説明

感光性樹脂印刷版原版

【課題】カバーフィルム剥離時に感熱マスク層に破れやキズ、ピンホールを生じず、赤外レーザーの照射時に感熱マスク層が速やかに融除する、高品位な樹脂凸版印刷版を作製できるコンピューター製版可能な感光性樹脂印刷版原版を提供することにある。
【解決手段】基板上に、水に溶解または分散可能な樹脂および紫外光により硬化可能なモノマーを含有する感光性樹脂層(A)、接着力調整層(B)、および赤外線吸収物質を含有する感熱マスク層(C)、剥離補助層(D)、剥離補助層(D)に接する面の表面粗さRaが0.1〜0.6μmであるカバーフィルム(E)を有する感光性樹脂印刷版原板において、剥離補助層(D)が特定の官能基を有する陰イオン界面活性剤を含有することを特徴とする感光性樹脂印刷版原版による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は感光性樹脂印刷版原版に関し、さらに詳しくはコンピューター製版技術で樹脂凸版印刷版を作製する際に使用する感光性樹脂印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種印刷の分野において、デジタル画像形成技術として知られているコンピューター製版技術(コンピューター・トゥ・プレート(CTP)技術)は、一般的なものとなってきている。感光性樹脂凸版やフレキソなどの凸版印刷版の分野におけるCTP技術としては、従来から使用されている写真マスク(フォトマスクやネガフィルムともいう)を使用せず、コンピューター上で処理された情報を印刷版原版上に直接出力し、デジタルデータより画像マスクを‘その場で’感光性樹脂層上に形成し、その後、活性光線、多くの場合では紫外線を画像マスク側から全面露光することによって、画像マスクの非被覆部のみ選択的に感光性樹脂層を硬化させ、印刷版を得る方式が積極的に提案されている。この方式の利点は、(1)ネガフィルムの製造工程が不要となること、(2)ネガフィルムの現像廃液の処理が不要で環境衛生的に好ましいこと、(3)ネガフィルムを密着させる際の異物混入がなくなること加えて、(4)シャープな構造のレリーフが得られることなどが挙げられる。
【0003】
上述のデジタルデータより画像マスクを‘その場で’感光性樹脂層上に形成し、印刷版を得る方式の具体的な方法としては、現在、2つの技術が存在する。1つはインキジェットプリンターまたは電子写真プリンターを用いて感光性樹脂層上に画像マスク被膜を形成する方法で、もう1つは、感光性樹脂層上に紫外光に対して不透明な感熱マスク層をあらかじめ設けており、感熱マスク層に赤外レーザーを照射し、感熱マスク層を融除し、画像マスクを形成する方法である。
【0004】
ところで、上記感熱マスク層を有する感光性樹脂印刷版原版において、感熱マスク層には、高分子バインダーにカーボンブラックを含有させた組成物(例えば、特許文献1参照)、アルミ蒸着膜などのIR吸収性金属膜(例えば、特許文献2)が使用されている。また、通常、感熱マスク層上には印刷版原版の保存時や取り扱いの際の表面保護のためにカバーフィルムが設けられており、特に感熱マスク層が水に不溶性の場合は、カバーフィルムを適切に剥がすために、感熱マスク層とカバーフィルムの間には剥離補助層を設けることが提案されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
また、上述のカバーフィルムに表面粗さRaが0.1〜0.6μmのものをもちいた場合、感光性樹脂印刷版原版より作製した樹脂凸版はインク着肉性が向上し、印刷物の品質が向上することが報告されている(例えば、特許文献4)。しかしながら、特許文献4に記載の技術は(1)剥離補助層の膜厚が薄い場合は、カバーフィルムがきれいに剥がれず、感熱マスク層に破れ、キズ、ピンホールを多数が発生し、(2)剥離補助層の膜厚が厚い場合は、カバーフィルムがきれいに剥がれるが、赤外レーザーの照射時に感熱マスク層が融除しにくいという問題が生じ、高品位な樹脂凸版印刷版を作製することができないものであった。
【特許文献1】特許第3429634号公報(第3−7頁)
【特許文献2】特開2003−270778号公報(第1−9頁)
【特許文献3】特開2004−163925号公報(第2−12頁)
【特許文献4】特開2007−79203号公報(第2−12頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記問題を鑑みて、カバーフィルム剥離時に感熱マスク層に破れやキズ、ピンホールを生じず、赤外レーザーの照射時に感熱マスク層が速やかに融除する、高品位な樹脂凸版印刷版を作製できるコンピューター製版可能な感光性樹脂印刷版原版を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明によれば、主として以下の構成を有する感光性樹脂印刷版原版が提供される。
【0008】
すなわち、
「基板上に、水に溶解または分散可能な樹脂および紫外光により硬化可能なモノマーを含有する感光性樹脂層(A)、接着力調整層(B)、および赤外線吸収物質を含有する感熱マスク層(C)、剥離補助層(D)、剥離補助層(D)に接する面の表面粗さRaが0.1〜0.6μmであるカバーフィルム(E)を有する感光性樹脂印刷版原板において、剥離補助層(D)が少なくとも分子内にカルボン酸および/またはその塩、燐酸および/またはその塩、スルホン酸および/またはその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する陰イオン界面活性剤を含有することを特徴とする感光性樹脂印刷版原版」である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、原画フィルムを必要としないで凸状のレリーフ像を形成することが可能な感光性樹脂印刷版原版を容易に提供することができる。本発明の感光性樹脂印刷版原版を用いると、カバーフィルム剥離時に感熱マスク層に破れやキズ、ピンホールを生じず、赤外レーザーの照射時に感熱マスク層が速やかに融除する、インク着肉性に優れた樹脂凸版印刷版を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
本発明における感光性樹脂印刷版原版は、基板上に感光性樹脂層(A)、接着力調整層(B)、および赤外線吸収物質を含有する感熱マスク層(C)をこの順に有する。
【0012】
本発明における感光性樹脂層(A)は、水またはアルコールに溶解または分散可能な樹脂および紫外光により硬化可能なモノマーを含有する。また、感光性樹脂層(A)は紫外光、好ましくは300〜400nmの光を照射することにより、光硬化する。感光性樹脂層(A)の素材としては、感光性樹脂組成物が用いられ、好ましくは厚さ0.1〜10mmのシート状に形成したものである。
【0013】
上記した感光性樹脂組成物には、水またはアルコールに溶解または分散可能な樹脂および紫外光により硬化可能なモノマーが含有される。さらに、光重合開始剤が好ましくは含有される。
【0014】
本発明における水またはアルコールに溶解または分散可能な樹脂は、感光性樹脂組成物を固体状態にして形態を保持するための担体樹脂としての機能を有するとともに、感光性樹脂層(A)の水またはアルコールによる現像性を付与するために使用される。このような樹脂として、例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリ酢酸ビニル(部分鹸化ポリビニルアルコール)、セルロース樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンオキサイドの如き親水性基を導入したポリアミド樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体など、およびこれら樹脂の変性体が挙げられる。なかでも、ポリビニルアルコール、部分鹸化ポリビニルアルコール、親水性基を導入したポリアミド樹脂、およびこれら樹脂の変性体が好ましく用いられる。
【0015】
紫外光により硬化可能なモノマーとは、一般的に、ラジカル重合により架橋可能な物質である。ラジカル重合により架橋可能な物質であれば、特に限定されるものではないが、例えば次のようなものを挙げることができる。2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、β−ヒドロキシ−β’−(メタ)アクリロイルオキシエチルフタレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、クロロエチル(メタ)アクリレート、クロロプロピル(メタ)アクリレート等のハロゲン化アルキル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート、フェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレートなどのフェノキシアルキル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどのアルコキシアルキレングリコール(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミドのような(メタ)アクリルアミド類、2、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、などのエチレン性不飽和結合を1個だけ有する化合物、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなポリエチレングリコールのジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートのようなポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテルに不飽和カルボン酸や不飽和アルコールなどのエチレン性不飽和結合と活性水素を持つ化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどの不飽和エポキシ化合物とカルボン酸やアミンのような活性水素を有する化合物を付加反応させて得られる多価(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミドなどの多価(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼンなどの多価ビニル化合物、などの2つ以上のエチレン性不飽和結合を有する化合物などが挙げられる。
【0016】
本発明に好ましく使用される光重合開始剤とは、光によって重合性の炭素−炭素不飽和基を重合させることができるものであれば特に限定されない。なかでも、自己開裂や水素引き抜きによってラジカルを生成する機能を有するものが好ましく用いられる。例えば、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン類、アントラキノン類、ベンジル類、アセトフェノン類、ジアセチル類などある。
【0017】
感光性樹脂組成物には、その他の成分として、相溶性、柔軟性を高める等の目的で、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどの多価アルコール類を含有することが可能であり、熱安定性を上げる為に、従来公知の重合禁止剤を含有することもできる。好ましい重合禁止剤としては、フェノール類、ハイドロキノン類、カテコール類などが挙げられる。また、染料、顔料、界面活性剤、紫外線吸収剤、香料、酸化防止剤などを含有することもできる。
【0018】
感光性樹脂組成物から感光性樹脂層(A)を得る方法としては特に限定されないが、例えば、水またはアルコールに溶解または分散可能な樹脂を溶剤に溶解した後に、紫外光により硬化可能なモノマー、光重合開始剤および必要に応じてその他添加剤を添加して充分攪拌し、感光性樹脂組成物溶液を得て、この溶液から溶剤を除去した後に、好ましくは接着剤を塗布した基板上に溶融押し出しすることにより得ることができる。あるいは一部溶媒が残存している溶液を、接着剤を塗布した基板上に溶融押し出しし、一部残存している溶媒を経時によって自然乾燥させることによっても得ることができる。
【0019】
本発明における基板に使用する素材は特に限定されないが、寸法安定なものが好ましく使用され、例えば、スチール、ステンレス、アルミニウムなどの金属板やポリエステルなどのプラスチックシート、スチレン−ブタジエンゴムなどの合成ゴムシートが挙げられる。
【0020】
本発明における感熱マスク層(C)は、(1)赤外レーザーを効率よく吸収して、その熱によって瞬間的に該層の一部または全部が蒸発または融除し、レーザーの照射部分と未照射部分の光学濃度に差が生じる、すなわち照射部分の光学濃度の低下が起こる働きと、(2)紫外光を実用上遮断する働きを有するものである。
【0021】
感熱マスク層(C)は、赤外線吸収物質を含有する感熱層である。感熱マスク層(C)は、赤外レーザーを吸収し熱に変換する機能を有する赤外線吸収物質の他に、熱によって蒸発、融除する機能を有する熱分解性化合物と紫外光を遮断する機能を有する紫外線吸収物質を含有してもよい。
【0022】
ここで、紫外光を遮断する機能を有するとは、感熱マスク層(C)の光学濃度(optical density)が2.5以上のことを指し、3.0以上であることがより好ましい。光学濃度は一般にDで表され、以下の式で定義される。
D=log10(100/T)=log10(I/I)
(ここで、Tは透過率(単位は%)、Iは透過率測定の際の入射光強度、Iは透過光強度である)。
【0023】
光学濃度の測定には、入射光強度を一定にして透過光強度の測定値から算出する方法と、ある透過光強度に達するまでに必要な入射光強度の測定値から算出する方法が知られているが、本発明における光学濃度は前者の透過光強度から算出した値をいう。
【0024】
光学濃度は、オルソクロマチックフィルターを用いて、マクベス透過濃度計「TR−927」(コルモルゲンインスツルメンツ(Kollmorgen Instruments Corp.)社製)を用いることで測定することができる。
【0025】
赤外線吸収物質としては、赤外光を吸収して熱に変換し得る物質であれば、特に限定されるものではない。例えば、カーボンブラック、アニリンブラック、シアニンブラック等の黒色顔料、フタロシアニン、ナフタロシアニン系の緑色顔料、ローダミン色素、ナフトキノン系色素、ポリメチン系染料、ジイモニウム塩、アゾイモニウム系色素、カルコゲン系色素、カーボングラファイト、鉄粉、ジアミン系金属錯体、ジチオール系金属錯体、フェノールチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、アリールアルミニウム金属塩類、結晶水含有無機化合物、硫酸銅、硫化クロム、珪酸塩化合物や、酸化チタン、酸化バナジウム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化タングステン等の金属酸化物、これらの金属の水酸化物、硫酸塩、さらにビスマス、スズ、テルル、鉄、アルミの金属粉などが挙げられる。
【0026】
これらのなかでも、光熱変換率および、経済性、取扱い性、および後述する紫外線吸収機能の面から、カーボンブラックが特に好ましい。カーボンブラックは、その製造方法からファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等に分類されるが、ファーネスブラックは粒径その他の面で様々なタイプのものが市販されており、商業的にも安価であるため、好ましく使用される。
【0027】
感熱マスク層(C)に好ましく使用される熱分解性化合物としては、例えば、熱分解しやすい高分子化合物やニトロ化合物、有機過酸化物、アゾ化合物、ジアゾ化合物あるいはヒドラジン誘導体、および赤外線吸収物質の項で列挙した金属あるいは金属酸化物が挙げられるが、溶液の塗工性の面などから高分子化合物が好ましい。例えば、アクリル樹脂は比較的熱分解しやすく、一般的なアクリル樹脂の熱分解温度は190℃〜250℃である。アクリル樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルからなる群から選ばれる1つ以上のモノマーの重合体あるいは共重合体のことをいう。アクリル樹脂の中でも、水やアルコールに溶解しないグレードを選択することによって、下層の感光性樹脂層(A)への物質移動を抑制する事ができるので、水/アルコール不溶型のアクリル樹脂がさらに好ましく用いられる。
【0028】
感熱マスク層(C)に好ましく使用される紫外線吸収物質としては特に限定されないが、好ましくは、300nm〜400nmの領域に吸収を有する化合物である。例えば、ベンゾトリアゾール系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、カーボンブラック、および赤外線吸収物質で列挙した金属あるいは金属酸化物などを挙げることができる。なかでもカーボンブラックは、紫外光領域だけでなく赤外光領域にも吸収特性があり、光熱変換物質としても機能するので、特に好ましく用いられる。
【0029】
本発明に使用する感熱マスク層(C)は親水性であっても疎水性であってもよいが、疎水性であることが好ましい。なお、本発明で言う親水性とは該層単体で水現像が可能な性質を有し、疎水性とは、該層単体では水現像が不可能な性質を具備する、いわゆる水不溶性であることをいう。感熱マスク層(C)が親水性の組成であると、水に溶解または分散可能な感光性樹脂層(A)に物質移動が起こり、各層固有の機能を低下させる。例えば(1)感熱マスク層(C)に感光性樹脂層(A)のモノマーなどが移動すると、感熱マスク層(C)のレーザー融除性が損なわれることになるし、(2)感光性樹脂層(A)中に紫外線吸収物質が混入すると紫外光による硬化が阻害されることになるが、感熱マスク層(C)が疎水性である場合は上述の現象は発生しにくい。水不溶性を付与する方法は特に限定されないが、例えば、感熱マスク層(C)の全組成物を疎水性成分で構成する方法、硬化性の樹脂をバインダーとして用い層を架橋させる方法によって達成できる。後者の方法は、組成物成分の高分子化により層間物質移動をさらに起こりにくくする効果や、感熱マスク層(C)表面の耐傷性を付与する効果も得られるので好ましい。本発明で言う疎水性とは、具体的には、JIS規格L0823に記載の染色堅ろう度試験用摩擦試験機II型により、水に濡らした白綿布に500gの荷重(そのうち摩擦子の自重が200g、追加の重りが300g)をかけて、感熱マスク層(C)の表面を擦る試験方法で、5回往復擦り後も貫通性の傷が付かないことを言い、さらに10回往復擦り後も貫通性の傷が付かないことがさらに好ましい。
【0030】
硬化性の樹脂をバインダーとして用いた場合、樹脂の硬化方法は特に限定されないが、感熱マスク層(C)が紫外光を吸収する機能を有するので光硬化は困難あるいは不効率であるため、熱硬化が好ましい。バインダーとして用いる熱硬化樹脂としては、例えば、多官能イソシアネートおよび多官能エポキシ化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、尿素系樹脂、アミン系化合物、アミド系化合物、水酸基含有化合物、カルボン酸化合物、チオール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との組み合わせが挙げられる。
【0031】
多官能イソシアネート系化合物を用いた場合、反応が短時間で完結しないので、高温でキュアする必要があるが、熱分解性化合物としてニトロセルロースを用いる場合、その分解温度が180℃であるため、それ以上の温度でキュアすることができないという制約がある。従って、架橋方法としては、多官能エポキシ化合物と、尿素系樹脂、アミン系化合物、アミド系化合物、水酸基含有化合物、カルボン酸化合物、チオール系化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物との組み合わせが好ましく使用される。
【0032】
ここで、多官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0033】
また、尿素系樹脂としては、ブチル化尿素樹脂、ブチル化メラミン樹脂、ブチル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチル化尿素メラミン共縮合樹脂、アミノアルキッド樹脂、iso−ブチル化メラミン樹脂、メチル化メミニン樹脂、ヘキサメトキシメチロールメラミン、メチル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチル化ベンゾグアナミン樹脂などが挙げられる。
【0034】
また、アミン系化合物としては、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、メタキシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミンなどが挙げられる。
【0035】
また、アミド系化合物としては、エポキシ樹脂の硬化剤として用いられるポリアミド系硬化剤やジシアンジアミドなどがあり、水酸基含有化合物としてはフェノール樹脂、多価アルコールなどがあり、チオール系化合物としては、多価チオールなどがある。
【0036】
また、カルボン酸としては、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ドデシニルコハク酸、ピロメリット酸、クロレン酸、マレイン酸、フマル酸やこれらの無水物が好ましく使用される。
【0037】
複数成分による硬化性の樹脂を用いる方法とは別に、単独成分で用いても硬化性のある樹脂を用いても良い。単体で用いても硬化性のある樹脂としては、エポキシ樹脂の他、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、架橋性ポリエステル樹脂、架橋性ポリアミド樹脂などが挙げられる。これら樹脂は組み合わせて使用することも可能である。
【0038】
これら熱硬化性樹脂の使用量は感熱マスク層(C)の全組成物に対して10重量%〜75重量%以下が好ましく、30重量%〜60重量%がより好ましい。10重量%以上であれば水不溶性を付与するに十分な架橋構造が得られ、75重量%以下であれば感熱マスク層(C)のレーザー融除が効率よく行われる。
【0039】
赤外線吸収物質としてカーボンブラックのような顔料を用いる場合は、その分散を行いやすくするため、可塑剤、界面活性剤や分散助剤を添加しても良い。
【0040】
また、感熱マスク層(C)は、赤外線吸収性をもつ金属あるいは金属酸化物の蒸着あるいはスパッタリングにより得られる金属薄膜であってもよい。
【0041】
本発明の接着力調整層(B)は、鹸化度60モル%以上の部分鹸化ポリ酢酸ビニルを含有することが好ましい。より好ましくは、鹸化度70モル%以上99モル%以下である。鹸化度60モル%以上であると、層(A)/(C)間の接着力が十分であり、水現像性も良好である。鹸化度60モル%以上の部分鹸化ポリ酢酸ビニルであれば特に重合度などは限定されず、また酸などで変性を施したものを使用することもできる。なお、鹸化度はJIS K 6726(1994)3.5 けん化度に記載のポリビニルアルコール試験方法で測定した。
【0042】
接着力調整層(B)には、鹸化度60モル%以上の部分鹸化ポリ酢酸ビニルの他に、適当な接着力を最適化するための樹脂類やモノマー類、塗工性や安定性を調整するための界面活性剤や可塑剤などの添加剤を含有させることも任意であるが、特に、感熱マスク層(C)が水不溶性である場合はアミン化合物の添加によって、十分な接着力を得ることができる。なお、ここで述べる十分な接着力とは、感光性樹脂層(A)/接着力調整層(B)/感熱マスク層(C)/剥離補助層(D)/カバーフィルム(E)が順次積層された感光性樹脂印刷版原版において、カバーフィルム(E)を剥離補助層(D)から剥離する際のカバーフィルム(E)と剥離補助層(D)間の接着力、または、カバーフィルム(E)と剥離補助層(D)を感熱マスク層(C)から剥がす際の剥離補助層(D)と感熱マスク層(C)の接着力より、感光性樹脂層(A)/接着力調整層(B)と接着力調整層(B)/感熱マスク層(C)の界面の接着力が大きいことである。
【0043】
この接着力は、積層体の感熱マスク層(C)表面に幅1cmのセロテープ(登録商標)(ニチバン(株)社製)を貼りつけて、積層体から感熱マスク層(C)を剥離するのに必要な力もしくは感熱マスク層(C)と接着力調整層(B)を感光性樹脂層(A)から剥離するのに必要な力を、テンシロン万能型引張試験機「UTM−4−100」((株)東洋ボールドウィン社製)を用いることで測定することができる。
【0044】
接着力調整層(B)の形成方法は特に限定されないが、薄膜形成の簡便さから、接着力調整層(B)成分を溶媒に溶解した状態で、感熱マスク層(C)上にコーティングしてから溶媒を除去する方法が好ましく行われる。溶媒の除去方法には例えば熱風乾燥、遠赤外線乾燥、あるいは自然乾燥などが行われる。
【0045】
また、感熱マスク層(C)が不溶性の場合、感熱マスク層(C)表面にコロナ放電処理を施し、表面を親水性とした後に親水性の接着力調整層(B)を感熱マスク層(C)に接する様に積層すると、層(B)/(C)間の接着力を増大させることができる。
【0046】
接着力調整層(B)をコーティングするために使用する溶媒は特に限定されないが、水やアルコール、または水とアルコールの混合物が主に使用される。水やアルコールを使用した場合、感熱マスク層(C)が水不溶性であると、感熱マスク層(C)上にコーティングしても感熱マスク層(C)が侵食を受けることがないため好ましい。
【0047】
接着力調整層(B)の膜厚は15μm以下が好ましく、0.1μm以上5μm以下がより好ましい。15μm以下であれば、紫外光を露光した際の該層による光の屈曲や散乱が抑えられ、シャープなレリーフ画像が得られる。また、0.1μm以上であれば、接着力調整層(B)の形成が容易となる。膜厚の測定方法としては、単位面積当たりの膜重量により測定する方法やマイクロメーターによる膜厚測定が可能である。
【0048】
こうして感熱マスク層(C)上に接着力調整層(B)を積層した後、接着力調整層(B)に接するようにさらに感光性樹脂層(A)を積層することにより、層(A)/(B)/(C)の順に十分な接着力で積層された積層体が得られる。
【0049】
本発明には、剥離補助層(D)に接する面の表面粗さRaが0.1〜0.6μmであるカバーフィルム(E)を用いる。上述のカバーフィルム(E)を用いた感光性樹脂印刷版原版より作製した樹脂凸版はインク着肉性が向上し、印刷物の品質が向上するが、本発明者等の検討の結果、特に感熱マスク層(C)を水不溶性とすると、(1)剥離補助層(D)の膜厚が薄い場合は、カバーフィルム(E)がきれいに剥がれず、感熱マスク層(C)に破れ、キズ、ピンホールを多数が発生し、(2)剥離補助層(D)の膜厚が厚い場合は、カバーフィルム(E)がきれいに剥がれるが、赤外レーザーの照射時に感熱マスク層(C)が融除しにくいという問題が生じ、高品位な樹脂凸版印刷版を作製することができなかった。
【0050】
そこで、本発明者等が鋭意検討した結果、剥離補助層(D)が少なくとも分子内にカルボン酸および/またはその塩、燐酸および/またはその塩、ならびにスルホン酸および/またはその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する陰イオン界面活性剤を含有することで、上述の問題を解消できるとわかった。
【0051】
本発明の剥離補助層(D)に含有される少なくとも分子内にカルボン酸および/またはその塩、燐酸および/またはその塩、ならびにスルホン酸および/またはその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する陰イオン界面活性剤は、例えば、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキレンジスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、β−ナフタレンスルホン酸ソーダホルマリン縮合物、モノアルキルスルホコハク酸エステル塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、メタクリロイルキシエチルスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸及び、その塩などが挙げられるがこの限りではない。
【0052】
また、上記化合物の中でも特に、分子内に少なくとも分子内に燐元素および/または硫黄元素を含有する陰イオン界面活性剤を用いた剥離補助層(D)を形成すると、より高品位な樹脂凸版印刷版を作製できる感光性樹脂印刷版原版を得ることができ好ましい。
【0053】
上記陰イオン界面活性剤は通常、水またはアルコールに溶解または分散可能で、粘着性の少ない樹脂に分散されて使用される。例えば、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、部分鹸化ポリビニルアルコール、ヒドロシキアルキルセルロース、アルキルセルロース、ポリアミド樹脂などであり、陰イオン界面活性剤の含有量は剥離補助層(D)の全組成物に対して0.1〜30重量%以下が好ましく、0.5〜20重量%以下がより好ましい。含有量が30重量%以下であれば、均一な皮膜を形成することができ、0.1重量%以上であれば、塗工時に塗膜のハジキやヌケなどの欠陥を生じにくい。
【0054】
剥離補助層(D)は、さらに、赤外線で融除しやすくするために赤外線吸収物質および/または熱分解性物質を含有してもよい。赤外線吸収物質や熱分解性物質としては、前述したものを使用することができる。また、塗工性や濡れ性向上のために界面活性剤を含有してもよい。
【0055】
本発明の剥離補助層(D)の膜厚は0.05μm〜1μmであることが好ましく、0.2μm以上0.7μm以下がより好ましい。膜厚が1μm以下であると、感熱マスク層(C)がレーザー融除されるのを妨げレーザー照射部に感熱マスク層(C)成分が残存してしまったり、レーザー照射部と非照射部の光学濃度差が鮮明に表れないなどの問題が起きにくくなる。感熱マスク層(C)成分の残存の有無は、レーザー融除部分、特にベタ部に感熱マスク層(C)成分のカスを目視確認することができる。また、膜厚が0.05μm以上であると、カバーフィルム(E)がきれいに剥がれず、感熱マスク層(C)に破れ、キズ、ピンホールを多数が発生するという問題が起きにくくなる。
【0056】
膜厚の測定方法としては、単位面積当たりの膜重量により測定する方法やマイクロメーターによる膜厚測定が可能である。
【0057】
剥離補助層(D)の形成方法は特に限定されないが、薄膜形成の簡便さから、剥離補助層(D)成分を溶媒に溶解した状態で、カバーフィルム(E)上にコーティングしてから溶媒を除去する方法が好ましく行われる。溶媒の除去方法には例えば熱風乾燥、遠赤外線乾燥、あるいは自然乾燥などが行われる。なお、カバーフィルム(E)を剥離した後、剥離補助層(D)は感熱マスク層(C)側に残留し最外層になる場合があるので、取り扱いの面から粘着質でないことや、該層を通して紫外光露光されるため実質透明であることが好ましい。
【0058】
このような薄膜の剥離補助層(D)を形成する場合の膜厚管理方法としては、特に限定されるものではないが、剥離補助層(D)の可視光または紫外光に対する吸光度を測定することで、積層した膜厚を管理する方法が挙げられる。すなわち、剥離補助層(D)の膜厚と可視光または紫外光に対する吸光度の関係を適当な数および範囲で測定し検量線を作成しておくことで、マイクロメーターによる膜厚測定や膜重量測定などが困難な薄膜であってもその膜厚を正確に知り、本発明の剥離補助層(D)の膜厚を管理することができる。
【0059】
上記した吸光度による膜厚管理をより精度の高いものにするために、剥離補助層(D)に可視領域または紫外領域の光に対して吸収能を有する物質を含有することが好ましい。
【0060】
上記の可視領域または紫外領域の光に対して吸収能を有する物質は特に限定されるものではないが、例えば、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾフェノン類などの公知の紫外線吸収剤や、トリス(4−ジメチルアミノフェニル)メタン、1,3−ジメチルー6−ジエチルアミノフルオラン、アゾ系染料などの公知の染料などが挙げられる。
【0061】
本発明で用いるカバーフィルム(E)は、剥離補助層(D)に接する面の表面粗さRaが0.1〜0.6μmであり、0.2〜0.5μmであることが好ましい。カバーフィルム(E)は、感熱マスク層(C)を外傷から保護する目的等に使用する。カバーフィルム(E)には、感熱マスク層(C)からの剥離作業が容易なポリマーフィルムが好ましく使用される。このようなカバーフィルム(E)として、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、フルオロポリマー、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムが挙げられる。これらのポリマーフィルムに表面粗さRaを0.1〜0.6μmにする方法としては、例えば、サンドブラスト、マット化剤を含む樹脂のコーティングなどが挙げられる。また、サンド吹き付け、ケミカルエッチングを行ったマットフォルムに樹脂を薄く塗布してマットの程度を調整したものも使用可能である。
【0062】
カバーフィルム(E)の膜厚は25μm〜200μmが好ましく、50μm〜150μmがより好ましい。25μm以上であれば取り扱いが容易であり、かつ感熱マスク層(C)を外傷から保護する機能が発現し、200μm以下であれば安価で経済的に有利であり、かつ剥離しやすいという利点を有する。カバーフィルムの膜厚はマイクロメーターを用いることにより測定可能である。
【0063】
感光性樹脂印刷版原版からカバーフィルム(E)を早さ200mm/分のスピードで剥離する時、1cm当たりの剥離力が4.5〜200mN/cmであることが好ましく、9〜150mN/cmがさらに好ましい。4.5mN/cm以上であれば、作業中にカバーフィルム(E)が剥離してくることなく作業できるので好ましく、200mN/cm以下であれば無理なくカバーフィルム(E)を剥離することができるので好ましい。
【0064】
次に本発明の感光性樹脂印刷版原版の好ましい製造方法を記載する。
【0065】
まず、基板上に感光性樹脂層(A)、接着力調整層(B)、感熱マスク層(C)、剥離補助層(D)およびカバーフィルム(E)を順次積層した構造を有する原版である。カバーフィルム(E)上に順次コーティング法で、剥離補助層(D)、感熱マスク層(C)および接着力調整層(B)を積層した感熱マスク層(C)を有するシートと、基板上に感光性樹脂層(A)を積層した感光性樹脂シートとをラミネートすることによって得ることができる。ラミネート方法としては特に限定されず、例えば、感光性樹脂層(A)あるいは接着力調整層(B)の表面を水および/またはアルコールで膨潤させ、感熱マスクシートを貼り合わせる方法、感光性樹脂層(A)と同じ、あるいは類似組成の高粘度の液体を、感光性樹脂シートと感熱マスクシートの間に流し込んで両者を貼り合わせる方法、常温下であるいは加熱しながらプレス機でプレスする方法などがある。
【0066】
本発明における樹脂凸版印刷版の製造方法は、(1)上述の感光性樹脂印刷版原版を用い、(2)赤外レーザーで感熱マスク層(C)に像様照射することによって画像マスク(C’)を形成する工程、(3)形成された画像マスク(C’)側から紫外光を用いて露光し、感光性樹脂層(A)に潜像を形成する工程、(4)水を主成分とする液により現像処理し、画像マスク(C’)および紫外光未露光部の感光性樹脂層(A)を除去する工程からなる。
【0067】
剥離補助層(D)および/またはカバーフィルム(E)が存在する場合には、少なくともカバーフィルム(E)を剥離した後、感熱マスク層(C)に赤外レーザーを画像状に像様照射して、画像マスク(C’)を形成することが好ましい。より好ましくは、剥離補助層(D)とカバーフィルム(E)が存在し、カバーフィルム(E)のみを剥離した後、感熱マスク層(C)に赤外レーザーを画像状に像様照射して、画像マスク(C’)を形成することである。
【0068】
(2)赤外レーザーで感熱マスク層(C)に像様照射して画像マスク(C’)を形成する工程とは、赤外レーザーを画像データに基づきON/OFFさせて、感熱マスク層(C)に対して走査照射する工程のことである。感熱マスク層(C)は、赤外レーザーが照射されると赤外線吸収物質の作用で熱が発生し、その熱の作用で熱分解性化合物が分解して感熱マスク層(C)が除去、すなわちレーザー融除される。レーザー融除された部分は、光学濃度が大きく低下し、紫外光に対して実質透明になる。画像データに基づき、感熱マスク層(C)を選択的にレーザー融除する事によって、感光性樹脂層(A)に潜像を形成しうる画像マスク(C’)が得られる。
【0069】
赤外レーザー照射には、発振波長が750nm〜3000nmの範囲にあるものが用いられる。このようなレーザーとしては、例えば、ルビーレーザー、アレキサンドライトレーザー、ペロブスカイトレーザー、Nd−YAGレーザーやエメラルドガラスレーザーなどの固体レーザー、InGaAsP、InGaAsやGaAsAlなどの半導体レーザー、ローダミン色素のような色素レーザーなどが挙げられる。またこれらの光源をファイバーにより増幅させるファーバーレーザーも用いることができる。なかでも、半導体レーザーは近年の技術的進歩により、小型化し、経済的にも他のレーザー光源よりも有利であるので好ましい。また、Nd−YAGレーザーも高出力であり、歯科用や医療用に多く利用されており、経済的にも安価であるので好ましい。
【0070】
(3)画像マスク(C’)側から紫外光を用いて露光し、感光性樹脂層(A)に潜像を形成する工程とは、上記の方法でレーザー照射された感光性樹脂印刷版材に、紫外光を、好ましくは300〜400nmの波長の紫外光を、レーザーにより画像が形成された画像マスク(C’)を通して全面に露光し、画像マスク(C’)におけるレーザー融除部の下部の感光性樹脂層(A)を選択的に光硬化する工程である。
【0071】
露光の際、感光性樹脂印刷版材のサイド面からも紫外光が入り込むので、紫外光が透過しないカバーでサイド面を覆うようにしておくのが良い。300〜400nmの波長を露光できる光源として、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノン灯、カーボンアーク灯、ケミカル灯などが使用できる。紫外光で露光された部分の感光性樹脂層(A)は、現像液により溶出分散できない物質に変化する。
【0072】
(4)水を主成分とする液により現像処理し、画像マスク(C’)および紫外光未露光部の感光性樹脂層(A)を除去する工程は、例えば、感光性樹脂層(A)を溶解分散可能な水を主成分とする現像液を持つブラシ式洗い出し機やスプレー式洗い出し機を用いて現像することで達成される。この工程を経て、紫外光で露光された部分が残存し、レリーフ像を有する樹脂凸版印刷版が得られる。
【0073】
水を主成分とする現像液には、水道水、蒸留水、水のいずれかを主成分とし、炭素数1〜6のアルコールを含有してもよい。ここで、主成分とは、70重量%以上であることを言う。また、これらの液に感光性樹脂層(A)、接着力調整層(B)、感熱マスク層(C)や剥離補助層(D)の成分が混入したものも使用できる。
【0074】
画像マスク(C’)は、コシの強い、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)製のブラシで擦ることで、物理的に除去することができる。
【0075】
その後、必要に応じ、版面に付着している現像液を乾燥する処理、感光性樹脂印刷版材の後露光や粘着性除去処理等を行うこともできる。
【0076】
本発明の製造方法で製造された樹脂凸版印刷版は、印刷機に装着できる樹脂凸版印刷版として好ましく使用される。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明を実施例を用いて、具体的に説明する。但し、本発明はこれに限定されない。
【0078】
<表面粗さRaの測定法>
測定は標準対物レンズ(×50)を装着したレーザー顕微鏡VK−9510(kyence社製)を用いておこなった。本発明の表面粗さRaは形状解析アプリケーションVK−H1A9で線粗さ(1994JIS)を10回計測したRa値の平均値を用いた。また、Ra値計測する際に、必要に応じて傾き補正を実施した。
【0079】
<感熱マスク層の破れ/10cmの測定法>
マスク層の破れは、デジカメ(NIKON社製COOLPIX S8)で感熱マスク層の10cmが画面に納まる範囲で写真を撮り、パソコンでデジタル画像をAdobe社製ソフトウェアphotoshopでグレースケール化したのち、SCION CORPORATION社製ソフトウェアSCION Image 4.03.2で破れ部と正常部を2値化し、破れ部面積を求めた。その後、破れ部の面積を10cmで割って、破れ部の比率を求めた。なお、2値化時の作業としてはThresholdメニューおよび、Density Sliceメニューで破れ部と正常部がはっきりと識別できるように、画像を見ながら閾値ボタンをスクロールさせて実施した。
【0080】
<感熱マスク層ピンホール個数/10cmの測定法>
光学顕微鏡(NIKON社製OPTIPHOTO300)を用い、10倍の対物レンズで観察した。面積10cm2の範囲で、50μm以上のピンホール個数を調べることを2回繰り返し、その平均値を50μm以上のピンホール個数/10cmとした。
【0081】
<ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)の測定法>
光学顕微鏡(NIKON社製OPTIPHOTO300)を用い、10倍の対物レンズで観察した。ベタ部の面積1cm2の範囲で、20μm以上の黒色の焼きとびカス個数を調べることを2回繰り返し、その平均値を20μm以上のピンホール個数/cmとした。
【0082】
<水溶性ポリアミド樹脂1の合成>
ε−カプロラクタム 10重量部、N−(2−アミノエチル)ピペラジンとアジピン酸のナイロン塩 90重量部および水100重量部をステンレス製オートクレーブに入れ、内部の空気を窒素ガスで置換した後に180℃で1時間加熱し、次いで水分を除去して水溶性ポリアミド樹脂1を得た。
【0083】
<変性ポリビニルアルコール1の合成>
冷却管をつけたフラスコ中に、部分鹸化ポリビニルアルコール“ゴーセノール”KL−05(鹸化度 78.5%〜82.0%、日本合成化学工業(株)製)50重量部、無水コハク酸2重量部およびアセトン 10重量部を入れ、60℃で6時間加熱した後、冷却管を外してアセトンを揮発させた。その後、100重量部のアセトンで未反応の無水コハク酸を溶出させる精製工程を2回行った後、60℃で減圧乾燥を5時間行い、水酸基にコハク酸がエステル結合した、変性ポリビニルアルコール1を得た。
【0084】
<感光性樹脂層(A1)用の塗工液組成物1の調製>
撹拌ヘラおよび冷却管をつけた3つ口フラスコ中に、水溶性ポリアミド樹脂1を7.5重量部、変性ポリビニルアルコール1を47.5重量部、ジエチレングリコール11重量部、水 38重量部およびエタノール 44重量部を入れ、撹拌しながら110℃で30分間、次いで70℃で90分間加熱しポリマーを溶解させた。ついで、“ブレンマー”G(グリシジルメタクリレート、日本油脂(株)製)3重量部を添加し、70℃で30分間撹拌した。さらに“ブレンマー”GMR(グリシジルメタクリレートのメタクリル酸付加物、日本油脂(株)製)12重量部、“ライトエステル”G201P(グリシジルメタクリレートのアクリル酸付加物、共栄社化学(株)製)5重量部、“エポキシエステル”70PA(プロピレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物、共栄社化学(株)製)6重量部、“NKエステル”A−200(平均分子量200のポリエチレングリコールのジアクリレート、新中村化学工業(株)製)5重量部、“イルガキュア”651(ベンジルジメチルケタール、チバ・ガイギー(株)製)0.1重量部、“イルガキュア”184(α−ヒドロキシケトン、チバ・ガイギー(株)製)1.5重量部、“Suminol Fast Cyanine Green G conc.”(酸性染料、カラーインデックス C. I. Acid Green 25、住友化学工業(株)製)0.01重量部、“ダイレクトスカイブルー6B”(浜本染料(株)製)0.01重量部、“フォーマスタ”(消泡剤、サンノプコ(株)製)0.05重量部、“チヌビン”327(紫外線吸収剤、チバ・ガイギー(株)製)0.015重量部、“TTP−44”(ビス−{2−(2−エトキシエトキシカルボニル)エチルチオ}オクチルチオ ホスフィン、淀化学(株)製)0.2重量部および“Q−1300”(アンモニウム N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、和光純薬工業(株)製)0.005重量部を添加して30分間撹拌し、流動性のある感光性樹脂層(A1)の塗工液組成物1を得た。
【0085】
<接着剤塗布基板1の作製>
“バイロン31SS”(不飽和ポリエステル樹脂のトルエン溶液、東洋紡績(株)製)260重量部および“PS−8A”(ベンゾインエチルエーテル、和光純薬工業(株)製)2重量部の混合物を70℃で2時間加熱後30℃に冷却し、エチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート7重量部を加えて2時間混合した。さらに、“コロネート”3015E(多価イソシアネート樹脂の酢酸エチル溶液、日本ポリウレタン工業(株)製)25重量部および“EC−1368”(工業用接着剤、住友スリーエム(株)製)14重量部を添加し、接着剤組成物1を得た。
【0086】
“ゴーセノール”KH−17(鹸化度78.5%〜81.5%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)50重量部を“ソルミックス”H−11(アルコール混合物、日本アルコール(株)製)200重量部および水200重量部の混合溶媒で70℃で2時間溶解させた後、“ブレンマー”G(グリシジルメタクリレート、日本油脂(株)製)1.5重量部を添加して1時間混合し、さらに(ジメチルアミノエチルメタクリレート)/(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)重量比2/1の共重合体(共栄社化学(株)製)3重量部、“イルガキュア”651(ベンジルジメチルケタール、チバ・ガイギー(株)製)5重量部、“エポキシエステル”70PA(プロピレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物、共栄社化学(株)製)21重量部およびエチレングリコールジグリシジルエーテルジメタクリレート20重量部を添加して90分間混合し、50℃に冷却後“フロラード”TM FC−430(住友スリーエム(株)製)0.1重量部添加して30分間混合して接着剤組成物2を得た。
【0087】
厚さ250μmの“ルミラー”T60(ポリエステルフィルム、東レ(株)製)上に、接着層組成物1を乾燥後膜厚が40μmとなるようバーコーターで塗布し、180℃のオーブンに3分間入れて溶媒を除去後、その上に接着層組成物2を乾燥膜厚が30μmとなるようバーコーター塗布し、160℃のオーブンで3分間乾燥させ、接着剤塗布基板1を得た。
【0088】
<感光性樹脂シート1の製造>
接着剤塗布基板1を接着剤塗工側から超高圧水銀灯で1000mJ/cm露光した後、感光性樹脂層(A1)用の塗工液組成物1を接着剤塗布基板1の接着剤塗布面に流延し、60℃のオーブン中で5時間乾燥させて、基板を含めておよそ厚さ900μmの感光性樹脂シート1を得た。感光性樹脂シート1の厚さは、基板上に所定厚のスペサーを設置し、スぺーサーからはみ出ている部分の塗工液組成物1を、水平な金尺で掻き出すことによって制御した。
【0089】
<剥離補助層(D1)用の塗工液組成物2の調製>
剥離補助層(D1)用の塗工液2を表1に示すとおり調整した。“ゴーセノール”KH−17(鹸化度78.5%〜81.5%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)20重量部を水 40重量部、エタノール 30重量部、n−プロパノール 8重量部に溶解させ、ポリマー溶液を得た。その溶液に“ペレックスSS-H”(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、花王株式会社)2重量部を添加し、均一な液になるまで攪拌することによって、剥離補助層(D1)用の塗工液組成物2を得た。
【0090】
<剥離補助層(D2)用の塗工液組成物3の調製>
“ペレックスSS-H”(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、花王株式会社)の代わりに、プライサーフA212C(ポリオキシアルキレンアルキルエーテル・リン酸エステル、第一工業製薬株式会社)を使用した以外は塗工液組成物2と同様にして調整した。
【0091】
<剥離補助層(D3)用の塗工液組成物4の調製>
“ペレックスSS-H”(アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、花王株式会社)を使用せず、“ゴーセノール”KH−17(鹸化度78.5%〜81.5%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)を22重量部使用した以外は塗工液組成物2と同様にして調整した。
【0092】
<感熱マスク層(C1)用の塗工液組成物5の調製>
“MA100”(カーボンブラック、三菱化学(株)製)23重量部、“ダイヤナール”BR−95(アルコール不溶性のアクリル樹脂、三菱レイヨン(株)製)15重量部、可塑剤ATBC(アセチルクエン酸トリブチル、(株)ジェイ・プラス製)6重量部およびメチルイソブチルケトン 30重量部をあらかじめ混合させたものを、3本ロールミルを用いて混練分散させ、カーボンブラック分散液1を調整した。分散液1に“アラルダイト”6071(エポキシ樹脂、旭チバ(株)製)20重量部、“ユーバン”2061(メラミン樹脂、三井化学(株)製)27重量部、“ライトエステル”P−1M(リン酸モノマー、共栄社化学(株)製)0.7重量部およびメチルイソブチルケトン140重量部を添加し30分間撹拌した。その後、固形分濃度が33重量%になるようにさらにメチルイソブチルケトンを添加し、感熱マスク層(C1)用の塗工液組成物5を得た。
【0093】
<接着力調整層(B1)用の塗工液組成物6の調製>
“ゴーセノール”AL−06(鹸化度91%〜94%のポリビニルアルコール、日本合成化学工業(株)製)11重量部を水55重量部、メタノール 14重量部、n−プロパノール 10重量部およびn−ブタノール 10重量部に溶解させ、接着力調整層(B1)用の塗工液組成物6を得た。
【0094】
【表1】

【0095】
<感熱マスク要素1の製造>
厚さ100μmのケミカルマット化ポリエステルフィルム(Ra0.4μm)上に、塗工液組成物2をバーコーターを用いて乾燥膜厚が0.3μmとなるように塗布、100℃で25秒間乾燥し、剥離補助層(D1)/カバーフィルム(E)の積層体を得た。このようにして得られた積層体の剥離補助層(D1)側に、塗工液組成物5をバーコーターを用いて乾燥膜厚が2μmになるように塗布、140℃で30秒間乾燥し、感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/カバーフィルム(E)の積層体を得た。このようにして得られた積層体の感熱マスク層(C1)側に、塗工液組成物6をバーコーターを用いて乾燥膜厚が0.5μmになるように塗布、140℃で乾燥し、接着調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/カバーフィルム(E)の積層体である表2に示す感熱マスク要素1を得た。
【0096】
<感熱マスク要素2の製造>
塗工液組成物2の乾燥膜厚が0.7μmとなるように塗布した以外は感熱マスク要素1と同様にして製造した。接着調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/カバーフィルム(E)の積層体である表2に示す感熱マスク要素2を得た。
【0097】
<感熱マスク要素3の製造>
塗工液組成物2の乾燥膜厚が0.9μmとなるように塗布した以外は感熱マスク要素1と同様にして製造した。接着調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/カバーフィルム(E)の積層体である表2に示す感熱マスク要素3を得た。
【0098】
<感熱マスク要素4の製造>
厚さ100μmのケミカルマット化ポリエステルフィルム(Ra0.4μm)を使用した代わりに、厚さ100μmのケミカルマット化ポリエステルフィルム(Ra0.1μm)を使用した以外は感熱マスク要素1と同様にして製造した。接着調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/カバーフィルム(E)の積層体である表3に示す感熱マスク要素4を得た。
【0099】
<感熱マスク要素5の製造>
厚さ100μmのケミカルマット化ポリエステルフィルム(Ra0.4μm)を使用した代わりに、厚さ100μmのケミカルマット化ポリエステルフィルム(Ra0.6μm)を使用した以外は感熱マスク要素1と同様にして製造した。接着調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/カバーフィルム(E)の積層体である表3に示す感熱マスク要素5を得た。
【0100】
<感熱マスク要素6の製造>
塗工液組成物2を乾燥膜厚が0.3μmとなるように塗布した代わりに、塗工液組成物3を乾燥膜厚が0.5μmとなるように塗布した以外は感熱マスク要素1と同様にして製造した。接着調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D2)/カバーフィルム(E)の積層体である表3に示す感熱マスク要素6を得た。
【0101】
<感熱マスク要素7の製造>
塗工液組成物2を乾燥膜厚が0.3μmとなるように塗布した代わりに、塗工液組成物4を乾燥膜厚が0.7μmとなるように塗布した以外は感熱マスク要素1と同様にして製造した。接着調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D3)/カバーフィルム(E)の積層体である表4に示す感熱マスク要素7を得た。
【0102】
<感熱マスク要素8の製造>
塗工液組成物2を乾燥膜厚が0.3μmとなるように塗布した代わりに、塗工液組成物4を乾燥膜厚が1.0μmとなるように塗布した以外は感熱マスク要素1と同様にして製造した。接着調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D3)/カバーフィルム(E)の積層体である表4に示す感熱マスク要素8を得た。
【0103】
(実施例1)
感光性樹脂シート1の感光性樹脂層(A1)上に、感熱マスク要素1を接着力調整層(B1)が感光性樹脂層(A1)に接するようにかぶせて、80℃に加熱したカレンダーロールでラミネートを行い、接着剤塗布基板1/感光性樹脂層(A1)/接着力調整層(B1)/感熱マスク層(C1)/剥離補助層(D1)/カバーフィルム(E)の順に積層された感光性樹脂印刷版原版1を得た。カレンダーロールのクリアランスは、原版1からカバーフィルム層(E)を剥離した後における積層体の厚みが950μmになるように調整した。展開された塗工液組成物1は、ラミネート後1週間静置させることによって、残存溶媒が自然乾燥し、追加の感光性樹脂層(A1)を形成する。
【0104】
感光性樹脂印刷版原版1からカバーフィルム(E)を剥離した後、ライトテーブル上で感熱マスク層(C1)を調べたが、感熱マスク層の破れや50μm以上の感熱マスク層ピンホール個数/10cmは0であった。その後、赤外線に発光領域を有するファイバーレーザーを備えた外面ドラム型プレートセッター“CDI SPARK”(エスコ・グラフィックス(株)製)に、基板側がドラムに接するように装着し、解像度156線のテストパターン(ベタ部、1%〜99%網点、1〜8ポイントの細線、1〜8ポイントの白抜き部分を有する)をレーザー出力9W、ドラム回転数500rpmの条件でレーザー描画し、感熱マスク層(C1)から画像マスク(C1’)を形成した。この時、ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)は0であった。
【0105】
続いて、画像マスク(C1’)側から、紫外領域に光源を有する超高圧水銀灯(オーク(株)製)で全面露光した(露光量:1000mJ/cm)。
【0106】
次いで、PBT(ポリブチレンテレフタレート)製のブラシを備えたブラシ式現像機FTW500II(東レ(株)製)を用いて、35℃の水道水で1.5分間現像を行ったところ、剥離補助層(D1)、画像マスク(C1’)および画像マスクに遮断され紫外線に露光されていない部分の感光性樹脂層(A1)が選択的に現像され、画像マスク(C1’)に対してネガティブなレリーフを忠実に再現していた。結果を表2に示す。
【0107】
(実施例2)
感熱マスク要素2を用いる以外は実施例1と同様の方法で感光性樹脂印刷版原版2を作製した。
【0108】
感光性樹脂印刷版原版2からカバーフィルム(E)を剥離した後、ライトテーブル上で感熱マスク層(C1)を調べると、感熱マスク層の破れや50μm以上の感熱マスク層ピンホール個数/10cmは0であった。その後、レーザー描画し、感熱マスク層(C1)から画像マスク(C1’)を形成した。この時、ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)は0であった。また、その後、露光、現像により形成したレリーフは画像マスク(C1’)の画像を忠実に再現していた。結果を表2に示す。
【0109】
(実施例3)
感熱マスク要素3を用いる以外は実施例1と同様の方法で感光性樹脂印刷版原版3を作製した。
【0110】
感光性樹脂印刷版原版3からカバーフィルム(E)を剥離した後、ライトテーブル上で感熱マスク層(C1)を調べると、感熱マスク層の破れや50μm以上の感熱マスク層ピンホール個数/10cmは0であった。その後、レーザー描画し、感熱マスク層(C1)から画像マスク(C1’)を形成したところ、ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)は0であった。その後、露光、現像により形成したレリーフは画像マスク(C1’)の画像を忠実に再現していた。結果を表2に示す。
【0111】
【表2】

【0112】
(実施例4)
感熱マスク要素4を用いる以外は実施例1と同様の方法で感光性樹脂印刷版原版4を作製した。
【0113】
感光性樹脂印刷版原版4からカバーフィルム(E)を剥離した後、ライトテーブル上で感熱マスク層(C1)を調べると、50μm以上の感熱マスク層ピンホール個数/10cmは0個であった。その後、レーザー描画し、感熱マスク層(C1)から画像マスク(C1’)を形成した。この時、ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)は0であった。また、その後、露光、現像により形成したレリーフは画像マスク(C1’)の画像を忠実に再現していた。結果を表3に示す。
(実施例5)
感熱マスク要素5を用いる以外は実施例1と同様の方法で感光性樹脂印刷版原版5を作製した。
【0114】
感光性樹脂印刷版原版5からカバーフィルム(E)を剥離した後、ライトテーブル上で感熱マスク層(C1)を調べると、感熱マスク層の破れや50μm以上の感熱マスク層ピンホール個数/10cmは0個であった。その後、レーザー描画し、感熱マスク層(C1)から画像マスク(C1’)を形成した。この時、ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)は0であった。また、その後、露光、現像により形成したレリーフは画像マスク(C1’)の画像を忠実に再現していた。結果を表3に示す。
(実施例6)
感熱マスク要素6を用いる以外は実施例1と同様の方法で感光性樹脂印刷版原版6を作製した。
【0115】
感光性樹脂印刷版原版6からカバーフィルム(E)を剥離した後、ライトテーブル上で感熱マスク層(C1)を調べると、感熱マスク層の破れや50μm以上の感熱マスク層ピンホール個数/10cm0個であった。その後、レーザー描画し、感熱マスク層(C1)から画像マスク(C1’)を形成した。この時、ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)は0であった。また、その後、露光、現像により形成したレリーフは画像マスク(C1’)の画像を忠実に再現していた。結果を3に示す。
【0116】
【表3】

【0117】
(比較例1)
感熱マスク要素7を用いる以外は実施例1と同様の方法で感光性樹脂印刷版原版7を作製した。
【0118】
感光性樹脂印刷版原版7からカバーフィルム(E)を剥離する際に、感熱マスク層(C1)の10cm当たり、半分がカバーフィルム(E)と一緒に剥がれ、感熱マスク層の破れは50%であった。また、ライトテーブル上で残りの感熱マスク層(C1)を調べると、50μm以上の感熱マスク層ピンホール個数/10cmは40個であった。その後、レーザー描画し、感熱マスク層(C1)から画像マスク(C1’)を形成した。この時、ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)は0であった。レリーフを形成したところ、感熱マスク層(C1)が破れて剥がれた部分が、全面ベタ画像となり、さらに、キズ・ピンホールの部分も欠陥を生じ、ほとんど望みのレリーフを得ることができなかった。結果を表4に示す。
【0119】
(比較例2)
感熱マスク要素8を用いる以外は実施例1と同様の方法で感光性樹脂印刷版原版8を作製した。
【0120】
感光性樹脂印刷版原版8からカバーフィルム(E)を剥離した後、ライトテーブル上で感熱マスク層(C1)を調べると、感熱マスク層の破れはなく、50μm以上の感熱マスク層ピンホール個数/10cmは0であった。その後、レーザー描画し、感熱マスク層(C1)から画像マスク(C1’)を形成したところ、熱マスク層が描画された部分に、100μm前後のマスク層の焼きとびカスを多数発生しており、ベタ部の焼きとびカス/cm(20μm以上)は不十分であった。その後、露光、現像により形成したレリーフは画像マスク(C1’)の画像を再現していたが、表面に50〜100μm程度の大きさの深さ10μm程度の凹みがあった。結果を表4に示す。
【0121】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、水に溶解または分散可能な樹脂および紫外光により硬化可能なモノマーを含有する感光性樹脂層(A)、接着力調整層(B)、および赤外線吸収物質を含有する感熱マスク層(C)、剥離補助層(D)、剥離補助層(D)に接する面の表面粗さRaが0.1〜0.6μmであるカバーフィルム(E)を有する感光性樹脂印刷版原板において、剥離補助層(D)が少なくとも分子内に、カルボン酸および/またはその塩、燐酸および/またはその塩、ならびにスルホン酸および/またはその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する陰イオン界面活性剤を含有することを特徴とする感光性樹脂印刷版原版。
【請求項2】
上記陰イオン界面活性剤が、少なくとも分子内に燐元素および/または硫黄元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の感光性樹脂印刷版原板。
【請求項3】
感熱マスク層(C)が、疎水性であること特徴とする請求項1または2に記載の感光性樹脂印刷版原版。

【公開番号】特開2009−139599(P2009−139599A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315294(P2007−315294)
【出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】