説明

感光性平版印刷版及びこれを用いた現像処理方法

【課題】画像部が強固で耐刷性が高く、アルミニウム支持体を珪酸処理することなく、非画像部の地汚れが生じない溶出性の良好なネガ型感光性平版印刷版を提供する。
【解決手段】実質的に珪酸もしくは珪酸塩による処理が施されていない、陽極酸化されたアルミニウム支持体上に、少なくとも側鎖にエチレン性二重結合を有する重合体、分子内に2以上のエチレン性二重結合を有する化合物、光重合開始剤および可視光から近赤外の波長領域に吸収を有する増感剤を含有する感光層を有するネガ型感光性平版印刷版において、該感光層内に、エチレン性二重結合とウレタン結合を併せ持つ化合物と、エチレン性二重結合と1,3,4−チアジアゾール基を併せ持つ一官能性光重合性モノマーを含むことを特徴とする感光性平版印刷版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム支持体上に光重合性の感光層を有するネガ型感光性印刷版に関する。詳しくは、画像部が強固で耐刷性が高く、アルミニウム支持体を珪酸処理することなく、非画像部の地汚れが生じない溶出性の良好なネガ型感光性平版印刷版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピューター上で作成したデジタルデータをもとにフィルム上に出力せずに直接印刷版上に出力するコンピュータートゥープレート(CTP)技術が開発され、出力機として種々のレーザーを搭載した各種プレートセッターとこれらに適合する感光性平版印刷版の開発が盛んに行われている。なかでも750nm以上の近赤外領域に発光する半導体レーザーやYAGレーザーを利用した出力機においては光源の出力が数100mWから数ワットクラスの高出力レーザーが搭載されているため、極めて高いエネルギーでの画像形成が可能となっている。こうしたCTPに適合する感光性平版印刷版としては、例えば特開平7−20629号、同7−271029号、同9−185160号、同9−197671号、同9−222731号、同9−239945号、同10−142780号公報等に記載されるような、潜在的酸発生剤と近赤外吸収色素の組み合わせにおいて光熱変換により発生する熱を利用した潜在的酸発生剤の分解と、このレーザー照射部において生成する酸を利用した酸触媒熱架橋を用いてネガ型の画像形成方法が開示されている。或いは、従来からの高感度フォトポリマー技術の応用であるフォトンモード記録を近赤外光に応用した系として、例えば特開2000−122274号、同2000−131833号、同2000−181059号、同2000−194124号公報などには光重合開始剤とエチレン性不飽和化合物を含むフォトポリマー系において、光重合開始剤を近赤外光において分光増感する種々の色素を用いることにより高感度なネガ型記録材料が与えられている。
【0003】
上記に述べた、ネガ型印刷材料では、特開2001−290271号(特許文献1)、同2002−278066号等(特許文献2)には側鎖にエチレン性二重結合を有するポリマーを感光層に使用することで、高感度でかつ耐刷性に優れたCTPに適合する印刷版の例が開示されている。また、特開2003−292535(特許文献3)では、分子内にエチレン性二重結合と1,3,4−チアジアゾール基を有する一官能性光重合性モノマーは、放射線に感応して高感度で迅速に重合するため、強アルカリ等に対する耐薬品性の向上と、ポストキュアを必要としない印刷版が得られることが開示されている。
【0004】
一方、近赤外レーザー用のネガ型感光性平版印刷版の支持体として、シリケート処理されたアルミニウム支持体を用いることが、特開2001−272787号(特許文献4)、特開2003−114532号(特許文献5)に記載されている。しかしながら、これらの技術は、シリケート皮膜と感光層との接着性を改良するために、アルミニウム化合物あるいはシリコーン化合物を含有する中間層を新たに設ける必要があった。また、従来のシリケート処理は、ケイ酸ソーダを用いて70℃以上の高温で処理するのが一般的であるが、このようなケイ酸ソーダを用いたシリケート処理では、感光層とアルミニウム支持体との強い接着性は得ることはできなかった。また、特開2006−15619(特許文献6)で開示されているように、感光層内にエチレン性二重結合とウレタン結合を併せ持つ化合物を導入することで接着性、地汚れ防止性について、性能の向上を見たが、やはり、シリケート処理後のベースであるため、その性能は不十分であった。
【0005】
上記に述べた様々な系においては、アルミニウム支持体としてシリケート処理を施したアルミニウム支持体を使用した場合には、感光層とアルミニウム支持体との接着性が悪く、現像処理中に露光部である画像部分が欠落したり、あるいは現像後に印刷を行った場合に耐刷性が不良になる問題が発生するために、シリケート処理を行わないアルミニウム支持体を利用せざるを得なかった。アルミニウム表面のシリケート処理は、オフセット印刷において非画像部の保水性を良好なものとし、地汚れの発生を防止する上で好ましい処理である。しかしながら、上述したような近赤外光のレーザー光に対応する各種感光性平版印刷版については、シリケート処理を施したアルミニウム支持体が前述の理由で使用することは難しいために、一般的に現像処理時にシリケート処理を施すことが行われており、具体的には現像液中にケイ酸塩を導入し、このことによる高いpHでの現像処理が必要であった。このようなケイ酸塩を含有する高pHの現像液で処理すると、インキ着肉性や耐刷性の問題が発生しやすく、特に紫外線硬化インキを使用する印刷には適さないなどの問題が発生した。しかし、シリケート処理を行わないアルミ支持体を用い、なおかつ、現像液でのシリケート処理も行わなかった場合には、地汚れが発生しやすく、性能的欠陥があり、印刷版としての使用は困難であった。
【特許文献1】特開2001−290271号号公報
【特許文献2】特開2002−278066号公報
【特許文献3】特開2003−292535号公報
【特許文献4】特開2001−272787号公報
【特許文献5】特開2003−114532号公報
【特許文献6】特開2006−15619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、アルミニウム支持体と感光層の接着性が強固で耐刷性が高く、かつ非画像部の地汚れが生じないネガ型感光性平版印刷版を提供することにあり、更に使用するアルミニウム支持体をシリケート処理すること、または、現像液に珪酸塩を添加することでの現像段階での印刷版のシリケート処理を行うことなく、地汚れが発生しない高耐刷性感光性平版印刷版を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、以下の発明によって基本的に達成された。
(1)実質的に珪酸もしくは珪酸塩による処理が施されていない、陽極酸化されたアルミニウム支持体上に、少なくとも側鎖にエチレン性二重結合を有する重合体、分子内に2以上のエチレン性二重結合を有する化合物、光重合開始剤および可視光から近赤外の波長領域に吸収を有する増感剤を含有する感光層を有するネガ型感光性平版印刷版において、該感光層内に、エチレン性二重結合とウレタン結合を併せ持つ化合物と、エチレン性二重結合と1,3,4−チアジアゾール基を併せ持つ一官能性光重合性モノマーを含むことを特徴とする感光性平版印刷版。
(2)該感光性平版印刷版を実質的に珪酸もしくは珪酸塩を含有しない現像液により処理することを特徴とする上記1記載の感光性平版印刷版の現像処理方法。
(3)前記、エチレン性二重結合と1,3,4−チアジアゾール基を併せ持つ一官能性光重合性モノマーが一般式化1で示される構造を有する上記(1)に記載の感光性平版印刷版。
【0008】
【化1】

【0009】
一般式化1において、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は置換しても良いアルキル基、不飽和アルキル基、アルキレンオキシ基、アリール基、ヘテロ環基を表す。X1は無くても良い連結基を表し、連結基として硫黄原子、アルキレン基またはCH=N基を表す。
(4)該増感剤が750nm以上の波長域において吸収を有する増感色素を含有することを特徴とする上記(1)または(3)に記載の感光性平版印刷版
【発明の効果】
【0010】
画像部が強固で耐刷性が高く、アルミニウム支持体を珪酸処理することなく、非画像部の地汚れが生じない溶出性の良好なネガ型感光性平版印刷版を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の感光性平版印刷版は支持体としてアルミニウム支持体が用いられる。本発明に用いられるアルミニウム支持体の厚みは、0. 1〜0. 6mm程度である。この厚みは印刷機の大きさ、印刷版の大きさおよびユーザーの希望により適宜変更することができる。本発明に用いる支持体は、実質的に珪酸もしくは珪酸塩による処理が施されていないアルミニウム支持体を用いることを特徴とする。ここでの、実質的に珪酸もしくは珪酸塩による処理が施されていないアルミニウム支持体とは、支持体表面のシリケート量が0.1mg/m2以下であるアルミニウム支持体を指す。
【0012】
アルミニウム支持体は、通常、より好ましい形状に砂目立て処理される。砂目立て処理方法は、特開昭56−28893号公報に開示されているような機械的砂目立て(機械的粗面化処理)、化学的エッチング、電解グレイン等がある。更に、塩酸電解液中または硝酸電解液中で電気化学的に砂目立てする電気化学的砂目立て法(電気化学的粗面化処理、電解粗面化処理)や、アルミニウム表面を金属ワイヤーでひっかくワイヤーブラシグレイン法、研磨球と研磨剤でアルミニウム表面を砂目立てするボールグレイン法、ナイロンブラシと研磨剤で表面を砂目立てするブラシグレイン法等の機械的砂目立て法(機械的粗面化処理)を用いることができる。これらの砂目立て法は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。例えば、ナイロンブラシと研磨剤とによる機械的粗面化処理と、塩酸電解液または硝酸電解液による電解粗面化処理との組み合わせや、複数の電解粗面化処理の組み合わせが挙げられる。
【0013】
ブラシグレイン法の場合、研磨剤として使用される粒子の平均粒径、最大粒径、使用するブラシの毛径、密度、押し込み圧力等の条件を適宜選択することによって、アルミニウム支持体表面の長い波長成分の凹部の平均深さを制御することができる。ブラシグレイン法により得られる凹部は、平均波長が3〜15μmであるのが好ましく、平均深さが0.3〜1μmであるのが好ましい。
【0014】
電気化学的粗面化方法としては、塩酸電解液中または硝酸電解液中で化学的に砂目立てする電気化学的方法が好ましい。好ましい電流密度は、陽極時電気量50〜400C/dm2である。更に具体的には、例えば、0.1〜50質量%の塩酸または硝酸を含む電解液中で、温度20〜100℃、時間1秒〜30分、電流密度100〜400C/dm2 の条件で直流または交流を用いて行われる。電解粗面化処理によれば、表面に微細な凹凸を付与することが容易であるため、感光層とアルミニウム支持体との密着性を向上させるうえでも好適である。
【0015】
機械的粗面化処理の後の電気化学的粗面化処理により、平均直径約0.3〜1.5μm、平均深さ0.05〜0.4μmのクレーター状またはハニカム状のピットをアルミニウム支持体の表面に80〜100%の面積率で生成させることができる。なお、機械的粗面化方法を行わずに、電気化学的粗面化方法のみを行う場合には、ピットの平均深さを0.3μm未満とするのが好ましい。設けられたピットは、印刷版の非画像部の汚れにくさおよび耐刷性を向上する作用を有する。電解粗面化処理では、十分なピットを表面に設けるために必要なだけの電気量、即ち、電流と電流を流した時間との積が、重要な条件となる。より少ない電気量で十分なピットを形成できることは、省エネの観点からも望ましい。粗面化処理後の表面粗さは、JIS B0601−1994に準拠してカットオフ値0.8mm、評価長さ3.0mmで測定した算術平均粗さ(Ra)が、0.2〜0.5μmであるのが好ましい。
【0016】
本発明においては、陽極酸化皮膜の量は1〜10g/m2であるのが好ましく、1.5〜7g/m2であるのがより好ましく、2〜5g/m2であるのが特に好ましい。
【0017】
一般に、このように砂目立て処理されたアルミニウム支持体を、シリケート処理することは、保水性高めるための好ましい処理であるが、感光層と支持体の接着性は低下する。本発明では、陽極酸化処理後、上記のシリケート処理を行っていないアルミニウム支持体を、下記本発明の感光層とを組み合わせることによって、強い接着性と、高い保水性を両立することができる。
【0018】
本発明の感光層は、ウレタン結合とエチレン性二重結合を有する化合物(以降、ウレタン化合物と称す)を含有する。該ウレタン化合物を後述のチアジアゾール化合物と併せて感光層中に含有することによって、感光層の非画像部の溶出性が向上し、これによりアルミニウム支持体のシリケート処理を施していない支持体と画像部の強固な接着が得られ、非画像部の地汚れが更に改良される。また、地汚れの発生が改良されることにより、現像液でのシリケート処理が不要になり、紫外線硬化インキを使用する印刷にも好適に用いることができる。本発明におけるウレタン化合物は、分子内に下記で示されるウレタン結合を少なくとも1個有する。また、エチレン性二重結合としては、アクリロイル基やメタクリロイル基が挙げられ、これらのエチレン性二重結合を2個以上有するのが好ましい。更に、ウレタン結合が2個以上でかつエチレン性二重結合が3個以上の化合物が好ましい。
【0019】
【化2】

【0020】
上記したウレタン化合物の具体例を以下に示す。
【0021】
【化3】

【0022】
【化4】

【0023】
【化5】

【0024】
本発明において、上記ウレタン化合物の含有量は、前述した側鎖にエチレン性二重結合を有する重合体に対して5〜60質量%の範囲で含有するのが好ましく、特に10〜50質量%の範囲が好ましい。
【0025】
本発明の感光層は、更にエチレン性二重結合と1,3,4−チアジアゾール基を有する一官能性光重合性モノマー(以降、チアジアゾール化合物と称す)を有する化合物を含有する。該チアジアゾール化合物を含有することによって、感光層の非画像部の溶出性が向上し、非画像部の地汚れが更に改良される。上記チアジアゾール化合物としては、下記一般式で示すモノマーが挙げられる。
【0026】
【化6】

【0027】
上記一般式において、R3は水素原子またはメチル基を表し、R4は置換しても良いアルキル基、不飽和アルキル基、アルキレンオキシ基、アリール基、ヘテロ環基を表す。X2は無くても良い連結基を表し、連結基として硫黄原子、アルキレン基またはCH=N基を表す。
【0028】
上記で示されるモノマーの好ましい例を以下に示す。
【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
上記チアジアゾール化合物は更にエチレン性二重結合としてビニル基が置換したフェニル基を利用する一官能性スチレン誘導体であることを特徴とし、こうした構造を有しないスチレン系モノマーと比較して遙かに高い光重合活性を示すことが特徴の一つである。同時に感光層のアルカリ現像液に対する溶解性の向上をさせる特徴がある。さらには、チアジアゾール環の有する大きな双極子モーメントや分極率、誘電率、屈折率などの特徴を具備したモノマーであり、またスチレン誘導体であることからアルカリなどの耐薬品性に優れたポリマーを与えることも特徴として挙げることが出来る。加えて、一官能性であることから、分子が非対称であり、結晶性が対象性分子に比べ低下しているため、各種バインダー中に添加した場合に於いて相溶性が高く、多量に添加して使用した場合に於いても被膜中での析晶化が起こりにくく均質な被膜を形成することも重要な特徴の一つである。
【0032】
本発明において、上記チアジアゾール化合物の含有量は、前述した側鎖にエチレン性二重結合を有する重合体に対して5〜60質量%の範囲で含有するのが好ましく、特に10〜50質量%の範囲が好ましい。
【0033】
本発明の感光層は、重合体として側鎖にエチレン性二重結合を有する重合体を少なくとも含有する。かかるエチレン性二重結合としては、ビニル基、アリル基、ビニルフェニル基が挙げられる。
【0034】
ビニル基及びアリル基を有するモノマーとしては、ビニル(メタ)アクリレート、ビニル(メタ)アクリルアミド、アリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリルアミド等が挙げられ、これらのモノマーと後述するカルボキシ含有モノマーとの共重合体が用いられる。
【0035】
側鎖にビニルが置換したフェニル基を有する重合体は、下記一般式で表される基を側鎖に有する重合体である。本発明においては、側鎖にビニルフェニル基を有する重合体が特に好ましく用いられる。
【0036】
【化9】

【0037】
式中、Z1は連結基を表し、R5、R6、及びR7は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R8は置換可能な基または原子を表す。nは0または1を表し、m1は0〜4の整数を表し、k1は1〜4の整数を表す。
【0038】
上記一般式で表される基について、更に詳細に説明する。Z1の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R9)−、−C(O)−O−、−C(R10)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基、及び下記に表される基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR9及びR10は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0039】
【化10】

【0040】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、更にこれらの複素環には置換基が結合していても良い。上記一般式で表される基の例を以下に示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
【化14】

【0045】
上記一般式で表される基の中には好ましいものが存在する。即ち、R5及びR6が水素原子でR3が水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)であるものが好ましい。更に、連結基Z1としては複素環を含むものが好ましく、k1は1または2であるものが好ましい。
【0046】
上記の例で示されるような基を有する重合体としては、アルカリ性水溶液に可溶性を有することが好ましく、そのためにカルボキシル基含有モノマーを共重合成分として含む重合体であることが特に好ましい。この場合、共重合体組成に於ける前記一般式で示される基の割合として、トータル組成100質量%中に於いて前記一般式で示される基は1質量%以上95質量%以下であることが好ましく、5〜95質量%の範囲がより好ましく、更に10〜90質量%の範囲が好ましい。また、共重合体中に於けるカルボキシル基含有モノマーの割合は同じく5質量%以上99質量%以下であることが好ましく、10〜90質量%の範囲がより好ましい。これ以下の割合では共重合体がアルカリ水溶液に溶解しない場合がある。
【0047】
上記のカルボキシル基含有モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸−2−カルボキシエチルエステル、メタクリル酸−2−カルボキシエチルエステル、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、フマル酸モノアルキルエステル、4−カルボキシスチレン等のような例が挙げられる。
【0048】
本発明に用いられる重合体は、上記した側鎖にエチレン性二重結合を有するモノマー及びカルボキシル基を有するモノマー以外にも共重合体中に他のモノマー成分を導入して多元共重合体として合成、使用することも好ましく行うことが出来る。こうした場合に共重合体中に組み込むことが出来るモノマーとして、スチレン、4−メチルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−カルボキシスチレン、4−アミノスチレン、クロロメチルスチレン、4−メトキシスチレン等のスチレン誘導体、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸アルキルエステル類、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アリールエステル或いはアルキルアリールエステル類、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシジエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコールモノエステル、メタクリル酸ポリプロピレングリコールモノエステル等のアルキレンオキシ基を有するメタクリル酸エステル類、メタクリル酸−2−ジメチルアミノエチル、メタクリル酸−2−ジエチルアミノエチル等のアミノ基含有メタクリル酸エステル類、或いはアクリル酸エステルとしてこれら対応するメタクリル酸エステルと同様の例、或いは、リン酸基を有するモノマーとしてビニルホスホン酸等、或いは、アリルアミン、ジアリルアミン等のアミノ基含有モノマー類、或いは、ビニルスルホン酸およびその塩、アリルスルホン酸およびその塩、メタリルスルホン酸およびその塩、スチレンスルホン酸およびその塩、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸およびその塩等のスルホン酸基を有するモノマー類、4−ビニルピリジン、2−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルカルバゾール等の含窒素複素環を有するモノマー類、或いは4級アンモニウム塩基を有するモノマーとして4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミドのメチルクロライドによる4級化物、N−ビニルイミダゾールのメチルクロライドによる4級化物、4−ビニルベンジルピリジニウムクロライド等、或いはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、またアクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシエチルアクリルアミド、4−ヒドロキシフェニルアクリルアミド等のアクリルアミドもしくはメタクリルアミド誘導体、さらにはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フェニルマレイミド、ヒドロキシフェニルマレイミド、酢酸ビニル、クロロ酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類、またメチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、その他、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アリルアルコール、ビニルトリメトキシシラン、グリシジルメタクリレート等各種モノマーを適宜共重合モノマーとして使用することが出来る。これらのモノマーの共重合体中に占める割合としては、先に述べた共重合体組成中に於ける前記一般式で示す基およびカルボキシル基含有モノマーの好ましい割合が保たれている限りに於いて任意の割合で導入することが出来る。
【0049】
本発明に用いられる重合体の分子量としては、重量平均分子量で1000から100万の範囲であることが好ましく、さらに1万から30万の範囲にあることが特に好ましい。
【0050】
本発明に係わる側鎖にビニルが置換したフェニル基を有する重合体の例を下記に示す。式中、数字は共重合体トータル組成100質量%中に於ける各繰り返し単位の質量%を表す。
【0051】
【化15】

【0052】
【化16】

【0053】
【化17】

【0054】
【化18】

【0055】
【化19】

【0056】
本発明の感光層は、エチレン性二重結合を2以上有する化合物を含有する。かかる化合物の分子量は1万以下で、好ましくは5000以下である。該化合物としては、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニルフェニル基等のエチレン性二重結合を2個以上有する化合物が挙げられる。
【0057】
エチレン性二重結合としてアクリロイル基もしくはメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルイソシアヌレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールグリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールエポキシトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ピロガロールトリアクリレート等が挙げられる。
【0058】
エチレン性二重結合としてビニルフェニル基を有する化合物は、代表的には下記一般式で表される。
【0059】
【化20】

【0060】
式中、Z2は連結基を表し、R11、R12及びR13は、水素原子、ハロゲン原子、カルボキシ基、スルホ基、ニトロ基、シアノ基、アミド基、アミノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基等であり、更にこれらの基は、アルキル基、アミノ基、アリール基、アルケニル基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等で置換されていても良い。R14は置換可能な基または原子を表す。m2は0〜4の整数を表し、k2は2以上の整数を表す。
【0061】
上記一般式について更に詳細に説明する。Z2の連結基としては、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、−N(R15)−、−C(O)−O−、−C(R16)=N−、−C(O)−、スルホニル基、複素環基等の単独もしくは2以上が複合した基が挙げられる。ここでR15及びR16は、水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。更に、上記した連結基には、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子等の置換基を有していてもよい。
【0062】
上記複素環基としては、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、イソオキサゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、イソチアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、インドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズセレナゾール環、ベンゾチアジアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、キノリン環、キノキサリン環等の含窒素複素環、フラン環、チオフェン環等が挙げられ、これらには置換基が結合していても良い。
【0063】
上記一般式で表される化合物の中でも好ましい化合物が存在する。即ち、R11及びR12は水素原子でR13は水素原子もしくは炭素数4以下の低級アルキル基(メチル基、エチル基等)で、k2は2〜10の化合物が好ましい。以下に具体例を示すが、これらの例に限定されるものではない。
【0064】
【化21】

【0065】
【化22】

【0066】
【化23】

【0067】
上記したような化合物の含有量は、側鎖にエチレン性二重結合を有する重合体に対して、1〜100質量%の範囲が好ましく、更に5〜50質量%の範囲が好ましい。
【0068】
本発明の感光層は光重合開始剤を含有する。光重合開始剤としては公知の化合物用いることができる。例えば、有機ホウ素塩、トリハロアルキル置換された化合物(例えばトリハロアルキル置換された含窒素複素環化合物としてs−トリアジン化合物およびオキサジアゾール誘導体、トリハロアルキルスルホニル化合物)、ヘキサアリールビスイミダゾール、チタノセン化合物、ケトオキシム化合物、チオ化合物、有機過酸化物等が挙げられる。これらの光重合開始剤の中でも、特に有機ホウ素塩、トリハロアルキル置換化合物が好ましく用いられる。更に好ましくは、有機ホウ素塩とトリハロアルキル置換化合物を組み合わせて用いることである。
【0069】
有機ホウ素塩を構成する有機ホウ素アニオンは、下記一般式で表される。
【0070】
【化24】

【0071】
式中、R17、R18、R19およびR20は各々同じであっても異なっていてもよく、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、複素環基を表す。これらの内で、R17、R18、R19およびR20の内の一つがアルキル基であり、他の置換基がアリール基である場合が特に好ましい。
【0072】
有機ホウ素塩を構成するカチオンとしては、アルカリ金属イオンおよびオニウム化合物が挙げられるが、好ましくは、オニウム塩であり、例えばテトラアルキルアンモニウム塩等のアンモニウム塩、トリアリールスルホニウム塩等のスルホニウム塩、トリアリールアルキルホスホニウム塩等のホスホニウム塩が挙げられる。特に好ましい有機ホウ素塩の例を下記に示す。
【0073】
【化25】

【0074】
【化26】

【0075】
他の好ましい光重合開始剤として、トリハロアルキル置換化合物が挙げられる。上記トリハロアルキル置換化合物とは、具体的にはトリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロアルキル基を分子内に少なくとも一個以上有する化合物であり、好ましい例としては、該トリハロアルキル基が含窒素複素環基に結合した化合物としてs−トリアジン誘導体およびオキサジアゾール誘導体が挙げられ、或いは、該トリハロアルキル基がスルホニル基を介して芳香族環或いは含窒素複素環に結合したトリハロアルキルスルホニル化合物が挙げられる。
【0076】
トリハロアルキル置換した含窒素複素環化合物やトリハロアルキルスルホニル化合物の特に好ましい例を以下に示す。
【0077】
【化27】

【0078】
【化28】

【0079】
上述したような光重合開始剤の含有量は、重合体に対して、1〜100質量%の範囲が好ましく、更には1〜40質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0080】
本発明の感光層は、可視光から近赤外光の各種光源に対応できるように、可視光から近赤外光の波長領域に吸収を有し、前述の光重合開始剤を増感する増感剤を併せて含有する。増感剤としては、各種増感色素が好ましく用いられる。このような増感色素として、シアニン、フタロシアニン、メロシアニン、クマリン、ポリフィリン、スピロ化合物、フェロセン、フルオレン、フルギド、イミダゾール、ペリレン、フェナジン、フェノチアジン、ポリエン、アゾ化合物、ジフェニルメタン、トリフェニルメタン、ポリメチンアクリジン、クマリン、ケトクマリン、キナクリドン、インジゴ、スチリル、スクアリリウム化合物、ピリリウム化合物が挙げられ、更に、欧州特許第0,568,993号、米国特許第4,508,811号、同5,227,227号に記載の化合物も用いることができる。
【0081】
本発明の感光性平版印刷版は、近赤外レーザーに対応するように、750nm以上の近赤外光に吸収を有する増感色素を含有するのが好ましい。感光層を近赤外〜赤外光(750〜1100nmの波長領域)のレーザー光を用いた走査露光に対応させることによって、明室下(紫外線をカットした蛍光灯の下)での取り扱いが可能となる。感光層をこのような近赤外光に増感するために用いられる増感色素の具体例を以下に示す。
【0082】
【化29】

【0083】
【化30】

【0084】
また、近年、400〜430nmに発振波長を有する青色半導体レーザーを搭載した出力機が普及している。この出力機は、最大露光エネルギー量が数十μJ/cm2程度で、用いられる感光材料も高感度が要求される。青色半導体レーザーに対応するための増感剤としてはピリリウム系化合物またはチオピリリウム系化合物が好ましい。
【0085】
本発明において、増感剤の含有量は、感光性平版印刷版1m2当たり3〜300mg程度が適当である。好ましくは10〜200mg/m2である。
【0086】
本発明の感光層は、上述した成分以外にも種々の目的で他の成分を添加することも好ましく行われる。例えば、保存性を向上させる目的で種々の重合禁止剤を添加することが好ましく行われる。この場合の重合禁止剤としては、ハイドロキノン類、カテコール類、ナフトール類、クレゾール類等の各種フェノール性水酸基を有する化合物やキノン類化合物等が好ましく使用され、特にハイドロキノンが好ましく使用される。この場合の重合禁止剤の添加量としては、該重合体100質量部に対して0.1質量部から10質量部の範囲で使用することが好ましい。
【0087】
感光層を構成する要素として、他に、画像の視認性を高める目的で種々の染料、顔料を添加することや、感光性組成物のブロッキングを防止する目的等で無機物微粒子あるいは有機物微粒子を添加することも好ましく行われる。
【0088】
平版印刷版としての感光層の厚みは、アルミニウム支持体上に0.5ミクロンから10ミクロンの範囲の乾燥厚みで形成することが好ましく、さらに1ミクロンから5ミクロンの範囲であることが耐刷性を大幅に向上させるために極めて好ましい。感光層は、公知の種々の塗布方式を用いて支持体上に塗布、乾燥される。
【0089】
前記のアルミニウム支持体上に感光層を塗設されて得られたネガ型感光性平版印刷版は、各種レーザーで査露光が行われ、露光された部分が架橋することでアルカリ性現像液に対する溶解性が低下することから、後述するアルカリ性現像液により未露光部を溶出することで露光画像のパターン形成が行われる。
【0090】
本発明の感光性平版印刷版は、pH12以下の現像液で現像処理しても、高い耐刷力を維持すると同時に、非画像部の地汚れが発生しない。本発明に好ましく用いられる現像液のpHは10〜12であり、より好ましくはpH11〜11.8である。現像液のpHは25℃におけるpHである。現像液のpHを10〜12の範囲に調整するためのアルカリ性化合物として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウムのような水酸化テトラアルキルアンモニウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンのようなアルカノールアミンが挙げられるが、これらの内、特にアルカノールアミン類が好ましい。アルカノールアミンの含有量は、現像液1リットル当たり5〜100gの範囲が好ましく、特に10〜60gの範囲が好ましい。また、該現像液としては、画像部への耐刷性および、インキ着肉性への悪影響を低減させるため、アルカリ金属ケイ酸塩は実質的に含有しないのが好ましい。ここで実質的にとは、例えば、紫外線硬化インキを使用する印刷時にも、耐刷性インキ着肉性等に影響を及ぼさない程度の量、すなわち、5g/L程度までの珪酸塩は含んでも良い。
【0091】
現像液には更にアニオン性の界面活性剤を含有するのが好ましく、これによって一段と溶出性が改良される。かかるアニオン性界面活性剤としては、高級脂肪酸硫酸エステル塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられるが、これらの中でもアルキルナフタレンスルホン酸塩が好ましい。アニオン性界面活性剤の含有量は、現像液1リットル当たり1〜50gの範囲が好ましく、特に3〜30gの範囲が好ましい。
【0092】
現像液には、更にリン酸、リン酸塩等の緩衝剤、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレンテトラミン五酢酸等のキレート剤、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ベンジルアルコール等の各種アルコール類を添加することができる。こうしたアルカリ性現像液を用いて現像処理を行った後に、アラビアガム、デキストリン類等を使用して通常のガム引きが好ましく行われる。
【実施例1】
【0093】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限られるものではない。尚、実施例中の%は質量%、部は質量部を意味する。
<アルミニウム支持体1>
砂目立て及び陽極酸化処理が施された厚み0.24mmのアルミニウム支持体に、90℃の熱水で30秒間の封孔処理を施し、アルミニウム支持体を得た。
<感光性平版印刷版1の作製>
上記のアルミニウム支持体上に下記の感光層塗工液を乾燥厚みが2.3ミクロンになるよう塗布を行い、75℃の乾燥器内にて7分間乾燥を行った。
<感光層塗工液1>
重合体(P−1;重量平均分子量約9万) 10質量部
エチレン性二重結合モノマー(C−5) 2質量部
ウレタン化合物(U−11) 4質量部
チアジアゾール化合物(E−1) 2質量部
光重合開始剤1(BC−6) 2質量部
光重合開始剤2(BS−1) 1質量部
増感色素(S−39) 0.4質量部
10%フタロシアニン分散液 0.5質量部
ジオキサン 70質量部
シクロヘキサン 20質量部
【0094】
<感光性平版印刷版2の作製>
上記の感光層塗工液1のウレタン化合物をU−4に変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0095】
<感光性平版印刷版3の作製>
上記の感光層塗工液1のウレタン化合物をU−6に変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0096】
<感光性平版印刷版4の作製>
上記の感光層塗工液1のチアジアゾール化合物をE−4に変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0097】
<感光性平版印刷版5の作製>
上記の感光層塗工液1のチアジアゾール化合物をD−3に変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0098】
<感光性平版印刷版6の作製>
上記の感光層塗工液1の重合体をP−13(重量平均分子量約5万)に変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0099】
<感光性平版印刷版7の作製>
上記の感光層塗工液1の光重合開始剤2のBS−1をT−4に変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0100】
<感光性平版印刷版8の作製>
上記の感光層塗工液1の重合性二重結合モノマー(C−5)をC−1に変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0101】
<感光性平版印刷版9の作製>
上記の感光層塗工液1のチアジアゾール化合物をメチルアクリレートに変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0102】
<感光性平版印刷版10の作製>
上記の感光層塗工液1からチアジアゾール化合物を除く以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0103】
<感光性平版印刷版11の作製>
上記の感光層塗工液1からウレタン化合物を除く以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0104】
<感光性平版印刷版12の作製>
上記の感光層塗工液1の重合体を、メタクリル酸メチル/メタクリル酸/アクリル酸メチル共重合体(質量比80/7/13、重量平均分子量約5万)に変更する以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0105】
<感光性平版印刷版13の作製>
上記の感光層塗工液1から重合性二重結合モノマー(C−5)を除く以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0106】
<感光性平版印刷版14の作製>
上記のアルミニウム支持体1のかわりに下記のアルミニウム支持体2を用い、感光層塗工液を、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
<アルミニウム支持体2>
砂目立て及び陽極酸化処理が施された厚み0.24mmのアルミニウム支持体を、ケイ酸カリウムと水酸化カリウムを含む溶液で45℃で10秒間処理した。この溶液のSiO濃度は1.2質量%、KOH濃度は2.0質量%、SiO2/K2Oのモル比は1.1である。該溶液で処理後直ちに水洗し乾燥してアルミニウム支持体を得た。
【0107】
<感光性平版印刷版15の作製>
上記のアルミニウム支持体1のかわりに上記のアルミニウム支持体2を用い、感光層塗工液1からチアジアゾール化合物を除く以外は、感光性平版印刷版1と同様にして作製した。
【0108】
上記のようにして作製した平版印刷版についてサーマル用出力機(大日本スクリーン製造(株)製イメージセッターPT−R4000(発振波長830nm、出力100mW))を使用して露光を行った後、プロセッサPD−912−M(大日本スクリーン製造(株)製)を用いて、下記の現像液で28℃20秒間の処理を行い、続いて下記処方のガム液を塗布した。
<現像液>
N−エチルエタノールアミン 37g
リン酸(85%溶液) 10g
水酸化テトラメチルアンモニウム(25%溶液) 60g
アルキルナフタレンスルホン酸Na(35%溶液) 30g
ジエチレントリアミン5酢酸 1g
水で 1L
pHは11.3(25℃)
<ガム液>
リン酸1カリ 20g
アラビアガム 30g
デヒドロ酢酸ナトリウム 0.5g
EDTA2Na 1g
水で 1L
【0109】
<感光性平版印刷版16の作製>
上記の処理液からリン酸を除き、かわりに珪酸カリウムを40g添加する以外は感光性平版印刷版1と同様にして作成した。
【0110】
上記のようにして作成した平版印刷版について印刷性能を評価した。その結果を表1に示す。
<耐刷力>
印刷機ハイデルベルグKORD(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)、インキ(大日本インキ化学工業(株)製のニューチャンピオン墨H)及び市販のPS版用給湿液(アストロマークIII 日研化学(株)製)を用いて印刷を行い、インキ乗りの不良、或いは5%の網点画像飛びが生じるときのいずれかにより印刷が不可能になったときの印刷枚数で、以下の基準で評価した。
○:10万枚以上
△:5万〜9万枚
×:5万枚未満
また、感光性平版印刷版1と12に関しては、更に使用インキを紫外線硬化インキ(T&K TOKA(株)製のNo.6Lカートン墨GW)を用い上記と同様に試験を行った。
【0111】
<地汚れ>
印刷機ハイデルベルグKORD(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)、インキ(東洋インキ(株)製のHYECOO紅(M))及び市販のPS版用給湿液(アストロマークIII 日研化学(株)製)を用いて2万枚まで印刷を行い、非画像部の地汚れを以下の基準で評価した。
○:全く汚れは発生していない。
△:1万枚で汚れが発生する。
×:2千枚で汚れが発生する。
【0112】
<現像性>
プロセッサPD−912−M(大日本スクリーン製造(株)製)を用いて、処理を行い以下の基準で評価した。
○:28℃15秒で現像残膜が発生しない。
△:28℃15秒で現像残膜が発生する。28℃20秒で現像残膜が発生する。
×:28℃20秒で現像残膜が発生する。
【0113】
【表1】

【0114】
上記結果から分かる通り、本発明の感光性平版印刷版は、現像性、耐刷性、地汚れに対して良好な特性を持つが、ウレタン化合物、もしくは、チアジアゾール化合物を含有しない比較例は、現像性、耐刷性が低下する。また、珪酸塩を含有する現像液で現像処理を行った比較例(印刷版16)では紫外線硬化インキを用いたときに、高い耐刷力が得られない。また、重合性二重結合モノマーを含有しない比較例(印刷版12)は、架橋が十分ではなく高い耐刷力が得られない。また、シリケート処理を行ったアルミニウム支持体を用いた比較例(印刷版14)では耐刷性を確保することができなかった。更に、本発明の感光性平版印刷版は、酸素遮断のためのオーバー層を設けなくとも、及び製版時に加熱処理を施さなくても、近赤外線レーザー光に対して露光部は十分に硬化し耐刷力が高いものとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に珪酸もしくは珪酸塩による処理が施されていない、陽極酸化されたアルミニウム支持体上に、少なくとも側鎖にエチレン性二重結合を有する重合体、分子内に2以上のエチレン性二重結合を有する化合物、光重合開始剤および可視光から近赤外の波長領域に吸収を有する増感剤を含有する感光層を有するネガ型感光性平版印刷版において、該感光層内に、エチレン性二重結合とウレタン結合を併せ持つ化合物と、エチレン性二重結合と1,3,4−チアジアゾール基を併せ持つ一官能性光重合性モノマーを含むことを特徴とする感光性平版印刷版。
【請求項2】
該感光性平版印刷版を実質的に珪酸もしくは珪酸塩を含有しない現像液により処理することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版の現像処理方法。
【請求項3】
前記、エチレン性二重結合と1,3,4−チアジアゾール基を併せ持つ一官能性光重合性モノマーが下記一般式化1で示される構造を有する請求項1に記載の感光性平版印刷版。
【化1】

一般式化1において、R1は水素原子またはメチル基を表し、R2は置換しても良いアルキル基、不飽和アルキル基、アルキレンオキシ基、アリール基、ヘテロ環基を表す。X1は無くても良い連結基を表し、連結基として硫黄原子、アルキレン基またはCH=N基を表す。
【請求項4】
該増感剤が750nm以上の波長域において吸収を有する増感色素を含有することを特徴とする請求項1または3に記載の感光性平版印刷版。

【公開番号】特開2007−264497(P2007−264497A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−92420(P2006−92420)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】