説明

恒温槽付水晶発振器及びその製造方法

【課題】 金属リードを基板に半田付けした場合に、当該半田にクラックが生じても、信頼性を低下させることがない恒温槽付水晶発振器及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 金属リード3を貫通させるスルーホールが形成された基板1の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田2を形成し、表面に半田層(予備半田)4が形成された金属リード3を基板1のスルーホールに挿入した状態で、基板1の表面及び裏面における開口部と当該開口部から延びる金属リード3とを半田付けして本半田5を形成する恒温槽付水晶発振器及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、恒温槽付水晶発振器(OCXO:Oven Controlled Crystal Oscillator)に係り、特に、金属リードを基板に半田付けした場合に、当該半田にクラックが生じにくく、信頼性を確保できる恒温槽付水晶発振器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
[従来の技術]
恒温槽付水晶発振器は、周波数安定度を高めるために、広い温度範囲にわたって温度の影響力の大きい部品を恒温槽中で温度制御することにより、周波数の安定化を図っている。
恒温槽付水晶発振器における温度制御は、恒温槽を制御する制御回路が、サーミスタを用いた抵抗ブリッジによる差動直流増幅器で温度制御するのが一般的である。恒温槽の電源オン/オフを繰り返した場合、使用部品・材料にヒートサイクルが負荷され、信頼性に問題がある。
【0003】
[関連技術]
尚、関連する先行技術として、特開2010−080945号公報「挿入実装部品の半田付け方法、挿入実装部品の半田付け構造及び電子回路基板」(住友電工システムソリューション株式会社)[特許文献1]、特開2005−303612号公報「水晶振動子」(日本電波工業株式会社)[特許文献2]、特開2010−093536号公報「恒温型の水晶発振器」(日本電波工業株式会社)[特許文献3]がある。
【0004】
特許文献1には、電子回路基板において、部品面のスルーホールランドにクリーム半田を塗布し、加熱して凝固させ、予備半田を形成し、予備半田が形成された基板のスルーホールにリードを挿入してスルーホールに半田を供給して予備半田と一体化させることが示されている。
【0005】
特許文献2には、鉛フリー半田使用の水晶振動子において、金属たまりを防止するために、アース用としたリード線の鉛フリー半田層は金属ベースの底面から間隔を有して形成され、その間隔は一対のリード線の鉛フリー半田層の金属ベースの底面から間隔よりも大きくし、アース用としたリード線の導出する金属ベースの底面には凹所を設けたことが示されている。
【0006】
特許文献3には、恒温型の水晶発振器において、発振器用ベース(金属ベース)のガラスによって気密化されたリード線(第1のリード線)により回路基板を保持し、水晶振動子が金属ベースの一対のリード線(第2のリード線)に接続したサポータによって水晶片の励振電極から引出電極の延出した両端部を保持することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−080945号公報
【特許文献2】特開2005−303612号公報
【特許文献3】特開2010−093536号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の水晶発振器では、回路基板にガラスエポキシ樹脂を使用した場合、回路基板とベースを接続するリード端子や他の回路基板を接続するピン、または、リード端子付水晶振動子を半田付けする際に、ガラスエポキシ樹脂材の基板と金属製端子の線膨張率に差があるため、ヒートサイクルが生じる使用環境においては実装半田に歪みが集中し、半田にクラックが発生するという問題点があった。
【0009】
ここで、ガラスエポキシ樹脂材の線膨張率について、一般的なCEM(Composite Epoxy Material)−3は、縦方向25ppm/℃、横方向28ppm/℃、厚さ方向65ppm/℃であり、一般的なFR(Flame Retardant)−4は、縦方向13ppm/℃、横方向16ppm/℃、厚さ方向60ppm/℃である。
【0010】
特に、恒温槽付水晶発振器(OCXO)では、電源のオン/オフを繰り返される使用環境、つまり、ヒートサイクルが生じる使用環境では、周囲温度から恒温槽制御温度(例えば、85℃)までの温度変化が起こるため、金属リードをガラスエポキシ樹脂材の基板に半田付けされた場合、当該半田にクラックが生じ、信頼性を向上させることができないという問題点があった。
【0011】
また、特許文献1,2では、金属リードを安定して基板に取り付けることができ、半田にクラックが発生したとしても、信頼性が低下するのを防止できることについて考慮されていない。
【0012】
本発明は上記実情に鑑みて為されたもので、金属リードを基板に半田付けした場合に、当該半田にクラックが生じても、信頼性を確保することができる恒温槽付水晶発振器及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、恒温槽付水晶発振器において、金属リードを貫通させるスルーホールが形成された基板の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田が形成されており、表面に半田層が形成された金属リードが基板のスルーホールに挿入された状態で、基板の表面及び裏面における開口部と当該開口部から延びる金属リードとが半田付けされていることを特徴とする。
【0014】
本発明は、上記恒温槽付水晶発振器において、予備半田は、基板の表面と裏面の開口部の周辺に形成されるものの、スルーホール内には形成されていないことを特徴とする。
【0015】
本発明は、上記恒温槽付水晶発振器において、金属リードの直径が、0.2mm以上2.0mm以下であり、スルーホールに対する金属リードの直径の比が、0.5以上0.9以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明は、上記恒温槽付水晶発振器において、金属リードが、水晶振動子から延出されたリード端子であり、基板が、当該リード端子をスルーホールに挿入する回路基板であり、金属リードの直径が、0.2mm以上1.4mm以下であり、スルーホールに対する金属リードの直径の比が、0.4以上0.7以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明は、上記恒温槽付水晶発振器において、金属リードが、発振器の回路基板から延出されたリード端子であり、基板が、当該リード端子をスルーホールに挿入するベースであり、金属リードの直径が、0.2mm以上1.4mm以下であり、スルーホールに対する金属リードの直径の比が、0.6以上0.9以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明は、恒温槽付水晶発振器の製造方法において、金属リードを貫通させるスルーホールを基板に形成し、基板の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田を形成し、表面に半田層が形成された金属リードを基板のスルーホールに挿入し、基板の表面及び裏面における開口部と当該開口部から延びる金属リードとを半田付けすることを特徴とする。
【0019】
本発明は、上記恒温槽付水晶発振器の製造方法において、予備半田が、基板の表面と裏面の開口部の周辺に形成されるものの、スルーホール内には形成されていないよう調整することを特徴とする。
【0020】
本発明は、上記恒温槽付水晶発振器の製造方法において、金属リードの直径が、0.2mm以上2.0mm以下とし、スルーホールに対する金属リードの直径の比が、0.5以上0.9以下としたことを特徴とする。
【0021】
本発明は、上記恒温槽付水晶発振器の製造方法において、金属リードが、水晶振動子から延出されたリード端子であり、基板が、当該リード端子をスルーホールに挿入する回路基板であり、金属リードの直径を、0.2mm以上1.4mm以下とし、スルーホールに対する金属リードの直径の比を、0.4以上0.7以下としたことを特徴とする。
【0022】
本発明は、上記恒温槽付水晶発振器の製造方法において、金属リードが、発振器の回路基板から延出されたリード端子であり、基板が、当該リード端子をスルーホールに挿入するベースであり、金属リードの直径を、0.2mm以上1.4mm以下とし、スルーホールに対する金属リードの直径の比を、0.6以上0.9以下としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、金属リードを貫通させるスルーホールが形成された基板の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田が形成されており、表面に半田層が形成された金属リードが基板のスルーホールに挿入された状態で、基板の表面及び裏面における開口部と当該開口部から延びる金属リードとが半田付けされている恒温槽付水晶発振器としているので、金属リードを基板に半田付けした場合に、当該半田にクラックが生じても、信頼性を確保することができるという効果がある。
【0024】
本発明によれば、金属リードを貫通させるスルーホールを基板に形成し、基板の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田を形成し、表面に半田層が形成された金属リードを基板のスルーホールに挿入し、基板の表面及び裏面における開口部と当該開口部から延びる金属リードとを半田付けする恒温槽付水晶発振器の製造方法としているので、金属リードを基板に半田付けした場合に、当該半田にクラックが生じても、信頼性を確保することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る恒温槽付水晶発振器の基板上に予備半田が形成された状態の断面説明図である。
【図2】金属リードが基板に挿入された状態の断面説明図である。
【図3】本半田が実施された状態の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る恒温槽付水晶発振器は、金属リードを貫通させるスルーホールが形成された基板の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田を形成し、表面に半田層が形成された金属リードを基板のスルーホールに挿入した状態で、基板の表面及び裏面における開口部と当該開口部から延びる金属リードとを半田付けするものであり、金属リードを基板に半田付けした場合に、当該半田にクラックが生じても、信頼性を確保することができる。
【0027】
本発明の実施の形態に係る恒温槽付水晶発振器(本発振器)について図1〜3を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る恒温槽付水晶発振器の基板上に予備半田が形成された状態の断面説明図であり、図2は、金属リードが基板に挿入された状態の断面説明図であり、図3は、本半田が実施された状態の断面説明図である。
【0028】
[予備半田実施:図1]
図1に示すように、ガラスエポキシ樹脂等の基板1に金属リード3を貫通させるスルーホールが形成されており、基板1の表面及び裏面におけるスルーホールの周辺(周囲)に予備半田2を実施する。
【0029】
ここで、金属リード(リード線)について、ベースリードと水晶リードについて説明する。
ベースリードは、回路基板とベースを接続するリード端子であり、例えば、発振器の回路基板に形成された(延出された)リード端子がベースの貫通孔に挿入して接合される。
また、水晶リードは、水晶部品と回路基板とを接続するリード端子であり、例えば、水晶片を収容した水晶振動子から延出されたリード端子が回路基板の貫通孔に挿入して接合される。
【0030】
ベースリードでは、スルーホールの直径は、例えば、1.0mm、ベースリードの直径は、例えば、0.8mmである。
また、水晶リードでは、スルーホールの直径は、例えば、0.8mm、水晶リードの直径は、例えば、0.43mmである。
尚、予備半田2は、ベースリード及び水晶リードの双方で厚み約1μm程度である。
【0031】
図1が断面説明図であるため、予備半田2の形状は図示されていないが、基板1の表面と裏面で、円形の開口部に対してドーナツに似た形状に形成されるものである。
更に、スルーホールは、金属リード3の形状に合わせて径が調整されているため、予備半田2がスルーホールの内壁に入り込まないように調整して予備半田を実施する。
予備半田2は、スズを主成分とする半田であり、これに銀、銅、ビスマス、インジウム等を混合したものが使用されてもよい。
【0032】
[金属リード挿入:図2]
次に、基板1のスルーホールに金属リード3が挿入された状態を説明する。
金属リード3は、コバールにニッケルがメッキされたもので、更に本実施の形態では、表面に予備半田4が施されたものである。
【0033】
予備半田4が施された金属リードの直径は、0.2〜2.0mmである。
スルーホールの直径に対する金属リードの直径の比は、0.5〜0.9となり、スルーホールと金属リードの間に隙間ができる。
具体的には、水晶リード及びベースリードを含む金属リードの直径は、0.2〜1.4mm程度であり、リードとスルーホール径の比の最適値は、水晶リードで0.4〜0.7であり、ベースリードで0.6〜0.9程度である。
そして、図2に示すように、基板1のスルーホールに金属リード3が挿入され、位置決めされる。
【0034】
[本半田実施:図3]
更に、基板1のスルーホールの開口部から延びる金属リード3の根本の部分と予備半田2部分とを半田付けする。この半田付けは手半田で行ってもよい。また、この半田を予備半田2に対して「本半田」と称する。
本半田によって形成された半田部分(本半田5)は、基板1の表面だけでなく、裏面も同様に形成される。
更に、スルーホールと金属リードの隙間をなくすよう(埋めるよう)に形成される。これにより、本半田にクラックが生じても導通不良となることは少なく、長期の信頼性を向上できる効果がある。
【0035】
本半田5は、スズを主成分とする半田であり、これに銀、銅、ビスマス、インジウム等を混合してもよく、この材料を用い、図3に示すように、基板1の水平方向には予備半田2を覆うように半田付けを実施する。
【0036】
そして、本半田5は、基板1のスルーホールの開口部周辺に形成された予備半田2と金属リード3の表面に施された予備半田4と融合して一体となる。
更に、本半田5が、基板1の表面と裏面の両面において、スルーホールの開口部に形成するようにしているので、片側だけに半田する場合に比べて強固に付着できる。
【0037】
従って、ヒートサイクルによるストレスで、本半田5にクラックが発生しても、予備半田2,4と一体化していて、基板1の両面に形成されていることから、導通不良となることは少なく、長期の信頼性を向上させることができる。
【0038】
[実施の形態の効果]
本発振器によれば、金属リード3を貫通させるスルーホールが形成された基板1の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田2を形成し、表面に半田層(予備半田)4が形成された金属リード3を基板1のスルーホールに挿入した状態で、基板1の表面及び裏面における開口部と当該開口部から延びる金属リード3とを半田付けするものであり、金属リード3を基板1に半田付けした場合に、当該半田(本半田5)にクラックが生じても、導通不良となることは少なく、長期の信頼性を向上できる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、金属リードを基板に半田付けした場合に、当該半田にクラックが生じても、信頼性を確保できる恒温槽付水晶発振器及びその製造方法に好適である。
【符号の説明】
【0040】
1...基板、 2...予備半田、 3...金属リード、 4...予備半田、 5...本半田

【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温槽付水晶発振器において、
金属リードを貫通させるスルーホールが形成された基板の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田が形成されており、
表面に半田層が形成された金属リードが前記基板のスルーホールに挿入された状態で、前記基板の表面及び裏面における開口部と当該開口部から延びる金属リードとが半田付けされていることを特徴とする恒温槽付水晶発振器。
【請求項2】
予備半田は、基板の表面と裏面の開口部の周辺に形成されるものの、スルーホール内には形成されていないことを特徴とする請求項1記載の恒温槽付水晶発振器。
【請求項3】
金属リードの直径が、0.2mm以上2.0mm以下であり、スルーホールに対する金属リードの直径の比が、0.5以上0.9以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の恒温槽付水晶発振器。
【請求項4】
金属リードが、水晶振動子から延出されたリード端子であり、基板が、前記リード端子をスルーホールに挿入する回路基板であり、
前記金属リードの直径が、0.2mm以上1.4mm以下であり、前記スルーホールに対する前記金属リードの直径の比が、0.4以上0.7以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の恒温槽付水晶発振器。
【請求項5】
金属リードが、発振器の回路基板から延出されたリード端子であり、基板が、前記リード端子をスルーホールに挿入するベースであり、
前記金属リードの直径が、0.2mm以上1.4mm以下であり、前記スルーホールに対する前記金属リードの直径の比が、0.6以上0.9以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の恒温槽付水晶発振器。
【請求項6】
恒温槽付水晶発振器の製造方法において、
金属リードを貫通させるスルーホールを基板に形成し、
前記基板の表面と裏面における開口部の周辺に予備半田を形成し、
表面に半田層が形成された金属リードを前記基板のスルーホールに挿入し、
前記基板の表面及び裏面における前記開口部と当該開口部から延びる前記金属リードとを半田付けすることを特徴とする恒温槽付水晶発振器の製造方法。
【請求項7】
予備半田は、基板の表面と裏面の開口部の周辺に形成されるものの、スルーホール内には形成されていないよう調整することを特徴とする請求項6記載の恒温槽付水晶発振器の製造方法。
【請求項8】
金属リードの直径が、0.2mm以上2.0mm以下とし、スルーホールに対する金属リードの直径の比が、0.5以上0.9以下としたことを特徴とする請求項6又は7記載の恒温槽付水晶発振器の製造方法。
【請求項9】
金属リードが、水晶振動子から延出されたリード端子であり、基板が、前記リード端子をスルーホールに挿入する回路基板であり、
前記金属リードの直径を、0.2mm以上1.4mm以下とし、前記スルーホールに対する前記金属リードの直径の比を、0.4以上0.7以下としたことを特徴とする請求項6又は7記載の恒温槽付水晶発振器の製造方法。
【請求項10】
金属リードが、発振器の回路基板から延出されたリード端子であり、基板が、前記リード端子をスルーホールに挿入するベースであり、
前記金属リードの直径を、0.2mm以上1.4mm以下とし、前記スルーホールに対する前記金属リードの直径の比を、0.6以上0.9以下としたことを特徴とする請求項6又は7記載の恒温槽付水晶発振器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−100251(P2012−100251A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201417(P2011−201417)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】