説明

微細素子の評価方法

【課題】磁気抵抗効果素子のような微小な電流を流すだけで簡単に損傷してしまう微細な素子の抵抗特性等を評価する際に、素子を損傷させることなく、的確に特性を評価することができる微細素子の評価方法を提供する。
【解決手段】導電性を有する微細素子10に電流を印加して微細素子の特性を評価する方法において、前記微細素子10をレジスト14により被覆する工程と、前記レジスト14が被覆された微細素子10に電流を印加し微細素子の特性を評価する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子等の微細素子の特性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記憶装置に用いられる磁気ヘッドの生産工程においては、セラミック(Al2O3-TiC)からなるウエハに、多数個の磁気抵抗効果素子(リードヘッド)を形成した後、ウエハに外部から磁界を作用させ、ウエハに形成されている個々の磁気抵抗素子の特性(磁気抵抗特性)を評価することがなされている。これは、生産工程のチェックあるいは製品の良否判定、開発段階での特性評価等を目的としてなされるものである。
【0003】
具体的には、ウエハに対して磁気抵抗効果素子の磁化方向に平行および反平行方向に磁界を作用させ、そのときの磁気抵抗効果素子の出力電圧を測定することによってなされる。ウエハには多数個の素子が形成されているから、ウエハに形成されている磁気抵抗効果素子に設けられた接続端子に検査用のプローブを接触させ、磁気抵抗効果素子に検知用の電流を印加し、外部磁界下における磁気抵抗効果素子の抵抗を測定することによって行われる。
【特許文献1】特開平09−180138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気抵抗効果素子はきわめて微小な、いわば微小な抵抗体として形成されているから、検知用の電流として過大な電流を加えると、素子部分で発生するジュール熱によって素子が簡単に損傷(切れる)してしまう。このため、検知用の電流としてどの程度の電流を加えるかは、的確に制御される。
ただし、磁気抵抗効果素子が切れないように検知用の電流値を低く抑えると、磁気抵抗効果素子の出力電圧は小さくなるから測定ばらつきが大きくなるという問題が生じる。
【0005】
また、ウエハに磁気抵抗効果素子を形成した段階では、最終的に磁気ヘッドスライダーを形成した場合と比較して磁気抵抗効果素子の抵抗は小さくなっているから、所要の出力電圧を得るためには、実素子で流すセンス電流にくらべて検査用の電流値を大きくせざるを得ない。しかしながら、検査用の電流値を大きくすると磁気抵抗効果素子の部分で発生するジュール熱が大きくなり、良品の磁気抵抗効果素子であっても損傷してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、これらの課題を解決すべくなされたものであり、磁気抵抗効果素子のような微小な電流を流すだけで簡単に損傷してしまう微細な素子の抵抗特性等を評価する際に、素子を損傷させることなく、的確に特性を評価することができる微細素子の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下の構成を備える。
すなわち、微細素子の評価方法として、導電性を有する微細素子に電流を印加して微細素子の特性を評価する方法において、前記微細素子をレジストにより被覆する工程と、前記レジストが被覆された微細素子に電流を印加し微細素子の特性を評価する工程とを備えることを特徴とする。この微細素子の評価方法は、微細な抵抗体の抵抗を測定するような場合に適用することができる。
【0008】
また、前記微細素子が磁気抵抗効果素子であり、磁気抵抗効果素子が形成されている領域をレジストにより被覆する工程と、前記レジストが被覆された磁気抵抗効果素子に電流を印加し磁気抵抗効果素子の特性を評価する工程とを備えることを特徴とする。このように微細素子として磁気抵抗効果素子の特性を評価する場合にも本発明方法が好適に利用できる。
【0009】
また、前記磁気抵抗効果素子を備える磁気ヘッドの製造工程において、磁気抵抗効果素子の特性を評価する方法として、ウエハに前記磁気抵抗効果素子を備える素子部を形成した後、前記素子部が形成されている領域をレジストにより被覆する工程と、前記レジストが被覆された素子部に電流を印加し前記磁気抵抗効果素子の特性を評価する工程とを備えることを特徴とする。
また、前記磁気抵抗効果素子の特性を評価した後、前記レジストを除去する工程を備えることも可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る微細素子の評価方法によれば、微細素子がレジストによって被覆されている状態で微細素子に電流を印加して微細素子の特性を評価するから、微細素子が発熱した場合でもレジストによって熱放散され微細素子が過熱して溶けたり、切れたりすることが防止され、微小電流によって切れてしまうような微細素子であっても確実にその特性を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る微細素子の評価方法の適用例として、磁気ヘッドの製造工程において、ウエハに形成した磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性を評価する場合に適用する例について説明する。
図1は、ウエハに形成した磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性を評価する場合の検査工程を示す。ウエハには多数個の磁気抵抗効果素子が形成されるが、図では、説明上、一つの磁気ヘッドを構成する部分について示す。図1において、素子部10は微細素子としての磁気抵抗効果素子が形成されている部位を示すもので、磁気抵抗効果素子(MR素子)の他に下部シールド層、上部シールド層、ハード膜等の所要の磁性層、絶縁層を積層して形成されている。以下では、この磁気抵抗効果素子を形成した部位を素子部10という。
【0012】
図1(a)は、ウエハに形成された素子部10と素子部10に接続して形成された接続端子12を平面方向から見た状態を示す。接続端子12は素子部10の両端からそれぞれ側方に延出する形態に形成される。接続端子12は磁気ヘッドのアセンブリ工程において接続用の電極として使用されるものであり、数十μm程度の幅に形成される。これに対して、素子部10は接続端子12とくらべてはるかに細幅に形成される。したがって、接続端子12にプローブを接触させて過大な電流を流すと素子部10が形成されている部位で大きなジュール熱が発生し、素子部10(磁気抵抗効果素子)が切れてしまう。
【0013】
図1(b)は、本発明の微細素子の評価方法において特徴的な工程である。すなわち、本発明においては、ウエハに素子部10と接続端子12を形成した後、素子部10の磁気抵抗特性を測定する前工程で、素子部10が形成されている領域をレジスト14によって被覆する操作を行う(レジスト被覆工程)。
【0014】
素子部10が形成されている領域をレジスト14によって被覆する操作は、ウエハの表面に感光性のレジストをコーティングし、レジストを所定パターンで露光および現像することによってなされる。
ウエハ上には素子部10(リードヘッド)が多数個、整列して形成されている。したがって、ウエハの全面にレジストをコーティングした後、ウエハに形成された各々の素子部10の部位にレジスト14が残るようにレジストをパターニングすることにより、素子部10が形成されている領域をレジスト14によって被覆することができる。
【0015】
本実施形態において素子部10が形成されている領域をレジスト14によって被覆する目的は、レジスト14によって素子部10を被覆することにより素子部10からの熱放散性を向上させ、接続端子12間に電流を流して抵抗測定する際に素子部10で発生するジュール熱を放散させることによって素子部10が過熱することを回避して素子部10が損傷されないようにするためである。
【0016】
ウエハ表面に残すレジスト14の形状(領域)は、レジストを露光および現像する際のパターンを適宜設定することによって任意に設定することができるから、ウエハに形成された素子部10の配置に合わせてレジスト14をパターニングすることは容易であり、また、ウエハ上に残すレジスト14も適宜パターンに形成することができる。
【0017】
素子部10が形成されている領域をレジスト14によって被覆する目的は、レジスト14による熱放散性を利用すること、いいかえればレジスト14を放熱材として利用することであるから、レジストをパターニングする場合に、素子部10が形成されている領域をレジスト14によって被覆することが有効であるが、素子部10の領域を超えてレジスト14を被着させるようにしてももちろんかまわない。
接続端子12にはプローブを接触させるから、レジストをパターニングする際には少なくとも接続端子12でプローブを接触させる部位を露出させるようにすればよい。
【0018】
図1(c)は、接続端子12にプローブ16を接触させ、素子部10の磁気抵抗特性を測定している状態を示す。ウエハに外部から磁界を作用させ、検知器18により素子部10の磁気特性を検知する。ウエハには多数個の素子部10が形成されているから、適宜素子部10を選択し、プローブ16を接続端子12に接触させて測定する。2本のプローブ16の間隔は100μm程度、プローブ16の太さは1μm程度である。
【0019】
図1(d)は、素子部10の磁気抵抗特性を測定した後、レジスト14を除去した状態を示す。レジスト14は化学的に溶解除去する方法等によって簡単に除去することができる。
ウエハに磁気ヘッドを形成する際には、絶縁層や磁性層を積層して形成する。この磁気ヘッドの製造工程で使用されるアルミナ等の絶縁材を除去する際には、研磨加工やドライエッチング、イオンミリング等の処理が施される。レジストを除去する処理はこれらの処理とくらべてはるかに簡単であり、素子部に悪影響を及ぼすことがないという利点がある。
【0020】
なお、磁気ヘッドの構成上でレジストをそのまま残しても問題がない場合、あるいは微細素子が通常の抵抗体のようなものでレジストが残っていても問題がない場合には、レジストをそのまま残すことも可能である。
また、本実施形態では、放熱材としてレジストを使用したが、レジストと同様に放熱性にすぐれ、パターニングが容易で簡単に除去できる電気的絶縁材料であれば同様に利用することが可能である。
【0021】
図2、3は、ウエハに形成されている磁気抵抗効果素子を備えた素子部10の構成を断面方向から見た状態を示す。図2は、CIP(Current in plane)型の磁気抵抗効果素子、図3はCPP(Current perpendicular to the plane)型の磁気抵抗効果素子を示す。
図2(a)は、ウエハ上に素子部10を形成した状態である。素子部10は、基板20上に、下部シールド層21、絶縁層22、MR素子23、絶縁層24、上部シールド層25を積層して形成されている。MR素子23の側方にはハード膜26a、26bと端子27a、27bが形成され、端子27a、27bに接続端子12が電気的に接続して設けられる。
【0022】
図2(b)は、素子部10の表面にレジスト14を被着形成した状態を示す。前述したように、ウエハの表面にレジストを被着し、レジストをパターニングすることによって素子部10が形成された領域をレジスト14によって被覆することができる。
図2(b)は、上部シールド層25を形成した後、レジスト14によって素子部10を被覆した例、図2(c)は、上部シールド層25を形成せずにレジスト14によって被覆した例である。
図2(b)、(c)に示すように素子部10の表面にレジスト14を被着形成した状態で磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性を評価し、その後、レジスト14を除去し、ライトヘッドを形成する製造工程に移行して磁気ヘッドが形成される。
【0023】
図3に示す、CPP型のMR素子23を備える素子部10の場合も図2に示した例と同様に、上部シールド層25の上にレジスト14を被着形成した後、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性を評価し、次いで、レジスト14を除去してライトヘッドを形成する工程に移行する。CPP型の場合は、上部シールド層25と下部シールド層21が端子を兼ねており、上部シールド層25と下部シールド層21に電気的に接続して接続端子12が形成される。したがって、この場合は上部シールド層25を形成した後にレジスト14によって素子部10を被覆する。
【0024】
図2、3に示したように、レジスト14は上部シールド層25にじかに接した状態で形成され、あるいはMR素子23に接触させて形成されるから、MR素子23において発生したジュール熱は効率的にレジスト14に伝導され、MR素子23から効率的に熱放散させることができる。
【0025】
空気とレジストとの熱伝導率を比較すると、空気では2.57×E-02(W/m/k)であるのに対して、レジストでは約2×E-01(W/m/k)であり、レジストは空気の10倍程度、熱伝導率が高くなる。したがって、素子部10をレジスト14により被覆することによって、一定の熱放散効果が期待される。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
上記の表1は、ウエハの状態で磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性を評価する場合に素子部に加える電流とそのときの素子部での発熱量を示す。表2は、実素子として形成した状態で磁気抵抗効果素子に加える電流とそのときの発熱量を示す。なお、表1、2ともTMR型の磁気抵抗効果素子についての測定値である。
表1において、データ(1)−A、(1)−Bは、外部から印加する磁界がTMR磁化方向と平行の場合と反平行の場合で、素子部に加える電流を0.4mAとした場合の発熱量を示す。データ(2)−A、(2)−Bは、素子部に加える電流を1.00mAとした場合での発熱量を示す。外部から印加する磁界をTMR磁化方向と平行にすると抵抗値が最小(発熱量は最小)となり、TMR磁化方向と反平行にすると抵抗値が最大(発熱量が最大)となる。
【0029】
磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性を評価する場合には、測定ばらつきを抑えるために、出力電圧が0.1V程度となることが望ましい。表2では、素子部の出力電圧が0.15Vになるように素子部に加える電流を調節し、そのときの発熱量を示している。
この実素子についての発熱量(表2の測定値)をウエハ段階での発熱量(表1の測定値)と比較すると、実素子では出力電圧が大きいにも関わらず、発熱量はウエハ段階のものを下回っていることがわかる。
これは、表1に示すウエハ段階では、素子部が最終的な幅寸法までトリミングされておらず、実素子にくらべて幅広に形成され(抵抗部分の幅が広い)抵抗値が小さいためである。表1のデータ(1)−A、(1)−Bは、素子部がジュール熱によって損傷しない程度の電流を加えた場合であり、表1のデータ(2)−A、(2)−Bは、出力電圧を大きくするために、素子部に加える電流を大きくした場合である。
【0030】
実験によると、表1のデータ(2)−Aの電流を加えた場合(発熱量:1.8×E-04(J))にジュール熱によって素子部10が溶けてしまい、測定が出来ない状態になった。
これに対して、素子部10を、上述したレジスト14によって被覆して測定すると、素子部10がジュール熱によって切れることが回避され、所要の出力電圧を得ることができ、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性を評価することができた。この実験結果は、レジスト14による素子部10からの熱放散作用の有効性を示すものである。
【0031】
レジストによる熱放散作用は、上述した磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性を評価する際に利用できる他、微細素子として形成した抵抗体の抵抗値を測定するような場合にも同様に利用することができる。
表3は、幅寸法が微小幅(幅0.6μm)に形成されたヒューズの抵抗測定を行った例である。この場合、ヒューズが微細素子に相当する。表3ではヒューズをレジストによって被覆した場合と、レジストによって被覆せず、ヒューズをそのまま空気中に露出して測定した結果を示す。
【0032】
【表3】

【0033】
表3の測定結果は、印加電圧が0.1V〜0.8Vの範囲では、レジストによって被覆したヒューズもレジストによって被覆していないヒューズもともに抵抗測定ができたのに対して、ヒューズの印加電圧を0.9Vとすると、レジストによって被覆していないヒューズは溶けてしまって測定不能になったことを示す。
表4は、幅寸法が異なるヒューズについて、レジストを被覆した場合とレジストを被覆しない場合とで、ヒューズが溶ける印加電圧について測定した結果を示す。
【0034】
【表4】

【0035】
表4に示す測定結果は、ヒューズをレジスト(厚さ10μm)によって被覆した場合には、ヒューズに5V印加してもヒューズが溶けず、レジストによる熱放散性の有効性を示している。
表3および表4の測定結果は、過大電流を印加すると簡単に溶けてしまうヒューズであってもレジストを被覆することによって、ヒューズが溶けることを防止することができ、たとえば抵抗体の抵抗測定に有効に利用できることを示している。
このように、本発明に係る微細素子の評価方法は、被測定体に電流を印加して測定する場合に、被測定体を損傷させることなく特性を評価する方法として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】磁気抵抗効果素子の磁気抵抗特性の評価方法を示す説明図である。
【図2】CIP型の磁気抵抗効果素子を備える素子部をレジストにより被覆する方法を示す断面図である。
【図3】CPP型の磁気抵抗効果素子を備える素子部をレジストにより被覆する方法を示す断面図である。
【符号の説明】
【0037】
10 素子部
12 接続端子
14 レジスト
16 プローブ
18 検知器
20 基板
21 下部シールド層
23 MR素子
25 上部シールド層
27a、27b 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有する微細素子に電流を印加して微細素子の特性を評価する方法において、
前記微細素子をレジストにより被覆する工程と、
前記レジストが被覆された微細素子に電流を印加し微細素子の特性を評価する工程とを備えることを特徴とする微細素子の評価方法。
【請求項2】
前記微細素子が磁気抵抗効果素子であり、
磁気抵抗効果素子が形成されている領域をレジストにより被覆する工程と、
前記レジストが被覆された磁気抵抗効果素子に電流を印加し磁気抵抗効果素子の特性を評価する工程とを備えることを特徴とする請求項1記載の微細素子の評価方法。
【請求項3】
前記磁気抵抗効果素子を備える磁気ヘッドの製造工程において、
ウエハに前記磁気抵抗効果素子を備える素子部を形成した後、前記素子部が形成されている領域をレジストにより被覆する工程と、
前記レジストが被覆された素子部に電流を印加し前記磁気抵抗効果素子の特性を評価する工程とを備えることを特徴とする請求項2記載の微細素子の評価方法。
【請求項4】
前記磁気抵抗効果素子の特性を評価した後、前記レジストを除去する工程を備えることを特徴とする請求項3記載の微細素子の評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−188043(P2009−188043A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24120(P2008−24120)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】