスト感度の傾斜が0.28(μm/mW)では、平滑な傾斜形状が造形できなかった。緩い傾斜形状を有する微細構造体の製造には、レジスト感度の傾斜が0.28(μm/mW)より小さい感光性樹脂を用いることが好ましいことが分かった。また、レジスト感度の傾きが、レジストAの傾きである0.12(μm/mW)以下であることが好ましいことが分かった。
【0041】
さらに、最小のレジスト残膜量(最低感光の高さ)は、2μm以下であることが好ましい。特に、露光量が2.5mW以上で感光され、少なくとも2μmの高さを造形するレジスト感度曲線であることが好ましい。また、レジスト感度曲線は、所定の領域へ露光量を調整したレーザ光を照射し、レジスト残膜量を測定する。これに対して、実際の微細構造体の造形では、短冊状に細分化した領域へレーザ光を照射したとき、主としてレーザ光を当てた領域の両側にも感光現象が及ぶため多重露光の状態となる。この多重露光の度合いは隣接する領域への露光量設定値の組合せにより決まるが、感度曲線を求めた際の露光量設定値と異なる露光量を選択することで、この感度曲線から特定される最低感光深さ2μmよりも低い高さの斜面を造形できる。
【0042】
なお、本発明は上記に示す実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲において、上記実施形態の各要素を、当業者であれば容易に考えうる内容に変更、追加、変換することが可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 光量制御部
2 露光部
3 光源
4 ミラー
5 レンズ
6 ステージ
11 基板
12 感光性樹脂
21、22 傾斜形状
23〜25 斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
感光性樹脂へレーザ光を照射して微細構造体を得る微細構造体の製造方法であって、
基板に感光性樹脂を塗布する塗布工程と、
前記感光性樹脂に照射するレーザ光の光量を設定する光量設定工程と、
前記感光性樹脂に、前記設定した光量に応じて、レーザ光の光量を変調させつつスキャニングする露光工程と、
露光された前記基板を現像する現像工程と、を備え、
前記微細構造体は、角度が10度以下の傾斜形状を含み、
前記感光性樹脂は、感光性樹脂を感光、現像した後のレジスト残膜量と露光量とを対応づけたレジスト感度曲線のうち、前記レジストの残膜量の上限値の30%から70%までの範囲において、レジスト感度曲線の傾きが0.28(μm/mW)より小さいことを特徴とする微細構造体の製造方法。
【請求項2】
前記感光性樹脂は、前記範囲のレジスト感度曲線の傾きが0.12(μm/mW)以下であることを特徴とする請求項1記載の微細構造体の製造方法。
【請求項3】
前記感光性樹脂は、2.5mWの露光量において2μmのレジスト残膜量となることを特徴とする請求項2記載の微細構造体の製造方法。
【請求項4】
前記傾斜形状は、直線状に傾斜することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項5】
前記微細構造体は、表面粗さ(Ra)が20nm以下の平滑性を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項6】
前記傾斜形状は、斜面と傾斜線との少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の微細構造体の製造方法。
【請求項7】
感光性樹脂へレーザ光を照射して製造された微細構造体であって、
斜面角度が10度以下の斜面を含み、
前記感光性樹脂が、感光性樹脂を感光、現像した後のレジスト残膜量と露光量とを対応づけたレジスト感度曲線のうち、前記レジストの残膜量の上限値の30%から70%までの範囲において、レジスト感度曲線の傾きが0.28(μm/mW)より小さいことを特徴とする微細構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−37729(P2012−37729A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177853(P2010−177853)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】