説明

微細構造転写装置

【課題】本発明の課題は、スタンパのゆがみを補正するスタンパの変形機構を有しながらもスタンパの面方向における小型化を達成することができる微細構造転写装置を提供することにある。
【解決手段】微細構造を有するスタンパ2を用いて、被転写体1上の光硬化性樹脂組成物に微細構造を転写する微細構造転写装置15において、前記スタンパ2は、前記微細構造が形成される微細構造形成層4と、この微細構造形成層4における前記微細構造の形成面の反対側で、この微細構造形成層4に沿うように設けられる光照射層5と、この光照射層5における前記微細構造形成層4側の面と反対の面に配置されると共に、前記スタンパ2を前記被転写体1側に凸となるように湾曲させる圧電素子6と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に微細構造を形成する際に使用される微細構造転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス等で必要とされる微細パターンを加工する技術として、フォトリソグラフィ技術が多く用いられてきた。しかし、パターンの微細化が進み、要求される加工寸法が露光に用いられる光の波長程度まで小さくなるとフォトリソグラフィ技術での対応が困難となってきた。そのため、これに代わり、荷電粒子線装置の一種である電子線描画装置が用いられるようになった。
【0003】
この電子線を使用したパターン形成は、i線、エキシマレーザ等の光源を使用したパターン形成における一括露光方法と異なり、マスクパターンを直接描画する方法をとる。よって、描画するパターンが多いほど露光(描画)時間が増加し、パターン完成までに時間がかかるという欠点があり、半導体集積回路の集積度が高まるにつれて、パターン形成に必要な時間が増大して、スループットが低下することが懸念される。
そこで、電子線描画装置の高速化を図るために各種形状のマスクを組み合わせて、それらに一括して電子ビームを照射することで複雑な形状の電子ビームを形成する、一括図形照射法の開発が進められている。しかしながら、パターンの微細化が進む一方で、電子線描画装置の大型化や、マスク位置の高精度制御等、装置コストが高くなるという欠点があった。
【0004】
これに対し、高精度なパターン形成を低コストで行うための技術として、ナノインプリント技術が知られている。このナノインプリント技術は、形成しようとする微細パターンの凹凸に対応する凹凸(表面形状)が形成されたスタンパを、例えば所定の基板上に樹脂層を形成して得られる被転写体に型押しするものであり、微細パターンを樹脂層に転写して形成することができる。
特に光硬化性樹脂組成物を前記樹脂層に用いた場合、高圧水銀ランプやLEDなどの光源を用いて紫外光を照射することで、樹脂層を硬化させることができ、短時間で高精度なパターンが作製できる。
【0005】
このようなナノインプリント技術は、大容量記録媒体における記録ビットのパターンの形成や、半導体集積回路のパターンの形成への応用が検討されている。ところで、ナノインプリント技術を半導体に適用する場合、転写パターンの高精度な位置合わせが必要となる。そのため、スタンパのパターンの変形や被転写体のナノメートルレベルのゆがみが問題になる。
【0006】
従来、スタンパの外周を取り囲むように配置されたアクチュエータによりスタンパの縁部をその面方向に移動させることによりスタンパを撓ませて、スタンパに生じたパターンの変形等を補正する微細構造転写装置が知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、この微細構造転写装置は、その補正機構であるアクチュエータがスタンパの外周を取り囲むように設けられるので、スタンパの面方向に装置が大型化する課題がある。
【0007】
また、スタンパの裏側(転写面と反対側の面)にアクチュエータが設けられた微細構造転写装置が知られている(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)。この微細構造転写装置においては、前記した微細構造転写装置(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)と異なって、スタンパの裏側にアクチュエータが配置されるので、一見、スタンパの面方向に装置が大型化することが避けられるようにも見える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2007−535121号公報
【特許文献2】特開2010−80918号公報
【特許文献3】特開2007−15375号公報
【特許文献4】特開2010−272860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の微細構造転写装置においては、被転写体を構成する光硬化性樹脂組成物層にスタンパを型押した状態でこれを光硬化させる際に、スタンパを介して被転写体に光が照射される。したがって、特許文献3及び特許文献4の微細構造転写装置においては、被転写体に対する光照射が妨げられないように、スタンパの裏側にアクチュエータが配置されなければならない。
つまり、被転写体に対する光照射が妨げられないようにアクチュエータをスタンパの裏側に配置するためには、実質的にスタンパを面方向に拡張しなければならない。
したがって、スタンパの周囲にアクチュエータを設ける微細構造転写装置(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)、及びスタンパの裏側にアクチュエータを設ける微細構造転写装置(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)のいずれにおいても、スタンパの面方向に装置が大型化することとなる。特に、同一平面内に複数のスタンパが隣接配置されるマルチスタンパにおいてはこの傾向が顕著となる。
【0010】
そこで、本発明の課題は、スタンパのゆがみを補正するスタンパの変形機構を有しながらもスタンパの面方向における小型化を達成することができる微細構造転写装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決する本発明は、微細構造を有するスタンパを用いて、被転写体上の光硬化性樹脂組成物に微細構造を転写する微細構造転写装置において、前記スタンパは、前記微細構造が形成される微細構造形成層と、この微細構造形成層における前記微細構造の形成面の反対側で、この微細構造形成層に沿うように設けられる光照射層と、この光照射層における前記微細構造形成層側の面と反対の面に配置されると共に、前記スタンパを前記被転写体側に凸となるように湾曲させる変形機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スタンパのゆがみを補正するスタンパの変形機構を有しながらもスタンパの面方向における小型化を達成することができる微細構造転写装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る微細構造転写装置の構成説明図であり、(a)は微細構造転写装置を模式的に示す縦断面図、(b)は、微細構造転写装置の光照射層上に配置された圧電素子の位置を模式的に示す平面図である。
【図2】(a)から(c)は、本発明の実施形態に係る微細構造転写装置を使用して、被転写体にスタンパの微細構造を転写する際の工程説明図である。
【図3】(a)は、本発明の他の実施形態に係る微細構造転写装置における光照射層と光源の位置関係を示す模式図、(b)は、(a)のIIIb−IIIb断面図である。
【図4】光源の位置を変更した例を示す模式図であり、図3(a)に対応する図である。
【図5】変形機構として収縮可能な金属層を光照射層上に設けた例を示す模式図であり、図1(b)に対応する図である。
【図6】(a)は、複数のスタンパが並設されるマルチスタンパを備える本発明の微細構造転写装置の構成説明図であり、(b)は、スタンパの配列を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の微細構造転写装置は、スタンパの微細構造を被転写体に転写する際に被転写体の光硬化性樹脂組成物に向けて光を照射する光照射層をスタンパ内に備えると共に、スタンパにおける微細構造のナノメートルレベルのゆがみを補正するスタンパの変形機構を光照射層の裏側に備えることを主な特徴とする。
次に参照する図1(a)は、本発明の実施形態に係る微細構造転写装置の構成説明図であり、微細構造転写装置を模式的に示す縦断面図である。
【0015】
図1(a)に示すように、本実施形態に係る微細構造転写装置15は、スタンパ2の微細構造を被転写体1に転写する装置であり、ステージ9上に配置された被転写体1に対してスタンパ2を押圧するようになっている。なお、本実施形態でのスタンパ2の形状は、平面形状が正方形の略四角柱形状を呈しているが、この形状は特に制限はなく、被転写基板1aの平面形状に応じて、円柱、楕円柱、四角以外の多角柱等、適宜に設定することができる。
【0016】
被転写体1は、被転写基板1aと、この被転写基板1a上に塗布された光硬化性樹脂組成物からなる樹脂薄膜1bとで構成されている。被転写基板1aとしては、特に制限はなく、微細構造を転写して得られる微細構造体の用途に応じて適宜に設定することでき、具体的には、例えば、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、石英、セラミック、樹脂等が挙げられる。被転写基板1aの平面形状としては、特に制限はなく、例えば円形、楕円形、多角形等が挙げられる。また、被転写基板1aは中央孔を有するものであってもよい。
【0017】
樹脂薄膜1bは、被転写基板1a上に、後記する光硬化性樹脂組成物が塗布されて形成されたものである。光硬化性樹脂組成物の塗布方法としては、例えばスピンコート法、ディスペンス法、インクジェット法、スプレー法等が挙げられる。
被転写基板1aの表面には、樹脂薄膜1bとの接着性を向上させるためにカップリング層や金属薄膜を形成することもできる。
【0018】
ステージ9は、被転写体1を真空吸着や締結具、治具等によって着脱自在に固定している。また、ステージ9は、図示しない搬送機構によって所定の経路に沿って搬送されるようになっており、例えば、被転写基板1aに光硬化性樹脂組成物を塗布する樹脂塗布装置(図示省略)からスタンパ2の下方まで被転写体1と共に移動可能となっている。
【0019】
スタンパ2は、図1(a)に示すように、被転写体1に対向する側から順番に、微細構造(図示省略)が形成される微細構造形成層4と、この微細構造形成層4における微細構造の形成面(被転写体1への対向面)の反対側で、この微細構造形成層4に沿うように設けられる光照射層5と、この光照射層5における微細構造形成層4側の面と反対の面に配置される圧電素子6と、を備えている。なお、圧電素子6は、特許請求の範囲にいう「変形機構」に相当し、後記するように、電極6a(図1(b)参照)に所定の電圧が印加されることで自己収縮してスタンパ2を被転写体1側に凸となるように湾曲させるものである。
【0020】
また、本実施形態でのスタンパ2は、後記するように、光照射層5に光反射層11を備えている。
また、本実施形態でのスタンパ2は、微細構造形成層4と光照射層5との間に微細構造形成層4の支持基材3を有しているが、後に詳しく説明するように、支持基材3を省略することもできる。
【0021】
微細構造形成層4は、正方形の平面形状を有しており、被転写体1と対向する面に微細構造が形成されている。
微細構造形成層4の微細構造は、ナノメートルからマイクロメートルのサイズで形成された構造であり、具体的には、複数の微小突起が規則的に配置されたドットパターンや、これとは逆に微小凹部が規則的に配置されたパターン、複数の条が規則的に配置されたラメラパターン(ラインアンドスペースパターン)等が挙げられる。
【0022】
本実施形態での微細構造形成層4は、所定の支持基材3上に後記する光硬化性樹脂組成物を塗布することで樹脂層(図示省略)を形成すると共に、この樹脂層にマスターモールド(図示省略)を型押しして硬化させることで形成することができる。ちなみに、マスターモールドの微細構造は、電子線描画法等の周知の技術で形成することができる。つまり、本実施形態での微細構造形成層4は、マスターモールドのレプリカ原版を使用している。この微細構造形成層4は光透過性を有している。
【0023】
本実施形態での支持基材3の平面形状は、微細構造形成層4と同じ正方形を呈している。
支持基材3としては、後記するように圧電素子6が収縮する際にこれに応じて光照射層5及び微細構造形成層4と共に湾曲可能な材料であり、かつ光透過性のものであれば特に制限はない。
支持基材3の材料としては、ガラス、石英、樹脂等の強度と加工性を有するものが望ましい。また、支持基材3の表面には、微細構造形成層4との接着力を強化するために表面処理を施すことができる。
また、支持基材3は、弾性率の異なる2種以上の層で構成することもできる。このような支持基材3においては、弾性率の高い層と低い層との積層順や、組み合わせ、層数等について特に制限はない。
【0024】
このような2種以上の層を有する支持基材3としては、例えば、前記した材料を2種以上選択して各層を形成したものや、前記した材料からなる層と樹脂からなる層とを組み合せたもの、樹脂からなる層同士を組み合せたもの等が挙げられる。
前記した樹脂の具体例としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、ユリア樹脂(UF)、メラミン樹脂(MF)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、不飽和ポリエステル(UP)、アルキド樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂(EP)、ポリイミド(PI)、ポリウレタン(PUR)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、アクリル樹脂、ポリアミド(PA)、ABS樹脂、AS樹脂、AAS樹脂、ポリビニルアルコール、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアリレート、酢酸セルロース、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンオキシド、シクロオレフィンポリマ、ポリ乳酸、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。
【0025】
このような支持基材3上に微細構造形成層4を形成する光硬化性樹脂組成物としては、前記した被転写体1の樹脂薄膜1bを形成する光硬化性樹脂組成物と同様のものを使用することができる。
【0026】
光硬化性樹脂組成物の具体例としては、例えば末端に(メタ)アクリレート基をもつものとして、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、エトキシ化ビスフェノールA型アクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル変性脂環式エポキシド、2官能アルコールエーテル型エポキシド、アクリルシリコーン、アクリルジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0027】
また、光硬化性樹脂組成物としては、単量体を使用することもでき、末端に(メタ)アクリレート基又はビニル基を有するものとして、例えば、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化2メチル−1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−アクリロキシプロピルメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化イソシアヌル酸トリアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチルプールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロペンテニル(メタ)アクリレート、アダマンチェル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
また、光硬化性樹脂組成物としては、末端にエポキシ基を持つものとして、例えば、脂環式エポキシド、変性脂環式エポキシド、ビスフェノールA系エポキシド、水添ビスフェノールA系エポキシド、ビスフェノールF系エポキシド、ノボラック型エポキシド、脂肪族環式エポキシド、ナフタレン型エポキシド、ビフェニル型エポキシド、2官能アルコールエーテル型エポキシド、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールグリシジルエーテル、エポキシシリコーン、エポキシシルセスキオキサン等が挙げられる。
【0029】
また、オキセタニル基を有するものとしては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス[(3−エチル−3−オキセタニルメトキシ)メチル]ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)] メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタン等が挙げられる。
【0030】
また、ビニル基を有する有機成分としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、イソフタル酸ジ(4−ビニロキシ)ブチル、グルタル酸ジ(4−ビニロキシ)ブチル、コハク酸ジ(4−ビニロキシ)ブチルトリメチロールプロパントリビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ビニルシリコーン、ビニルシルセスキオキサン等が挙げられる。
以上、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基のいずれかの官能基を有する単量体成分を例示したが本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
また、光硬化性樹脂組成物には、重合開始剤が含まれている。この重合開始剤としては公知のものを使用することでき、例えば、ベンジルケタール、α−ヒドロキシケトン、α−アミノケトン、アシルフォスフィンオキシド、チタノセノン、オキシフェニル酢酸エステル、オキシムエステル等が挙げられる。更に具体的には、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モリフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキシド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキシド等が挙げられる。これらは単独で適用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0032】
エポキシ基及びオキセタニル基の反応を開始させる反応開始剤としては、求電子試薬であり、カチオン発生源を持っているもので、有機成分を光により硬化させるものであれば特に制限はなく、公知の光カチオン重合開始剤を用いることができる。例えば鉄−アレン錯体化合物、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、ピリジニウム塩、アルミニウム錯体/シリルエーテルや、プロトン酸、ルイス酸等が挙げられる。
【0033】
また、紫外線により硬化を開始するカチオン重合開始剤の具体的な例としては、IRGACURE261(チバガイギー社製)、オプトマーSP−150(ADEKA社製)、オプトマーSP−151(旭電化工業社製)、オプトマーSP−152(旭電化工業社製)、オプトマーSP−170(ADEKA社製)、オプトマーSP−171(ADEKA社製)、オプトマーSP−172(ADEKA社製)、UVE−1014(ゼネラルエレクトロニクス社製)、CD−1012(サートマー社製)、サンエイドSI−60L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−80L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−100L(三新化学工業社製)、サンエイドSI−110(三新化学工業社製)、サンエイドSI−180(三新化学工業社製)、CI−2640(日本曹達社製)、CI−2639(日本曹達社製)、CI−2624(日本曹達社製)、CI−2481(日本曹達社製)、Uvacure 1590(ダイセルUCB)、Uvacure 1591(ダイセルUCB)、RHODORSIL PhotoInItiator2074(ローヌ・プーラン社製)、UVI−6990(ユニオンカーバイド社製)、BBI−103(ミドリ化学社製)、MPI−103(ミドリ化学社製)、TPS−103(ミドリ化学社製)、MDS−103(ミドリ化学社製)、DTS−103(ミドリ化学社製)、NAT−103(ミドリ化学社製)、NDS−103(ミドリ化学社製)、CYRAURE UVI6990(ユニオンカーバイト日本)等が挙げられる。これらは単独で適用することも可能であるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。このほか公知の光重合開始剤を適用することもできる。
【0034】
また、微細構造形成層4の表面には剥離を促進するための離型層を形成してもよい。離型層としては、例えば、フッ素系材料、シリコーン、グラフトさせた炭化水素鎖、ダイヤモンドライクカーボン、金属等からなるものが挙げられるが、微細構造形成層4の表面に対する被転写体1の光硬化性樹脂組成物の付着を防止できるものであれば特に制限はない。
【0035】
また、微細構造形成層4は、次に説明する光照射層5の表面に形成し、光照射層5が支持基材3を兼ねることで、支持基材3を省略することもできる。
また、光硬化性樹脂組成物からなる微細構造形成層4に代えて、ガラス、石英、樹脂等の透明性を有する基板に微細構造をフォトリソグラフィ法、集束イオンビームリソグラフィ、電子線描画法等によって形成したもの使用することもできる。この場合においても支持基材3を省略することできる。
【0036】
光照射層5の平面形状は、支持基材3と同じ正方形を呈している。この光照射層5は、後記するように、被転写体1の樹脂薄膜1bに微細構造形成層4を押し付けて光硬化性樹脂組成物からなる樹脂薄膜1bを光硬化させる際に、この樹脂薄膜1bに光を照射するものである。更に詳しく説明すると、この光照射層5は、次に説明する光源8から照射される光を散乱し又は偏光することで、樹脂薄膜1bの膜面に対して均一に光が照射されるように導光するものである。
【0037】
この光照射層5としては、このような光散乱性又は偏光性を有すると共に、後記するように圧電素子6が収縮する際にこれに応じて湾曲することができるものであれば等に制限はなく、ガラス、樹脂等の光透過性材料からなるものが挙げられる。この光照射層5の具体例としては、例えば、前記した支持基材3との界面に粗面化処理を施したもの、その界面に偏光加工処理が施されたもの、その界面に微小プリズム化処理を施したもの、透明性連続相(樹脂連続相、マトリックス樹脂)に分散相(微粒子状、微細繊維状等の光散乱因子)を含むもの等が挙げられる。中でも、透明性連続相に分散相を含むものが望ましく、連続相と屈折率が異なる透明性分散相を含むものがより望ましい。
【0038】
本実施形態での光照射層5は、微細構造形成層4に面する側に対して反対の面に、光反射層11が形成されている。なお、この光反射層11は、次に説明する圧電素子6が配置される光照射層5の表面を部分的に除いて形成されている。
この光反射層11は、次に説明する光源8から光照射層5内に照射された光が、微細構造形成層4に面する側に対して反対の面を介して漏れ出ないようにするためのものである。この光反射層11は、例えば、光照射層5の表面に銀を蒸着して形成することができる。
【0039】
本実施形態での光源8は、光の照射口8aが光照射層5の縁部に臨むように配置されている。この光源8としては、例えば、高圧水銀ランプ、LED、有機EL等が挙げられる。
【0040】
次に参照する図1(b)は、微細構造転写装置の光照射層上に配置された圧電素子の位置を模式的に示す平面図である。なお、図1(b)は、図1(a)の加圧機構10側から圧電素子6を見た様子を示す平面図であるが、光照射層5上に形成される光反射層11については作図の便宜上、その記載を省略している。
【0041】
図1(b)に示すように、本実施形態での変形機構としての圧電素子6は、その両端に電極6aを有する細長形状であり、光照射層5上に4つ配置されている。具体的には、圧電素子6のそれぞれは、光照射層5の正方形の4つの辺に沿うように配置されている。
【0042】
本実施形態での圧電素子6は、両端に設けられた電極6aに所定の電圧が印加されると、図1(b)の矢印S方向に収縮する。また、圧電素子6の電極6aが設けられる両端は、光照射層5の表面に固定されており、電極6aに電圧が印加されて圧電素子6が自己収縮すると、光照射層5に固定されたその両端部が互い引き寄せられることとなる。つまり、自己収縮した圧電素子6は、光照射層5を被転写体1(図1(a)参照)側に凸となるように撓ませる(湾曲させる)こととなる。
【0043】
また、各圧電素子6は、印加される電圧が個別に変化すると、光照射層5の面内方向の収縮率をX方向及びY方向で独立して変化させる。その結果、光照射層5の一つの面内において、少なくとも4つの湾曲度が異なる領域を形成することができる。
そして、圧電素子6が収縮することで光照射層5が湾曲すると、この湾曲度に応じて図1(a)に示す支持基材3及び微細構造形成層4も湾曲することとなる。つまり、圧電素子6は、スタンパ2を被転写体1(図1(a)参照)側に凸となるように湾曲させることとなる。
【0044】
本実施形態に係る微細構造転写装置15は、図1(a)に示すように、スタンパ2を支持すると共に、被転写体1の樹脂薄膜1bにスタンパ2を加圧する加圧機構10を備えている。
【0045】
加圧機構10におけるスタンパ2の支持手段としては、公知のものでよく、例えば、加圧機構10に設けた真空吸引口(図示省略)を介してスタンパ2を真空吸着するものや、治具による機械的支持が挙げられる。
【0046】
また、加圧機構10は、支持したスタンパ2を三次元方向に移動可能な駆動装置(図示省略)を備えている。この駆動装置は、例えば、ステッピングモータ、リニアモータ、圧電素子等の駆動部、減速部、及びその他の動力伝達部で構成することができる。そして、この駆動装置は、センチメートルレベルで加圧機構10を移動させる粗調整駆動装置と、ナノメートルレベル乃至はマイクロメートルレベルで加圧機構10を移動させる微調整駆動装置とで構成されている。
【0047】
つまり、この駆動装置は、前記したように、スタンパ2の下方まで所定の搬送経路に沿ってステージ9と共に移動してきた被転写体1に対して、粗調整駆動装置が大まかにスタンパ2を近接させた後に、微調整駆動装置がスタンパ2を被転写体1に位置決めすることとなる。
なお、被転写体1に対するスタンパ2の位置決めは、図1(a)及び(b)に示すように、スタンパ2に設けたアライメント孔13と、被転写基板1aに設けたアライメントマークMとを重ね合わせることで行われる。
【0048】
ちなみに、アライメント孔13とアライメントマークMとが重なって、被転写体1に対してスタンパ2が位置合わせされたことの確認手法(位置決め手法)としては、アライメント孔13から透明な微細構造形成層4及び支持基材3を見通してCCDカメラ等の撮像手段でアライメントマークMの重なりを撮像画像で確認するもの、反射型ファイバーセンサ等でアライメント孔13とアライメントマークMの重なりを、検知される反射光量の変化に基づいて確認するもの等が挙げられる。
なお、本発明に適用できるアライメント方法としては、光学アライメント、機械アライメント等の別を問わずに既知のあらゆる方法を採用することができることは言うまでもない。
【0049】
次に、微細構造転写装置15を使用した微細構造転写方法について説明する。図2(a)から(c)は、本発明の実施形態に係る微細構造転写装置を使用して、被転写体にスタンパの微細構造を転写する際の工程説明図である。
【0050】
図2(a)に示すように、本実施形態に係る微細構造転写装置15を使用した微細構造転写方法においては、まずスタンパ2を加圧機構10に固定すると共に、図示しない搬送機構によって、ステージ9上に配置された被転写体1がこのスタンパ2の下方に搬送される。なお、被転写体1は、所定の樹脂塗布機構(図示省略)で光硬化性樹脂組成物が被転写基板1a上に塗布されることによって樹脂薄膜1bが形成されたものである。
【0051】
そして、この微細構造転写装置15では、スタンパ2のパターンの変形等に起因するゆがみに応じて圧電素子6の電極6a(図1(b)参照)に所定の電圧が印加されることで当該ゆがみが補正される。
【0052】
次に、被転写体1に対してスタンパ2が位置合わせされた後、図2(b)に示すように、スタンパ2が駆動装置(図示省略)によって被転写体1の樹脂薄膜1bと接触すると、加圧機構10がスタンパ2を被転写体1に向けて所定の荷重にて押圧する。
そして、スタンパ2が被転写体1に押圧された状態で、光源8から光が光照射層5内に照射されると、光は光照射層5内で散乱光となって、光照射層5から万遍なく均一に樹脂薄膜1bに照射される。
【0053】
そして、図2(c)に示すように、樹脂薄膜1bが硬化した後、スタンパ2が加圧機構10の駆動装置(図示省略)によって上昇することで樹脂薄膜1bから剥離する。その結果、被転写体1の表面には、光硬化性樹脂組成物の硬化物からなる微細構造(図示省略)が形成される。
【0054】
以上のような微細構造転写装置15によれば、次のような作用効果を奏することができる。
本実施形態に係る微細構造転写装置15は、圧電素子6(変形機構)によりスタンパ2を被転写体1側に凸となるように湾曲させる。その結果、スタンパ2内で最も被転写体1側に位置する微細構造形成層4は、微細構造が形成されるその面方向のサイズをこの湾曲にともなって変化させることができる。したがって、この微細構造転写装置15によれば、スタンパ2の微細構造にナノメートルレベルのゆがみが生じた場合に、スタンパ2を被転写体1側に凸となるように湾曲させることでそのゆがみを補正することができる。
【0055】
また、本実施形態に係る微細構造転写装置15は、被転写体1の樹脂薄膜1b(光硬化性樹脂組成物)に向けて光を照射する光照射層5をスタンパ2内に備えると共に、スタンパ2の変形機構である圧電素子6を光照射層5の裏側、つまり光照射層5における微細構造形成層4側の面と反対の面に備えている。したがって、この微細構造転写装置15によれば、従来の微細構造転写装置のようにスタンパの周囲にアクチュエータ(変形機構)が配置されるもの(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)、又はアクチュエータ(変形機構)で被転写体に対する光照射が妨げられないように実質的にスタンパを面方向に拡張しなければならないもの(例えば、特許文献3及び特許文献4参照)と異なって、スタンパ2の面方向に装置が大型化することを回避することができる。つまり、この微細構造転写装置15によれば、スタンパ2のゆがみを補正する圧電素子6(変形機構)を有しながらもスタンパ2の面方向における小型化を達成することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る微細構造転写装置15は、被転写体1に転写する微細構造が形成される微細構造形成層と圧電素子6との間に、被転写体1の樹脂薄膜1b(光硬化性樹脂)に光を照射するための光照射層5が配置されていると共に、この光照射層5が光源8からの光を散乱させることができるので、樹脂薄膜1bに万遍なく均一に光を照射することができる。
【0057】
なお、本実施形態は前記実施形態に限定されることなく、様々な形態で実施される。
前記実施形態では、光源8の光の照射口8aが光照射層5の縁部に臨むように配置されており、光源8の本体が光照射層5の外側に配置されるものを想定しているが、本発明は光を光照射層5内に導入することができれば光源8の位置に特に制限はない。
【0058】
次に参照する図3(a)は、本発明の他の実施形態に係る微細構造転写装置における光照射層と光源の位置関係を示す模式図、図3(b)は、図3(a)のIIIb−IIIb断面図である。なお、図3(a)及び(b)中の白抜き矢印Lは、光の照射方向を示している。図4は、光源の位置を変更した例を示す模式図であり、図3(a)に対応する図である。
【0059】
図3(a)及び(b)に示すように、光源8は、細長い外形を有する棒状光源であり、その長手方向に沿って複数のLED(図示省略)がその内部に配置されて構成されている。そして、この光源8は、平面視で正方形を呈する光照射層5の一辺の縁部に沿うように光照射層5内に配置されており、この光源8からの光Lは、光照射層5の一辺側からこの辺に対向する他辺側に向かって照射されるようになっている。
また、光源8は、図4に示すように、光反射層11寄りで光照射層5内に配置された面光源とすることもできる。
なお、図3(a)及び(b)、並びに図4中、符号2は、スタンパであり、符号6は、圧電素子であり、符号11は、光反射層であり、符号3は、支持基材であり、符号4は、微細構造形成層であり、符号13は、アライメント孔である。
【0060】
また、前記実施形態では、変形機構として圧電素子6を使用したものについて説明したが、本発明での変形機構は圧電素子6に限定されない。
次に参照する図5は、変形機構として収縮可能な金属層を光照射層上に設けた例を示す模式図であり、図1(b)に対応する図である。
【0061】
図5に示すように、本発明は、前記した変形機構としての圧電素子6(図1(b)参照)に代えて、光照射層5上に形成した収縮可能な金属層7を適用することができる。この金属層7は、光照射層5上で、その四辺に沿って細長に形成されると共に、光照射層5上の中側には、交差する十字の金属層7が形成されている。そして、金属層7は、図示しないペルチェ素子(熱電素子)で冷却されるようになっている。つまり、ペルチェ素子で冷却されることで、金属層7は光照射層5をその面方向に収縮させるようになっている。
その結果、スタンパ2(図1(a)参照)は、被転写体1(図1(a)参照)側に凸となるように湾曲することとなる。
なお、図5中、符号13は、アライメント孔である。
【0062】
次に参照する図6(a)は、複数のスタンパが並設されるマルチスタンパを備える本発明の微細構造転写装置の構成説明図であり、図6(b)は、複数のスタンパの配列を示す平面図である。
【0063】
図6(a)及び(b)に示すように、微細構造転写装置15は、複数のスタンパ2が加圧機構10に並設されている。なお、これらのスタンパ2の微細構造形成層4は、図示しない被転写体1(図1(a)参照)に対向するように配置されることとなる。
【0064】
この微細構造転写装置15においては、図6(b)に示すように、正方形の平面形状を有する加圧機構10の面上で、縦横に等間隔に合計25のスタンパ2が互いに隣接するように整列して配置されている。
【0065】
本発明によれば、このようなマルチスタンパに適用する場合に、前記したように、スタンパ2のそれぞれにおいてその面方向に小型化を図ることができるので、マルチスタンパをコンパクトに纏めることができる。
【0066】
また、前記実施形態では、図1(a)に示すように、被転写体1の片面のみに微細形状が転写することを想定しているが、被転写体1の両面に光硬化性樹脂組成物からなる樹脂薄膜1bを形成すると共に、1対のスタンパ2でこれを挟み込む構成とすることもできる。
また、この場合、1対のスタンパ2は、被転写体1を上下から挟む構成でも左右から挟む構成でもよい。
【0067】
以上のような微細構造転写装置15によって微細構造が転写された被転写体1(この微細構造をマスクとして被転写基板1a(図1(a)参照)がエッチングされたものを含む)は、磁気記録媒体や光記録媒体等の情報記録媒体に適用可能である。また、この微細構造が転写された被転写体1は、大規模集積回路部品やレンズ、偏光板、波長フィルタ、発光素子、光集積回路等の光学部品、免疫分析、DNA分離、細胞培養等のバイオデバイスへの適用が可能である。
【実施例】
【0068】
次に、実施例を示しながら本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
本実施例では、図1に示す微細構造転写装置15を使用してスタンパ2の微細構造を被転写体1の樹脂薄膜1bに転写した。
支持基材3には20mm×20mm、厚さ0.7mmのガラス基板を使用した。支持基材3の表面には20nmの厚さの酸化シリコン膜をスパッタリング法で形成した。そして、この酸化シリコン膜に対して電子線描画法で100nmフルピッチ(50nmハーフピッチ)、高さ50nmの溝パターンを形成することで、酸化シリコン膜からなる微細構造形成層4を形成した。
【0069】
被転写体1には直径100mm、厚さ0.525mmのシリコン基板を使用した。
次に、支持基材3の微細構造形成層4を形成した面の裏面に、光照射層5としての導光板を配置した。この導光板は、透明性樹脂からなる連続相に、この連続相と屈折率の異なる透明性樹脂からなる微粒子を分散させた光散乱板で構成されている。
また、光照射層5の裏面には、銀を蒸着することで光反射層11を形成した。そして、光照射層5上に4つのピエゾ素子(圧電素子6)を配置した。
光源8としては、波長365nmの紫外光を照射するための光ファイバを配置した。
なお、被転写体1に対するスタンパ2の位置合わせは、アライメント孔13とアライメントマークMとの重なりを光学的に確認することで行った。
【0070】
なお、被転写体1の樹脂薄膜1b(光硬化性樹脂組成物)としては、ネオペンチルグリコールジアクリレート(新中村化学製)1質量部、ウレタンアクリレート(UA−53H、新中村化学社製)1質量部、及びDAROCUR1173(チバガイギー社製)0.1質量部を混合したものを使用した。また、被転写基板1aに対するこの光硬化性樹脂組成物の塗布は、スピンコート法にて行った。
【0071】
次に、微細構造形成層4の微細構造について、パターンのゆがみを電子顕微鏡にて観察したところ、正方形の1の辺の延在方向に、マスターモールドにおける基準長さよりも5nm短い誤差が認められた。そこで、当該1の辺の延在方向に対応する方向に沿って延設された2つの圧電素子6に所定の電圧を印加することでゆがみを補正した。そして、スタンパ2の微細構造を被転写体1の樹脂薄膜1b(光硬化性樹脂組成物)に押圧しつつ、光反射層11を介して紫外線を樹脂薄膜1bに照射した。そして、硬化した樹脂薄膜1bからスタンパ2を剥離して得られた転写物のパターンのゆがみを電子顕微鏡にて観察した。その結果、パターン誤差は±500ppmに低減されていた。
【0072】
(実施例2)
本実施例では、実施例1で使用したスタンパ2を50μm間隔で2つ並べて、同時に被転写体1上に微細構造を転写した。そして、実施例1と同様に、スタンパ2を観察して求めたゆがみによる誤差を解消するように圧電素子6で当該ゆがみを補正した。次いで、これらのスタンパ2で微細構造を転写した転写物に基づいてパターン誤差を求めたところ、±500ppmであった。また、転写物側に形成された2つの転写痕の間隔は、スタンパ2の間隔と同じ50μmであった。
【0073】
(実施例3)
本実施例では、図3(a)及び(b)に示すように、光源8(複数のLED内蔵)を設けたスタンパ2を使用した以外は、実施例1と同様の微細構造転写装置15を使用してスタンパ2の微細構造を被転写体1の樹脂薄膜1bに転写した(図1(a)及び(b)参照)。そして、実施例1と同様に、スタンパ2を観察して求めたゆがみによる誤差を解消するように圧電素子6で当該ゆがみを補正した。次いで、これらのスタンパ2で微細構造を転写した転写物に基づいてパターン誤差を求めたところ、±600ppmに低減されていた。
【0074】
(実施例4)
本実施例では、図4に示すように、光源8(複数のLED内蔵)を設けたスタンパ2を使用した以外は、実施例1と同様の微細構造転写装置15を使用してスタンパ2の微細構造を被転写体1の樹脂薄膜1bに転写した(図1(a)及び(b)参照)。そして、実施例1と同様に、スタンパ2を観察して求めたゆがみによる誤差を解消するように圧電素子6で当該ゆがみを補正した。次いで、これらのスタンパ2で微細構造を転写した転写物に基づいてパターン誤差を求めたところ、±500ppmに低減されていた。
【0075】
(実施例5)
本実施例では、図1(b)に示す4つの圧電素子6に加えて、光照射層5の内側で十字に交差するように配置された2つの圧電素子6で、スタンパ2のゆがみを補正した以外は、実施例1と同様に、微細構造を転写した転写物に基づいてパターン誤差を求めたところ、±500ppmに低減されていた。
【0076】
(実施例6)
本実施例では、図5に示すように配置された金属層7をペルチェ素子(図示省略)で冷却することで当該金属層7を収縮させてスタンパ2のゆがみを補正した以外は、実施例1と同様に、微細構造を転写した転写物に基づいてパターン誤差を求めたところ、マスターモールドを基準としたパターン誤差は±2nmであった。
【0077】
(比較例1)
本比較例では、圧電素子6を設けなかった以外は、図1(a)に示す実施例1と同様の微細構造転写装置15を使用してスタンパ2の微細構造を被転写体1の樹脂薄膜1bに転写した。つまり、スタンパ2のゆがみを補正せずに微細構造を被転写体1の樹脂薄膜1bに転写した。次いで、これらのスタンパ2で微細構造を転写した転写物に基づいてマスターモールドを基準としたパターン誤差を求めたところ、±5nmであった。
【0078】
(比較例2)
本比較例では、図1(a)の光照射層5を設けずに、支持基材3の裏側に配置した光源(図示省略)にて光を樹脂薄膜1bに照射する構成とした。その結果、図1(b)に示す圧電素子6が樹脂薄膜1bに向けての光を遮るので、これを回避するために、スタンパ2が面方向外側に3cm広がった。そして、このスタンパ2を保持する機構(図示省略)もスタンパ2の外周部に設けたことで装置が大型化した。そして、本比較例では、このスタンパ2を2つ横並びに配置したところ、被転写体1に転写したパターン同士の間は、3cm以上となった。
【符号の説明】
【0079】
1 被転写体
2 スタンパ
3 支持基材
4 微細構造形成層
5 光照射層
6 圧電素子(変形機構)
7 金属層(変形機構)
8 光源
9 ステージ
10 加圧機構
11 光反射層
15 微細構造転写装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細構造を有するスタンパを用いて、被転写体上の光硬化性樹脂組成物に微細構造を転写する微細構造転写装置において、
前記スタンパは、前記微細構造が形成される微細構造形成層と、
この微細構造形成層における前記微細構造の形成面の反対側で、この微細構造形成層に沿うように設けられる光照射層と、
この光照射層における前記微細構造形成層側の面と反対の面に配置されると共に、前記スタンパを前記被転写体側に凸となるように湾曲させる変形機構と、
を備えることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項2】
請求項1に記載の微細構造転写装置において、
前記変形機構は、自己収縮することで前記光照射層を撓ませて前記スタンパを前記被転写体側に向かって凸となるように湾曲させることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の微細構造転写装置において、
前記スタンパを前記被転写体に向けて移動させることで押圧する加圧機構を備えていることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記変形機構は、圧電素子であることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記変形機構は、前記光照射層に沿って形成される金属層と、
この金属層を冷却して収縮させる熱電素子と、
を備えることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記光照射層内に光源を有していると共に、前記光照射層は、光源から照射される光を散乱させることを特徴とする微細構造転写装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の微細構造転写装置において、
前記被転写体に対向するように複数の前記スタンパが並設されていることを特徴とする微細構造転写装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−55097(P2013−55097A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190320(P2011−190320)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】