説明

感光性樹脂組成物及び物品

【課題】高分子前駆体、特にポリイミド前駆体の種類を問わず大きな溶解性コントラストを得られ、結果的に十分なプロセスマージンを保ちつつ、形状が良好なパターンを安価に得ることができる感光性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩と高分子前駆体を含有する感光性樹脂組成物である。


(式中、R〜R13は、それぞれ独立に水素または1価の有機基である。R14は、水素または1価の有機基である。Aは、陰イオンとなりえる化合物又は元素である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解像性に優れ、低コストで、高分子前駆体の構造上適用可能な選択肢の範囲が広い感光性樹脂組成物に関し、特に、電磁波によるパターニング工程を経て形成される製品又は部材の材料(例えば、電子部品、光学製品、光学部品の成形材料、層形成材料又は接着剤など)として好適に利用することが出来る高分子前駆体樹脂組成物、及び、当該樹脂組成物を用いて作製した物品に関するものである。
さらには、解像性に優れ、低コストで、ポリイミド前駆体又はポリベンゾオキサゾール前駆体の構造上適用可能な選択肢の範囲が広い感光性樹脂組成物に関し、特に、電磁波によるパターニング工程を経て形成される製品又は部材の材料(例えば、電子部品、光学製品、光学部品の成形材料、層形成材料又は接着剤など)として好適に利用することが出来るポリイミド又はポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂組成物、及び当該樹脂組成物を用いて作製した物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は、加工が容易、軽量などの特性から身の回りのさまざまな製品に用いられている。1955年に米国デュポン社で開発されたポリイミドは、耐熱性に優れることから航空宇宙分野などへの適用が検討されるなど、開発が進められてきた。以後、多くの研究者によって詳細な検討がなされ、耐熱性、寸法安定性、絶縁特性といった性能が有機物の中でもトップクラスの性能を示すことが明らかとなり、航空宇宙分野にとどまらず、電子部品の絶縁材料等への適用が進められた。現在では、半導体素子の中のチップコーティング膜や、フレキシブルプリント配線板の基材などとしてさかんに利用されてきている。
また、近年、ポリイミドの有する課題を解決する為に、類似の加工工程が適用され、低吸水性で低誘電率を示すポリベンゾオキサゾールや、基板との密着性に優れるポリベンゾイミダゾール等も精力的に研究されている。
【0003】
ポリイミドは、ジアミンと酸二無水物から合成される高分子である。ジアミンと酸二無水物を溶液中で反応させることで、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)となり、その後、脱水閉環反応を経てポリイミドとなる。一般に、ポリイミドは溶媒への溶解性に乏しく加工が困難なため、前駆体の状態で所望の形状にし、その後、加熱を行うことでポリイミドとする場合が多い。ポリイミド前駆体は熱や水に対し不安定な場合が多く、保存安定性がよくない。この点を考慮し、分子構造に溶解性に優れた骨格を導入し、ポリイミドとした後に溶媒に溶解して成形又は塗布できるように改良が施されたポリイミドも開発されたが、これを用いる場合には前駆体を加工する方式に比べ耐薬品性や、基板との密着性に劣る傾向にある。そのため、目的に応じて前駆体を用いる方式と溶媒溶解性ポリイミドを用いる方式とが使い分けられている。
【0004】
また、技術の進歩に従いポリイミドを所望の形状にパターニングしたいとの要求も出てきた。その為、紫外線等の電磁波を用い、露光・現像等のプロセスを通してパターン形成できるポリイミドも開発された。ポリイミドをパターニングするためには、いくつかの手法が提案されている。
そのひとつがポリイミド前駆体の状態で露光と現像によるパターニングを行い、その後、熱処理等によりイミド化を行いポリイミドのパターンを得る方法であり、もうひとつは、それ自体は感光性を持たないポリイミド自身の上に有機物や金属等でレジストパターンを形成し、その開口部をヒドラジン、無機アルカリ、有機アルカリ等の溶液や有機極性溶媒、またはそれらの混合物で処理することによって、分解または溶出させることによりパターンを得る方法である。
前者は、溶媒溶解性に優れる前駆体を用いることで加工特性に優れ、後者は、高温の熱処理等が必要とされるイミド化のプロセスをパターン形成後に行う必要が無いという利点があり、それぞれの用途に応じて使い分けられている。
【0005】
20世紀後半から目覚しい発展を遂げてきた半導体分野において、現在、主に前駆体を利用するタイプのパターニング可能なポリイミドが用いられている。それは、シリコンウェハ上にポリイミドを形成するため、イミド化に必要な300℃〜400℃という高温の熱処理にも基板が耐えられることが、その理由のひとつとして挙げられる。
前駆体を利用するタイプのポリイミドのパターニングをする手段としても、種々の手法が提案されている。その代表的な手法は、以下の2つに大別される。
(1) ポリイミド前駆体自身にはパターニング能力がなく、感光性樹脂層をその表面に形成し、その感光性樹脂のパターンによってポリイミド前駆体がパターニングされる手法。
(2) ポリイミド前駆体自身に感光性部位を結合や配位させて導入し、その作用によりパターン形成する手法、または、ポリイミド前駆体に感光性成分を混合し樹脂組成物とし、その感光性成分の作用でパターン形成する手法。さらには、感光性部位の導入と感光性成分の混合の両方を組み合わせた手法。
【0006】
上記(1)のグループに属する手法の代表的なものとして、ポリイミド前駆体であるポリアミック酸がアルカリ溶液に可溶であることを利用し、その塗膜上にアルカリ現像可能なレジストを塗布し、所望の形状に電磁波を照射後、レジストの現像と同時に、現像によって現れたレジストの開口部から露出したポリアミック酸も現像液に溶出させパターンを形成した後、ポリアミック酸が不溶なアセトン等の有機溶媒で表面のレジスト層を剥離し、その後にイミド化を行い、ポリイミドパターンを得るものがある。
【0007】
一方、上記(2)のグループに属する手法の代表的なものとして:
(a) ポリイミドの前駆体のポリアミック酸に、電磁波の露光前は溶解抑止剤として作用し、露光後は、カルボン酸を生成し溶解促進剤となる、ナフトキノンジアジド誘導体を混合し、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
(b) ポリイミドの前駆体のポリアミック酸に、電磁波の露光によりイミド化の触媒作用を示す塩基性物質となるジヒドロピリジン誘導体等の化合物を混合し、露光後に、適度な温度で加熱することにより、露光部に発生した塩基性物質の作用で露光部は部分的にイミド化されるため、現像液に対する溶解性が低下し、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、完全にイミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
【0008】
(c) ポリイミド前駆体としてラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する骨格を結合させたものを用い、そこに光ラジカル発生剤を混合することで露光部に架橋構造を形成して現像液に対する溶解性を低下させ、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
(d) ポリイミド前駆体のポリアミック酸と塩基性部位を有するラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する骨格を混合することで、両者をイオン結合させ、そこに光ラジカル発生剤を混合することで露光部に架橋構造を形成して現像液に対する溶解性を低下させ、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくすることでパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法;
及び、
(e) ポリイミドの前駆体のポリアミック酸に、光酸(または光塩基)発生剤と架橋剤を混合し、露光後、加熱することで露光によって発生した酸(または塩基)の作用によって架橋を進行させ、現像液に対する溶解性を低下させることで、露光部と未露光部の現像液に対する溶解速度のコントラストを大きくしパターン形成を行い、その後、イミド化を行い、ポリイミドパターンを得る手法、などの手法が提案されている。
【0009】
上記(1)のグループに属する手法は、プロセスが煩雑になるものの、用いるポリイミド前駆体の組成の自由度が大きく、また、感光性成分等を混合していないため最終的なポリイミドにはポリイミド以外の不純物を含まず、信頼性が高いという特徴がある。
一方、(2)のグループに属する手法では、ポリイミド前駆体(または、ポリイミド前駆体樹脂組成物)自身がパターン形成能を有するため、(1)のグループで用いたようなレジスト層が必要なく、プロセスが大幅に簡便になるという特徴があるが、ポリイミド前駆体自身が露光波長を十分に透過しないと、感光性成分に電磁波が届かず感度の低下や、パターンが形成できない等の問題が発生するため、露光波長に対し透過率の高い骨格を選ぶ必要がある。
【0010】
その中でも(2)のグループに属する(e)の手法は、既存のポリイミド前駆体に、光酸(または塩基)発生剤をある一定比率で混合するだけで感光性ポリイミドを得ることができる為、樹脂組成物を製造するプロセスが簡便で、また、あらゆる構造のポリイミド前駆体に適用できる為、汎用性が高いという利点がある。一方で、電磁波の照射により発生した酸や塩基による触媒作用によって露光部のみがイミド化し、その部分が現像液に不溶になるというメカニズムから、現像液に対する溶解性のもともと大きいポリイミド前駆体は、露光部も溶解速度が早く、露光部、未露光部の溶解性のコントラストを大きくすることに限界があった。
露光部と未露光部の間で溶解性のコントラストが大きければ大きいほど現像後の残膜率が大きく、更に形状も良好なパターンを得ることができる為、従来、現像液の濃度や光酸(又は塩基)発生剤の量を調整したり、溶解促進剤の添加が必要であった。
さらに、従来より用いられている光酸(塩基)発生剤は高価であり、溶解性コントラストを高める為に添加量を多くするとコストがかかってしまうという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、高分子前駆体の種類を問わず大きな溶解性コントラストが得られ、結果的に十分なプロセスマージンを保ちつつ、形状が良好なパターンを得ることができる感光性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、電磁波の吸収により分解し、元の化合物よりも低分子のアミンを脱離させるアンモニウム化合物塩と、高分子前駆体を含有することを特徴とする。
電磁波の吸収により分解し、元の化合物よりも低分子のアミンを脱離させるアンモニウム化合物塩は、電磁波を照射するとアミン塩基を発生させるので、アミン塩基の作用によって最終生成物に変化する高分子前駆体、例えばポリイミド前駆体に対して非常に有効な感光性成分として作用する。
また、高分子前駆体自体は塩基の作用によって最終的に最終生成物に変化するものでなくても、感光性樹脂組成物全体としてみたときに塩基の作用によって目的とする反応が進行する反応系を含む組成物であれば、上記アンモニウム化合物塩は、感光性成分として有効である。
【0013】
上記アンモニウム化合物塩の一つとして、下記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩を用いることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
(式中、R〜R10は、それぞれ独立に水素または1価の有機基であり、それらの2つ以上が同一であっても全てが異なってもいてもよい。また、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良い。R11〜R13は、それぞれ独立に水素又は1価の有機基であり、それらの2つ以上が同一であっても異なってもいてもよい。また、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良い。R14は、水素または1価の有機基である。Aは、陰イオンとなりえる化合物又は元素である。)
【0016】
上記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩は、電磁波を照射するとアミン塩基を発生させる。従って、このベンズヒドリルアンモニウム塩は、ポリイミド前駆体のように塩基が最終生成物に変化する反応に触媒作用を示す高分子前駆体や、塩基の作用によって目的とする反応が進行する系を含む組成物に対して、非常に有効な感光性成分として作用する。
【0017】
ベンゾヒドリルアンモニウム塩が、電磁波を吸収した後の分解反応によって生成するアミンは、塩基性の高いアミンを発生させる観点から、3級アミン又は脂肪族アミンであることが好ましく、特に脂肪族3級アミンであることが好ましい。
上記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩のR11〜R13のアンモニウム窒素と結合している原子が、全て飽和炭素であることが、上述した脂肪族3級アミンを発生させることができるため、特に好ましい。
【0018】
一般的な露光光源である高圧水銀灯の波長は、436nm、405nm、365nmであることから、上記式(1)で表される塩は、436nm、405nm、365nmの波長の電磁波のうち少なくとも1つの波長に吸収を有することが好ましく、また、一般に半導体製造に用いられるKrFレーザーでの波長が248nmであることから、248nmに吸収を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
以上に述べたように、本発明に係る感光性樹脂組成物に含まれる電磁波の吸収により分解し、元の化合物よりも低分子のアミンを脱離させるアンモニウム化合物塩、特に上記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩は、光塩基発生剤として機能することで、多種多様な高分子前駆体を適用することができ、パターン形成プロセスに制限を受けることなく、最終的に得られる高分子の構造を広範囲から選択することができる。
また、本発明に係るベンズヒドリルアンモニウム塩は合成が容易であり、原料も比較的安価に入手できることから、コストパフォーマンスにも優れ、感光性樹脂組成物としての価格も抑えられる。
またさらに、本発明に係る感光性樹脂組成物は、高分子前駆体として種々の用途へ応用展開されているポリイミド前駆体又はポリベンゾオキサゾール前駆体を適用することで、より幅広い用途に適用可能な感光性ポリイミド組成物又は感光性ポリベンゾオキサゾール組成物として利用できる。
本発明によれば、従来、露光部と未露光部の間で溶解性のコントラストを取りにくかったポリイミド前駆体又はポリベンゾオキサゾール前駆体についても、溶解阻害性、溶解抑制剤の適用なしで良好なパターン形状を得ることができる。
【0020】
また、上記本発明に係る感光性高分子前駆体樹脂組成物は、広範な構造の高分子前駆体を選択できる為、それによって得られる高分子は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の機能を付与することが可能であることから、これら高分子が適用されている公知の全ての部材用のフィルムや塗膜として好適である。
特に、本発明に係る感光性樹脂組成物は、主にパターン形成材料(レジスト)用いられ、それによって形成されたパターンは、ポリイミドからなる永久膜として耐熱性や絶縁性を付与する成分として機能し、例えば、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、その他の光学部材又は電子部材を形成するのに適している。
加えて、上記高分子前駆体樹脂組成物の1形態である感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物、及び感光性ポリベンゾオキサゾール前駆体樹脂組成物は、広範な構造のポリイミド又はポリベンゾオキサゾールの前駆体を選択できる為、それによって得られる硬化物は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等のポリイミド及びポリベンゾオキサゾールが特徴的に有する機能を付与することが可能であることから、ポリイミド及びポリベンゾオキサゾールが適用されている公知の全ての部材用のフィルムや塗膜または3次元構造物として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明について詳しく説明する。
なお、本発明において(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル及び/又はメタクリロイルであることを意味し、(メタ)アクリルとは、アクリル及び/又はメタクリルであることを意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及び/又はメタクリレートのいずれであっても良いことを意味する。
また、本発明において、アンモニウム化合物塩の分解を引き起こす電磁波とは、当該分解反応を引き起こすことが可能なものであればよく、可視及び非可視領域の波長の電磁波だけでなく、電子線のような粒子線、及び、電磁波と粒子線を総称する放射線又は電離放射線が含まれる。
【0022】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、電磁波の吸収により分解し、元の化合物よりも低分子のアミンを脱離させるアンモニウム化合物塩と、高分子前駆体を含有することを特徴としている。
【0023】
ベンズヒドリルアンモニウム塩の一つであるヨウ化トリメチルベンズヒドリルアンモニウムは、下記反応式(2)に従って、電磁波の吸収により、分解反応を起こすことが報告されている(Chemistry of Materials. 2002, 14, 918−923)。
【0024】
【化2】

【0025】
本発明者は、ヨウ化トリメチルベンズヒドリルアンモニウムの上記分解反応に注目した。ヨウ化トリメチルベンズヒドリルアンモニウムは中性塩であるが、電磁波を吸収することでアミンの脱離反応が進行し、塩基性を示す。一方、ポリイミド前駆体は、アミンの触媒作用によって、イミド化反応が開始される温度を下げることができる。つまり、ポリイミド前駆体をベンズヒドリルアンモニウム塩と共存させておき、電磁波の照射により塩からアミンへと変換することで、電磁波の照射された部位は、ポリイミド前駆体の最終生成物への反応が促進され、より低温でイミド化を進行させることができる。
ベンズヒドリルアンモニウム塩とポリイミド前駆体を含有する感光性樹脂組成物を用いて、パターンを得るには、パターンを残したい場所に電磁波を照射した後、アミンが存在する場所ではイミド化が進行し、アミンの存在していない場所ではイミド化が進行しない温度で、加熱を行う。その結果、アミンが存在する場所、すなわち、電磁波を照射した場所のみイミド化が進行し溶解性が低下する為、所定の現像液(有機溶媒や、アルカリ水溶液等)で現像することで、パターンを得ることができる。その後、目的に応じて、更に加熱を行って、ポリイミドパターンとすることができる。
【0026】
以上の知見から、本発明者らは、中性に近いアンモニウム化合物塩が、電磁波を吸収後に分解し元のアンモニウム化合物塩よりも低分子のアミンを脱離させ、脱離したアミンを触媒としてイミド化を行うことにより露光部を硬化させて、露光部と未露光部の間に溶解性の差を付与できることを見出した。
従ってこの塩は、イミド化の促進だけではなく、様々な高分子前駆体又は樹脂組成物に対して、有効な感光性成分として作用する。
【0027】
光塩基発生剤を利用した感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物は、従来知られていたが、電磁波の吸収により分子内転移を経てアミンへと分子構造が変化する特殊な構造の化合物が多く、電磁波の吸収により分解し、元の化合物よりも低分子のアミンを脱離させる塩を利用したものはこれまで提案されていなかった。
本発明は、簡便な手法で合成可能でしかも原料に安価な市販の化合物を用いることができる光塩基発生剤を用いることで、より簡便に、そして安価に感光性樹脂組成物を調製することができる。また、適用できる高分子前駆体の選択範囲が広く、その感光性高分子前駆体樹脂組成物とその環化物の特性を生かすことが出来る分野で広く応用される。特にその代表例である感光性ポリイミド前駆体樹脂組成物とそのイミド化物の特性を生かすことが出来る分野で好適に応用される。
電磁波の吸収により分解し、元の化合物よりも低分子のアミンを脱離させる上記アンモニウム化合物塩の一つとして、下記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩を用いることができる。
【0028】
【化3】

【0029】
(式中、R〜R10は、それぞれ独立に水素または1価の有機基であり、それらの2つ以上が同一であっても全てが異なってもいてもよい。また、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良い。R11〜R13は、それぞれ独立に水素又は1価の有機基であり、それらの2つ以上が同一であっても異なってもいてもよい。また、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良い。R14は、水素または1価の有機基である。Aは、陰イオンとなりえる化合物又は元素である。)
【0030】
上記ベンズヒドリルアンモニウム塩は、ジフェニルメタン骨格を含んでおり、該ジフェニルメタン骨格のメチレン炭素とアミンの窒素間に結合を有する。その結果、ベンズヒドリルアンモニウム塩は、アミンの窒素部位がプラスに荷電した陽イオンとなり、対となる陰イオンを伴う塩として存在する。
この場合、メチレン部分の水素に変わって、1つ以上の1価の有機基が導入されていても良い。
【0031】
式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩のR〜R10は、これらの位置に水素原子、及び/または水素原子以外の1価の置換基が導入されていてもよい。
【0032】
置換基R〜R10として芳香族環上に導入し得る1価の有機基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセトキシ基、スルホン基、更にアセチル基、ベンゾイル基のようなアシル基等が挙げられる。
また、他の一価の有機基としては、炭化水素骨格を有する基が挙げられ、それらは、ヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合や置換基を含んでいてもよく、直鎖でも分岐でも環状でも良い。上記炭化水素骨格を有する基としては、飽和又は不飽和のアルキルエーテル基、アリールエーテル基、不飽和アルキルチオエーテル基、アリールチオエーテル基、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル基、ナフチル基等の芳香族基、アリル基、さらには、飽和又は不飽和の炭化水素骨格上にハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基等のヘテロ原子又はヘテロ原子を含有する基が結合してなる様々な置換基が挙げられる。
【0033】
〜R10は互いに同一であっても異なっていても良い。R〜R10のうちの2つ又は3つ以上の基は、互いに結合して環状構造を形成していても良い。
それらが、連結した例としては、芳香環が、ナフタレン環、アントラセン環等の多環縮合芳香族、ピリジン環、フラン環等のヘテロ芳香族環、チオキサントン環等の芳香族環と非芳香族環とを含む多環縮合環となったものなどが例示できる。
また、Rの結合する炭素とRが結合する炭素が直接結合し、ジフェニルメタン骨格がフルオレン骨格になっていてもよい。
【0034】
式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩のR14の位置は、この位置に水素原子、又は水素原子以外の置換基が導入されていてもよい。R14の位置に置換基を導入することによって、電磁波の吸収による分解のしやすさを調整することができる。
かかる観点から、R14の位置に導入し得る1価の有機基としては、水素原子のほかに、例えば、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、アリル基等の炭化水素骨格を有する基が挙げられる。これらの置換基は、置換基中にヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合や置換基を含んでよく、特に、炭素数が1〜20程度、好ましくは炭素数が1〜8程度であることが好ましい。
これらは、直鎖でも分岐でも環状でも良い。
炭素水素骨格を有する基に含まれるヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合としては、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、カーボネート結合など、また置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、不飽和アルキルエーテル基、アリールエーテル基、不飽和アルキルチオエーテル基、アリールチオエーテル基等が挙げられるが特に限定されない。
さらに、R14の位置に導入し得る1価の有機基として、特性を損なわない範囲でハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、不飽和アルキルエーテル基、アリールエーテル基、不飽和アルキルチオエーテル基、アリールチオエーテル基等を用いても良い。これらは、直鎖でも分岐でも環状でも良い。
【0035】
式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩を形成するアンモニウム基のR11〜R13の位置は、この位置に水素原子、及び/または水素原子以外の置換基が導入されていてもよい。R11〜R13の位置に置換基が導入されることによって、脱離するアミンの熱物性や塩基性度が異なる。
ベンズヒドリルアンモニウム塩の分解によって脱離する、元の化合物よりも低分子のアミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエチレンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、キヌクリジンおよび、3−キヌクリジノールのような脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、コリジン、ベータピコリンなどの複素環第3級アミン、などが挙げられる。
【0036】
イミド化に対する触媒作用は塩基性の大きい方が触媒としての効果が大きく、より少量の添加で、より低い温度でのイミド化が可能となる。一般に1級アミンよりは2級アミン、2級アミンよりは3級アミンの方が塩基性度は高く、その触媒効果が大きい。その為、本発明に係るベンズヒドリルアンモニウム塩が分解後に生成するアミンは、2級以上のアミンであることが好ましく、3級アミンであることがさらに好ましい。また、本発明の目的を阻害しなければトリエチルアミンのような脂肪族アミン、又はピリジンなどのような芳香族アミンのどちらが生成しても良いが、塩基性度の高いアミンを用いる観点からは脂肪族アミンが生成することが好ましく、脂肪族2級又は3級アミンが生成することが更に好ましく、脂肪族3級アミンが生成することが特に好ましい。
上記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩のR11〜R13のアンモニウム窒素と結合している原子が、全て飽和炭素、すなわちSP3軌道を有する炭素原子である場合には、塩基性の高い脂肪族3級アミンを発生させることができるので、上述した塩基性度の高いアミンを用いる観点から特に好ましい。
【0037】
また、ベンズヒドリルアンモニウム塩は、本発明の感光性樹脂組成物の塗膜に対して露光後に行う、加熱の温度(高分子がポリイミド前駆体の場合、イミド化の温度)において分解しないことが好ましい。具体的には、ベンズヒドリルアンモニウム塩を加熱して初期の重量から5%重量が減少したときの温度(5%重量減少温度)が100℃以上であることが好ましい。更には、本発明の感光性樹脂組成物が、製品として用いられる場合、感光性樹脂組成物中に不純物が残存しないことが好ましいので、現像後に行う加熱のプロセス(高分子がポリイミド前駆体の場合、イミド化のプロセス)で分解、または揮発してしまうものが好ましい。具体的には、初期の重量から50%重量が減少したときの温度(50%重量減少温度)が400℃以下であることが好ましい。
【0038】
かかる観点から、R11〜R13の位置に導入し得る1価の有機基としては、飽和又は不飽和アルキル基、飽和又は不飽和ハロゲン化アルキル基、又は、フェニル、ナフチル等の芳香族基、アリル基等の炭化水素骨格を有する基が挙げられる。これらの有機基は、有機基中にヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合や置換基を含んでよく、特に、炭素数が1〜20程度、好ましくは炭素数が1〜8程度であることが好ましい。これらは、直鎖でも分岐でも環状でも良く、R11〜R13が連結し環状になっていても良い。
炭化水素骨格を有する基に含まれるヘテロ原子等の炭化水素基以外の結合としては、エーテル結合、チオエーテル結合、カルボニル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、カーボネート結合など、また置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、不飽和アルキルエーテル基、アリールエーテル基、不飽和アルキルチオエーテル基、アリールチオエーテル基等が挙げられるが特に限定されない。
【0039】
さらに、R11〜R13の位置に導入し得る1価の有機基として、特性を損なわない範囲でハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、シアノ基、シリル基、シラノール基、アルコキシ基、ニトロ基、カルボキシル基、アセチル基、アセトキシ基、スルホン基、不飽和アルキルエーテル基、アリールエーテル基、不飽和アルキルチオエーテル基、アリールチオエーテル基等を用いても良い。これらは、直鎖でも分岐でも環状でも良く、R11〜R13が連結し環状になっていても良い。
【0040】
また、本発明においては、一つの分子内の2箇所以上にアンモニウム基を有するアンモニウム化合物塩を用いても良い。
その一例としては、一分子当たり2つのアミノ基を有する、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンなどのジアミン化合物を用い、そのようなジアミン化合物1分子に対して、ベンズヒドリルアンモニウム誘導体を構成するジフェニルメタン骨格成分を2分子分用いて、ほぼ中性の塩となっているものが例示される。このような塩からは、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンのような、一分子内に2つアミノ基を有するアミンが脱離する。
【0041】
また別の例としては、一分子当たり、アミノ基に対する中和点を2箇所以上に有する化合物にモノアミンを2分子用いて形成した塩を例示できる。例えば、ジフェニルメタン構造が2つ連結した化合物を用い、該ジフェニルメタン化合物1分子に対して、モノアミンを2分子用いて、ほぼ中性の塩となっているものが例示される。このような塩からは、2分子のモノアミンが脱離する。
つまり、上記第1の例及び第2の例のいずれの場合も、ジフェニルメタン骨格成分のメチレン部位の数と、アミンの窒素原子の数を対応させ、同数にすることで塩を形成することができる。
ただし、ジフェニルメタン骨格のメチレン部位の数に対して、アミンの窒素原子の数が少ない場合は、本発明に適用できるが、ジフェニルメタン骨格成分のメチレン部位の数に対して、アミンの窒素原子の数が大きい場合は塩が塩基性化合物となり、未露光部についてもイミド化の触媒作用が発現する場合があり、露光部、未露光部の溶解性コントラストが小さくなるので、できるだけ避けた方が良い。
【0042】
本発明は、電磁波の吸収により分解し、アミンを生成する塩を樹脂組成物に適用することを趣旨としており、これに反しない範囲で、任意の数のジフェニルメタン骨格成分を有する化合物と任意の数のアミノ基を有する化合物を組み合わせて用いることができる。 さらに、それらは、単一でなくてもよく、マトリックスへの溶解性などの観点により、複数の塩を組み合わせて用いることができる。
【0043】
式(1)中のAは、陰イオンとなりえる化合物および元素である。具体的には、ハロゲン化物イオン、水酸化物イオン、炭酸イオン、炭酸水素イオン、脂肪族及び、芳香族カルボキシイオン、脂肪族及び、芳香族スルホキシイオン、及び、それらのハロゲン化物、6フッ化アンチモネートイオン(SbF)、6フッ化リンイオン(PF)などが例示される。
【0044】
また、本発明の塩の置換基R〜R14に、置換基を1つ以上を導入することにより、吸収する光の波長を調整することが可能であり、置換基を導入することで所望の波長を吸収させるようにすることもできる。
特に、その芳香族環上の置換基R〜R10は、感度を向上させたり、吸収波長を調整する観点から比較的自由に置換基の導入が可能である。例えば、芳香族環の共役鎖を伸ばすような置換基を導入することにより、吸収波長を高波長にシフトすることができる。これにより、組み合わせる高分子前駆体の吸収波長も考慮しながら、感光性樹脂組成物の感度を向上させることが可能である。
【0045】
所望の波長に対して吸収波長をシフトさせる為に、どのような置換基を導入したら良いかという指針として、Interpretation of the Ultraviolet Spectra of Natural Products(A.I.Scott 1964)や、有機化合物のスペクトルによる同定法 第5版(R.M.Silverstein 1993)に記載の表を参考にすることができる。
【0046】
本発明に係るベンズヒドリルアンモニウム塩を合成する手法をこれより具体的に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明に係るベンズヒドリルアンモニウム塩は、複数の合成ルートで合成することができる。
ベンズヒドリルアンモニウム塩は、例えば、アミノジフェニルメタンとヨードメタンを反応させることにより合成できる。炭酸ナトリウム等の無機塩基存在下、アミノジフェニルメタンと24倍当量のヨードメタンをメタノールに溶解し、煮沸することで、目的物を得ることができる。また、例えば、9−ブロモフルオレンとキヌクリジン(Quinuclidine)を反応させることにより合成できる。9−ブロモフルオレンとキヌクリジンを不活性ガス雰囲気下、トルエン溶媒中、室温で15時間攪拌し、析出した塩を濾過することで目的物を得ることができる。
【0047】
このようにして得られるベンズヒドリルアンモニウム塩は、イミド化のための光塩基発生の機能を十分に発揮させるために、露光波長の少なくとも一部に対して吸収を有する必要がある。一般的な露光光源である高圧水銀灯の波長としては、436nm、405nm、365nmがある。また、KrFレーザーの波長は248nmである。かかる観点から、ベンズヒドリルアンモニウム塩は、少なくとも436nm、405nm、365nm、248nmの波長の電磁波のうち少なくとも1つの波長の電磁波に対して吸収を有するものであることが好ましい。
なお、ベンズヒドリルアンモニウム塩が上記波長に吸収を有することは、当該測定領域に吸収をもたない溶媒(例えば、アセトニトリル)に、ベンズヒドリルアンモニウム塩を1×10−4 mol/L以下の濃度(通常、1×10−4 mol/L〜1×10−5mol/L程度)で溶解し、紫外可視分光光度計(例えば、UV−2550(株式会社島津製作所製))により吸光度を測定することにより明らかにすることができる。ベンズヒドリルアンモニウム塩の吸収が強い場合は、測定濃度を適宜薄くして測定する。
【0048】
本発明の感光性樹脂組成物に用いる高分子前駆体とは、それ自身が高分子であり、分子内閉環反応によって最終的に目的の物性を示す高分子となる物質のことをいい、好ましくは、分子内閉環反応の際に、水分子、および/またはアルコール分子の脱離を伴って環状構造を有する繰り返し単位を形成するものをいう。
本発明においては、塩基の作用によって最終的に最終生成物に変化する高分子前駆体が典型的に用いられる。ただし、高分子前駆体は塩基の作用によって最終的に最終生成物に変化するものでなくても使用可能である。例えば、感光性樹脂組成物に含まれる高分子前駆体以外の成分が塩基の作用を受けて機能を発揮する場合などでは、高分子前駆体は塩基の作用によって最終的に最終生成物に変化するものではなくても、感光性樹脂組成物全体としてみたときに塩基の作用によって目的の反応が進行する。
【0049】
本発明においては、ポリイミド前駆体又はポリベンゾオキサゾール前駆体が特に好適に用いられる。ポリイミド前駆体、ポリベンゾオキサゾール前駆体としては、そのメカニズムからどのようなポリイミド前駆体又はポリオキサゾール前駆体であってもよく、2種以上の別々に合成した高分子前駆体の混合物でも良い。
【0050】
ポリイミド前駆体又はポリベンゾオキサゾール前駆体のように、塩基の触媒作用によって熱硬化温度が低下する高分子前駆体を用いる場合には、先ず、そのような高分子前駆体、及びベンズヒドリルアンモニウム塩を組み合わせた樹脂組成物の塗膜又は成形体上のパターンを残したい部分に電磁波を照射する。すると、照射部にはアミン塩基が発生し、その部分の熱硬化温度が選択的に低下する。次に照射部は熱硬化するが、非照射部は熱硬化しない処理温度で加熱し、照射部のみ硬化させる。次に、所定の現像液(有機溶媒やアルカリ水溶液等)で非照射部を溶解して熱硬化物からなるパターンを形成する。このパターンを更に必要に応じ加熱して熱硬化を完結させる。以上の工程によって所望のパターンが得られる。
【0051】
ポリイミド前駆体、ポリベンゾオキサゾール前駆体としてアルカリ溶液に可溶性のものを用いると、アルカリ現像を行う際の露光部と非露光部の間の溶解性のコントラストを向上させることができる。ここで、アルカリ可溶性のポリイミド前駆体としては、ポリアミック酸が好適に用いられ、ポリベンゾオキサゾール前駆体としては、ポリアミドアルコールが好適に用いられる。
【0052】
また、最終的に得られるポリイミドの耐熱性及び寸法安定性を優れたものとする観点からは、酸二無水物由来の部分が芳香族構造を有し、さらにジアミン由来の部分も芳香族構造を含む全芳香族ポリイミド前駆体であることが好ましい。それゆえジアミン成分由来の構造も芳香族ジアミンから誘導される構造であることが好ましい。
ここで、全芳香族ポリイミド前駆体とは、芳香族酸成分と芳香族アミン成分の共重合、又は、芳香族酸/アミノ成分の重合により得られるポリイミド前駆体及びその誘導体である。また、芳香族酸成分とは、ポリイミド骨格を形成する4つの酸基が全て芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族アミン成分とは、ポリイミド骨格を形成する2つのアミノ基が両方とも芳香族環上に置換している化合物であり、芳香族酸/アミノ成分とはポリイミド骨格を形成する酸基とアミノ基がいずれも芳香族環上に置換している化合物である。ただし、後述する原料の具体例から明らかなように、全ての酸基又はアミノ基が同じ芳香環上に存在する必要はない。
【0053】
本発明のポリイミド前駆体を製造する方法としては、従来公知の手法を適用することができる。例えば、(1)酸二無水物とジアミンから前駆体であるポリアミド酸を合成する手法。(2)酸2無水物に1価のアルコールやアミノ化合物、エポキシ化合物等を反応させ合成した、エステル酸やアミド酸モノマーのカルボン酸に、ジアミノ化合物やその誘導体を反応させてポリイミド前駆体を合成する手法などが挙げられるがこれに限定されない。
【0054】
本発明のポリイミド前駆体に適用可能な酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、1,4−ビス[(3,4−ジカルボキシ)ベンゾイル]ベンゼン二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、
【0055】
2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}プロパン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、4,4'−ビス[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、4,4'−ビス[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]ビフェニル二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}ケトン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルホン二無水物、ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}スルフィド二無水物、2,2−ビス{4−[4−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルプロパン二無水物、2,2−ビス{4−[3−(1,2−ジカルボキシ)フェノキシ]フェニル}−1,1,1,3,3,3−プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらは単独あるいは2種以上混合して用いられる。そして、特に好ましく用いられるテトラカルボン酸二無水物としてピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',6,6'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物が挙げられる。
【0056】
併用する酸二無水物としてフッ素が導入された酸二無水物や、脂環骨格を有する酸二無水物を用いると、透明性をそれほど損なわずに溶解性や熱膨張率等の物性を調整することが可能である。また、ピロメリット酸無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などの剛直な酸二無水物を用いると、最終的に得られるポリイミドの線熱膨張係数が小さくなるが、透明性の向上を阻害する傾向があるので、共重合割合に注意しながら併用してもよい。
【0057】
一方、アミン成分も、1種類のジアミン単独で、または2種類以上のジアミンを併用して用いることができる。用いられるジアミン成分は限定されるわけではないが、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、3,4'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,4'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,4'−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)プロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ジ(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ジ(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2−(3−アミノフェニル)−2−(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,1−ジ(3−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ジ(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1−(3−アミノフェニル)−1−(4−アミノフェニル)−1−フェニルエタン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−α,α−ジトリフルオロメチルベンジル)ベンゼン、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゾニトリル、2,6−ビス(3−アミノフェノキシ)ピリジン、4,4'−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4'−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、
【0058】
ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、4,4'−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4'−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4'−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、4,4'−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ]ジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノ−4,4'−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3'−ジアミノ−4,4'−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3'−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,3'−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、6,6'−ビス(3−アミノフェノキシ)−3,3,3',3'−テトラメチル−1,1'−スピロビインダン、6,6'−ビス(4−アミノフェノキシ)−3,3,3',3'−テトラメチル−1,1'−スピロビインダン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(4−アミノブチル)テトラメチルジシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,ω−ビス(3−アミノブチル)ポリジメチルシロキサン、ビス(アミノメチル)エーテル、ビス(2−アミノエチル)エーテル、ビス(3−アミノプロピル)エーテル、ビス(2−アミノメトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(2−アミノエトキシ)エチル]エーテル、ビス[2−(3−アミノプロトキシ)エチル]エーテル、
【0059】
1,2−ビス(アミノメトキシ)エタン、1,2−ビス(2−アミノエトキシ)エタン、1,2−ビス[2−(アミノメトキシ)エトキシ]エタン、1,2−ビス[2−(2−アミノエトキシ)エトキシ]エタン、エチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、ジエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、トリエチレングリコールビス(3−アミノプロピル)エーテル、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,2−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,3−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、1,4−ジ(2−アミノエチル)シクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロへキシル)メタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、また、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てをフルオロ基、メチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、又はトリフルオロメトキシ基から選ばれた置換基で置換したジアミンも使用することができる。
さらに目的に応じ、架橋点となるエチニル基、ベンゾシクロブテン−4'−イル基、ビニル基、アリル基、シアノ基、イソシアネート基、及びイソプロペニル基のいずれか1種又は2種以上を、上記ジアミンの芳香環上水素原子の一部若しくは全てに置換基として導入しても使用することができる。
【0060】
ジアミンは、目的の物性によって選択することができ、p−フェニレンジアミンなどの剛直なジアミンを用いれば、最終的に得られるポリイミドは低膨張率となる。剛直なジアミンとしては、同一の芳香環に2つアミノ基が結合しているジアミンとして、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、1,4−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、2、6−ジアミノナフタレン、2,7−ジアミノナフタレン、1,4―ジアミノアントラセンなどが挙げられる。
さらに、2つ以上の芳香族環が単結合により結合し、2つ以上のアミノ基がそれぞれ別々の芳香族環上に直接又は置換基の一部として結合しているジアミンが挙げられ、例えば、下記式(3)により表されるものがある。具体例としては、ベンジジン等が挙げられる。
【0061】
【化4】

【0062】
(aは1以上の自然数、アミノ基はベンゼン環同士の結合に対して、メタ位または、パラ位に結合する。)
【0063】
さらに、上記式(3)において、他のベンゼン環との結合に関与せず、ベンゼン環上のアミノ基が置換していない位置に置換基を有するジアミンも用いることができる。これら置換基は、1価の有機基であるがそれらは互いに結合していてもよい。
具体例としては、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、2,2'−ジトリフルオロメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジクロロ−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメトキシ−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル等が挙げられる。
また、最終的に得られるポリイミドを光導波路、光回路部品として用いる場合には、芳香環の置換基としてフッ素を導入すると1μm以上の波長の電磁波に対しての透過率を向上させることができる。
【0064】
一方、ジアミンとして、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサンなどのシロキサン骨格を有するジアミンを用いると、最終的に得られるポリイミドの弾性率が低下し、ガラス転移温度を低下させることができる。
ここで、選択されるジアミンは耐熱性の観点より芳香族ジアミンが好ましいが、目的の物性に応じてジアミンの全体の60モル%、好ましくは40モル%を超えない範囲で、脂肪族ジアミンやシロキサン系ジアミン等の芳香族以外のジアミンを用いても良い。
【0065】
一方、ポリイミド前駆体を合成するには、例えば、アミン成分として4,4'−ジアミノジフェニルエーテルをN−メチルピロリドンなどの有機極性溶媒に溶解させた溶液を冷却しながら、そこへ等モルの3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を徐々に加え撹拌し、ポリイミド前駆体溶液を得ることができる。
このようにして合成されるポリイミド前駆体は、最終的に得られるポリイミドに耐熱性及び寸法安定性を求める場合には、芳香族酸成分及び/又は芳香族アミン成分の共重合割合ができるだけ大きいことが好ましい。具体的には、イミド構造の繰り返し単位を構成する酸成分に占める芳香族酸成分の割合が50モル%以上、特に70モル%以上であることが好ましく、イミド構造の繰り返し単位を構成するアミン成分に占める芳香族アミン成分の割合が40モル%以上、特に60モル%以上であることが好ましく、全芳香族ポリイミドであることが特に好ましい。
【0066】
また、本発明に用いられるポリベンゾオキサゾール前駆体であるポリアミドアルコールは、一般式(4)で示される化合物が好適に用いられ、当該化合物はジカルボン酸ハロゲン化物などのジカルボン酸誘導体とジヒドロキシジアミンとを有機溶媒中で付加反応することにより得られる。
【0067】
【化5】

【0068】
(式(4)中、R15は2価の有機基である。R16は4価の有機基である。)
なお、R15の2価は酸と結合するための価数のみを示しているが、他に更なる置換基を有していても良い。同様に、R16の4価はアミン及びヒドロキシル基と結合するための価数のみを示しているが、他に更なる置換基を有していても良い。
【0069】
上記の必要に応じて用いられるジカルボン酸およびその誘導体としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、3,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、3,3’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、3,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、3,3’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、3,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、3,3’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデン二安息香酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルアミド、1,4−フェニレンジエタン酸、1,1−ビス(4−カルボキシフェニル)−1−フェニル−2,2,2−トリフルオロエタン、ビス(4−カルボキシフェニル)テトラフェニルジシロキサン、ビス(4−カルボキシフェニル)テトラメチルジシロキサン、ビス(4−カルボキシフェニル)スルホン、ビス(4−カルボキシフェニル)メタン、5−t−ブチルイソフタル酸、5−ブロモイソフタル酸、5−フルオロイソフタル酸、5−クロロイソフタル酸、2,2−ビス−(p−カルボキシフェニル)プロパン、4,4’−(p−フェニレンジオキシ)二安息香酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、もしくはこれらの酸ハロゲン化物、およびヒドロキシベンゾトリアゾール等との活性エステル体などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらは単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0070】
また、ジヒドロキシジアミンの具体例としては、例えば、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、 4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、 ビス−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)メタン、 2,2−ビス−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、 4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、 3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,4−ジアミノ−2,5−ジヒドロキシベンゼン、 1,3−ジアミノ−2,4−ジヒドロキシベンゼン、 3−ジアミノ−4,6−ジヒドロキシベンゼンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いられる。
【0071】
ポリイミド前駆体やポリベンゾオキサゾール前駆体などの高分子前駆体は、感光性樹脂組成物とした際の感度を高め、マスクパターンを正確に再現するパターン形状を得るために、1μmの膜厚のときに、露光波長に対して少なくとも5%以上の透過率を示すことが好ましく、15%以上の透過率を示すことが更に好ましい。
露光波長に対してやポリベンゾオキサゾール前駆体などの高分子前駆体の透過率が高いということは、それだけ、光のロスが少ないということであり、高感度の感光性樹脂組成物を得ることができる。
また、一般的な露光光源である高圧水銀灯を用いて露光を行う場合には、少なくとも436nm、405nm、365nm、の波長の電磁波のうち1つの波長の電磁波に対する透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時で好ましくは5%以上、より好ましくは15%、さらに好ましくは50%以上である。
波長が248nmであるKrFレーザーで露光する場合には、248nmにおける透過率が、厚み1μmのフィルムに成膜した時で好ましくは5%以上、より好ましくは15%、さらに好ましくは50%以上である。
【0072】
ポリイミド前駆体などの高分子前駆体の重量平均分子量は、その用途にもよるが、3,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、5,000〜500,000の範囲であることがより好ましく、10,000〜500,000の範囲であることがさらに好ましい。重量平均分子量が3,000未満であると、塗膜又はフィルムとした場合に十分な強度が得られにくい。また、加熱処理等を施しポリイミドとした際の膜の強度も低くなる。一方、重量平均分子量が1,000,000を超えると粘度が上昇し、溶解性も落ちてくるため、表面が平滑で膜厚が均一な塗膜又はフィルムが得られにくい。
ここで用いている分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の値のことをいい、ポリイミド前駆体そのものの分子量でも良いし、無水酢酸等で化学的イミド化処理を行った後のものでも良い。
【0073】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、ベンズヒドリルアンモニウム塩とポリイミド前駆体などの高分子前駆体と溶媒だけの単純な混合物であってもよいが、さらに、光又は熱硬化性成分、本発明に係るポリイミド前駆体以外の非重合性バインダー樹脂、その他の成分を配合して、感光性樹脂組成物を調製してもよい。
感光性樹脂組成物を溶解、分散又は希釈する溶剤としては各種の汎用溶剤を用いることが出来る。また、前駆体としてポリアミド酸を用いる場合には、ポリアミド酸の合成反応により得られた溶液をそのまま用い、そこに必要に応じて他の成分を混合しても良い。
【0074】
使用可能な汎用溶剤としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等のグリコールモノエーテル類(いわゆるセロソルブ類);メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸n−プロピル、酢酸i−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸i−ブチル、前記グリコールモノエーテル類の酢酸エステル(例えば、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート)、メトキシプロピルアセテート、エトキシプロピルアセテート、蓚酸ジメチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;塩化メチレン、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、1−クロロペンタン、クロロベンゼン、ブロムベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドンなどのピロリドン類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、その他の有機極性溶媒類等が挙げられ、更には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、及び、その他の有機非極性溶媒類等も挙げられる。これらの溶媒は単独若しくは組み合わせて用いられる。
【0075】
光硬化性成分としては、エチレン性不飽和結合を1つ又は2つ以上有する化合物を用いることができ、例えば、アミド系モノマー、(メタ)アクリレートモノマー、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、及びヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート、スチレン等の芳香族ビニル化合物を挙げることができる。また、ポリイミド前駆体が、ポリアミック酸等のカルボン酸成分を構造内に有する場合には、3級アミノ基を有するエチレン性不飽和結合含有化合物を用いると、ポリイミド前駆体のカルボン酸とイオン結合を形成し、感光性樹脂組成物としたときの露光部、未露光部の溶解速度のコントラストが大きくなる。
【0076】
このようなエチレン性不飽和結合を有する光硬化性化合物を用いる場合には、さらに光ラジカル発生剤を添加してもよい。光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾインとそのアルキルエーテル;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン及び2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン等のアセトフェノン類;2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリ-ブチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン類;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソピルチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のモノアシルホスフィンオキシド類あるいはビスアシルホスフィンオキシド類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;並びにキサントン類等が挙げられる。
【0077】
本発明の感光性樹脂組成物には、ベンズヒドリルアンモニウム塩を有する感光性化合物の補助的な役割として、光によって酸又は塩基を発生させる他の感光性成分を加えても良い。
光によって酸を発生させる化合物としては、1,2−ベンゾキノンジアジドあるいは1,2−ナフトキノンジアジド構造を有する感光性ジアゾキノン化合物があり、米国特許明細書第2,772,972号、第2,797,213号、第3,669,658号に提案されている。
また、トリアジンやその誘導体、スルホン酸オキシムエステル化合物、スルホン酸ヨードニウム塩、スルホン酸スルフォニウム塩等、公知の光酸発生剤を用いることができる。 光によって塩基を発生させる化合物としては、例えば2,6−ジメチル−3,5−ジシアノ−4−(2'−ニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジン、2,6−ジメチル−3,5−ジアセチル−4−(2'−ニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジン、2,6−ジメチル−3,5−ジアセチル−4−(2',4'−ジニトロフェニル)−1,4−ジヒドロピリジンなどが例示できる。これらは、活性光線に曝されると分子構造が分子内転移を経てピリジン骨格を有する構造に変化して塩基性を呈するようになり、その後の130℃以上での加熱処理によって、ポリイミド前駆体のイミド化が進行し、溶解性が低下し、良好なネガ型パターン形成ができる。
【0078】
本発明に係る樹脂組成物に加工特性や各種機能性を付与するために、その他に様々な有機又は無機の低分子又は高分子化合物を配合してもよい。例えば、染料、界面活性剤、レベリング剤、可塑剤、微粒子、増感剤等を用いることができる。微粒子には、ポリスチレン、ポリテトラフルオロエチレン等の有機微粒子、コロイダルシリカ、カーボン、層状珪酸塩等の無機微粒子等が含まれ、それらは多孔質や中空構造であってもよい。また、その機能又は形態としては顔料、フィラー、繊維等がある。
【0079】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩を、感光性樹脂組成物に含まれるポリイミド前駆体の固形分に対し、通常、0.1〜95重量%、好ましくは0.5〜60重量%の範囲内で含有させる。0.1%未満であると添加の効果を得られにくく、95%を超えると最終的に得られる樹脂硬化物に求められる諸物性を満たしにくくなる。
また、その他の任意成分の配合割合は、感光性樹脂組成物の固形分全体に対し、0.1重量%〜95重量%の範囲が好ましい。0.1重量%未満だと、添加物を添加した効果が発揮されにくく、95重量%を超えると、最終的に得られる樹脂硬化物の特性が最終生成物に反映されにくい。なお、感光性樹脂組成物の固形分とは溶剤以外の全成分であり、液状のモノマー成分も固形分に含まれる。
【0080】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、さまざまなコーティングプロセスや成形プロセスに用いられて、フィルムや3次元的形状の成形物を作製することができる。
本発明に係る感光性樹脂組成物を何らかの支持体上に塗布し、電磁波等の光を用いて所定のパターン状に露光すると、露光部においてベンズヒドリルアンモニウム塩が分解反応を起こして、元のベンズヒドリルアンモニウム塩よりも低分子のアミンが脱離する。従って、本発明に係るベンズヒドリルアンモニウム塩が光塩基発生剤として機能し、露光部のポリイミド前駆体をイミド化させる。
【0081】
本発明に係る感光性樹脂組成物の塗膜は、露光工程と現像工程の間に、熱処理を行うことが好ましい。これは、電磁波の照射により発生した塩基の作用により、塩基が存在する部位と、未照射で塩基が存在しない部位とでイミド化率が異なるようになる温度で行うことが好ましく、好ましい熱処理の温度の範囲は、通常60℃〜180℃程度である。
熱処理温度が60℃より低いと、イミド化の効率が悪く、現実的なプロセス条件で露光部、未露光部のイミド化率の差を創出することが難しくなる。一方、熱処理温度が180℃以上であると、ベンズヒドリルアンモニウム塩が熱分解したり、アミンが存在していない未露光部でもイミド化が進行したりして、露光部と未露光部の溶解性の差が出にくい。
この熱処理は、公知の方法であればどの方法でもよく、具体的に例示すると、空気、又は窒素雰囲気下の循環オーブン、ホットプレートによる加熱などが挙げられるが、特に限定されない。
【0082】
本発明の感光性樹脂組成物より得られるポリイミド及びポリベンゾオキサゾールは、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の本来の特性も損なわれておらず、良好である。
例えば、本発明の感光性樹脂組成物から得られるポリイミド及びポリベンゾオキサゾールの窒素中で測定した5%重量減少温度は、250℃以上が好ましく、300℃以上がさらに好ましい。特に、はんだリフローの工程を通るような電子部品等の用途に用いる場合は、5%重量減少温度が300℃以下であると、はんだリフローの工程で発生した分解ガスにより気泡等の不具合が発生する恐れがある。
ここで、5%重量減少温度とは、熱重量分析装置を用いて重量減少を測定した時に、サンプルの重量が初期重量から5%減少した時点(換言すればサンプル重量が初期の95%となった時点)の温度である。同様に10%重量減少温度とはサンプル重量が初期重量から10%減少した時点の温度である。
【0083】
本発明の感光性樹脂組成物から得られるポリイミド及びポリベンゾオキサゾールのガラス転移温度は、耐熱性の観点からは高ければ高いほど良いが、光導波路のように熱成形プロセスが考えられる用途においては、120℃〜450℃程度のガラス転移温度を示すことが好ましく、200℃〜380℃程度のガラス転移温度を示すことがさらに好ましい。ここで本発明におけるガラス転移温度は、感光性樹脂組成物から得られるポリイミド及びポリベンゾオキサゾールをフィルム形状にすることが出来る場合には、動的粘弾性測定によって、tanδ(tanδ=損失弾性率(E’’)/貯蔵弾性率(E’))のピーク温度から求められる。動的粘弾性測定としては、例えば、粘弾性測定装置Solid Analyzer RSA II(Rheometric Scientific社製)によって、周波数3Hz、昇温速度5℃/minにより行うことができる。感光性樹脂組成物から得られるポリイミド及びポリベンゾオキサゾールをフィルム形状にできない場合には、示差熱分析装置(DSC)のベースラインの変曲点の温度で判断する。
本発明の感光性樹脂組成物から得られるポリイミド及びポリベンゾオキサゾールの寸法安定性の観点から、線熱膨張係数は60ppm以下が好ましく、40ppm以下がさらに好ましい。半導体素子等の製造プロセスにおいてシリコンウェハ上に膜を形成する場合には、密着性、基板のそりの観点から20ppm以下がさらに好ましい。ここで、本発明における線熱膨張係数とは、本発明で得られる感光性樹脂組成物から得られるポリイミド及びポリベンゾオキサゾールのフィルムの熱機械的分析装置(TMA)によって求めることができる。熱機械的分析装置(例えばThermo Plus TMA8310(リガク社製)によって、昇温速度を10℃/min、評価サンプルの断面積当たりの加重が同じになるように引張り加重を1g/25000μm2として得られる。
【0084】
以上に述べたように、本発明に係る感光性樹脂組成物は、特に式(1)に示すベンズヒドリルアンモニウム塩が、光塩基発生剤として機能することで、多種多様な高分子前駆体を適用することができ、パターン形成プロセスに制限を受けることなく、最終的に得られるポリイミドの構造を広範囲から選択することができる。
また、ベンズヒドリルアンモニウム塩を構成する芳香族成分含有及び/又は脂肪族成分含有ハロゲン化物及び、アミンは安価に入手することが可能で感光性樹脂組成物としての価格も抑えられる。
【0085】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、印刷インキ、接着剤、充填剤、電子材料、光回路部品、成形材料、レジスト材料、建築材料、3次元造形、光学部材等、樹脂材料が用いられる公知の全ての分野・製品に利用できる。
【0086】
本発明に係る感光性樹脂組成物は、耐熱性、寸法安定性、絶縁性等の特性が有効とされる広範な分野・製品、例えば、塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として好適に用いられ、本発明に係る感光性樹脂組成物又はその熱硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品が提供される。
【0087】
特に、ポリイミド前駆体又はポリベンゾオキサゾール前駆体を含有する感光性樹脂組成物は、主にパターン形成材料(レジスト)として用いられ、それによって形成されたパターンは、ポリイミド又はポリベンゾオキサゾールからなる永久膜として耐熱性や絶縁性を付与する成分として機能し、例えば、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、電子部品、半導体装置、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、その他の光学部材又は電子部材を形成するのに適している。
【実施例】
【0088】
(製造例1)
アルゴン気流下、1000mLの3つ口フラスコで、9−ブロモフルオレン(東京化成製) 2.38g(9.8mmol)を乾燥させたトルエン300mLに溶解させた。そこにキヌクリジン(アルドリッチ製) 1.20g(10.8mmol)を加え、23℃で15時間撹拌した。沈殿物を、ろ過し、その濾物を取り出し、下記式(5)で表される目的の感光性物質1を3.02g得た。
当該感光性物質1をアセトニトリルに、1×10−4 mol/Lの濃度で溶解し、石英セル(光路長10mm)に溶液を満たし、紫外可視分光光度計(UV−2550(株式会社島津製作所製))により吸光度を測定した。
その結果、当該感光性物質1は、254nmに吸収を有していた。
【0089】
【化6】

【0090】
(製造例2)
4,4'−ジアミノジフェニルエーテル 1.20g(6mmol)を50mLの3つ口フラスコに投入し、5mLの脱水されたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解させ窒素気流下、氷浴で冷却しながら撹拌した。そこへ、少しずつピロメリット酸2無水物 1.31g(6mmol)を添加し、添加終了後、氷浴中で5時間撹拌し、その溶液を、脱水されたジエチルエーテルによって再沈殿し、その沈殿物を室温で減圧下、17時間乾燥し、白色固体を2.11g(ポリイミド前駆体1)を得た。
【0091】
(製造例3)
還流管を装着した100mL3つ口フラスコを窒素置換した後、脱水ベンゼン25mLおよび2−アセチルフルオレン2.08g(10mmol)を入れ、室温で攪拌し溶解させた。N−ブロモスクシンイミド1.78g(10mmol)、過酸化ベンゾイル0.024g(0.1mmol)を加え17時間加熱還流を行った。この溶液を冷却し、得られた沈殿を濾取することにより、2−アセチル9−ブロモフルオレン2.37g(8.1mmol、収率81%)を淡黄色固体として得た。
窒素置換した200mLのナスフラスコに、2−アセチル9−ブロモフルオレン0.718g(2.5mmol)および脱水トルエン75mLをいれ、室温で5分間攪拌した後、キヌクリジン0.278g(2.5mmol)を加えて、室温で2日間攪拌した。この溶液を冷却し、得られた沈殿物を、ろ過し、その濾物を取り出し、冷トルエンにて洗浄することにより、下記式(6)で表される目的の感光性物質2を0.8g(2.0mmol、収率80%)、褐色固体として得た。
製造例1と同様に吸光度を測定したところ、該感光性物質2は、254nm及び365nmに吸収を有していた。
【0092】
【化7】

【0093】
(製造例4)
還流管を装着した100mL3つ口フラスコを窒素置換した後、脱水ベンゼン25mLおよび2−メトキシフルオレン1.96g(10mmol)を入れ、室温で攪拌し溶解させた。N−ブロモスクシンイミド1.78g(10mmol)、過酸化ベンゾイル0.024g(0.1mmol)を加え48時間加熱還流を行った。この溶液を冷却し、得られた沈殿を濾取することにより、2−メトキシ9−ブロモフルオレン0.68g(2.5mmol、収率25%)を淡黄色固体として得た。
窒素置換した200mLのナスフラスコに、2−メトキシ9−ブロモフルオレン0.68g(2.5mmol)および脱水トルエン75mLをいれ、室温で5分間攪拌した後、キヌクリジン0.278g(2.5mmol)を加えて、室温で2日間攪拌した。この溶液を冷却し、得られた沈殿物を、ろ過し、その濾物を取り出し、冷トルエンにて洗浄することにより、下記式(7)で表される目的の感光性物質3を0.77g(2.0mmol、収率80%)、褐色固体として得た。
製造例1と同様に吸光度を測定したところ、当該感光性物質3は、254nm及び365nmに吸収を有していた。
【0094】
【化8】

【0095】
(製造例5)
還流管を装着した100mL3つ口フラスコを窒素置換した後、脱水ベンゼン25mLおよび2−フェノキシフルオレン2.70g(10mmol)を入れ、室温で攪拌し溶解させた。N−ブロモスクシンイミド1.78g(10mmol)、過酸化ベンゾイル0.024g(0.1mmol)を加え20時間加熱還流を行った。この溶液を冷却し、得られた沈殿を濾取することにより、2−フェナシル9−ブロモフルオレン2.62g(7.5mmol、収率75%)を淡黄色固体として得た。
窒素置換した200mLのナスフラスコに、2−フェナシル9−ブロモフルオレン0.87g(2.5mmol)および脱水トルエン75mLをいれ、室温で5分間攪拌した後、キヌクリジン0.278g(2.5mmol)を加えて、室温で2日間攪拌した。この溶液を冷却し、得られた沈殿物を、ろ過し、その濾物を取り出し、冷トルエンにて洗浄することにより、下記式(8)で表される目的の感光性物質4を1.01g(2.2mmol、収率88%)、褐色固体として得た。
製造例1と同様に吸光度を測定したところ、当該感光性物質4は、254nm及び365nmに吸収を有していた。
【0096】
【化9】

【0097】
(実施例1)
上記ポリイミド前駆体1 400mgと、上記感光性物質1 200mgを、NMP 3mLに溶解させ、本発明の感光性樹脂組成物1を得た。
【0098】
(比較例1)
上記ポリイミド前駆体1 400mgのみをNMP 3mLに溶解させ、比較感光性樹脂組成物1を得た。
【0099】
(実施例2)
上記ポリイミド前駆体1 400mgと、上記感光性物質2 60mgを、NMP3mLに溶解させ、本発明の感光性樹脂組成物2を得た。
【0100】
(実施例3)
上記ポリイミド前駆体1 400mgと、上記感光性物質3 60mgを、NMP3mLに溶解させ、本発明の感光性樹脂組成物3を得た。
【0101】
(実施例4)
上記ポリイミド前駆体1 400mgと、上記感光性物質4 60mgを、NMP3mLに溶解させ、本発明の感光性樹脂組成物4を得た。
【0102】
<試験>
(1)熱硬化温度
感光性樹脂組成物1(実施例1)、及び比較感光性樹脂組成物1(比較例1)を、それぞれクロムめっきされたガラス上に最終膜厚2μmになるようにスピンコートし、80℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。そこへ、手動露光装置(大日本スクリーン株式会社製、MA−1200)でh線換算で、10J紫外線照射を行った。この塗膜を、日本分光製IR−610及び、(アズワン社製、HOTPLATE EC−1200)を用い、室温から5℃/minで加熱を350℃まで行いながら赤外分光スペクトルを測定した。
加熱にしたがって前駆体由来のスペクトルが消失し、加熱によって生成したポリイミド由来のピークが現れた。イミド化の進行状況を確認する為に、測定前の前駆体由来の1663cm−1のピーク面積を1としたときに、加熱過程でのピーク面積の減少量をプロットした。
その結果は図1に示した通りである。感光性樹脂組成物1は、比較感光性樹脂組成物1に比べて前駆体の減少がより低温で起こっており、両サンプルのイミド化率の差が160℃付近で最大となることがわかった。
【0103】
(2)パターン形成
感光性樹脂組成物1〜4(実施例1〜4)をそれぞれ、ガラス上に最終膜厚2μmになるようにスピンコートし、80℃のホットプレート上で30分間乾燥させた。そこへ、手動露光装置(大日本スクリーン株式会社製、MA−1200)でh線換算で、10J紫外線照射を行い、その後、160℃のホットプレート上で30分加熱したのち、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド 2.38%溶液に浸漬した。その結果、露光部が現像液に溶解せず残存したパターンを得ることができた。さらに、それらのサンプルを350℃で1時間加熱しイミド化を行った。
この結果より、本発明の感光性樹脂組成物は、良好なパターンを形成することできることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】図1は、実施例及び比較例の感光性樹脂組成物に紫外線照射した後の熱硬化処理温度と、ポリイミド前駆体ピークの関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波の吸収により分解し、元の化合物よりも低分子のアミンを脱離させるアンモニウム化合物塩と、高分子前駆体を含有することを特徴とする感光性樹脂組成物。
【請求項2】
前記高分子前駆体は、塩基の作用によって最終生成物に変化する請求項1に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項3】
前記アンモニウム化合物の塩が、下記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。
【化1】

(式中、R〜R10は、それぞれ独立に水素または1価の有機基であり、それらの2つ以上が同一であっても全てが異なってもいてもよい。また、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良い。R11〜R13は、それぞれ独立に水素又は1価の有機基であり、それらの2つ以上が同一であっても異なってもいてもよい。また、それらの2つ以上が結合して環状構造を形成していても良い。R14は、水素または1価の有機基である。Aは、陰イオンとなりえる化合物又は元素である。)
【請求項4】
前記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩が分解するときに脱離するアミンが、3級アミンであることを特徴とする請求項3に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項5】
前記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩が分解するときに脱離するアミンが、脂肪族アミンであることを特徴とする請求項3又は4に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項6】
前記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩のR11〜R13のアンモニウム窒素と結合している原子が、全て飽和炭素であることを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項7】
前記式(1)で表されるベンズヒドリルアンモニウム塩が、436nm、405nm、365nm、254nmの波長の電磁波のうち少なくとも1つの波長に吸収を有することを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項8】
前記高分子前駆体がアルカリ溶液に可溶である請求項1乃至7のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項9】
前記高分子前駆体がポリイミド前駆体である請求項1乃至8のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項10】
前記ポリイミド前駆体がポリアミック酸である請求項9に記載の感光性樹脂組成物。
【請求項11】
前記高分子前駆体がポリベンゾオキサゾール前駆体である請求項1乃至8のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項12】
塗料又は印刷インキ、或いは、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料の形成材料として用いられる請求項1乃至11のいずれかに記載の感光性樹脂組成物。
【請求項13】
前記請求項1乃至12のいずれかに記載の感光性樹脂組成物又はその硬化物により少なくとも一部分が形成されている、印刷物、カラーフィルター、フレキシブルディスプレー用フィルム、半導体装置、電子部品、層間絶縁膜、配線被覆膜、光回路、光回路部品、反射防止膜、ホログラム、光学部材又は建築材料いずれかの物品。

【図1】
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【公開番号】特開2007−119766(P2007−119766A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266499(P2006−266499)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】